「なーんだ。もう帰っちゃうんだ」
声のする方を全員が一斉に見る。そこに立っているのは少女と巨人。夜風に白い髪を揺らしながら、楽しそうな顔で
「月が綺麗な夜ね。こんばんわ、お兄ちゃん」
スカートの端を持ち、優雅にあいさつを述べた。
「え?」
士郎はキョトンとした表情をしてしまった。もちろん隣に立っている二メートルは優に越す男も気にならないわけではない、がそれ以上に子供がこんな時間に居ることが気に掛かる。
その反応がおもしろいのか少女はクスッと笑いを零す。
「はじめまして、私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、て言えばあなたなら分かるでしょ?リン」
常に優雅に、礼儀正しくするその様は余裕の表れなのか、少女―――イリヤは笑みを崩さない。
「アインツベルンですって……!!」
「知ってるのか遠坂?」
「ええ……。遠坂と同様に聖杯を手に入れる事を宿願とする魔術師の家系。毎回この戦いにマスターを送り込んでるの」
「じ、じゃあ彼女もマスター……」
凛は冷や汗を浮かべ、士郎は少女がマスターだという事実に驚き、横島とセイバーとアーチャーは隣にいる巨人―――サーヴァントを見る。
「そうだよ、お兄ちゃん。もちろんマスター同士が出会ったら何をするかわかってるよね?」
ニッコリとほほ笑み、自分のサーヴァントに命令する。
「やっちゃえバーサーカー!!」
「■■■■■■■―――!!!!!」
声にならない声を上げ、バーサーカーは飛び掛かった。
「下がって、シロウ!!」
「セイバー!?」
士郎の制止の声も聞かず駆け出す。
「凛、君もだ!!」
「アーチャーいける?」
「生憎あと一射で限界だ」
そういって忌々しげに傷を睨む。凛は考え込み
「なら、その一発は確実に決めてね」
「了解したマスター」
そう言って笑みを浮かべた。
バーサーカーに対抗すべくセイバーはマスターを下がらせ正面から迎え撃つ。アーチャーもマスターを下がらせ、守るように前に立つ。本来ならセイバーと共に戦うべきなのだが、傷は未だ癒えず余力も一射が限度。故に、盾の代わりくらいしかできない。
横島もサイキックソーサーを複数展開させて敵に備える。
「はああああっ!!」
不可視の剣をバーサーカーに叩きつける。セイバーの一撃は例えるなら大砲。全身に纏わせた魔力をバネにスピード、パワー共に最高の一撃を喰らわす。故に、大砲。
しかし、そんな一撃もバーサーカーの前には歯が立たない。確かにパワーは圧倒的にバーサーカーが高いがスピードはセイバーに分があり、バーサーカーの繰り出す石斧を時には正面から受け止め、時には受け流し、時には避ける。その時に生じた隙をセイバーが逃すわけもなく剣を叩き込む―――が刃が通るどころか逆に弾かれる。
「ゲッ……」
それを目撃した横島は顔を引きつらせる。セイバーの一撃が重く速いのは横島も知っている。老師の修業を受けてなかったら、今頃自分はこの世に居ないだろう。
だが、それほどの一撃を受けてもダメージが全くないあの怪物は一体なんなのか。
「■■■■■■■―――!!!!」
「グッ……」
セイバーがバーサーカーの攻撃を受け止めた瞬間、力任せに弾き飛ばされるがそれほどダメージはなく立ち上がり構え直す。―――が、バーサーカーに迎撃の気配はない。セイバーは怪訝に思い周囲を見回すとそこには――深い傷ではないが――傷だらけのバーサーカーがいた。
「■■■■■――」
「嘘……」
「なんで、なんでバーサーカーが傷ついてるのっ!?」
凛は目の前の光景に息を呑み、イリヤは信じられないといった感じに叫ぶ。
「そうか。所詮受肉したとしても元は霊体。俺の攻撃は有効なわけだ」
横島はニヤッと笑う。バーサーカーを傷付けるという偉業を成したのは横島だった。
方法は至って単純。先程展開していたサイキックソーサーをぶつける、ただそれだけ。
「セイバー、アーチャー、今のうちに……」
横島は逃げるぞと続けるつもりだったが何を思い違いをしたのか
「ええ、この隙にヤツを倒します!!」
「―――その通りだ」
セイバーは駆け出し、アーチャーは弓を構える。そんな二人を見て横島は
「なんでそーなるのっ!!!」
……古いギャグをかまし絶叫した。
「すごい……」
士郎はただただ目の前の光景に目を奪われた。人知を超えた戦い、それが目の前に広がっているのだから。
そしてその戦いに身を投じられる横島に少し、ほんの少し嫉妬した。
正義の味方になる。それは士郎が十年前に養父――切嗣と交わした約束。
それを実行できるだけの力を持つ横島。だから羨み、嫉妬する。
「………」
凛は横島の力を冷静に分析する。確かに驚きもしたが未知なる力には興味がある。現にその力を見たのは三度目、一回目は助けてもらった時、二回目は教会に向う道中に、そして三回目は戦闘前にだ。
そして思う。あの力は脅威だと。ほんの少しのタメで十以上具現させ、サーヴァントに対してあの威力を誇る。
凛は敵対すべきではないと考えた。
美神達は妙神山に向っていた。その道中
「ねえ、ミカミ。まだ着かないわけ?」
すっかり都会に馴染んだタマモは長々と続く山道にうんざりしていた。
「そうね、この道を通り過ぎたらもう一息かしら」
美神は本当は自分だけ行くつもりだったのだが、シロ達に見つかりこうなってしまった。
「ゲ……まだあるわけ」
「ふん、もうへばったでござるか?」
顔をしかめているタマモに対しシロは元気で余裕の表情だ。
「私はアンタと違ってデリケートなのよ」
「これだから軟弱者は」
「うるさいわよ、体力バカ犬」
「狼でござる!!」
いつものように言い争いを繰り返すが段々殺気立っている。
「アンタ達。これ以上騒ごうものなら、ここから叩き落とすわよ!!」
美神の方だったが……
「す、すまないでござる」
「わ、私達が悪かったわ」
動物の本能が告げる。逆らってはいけないと。
「横島さん……私にはこの人たちの相手はできないです」
おキヌの願いは皆が願っていること。空を見上げ想う。早く戻ってきてほしいと。
「はああああ!!」
セイバーの一撃ではバーサーカーを傷つけることはできない――が態勢が崩れている今なら弾き飛ばすことくらいはできる。
バーサーカーの体が宙に浮く。アーチャーにとっては格好の的。左手に黒い洋弓を構え右手に矢を出現させる。
「I am the bone of my sowd(我が骨子は捻れ狂う)」
「――――“偽・螺旋剣”(カラドボルグ)」
アーチャーの手から、矢が放たれる。放たれた矢は剣。だが形状はまるで剣とは違う。骨子は捻れ回転し全てを貫く一矢となる。
その矢は螺旋を描きバーサーカーの胸に、深々と突き刺さる―――が貫けない。
アーチャーは止めといわんばかりに唱える。
「“壊れた幻想”(ブロークン・ファンタズム)」
その詞は幻想を壊し、爆発を生じさせバーサーカーを殺した。そう、ただ一度。
「ふう。なんとか倒したか……」
アーチャーは嘆息するが、気を抜かない。爆発により生じた煙の場所を観察する。
「無事かセイバー」
「タダオ……。助かりました。あなたのおかげで活路が開けた」
そう言って微笑むセイバーは多少傷ついているが戦闘には支障はない。
横島はセイバーの綺麗な笑みに顔を赤らめ思わず見惚れる。
「大丈夫か忠夫、セイバー?」
凛の隣に居た士郎は走ってこっちにきたようだ。二人の安否がよほど気掛かりなのだろう。
「あ、ああ。士郎こそ大丈夫か?」
「ああ、二人のおかげだ」
感謝を込め言うが無論それだけでは終わらない。
「セイバー、怪我してるじゃないか。女の子なんだから無理するなよ」
「ふぅ、シロウもタダオもですがこの身はサーヴァント。性別など関係ないのです」
半ば呆れたような口調で二人を諭す。しかし、この油断がまずかった。
確かに倒しはした。一度だけは。
「ふぅん。私のバーサーカーを一度とはいえ殺すなんて……なかなかやるじゃないお兄ちゃん」
イリヤは慌てるわけでもなく関心気味に言葉を紡ぐ。
「イリヤスフィール。令呪を破棄しなさい。命まではとらないわ」
凛もイリヤに気付き棄権を薦める。アーチャーはイリヤには目も暮れずまだバーサーカーの居た場所を見る。
「なあに。もう勝った気でいるんだ」
クスッと笑い見せる態度は余裕。そう、まだ決着は着いていない。
「やっちゃえバーサーカー!!」
「■■■■■■―――!!!!」
「っ!!シロウ下がって!!」
「チッ、やはりか!!」
二人のサーヴァントはマスターの前に立つ。横島達も気付き、臨戦態勢に入る。そこに居るのは全く傷のないバーサーカー。
「な、なんで……!?」
凛は絶句し
「反則だろーっ!!」
横島は泣き叫び
「そんな……」
士郎は驚愕した。
「当たり前じゃない。私のバーサーカーの真名はヘラクレス。たった一回死んだくらいじゃ意味無いんだから」
「ヘラクレスですって!!なら宝具は“神の試練”(ゴットハンド)!?」
バーサーカーの正体に皆の顔に驚愕が満ちる。ヘラクレスと言えば知らない人はいない知名度抜群な英霊。英霊の強さはその地の知名度により影響される。故に―――ヘラクレスに適う英霊はいない。
「■■■■■■―――!!!」
バーサーカーの一撃はセイバーを狙う。セイバーもなんとか防ぐが壁に叩きつけられ、その壁が破壊される。無論セイバーもさらに傷を負う。
「に、逃げ…てく…だ…さい…」
なんとか剣を杖にし立ち上がるがもはや限界に近い。
「セイバー!!」
士郎が叫ぶと同時にバーサーカーがセイバーめがけ飛び掛かる。
士郎も駆け出そうとするがそれより早く動く影。
「俺の前で二度と女を死なせてたまるか!!」
【加】【速】した横島がセイバーの前に立つ。右手に二個の文珠を握り、左手にもう一個。バーサーカーの石斧が二人めがけ振り下ろされる。その間に横島は文珠に【護】と込め投げつけた。
「そんな……」
皆が見つめる先にはバーサーカーとセイバー達の間に攻撃を阻む高度な結界がある。
「一工程でそんな結界を出現させるなんて……」
凛の頭にはありえないの言葉のみが回る。あのバーサーカーの一撃を防ぐ結界を瞬時に敷けるとは……なんてデタラメ。
一方、士郎は二人の無事を安堵し、アーチャーはその光景を観ている。
「……お兄ちゃん一体何者?サーヴァントの攻撃を防げる結界を瞬時に敷くなんて」
「俺は横島、横島忠夫。士郎んチの居候でGSだ」
「ふぅん。GS、ね。聞いたことないわ」
苦笑混じりに答える横島に考え込むイリヤ。他はただその光景を黙視していた。
「ま、いいわ。今夜は帰るね。おもしろいものも観れたし、バイバイお兄ちゃん。他のマスターにはやられないでよ。殺すのは私なんだから……」
イリヤはバーサーカーの肩に乗り帰っていった。
戦いは始まったばかり。運命(Fate)に導かれ戦いに出会う。
あとがき
第七章お送りしました。さくらです。えー、とりあえず原作ファンの方々はごめんなさい。アーチャーの戦いにはできればつっこまないで欲しいです。(泣
ではレス返しを
>文月様
恋愛過程は書きますのでお楽しみに。
>shizuki様
キャスターは無理ですがライダーなら…(笑
>我が逃走様
違和感に対しては申し訳ないです。あと、セイバーですが性格は多少いじってます。(苦笑
>ウィンキー様
まだセイバーは惚れてはいません。惚れる過程はこれからなので。きっかけと思って頂ければ…
>玉響様
未熟ですみません。あと原作の空気は横島がついてけないのでいじりました。キャラの反応もそのためです。
>Rou様
ありがとうございます。とても励みになります。
>趙弧某〈チョコボ〉様
未熟ですがこれからも一読の程を。
>帝様
ありがとう以外言えません。自分のプロットを通したいと思います。