横島達は言峰教会へと向かっていた。道中、他愛のない世間話―――ではなく聖杯戦争についてや横島のいた世界の話などをしていた。
「へー、じゃあ横島くんの居た世界は魔術、つまりオカルトは世間一般に知れ渡ってるわけ?」
「まあね。でも危険なのは同じだからちゃんとGS協会があるから取り締まられてるし、GSには免許がいるんだ」
そう言って財布に入れといた免許証を見せた。
「国家資格なんだな」
士郎はマジマジと見て自分の感想を口に出す。凛も手に取り念入りにチェックしている。
「オカルトも立派なビジネスだからな。一回の除霊でギャラはだいたい数百万、高いので億単位まであるし」
あまりのギャラの高さに士郎は目を白黒させ、凛は目が金になっている。
「だったら普通の家庭で起きた奴はどうなるんだよ?」
正気に戻った士郎は若干怒った感じに尋ねる。とてもじゃないが数百万というのは一般家庭で払える金額ではない。金が無いために助かる命が無くなるかもしれない。正義の味方を目指す士郎にとってそんな理由で助けないなんておかしい。ただそれだけが士郎の頭をぐるぐる回っていた。
「もちろん民間のGSは助けたりはしない。一応仕事だし」
それに除霊道具って高えしなと頬をポリポリと掻いている。無論士郎は食って掛かった。
「なんでだよ!!金が無いってだけで助かる命を見捨てるのか!?」
「落ち着きなさいよ。さっき民間っていってたけどそれ以外もあるのね?」
士郎を嗜める。さっきまでギャラの値段に目の色を変えていたが、冷静さを取り戻した凛が質問する。
「ああ、ICPO通称オカルトGメンってのがある。公務員だがら警察と同じだからな」
それを聞き落ち着いた士郎は食って掛かったことに謝罪をいれる。
「わるい、忠夫」
「気にすんなって。士郎ならこうなるくらい分かってたからな」
「ちょっと待って。そう言うのがあるなら誰でもそっちを頼むんじゃない?」
凛が言うとおり、タダで頼めるなら誰もがそっちを頼むはずである。
「ところがどっこいオカGより民間の方が依頼は多いんだ。GSの質は民間の方がいいんだ。いくら頑張ったところで給料が変わんない公務員より、金になる民間をやるのが普通だ」
確かに、納得する凛に対して士郎は不機嫌になっていた。今まで口を出さなかったセイバーもあまりいい顔をせず横島に尋ねる。
「タダオもそうなのですか?」
「いや、俺は金はそこそこ稼げりゃ良いからな。俺が民間をしてるのはバイトから正社員になったからだし」
まあ、横島の場合、金の欲よりも色の欲が強いため、今の職場なのだが。
「あ、着いたみたいね。じゃあ私と衛宮くんは行くけど……」
「俺はいい」
「私も残ります」
横島とセイバーは残るようだ。先程まで話してはいたがセイバーは凛の事を完全に信用したわけではない。
「……セイバーは分かるとして横島くんも聞いてたほうが良いんじゃない?」
「いや、俺は納得してるしな。……それにあまりこん中入りたくないんだよな。なんつーかこう邪気があるっつう感じでさ」
教会をみている横島は顔をしかめる。横島の霊感が訴える。あそこには入ってはいけないと。
「邪気?……まあ確かにあそこの神父は歪んでるけど……」
凛は横島の言葉に反応し考えていた。あいつを良く知る者は確かに彼を歪んでいると評す。しかし、会ったこともない彼がなぜこう言えるのか。
凛は少し考えたがすぐに切り替え士郎に行くように促す。
「……行きましょう衛宮くん」
「あ、ああ……」
士郎も考えていたらしく、凛の言葉に考えるのをやめて中に入っていた。
セイバーは士郎達が中に入るのを見送り、それを見計らい横島に尋ねる。
「タダオ、あなたに聞きたいことがある」
「ん、なんだ?」
「あの時私の怪我を治したあの道具はなんなのです?」
それは当然の疑問だろう。宝具であるゲイボルクにより受けた傷を完全ではないとはいえ、戦闘に支障がないくらいまでに回復させたのだ。最初は魔術の類ではとも考えたが自分の持つ対魔力Aがあるためありえない。霊能と言う異質な能力だと聞いたからこそ尚も興味を持ったのだ。
「ああ、アレね。……秘密でいいかな?」
「なぜです?」
横島は内心かなり焦っていた。凛の話を聞くかぎり文珠はかなりやばい道具らしい。向こうでもそうだったがこっちでは重要度がかなり違う。確かに使い方次第でこっちの世界の魔法を使えるうえに、さらにかなりの万能性を誇る。この存在が露見されれば間違いなく追われることになる。
「セイバーの持ってる宝具だっけ?それと同じでそうほいほい言えるもんじゃないんだ」
これを聞きセイバーは納得すると同時に、後悔に襲われた。サーヴァントにとって宝具は武器であり己が真名を示す証。故にどれほど重要なのかがわかったのだ。
「そうなのですか……申し訳ありません」
無礼はきちんと詫びるものだとセイバーは学んできた。反省した面持ちで謝罪を入れる。
「いや、分かってくれたら良いから暗い顔すんなって。セイバーみたいに可愛い娘は笑わなきゃもったいない」
頬をポリポリと掻き横島なりに励ます。
「なっ……!!」
セイバーの顔が僅かばかり紅潮する。遥か昔、選定の剣を抜き人でなくなった時から人としての生を、女としての人生を捨てたはずなのに、なぜ彼の言葉にこうも心を揺さ振られるのか。なぜ、こんなにも胸に響くのか。今のセイバーに分かることはなかった。
だが、この感じは
―――決して不快ではない……
まるで、まるで私は女のようではないか……。そう考えその思考をすぐに切り替える。そうだこの身はサーヴァントであり騎士であると、このような考えは今は必要ではないと考え直した。
「可愛いだなんて……この身はサーヴァントです!!そのような世辞は不要だ!!」
―――私は士郎の剣となる、そう誓ったではないか……
「そないに怒鳴らんでも良いのに……」
横島はセイバーの迫力に腰が若干引き気味だ。まあ、元気になったからよしとした。
「ではもう一つ尋ねます。あの時私を追い越したのは――まあ、納得のいかない点もありますが粗方想像がつくので不問にしますが、なぜアーチャーを見て立ち止まっていたのです?まるで彼に驚いてるようでしたが」
そう、確かにあの時横島は彼を見て立ち止まっていた。雰囲気から察するに驚いているように見えた。それはなぜなのか。なぜ彼を見て驚くのか。
「ああ、そのことね。それにはまず霊波について説明する必要なんだけど」
「レイハ、ですか?構いません。お願いします」
セイバーは疑問を今の内に解消しておきたいようで先を促す。
「わかった。まず霊波ってのは誰からも出てる波のことなんだけど、指紋と一緒で一人一人違うんだ。弱い人もいれば強い人もいるからな。もちろん強弱は関係ないんだけどな……」
なんかキャラ違うよなー、と呟きつつ苦笑する。
「ふむふむ」
どこから出したか分からないがなぜかセイバーの手には煎餅がある。すでに道路には煎餅の袋が数袋落ちており、本当にどこから出したか気になるところではあるが深く考えてはいけない。
「そんで俺がアーチャー見て驚いたのが、あいつの正体が分かったからだ」
「なっ!!本当なのですかタダオ!?」
これにはセイバーは驚愕した。相手は宝具を出した訳でもなくただ姿を見せただけだ。なのに、真名がわかるとは。
「ああ。一応確認するけど英霊ってのは過去や未来の英雄が世界と契約してなるんだよな?」
「ええ、大体その考えで正しい」
厳密に言えば違うのだが今はそのことはどうでもいい。
「あいつの正体は―――英霊エミヤシロウ。そうなんだろうアーチャー?」
横島がそう言った瞬間、数発の矢が横島達を襲う―――が、いち早く気付いたセイバーがすべてたたき落とす。
「タダオ!!どういうことです!?」
「だから言ったとおりだ!!アーチャーの野郎はなぜか士郎と同じ霊波を放ってんだよ!!」
これこそが横島が立ち止まっていた理由である。なぜだ、と思いながらも色々なことを聞きわかったこと。アレはエミヤシロウの未来の姿であると。
「で、ではシロウはいづれ英霊に至ると言うのですか!?」
これにはセイバーも驚いた。まさか、自分のマスターが英霊に至る存在であるとは。
「そう、としか言えねえな……。そうなんだろうアーチャー?」
再び同じ事を言う。見つめる先は数メートル離れた家の屋根。そこには悠然と立つ赤き弓兵。右手には黒い弓を携え、鷹のように目を鋭くしこちらを見下ろしていた。
「やれやれ……。英霊である私をあのような小僧と同列に考えては欲しくないな」
皮肉混じりな、いかにも余裕があるかのような言葉だが、先程セイバーにより受けた傷は深く、戦闘を続けることは厳しい。
「自分の正体暴かれて攻撃とはな。自分で肯定してるようなもんじゃねえか」
「あいにく、真名は覚えていなくてな。―――しかし、真名であるかも知れないことを敵のサーヴァントに知られるのを黙ってみてられる性分でもない」
そう言って黒と白の双剣を取り出す。目からは確かな殺気。それを感じ取ったセイバーがタダオの前に立ち、不可視の剣を構え、アーチャーを睨む。
「やる気ならば相手になるぞアーチャー」
その姿はまさに最優のサーヴァントのセイバーに相応しい。凛とした態度で威風堂々と立つ。
横島も戦闘に備え、栄光の手とサイキックソーサーを出し構える。
「何やってんのよアンタたち!?」
「セイバーに忠夫もだ!!今は休戦中のはずだろう!?」
現われたのは凛と士郎。士郎の方は若干元気がない。教会で何かあったみたいだ。
「―――なに、休戦中とはいえ敵を警戒するに越したことはあるまい」
「アンタねえ〜……」
口調は平然としているが、内心ホッと胸を撫で下ろしていた。もし、さっき戦闘を行っていたらコチラが負けていただろう。
無論、アーチャーとてただやられるつもりは毛頭ない。殺すことは無理でも負傷を負わせるくらいはするだろう。
「そうなのか?」
「いえ、実はアーチャーはモガッ……!!」
「まあ、そう言うことだ」
セイバーの口を塞ぎ苦笑しながら答える。セイバーも横島の手を振りほどき抗議の声を上げる。
「なにをするのです!?」
横島はたじろぎながらもセイバーを招き寄せ、ぼそぼそと話す。
「(いいか?もし、アーチャーの正体が士郎だとバレると、凛ちゃんが何をしでかすか……)」
その言葉にハッと気付く。確かにそれは簡単に想像できる。横島がアレだったのだからあれくらいの暴走をしないとも言いきれない。
「え、ええ。タダオの言う通り概ね合ってます」
やろうと思えば腹芸くらいわけないのだが、急には無理なようだ。
「なーんか怪しいけどまあいいわ。それじゃ帰りましょ」
凛の言葉を合図に歩きだす―――が、そこには敵が立っていた。
白い外人の女の子と隣に立つ二メートルは優に越す巨人。少女はスカートの端をもち
「月が綺麗な夜ね。こんばんわ、お兄ちゃん」
優雅に挨拶を述べた。
立ちはだかるのは最強の英霊。皆が運命(Fate)に導かれる。戦うために…
あとがき
お届けしました第六章。さくらです。いやはや話のスピード遅え!と思いましたよ。やっとバーサーカーとの対決。長かったなあ…。ではレス返しを。
>遼雅様
すいません次回突入します。あとは、レスに流されず頑張りますので。
>ウィンキー様
文が伝わりよかったです。セイバーの剣を受けれたのは霊視によるものと思ってください(汗
>斉貴様
追い付いたのは、凛の悲鳴のおかげなのでギャグみたいなもんです。今回テーマはありますので伝わればと思います。
>風の精霊使い様
そうなっちゃうんでしょうか(汗
>Ys様
一応設定は決めてますので。未完にならぬよう頑張ります。
>玉響様
バランスは大丈夫でしょうか?若干心配で。
>七つ目玉様
期待を裏ぎぬよう頑張ります。
皆様に感謝を
BACK< >NEXT