凛は自分の置かれた状況に思考を巡らす。自分達に近づく二つの影。両者ともかなり速く視認が難しいがどちらもサーヴァントではないかと考えアーチャーを先頭に置き尚も走った。
片方の影が片方を追い抜き、それを警戒したアーチャーが身構える―――が、相手は突然動きを止め驚愕に満ちた顔でアーチャーを凝視していた。
アーチャーも鷹のように目を鋭くし相手を油断なく見据える。いつでも自分の武器を取り出せるよう構える。対峙していた時間は数瞬だろうか、後ろから走ってきた影は迷う事無くアーチャーに斬り掛かる。アーチャーは致命傷こそ避けたものの、戦闘できるかわからない傷なため、直ぐ様霊体化し戦闘を離脱する。
「アーチャー!!」
それを確認することもなくアーチャーを斬った影はまた駆け出し次の獲物――凛へと狙いを定める。
「きゃっ……」
思わず悲鳴を挙げてしまった。その悲鳴に反応するようにもう片方の影は今にも自分へと襲い掛からんとする影の前に立ち、緑輝く刀みたいなものを出しその武器を受け止め流す。
「そんな…!?」
「ふぃー危なかった……」
「うそ…!?」
自分に襲い掛かってきた影は女の子のようであちらがサーヴァントなのだろう。時代錯誤な格好に放つ雰囲気がまるで違う。
ではもう片方の影――こちらは青年だ――は何なのだろう。視るからにただの人間だし魔力も感じないコイツは一体……。
「タダオ!!どういうつもりです!!」
「いや、まあ美人のピンチはほっとけないだろ」
その影が間に立った方法こそ分からないが、一先ず自分の命が助かり内心胸を撫で下ろす。―――美人といわれ顔が赤くなっているのは内緒である。
「セイバー!!忠夫!!」
かなり遅れて走ってきたもう一人は自分がここにきた理由となる人。
「随分と慌てて来たみたいね」
そうだ自分は常に優雅に振る舞わなくてはならない。我が家の家訓【遠坂たるもの常に優雅たれ】に従って。
「お前は遠坂……!?」
「こんばんわ衛宮くん」
そして凛は優雅に余裕ある態度で微笑んだ。
「お嬢さん、大丈夫でしたか?怪我は?」
「ええ、怪我はありません。助けてもらい感謝します」
自分を助けてくれた人に礼を述べる。
「イエイエ礼には及びません」
「いえ、そんな訳には…」
青年の紳士な態度に好感を持ち思わず感心してしまうが、それが間違いだった。
「ただその体で払っていただければー!!!!」
青年はスルリと自分の服を脱ぎパンツ一丁で飛び掛かってきた。これぞ俗に言う伝説のル〇ンダイブ。
「きゃあぁぁー!!」
驚きのあまり魔力をかなり籠めた左手で顔面にストレートをぶっ放す。
「ぐはっ……この左は……世界を狙えるぜ……」
数メートルはぶっ飛んだだろうか、普通なら怪我ではすまないだろう距離に凛は冷や汗を流す。しかし、士郎だけは平然としていた。まるで、この程度は見慣れてますと言わんばかりに。
「大丈夫かしら……?」
自分で殴っておいて何をと思いつつも横島を心配そうに見ている。
「あー……死ぬかと思った……」
「生きてるー!?てかなんで無傷なのー!!!」
「ま、まあまあ」
自分も最初はこうだったなあと懐かしく思う。横島はいつのまにか立ち上がり着た服に付いた埃を叩き落とす。
「いやーやっぱシリアスな空気は長くはもたん」
つくづくコメディアンな自分を再認識しつつ状況確認する。
「(あっちのツインテールの娘はかなりの美人やなー。セイバーも負けず劣らず美少女だし……しかし実におしい!!あれで胸もあったら美神さんに匹敵できたはずなのに!!」
「ナイチチで悪かったわねぇ……」
「女性に対して胸の事を言うのは失礼ですよ……」
「忠夫……声に出てるぞ」
そこには二人の修羅がいた。バックに映るのは赤い悪魔と飢えた獅子。己の本性を丸出しにし溢れんばかりの殺気に横島は冷や汗が止まらず、士郎は明後日の方を向きひたすら奇数を数えていた。
「いえ!僕は別にそんなことはこれぽっちも考えてませんよ?ただ胸があったらなあ〜って……ハッ」
「「星になれ〜!!!!」」
横島は星になりながら一句辞世の句を詠んだ。
女性らに 胸の話を するなかれ すれば命に 関わることなり 横島忠夫
凛は魔術を行使しランサーと横島の戦闘時に壊されたガラスを直していた。見事に修復されるガラスを見て士郎と横島は感嘆の声を上げる。
「すごいな遠坂は。俺はこんなことできない」
「へー、これが魔術か」
士郎は凛の魔術の腕に、横島は初めて見る魔術に驚いていた。
「こんなもん、どこの流派でも初歩中の初歩でしょ?衛宮くんも習ったでしょう?」
コイツは何を言っているのやらと呆れ混じりな視線で問う。
「む、俺は親父にしか習ってないしあまり教えてもらってないんだ。できる魔術も強化だけだし」
凛の反応にムッときながらも正直に答える。
「はあ?またなんでこんな未熟者にセイバーが召喚されてんのよ……しかもきちんと契約できてなさそうだし」
私だったら……とぼやくものの過ぎてしまってはいくら騒いだところで後の祭り。思考を切り替え何も分かってない士郎達に現状を教えることにした。
「とりあえずどのくらい自分の立場について自覚してるのかしら?」
士郎と横島はそう聞かれセイバーに教えてもらった事を説明した。この時についでに自己紹介も済ませた。
「……とこんな所かな」
「ふーん……ある程度理解はしてるみたいだけど一応もう少し詳しく教えておくわ」
凛は二人に令呪がサーヴァントに対する絶対命令権であること、サーヴァントのクラスは全部で七クラスであること、聖杯戦争の目的などを教えた。
「……と、まあこんな感じかしら。今度はこっちが質問するわ。横島くん、あなたは何者?見たことのない能力を使い、サーヴァントであるセイバーの攻撃を受け流したその力、一体何かしら?」
今の凛の顔は魔術師としての顔だ。目を鋭くし虚言は許さないと睨む。
「それは私も聞きたい。貴方のその技量、人の身で有りながら何故それほどまでに……」
セイバーから言う言葉には威厳を感じる。逆らえないような絶対的な言葉。
「二人とも落ち着けって!!そんな睨むことないだろう!!」
士郎は横島の能力にはあまり興味がないようだ。だからこそ横島を庇うのだろう。しかし、横島はそれを遮り
「いいって士郎。俺の力は霊力だ」
「霊力?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる凛。横島は首肯し続きを話す。
「霊力は誰にでもあるんだけど普通の奴らより高くその力を行使することができるのが霊能者だ」
「へー……じゃあさっきの光る刀みたいなのが霊能力なのね」
説明を受け、一つ一つ理解していく。
「そう言うこった。ただ人によっては道具を媒体にしたり、俺みたいに直接霊力自体で攻撃したりと人によって様々なんだ」
「なるほど」
こくこくと頷きながらお茶請けとしておいてある煎餅に手を伸ばす。すでにセイバーの下には数袋開けられたあとがあるが気にしてはいけない。
「ちょっと待って!その言い方からすると横島くんの他に複数いるみたいじゃない!!」
「あっ……」
横島は己のミスに気付いた。自分が平行世界から来たことは伏せとくつもりで話していたが、あっちは予想以上に頭が切れた。
「まだ隠してることがあるみたいね。隠し事はお薦めしないわよ」
顔こそ天使のような笑顔だが本性は悪魔であると横島は理解していた。
自分の母からもらった報告書にすぐに目を通し今後の事を考える。母達ばかりには任せてられない。自分も動かなければと。
「どうしようかしら?」
具体的な対策も浮かばぬまま、ただ時間は過ぎていく。
すると、おキヌがコーヒーを入れて持ってきた。
「何かわかりました?」
おキヌからコーヒーを受け取りお礼を言いゴクッと飲む。
「ぜーんぜん!まったく一体何があったのよ」
おキヌも自分用に入れたコーヒーを啜りつつ机に置いてある報告書を手に取り目を通す。
「隊長さんの言った通りですねー」
「本当よね。苦しいときの神頼みって言うけど……ってそれよ!!」
何か思いついた美神はさっそく準備をはじめた。そう、苦しいときの神頼み……自分達の知り合いの神様のいる妙神山へと向かうための。
「へー、じゃあなに?その除霊中の事故で遠坂家の悲願である第二魔法を体験したわけ?」
「はい、そう言うことになります!」
凛は怒りに打ち震えていた。無論目の前にいる横島にである。なぜこんなふざけた奴が魔法の体現できたのか、先祖の苦労はなんだったのかなど、たくさんの怨み事が頭を占める。
「ふざけんじゃないわよーーー!!!!」
この時確かに赤い悪魔が出現した。後にS・Eくんは語る。学校での姿は本性ではないと、アレはただ猫被ってるだけだと。
「じゃあ衛宮くん、さっそく向かいましょうか」
凛の後ろに赤い何かがありとても視認できない。凛の頬に血みたいなものが付着してるが気にしてはいけない。
「……行くってどこに?(スマン、助けられなかった俺を許してくれ)」
凛に逆らってはいけないと脳に刻み付けビクビクしながら心の中で謝る。
「言峰教会よ。聖杯戦争の監督役がいるからマスターの登録しなくちゃいけないし」
「ちょっと待ってくれ!俺まだマスターになるなんて……」
何故無意味な殺し合いに参加しなくてはいけないのかと疑問を持ち続ける。
「呆れた……あれだけ言ったのにまだ理解できないの?―――いいわ、その辺りもさらに詳しく教えてくれると思うから」
まだ煮え切れない士郎を尻目に教会にいくように促す。いつのまにか復活をしている横島と煎餅を貪っていたセイバーも着いてくるようだ。
「着いてくるのはいいけどセイバーはその格好は目立つわね」
セイバーは不完全な契約状態であるためレイラインも通っていないし、セイバーも霊体化できないため、今の姿は鎧であるため目立ちすぎた。
「衛宮くん、なにか羽織るものある?」
うーんと頭を捻り家にあるコートの類を頭に浮かべる。
「俺の着てる青のコートならあるけど?」
答えたのは横島。復活した横島に気付いていなかったため凛と士郎はかなり驚愕している。
「じ、じゃあそれお願いね横島くん」
了承の合図を送り自室へとコートを取りにいく。コートを試しにセイバーに着せてみると大きさも申し分なく、かなり似合っていた。
「似合ってるじゃないかセイバー」
横島はなんけなしに言った一言ではあるが本音を口にした。
「これはいい。貴方に感謝をタダオ」
セイバーもそれなりに気に入ってるらしい。色や柄はもちろんのこと動き安さも申し分なかったためだろう。
「じゃあ準備はいいわね?それじゃ案内するわ」
全員の準備の終了を確認すると凛を先頭に言峰教会へと歩きだした。
本来なら居るはずのない彼に一体何をさせようというのか。ただ皆は導かれる、運命(Fate)に。
あとがき
やっとの更新第五章。どうもさくらです。いやあ驚きましたよレスの数に。二桁ですよ?皆様に感謝ですね。
多数意見の多かった横島強すぎ説ですがやはりそう見えちゃいましたか。自分の未熟さに猛省せねば。
と、いうわけで今回はレス返しはなく代わりに横島のデータを載せたいと思います。これで皆様の疑念が晴れれば幸いです。
横島忠夫
能力
栄光の手 サイキックソーサー 文珠 不死性(ギャグのみ) 煩悩全開
詳細
サイキックソーサー複数展開(複数展開時は栄光の手は出せない) 栄光の手剣ver 栄光の手爪ver 文珠生成 一日に四個作れる(コミックス23巻参照) 文珠並列使用三個(集中時四個)
戦闘力
当然サーヴァントには及ばないが老師や小竜姫との修業により全力の攻撃でない場合は捌ける。手段を選ばず文珠や罠等を活用すれば勝てる見込みあり。
備考
サーヴァントの強さは小竜姫と同等。最大攻撃力はサーヴァントが勝るが、超加速を使われた場合勝てる見込みは少ない。