「くそっ!!何かないのか!!」
士郎は床に握り締めた拳を叩きつけた。士郎は葛藤する。横島は自分を助けてくれた。そんな横島に自分は何もできないのか。それが俺――正義の味方――の生き方なのか。結局自分は何一つできないのか。
「ちくしょう!!」
激昂と共に床に拳を叩きつけた瞬間、床が魔法陣を描き光り輝いた。
その魔法陣からでてきたのは一人の少女。風に金色の髪を揺らし、月明かりに照らされ輝く蒼い衣、少女の体に纏いしは銀の鎧。
威風堂々と士郎の前に立つ少女は問い掛ける。
「――問おう、貴方が私のマスターか」
槍の男――ランサーは血が高ぶっていた。自分の目の前にいる青年――横島のその力に。
横島の使う力は異能。今まで見たこともない力を遣い人の身で有りながらサーヴァントである自分相手に互角とまではいかなくとも、決して引いているわけではない。確かに途中、ふざけているような処もあったがアレも戦略なのかもしれない。
ランサーの望みは強者との死合い。不思議な力を使おうがそんなものは関係ない。ただ殺りあえるという悦びがランサーを支配していた。
「やるじゃねえか小僧。サーヴァントである我が身を傷つけるその力、もっと観せて俺を楽しませろっ!!」
深紅の槍を構え横島に一直線に突っ込む。
「ここにもバトルジャンキーがいやがるぅっ!!」
半分泣きながらも栄光の手とサイキックソーサーを構える。
「おりゃぁ!!」
神速といっても過言ではないほどの槍のスピードを栄光の手で受け流しサイキックソーサーで迎撃する。 この戦い方こそ実力差のある相手にする横島の戦法の一つだ。
横島は今まで自分より強い相手との戦いが多いため斉天大聖老師との修業によりさらにそれを磨いた。
本来は自分のペースに巻き込み、相手の調子を崩して倒すのが横島のスタイルである。しかし、生真面目なヤツにはかなり効果があるが、ランサーのような戦闘狂には効果が薄い。そこで取り入れたのが今のスタイルである。
「そらそら!!」
今だに止まないランサーの猛攻に横島も息が絶え絶えだ。いくら攻撃を避けられても体力にはかなりの差がある。このままいけば確実に仕留められる。
「も、もうあかん……!」
横島の腹部に槍が当たろうとした瞬間、深紅の槍は視えない武器によって弾かれた。
「!!バカな!?七人目のサーヴァントだと!!」
そこにいるのは不可視の武器を持ち凛とした態度で立つ少女だった。
「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した」
突然目の前に現れた少女に驚愕する。
「マスター……サーヴァントだって……?ッ!」
聞き慣れない単語を疑問に思いつつも左手に走る痛みに顔をしかめる。
「はい、その左手にある令呪が何よりの証。これより我が剣は貴方と共にあり…貴方の運命は私と共にある。ここに、契約は完了した」
この少女は何を言っているのだろう。訳も分からず混乱しかけるが今の現状を思い出し立ち上がる。
「そうだ!!早く忠夫を助けないと!?」
「どうやら敵もいるみたいですが、マスター、タダオとは?」
「俺の親友で家族みたいなヤツだ!今外で槍を持った男と戦ってるんだ!!」
「それは危険です!人間がサーヴァントと戦うなど無謀過ぎる!」
セイバーの言葉になお焦り外に出ようと走りだした。
「待ってくださいマスター。どこに行く気です?」
「決まってるだろ!!忠夫を助けに行くんだ!!」
早く行かないと忠夫が死んでしまう!そんなことを自分が放っとけるはずがない。
「なっ!?さっき危険と言ったでしょう!!私が行くので下がっててください!!」
そう言いセイバーは駆け出した。
「てめえ……人の勝負に横槍を入れやがって!!」
顔に怒気が写りさらに殺気が高まった。
「何を言う、槍を入れるのは貴方の得意分野だろうランサー」
「抜かせっ!!」
ランサーは一気に駆け寄り頭、喉、腕、胸、足などを狙い槍を突き出す。
しかし、セイバーは槍の猛攻を不可視の剣で防ぎランサーごと弾き飛ばす。
「……一つ聞かせろ。その武器は剣だな?」
「さあどうかな。斧、槍、もしかしたら弓ってこともあり得るぞ」
「ハッ!よくほざきやがるぜ!!最優と名高いセイバーと殺り合えるとはな!今回はハズレかと思ってたが、そこの小僧といい悪くねえ」
顔に浮かべているのは歓喜。強者と戦える悦びのみが伺える。しかし、自分のマスターは偵察をして来いと命令された。それだけがランサーのネックになっていた。
「ものは相談なんだがお互い初見だしよう、ここらで引き分けってことにしないか?」
無論、本心からの言葉じゃない。本当なら全力で勝負をするところだ。
「愚問だなランサー。貴方はここで倒す」
「よく言った!!我が槍を喰らってみろっ!!」
さらにスピードを上げ槍を突き出す。しかし、セイバーも負けてはいない。不可視の剣で防ぎ、弾く。それにより生じるわずかな隙はランサーにとって命取りだった。
不可視の剣を上段に振りかぶり振り下ろす。その一撃はまさに大砲。まったく体格の差を感じさせずにセイバーはランサーを弾き飛ばした。
「最優の名は伊達じゃないか……」
「どいした、そんなものかランサー」
「ならば喰らってみるか?我が必殺の一撃を!!」
ランサーは槍を構え槍に魔力を集中させる。周囲の温度を奪い取るような凶々しい力を槍は放つ。
「じゃあな。その心臓、貰い受ける!!」
魔力が溢れている槍を突き出しその真名を解放し必殺の一撃を放つ。
「刺し穿つゲイ――死棘の槍ボルク!!」
ランサーの放った槍は因果を捻じ曲げる槍ゲイボルク。それはすなわち「心臓を穿つ」という結果を「槍を放つ」という原因より先に生じさせる回避不可能な、文字通り必殺の一撃。
その一撃はセイバーの心臓を的確に狙う!!――がセイバーはその一撃をギリギリに避け致命傷は避けるものの怪我を負う。
「なっ!!躱しただと!?我が必殺のゲイボルクを!!」
「ゲイボルク――!!なら貴方の真名はアイルランドの英雄、光の御子の――!!」
「ちっ有名すぎるのも考えものだな」
舌打ちをし身を翻し屋敷を出ようとする。
「クッ……逃げる気ですか…!!」
「生憎、ウチのマスターは臆病者でな。宝具が躱されたら帰ってこいと言いやがった」
「待てっ……!!」
ランサーにやられた箇所を抑えながらセイバーは狼狽する。
「追いたければ追うのは自由だがその時は決死の覚悟でくることだ!!」
殺気を込めた目でセイバーを一瞥しランサーは去っていった。
「スゲエ……」
横島は目の前の光景に目を奪われていた。突然自分の前に現れた美少女には勿論の事、その後に始まった戦闘に。
「大丈夫か忠夫!!」
息を切らし土蔵から士郎が走ってきた。
「士郎……あの女の子は誰だ!?確か俺は武器を持って来いて言ったよな!!それがなんで美少女になるんだ!!あの子との関係を洗い浚い吐け!!さあ、今すぐ!!ハリー!!ハリー!!」
士郎の胸ぐらを掴み前後に揺さ振る。
「そ、それが俺にもさっぱりで……突然土蔵の床が光ったと思ったらあの女の子が立ってたんだ。名前はセイバーと言ってた」
「セイバー…ねえ」
横島は彼女が人間でないことは一目で気付いた。ランサーと似た感じがしたがどこか違う。そんな印象を持っていた。
余りにも凄まじい戦闘に手出し出来ず二人はただ見ていた。やがて凄まじい殺気と共に放たれた槍に恐怖を憶え、体が硬直した。
ランサーが立ち去るのを見送るといち早く硬直から治った横島がセイバーの下へと駆け寄る。その後を慌てながら走る士郎。
「大丈夫か!?」
「貴方は……確かタダオでしたっけ?」
「へ?何で俺の名前を?」
「我がマスターにタダオを助けてほしいと命じられたので」
実際は違うのだが横島はそんなことは気にせず、今のセイバーの言葉に激しく反応した。
「し〜ろ〜う〜」
ランサー戦でさえ見せなかった凄まじい殺気を放ち士郎を掴む。
「ヒィ!!」
「あんな可愛い娘のマスターだと〜!!テメエ!何のプレイだ!!」
「違う!!そういう関係じゃない!!セイバーからも言ってくれ!!」
「何を言っているのですマスター。私は貴方のサーヴァントだ」
しばらくの間横島の暴走状態は止まらずセイバーによる聖杯戦争のことやサーヴァントのことについて説明を受け、士郎は怒りの横島は戸惑いの表情を浮かべた。
「(また、厄介ごとに巻き込まれてる!?)」
「マスター同士の殺し合いだって……!!」
すると突然、セイバーと横島は何かに気付いたようだ。
「話は後で、新たな敵の気配です」
「もうすぐ来るな」
「なっ……!!」
「行きます!!」
「ちょっと待てくれ。お前怪我してるじゃねえか。今治す」
そう言って文珠を一個取り出し【治】と込めセイバーにぶつける。すると怪我はあっという間に無くなった。
「怪我が……!?貴方は一体……いえ今は外の敵ですね」
問い詰めようとしたが敵の討つ事を優先し走りだした。
「はっ!!外に美女の気配が!!待っててください、男横島忠夫!!今すぐ貴女の下に参ります!!」
お嬢さーん!!と叫びながらセイバー並のスピードで駆け出す横島を見送り、士郎も呆然としていたが数秒後に外に向かった。
「ママ!検査の結果がでたの!?」
美知恵の訪問を待ち侘びていた反応に思わずクスッと笑ってしまう。
「ええ、一応書類を持ってきたから目を通しておいてね」
「隊長さん、横島さんは……」
「まだ何とも言えないわ。あくまでこれは経過報告だから」
美知恵の言葉に愕然とするも希望が潰えたわけじゃない。そう信じて横島の無事をおキヌは祈った。
「ふふ(彼も愛されてるのね。横島君早く戻ってきたほうがいいわよ)」
心の底から心配している二人を見て優しく微笑んでいた。ちなみに、シロとタマモはひのめの相手をしてぐったりとしている。
走っているセイバーに追い付いた横島は美女の目の前にいる男を視て体を硬直させた。
「えっ……」
セイバーはセイバーで自分の足に追い付く横島に驚くものの立ち止まる事無く赤い外套を着た男に切り掛かった。
「はあああっ!!」
防ぐことも出来ず怪我を負い、苦痛に顔を歪めるも霊体化をし難を逃れる。
「アーチャー!!」
叫び声をあげるが赤い外套を着た男―――アーチャーを斬った勢いに乗りセイバーは上段に振りかぶった。
「きゃっ…」
その悲鳴を聞いた横島は瞬時に硬直を解き、栄光の手を具現させセイバーの剣を受け流す。
「そんな…!?」
「ふぃー危なかった……」
「うそ…!?」
目の前の光景に驚愕しセイバーは横島に食って掛かる。
「タダオ!!どういうつもりです!!」
「いや、まあ美人のピンチはほっとけないだろ」
「セイバー!!忠夫!!」
やっと追い付いてきた士郎は横島が助けた美女の正体に驚愕した。
「こんばんわ衛宮くん」
「お前は遠坂…!?」
この出会いは必然。運命の夜は始まったばかり。運命(Fate)に導かれし者は集いはじめる。
あとがき
やっとの更新第四章。どうもさくらです。前回の話はかなりの描写不足があり、かなり反省しております。まだまだ勉強不足だなあ……
ではレス返しを
>遼雅様
いつもありがとうございます。凛との接触は余り無いので次回です。
>和泉様
いえ別にそういったこだわりは無いです。今回から変更します。
>とおりすがり様
なるほど…その表現も有りですね。ただセイバー召喚をああしたのは横島がサーヴァント相手に戦えることの証明の為です。
>斉貴様
学校の横島を想像してくださいwやはり描写不足ですね。あの注意は…何なんだろう?
>とおりすがり様
その辺は単純な描写ミスです。不快にして申し訳ありません。
>帝様
このペース保てるか不安です。GSサイドの描写はもうすぐ無くなる可能性有りです。
最後にこの文を読んでくれた貴方達に感謝を
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