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▽レス始

「.hack//intervention 第10話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-17 00:22/2007-02-17 00:47)
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アルビレオがかつての聖堂の前に1人いた丁度その頃。


昴、ベア、ミミルの3人は、Θサーバーのルートタウン『高山都市 ドゥナ・ロリヤック』の片隅に集合していた。

人気の無い場所で話すのはあの時、即ち3日前の出来事。


「ねぇ……誰かあそこの様子見た人いないの?」

「いや、俺が入ろうとしたのはついさっきで、既にプロテクトが掛かっていた」

「アタシが昨日ワード入力した時も駄目だったから、そりゃ当然でしょ?」


ミミルとベアは互いに収穫の無さに溜息を付く。

元々ヘレシィ達に対して、そこまで深く関心を持っていなかった2人。

ミミルは奇妙だがお得なトレード相手として。
ベアはつい最近興味を持つようになったばかりの謎の人物として。
そんな程度にしか考えていなかった。


しかし状況は変わった。

謎の人物“偏欲の咎狩人”ことヘレシィ。その傍に何時も携わる幽霊少女のシェリル。
様々な噂が飛び交っている中にある事実を、ミミル達は体験した。

ルートタウンを介することなく移動、しかも周囲に溶け込むようなエフェクトでの転移。
黒い幽霊少女も実際に見ることが出来た。トレードは既にミミルが経験している。
PKKに関しては無実を主張しているが、これは定かではないので置いておく。


更に彼等は…………噂には一度も出なかったことまでも目にしてしまう。

自分達の会談中に突然割り込んで来た男。
彼が割り込んできた途端に、今までヘレシィの後ろで関心のなさそうに様子で静かに佇んでいたシェリルが豹変する。
瞬時に後方へ下がったヘレシィの頭上に浮かび上がった彼女は、憎しみのオーラを体現したような姿に変わってしまった。

そして彼女の前に翳された、両手に集まる光の渦。

その一部が矢と化してアルビレオの下に突き刺さった時、ミミル達は恐怖する。
爆音、若しくは光が弾けるエフェクトだけと思っていたその場所は、グラフィックごと抉り取られていたのだ。


「ベア……あの光、何かおかしくなかった?」

「ああ、あれはどう考えても普通じゃない。
 大抵の呪紋なら外れて建物に当たっても、その場で弾けるのが関の山だ。
 少なくとも…………床のCGが剥がれるなんてことはゲーム上ありえない」

「しかもさ、ヘレシィが最後に言ってた言葉……覚えてる?」

「“下手すりゃPCの破損だけじゃ済まない”だったか?」


PCが破損するとはどんな状態のことを示すのだろうか?
それだけじゃない事態とは一体何なのか?

そういった感じで2人が今までに無い出来事に頭を抱え込んでいる間、


「昴はどう思う? …………昴?」

「あ、済みません……少し呆けておりました」

「ま、それもしょうがないっか。何せエリアが進入禁止になっちゃうくらいの事態だもんね……」

「……………………」


昴はじっと下を向いたまま顔を上げようとしなかった。


.hack//intervention 『第10話 撒かれた種子、その始まりは小さな波紋』


《side 昴》


私が彼、ヘレシィと名乗る人物のことを耳にしたのは今から約4ヶ月前。

始まりはクリムが騎士団の駐屯所へ戻ってきた時の会話でした。


「よぉ昴ッ! 調子はどうだ?」

「……どうもこうもありません。
 もう少し腰を落ち着かせるようにして下さいと、何度も言っているではありませんか。
 なのにまた勝手にダンジョンに潜ったりして……」


彼と共に騎士団を立ち上げてから早2ヶ月。

彼の冒険癖は今に始まったことではありません。
それでもリアルでの出張を除くと、この駐屯所にいた期間が僅か2週間程というのは流石にどうかと思うのです。

尤も、クリムが1日中静かに座している姿も想像ができませんが……。


「まぁたそれかよ、昴ッ!
 せっかく『The World』に来れたんだから、冒険くらいさせてくれ」

「分かっております。それが貴方の貴方らしさですから」

「その通りだッ! ……んで、銀漢の奴は?」

「彼は、貴方が帰ってくると聞いてそのまま巡回に出かけました」


銀漢。組織として正式に騎士団が結成されてすぐに入団してきたPCの1人。

彼の騎士団に対する忠誠心は他とは一線を画していると言えます。
『The World』の秩序と安寧を重んじ、正義に対する忠誠心が強いことは騎士団全体にとって有益なのでしょう。
しかしその分、対照的に自由奔放なクリムとは最近絶えず言い争っており頭を痛めている次第なのです。


私の話に、頭を掻きつつ困ったような表情を見せるクリム。

今の状況に困っているなら銀漢に直接手を差し伸べて貰いたいものです。


「そっか……そんじゃ、アイツが帰ってきたらこれを渡しといてくれ」


そう言って彼が手に出したのは、


「…………プチグソ、ですか?」


ルートタウンの牧場でよく見かけるプチグソの金の像でした。
プチグソとは豚(?)とも牛(?)とも言い難い不思議なその生き物。
この『The World』で神獣として可愛がられていた、という設定らしいです。

…………まあ、見慣れれば可愛くないとも言えなくはないのですが。

敢えてコメントは控えさせて貰います。


それはともかく、この見覚えのないアイテムはどのような品なのでしょうか?


「クリム、このアイテムは?」

「それは『金のプチグソ』っつってな。
 体力のパラメータが30も上がるってかなりレアな代物だ」

「……それ程のものを銀漢に?」

「おぅッ! まあ何つうかその、何時もの労いってやつだ」


そう思っているのなら直接会ったらいいものを……。

私が2人の手を取り持とうとしても良いのですが、これはあくまで彼等の問題。
元々はシステム補助を担う同じ志を持つ者同士、必ずいつかは分かり合える筈なのです。

結局は2人の心次第ということでしょうか?


「ところで、そんなレアアイテムをどこで?」


私の言葉に何故か真剣な表情になるクリム。どうしたのでしょうか?

今の彼は先程までの飄々とした何時もの姿ではなくなっています。


「……クリム?」

「その件について、重要な話がある。
 …………人払いは大丈夫か?」

「え、ええ。しばらくは誰も入らないように予め申し付けていますから」


重要な話? それは一体……。

知らず知らずのうちに、私の中に奇妙な深刻さが芽生えていました。
内容はまだ聞いていない筈なのに、それが途方もなく大きな流れの前触れであるかのような感覚に襲われたのです。

クリムは床に座り、武器を納めながら静かに話し始めました。


「さっきフィールドで冒険してるときにな、とある人間に出会った」

「とある人間?」

「ああ、最近BBSで話題になっている奴だ。
 ソイツの名は…………“偏欲の咎狩人”」

「“偏欲の咎狩人”? ……そういえば数日前からBBSにそのような名前が載っていましたね。
 ですがあまりにも荒唐無稽な噂ばかりで、信憑性が薄いと思っていたのですが……」


紅衣の騎士団長の責を担う者として、日々欠かさずことなくBBSは覗いています。
その中に“偏欲の咎狩人”に関する情報は、確かに載っていた筈です。

しかしその内容はどれも一貫性の無いものばかり。

ルートタウンに全く顔を出さない全てが正体不明の謎の人物。
傍らには必ず黒い幽霊少女が携わり、初心者を対象に不可解なトレードを繰り返している。
又、初心者を守る為かは知りませんが、初心者を狙うPKを狩る行為を繰り返しているとも。

無論、私達も一応念の為に情報収集を行ったこともあるのですが、それがどれも的を得ないものばかり。
更に襲われたというPK達に注意を兼ねて尋ねても、いつ、どのようにして攻撃されたのかは誰も話そうとしなかったこともあります。

彼等が主張していたのは唯1つ。


“いくら攻撃しても倒せなかった”


ただそれだけだったのです。


「そんな不可思議な人物と遭遇、……いえ、実在したのですか?」

「そうだ。噂通り、いや噂にあったかは覚えてないがアイツの転移の仕方はどこかおかしかった。
 通常のゲートアウトならワープらしいエフェクトが出る筈なんだが、何故かアイツのは周囲に溶け込むような感じで消えていった。
 そしてこれは噂通りなんだが、傍らには黒い少女が確かにいた。幽霊にしちゃ妙にはっきりした輪郭だったがな……」

「……それでその人物と金のプチグソ像の関係は?」

「“PKKに関しては全くの誤解”ってのを紅衣の騎士団の連中に言っておいてくれ、だと。
 んでその変わりってことで金のプチグソ像と銀のプチグソ像を置いてった。アイツなりのトレードのつもりらしい。
 簡単に説明すれば、そんだけの話しだ」


“簡単に説明すれば”ですか。

クリムの言葉から読み取るに、おそらくここからが本題なのでしょう。
今話した内容だけでは、件の人物が実在したこと以外にそれほどの収穫があったようには思えません。

彼の表情は未だ硬いままなのですから。


「……ではクリム、本題の方を」

「はははッ! 流石は昴。
 その通り、今までの話は全て前座。俺が話したいのはこっからだ」


クリムは感心したように笑いながら再び立ち上がりました。
もしや、とは思っていたのですがやっぱり彼は5分とじっとしていられない性格のようです。

あくまでそういうキャラクターを演じているのでしょうが。


「さっき言ったアイツの言葉に嘘がないか確かめようとして、俺は奴と目を合わせてみた」

「クリムらしいとは思いますが、PCの瞳を見ても事の真偽は掴めないのでは?」

「……あれが普通のPCなら、な」


普通のPCでない可能性? 不正仕様されたものだったのでしょうか?

しかし目を見るだけでそれが分かるとは到底思えません。


「どういうことですか?」

「……いきなり話は変わるが、昴。
 ここは『The World』、ゲームの世界だよな?」

「え? それは当然です。クリムも口癖のようにいつもそう言っているではありませんか」


“これはゲームだ、遊びなんだ”

“昴は昴の遊びたい形で遊べばいい”


それはいつものクリムの言葉。
彼がリアルとゲームの境界線をはっきり示す時に使う言葉。

それを何故今更?


そんな私の疑問に合わせるかのように、クリムは静かに呟きました。


「……PCがリアルと変わらない“生きた目”をしていた」

「……それは気のせい「気のせいなんかじゃねぇッ!」ッ!?」

「アイツの目は生きていたッ! 
 瞳が光に反射していた、潤いがあった、そして…………確かな“意志”があった。
 俺の本心がそれを証明している。自分に嘘をつけない本心が、だッ!」

「そんな……まさか……」


私は信じられない思いでその言葉を聞いていました。
クリムの言葉、いえどちらかと言えばそれを告げる彼の表情に驚かされていたというべきでしょうか。

彼は…………苦虫を噛み潰したような顔をしていたのです。


私は彼に支えられてきました。

クリムはいつも私に、彼らしい何物にも囚われない飄々とした顔を向けています。
私自身、彼のそういうところに安心感を抱いておりましたし、その余裕ある姿を羨ましくも思っていました。

その彼が、初めて別の姿を見せたのです。


「俺は『The World』という仮想世界に遊びに来ている。
 この世界の住人は、たとえいくらCG技術が発達しようと所詮は作り物。あくまでゲームに過ぎない。
 現実と隔離された空間、だからこそ俺は“紅い稲妻”クリムとして自由に生きていられるんだ」

「クリム……」

「なのに…………アイツの目は生きていたッ! それだけじゃないッ!
 不思議なことにこの世界のPCは偶に人間らしい仕草を見せることがあるが、それは“不思議”で済むような程度だ。
 だがアイツの動きを注意深く観察してみたら、どこかそれとは違うところがあった。
 具体的には分からねぇ……が、アイツは俺が見る限り“生きて”いたんだ」


現実と仮想世界。

クリムにとってその境界線がいかに大事なのかを改めて思い知らされました。

現実逃避とも言えるこのゲームの世界。
皆が皆そうとは限りませんが、大抵の人々が何らかの理由で現実では味わえない体験をしようとしています。
そう言う私もその部類に入ります。そしてクリムも。

故に、そんな中に“現実”が乱入してくることは、本来あってはならないこと。
言うなれば、精神の安息の地を汚されるわけですから。


それがどれだけ些細なことであっても、クリムには許せないのでしょう。

この世界を純粋に楽しむことを誇りに思っている方ですから。


「クリム……落ち着いてください。
 PCは所詮PCに過ぎません。きっと出張続きで疲れていたのでしょう」

「……それもそうだよな。
 何せ前回はフィリピン、その前はインドネシアだったからなぁ。
 あーいかんいかんッ! 済まないが今日のところは落ちるとしようッ!」

「分かりました。それではこのアイテムは後で銀漢に渡しておきます」


クリムはそう言って出口へ向かったところで、


「あ、そうだッ! 言い忘れてたことが1つあったぜッ!」


再び振り返ってきました。


「言い忘れ、ですか?」

「これはあくまで勘みたいなものなんだがな」


今の彼は先程のような感じではなく、いつもの捕らえどころの無い姿。
そこに少しばかり興奮みたいなものが含まれているのが分かります。

今度の話題は、どうやら彼にとって楽しい類のもののようです。


「さっきの奴、もしかすると……」

「もしかすると?」


私の予測通り、彼は自らの得物を肩にのせながら、


「伝説のアイテム“key of the twilight”について知ってる奴かもしれねぇッ!」


心底わくわくした表情でそう声高に、楽しそうに私に告げていきました。


その時は話の内容そのものよりも、クリムの変化に驚いてしまい彼等のことはそれ程印象に残っておりませんでした。
無論、クリムからの用件である“PKKの誤解”も騎士団内に通達し、以後その件に関する詮索を慎むように伝えるはしましたが。

それにしても……騎士団の中に“弱きを助け、強きを挫く”とその行為を賞賛する声が少数ながら存在したことには驚かされたものです。
尤もそんな声も、私の通達により誤解だと分かっていただけた筈なので問題は無いでしょう。


しかし…………後にその判断を深く後悔することになるのを、その時の私は知る由もありませんでした。


次に彼等について聞いたのはそれから2ヵ月後。

銀漢からの報告で“黒闇の守護者”なる組織についての話が出たときのことです。

思えばその頃からでしょうか。
彼等の存在が私の中で大きくなってきたのは。


「昴様、ご報告が」

「申せ」

「ハッ! ではまず……」


その時、私はいつも通り銀漢から本日の活動内容、及び一般PCからの情報についての報告を受けていました。
昨今、プレイヤーの数が増えるのに比例して不正行為も数多く出ており、騎士団の仕事も増えてきています。

システム管理者側だけで対応しきれない部分を補う、それが私達の演じる役割なのです。


「…………とりあえず、報告は以上です」

「分かりました。では今日は「それと追加で1つ……」追加?」


珍しいこともあるものです。
“報告は簡潔に、要点のみで”という基本を忠実に守る銀漢が、態々勿体付けて話すなんて。

それ程彼が気にかけていることなのでしょうか?


「はい。一般PC・BBSからの情報で、つい先日“黒闇の守護者”なる組織が編成されたとの話が」

「“黒闇の守護者”? 確かにこの『The World』において組織を設立するのは珍しいことですが……。
 それが勿体付けて話すような内容なのですか?」

「はい……少なくとも私はそう判断しました」


私の知る限りでは、システム管理者側が編成した“碧衣の騎士団”。
後は私達一般PCによって建てられた自治組織“紅衣の騎士団”ぐらいなものです。

このゲームは、基本的に団体で動くことはあってもそれはあくまで同好会レベル。
組織というものは特定の目的を持った、規律、役割がはっきりしている団体のことを示すものです。


よってもし組織だって動こうとしても人が集まらなければ、どうにもならないのです。
そういった理由で、この『The World』には主だった組織が2つしか存在しません。
しかも碧衣の騎士団はあくまで管理者側の集団、基本的には一般PCに知られないよう活動しています。
実際、私がその存在を知ったのはつい最近のことなのですから。


そんな私の胸中を知ってか知らずか、銀漢は例の組織に関する情報を述べ始めました。


「創立者の名は“焔(ほむら)”、男性重剣士のPCです。
 構成員数は20人程度、共通していることはほぼ全員黒色のエディットキャラを使っていることぐらい。
 活動内容は、昨今増え続けているPK達からの初心者の護衛及びPKの情報集め、とBBSには記されています」

「…………そこまでなら普通の、いえ良い志を持つ方達を思うのですが?」


私達も、以前からPK達の所業には目を見張るものがあると認識しておりました。

このゲームでは同じプレイヤーを倒しても、経験値やアイテムは手に入りません。
そもそもPK行為はシステム側から明確に否定されており、それが度を過ぎると厳重注意。
ともすればアカウントそのものが停止され、ゲームをすることすら叶わなくなってしまうのです。

それでもPKは増え続けています。
憂さ晴らし、弱い者いじめなどの理由で。

そんな中、少数ではありますがそれに対抗しようと立ちあがる方達が現れたのは、喜ばしいことではないのでしょうか?


尤も銀漢はそのような考えを抱いていない様子。
問題はここから、ということなのかもしれません。


「昴様……我々紅衣の騎士団はこの『The World』の秩序と安寧を重んじる組織です。
 なのに新しい組織なんてものを作られては、我等騎士団の面子に関わります」

「……銀漢、私達に面子なんてものは存在しません。
 私達はあくまで自治組織、元々一般PCが演じているだけの「それだけではありませんッ!」……銀漢?」


クリムが先月騎士団を去って以来、騎士団の質が変わり始めています。

彼が私達の元を去ったのは、規律を第一とする騎士達が自由奔放なクリムに対して懐疑的になってきたのが原因。
組織人として、自分のせいで騎士団が空中分解するのを良しとしなかったのでしょう。
尤も、彼自身は騎士団に飽きたから、アイツが知ってるかもしれない“key of the twilight”を探してみたいから、などと言ってはおりましたが。

それ以来、銀漢が中心になって活動するようになってきています。
確かにそのおかげか、統率や秩序は強固になりましたが、それ以上に騎士団を特別視しようとする傾向が出始めてしまいました。

私達は所詮一般PC、“システム補助を担う騎士団”を演じているだけなのです。
騎士達は最近それを忘れ、妙な使命感に燃えているようで少し心配ですね。


それはともかく、銀漢が気になっている点について聞く方が先決でしょう。


「創始者の焔は何故か自身を“補佐”の地位であると称し、上に立つべき者は他に存在すると明言しています」

「上に立つべき者? その者の名は?」

「それが…………以前からBBSで話題になっていたあの“偏欲の咎狩人”です」

「“偏欲の咎狩人”……ですか?」


まさか、かの人物の話題になるとは思いにもよりませんでした。


以前、クリムから話は聞いていました。

リアルのように“生きている”瞳。
システムを根底から覆すと噂される伝説のアイテム“key of the twilight”に関係するかもしれない人物。

噂以外で私が知るのはこのことだけ。
尤も、2つともクリムの勘違いかもしれない事象ですが。
何せどちらとも通常ではあり得ない事ですので、懐疑的になるのは当然のことでしょう。

それにしても……ルートタウンに来ないと言われる彼、若しくは彼女をトップに立たせる?
まあ、未だにPKKと称される人物をアンチPK同盟とも言える“黒闇の守護者”の中心に立たせたい気持ちは分からなくもないのですが……。
不正行為を働いていると噂される人物を自分達の頂点に、というのは少々無理があるような感があります。

クリムから以外の正確な目撃情報を聞いていない私には何とも判断し難いことですね。


「はい。今のところ“偏欲の咎狩人”が彼等の根城にやってきたという情報はありません。
 よってあくまで焔が一方的にそう決め付けている段階に過ぎないものと思われます…………今のところは。
 更にこれは噂とも言えない様な狭い範囲での情報ですが……」

「勿体ぶらずにはっきり申しなさい」

「はッ! ……構成員の中の1人がこう言っていたらしいのです。
“あの方は、『The World』の癌である悪辣なPK共を葬り去るこの世界の守護者だ”と」

「何を馬鹿な……あの人物はPKKなどしていないとクリムから聞き及んでおります。
 そもそも一般PCと変わらないPKを狩る行為は、真に『The World』の安寧を守るとは言えない類のものです」

「私自身、愚かな考えだとは思っています。
 しかしもし奴等が“PKKとしての偏欲の咎狩人”をこれから崇め、その方針に則っていくとすれば……」


同様にPKKを行う可能性があるわけですか。

私は少し“偏欲の咎狩人”に同情してしまいました。
真偽の程はともかく、無実を主張する自分がいい様に利用されているのですから。
了承しているのなら別ですが、クリムからの話を省みる限りそれはあり得ないでしょう。


とりあえず、今のところは何ともいえません。
しかし、何かあった時の為に対策はしておくべきでしょう。


「分かりました。では“黒闇の守護者”の動向はなるべく注意深く探っておくように。
 相手の人数が少ない以上、その動きは容易に捉えられる筈です。
 それと…………念の為に紅衣の名の下に、BBSでPKと同様にPKKもまた不正行為に他ならない、と明言しておきなさい」

「ハッ! 了解しましたッ!」


一礼をして去っていく銀漢を見送りながら、私はこれからのことに思いを馳せます。

“黒闇の守護者”“偏欲の咎狩人”

何故だかわかりませんが、この時から自分が何か大きな流れに巻き込まれていくのでは? と考えるようになっていきました。


そしてその予感はその更に2ヵ月後の聖堂にて、的中することになるのです。


あとがき

昴の経緯&何気にクリムの裏側暴露の巻。
う〜ん……昴さん、すんごい書きにくいです。
まあ次に出てくるのはSIGN編になるから別にいいんですけど。

次回からはアルビレオ視点が続きます。
姦しい詩人さんが登場しそうな感じ。


レス返しです。

>マジィさん

ヘレシィは会話上で出てくるくらいです。
アルビレオを通してCC社側の事情とか書けたらなぁ、とか思ってます。
ついでにLiminalityと関係持たせられたらなぁ、とかも。
SIGN編はアルビレオとシェリル、更に数人が中心になるかと。
具体的には芭蕉の弟子とか末裔の2人とか……。


>白亜さん

アルビレオはかなり全体の物語に食い込んできそうです。
司とかカイトとかに直接会うかどうかは微妙ですが。
次回ほんのちょっぴりだけシェリルが出てきますので、よろしくお願いします。

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