「はぁ!せいッ!くっ!」
「…この場所でみずちに勝てると思うか…なの」
そう言いながら静水久は緋鞠が放つ斬撃をひょいひょいと避ける。
緋鞠と静水久の闘いが始まってしばらくたった。
驚いた事にここまで静水久は妖脈全開の緋鞠と互角に闘っている。それもそのはず、水の多い場所はみずちである静水久にとってはホームグランドのようなもので、武器である水を使いたい放題なのだ。
妖脈でパワーアップしている緋鞠ですら接近するのがやっとの状態だ。
「……食らえ!拡散氷針…なのー」
「ちっ!多芸な奴じゃ!」
緋鞠は静水久が放った、まるで散弾銃のような氷針の乱射をなるべく避け、避け切れない場合は安綱で弾き返す。通常時の緋鞠では避ける事もできないほどの威力とスピードだ。
「……お前こそよく今のをやり過ごした…なの、話しに聞くよりずっと強い…なの」
「ふん、どこの誰に聞いたかは知らぬがこの程度で驚かれては困る、私の本領発揮はこれからじゃ」
言い終わるか終わらないかのうちに緋鞠は一瞬で安綱を鞘に納めると一気に間合いを詰め、瞬速で抜刀する。六道学園で暴走した簡易式神を斬った技だ。
「瞬殺爆妖斬!!」
ズバっ!!!
緋鞠が放った斬撃は反応する間もないまま見事に胴体から斜めに静水久を真っ二つに斬り裂いた……。
一方その頃、美神達はピンチに陥っていた。
「ぐへへへ、GSもたいした事ないだぎゃ!」
「な、なんで見るからに下級妖怪な奴がこんなに強いわけ!?緋鞠はどこいったのよ!!」
いくら美神が攻撃してもそこらへんにあるパラソルで弾かれ、逆に飛んできたパラソルで突き刺されそうになる。
明らかに下級妖怪の攻撃力を超えているのだ。
「この三日間でおではここの陰気を吸い付くしただぎゃ、おではコンプレックス、陰の気を餌にする妖怪だぎゃ、今のおでは無敵だぎゃ!」
どうやら三日間現れなかったのは陰気をすするためらしい。
「なるほどね、それにしたって強力すぎるわ、一体なぜ……」
陰の気、この三日間を思い出してみると……。
横島がナンパしているところしか思い浮かばなかった。最初は30人、二日目は40人、今日の撃沈率はわからないが成功はしていないだろう…。普通なら10人に達する前に成功するなり諦めるなりするものだ。70人にフラれた男の陰気とは一体どれほどのものだろう?
それに加えて緋鞠を思い出してみる。
『へ〜い彼女!イイチチしてるね、どうだい俺と一緒に真夏のアバンチュールでも☆』
『何を言っておる?それよりお主、肩に水子が憑いておるぞ4体ほど…』
『うげ!?マジ!?また!?』
『素行には気をつける事じゃな』
あれは気の毒だった。
あの男の辛そうな表情は確実にコンプレックスの良い餌になっただろう。
他にも似たようなチャラ男(死語?)を緋鞠は片っ端からフッていた。
結論から言うと……。
「あいつらのせいね!!!?」
横島がフラれまくった陰気と緋鞠がフリまくった陰気、その巨大な陰気がコンプレックスをここまで強力にしたのだろう。
「グヘヘヘ、その通りだぎゃ!あの鬼斬り役の陰気には物凄くパワーを貰ったぎゃ!今頃はドザエモンになってるだぎゃな」
「鬼斬り役…なるほど横島くんを狙ってたわけね。でもあっちには緋鞠がいるしそう簡単にはいかないわよ!」
「返り討ちだぎゃ!!」
再び美神が打ち込む、コンプレックスがパラソルでガード、そのままカウンターで串刺し。の攻防がしばらく続く。
「やっちゃったのか…?」
「わからぬ…手応えはあったのじゃが」
緋鞠の必殺技、”瞬殺爆妖斬”で真っ二つになった静水久は地面に落ちるとそのまま水になってしまった。
あまりに呆気ないのでかえって不安になる。
ザバァ!!!
「わぷッ!」
不安は的中して緋鞠の立っている所から突然物凄い勢いで水が吹き上がった。
水はそのまま緋鞠を飲み込み、背後から静水久が現れる。
「……さすが野井原の緋剣なの、正直何をされたかもわからなかったの」
「出たーーッ!なんで生きてんだ!?」
「この場は全て水……事前に意識さえ移せばいくらでも復活可能…なのー」
いつでもできる訳ではない、水のないところで闘っていたらさっきの一撃で屠られていただろう。
つくづくこの場所は水妖怪に有利だ。
「……その水籠(みなご)…一度入ったら出られない…なのー」
「なんやてぇ!?」
静水久はゆっくりと横島に近付くと見た目には有り得ない力で簡単に押し倒すとのしかかってきた。
「野井原の緋剣は戦闘不能……言葉も発せない廃人となるか…いっそ死ぬか…選ばせてやる…なの」
どこまでも昏く、淀んだ眼で静水久は問い掛ける………。
その頃美神対コンプレックスの闘いは硬直状態だった。さっきと同じような攻防でどちらも決め手に欠ける。先に痺れを切らしたのはコンプレックスの方だ。
「仕方ないだぎゃ!この手は禁じられてたけどやってやるだぎゃ!!」
そう言って脇の方で必死に声援を送っていたおキヌちゃんにその図太い手を向けると妙な光線を放った。
バシュ
「キャー!」
「おキヌちゃん!?」
光線が当たったおキヌちゃんは首から下が光り輝き、それが消えると食い込みの激しいハイレグ水着に変身していた。
「いくだぎゃ!GSの動きを止めるだぎゃ!!」
「やばッ!」
「ふぇぇぇん、美神さん逃げてください〜〜!」
言われるまでもなく美神は逃げる。
おキヌちゃんを攻撃する訳にもいかず、かといって捕まれば串刺しだ。
とにかく逃げて勝機を待つしかない……。
「クククク……」
「……キョーフで頭イッちゃった…なの?」
「ちゃうわい!俺がそう簡単に諦めると思うか!そう、俺が興奮するとなぜか緋鞠が強くなる!頑張ればあの水から抜け出せる…気がする!!」
「……意味わかんない…なの」
「ええーいとにかく萌え上がれ!俺の熱いパトス!!!ってゆーかこの腹に当たる感触が!!!」
横島がそう叫んだ瞬間、妖脈が見えていたら今まで綱引きの縄くらいの太さだったのがジュースの缶くらいの太さになったのがわかっただろう。
「まだまだぁ!!」
そう言って静水久の似合いすぎているスク水姿を凝視する。
わずかに膨らみ始めている胸部、お腹に当たるお尻の感触、そして静水久の股の所に溜まった水を見た瞬間にジュースの缶ほどだった妖脈の太さが一升瓶ほどにまで膨れ上がる。
「な、なんか当たってるなのーー!?」
ズバァ!!!
静水久が謎の言葉を発すると同時に水籠が真っ二つに斬り裂かれた。
「ば、バカな!なの!」
そこから出てきたのは当然緋鞠。
だが何か様子がおかしい。目は虚ろで呼吸が荒く、纏うオーラは桃色だ。
「…若殿、さすがにやりすぎじゃ…」
そう言ってポテっと倒れ、ぴゅくぴゅく痙攣する緋鞠。どうやら刺激が強すぎたようだ……。
「……有り得ないの…私の水籠を斬り裂くなんてできるはずない…なの」
「愛のなせる技だぜ!」
他の娘に欲情しておいて愛もクソもないと思うがまぁ結果オーライだろう。
「……でもぶっ倒れてる今がチャンス…なの?」
「げっ!それは卑怯じゃねーか!?」
はたと気付いた静水久は横島の制止の声を無視してまだピクピク身体を震わせている緋鞠にとどめを刺そうと近づいていく。
「待ちなさい!!」
近づいてまさに今とどめ!というところでまたもや制止の声がかかる。
「……今度はなんなの!?」
「美神さん!?助けにきてくれたんスか!?」
「いや、追われて逃げてきたの…助けてくんない?」
ガクっ!
「あんた所長でしょーが!?」
「仕方ないじゃない!おキヌちゃん人質にされたら攻撃できないのよ!!」
「……どういう事…なの?コンプレックス」
静水久が岩影に向かって声をかける。
すると今まで誰もいなかったところからヌゥっと気色悪い妖怪、コンプレックスが姿を現した。同時にハイレグ水着のおキヌちゃんも姿を現す。
「ふぇぇん、ごめんなさい〜」
「ブッ!おキヌちゃんが”はいれぐ”!?新鮮だ!いやなにがあったんだ!?でもグッとクる!?」
おキヌちゃんを見た横島は鼻血を吹き上げる
「いや〜!見ないでください〜!」
脇でやってる夫婦漫才をよそにコンプレックスと静水久の会話は続く。
「GSを追ってきたらここまで来てしまっただぎゃ」
「そんな事は聞いてないの、狩るのはGSと鬼斬り役のみ…連れの幽霊には手を出すなと言ったはず…なの」
「うるさいだぎゃ!成り行きだぎゃ!それより野井原の緋剣は片付けただぎゃ!?おでの好きにして良い約束だぎゃ!」
「……新人妖は礼儀がなってない…なの、先に約束を破ったのはお前なの…」
なにやら悪役サイドの雲行きが怪しくなってくる。
「うるさいだぎゃ!お前も一緒におでのダッチワイフにしてやるだぎゃ!」
そう言って見た目の重そうな身体からは想像もできないほどのスピードでコンプレックスは静水久に迫る。美神と闘っていた時よりも数段早い動きだ。おそらく横島が近くにいるからだろう。
だがここは静水久にとってもホームグランド、怯む事なく応戦する。
「……そんな事ばっか考えてるからモテないの…」
『「「うっ!」」』
静水久の言葉の暴力はこの場にいる何人かの男の胸に突き刺さる……。
同時に静水久はおキヌちゃんに氷針を撃って呪縛から開放してくれた。
それからしばらく氷針と光線の攻防が続くが呪縛に使っていた妖力を必要としなくなったせいかコンプレックスのパワーはさらに増し、だんだん静水久も押され始めてきた。
「……うざいなの!いい加減滅べなの!」
そう言いながら氷針を乱射するがコンプレックスの分厚い肉に弾かれてしまう。自慢の水籠もコンプレックスの重すぎる体重では捕らえるまでいかない。
圧倒的に妖力が足りないのだ。
「ぐへへ!鬼斬り役の小僧がいる限りおでは無敵だぎゃ!!」
「なんかよくわかんないけど敵さん達仲間割れしてるみたいだわね。緋鞠はダウンしてるしこのまま相打ちになってくれると嬉しいんだけど…」
「で、でもあの女の子は私を助けてくれたんですよ!?」
そうなのだ、なぜか静水久はおキヌちゃんを助けてくれた。
一体どういうつもりなのだろう。
そうこうしているうちに静水久は岩壁に追い詰められてしまった。
「もう逃げ場はないだぎゃ!静水久、大人しくおでの慰みものになるだぎゃ!!!」
コンプレックスの図太い腕が静水久に迫る。
「ざっけんなーーーッ!」
「へぶッ!!?」
しかし横から何かが叫びながらコンプレックスの顔面を思いきり蹴り飛ばした。
「よ、横島さん!?」
そこにいたのは横島忠夫。普段の間抜け顔と違い、キリリと凛々しい表情をしている。
「…なんのつもり…なの?鬼斬り役…」
「……静水久っていったな。一つ言っとくが俺は鬼斬り役じゃねぇ、横島忠夫だ!!」
「………!」
殺気すら篭る静水久の視線と言葉を全く気にせず横島は吠える。
「……ダッチワイフ…?慰みもの…?いつからこの国の児童ポルノ法はこんなに腐っちまったんだ!!そんなんだから世の中から冤罪事件はなくならないわセレスは惑星に昇格しないわ!!!」
あっ、いつもの横島に戻ってる……。
「俺以外がそんな美味しい目に合うなんて許してたまるかぁ!!!」
「横島さん…途中まではかっこよかったのに…」
「結局本音はそこなのね…」
「だったらどうするだぎゃ?おではお前なんか簡単に殺せるだぎゃ!」
そう言われ、横島は緋鞠を見る。
意識は取り戻したが強力すぎる妖力を使ったせいか戦闘できる状態ではなそうだ。
美神もこのスーパーコンプレックスに勝てるとは思えない。おキヌちゃんはそもそも戦闘向きですらない……。
「……静水久、俺と繋がらないか?」
「ついにロリコンに走ったかこの変態!!」
「ぶはッ!!」
横島がとんでもない事を言った瞬間美神のツッコミキックが炸裂する。
ってゆーかハイヒールなのでむちゃくちゃ痛そうだ。
「ち、違いますよ!そうじゃなくて妖脈で繋がらないかって意味っス!!」
だったら始めからそう言えと思うが日本語とはむつかしいものだ。
呆気にとられて静水久はもとよりコンプレックスまでも硬直している。
「美神さん!今です!!」
「!?ナイスおキヌちゃん!!」
「しまっただぎゃ!」
コンプレックスが硬直した隙をついておキヌちゃんがコンプレックスの頭に乗っかって目隠しをする。
すかさず美神が攻撃を加えるがこれは時間稼ぎだ。美神とチームを組んで数カ月の横島にはわかる、その間に静水久を説得しろという事だろう。
まずは静水久に妖脈の効果とメリット、そして一度繋いだら切り離す方法はわからない事などを説明する。
「つー訳だけどどうする!?」
「……お前が死んでも…妖脈は切れない…なの?」
「わかんねーけど死んだらやっぱ切れるんじゃねーか?」
「……わかったの、お前と繋がってやる…なの」
「うっしゃー!んじゃいくぞ!妖脈接続!!静水久ゲットだぜ!!」
静水久の了解を得ると横島はあらかじめ親父達に聞いていた妖脈を繋ぐ呪文(?)を叫んだ。
絶対うそだと言うなかれ、これが先祖代々伝わる妖脈接続の呪文なのだ!
さすが横島家だね☆
こうして新たなる仲間(?)、スーパースク水美幼女みずち静水久が誕生した……なのー。
とぅーびーこんてぃにゅー
あとがき
こんばんわハルにゃんです。
すいません嘘つきました3話で終わると言ったのにどうやら続きそうです。
なんか横島が暴走しました……おかしいです静水久には欲情しない方向でいくつもりだったのに…。
ともあれようやく静水久と繋がりました、静水久サイドの事情は次回という事で楽しみにしてくださると嬉しいです。
レス返しです
○趙孤某<チョコボ>様
レスありがとうございます。
私の小説を読んでいただいてひまりを買ったぜっていう方が割と多いのでおても嬉しいです。
ってゆーか趙孤某<チョコボ>様の感想を読んだ時ちょうど職場にいたのですが嬉しさのあまり悶えてしまいましたよ…?
これからも頑張りますので応援してくれると嬉しいです。
○山の影様
レスありがとうございます。
<メイドさんは最新号に出てきた彼女なんでしょうか?
読んでらっしゃいますね〜彼女は完璧に私のツボにハマりました……。
的良キャラでツインテール…きっとぶっ飛んだ性格(そういうジンクス(?)がある)してるんだろうな〜と思っていましたがまさかダメっ娘だったとわ!
お名前の方は申し訳ありませんでした、修正しておきました。
ではまた次回お会いできる事を祈っています。
○スケベビッチ・オンナスキー様
レスありがとうございます。
<ある意味すごくイヤな絵面だなあ……
確かに(笑
今回緋鞠にはあまり活躍シーンはありませんでしたがその変わり静水久に頑張ってもらいました、次回はどうなる事やら?
円登場はわかってもらえたようで一安心です。ファンブックでALMAガールスは海に行ってますからね、時間軸的にはその辺です(?)
今回も実は一人ALMAキャラが出ているのですがわかったらすごいです。
それでは次回を楽しみにしていただけると嬉しいです。
○レンジ様
レスありがとうございます。
レス30件!?恐れ多いですよぅ(汗)
しかしなるべく近くなるよう努力します。
ネタの方はGSの方もありますしなにより私のひまり愛がありますのでご安心ください、いくらでも妄想できます!
では次回も楽しみにしていてくれると嬉しいです。
○February様
レスありがとうございます。
はい、にわか仕込みの同盟を結びました。
当然そんな同盟続くはずもなく崩れましたが…。
例の件は緋鞠を倒したあとはコンプレックスに引き渡すことでした。
ってゆーかコンプレックスと水死体娘のデートとか恐ろしすぎます……。
次回、静水久の大活躍を期待してくれると嬉しいです。
レス返し終了です。
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