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▽レス始

「.hack//intervention 第8話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-15 01:32)
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碧衣の騎士団。

『The World』のバグや不正仕様の処理を目的とするシステム管理者で構成されたデバッグチーム。
そこに所属するものは皆、放浪AIを削除できる特殊スキルを所持している。
よって人数自体はそう多くは無いものの、シェリル達にとっては最大級の脅威と言える。


アルビレオ。

黒髪に褐色の肌。その名の通り、白鳥座の連星の如き青と黄色の瞳。
普段は一般PCに紛れているが、その正体は碧衣の騎士団の長である。
騎士長として行動する時、その手には必ずデバッグアイテム、神槍ヴォーダンを携えている。


話は変わるが2日前、ミミルから“フィアナの末裔”が話題になっていると聞いた。


フィアナの末裔。

絶対攻略不可能と言われた『ザワン・シン討伐イベント』。
その栄誉を勝ち取ったのは2人のPC……オルカ、バルムンク。
彼等の姿を目撃した著名なWeb詩人であるW・B・イェーツが、その様子を詩にしてBBSに載せた。
それが切欠となり、彼等はそれぞれ“蒼海のオルカ”“蒼天のバルムンク”と称されることになる。
又、その2人のパーティのことを“フィアナの末裔”と呼ぶようにも。


一見、2つの話には全く関わりが無いように思えるだろう。
だが俺にとってはかなり重要なポイントと言える……特に今の状況においては。


アルビレオも物語の登場人物の1人だ。
但し、『The World』を巡る大きな物語の中に埋もれた小さな物語ではあるが。

彼はある時、不思議なNPCと出会う。
その名はリコリス。シェリルと同じように望まれない子供として生まれた放浪AIだ。
アルビレオは彼女との出会い、そして悲しき別れを通して『The World』に潜む内なる存在、即ちモルガナを知ることになる。
自分が持っている神槍ヴォーダンがモルガナによって与えられたものであること。
そして……リコリスとの出会いもモルガナが画策したものであることも。


とにかく今大事なのは、彼とリコリスに纏わる物語の終わりと『ザワン・シン討伐イベント』終了が同時期というその一点。


つまり…………目の前にいる彼は現時点で既にモルガナの存在を知る唯一の人間であると言っても過言ではないのだ。


.hack//intervention 『第8話 早すぎる夢の終わり』


「やはり俺のことは周知のようだな、ヘレシィ……」


いつもは閑散としていて人気の感じられないような古びた聖堂。
だがそんな表現も今は当てはまりそうも無い。

シェリルを含む俺達5人の会談の途中にいきなり割り込んできたアルビレオ。
彼は昴達には目もくれずに俺とシェリルを交互に見つめながら、神槍ヴォーダンを構えつつゆっくりと近づいてくる。

予想外の事態に一瞬怯んでしまったが、すぐにシェリルを脇に抱えて出来る限り後ろに飛ぶ。
俺はともかく、シェリルがあの槍を受けたら一発でアウトだ。

だから瞬時に頭を働かせて対応する。


「シェリルッ! とりあえず先にホームへ戻ってろッ!」


何よりも優先すべきはシェリルの安全。
元々この場にいるべきでない彼女がここに留まる理由は皆無。

幸いシェリルは既に1人で転移が可能なまでに成長している。
たとえアルビレオによって結界が張られていようと、シェリルなら余裕で切り抜けられる筈だ。


……なのにコイツときたら、


「嫌……」


拒否しやがった。

しかもいつの間にか俺の脇からすり抜けて頭上に浮いている始末。


俺は多少怖がられるのを覚悟で声高に叫ぶ。


「言うことを聞けッ! アルビレオの持ってる槍はお前を一発で葬っちま「知ってる……」何ッ!?」

「あれ…………母さんの……アイツの匂いがする……」

「知ってるなら――――」


“知ってるなら何故逃げないッ!?”


そう口にしようとしたが出来なかった。

頭上のシェリルに顔を向けた時、俺はPCなのに鳥肌が立ったような錯覚を覚えたのだ。


そこにいるのはニコニコ笑ったり、俺のからかいに頬を膨らましたり……そんな明るく可愛らしい彼女ではなかった。


「アイツ……消した……“アタシ”が…………消された……」

「シェリル? おいシェリルッ!」

「あれには……“アタシ”が…………沢山の“アタシ”が……」


目を見開き、髪を逆立てながら俺の声に答えることなくアルビレオの方を睨み付けるシェリル。
その声には暖かさの微塵も感じられず、ただただ冷たく重い感じでしかない。

その様子は、俺達が始めて出会った時“アウラ”“失敗作”と言う言葉に向けていたものにそっくりで。
言うなれば、まるで憎しみを体現したかのような様相へと変わってしまっていたのだ。


(くそッ! どうするッ!?)


俺は迫り来る脅威とシェリルの突然の変貌に焦ってしまう。

何故あの槍がデバッグアイテムだと知っていたのか?
何故先程から消されてもいない“アタシ”が消されたと呟き続けるのか。

疑問は尽きることなく増え続ける間にもアルビレオは一歩、また一歩と近づいてくる。
リコリスのことを思い浮かべているのか、その足運びに多少の戸惑いが感じられる今がチャンスなのに……。


(……本来ならシェリルだけ送って、その後にアルビレオとモルガナについて話してみたかったんだが…………それも無理か)


上手くいけば紅衣、碧衣両方の騎士団の力を使ってモルガナへの情報を掴めたかもしれない。

アルビレオは現時点でモルガナの存在に対して確信に近いものを持っている数少ない人物。
俺が知る限りのモルガナに関する情報を与えれば協力してくれたかもしれないし、そうでなくとも碧衣の動きは抑えられた筈なのだ。


しかし今となっては最早どうにもなりそうにない。

根拠があるわけじゃないが、今のシェリルの様子はあまりにも危険すぎる。
例えるなら……そう、嵐の前の静けさとも言うべき状態に思えた。


(こうなったら何かが起こる前に、シェリルを無理矢理連れてホームに戻るしかないッ!)


そう決意した俺が、アルビレオからシェリルへと視線を移す。

するとそこには……


「なッ!? シェリル…………お前、それは…………」


両手を前に翳して、冷たい視線をアルビレオに向けるシェリルの姿。

そして翳される両手の前には青、赤、黄色、その他様々な光を発する一種の紋章のような円状の印。

神々しいとも禍々しいとも言い難い光の渦がその印を中心に渦巻いており、次第にその範囲も広がっていく。


それが何なのかは分からない。

だが俺は直感した…………あの光は爆発前の嵐であると。


「ちぃぃッ! おいッ! アルビレオ&その他、今すぐここからゲートアウトしろッ!!」


俺は異変に気づき足を止めていたアルビレオ、急変する事態に呆然としていた昴達にそう告げる。

先程、無理矢理シェリルを連れてホームへ戻ると言ったが、もう無理だ。
もう既に彼女の前の光の渦は、彼女自身の体を覆い隠しそうなくらいに広がっている。

最早、あれを止めることはままならない。だから逃げる以外の方法は無いのだ。


「アルビレオッ! 結界は張ってるのかッ!?」

「……いや、一般PCがいることは確認していたから大丈夫だッ!」


事態の深刻さに既に気づいているらしいアルビレオ。
シェリルを削除なんて当初の目的が達成できる筈も無いことを感じ取ったのだろう。
俺の言葉にも当然のように答えてくれた。


(よしッ! 結界が張られていたら危なかったな……)


アルビレオがちゃんと調べてくれていて良かった。
もし結界が張られてゲートアウト出来ない、なんてことになってたら……なんて想像もしたくない。


「ヘレシィッ! 君はどうす――クッ!?」


アルビレオが俺に再度話しかけたその瞬間、光の渦の一端が矢となって彼に襲い掛かった。

何とか避けてはくれたが、彼が先程まで居た場所は…………グラフィックが剥がれ、真っ黒な上にひたすら数字やら文字やらが流れている。
そう、その姿はバグに侵された俺の顔半分に映る映像と瓜二つだったのだ。

俺はそれを見て恐怖し、思わず彼に怒鳴っていた。


「俺のことはいいからさっさと消えろッ! 下手すりゃPCの破損だけじゃ済まないッ!!」


俺の叫び声に合わせるかのようにして、即座に離脱を図るアルビレオと昴達。


薄れゆく影、ワープアウトのエフェクト。


その様子に安堵した瞬間、


「…………消えて」


場にそぐわないシェリルの静かな呟きと共に、


激しくうなる光の渦は弾けた。


「なん……なんだよ…………こりゃあ……」


俺がその光景を見て発することの出来た言葉はそれだけであった。


シェリルの発した光の渦は、無数の矢となって前方に弾けていく。
矢は降りしきる雨の如く乱れ飛び、聖堂の至る所に刺さる。
そしてそれを受けた場所は…………全てグラフィックは剥がれ、黒く染められていった。

俺はシェリルの後ろにいたから良かった。
だがもし俺がアルビレオの位置にいて、逃げられなかったら……。


こんなことを言っている今でも聖堂は、その姿を黒く染め上げていく。


「……止めろ」


俺は無意識のうちに呟いていた。

正直に言おう。俺は…………恐怖している。

彼女の力に。

彼女の冷たい憎しみに。


しかし同時に悲しかった。


「……シェリル…………もう、止めてくれ……」


神槍ヴォーダンを持ったアルビレオは既にいない。
彼女の憎むべき相手の姿はどこにも無いというのに、光の矢は留まることなく世界を侵食していく。

俺は見たくなかった。

何だかんだ言って好きな『The World』が壊されていくのを。

そしてそれをしているシェリルの生気の感じられない冷たい機械のような姿も。


「シェリル……」


だから俺は止めるべく彼女に近づいていく。

方法なんて知らない。
今の彼女に抗う術なんて持ち合わせちゃいない。

それでも今の彼女も壊れゆく『The World』もどうにかして止めたい。


彼女との距離は縮まり、彼女に触れようと手を伸ばす。

その時、


「ぐぅッ! ……が、あぁ……」


今まで前方のみに向かっていた光の矢の1本が俺の右腕に刺さり、肌が焼けるような痛みが一瞬走った。
ふとそこを見ると、馴染みのローブが消え肌は黒く変色していた。そして音の無いノイズも。


(“痛み”……だとッ!?)


俺は毎日のようにこのPCと同化してはいるが、以前話したように痛覚、嗅覚は全く機能していなかった。
しかし今、瞬きの如きほんの一瞬ではあったものの、確かに“痛み”が体を走った。

どうして感じる筈の無い痛みを感じたのか?

気にはなるが今はどうでもいいことだ。
考察はシェリルを止めることができてからでいい。


……尤もいつまでこのPCが持つのかは疑問だがな。


「くそ……また……」


1本目がこっちに向いたことで俺を敵とみなしたんだろうか?
今度は10本近くがまとめてこっちに向かってきた。

俺はそれを右腕で全て受け止め……られずに何本かは左足に直撃する。
走る激痛に消えるグラフィック。それでも俺は足を止めることなく歩を進めた。


“こんなシェリルは見たくない”


ただただその想いだけで俺は手を伸ばし、遂に彼女に触れることに成功する。


そのまま彼女を止めるべく抱きしめようと引き寄せ――――


「シェリ……ル<ドスンッ!>があぁぁぁッ!!」


――――られなかった。


両手を彼女の後ろ肩に乗せた瞬間、降り注ぐ矢の1本が俺の胸を貫いたのだ。

その激痛で俺は思わず手を離しかける。
が、そこは最後の根性で何とか切り抜けることが出来た。


そしてその瞬間を逃すことなく俺は一気に彼女を引き寄せ、


「止め、るんだ…………シェリル」

「…………トモ……アキ?」


(ああ、良かった……)


そのままの勢いで座り込みながら彼女を抱き寄せた。

迫り来る光の矢を無視して彼女の耳元に囁くと同時に、彼女の虚ろながら意思のある声が聞こえてくる。

それに呼応して光の矢も俺の寸前で止まり、あっさりと霧散してしまった。


彼女の顔を覗き込んでみると、そこにあるのはさっきまでの冷たい表情じゃない。
目をパチクリさせながら覗き込む俺の顔を凝視する表情は、紛うことなくいつもの明るいシェリルのものだった。


良かった。本当に良かった。


全体的に言えば、今の状況は最悪と言っていい。
この聖堂は最早建物たりえない姿に変わってしまった。
更にアルビレオ達は事の真相を巡って俺を追いかけるようになるだろう。
当初の計画はほぼ無に帰したと言っても過言ではない。


だが、後のことは後で考えればいい。

今は俺の想いが彼女に届いたことを素直に喜ぼう。


俺はそう結論付けて、シェリルを改めて抱きしめようとしたんだが……、


「……あれ?」


結局俺はそう言葉にすることしか出来なかった。
それはある意味当然のことだと思う…………抱きしめようとした俺の腕がなかったんだから。


「な……んだ?」


気が付けば左足も今まさに消えようとしている。

俺が現実世界に戻る時も両手足から少しずつ消えていくものなんだけど、今回のは何処か違った。
いつもは砂が零れ落ちるようにして消えるのに、目の前の左足はデータらしき虹色の螺旋となって消えていくのだ。


<ザ、ザ――ザ――――>


しかも何でか知らんが頭の中でノイズが聞こえ出すし。
もうね、わけがわからんのですよ。


呆然と自分の体を眺める俺。

それに合わせる様にして、シェリルも俺の体を見てしまい、


「あ……ああ……う……そ……」


俺の体のあちこちをさすりながらそんな震える声を上げる。

彼女は自分のやってしまったことに後悔しているんだろう。
自分のせいで俺がこんな姿になってしまったのだ、と。


だが俺は割かし後悔はしていない。


<ザ――――ザ――ザザ――――――>


ああもう、うるさいな。

とにかく俺は自分のやった行いを後悔してないんだ。


俺は今までこの世界において、自己保身の為にのみ動いていた。
無論それだけでなく、一応シェリルを安全な場所、つまりネットスラムまで送る予定だった。
そうすることで、彼女の保護者としての責務を果たせるつもりでいたのだ。

しかし今になって考えれば、彼女に対して失礼だった様に思える。

シェリルは出会って以来、ずっと俺を慕い、ついてきてくれた。
俺自身、彼女は自分にとってこの世界の拠り所であった。自分を隠すことなく話せる唯一の相手だった。
なのに俺は…………彼女の思いに報いることなく、ネットスラムに置き去りにしようとした。

俺はかけがえのない存在だと思っていた彼女を、実際には蔑ろにしてしまっていたのだ。

だけど、今は違う。


<ザザ――ザ――――ザ――――ザ――――>


やば、なんか頭がぼうっとしてきた。


今まで俺は自分本位で行動していた。

物語の登場人物達を利用し、自分の為にモルガナまで辿り着くことを第一としていた。
シェリルのことを大切だと思いながらも、どこかで何れ別れる相手だと彼女に対して壁を作っていた部分もあった。
そしていつも…………そんな自分に嫌気みたいなものを感じていたのかもしれない。

それが“シェリルを止めたい”それだけの想いで動いた。
たとえやり方が愚かであろうと、俺はようやく彼女を本当の意味でかけがえの無い存在にすることが出来たんだ。
上っ面の言葉だけじゃない“大切”を自分以外に注げたことに、喜びすら感じている。

だから全く後悔していない。
寧ろ、こんなことが出来た自分を誇ってさえいるのだ。
所詮自己満足だろうと、満足できるんだからそれでいいじゃないか。


「あ……消え…………嫌……嫌ぁ……」


さっきまで俺の胸元にいた筈のシェリルに、いつの間にか逆に抱きかかえられる。

何故か上手く動かなくなっている頭を、必死に動かして彼女の顔を見ようとする俺。
だがそうしなくても彼女がどんな表情なのか、俺には何となく分かっていた。

きっとひたすら泣いているんだろうさ。


「シェリル……泣くな…………」


<ザ――――ザザ、ザ――――――ザ――――>


段々ノイズがひどくなってきた。

あまりに酷すぎて、目の前のシェリルが何を言っているのか分からないくらい。


<ザ――ザ――――――ザ――――>


頭も既に碌に働いていない。
自分が今どうなっているのか、確認したくても出来ない。

もう視界すらまともに機能していないのだ。


<ザ――――ザ――――ザ――――――>


見えるのはテレビとかでよくあるノイズばかり。

そのせいで耳も聞こえなくなってしまった。

だから俺が最期に無意識に伝えようとした、


「帰ろう……ホームへ……」


その言葉が彼女に届いたかは分からない。


それを確認することもままならない内に、俺の意識がノイズの中に消えてしまったから。


……………………


………………


…………


目が覚めると、そこは現実世界の自分の部屋だった。

時間はまだ真夜中の1時過ぎ。
ここ最近、夕方に寝て朝遅めに起きる生活を繰り返していた俺にとって久しぶりの夜。

明かりが無い部屋を見たのも何ヶ月ぶりだろうか?


「ふぅ……」


俺はとりあえず体を起こす。

寝巻きは汗でグショグショ、額にも粒が出来るほどの汗が浮かんでいた。
いつも寝覚めは妙にいい筈なんだけど……今日は本当に珍しい。


「シェリル……」


知らず知らずのうちに、彼女の名前を呟く。

右腕が消え、左腕も左足も消えて……それからどうなったんだ?


「くそ……気持ち悪い」


汗で濡れた下着も、寝巻きも。
いや、それ以上にあの時のノイズがまだ頭に残っている感じがする。
あの無機質な音は大嫌いだ。あれのせいで記憶があいまいになってる気もする。

俺は服を脱ぎながら風呂場へと向かう。

流石にこんな状態で二度寝はしたくなかった。


「さっさとシェリルを安心させないとな……」


今でも彼女は泣いているのだろう……己を責めながら。
だから出来る限り早くもう一度寝て、あの世界『The World』に戻って慰めてやらないといけない。

俺は別に彼女を責めるつもりなんて毛頭ない。
たとえ両腕を無くし、左足を無くそうと逆に感謝さえしているくらいなんだ。

だって上っ面だけの言葉ではない、真の意味で俺は彼女を“大切”にすることが出来たんだから。

それを早く伝えてあげたい。そしていつもの明るい笑顔を見せて欲しい。


手早くシャワーで汗を洗い流す。
どっちかと言うとシャワーよりゆっくり入れる風呂の方が好きなんだが、汗をかいた程度。
頭に微かに残るあの嫌なノイズの感じを消すのにも丁度いい。


「にしても…………あの光は何だったんだ?」


憎しみを露にしたシェリルの放った光の矢。

始めはデータドレインかと思った。でも……何かが違う。
データドレインは相手のデータを書き換えることのできる力。
でもあの時の光は書き換えると言うより、寧ろ聖堂を侵食していた感がある。

あの後聖堂が最終的にどうなったのかは分からない。
もしかすると俺のPCの腕みたいに消えてしまったのかもしれない。


ま、ここで考えていても始まることじゃないな。


タオルで体を拭き、新しい寝巻きに着替える。
そしてシーツを換えたり何やらかんやらしてたら、時間はもうすぐ2時を回ろうとしていた。


「やば……早く寝よ」


睡眠時間が異様に増えるようになって二度寝するのは初めて。
だから次に起きるのがいつ頃なのか見当も付かないのだ。


「さぁて、んじゃ誰に言うわけでもないけど……お休み〜」


俺はそう呟きながら布団に包まり、ゆっくりと目を閉じた。

ただ何故かいつもみたいな眠欲が襲ってこなかったので、結局寝たのはそれから30分後のことだったが。


「……………………あれ?」


次に目を覚ました時の第一声はそんな間の抜けたものだった。

だがこの時の俺は今までになく混乱していて、それどころではない。


「何で…………自分の部屋?」


そう……予定ならホームかあの聖堂にいる筈の俺。
なのに目を開けば、そこは『The World』ではなく現実世界のままだったのだ。

更に時間は朝の6時。
ここ最近、大抵の場合起きるのが遅い俺にしては余りにも早すぎた。


「は……はは……全くモルガナの奴、きっと俺を呼び忘れたんだな〜」


俺は心の中に妙な不安感を抱えながらも、そう口にして誤魔化すことにした。

偶々あの世界に呼ばれなかったんだと信じて。

今日また眠ればボロボロのPCに同化してシェリルと顔を合わせられるんだと自分に思い込ませて。


しかし結局その日も、その次の日も、1週間後も、2週間後も、1ヵ月後も、2ヵ月後も。


俺が再びあの世界に戻ることは無かった。


あとがき

シェリル暴走&主人公途中退場の巻。
主人公が復帰するのはSIGN編の途中くらいかと。
それまでは今まで出てきたオリキャラやら既存の登場人物達を中心に展開していく予定。

しばらく主人公無しで話が進むこのSS……いいんだろうか?
とりあえずは今まで出てきた組織やら出てきたばっかりのアルビレオの話になるかな?


レス返しです。


>マジィさん

作者は最初【.hack//G.U.】でSSを書こうと思ってました。
vol.1しかやっていない作者でも話が分かるような本編再構成物を。
三蒼騎士とその影にいる存在がボスな話を。
でもやっぱりゲームを最後までクリアしてからにする予定です。気になる謎とかもありますし。

アルビレオは何気にこの物語の第二の主人公だったりします。


>ACさん

主人公は何とシェリルに消されちゃいました。
まあ復活させるのも彼女になるわけですが……。

これからしばらくはアルビレオの時代です。
システム管理者として物語に介入して貰うことになります。


>somosomoさん

次に出てくる時から『The World』における主人公の名前はヘレシィになります。
なのでそちらで呼んでくれると嬉しいです。

次回からもよろしくお願いします。

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