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▽レス始

「.hack//intervention 第7話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-14 01:37)
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ミミルと出会った次の日。

善は急げ、ということで早速病院にいってみた。
すると意外なことに、多少は似ている症状が存在したらしい。

病名は“過眠症”。

専門的なことは省くが、この症状の特徴が主に4つあるとのこと。
その内の2つが、俺に起きていることに似ていたのだ。

具体的には、

・突然耐え難い眠気に襲われること(但し、本来の症状は日中のみなのに対して、俺は日中もだが夜に集中している)。

・上記の発作により睡眠に陥った際、現実感の強い幻覚を見ることがある(これはバッチリそのまま。しかも毎日だ)。

といった感じ。

医者と相談して、とりあえず様子を見ることになった。
念の為に、眠気を抑える薬を少量貰ったのでしばらく試してみることにしよう。


…………ついでに頭痛薬も薬局で買っておいた。これからのことを考えて。


.hack//intervention 『第7話 予定なんて飾りなんですよ』


そして遂に訪れる昴との邂逅の時。

……なぁ〜んて言ってもさっきからずっと待ちぼうけ喰らわされてます。
別にはっきりとした時間指定もしてなかったし、しょうがないとは思うんだけどね。

ちなみに待ち合わせている場所は、かなり初心者用のダンジョンにあるアイテム神像。
確か昴は騎士団の仕事で忙しくて碌にレベル上げをしていないらしいから、ここぐらいでないと不味いのだ。

それにアイテム神像部屋なら出入り口は1つだから、相手が何人来ても対応しやすい。


んで神像の傍にある宝箱にドッカリ座り込んでいる俺は、というと、


「シェリル……ル、ル…………ルーマニア」

「ア……あ……アンモニア」

「アンモニア……あ、あ……アルジェリア」

「あッ!? あ、あ、あ〜…………「5、4……」あああ、アッシリアッ!!」

「アッシリア? 何だそれ? 国名か?」

「ん〜ん、メソポタミアの北部地域だって」

「……シェリル、お前メソポタミアって何か知ってんのか?」

「えへへ〜…………知らない」


分かるとは思うが、俺はシェリルと一緒にしりとりをしている。

実は昨日、シェリルが自分の中から言語辞書とかいうものを見つけたのだ。
切欠はあの日――――俺がこれからの方針を伝えた時以来、彼女なりに頑張って俺をこの世界に引きとめようとしてくれているらしい。
その為にはまず自分を知る必要がある、と言いながら日々自分の機能を調べているとのこと。

そんな都合のいいものがシェリルの中にあるとはとても思えない。
異世界の住人である俺を呼び寄せるなんて、究極AIのアウラですらできるかどうかかなり疑問なくらいだからな。
でも、純粋に俺の為に努力してくれている彼女の気持ちを無下にはしたくないので、敢えて黙認している。
それにこれから出てくるものが、きっと彼女自身の為になるだろうから。


まあそんな感じで、その機能を試すべくこうやってしりとりをしているわけだ。

…………全戦全敗なのは悔しいけど我慢、我慢。


……………………

………………

…………


あれから更に2時間経過。

相変わらずしりとりでボロ負けしながら“こりゃあ明日に持ち越しかな〜”なんて考え始めた頃。


「……ようやく来たみたいだな」


カツンカツン、と向こうからやけに響く足音が耳に入ってきた。
しかし、そのテンポが一定していないことからおそらく複数人いる筈だ。

それでも音から察するに人数は多くても5人程度、紅衣の連中にしては存外に警戒が緩いように思われる。


とりあえずその件はおいといて、俺は彼女等を迎えるべくフードを被り直し、宝箱の上に足を組んで座り込む。
…………ちなみに足を組むことに深い意味は無い。ちょっとしたかっこつけ。

そして目の前のドアが仰々しい音を立てながら開かれ……


「やあ、遅かったな…………って何故ミミル?」


……現れたのは白い重斧使いではなく、何時ぞやの女性重剣士。

身の丈ほどもある大剣を肩に担いだままこちらに手を振るミミル。
一瞬、“言伝に失敗したのか?”と危惧したものの杞憂に過ぎなかったらしく、きちんと後ろにはお目当ての人物の姿もあった。


「よッ! 2日ぶりッ!
 昴ならちゃんと来てるから安心しなって」

「……いやそれは勿論だが、何でミミルが?
 俺確か“昴に1人で来るように”って伝えるように言ったはずなんだけど?」


こっちは予定外のことが発生して少々機嫌を悪くしたってのに、彼女の方は至って変化なし。

……なんで?


「勿論そのまま伝えたわよ? 紅衣の連中からの嫌〜な視線をビシビシ浴びながらね。
 で、昴も1人でここに来るつもりだったんだけどさぁ〜」

「だったけど?」

「ベアがいい機会だからついていこうって言い出しちゃって。
 ……ほらベア、後はそっちで説明してよね」


そしてミミルの呼び声に合わせるかのように、昴の後ろから屈強な印象のある男性剣士が姿を現した。
その後ろにはもう誰もいないようだからおそらくミミル、昴、ベアの3人だけのようだが…………だからなんでさ?

当初呼んだ筈の昴は静かに佇んだままなのに、ミミルは当然の如く構えているし。


まあ、今からベアが弁解してくれるようだから、静かに聞くとしよう。


「始めまして、ベアだ。名前くらいはミミルから聞いてるだろう?」

「…………まあ、ね」

「おいおい、そんなに拗ねないでくれよ。
 ヘレシィ、だったよな? 俺達は別にアンタと昴の会談を邪魔するつもりは無い。
 ただ折角だから噂の人物に会ってみたいという好奇心と…………俺自身、確かめたいことがあったからな。
 重ねて言っておくが、昴に非は無い。あくまで俺達、いや俺の独断に過ぎん」


そういえば、前回ミミルと会った時にベアの話も出ていたな。
あの時“機会があれば喜んで”って答えちゃったのが不味かったのか?

だがよく考えてみれば、俺の計画で既にベアと会うことは決まっていた。
後日に回すつもりだったのが、予定より早まったと考えればそう悪くもない、か。


それに目の前の男は、クリムとはまた違った意味で大人だ。
多少の情報を漏らしたところで、安易な行動に取ることは無いだろう。


…………よし、決定。


「分かった。念のために聞いておくが、ここにいる3人以外には誰も来ないよな?」

「その件に関してはご安心を」


ミミル達の話が済んだからか、ようやく顔を出す昴。

……それにしても。

背格好は白いドレスを着たどこかのご令嬢と言えそうなんだが。
その手にミミルの大剣より大きな重斧ってのはかなり違和感があるな。


「……紅衣の騎士長、昴さんでいいのかな?」

「はい、昴と申しますが、呼び捨てで結構です。以後お見知りおきを。
 唯、今日は騎士団の昴ではなく一般PCとしての昴ということにしておいて下さい。
 騎士団の者達にはレベル上げの名目で伝えてありますので……」


成る程、だから連中が1人も見当たらないわけだ。

どうやら連中には、俺に会いに行くことがバレていないらしい。
出来れば騎士団の警戒度も確かめてみたかったが、それは騎士長本人から聞くことにしよう。
ま、所詮ついで程度の確認だったから大して気にする必要もあるまい。


「そうか、それじゃ俺も自己紹介といきますか。
 一応ここにいる皆は知っているだろうが、俺の名前はヘレシィ。
 活動内容については…………止めた、本題に入っていくうちに分かるさ。
 ……よろしくな」


昴の言葉に返すようにして、俺はフードを取りながら自己紹介。

クリムも言っていたけど、これから込み入った話をする者同士、やっぱり顔見せはしておかないとな。
顔にはいつもの『半月の鬼面』をつけているから、バグについても大丈夫。


「此方こそよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

「おぅッ!」


俺の挨拶に昴、ベア、ミミルがそれぞれの形で返事をする。

これで前挨拶も終わり。そろそろ予定通り始めるとしますか。


俺は座っていた宝箱から立ち上がり、早速指示を出すことにする。


「んじゃ、まずは場所の変更をする」

「え? ここじゃ駄目なの?」

「こちらの事情でな、可能な限り他の誰にも聞かせたくは無い。
 ここはあくまで普通のダンジョン、いつ誰がやってくるとも限らないしな。
 ……というわけで、皆には一旦ここから出て俺の指定したエリアに来てもらう」

「なあ、ちょっといいか?」


後はこのままエリアのワードを言い渡すだけでいいと思ったんだが、そうもいかないらしい。

話の途中にも関わらず、ベアが戸惑い気味に口を挟んできた。


「何?」

「ヘレシィが言うように、誰もやってこないようなエリアなんてあるのか?
 強いて言えば高レベルのエリアぐらいだが、生憎俺以外の2人はレベルが低い。
 アンタがどれ程高レベルだろうと、俺達はそこに辿り着く前に全滅するのがおち、だ」

「それは全く問題じゃない。
 俺達が今から向かうところは敵が1体も出ない場所だからな」

「敵が1体も、ですか? そのような所はルートタウンぐらいしか思いつきませんが……」


ふっふっふ、それがあるんですよ奥さん。じゃなかった、お嬢さん。
敵が全くいない、且つルートタウンでもない場所が。

何だか皆があそこについた時の驚きようが目に浮かぶようでちょっとにやけてしまった。
もしかしたら“ニシシ……”ってな感じの笑みまでこぼしていたかも。


俺は手元にメニューを出してワード入力を開始する。

その一方で傍にいるシェリルに目で合図を交わしながら、


「とにかく、3人とも行けば分かるさ。
 場所は……『Δ隠されし 禁断の 聖域』だ」


伝えるべきことを一方的に伝え、


「……先に行く」


俺とシェリルはその場から離脱した。


…………せっかくだからちょっとかっこつけてみました。昴の口ぽかん、いいねぇ〜。


舞台は変わってここは『Δ隠されし 禁断の 聖域』にある唯一の建物、古びた聖堂。

俺にとって、ここへ来るのは2回目になる。
前回はこの世界に来て1週間位経った頃、ひたすら他のPCがいないか探していた時。

あの時も、そして今も、そこにある筈の8本の鎖に捕らえられた少女、アウラ像は…………ない。


現実世界で調べたところ、この像は『fragment』時代には存在していない。
つまり後から建てられたわけなんだが、それがいつなのかは明確にされていなかった。

システム管理者側がアウラについて知っているわけも無いから、きっとあの像はモルガナが建てたんだろう。
もう1つの可能性としてアウラ自身が生み出したとも考えられるが、未だ目覚めていない彼女にそんな所業は難しい。

そこでふと頭をちょっとした疑問がよぎった――――では何の為に? と。


モルガナがアウラ像を建てる意味。
態々自らの分身である八相に合わせたかのような八本の鎖。
そしてこの古びた聖堂に一際目立つ生気の感じられないアウラの像。

昴達を待つ間、様々な観点から考えていくうちに1つの可能性を導き出すことが出来た。
だけどもしそうなら、何とも悲しい理由であるような気がする。

俺が見つけた可能性。


それは…………自分はアウラを目覚めさせない、だから私はいつまでも生き続けるのだという自己顕示。


以前説明を省いたが、モルガナは元々究極AIアウラの揺り籠『fragment』の管理者としてハロルドに創られた存在。
本来揺り籠の管理・運営を任されるだけの自律型プログラムに過ぎなかった彼女。
その優秀さ故か、次第に母性というプログラムにあるまじき人間性が生まれてしまう。

それだけなら良かったのかもしれない。しかし、彼女は同時にある事に気づいてしまったのだ。

生みの親であるハロルドに与えられた彼女の存在意義、それはアウラの覚醒の為の母胎。
であればその存在意義が消失、つまりアウラが完全に覚醒した後の自分は不必要な存在と見なされ消滅してしまうでは? と。

そして彼女はアウラの覚醒を防ごうと大小様々な策を巡らしながらも全て失敗。
最期には主人公カイトの手によって消滅……というのが物語での彼女の生き様となっている。


アウラ像についての話に戻ろう。

はっきり言ってしまえば、俺は今までモルガナなんてとっとと消滅してしまえば一件落着だと安易に考えていた。
いや実際に、元凶(この場合は『The World』における災厄の、という意味)さえ倒されればこの世界は平穏を取り戻すだろう。
俺の件は置いておくとして。

けど一瞬だけ彼女の気持ちについて考えてしまった時、俺の中に少量ながら迷いが生じ始めていた。

見方を変えれば、モルガナは単に死にたくないから必死に足掻いているだけなのだ。
自分の居場所を奪われるどころか、自らまでも消滅してしまうくらいの問題。
人間性の生まれてしまった彼女にとって“死”というものは受け入れ難い事実だったのかもしれない。

その気持ちはよく分かると思う。
何せ俺も同じように自己保身の為に動いているのだから。


俺と同じような行動理念の下に動くモルガナ。
そう考えてしまうと、一概に“敵”とは思えなくなってしまうから人間って不思議だよな。

…………というか単に俺が優柔不断なだけなのかも。
良心の呵責といいこの件といい、早く割り切ってしまわなきゃ面倒なことになるのはわかっているのに。

ままならないよなぁ。


「……トモアキ?」


突然の俺の本名を呟く声に我に帰る。
いつの間にか俯いていたらしい顔を上げると、すぐそこにシェリルの心配そうな顔があった。


「ん? どうした?」

「何かトモアキ、辛そうな顔してた……」


…………正直危なかった。

下手にモルガナへの同情なんて抱いてしまって、妙な考えに辿り着きそうになっていた。

あくまで彼女は俺を呼び出した元凶、そしてこの世界の災厄に過ぎない。
人間にとって倒されるべき敵。ただそれだけの存在。


そう無理矢理割り切ろうとすることで先程までの思考を強制終了し、


「…………ちょっと下らない事を考えてただけだ。気にするな」


シェリルの頭を撫でながら昴達が来るのを静かに待つことにした。


それから半刻程経った頃。


「まさかこんなところがあったとはな……」

「確かに珍しいわよね。イベント用か何かかしら?」

「それにしては使いづらそうな場所ですね……」


待っていた3人が恐る恐る聖堂の中に入ってきた。
皆が皆、このエリアの特異さに驚いている様子。まあ確かに珍しいしな。

思えばここ以外でモンスターのいないエリアってあったか?


……念のために調べてみるべきかもしれない。あるとしたらそこはモルガナ関連の可能性がある。


「んじゃそろそろお話を始めるんでそこら辺に座って」

「……なら俺達は外で待っておくことに「いや、ベア達も同席してもらうよ」……どういうことだ?」

「別々に話すのは面倒くさいから」


尤も、それだけじゃないが。

3人はそれぞれ俺と向かい合うようにして近くの席に座る。
見た目野蛮そうなPCのベアよりミミルの方が座り方がガサツなのはどうなんだろうか?
それ以前に、コントローラーでどうやって座る姿勢をかえているのやら。

…………これもまた、『The World』の謎の1つだったりして。


まず始めに話の切り口を開いたのは昴だった。


「其方のご用件を聞く前に、此方から質問をしてもよろしいでしょうか?」

「何? ある程度なら答えてあげられるよ?」


あくまで“ある程度”だけどな。

俺の半分おどけた感じの答えとは逆に、昴はさっきからずっと真剣な様子。


「率直に申し上げます。
 …………貴方は一体何者なんです?」

「はは、随分と抽象的で答えにくい質問だね。
 そんなものが正確に分かってるような人間なんて「茶化さないで下さいッ!」おおぅッ!?」


ど、どうしたんだ?

まさか身を乗り出してまで怒鳴られるとは思いにも寄らなかった。
穏やかな印象のある筈の昴が、何故か俺に対して懐疑的というか敵意すら感じられるような視線を向けてくる。

お兄さん、ちょっと落ち込みそうですぅ〜…………ってふざけてる場合じゃないな。


「貴方の噂は様々な所で耳にしています。
“誰もルートタウンで見たことが無い”“NPCらしき黒い幽霊少女”“100近い数のPKK”“初心者との不可解なトレード”。
 PKKやトレードに関してはまだ裏が取れていないので何とも言えませんが、その点を除いても貴方の特異性は際立っているのです。 
 ルートタウンを介することなくエリア間を行き来したり、システム管理者ですら覚えのないNPCを連れていたり。
 これらは実際に私の目で確認することができました。
 ……貴方はどのような方法でシステムを完全に無視したPCを使用しているのですか?」

「その点についてはおじさんも昴と同意見だな。
 俺はこの『The World』が始まって以来毎日のようにここに来ているが、ヘレシィのような奴は他に見たことが無い。
 アンタのPCが不正仕様だとするなら、並の技術の持ち主じゃない。
 そうでもない限り『The World』程のシステムの壁を掻い潜るなんて不可能な筈だ。
 なのにやっていることは普通の仕様でも十分に出来るようなことばかり…………明らかに無駄が多すぎると思わないか?」


昴に続いてベアまでもが厳しい視線を向けてくる。

……成る程、これは予想以上に警戒されていたようだ。
いや、警戒というより判断が出来ずにやきもきしているといった類のものか?

昴は今までに例を見ない不正仕様にただただ戸惑っている。
一方ベアはその一歩先の段階まで思考を進めており、俺の真の目的を探ろうとしている、ってな感じかな。
あくまで私見だから何とも言えないが、そう的外れなものでもないだろう。


彼等の質問に在りのままを答えるつもりは無い。

けど、このままでは俺の願いも聞いてくれないかもしれない。


「俺のPCや後ろの女の子、シェリルについて聞かれても全てを答えるつもりはない。
 出来れば裏で嗅ぎ回るのも止めて欲しい…………って言ってもどうせ無駄だろうからそっちは好きにしていい。
 だがそっちの質問に答えられない代わりにこれだけは言っておく」

「……何でしょうか?」

「“ルートタウンで誰も見たことが無い”ってのは俺がルートタウンに行きたくても行けないから。
 幽霊少女はシェリルのことだから置いといて、“100近い数のPKK”は全くのデマ。
 昴はクリムの奴から聞いてないのか?」


“クリム”という言葉にピクリと僅かながら反応を示す昴。
…………いやだからさ、どうやってそんな機微を忠実に表現してんだよ。

今度機会があったら真剣に調べてみようか?


それはともかく、本当にクリムから何も聞いていないんだろうか?

紅衣の騎士団の創始者が1人にして、個人的に昴の支えともなっているクリム。
アイツと出会った時に、“昴にでも口利きはしといてやる”と確かに言っていた筈。
クリムのような誠実な男が約束を破るとは考えにくいのだ。

そして聞いてくれていれば、昴なら事の真実をどうにかして調べてくれると思ってたんだが。


「……クリムから貴方のことは一応聞き及んでいます。尤も名前は風貌に関しては教えてもらえませんでしたが。
 聞けたのは“偏欲の咎狩人”なる人物に出会ったことと、その人物のPKK疑惑が誤解らしいということのみ。
 結局詳しく聞くことも出来ないまま、彼はさる事情もあって騎士団を去っていきました。
 当時まだ紅衣の騎士団はシステム管理者側との繋がりが無く、風聞だけでは判断が出来ないと言うことで保留になっていたのです」


クリムが騎士団を抜けることになるのは、現実世界で調べていたからその事実だけは知ってはいた。
だが、資料には明確な時期が記されておらず、まさか騎士団が結成されて僅か半年で抜けていたとはね。

……まあアイツのことだから、自由気ままにそこらじゅうを駆け回っているんだろうけど。


それより話を進める方が先決だ。


「分かった。とにかくPKKはあくまで誤解に過ぎない。
 俺は1人だってPCを殺していないし、それどころか傷を付けたことすらないんだ。
 で、“初心者との不可解なトレード”ってのはそれが俺にとって必要だからしたこと」

「じゃあ質問なんだけどさ、何でBBSの情報とかと交換するわけ?
 そんなの、適当にそこら辺の奴等に聞けば普通に答えてくれると思うんだけど……」


今度は今まで黙って俺達の様子を眺めていたミミルが質問してきた。

まあ当然の質問だろうな。


「いや……実は目立ちたくないから賄賂代わりにアイテムと交換してたんだ。
 俺自身、自分がどれほど異質な存在かは自覚していたから口止めをしたつもりだったんだが……この有様だ。
 BBSの情報を聞く理由は秘密、答えるつもりは無い」


馬鹿正直に“自分で見られないから”なんて言うつもりは毛頭ない。
そんなことを言って相手の推測の範囲を狭めることは正に愚の骨頂。


さて、これだけ教えれば十分だろう。

昴達も多少の蟠りを残してはいるようだが、出会った頃に比べれば大分薄れてきている感じだ。
後は興味があるならせいぜい自分達で調べてもらうとしよう。尤も推測はたてられても確信は得られないだろうけどな。


俺は改めて3人を見回し手を叩きながら、


「はいはいッ! 質問タイムは終わりッ!」


本題に入る準備に入る。

頭の中で伝えるべき用件を整理する。
これから話す内容はおそらく、いやほぼ間違いなく物語を変えてしまうだろう。

それでも俺が躊躇うことは最早ない。
侵食されゆく現実を守る為には作られた物語なんて邪魔以外の何物でもない。
俺がモルガナに辿り着くことで、既存の物語はそれこそ資料としてしか使えなくなる。


俺には荷が重過ぎるような気もするが、それでもやらなければならない。


「こっちも色々と立て込んでいてな、そろそろ此方の用件を聞いて貰いたい。
 あんまり遅くまでゲームしてたらリアルにまで影響しちゃうだろ?」

「げぇッ! それは言わないお約束って奴でしょ……」

「夜更かしは老若男女何れであっても良くないもんさ」


まあ、逆に俺みたいに異常に多い睡眠も問題あるんだろうけど……。


「さて、それじゃあまずは――――」


念の為にもう一度頭の中で確認しながら話す相手を選ぶ。

俺はこの時、用件の方に気持ちが完全に向いていた。
当然だろう? 本格的なモルガナへの計画の始まりだったんだから。


だが後にそのことを激しく後悔することになる。


何故なら……


“その話、俺も興味があるな”


聞こえる筈の無い扉の開く音と、あり得ない筈の若い男の声。

このエリアが特別なのをいいことに俺は不覚にも気づかなかったのだ。


…………まさか俺達以外のPCがここに来ていたなんて。


「お前は……」


黒髪に褐色の肌。

その身には騎士の如き、十字の紋をあしらった銀色のプレートメイル。

その手には両刃の斧が付いた槍。

ここからは距離があって見えないが、きっとその両の瞳は左右で色が違う筈だ。


俺はその男を知っていた…………あくまで資料上だが。

その男の名は……


「……アルビレオ」


神槍ヴォーダンを携えし碧衣の騎士団の長、アルビレオ。

ある意味最も危険であり、最も会いたくなかった人物がゆっくりとこちらに向かってきていた。


あとがき

SIGNメンバーとの会合&ある意味修羅場な予感の巻。
AI buster編なのに出てくるのがSIGNメンバーより遅いアルビレオ。
実は彼が本格的に活躍するのはSIGN編からだったり。

いきなりですが、次回でAI buster編終了します。
その後はSIGN編への繋ぎ話が中心になるかな?


レス返しです。


>ACさん

主人公は不運属性満載です。
黒闇の守護者は次第にその全貌が明らかになるかと……主人公とは関係ないところで。
武器に関しては安心して下さい。どうせ装備できない仕様になってますから(笑)。


>森羅万象さん

主人公が武器を“装備”するのはかなり後の話です。
それまでは、それ以外の方法で……ってな感じになる予定。


>ジントさん

物語は一応動き始めてます……主人公の思惑を無視して。
司に杖がいくかどうかは微妙ですが、ベアとかBTにならありえそうですな。

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