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▽レス始

「.hack//intervention 第6話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-13 02:02)
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モルガナまで辿り着く道のり。
俺はそれを“あみだくじ”みたいなものだと思っている。

始まりからずっと幾重にも広がる選択肢、更にその先にあるものが必ずしも正解だとは限らない。
『The World』の誰に接触し何を話すかを慎重に選ぶ必要があるのだ。無論、慎重だけでなく、時には大胆になる必要も。


俺とシェリルがこれからについて話し合ってから5日。
俺達はひたすら様々なダンジョンに潜りこんでいた。

会わなくてもいい時に初心者に会える割りに、今回みたいに会いたい時には中々出会えない。
俺のバグPC特有のスキル『スカウター(命名、俺)』で周りを調査してみても、助けが必要な感じの瀕死PCが皆無。
それに加えて、こういう日に限って人数自体が少ない。

『妖精のオーブ』は敵が居る場所やマップは表示してくれるが、他PCの居場所は教えてくれない。
そして一度敵に遭遇してしまうと、巻物でも使わない限り倒すのにかなりの時間を要することになる。何せダメージ1の拳だからな。
結局、俺はなるべく1人で敵に出会わないように細心の注意を払いつつ、その中でピンチそうな初心者を探さなくてはならない。

…………段々ストレスがたまってきた気がする。


が、しばらくしてようやくレベルの低い初心者らしき女性重剣士、加えて目の前には大型モンスターというナイスシチュエーションに出会うことが出来た。
女性重剣士の方は気のせいか戦い慣れている感じはするものの、如何せんレベルが低すぎる。
そもそも、レベルが低いくせにソロプレイをしている時点で無理があると思うんだが…………若さゆえの過ちか? なんつって。


「お困りのようだね〜お嬢さん。回復は俺に任せてよ」

「えッ!? 誰かわかんないけど頼むねッ!!」

「まあまあ、お構いなく〜」


そんなわけで俺も戦闘に参入。

といっても、積極的に参加したりはしない。
下手すると間違って俺が倒してしまうからだ。経験値泥棒をするつもりもない。
だから回復に専念。彼女の体力が減るたびに回復アイテムを使う。……呪紋使いが回復にアイテムを使うって何か悲しい。

敵の体力が減る量は少ないが、彼女が上手く避けているのでこっちも大助かり。無駄なアイテムを使わずに済む。
それにしてもあの動きは本当にレベルが低いとは思えない程のいい動きだ。中級レベルでも彼女ほどのPC操作が出来ている者は少ないかもしれない。

……なんて呑気に考えつつも戦いは続く。

そして激しい攻防の末、


「これで終わりっだぁぁぁぁぁッ!!」

「オオォォオォォン…………」


女性重剣士の大振り横一文字を最後にモンスターは消滅した。


……………………

………………

…………


モンスターが消えた今、彼女が居なくなる前に早急に取引を済ませておくべきだ。

そう思った俺は、その場に座り込んで一休みしている取引相手の元へ向かう。


「はいは〜い、お疲れさんッ!」

「いや〜ホント助かったわ。もちょっとレベルの差を考えるべきだったかも……」

「んじゃ悪いけど、こっちも無償奉仕ってわけにも行かないんで。
 俺の噂は聞いているだろうから「あーーーッ!! アンタあの時のッ!?」…………へ?」


何じゃらほい。

今まで顔を伏せていた彼女が、ふとこちらを見上げた途端にそんな素っ頓狂な声を上げる。
俺を指差しながら心底驚いたような顔で…………俺はどこの化け物ですか?


更にこの失礼な女性重剣士、


「ひっさしぶりーッ! まさかPC変えてまで会うなんてね〜」

「…………俺、君にあった覚えは無いんだけど?」

「そりゃあ、姿形が全く別物じゃ分かる筈無いでしょ? 当然じゃん。
 アタシはミミル、前会った時はちみっこい剣士だったんだけど覚えてない?」

「……ミミ……ル?」


さっきまでどうして気づかなかったんだろう?

確かにどこかで見たことあるような、程度には考えていたがまさか目の前の女性重剣士が物語の登場人物の1人だったとは。
しかも以前助けた女性呪紋使いと一緒にいた少女剣士がミミルの前PCだったなんて誰が想像できる?


(何? 神様って奴は俺が予定を組む度にそれをぶち壊すのが好きなのか?)


.hack//intervention 『第6話 続・誇大広告なんて大嫌い』


予定ってのは狂う為にあるのだろうか? 

誰かにそう問い詰めたくなってくる。小1時間。
今回の差異は別に大した事じゃないんだろうけどさ、何だか先行きが不安になっちまうんですよ。


しかもですね……


「アンタさ、情報とアイテム交換してくれるんだよね?」

「……そうだけど?」

「じゃあ、回復アイテム一式と巻物ある? 
 このPCで始めたばっかりだから全然アイテムが足りなくって……勿論、質問には答えるから、ね?」


“ね”じゃねーよ。

何? この初心者にあるまじき図々しさは?
それに今回は情報が欲しいわけじゃないんだけど…………止めた、愚痴ってる時間が勿体無い。

折角だから情報も貰っておくか。


「んじゃ、適当に俺関連の情報頂戴。
 BBSやら何やらで俺のこと、結構有名になってる筈だから知ってるでしょ?」


どうせまた俺に倒されたPKの数が増えているくらいだろう。

この時俺はそんな軽い気持ちで構えていたんだが、


「もう有名も有名ッ! ……つっても最近話題の“フィアナの末裔”程じゃないけどね。 
“偏欲の咎狩人”だっけ? 本名知らないけど、そういえば名前は?
 せっかくだから教えてよ。アタシもさっき自己紹介したんだし」

「……ヘレシィ」

「へッ!? ……あ、そう“ヘレシィ”、ね」


教えてくれと言ったくせに、実際に俺が名を明かすと何故か驚くミミル。


「素直に教えてやったのに何で驚く?」

「あ〜その、正体不明で名高いアンタがまさかいきなり名前を言うとは思わなくって……」

「……ああ、それはもう隠す必要がなくなったから」


これから俺はかなり積極的に動く予定だ。
時には誰かと共同戦線を張って、BBSには載らないような情報交換などをする必要も出てきたのだ。

そんな中、顔も名前も分からないような相手を信用する人間は少ないだろう。
人のいいクリムと出会った時だって、顔は最低条件だったんだから。
現に今も、そしてこれからもあの時の『半月の鬼面』は常時装備しておくことにしている。


そもそも、この名前はあくまで偽名。
このPCの本名ではないし、まして俺の本名ですらない。つまりただの記号。
明かしたところでどうということはない。


「へぇ……アンタ、それじゃこれから大変なことになるかもね」

「大変なこと? たかが名前を明かしたくらいで別段問題は無い筈だけど……」

「…………ヘレシィ、アンタ本当にBBS見てないの?
 あれ見たらアタシなら絶対に自分の素性なんて明かしたくなくなるけどなぁ〜」

「あれ?」


何だろう……激しく嫌な予感がする。

モルガナとは全く別の、いやある意味それ以上の恐怖が訪れてきているような。
聞いちゃいけないような気がするのに、でも聞かないとこれから大変なことになってしまいそうな。


後のことを考えれば、聞くべきではなかったのかもしれない。

でも俺は、自らの好奇心と内から湧き出る焦燥感に勝つことは出来なかった。


「あれって……何?」

「“黒闇の守護者”。
 何かアンタのことを物凄く美化した奴等が集まって出来た、言ってしまえば…………ヘレシィのファンクラブ?
 あいつ等の1人曰く、“あの方は数々の悪辣なPK共を狩っているこの『The World』の守護者”だとさ。
 紅衣の奴等のような不甲斐無い輩とは一線を画す初心者にとっての守り神、とか言ってた気もする。
 妙な偽善者精神に囚われることなく、トレードという形を取っているのも好評らしいわよ…………って聞いてる?」

「……………………」


いやいやいやいやいやいやいやいや。

俺は唯の行商人、自分で得られない情報との交換っていう正当な取引のつもりだったんですけど。
ちなみに口止めは諦めた。今更そうしても無理だと分かってたから。
それ以前に俺、まだ1人もPKKしてませんよ? 寧ろ標的は初心者だったりするんですが。

ありえないっしょ? 幾らなんでも。


……俺は確信したね。神様って奴は絶対に俺のことが大嫌いなんだ。


「お〜い……」

「……………………」


本来なら俺が使っていい言葉じゃないのかもしれないけど、今回ばかりはあえて使わせて貰おう。

俺は肩を震わせながらゆっくりと息を吸い込み……


「何ですとーーーーーーッ!!」


そう声高に叫ぶことで今の気持ちを表すことにした。


“それアタシの……”とか聞こえたような気がしたが気のせいだろう、うん。


どうしてだろう……所詮PCに過ぎない筈なのに涙が止まらない。

ミミルの衝撃的発言を聞いた俺はその場に膝と両手をついて密かに泣き崩れていた。
フードで顔を隠してるし、何故かミミルは一歩引いたところにいるような気もするので特に問題は無いだろう。

わかっているのかそうでないのか、黙って俺の肩に手を置き慰めようとしてくれるシェリル。
…………俺の真の味方はやっぱりこの子だけなのかもしれない。


絶望したッ! 俺も気持ちも知らずに誇大解釈する人類に絶望したッ!


今なら暗黒面にだって片足どころか下半身ごと突っ込めるよ。

某種の某変態仮面にだってなれ…………それは嫌だな。


と、とにかく事態は俺の予想を遥かに超えるところまで来てしまっているらしい。
こうなったらとにかくミミルから出来る限り情報を聞き出して、なんとか対策立てないと……。

無論、本来の用件も。


俺はPCの癖に流れていた涙を拭き、スクッという音が立ちそうなほど瞬時に立ち上がる。

そして先程まで一歩離れた場所にいたミミルの元へ向かう。
否、詰め寄るという表現が正しいか。


「おいミミルッ!」

「な、ななな何よッ!?」

「アイテムなら幾らでもやるッ! だから知ってる全ての情報を教えろッ!」

「ちょ、ちょっと分かったからッ! とにかく落ち着いてってばッ!!」

「……………………ハッ! す、済まん」


自分でも無意識のうちに彼女の肩をつかんでしまっていたようだ。
危ない危ない、これじゃあ傍から見れば女の子を襲う変態そのものじゃないか。

……あまりもの不条理に自分を見失っていた。
評判がどうこうはどうでもいいが、人として失格になるのはご勘弁。


俺は彼女から手を離し、深呼吸をしながら息を落ち着かせる。


…………

………………

……………………よし、もう大丈夫だ。


「いや本当に悪かった。あまりのことに自分を見失ってしまって……」

「……アンタ、本当に何も知らないのね。
 ま、アタシだって知らないうちに自分のファンクラブなんて出来てたらいい気しないわよ。
 でも、これが“黒闇の守護者”のトップだなんて知ったらあの連中……どんな顔するんだろ?」

「なあ……その“黒闇の守護者”についてどれくらい知ってる?」


まずはその訳の分からない団体について知る必要がある……っていうかトップって何さ。

そう思った俺の言葉を聞くやいなや、ミミルは“ちょっと待って”と呟いたきりしばらく反応を示さなくなってしまった。

……おそらく席を外しているのだろう。
俺には全く経験のないことだからあくまで推測だけど。


そして10分くらい経った頃、


「ごめんごめん、知り合いにメールで確かめてたら手間取っちゃって……」

「知り合い? まさか例の組織とやらの?」

「ああいや、違う違う。
 最近知り合った“ベア”っていうPCなんだけどね。
 アタシのことを初心者と勘違いしてレクチャーしようとしたのが切欠で知り合った、結構情報通なおじさん」

「ベア? …………ああ」


“ベア”……彼もまた登場人物の1人。

ミミルもベアも“司”を巡る物語に出てくる。
が、既に既存の物語なんてものに構うつもりのない俺にとっては半ば気にするようなことでもない。

俺は物語が始まる前にモルガナに会わないと病院送りが確定するんだから。

全てはそれからだ。


「ん? ヘレシィ、ベアのこと知ってるの?」

「え? ああいや、誰かが言っていたような気がしただけ」

「……ふーん」


俺のあいまいな返事に納得したのかしていないのか。

とりあえずミミルは然程気にしていない様子なので、話を続けることにする。


「で、その組織についての情報は?」

「え〜っと……ベアのメール、そのまま読むよ?
“設立されたのは今から約2ヶ月前。
 トップの座は空席のまま、代わりに主な指示は補佐の地位についているPCが引き受けている。
 構成員は20人程度で小規模だが、『The World』正式稼動時の者がそのほとんどを占めており上級者揃い。
 服装は特に決められていないが、全員黒を基調とした服装。主な活動内容は、初心者〜中級者の護衛及びPKの調査。
 人数のせいか活動自体は活発とは言い難いが、護衛の成功率の高さから一般PCからの受けが良くそれによる情報ネットワークもかなり広い”
 一方、PK達からの印象は最悪。ある意味、紅衣の連中よりずっと敵視されてしまっているとのこと”以上…………だ、大丈夫?」

「あはハハははHAはHA……ダイジョオブだよ?」


んなわけあるかいッ!!

妙な組織を組もうが組まなかろうが、それは別にいい。
だけど、それに俺が関与、しかも勝手にトップに立たされるとなると話は変わってくる。

話しを聞く限り、現段階においては過激な活動はしていないらしい。
しかし同時に、それがいつ過激化して面倒を起こさないとも限らないのだ。

更に大変なのは、彼等がPK達に対抗する以上、同様にPK達からも目の仇にされてしまうこと。
両者のみが互いに戦うならまだマシと言えなくも無いが、それに俺が巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
やってもいないPKKのせいでPK達に追い掛け回されるのは絶対に嫌だ。下手をするとこれからの予定に支障をきたす。


全てが上手く収まる術なんてそう簡単に思いつく筈も無い。
だからとりあえずは当初の目的を済ませることにしよう。

まずは荒んでいく心を静めるべく、コホンと咳を1つ。


「…………よし、大丈夫。
 ミミル、情報はもういいや。色々とありがとう」

「気にしなくていいわよ…………ヘレシィ、何か面倒なことになってるみたいだし。
 それとベアからの追伸、“機会があれば会ってみたい”だってさ」


そう伝えるミミルの表情が心なしか同情を帯びているような気もするが…………気のせいだよな?
同情というより寧ろ“可哀想な人”って感じな目をしているような…………ま、まさかな。

…………忘れよう、うん。


「“機会があればこちらも喜んで”って伝えといてくれ」

「うん…………でさぁ〜、せっかくだから聞いていい?」

「何?」


今度はどこかからかう感じの口調と表情を見せる。
……PCの割りに、何とも感情が分かりやすい奴だな。

そんなミミルは俺の後ろに回りこむようにして、


「さっきから、じゃなくて前会った時からずっと気になってたんだけど…………そこの女の子、誰?」


思わず俺の背中に隠れるシェリルを眺めながらそう質問してきた。

いつか誰かに聞かれるだろうと思っていたから、答えは既に決まっている。


「ああこの子? 秘密」

「秘密? なぁ〜んか怪しいわね〜。
 あ、もしかしてアンタ…………さらって「んなわけあるかいッ!!」じょ、冗談だって」 

「全く……とにかく、この子に関しては追求するな」

「でも、結構有名だよ? “黒い幽霊少女”って」


う〜ん、まあ出歩く時にいつも一緒だから目撃されるのは当然なわけで。
かといって危険だからという理由だけでホームに閉じ込め続けるのは、最初の約束に反するし何より俺が寂しいわけで。

今のところは俺自体が正体不明とみなされているから、その付属程度にしか思われてないだろうし大丈夫だとは思う。
…………一部の、具体的には不正仕様の排除を目的としている碧衣の騎士団を除けば。

どうせヘルバと連絡が取れさえすれば、ネットスラムの場所も分かる。
システムを超越した存在であるシェリルなら、出会った瞬間にそこへ転移するように心がけるだけでいいだろう。


だからミミルにだって教えるつもりは無い。

放浪AIの存在を知っているのかどうか、それすらも定かじゃない彼女に話しても何の特にもならない。
寧ろ外に情報が流れて俺達がより危険に晒されてしまうかもしれないのだ。


「悪いけど秘密は秘密。知りたきゃ自分で調べな」

「ちぇッ! つまんないの〜」


渋るミミル。

そんな彼女に対して俺は、


「自分の目と耳と足で謎を探求する…………それも一種の『The World』の楽しみ方、だろ?」


ある意味お決まりの形とも言える答え方で、追求を逃れることにした。


「そろそろ本題に入りたい」

「本題? 情報が欲しいだけなんじゃなかったの?
 ……ヘレシィって意外とがめついのねぇ〜」


目の前で俺が出したアイテム漁ってる奴が何を言うか。

確かに俺はアイテムに糸目はつけないと伝えた。
“黒闇の守護者”に関する情報ばかりか、間接的にではあるが情報通らしいベアとの接点も得られた。

当然俺は奮発するつもりだったさ。


だけどな……


「じゃあ、回復アイテムだけならまだしも、装備できない武器まで漁るミミルはどうなんだ?」

「いや〜せっかくだから売ったりトレードしたりするのに丁度いいかなって」

「……何とも性格の宜しいこった」

「……それ、褒め言葉ってことにしといてよ、ね?」


だから“ね”じゃねーよ。


それにしても、こうして本人と直接話すことで益々思い知らされる。
…………知識と実態の差の大きさを。

現実世界で俺はミミルという人物がこの『The World』でどう行動し、何を話したのかを第三者視点で見ることは出来た。
しかしこうやって一対一で話すと、物語の人物ではなく1人の人間としてミミルを見ることが出来るのだ。

そして同時に思い知らされる。

この世界の全てが生きており、パターンで組めるような単純な奴等は存在しない。
なればこそ、どんなに知識があっても油断は禁物なんだ、と。


…………現にこの世界に来てから、知識なんて毛程も役立たないような出来事にばかり遭遇してるしな。


おっと、そろそろ用件を伝えて退散しないと。
こんなところでのんびりしているところに例の“黒闇の守護者”とやらに鉢合わせたりしたらたまったもんじゃない。


「そこにあるのなら好きなだけやるから、こっちの用件を聞いて欲しい」

「ん〜何? ……お、これ確か…………」

「……聞いているのやらいないのやら。
 用件は簡単、ある人物を俺が指定したところへ呼び出して欲しい」


俺の言葉にピタリと動きを止めるミミル。
どうやら一応はきちんと聞いていたらしい。


「あたし、一応初心者だからあんまり人脈ないよ?」

「それは大丈夫だと思う。結構有名な筈だから」

「有名人?」


そう、彼女はかなり有名な筈だ。

そして彼女であれば、俺の話も偏見無く聞いてくれるだろう。
尤も、彼女の取り巻き連中をどうにかしなければならないのも事実だが……。


「その人の名前は…………“昴”。
 紅衣の騎士団の長だから結構有名だし、ルートタウンでも見かけられる筈だ」

「まあ確かに、紅衣の連中、特に騎士長の女の子はいつもマク・アヌにいるけど。
 でもな〜アタシ、あの連中あまり好きじゃないんだよね〜」

「好き嫌いの問題じゃない。これはあくまで取引なんだから。
 ミミルがやることは簡単だ。昴に直接口で伝えるんだ。
 2日後の夜に、俺が指定したエリアのダンジョンに1人で来るようにってな。呼び出し人は“ヘレシィ”でいいや」

「あ〜その、言いにくいんだけどさ。
 あの子はともかく、周りの取り巻き連中がそれ許すかな〜?」

「大丈夫だ、ミミルはそれを伝えるだけでいい。後は俺がどうにかするから」


その件に関しては何の問題も無い。
いや寧ろ、紅衣の連中がどれくらい俺のことを警戒しているのかを知るいい機会だ。

それに昴はおそらくクリムから俺のこと、特に勘違いのPKKについてを聞いているだろうから何とかしてくれるかもしれない。


俺の用件を聞き終えたミミルは、粗方アイテムを選び終わったらしい。


「オッケーッ! んじゃそれ、今日中に言えばいいんだよね?」


予想外の収入が余程嬉しいのか、満面の笑顔で了承の意を示してくれた。


「出来るだけ今日中に頼む。遅くとも明日までには」

「大丈夫ッ! こんだけ沢山アイテム貰ったからには約束は守ってみせるってッ!」


…………確かにかなり持ってかれた気がする。
そろそろ在庫もやばくなってるんだけどなぁ〜。

ま、彼女ならきっと約束はきちんと果たしてくれるだろうから良しとするか。


取引を終えた俺達はそれぞれの目的の為に解散することになった。
彼女とはまた近いうちに会うような気もするが、それより俺は考えることが新たに出来てしまったのだ。


“黒闇の守護者”……物語に存在しない筈のそれは、俺という異端者がもたらしたイレギュラーに違いない。不本意だが。
これから彼等がどのような形で物語に介入してくることになるのか注意深く監視する必要もあるし、動向次第では俺自身が手を加えることになるだろう。


…………上手くいかな過ぎる自分の計画に段々ありえない筈の頭痛がしてきた俺は、今日のところはもはや何もする気が起きなかった。


あとがき

本格的に動き出した主人公&新たなイレギュラーの登場の巻。
でも彼等が主人公と会うのはずっと先の話だったり。
そういえばこのSS、全然戦闘らしい戦闘をしてないような……。

筆の進みだけは妙に早い今日この頃。
この話もたった3時間程度で出来上がってたりします。


レス返しです。


>somosomoさん

主人公は呪われてます。
というか憑かれてます……色んな意味で。
今のところはサクサク書けちゃうので更新だけは無駄に早くなってます。

なのでこれからも見守ってくれると幸いです。

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