「……………治ってる」
朝、起きるとシンクは自分の体を見て、アリエッタとの戦いによってつけられた傷――と言っても自分の術で付けた傷だが――が完治しているので眉を顰めた。
「誰かが治癒魔法をかけたのか…………まさか、アリエッタ……な訳ないか」
自分で考えを否定して、シンクは部屋の隅っこを見る。そこには、膝を抱えてかなり落ち込んでいる部屋の主、アリエッタの姿があった。
「何、落ち込んでんの?」
「うぅ……情けないです」
「あ、一応、記憶はあるんだ。やっぱ、耐性あるんだね」
どうやらエヴァンジェリンに操られているときの記憶をハッキリと覚えているようで、アリエッタはその事で落ち込んでいた。
「魔物使いが魔物に操られるなんて……笑い話にもなりゃしない」
「うえぇ~ん!!!!!」
「で? 僕の怪我、誰が治してくれたの?」
「ぐすん……知らないです。そもそもアリエッタ、治癒術なんて使えない、です……ぐしゅ」
「そりゃそうだ」
学園長が気を利かせて治してくれたのか、とも考えたが、結局、明確な答えの出ないシンク。
「まぁイイや。それより着替えたいんだけど、出てってくんない?」
「ココ……アリエッタの部屋なのに……」
グスン、と涙を拭きながらアリエッタは部屋から出て行った。シンクはベッドから降りると、Tシャツを脱ぎ、服を着替える。
ふと時計を見ると、日付が4月17日になっていた。どうやら丸一日寝てしまっていたようだ。
「アリエッタ……ずっと落ち込んでたのか」
黒いタンクトップの上に、青い半袖のシャツを着て、黒のジーンズを穿き、手袋をする。そして何度も拳を握ったり、開いたりして体力の回復を確認すると、部屋の扉を開ける。
「アリエッタ、入って良い……」
「馬鹿ーーー!!」
出るといきなり鉄拳が飛んで来た。派手に吹っ飛ぶシンク。
「な……」
「ちょっとシンク君! アンタ、アリちゃんに何したの!?」
「………は?」
なぜか部屋の外には明日菜が仁王立ちしており、なぜか怒っていた。
「アリちゃんの泣き声がするから何かと思って来てみれば……『シンクが着替えてる』って言ったから……ア、アンタ、アリちゃんに何したの!?」
「何もしてないよ!!」
顔を赤くして叫ぶ明日菜に、思わずシンクも叫び返す。
「アスナ、勘違いです」
「え? そ、そうなの?」
「ったく……何想像したんだか……」
コキコキ、と首を鳴らし、シンクは部屋から出て行く。
「シンク、ドコ行くの……?」
「…………ちょっとね」
片手を挙げてどこかへ行くシンクに、アリエッタは首を傾げた。
「シンク……少し変わった?」
「へ? そう? いつも通り生意気だと思うけど……」
「ちょっと……優しいです」
シンクの背中を見つめるアリエッタの言葉に、明日菜は「そうかな~」と眉を寄せた。
「きゃあああああ!! 何で男の人がココにいるの~!?」
「変質者よ、きっと!!!」
「追い出せ~!!」
「誰だ、僕をココに運んで来たのーーーーー!!!!!!」
シンクを知らない他のクラスや学年の女子が、彼を見て悲鳴を上げ、ダッシュで逃げて行った。
「ふむ……考えは決まったかの?」
学園長室に訪れたシンクは、学園長と対面していた。
「…………ネギのサポート、やらせて貰うよ」
「ほ……案外、早く決断したんじゃの。なぜか理由を聞いても良いかの?」
「ふん。ただの気まぐれさ」
「ふぉっふぉっふぉ。気まぐれときたか。では、そういうことにしておこう。そういえば、昨日は一日中、アリエッタ君の部屋で寝ておったそうじゃが、何かあったのかね?」
「(このジジィ……)」
まるで知ってるけど聞いてみます、みたいな態度にシンクの目つきが鋭くなる。
「ま、答えたくないならしょーがない。じゃが、決して手を出してはイカンぞ。交際は清く正しく、じゃ」
「何で僕がアリエッタなんかに恋愛感情抱かなきゃいけないのさ?」
生み出されて3年で恋愛感情など持てるわけもなく、アリエッタ本人に関しては、彼のオリジナルに未だ想いを寄せている。
シンクの目からすれば、馬鹿馬鹿しいだけだが、学園長は何故か微笑ましそうに笑った。
「ふぉっふぉ。若いのぉ、シンク君」
「放っといてよ」
「じゃが、ネギ君のサポート、というような仕事は正規のものではないからの。そこで表向きはエヴァンジェリンと同じ警備員、というコトにしておこう。無論、そちらの仕事も軽くしてくれたら助かる」
「ま、暇ならね」
「さて……では君の住居だが、丁度良い所がある」
そう言って楽しそうな顔を浮かべる学園長に、シンクは明らかに嫌そうな顔をした。
「……………」
「寝るときは1階を使え。私と茶々丸は2階で寝る」
「……………」
「後、ココで暮らすのなら掃除や炊事などもちゃんとやれよ」
「……………」
「そして一番、重要なのはこの家で一番偉いのは私だ。よって私の命令には絶対服従。分かったな?」
シンクは黙って少女の後に付いて行った。彼の心の中では理不尽さと、学園長への殺意で一杯だった。
皆さんもうお分かりだろう。シンクに割り当てられた住居とはエヴァンジェリンの家である。
絶対にあの老人は知ってる。先日、エヴァンジェリンに何があったのかを。
その上で『警備員の先輩がいるから色々と教えてくれる』とかいう理由で彼女の家を紹介されたのだ。
「どうした?」
「いや……随分、アッサリと引き受けたんだね」
「ふん。貴様には助けられた借りがある。ココに住まわせてやるから、これで借りは無しだ」
「ハイハイ」
「しかし、ぼーやのサポートを引き受けるとは……私と同じ悪人かと思っていたが、随分とお優しいじゃないか。え?」
「…………フン」
シンクはエヴァンジェリンの意見に反論せず、荷物をテーブルに置く。
「さて……もう一つ教えておこう。付いて来い」
「?」
そう言ってエヴァンジェリンと茶々丸は階段を下りて地下に行く。そこには、ボトルシップのように、模型の入った瓶があった。
ソレに近づくと3人の足下が光り輝き、その場から一瞬で消えてしまった。
「ふ~ん……魔力で作った別荘ね」
周囲を見回してシンクが呟く。そこは瓶の中に作られていた模型と同じ建物で、海に囲まれたエヴァンジェリンの別荘だった。
白い円柱状の巨大な柱から長い橋が伸びて別荘に続く。
「ココでの一日は外の時間にとっては一時間でしかない。だが、一日ココで過ごさなければ外には出られんぞ」
「何でもアリだね、魔法って」
「ココでは私の魔力を封じている呪いも効果は無い。つまり本来の力を存分に発揮できる訳だ」
そう言ってエヴァンジェリンは手に魔力を光らせる。それは、ココなら思う存分、本気を出して戦える、という意思表示に見える。
「……………」
「フン……」
が、ジッと自分を見つめるシンクの瞳を見て、エヴァンジェリンは魔力を消し、笑みを浮かべた。
「何があったのか知らないが、面白い目をするようになったな」
「何がだよ?」
「初めて会ったときは生意気な小僧だったが、今の貴様は……いや、やめておこう。言葉にするには無粋だな」
エヴァンジェリンの言葉にシンクは首を傾げる。
しかし、彼女は後ろを歩くシンクを興味深いと思った。
絶望と希望、傲慢さと繊細さ、憎悪と慈悲……それらを同居させたような永い時を生きて来たエヴァンジェリンでも見たことのない瞳をしていた。
強いて言うならアリエッタが近い。
彼女もシンク同様、様々な正負の入り混じった瞳をしていた。だが、シンクはそれ以上に強い。
そして2人は知り合い同士だと言う。
2人には何があり、どうすればそのような目になるのか非常に興味をそそられた。
「(夢を見れば早いのかもしれんが……ぼーやに怒った手前な)」
以前、風邪を引いた時、ネギに夢の中を見られ、かなり怒った。
それなのに自分がシンクの夢を見るのは、プライドに触った。
「ふ……まぁ、今日は季節外れのバカンスでも楽しむがいい」
「…………説明するだけなら、別に連れて来なくても良かったのに」
結局、その日シンクは別荘で過ごすことになった。
「何で僕がアンタの買い物に付き合わないといけないの?」
4月20日、シンクはアリエッタと共に渋谷にまで来ていた。
「明後日の修学旅行に買い物です」
「修学旅行?」
「はいです。京都とかいう、この国の古い所へ旅行に行くんです」
「修学っていうからには、勉強するんじゃないの?」
「そんなの建前で、ただ遊ぶだけです。あ、この服可愛い……」
ウインドウに展示されているシャツを見て頬を染めるアリエッタ。
すっげー、こっちの世界に馴染んでるアリエッタにシンクは、ハァと溜息を零した。ちなみに彼女の見ている服は、ジャングルでライオンが吼えているリアルな柄のシャツだったりする。
「(相変わらずセンス悪いな……)」
彼女がいつも持っている人形といいセンスは疑わざるを得ない。
「あ、ゴーヤクレープ食べたいです」
ふとアリエッタはクレープ屋を見つけたので声を上げる。
「食べれば?」
「食べたいです」
「食べればいいじゃない」
「食べたいです」
「……………」
「食べたいです」
「奢れってか!?」
「修学旅行の買い物分しかお金持って来てないです」
「おい……」
人形の後頭部のチャックを開いてお金を見せるアリエッタ。
その人形財布だったのとか、何で買い物分しか持って来てないとかいうツッコミを抑え込み、額に指を当てて葛藤と戦うシンク。
「シンク、髪の毛緑色だから、きっとゴーヤも気に入るです」
「殺すよ、根暗ッタ?」
奢ってやるか奢ってやらないか考えていたが、その一言で奢るという気分は消え去った。
アリエッタは、思い出すのも嫌なアダ名を言われてガ~ン、となって往来のど真ん中で塞ぎ込んだ。
「根暗ッタじゃないもん根暗ッタじゃないもん根暗ッタじゃないもん………」
「お、おい。やめろ。みっともないだろ」
「おいおい、あんな小さな娘、泣かしてるぞ」
「彼氏でしょ、アレ? サイテー」
「泣いてる幼女、萌え~」
「(小さな娘って僕より年上だし、そもそも彼氏じゃないし、18歳は幼女じゃない! ってか、ドコの誰だよ、んな危険な妄想してるの!)」
冷ややかな視線――熱意も少々――を向ける周囲に対し、心の中でツッコミを入れつつ、シンクはアリエッタの腕を掴むと、クレープ屋の前まで行き、店の人を睨むように指を二つ立てた。
「ゴーヤクレープ二つ」
「(もぐもぐ)……草原の味がする」
「…………苦い」
上機嫌でゴーヤクレープを食べるアリエッタの横で、微妙な表情のシンク。草原の味とは、どのようなものか理解に苦しむが、アリエッタの味に対する感想は野生児ならではだろう。
ふとシンクは普通に平和な街をアリエッタと並んで歩く自分の姿を客観的に考える。
「…………何やってんだろうね、僕」
元の世界に帰りたいとも思わず、のらりくらりと生活している故の台詞。
「…………ニート?」
「一応、働いてるよ!」
「…………準無職?」
「…………」
微妙にヒットしているので、言い返せないのが辛く、押し黙るシンク。
「あ……」
「ん?」
「ネギ先生と……このか」
ふとアリエッタが何かに気づき声を上げる。シンクもつられて彼女の視線の先を見ると、そこにはネギと木乃香が楽しそうに通りを歩いている姿があった。
「何してんの、あの2人?」
「デート……」
「デート……ねぇ」
2人の姿はどちらかと言うと、仲の良い姉弟に見えるシンク。
「なー、ネギ君。これなんか、どやろ?」
「ヘー。ペアルックかあ。このかさんも着るんですか? ちょっと恥ずかしくないかなー?」
「あ~! コレ欲しいな~! 買ってー、釘男君!」
「ははは。分かったよ! おーい、店員さん、コレ一組ー!」
「「うひゃー!」」
ある店の前でペアルックの服を見ていたネギと木乃香だったが、いきなりセーラー服を着た女子校生と昔風の学ランと学帽を着た人物に押されてしまう2人。
ペアルックの服は、その2人に買われてしまった。
「あ~、先売れてしもうた」
「じ、じゃあ、アレなんかどーですか?」
「あ、コレはピッタリやー」
「でしょ、このかさん」
「あー! コレコレくださーい!」
今度は別の店で何か見つけたネギだったが、またまたセーラー服を着た女子校生に先に買われてしまった。
「な、何コレー!? ダンベルじゃない~!」
ネギと木乃香の先々に現れ、品物を買って行ったのはチアリーディング3人組だった。3人も、修学旅行の買い物に来ていたのだが、ネギと木乃香を発見し、『ある人物』の指令により、2人のデートを滅茶苦茶にするようにしていた。
「よーし! この調子で邪魔しちゃうよー!」
「何で邪魔するですか?」
「「「ひゃあ!?」」」
いきなり背後から声をかけられて飛び上がる3人。
「ア、アリちゃん!?」
「シンク君も!?」
「何でココにいるの~!?」
「買い物です。それより……」
驚く3人をアリエッタは静かに睨みつける。
「…………どうして、このかのデートを邪魔するですか?」
「ひ!?」
「お、怒ってる!? アリちゃんが怒ってる!」
クラスでは龍宮 真名、桜咲 刹那、ザジ・レイニーデイに並んで無口・無表情なアリエッタが、表情は変わらないが感情を剥き出しにして怒っているので恐怖する3人。
アリエッタは、この世界に現れたとき、学園長に保護された。そして、学園長は彼女の身の上を察し、戸籍を用意してくれた上に学園の生徒にしてくれた。その条件として『木乃香の友人になって欲しい』と言われた。
木乃香は学園長の孫。つまり魔法使いの家系である。彼女にも仲の良い有人は多くいるが、もし魔法使いとしての能力が発覚したとき、同じ魔法使いであるアリエッタが、色々とサポートして欲しいというコトだった。
アリエッタは、助けられた恩に報いるため、木乃香を親友だと思っている。その彼女のデートを邪魔されては怒るというものだ。
「お、おおおお落ち着いてアリちゃん!」
「い、いいんちょ! いいんちょの命令なの!」
「…………いいんちょ?」
そこで、ネギ溺愛の第一人者こと雪広 あやかの名前が出てきたのでアリエッタの怒りが収まる。
「いいんちょが……邪魔の命令を?」
「そ、そう! 決して楽しんでたわけじゃないよ!」
「そうそう! 私達は麻帆良チアリーディング! 応援するのが使命なんだからね!」
「…………だったら、ちゃんと応援するです」
「「「ハ、ハイ!!」」」
「…………で、いいの? 何か静かな所行くとか言ってるけど?」
「「「「え?」」」」
アリエッタに気圧されてる間に、ネギと木乃香は、少し歩き疲れたのか、人気の少ない場所へと移動した。
階段を椅子にし、並んで座るネギと木乃香。すると眠そうにコクコクッと体を揺らすネギ。
「あはは。歩き疲れて寝ちゃうなんて」
「やっぱり子供だね」
「ま、待った! ちょっと見て!」
美砂が声を上げるので、見てみるとネギは木乃香の膝を枕にして眠っていた。
「あぁ~! 膝枕だ~!」
「くぅ~! 羨ましいねー! このかの奴!」
彼氏のいる美砂は羨ましがるが、少年を膝に乗せるのがロマンだと言うのが彼女の主張だった。
「このか、頑張るです……アリエッタ、応援してるです」
「頑張れって……今、ネギに何かしたら普通に寝込み襲ってるのと一緒……」
「シンク、黙ってるです」
「もが!?」
一応、常識的なツッコミを入れるが、アリエッタにまだ持ってたゴーヤクレープを口に突っ込まれ、黙らされた。
「ネギ君、寝顔はやっぱ、まだまだ子供やなぁ。新学期から、こっち少しは凛々しゅうなった思うてたけど……ちょっと今日は無理させてしもたかな? 疲れよ、とんでけー」
冗談めかして指を振る木乃香。しかしその際、彼女の人差し指が一瞬だけ光ったように見えた。
それに桜子達も目を疑ったが、気のせいだと思った。が、アリエッタは眉を寄せ、少し引き締めた表情で木乃香を見つめる。
「あ、そやカード。ネギ君にキスしたら出てくるんやった!」
ポン、と木乃香が手を打って思い出したように言う。
シンクは、キスという単語に過敏に反応し、ネギと木乃香に注目している桜子達に注意しながら、小声でアリエッタに質問した。
「カード?」
「魔法使いと仮契約した証……です。本人の絵が描かれてます」
木乃香は占いグッズとかの収集が大好きなので、明日菜が仮契約した証のカードを見て、欲しくなったのだ。
「ん~」
木乃香は眠っているネギの唇に、自分の唇を寄せる。
「ちょ、あ~!」
「このか~!」
「やっぱや~めた」
思わず茂みから飛び出す桜子達だったが、スッと顔を離して途中でやめる木乃香に、勢い余って前にぶっ倒れてしまった。
「あら?」
「コラ~! お待ちなさ~い!!」
「あれ?」
桜子、円、美砂に加え、シンクにアリエッタ、更には血相を変えて走ってくるあやかと明日菜に、木乃香は驚きを隠せなかった。
「何や、皆? 揃ってこんな所で?」
「ぶっ!」
木乃香に膝枕されているネギの姿を見て、噴き出すあやか。
「こ、ここここのかさん!? ネギ先生を膝枕など……私がしたいですわーーー!!」
「こ、このか。アンタ、本当にネギと……」
「あちゃー。もしかしてバレてたんか?」
「んー………あ、あれ皆さん? アスナさんまで!?」
大声を上げるあやかの声に反応し、ネギは目を覚まし、そこに皆がいることに驚いた。
「ネギ君、どうやらバレてたみたい」
「ええ~~~~!? そんなどうしよう……驚かそうかと思ってたのに」
バレたやら、驚かそうやらと会話するネギと木乃香。明日菜達は、本当に二人が付き合っているのかと思い、愕然となった。
しかし、彼らの次の行動は、その考えを覆した。
「う~ん、こうなったらしゃあないな」
「そうですね……一日早いけど……えーと、ハイ、アスナさん」
そう言って、ネギは小さなラッピングされた箱を明日菜に差し出した。
「4月21日の誕生日おめでとうございます」
「…………へ?」
「(そんなオチか……)」
余りに予想外の展開に唖然となる明日菜。
ネギと木乃香は別にデートしていたわけではない。明日、4月21日は明日菜の誕生日である。二人は、明日菜の好きな曲の入ったオルゴールを探していただけだった。
あやか達もそこでようやく、明日が明日菜の誕生日であることを思い出した。
「ああーーー!! そうそう!」
「私達もプレゼントあるよ、アスナ!」
慌てて桜子達はネギと木乃香から横取りしたダンベルやらペアルックの服とか、その他諸々の品物を渡す。
「あ、ありがとう……ネギ、このか……皆。わ、私……私、嬉しいよ」
「えへへ……」
「いやー良かった良かった」
嬉しくて涙を浮かべ、喜ぶ明日菜。ネギと木乃香は照れ笑いを浮かべる後ろで、桜子達はそそくさと帰ろうとしたが、あやかがソレを許さない。
「ちょっとあなた方?」
「い、いや~、ゴメンね、いいんちょ」
「勘違い……だったみたいな」
引きつった笑顔で振り返る桜子達。
「全く、あなた方は、いつもいつも人騒がせなんですからーー!!」
「いいんちょだって変な命令したくせにーーー!!」
「そ、そうだ! 折角だし、このままカラオケ行って、アスナの誕生会やろーよ!」
「おおーー!!」
「アリちゃんも行こ! 勿論、シンク君も……って、シンク君いない!?」
「カラオケ行くって行った時点でダッシュで逃げた、です」
「速っ!?」
「誤魔化さないでくださーーーい!!」
その後、彼女達はネギを交え、カラオケで明日菜の誕生パーティーを存分に盛り上げたのであった。
「ホレホレ、とっとと飯作れ~」
食器を箸で叩きながら催促するエヴァンジェリン。キッチンでは、シンクがエプロンを着て、晩御飯の用意をしていた。
「(何で僕が……)」
居候の身とはいえ、家事の殆どを任されてしまったシンク。茶々丸が「手伝う」と言ってくれたが、エヴァンジェリンが「手を貸すな」と命令したため、一人で作る羽目になってしまった。
オラクル六神将……世界に名を轟かせていた『烈風のシンク』も今や、エヴァンジェリンのいい丁稚と化してしまっていた。
後書き
アリエッタが何気に強い娘です。シンクを言いように扱ってます。やっぱ年上だからか? 無気力ですが、すっかり角の取れたシンク。修学旅行編では、彼も人間として一皮剥けます。御楽しみに。