インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「Tales of the Negima! 第四節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-02-07 23:30)
BACK< >NEXT

「スー……スー……」

 人通りの少ない木の枝の上でシンクは静かに寝息を立てていた。春のポカポカした陽気に加え、葉の擦れ合う音が心地よく最高の眠り心地なシンク。

「お兄ちゃん!」
「うわ!?」

 いきなり目の前に現れたネギにシンクは思わず木の枝から落っこちた。

「いたた……」
「お兄ちゃん、そんな所で寝てたら風邪引くよ?」
「その前に謝れ!」

 折角、気持ち良く寝ていたというのに起こされ、尚且つ落っこちて頭をぶつけたら流石に怒るというものだ。ネギも木の枝から降りて、シンクに言った。

「お兄ちゃん、帰らないなら部屋で寝たらいいのに……」
「ふん。僕はこの学園の人間じゃないんだ。部屋なんか借りられるか」

 まだ学園長に仕事の件の返事はしていないので、シンクはこうして木の枝で寝ていた。

「(それじゃあ思いっ切り部外者なんだけどなぁ……)」

 と、教師の立場からすれば捕まえないといけないのだが、学園長も黙認してるようなので敢えてツッコミを入れないネギ。

「それにしても……」
「ん?」
「随分と元気じゃないか。何かあったの?」
「あ、うん……その……色々とね」

 ついこの前まで落ち込んでいたのに、妙に吹っ切れた顔つきのネギにシンクは首を傾げる。

「あ、そうそうお兄ちゃん。コレ見てコレ」
「ん?」

 ふとネギは、シンクの前に一枚の紙を突きつけた。
 それには『果たし状』と書かれている。シンクはアホの子を見るかのようにネギに冷たい視線を向ける。

「何? 僕と戦う気?」
「ち、違うよ! エヴァンジェリンさんになだよ!」
「教師が生徒に挑戦状送るのってどうなの?」
「あうぅ……深く突っ込まないで」

 ネギとしてもその辺は変だと思っているのか恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「で? それが僕と何の関係があるの?」
「うん……あのね……その……」
「?」

 なぜか頬を赤らめて人差し指をモジモジ、とさせるネギにシンクは眉を寄せる。

「あのね……付き合って欲しいんだ」
「帰る」

 どこからか荷物を持ってダッシュで逃げ出すシンク。

「わぁ〜!! 違うよお兄ちゃん!」

 が、慌ててネギが追いかけて腰に手を回して引き止めた。

「離せ! 僕は帰る! いや、イギリスにも帰らない! お前のいない安全な所まで逃げる!」
「な、何で!?」
「僕に男……しかもガキと付き合う趣味は無い!」
「違うよ! そうじゃなくて一緒にエヴァンジェリンさんの所に行って欲しいんだよ!」
「…………何?」

 ネギの弁明にシンクは振り返る。ネギは瞳を潤ませて彼を見上げた。


「ったく。立会人をして欲しいなら、最初からそう言え」
「ゴメンなさい……」

 寮から外れた森の中、小川の畔を歩くシンクとネギ。ネギの頭には大きなタンコブが出来ているのは御愛嬌。
 ネギは学級名簿を見て、魔帆良学園都市の桜ヶ丘町4丁目29へとやって来た。そこは金持ちの別荘が持っていそうなログハウスだった。

「へぇ〜、案外素敵な家だな〜」
「墓場とかに住んでると思った」
「お、お兄ちゃん……」

 笑顔を引き攣らせるネギだったが、かく言う彼も同じようなことを想像していたりした。

「あの〜、こんにちはー。担任のネギですけど、家庭訪問に来ましたー」

 呼び鈴を鳴らすが返事は無い。が、玄関は開いてるので誰かいないか少し開けて中を見る。

「うわ、結構ファンシーだ」

 家の中にはあちこちに人形が置いてあり、とても吸血鬼らしい部屋ではなかった。

「どなたですか?」

 そこへ背後から声をかけられ、2人は振り返る。そこにはメイド服の茶々丸がトレイに何かの袋とティーセットを載せて立っていた。

「―――ネギ先生、シンクさん……こんにちは。マスターに何か御用でしょうか?」
「うわ!? ビックリした! ちゃ、茶々丸さんでしたか……あ、えーと、この間はどうもすみませんでした」
「いえ、こちらこそ」

 ネギは驚きながらも先日のことに頭を下げて謝罪し、茶々丸も頭を下げて返す。

「あ、あのそれでエヴァンジェリンさんは!?」
「マスターは病気です」
「ま、またそんな……不老かつ不死である彼女が風邪なんかひくわけないでしょう」

 学校の方にも病欠で休むと伝えられていたが、ネギはそれが仮病だと思っていた。すると階段の方からエヴァンジェリンが言ってきた。

「その通りだ。よく一人で来たな。魔力が十分でなくとも、貴様ごときひっこをくびり殺すコトぐらい訳はないのだぞ」
「マスター、ベッドを出ては……」
「エ、エヴァンジェリンさん!」
「(アレが……)」

 少し顔が赤く、息苦しそうなエヴァンジェリンを見上げ、シンクは意外な印象を受ける。吸血鬼で最強の魔法使いと言うから、もっとイカついイメージをしていたが、その正体はネギと同じ背丈ぐらいの幼女だった。

 ネギはエヴァンジェリンの様子が変なことに気づかず、無言で果たし状を突きつけた。

「? 何だ、ソレは?」
「は、果たし状です! 僕ともう一度勝負してください!
 そ、それにちゃんとサボらずに学校に来てください! このままだと卒業できませんよ!」
「だから呪いのせいで出席しても卒業出来ないんだよ……ん?」

 そこでエヴァンジェリンはネギの隣に居るシンクに気が付く。

「何だ、貴様は?」
「お、お兄ちゃんは関係ないです! 決闘の立会人をお願いしたんです!」
「お兄ちゃん? ふん、なるほど貴様が……」

 エヴァンジェリンはシンクを値踏みするように見つめる。一方のシンクも相手を見極めるよう見つめる。

「…………ぼーやを徹底的に痛めつけて、私に逆らうことのないようにしてもいいな?」
「ああ」
「ちょっと2人とも、何おっかないこと言ってるんですかーーー!?」
「中々、話のわかる兄ではないか」

 2人とも性悪で性格が捻くれていることを互いに感じ合ったのか、勝手に話を進める。

「ではぼーや。決着をつけるとするか」
「!」

 右手に魔力を集中させ、左手に魔法薬の入った試験管を持つエヴァンジェリン。ネギも表情を引き締め、杖を強く握り締める。
 しかし、突然、エヴァンジェリンが階段の手すりから落っこちた。額を強く打ち、試験管が割れる。

「わ〜! 何〜!?」

 ネギは驚き、急ぎ彼女を抱え起こすと額に手を当てた。

「うわっ! 凄い熱! 風邪って本当だったんですか!?」
「2階のベッドに寝かせてください。シンクさん、お願い出来ますか?」
「…………ったく」

 渋面を浮かべながらもシンクはエヴァンジェリンを背負って二階に移動する。

「すいません。マスターは風邪の他に花粉症も患っていますので」
「この人、本当に吸血鬼ですか!?」
「アホくさ……」

 吸血鬼なのに風邪と花粉症にかかっているエヴァンジェリンにツッコミを入れるネギ。シンクは呆れて溜息を吐き、エヴァンジェリンの部屋にベッドに寝かせる。

「な、何か凄く苦しそう……」
「無理もありません。魔力の減少した状態のマスターの体は、元の肉体である10歳の少女のソレと変わりありませんので」
「そ、そうなんですか……」
「ネギ先生。私、これからツテのある大学の病院で良く効く薬を貰ってきますので、その間、マスターを見て頂けませんか? 猫にエサをやらなければいけませんし」
「ええっ!? ぼ、僕ですか!?」
「はい。先生にならお任せできると判断します」
「わ、分かりました。なるべく早く帰ってきてくださいねー」

 一礼して階段を下りていく茶々丸…………と、シンク。

「って、お兄ちゃんまでドコ行くの!?」
「決闘しないなら僕が居ても意味ないだろ?」
「そんな〜! 一緒に居てよ!」
「病気の吸血鬼ぐらい怖がらずにしてろ。ちゃんと戻って来る」

 そう言い残し、シンクも階段を下りて行った。玄関の所では茶々丸が立って、ジッと彼を見つめる。

「何?」
「いえ……ネギ先生を信用なさってるのですね」
「そんなんじゃないよ。仮にも僕の弟分を名乗るんだったら、弱った吸血鬼にビビられてちゃ困る」

 そう言ってシンクと茶々丸は家から出て、病院へと向かう。

「ネギ先生は、まだ10歳です。それぐらい当たり前かと思われますが」
「ソレを言ったら僕なんてまだ3歳だよ」
「は?」
「いや……何でもない」

 目を閉じて答えるシンクに茶々丸は首を傾げた。


「どうぞ」
「は?」

 病院で薬を貰い、教会の裏手にやって来ると猫が集まって来る。茶々丸は、スッとキャットフードの入った袋を渡して来た。

「猫にエサをあげてください」
「アンタがやればいいだろ? アンタの仕事……」
「ですが、その猫はアナタに懐いてますが?」

 言われて足下を見ると、茶々丸が助け、シンクがココまで抱いて運んで来た猫が彼の足に擦り寄っていた。シンクは目を細め、その猫を抱き上げ、顔の前まで持ち上げる。

「アンタ、この女に助けられたんだったら、そっちに懐けよ」
「ニャ〜」
「…………野良の分際で助けて貰おうだなんて図々しい。捨てられたなら自分の力で生きてみせな」

 そう言って猫を下ろすシンク。猫はしばらく彼を見上げていたが、やがてその場から去って行った。

「…………アナタは厳しいですね」

 その一連の様子を見ていた茶々丸がポツリと感想を漏らす。

「ココで僕がアイツを助ければ、独りになったとき、生きていけない。優しさで何かが救えるほど、世界は甘くない」
「…………随分と苦労されてきたようですね」
「苦労……ね。そんな安っぽい言葉で片付けられる人生なら、今頃、こんな所にいないだろうね」

 自分の同級生と変わらぬ年齢と思えるシンクの口から出た言葉に、なぜか想像以上の重みを感じる茶々丸だった。


「何を見た!? ドコまで見たんだ、言え貴様ーーーーっ!!」
「べ、別に何も……」
「嘘をつけーーー!! き、貴様らは親子揃って……殺す!! やっぱり今、殺すーーー!!」
「うひぃーー!!」

 家に戻って来ると、なぜか中から聞こえるエヴァンジェリンとネギの叫び声が外にまで届いていた。

「マスターが元気に……良かった」
「…………何やったんだ、アイツ?」

 主の回復に喜ぶ茶々丸に対し、シンクは自称弟分が何をしたのか気になり、眉を顰めた。


 翌日。

「う、うわぁ!? エヴァンジェリンさん!?」

 教室に入るとネギは、エヴァンジェリンと茶々丸が普通に授業に参加していたので驚く。

「な、何ですか!? 果たし状のコトなら今はダメですよっ。放課後ならいつでも……」

 慌てふためき杖を振り回すネギに生徒達も何事かと動揺する。

「昨日、世話になったからな。授業くらいは受けてやろうと思っただけだ」
「え……あ……」

 そこでネギは昨日、付きっ切りで看病したことで自分の誠意が彼女に伝わったのだと思い、表情を明るくした。

 もっとも多少のトラブル――彼女の夢を無断で見てサウザンドマスターのコトを知ったとか――はあったが、ネギは彼女が授業に参加してくれることを大層喜んだ。

「ほんとですか! ありがとうございます! わ〜! 嬉しいな〜!
 か、風邪はもう大丈夫なんですか!?」
「ああ……まぁな」

 世話になった、という言葉に反応し、ネギLOVEなあやかの嫉妬の視線を感じながら、エヴァンジェリンはウザいと思いつつ答える。

 上機嫌なネギは、そのままハイテンションに授業を進めていった。その中で明日菜とアリエッタは気にするように、ネギとエヴァンジェリンを見比べていた。


「…………どうだ?」

 授業が終わり、エヴァンジェリンと茶々丸はパソコンルームで何かを行っていた。

「予想通りです。やはりサウザンドマスターのかけた『登校の呪い』の他にマスターの魔力を抑え込んでいる『結界』があります。
 この『結界』は学園全体に張り巡らされていて大量の電力を消費しています」
「10年以上も気付けなかったとは……しかし魔法使いが電気に頼るとはなー。え〜っと、ハイテクってやつか?」
「私も一応そのハイテクですが……」

 最新ゲーム機をファミコンと呼ぶ中年世代を思わせるようなエヴァンジェリンの台詞に茶々丸が一応のフォローを入れる。

「まぁいい。お陰で今回の最終作戦を出来るわけだ……な?」
「そうです」

 屋上に出て茶々丸に確認すると彼女は簡潔に答える。

「よし、予定通り今夜決行するぞ……フフ、坊やの驚く顔が目に浮かぶわ………ハハハハハハ」

 これから起こる事を想像し、上機嫌で笑うエヴァンジェリン。が、ふと彼女は茶々丸が何か言いたそうに見ているので声をかける。

「ん? どうした茶々丸。何か気になることでもあるのか?」
「い、いえ……あの……その……」

 珍しく口ごもる茶々丸だったが、いきなり頭を下げて謝った。

「申し訳ありません、マスター。ネギ先生はすでにパートナーと仮契約をしています」
「何!?」

 それを聞いてエヴァンジェリンの顔つきが変わり、茶々丸に怒鳴った。

「それは聞いていないぞ! なぜ今まで黙っていた!? 相手は誰だ!?」
「相手は神楽坂 明日菜です。なぜ、報告しなかったのかは自分でもわかりません。申し訳ありません」
「ふん、しかしまあいいか。もはや奴にパートナーがいようといまいと関係ないからな」
「マスター、どうか如何なる罰も受けます」
「いやいい」

 今夜の作戦は茶々丸がいないと困ると言って、エヴァンジェリンは特に罰するつもりはなかった。そして、つい調子に乗って屋根に飛び移ろうとしたが、足を引っ掛け、顔から激突し、鼻血を垂れ流した。


「お兄ちゃん!」
「うわ!?」

 再び目の前に現れたネギにシンクは、またもや木の枝から落っこちた。

「あ……」
「アンタね〜…………天才って呼ばれてるくせに学習能力ある?」
「あぅ! い、痛い痛い!」

 ネギの頭を鷲掴みにしてギリギリと痛めつけるシンク。細腕なのに凄い握力で、ネギの足が少しだけ宙に浮く。

「ってか、旦那も何で木で寝てんだ? あ、やっぱ髪の色が緑だから木が落ち着くとか……ぎゃああああ!!!!」

 ネギの肩の上で勝手なことを想像して言うカモをシンクは無言でもう片方の手で掴み締め上げる。

「しょ、小動物虐待〜!」
「お兄ちゃん、ゴメンなさい! 許して!」
「…………ふん」

 パッと手を離し、ネギ達を解放する。

「で? 人が気持ち良く寝てたのに何の用?」
「旦那、ココに来てから寝てるか飯食ってるかしてねぇんじゃねぇですかいぶろぉ!」

 余計なツッコミを入れるカモを空の彼方まで蹴っ飛ばす。

「カ、カモくーん!?」
「で? 人が気持ち良く寝てたのに何の用?」

 先ほどと同じ台詞。だが、明らかにイラつきの増しているシンクに、ネギは冷や汗を垂らして答えた。

「あ、あのね……エ、エヴァンジェリンさんが授業に出てくれたの」
「…………で?」
「これってエヴァンジェリンさんが、改心してくれたってコトだよね!?」
「…………で?」
「僕、もう嬉しくって……これでアスナさんや他の皆に迷惑かけなくて済むよ!」
「…………で?」
「え?」

 なぜか淡白な反応しか返してくれないシンクに、ネギもようやく気づく。シンクの瞳は『人が気持ち良く寝てたのに、そんなどうでもいいコトで起こしに来た上、木から落としたの?』と訴えかけている。

 ネギは「あぅあぅ……」と震えながら後ずさり、ふと生徒達から聞いたことを思い出す。

「あ、あの……今日の夜の8時から深夜12時までメンテで学園が一斉に停電になるから……その……」
「ふ〜ん……」
「お、お兄ちゃんもロウソクとか買っておいた方がいいよ?」
「…………わかった」
「そ、それじゃあ!」

 ネギは逃げるように回れ右して走り去って行った。シンクは溜息を吐いて、欠伸を掻き、もう一眠りしようと木の枝に登って行った。


<こちらは放送部です……これより学園内は停電となります。学園生徒の皆さんは極力外出を控えるようにしてくださ……>

 ザザっとノイズが混じりながらの放送と同時に、学園を照らしていた明かりが一斉に消えた。

「あちゃ〜、消えちゃったよ」

 女子中等部の大浴場では、明石 裕奈、和泉 亜子、大河内 アキラ、佐々木 まき絵、そしてアリエッタが入っていた。

「まだお風呂入っとるのに〜」
「…………アリエッタ、部屋にいたかった……です」
「まぁまぁ。アリちゃんもたまには、こうやって裸の付き合いしないと!」

 裕奈が肩を組んでアリエッタに言う。普段からクラスの人間と親交の薄いアリエッタだが、ネギの兄代わりであるシンクと知り合いということで、注目を浴びた。

「アリちゃん、お肌スベスベで羨ましいわ〜」
「(一応アリエッタ年上……です)」

 戸籍上は14歳だが、実年齢は18歳。しかし、見た目以上に性格も幼いアリエッタは、普通に中学生に見られ、寧ろ中学生離れし過ぎた体型の多い3−Aでは平均よりちょっと下だったりする……胸が。

「まき絵?」

 裕奈と亜子に絡まれ、頬を赤らめているアリエッタを微笑ましそうに見ていたアキラは、ふとボーっと突っ立っているまき絵に気づいた。

「あ……う……」
「どうした、まき絵?」
「!?」

 それを見てアリエッタは驚愕すると、まき絵の肩に手をかけたアキラに向かって叫んだ。

「近づいちゃ駄目!!」
「え?」
「(魔法……駄目、皆も巻き添えに……!)」

 この場で魔法は使えず、アリエッタは遠くの床に置いてあった人形が目に留まり、取りに行こうとしたが、ガシッと肩を掴まれた。

「しま……!」


「う〜ん、真っ暗な寮ってなかなか怖いねー、カモ君」

 停電して明かりのない寮をネギは懐中電灯を照らし、生徒が外出していないか見回りをしていた。が、カモはネギの言葉に反応せず、何か考え込んでいた。

「むむむ……」
「どうかした、カモ君?」
「兄貴!! 何か異様な魔力を感じねーか!? 停電になった瞬間現れやがった!!」
「え? 何か魔物でも来たの?」
「わからねえけどかなりの大物だ……まさかエヴァンジェリンの奴じゃ……」
「ええ!? でも授業に来てたじゃないか。彼女はもう更生して……」
「だから兄貴は甘いんだってそんな簡単にやつが諦めるはずないだろ!」

 ネギの考えを非難するカモだったが、その時、ネギが前方に何かを発見した。

「ま、まき絵さん〜っ!?」

 なんと、そこには素っ裸で立っているまき絵がいた。

「駄目ですよ! 裸で外出しちゃ……!」
「ネギ・スプリングフィールド、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさまがきさまにたたかいをもうしこむ」
「えっ!?」
「10ぷんごだいよくじょうまでこい」
「な、何でまき絵さんがエヴァンジェリンさんのことを!?」
「分かったぜ、兄貴! あいつ、エヴァンジェリンに噛まれたことあるだろ!?」

 真祖の吸血鬼に噛まれたら操り人形になってしまうとカモが言うと、ネギは驚愕した。

「じゃーね! まってるよネギくーん!」

 まき絵はバク宙でその場から離れ、巧みにリボンを使い屋根の上などを移動して去って行った。その余りに人間離れした技巧にネギは唖然となる。

「人間技じゃねえ。半吸血鬼化してやがるぜあの姉ちゃん」
「そ、そんな……あの時、僕がまき絵さんを診た時は魔力の残り香だけで、どこにも異常は……」
「奴の魔力が封じられてるってのが逆に仇になったんだよ。潜伏していて兄貴にも気付けなかったんだ。
 どーやったかはわからねえけどとにかくこの停電でエヴァンジェリンの魔力が復活したんだぜ。マズイぜ兄貴!!」

 ネギは、てっきりエヴァンジェリンは反省してくれたと思っていたので、このような事態になるなど余りに予想外だった。そして、それと同時に、また自分のせいで生徒が危険に巻き込まれたと思い込む。

「アアア、兄貴! とにかくアスナの姐さんに連絡を…」
「う、うん……分かった!」

 ネギは携帯で明日菜に連絡を取ろうとしたが、今日の朝に、これから何が起こっても明日菜や皆に迷惑をかけないと言ったことを思い出した。

「いや、そうはいかないよカモ君、ここは僕一人で行く!」
「え、ええ〜っ!? 何バカなこと言ってんだよ、兄貴!?」
「大丈夫。実は、この時の為に昨日から用意はしてあったんだ!」

 驚くカモを他所に、ネギはどこからか秘蔵のマジックアイテムの入った大きな袋を出す。様々なマジックアイテムを装備し、ネギは杖に乗って大浴場へと向かう。

「ダメだって、兄貴!! いくら装備を整えても奴には勝てねーよ! 考え直せ!」
「ダメ! もうアスナさんに迷惑はかけられないよ!」
「魔力が復活しただけじゃなく、パートナーの茶々丸だっているんだぜ! せめて姐さん……それがダメなら旦那に連絡を!!」
「やだ!!」
「えーい! 分からずや!」

 あくまでも自分一人で何とかしようとするネギに、カモは呆れ果て彼の肩から飛び降りた。


「エヴァンジェリンさん!!」

 大浴場に着くと、エヴァンジェリンを呼ぶネギ。

「…………どこですか? まき絵さんを放してください」

 周囲を警戒しながら湯船に足をつけて探す。

「フフ……ココだよ坊や」

 ふと声が聞こえ、光球が浮かび、周囲が明るく照らされる。すると、そこには見た事のないスタイルの良い金髪の女性と、メイド服を着た茶々丸、裕奈、亜子、アキラ、まき絵がいた。

「パートナーやお兄ちゃんはどうした? 一人で来るとは見上げた度胸だな」
「あ、あなたは……!?」
「ふ……」
「ど、どなたですか!?」

 てっきりエヴァンジェリンだと思ってたが見た事のない女性だったので、尋ねるネギ。女性は呆れてずっこけた。

「私だ! 私ー!!」

 ポン、と白煙を上げると女性はいつものエヴァンジェリンの姿になった。

「あ〜」
「満月の前で悪いが、今夜ココで決着をつけて坊やの血を存分に吸わして貰うよ」
「…………分かりました。でも、そうはさせませんよ。今日は僕が勝って悪いことするのはやめてもらいます!」
「それはどうかな……行け!」

 パチン、とエヴァンジェリンが指を鳴らして命令する。ネギは、彼女に操られている4人が来ると思い身を竦ませると、突然、背後のお湯がバシャァンと跳ねた。

「な……!?」

 するとお湯の中から凶暴そうな見たことのない魚の化け物が大きな口を開けて襲い掛かって来た。

「な……」

 咄嗟に杖を後方に飛ばし、それに引っ張られる形でネギは避ける。魚の化け物がお湯に戻ると、もう一人、その場に現れた。

「ア、アリエッタさん!?」

 それはメイド服を着たアリエッタだった。まき絵達同様、その目には生気が感じられない。

「アリエッタ・フェレスが魔法使いだったとは嬉しい誤算だった。坊やを困らせるつもりが、中々良い戦力になってくれたよ」
「そんな……」

 アリエッタはカードの束を出し、その中から一枚抜く。カードは強く光り輝き、体長4mほどの長い嘴と黒い翼を持った怪鳥が出現した。

「珍しい魔法だ。カードに封じ込めた魔獣を召喚し、意のままに操る。仮契約の力でもない……しかも半吸血鬼化により、魔力が向上している」
「アリエッタさん! やめて下さい!」
「ネギ先生……終わり、です」

 湯の中から怪魚、空中から怪鳥が同時に襲い掛かる。

「う、うあああああ!!」

 思わずネギは叫び、両手でガードしようとする。しかし、相手の牙や爪は、ネギのような細い腕のガードなどものともしない。

 二体の魔獣がネギに迫るその時だった。湯が小さく跳ねた。

「飛燕……連脚!!」

 何者かの蹴りが二体の魔獣に決まった。吹き飛ばされた魔獣は湯の中に落ちる。

「何!?」
「あ……お、お兄ちゃん!?」

 ネギを助けたのはシンクだった。シンクはネギの前に立つと、エヴァンジェリンを睨み付ける。

「ちっ……貴様か」

 シンクはエヴァンジェリンを睨むと、今度はアリエッタに振り返った。

「情けないね。『妖獣のアリエッタ』と恐れられていたアンタが、そんな姿になるとは……」
「………………」
「ネギ、アリエッタは僕がやる」
「え?」
「アリエッタは僕がやると言ったんだ」

 急に自分がアリエッタと戦うと言い出すシンクにネギは戸惑った。頼もしいことだが、アリエッタは自分の生徒。
 シンクの実力は知っている。だからこそ、生徒に怪我をさせたくはなかった。

「で、でも……」
「アリエッタを見くびるな。アンタが考えてるより、ずっと厄介で強い奴なんだよ、アイツは」
「お、お兄ちゃん?」
「とっとと、あの吸血鬼をやれ!」
「は、はい!!」

 戸惑っているネギに対し、シンクは一喝する。ネギは頷いて、エヴァンジェリンに向き直った。

「まさか、あの小僧が来るとはな。まぁいい……坊やの相手はコイツらがしよう」

 パチン、ともう一度指を鳴らすと、今度はまき絵達が屋根の上から降りてきてネギに迫る。

「やれ、我が下僕達よ」
「りょーかい、ごしゅじんさまーっ!」
「それー! ぬがしちゃえー!」
「え? う、うわーーーー!?」

 エヴァンジェリンが指示を出すと、四人はネギに群がり、服を脱がして行った。それに伴い、折角の重装備も悉く外されていく。

「はうぅ……くっ!」

 ネギは胸のベルトに挿してある瓶を二つ取り、空中に放り投げる。

「風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー) 」

 瓶が弾けると、強烈な風が吹き、亜子とアキラの服が吹き飛んだ。ネギはその隙に包囲から突破し、すぐに呪文の詠唱に入る。

「大気よ、水よ、白霧となれ、彼の者等に一時の安息を。『眠りの霧』(アーエール・エト・アクア・ファクティ・ネブラ・イーリス・ソンヌム・ブレウェム『ネブラ・ヒュプノーティカ』)!!」

 まき絵と裕奈は避けたが、アキラと亜子はモロに喰らって眠らされた。倒れかける2人をシンクが受け止めた。

「お、お兄ちゃん、二人とも裸……」
「そんなのどうでもいい。それよりエヴァンジェリンを……!?」

 アキラと亜子を抱えたシンクは背後から怪魚が飛びついて来たが、上顎に足を踏みつけて湯の中に落とし、回避した。

「フ……やるじゃないか。では、本番といこうかぼーや」

 蝙蝠のマントを羽織り、エヴァンジェリンは茶々丸をネギに突っ込ませ、魔法の詠唱に入る。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……」
「失礼します。ネギ先生」

 茶々丸、まき絵、裕奈の三人がネギに襲い掛かる。

「氷の精霊17頭、集い来たりて敵を切り裂け(プテンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス・コエウンテース・イニミクム・コンキダント)!
 喰らえ! 『魔法の射手・連弾・氷の17矢』(サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス)」

 氷の矢が17本、ネギに向かって放たれる。後退していったネギは窓を破り、地面に落ちて行った。

「追うぞ」
「ハイ」
「アリエッタ。そいつは任せる」
「はい……です」

 エヴァンジェリンと茶々丸、裕奈、まき絵は窓からネギを追いかけて行った。残されたシンクは、亜子とアキラを床に寝かせ、アリエッタと対峙する。

「まさか、アンタとこうして戦うことになるとはね。アリエッタ」
「…………」
「アンタの術は魔獣より強力だ。今のネギが敵う相手じゃない……」
「おあいて……するです」

 カードを出すと、アリエッタは更に魔獣を召喚する。トラ、牛、大蛇などを髣髴させる魔獣が次々と召喚されていく。

「(ココじゃ狭いな……)」

 シンクはココで戦うのは厄介だと判断し、ネギが落ちて行った窓へ突っ込み、地面に向かって飛び降りる。
 着地すると、一気に駆け出した。アリエッタは鳥の魔獣に乗って、シンクを追いかける。

 シンクは騒ぎになっても、まず生徒がやって来ない部室棟前の広場へとやってくる。ココなら派手に存分に暴れられると判断してのコトだ。
 続いてアリエッタと魔獣がやって来て、シンクを包囲する。シンクは片方の拳を、もう片方の掌に叩きつけ、戦闘体勢に入る。

「そういえば六神将同士が戦うなんて無かったね。アッシュの奴ともまともに戦わなかったし……丁度いい。烈風と妖獣……どっちが上かハッキリさせようじゃないか!」

 ゴゥッと、シンクの体から魔力が解放される。

「僕を導師と同じだと思うな……と、言っても今のアンタには意味ないか」
「…………いって」

 アリエッタが命令を出すと、トラ、牛型の魔獣が同時にかかって来た。シンクは二体の内、トラ型の方が速いのを判断し、それにカウンターを合わせて攻撃する。
 トラ型の魔獣が目前まで迫って爪を振り上げた。しかし、その際、腹部ががら空きになる。そこを狙った。

「臥龍空破!!!」

 拳に魔力を集中させたアッパーが腹部に決まり、トラ型の魔獣が吹き飛ばされる。それに遅れ、牛型の魔獣が鋭い角を向けて突っ込んで来た。

「っっっっ!!」

 その角を掴み、腰を落として受け止めるシンク。

「ぐぅ……!」

 だが、単純な腕力は魔獣より弱いシンクは段々と押されて行く。

「こ……の……獣の分際で!!」

 グン、と手に力を入れ、魔獣を押し、それと同時に膝を上げる。牛型の魔獣は顎を膝で砕かれ、咆哮を上げる。その大きく開いた口にシンクは手を突っ込み、舌を引っこ抜き、喉に向かって手刀を突き刺し、倒す。
 しかし、相手は休む暇など与えてはくれない。いつの間にか背後に回り込んでいた蛇型の魔獣が彼の体に巻き付いて来た。

「しま……!」

 ミシミシ、と骨の軋む音が響く。すると前方の鳥型の魔獣が空高く飛び上がり、鋭い嘴をシンクへと向ける。

「おいおい、冗談じゃないね(ココまで鈍ってるのか……)」

 アリエッタが半吸血鬼化し、力が増大している要素もあるが、この1年以上、平和な生活に慣れ切り、体が思うように動かなかった。トレーニングは欠かさなかったが、やはり実戦は違う。
 試す意味でタカミチと戦ったが、命を懸けた実戦とは訳が違う。シンクは締め付けられながら嘲笑した。

「(これが世界中に名を轟かせた『烈風のシンク』? 僕から強さを取ったら……何が残る? いや違うな……僕は元から空っぽ。そうだ、思い出せ……)」

 何が残る? などと考えている時点で腑抜けていると自嘲する。元々、自分は空っぽ。意味も無く生み出されて、勝手に殺される。その憎しみを力に変えて来た。

「…………いって」

 アリエッタがシンクを指差すと、鳥型の魔獣は彼に向かって突っ込む。

「(あの女は何だ? 未だに導師のオリジナルの幻影に抱いている……そうだ……とっくに死んだオリジナルなんかに……目の前にいる元の仲間じゃなく……あいつに必要なのは……僕じゃない)」

 ザワリ、と空気が震えた。シンクの瞳が冷たい輝きを放ち、彼は唯一自由に動く片手を蛇型の魔物の体に叩き付けた。

「アカシック・トーメント!!!!」

 すると大きな光が発生し、蛇型の魔物の体が弾け飛び、その衝撃で鳥型の魔物も吹き飛ぶ。
 シンクの使う技の中でも1,2を争う強烈な術を蛇型の魔物に叩きつけ、無理やり脱出した。しかし、その威力は半端ではなく、シンクも大きなダメージを受けた。
 服はボロボロになり、あちこちから血を流している。しかし、血に塗れている自分の手を見て、シンクは笑みを浮かべた。

「はは……はははははは!!! そうだ! これだ! これだよ! 僕は戦うコトしか出来ないレプリカ……世界を……預言を消滅させる……僕には何も必要ない……必要ないんだ!!!」

 笑みを浮かべ、血まみれのまま、アリエッタに向かって突っ込んでいく。しかし、その前に鳥型の魔獣が襲いかかって来て、シンクの肩を貫いた。
 が、シンクは足を止めず、アリエッタに向かって手を伸ばす。それには、アリエッタも驚いた。

 ――いけません!! 仲間を殺してはいけません!――

 今にもアリエッタを掴みかけた所で頭の中に声が響いた。

「な……に……!?」

 それと同時にネカネ、ネギ、アーニャ、明日菜、カモ、茶々丸、そして餌をやった猫などの顔がフラッシュバックする。
 その瞬間、冷たかったシンクの瞳に輝きが戻り、アリエッタに伸ばしていた腕を引っ込め、もう片方の拳を突き出し、彼女の鳩尾を殴った。

「う……」

 アリエッタは気絶し、シンクは彼女を抱き止める。

「ハァハァ……」

 強く息を切らし、シンクは顔を手で覆って、先程の頭の中で起こったことを思い出す。

「今の声……何だ……?」

 訳が分からないシンクは困惑したが、気絶しているアリエッタを背負うと、彼女を心配そうに見ている鳥型の魔獣を見る。どうやら魔獣はアリエッタの意識が無くても消えないようだ。

「おい……僕をネギの所まで連れて行け」
「…………」

 魔獣は警戒するようにシンクを見る。が、シンクは少し困った様子だが、笑みを浮かべた。それは嘲笑ではなく苦笑い。

「安心しなよ……もう、アンタのご主人様には何もしない……」


 麻帆良学園の出入り口の橋では、ネギ、明日菜がエヴァンジェリンと茶々丸に相対していた。ネギは、この橋に罠を仕掛けて、一度は彼女を罠に嵌め、拘束したが、茶々丸により結界を解除されてしまい、形勢が逆転してしまった。
 切り札を失ったネギは杖を湖へと捨てられた。そして血を吸われそうになった所を、カモが呼んで来た明日菜に助けられ、そのまま本格的に仮契約――早い話が唇にキス――したわけだ。

「ふふっ、どーしたぼーや? お姉ちゃんが助けに来てくれてホッと一息か?」

 罠を破られ、杖を捨てられた時、ワンワン泣いて文句を言っていたネギが、再び凛々しい顔つきに戻り、からかうエヴァンジェリン。

「気にすんな兄貴」
「そーよ。これで2対2の正々堂々互角の勝負でしょ!?」
「そうだな、双方パートナーも揃ったわけだし、正式な決闘ができるか。だが互角かな? 坊やは杖なし、貴様も戦いについては素人だろう?」

 と、エヴァンジェリンは余裕の笑みを崩さないが、小声で茶々丸に明日菜を甘く見ないよう言った。
 明日菜は、前にも一度、そして今回と常に魔法障壁を張っているエヴァンジェリンに蹴りをかましている。
 彼女自身、明日菜は学園長が孫娘と一緒に住まわせているからタダ者ではないと思っていたが、まさか魔法障壁を破るほどとは予想外だった。

 しかし、アクシデントがあってこそ面白い、と感じるのも性だった。

「行くぞ。私が生徒だということは忘れ、本気で来るがいい、ネギ・スプリングフィールド」
「はい!」

 ネギは頷くと、すぐに明日菜の契約を発動させた。

「契約執行、90秒間(シス・メア・パルス ぺル・ノーナギンタ・セクンダース)!!
 ネギの従者『神楽坂 明日菜』(ミニストラ・ネギィ カグラザカアスナ)!!」
「リク・ラック・ラ・ラック・ライラック!」

 茶々丸がネギに向かって攻撃を仕掛けるが、明日菜が受け止める。

「うひゃ!」
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 咄嗟にパンチを捌いた明日菜は再びデコピンしようと手を伸ばす。茶々丸は腕が離れ、長距離のデコピンをかまし合った。

「あたたた!」
「風の精霊17人。集い来たりて(セプテンデキム・スピリトゥス・アエリアーレス・コエウンテース)」

 詠唱と同時に、ネギは短い星の飾りの付いた杖を出す。それは、ネギが昔練習用に使っていた魔法の杖だった。

「ハハハ! 何だ、その可愛い杖は! 喰らえ! 
 魔法の射手 連弾・氷の17矢(サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス)!!」
「ううっ……魔法の射手・連弾・雷の17矢(サギタ・マギカ・セリエス・フルグラリース)!!」

 雷と氷の17本の矢が激突し合う。

「ハハ!! 雷も使えるとは!! だが詠唱に時間がかかり過ぎだぞ!!」

 空中に浮き、橋の外に出るエヴァンジェリンは詠唱に入る。

「リク・ラック・ラ・ラック・ライラック 闇の精霊29柱(ウンデトリーギンタ・スピリトゥス・オブスクーリー)!!」

 29柱という多い数に驚きながらもネギは詠唱に入る。

「光の精霊29柱(ウンデトリーギンタ・スプリトゥス・ルーキス)!!
「魔法の射手 連弾・闇の29矢(サギタ・マギカ セリエスオブスクーリー)!!」
「魔法の射手・連弾・光の29矢(サギタ・マギカ セリエスルーキス)!!」

 光と闇の29対の矢がぶつかり合う。

「アハハ、いいぞ! よくついて来たな!」

 エヴァンジェリンは未だ余裕を浮かべている。ネギは改めて真祖の吸血鬼の強さを思い知り、そして、その彼女に勝った父親の凄さを身をもって知った。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。 
 来れ雷精、風の精(ウェニアント・スピリトゥス・アエリアーレス・フルグリエンテース)!!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。
 来たれ氷精、闇の精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・オブスクランテース)!!」
「え?」
「フフッ」

 ネギは今自分が使える中で一つを除き、最強の攻撃魔法を放つ詠唱に入る。それに対し、エヴァンジェリンも同系統の魔法の詠唱に入った。

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐(クム・フルグラティオーニ・フレット・テンペスタース・アウストリーナ)」
「闇を従え吹けよ常夜の氷雪(クム・オブスクラティオーニ・フレット・テンペスタース・ニウァーリス)来るがいい、坊や!!」
「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」
「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」

 雷を纏った竜巻と、闇を纏った吹雪が激突し合う。

「ぐうっ……くくっ……」

 ネギは元より、その威力にエヴァンジェリンの表情も歪む。ネギは打ち負けそうになるが、もう逃げないと心に誓い、最後の気合を振り絞る。

「ええい!!」

 掛け声と共に杖を突き出すと、ソレにヒビが入る。

「ハ、ハックシュン!!!」

 その時、思わずネギはクシャミをした。杖は砕け、クシャミによって巻き起こった風が後押しとなり、エヴァンジェリンの攻撃を押し返した。

「な、何!?」
「ネギー!」
「マスター……」

 魔力も尽き、膝を突くネギ。煙が晴れると、空中には服が吹き飛び、素っ裸のエヴァンジェリンが浮いている。笑みを浮かべているが、その表情は苦しそうだ。

「やりおったな小僧……フフフ……き、期待通りだよ。流石は奴の息子だな」
「あ、あわ、脱げ……!?」
「ぐ……だがぼうや、まだ決着はついていないぞ!」

 そう言って、手を広げるエヴァンジェリン。しかし、茶々丸がその時、彼女らしくなく必死になって叫んだ。

「いけないマスター! 戻って!!」

 それと同時に橋に明かりがついた。

「な、何!?」
「予定よりも7分27秒も停電の復旧が早い!! マスター!」
「ええい! いい加減な仕事をしおって!」

 愚痴を零しながら橋に戻ろうとするエヴァンジェリン。だが、突如、電撃のようなものが彼女の体に纏わり付いた。

「きゃん!!!?」

 すると彼女は湖へまっ逆さまに落ちて行った。茶々丸はバーニアを噴射し、エヴァンジェリン救出へ向かう。

「ど、どうしたの!?」
「停電の復旧でマスターへの封印が復活したのです。魔力がなくなればマスターはただの子供。このままでは湖へ……後、マスターは泳げません」

 それを聞いて、ネギは咄嗟に飛び降りようとする。しかし、その時、彼よりも湖へと落下する人物がいた。

「!? お兄ちゃん!?」

 シンクだった。アリエッタを連れ、彼女の召喚した鳥の魔獣を使ってココまで来ていた。

「ちょ……シンク君、凄い怪我してるじゃない!」

 血まみれのシンクは落下するエヴァンジェリンを抱きかかえ、胸に押し当てた。

「な……貴様、何を……」
「黙ってなよ」

 驚くエヴァンジェリンを他所にシンクは、ただ静かに返す。そして2人は湖へと落ちて、巨大な水柱が立った。


 まるで羊水に浸かっている胎児のようなフワフワした感覚で、エヴァンジェリンは昔のことを思い返していた。

 サウザンドマスター……即ちネギの父と出会い、彼の奔放で、それでいて人を引き寄せる何かに自分も惹かれた。そして、彼を自分のものにしようと極東の島国まで彼を追い詰めた。
 そして、そこで登校地獄、などという呪いをかけられ、この学園へと編入させられた。
 闇の福音、ドールマスター、不死の魔法使いと呼ばれていた彼女には屈辱だった。

『心配すんなって。お前が卒業する頃には、また帰って来てやるからさ。光に生きてみろ。そしたら、その時、お前の呪いも解いてやる』

 そう言ってサウザンドマスターは頭を撫でた。エヴァンジェリンは、その約束を信じ、ずっと待っていたが、彼は来なかった。

「(これが走馬灯というやつか……)」

 不死である自分が、そんなものを見るなど、相当、この学園で毒されていると自嘲した。


「ぷはっ!」
「げほっ! げほっ!」

 水面からシンクとエヴァンジェリンは顔を出し、彼女は激しく咳込んだ。

「き、貴様……」
「ん?」
「なぜ……けほっ……助けた」
「…………アンタにはネギをもっと痛めつけて貰わないと困る。だから助けたんだよ」

 シンクは杖に乗って救助に来るネギと茶々丸を見上げて答える。

「ふん……憎まれ口を叩いておいて、結局は弟が可愛いんじゃないか」
「…………そう……かもね」

 珍しく否定しないシンクにエヴァンジェリンは目を丸くする。

「お兄ちゃん! エヴァンジェリンさん!」

 ネギがスッと手を差し出してくる。シンクはその手を強く掴んだ。


 後書き
 一気にエヴァンジェリン戦終了です。やってみたかったのはシンクvsアリエッタです。尚、シンクの技はテイルズ格闘系全般ってことで。TOEのファラが基本です。
 次回から修学旅行編です。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze