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「Tales of the Negima! 第三節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-02-05 14:14)
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「ふむ……君がアリエッタ君と同じ世界から来た少年か……」

 異様に後頭部と髭と眉毛と耳たぶの長い老人―麻帆良学園学園長こと近衛 近右衛門は、ジッとシンクとタカミチを見る。

「しかし……随分と派手にやったようじゃのぉ」

 服が縦に破けているタカミチ、木に叩きつけられボロボロの服のシンクを一瞥し、フォッフォッフォと陽気に笑いながら髭を摩る。

「してタカミチ。どうじゃった?」
「魔法の実力はアリエッタ君より低いですが、接近戦では彼女を遥かに凌駕しています。単純に肉弾戦なら僕でも敵わないですね」
「ほほう」
「性格の方は若干捻くれてるようですが、芯は通ってます。その力を悪用するようなコトは無いと思われます」
「それ、褒めてんの?」
「勿論」

 疑わしそうにタカミチを見るシンク。

「ふむ……問題が無いのなら特に束縛する必要も無い。して、君の名前は?」
「シンク・ダアト……」
「シンク君か。君はコレからどうするのかね?」
「別に。イギリスに戻る」
「そこから元の世界に帰る方法を探すのかな?」
「………………さぁね。僕はアリエッタほど元の世界に未練は無い。このまま、こっちに骨を埋めても構わないかもね」

 どうせ、ニ、三回(生まれたとき、地核に落ちたとき、エルドラントでの決戦)は死んでるし、と嘲笑するシンク。そう言った時の彼の深い闇を感じさせる瞳にタカミチは、思わず冷や汗を垂らしてしまう。

 しかし、学園長は「ふぉっふぉっふぉ」と笑いながら人差し指を立てた。

「なるほど。つまり、こっちの世界ではする事も無くて暇なわけじゃな?」
「……………」
「では、どうかね? ネギ君のサポートをしては?」
「は?」
「実はネギ君のクラス。あそこは学園でも1,2を争う色々と問題の多いクラスでな。ネギ君一人では修行といえど肉体的にも精神的にもキツいじゃろう」

 そう言われ、シンクは今もネギが問題にぶち当たっていることを思い出す。確かに吸血鬼やアリエッタのように魔法使いが複数居るクラスを受け持つのは大変かもしれない。

 そこでシンクが影ながらネギをサポートしてやって欲しいと学園長が頼んで来た。

「ま、バイトみたいなものじゃな。ネギ君の修行がスムーズに行われるよう」
「僕が手ぇ貸したら修行じゃなくなるんじゃない?」
「かと言って君もネギ君が気になるじゃろ?」
「…………」
「図星じゃな?」
「…………この爺さん、始末していい?」
「おいおい」

 人を食った物言いな学園長に、シンクは血管を浮かせてタカミチに尋ねる。冗談に聞こえないシンクの台詞にタカミチは苦笑した。

「君が元の世界に未練が無く、帰るつもりもないのであればソレはソレで構わん。
 じゃが、このままイギリスに帰って日一日を無為に過ごすのではなく、多くの人と触れ合い、この世界で何をしたいのか見つけるのも良くないかな?」
「何をしたいのか……ねぇ」
「どうかね?」

 学園長の問いに対し、シンクは「しばらく考える」と答えて学園長室から出て行った。
 シンクが部屋から出て行ったのを見計らい、タカミチが学園長に尋ねる。

「良いんですか、学園長? ネギ君の修行のサポートを頼んで」
「ふむ……彼が、こちらの世界に残るのであれば、その力はマギステル・マギになり、多くの人を助けるコトが出来るじゃろう」
「…………」
「さて、ところでタカミチ。エヴァを呼んで来てくれんか?」
「エヴァを? なぜ?」

 急に話題を変える学園長にタカミチは驚く。エヴァンジェリンの事はタカミチも知っている。その彼女を呼んでくれと言われたら気になるだろう。

「何。ちょっとした注意じゃよ」


「ったくもう! 下着ドロのオコジョなんて、とんでもないペットが来たもんだわ!」
「まーまー。きっと布の感じが好きなんやろ」

 ネギ、明日菜、木乃香は朝の登校に走っていた。その中で明日菜の機嫌が悪いのは、ネギの肩に乗っているカモが彼女らの下着を布団代わりにしていたからだった。

「んじゃ、ネギのパンツだっていいじゃない!」
「女物やないと柔らかさがイマイチなんと違う?」

 下駄箱に入ると同居人2人を他所に、ネギは何か探すように首を左右に振る。

「よう兄貴、さっきから何をキョロキョロしてんだよ?」
「え……いや、ちょっとね……」
「なァ〜に落ち込んでんだよ? 相談にのるぜ、兄貴!」
「うーん……じ、実はウチのクラスに問題児が……」
「おはよう、ネギ先生」
「!」

 ネギがカモに説明しようとした時、彼に2人の生徒が挨拶して来た。ネギは思わず身を硬直させる。

 長いウェーブのかかった金髪とネギと同じくらいの背丈の少女。しかし、その瞳は凍てつくように冷たく、底知れぬ威圧感を秘めている。
 もう一人は長い黄緑のストレートの髪を持っており、背が高く耳にはアンテナのようなものを当てている。その瞳には生気が感じられない。

「今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ、ネギ先生が担任になってから色々楽になった」
「エ、エヴァンジェリンさん、茶々丸さん!」

 背の低い金髪の少女こそがエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。真祖の吸血鬼にして歴戦の最強の魔法使いである。
 しかし、彼女はネギの父親こと伝説のサウザンドマスターにより、呪いをかけられ、魔力を奪われてしまい、普通の少女として15年もこの学園の中学生をしている。その為、彼女はその血縁であるネギの血を狙っているのだ。

 そして彼女に付き添っている長身の少女が、絡繰 茶々丸。エヴァンジェリンのミニステル・マギであり、ロボットである。

「くっ……」
「おっと。勝ち目はあるのか?」

 背中の杖に手をかけるネギをエヴァンジェリンが制する。校内で戦うのは互いの為だと言い、彼女はネギに手を出さず去っていく。

「そうそう。タカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また生徒を襲われたりしたくないだろ?」
「うぐっ……」

 強烈な捨て台詞を残して。

「うわああ〜〜〜〜〜〜ん!」
「ネギ!」

 ネギは泣き出して走り出した。慌てて明日菜が追いかける。

「ネギ! 待ちなさいよ!」
「ネギの兄貴、しっかりしろよ!」
「ううっ……言い返せないなんて、僕はダメ先生だ」

 階段の踊り場で落ち込むネギ。

「あの二人ッスね!? あの二人がその問題児なんスね!?
 許せねぇ! ネギの兄貴をこんなに悩ませるなんて!! 舎弟の俺っちがぶっちめて来てやんよぉっ!!」

 ミニサイズの釘バットを持ってエヴァンジェリンと茶々丸に文句を言いに行こうとするカモ。

「あのエヴァンジェリンさんは実は吸血鬼なんだ……しかも真祖……」
「く、故郷(くに)へ帰らせて頂きます」
「コラ」

 が、ネギの言葉にいきなり帰り支度をして帰ろうとするカモの尻尾を明日菜が掴んで引き止める。

「そして、あの茶々丸さんがエヴァさんのパートナーで、僕はあの二人に惨敗して今も狙われてるんだよ」
「(なるほど……パクティオーの力を感じたのはそのせいかー)
 それにしても良く生き残れたなあ、兄貴。吸血鬼の真祖って言やあ、最強クラスの化け物じゃないッスか」
「何か魔力が弱まってるらしいのよ。次の満月までは大人しくしてるつもりらしいわ」
「なるほどな……フフ、でも安心しろよ。そーゆーことならいい手があるぜ」
「えっ!? 何かあの二人に勝つ方法があるの!?」

 自信満々なカモにネギと明日菜が驚愕の眼差しを向ける。

「ネギの兄貴と姐さんがサクッと仮契約を交わして、相手の片一方を二人がかりでボコッちまうんだよ!」
「え、え〜!? 何それ!?」
「僕とアスナさんが仮契約〜!?」
「姐さんの体術は見せて頂きました。いいパートナーになりますぜ」
「で、でも二人がかりなんて卑怯じゃ……」
「ひきょーじゃねーよ! 兄貴だって二人がかりでやられたんだろ!? やられたらやり返す! 漢の戦いは非情さ!」
「で、でも……」
「それに何だったら旦那やあの召喚獣使う嬢ちゃんにも協力して貰うってのはどうだ!?」
「「えぇ〜〜〜!?」」

 そこでシンクとアリエッタの名前まで出すカモに驚愕するネギと明日菜。

「無理……です」
「「「うわ!?」」」

 が、いきなり二人と一匹の間に割って入る人物が居た。

「ア、アリエッタさん?」
「おはよう……です。ネギ先生」

 唖然となるネギに挨拶するアリエッタ。

「シンク……ドコか行っちゃいました」
「え!? お、お兄ちゃん、もう帰ったんですか!?」
「多分……アリエッタが起きたら、もういなかった」
「って! アリちゃん、シンク君と同じ部屋で寝たの!?」
「?」
「首傾げないで……」

 ネギみたいなお子様ならともかく、シンクのような思春期真っ盛りな年齢の少年と一緒の部屋で寝るのは流石にヤバいとアリエッタに諭す明日菜。
 が、アリエッタは首を左右に振った。

「シンクは昔からの仲間。恥ずかしくないです」
「昔から……あの、アリエッタさんとお兄ちゃんって……」
「内緒……です」

 ドコか悲しそうな表情を浮かべて返すアリエッタに、ネギ達はそれ以上質問出来なくなった。

「後……アリエッタ、ネギ先生に協力できないです」
「え?」
「エヴァンジェリンさんは最強クラスの魔法使い。アリエッタのお友達……傷つけたくないです……もう……」

 そう言って、懐からカードの束を取り出し、ジッと見つめるアリエッタ。

「ココでは、この子達と一緒にいられない……だから今度はアリエッタが、この子達を守る……です」

 一礼し、アリエッタは階段を上がって行った。

「…………アリちゃん、クラスじゃ静かな方だけど、魔法使いだったのは意外よね」
「はい……」
「けど、旦那や嬢ちゃんの力が借りられないのはイテェなぁ……しょうがねぇ! ココはやっぱり姐さんに!」
「ちょ、ちょっと! 私はイヤよ! 仮契約って昨日やってたヤツでしょ。何かチューするんでしょ!? バカみたい」
「………ああ、もしかして姐さん、中3にもなって、まだ初キッスを済ませてないとか?」
「な……!?」
「フフフ。いや、これは失礼。じゃあ、仮契約と言えど、抵抗あるでしょーな」

 カモの挑発するような物言い(というより本当に挑発)に明日菜は、顔を少しだけ赤くしてキッパリと言った。

「な、何言ってんのよ!? チューくらい何でもないわよ! た、ただ何で私がパートナーとかやる必要が……」
「じゃ、OKと言うことで」
「コ、コラ! 人の話をちゃんと……」
「大丈夫。この作戦なら楽勝スよ。兄貴はどーです?」
「うう……!」

 ネギは、次の満月が来る前に反撃するべきだと思い、それにこのままだと先生が失格になってしまう。が、英国紳士として余り卑怯と思える手は使いたくないという良心の呵責に悩まされるネギ。

 そして導いた結果は。

「わ、分かった! やるよ、僕!!」
「よっしゃ、そーこなくっちゃ!」
「え〜!? 何勝手に決めてんの!?」
「お、お願いします、アスナさん! 一度だけ! 一回だけでいいですから!」

 やましい気持ちなど微塵もなく、必死に懇願してくるネギ。その潤んだ瞳で見つめられ、明日菜は困り果てた。

「…………もうっ。ほ、本当に一回だけだよ?」

 折れた明日菜。
 カモが魔法陣を床に描き、その中にネギと明日菜が入る。

「パクティオー!」

 魔法陣は光り輝き、中の2人を包み込む。

「(げ……な、何コレ? ちょ、ちょっと気持ちいい……)」

 妙な気持ちの昂ぶりを感じる明日菜だったが、コホンと咳払いしてネギに言った。

「ホ、ホラ、行くよ。いい?」
「は、はい」

 頷きネギは目を閉じる。明日菜はネギの顔を両手で沿え、その額に口付けた。

「あ、姐さん! おでこはちょっと中途半端な……」
「い、いいでしょ、何でもー!」
「えーい! とりあえず仮契約成立!!」

 光はより強く発光した。


「ふわ……」

 シンクはカフェテラスにてコーヒーを飲みながら学園長に言われたことを考えていた。が、朝が早かった為か、コクコクと舟を漕ぎ始める。
 日本の春のポカポカした陽気と桜の目に映る優しい色が、より眠気を誘う。

 その際、シンクは手がカップに当たり、コーヒーを零してしまった。

「熱っ!」

 コーヒーが手にかかり、その熱さで、しっかりと意識を取り戻した。テーブルにコーヒーが零れたので、近くのテーブルから台拭きを探そうとすると、スッとハンカチを差し出された。

「どうぞ……」
「ん? ああ……どうも」

 ハンカチを受け取り、テーブルを拭くシンクに、ハンカチを差し出して来た人物が話し掛けた。

「ネギ先生の……お兄様とお見受けします」
「誰、アンタ?」

 テーブルを拭く手がピタッと止まり、シンクは振り返った。

「絡繰 茶々丸と……申します」
「ふ〜ん……アンタが」
「? 私のコトをご存知で?」

 意外そうな顔になる茶々丸。シンクは髪を鈴で止めた女から聞いてると答え、茶々丸は、それが明日菜だとすぐに分かり、納得した。

「それで? 僕に何か用?」
「マスターからのご命令で……アナタがネギ先生の味方となり、我々の敵にならないかどうか見極めろ、と」
「へぇ……まさか、こんな所でやる気?」
「いいえ。他の方々に迷惑がかかります……なので……特に何もしません」
「何ソレ?」

 呆れ果てるシンクに、茶々丸は一礼するとそこから立ち去る。

「ドコ行くの?」
「少々、買い物に」
「ふ〜ん……じゃあ僕も連れてってくんない?」
「?」
「アンタがネギにどれほどの脅威になるのか知りたいし……僕は貸しを作るのはともかく、借りを作るのは大嫌いなんだよ」

 そう言ってハンカチを見せるシンク。茶々丸は、ジッとシンクを見つめ、口を開いた。

「ネギ先生が心配なのですね」
「違うっ」
「恥ずかしがらなくても弟を心配するのは、素晴らしいコトだと思います」
「だから違うっ」

 ちょっとだけ頬を染め、シンクは茶々丸に付いて行った。


「申し訳ありません。荷物を持って頂いて」
「別に……これでハンカチの借りは返したよ」

 買い物帰り、シンクと茶々丸は土手沿いに歩いていた。シンクの手には買い物袋が下げられており、ソレを訝しげに見て茶々丸に尋ねた。

「何で、こんなの沢山買ったの?」
「必要なので」
「………ふーん」

 端的にしか話をしないシンクと茶々丸。その2人をこっそりと尾行する者達がいた。

「お、お兄ちゃん?」
「ちょっとネギ! 何でシンク君が茶々丸さんと一緒に居るのよ!? 帰ったんじゃなかったの!?」
「こりゃあ予想外だな」
「ど、どうしよう、カモ君!? お、お兄ちゃん、ひょっとして茶々丸さんの味方を……」
「いや! まだ、そうと決まったわけじゃねぇ! それに旦那がいたとしても戦況じゃ2対2だ!」
「で、でも……お兄ちゃんバリバリの格闘タイプだよ?」

 茶々丸と2人合わせて接近戦コンビ。仮に明日菜がどちらか一方を食い止めたとしても、もう片方が呪文詠唱中のネギに攻撃して来ては意味が無い。

「安心しろって、兄貴。旦那が兄貴の敵になると思うか?」
「…………僕、一度もお兄ちゃんに褒めて貰ったりしたこと無い。馬鹿にされたことなら一杯あるけど……」
「アンタ、ソレって本当に兄代わりなの!?」
「それはその…………色々ありまして。それに、お兄ちゃん、本当は優しいんですよ」

 えへへ、と普段は見せない兄に甘える弟のような笑顔を見せるネギに、明日菜は嘆息した。

「まぁ、最悪な状況は旦那が敵に回るコトだが、あの吸血鬼よりは何ぼかマシだ。なら狙いは茶々丸ってヤツだけだぜ。
 隙を見て、ボコッちまおうぜ」
「ま、まだダメだよ。人目に付き過ぎる……」
「何か辻斬りみたいでイヤね。しかもクラスメートだし」

 いまいち気の乗らない明日菜だが、相手はそのクラスメートを襲ったりする悪い奴らなので何とかしないと、と気持ちを切り替える。

「ん?」

 が、そこでネギ達はシンクと茶々丸の進路の前で泣いている女の子に気づいた。

「うえーん! うえーん! あたしのフーセン! あたしのフーセン!」

 見ると女の子の風船が桜の木の枝に引っ掛かっていた。

「何見てんの?」
「フーセンが……」
「だから?」

 突然、ガシャっと茶々丸の服の背中の一部が『開いた』。中からはバーニアが出現し、両足の裏と背中から火が吹き、空に浮かび上がって風船を取った。
 その際、木の枝に頭をぶつける。

「わー! お姉ちゃん、ありがとー!」

 風船を取って貰い、女の子は笑顔になって礼を言う。

「…………あんなの取って、アンタに何か利益あるの?」
「?」
「頭ぶつけて痛い思いまでしてまでしてやることなの?」

 シンクのぶつけてくる疑問に対し、茶々丸は無言で彼を見つめる。
 そこへ、茶々丸の名前を呼んで2人の子供が駆け寄って来た。

 その様子をネギと明日菜はポカーンと見つめていた。

「そ、そーいえば茶々丸さんって、どんな人なんです?」
「えーと……アレ?」

 茶々丸が普通に火を吹いて飛んだコトに驚くネギの疑問に、余り気にかけていなかった明日菜も唖然となっている。

「いや、だからロボだろ。流石、日本だよなー。ロボが学校通うなんてよ」
「じゃ、じゃあ人間じゃないの!? 茶々丸さんって」
「えええ!?」
「見りゃわかんだろぉ!?」
「い、いやーほら私、メカって苦手で」
「僕も実は機械は……」
「そーゆー問題じゃねぇよ!!」

 耳飾とか足の関節とか挙句には頭のゼンマイとか、明らかにロボの要素満点で、ちっとも気づかなかったネギと明日菜にカモがツッコミを入れた。

 その後、しばらく茶々丸の様子を観察していたが、彼女は歩道橋を渡ろうとした老婆をおんぶして階段を上がってあげたり、川に流されていた箱に入った猫を救助してあげたりと人々から感謝されていた。

 そんな光景を見たネギと明日菜の感想……。

「メチャクチャいい奴じゃないのー!! しかも街の人気者だし!」
「え、えらい!!」
「い、いや油断させる罠かも、兄貴!」

 物凄く彼女に抱いていたイメージを壊された気分だった。

「理解出来ないね……そんなになってまで助けて何の価値があるのさ?」
「…………」
「その猫だってそうだ。独りじゃ生きていけない。あのまま流されて野垂れ死んでいた方が幸せだった。
 何の力も無い奴は生きてる価値なんて無い……」

 茶々丸の行動が理解できないシンクは、文句を垂れるが無言で彼女は頭に載せていた猫を差し出した。

「…………何?」
「抱いてあげてください」
「何で僕が?」

 その疑問に答えず、ただ猫を差し出す茶々丸。シンクは舌打ちし、猫を抱きかかえる。
 猫は「にゃ〜」と鳴いて、シンクの胸に顔を擦り付ける。

「私と違って、アナタは生きてる温かさを感じられるでしょう?」
「…………」

 ジッと自分に擦り寄る猫を見つめるシンク。その時、教会の鐘が鳴った。それを聴いて茶々丸は再び歩き出し、シンクもその後についていった。
 教会の裏にやって来ると、影からひょっこりと猫達が顔を出した。茶々丸はシンクから買い物袋を受け取り、中からキャットフードの缶詰を取り出した。

 それを丁寧に開けて皿に移し、猫に食べさせてあげる茶々丸。その表情は、僅かではあるが柔らかい微笑を浮かべていた。

「…………いい人だ」

 その凄まじい善人ぶりにネギと明日菜は感動し、ホロリと涙を流す。

「ちょ……ま、待ってくださいニ人とも! ネギの兄貴は命を狙われたんでしょ。しっかりしてくださいよう!! 
 とにかく、人目のない今がチャンスっす。心を鬼にして一丁ボカーっとお願いします」
「で、でもー……」
「……しょーがないわねー」

 あんな光景を見せられたらハッキリ言って戦う気が起こらないが、事情が事情だけに仕方なかった。
 猫を帰し、缶詰を片付けている所へ、ネギと明日菜は出て行った。それにシンクと茶々丸も気づく。

「ネギ?」
「お、お兄ちゃん……」
「こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん。油断しました。でも、お相手はします」

 突然の登場に呆気に取られるシンクに対し、茶々丸は冷静に対応し、後頭部のゼンマイを外した。

「茶々丸さん、あの……僕を狙うのはやめていただけませんか?」
「……申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」
「ううっ……仕方ないです。
 ア、アスナさん……じゃ、じゃあさっき言ったとおりに」
「うまく出来るか分かんないよ」

 戦うしかない状況にネギと明日菜は戸惑う。が、その前にネギはシンクに尋ねた。

「お、お兄ちゃん。お兄ちゃんは茶々丸さんの味方なの?」
「は?」
「茶々丸さんの味方なら……僕……僕……」

 辛そうだが、決意の表れとして強く杖を握り締めるネギ。それを見て、シンクはほくそえんだ。

「だとしたら……どうする?」

 その言葉にネギは愕然となり、茶々丸も意外な表情になる。

「えぅ!? そ、それは……!」

 ガクガクと震え、杖を持つ手が緩むネギ。シンクは誰にも分からないよう、鋭い視線をネギに向ける。が、急にその表情を緩めた。

「安心しなよ。僕はコイツの味方じゃない。けどアンタに手を貸すつもりもない……コイツが生徒で、アンタが教師だったら、アンタが解決してみな」

 シンクが茶々丸の味方でないコトに安堵するネギ。が、手は貸して貰えそうになかった。
 ネギは茶々丸に向けて杖を突き出す。

「……では、茶々丸さん」
「ごめんね……」
「はい。神楽坂明日菜さん……いいパートナーを見つけましたね」
「行きます!!
 契約執行10秒間(シス・メア・パルス・ペル・デケム・セクンダス)!! ネギの従者『神楽坂 明日菜』(ミニストラ・ネギィ・カグラザカアスナ)!!」

 仮契約の力が発動する。ネギから流れ込む魔力に明日菜の身体能力は向上し、身体が羽のように軽く感じた。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……」

 明日菜という前衛に防御を任せ、ネギは呪文の詠唱に入る。理想的な魔法使いとその従者の戦法だ。
 茶々丸の腕を弾き、明日菜は彼女をデコピンで攻撃する。その動きは、茶々丸も素人とは思えないと言わしめる程だった。

「光の精霊11柱! 集い来りて……」

 明日菜が攻撃している間にネギの詠唱は進む。が、その間、彼の中は良心とカモの言葉がせめぎ合っていた。

『兄貴!! 相手はロボだぜ!? 手加減してちゃダメッス。ここは一発派手な呪文をドバーッと!!』

 教師として生徒を攻撃して良いのか? 問題児を更正するべきでは? と二つのジレンマだったが、手加減できない相手、というのが後押しとなり、ネギは高威力の魔法を放った。

「魔法の射手連弾(サギタ・マギカ・セリエス)・光の11矢(ルーキス)!!」

 光の矢が11本、茶々丸に向けて放たれた。それに茶々丸は気づくも、魔法の性質と自身の機能を瞬時に計算し、回避不能という結論に至った。

「すいませんマスター。もし私が動かなくなったら猫のエサを……」
「や、やっぱりダメーッ!  戻れ!!」

 しかし、ネギが突然、光の矢を自身へと戻した。光の矢は問答無用でネギに直撃する。

「ネ、ネギ!?」
「兄貴ーーー!?」

 余りにも予想外過ぎるネギの行動に驚愕する明日菜、カモ、そして茶々丸。
 しかし、爆煙の中から出て来たのは、傷だらけのネギではなかった。

「お、お兄ちゃん?」
「……………」

 いつの間にかシンクがネギの前に立っており、両拳に魔力を集中させていた。どうやら全ての矢を叩き潰したようである。

 茶々丸はホッと安堵すると、空を飛んでその場から離れて行った。

「あ、あ〜! 逃げられちまった……」
「お兄ちゃん……何で?」
「別にアンタを助けたわけじゃないよ。後ろ見てみな」

 言われてネギは振り返ると、そこには先程、茶々丸が餌を上げていた猫達がいた。その中には茶々丸が助けた猫もいる。

「折角、ココまで連れて来てやったのに、攻撃に巻き込まれたら苦労が水の泡だ」
「うわ……自分勝手な理由」
「ふん……」


 翌日、カモはネギ、明日菜に怒鳴っている。その横ではなぜかシンクが呑気に茶を啜っていた。

「兄貴、ヤバイよ! 何であの茶々丸ってロボに情けをかけたんスか!?
 昨日、あそこで仕留めておけば万事解決!! こっちの勝ちだったのに……とにかく茶々丸を逃がしたのはマズイッス! 昨日までは奴ら油断してたけど、兄貴にパートナーがいるってのを奴がチクッたら絶対二人がかりで仕返しに来るって!」
「で、でもカモ君、やっぱり茶々丸さんは僕の生徒だし……」
「甘い!! 兄貴は命を狙われてんでしょう!? 奴は生徒の前に敵ッスよ、敵!」
「ちょっとエロオコジョ、そこまで言うことないんじゃない?」
「カモッス、姐さん!」

 一方的に怒鳴るカモに対し、明日菜が意見する。

「エヴァンジェリンも茶々丸さんも二年間、私のクラスメートだったんだよ? 本気で命を狙ったりとかまでするとは思えないんだけどなぁ……」
「実際、あの茶々丸とかいう奴は困ってる人間を助ける奴だったけどね」
「甘い!! 二人とも甘々ッスよ!」

 カモは彼専用の小型PCを使い、どこかのサイトにアクセスする。

「見てください。俺っちが昨晩まほネットで調べたんスけど、あのエヴァンジェリンって女、15年前までは魔法界で600万ドルの賞金首ですぜ!?」

 モニターには、エヴァンジェリンの顔写真と斜線を引かれて消された$の金額と『WANTED』の文字……早い話が手配書が映っている。

「確かに女子供を殺ったって記録はねーが、闇の世界でも恐れられる極悪人さ!!」

「なんでそんなのがウチのクラスにいるのよ!?」

 思わず叫ぶ明日菜。そんな昔の西部劇やゲームの話じゃないのに、そんなのが自分のクラスにいたなんて未だに信じられなかった。

「と、いう訳で旦那。ココは一つ、旦那の協力を……」

 へっへっへ、と揉み手でシンクに詰め寄るカモ。

「旦那だってネギの兄貴が、このままやられちゃうのはイヤでしょ?」
「別に」
「はぅ!」
「ちょ、ちょっと……」

 即答するシンクに、ネギは項垂れ、明日菜が声を上げる。

「これはネギの生徒の問題だろ? 僕は部外者だよ」
「う……」
「誰かに頼ってばかりいるんだったらイギリスにでも帰るんだね」
「う、うあぁーーーん!!」

 突然、ネギは泣き出し、杖に乗って窓から飛び立って行った。

「ネギーッ!?」
「兄貴ーッ!?」
「ちょっとシンク君! あそこまでネギを追い詰めなくても……」

 シンクに文句を言いかけた明日菜だったが、彼を見て言葉を失った。
 ただ、穏やかに。普段の彼からは想像できない優しく、慈愛に満ちたような微笑を浮かべ、ネギの飛んで行った空を見つめた。

「大丈夫……彼はとても強い少年です。これぐらいで歩みを止めるコトはありません」
「え? あ……」
「ん? …………何?」
「へ?」

 が、急にいつもの無愛想な顔つきに戻るシンクに、明日菜とカモは戸惑う。

「あの……シンク君」
「旦那、今……?」
「何? 僕、何か言ったの?」
「い、いや……何でもない」

 明日菜とカモは見間違いかと思い、首を左右に振り、ネギを追いかけて行った。

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