「ふん、コピー忍者のカカシも他愛な・・・・・!?」
何かに気づき、その瞬間主人は一瞬で―『普通』の人間ではありえない素早さで―応接室の端へと跳びずさる。
――――次の瞬間、クナイが2つ突き刺さった。
1つはたった今まで主人が座っていた椅子の背、胸の中央に位置していた場所に。もう1つは短刀を振るったお手伝いさんの額のど真ん中に、深々と。
短刀を握ったまま、ドサリと倒れる。
「・・・いつ気づいた。」
「一般人の様に気配はなるべく発するようにはしていたみたいだが・・・・歩く音は聞こえなかったのさ。」
「ふん。まさか忍びの初歩中の初歩のお陰で気づかれるとはな。」
「ま、こういうのは職業病みたいなものだからね。」
カカシは天井に張り付いていた。お手伝いが短刀を振るった瞬間、自分が座っていた椅子と変わり身で入れ替わっていたようだ。
現に身代わりで切られた椅子はズッパリと、背もたれの上の部分が断ち切られている。
「どうやら依頼人や他のお手伝いは全員アンタらに殺されたみたいだな。」
「ご名答・・・・コピー忍者カカシ、お前もここまでだ。」
ジジジ・・・と何かが燃える音。
主人はさっき同様床を蹴って素早く応接室から仕切りの襖を突き破りながら飛び出し、音の正体に気づいたカカシもそれを追う形で―床に下りてから―部屋から飛び出す。廊下を飛び越え、中庭へ出る。
その背後で、密かに応接室に仕掛けられていた起爆札が炸裂した。
轟音。爆風。
爆発の余波で、応接室の上下に位置する部屋もまとめて吹っ飛ぶ。中庭に降り注ぐ破片。
カカシは爆風の影響を受けた風でもなく、危なげなく中庭の中央に着地する。
そして顔を上げて・・・・・・微かに舌打ちした。
中庭を囲む形で建っている屋敷、その屋根の上に9人の男達が立っていた。
忍び装束の男が8人。額当てに掘り込まれているのは雲隠れのマーク。主人に化けているのがどうやら指揮官らしい。案の定、変装を解いた指揮官の姿も雲隠れの忍びだった。
「どうやらお目当てはサスケか・・・」
数年前、かつての雲隠れの忍頭が白眼の秘密を探ろうと日向一族の1人である日向を攫おうとした事件をカカシは思い出した。そろそろほとぼりが冷めたと思った彼らは、今度は写輪眼の秘密でも探ろうと考えたのだろう。
(今となっちゃ、写輪眼は『希少種』だからな)
イタチがサスケを除いてうちは一族を滅ぼした今となっては、写輪眼を持っているのはうちは直系の2人(サスケはまだ会得してないが)とカカシの3人のみ。
3人を捕らえようと思うとイタチは強すぎて論外。カカシもかなりの実力者だし、第一うちはの血を引いていないカカシの写輪眼は不完全なものだろう。
となると、消去法で最後に残る標的は――アカデミーを出たばかりで、まだまだその才能が開花しきれていないサスケ。
捕らえるにはもってこいの『獲物』
(こいつらは囮で俺の足止め、本命はその間にサスケを確保するつもりか・・・単純な作戦だが、面倒だな)
屋根の上の忍び達が身構え、各々の得物を抜き放つ。カカシもホルスターのクナイに手を伸ばし、顔の前で逆手に構えていつでも跳躍できるよう屈んで足に力を蓄える。
時が、止まる。
―――――爆発で脆くなっていた建物の床の一部が熱に耐えかね、崩れ落ちる。
それを合図に、『殺し合い』は始まった。
気を失ったサクラに近づく影があった。
雲隠れの額当てをした男は音も無く、少女に近づく。その手には一目で切れ味が鋭いとわかる位に研ぎ澄まされたクナイ。
男はサクラの意識が無いのを確認すると、ピンク色の髪を掴んで顔を上向かせ、喉にクナイを当てた。刃が微かに触れただけでその細く白い首に一筋の血が流れる。だが、少女が気づく気配は無い。
楽しそうに顔を歪めた男は、一思いに喉を切り裂こうと振り被った―――――その時。
「オイ。」
男は顔を上げた。
目の前に、中身が詰まった大きな籠が飛んでくるところだった。
叩き落す。が、それに続いて見えたのは、こっちに突っ込んでくる黒い影。
とっさにサクラから跳びずさる。顔のすぐそばを、小さめの足が通り過ぎていく。
「何してやがる、テメエ。」
影の正体。
それは『標的』である筈の、うちはサスケだった。
おいおい、何なんだよこのイベントは!
こっちは意外と早く薬草を集め終わったから一番近くのサクラの所を手伝いに来てみりゃ、どっかの男がサクラを襲ってるし。
しかもサクラはなぜか気絶してるし、おまけに怪我までしてるし。
襲ってた男を見てみれば、雲隠れの額当てなんかしてるし。クナイなんか構えて俺を睨んでるし。
あれかこれ、もしかして実は雲隠れの額当ての人は木の葉の里の人で、抜き打ち的に襲ってこっちがどんな対応をするのか評価したりすんのか!?
内心絶叫しつつも、何とか顔に出ないよう努力しながら意識の無いサクラを見る。
しっかり様子を見ようとサクラを抱えあげて・・・・・ぬるりと、手に生暖かい物がついた。
思わず視線を落とす。
「・・・・・クソっ」
それは、紛れも無い血だった。一気に自分が青ざめていくのがわかる。
別に血が流れているのを見るのは初めてじゃない。現実世界にいた頃も怪我とかはしたし、こっちに来てからはナルトやヒナタ相手の模擬戦で怪我はしょっちゅうしていた。
問題はその血が俺でもなく、ナルトでもヒナタでもなく、サクラから流れている血だという事で。
意外な相手の血に、俺は気を取られ過ぎていた。
ここはもう、『実戦』の場だというのに。
「やはりあの『うちはの末裔』でもガキだな。」
「な・・・・・ッハッ!?」
気づいた時にはわき腹に1発貰ってた。手加減された様で骨は折れなかったが、1mぐらい吹っ飛ばされて無様に転がる羽目になる。
痛い。息ができない。
痛みに悶絶していた俺はもう1発蹴りを食らった。メキッ!て体の中で嫌な音がして、相手のつま先がわき腹にめり込む。多分、肋骨にヒビ位は入ったかもしれない。
「せっかく俺の楽しみな一瞬を邪魔してくれて・・・よっ!」
今度は顔面を狙った蹴りが飛んでくる。咄嗟に右腕で受け止めた俺は、その衝撃をうまく利用して半回転しながら立ち上がる。
気づいた時には、無意識の内に両手にホルスターに収まっていた短刀を握っていた。そして相手をよく観察する。
感じるチャクラの量からおそらく中忍レベルだろう。
行動や口ぶりからして、相手を傷つけるのに躊躇いはまったく無く―――むしろ、楽しんでやがるこの野郎!
あの時俺が乱入してなきゃ、あのままサクラの喉をあっさりと掻っ切ってた筈だ。殺す事にも躊躇いは無いだろうし、これまでにも何人か殺した事がある筈だ。
何で俺の事を知っているのかはこの際置いておく。
方やこっちはアカデミーを出たばかりの下忍が2人、しかも1人は薬か幻術か何かで意識は無い。
そして意識のある方の俺はというと、息する度に激痛が走るもんだからアバラが少なくともやられてるのは間違いない。お陰でチャクラも集中して練れないと切れるんだから嫌になる。
(だーかーらー、原作じゃこんな場面なかったじゃねーか!!)
どこかの誰かに向けたものか分からない叫びが頭の中で響く。
しかし、相手がクナイを再び構えて戦闘体制を取るのを見て、俺は無理矢理頭を切り替えた。
(とにかく今は、この状況をどうにかする事だけ考えろ、俺!!)
そして俺も、一対の短刀を逆手に構えて相手と相対する。
時が、止まる。
―――――依頼人の屋敷の方角から、唐突に爆発音が聞こえた。
それを合図に、俺の初めての『殺し合い』が幕を開けた。
あとがき:次回こそ血まみれドパドパ(何)の予定です。