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▽レス始

「.hack//intervention 第2話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-06 22:22)
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妙な夢を見るようになって約1週間。

その間も、欠かすことなくあの世界へ飛ぶことになった。大学の授業中に居眠りしてしまった時でさえも。


夢の世界では主に自分のPCの機能を調べたり、ダンジョン探索して敵と長時間殴りあったり。

現実の世界では今まで通りの生活をしながら、『The World』について色々調べてみたり。


そうしているうちに、俺はこの夢の世界が唯の幻想世界でないことを確信した。


何せ俺の知らなかった設定までも組み込まれていたんだから。


.hack//intervention 『第2話 いきなりのイレギュラー登場』


俺は今、夢世界の方にいる。

あれから色々わかったことがあった。


まず俺のいるこの『The World』の世界がどの時代設定なのか。

この答えに辿り着く切欠となったのが、俺以外のPCがまるで見当たらないという事実。
一度、手当たり次第にワードを入力して様々なエリアへ飛びまくったことがある。
ゲーム本編やそれ以前の物語においても重要なポイントとなるエリア『隠されし 禁断の 聖域』にも行ってみた……が、全てスカ。
結局出会ったのはモンスターのみ、という何とも惨々たる結果だった。

この『The World』は全世界的な規模のゲームであり、そんな中人っ子1人見当たらないのはおかし過ぎる。
そこで発想の転換をし、もしかすると誰も入れない時期があったんじゃないか? と考えるようになった。

するとビンゴ、確かにこの世界には誰もPCが入れない時期が存在したのだ。

そこから推測するに、どうやら俺は『The World』とその前身である『fragment』の間に位置するらしい。
つまり今は前身から後身へ変わる途中で、『The World』が公に発表される前だからまだ誰も居ないというわけだ。
というかそれ以前にサーバー上に存在しない筈なんだけど、どうして俺は存在できるのやら。


次に俺のバグPCについて。

いきなりだが結論から言わせて貰うと、このPCは“色んな意味で”バグっている。

名前は変えようが無く、いくら殴られても体力は全く減らない。
更に装備欄は空白のままで、ダンジョンで手に入れた物を装備させようとしても装備できない。
というか、どの武器や防具も手に持ったり身に着けたりは出来るがパラメータが変わらない。
ルートタウンに行くことが出来ない代わりにエリア間の直接移動が出来る。
唯、俺が現実世界のゲームで見たワープのような移動とは違って、周囲の空間が歪んで溶け込むようなエフェクトに変わってしまっている。

そしてここからは追加事項になる。
1つはこのバグPC、以前俺の予想した通り他のバグモンスターと同様にグラフィックが壊れていた。
しかもその場所が…………顔の左半分。
具体的に言うと、フィールド上の池に映された俺の顔は左半分が真っ黒な上に数字やら記号やらが流れており、更に音の無いノイズまで走っていた。
元々のPCの顔が結構好きだったからちょっと残念。

もう1つはPCなのに本物の人間みたいな感覚。でも中途半端。
バグってるせいかゲームの世界だからか嗅覚・痛覚は感じないが、それ以外の聴覚・視覚・触覚は現実の自分のようにほぼ正確に伝わってくる。
尤も、正確に伝わってくるのは俺のPCを触った時に限る。他の草花等では微妙な違和感を感じるのだ。

ついでに小さく書かれていて最近まで気がつかなかったんだけど、
アイテム欄が1$/#ってな感じで壊れてる。というよりむしろ持てるアイテムの種類が無限状態になってる。現在の数も分からない。
そこに収納されるアイテム自体に別段異常は見られないからあんまり気にしていないが。

まあ大まかに言ってこんな感じだ。それ以外のことは追々説明するとしよう。


「グゥオオォォオォォオォッ!!」

「ふッ! ほッ! はッ! あと残り300ッ!!」


只今ダンジョンにて敵モンスターと素手で交戦中。

俺のレベルは12、それに対して相手、大型のリザード族であるダライゴンのレベルは…………44。
さっきから噛み付きやら炎ブレスやらすごい勢いで仕掛けてくるが、こっちはバグPC。まるで効果なし。
奴のHPは元々3570なんだが、俺は2日前からここで相手を殴り続けて、ようやく残り300のところまできたのだ。


そもそも、俺がこんな無駄に時間のかかる戦いをしているのにも理由がある。

切欠は現実とこの世界を行き来しているうちにある疑問が頭をよぎったこと。


“この妙な夢はいつ終わる?”


俺をこんな世界に巻き込んだ元凶も気になるが、それ以上にこの問題は切実だ。

元凶に関しては大まかではあるが目処が立っている。
というのも『The World』関連の事件のほぼ全てにおいて、ある大いなる存在が関与していたから。

そいつの名は『モルガナ・モード・ゴン』。
『The World』における管理・運営を行う自律型プログラムであり、ある意味『The World』そのもの。
コイツがどういった経緯で関与していたか、の説明は敢えて省かせてもらう。俺自身まだ全部調べ終わったわけじゃないから。


とにかく今問題にすべきは元凶じゃない。どうせ最期にはゲームの主人公ことカイト達にやられちゃうんだし。

それより重要なのは、この元凶が倒されることで俺のこの状況は終わりを告げるのかどうか。
その時点で終わるなら、これから俺は出来る限り物語に関与せずにいればいい。後は本来の主人公達が勝手にやってくれる。
そうなりゃ俺は何も考えることなくこの状況を楽しめるだろう。


でももしそうじゃなかったら?


例えば俺のPCが戦闘不能になるのが条件だったら…………微妙だな。
俺が倒されるにはデータドレインされてPCのデータを通常の値に書き換えてもらう必要がある。
そしてそれが出来るのはカイトか、モルガナの化身である八相達のみ。コイツ等と戦えばデータドレインはして貰えるだろう。

だけどこの手は正直あんまり使いたくない。
データドレインが単に俺のPCデータを改竄するだけで済むという確証がまるでないからだ。
現にこの攻撃を受けた普通のPC達は皆、肉体は昏睡状態になり意識は『The World』に閉じ込められてしまったんだから。

一応最悪の手段としては使えるかもしれない、ただそれだけだ。


はっきり言ってこの件は答えが断定できない。
いや想像は幾らでもできるが、どれも正しそうで同時にどれも間違っているかもしれない。
1番可能性が高いのは“モルガナが消滅すること”だと思うが、それじゃない可能性だって十分にありうるのだ。


今はまだ判断材料が足りなさ過ぎる。
そこで俺は自分に出来ることを現実・夢の両方の世界で考えた結果、ある結論に達した。


それは――――“エリア行商人”になること。


実は俺のメニューからBBSを見ることが出来ない。
このままの状態ではルートタウンに行けない俺は碌に情報を得られないし、下手をすると解決のきっかけを永遠に失ってしまいかねない。

そして考え付いたのが“エリア行商人”。

様々な装備品やアイテムを可能な限り持って初級〜中級レベルのフィールドやダンジョンを渡り歩く。
するとある程度慣れてきたプレイヤーらしいミスをして、大ピンチのところに遭遇。
主に回復アイテムが足りなくなったり敵が予想以上に強かったり。


そんな時に現れるのが“エリア行商人”

足りなくなった回復アイテムやダンジョン脱出アイテム、それにちょっと高めの装備品をBBSを初めとした様々な情報と交換して貰う。
バグPCだとバレるのは不味いのでローブについたフードで顔を隠し 、名前やメンバーアドレスも教えずにあくまで一期一会的な接し方に徹する。

ちなみに誰でもわかるような情報と態々交換という形を取るのは、相手に出会った事実を秘密にしてもらう為。賄賂みたいなもんだ。
尤も、どこまで秘密に出来るかなんてたかが知れているかもしれないが。それでもしないよりはマシだろ?

しばらく、具体的には物語の登場人物に出会うまではこのやり方を続けるつもりだ。
それから先は情報を得てから考えるしかない。


「おーらおらおらおらおらおらおらぁッ!! 残り40ッ!!」

「ガアァアァァアアァァッ!!」


で、大分時間が経っちゃったけど、結局俺がこんな高レベルのダンジョンに居る理由はそれだけ高価なお宝がでるから。
大体ここぐらいのダンジョンであれば、アイテム神像には40〜50くらいのレベルのアイテムが手に入る。

価値が高ければ高い程、いい情報を手に入れやすくなる筈だ。

それにこういう高レベルダンジョンであればその分強い巻物、つまり呪紋代わりのアイテムもよく手に入る。
何も装備出来ず全く呪紋が使えない現状、相変わらず1ダメージしか与えられない手足以外では唯一の攻撃手段となる。
しかも威力は通常通りでSPも使わないから一石二鳥。これからかなり重宝することになるだろう。


「無ー駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁッ!! 残り5ッ!!」


話は変わるが、最近この“呪紋使いの癖に拳闘士”スタイルが妙に楽しくなってきてる。

この体は精神的な疲れは出ても肉体的には全く疲れないし、呪紋使いであってもその体は現実より軽い。
慣れてくると殴ったり蹴ったりだけじゃなく、飛び膝蹴りや頑張ればサマーソルトだって出来てしまうのだ。
…………どう攻撃しようがダメージは1だけど。


「4ッ! 3ッ! 2ッ! 1ッ!」


これで相手のHPは残り1。

大型の敵と戦う時はいつも最後に大技を使うことにしてる。
深い意味はない、単に気分の問題。


んじゃ、そろそろ決めますか。


「はあぁぁぁぁぁッ!!」


右腕を力の限り回転させる。

俺が今から披露するのは、

小さい子供から大きな大人まで皆が知ってる、


愛と勇気だけが友達の寂しい奴が使う必殺技。


「アァァァァァン○ァァァァァンチッ!!!」


そしてうなる拳が炸裂すると共に……


「オォォォォン……」


ダライゴンは悲しき最期の雄叫びを上げながら消えていった。


さっきのダライゴンでこのダンジョンのアイテム神像までの敵は終わり。
マップ探索アイテム『妖精のオーブ』できちんと調べてあるから確実だ。

今はまだレベル上げをする段階じゃないから最短距離を進めば良い。余計な敵と戦う必要は無い。
まずはとにかく多くの種類のアイテムを出来るだけ沢山手に入れる必要がある。


「はてさて、一体ここのアイテム神像には何があるのやら……」


一番嬉しいのがパラメータアップアイテム。
所謂体力や物理攻撃力の基礎値を上げる類の物で、これはかなりの貴重品。
今まで1つしか見つけてない超レアだ。

あとは初ゲットになるアイテムであれば十分だ。


俺はそんなことを考えながらも、アイテム神殿への道を行く。
道中、宝箱を開けたり、宝箱代わりのオブジェクトを殴って壊しまくったりしながら。
偶にトラップ付きの宝箱があっても、解除アイテム『幸運の針金』を使うのが勿体ないからわざと無視したり。

最近になって、そういった感じで冒険というものを楽しむ余裕も出てきた。
アイテム神像のアイテムが新しい種類だった時なんか密かに喜んだくらいだ。

ネットゲームなんてやったことがなかったけど、もし全てが解決したらアイテムコレクターになってみるのもいいかも。


“まあいつ終わるのかも不明だけどな〜”なんて半ばヤケクソ的な軽い気分でアイテム神像に続く扉を開く。

仰々しい物音を立てながら開く扉。

そこにあるのは、


予想通りのアイテム神像と、


いつも通りの宝箱と、


「…………わぉ」


――――宝箱の上に浮いてる全身真っ黒な女の子だった。


(どうやら神様って奴は、俺に気楽な冒険なんて許してくれないらしい……)


その女の子は宝箱の上に座るようにして浮かんだままこっちをじっと眺めていた。

腰まで伸びた漆黒の髪には緩やかなウェーブがかかっている。
着ている服はこれまた“真っ黒”って言葉がそのまま似合うようなワンピース(っぽい感じの服)。
なのに肌は透き通るように白くて周りとのギャップのせいか、光っているような印象すら受ける。


そんな正体不明の女の子。

にも関わらず俺は恐る恐る、しかしながら確実に彼女の方へ向かっていた。


だって…………この世界に来て初の人型だったんだからしょうがないだろ?


現在、この世界は『fragment』から『The World』に変わる途中で他のPCは居ない筈。
ということで、目の前の女の子はおそらくNPC、つまり人が操っていない正真正銘この世界の住人だということになる。
俺が予想するに、何かのイベント用に創られたNPCかもしれない。

ここのダンジョンは他よりレベルが高い方だから誰も近づけなかった、とか十分あり得る。


頭の中で適当な仮説を立てながら件の女の子に近づいていく。
何だかんだ言いつつも結局は俺自身が興味を持ったから、なんだよな。

最初は俺と彼女の距離が開いていたせいで気づかなかったが、女の子の背丈はかなり小さい。
大体俺の腰に届くか届かないかってところだ。

次第に見えてきた顔の表情は好奇心そのもの。
首をかしげながらも、俺の様子を手足の先まで余すことなく観察しようとしているかのようだ。


そして俺と彼女の距離は縮まっていき……


「……さて」


その間は1mにも満たないものとなった。

そこで俺はとりあえず話しかけることにする。
どんなイベントキャラなのか気になるし、それ以上にこの世界で初の人型と話してみたい。
たとえそれがNPCであったとしても。


「君は一体何者なんだ? もしかしてイベントの景品とかあんのか?」


もしそうならかなりラッキーなんだけど。
イベントアイテムなんて普通数が限定されてるだろうから希少価値が高いだろうし。

しかし俺の思惑をどう受け取ったのだろうか?

彼女はさっきまでと変わらない態度で、


「…………ん〜?」


首を傾げつつ不思議そうな表情でそう答えてくれた…………って、


「いや“ん〜?”じゃなくて、君は誰? このイベントでの役割は?」

「…………ん〜?」

「……おいコラ人様を舐めてんのか? それともどっかおかしくなってんのか?」

「…………ん〜?」


まだ調整の済んでいないNPCだったのかもしれない。
そう考えでもしないと、この不可思議な受け答えの説明が付かない。

……おちょくられているのでなければ。


こっちはコミュニケーションが碌に取れなくて苛立ち始めてるのに、相手の女の子は至って呑気な様子。
出会った時からずっと変わらずに俺のことを眺めているばかり。


「あ〜ったくもうッ! このガキ、マジでぶん殴りたくなってき……………………ちょい待ち」


よ〜く目の前の彼女を眺め続けるうちに、奇妙な既視感じみたものが生まれてきた。

そういえばどこかでこんな格好をした女の子に会ったことが、いや見たことあるような気がする。

見たのはこの世界じゃなくて現実でだったような。

特に『The World』に関して調べている時だったような。

顔についてはよく分からないけど、確かこの子の服と髪の毛を真っ白にしたような感じだった。


そうだ、この子は……


「…………アウラ?」

「ッ!? うぅぅぅぅぅッ!!」


俺の言葉に、何故かいきなりうなり声を上げて睨みつけてくる目の前のコイツ。
その姿は全ての物語の鍵となる究極AI、アウラと瓜二つだったことにようやく気づいた。


……しかし何でいきなり怒り出す?

ついさっきまで全く俺に警戒心を持ってなかった奴が、“アウラ”と聞いただけで憎しみすら感じられるような物凄い形相で睨んでくる。
所詮NPCの筈なのに、見た目は10歳にも満たないようなガキなのに、その黒々しいオーラに不覚にもたじろいてしまった。


「お前…………アウラが憎いのか?」

「うぅぅぅぅぅッ!!」

「何故アウラを? アウラを敵視するなんてモルガナぐらいしか思いつかな…………あ、分かった」

「うぅぅぅぅぅッ!!「……ハロルドが創ったアウラの失敗作」ッ!? ん〜〜〜ん〜〜〜ッ!!」


今度は引きちぎれんばかりに首を振って否定してるけど、こりゃ当たりだな。

分からない人もいるだろうから簡単に説明しよう。
ハロルド、本名『ハロルド=ヒューイック』はこの世界の前身『fragment』の開発者。
この男は元々究極AIの開発をしてたんだが、一度は挫折。
しかしある事をきっかけに再び研究を再開、『fragment』を揺り籠に究極AIアウラを創ることになった。

その過程の中で生まれたのが先程言ったような失敗作、というわけだ。
ある意味親から見捨てられたとも言えるコイツ等は、この世界を放浪するAIとして生きているらしい。

まだまだ俺自身、現実で調べ終わったわけじゃないけど大体こんなところか。
何か忘れてるような気もするが、また思い出したらってことで勘弁してくれ。


さっきから力の限り首を振ってる目の前のコイツがそろそろ泣き出しそうな顔をし始めたし、な?

とにかくまずはまともに話せるようにしたい。


「え〜っと……悪かったッ! さっきの発言は謝るからちょっと落ち着いてくれない?」

「……………………あぅ」


子供のあやし方なんて碌に知ってるわけも無いから、とにかく謝ってみた。
柄にも無く、態々頭下げて。恥ずかしいが我慢だ、我慢。

すると彼女は一応許してくれたらしく、頬を膨らませながらも了承の意を示してくれた。


うむ、素直な子は俺も好きだぞ。

…………その拗ね方も年相応な感じで可愛らしくて中々グッドだ。


「それじゃ気を取り直して自己紹介から。俺は…………そういや、まだこのPCの名前決めてなかったな。
 別に本名言ってもいいんだけど、とりあえず先にそっちの名前教えてくれない?」

「…………ん〜?」

「名前だよ、名前。ハロルドって奴から付けられてるだろ?」

「な……ま……え?」

「そう、な・ま・えッ! お前の父親は自分のことを何て呼んでた?」


どういうわけか、この子は碌な知識もない赤ん坊みたいな存在らしい。
一言一言が拙いし、理解させるのにかなり時間が掛かってしまう。

それでも懇切丁寧に説明すれば分かってくれるようで、ゆっくり且つ一文字ずつではあるがちゃんと答えてくれた。


「……しぇ……り……る?」

「いや疑問形にされても困るんだけど……まいっか。
“シェリル”か。んじゃこれから俺はそう呼ぶことにする。んで俺の方は本名の“トモアキ”でいいから。
 別にお前に隠してもしょうがないし、会話が成り立たないからな」

「と……も……あ…………り?」


誰それ? どんなアリ?


「違ぁ〜うッ! いいか、良く聞けよ?
 俺の名前は“ト・モ・ア・キ”だッ!! ほれ、言ってみろ」

「と……も……あ……き?」

「そうそう、トモアキ、だ。分かったか? 俺を呼ぶ時はそう呼べよ、いいな?」

「んッ!」


コイツ、シェリルは知識どうこう以前にマジで碌な言葉も話せてない。
感情がそのまま表情に出るから言いたいことは何となく分かるが。


(確かにこれじゃあ究極AIとは程遠い存在だよな……)


一瞬そんなことを口に出しそうになったが、忘れることにする。
彼女は“アウラ”“失敗作”という言葉を嫌がっていたから、それ系の話はすべきじゃない。

自分がいらない子だなんて誰も思いたくないしな。


それよりも大きな問題がある。


「これからどうしよっか?」

「ん〜?」


察するに、シェリルは放浪AIな上にずっと独りだったことになる。
今の彼女に“寂しい”って感情があるかどうかわからないけど、どちらにしても孤独ってのはあんまりいい状況じゃない。

放浪AIってのは、言わば俺と同様にバグPC扱いになる。
そんな奴が意味も無くウロウロなんてしてたら、いずれ必ずシステム管理者側に排除されてしまう。
俺はフード付きローブで姿を隠せるし避難所は確保してあるからまだ大丈夫だが、彼女は馬鹿正直に相手の策に嵌って消されてしまうかも。


出会ってなければどうでもよかったかもしれない。

でも出会ってしまったからにはどうにかしたい。


「なあ、シェリル」

「ん〜?」

「お願いがあるんだけど……」


だから俺は彼女に手を差し伸べながら提案する。


「俺と一緒に……来ないか?」


共に歩むことを。


「色々なことを一緒にするんだ。
 沢山のフィールドやダンジョンを駆け回ったり、お話したり……。
 今までずっと1人だったシェリルが知らなかったこと、俺が出来る限り教えてやる」

「……いっ……しょ?」

「そう、“一緒”。1人より2人の方がずっと楽しいと思うぞ?
 少なくとも俺はお前と一緒に居る方がずっといい」


これから俺はきっと長い間この『The World』に足繁く通うことになる。

そんな中、ずっと1人でこの広大な世界を旅し続けるのは嫌だ。

無論、現実世界に帰れば友達とも会える。会話だって幾らでも出来る。
確かに物語の登場人物達と出会えば話すだろうし、共に行動することもあるだろう。

でもあくまで俺はこの世界の異物、彼等に自分を曝け出す事の叶わない存在に過ぎない。
そうなると俺は一緒にいるのに一緒にいないような、そんな中途半端な孤独を味わい続けることになる。


だから実際には彼女の為というより、俺自身が彼女と居たいからこんな提案をするんだ。


「どうだ? 俺と一緒に…………この『The World』を歩かないか?」


俺の言葉の内容をようやく理解したようで、


ほんの少しばかり考えるような仕草を見せたシェリルは、


フワフワ浮きながらゆっくりと俺に近づいていき……


「……うんッ!!」


最高の笑顔と元気な声で答えてくれた。


その日から、俺の騒がしいながらも純粋に楽しめる『The World』が新たに始まる。


あとがき

プロットと呼ばれる物を作ってみた。15話先くらい、言い換えると【.hack//SIGN】の話に突入する前まで。
その時点でふと気になった…………1話の目安ってどれくらいなんだろうって。
短すぎると区切る意味無いし、かと言って逆に長すぎるとダラダラ感がでちゃうし。

そんな感じでいきなりSS書くのに不安を感じてしまった愚か者の名前は、ジョヌ夫です。
第1話で早速感想を書いてくれた皆さんに感謝しつつ、今日はこの辺で。


レス返しです。


>スカートメックリンガーさん

そこら辺に関してはご安心を。
明かされるのは結構先になりますが、ちょっとした理由で睡眠中の精神疲労の問題は解決されます。
ただその代わり彼は別の意味で頭を悩ませることになりますが。


>朱雀さん

一定のペースを保ちつつ更新出来るよう頑張ります。
基本的には2〜3日くらいの早さかな? 


>Plutoさん

主人公PC、色んな意味でバグってます。
そして話が進むに連れて更に……ってな感じです。
資料探しつつ頑張りたいと思います。


>somosomoさん

しばらくは大丈夫だけど、途中から完全に敵側になっちゃいそうです。
彼が天敵達に理解してもらえる日はやってくるのか? それ以前にモンスターとして狩られちゃうのか?
それが早く分かるように更新頑張りますので、よろしくお願いします。


>naoさん

【.hack】を知らない方にも話が理解できるよう出来る限り説明は入れるつもりです。
なのでこれからも見捨てないで下さると幸いかと。

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