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▽レス始

「Fate/黒き刃を従えし者2(Fate+オリ)」

在処 (2007-02-06 00:50/2007-02-06 21:47)
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体の節々に痛みを感じ、ゆっくりと意識が引き上げられた。
眼を開き、辺りを見回す。

「……廃墟」

そうとしか取れない惨状をさらす、恐らくは居間だっただろう部屋。
その中心に近いソファの――之も所々破れて綿がはみ出している――上で倒れているようだ。
違和感のある体を起こし、何が起きたのかを考える。

……エラー

記憶、記録、その他諸々参考になりそうな物はない。
……否、記憶も記録も、何故か今の私には引き出せない。
私は何をしていたんだったっけ?
何か、とても大切な物があったような気がする。
後悔と、達成感と、申し訳なさと、罪悪感と……色々な感情が入り交ざった何かがあった。
……さて、私は誰だったのか?
考えていても何も出てはこないけど。
それでも考えてしまう。
なぜなら、私に出来る事はほかに無いのだから。

「あーもぅ!
 邪魔だこのぉ!」

突然扉が飛んできた。
幸い、私に触れることなく風がそれを叩き落したのだけど。
危ないなぁ……

「あ……あっ」

扉を蹴破ったのはどうやらあの、黒い髪を左右で結った赤い服の女の子みたい。
何かに驚いたように、私をじっと見て固まっている。
その様子を、私はただじっと。
彼女が動き出すまでじっと見つめている。
10秒、20秒。
動きを止めて――まるでそこだけ時間が止まったかのように――すでに30秒がたった。
私はあきらめて、彼女に声をかけることにする。

「……貴女……誰?」

その瞬間、今まで凍り付いていた時が音を立てて罅割れる。
彼女が初めにした反応は、びくっとした身じろぎ。
ついで回答。

「っ……ぁ……り、凛。
 私は、遠坂凛よ」

リン。
トーサカ……リン。
……リン。
…………リン。
口の中で彼女の名前を反芻する。
それは懐かしい物であり、まぶしい物であり、切ない物であり、悲しい物であり、悔いを促す物だった。
何故だろう?
私は彼女に会ったことがあるんだろうか?
ならば、彼女ならば私のことを知っているかもしれない。

「リン」

私は極力躓かない様に気をつけて歩く。
彼女の前に来たとき、私は知らず、彼女に手を伸ばす。
触れる手。
懐かしい。
私は、やはり彼女を知っている。
知っている筈。
何で何も思い出せない?

「リン……」

彼女なら、答えてくれるだろうか?
この、懐かしい名前を持った彼女なら、私のことを知っているんだろうか?

「リン……私は……誰?」

その瞬間、彼女は……リンは崩れ落ちた。
呆然と、私に被さる様に倒れるリンを支える。
息はある。
身体にも、特に異常は無いと思う。
否、どこか彼女は弱弱しい。
私の中の違和感が、リンがとても弱っていると訴えている。
……どうするべきだろう?

「疲れてる……なら、寝かせないと」

私は、彼女の部屋までリンを連れて行き、布団に寝かせる。
暫くすると、血の気が引いていた顔に、微かに赤みがさす。
荒かった息も、今はすっかり落ち着いている。
……よほど疲れていたんだろう。
リンはすっかり寝入ったようだ。
暫くその顔を見つめ、唐突に思い出す。
私は、どうしよう?
リンからは何も聞けなかった。
私を知っているかもしれない人は、私を置いて眠ってしまった。
かといって、疲れているリンを起こす気にはならない。

「起きた時で、いい」

リンが今疲れているなら、眼が覚めるまで待てばいい。
でもそれまでの時間をどうするのか?
思い出すのは、身体の違和感。
私も疲れているのかもしれない。
なら、私も休養が必要だろうか?

「……リン、おやすみ」

私は、リンの横に潜り込み、瞳をとじる。
暫くして、浮遊するような感覚とともに、私は暗いところへ落ちていった。


Fate/黒き刃を従えし者


少女は英雄だった。
ただ周りの人に笑っていて欲しい、そんな些細な少女の願いは、しかし。
少女を英雄にするには十分だった。
止めた人が居た。
それでも彼女は、選んだ。
人であることを止め、人ならざる者として多くの物を導く道を。
だから彼女は、後ろなんか見るべきじゃなかったんだと思う。
信じたあの思いは、長い時の中で風化して、自分が行った自分で許せない事が大きくなりすぎた。
だから彼女は望んだ。
望んでしまった。

――もし、私以外が……――

と。


そんな、夢を見た。


眼を覚ますと、目の前にリンの驚いた顔があった。

「……リン」

名前を呼ぶと、どこか緊張したような顔をする。
何でそんな顔するの?

「……リン」
「…………何?」

今度は返事を返してくれた。
でも、やっぱりどこかに緊張がある。

「おはよう、リン」

そう告げると彼女は。
なんか色々疲れたと言うように、顔面から枕に向かって倒れこんだ。
……一日じゃ疲れが取れなかったのかな?

「えぇ、おはよう」

顔は見れないけど、その声はさっきまでの緊張は感じられなかった。
少し、嬉しい。
警戒されてるみたいで嫌だったから。

「そういえば、聞いてなかったわね。
 貴女が私のサーヴァント?」

……さーう゛ぁんと?
苦笑しながら聞いてきたその質問に、私は答えられなかった。
なぜならその単語に聞き覚えが無かったから。
……違う。
そんなはず無い。
私はどこかでそれを聞いてる。
……さーう゛ぁんと……
……サーヴァント?
でも、何処で聞いたのか思い出せない。
何であったのかも思い出せない。

「……? ……………………ないの?」
「……?」

考え込んでいたら、リンが何か言ってた。
聞き逃しちゃったけど、何でそんなに冷や汗かいてるんだろう?

……そうだ。
それよりも、聞かなきゃいけない事があったんだ。

「リン」

その呼びかけに、片手で頭を抑えていたリンが顔を上げる。
……なんで驚いたような顔なんだろう?
でもそれは、ひとまず置いておく事にする。

「……私は……誰?」

信じられないものを見たみたいに、リンが固まった。
……答えてもらえられないんだろうか?
……リンも、私を知らないんだろうか?

「リン……私は、誰?」

もう一度、さっきよりも強く聞いてみる。
リンは、何かを諦めたかのように天を仰ぐだけだった。


……結果から言えば、リンも私のことを知らなかった。

でも、無駄とは言わない。
私が知らない事を、リンは知っていたのだから。

「……聖杯戦争」
「そうよ、聖杯戦争」

これも、どこかで聞いた事がある単語だ。
さて、何処だったか……
なんて、思い出せるはずも無く。
しかし、予想外な事は起こった。

聖杯戦争に関するデータが、私の頭の中に送り込まれてきた。

恐らく、聖杯によるものなんだろう。
どうやら私は、アーチャーとして呼び出されたらしい。
……なら、私は弓を使うのか?
それは、とても違和感があった。

「説明要る?」

リンが何かを聞いてくる。
説明……あぁ、私がぼうっとしたから判らないと思ったのか。
私は静に首を振る。

「恐らく聖杯からだと思う。
 聖杯戦争が何かって言うのが送られてきた。
 私はアーチャーのサーヴァントらしい」

そして。

「リン、貴女の言うとおり、私は貴女のサーヴァントみたい」
「アーチャーなのね……」

ほっとした様に、これで何とかなるかもしれない、なんていっている。

「アーチャー、貴女の真名とか、宝具とかは思い出せない?」
「……」

私はまた、静に首を振る。
聖杯は、私個人の事には答えてくれなかった。
リンは残念そうにため息をつく。

「ま、いいわ。とりあえず下片付けるから、アーチャーも手伝って」
「判った」

昨日、おそらく私が壊したあの居間を片付けるのだろう。
ならば私が断れるはずも無い。
私は直ぐにそれを承知した。


……サーヴァント……英霊と言うからには私は一度死んだのだろう。
生前の私に聞きたい。
貴女はいったい何をやっていたんだ?
掃除を始めて、初めのうちはリンの指示を受けていたのだけど、何時の間にか立場が変わった。
何で私のほうが掃除が上手に出来るんだろう?
英霊とは、過去の伝説の英雄じゃ無かったんだろうか?
それに……この魂の奥から染み出してくるような幸福感。
あぁ……私は確信する。

「……リン」
「何?」

なんだか頭が痛そうに抑えているリンに声をかける。
自然、漏れ出してくる笑みを抑えきれない。

「私は、掃除が好きだったみたい」

恐らく、いや、絶対に。
私は掃除と言う行為が好きだったに違いない。
何せこんなにも幸せなんだから。
……あれ?

「リン?」
「え? な、なに?」

私はリンの額に手を当てる。

「顔が赤い。……昨日の召喚の疲れがまだ取れてないんじゃないかな?
 後は私がやっておくから、もう少し寝てくる方がいいと思う」
「え? ……あ、ありがと。
 そうするわ」

ふらふらと、リンは再び二階に上がっていった。
大丈夫だろうか?
あまり無理しないといいんだけど……


掃除が終ると4時を廻っていた。
そろそろ夕食の料理を始めたほうがいいだろう。
冷蔵庫を開ける。
勝手にあけるのは気が引けるけど、この際仕様が無い。
ふむ……豆腐に挽肉に……この材料なら……

今日の夕食のメニューは中華に決定した。


「うわぁ……見違えたわ。
 凄いじゃないアーチャー」
「……ありがとう」

リンが降りてきて、部屋を一瞥して感嘆の声を上げる。
そこまで喜んでもらえるなら、私もがんばった甲斐があるというもの。

「リン、夕食も出来てる。
 もう食べる?」
「夕食……えぇ、お願い」

一瞬微妙な顔をしたが、それを振り払って返事を返す。
うん、あまり遅くなると中華は不味くなるから。
体調はもう大丈夫だと思うけど……良く考えたら中華ってあまり良くなかったかも知れない。

「…………」

お皿におかずをよそって行ったら、なんか麻婆豆腐出した時に微妙な顔された。
因みにメニューは青椒肉絲と麻婆豆腐、ご飯と鳥のスープ。
……ちょっと量多かったかな?
作ってると楽しくなって、つい作りすぎちゃったかもしれない。

「……いただきます」
「……いただきます」

うん。
美味しい。

「うっ……ま、負けた」

……なんて、聞いてないよ?


「アーチャー、出かけるから支度して。街を案内してあげるから」

食事が終った後、唐突にリンはそういってきた。
聖杯戦争を行うのだから、やはり地理は覚えておくに越した事はないだろう。
マスターとしてリンのこの行動は当然と言える。
……けど。

「リン、大丈夫?」
「えぇ。何時までもへばってられないし、十分寝たから大丈夫よ」
「判った。それなら、いい」

私はリンから服を借りて着替え、街にでることになった。
……そう、この何処となく懐かしさを覚える街に。


後書き
一応、主人公のアーチャーです。
これからは彼女の視点で物語はつづられる事になります。
では感想返しを。

<<BLESSさん
あの皮肉屋かどうかはこれからのお楽しみという事で。
あと、百合はありますけど、恋愛にはしないつもりなので付けてません。

<<renさん
あはは……それはそれで面白そうだけど大変そうだなぁ……
とりあえず、変更してるのはアーチャーだけです。
他のサヴァは原作準拠ですよ一応。
それぞれに見せ場を持たせるつもりではあります。

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