―――――俺をこの世界に送り込んだ誰かさんは、どうやら俺の事が嫌いらしい。
前へ。前へ。前へ。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。
土地勘の無い森を―『お荷物』付で―駆け抜けながら、何度も何度も来た道を振り返る。
仕掛けておいた罠が炸裂してから20分弱――いくらか手傷を負わせる事が出来てたとしても、相手の力量と今の俺の状況を考えるとそろそろ追いつかれてもおかしくない。早く逃げるのを優先して、足跡や通った証拠を消す事はまったくしちゃ居ないのだから。
「チクショウ、『あっちの方』じゃこんな展開なんてまったく載ってなかっただろーが!」
それともこの生死をかけたイベントは、魂だけこの異世界にやってきた『俺』へのあてつけか?そう原作どおりには行かないって忠告なのか?
ご忠告どうも。嬉しくって泣けるぜ!
カカシも居ない。ナルトも居ない。サクラは・・・・幻術のせいでまだ意識は戻らない。俺の背中でお休み中だ。
・・・・・だが、サクラはそうなってて良かったのかもな。
自嘲気味にそう思い、俺は自分の服を見た。
あかい。アカイ。紅い。
俺の服が、サクラを支える両手が。中途半端に乾いてきてて、服の中はジットリ、外側はパリパリに固まってきてる。顔も微妙に引きつったような感じがするから、顔も紅いもので塗れてるに違いない。
口の中にもたっぷり侵入してきたお陰で、未だに鉄錆の味が下に残ってる。鉄分たっぷりのトマトジュースだったとでも思いたいが、その度吐き気に襲われた。
―――紅い『もの』の正体。
それは自分のでもなく、サクラののでもない――――さっき殺したばかりの相手の、返り血だった。
24時間前―――――
俺は里郊外に位置するある工房に居た。俺がこの世界にやってきてから2年目、新しい忍具作りに四苦八苦してた頃に通う様になった所だ。
「こんにちはー、頼んどいた物取りに来たんですけど。」
俺が居住用の長屋とつながっている工房を覗いて見ると、中ではそれこそ頑固な職人っ!ってな風情の初老の男性が真っ赤になった鉄を鍛えていた。形状からして短刀らしい。
俺の声に反応してくれたのはその傍で鉄を熱するための釜の様子を見ていた丸メガネの若い優男である。
「やあサスケ君。少しだけ待っててくれないかな。」
「分かりました。んじゃ菓子折り持ってきたんでお茶の準備しときますね。」
俺は口寄せの巻物(一般生活物資用)を取り出すと、チャクラを練りこんで緑茶の缶と湯呑み3人分、そしてお湯入りのポットと急須を出す(何でこんなもん巻物の中にしまって持ち歩いてるのかというと・・・ま、演習とかで一服する時役立つからな)。
一服セット一式を工房の隅にポツンと置いてある小さな机に置くと、茶を入れた俺は2人より先に1口茶をすすった。
鉄火ギンジと、その息子である鉄火ギンスケ。
木の葉だけでなく、他の里でも結構有名な親子だ。
但し忍者としてビンゴブックに載ってるとかじゃなくて(父親の方はそっちの方でも有名だったらしいが)、凄腕の忍具職人として広く知られているのである。
元々忍びだったギンジさん。だが若い頃任務の際に右足を失い、趣味だった忍具作りの腕を生かして職人に転職したらしい。
どうやらそっちの方に才能があったらしく、それに元忍者なので使う側がどんなのが一番使いやすいかを実体験に基づいて考え作られた忍具は、あっという間に名うての忍者御用達になっていった。その中にはうちは一族も含まれてる。自身の義足もお手製で色々と『仕込んで』あるらしい。
そしてギンジさんと今は鳴き彼の妻との間に出来た子供であるギンスケさんも、若いながらも父親並みの腕前を持つ職人として有名だ。
「下忍になって1ヶ月の気分はどうだい?」
「んー、ボチボチですね。忍者らしい忍務なんてまだまだ先の事だと思いますし。」
俺達3人は菓子折り―木の葉の有名どころで買った高級饅頭だ―と急須・ポットを置いた机を囲む形で一服していた。喋っているのは主に俺とギンスケさんで、ギンジさんは黙々と茶と饅頭を交互に口に運んでいる。
「それにしてもサスケ君は『魔弾』といい今回のといい、ユニークな忍具ばかりリクエストしてくるね。」
『魔弾』―――サバイバル演習の時、カカシに向けて俺が使ったあのクロスボウの名称だ。
「自分で作りたくても、2人みたいな腕前はまだ習得できてませんからね。」
「あたりめぇだボウズ。俺ら長年修行してきた職人の技術を、2.3年かそこらで盗めると思ってんのか。」
「そりゃ御尤もです。」
今日初めて口を開いたギンジさんの言葉に、俺は思わず頷きながら苦笑した。
大体想像がついたと思うが、『魔弾』や他の忍具を俺が考えた設計図やアイデアから造り出してくれたのはこの親子の職人である。
いくら俺の手先が器用だからって、1からこの世界独特の技術が必要な忍具を生み出せる筈が無い。
現実の世界では、銃ならガンスミス、剣や刀なら鍛冶屋といったようにその道具専門の職人が居るもんだ。そしてこの世界でもそれは然り、忍具製作専門の職人が存在している。
この世界に来てから2年目。遅まきながらその事に気付いた俺は、うちは一族専用の忍具に彫りこまれている銘を調べていって、たどり着いたのがこの工房だったという訳。
それから数年。俺は週に2〜3回ここに出入りしては、新しい忍具の作成を頼んだり忍具作成のイロハを叩き込んでもらっている。演習の時使ったあの地雷は、教え込まれた技術を使って自分で作り出したオリジナルの忍具の1つだ。
「ふふっ、それでもサスケ君は覚えが早いね。こっちの方にも才能があるんじゃないかな?」
「それじゃ怪我とかで忍者を辞める事になったらこれで食っていきますよ。そん時は仕事の世話してくれません?」
「バカ野郎。仕事ぐらい自分で掴み取りやがれ。甘ったれんなボウズ。」
「・・・・・相変わらず厳しい事で。」
ふと、反対側の壁際にある作業台が目に入った。台の上には1つの包みが、その下に1対の細長い包みが立てかけてある。
「今回完成したのはあの2つだけでね。他のはまだ完成してないんだけど・・・」
「いえ、『まだ』時間はありますから気にしないで下さい。」
作業台に近づく。俺は足元の1対の包みを拾い上げると、包み紙を破って中の物を取り出した。
中身は――――それぞれ細長いホルスターに収まった、1対の短刀。
ホルスターから抜く。刀身部分は35cm程、握りの部分は15cm程。光が反射して居場所がばれない様にする為、全体が黒くつや消しされてある。
特徴的なのは刀身の形状で、短刀というよりは細長くしたサバイバルナイフにかなり近い。片側は刃、反対側はノコギリ状。その中間を細かく術式が掘り込まれていたが・・・・・よく見れば、微妙に術式の内容がそれぞれ違うのに気付くだろう。
刃の切れ味は2人のことだ、どんなクナイや短刀よりも鋭い切れ味に違いない。
「・・・・・そんなもん作らせて、一体どうする気だ、ボウズ?」
「別に・・・忍者が愛用の武器を持つのは珍しい事じゃないと思いますが。」
俺は短刀を握る両手に軽くチャクラを込めた・・・・すると、にわかに右手に握った短刀からは熱気が、左手に握った短刀からは青白い光と共にパチパチと、刀身の周りで光が瞬き始める。
チャクラを止めると同時に、その現象も収まる。
「それじゃ、また来ます。」
俺は2人に頭を下げると、短刀をそれぞれのホルスターに仕舞い、もう1つの包みと一緒に抱えて工房を出た。明日あいつに渡して使い方を教えてやろう。そんな事を考えながら。
――――――――まさかいきなり実戦で使う羽目になるなんて、その時はまったく考えちゃいなかったんだが。
「・・・・・・あ、湯呑みセット忘れてた。」
あとがき:急遽MEs様とコンパクトスイング様の意見を取り入れさせてもらいました(微妙に違うかもしれませんが・汗)。
という訳で、オリジナル編突入兼小道具作成の舞台裏(苦笑)の回となってます。この先ややバイオレンス色の強い内容になりますので、苦手でしたらご注意下さい。