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▽レス始

「Go together 第六話(GS+ネギま!)」

らっかー (2007-02-03 23:09)
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夜7時停電一時間前、女子寮裏

「え〜!! じゃあこれで負けたら、ネギは死ぬかもしれない位血を吸われちゃうの!!」
「ああ、言う事聞けって条件ならそれだろうな、その代わり勝てばこっちの言う事聞いてくれる。
授業にも出席して、その上ネギの親父さんの手がかりまで心当たりを教えてくれるってさ」
「なら、僕はやります!! そのために“立派な魔法使い”になるって決めたんです!!」

横島は一部嘘も混ぜて説明し、ネギをあおる。
ネギの危険度は以前より格段に低いがネギにも本気になってもらわなければいけない。
半端な事ではエヴァンジェリンは満足するまい。

夜7時30分停電30分前、ログハウス

「ヨー御主人、ナンカ嬉シソウジャネーカ」
「ん、嬉しそう? 私がか、チャチャゼロ? そうだな…、むしろ楽しいだな。久方ぶりに力を振るえる。色々と面白そうな奴らもやってきた。私は楽しい」
「メズラシイコト言ッテンナ御主人」
「そうかもな。興奮しているのかもしれん。こんな気分は久しぶりだ」
「マスターこちらは準備が整いました。マスターもご用意を」

その言葉でその場の主は立ち上がり、夜の世界に踏み出した。

夜7時45分停電15分前、明日菜達の部屋

「よし、完全に寝てるな」
「このかさんは巻き込めませんからね」
「このかは大丈夫なの?」
「朝までは起きないけど、ただ眠っているだけだから他に影響はないよ」
「よし、じゃいくぜ3人とも」
「あんたが仕切んないの、オコジョもどき」

木乃香を『眠』らせ寮の屋外通路に向かう、流石に寮の一室でドンパチは出来ない。エヴァンジェリンにはここで待つと伝えてある。
ネギはマジックアイテムのフル装備だ。杖に剣に銃、おまけに魔法薬まで。父の手がかりに手が届きそうになって気合が入っている。
明日菜もハリセンを構えている。何かのマジックアイテムなのは間違いないが今のところ正体不明の代物だ。

夜8時丁度 停電開始


『Go together 第六話』


 ログハウス

「封印結界への電力停止―― 予備システムハッキング開始…成功しました」

茶々丸がメインに比べ脆弱な予備のシステムを落とし、エヴァンジェリンの封印結界がダウンする。


 女子寮近くの鐘楼

幻術をまとい、かつて闇の福音と呼ばれた姿が現れる。吸血鬼の象徴たる牙が伸び、自然口元に笑みが浮かぶ。
学園が莫大な電力を使って押さえ込んでいたその魔力が開放されたのだ。その力の片鱗を紡ぐ。

(行け我が下僕)

 女子寮

カモの尾がなにかを感じたようにピンと立ち、横島の背筋に寒気が走る。

「むむむ…」
「カモ君?」
「これはまた…、とんでもねーな」
「横島先生? どうかしたんですか?」

一人と一匹ほど感覚が鋭くない二人はまだ気付いてないようだが、ネギはもうじき気付くだろう。

「すげー気配が出てきた、エヴァンジェリンだな。正直予想以上」
「ああ、かなりの大物だ。奴しか思いあたらねー。兄貴も異様な魔力を感じねーか」

「やば、誰か来るぞ。エヴァンジェリンじゃない」

横島が何者かの気配を察する。通達無視の生徒ならまだいいが、他の見回りだったらまずい。
ネギの格好ははっきり言ってどこぞの仮装大会の出来損ないな怪しさだし、教師がいるとはいえ生徒は外出を控えるよう通達が出ているので明日菜も良くは無い。

その人影が現れる。それは一糸纏わぬ、

「って、佐々木!!」「まき絵さん〜っ」
「横島先生、見ちゃ駄目!!」
「いやこういうのはむしろネギに…」

佐々木はストライクゾーン外なのにと“ハマノツルギ”で視界を遮られた横島がぼやく。
横でネギが顔を赤くしているのは見えるが、自分は流石にあれでは物足りない。
しかし明日菜にすればロリコンで無いといいながら自分や木乃香に飛び掛った事がある。これは当然。
その間にまき絵は、10分後大浴場で待つと言い残し、人外の運動能力で去っていく。

「やられたな、エヴァンジェリンが日の光に平気なのに気付いた時点で再確認すべきだった」
「どっどうなってるの? なんでまきちゃんが?」

相手はエヴァンジェリン・茶々丸のコンビではなかったのかと明日菜が問いたげだ。

「真祖にかまれたら操り人形だべ」
「で、でも僕と横島先生が見た時には…」
「上手くかくされたんだ。相手が上手だった、俺もミスったしな。勝って後できっちり解かせるぞ!!」
「はいっ、じゃあ急いで大浴場へ」
「横島先生、まきちゃんに飛び掛っちゃだめよ!」
「信じて明日菜ちゃん。俺はロリコンじゃない…」

しくしくと横島の頬を涙が伝う。
そして走り出そうとするネギに、

「ちょいまち、もってける物は持ってかんとな」
「ど、どこにそんな物を隠して…」

久しぶりの巨大リュックをひょい取り出していた。中身があふれんばかりなのが見える。

「ここ。折角戦場をこっちが決めたんだからと色々しかけたんだがな、これも向こうが上手だった」

横島がこんな感じでな、と一歩脇へずれて手でなにかを切ると矢がビーンと壁に突き刺さった。
少し前に進んで床を軽く叩くと穴が開いて中に杭が突き立っているのが見える。他にも網やらスパイクボールやら。
はっきり言ってシャレにならない。

「「勝手に寮を改造しないで下さい!!」」
「普段は安全装置かけておくから大丈夫、大丈夫♪」

ここは何時の間にやらトラップゾーンにされていたようだ。

「それじゃ、今度こそ行きますよ」

今度は向こうの陣地だが今逃げる訳にいかない。父の影がようやく見えたのだ。


「エヴァンジェリンさん!! どこですか?」
「近いな、気配が強い」

明かりの落ちた浴場にネギの声が響く。

「遅かったじゃないか、ここだよ」

光が闇を切り裂いてエヴァンジェリンが姿を現し、

「エヴァンジェリン、ぼかぁっ、ぼかあもうっ!! たまらないっす!!」
「のわっ、な、何だ横島ぁ!! お、落ち着け!!」

一瞬にして間合いを0にした横島がエヴァンジェリンに飛び掛った。

「あの人エヴァンジェリンさんだったんだ…。横島先生の事、まだばれて無かったのね…」
「横島さ〜ん、なにやってるんですか!」

エヴァンジェリンも驚いたのか、押し倒されてしまっている。思わぬ混乱に術がとける。

「にせもんやないか、どちくしょ〜〜っ!! 幻術だって夢で分かっていたはずなのに〜。
おまけに俺を幼女を押し倒したロリコンにしようなんて、なんて狡猾な罠を仕掛けやがる…」
「何もやっとらんわっ!! だいたい私の方が年上だといっとろーが!!」

一瞬で泣きながら離脱した横島が、悔しそうにエヴァンジェリンを見る。
エヴァンジェリンは怒りと羞恥心で顔がやや赤い。

「ふ、ふん…、まあいい。まずは前菜といった所だ。行け!」

メイド姿の佐々木まき絵、明石祐奈、和泉亜子、大河内アキラそして茶々丸の五人が襲いかかってくる。
横島も栄光の手を伸ばし対抗する。

「おいおい、もう生徒に手は出さないんじゃなかったのかよ!!」
「ひ、卑怯ですよ、エヴァンジェリンさん! クラスメートを操るなんて」

ネギが憤る。横島が前衛に出て食い止めるが、数が多い事と傷つける事が出来ないせいで手こずる。

「なに、パートナーの数が違う分のハンディだと思え゛っ」

台詞を言い切る前にニンニクと網に入った刻みネギがエヴァンジェリンに飛んでくる。

「な、何だこれは!!」
「横島先生、こんなんで本当にいいの?」
「フハハハ、エヴァンジェリンこっちも貴様がニンニクやネギが苦手な事ぐらい知っとるわ」
「ひ、ひきょうだよ〜、横島先生〜」

横島が下ろしたリュックからニンニクやネギを投げている明日菜が、あきれた声を出し、ネギが泣きそうな声を出す。
端から見たら絶対横島が悪人に見えるだろう。実情でも否定は出来ない。

「言ってる間があったら、ネギも手伝わんか〜! こっちも大変なんじゃ〜!」

実際横島は圧倒的に技量で勝りながらも、五人に半包囲されている。むしろ突破されていない事が凄いくらいだ。
倒してしまえれば楽だが横島としては操られているだけの女の子にそんなまねはしたくない。身体能力も増幅されているので気絶させるのも難しいのが現状だ。

それに気付いたネギも呪文を唱える。

「風花 武装解除!!」

風が舞い、服が舞い、横島の鼻血が舞った。

「ぶはっ〜!!」
「ロリコンじゃないっ、てのはどうしたんですか!!」

横島が倒れ明日菜が悲鳴を上げる。どうやらまき絵は平気でもアキラあたりはびみょ〜に怪しいっぽい。
武装解除も茶々丸には回避されたし、残り四人も元々素手だ。これでは横島の分が戦力ダウンしただけである。
ピンチ。だが向こうも限界だった。

「えーい、うっとうしい!!」

ニンニクとネギに耐えかねてエヴァンジェリンが外に飛び出す。おろしニンニクの袋なんかも有ったので大浴場もニンニク臭が漂い始めている。

「明日菜さんは横島先生をお願いします!!」
「って、ちょっとネギ!!」

言い残してネギもエヴァンジェリンを追い、明日菜以外の女の子たちもそれを追う。

「こっちはどうすれば…」
「お、俺はロリコンじゃない。明日菜ちゃん俺はロリコンじゃないよな…?」
「…多分」

何とか起き上がった横島に、目を逸らしながら答えた。


「くっ、人数が多い!!」

寮の外でネギは完全に翻弄されていた。エヴァンジェリンを追って飛び出したのはいいものの、更に自分を追ってきた者たちに囲まれ苦戦している。

「はは、どうした。その程度か? つまらんぞ」
「くっ!!」「兄貴あれだ!!」
「っ! うん、行くよカモ君」

カモの指示で寮の壁スレスレを飛ぶ。メイド服の生徒達がそれを追う。
ギリギリまで引き付けながら呪文を唱え、

「今だ!!」「眠りの霧!!」

生徒達が魔法を回避するため飛びのこうとした瞬間、巨大な網に絡み取られ眠りの霧が直撃する。茶々丸以外はこれで動けない。 
まき絵がいたので、危険な物は解除したトラップの残りだ。聞いておいて助かった。

「魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」
「くっ!!」
「やるじゃないか、先生。だがまだ始まったばかりだよ!!」

一瞬の安寧すら許さず氷の矢が降り注ぎ、それを魔法銃で迎撃する。
エヴァンジェリンの言うとおり戦いはまだ始まったばかりだ。


そのころ大浴場では、

キン キキン…ッ

2本の刀が打ち合う。一本は闇を切り裂く光の刃、横島の霊波刀。そしてもう一本は、

「桜咲っ、おちついてくれ〜!」

京都神鳴流、桜咲刹那が愛刀夕凪。


数分前、明日菜達の部屋

「これは…、お嬢様!」

ギリッと奥歯をかみ締めて、その凛々しい顔をゆがませる。
言い訳できない程油断していた。安全な麻帆良学園内ならと思ってしまっていた。
強大な気配を察し、念の為とお嬢様の部屋に来てみれば、これは只の眠りではない、何かの術だ。最悪このまま目覚めない可能性もある。

油断も安心も出来ないが、直ぐにどうこうなるという状態では無い。手がかりをもとめ、彼女は部屋を駆け出す。
何か争っているらしい気配を感じ、大浴場を飛び出すクラスメイト達と神楽坂明日菜、そして横島忠夫を見つける。
こちら側らしいが詳しい事は知らない副担任。確認する為にも一歩踏み出し、

「横島先生、近衛木乃香さんになにか酷い事をしませんでしたか?」

冷静に徹するため、あえてお嬢さまをフルネームで呼び問いかける。
その問いに、刹那の登場に驚いた明日菜の方が答える。

「桜咲さん? って、まさか横島先生が半裸のこのかに飛び掛ったのがばれたの!!」

刹那にとっても横島にとっても最悪の返答だった。

「き、きさま〜っ! よくもお嬢さまにっ!!」
「ち、違う、いや違わんけどちがう〜!」

冷静でいられるはずもなく、踏み込み、そのまま抜刀して切りかかる。横島も反射的に霊波刀で受け止める。

「桜咲っ、おちついてくれ〜!」
「黙れっ!!」

今の不意打ちのはずの初撃を受け止められ、返す弐の太刀も合わされた。この刃もかなり高度な術のように感じる。
歩き方だけでも並みの相手ではないと思っていたが強い。だが引けない、引く訳に行かない。
さらに下段から切り上げるがそれを半身になってよけられる。

「ち、違うんだ桜咲っ」
「黙れといっている!!」

流した刀をそのままに、勢いで蹴りを浴びせる。ガードが上がるが構わず叩きつける。
こんな奴をみすみす見逃していた自分が許せない。そのせいでお嬢様は…

「ち、違うのよ桜咲さん! そ、そう、横島先生が飛び掛ったのは私なのよ!!」
「貴様っ!! お嬢さまのみならず、幾人の生徒を毒牙にかけたっ!!」
「ち、違う、それも違わんけど違うんや〜〜っ!!」

怒号と共に、最大速の突きをくりだした。


明かりの消えた麻帆良学園を杖が駆け抜け、マントが風を切る。
闇夜を切り裂き、光と闇の弾丸が飛び交う。

「ねばるじゃないか先生。罠にマジックアイテムフル装備、考えなしではないようだね」
「魔法の射手 連弾・光の11矢!!」
「おっと、魔法自体もなかなかだ」

魔法の射手を氷楯で防ぎながら笑う。寮の罠は彼の手ではなかったのだが、それは知らないし別に横島がやった物でも構わない。
ようは自分の目に適うか否かだ。

「魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」

まるで見本を見せるようにネギを上回る“魔法の射手”を打ち出す。

「カモ君っ、しっかりつかまって!!」
「って、おあっっ!!」

それをアクロバティックな飛行軌道と魔法銃、そして己の“魔法の射手”で回避する。

「ははは、どうした? そのままじゃあ、サウザンドマスターには手が届かんぞ」

そうだ、この程度では当然あのナギ・スプリングフィールドにはおよばない。
10歳にしては大したもの。いや、確かに天才と言っていいかもしれないレベル、だがそれだけだ。自分の目に適うには足りない。

「くっ、兄貴やべえぜ、完全に押されてる」
「大丈夫、まだ手が残ってる」

すでに魔法薬の幾つかは使い果たし、さらに幾つかの装備も吹き飛ばされている。このままではジリ貧だが諦めない。
だがまだ魔力はあるし、手段も残っている。杖に魔力を込め加速する。

「ん? 横島達と合流する気はないのか?」
「仮契約カードによる召喚を行う可能性があります」

それにしても、随分いさぎよい逃げ方だ。父の情報をあきらめたとも思えない。
このままなら向かう先にある橋は、学園都市の端だ。自分は越えられない。そこに退避して仲間を呼ぶとも考えられるが…

茶々丸と二人、ネギを追いエヴァンジェリンも加速した。


「…貴様、猿か?」
「いや〜、ここなら落ち着いて話せると思ってね」

刹那の渾身の突きを、横島は飛び上がって回避した。
それだけなら身動きの取れない空中。詰み手だと思ったのだが宙に向けた刃は空を切った。

「横島先生…、あんな事も出来たんだ」

あまりの事の成り行きに、口を挟めなくなってしまった明日菜が一人つぶやいた。

横島は栄光の手を両手に展開し伸ばして天井に打ち込み、それを縮めて猿が木にぶら下がるように逆さまになっている。
これなら手を出せまい。ようやく話が出来る。

「さて、これで落ち着いて話を…」
「…と思うな」
「へっ?」

まだ殺気を治めない。いや先ほどよりさらに殺気を高めた刹那が横島をにらみ上げる。

「お嬢様に手を出した者が、私から逃げられると思うなっ!!」
「なっ、なんですと――っ!」

刹那が天井にいる横島に切りかかった。
彼女の背中に白い翼が広がり、空中もまた戦場と化したのだ。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…」

エヴァンジェリンの詠唱が朗々と響き渡る。

「くそ、兄貴っ、このままじゃ負ける。どこかに降りて二人を召喚(よば)ねえと」
「まって、カモ君。もう少しでやれる。それにこのままじゃあ降りられないよ」

確かに先ほどからエヴァンジェリンの魔法が雨あられと降り注いでいる。
こんな状況で地上に降りればいい的にしかならないし、こんな空中で二人を呼ぶわけにもいかない。

「氷爆!!」
「あうっ」

ネギは魔法障壁を展開するが、全く抑えきれない。今のネギが敵となりえるような力ではないのだ。

「逃げるだけかい、先生? それじゃあ私に勝てないよ」

答えるように魔法銃の射撃が来る。
他のマジックアイテムはだいぶ使い切ってきたようだが元々かなりの重装備。まだ反撃はできるようだ。

「その程度じゃあ足りないよ。見本を見せてやろう」

挑発したあと再び詠唱を開始する。だがそれには今までより多くの魔力がこもっている。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック
来たれ氷精 大気に満ちよ
白夜の国の凍土と氷河を…」

「やべえっ!! でかいのが来るぞ兄貴ぃ!!」

後方を確認していたカモの悲鳴が上がり、

「あと少しっ!!」

ネギが答えると共に、

「凍る大地!!」

エヴァンジェリンの呪文が炸裂した。


明日菜呆然としていた。
流石にこれ以上失言しようとは思わないが、それ以上に目の前の戦闘はそれまでの日常からは現実と思えないものだった。

「はぁ!!」
「くっ、このっ!」

夕凪の刃が袈裟懸けに振りぬかれ、その一瞬あとには返しの刃が来る。
一撃目を体をひねって辛うじてよけ、返しの一撃を霊波刀にもどした右の栄光の手で受け止める。

「おのれぇ!!」
「ぬおぅっ」

刹那は完全に血が上っていてこのまま何か言っても聞くような状態ではない。
その上剣の心得もあるらしく、完全に自由にさせるわけにいかない。動きを止めるための攻撃くらいは仕掛けざる負えない。

それだけならまだなんとかなるが、

“神鳴流奥義 斬岩剣!!”

これだ。
その技が通常の物でなく、明らかに気を使った特殊な部類に入る。背中の翼といい明らかに魔法使い側の人間だろう。
それも明らかに戦闘向き、負ける気はしないが取り押さえるとなると大事だ。

「ぬお〜なんでこんな事になってんじゃ〜〜!!」

横島の泣き言がコダマした。

一方刹那も全く余裕が無かった。木乃香のこともあるが、目の前のこの男だ。
先ほどまでと同じように空中から一気に切り下ろし、肘、蹴りとつなげていくが、

「ふぬっ、ほやっ、とお〜〜!!」

妙な気合と共にかわされる。
刀は触れもせず回避、勢いに任せた肘は腕を当てて流され、最後の回し蹴りはまた大きく跳んで天井へと逃げられる。

「逃すかっ!!」

気合を込めなおし翼を羽ばたかせる。天井を貫かんばかりの勢いでくりだされた一撃を、

「ぬおっとお」

光る手のパワーを使っているのだろう。自由落下より遥に早く落ちてかわされる。
こちらは天井をけり、そのまま落下速度を足して空中から切りかかる。多少の差はあれこの繰り返しだ。
正直技量は負けている。だが負けるわけに行かないのだ、お嬢様のために。

光の刃と日本刀がぶつかり合い、翼と光の手で宙を飛び交う。はっきり言ってどこかのファンタジー映画のアクションシーンだ。
明日菜でなくとも呆然とする。

大浴場は天井に穴が開きまくり、床も衝撃波や流された斬撃でボロボロになってきている。

幾度かの激突をさらに繰り返しやや間合いを大きく天井に退避した横島と刹那の視線が交差する。
そこに気勢が上がり、

「しゃ〜ね〜な。桜咲、悪いが決めさせて貰う」

天井にぶら下がったままの横島が、霊気を右手一本に集中させ栄光の手が輝きを増す。

「望む所だ」

刹那も納刀し居合の構えを取って全身に気を込める。
両者の緊張感が最高潮に達し、それを察した明日菜がつばを飲み込んだ瞬間、

「「はあっ!!」」

閃光が弾けた。

普段より二回り大きくなった栄光の手と、夕凪がぶつかる。

「くぅ」

刹那の息が漏れる。うち負けた。横島と交差しながら夕凪が手を離れるのが分かる。
しかしまだだ、横島も大威力の一撃を打ち体勢を崩している。空中同士なら翼を持つ自分の方が素早く姿勢を動かせる。
身を入れ替えて上を取り、もつれて共に落ちていく。首を狙った手を相手の手に取られるが残った手はこちらが早い。その手が決まる、

寸前に動けなくなった。

「なっ」
「わり〜な。ちょっくら仕掛けさせてもらった」

激しい空間戦闘、流石の横島もこんなのは慣れていない。『縛』だけでは文字を込め発動する一瞬が隙になる。文珠も出来れば隠したい。
気を張って場を一瞬支配し、決めの宣言をして時間を取る。栄光の手に隠して文珠を意識下から出し、そのまま『糸』を天井に埋め込む。
ポケットに常備する『護』を『専』に書き換えて準備完了。

狙いを武器のみに絞り弾き飛ばすと、刹那が体を入れ替え押さえに来た所で彼女を『、』とした『縛』が完成した。
この時自分が上になってもよし、そのまま普通に取り押さえられる。多少違った進行になっても仕掛けはすんでるから場所が成り立てば成立できる。

こうして罠は閉じたのだ。


「で、桜咲。俺は本当に木乃香ちゃんを傷つけるような事はしてないから」
「ほ、本当よ。さっきのは言い方が悪かったの。横島先生はなにも…してないわ」

一瞬やった事が脳裏にうかんだが、流石にこの状況をこれ以上長引かせるわけにも行かない。
戦闘が終わり、二人に近づけるようになった明日菜は余計な所を飲み込んで、固まったままの刹那に教えた。

「!! では、お嬢さまにあの眠りの術を仕掛けたのは!!」
「ああっ、それでだったのか。それかけたの確かに俺。だけど他に影響なし朝になれば目覚めるよ。保証する」
「なぜそんなことを!?」
「ちょっと魔法でドンパチやることになっちまってな、巻き込まないため。桜咲もこっち側だろ?」

なんて事だ。完全に誤解だったのだ。動けない自分に何も仕掛けてこない以上、話は本当なのだろう。ならば、

「って桜咲さん!! どうしたの!!」
「ひょっとしてどっか怪我させちまったのか!? 大丈夫かおい」

涙がこぼれる。自分がやったのは直前に切りかかってきた人間を心配するような、人のいい先生を疑い、

「お願いします。横島先生、神楽坂さん。この事は、どうかこの件はこのかお嬢様には秘密にして下さい」

この、人の物ではない翼をみせてしまったことなのだ。

「あ、ああそりゃ魔法関係の事は秘密にするけど…」

どう見たって訳ありだ。どうした物だろう。

「このかの事、お嬢様っていってたけど…」
「はい、私はお嬢様の幼馴染で今は護衛なのです。私の願いはお嬢さまを守る事。ですが私が化け物だと知られたら…」

ああ、なんだそんな簡単な事だったのか。

手を伸ばす。

「うひゃう!!」

刹那の声があがる。

「って、なにやってんの! 横島先生」
「はね、さわってんの。明日菜ちゃんもやってみ、気持ちいいよ」
「あ、あっ、あの横島先生っ」
「あたっかくってさ凄い綺麗でさ、桜咲が化け物に見える? 明日菜ちゃん」

いっしゅんキョトンとする。でもすぐに、

「ううん、カッコイイ。天使みたいじゃん。私もさわらせて」

満面の笑顔で答えた。もふもふと触りながらなんだか楽しそうに匂いまでかいでる。

「おれなこっちで言う魔法で事故って、違う世界から来たんだ。そっちじゃその位気にしなかったぜ」

それは横島の周りだけかもしれない。でも確かに彼らはそんなこと気にしないだろう。

「なにいってんですか気にしないわけ無いですよ。もしそっちで会ってたら横島先生エッチなままだから、絶対に桜咲さんに飛び掛ってますよ」
「頼むからロリコンじゃないって信じて明日菜ちゃん〜」

とんでも無い事をいったのに、何でか彼らは当たり前のように会話を続けている。

「魔法の事だから木乃香ちゃんには内緒にするけど、こんな事で嫌う子じゃないと思うぜ」
「そうよアンタだってこのかの事、何年もみてきたんでしょ。このかがこんな事で誰かを嫌うとおもう?」
「横島先生…、神楽坂さん…。ありがとう、ありがとうございます…」

泣いたままだけど、ようやく笑顔になった。


刹那の涙がやんだ所で、横島が口を開く。

「さて、そんじゃそろそろネギを追わんとな」
「あっ忘れてた!!あいつ生きてるかしら」

本当に忘れていたようだ。なんだか顔の横に一筋の汗が見える。

「ケリがついたならエヴァンジェリンがこっちにも来るだろうからまだ平気だろうぜ」
「なっ、ではあのエヴァンジェリンさんと戦っていたのですか!?」

彼女の正体を知っていたのか驚きの声が上がる。

「そっ。だから早く応援にいってやらんとな。桜咲にかけた術も今解くかんな」

そういって指をパチンとならすと刹那に掛かっていた術がとけ、

「あっ」
「っと」

なにせもつれて落ちたままかたまっていたのだ。横島の上に刹那が倒れこむ。

ここで終わればまだ綺麗にすんだのに。

フニッ

刹那が最後に狙った首でない方の急所に手が届いてしまう。

「あ、あれ? これは」フニフニ
「あ、あの桜咲?」フニフニ
「あ、あああ、な、なな、なんだか大きく硬く…」

正体に気が付いた刹那が思わずそれを思いっきり握ってしまう。

「きゃ〜〜〜!!」
「ぎゃ〜〜〜!!」

可愛い悲鳴と、音は似ているのに全然可愛くない悲鳴が響き渡った。

ネギの応援に行くにはもう少しかかりそうだな。明日菜は一人そう思った。


「凍る大地!!」

その声とともに巨大な氷柱が下から飛び出してくる。
魔法障壁を盾にして防ぐが吹っ飛ばされ橋にたたき付けられる。だがここまで、この橋まで来れば。

「あっ兄貴だいじょうぶか!!」
「うっうん。なんとか、それにこれで…」

よろめきながら杖を支えに身を起こす。
エヴァンジェリンも橋に降り、ゆっくりと近づいてくる。あと三歩、あと二歩、あと一歩。
それで、自分の仕掛けておいた捕縛結界に踏み込む。

「ふん、おしいな」

そこでエヴァンジェリンが立ち止まった。

「…!」

あと一歩なのになぜか進まない。

「なかなかいい手では有る。一見私の出られない学園の外に退避しようとするように見せ、この場に誘い込む」
「なっ!!」

間違いなくばれている。誰にも言わず備えたはずなのに。

「だが詰めが甘い、罠は2度目だから警戒されるし、逃げる時まっすぐここに向かいすぎだ。目的地があるのがバレバレだよ。
って、生徒に教わっちゃ形無しじゃないかネギ先生。茶々丸!!」

むしろ自分の方が残念そうにエヴァンジェリンは告げる。
茶々丸の耳が変形すると、まだ発動していない捕縛結界の魔方陣が浮かび上がってそのまま崩れる。

「兄貴っ!!このままじゃやべえ。急いであの二人を召喚するんだ」
「うんっ!」

確かにそれしかあるまい、初戦のように一人で何とかしようとして足手まといになっては意味が無い。
エヴァンジェリンは魔方陣が崩れきるのを待っているのか動いていない。今しかない。

(明日菜さん、横島先生、召喚します)
(えっ召喚って今!? ちょ、ちょっと)
(う、うぐぐ…)

向こうもなにか慌ただしいようだが時間が無い。

「召喚!!! ネギの従者
 神楽坂 明日菜!!
 横島 忠夫!!」
「ふん、ようやく出てきたか」

高らかにその名を呼ぶネギと、面白そうにそれを待つエヴァンジェリン、付き従う茶々丸の前に、

「うぐ、うおおおお…」

股間を押さえ前かがみでジャンプする横島と、

「え、え〜と」

ハリセンで何かを(横島の腰を後ろから)叩いていた姿勢の明日菜が現れた。

ネギとカモが何かを察したのか股間を押さえて前かがみになり、元からいた者達全てにジト目でみられて明日菜が必死に首と手を横に振る。
違った意味の緊迫感が漂っていた。

「あ、あの横島先生。だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわ――!! ルシオラ生まれなくなったらどうしてくれるんじゃ〜〜〜!!」
「よっ横島先生落ち着いて!! る、るしおら〜ってなんなんですか〜〜〜!」

聞いてしまったばっかりにネギが犠牲になり、横島に泣きながら頭をつかまれ揺さぶられる。

「あ、姐さんまさか」
「わたしじゃない。私じゃないのよ!!」

問いかけてくるカモを、睨み付けながら首をしめて黙らせる。本当に違うのにこんな濡れ衣着たくない。半分なみだ目だ。

「で、準備はいいのか」

いい加減空気をもどしたくなったエヴァンジェリンがそう言った。

「できればもうちょい待って欲しいがそうも言ってらんねーだろ」

今のギャグ化で復活したのか横島が、

「ええ、そのとおりだわ」

とにかく話を変えたい明日菜が、

「な、なんとか」

そしてようやく開放されたネギが、答えた。

カモは、

「……」

こたえがない、しかばねのようだ。


「ふん、待たせおって。ようやくそろったか」
「エヴァンジェリンさん!! 勝負はここからですよ!!」

エヴァンジェリンと茶々丸が飛び上がって間合いをあけ、ネギも横島と明日菜の後ろにまわる。

「行くぞ!! 私が生徒だという事は忘れ本気でくるがいい」

その言葉を合図に戦いが再開された。

「おれが前に出る。明日菜ちゃんはネギのガードを、ハリセンもマジックアイテムなら多少の魔法耐性はあるはずだ!!」
「はいっ!!」

自分の世界の感覚と照らし合わせ、まず間違いない範囲で予測して指示を出す。
そして言葉どおりに走っていく。向こうからも茶々丸が来る。

「援護します!!
 契約執行 90秒間!!
 ネギの従者
 『神楽坂 明日菜』
 『横島 忠夫』!!!」

そして、契約執行が発動され横島に魔力流される。

「これは!!」

魔力を感じた横島が勢いをあげ突っ込んだ。

ドゴォ

ロケットパンチに…

「ネギ…、貴様大浴場の事と言い…、俺を倒したいのか…」
「えっ、ええっ!!」

ギギギっと首を回した、というかロケットパンチで回された横島がネギをにらむ。

まあ、いかに回避能力の高い横島といえども、格闘戦に突っ込む所でいきなりスピードが変えられればこうなる。
大浴場の武装解除といい、横島にはいい迷惑である。

シュッ「おっとぉ!!」

そこに来た二発目を今度は大きく回避する。

「とにかく、これ切れネギ!! 霊気がぶれる、身体能力上がるけど使いもんにならん」

霊波刀を出すが、これも文字通りぶれて長さや太さ、輝きが安定していない。

「先生方、一つ教えておいてやろう。気と魔力は相反しあう。慣れるまでは併用せん方がいいぞ」

エヴァンジェリンがこっちの様子を面白そうに見ながらいい、詠唱を開始した。
ネギもあわてて詠唱を開始する。

「魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」
「魔法の射手 連弾・雷の17矢!!」

光がほぼ中央でぶつかり合い、

「おわ、おわわわわ〜〜!! ネギっ! 貴様本気で俺を殺す気か!!」
「えっ、え」

魔法の射手を必死に回避する横島の悲鳴が上がる。まだ契約執行が解けないので動きを大きくしなければならず、余裕は逆にギリギリだ。
エヴァンジェリンはちゃんと茶々丸を回避してネギと横島を狙ったのに、ネギはそれにとっさに合わせてしまったためである。

「ははは、連携の練習くらいしておいたほうがいいぞ。ほら次行くぞ」

全くである。ここまでネギと横島の行動は殆どかみ合っていない。
横島も連携に慣れていそうだが実は周りのレベルが高かった為、ネギのような戦闘の素人とは上手く息を合わせた事が無い。

「魔法の射手 連弾・闇の29矢!!」
「魔法の射手 連弾・光の29矢!!」
「ぬお、たあ、たたた、ほりゃあ〜!!」

「闇の精霊 29柱!!」
「光の精霊 29柱!!」
「どわわわ、わちゃあ〜〜!!」

二人の魔法がぶつかるたびに横島の奇声があがる。茶々丸の相手もあるし余裕が全く無い。むしろ後ろから来るネギの魔法の方が厄介だ。

「ね、ねえネギ、あんたホントに横島先生狙ってないわよね」
「は、はい〜! ってまた、ラ ラス・テル…」

後ろから見ていてどう見てもネギは横島を狙っているようにしか見えない。そこで気が付く。

「ネギ、あわせるんじゃなくってエヴァンジェリンさん狙いなさい」
「えっでも」「いいから!!」「はっ、はい」

そういって狙いを無理やり変えさせる。

「おっと、ようやく気付いたか。大変だったな横島、はは」

自分に向かってきた矢を、いくらかは氷の矢で残りは魔法障壁で防ぐ。

「!! ほらっ、本人狙ったら、残りがこっち着ますよ」
「そのためのわたしでしょうが!!」

ネギをひっつかんで下がらせ、言葉と共にハリセンを打ち下ろす。魔法の射手が容易くかき消され、吹き飛ばされた。

「なっ」
「おおっ!! ナイス明日菜ちゃん」
「ほう、そういうアーティファクトか」
「おおっ、すげーぜ姐さん」
「へー、結構いいわねこれ」

“ハマノツルギ”の真価がやっと発揮され、魔法を打ち落とした明日菜にそれぞれが感嘆の声をあげる。カモも復活してきたようだ。

「よし!!」

契約時間が過ぎ、後ろから狙われる恐れが無くなった横島もその身体能力の真価をしめす。

伸ばした栄光の手とロケットパンチが両者の中央でぶつかり合い両方が跳ね上がった瞬間、栄光の手が掻き消える。

「!!」
「どりゃ〜!!」

一瞬で接近し這うような超低空から霊波刀を切り上げる。それを茶々丸はサイドステップでかわす。

ヒュ、と茶々丸の聴覚センサーが呼気を捉えると同時。

ドンッ

重い踏み込みの音が響き横島のタックルで茶々丸の重いからだが飛ばされる。

しかし脅威のパランス感覚で体勢を崩さず、そのまま滑るように着地する。ダメージも表装を抜かれるほどではない。
そこに再び栄光の手が伸び追撃が来る。ロケットパンチは引く際のレスポンス分相性が良くない。

即座に判断を下し、身を沈めてかわす。
伸びきった横島の手を蹴り上げて体勢を崩し、そのままかかと落としにつなげる。

横島はその場でターンして茶々丸の脚を交わし遠心力を付けて裏拳を打つ。
茶々丸の腕がガードに上がって音を立ててぶつかる。

一瞬の静止の後二人は同時に離れた。


「なんかあっちは別世界ね」
「なっなんか動きがみえないんスけど…」

ネギとエヴァンジェリンの魔法の打ち合い、そのど真ん中で行われている違う勝負に明日菜とカモがつぶやく。
さっきの対刹那戦で明日菜はいくらか余裕が出来たようだ。
まだこっちの方が普通の格闘技っぽい。まあロケットパンチが飛び出たりしてるがアクロバットな空中戦より現実的だ。

「って、姐さん」
「ええっわかってる!」

飛んできた氷の矢を“ハマノツルギ”で防ぐ。
後ろを見るとネギは息を切らし始めている。地力で負けているようだ。限界が近いのだろう。

「ちょっとネギ!!」

声を掛けるが既に次の詠唱に入っている。これでは長く持つまい。

「横島先生!! ネギがもう限界!!」

どうせ打ち合うエヴァンジェリンは気付いているだろう。ならば横島に知らせたほうがまだいい。

「ちっ」
「逃がしません」

茶々丸が横島の動きを縛る。はっきり言って簡単に下がらせてもらえる相手ではない。
空を飛ぶ事やそのパワーもさることながら、崩れない。
常に冷静に瞬時の判断を行いリズムを崩さず、またその驚異的なバランス感覚で文字通り体勢が崩れない、そして間違い無く彼女は心を持っている。
エヴァンジェリンを助けようとするその心の信念が崩れないのだ。
しかもお互い状況を分かっているから致命的な一撃は打っていない。本当に動かしにくい状況だ。

しかし、動かせなくは無い。

「サイキック猫騙し!!」

茶々丸のセンサーが強烈な光、音、気によりオーバーフローを起こす。瞬時に湖の上に飛び上がってセンサーを回復させる。
もしネギのほうに引いたなら押し切る。そう判断するが、

「横島か!!」

エヴァンジェリンの方に突っ込んでいた。空中にいるエヴァンジェリンがサイキックソーサと伸ばした栄光の手によって攻撃を受けている。
ネギと横島2方向からの攻撃はエヴァンジェリンといえども軽くない、優先順位に従い、戻らざる負えなくなる。
再び横島対茶々丸の形になる。だがこれでは向こうも攻めにくいはず。そう思ったところに。

「こんのー!」

再度の契約執行でその身体能力を増した明日菜がエヴァンジェリンに飛び掛った。

「くっ」

サイキック猫だましの煙にまぎれ、迫っていたのだ。
この指示も煙で隠れた隙に、横島がエヴァンジェリンに向かいながら仮契約カードで行った。

“ハマノツルギ”により魔法障壁が破られる。体はかわすが、そこにサイキックーソーサーの光弾が飛んでくる。
横島と明日菜を同時に相手するのは相性が良くない。

エヴァンジェリンは大きく湖の上に飛び出さざる負えなくなる。茶々丸もそれに続く。
ネギを攻めても混戦では自分に横島ほどの回避能力が無い、エヴァンジェリンが魔法を打ちにくく3対1になりかねない。

そして二人の魔法使いの間を遮るものが、なくなった。

「ラス・テル・マ・スキル・マギスキル」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

「来れ雷精 風の精!!」
「来れ氷精 闇の精!!」

二人の詠唱が重なった。

「同種の魔法!! 打ち合う気だ!」
「これで決める気だ!」

カモの叫びに横島が答える。

「雷を纏い吹きすさべ南洋の嵐」
「闇を従え吹けよ常夜の氷雪」

二人の詠唱が佳境に入り、

「闇の吹雪!!!」
「雷の暴風!!!」

巨大な魔力による二つの嵐がぶつかった。


「くっ」

押されている。ネギの手が震える。魔力は尽きる寸前、疲労は限界、肉体だってボロボロ。このまま打ち負ければ…

「やばかったら瞬間移動(『転・移』)できる用意しとくから捕まれよ〜。いざとなったら逃げりゃいいさ」

横島がポケットに手をいれたまま軽い調子でネギの右に並び立つ。本当に目の前まで押されいても逃げられそうな調子だ。

「来たら打ち返してやるから、安心してぶっ倒れなさい!!」

明日菜がハリセンをブンと振り下ろしてネギの左側に立つ、本気で打ち返してくれそうだ。

「俺っちもいるぜ」

何するわけでもないがカモが今は何も危ない事の起きていないように肩に登ってくる。

そうだ、自分は一人じゃない。こんな状況でもなんとかしてくれそうなパートナー達がいるだったら自分は、

「はい!!」

それに答えて残る全力を注ぎ込んだ。


「な、何!!」

エヴァンジェリンが驚愕の叫びを上げる。
同系呪文でそろえてやったといえ、相手は橋での打ち合いで既に限界まで魔力を使っていたはず。
そして今、ネギが使える最高の技ですら押さえ込まれていたはず。

にも関わらず、闇の吹雪を飲み込んで雷と風の魔力が押し寄せてきた。

「マスター!!」

茶々丸がとっさにその身を盾にする。
爆音と閃光がそれを満たした。

「茶々丸ーっ!!」
「マスターご無事で…」
「あっああ大丈夫だ、大丈夫だぞ。茶々丸、お前こそ平気か?」
「はい…」

茶々丸のメイド服は完全に吹っ飛び下の間接部が完全に見えてしまっている。
耳のアンテナ部も幾らか曲がってしまっている。外部に大規模な損傷は見えないが中もふくめて相当負担が掛かったはずだ。
返事を聞いてほーっと息をつく。流石に限界らしいので、つかまって飛ぶのをてつだってやる。


「どうやら向こうも無事みたいだな」
「はあはあ、でももう、はあはあ、限界です」
「これはやばいかしら」「げっ、逃げた方がいいッス兄貴!」
「まっここまでできれば、あとはなんとかやりようがあるさ。絡繰はさすがにもう戦えんだろ」


ゆっくりと橋に近づいていく。

「やれやれ、やってくれたよ。だがまだ勝負はこれからだ」

ネギはもう限界だろうが自分にはまだ充分魔力が残っている。茶々丸なしでもやりようはある。が、

「いけないマスター! 停電が!!」

その言葉と共に町に光が蘇る。

「なっ、いかん結界が!!」

まずい、自分は今ただの人間でその上泳げない。その上茶々丸もこの状態では防水が不完全だ。

「きゃんっ!!」

封印結界が復活し、その魔力が再び縛られる。そしてその身も重力に縛られ落ちていく。
茶々丸も飛ぼうとするがエヴァンジェリンまで支えきれない。

「やばい!!」「えっ」「「へっ」」

横島も停電が戻った瞬間気が付いた。大気に満ちていた強大な力の気配が唐突に消えたのだ。理由の見当はつく。
エヴァンジェリンと茶々丸が落ちる。自分の記憶に間違いなければ彼女は純粋な吸血鬼だ、ならこの状況はやばい。
栄光の手の射程には僅かに届かない。文珠も一から出しては間に合わない。ならば、

『転・移』

先ほどポケットの中ですでに仕込んでおいた“イッショニユコウ”を発動させ空間を飛ぶ。

「なっ!!」

唐突に目の前に現れた自分に驚いたのだろう、エヴァンジェリンが眼を見開く。しかし彼女自身のためにそんな事に構っていられない。
限界まで圧縮した栄光の手を茶々丸の横から当て、そのまま爆発的に伸ばし反動で二人まとめて橋の方にとばす。
だがそれだけでは足りない。ならば足す。

「ネギ!! 助けろ!!」

その言葉の意味を誤解無くうけて、ネギが橋から飛び出す。ネギが二人を確保したのを確認した所で視界が水に満たされた。


「だ、大丈夫ですか」
「ああ、こっちはな、それよりそっちはどうなんだ? 魔力もうすっからかんだろ。エヴァンジェリンももう魔力使えんみたいだし」
「杖で飛ぶだけでしたら何とか」
「ふん、私も無事だ。ご覧の通りな」
「ネギ先生、横島先生、ありがとうございます」

水面から顔だけ出した横島に、杖の上からネギ達が答える。
エヴァンジェリンはネギにおひめさま抱っこされ、茶々丸がネギの後ろに横向きに座っている。

「とりあえず上行くぞ」

そう言って橋げたの半ばに栄光の手を刺して登っていく。それに合わせてネギもあがってくる。

「で、でもなにがあったんですか?」
「停電が予定より早く復旧。そのためマスターの封印結界が予想外の状態で復帰しました」
「んで、魔力消えたもんで俺が慌てて跳んだんだ。死なれちゃたまらん」
「? 横島お前私が泳げないの知っていたのか?」
「は? なにいってんだ? 吸血鬼なら流水だめだろ?」

横島がキョトンとし、言われたエヴァンジェリンも一瞬キョトンとした後笑い出す。

「ぷ、はははは。横島、私は高等な吸血鬼だと言っただろ? 流水も平気だよ」
「んな、じゃあ俺が飛び込んだのは」
「全く、本当に幸運だな。そんな勘違いで命が助かったんだから」
「ほえー、良かったですね」

「おーい、兄貴ーどうなってんスか?」
「大丈夫なの?」

「ああっ、全員無事」

明日菜達も橋の脇から見下ろしてくる。

「へへっ、じゃあこれで僕達の勝ちですね。悪い事もやめて、授業にも出て、それで父さんの事も教えて下さいね」

橋に上がった所でネギがエヴァンジェリンを抱っこしたまま言い、

「いや、私の勝ちだ」

ネギの喉に剣の刃が添えられた。
抱えられている時にネギの装備しているマジックアイテムの剣を抜き取っていたのだ。

「えっ」
「あっ、兄貴!!」
「おっと動くな、手が滑るといかん。で横島これで決着だと思うか?」
「ああ、そうだな最後の最後に油断したネギのミスだな」

エヴァンジェリンがニタリと笑い、横島が苦笑する。

「ちょ、ちょっと横島先生!! これじゃあネギが!!」
「ああ、大丈夫、大丈夫ネギの命なら取られやせんさ」

気楽に横島が答え明日菜がポカンとする。ネギは未だにエヴァンジェリンを抱えたまま動けず固まっている。

「とりあえずネギも、もう命の危険は無い。その上で負けでいいな」
「は、はい」

他に答えようもなく頷く。その一言で剣を鞘に戻しエヴァンジェリンがネギから下りる。

「って、どうなってんのよ! 横島先生!!」

何かおかしい事を感じたのだろう、明日菜が睨んでくる。横島が絡んでいる事も、もう分かっているのだろう。

「ま、簡単に言えばテストだな」
「テスト?」
「そ、ネギの奴が親父さん探せそうかどうか、合格なら情報もらえるって訳だ」
「えっでも僕の血は?」「解呪のほうは代わりが出来た」

エヴァンジェリンの答えにネギは呆然としている。

「でも、負けちゃったんだ。父さん…」

手に入ったと思ったものが零れ落ちたのだ。それも大事な手がかりが、ネギがしょげる。

「安心しろ教えてやるよ」「ほ、本当に!!」
「いいのかエヴァンジェリン?」
「ああっ、全く見込みが無いわけでもない。その位教えてやるさ」

ネギの顔が明るくなる。
一方エヴァンジェリンも考えていた。こいつら確かに才能はある。
ネギは確かに天才といっていい。明日菜の能力もあの極めて希少な能力に違い有るまい。
横島なんぞまだ底を見せていないが、かなりの戦闘技能をもっている。知識がやたらと偏っているが。
だがその一方で初戦からいままでの事を思い浮かべると頭痛がしそうになる。こんなんじゃあこっちが安心できない。
だから、

「そのかわり、だ」

このせりふで横島はひじょーに嫌な予感を覚えた。
ネギは相変わらずうれしそう。
明日菜はなにがどうなっているやら混乱中だ。
カモも嫌な予感を感じているのか毛が立ち始めている。

「坊や」「えっ、ぼ、僕の事?」

自分以外思い当たらないが変な呼ばれ方をして戸惑う。

「横島」「なんだ?」

嫌な予感がますます強くなる。この手の事にかぎって全く外れない。

「おまえら、私の弟子になれ。これは勝者からの命令だ」

「「ええっ〜〜〜〜〜〜!!」」

驚き一名と嫌そうな声一名の声が重なった。


あとがき

前回短い分長めになった今回です。
ちょっと早めに刹那も登場しました。
エヴァ編はあとはまとめです。

感想ありがとうございます。
レス返しです。
>HAPPYEND至上主義者さん
文珠は使用回数無制限だと使えすぎてしまって押さえてます。
ネギこれで成長できるかな?
エヴァンジェリン&横島信頼フラグ立っても恋愛フラグにはなってないですね。これからどうなるでしょう。
明日菜、ちょっと早めにエヴァンジェリンが能力に感づきました。横島、そういえば人工幽霊の時に中年になるといい男にと美神もいってましたね。
戦闘パート横島珍しく真っ当な戦いもやりました。
>仲神 龍人さん
横島、シリアスの方が持てると気が付いても実行はとっても大変だと思います。
シリアス、ここも少しは成長させちゃってますけど人間的に成長するとGSとして役立たずといわれる横島です。
そうなると両方とってシリアスに煩悩出す、ってとっても大変な気が…。
誤解の所、ネギは未だに「桜通りのムチムチボンテージ」を自分がながしたと思われている事に気が付いてません。
>念仏さん
文珠は強すぎる設定だと本当になんでもありになっちゃうから難しいです。
成敗される役回り>確かに…、実際警官に追いかけられてるし。上司も脱税常習者ですし…
なんか全然ヒーロー側じゃないですね。でもGSでヒーローっていうと、…ヨコシマン?
>宮本さん
エヴァンジェリン戦こんなんなりました。いかがでしょうか?
京都編まだ煮詰まりきってないです。なんで同じ所ばっかり色々浮かんじゃうんだろ…。全然思い浮かばない所も有るのに…。
レス返しのあの…は今度そちらにレスします。こっちもどっかで他のGSキャラだしたいな…。
>titoさん
キャラクターの心理描写表現力不足感じてます。
それに至るための説明不足プロットの無い所くっつける時半端になってそうな所何箇所かおもい当たります。
もっと上手く書きたいです。
>ヴァイゼさん
イベント消化はもうちょっとちゃんと書きたかったです。プロットあったんですけど日程確認したら飛んじゃって…。
あの段階だと茶々丸がネギにではなく、ネギが茶々丸にフラグ立っちゃってますね。でも確かに茶々丸の行動って母性的な所ありますね。
エヴァのナギへの気持ち確かに結構微妙なラインですね。
ただむしろ未だに原作でも謎のネギの母親が凄く気になってるんですが、どんな人なんでしょうね。
>アスナスキーさん
明日菜は現在の実力だとこんなものと言った所でやりました。
でもエヴァンジェリンがその能力に気が付きました。きっとこれから前に出れます。
>八雲さん
確かに名言です(笑)
対決はこうなりました。いかがでしたか?

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