<SIDE エヴァンジェリン、横島>
「全く、電話したらさっさと出ろといっておいただろうに。それに・・・なにか私の尊厳を傷つけられた気がしたのだが?」
「あ〜、ちょっと話とかしていたから気づかなくってな。尊厳がなんとかっていうのは誤解だろ。でも召喚か・・・かなり便利やな〜。」
ぷりぷりと怒るエヴァンジェリンに横島はそれでなんで呼んだんだ?とたずねる。
「ああ。茶々丸に新機能を搭載したらしくてな。引き取りに来たのだが、暇だったから貴様を呼んだわけだ。光栄に思え、私の暇つぶしに付き合えるのだからな。」
「んな理由で強制召喚なんかするなよ。消える俺を一般人に見られたらどうするんや?」
「大丈夫。おかしな行動をしている輩が消えたとしても喜ぶ者はいても追求しようとする者などいないだろう。
ん?終わったようだ、ついでだから貴様をハカセに紹介しておいてやる。」
横島との掛け合いを楽しむエヴァンジェリンだが、ポケットの中でアラームが鳴ったため立ち上がり歩き出す。
「それにしてもあの茶々丸ちゃんをつくった一人で今もメンテナンスをしている人・・・か。すげえな。」
「ああ。まだ中学三年生だがな。なかなか素晴らしい頭脳の持ち主だ。」
「ロボだぜロボ。しかもあれだけの動き、思考みたいなのもしているみたいだし。なんと言っても俺が知っている子とは違って言葉がめちゃくちゃ滑らかだし力加減も巧み。」
彼の脳裏をよぎるのはその『知ってる子』のキスで顔面を粉砕されかけた事、抱擁で上半身と下半身を引きちぎられそうになった事、ロボット三原則とかいうのを組み込んでおらずこちらを攻撃してきたその妹などなど・・・。
遠くを見るような感じだった横島はハッと閃いた。
(まてよ!?あのカオスのじいさんはボケていたから我が煩悩を満たしてくれるちょっとドジでナイスバディなねーちゃん型ロボットを作れなかった。
しかし、今のこの世界ではプロジェクトチームがあって茶々丸ちゃんを作ったらしい。
ならば、ならばもしかしたらこの先に待つ偉大な人ならば作れるかもしれない!!・・・俺の、夢を!)
「おい何ボーっとしている。この部屋だ横島。」
エヴァンジェリンの言葉に横島は決意を秘めた眼差しでドアを見た。
彼女がノックをし、そしてドアが開く。
「彼女がハカセだ・・・って、横島?」
エヴァンジェリンはドアが開き、茶々丸を伴って出てこようとする葉加瀬聡美を紹介する。
だが横島はその場にざっと土下座をした。
「ハカセ、ご高名はかねがね!そこでお願いがあるのです。新たなロボットをつくりだす研究をしていただけませんでしょうか!!
人となんら変わらぬ感触を持ち、人と変わらぬ感情と心までも持つほどの新たなロボットを!!」
ポカンとするエヴァンジェリンと茶々丸。まともに受け取ったらしいハカセは少し考えてから言葉を発する。
「それは無理ではないでしょうか。喜怒哀楽、心、感情。これらは科学史、哲学史上最大のナゾであります。
エヴァさんが提供してくださった魔力機関を搭載した茶々丸には最先端をこえた科学力をつぎ込んでいるので今科学的には最高峰の稼動を誇るのではと考えているわけですが・・・・・・」
人差し指を立ててぶつぶつぶつぶつ長々と説明し始めるハカセ。
だが横島は立ち上がり、それをさえぎる。
「しかし!茶々丸には明らかに人を労わったり、動物を可愛いと感じたりする気持ちがある!!ならばデータが集まり、研究が進めばその壁を乗り越えられるのでは!?
それに、それに諦めたら前には進めないはず!」
「な!?・・・か、壁を乗り越える?」
ハカセは何かショックを受けたようにふらつく。
そうだ、超という天才に出会い、魔力という検証可能な力を知って研究は大きく進歩した。
確かに壁を越えたといえるだろう。
ならばもう一歩壁を乗り越える事ができない事などあるだろうか?しかも成功したらノーベル賞ものの大発見だ。
「そ、そうですね見知らぬ人!!茶々丸がさらに経験を積み、たくさんのデータを得て人工知能が成長に成長を重ねれば限りなく人間に近い感情を再現できるかもしれない!」
「横島忠夫っす。ハカセ!!茶々丸ちゃんが経験をつめばいけそうなんっすね!?」
がしいっと手を取り合う二人。
茶々丸とエヴァンジェリンは似合わない熱血状態の二人に微妙に引き気味だ。
「ええ!いけるかも・・・いえ、やって見せるわ!!こうしちゃいられない、さっそく今までのデータを細かく検証よ!」
ハカセはそういうと急いで研究室へ戻って行った。
「ああ!その前に今出来る範囲でいいからボクに美人でグラマラスなドジっ娘ねーちゃんタイプのアダルトロボットを〜〜〜!!!!」
「そんな事だろうと思ったぞ、この阿呆が〜〜〜!!」
「へぶし!?」
その場の雰囲気にのまれて動けなかったエヴァンジェリンの一撃により横島は沈黙し、横島の野望は阻止された。
『男三人麻帆良ライフ 第六話』
<SIDE ネギ>
次の日の朝、麻帆良学園女子中等部の玄関口では今朝カモが行った下着ドロについて憤慨する明日菜が木乃香に愚痴を言っていた。
そんなルームメイト二人をよそにネギは肩にカモを乗せ、きょろきょろと辺りを見回して何かを警戒している。
「・・・よう兄貴さっきから何をキョロキョロしてんだよ?」
「え、いやちょっとね・・・。」
「な〜に落ち込んでんだよ?相談に乗るぜ兄貴!!」
「う〜ん・・じ、実はうちのクラスに問題児が・・・。」
「おはようネギ先生。」
それならばと話し始めたネギの背に聞き覚えのある声がかけられた。
慌てて振り返るとそこにいたのはやはりエヴァンジェリンと茶々丸。
「今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ、ネギ先生が担任になってから色々楽になった」
杖に手をかけるネギ。
だがそんなネギをエヴァンジェリンが牽制する。
「おっと・・・勝ち目はあるのかな?校内ではおとなしくしておいた方がお互いのためだと思うがな。」
ネギが躊躇うのを見て少女はさらに笑う。
「そうそう、タカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また生徒を襲われたりしたくはないだろ?」
フフフ・・・と笑い背を向けるエヴァンジェリン。
ネギはその脅しとプレッシャーに負けて「うわああ〜〜〜ん」と声を上げ、逃げ出した。
肩から落下したカモと明日菜はネギの後を追う。
言い返せないなんて僕はダメ先生だ・・・と階段の踊り場で膝をつくネギ。
カモはそれを見て舎弟の俺がぶっちめてやる!!と息巻くがネギにエヴァンジェリンは実は真祖の吸血鬼なのだと教えられ、ビビッて逃げ出そうとした。
その尻尾を明日菜がつかみ、へたれオコジョを引き止める。
「あの茶々丸さんがエヴァさんのパートナーで・・僕はあの二人に惨敗して今も狙われているんだよ・・・。」
「それにしてもよく生き残れたなあ兄貴・・・。吸血鬼の真祖って言やあ最強クラスの化け物じゃないっすか。」
「なんか魔力が弱まってるらしいのよ。次の満月までは大人しくしているつもりらしいけど。」
そんなにやばいの?と明日菜はたずねる。
今まで二年もクラスメートをしてきたし、自分のとび蹴りで撃退できた相手だ。最強クラスの化け物だなどと言われても実感がわかない。
「なるほどな、・・・フフ、でも安心しろよ。そーゆーことならいい手があるぜ。」
「え!?何かあの二人に勝つ方法があるの!?」
カモの言葉にネギと明日菜は色めき立つ。
「ネギの兄貴と姐さんがサクッと仮契約をかわして相手の片一方を二人がかりでぼこっちまうんだよ!」
くわっと口を開くカモ。明日菜とネギは驚く。
ネギは二人がかりなんて卑怯じゃないかと言うが相手も二人がかりだったんだろ?と言い返される。
明日菜はキスをするのが馬鹿みたいだというがカモにキスもまだしたことないのか?と挑発されてとりあえずキスの事は棚に上げる事にした。
「それに、師匠も『信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人』って言ってたんだろ?姐さんなら信頼できるし、事情を理解している。あの体術も見事でしたぜ。」
カモは自分を叩き落とした時の明日菜の動きを思い出してフッと笑った。
明日菜は昨日ネギが頼んできたら考えてやろうと思った事を思い出し、ネギを見た。
ネギはあごに手をあてて考えているようだ。
(明日菜さんは信頼できるしあの時僕を助けに来てくれた。それに事情も理解しているし・・・。それにやっぱりこのままではいけない、なんとかしないといけない気がする。)
うむむむ・・・と悩んだネギは明日菜の方を見た。
「あ、明日菜さん。お願い・・・できますか?一度だけ、一回だけでいいですから。」
上目遣いで申し訳なさそうにいうネギ。
明日菜は「う゛・・・」と唸った。
ネギは『信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人』をとりあえず探しているのだろう。
それで自分に頼んできたという事なら、自分を信頼しているという事だろう。そう考えると少し嬉しくなるし無下にはできない。
それにやっぱり放っておくわけのもいかない・・・。
「・・・もうっ、ほ、本当に一回だけだよ?」
そして明日菜は了解した。
発動するカモが書いた魔方陣、その光から受ける感覚に戸惑いつつも明日菜はネギに顔を近づけて・・・
「あ、姐さんおでこはちょっと中途半端な・・・。」
「いいでしょ何でもー!!」
カモの言葉に顔を赤くして文句をいい、ネギから顔を離した。
<SIDE エヴァンジェリン>
放課後、茶道部の活動を終えたエヴァンジェリンは茶々丸を伴って茶室から出てきた。
「おそらくネギ・スプリングフィールドに助言者がついた。しばらく私の側を離れるな。」
「・・・はい、マスター。」
「おーいエヴァ。」
主従の方へ声をかけ、近づいてくる男。
(うっ・・・タカミチ・・・)
エヴァンジェリンは麻帆良学園都市NO.2の魔法先生、高畑・T・タカミチだと気づき内心警戒する。
「・・・何か用か?」
「学園長がお呼びだ一人で来いってさ。」
「分かった、すぐ行くと伝えろ。茶々丸、すぐ戻る。必ず人目のあるところを歩くんだぞ。」
エヴァンジェリンは茶々丸に念を押し、コク・・・とうなずくのを確認すると高畑とともに歩き出す。
「何の話だよ?また悪さじゃないだろーな?」
「うるさい、貴様には関係ないことだ。」
エヴァンジェリンは歩きながらそれでも心配だと考える。
そして携帯電話を取り出した。
「もしもし・・・私だ。用事が終わったら茶々丸と合流しろ。以上だ。」
<SIDE ネギ>
ネギと明日菜とカモ。二人と一匹は草陰や木陰に隠れながら茶々丸の後をつけていた。
しかし、最初はまき絵やのどか、そしてネギを襲った悪い奴の片割れだという認識だったがその認識は時が経てば経つほどガラガラと崩れていく。
風船が木に引っかかり泣いている女の子のために風船を取ってやり、そんな茶々丸を慕ってか知り合いらしき園児が寄ってきた。
歩道橋の階段をのぼるのに苦労しているおばあさんをおぶって運ぶ。いつもありがとうございますと礼を言うおばあさんの言葉からいつもの事なのだろうと推測する。
そして極めつけはドブ川を仔猫が流れていくと騒ぎ、慌てている人々を見つけ自分が汚れる事など気にせずにドブ川に入り仔猫を救出してきた。
街の人々は拍手と歓声で茶々丸を迎える。
その姿は善人を通り越して聖女。
「メチャクチャいい奴じゃないの〜〜〜!!しかも街の人気者だし!!」
「え・・・えらい!!」
「い、いや油断させる罠かも兄貴!!」
三者三様に騒ぐ。
そうこうしているうちに教会の鐘の音が鳴り響き、頭に仔猫を載せた茶々丸は歩き始める。
たどり着いた場所は鐘の音の音源である教会・・・。
足元にまとわりついてくる猫、側を飛びさえずる鳥、そしてほんのり微笑みのようなものを浮かべつつ猫に餌を与える茶々丸。
まさに一枚の絵画のような光景。
「・・・いい人だ。」
ネギは滂沱の涙をながし明日菜も涙を浮かべて感動している。
そんな二人にカモが活を入れる。
そして二人と一匹は作戦を練り始め、茶々丸が猫の餌をやりおえて器や猫缶の空き缶を片付け始めた時に茶々丸の前に歩み出た。
しかし両者ともその顔に浮かぶのは迷い・・・。
「こんにちはネギ先生、神楽坂さん。・・・油断しました。でもお相手はします。」
茶々丸は立ち上がり、頭のぜんまいをはずす。
「茶々丸さん・・・あの、僕を狙うのはやめていただけませんか?」
「・・・申し訳ありませんネギ先生、私にとってマスターの命令は絶対ですので。」
「ううっ・・・仕方ないです。」
最後のお願いとばかりに頼むが茶々丸はぺこりと頭を下げて謝る。
ネギは明日菜に打ち合わせどおりに・・・と言い、明日菜もうなずいた。
「・・・では、茶々丸さん。」
「・・・ごめんね。」
「はい、神楽坂明日菜さん。いいパートナーを見つけましたね。」
まだ迷いの残る二人だが茶々丸の言葉が引き金になったかのようにネギが呪文を唱える。
「行きます!『契約執行10秒間!!ネギの従者神楽坂明日菜』!!」
送り込まれる魔力、駆け出した明日菜は羽根のように軽い己の身体に戸惑いつつも茶々丸に接近する。
ネギは明日菜が走り出したと同時に始動キーを唱え始める。
茶々丸は明日菜を無力化しようと左手を伸ばすがその手ははじかれる。
次にくるのは明日菜の攻撃・・・と思ったがそれはデコピンだった。本格的な敵対行動ではないと認識する茶々丸。
だが速く、素人とは思えない明日菜の動きに驚く。そして離れたところからの呪文詠唱に気づいた。
「『魔法の射手連弾・光の11矢!!』」
放たれた追尾型の魔法の矢、しかも至近弾なので避けきれないと判断する茶々丸。
エヴァンジェリンへの謝罪の言葉をつぶやき、魔法の矢の命中を覚悟する彼女だったが、その彼女の前に最近知り合った男が割って入った。
「やっぱりダメーッ戻れ!!」
男の存在に気づいていないネギだがギリギリで迷い、魔法の矢に戻るように命じた。
「うげっ!アホか!?」
慌てるのは男。
自分達に使おうと思っていた右手に持っている丸い珠を投げる。
ドカカカンッ!!と放ったネギ自身の方へ着弾する魔法の矢。
明日菜とカモはそれに驚き、着弾地点にいるネギの名を叫ぶ。だがその心配は杞憂だった。
「え・・・あれ?これは?」
ネギは自分の周囲に光の壁のようなものがドーム状に展開されているのを見て首をかしげた。
「ちょっとネギ大丈夫!?」
「あ、兄貴〜なんで矢を戻したりしたんだよ〜っ!!」
明日菜とカモがネギに駆け寄り、光のドームの前で立ち止まりぎゃあぎゃあ騒いだ。
ドウッ!!と音がして茶々丸が飛び去っていくのに二人と一匹は気づく。
そして茶々丸が飛び立った付近にまだいる一人の男にも・・・。
「馬鹿野郎!!土壇場で迷うぐらいだったらあんなもん撃つんじゃねえ!おまえらは大変な事をしでかすところだったんだぞ!!」
「よ、横島さん!?」
「師匠!?」
「・・・誰?」
男、横島忠夫は三者三様の反応を見せるネギ達をじろりと睨んだ。
<SIDE 横島>
横島はエヴァンジェリンに言われていた用事、エヴァンジェリンの家の周りの木の手入れをしていたところ携帯電話に入っていたエヴァンジェリンからのメッセージに気づいた。
「心配だから茶々丸ちゃんを探して合流しろって・・・。う〜ん、愛ゆえにってやつか?とするとやはりエヴァちゃんは百合。」
ぶつぶつとつぶやき、時にナンパをしつつ横島は茶々丸の姿を探した。
そして見つけた彼女は何と言うか丁度戦闘を開始したところだった。
茶々丸と戦っているのは中学生くらいであろう少女。
多少発育はいいがそれでも中学生だなと分かり、龍宮真名という規格外の時のように取り乱したりはしない。
少女の発育を確認した後横島は見知った顔を発見した。
ネギ・スプリングフィールド少年、雪之丞、ピートとともに三角関係疑惑を持たれたという疑惑の子供だ。
だがその唱えている呪文になんだか聞き覚えがあった。
「おいおい。」
それはエヴァンジェリンの別荘で何度も横島がくらった魔法とおそらく同種のもの。
そしてもちろん照準は茶々丸であろうと考え、横島は飛び出した。
昨日ハカセのもとへ行く前の茶々丸はよくご飯をくれる優しい子、エヴァちゃんの百合仲間だったのだがハカセと会話をしてからは『人類の夢と希望の種』へとランクアップしていた。
茶々丸の人工知能のデータが壊れたりしたら人類の夢と希望への道がさらに遠くなる。
幸いあの魔法がエヴァンジェリンのものと同種の魔法ならば防げる。
そう思い横島は飛び出したのだ。
茶々丸の前に割り込み、走りながら『護』の文字を込めていた文珠を発動させようとする。
だが目前で魔法の矢は全てネギの方へ戻っていった。
「うげっ!アホか!?」
慌てる横島は自分達のところで使おうと思っていた文珠を投擲、ネギの近くで発動させることにぎりぎりで成功する。
ドカカカンッ!!と放ったネギ自身の方へ着弾した魔法の矢だったがそれは『護』の文珠により全て防がれた。
ネギの他にツーテールの少女と小動物が驚いて何か騒いでいるが気にしない。
大丈夫だったか?とばかりに茶々丸を見るとホッとしたような表情でペコリとお辞儀をして飛んで行った。
「もしかしてあの坊主が無事だったのに安心したのか?う〜む、この調子で行けばハカセが言っていた経験がたまるのも近いのでは!?」
横島は内心にやりと笑った。
そして自分に注目している二人と一匹に気づき、
「馬鹿野郎!!土壇場で迷うぐらいだったらあんなもん撃つんじゃねえ!おまえらは大変な事をしでかすところだったんだぞ!!」
とりあえず怒鳴った。
「よ、横島さん!?」
「師匠!?」
「・・・誰?」
横島はネギ達をじろりと睨んだ。
「なんであの子と戦ってたのかは知らんがな、もう少しで大変な事になるところだったんだぞ!もしあれを食らって壊れちまったら夢も希望も台無しだ。あの子はロボットだけどな、壊れてメモリーがとんじまったりしたら全部振り出しに戻るんだぞ!?」
「え?あ・・・はい、すみません。」
ネギは横島の言わんとする事を悟り、うつむく。
少女に、おばあさんに、街の人達に感謝されていた茶々丸。
その茶々丸はそれらを全て忘れてしまうかもしれないのだ。そして一緒にすごしてきたクラスメートの事も・・・。
ネギはチラリと明日菜を見た。
明日菜も困惑している。
もともと二人は茶々丸を攻撃するのに迷いがあったのだ。
だがカモの強硬な主張に納得はしきれないもののそうなのかな?と思い行動した。しかし目の前の男はその自分達の行動にはっきりとNOと言っている。
「で、でもよー師匠。先にあの茶々丸ってロボが吸血鬼のエヴァンジェリンと一緒になって攻撃してきたんだぜ。」
「カモか・・・。攻撃してきたからといってそれに対してただ力でやり返すというのは感心できんな。そんな事ではいつまで経っても戦いは終わらない。」
遠い目をする横島。
思い浮かぶのは攻撃と報復を繰り返していた自らの雇い主とそのライバルである小笠原エミ・・・。
美人は仲良くがもっとーである横島にとってその不毛な争いはむなしいものとして映った。・・・何より自分に被害が飛び火してくるのは勘弁していただきたい。
だがそんな横島の内心が分かるはずもないその他の者達。
ネギは感動し、カモはショックを受けてよろけ、明日菜は初対面のその男の言葉に感心する。
「なぜそんな事をしてきたか聞いてみたか?」
エヴァンジェリンが何を求めているのか知っているのか?という意味でたずねる。
「の、呪いを解くために僕の血が必要だって・・・。」
「相手の事をちゃんと知っているのか?相手の言う事を鵜呑みにせずにしっかり調べてみたか?」
彼女は何百年も生きている賞金首だぞ、それを知っていてその従者の茶々丸を破壊しようなんて相手の逆鱗に触れるような事をしようとしたのか?という意味を込めてたずねる。
「いや・・・僕のクラスの生徒だという事くらいしか。他はみんなエヴァンジェリンさんが言っていたことですし・・・。」
「何か他に選択肢はないのか?その辺考えてみたか?」
最初はともかくエヴァちゃんは今は楽しい遊び、腕試し以上の考えは持っていないみたいだし命までは取られないと思うぞという意味を込めて言ってみる。
「うう・・・。」
ネギはうつむき唸り、明日菜は心配そうにそれを見ている。
横島は自分がエヴァンジェリンと親しい・・・どころか毎晩別荘で特訓と言う名の拷問(横島主観)を受けているという事などなどを話してはいけないらしいのでどうしても伝え方が中途半端になってしまい、ちゃんと伝わっていないのではないかと不安になるが『まあいいか』と諦めた。
「じゃあ俺は行くから。ああ、これだけは覚えておけ。迷いがあるのに他人を傷つけるような事はしない方がいい。後で後悔が何倍にもなるからな。」
そう言って横島は去って行った。
「・・・ダンディな中年のおじ様じゃなかったんだ。」
「へ?」
いち早く思考の渦から現世回帰した明日菜がぽつりとつぶやいた。
それにネギが反応して首を傾げるが何でもないと言って慌ててごまかす。
「それにしても、なんて言うか・・・言う言葉が深いわね。」
言葉のキャッチボールがうまくいっていなかった違和感を明日菜は台詞の意味が深いと解釈をした。
まあ間違ってはいない。確かに横島の言葉には深い意味があったのだから。
ネギとカモに凄い人だと聞かされていたし、なにをしたか分からないがネギを魔法の矢から守ったらしいので明日菜はすっかり彼を過大評価していた。
・・・第一印象は大事だ。横島がナンパをしまくっているところを一番最初に見ていたら間違いなく過大評価などしなかっただろう。
「はい、深いですね。僕、何も考えず・・・。それに自分の生徒なのにエヴァンジェリンさんの事も茶々丸さんの事も全然知らない。」
落ち込むネギ。
それを励ますかのようにカモが声を張り上げる。
「よっしゃ!じゃあ俺っちはまほネットでエヴァンジェリンの事を調べてみるぜ兄貴。くよくよしていてもしょうがねえ!!」
「カ、カモ君・・・。」
「・・・っていうか元々茶々丸さん攻撃しようって言い出したのはあんただった気がするんだけど。」
ネギは前向きな友人を見つめ、明日菜はあんたが原因じゃないの?とばかりにじと目で見る。
カモは冷や汗を隠すためにどこからか取り出した帽子を目深にかぶった。
<SIDE 近右衛門、エヴァンジェリン>
「ほ〜、桜通りでな〜。そういえばこの前横島達がやって来た晩もそんな事を言っていたな。しかし残念ながら私は知らんな。」
「・・・ふ〜む。そうか。次生徒が襲われるような事があれば魔法先生を動員してしっかりと調査を行わなければならんのう。」
二人は茶をすする。
しらをきるのはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
事情を理解しているくせに困ったように言うのは近衛近右衛門。
「そうか。まあ魔法先生達の手を煩わせない事を願っているよ。」
「そうなると嬉しいのう。なんせ警備も頼むから残業が多くて・・・。結構不満が出ているんじゃよ。」
二人の発言はもちろん言葉どおりの意味ではない。
次生徒が襲われるような事があればさすがに見逃せないと言っている近右衛門と魔法先生の手を煩わせない、つまりそのような事にはならないだろうというエヴァンジェリン。
近右衛門は満足げにうなずき、そういえば彼の様子はどうじゃ?とたずねる。
彼とはエヴァンジェリンの直属にした警備員、横島忠夫。
ピートと雪之丞については近右衛門がかなり把握している。
ピートはちょくちょく図書館島に行ったりしているようだし近右衛門が貸した魔法関係の図書を読んでいるようだ。
さらには神への朝の祈りを欠かさないなど彼は非常にバンパイア・ハーフらしくない。
雪之丞にいたっては特にどこを警備してくれなどと指示をだしていない場合はふらりと山に行っているらしい。
なんでも本人は修行だと言っている。
給料を払っている身としては扱いにくい事この上ないが、雪之丞は特に特殊能力や派手な技を使うでもなくその肉体だけでトラブル解決をしてくれるので魔法がばれては困るこちらとしては嬉しい限りだ。
だが横島については分からない。
元の世界に帰るための修行というのもエヴァンジェリンに任せているし、横島に近右衛門から何か仕事を頼んだわけでもない。
ただ15年も麻帆良で過ごし、不満がたまっているエヴァンジェリンが興味を持った男であるので彼女の部下という形で預けた。・・・不満のはけ口になる事を多少期待して。
効果は予想以上だった。エヴァンジェリンも横島が現れた事でネギへの興味が多少薄れたようで、血を吸い尽くして呪いを解こうという物騒な考えも今は無いようだ。
他に呪いを解く方法が提示されたのも大きいのだろう。
「横島か・・・。やつは非常に興味深い。ピート、雪之丞の二人にも力を見せてもらったがピートは当然だがどちらかというと魔力に偏っている。雪之丞は気に偏っている。まあこちらの世界での力の基準でだがな。
しかし横島は偏りが無く、霊力という向こう独特の力の扱いに非常に長けている。・・・まあ才能なのだろう。」
「未知の力か。個別の才能、魂の力・・・確かに興味深いのう。」
「だが!なんなんだあいつは!?霊力での身体強化だかなんだか知らんがいいスピードをもっている、耐久力もかなりのもの、あの栄光の手とかいう悪趣味な名前の武器も利便性が高く攻撃力が高い。
なのに、なのに!!なんだ?みっともなく、避けて、逃げる!!修行にならんだろうが!あれだけ回避能力が高いならもっとやりようがあるだろうが!!」
エヴァンジェリンはうがーっと叫んだ。
別荘で攻撃をしてみたが情けない声を上げて避ける、挙句の果てには凄いスピードで逃げ出すというアホっぷり・・・。
思わず完全凍結殲滅呪文である『えいえんのひょうが』を使用してしまった。
さすがにやりすぎたかと思い焦ったが横島は文珠で結界を張り時間を稼ぎ、そして転移して凍結範囲から脱出したらしい。
寒い寒いと騒いでいたものの無事だったので二重の意味で驚いた。
「まあまあ落ち着けエヴァンジェリン。・・・なるほど、お主が認める程度には力はあるのじゃな?」
「ああ。まあ私には勝てんがな。地力ではおまえやタカミチにも劣る。」
まあおまえやタカミチと比べたら奴がかわいそうだと付け加えた。
「それで?どうじゃった?」
「何がだ?」
突然の問いかけにエヴァンジェリンは首を傾げる。
「見たんじゃろ?記憶。」
そうじゃないとエヴァンジェリンが初対面の相手を擁護するわけが無いとエヴァンジェリンがこの学園長室に横島を連れてきた時の事を引き合いに出して言う。
「・・・さあな。だが安心していい。奴は、能天気な・・・大馬鹿者だよ。」
エヴァンジェリンはフッと笑って立ち上がり、学園長室を出て行こうとする。
そして出て行く間際に振り返った。
「そうそう、地力では多くの者に劣る横島だが奴の切り札・・・。使いようによってはだが全盛期の私も負けてしまうぞ。
まあ私は負けるような負けるようなへまはしないだろうがな。」
そして部屋のドアは閉じられた。
「・・・ベタな罠にかかってナギに負けるようなへまをしたじゃろうが。」
近右衛門は小声で突っ込んで時計を見る。そろそろ次の来訪者が来る頃だ。
せっかくだから祭りは賑やかな方がいいが大きな問題が起こるのは困る。
近右衛門は迫ったタイムリミットに向けて準備に余念が無かった。やはり祭りは準備の時が一番楽しいのだ。
あとがき
今回の出会いはかなり意外なところでハカセでした!(笑
ピートと雪之丞は出番なし・・・と。
今後への準備、複線的話です。
感想ありがとうございます!とても嬉しいです。
ではレス返しを。
>twilightさん
刹那、京都弁ですね(汗
私が関西弁、京都弁にうといので書くのが難しいです。
実はルームメイトとの戦力差を気にしていた刹那。おもわず真名も冷汗ですw
>SSさん
指摘ありがとうございます。自分はどう書いたか分かっているから読みづらいとか気づきませんでした(汗
こんな感じでどうでしょうか?
ありがとうございます。期待していて下さい。
>MASAさん
一日に5〜6回ですか?ありがとうございます。嬉しいです。
勘違いと見せかけて完全に勘違いでないのがみそですw
横島と楓の出会いもいつかありますので楽しみにしておいて下さい。
>スケベビッチ・オンナスキーさん
誤字訂正ありがとうございます。
カモも勘違い、ネギも勘違い。互いに勘違いしていることを教えあってさらに勘違いですw
鳴滝姉妹と那波千鶴は別のベクトルに年齢詐称ですね(汗
たつみーとあのお方は似てますよね(笑
>遊鬼さん
ピートの疑惑は晴れました・・・一応。でも簀巻きですw
出会った刹那となにかありにしようか迷ってたんですが龍宮もいるし、横島に邪魔してもらいました!
>しゅりさん
はじめまして。面白いと言われるととても嬉しいです。
ピート、雪之丞も個性がありますからね〜。横島と対等にやってくれるという点でもこの二人はいいキャラです。
横島と雪之丞はライバルですからね。対決も十分ありかと。
しゅりさんもSS書いているんですか?お互い頑張りましょう!
>八雲さん
ピートは男の敵ですw
今回もネギ、カモ、明日菜の勘違いは引っ張りました。
エヴァちゃんは横島にお友達?を紹介。
雪之丞はイスカンダルまで・・・(涙
>六彦さん
勘違いで成長して行くネギ。間違ってる気がするけど素敵ですよね。
横島なら新しい世界で限界突破です。那波さんを中学生と知らずに出会ったら完全にナンパしてくれるでしょうw
>鋼鉄の騎士さん
怯えた雪之丞と本性出したピートは今回出番無しです。しかし次回は二人が活躍かも?
横島は今回ハカセフラグ、茶々丸フラグを・・・(笑
PSネギ達に幸はなくさらに勘違いが深まりました(汗
>ヴァイゼさん
雪之丞とネギはこのさき・・・(笑
ピート簀巻き祭りは横島主催、周囲の男が共催で行われましたw
ネギを成長させたいかな〜と思い、勘違いを利用しています。横島、ピート、雪之丞の影響でネギもちょっとだけ成長を・・・。
意外な人物、ハカセでした。予想は当たりましたか?
>アイアスさん
二刀流使いの伊達雪之丞。ちょっと格好いいですw
実はロリ吸血鬼の暇つぶしとお友達?紹介のために呼ばれました。