「つ、辛そうですね~。」
ピートは自分の隣に座ってコーヒーを飲む横島を気遣う。
げっそりとしていてかなり疲れきっている様だ。
「ああ・・・。エヴァちゃんがすごくってな。俺さあ、真祖の吸血鬼っておまえの馬鹿親父くらいしか知らなかったけど、すげえんだな真祖って。
何?あの極大殲滅呪文みたいなの!思わず文珠使ったぜ!?・・・あんまもたなかったけど。」
ため息をつき、ずずっとコーヒーをすする。
文珠での防御があまりもたなかったと聞き、ピートと雪之丞は驚く。
「じいさんが本気のエヴァちゃんはこの世界でもかなり強いって言ってたけどその通りや。ありゃすげえ。」
「う~ん、メドーサとどっちが強いですか?」
「比較は難しいな。メドーサとエヴァちゃんじゃタイプが違うし。メドーサは槍使うだろ?エヴァちゃんは魔法使う。でもやっぱメドーサかな?ほれ、やはり乳が!!」
元気が出たのか、鼻息も荒く妄想にふける横島。
「まあ、そういうわけでエヴァちゃんがノリノリであんまり寝かせてくれなかったわけだ。」
「えらくあの幼女に気に入られたみたいだな。美神の旦那の尻を追っかけるのもおしまいか?」
「美神さんのあの張りのある尻は俺んじゃ!!」
からかう雪之丞を横島はうがーっとほえて黙らせてから何か思いついたようににやりと笑った。
「ふん、雪之丞おまえ笑っていられるのか?ピートに聞いたぞ。子供に、しかも男に告られたらしいな。」
ぐはっと雪之丞はダメージを受け、密告したピートを睨みつける。
「勘九郎と怪しいとは思っていたが、まさか貴様が両刀の使い手だったとはな。恐ろしい男だ・・・。
弓さんには『君の知っている伊達雪之丞は死んだ』と伝えておこう。まあ安心してくれ。弓さんは俺に任せて極楽へ行くがいい!!」
「て、てめえ!!」
「まあまあ二人とも落ち着いて。一般の方ばかりの場所で騒ぐのはよくないですよ。」
睨みあう横島と雪之丞そしてそれをなだめるピート。
どう決着がつくのかとピートがはらはらしていると雪之丞が突如顔を青くし、逃げ足では他の追随を許さない横島も真っ青なほどの逃げ足で逃げ出した。
音も立てず、人の間をぬうように走るその技は横島流・ゴキブリ式逃走術に酷似している。
「・・・どうしたんだあいつ?」
「さあ・・・って、あれ?たぶん彼が原因ですよ。」
ピートはそう言って手を振り声を上げる。
「お~い、ネギ君。よかったら一緒にコーヒーでも飲まないかい?」
「え?あ、ピートさん。」
ピートが声をかけたのはグリーンのスーツを着た子供先生、ネギ・スプリングフィールド。
ネギはきょろきょろと周りを見ながら近づいてきた。
「あれ?今日は雪之丞さんは一緒じゃないんですね?」
その言葉に横島はこの子供は幼くして本物なのか!?と戦慄する。
「そちらの方は始めましてですよね?麻帆良学園中等部で教師をしているネギ・スプリングフィールドです。」
「ああ、ご丁寧にどうも。ピートや雪之丞から聞いてるよ。俺は横島忠夫っていうんだ。・・・雪之丞がいないのはまあ残念だろうが奴の事だ、どっかでひょっこり出会うだろう。」
礼儀正しく頭を下げるネギに横島も自己紹介をする。
「そうですか・・・。昨日は雪之丞さんとピートさんがいなくなってからクラスの子達が大変だったんですよ。なんか僕が雪之丞さんに告白したとかって勘違いしてしまったみたいで・・・。」
「・・・やっぱり勘違いだったんだね?」
「そう!勘違いですよ!!雪之丞さんとピートさんも勘違いしてたんですね?」
「ああ・・・。そりゃあんな言い方じゃあね。勘違いするさ。」
じと目で見るネギにピートは苦笑する。
「ちい!勘違いか。なかなか面白かったのに。」
横島は不満げにコーヒーを飲み、
「でも、クラスの子達はピートさんと雪之丞さんと僕の三角関係だって言っていましたよ。」
ブピュルッとコーヒーをふいた。
げほげほっとむせながらも鬼の首を取ったように笑う横島。
ピートは顔を青くし、冷や汗を流す。
「ふははは!!世の女性達に伝えねば!この一見女にもてそうな優男はホモなんですよ~。つり目の戦闘民族とできてるんですよ~。」
はしゃぎ、騒ぎ立てる横島。
こめかみに青筋を浮かべたピートは突然立ち上がる。
「この美しい僕が!ホモだなんてありえない!!そんなのは世界的な損失じゃ・・・」
両手を広げ、叫んだピートだが冷たい視線を感じてはっと我に返る。
視線の主は周囲を通りかかった男達。
そして視線に最も鋭く、冷たく、怨念をこめているのが親友であるはずの横島忠夫・・・。
「てめえ、ピート・・・メゾピアノの時はうやむやになっちまったが、再び本性を現しやがったな!?」
「あわわわ、横島さん落ち着いて~。」
般若もかくやというほどの怒りの形相の横島に慌てるネギ。
だが横島は止まらなかった・・・。
『男三人麻帆良ライフ 第五話』
『ぼくは調子に乗っちゃいました』『自称美形』『自分サイコー』などと書かれた張り紙を張られ、コーヒーショップの屋根から吊り下げられているピート。
それを放っておいて横島とネギは会話を続けていた。
「へ~。それで剣となり、盾となってくれるパートナーを、ねえ。」
「そうなんですよ~。雪之丞さんならぴったりだと思ったけど断られて・・・。」
剣となり、盾となって魔法使いとともに戦うパートナー。確かに雪之丞ならぴったりだ。
そう考えた横島は次に今までの自分を思いかえす。
剣はともかく盾ではあった・・・。『横島君、お願い』などと言われ盾にされた事もあるし何度も横島バリアーとしてこき使われていた。
「ど、どうしたんですか?横島さん。」
ネギは涙を流し始めた横島に驚き、慌てる。
「え?あ、いや・・・さっきの話と今までの自分を当てはめたらちょっと涙が。」
「今までの横島さん・・・ですか?だれかのパートナーをしていたんですか?それとも今もしているとか。」
「ああ、その魔法使いの契約とかいうのとは違うけどパートナーっていったらパートナーだな。(身体は)最高の女性の盾となり、ともに敵と戦ったものさ!!」
「すごい!!それがここで警備員になる前のお仕事なんですか?」
キラキラと尊敬の視線を向けるネギに横島はこのくらいなら支障はないだろうとばかりに若干誇張をまじえていくつか倒した敵とその倒し方を教えてやった。
「な、なんか話では結構・・・というかかなり横島さんが攻撃を受けている気がするんですが・・・。」
「うむ。だが(あの身体をものにする)覚悟がなければ俺は力尽きていただろう。」
「覚悟・・・ですか?」
「そうだ。(あの素晴らしい身体をいつか自分の物にする時まで傷物にしないためにも)彼女をあらゆるものから守る覚悟だ。」
横島の脳裏にはその彼女を傷物にしようとする様々な者が思い浮かぶ。
それは魔族であったり、悪霊であったり、自分の父であったり、長髪ロン毛の似非貴族であったり、固体名西条輝彦であったり、西条であったり、西条であったり・・・。
ガーンッとネギはショックを受けた。
この人はその大事な女性を守るために覚悟を決めて、盾となって必死で守っていたのだ。
それに引き換え自分はどうだ?
エヴァンジェリンに襲われておびえ、相手の気持ちなど考えずにあの人はどうだろう?あの人なら大丈夫なのでは?などとパートナー探し・・・。
ネギは自己嫌悪に陥りそうになるがなんとか踏みとどまる。
「それで、ここで警備員をしているって事はその人のパートナーはやめたんですか?」
「ん?いや辞めてないぞ。」
「それじゃその人は今・・・。」
言いかけてネギは自分の失言を呪う。
なぜなら横島の頬を一筋の涙が流れたから。
(くっ、僕はなんて馬鹿なんだ横島さんが守っていたという女性はもう・・・。でも、それでも彼女を守る人間であり続けるという彼の気持ちを察せないなんて!)
横島は「辞めてないぞ」とは言ったものの不安になっていた。
依頼失敗で異世界に飛んでしまい、しかもまだまだ帰れない。あれ以上に時給を減らされたら生きていけない・・・。
しかしここまで頑張ってきてあの身体を自分のものにせず辞める事などできない!!
減給を・・・のむしかないのかと受け入れ、そして涙を流したのだ。
かみ合っているようで見事にかみ合っていない二人の思考、会話、行動。
「あ、あの!横島さんに聞きたいんですけど横島さんが魔法使いで、パートナーを作りたい場合パートナーにはどんな人を選びますか!?」
「は?俺?」
「はい!」
横島は戸惑いつつもネギを見る。
いい身体をしたねーちゃんと言おうとしたが、ネギはなにやら真剣な眼差しでこちらを見ているので本気で聞いているのだと理解し、少し考える。
「う~ん、そうだな。信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人だな。」
騙されて連れて行かれた除霊では全くやる気など起きなかったが納得して、むしろノリノリで行った場合はやる気も起きたし結構うまくいったものだと自分の経験を思い返してネギに答えた。
やはりやる気があるかないかは大事なのだ。
「信頼・・・事情・・・理解・・・。
そうですね!ちゃんと事情を理解してもらわないと信頼してもらえない。それに信頼していないと事情を話して理解してもらうなんて無理ですよね!!」
なにか心に響いたのか拳を握り締めて立ち上がるネギ。
そしてぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます!目から鱗が落ちた気分です!!」
「そ、そうか?」
「はい!じゃあ僕、寮に戻ります!また、相談に乗ってくれますか?」
元気そうな言葉から一転、頼るような視線を向けてくるネギ。
別にネギの事が嫌いなわけでもない横島が断る言葉など持っているはずがなく・・・
「別にいいぞ。あんまり危ないことするなよ。」
エヴァンジェリンがネギを狙っているのを知っている横島だが、自分とのつながりを言うんじゃないと言い含められているので最低限の注意だけをしておく。
本当ならば別荘でのエヴァンジェリンを知っているだけにあのちびっ子は怖いぞ~と教えてやりたいところだ。
「わかりました。ありがとうございます。」
そしてネギは走り去っていく。
エヴァンジェリン直伝の縛り方で縛られているピートがピチピチと動き、横島のポケットの中で携帯電話が鳴る。
そんな二人に近づいてくる人影があった。
「横島さんの話を聞けたのはよかったな~。」
ネギは少し元気を取り戻し、広場を歩きながらこれからについて考える。
今日もエヴァンジェリンは授業をサボっていた。
彼女は怖いし、自分の血を狙っているらしい。
できれば出会いたくないからサボってくれるのはラッキーだといえなくもない。しかし、
「やっぱり先生としてエヴァンジェリンさんのサボりを認めておくわけには・・・。」
「兄貴兄貴―――ッ!!」
「あ、カモ君なんで学校に!?ダメだよ大声出したら。」
呼びかけてきたのは昨夜やってきた友人のカモ。
一般人にしゃべるおこじょなんて見つかったら大変だと焦る。
「大変ッスよ。例の宮崎さんが・・・・・」
「え~っ!?寮の裏手で不良にからあげされてる~!?」
「かつあげっス。かつあげ!」
「な、なんでそんなことがわかったの!?」
「え・・・えーと、能力だよ。おこじょの特殊能力。」
「と、とにかく行くよっカモ君!!」
「そーこなくっちゃ兄貴!!」
杖にまたがり加速するネギ。カモがその肩に飛び乗るとネギの意思に従い杖は彼らを空に運んで行き、あっという間に寮の裏手が見える位置に到達する。
そして見つけた見知った後姿。
「いたっ!」と叫ぶと人気のないところへ着地、ネギは宮崎のどかのもとへと駆け寄った。
「宮崎さん!大丈夫ですか!?」
「あ・・・先生。」
「あの不良のからあげはどこです!?」
「からあげ――・・・定食ですか?」
「あ、あれ?襲われてたんじゃ・・・?」
「はあ・・?」
「あれー?おかしいな・・」
慌てるネギと頬を赤くして戸惑うのどか。
ネギは何かおかしいと思い、首を傾げる。
「あ、あのそれでネギ先生・・・わ、私なんかがパ、パートナーでいいんでしょうか?」
「へ?」
赤くなっていた顔をますますトマトのように真っ赤にさせてもじもじとしながらのどかは切り出す。
思わず間抜けな声を出すネギはその肩でガッツポーズをする白い小動物に気づいた。
「カ、カモ君!?」
「すまねえ兄貴・・・手っ取り早くパートナーの契約を結んでもらうためひと芝居うたせてもらいましたぜ。」
「カモ君騙したね!?」
「あ、後押しだよ後押し!」
ぼそぼそと小声で言い合う一人と一匹。
ネギの様子に冷や汗をたらすのどかだがここは勇気を出して一歩踏み出した。
「あの・・・おとといの吸血鬼騒ぎの時にはまた助けて頂いたそうで・・・。なんだか私先生に迷惑かけてばかりで、すいません・・・。」
「い、いえそんなことないですよ。」
「だから・・・お返しに――・・ネギ先生のお役に立てることなら何でも――・・が・・頑張りますから何でも言ってくださいね。」
ニコッと笑顔を見せ、さらに真っ赤になり熟したトマトの赤さをこえるのどか。
彼女の笑顔はとても可愛く、その健気な言葉がネギの幼い男心をくすぐる。
ネギは見入るように目を開き、頬を染めて自分の胸の高鳴りに戸惑う。
「み・・宮崎さん・・・。」
「フフ・・・俺の読みは間違ってなかったな。」
「ど、どういうこと!?カモ君。」
「一口にパートナーと言ってもただ隣にいりゃいいって訳じゃないんだよ!互いに信じあい、いたわりあえる関係である事が重要!」
地面に降り立つカモ。
ネギは横島の言葉を思い出した。『信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人』。
それとカモが言った『互いに信じあい、いたわりあえる関係・・・』似ているようで少し違う。
ネギは思考の渦におちる。
「その点この娘は―――ネギの兄貴を好きであることではズバリ現時点クラスNO.1!!」
だがその思考もカモの言葉により霧散し、真っ赤になって目を回しうろたえる。
「え・・・ええっ!?み・・宮崎さんが僕の事すす好っ・・・!?そ、そんな事こまるよ~。」
そんなネギを見てカモは目を光らせると後ろ足で立ち、前足を上げて叫ぶ。
「パクティオー!!」
足元から上がる光に二人が声を上げる。
「なっ、何これ!?」
「ん・・先生これは・・・?この光・・なんだかドキドキしますー。」
のどかが心なしかぼうっとした顔になった。
ネギは自分もなぜかドキドキしてきたのを感じる。
「これがパートナーとの『仮契約』を結ぶための魔方陣っス。」
「仮契約!?」
「そう!」
カモは『魔法使いの従者』と『仮契約』について説明を始める。
魔法使いを守り助ける魔法使いの従者は代わりに魔法使いから魔力をもらい、パワーアップするらしい。
そして『本契約』の前にお試し期間のような感じで『仮契約』が存在するらしい。
なるほど、と理解するネギにカモはさらに声をかける。
仮契約なら何人とでも結べるし軽い気持ちでブチューーーッとなどというカモ。
ネギは真っ赤になって焦り、戸惑うが・・・
「キ、キスですかー?わ、私も初めてですけど・・・ネギ先生がそう言うなら・・・」
「え゛」
「それにー私もなんだか胸がドキドキしてー。」
のどかはそう言って目を閉じる。
薄い唇もすっと閉じられ、その準備OKといった状態にネギは驚き、真っ赤になった。
「そ、そんな僕心の準備が・・・っ!」
「ここまで来て何迷ってるんだよ。パートナー欲しいんだろ?男ならホラ!ブチューッてウラ!」
じれったいとでも言うようなカモ。
だがネギはその言葉に少し冷静になる。
パートナーが欲しい?そうだ、欲しい。
だけどカモ君も言っていたじゃないか『信じあえる関係』って。
こんな何も、魔法の事も知らない宮崎さんと仮契約してパートナーになって、それは本当に『信じあえる関係』なんて言えるのか?
横島さんは言っていたじゃないか『信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人』。
ネギはカッと目を見開いた。
目の前には顔を自分と同じ高さに合わせたのどか。
その肩にそっと手を置く。
「・・・カモ君、やっぱりこういうのはダメだと思う。」
「な、何言ってるんだよ兄貴!パートナーがいた方がいいに決まってるだろ!!」
「そうだね。『立派な魔法使い』になるんならパートナーは大事だよ。そのために仮契約をっていう考えも分かる。
でも、今僕ちょっと厄介な事に巻き込まれててさ。今、僕がパートナーを作ったらその人も巻き込まれるかもしれない。
今の僕の状況を知って、それでもパートナーになってくれるって言う人にならお願いしたい。だけど宮崎さんはそうじゃない。魔法の事なんか何も知らない普通の女の子なんだよ。」
焦るカモに冷静になったネギは言い切った。
「あ、兄貴・・・。ちょっと会わない間にこんなに立派に。昔以上だ。あんた、あんた本物の漢だよ!!」
「ありがとうカモ君。まあ受け売りなんだけどね・・・。」
「受け売り・・・?そんな考えを兄貴が持つようになる影響を与えたお人も、素晴らしい漢なんだろうなあ。」
「うん。なんでも最高の女性のパートナーをつとめ、多くの敵達と戦ったっていう人なんだ。横島さんっていうんだけど・・・」
「よ、横島!?横島ってまさか!!」
絶賛勘違い爆発中のネギの説明の中にカモは知っている名を聞き、驚く。
白い小動物の脳裏に親指を立てて歯を光らせたナイスガイの姿が浮かび、思わず「師匠・・・あんたなのか?やはり偉大だぜ・・・」とつぶやいた。
忘れ去られた感のあるのどかだが、肩に手がかけられたっきりぼそぼそと声が聞こえてくるだけでなんのリアクションもない事に不安になっていた。
そして彼女はもう一歩勇気を出してみる事にする。
薄目を開けて目の前にいる先生の頬に手をそえ、そして自分の顔を近づけていき・・・
「コラ、このエロおこじょ!!」
神楽坂明日菜の声と同時にパチンッと何かが目の前ではじけ、意識を失った。
「あ、明日菜さん!?これはあのそのっ・・・」
近づいてくるのどかの顔に再び真っ赤になり慌てふためいていたネギはカモをつぶした明日菜をみつけ、驚く。
そしてのどかが気を失ったのに気づいて駆け寄った。
その間に明日菜はカモにネギの姉からの手紙を見せて問い詰める。
「お姉さんに頼まれてきたなんて嘘じゃない!ほんとは悪い事して逃げて来たんでしょあんたーーーっ!!」
腰に手を当ててびっとオコジョを指差す少女。はたから見るとおかしい。
だがカモはパニックになる。
「しかも何これ。下着泥棒二千枚って書いてあったわ」
「カ、カモ君どーゆーことなの!?」
「あ、兄貴これには訳が!俺っちは無実の罪で・・・。」
「無実の罪・・・?」
なんとか二人が聞く体勢に入ってくれたためカモは「実は・・・」と話し出した。
ウェールズにいる妹のためにあったかい寝床を作ってやろうと思い、人間の女性の肌着を拝借したら罪に問われ、ムショ暮らしでは妹に仕送りも出来ないと考え脱獄。
唯一頼れるネギがいる日本へ来たらしい。
「だからって何でこんなことしたのよ。」
「そ、それは手柄を立てれば兄貴に使い魔として雇ってもらえると思って。マギステル・マギ候補生の使い魔ともなれば追っ手も手出しは出来ねえって寸法でね。」
カモはタバコを吸い、ばれちまっちゃしょうがねえやとニヒルな?笑いを浮かべる。
「あ、あんたね~。」
「・・・いや、すまねえ姐さん、ネギの兄貴。尊敬するネギの兄貴を騙して利用しようなんざ俺も地に落ちたもんさ・・・。笑ってやってくれ、師匠にも合わせる顔がねえや。大人しくつかまることにするよ。」
帽子をかぶり、タバコをくわえたカモは「あばよ」と言ってその場を去ろうとする。
「ま、待ってカモ君!!し、知らなかったよ。カモ君がそんな苦労を・・・。」
「あ・・・兄貴。」
涙を流すネギ、感動に打ち震えるカモ。
一人と一匹はガッシイッと抱き合った。
明日菜は視線をそらし、呆れたようにまあいいんだけどねとつぶやく。
漢の抱擁が終わった後、明日菜はそれで何をしていたのか?とたずね、仮契約システムの事、カモがお膳立てして仮契約寸前までいったがネギが土壇場でそれを拒否した事を聞いた。
「へ?なに?ネギあんた本屋ちゃんとキスするの嫌だったの?」
「え、いや違うんです。ちょっとフェアじゃないというか、卑怯と言うか、巻き込んだらどうしようと思ったっていうか・・・。」
そう言ってネギは明日菜に何故自分が仮契約を結ばなかったのかを再び説明した。
その内容に明日菜は関心した。
ガキだガキだと思っていたネギが誰かの影響を受けたとはいえそのような事を考えたとは・・・。
「へえ。あんた意外に考えてんのね~。」
「そうそう、それで気になったんっすけど兄貴が言った横島って人、もしかして横島忠夫って人じゃないっすか?」
「え!?カモ君横島さんの事知ってるの?」
「やっぱり師匠か!!あの人はただの漢じゃねえと思ったぜ!この学園に来た時に俺っちはそのお人に出会ったんだ。そしてその(下着に対する)深い知識と思慮、そしてその漢としての素晴らしさに惚れて師匠と呼ぶようになったのさ!」
「僕は知り合いの友達だっていう横島さんに今日出会って、少し話をしたんだ。
守る覚悟って言っていた。守る覚悟があったから自分は頑張れたんだって・・・。横島さんは最高の女性のパートナーをつとめ、多くの敵達と戦ったっていうすごい人らしい。
魔法使いのパートナーとは少し違うみたいだけどね。」
「パ、パートナー!?じゃあ師匠にお願いを・・・「ダメだよ。」あ、兄貴!?」
「横島さんは、横島さんが守っていたその女性はもう・・・。それにあの人は、それでもその女性を守り続ける男であり続けるって・・・。」
「な!?なんてぇ人だ。そこまで操を立てるたぁどこまでも高い漢ポイントォー!!」
己の妄想をまじえて、もはや最後の方は完全に勘違いと思い込みで説明するネギ。
カモは感動に打ち震え、後ろ足で立つと「うおおおお!!」と叫び漢泣きする。
「すごい人もいるものなのね・・・。」
明日菜はすっかりその横島忠夫なる人物が素晴らしい人だと思い、感じ入ったように妄想を膨らませる。
頭に浮かぶのは渋いダンディなおじさま。しかしその顔には辛い過去によってどこか陰がある・・・。
自分の妄想にほえ~っとしていた明日菜だが、高畑先生、高畑先生とつぶやいて強制的に現世復帰した。
そして今度はネギが横島に聞いたという『信頼できて・・・それで事情を理解した上でパートナーになってくれる人』と言う言葉を思い浮かべた。
事情、自分は理解している。信頼、まあしてくれてもいいと思う。
最後に守る覚悟・・・これは分からない。だけどネギが無茶をするのは放っておけない。
明日菜はなぜ自分が仮契約するという事を前提に考えているのだと頭を左右にふって考えを振り払った。
「明日菜さん、宮崎さんをどうしましょう!」
その時、慌てたようなネギの言葉が聞こえる。
「もう、しょうがないわねえ。」
やっぱりガキだと思い、返事をした明日菜はネギが仮契約というのをしてくれないかと頼んできたら少しは考えてやろうと決めた。
ネギ達がどたばたをやっている頃、横島は己のアイデンティティーの崩壊の危機に陥っていた。
椅子の上で体育座りをしてぶつぶつと何事かを唱え続け、結論が出そうになるたびに再び頭を振ってぶつぶつ何かを唱えるのに没頭する。
数分間その状態を続けた末に横島はがばあっと立ち上がった。
「ああ、しかしこの乳ならば!このスタイルならばいいのではないか!?そうや!悪いのは俺やない!!最近の若い子の発育のよさが悪いんやあああああ!!!!」
さらに「いざ行かん!新たなる世界へ!!」と叫ぶ。
そして目標を見定め、飛んだ。
「おっじょうさーん!僕と熱い夜を過ごしませんか~!!」
「・・・何をとち狂っているのかは知らないが、一人で病院で熱い夜を過ごしてくれ。」
ナースが見回りくらいには来てくれるかもしれんぞ?と言いつつ、鋭い目の色黒の少女は銃を取り出してパンッパンッパンッ!!と横島の顔面へ発砲した。
「昨日学園長から返答があった。本物のようだ。」
桜咲刹那は隣を歩くルームメイトの龍宮真名が二つの身分証明書をもてあそぶのを見て、ため息をつく。
「・・・私は、やっぱり勘違いで追い回していたのか。」
「まあそう落ち込むな。大事には至らなかったんだろ?」
「それは・・・そうだが」
真名が慰めるが刹那の落ち込んだ気分は晴れない。
友人である真名にも言えないが自分は無遠慮に他人の心の傷であろうものをえぐってしまったのだ。
その痛みはよく知っているはずなのに・・・。
はあっとため息をつく。
「重症だな。」
真名の呆れたような、それでいて少し心配しているような声音に刹那は答えない。
だがさらに思考を進める。
バンパイア・ハーフを友人と言い切る横島とかいう妙な男。
その目にも、口ぶりにも、動作にも・・・その違いを意識しているようなところなど全くなくてそれにひどく驚いた。
そして同時に自分がなぜ同年代のそのような人間に出会えなかったのかと思い、ピートとかいうバンパイア・ハーフを羨ましく思った。
近衛詠春という理解者がいたが彼はあくまでも多くの経験を経てきた保護者だ。
彼らと出会った夜から、時間がたてばたつほど勘違いからお嬢様の前に出て姿を見せてしまった自分、そして驚きのせいもあってとはいえ他人の心の傷をえぐってしまった自分、自分のような存在も気にしないであろう男を話も聞かず問答無用で始末しようとした自分が情けなくなってきていた。
「まあ見つけたら身分証明書を返さなければな。・・・ん?あれはネギ先生じゃないのか?」
真名はぺこりと頭を下げてカフェから走りさっていくネギを見つけた。
その頭を下げた方に目をやって真名は呆気にとられた。
「なんだあれは?蓑虫?」
「へ?」
珍しく困惑している真名の言葉に刹那もそちらを見る。
「あれは・・・あの時の。」
刹那の言葉に真名はその蓑虫と蓑虫の近くにいる男と身分証明書の写真を見比べてやはりそうか・・・とうなずく。
刹那からは変な二人組みと遭遇して、最後はエヴァンジェリンがやって来てそのうちの一人を引き取って行ったと聞かされていたがなるほど、変な二人組みだと思う。
とりあえず刹那を促し、二人組みに近づく事にした真名は蓑虫になっていない方の黒髪の男と目が合った。
そして、次の瞬間男の姿が掻き消えた。
(な!瞬動!?)
驚く真名の目の前で男は急停止、そして叫んだ。
「ナイスバディなお嬢さん!!ちょっとそこでお茶でもどうですか~~~!!」
・・・なるほど、刹那が言っていた以上に変だ。
ちらりと刹那を見ると刹那は自分の胸とこちらの胸を見比べている。ナイスバディという言葉に何か考えるものがあるのだろう。
真名はため息をつきやれやれと首を振った。
「ふむ、確かにおかしな男だな。まさか突然初対面の中学生をナンパしてくるほどおかしな男だとは思わなかったが・・・。」
「え゛!?」
真名の冷静な一言に、男はふらふらっと二、三歩後ろに下がる。
「ちゅ、中学生?」
「え?あ、はあ・・・。」
突如男の右手で指差され、刹那は戸惑いつつ返事をする。全く状況についていけていない。
「ちゅ、中学生?」
同じように、今度は左手で真名を指差す。
「ああ。そうだ。」
「オーマイガッ!!」
男は叫んだ。
「まさか、まさかこれも格差社会の現実?なんてこった、俺のスカウターは絶望的なまでの戦力差をはじき出している!その差実に17.9センチ!!中学生だと?最近の中学生はどうなっとるんや~~~!!!!」
よく見ると男の指は少女二人を指差しているのではなく、少女二人の胸の辺りを指差している。
普段からルームメイトとの戦力差に絶望感をかきたてられている刹那は怒りに任せて鞘に収まったままの夕凪を一閃!
「おかしいのは年齢詐称疑惑まででているクラスメート数人なんや~!!」
思わず関西弁がでる。そして続いて私は発展途上なんだと叫ぶ刹那。夕凪による過激な突込みを受けた男は吹き飛び、地面に落ちてぐしゃりと音を立てる。
「す、すみませ~ん、これほどいてくれると嬉しいんですけど~。」
真名は自分には年齢詐称疑惑が出ているのかと冷や汗を流しつつ、蓑虫が発する声に応じて縄をほどいてやった。
「ふう。ありがとうございます。」
蓑虫・・・金髪の男は礼を言った後まじまじと真名を見る。
「?私の顔になにかついているかい?」
「い、いえ・・・知り合いに少し似ていたもので。すみません。」
「謝る事はないさ。君達の事はあそこの刹那に聞いている。新しい警備員だってね。私は龍宮真名だ。よろしく。これは君達が置いて行った身分証明書だ。」
「ありがとうございます。こちらこそよろしく、僕はピエトロ・ド・ブラドー。ピートと呼んで下さい。あそこでブツブツ言っている彼が横島忠夫さんです。」
真名が目をやるといつの間にか復活した横島は椅子で体育座りをしてぶつぶつ言っている。
「あの、先日は失礼しました。」
刹那が近づいてきて頭を下げる。何を・・・とは言わないが少女の様子を見ればピートには大体分かった。
「いやいや。気にしないでいいよ。」
ピートは自分も気にしていないという風に笑った。
なにを話そうかなど考えがまとまっていないまま刹那は口を開こうとするが、がばあっと立ち上がる影に驚き、口をつぐんだ。
「ああ、しかしこの乳ならば!このスタイルならばいいのではないか!?そうや!悪いのは俺やない!!最近の若い子の発育のよさが悪いんやあああああ!!!!」
人影、横島忠夫はさらに続けて「いざ行かん!新たなる世界へ!!」と叫ぶ。
そして飛んだ。
「おっじょうさーん!僕と熱い夜を過ごしませんか~!!」
「・・・何をとち狂っているのかは知らないが、一人病院で熱い夜を過ごしてくれ。」
ナースが見回りくらいには来てくれるかもしれんぞ?と言いつつ、真名は銃を取り出してパンッパンッパンッ!!と宙にいる横島の顔面へ発砲した。
「な、なあ!?」
刹那は相方の突然の凶行にさすがに驚き、叫ぶ。
「心配要らない。モデルガンさ。」
「モ、モデルガンって言ったって・・・。もろに顔にいったような。」
「ああ。まあな。数日入院程度で済むんじゃないか?」
真名はモデルガンをしまってつぶやいた。
「・・・横島さ~ん、大丈夫・・・ですよね?」
その会話を冷や汗を流しつつ聞いていたピートは転げまわる横島にたずねる。
「大丈夫やない!めちゃくちゃ痛かったわ!!」
「い、生きてる?傷一つない!?」
あまりの出来事にあわあわと慌てる刹那。
横島はそんな刹那に気づき、むむ・・・と唸る。
「君はこの前の百合の通り魔!?」
「「「はあ?」」」
今度はピート、刹那、真名の三人が同時に首をかしげた。
「え?だってエヴァちゃんが『安心しろ、おまえのお嬢様には私は手を出さん』って。
てっきり俺は君がそのお嬢様って子がエヴァちゃんの百合仲間になるのがいやで警戒してたのかな?って思ったんだが・・・。」
「私はノーマルです!!その、通り魔というか・・・事情を聞かず切りつけたことは申し訳なく思っていますが。」
刹那は叫んだ後で弁解する。
「・・・百合仲間?」
「ああ。俺はエヴァちゃんは百合ではないかと睨んでいる。家の内部は無駄にファンシーだし、茶々丸ちゃんにマスター(ご主人様)って呼ばれてるし・・・って、あれ?」
ポツリと真名がつぶやいた一言に答えるようにエヴァンジェリン百合疑惑をぶち上げ始める横島だが、突如彼の姿が光り出し・・・その場から消え去った。
「消えた・・・?」
「もしかして召喚か?エヴァンジェリンと仲がいいのだろう?彼女が何らかの方法で・・・」
「仲がいい?エヴァンジェリンさんは彼の事を下僕と言っていましたが・・・。」
三人はそう言って顔を見合わせる。
自分達が何を考えていたのかなど忘れ、三人は自分達を一通り混乱させてから消えて行った男が先ほどまでいた場所を見てため息をついた。
あとがき
このSSの八割は勘違いで出来ています。
こんな感じで今回の新たな出会いは龍宮真名でした。
次回ではもっと以外なキャラと出会ってもらいます。お楽しみに。
感想ありがとうございます!レス返しです。
>twilightさん
勘九郎メモリー受けたようで嬉しいです。ユッキーの甘酸っぱい思い出ですw
キティ(笑)は魔力供給における文珠のパワーアップの可能性を模索しております。萌えて下さい!
>遊鬼さん
勘九郎が我々の側にいたらユッキーだけでなく我々もトラウマになると思います(笑
ピート男色疑惑はこういう感じに落ち着きました。ピート絶叫でw
ありがとうございます。頑張ります。
>アイアスさん
この三人は誰と誰を組み合わせてもいい感じに動かせるので書いてて楽しいです。
今回のはどうでしたか?今回の横島はこんな感じになりました。しかし最後には・・・(涙
>シャーモさん
刹那が私もお嬢様と・・・といって百合に走らないことを祈りましょうw
>スケベビッチ・オンナスキーさん
誤字訂正ありがとうございます。
ネギもそこまで否定しないでしょうからユッキーとピートは・・・パルあたりがなんか書いてくれているかもしれません(笑
横島に攻撃した女性は今のところ一般人のつもりです。でももしかしたら・・・
>八雲さん
ユッキー、ネギフラグは活用します(笑
ネギもユッキーの逞しさにメロメロで・・・。
横島のアーティファクトはとりあえず謎で。いつかやりたいネタが!
>忍さん
そういえばこいつら警備員です(笑)学園の警備は大丈夫なのか・・・と。
雪之丞・ネギパートナー疑惑は3-Aを大いに盛り上げましたw
>六彦さん
ホモネタは使いやすいです。そのネタに食いついてくれるキャラも多いですしね。パルとかw
今回横島とネギに接点を持たせました。・・・勘違いしてますけど。
誤字訂正ありがとうございます
>.........?さん
ありがとうございます。
原作がまだまだ続きそうなのでどこまでいけるか分かりませんが頑張ります!
>ヴァイゼさん
ネギと雪之丞の勘違いした関係、横島とネギの勘違いした関係・・・。
このSSは多くの勘違いが盛り込まれています(笑
横島とエヴァはまだまだで、彼はこれからもふらふらしてくれますw
>鋼鉄の騎士さん
横島と真名フラグが今回・・・え?これじゃフラグたたないですか?w
衣装とバイザーについてはちょっとずつ小出しにしていきます。
PS・今回雪之丞は逃げ出しました(涙
>シャーモさん
従者対決フラグ。その辺りはこの先のお楽しみに・・・という事で。
でも横島を餌にすれば雪之丞はやりそうですね。でも男はいやだって・・・(笑