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▽レス始

「幻想砕きの剣 13-3(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2007-01-31 22:25/2007-01-31 22:27)
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 山の中腹に、突如出現したバカでかい顔。
 原作と違って、ボディよりも顔の方がでかい…なんじゃそりゃ。
 悪夢のような光景である。
 大河にとっても充分悪夢だが、セルにしてみれば悪夢なんて生易しいものではあるまい。


「な…何が……どうなって…」


 呆然とするセル。
 ショックのあまり、衝撃のフィールドを張り巡らす事も忘れている。
 それでも魔物達が襲ってこないのは、突如出現した顔ことデビルガンダムに恐れを為して逃げているからだ。

 デビルガンダムは、理性を失って益々荒れ狂う。
 閃光が乱れ飛び、大気が震える。


 大河は遠くへ飛んで行きそうになる意識を必死に連れ戻して、これからどうするかを考える。


(どうもこうも無い…!
 アルディアちゃんを放っておく訳にはいかないが、このままじゃ手の打ちようが無いぜ!
 ああなる前に止められれば何とかなったが、完全に暴走してやがる…)


 ギリギリと奥歯が噛み締められる。
 ここは退くしかない。


「セル、一度逃げるぞ!」

「逃げ…!?
 アルディアさんを見捨てる気か!?」

「ああなっちまった以上、この場で出来る事は何も無い。
 見捨てるっつっても、ああなったらちょっとやそっとじゃ死にはせん!
 とにかく撤退だ、この場に居たらアルディアちゃんを助ける前に消し飛ばされる!」

「…!
 に、逃げて何か事態が好転するのかよ!?」

「そ、それは…」


 言葉に詰まる。
 正直言って、好転するとも思えない。
 ただこのまま進めば死が待つばかり。
 さりとて、後ろに下がっても意味が無い。
 逆転の一手が考え付くなんて保障はどこにも無いし、何より距離を開けると言う事は、こちらから反撃する手段が無くなる事を意味する。
 遠距離から聖銃を乱発された日には、勝ち目なんて考えるのもおこがましい。

 大河が口ごもったのを忌々しげに見て、セルはデビルガンダムを見据える。


「だったら俺は行く!」

「バカ、がむしゃらに突撃してどうすんだ!
 お前、アレが何かも知らないんだろう!?」

「知ってるさ、あれはアルディアさんだ。
 だから俺は行く。
 他の事はどうでもいい」

「くっ…」


 完全に血が昇っている。
 死ぬなら側で死にたい、とでも言うのだろうか。
 それとも、自分だけはアルディアを置いて行く訳にはいかない、と?
 気持ちは解らなくもないが。

 とは言え、実際の所、大河のこの判断は明らかにミスだ。
 聖銃がこれ以上作動してしまえば、本気で打つ手が無い。
 なら、余計な機能を作動させられる前に、一気に聖銃を刈り取るのが唯一の勝機。 

 さらに大河が言い募ろうとした時、眩い閃光が瞼を焼く。


「「……!」」


 とうとうデビルガンダムの放つ閃光が、大河達に牙を剥いたのだ。
 咄嗟にセルは盾を構えるが、そんなモノで防げるほど生易しい代物ではない。

 だから大河はセルの前に踏み出して、トレイターを大剣に変える。


「ぅォォオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」


 半ばヤケクソになりながら、同期連携を最大にまで持っていく。
 未だ嘗てない程に強くシンクロしながら、大河は閃光に向けてトレイターを振り下ろした!

 ズバッ!

 という音は、錯覚だったのだろうか。
 大河の剣は、振り切られる事無く止まっている。
 閃光に叩き付けられたトレイターは、吹き飛びもせず叩き折られもせず、しかし閃光を切り裂く事も無く。


「グッ…ギ、ギギ……ィ…!」


 満身の力を注ぎ込まれ、その刀身で閃光を遮っていた。
 全身がブルブル震え、今にも弾き飛ばされそうになりながら、トレイターは、大河は閃光に抗い続ける。


「なっ…た、大河…!?」


 眩んだ目の視力が何とか戻ったセルは、自分の前に立つ大河を見て目を丸くする。
 …思い切り目を見開いたため、また閃光に目をやられたが。


「ぐ…う…! …うぅ……!」


 刀身が少し押し戻された。
 ジリジリと閃光の圧力に押され、大河の体ごと後退した。
 地面に刻まれた足の後は、片っ端から閃光に焼かれて掻き消える。


ビシリ、とイヤな音がした。


 セルは立ち上がり、周囲を見回す。
 助けになりそうなモノは何も無い。
 アルゾールで衝撃を吸収しようにも、この閃光に触れた瞬間消し飛ぶだろう。


「クソッ!」


 セルは大河の背中に両手を押し付けて、全力で前に押した。
 ジリジリと後退していた大河の体が、セルに押さえられて後退を止める。

ビシリ、とイヤな音がした。

 吹き飛ばされそうだった大河は、全身を駆け巡る苦痛を堪えながら、残った力の全てを振り絞って、弾け飛びそうになるトレイターを押さえつけた。
 セルが抑えてくれているお陰で、体ごと吹き飛ばされる心配は無い。
 だから全身の力を、トレイターに注ぎ込んだ。

ビシリ、とイヤな音がした。

 閃光の終わりが見えてきた。
 徐々に圧力が弱くなってくる。


「た、大河…!
 もうちょいだ……!」


「…………!」


 既に大河の全身は、閃光の巻き起こす衝撃に傷つけられて血塗れだ。
 大河ほどではないが、セルも同じように血に塗れている。
 強すぎる力に、目や耳や鼻口から血を垂らしながらも、大河は閃光を捻じ伏せようとする。

ビキ、と致命的な音がした。


「あと……ちょっと…!」


 閃光が終わる…寸前に。


 バキィィィィン!!


 それは、砕ける音だった。
 セルも大河も、今まで一度も聞いた事が無い音だった。
 それが致命的なものである事は、事態を理解してなくても直感できる。
 何が起こったのか、把握する前に。


…………!!


 大河とセルは、閃光とは違う何かに吹き飛ばされた。


 未だナナシに説教されるルビナス達。
 ナナシは説教に夢中になっているが、ロベリアは何も言わないが内心では反発しており、ルビナスはどうしたものかと思案顔。
 ミュリエルは何気にロベリアを制圧する隙を伺っていた。


「だから〜、ナナシ達は〜、ナナシ達の為のナナシ達によるナナシの権兵衛のナナつの七人のナナが」


 …これを説教と呼んでいいのかはさておいて。
 ミュリエルがソレに気付いたのは、全くの偶然だった。
 視界の端を、キラリと光る何かが過ぎる。


(あれは…?)


 と思った瞬間。

ドギャン!!!

 と強烈な音を立て、ナナシ達から30メートルほど離れた場所が爆砕した。
 一瞬だが、極大のレーザー砲のような光線が見えた。
 流石に説教を止めて顔を向けるナナシ。
 ロベリアもルビナスも、目を丸くしている。


「い、今のは…?」

「…お嬢の……」

「! いけません、ナナシさん小さくなりなさい!
 今すぐに!」

「ほえ?」

「第二撃が来ます!」


 言い終わる前に、再び飛来する閃光。
 ナナシが回避運動を取るまでもなく、射線は外れていたが…。


ズドォォォン!!


「きゃー!?」

「くっ…!」

「お、お嬢のヤツ何考えてやがる!?」


 その爆風だけでも、ミュリエル達を吹っ飛ばすには充分すぎた。
 巨大化しているナナシはその質量ゆえに吹き飛ばされずに済んだが、その破壊力はの能天気なナナシをして肝を冷やす程。
 巨大なままでは、いい的である。
 急いでスモール化するナナシ。


「お、おおっ!?」

「これは!?」


 スモール化する際、ナナシが取り込んでいた色々な何かが放出され、猛烈な風が吹き荒れる。
 ロベリアとミュリエルは、慌てて地に伏せて吹き飛ばされないように体を固定した。
 ナナシの背中に乗っていた汁婆は、風の影響をモロに受けて吹き飛ばされた。
 あのUMAの事だから死にはすまい。


「る、ルビナスー!
 これもテメーの仕込みかー!?」


「ホホホホホ、これくらいは序の口よー!
 ってか、ナナシちゃんチャーンス!
 ロベリアをひっ捕らえておしまい!」


「な!?」


 慌てるロベリア。
 しかし、逃げようにも相変わらず風が吹き荒れていて逃げられない。

 その吹き荒れる風の中を、何故か風の影響を微塵も受けてないナナシが突っ込んでくる。
 その右腕には、何やら手袋が。


「えーいっ!」


 可愛らしい声とは裏腹に、何やら洒落にならない速度で突き出されるナナシの右腕。
 ぶっちゃけ掌低である。


「へぶっ!?」


 起き上がる事も出来なかったロベリアは、見事に顔面に食らってしまう。
 そして、たたらを踏んだロベリアと、何かがドサッと倒れる音。

 思いもしなかった反撃を受け、ロベリアは頭に血が上る。


「こ、このっ!」


 思い切り剣を振るう。
 そこには掌を突き出したままのナナシが居て、彼女は袈裟斬りに切り裂かれる…筈だった。

 スカッ

「あ?」


 しかしロベリアの剣は素通りする。
 思わず自分の剣を見た。

 ……透き通っている?


「これぞダーリンから貰った秘密兵器!
 『なんか霊体を引っ張り出す手袋っぽいの』ですの!」


「ちょっと待てやコラァ!」


 色々突っ込み所はあるが…とりあえずこのアイテム、出所は尸魂界だったりする。
 それはともかく、霊体を引っ張り出すというだけあって、実際今のロベリアは霊体だ。
 体は透き通っているし、体も倒れている。

 その体を、横からルビナスが掻っ攫った。


「あっ、私の体!」

「元は私の体よ!
 まぁそれはいいとして…こうして見ると、昔の私も結構美人よねぇ…。
 ロベリアが私の体を欲しがったのも、解らなくはないわ。
 …ねぇ?」

「自分で言うか……ってか、何を企んでる…?」

「ホホホ、幽体離脱してても、体とのリンクが完全に断たれてないでしょう?
 つまり、こういう事や…」

「にゃっ!?」


 ムニッ、とロベリア(ルビナスボディ)の胸を揉む。


「こーいう事や…」


「ひぅぅう!?」


 首筋を舐めあげる。


「こーんな事、し放題なのよねぇ?」

「こっ、このクソアマぁ…んっ!」


 脇腹を優しくナデナデ。
 流石に元は自分の体だけあって、弱い所は知り尽くしているらしい。
 そーいう行為をする相手は居なくても、『自分を知る』というのはルビナスのような求道者にとっては大前提だ。
 当然自分の性感帯くらい熟知している…多分。


 突然セクハラされたロベリアは、幽霊故に反抗も出来ないまま、思わず甘い声を出してしまう自分を恨むしかない。
 幽霊を操るのはネクロマンシーたる彼女の十八番なのだが、流石に自分を操った事は無い。
 何より、ルビナスのセクハラのため精神集中が出来ない。
 それにしてもルビナスは楽しそうだ。


「ミュリエルー、ナナシちゃん、二人もロベリアを弄ってあげなさいよ。
 うふふふ、ロベリアー、すぐに降参しないとお嫁に行けない体になっちゃうわよー?
 って言うか、普通じゃ満足できなくなっちゃうかも?
 あー、そう言えば実験してない媚薬とかあったわね」


(…ルビナス、なんか未亜さんが混じってませんか…?)


 今にも人に言えない所に指を滑り込ませようとしているルビナスを見て、ロベリアは今にも血管切れそうだ。


「…ロベリア、諦めなさい。
 経過はどうあれ、貴女は負けたのよ。
 ……というか…ルビナスは本気…いえ」


 ギロリとミュリエルを睨みつけるロベリアに、ミュリエルは諦観を滲ませて告げる。
 …閃光がまだ時々降ってくるというのに、何をしているのだろうか…。


「ルビナスは本気じゃなくて悪ふざけしてるから、調子に乗って何でもやるわよ」


「………」


 …長い沈黙の末、ロベリアは降参したそうな。
 まだルビナスはふざけているだけだが、もしその気になったら今すぐにでもロベリアの心臓を貫く事が出来る。
 冗談で済んでいる内に負けを認めた方が、生き残る確立は格段に高い。
 まぁ、そうでもしないと閃光が降り注ぐ丘でいつまでも漫才やってそうだし…英断といえば、英断かもしれない。


 一方、兵舎のイムニティ。
 先程から雨霰と飛んでくるようになった閃光を相手に、ドム達は大慌てで撤退命令を出していた。
 人類軍には勿論、魔物達にも、何の関係も無い所にも、圧倒的な破壊力の閃光が叩きつけられる。

 自分自身の危機も感じたイムニティは、必死になって飛んでくる閃光を防いでいた。
 ガードするのは不可能なので、召還・逆召還に使う空間の歪みを作り出し、その中に入った閃光を方向を捻じ曲げて放出する。
 だが、それは僅かな効果しか表さなかった。
 閃光は、空間の歪みをあっという間に焼き尽くしてしまうのだ。
 それでも幾らか被害は少なくなるので、寿命を削る思いをしながらも閃光を防いでいるのだが…。


「……!? マスター!?」


 主とのラインに、異変が起きた。
 大河から流れ込んでくる力が、急激に弱くなったのだ。
 考えられる事態は一つ。
 大河が死に瀕している。


「くっ、今行くわ!」


 この閃光の防御を放棄する事で出る被害と、自らのマスター。
 天秤にかけて即座に後者を選んだイムニティは、マスターの元に向かって転移した。


 吹き飛ばされたセルだが、まだ意識を失ってはいなかった。
 持っていたアルゾールのお陰で、反則的なまでの頑丈さが健在だったらしい。
 それでも死を実感させるような苦痛を堪えて顔を上げると、倒れている大河が目に入った。


「た、大…河…・・・!?」


 何とか起き上がって駆け寄る。
 すると、目を疑う光景が飛び込んできた。

 大河が傷だらけなのは納得が行く。
 それで死に掛けているのも、まぁ理屈の上で言えば普通だ。
 それよりも…。


「と、トレイターが…折れた…!?」


 大河の手に握り締められている大剣…トレイターは、刀身半ばから完全に叩き折られていた。
 弾け飛んだ刀身を探すが、どこにも見当たらない。


「…おい、起きろ大河!
 しっかりしろって!」


 苦悶の呻きを漏らす大河。
 セルの声に少しだけ反応しているし、完全に気絶したのでもないらしい。
 だが、自分で動ける程に意識は戻って無いようだ。


「くっ……畜生ッ!」


 セルは自分の剣と盾からアルゾールを外し、懐にしまって盾を捨てた。
 そして大河を担ぎ上げる。

 大河の犠牲で、頭が冷えた。
 閃光は益々荒れ狂っているし、このまま近付いてもあの世行き確定だ。
 アルディアを置いていく事になろうとも、それによって彼女を助け出せる可能性が増えるというならば、そうするべきだ。
 大河はアルディアに何が起きたのか知っているようだった。
 その話を聞くだけでも、大分違ってくるだろう。

 デビルガンダムから逃げ出す魔物達に紛れて、セルは走り出した。
 このまま人類軍に戻っても、ロクな事になりそうにないが…このまま大河を死なせるよりはマシだ。
 しかし、その人類軍までどれ程の距離があるか…。
 走って行くには、少々所ではなく遠すぎる。
 それでも、走るしかないのだ。
 ここに居ては、確実にあの閃光で消し飛ばされる。

 呼吸以外は全く動かない大河を抱えて、セルは逃げに逃げる。
 アルゾールによる身体の強化が、これほどあり難かった事は無い。
 人間一人くらいの重さなら、さして負担を感じずに走る事ができる。

 全速力で走り続けるが、それでもあの閃光のスピードには遠く及ばない。
 もし後ろから狙い撃ちされたら、回避する事は不可能だろう。
 直撃ルートに乗らない事を祈るしかない。


 あちこちから爆発音が響く。
 デビルガンダムは荒れ狂っているようだ。
 はるか彼方…人類軍の駐屯地がある辺りにも、閃光は牙を剥いている。
 何とか辿りついたと思ったら、全滅していた…なんてオチは勘弁してほしいものだ。


「っきしょう…おい大河、お前大丈夫なんだろうな!?
 もし死んでたら、俺はどうすりゃいいんだよ!?」


 救世主クラスに顔向け出来ない、アルディアを助け出せない、事実上この手で大河を殺したも同然…。
 産まれてきた事を本気で後悔しそうな気分だ。
 しかしそれもとにかく後。
 何とか逃げ切らねば…。


 その時、セルはふと地面に目を落とした。
 気のせいかと思ったが、影が少しずつ大きくなっている。
 …という事はつまり、背後に何か光源が近付いている…。


「!!」


 振り返る暇があったら走れ、と叫ぶ本能をつい無視して、振り向くセル。
 幸い、閃光が迫っているのではなかった。
 しかし…。


「あ…アルディアさん…!?」


 デビルガンダムをアルディアと認める事には抵抗があるが、それよりも重要なのは…デビルガンダムの頭の上に、大きな光の弾が浮いている事だ。
 少なくともアレは元気弾ではない。
 多分、さっきから好き勝手にぶっ放しまくっていた閃光を纏めたものだ。
 単発の閃光ですらあの威力。
 それが凝縮して放たれた日には…。


「…しかもこっち向いてる」


 デビルガンダムの上半身は、明らかに大河とセルを注視していた。
 アルディアだった頃の記憶に、セルの姿が引っ掛かったのだろうか?
 何れにせよ…あの光の弾の威力からは、逃げられそうにない。


「………!」


 目を血走らせて、何か方法は無いかと探る。
 どんな手段を用いても、アルディアを救い出すまでは死ぬ訳にはいかない。
 だが現実は無情で、丁度いい手段がそうそう転がっている筈が無い。

 大河だけでも、とか大河を見捨ててでも、と考えるが、それでも逃げる手段は無い。


「ぐっ…畜生ォォォォォォ!!!!!!」


 どうにもならずに、絶叫するセル。
 そして閃光が徐々に動き出し、加速しながらセルと大河に迫る。
 アレが着弾したら、確実に半径1キロはクレーターになるだろう。
 大河もセルも、欠片も残らない。


「マスター!」

「!?」


 そこに唐突に聞こえた声。
 思わずセルは振り向いた。


「リ、リコ・リス!?
 何てナイスなタイミング!」


「…コイツだけ置いて行こうかしら…。
 って、やっぱり“破滅”側に居たのね、セルビウム」


 振り向いた先には、脈絡もなく出現した黒い穴から顔を覗かせるイムニティだった。
 リコと間違えられたイムニティは、衝動的にセルをこの場に放り出したくなったが、大河がそれを望まないだろうからスルー。


「とにかく早く来なさい、アレが着弾する前に!」


「おおっ!?」


 言うや否や、自ら手を伸ばして大河とセルを掴む。
 そのまま外見からは想像でもできないような力で、強引に二人を引き寄せた。
 その腕っ節に驚くセル。

 3人が黒い穴に入り込むと同時に、穴が縮小を始める。
 1割程度の大きさになった頃に、凝縮された閃光が着弾した。
 大河達が穴の中に消えて、きっかり2秒後の事である。



ズドン!

「うひぃ!?」


 唐突に足元をブチ抜いて行く閃光と衝撃。
 驚きのあまり思わず奇怪な声を上げるイムニティ。
 セルと大河を抱え、イムニティは奇妙な空間…イムニティにとっては見慣れているが…を飛んでいた。
 ここは召還魔法に応じて呼び出される時、通り抜ける時空の歪み。
 普通なら、意識する暇もなくここを通り過ぎてしまうのだが…今回は勝手が違ったようだ。
 さっき入り込んだ衝撃で、微妙に空間が捩れている。
 少し遠回りしなければ、居るべき空間に出る事はできそうにない。


「い、今のは…」


「…召還の穴から、あの閃光の衝撃とかが入り込んだみたい…」


 セルは片足を捕まれて、ブラ下げられている。
 大河はセルからイムニティが奪い取り、背中に背負っていた。


「ヤ、ヤバかった…。
 それより、何がどうなってるの?
 何でマスターがこんな事に…。
 オマケに召還器が折れるなんて…」


 チラ、と大河の手の中にあるトレイターに目をやるイムニティ。
 正直言って、イムニティにもこんな事態は初めてだ。
 召還器から量産される矢や弾丸が折られたり砕かれたりしたのは見た事があっても、召還器本体が砕けるなど、考えてもみなかった。


「……え…えぇと、その前に…リコ・リスじゃないのか?」


「…今度アイツと一緒にしたら、異空間に放逐するからね。
 私はイムニティ。
 リコ・リスとは…まぁ、双子みたいなものよ。
 お互い滅茶苦茶嫌いあってるけどね」


「…そのようで」


 吐き捨てるような口調に、セルは寒気すら感じた。
 ヘタな事を言うと、本当にこの空間に置いてけぼりにされそうだ。


「それで…セルビウム・ボルト。
 一体何がどうなってるの?
 マスターはこんな有様だし、召還器が折れてるし、何だか解らないけどとんでもない閃光が駐屯地近辺までバカスカ飛んで来るし…。
 オマケに、あなたの懐にあるそれ…召還器じゃない」


「解るのか?」


「まぁね。
 …でも、正規のマスターじゃない…?
 救世主候補以外が召還器を使える技術があったと言うの?
 ……確かに理屈の上では不可能じゃないけど…」


 ブツブツ言っているイムニティ。
 そんな事を言われても、正直言ってセルにも詳しい事は解らない。
 “破滅”の軍に…というよりアルディアに協力する事になった際、ジュウケイから手渡されただけで、どうやって使っているのかとか、細かい理屈は全く教えられていないのだ。


「それより、大河の様態は?
 俺を庇って、あの閃光をトレイターで…」


「…その衝撃で折れたって事?
 何なのよ、あの閃光は…」


 自分の作り出した空間の捩れすら消し飛ばす閃光。
 舌打ちしたイムニティは、大河に目を向ける。


「? この光…」


 見ると、何時の間にか大河の体に青い光が纏わりついていた。
 見覚えがある。
 大河の知人だという、旧ホワイトカーパスの邪神…ジャククト。
 何だか解らないが、知人だと言うなら大河に害を加えているのではあるまい。
 しかし…。


「正直言って、あまり楽観視できる状態じゃないわ。
 魂が一部砕けてる…」

「い、命は!?」

「……生き残る可能性は低くは無い。
 でも、それ以上は言えないわ。
 ただ、確実に寿命は削られたでしょうね。
 ヘタをすると十年単位で」


 暫く放心し、滲み出る後悔に顔を歪ませる。
 覚悟していたつもりだった。
 大河を敵に回す事も、そしてこの手で殺す事も。
 だが、やはり『つもり』でしかなかったのか。
 強靭に作った筈の心の堤防は、実にあっさりと壊されてしまった。

 悔恨に沈むセルをぶら下げたまま、イムニティは出口を目指す。
 出現先は、既に撤退を開始している人類軍の馬車の中。
 セルの顔を見られると少々厄介な事になるかもしれないので、認識阻害の結界を張っておく。


「外に出るわよ。
 他人には見つからないように結界を張ってあるから、騒がないように」

「え? あ、あぁ…」


 セルが答える前に、網膜を光が埋め尽くした。
 思わず目を庇う。
 と、いきなりセルは硬い壁に激突した。


「ん? 今何か揺れたな」

「魔物が追いついてきたか!?
 …いや、何も居ないな。
 小石でも踏んだんじゃないか?」


 ガタガタガタガタと振動が来る。
 壁に頭を激突させたままセルは周囲を見回して、ここが馬車の中で、そして自分は逆様になっていて、壁だと思ったのは馬車の床だった。
 ノロノロと起き上がる。

 イムニティがセルを小突いて、注意を引く。
 振り返ると、イムニティは馬車の外を指差していた。
 どうやら移動する、と言っているらしい。
 多分、大河を医者の所に持っていくのだろう。
 置いて行かれると面倒になりそうだったので、セルもイムニティに掴まって馬車から浮遊して降りた。


「…これから何処に?」


「私一人の力じゃ、マスターの魂を安定させるのは無理。
 取りあえず、ベリオとリコを連れて来ないと…。
 セルビウム、アンタの顔を知らない兵士に、救世主候補は何処か聞いてきなさい」


「あいよっ」


 沈みそうになる心を、殊更軽く振舞う事で叱咤して、セルは近くの兵に近付いていった。
 元々セルの顔を知っているのは、同じフローリア学園傭兵科の連中と、数日間一緒に戦ったシア・ハス直属部隊の一部くらいだ。
 撤退中の兵に走りより、少し問答する。
 所属やら何やらで少々揉めたようだが、首尾よく聞きだしてきた。


「救世主クラスは、もっと前の方に居るらしい。
 どうやら閃光を食らって戦線が崩壊した時、真っ先に撤退命令を出されたらしい」

「そう。
 …救世主クラスは精鋭部隊でしょう?
 なら、殿軍を勤めさせたりはしないの?」

「させないな、精鋭だからこそ。
 殿軍ってのは危険で難しい役目だ。
 逃げながら追いすがる敵を追い払うなんて、相当のベテランでないと…。
 軍の上層部としては、精鋭にそんな役目を押し付けて万が一を起こされたら堪ったものじゃないんだよ。
 だから精鋭部隊を先に撤退させて、殿は捨石或いは消耗品…ってのが大抵の場合の現実だ。
 …まぁ、今回は特別だろ。
 だって追撃してくるのはあの閃光だぜ?
 追い払うも何も、当たらない事を祈るしかないだろう」

「…なるほどね」


 あまり気分のよくない話だが、それが勝つための戦略というものだ。
 多分、こんな状況でなければ、救世主クラスは自ら殿を買って出るだろう。
 それくらいの力はあるし、何より他人を盾にして自分達だけが逃げるなど、プライドや良心が許さないだろう…それがいいか悪いかは別として。


「ま、いいわ。
 とにかくマスターが最優先。
 急ぐわよ」

「おう」


 浅い呼吸を繰り返す大河を痛々しげに見て、セルとイムニティは前方に向けて走り出した。


 その頃。
 兵達が居なくなった戦場の一角で、何やら蠢くモノがあった。
 それはとても小さく、顕微鏡でも使わねば視認できないモノだったが…確かに蠢いていた。
 『主』が騒いでいる。
 遠く離れていても、その意思が届く。
 曰く、『暴れろ』『壊せ』『殺せ』『融合しろ』。

 酷く純粋で単純な意思が、ソレを稼動させ始めた。
 数える程の数でしかなかったのに、周囲の石や土に入り込み、増殖する。
 増殖したソレは、主の意思に従うために体を為す。
 土が、石が、うち捨てられた剣が盾が鎧が兜が、そして人間魔物問わず死体が、ズルズルとソレに引きずられて寄せ集められる。
 それすらも全て侵食し、己が支配化に置いてしまった。

 支配下に置かれた物質は、それぞれ分子の結合を引き千切られ、別の分子と組み合わされ、一つとなる。
 土、鉄、死体、色々なモノを取り込んで、それは巨大な何かの塊になった。

 充分な材料が集まったと判断したソレは、今度は自分の考える通りに塊を加工する。
 鋭角的で、巨大で、頑丈で、壊されてもすぐに直せる。
 そんな体を、高速で作り上げる。


 5分もかからず、ソレは誰も見てない戦場で誕生した。
 不恰好で、大きくて、所々が勝手に壊れ、それを勝手に治療し、破壊力だけはありそうで。
 大雑把な体を持っているソレの中で、ただ一つはっきりしているのは…巨大な刀。
 鋭角的な印象を与えるソレの中でも、まるで何かのシンボルであるかのように、その刀はそそり立っていた。
 その刀には、見覚えがある者も居るだろう。
 それは、大河に消し飛ばされた八虐無道が愛用していた大刀であった。


 ベリオとブラックパピヨンは、ユカとユカ2を担いでそれぞれ走っている。
 ユカを突き飛ばしてあの閃光で吹き飛ばされたと思ったユカ2は、意外な事にまだ生きていた。
 それをブラックパピヨンが発見した所、ユカが珍しい勢いで取り乱す。
 ユカ2は気を失っていて、全く目を覚まさない。
 起きろと呼びかけるユカだが、生憎とそんな事をしている暇は無い。
 さっきから閃光が飛んでくる頻度が、どんどん上がっているのだ。

 ユカはユカ2を連れて行くと主張した。
 それはまぁこの際いいのだが、ユカもユカ2を担いで走れる程体力は残ってない。
 と言うか、ユカ2に突き飛ばされた時に肋骨が逝っていたので、むしろ動けない。
 結局、ベリオがユカを、パペットを使って具現化したブラックパピヨンがユカ2を担いで走る事と相成った。

 二人が目指しているのは、キタグチ老が乗っている馬車である。
 怪我人の看護で忙しいだろうが、ユカ達だって怪我人だ。
 実際の所、安置できる場所なら何処だっていいのだが。
 ユカは致命傷となりうる傷と言っても骨折だけだし、ユカ2は…あの閃光に何かあるなら別だが、命に関わるような傷は見当たらない。
 ベリオの回復魔法だけでも、充分対処可能な範囲だ。
 今も軽く回復魔法をかけている。
 そうでもなければ、骨折患者を担いで全力疾走なんてマネが出来るものか。


「ブラックパピヨン、そちらの様態はどうですか?」


「…良くない。
 体の大部分は無事なのに、どういう訳か生気が段々失せて来てる…。
 こりゃ早い所処置しないとヤバイよ」

「!? わ、私ちゃんと治療しましたよね!?」

「ああ、でも…。
 何というか、これは…傷が原因じゃないのか…?」

「クッ…軍医の馬車はまだですか!?」


 焦るベリオ。
 正直言って敵を助けていいものかと迷うのだが、それ以上に人命を見捨てていく訳にはいかない。
 真意はどうだか解らないが、ユカの命を救った事で、取りあえず敵ではないという扱いをしていた。

 走っている内に、ブラックパピヨンがいつの間にか逸れ、すぐ戻ってきた。


「ベリオ、軍医のじゃないけど、空いてる馬車が見つかったよ!
 手持ちの矢とか剣が尽きてるんで、怪我人二人を寝かせるくらいのスペースはあるって」

「た、助かりましたね…」


 ブラックパピヨンの案内に従って、ベリオは撤退する兵達の間を擦り抜ける。
 途中で同じように撤退している救世主クラスも見かけたが、今は声をかけている余裕は無い。
 馬車に乗り込み、すぐにユカとユカ2を安置した。


「ユカさん、ユカさん?
 声、聞こえてますか?
 ……意識はある…。
 生気が失せる様子も特に無い…。
 ブラックパピヨン、ユカさんをお願いできますか?
 簡単な肋骨は一応繋げましたが、まだ強い振動を受けると折れてしまいます。
 添え木のようなものでもしておいてください」


「ま、包帯でいいだろ…。
 こっちのユカは頼んだよ」


「はい!」


 威勢良く返事してユカ2の様態を見たものの、正直言って予想以上だった。
 傷は大した事は無い。
 あの閃光の余波で受けたであろう傷はおろか、ユカから何発も受けた打撃でできた筈の傷まで、綺麗サッパリ治っているのだ。
 それも充分予想外だったが、ブラックパピヨンの言った通り、徐々に生気が失せていくのだ。
 体が冷たくなり、肌の艶も失われ始めている。


(これは…何…!?
 傷が消えているという事は、まさか自分の生命力を燃焼させて回復させたの?
 確かにそれならユカさんから受けたダメージをすぐに回復させられてもおかしくないけれど、それなら傷が塞がった後も生気が失せる理由が…?
 まさかさっきの閃光に何か?
 …違う、これは…まるで…)


 そこまで思った時、ピクリとユカ2の体が震える。
 ユカ2の脈を計っているベリオは気が付かなかった。


「………知らない天井だ…」


「! 目が覚めましたか?」


 潤いの失せた唇で、消え入りそうな声を出すユカ2。


「…目なら、覚めている…」

「は?」

「…ずっと、意識あった…」


 でもこの性格は相変わらずらしい。
 弱弱しい呼吸で、ユカ2はベリオを見て、隣でブラックパピヨンに包帯を巻かれているユカを見た。


「ああ…よかった…生きてた……」


「ええ、貴女のお陰です。
 貴女はユカさんを救ってくれました…。
 だから、今度は私達に貴女を救わせてください。
 (とは言っても、どうすれば……)」


 ユカ2を不安にさせないように、大丈夫だと表情で主張するベリオ。
 しかし、ユカ2はゆっくりと首を横に振った。


「……寿命、なんだ…」

「え?」

「もう、助からない…。
 ただでさえ無理矢理寿命を延ばしてたのに、ユカとじゃれてはしゃぎ過ぎたから…。
 もう、体がどうの以前に、生命力とか…足りない…」

「そ、そんな!
 それでも方法がある筈です!
 生命力が足りないなら、私達から分ければいいじゃないですか!」

「ん…ありがと…。
 でも、ボクの体、頑丈だけどデリケート…。
 真水みたいに純粋なイノチでないと、受け取ったらアレルギーが出て死んじゃうんだって…。
 他人から貰ったイノチは、ボクには合わないみたい…」

「ぐ…な、ならユカさんの生命力なら!」

「同じ…。
 ボク、クローンだけど…ユカじゃないもの…」


 どうも、ユカ2専用に調整された生命力でなければ駄目らしい。
 流石にそれはベリオにも無理だ。
 生命力の質や波長を変化させる事は不可能ではないが、どんな風に変化させればいいのか全く解らない。


「それに…タマシイ、足りてないんだ…」

「魂?」

「ボク、ユカのカケラから作られた…。
 カケラに宿ってた小さなタマシイを、無理矢理養殖して…それで生きてた…。
 でも、もう限界…。
 最後の最後で完全燃焼しきれなかったから、まだ生きてるけど…もうすぐ、タマシイが尽きて…消える…」

「そんな…そんなの……!」


 あまりにも理不尽なユカ2の話に、ベリオは放心し、すぐに激情に身を震わせる。
 やり場の無い感情に震えるベリオを、ユカ2は眩しいモノを見るかのように目を細めて見つめた。


「ん……意識、そろそろ無くなってくる…」

「だ、駄目です!
 気をしっかり持ってください!」

「無理ポー…。
 ねぇ…ボクが…消えるまで…ユカ…側に……。
 今夜は…まだ、生きてられ……」


 そこまで言うと、ユカ2は気を失った。
 話をしているだけでも生命力を消費したのか、体の劣化が進んでいる。
 ベリオは必死で回復の魔力を注ぎ込むが、一向に効果は得られない。


「くぅ……!
 き、救世主候補になって…人を助ける力を得たと、思ったのに…!」


 何もできない。
 自分ができる事には限りがあると解っていたのに、割り切れない。
 割り切れなくて当然なのかもしれないが、この胸を裂く様な悲しみは、できれば味わいたくないものだ。

 横目でベリオとユカ2を見ていたブラックパピヨンは、自分に視線が注がれている事に気が付いた。
 見れば、ユカが何かを懇願するように見つめている。


「…ベリオ、ちょっとそこ退きな。
 ユカと一緒に居たいって、そう言ったんだよね、その子は」


「…はい」


 黙ってユカ2の隣を譲るベリオ。
 ブラックパピヨンは、ユカをユカ2の隣に移動させ、二人の手を重ね合わせる。
 ユカが手を握り締めると、心なしかユカ2の表情が和らいだ気がした。


 暫く沈黙が支配する。
 ガタガタと揺れる音は何時の間にか小さくなっていた。
 どうやら、撤退は終わって戦列の建て直しに入るようだ。
 と言う事は、あの閃光の射程範囲外に(一応)出たと思っていいだろう。


「…ベリオ、この二人どうするんだい?」

「……ユカさんは、じっとしていれば体は回復します。
 …この子は……考えてみれば、名前も聞いてませんね……今夜はまだ生きていられる、と言いました。
 だから、それまで…」

「助けられる方法を探す、か…。
 しかし、時間が足りないにも程があるだろう。
 そもそも、魂云々はアタシ達じゃ理解が及ばないし…」


 尤も指摘に、反論できずに黙り込むベリオ。
 こうなったらいっそマッドに任せるか、とも考えた。
 他に助ける手段が無いなら、それを実行するしかあるまい。
 いくらルビナスでも、患者の生死を分けるシーンで趣味には走るまい。


「…しかし、いくらルビナスでも魂の養殖なんぞできるかどうか…」

「ナナシは魂をどうこうして創られたんじゃないのかい?」

「ナナシさんは、千年の間に少しずつ魂が宿った、所謂九十九神のようなものらしいのです。
 何時ぞやナナシさんを解ぼ…ゲフン、観察する事で、未だに明かされてない魂の謎が解き明かせるかもしれない、と…。
 つまり、それはルビナスも魂をどうこうできる程に熟知して無いという事ですし…」

「でも、この子の魂は養殖されて、それで生きていたんだろ?
 方法は解らなくても、養殖そのものは出来るんだよね?」

「くっ…誰か、その手の技術に詳しい人が居れば……」


 思い当たる端から候補を挙げるが、ルビナス以上の心当たりは見つからない。
 とにかくルビナスに聞いてみるべきかもしれないが、
 そのルビナスは、何処に居るのかさっぱり解らない。
 彼女はナナシ・ミュリエル・汁婆と一緒なのだから、そうそう遅れをとるとは思わないが…この混雑の中で、彼女達を探し出すのは流石に難しい。


「魂の養殖ったって、一両日で出来る事じゃなさそうだし…。
 ……誰か、魂に関する技術を持って居そうなヤツは…」

「ベリオ!」

「「………イターーーーーーー!!!!!」」

「え!?」

「…何事?」


 唐突に馬車に顔を出したイムニティ。
 彼女を見て、ベリオとブラックパピヨンは地獄に仏とばかりに絶叫したそうな。
 そして、イムニティの横で居心地悪そうにしているセルには、カケラも気付かなかったとか。


 一方、こちらはルビナス達。
 閃光の脅威に晒されながらも、ナナシを中心に意気揚々と撤退していた。
 それもその筈、ナナシのお友達を、かつての戦友を、なんか手段に色々な問題があるとは言え、ほぼ無傷で捕獲したのだ。
 後は彼女を説得するだけだが…その方法がどうのとかは、後で考えるのがいいだろう。


「汁婆、もう少しスピード出しても付いていけるわよ」

『そうか?
 なら遠慮なく』


『あああ、私の体が何かスゲー勢いで揺れてるし!』


 幽体離脱を強制されてグッタリしているロベリアの体は、汁婆の腰にロープで括りつけられていた。
 そしてミュリエルがレビテーションをかけて宙に浮かせ、それを汁婆が引っ張っていく。
 汁婆の超スピードに引っ張られて、ロベリアの体はいい塩梅にガックンガックンしていた。
 …括りつけられているロープが、首に逝ってるのは…気のせいだろうか?
 首が絞まるとかいう以前に、ムチウチどころか延髄に致命的な傷が入りそうなのだが…。
 何というか、趣味の悪いキーホルダーのようだ…ガイコツになってるヤツ。

 体に戻ってロープを切ろうにも、入った瞬間に首がいい感じに絞まってアッチの世界に旅立ちそうだ。
 レビテーションで高速低空飛行しながら、ミュリエルはロベリアボディを痛ましげに見る。


「…ルビナス、あの体大丈夫なのですか?
 幽体離脱していると言っても、肉体が致命傷を受けたらロベリアも本気であの世行きですよ?
 せめてロベリアが体に入れないように細工して安全に運んだら…」


『そうだそうだ、ミュリもっと言え!』


「…そうは言っても、そんなコトしてる暇が無いじゃない。
 ここで立ち止まったら、後ろから来る兵の皆さんの通行の邪魔になった挙句踏んづけられてボロボロになって、ロベリアの体も骨とかボキボキと…。
 何より、私はさっさとあの閃光の射程外に逃げたいのよ」


 気持ちは解らなくもない。
 と言うか、生きる事に人一倍執着が強いロベリアにも、その意見は賛成だ。
 こんな所で立ち止まっている暇があったら、少しでも遠くに離れるか、安全地帯を見つけた方がいい。
 ロベリアはあの閃光の破壊力を、少しではあるが知っているので尚更だ。


「それよりロベリア、貴女、この閃光が何なのか知っているんじゃない?」


『…知ってたとしても、言うと思うか』


 捕縛されたとは言え、ロベリアはまだ屈したつもりはない。
 ルビナスへの意地もあるし、黙秘を貫くつもりだろうか。
 実際の所、ロベリアもあまり細かい所は知らないのだが。


『ああクソ、ナナシ辺りに閃光を防げる機能とか搭載してないのかよ!?』

「そんな事言われてもねー。
 あんなとんでもない攻撃、想定してなかったし…。
 いつぞやの魔導兵器ほどじゃないけど、攻撃力高杉。
 連発できる事を考えたら、それこそ魔導兵器以上じゃない。
 あんなの…そうね、ジックリ腰を据えて…軽く見積もっても一年以上研究しないと、対策なんて出てこないわよ」


 このマッドにそこまで言わせるとは、とロベリアとミュリエルの背中が寒くなる。
 洒落にならないモノを使っていたのだ、とようやく実感した。


『コイツはコイツでにこやかに走ってるし…』

「はにゃ?」


 現実逃避なのか、ロベリアの文句の矛先が変わった。
 視線の先には、満面の笑みで走るナナシ。
 ア○レちゃんよろしく、両手を左右に広げて走っている。


『その両手は一体何だよ?』


「こうして走ると、抜かれにくいですの!」


『ネタソッチかよ』


 両手を広げても容赦なく抜かれるとか、そもそも抜かれても別に問題無いとか、色々ツッコミ所はあるだろうが…ナナシの笑顔が、全て完封してしまう。
 ロベリアを無傷で捕獲できた事が、余程嬉しいのだろう。
 撤退の最中だと言うのに、その笑顔に癒されてしまう兵士が若干名。


『……魔物も人間側の兵士もこんな連中ばっかりか…。
 真面目に新しい世界を作ろうとしてた私がアホらしくなってくる……』


「…改めて見ると、兵士達も千年前と似たような連中ばかりですね…。
 あの頃はアルストロメリアがトップなのだから、ある意味必然なのだろうと思ってましたが…」


『真面目なヤツほど苦労するって事か…』


 はぁー、と深い溜息をつくロベリアとミュリエル。
 この辺の苦労は、敵味方の枠を軽々と超えるらしい。


『…ミュリ、今度…あー、仮に私がこのまま“破滅”から離れて、なおかつ処罰とかなかった場合だが…一杯付き合ってくれない?』


「貴女と飲むと、いつも辛気臭くなってたのですが…まぁ、お付き合いしましょう…」


 その数分後、ミュリエル達は撤退先の駐屯地に到着した。


 何とか戦線を崩壊させずに…かなりガタガタになったが…人類軍を撤退させたタイラーとドムは、盛大に息を吐き出した。
 まさか、いきなりあんな代物が出てくるとは思わなかった。
 大河があの閃光を止めに行ったようだが、失敗したのだろうか…?


「厄介な…。
 とにかく、兵達の現状を把握せねばならん。
 細かい所は副官に任せて、我々は意識調査と行くか」


「そうだね。
 ここまで一気にやられたんだし、士気云々どころの話じゃないか…。
 ヤマモト君、必要なデータをどれくらいで調べられる?」


「は、小一時間もあれば、大まかな傾向は把握できます。
 兵達の負傷具合、士気の高さ、武装の破壊率、兵糧の残量…。
 他に気になる事はありますか?」


「いや、取りあえずはそれだけでいいよ。
 僕は…うん、取りあえず機構兵団を見に行ってくる」


「なら俺は救世主クラスだな。
 それでは、1時間後に戻ってくるぞ」


「はいはい」


 ドム達は、それぞれの役割を果たす為に散って行った。
 なお、全員留守にすると緊急連絡があった時に身動きが取れないため、シア・ハスはお留守番である。


 まずタイラーは、機構兵団よりも先に列車を見に行った。
 単に近くにあったからでもあるし、戦略的な価値を考えたら機構兵団よりもこちらが重要だというのもある。
 まぁ、タイラーが後者を考えていたかは別問題だが。

 奇跡的にと言うべきか、列車はあちこちに傷や凹みがあるものの、致命的な傷は全く受けていなかった。
 兵達…主に動けない重症兵を運ぶ為、この列車はあの閃光の中を何度も行ったり来たりしていたのだ。
 なお、運転手はまだ二日酔いが醒め切ってないツキナである。
 列車を運転できるなら、と気合と根性で復活したのだが…それはそれで恐ろしい話だ。
 事故らなかったのが不思議で仕方ない。
 …実を言うと、フラフラ揺れる蛇行のおかげで、何発か閃光を回避している…その分近くを走っていた兵達が肝を冷やした。

 そのツキナはと言うと、列車を運転している間に大分回復したらしく、今は機構兵団の介護に当たっている。
 透一人を贔屓にしてない訳ではないが、ちゃんと全員を看護していた。


「やれやれ、完成してまだ一週間程度しか経ってないのに…。
 もうボロボロになっちゃった…」


 これを作った職人達が見たら卒倒するかも、などと呟いて、近くに居た整備兵(王宮から派遣されてきた)に話しかけた。


「この子、まだ動けるかい?」


「はっ、あっちこっちに傷がありやすが、走る分には問題ありやせん。
 個人的には…こんな使い方はして欲しくないんですがねぇ…」


「いやぁ…申し訳ない…」


 車輪を見ながら呟く整備士。
 そこには血の跡が結構残っていた。
 今日は人も魔物も轢いてないので、昨日ツキナが魔物を跳ね飛ばしまくった時に付着した血だろう。
 正直、素人目に見ても気持ちのいい使い方ではない。


「今日中に整備して、外装の傷はともかくまた走れるようにしやす。
 …将軍、不躾なお願いだとは存知やすが…」

「ん?」

「この子を、こんな戦争で失うような事は避けてください。
 この子は人を乗せて走る為に産まれ、その存在意義を全うしたとはとても言えない。
 例え戦場で人を助ける為に走ったのだとしても、生涯の走りが全て戦場での走りと言うのは、あまりにも不憫だと思いやす。
 ですから、この戦争が終わった後で…せめて一度だけでも、血の匂いがしない場所を走らせてやりたい…」


 タイラーは、整備士の言葉を黙って聞いていた。
 気持ちはタイラーにもよく解る。
 彼は戦の天才で、敵の命を刈り取る事に全く躊躇いを見せない一面こそあるものの、根は優しすぎるほど優しい。
 機械に感情移入してしまうのも、別段おかしい事とは思わない。
 しかし、現状ではそれが難しいのも事実。
 だが。


「…解った。
 きっとこの列車は、最後の最後まで生き残るよ。
 僕が何とかする」


「…ありがとうございやす」


 タイラーに向かって、敬礼ではなく頭を下げる。
 そして整備兵は、すぐに仕事に取り掛かった。

 その後姿を暫く見て、タイラーは機構兵団に足を向ける。
 …取りあえず、ツキナにあまり無茶な走り方をしないように注意しなければ。
 ………怖いけど。


「さて、明日はどうしたものかな…。
 無限召還陣を破壊するミッションがあるけど、それより先にあの閃光をどうにかしないといけないかな…?」


 一方、救世主クラスの様子を見に来たドム。
 様子を見るとは言っても、彼女達は方々に散らばっているようなので、様子を見回るのにも少々歩き回らねばならない。
 その間にも、軍の状況を把握しているのだから、如才無いというか何と言うか。


(…予想はしていたが、やはり苦しいな…。
 緊張の糸が最大限に張り詰めた頃に、あの砲撃を連続で食らって敗退…。
 ここから戦線を盛り返すのが至難の業だと、末端の兵にも…いや、末端の兵だからこそよく解る。
 何か手を打たねば…)


 歩いていると、ドムに縋るような視線が幾つか投げかけられる。
 まだ絶望こそしていないものの、どうにかしてくれ、と態度に出ていた。
 苛立たしげなドムだが、表には出さない。

 救世主クラスを探して歩いていると、一人の兵が駆け寄ってきた。
 兵装からして前線で戦う兵ではなく、戦の流れを記録したり天候やら何やらを予測する記録係のようだ。


「ドム将軍、失礼します。
 少し見ていただきたい物があるのですが」

「なんだ?」

「これを…」


 兵が差し出したのは、有り触れた幻影石だった。
 ドムに許しを得てから、映像を再生させる。

 その石に刻まれていた映像を見て、さしものドムも驚愕した。
 そこには大きな何かが急速に形を成す様が写っている。


「!? …これは…?」

「救世主候補の当真大河殿が戦っていた辺りから出現した、正体不明のバケモノです。
 撤退途中にも観測を続けていた際、偶然発見しました。
 まだ続きがあります。
 少々早送りを…」


 コマ送りで再生される映像は、異形の怪物が人類軍に背を向けて去っていく様だった。
 何処か目的地があるのか、脇目も振らずに歩き(?)続ける。
 その途中、何匹が魔物を踏み潰していた。


「この怪物が行く先に何かあるのかと思い、幾つかの術を通じて遠視したのですが…。
 どうも、あの閃光の発射元近くに向かっているようなのです」

「ほう? では、閃光の発射元は判明したのか?」

「あまり鮮明な画像は見えませんでしたが……。
 あー、その、取りあえず絵にしてみました」


 そう言って、ヨレヨレの紙を差し出す。
 撤退しながら描いたのか、所々紙が破れていた。
 しかし…。


「…何が何だかさっぱり解らんぞ」

「…幼稚園時代から、『君の絵はリンゴを異次元の物質に変えてしまうんだね』と言われ続けて幾星霜…。
 ぢつを言うと、それでも最高傑作と言っていい出来なんです…。
 今まで描いた絵は、何故か見た人の気分が悪くなったり、30分後に見たら自分でも何を考えたのか解らない始末…」

「…そ、そうか。
 まぁいい。
 なら口頭で言え。
 どんな存在が、アレを放っていたのだ?」

「幻影石に念写してあります」

「ならそっちを先に出さんか!
 お前は何か、そんなにこの絵を見せたかったのか!?」

「最高傑作だって言ったじゃないですか!
 せめて一目誰かに見せたいと思っても仕方ないじゃないですか!」


 コイツ絶対タイラー直属の部隊だ。
 軍規もクソもありゃしねー。

 取りあえずドムは脳天に一発かまして、幻影石に注意を戻した。
 そこにあるのは…人の顔?


「…これが?
 またお前の作った意味不明物体じゃあるまいな?」

「は、はぁ…確かにそんな形をしていました。
 巨大な顔の頭頂部の辺りから上半身が生えていて、その上半身の右腕にあの閃光を放つ…なんというか、ヘンな形の…そう、機構兵団が使っている妙な銃のような発射口があり、そこから四方八方にあの閃光が発射されています」

「今、コイツが何をしているのか観測できるか?」

「あまり細かい所までは分かりませんが、30分もあれば。
 何人か観測師を回していただければ、20分で」

「適当に見繕って回す。
 出来る限り情報収集をせよ」

「はっ。
 私は見張り台に居ますので」

「うむ。
 …この幻影石、借りていくぞ」


 兵が頷いたのを確認して、ドムはまた歩いて行った。
 有力な情報を得て、ドムの頭は回転スピードを上げている。


「…そう言えば、大河を捜索させるのを忘れていたな。
 多分、あの怪物の近くまで行ったのだろうが…。
 …回す兵に言っておくか」


 その兵士だが。


「あれ? あれ?
 なぁ、俺の幻影石知らないか?
 ほら、前にお前にも見せた『色』って書いてあるヤツ」

「ん? ありゃ確か、お前がさっき使ってた幻影石だろ」

「そんな筈無いって。
 ちゃんと確認した。
 あの石には何も書いて無い」

「いや、確か先日コレクションの整理をするとか言って、石に書いてあるラベル全部消したじゃないか。
 つうか、お前がこんなトコまで持ってくる幻影石なんてアレくらいだろ」

「ゲ…そう言えば…。
 あー、ヤッベーなー、レア物上書きしちまったかなー!?」

「…おいお前ら…何を話して…ってか、その幻影石には何が入ってるんだ?」

「ああ、『実録!というかむしろ盗撮!○○州領主、地元官憲との癒着!』とか、『美少女建築士ドリル使いインコ』とか『クラウザー様生ライブ』とか『叫べ!熱血!魂の燃焼!古今東西檄熱アニメーション』とか、色々。
 ヤッベー、レア物消えるのもヤバイけど、軍規に触れそうなのが色々と…」

「…何持ってきてんだよ…でも無事だったら見せてくれ」

「…見せるのはいいけど、将軍に叱責されそうになったら、カバー頼む…」


 幻影石を懐に、救世主クラスを探して歩くドム。
 流石の救世主クラスも多少は敗戦が堪えたのか、普段のようなバカ騒ぎは起きていない。
 そうなると、足で稼ぐしか無い訳だが…歩いている途中に、ドムは気になるモノを発見した。


「……セルビウム…?」


 そう、とある馬車に凭れかかって、何やら所在無げというか微妙に寂しそうにしているセルビウム・ボルトだ。
 咄嗟に周囲を見渡す。
 セルに注目している者は誰も居ない。
 どうやら、セルの事を知っている兵はここには居ないらしい。


「…おい、セルビウム」

「は!?」

「大きい声を出すな、馬鹿者」


 いきなりドムに話しかけられ、驚いて奇声を上げそうになったセルの鳩尾に鉄拳。
 うぐっ、と一瞬咳き込んだものの、鳩尾を摩るだけで特に何とも無い。

 ドムは少し驚いた。
 今の一撃は、セルを気絶させるつもりで放ったのだが。
 元々フローリア学園でも頑丈なヤツだと聞いていたが、これ程とは。


「…まぁいい、少し付き合え」

「は、はい…」


 ギロリと眼光をきつくして睨みつけるドム。
 セルは後ろめたいのか、色々と諦めているような表情だ。
 どんな理由があれ、“破滅”に付いた以上、獄門付きで死刑にされても文句は言えない。
 だが、今セルが死んだらアルディアはどうなる。


(に、逃げるしかねーかな…)


 ドムはセルが召還器の加護を得ている事は知らない筈。
 不意を付けば、充分逃げられるだろう。
 その後、何とか隙を見て大河に接触、アルディアを助ける方法を聞きだす。
 これが一番現実的だろうか?


 馬車の影に入り込み、人目が無い事を確認して、ドムはセルに向き直る。
 一見自然体だが、もしセルが不審な行動をしたら、即座に抜刀するだろう。


(大河のヤツが、俺が“破滅”に付いた可能性があるって知ってたって事は、当然ドム将軍にも知られてるだろうし…。
 そもそも、魔物に連れて行かれたヤツがいきなりこんな所に居たら、怪しまれるのも当然だよな。
 ああ、せめて大河と同じ馬車ん中に居ればよかった!)


 後悔しても後の祭りだ。
 口先三寸で誤魔化せる相手ではないし…。
 一か八か、自分を殺す前に大河に確認を取ってくれ、と言ってみるか?
 大河の事だ、セルをそう簡単に殺しはしないだろう。
 少なくともアルディアを助けるまでは。

 それ以上の事は、現状では出来ない。
 敵に回って人類軍に大いに被害を与えた挙句、今更親友ヅラするようで気が引けるが…。
 アルディアを助けられるなら、何でも利用する。
 後で後悔するのが解っていても、セルはそう決めた。


「さて…貴様、セルビウム・ボルト本人で間違いないな?」

「…はい…と言っても、証明できる物はありませんが」

「ふむ。
 で、そのセルビウムが何故ここに居る?
 魔物に連れて行かれたと聞いたが」

(あれ? 大河のヤツ、俺が生きてるかもしれないって伝えなかったのか…?)


 疑問に思うセルだが、これは単なるドムの引っ掛けだ。
 もしセルが“破滅”に協力していて、なおかつ今もそうなら、自分が連れ去られてから戻ってくるまでの経緯を適当にでっち上げるだろう。
 その嘘の出来不出来はともかくとして、そこに混じる虚偽の気配を見逃すドムではない。

 暫し迷ったセルだが、正直に話す事にした。
 嘘をついた所で大河やイムニティが証言したら終わりだし、怪しまれていては協力を求める事すら出来ない。


「…その前に、出来れば大河に確認を取ってほしいんですが」

「大河? 大河なら、あの閃光を止めに行ってまだ帰ってない。
 時間稼ぎのつもりか?」

「いや、この馬車に居ますよ。
 寮長!
 手が空いてたらちょっと顔見せて欲しいんですが」


 馬車をコツコツ叩いて呼びかけるセル。
 それに応じて、馬車の後ろからベリオではなくイムニティが顔を出した。


「何よ?
 今、ベリオはマスターとユカ達の治療で忙しいんだけど。
 …あら、ドム将軍。
 どうかした?」


 ドムはセルから視線を逸らさずに、イムニティに問いかける。


「イムニティ殿のマスター…と言うと、大河の事ですな?
 いつの間に戻ったので?」


「ちょっと前に、そこのセルビウムと一緒に強引に連れ戻したのよ。
 重症を負ってるけど…命に別状は無いわ。
 それが何?」


「無事に帰ったのか!?」


「だから重症だって。
 まぁ、何とか峠は越したみたいだから、そういう意味では無事ではあるわね」


 大河が峠を越したと聞いて、セルは心底安心した。
 理由は色々あるが、とにかく証言してもらえそうだからだ。


「話は出来るか?」


「出来れば安静にさせたい。
 あ、それとドム将軍。
 セルビウムの処理を考えてるんだったら、後にしてくれって」


「む?」


「殺したりした日には、あの閃光が一気に激しくなるから、と言ってたわ」


 顔を顰めるドム。
 セルをこのまま放置するのも問題だが、それ以上にあの閃光が強烈になるのは勘弁願いたい。
 ナーイス大河、と心中で喝采を挙げるセル。


「…大河はアレが何なのか知っているのか?」


「そのようね。
 私もあんな代物は聞いた事が無いんだけど…。
 起きたら話す、と言っていたわ。
 セルビウム、何か聞いてる?」


「あー、確か…セイジュウがどうのと言っていたような」


「聖獣?
 と言うと、朱雀とか玄武とか?
 それとも某宗教みたいに象や豚?」


「我がホワイトカーパスでは、グリーヴァなる強大な獅子が聖獣として崇められているが?」


「俺にも何が何だか…」


 大河はアルディアの腕に装着されていた銃に対して、妙に拘りを見せていた。
 だからセイジュウと言うのは、獣ではなく銃の事を指すのかもしれない。


「ふ、ん…?
 取りあえず、お前が魔物達に連れ去られてから、何があったのか話してもらおうか。
 黙秘は認めん。
 洗いざらい吐かねば、大河に制止されていようとも斬り捨てられると思え」


「…はい」


 “破滅”の軍の内情を、幾らか話す事になる。
 最初は人類側、連れて行かれて“破滅”の軍、そしてまた人類軍。
 まるで蝙蝠だな、と自嘲するセル。
 もう後が無い。
 こうして人類軍に、仮にでも居られる事事態が破格の待遇なのだ。
 もう一度“破滅”軍に付くような事があれば、何処からも信用されなくなる。
 傭兵とは生き汚いのが身上で、自軍が負けそうになったら、優勢な側に願える事もある。
 元々主義主張や愛国心などで戦っているのでもないし、そういうタイミングを見逃さないのも傭兵の必須技能だが…それでも、最低限のルールはある。
 何度も気軽に所属を変えるようでは、捨て駒や盾にすらならない。
 何より、自軍の情報を持ったまま、敵側に寝返られたら堪ったものではない。

 どの道、もうセルは傭兵としての道を歩む事は出来ないだろう。
 なら、ある意味では最大のチャンスと言えなくも無い。
 上手くアルディアを救い出す事が出来れば、そのまま彼女を“破滅”軍から引き離す事も出来るかもしれない。

 問題はアルディアの意思。
 セルは、“破滅”軍に連れて行かれた後、一つの約束をした。
 それはアルディアの意思を、最大限尊重する事。
 もし彼女が家族…ジュウケイ達と一緒に居たいと願うなら、それを決して邪魔しない、と。
 約束した相手はジュウケイではない。
 その約束をセルに託して、彼女は死んでしまった。
 その約束を破る事が出来るのか?


(…それがアルディアさんの為なら…俺は約束を破れるか?)


 たった一度の自由を棒に振ってまでセルに願いを託した彼女。
 その意思を押し退ける事が出来るのか、セルには解らなかった。


「…おい、セルビウム。
 聞いているのか?」


「え? あ、はははい、スイマセン!」


「…斬り捨てられたくなければ、さっさと答えろ。
 お前が魔物達に連れ去られた先で、何を見た?」


「それは……」


 正直言って、気が重い。
 アルディアの秘密を暴露するようで。


「…クローン培養施設です」

「クローン?」


 気を落着けて、セルはポツリポツリと話始めた。
 “破滅”の軍に付くまでの経緯は、大河に話した事と大体同じである。


「…アルディア、とやらを護る為に、お前は“破滅”に寝返った、と?」

「…はい。
 ですが、俺が思った以上に事態は複雑でした…。
 将軍は、エレカ・セイヴンという少女をご存知ですか?」


「…いや、知らんな」


「アルディアさんにソックリな少女です。
 リリィ・シアフィールドが、以前の遠征の際に遭遇しています。
 …話の流れから解るでしょうが、彼女はアルディアさんのクローンなのです」


「…続けろ」


 唐突にクローンと言われても嘘くさいが、上…アザリン達から、謝華グループに関する揉め事で、その存在を確信したと言われている。
 …しかし、クローンを作る施設がそう幾つもあるとは思えない。
 となると、施設は謝華グループから“破滅”が奪って使っていると見るのが妥当か。

 アルディアのクローンは、エレカだけではない。
 アヴァター各地に出没し、何らかの工作を行って煙のように消える少女。
 彼女達は、全てアルディアのクローンだ。
 とある施設で作り出され、そして工作員としての簡単な刷り込みを受けて、そして指令を受けてその通りに行動する。

 こう言っては何だが、彼女達は使い捨てだ。
 嘘っぱちの過去を刷り込まれ、無意識に操られて、そして指令を終えた辺りでその寿命が尽き、消滅する。


「消滅?」

「…服や装飾品を残して、文字通り…。
 骨も残りません。
 …一度、目の前で見ました」


 セルはそのクローンと約束したのだ。
 指令を終え、自由になったクローンは、残った僅かな時間を自分の意思で過ごす。
 まともな情操教育を受けてないためか、自分の死に脅えすら感じない事が唯一の救いだろうか。


「…今、クローンはどれ程残っている?」


「…一人も居ません。
 もうアルディアさん本人しか残っていないし、新しくクローンを作って成長させる程、施設は機能していないようです。
 ただ、俺も知らされていなかった施設の奥で、別のクローンか何かを作成しているような節がありました」


「……それで、そのアルディアとやらは?」


「………大河と俺が戦っている時に、突如閃光を乱射し…そして…」


「…あのやたらと大きな顔のバケモノになった、という事か…」


「…はい」


 ドムは暫く考えると、チラリと馬車に目を走らせた。


「…以後、救世主クラスと機構兵団の一人にお前を監視させる。
 こちらから指示があった時以外、出歩く事は許さん。
 …なんだ、その顔は?」


 そろそろタイラー達が戻ってくる時間なので、セルとの話を切り上げようとする。
 しかし、セルは何故か微妙な表情だ。
 今更待遇について文句を言うとは思えないが…。


「いえ…今この馬車に居る救世主クラスは…イムニティさんに連れてこられた俺の事、全然気が付いて無いんで…。
 その、少々気まずい…べ、別に不満がどうとか言っているのではありません!」


「…まぁ、生きていた事について散々驚かれた挙句、“破滅”軍に味方した事で散々叩かれ、挙句大河に傷を負わせた事で深刻な怒りをぶつけられるだろうな。
 …自業自得だ、耐えろ」


「はい…」




恋姫無双やってます。
システムとかに関する不満云々はともかく、主人公が思ったよりヘタレじゃないのは救いかも。
ランスのような図太さを求めるのは酷だしなぁ…。
彼(女)が某快賊団団長と同じ声というのにワラタw
意外と似合う…。

それにしても、最近GS+ネギまが多いなぁ…。
読み応えがあってとても嬉しいんですけど。
これはアレでしょうか、詞連が中々再開できないから思い立って、とか?

それではレス返しです!


1.パッサッジョ様
シェザルの箍は、とっくに外れていたような気がしますけどw
今回は、か…今後も危機が訪れるかな…しかもシェザルは全身銀色…逃げるっきゃねぇ!

ナナシは戦場でも洗浄でも変わりありませんw
だからこそナナシ、ですね。

さーて、バルド編が終わって、ちょっと戦争やって、セルとアルディア編か…長くなりそうだなぁ、こりゃ…。


2.くろこげ様
おお、そういえば狩矢君も使ってましたな。
どっちかと言うと使われてるって感じでしたが。
それじゃ、アルディアが聖銃を使えても問題なし、と。

そうですね、レベリオンのコピー辺りが妥当でしょうか。
うーん、その辺どうしようかな…。


3.nao様
お久しッス!
おお、前のお二人と一分刻みでレスが来ておられるw

聖銃の使い所は結構迷ったんですけどね。
ダウニー辺りにくっ付けたら、アフロのバケモノが出てきそうで…聖銃がオモチャの扱いになってしまいそうですw


4&5.イスピン様
あの万年高校生、計何浪してんでしょーねw
うーむ、暴走ユカ2はあんまり見たくないなぁ…。
こう、敵を押し倒して爪でガシュガシュと…。

セルが一途なのは原作からですからねぇ。
それが一番の魅力ですから、その辺を変えたくは無かったです。
召還器を持たせるのは、大抵の人が一度は考えたのでは?

はい、聖銃はGPMのアレです。
あの世界観は、本格的に組み込むには複雑すぎるので、細かい事をすっ飛ばしてくれると助かりますw


6&9Campari様
聖銃を持ち出すのは、ラスト近辺か女の戦い(式神の城・コミック)が定番ですからね。
ある意味、この聖銃は中ボスに値します。
…ラスボスより強い中ボスって、結構居ますしね。

む? しまった、世話役の方は黒夜叉だった!
ラオウ様の辺りまでしか記憶に残ってなかったから間違えてしまった!
…まぁいいか、名前が黒夜叉じゃ流石に不自然だし…。

取りあえず暫くはセル君とアルディアさんに焦点が集まると…あれ?
でもあの機構兵団も無限召還陣を破壊しなきゃならないし……ま、まぁ出番は多分増えます!
アルディアさんは取り込まれたままだから、一言も喋れそうにないけど!


7.amount様
パニッシャーって、どうにも使い勝手が良さそうには見えないんですけどねぇ…。
ナナシにパニッシャーを弄らせたら爆発するのがオチですよw

神になる云々に関しては、色々試行錯誤している最中です。
それを最後の詰めに使おうと思った事もあるのですが…まだまだ考え中です。


8.d-azot様
い…いやぁ、幾らなんでも全部NEPじゃ勝ち目が無いですよ…。
救世主クラスはリコ以外一撃必殺が決まったようなモンじゃないですか。
確かNEPは、その世界で産まれ、世界から出た事のない存在には影響が無いんでしたっけ?

シェザルとかの強化に関しては、お察しの通りですね。


10.悠真様
色々と細かい事はありますが、取りあえず聖銃に関してはそのくらいの認識で。
細かい機能とかもありますが、そこまで詳しく出すつもりも無いです。

はい、ドム将軍と戦ったのはジュウケイさんです。
リヴァイアサンとデビルアルディアさん、どっちが強いか…。
大きさで言ったらリヴァイアサンなんですけど。
告白天驚拳…やはりそうなりますよねぇ…。

ボスが連続して出るのは、“破滅”の将の代わりみたいなもんです。
連中があんなザマですから、これくらいしないと人類がピンチにならないんですよ。


11.竜神帝様
「お前が欲しーい!」ですか?
でもそれをやると、後々セルがヘンタイ魔導師扱いされそうな…w
懐かしいなぁ、ぷよぷよ。


12.アレス=ジェイド=アンバー様
改造はルビナスの専売特許ですぜw
まぁ、シェザルと無道は改造されてたようですが。

確かに、シェザルみたいなのは放っておくと何をやらかすか解りませんからねぇ…。
自分が死ぬ事で感じるカタルシスの味を覚えた今、誰も居ない所で自殺→恍惚→修復→また自殺、を繰り返している可能性もありますが。

ユカVSクローン、またいつかやらせてみたいと思います。
一応決着は付いたけど、横槍が入って不完全燃焼ですからね。
しかし…なんか、クローンがもう死んでるような印象を受けてるようですねぇ…。
まぁ、この状況じゃ無理もありませんが。

セルも苦労するけど時守も苦労しますよ!
こんな相手どーやって勝てと!?


13.YY44様
元ネタは違いますけど、大体そんな感じでw
クローンユカは、一応V.Gでも存在してますしね。
彼女が死んだ時、かなり泣いた…。


14.陣様
いやぁ、ビッグナナシのカイザーノヴァは破壊力でかすぎですよ。
それこそ、デビルガンダムに向けて放り投げるくらいしか使い道が…w

巨人兵風ナナシの光線は、やはり目からですか?
それとも口からですか!?
個人的には目がいいな。
そしてフリップを使って指示する汁婆…きまらねぇ…。

ユカにはどっちかっつーと超級覇王電影弾を先に覚えさせたいです。


15.くろこげ様
うむ、わからん。
というか、細かく理解しようとしたら知恵熱が出ますよ。
アルファさんとこの世界観ほど置くが深い世界を、時守は知りません。
まぁ、細かい事はスルーの方向で。


16.カシス・ユウ・シンクレア
こうと決めたら一途になるのが、セル君の一番いい所ですよね。

聖銃は無名世界観…ガンパレとかに使われている世界観の一部で、時守も細かい事までは覚えていません。
まぁ、反則級の能力を幾つも持った銃と思ってくれれば。
聖銃でググれば、結構データが出てきますよ。

ロベリアさんの扱い、結構困っています。
ルビナスとの不仲は結構根が深いですから、ちょっと話して解決するような事でもないし…。
やはり不仲はいったん脇にどけて、別方面から責めるべきか…。

死なせませんよー!
ぜーったい死なせませんよー!
V.G.をやった時に、彼女の死でかなり泣きましたからね!
こっちでは絶対幸せになってもらいます!


17.ソティ=ラス様
なんか皆さん、ユカ2の死を確信しておられるようなのですが…(汗)
アルディアは折角出したオリキャラなんだし、これくらいの見せ場が無くてはね!
他の一発キャラは、見せ場=出オチだしw

神については、そもそも戦闘がどうなるかさえ…おっとと…。

確かに今更ですねぇ…。
実を言うと、個人的にはまだ原作の7章までしか進んでないです。
デートイベント、まだ起きてないし。


18.DOM様
ユカの精神年齢は、基本的にジャンプに嵌る世代でしょうw
根が単純ですしね。

か○はめ波か…あの二人ならリアルで出来ますね。
似たような技を持ってるし。

セルも随分芸風が変わりました。
…さて、どうやって引き摺り戻してくれようか(邪笑)
告白シーン…やっぱりやらなきゃダメですか…。
うん、やっぱり一番の見せ場ですし…セルはそのあと退場する可能性もあるから、何とかやってみます。

セルがロリのケがあるのはオフィシャルでしょう。
だって原作でもクレアを見る目がアレでしたしw


19.玖幻麒様
鰤とナナシは何所か似ている気がしますな。
愉快な仲間達が出てきたら、ベリオがトラウマ作って失神しますよw

流石に相手が相手なので、即効でカタをつけるのは不可能でした。
リヴァイアサン編くらい長引くかも…。

槍…槍か…その手があったなぁ…。
死翔の槍は投げる方のやつですか。


20.竜の抜け殻様
聖銃の閃光は、ルビナス科学でも相殺するのは難しいッス。
ええそうですね、アルディアさんとセル君が並べば、アルディアさんが優先されるのは当然の事です。
セル君、君も異論ありませんね?
…いや、そんな顔で笑って心でホロ苦い涙を流されても…。

実際、味方戦力がやたら多くて困ってます。
一応敵の方にもパワーアップの心当たりはあるんですが。


21.蝦蟇口咬平様
大河とナナシなら、ノリノリで放ってくれそうですw
愛と!絆と!希望の!ラブラブ天驚剣!面!面!面〜!とか。

デビルガンダムの動力源は謎です。
何せ元が聖銃ですから…。
巨大アームズ…ってーと、あのでっかいゴーレムとかですか。
物騒さでは比較になりませんが。

似てるって、体をホイホイ取り替えるからですか。
なるほど、言われて見れば…。
で、ポーズを取るとすれば、ロベリアはツッコミ或いはお色気系、無道なら筋肉ムキムキ、シェザルはナルシスト、でもってジュウケイは…?
とりあえず、ダウニーは頭強調で決まりです。


22.堕天使様
イタ、イタタタタ…自分だけさっさと自由になってしまったのが痛い…。
もう発表も終わっちゃいましたから、学校に行く理由も無いです。

いやぁ、デビルガンダムを仕込んだのはルビナスじゃないっすよ。
真っ先に名前が出てくる辺り、普段の行いとイメージを物語っていますがw
色々悩んでますが、やはりキメはラブラブ天驚拳ですなぁ…拳じゃなくて砲になるかもしれませんが。

ええ、聖銃はどー見ても反則ですよ。
本来ならホイホイ撃てる代物ではないのですが。

それでは、次回の更新を楽しみにさせていただきます!


23.悪い夢の夜様
ほう、それほどインパクトがありましたか。
前々から…と言うか、アルディアが登場した辺りからデビルガンダム化は考えていたのですが。

あら、投稿は無しですか…残念orz
むむぅ…気になる電波…うちの受信機に混線してくれないかなぁ…。
また以前のように書いていただくと、今度は洒落にならん罰則が来そうですし…。
てか、家政夫はどのバージョンで!?
弓の方だと流石にヤバいですよ!

イスカンダルに行くなら、顔の色が変わる薬とか買ってきたいなぁ…。
デスラーって、10秒くらい歩く間に顔色が激変した事があるそうな。
きっと何かイイクスリがあるに違いない!

まだ迷っていたのですが、決めました!
セルにあのシーンをやらせましょう!
さて、どういうセリフにするかな…。

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