「白夜、今日もまっすぐ帰るのか?」
「ん、周か。どうかしたのか?」
俺が本日の授業を終えて、帰宅準備をしていると、友人の一人である蓮杖周(れんじょう しゅう)が声をかけてきた。
「いや、最近お前、付き合いが悪いからな。 理由を聞いておこうとおもってな」
「ああ、なるほど」
フラグメントのテストプレイが始まって二ヶ月がたった。 俺は放課後の時間を大抵フラグメントのプレイにあててるもんだから、周達と遊ぶ時間がかなり少なくなっていた。
周達と遊ぶのもいいのだが、今はそうはいかないのだ。 フラグメントが俺を待っている!
はっきり言って、フラグメントはかなり楽しい。 ダンジョンに潜るだけではなく、色んなイベントに参加するのも楽しいからな。
「悪いな。 今ゲームのテストプレイをやってるんだよ俺」
「そういえば、そんな事を言ってたな」
俺がフラグメントのテストプレイヤーだって知ってるのはこいつか、もう一人ぐらいなもんだろう。
「そんな訳で悪いな」
「ああ、なら楽しんで来い」
「おう」
俺は周にそれだけ言うと、家に帰る事にした。
.hack//Dawn 第3話 始開闘激・敵対蒼天
「ふぃー」
家に帰ると、さっそく俺はログインを……する前にメールチェックだな。
「おっ、イルファからか」
初めて、ログインした日から一番パーティーを組んでいる二人組みの片割れの重槍使いからメールが来ていた。
内容は至って簡単。 今日の6時から行われるイベントに一緒に参加してみないか、という連絡だ。
うむ。 是非とも参加しよう。 まだβ版でしかないフラグメントでのイベントは少ない。 まぁ、仕方がないのだけど。
だからこそ、こんなイベントに参加しないでどうするのだ!
「よし! 今は午後3時30分か。 なら少しレベル上げをする時間はあるな」
二ヶ月経った今では、それなりにレベルが上がったが、まだ20台である。 やっぱり元の世界みたいにほいほいレベルが上がる訳ないんだけどさ。
だから、今の俺のレベルはフラグメントプレイヤーの中では中の上って所。
上位陣はやっぱり相当やり込んでるんだろうな。
「さて、頑張りますかな」
俺はFMDをかぶって、フラグメントの世界にログインする。
さぁ、これから俺は【月白白夜】ではなく重剣士【サイリス】になる。
まぁ、素でロールしてるんだけどな。
■□■□■
<LOG IN>
「うし」
今日やってきたのはΘサーバーのルートタウンだ。
まず、自分のステータス確認。 今の俺のレベルは27。 まぁまぁ、って所。 やはり多くの経験地を手に入れるには、フィールドレベルが高い場所に行くのが一番いい。
と、なると30ぐらいの所を狙ってみるかね。
レベルの差が3ぐらいなら今の俺なら余裕の筈だ。 回復アイテムも結構ストックがあるし、問題ないだろ。
そう決めると、まず入らないアイテムを幾つか売って、回復アイテムを補給。
レベル差があれば、回復アイテムの使用量は高くなっていく。 だから出来るだけ回復アイテムは持っていたほうがいい。 いらないって事は絶対ないしな。
狙い所の場所は水のフィールド。 あそこなら水属性の敵も多いし。 火属性の俺としては相性がいい場所だ。
エレメンタルヒットを狙えるしな。 ああ、そうだ。 ゲームだとVol.2からエレメンタルヒットが導入されたけど、こっちではフラグメント時代からエレメンタルヒットは存在するのだ。
だから、属性の相性にはかなり気を使っている。 武器だって出来るだけ複数の属性の武器を用意してるし。
うし、こんなもんか。 回復アイテムの補給終わり、今必要ないアイテムは預けたし、問題なしっと。
「よし、行くか」
俺は意気揚々と、知り合いから教えてもらったエリアに向かって、カオスゲートから飛んだ。
■□■□■
「あー、サイリスさん!」
「時間通りだな」
「ティーファ、イルファ。 間に合ったかな」
俺が本日、レベル1つあげてから、イベント会場であるΔサーバーにやってくると、待ち合わせ場所には先にティーファとイルファの二人が居た。
この二人も二ヶ月前は初心者であったのだが、今は結構な腕前のプレイヤーになってきた。
まぁ、基本的に毎日繋いでるんだから当然かもしれないけど。
「今回のイベントって何?」
基本的にイベント告知がされるのだが、今日の俺はそれを読むのを忘れていた。 間抜けだな、おい。
「サイリスさん、読んでないの?」
「忘れた」
「忘れないでよね。 しかも即答だし」
ティーファの疑問に俺がきっぱり答えてやると、呆れた表情を見せるイルファ。 いや、そんな顔しないでくださいよ、マジで。
そんな間抜けな俺に対して、慈悲深いティーファが今日のイベントを説明してくれた。
今日のイベントは遺跡発掘。 特別なダンジョンの遺跡からレアアイテムを探そうという事らしい。
因みに、最下層にはもっともゴージャスなレアアイテムがあるらしい。 早い者勝ちだけど。
それならプレイヤー同士の戦闘があるんじゃないのか? PKが公式設定ではないとは言え、その気になれば行える。
まぁ、ここのプレイヤーは腕試し以外に戦う奴はいないけどな。
「ダンジョン内ではモンスターも登場しない上にプレイヤー同士の戦闘が禁止。 以下に相手より先にアイテムを取れるかがポイントらしいよ」
「でもそれなら、足が早い双剣士が有利じゃないのか?」
そう。 妨害抜きの早い者勝ち勝負なら、色々な要員はあるものの、双剣士が有利なのではないだろうか?
だが、そんな言葉はあっさりとティーファの言葉によって崩される事になった。
「それがね……」
ティーファの内容を簡単に説明すると、ダンジョン内は迷宮であるらしい。 しかもスタート地点は無数にある。
完全に運と感がないと駄目っぽいかも。
「あー、適当に頑張る?」
「なんで疑問系? しかも投げやりだし」
「ほら、あれだ。 難しい事があると投げ出したくなるタイプ」
「嘘でしょ」
「もちろん嘘だ」
適当な事を言い合いながら、少し真面目に頑張るとしますか。
レアアイテムも欲しいし。
で、参加してみた所――
■□■□■
「よくやるよ、本当に」
「わっ!」
「ちょっと!!」
現在、俺達パーティーは必死に逃げてます。 えっ? 何からって? そりゃもちろん迷宮で逃げなくっちゃいけない要因を持ってるものといえば、ただ一つだ。
大玉もとい、でっかい岩だ!
そう、ゴロゴロと転がって襲い掛かってくるし。
「物凄く古典的なトラップですね!」
「ねー」
「ねー、じゃない!」
ティーファの声に反応した俺のボケにイルファの奴が律儀に突っ込んでくれるし。 はふぅ。
「そこ右!」
「はい!」
「了解!」
咄嗟に右の道に入り込む。 すると基本的に真っ直ぐにしか進めない大岩はこれで回避――
「――」
「――」
「――」
「「「まがったー!?」」」
何ィーー!? 岩が曲がった!?
曲がってこっちに向かってきてますよ! 奥さん!! って奥さんって誰よ!?
「えぇー! 最近の岩って曲がるんですか!?」
「そんな訳ないティーファ!」
「それより追尾ミサイルならぬ、ホーミング岩か」
なんとも、とんでもないトラップだ。 これじゃあ、その辺に設置されてある宝箱を取ってる暇すらない。
「呪紋で壊せないのか!?」
「唱えてる暇がありません!!」
そりゃそうだ。 そんな暇が出来る程度の速度だったら、とっくに俺達はあの岩を撒けてる筈だ。
ん、あれは……!
「他の参加者だな」
「なんか慌ててますよ」
「そりゃあ、こんな岩が来たらなぁ……」
俺達の前方の部屋に居たパーティーが岩の進路上から退避していく。
まぁ、真っ当な判断だ。 くそぉ、俺達まだ一個も宝箱を取ってないんだぞ。
とりあえず俺達は逃げる為に走り続ける、と……
「「「あっ」」」
「「「ぎゃーー!」」」
ホーミング岩がなんと狙いを俺達から別パーティーに変更してくれたらしい。
先程、退避していたパーティーのほうに、無情にもゴロゴロと転がり始めた。
「「「…………」」」
見なかった事に先に進もうか。
頑張れ俺達。
■□■□■
「むっ!」
「お前は!」
あれから、なんとかのらりくらりとトラップを回避し続けた結果、なんとか最下層までやってこれました。 凄いぜ俺達!
すると、俺達と同じように最下層にやってきたプレイヤーが居ました。
ってこいつは……!
「【蒼天のバルムンク】……!」
今はまだそう呼ばれてはいないが、いつか呼ばれる事になる【フィアナの末裔】の一人だ。
まさか、こんな所で出会うとはな!
まぁ、ありえない話ではない。 このフラグメントのテストプレイヤーの一人にバルムンクがいるのだから。
「なるほど、辿り着いたプレイヤーが俺以外にいるとはな」
「残念だったか?」
「まさか」
不敵に笑うバルムンク。 俺も負けじと睨み返す。
「どうだ、勝負しないか?」
「?」
「ここが最後の階層。 どうやら最後は一直線らしい。 どちらが先に宝箱まで到達するかだ」
「なるほどな」
剣士と重剣士は意外にも移動速度はほぼ同じ。 決め手はプレイヤーの操作の腕だろう。
「ティーファ、イルファ」
「はい、お任せします」
「勝てよ、サイリス」
俺は後ろにいる二人に問いかけると、すぐにOKの言葉をもらった。
どちらにせよ、呪紋使いのティーファではどうにもならないし。 イルファは静観するようだ。
ならば、問答無用だ。
「いいぜ!」
「ならば……!」
「いざ!」
「尋常に……!」
「「勝負!!」」
その言葉を言った瞬間、俺とバルムンクは突撃を開始した!
負けてたまるか!!
■□■□■
「……」
「……」
「同時か……」
「ああ、そうみたいだな」
俺とバルムンクの全力疾走の勝負の結果、なんと同着。 トラップだってあったからお互いすげぇな。 自分の事だけど。
さて、同着だった場合はどうすればいいのだろうか? もしかして写真判定とかあるのか? 黄昏の腕輪伝説の七夕にはあったけど。
「……ふむ。 なら今回は俺が譲ろう」
「ん、いいのか?」
「ああ、久しぶりにいい勝負をさせてもらった」
それだけ言うと、バルムンクはダンジョンから脱出してしまった。
っていうか、勝者はバルムンクだよな。 あいつソロでここまでやってきたようだし。 さすがだな。
「おーい、サイリス」
「サイリスさーん!」
イルファとティーファが通路からやってきた。 どうやら俺が最下層の宝箱を手に入れた事が知れ渡ったらしい。
「ん、宝箱は手に入れたぞ」
勝った、とは言わなかった。 お情けで手に入れたようなもんだしな。
今日の俺は勝者を名乗る資格はないだろう。 バルムンクから譲ってもらっただけだし。
「じゃあ、開けてみましょうよ」
「そうね」
「ああ」
アイテム神像の前に置かれた宝箱。 俺はそれを開ける。
中身は……大剣だ!
「かなりレベルの高い大剣じゃないです!!」
「【大剣・スパークブレイド】! 凄い!」
なんと俺もびっくり。 ここでこの剣が手に入るとは思わなかった。
確かにレアアイテムだな、これ。
「俺が貰っていいのか?」
「はい!」
「サイリスが手に入れたのだからな」
ティーファとイルファから許可を貰うと、俺は早速装備する事にした。
うむ。 今日は中々、有意義だな。 レアな大剣が手に入ったし、バルムンクとも出会えたし。
でも、後一ヶ月でこのフラグメントは終わる。
そうなると、次は【ザ・ワールド】だ。 そこで物語が始まる。 少女アウラを中心にした物語が。
俺は、そこにどう関わるべきなのだろうか?
何も関わらない、という手もある。 だけど……それで本当にいいのか?
関わって後悔するかもしれない。 関わらないで後悔するかもしれな。 だから俺にはわからない。
続・あとがきっぽいもの
バルムンクとの遭遇で、フラグメント編は終了。 オリキャラばっかでダラダラやるのもなんだし。
次回から、原作キャラが出てきます。 多分、二人ぐらい。
最近、思った事
どうも私がレス返しをすると、感想の数が減る事に気がつく。
あれですか、私のレス返しがいけないんですか? ならレス返ししないから感想プリーズと真剣に考える、今日この頃。
レス返しだと思う
・盗猫さん
一番乗り、おめでとうございます。
多分、オリキャラはサイリスを含めて、この3人だけの予定です。
あんまりオリキャラばっか出したくはないけど、フラグメントじゃねぇ……。
白夜が知らない事をアピールしたのは、異世界召喚物だとアピールしたかっただけ。
原作キャラ達とは絡ませたいけど、AIバスターとかSIGNは色々厳しいかも。 特にAIバスター。
まぁ、本編はゲーム編なので、AI、SIGN、ZEROは序奏みたいな形でさらっと流すかも。
・神速の皇帝グラムさん
パーティバランスはどっちかと言うと、全員が一撃必殺タイプな気がします。
多分、本編キャラに深く絡むのはサイリスだけ、ティーファとイルファは○○○○に出会って、○○○○○○○される予定ですから(バレバレ)。
次回も頑張りたいと思います。