士郎は目が点になっていた。それは当然の反応だろう、何せ空から人が降ってきたのだ。普段ならありえない状況だし、しかも降ってきた人物は頭を地面に突き刺し埋まっている。それだけならまだいい、まだそれで生きていると言う事に困惑しているのだ。
「……何で空から人が?」
その人物が落ちてきたであろう場所を見上げ視線を戻す。
「……て、ボーッとしてる場合じゃない!!生きてるなら助けないと!!」
硬直していた体を奮い立たせ、すぐに駆け寄る。
「おいっ!大丈夫か!!」
引っ込抜こうとピクピクと震えている足を掴もうとしたとき……
ズボッ
「あー死ぬかと思った」
「よかった無事なんだな!!どこか怪我はないか!?」
普通の人ならつっこまずにはいられない状況にも関わらず、そんなことは地平線の彼方に投げ捨てたとでも言わんばかりに、落ちてきた人物―――横島の身を心配している。
このような態度を取れる奴がこの世界、いや宇宙と言えども一体何人いるだろうか?
「ん?あ、ああ大丈夫だ(な、なにぃ〜!?あ、あ、あの状況の俺につっこまないだと!?なにもんだコイツ!?)」
横島は非常に困惑していた。自分が今まで生きてきた環境で自分のしてきた行動に人だけでなく、神族や魔族にでさえつっこまれたのだ。なのに目の前の少年はつっこまずに自分の心配をしてきたのだから、困惑せずにはいられない。
「そっか……よかった……ってあの高さから落ちて怪我してないのか!?」
「今更つっこむな!!」
自分のアイデンティティが崩壊するような反応に逆につっこんでしまう。
「ところで何で空から落ちてきたんだ?木登りしてたわけじゃあるまいし」
「へ?あ、ああ、実は俺はGS、つまりゴーストスイーパーをしててな、除霊作業中の事故だ」
「ごーすとすいーぱーってなんだ?聞いたこともないんだけど?」
初めて聞く単語に首を傾げる。
「は?世界的に有名なんだぞ!?ゴーストスイーパーってのは!!」
さすがの横島も目が点になる。このGSの仕事に関わる前から、自分でも知っていたことだし、さらには、数ヵ月前に起きた魔神大戦―――世間一般には核ジャック事件―――もあり、注目度は増加し横島の親友である銀一が主演のドラマ、踊るゴーストスイーパーが映画化しさらに関心が高まったのだ。知らない奴はいないと断言できる。
にも関わらず、この少年は知らない、聞いたことないという。一体自分に何があったのか、そのことを考えるために頭をフルに回転させた。
「(俺ってこんなキャラじゃないんだけどなー)あっ美神さんに電話を掛ければいいんだ」
自分のポケットに入れている携帯を取出す。そこにはもはや原型を留めていない携帯電話だったものがあった。
「あちゃあ。美神さんに何て言おう?」
「どうしたんだ?」
「いや知り合いに連絡しようと思ったんだけど」
「……なるほど」
横島が手に持ってる物を見ただけで理解する。
「弱ったなあ……あ、お前えーっと……」
「士郎、衛宮士郎だ。アンタは?」
「俺は横島、横島忠夫だ。ところで衛宮、この辺りに電話……って金持ってねえんだった……」
自分の現状を改めて理解しつつ、どうするかを考える。
「なんだ、金もってないのか?だったら俺が貸そうか?」
「いやさすがにわりいよ」
「気にするなって、困ってる人はほっとけないからな」
そう言って財布から10円を四枚取出し渡す。
「悪い、ちゃんと返しに行くから住所教えてもらっていいか?」
「ああ」
士郎は自宅の住所を教え、横島に一番近い公衆電話の場所まで案内した。
「ママ、分かる?」
「ええ、ものすごい残留霊力ね」
美神達は横島がいた場所に来ていた。携帯からの発信も途絶え何があったかを検証するためだ。美知恵達にも協力を要請し現場を見る。
「先生の匂いも途切れているでござる!!」
「本当だわ!一体何があったのかしら!?」
「横島さん……」
シロとタマモは匂いで探ろうとしたが失敗し、そんな能力を持たないおキヌは無事を祈ることしかできなかった。
「あかん…やっぱり通じらん」
「どうしたんだ?」
「いや、電話が通じなくてな……」
何回掛けても『お掛けになった番号は現在使われておりません』となる。無論、ICPOや唐巣神父の教会、番号を覚えていた人に掛けても同じだった。全員が一斉に番号を変えたとは思えない。ならどうしてなのか?
「ならどうするんだ!?」
「うーん……住む所も金もないし、野宿だな」
横島が辿り着いた答えは、運が良ければ美神さんが見つけだしてくれるかもしれない。なら自分はへたに動かずに迎えを待つというのがいい、と考えた。
「野宿って……!!今冬なんだぞ!?風引くどころか下手すりゃ凍死するぞ!!」
士郎にしてみればこういう所は見逃せないらしく、激昂して考え直すように言う。
「でもなあ、他にどうしようもないだろう」
本音を言えば野宿なんてしたくないのだがどうしようもない事ばかり起き他に方法がない。
「なら、家に泊まればいいだろう!?」
「は!?」
「幸い、家は無駄に広いからな。住んでるのも俺だけだから問題ない」
「いや、問題ありまくりだろ!?今日会ったばかりの奴に、いくらなんでも信用しすぎだろ!!」
「困ってる奴はほっとけない」
士郎が思い出すのはあの地獄のような風景。大きな火事が起き家々が燃え、たくさんの人が助けを求めていた。だが自分が生きるために誰一人助ける事無く歩き一人だけ生き残った。自分の両親も、友達も、近所の人達も死に自分だけ助かった。
助けてくれた人が居たから今の自分がここに居る。なら今度は誰一人見捨てる事無く救う。それが士郎に決定された生き方―――正義の味方―――なのだから。
「……はあ。衛宮、お前って本当にお人好しだな」
人のことあんま言えないけど、と言いつつも横島は笑っていた。
「む、なにがおかしいんだよ」
「別になんでもねーよ。でも本当にいいのか?」
「ああ、好きなだけ泊まってってくれ」
「じゃあ、お世話になります」
横島は頭を下げた。妙神山に行った際に小竜姫に礼儀・作法を徹底的に叩き込まれたが、ナンパ癖や小竜姫達に飛び掛かる癖は直らなかった。
「頭を上げてくれ。こっちが半ば無理矢理泊まれって行ったようなものだし、当然のことだからな」
「そうか?じゃあよろしくな衛宮――いや士郎」
「こっちこそよろしくな忠夫」
そう言って二人は握手をした。
士郎に案内され衛宮邸に着き、部屋の中を案内してもらい、寝泊りをするのに離れを使わせてもらうことにした。
士郎は母屋でも良いと言ってくれたが、横島が遠慮したのもあるが、最大の理由に霊能の修業を行うためだ。文珠などの作成や霊波刀など知らない人から見れば異常極まりないのだから仕方がない。
時間帯も夕食時になり横島は居間に食器を並べ、士郎は台所で料理をしていた。
「しっかし、士郎は料理うまいなー」
見た目からわかるそのおいしそうな料理に思わず涎を垂らしてしまう。
「ありがとよ。オフクロは居ないし親父は家事なんか一切できなかったからな。自分でしてたらこうなったんだ」
「あ、わりぃな……」
母親が居ないと聞きまずいことを聞いたと謝る。
「別にいいよ。俺は養子だったからな」
「そうだったのか……。と、ところで士郎、お前一人暮らしだったよな?準備する枚数多くないか?」
その話はここまでにしようと話題を変えた。
「いや、当ってるよ。朝と夜の飯時は俺の姉貴分と妹分がくるからな」
「なにぃ!?おい士郎!!お前の姉ちゃんは美人か!?」
当然その部分に食い付いた横島。煩悩魔神の名は伊達じゃない。
あまりの剣幕に冷や汗を流し、後退する。
「さ、さあな……そんな目で見たことないからな……虎だし」
「虎?……なら妹は!?可愛いか!?美人か!?」
目が血走り正気でいるのが不思議でたまらない。
「か、可愛いと思うぞ」
「よっしゃああああ!!」
絶叫しながらガッツポーズをとる。すると玄関でインターホンが鳴る。
「あ、来たみたいだな」
士郎は玄関に向かった。その後に妙に気合いの入った横島がいるがご愛敬としておいてほしい。
ガララッ
「先輩、こんばんわ」
「やっほー、士郎〜ご飯できてる〜?」
「あ、ああご飯な「こんばんわ!!僕、横島!!」っていつのまに!!」
玄関から飛びだし、髪が長いほうの少女の手を取っている。
「えっ!えっ!?」
「コラーーー!!桜ちゃんの手を離しなさーい!!この痴漢!!」
虎柄の服を着た女性が吠えるや否や、どこから取り出したのかは分からないが虎のストラップが付いた竹刀で横島に殴りかかる。
「うわちっ!!」
なんとか紙一重に避け、いつのまにか士郎背後にいる。
「士郎!!どきなさい!!この私がとっちめてやるんだから!!」
背後に虎が見えるのは気のせいではないだろう。
「落ち着け、藤ねえ!!ちゃんと説明するから、その虎竹刀をしまってくれ!!」
なんとかその場を収めることに成功した士郎は居間へと移動した。
「あ、あの先輩。こちらの方は……」
「こいつは横島忠夫。親父の知り合いで親父を訊ねてきたんだ」
「さっきはすんませーん。かなり可愛かったもんでつい……」
「切嗣さんの知り合い!?本当に〜?」
「本当だって」
疑いの眼差しで二人を見る。まるで獲物をどうしようかとする虎のようだ。
「虎って言うなー!!」
がおん!がおっ!がおおおん!!
「ふ、藤ねえ?」
「ふ、藤村先生?」
突然吠えた虎にびびりながらも聞く。
「なーんか虎って言われた気がしたのよねー」
「ま、まあとにかくだ。そう言う訳でしばらく家に下宿することになったからな」
大河の話を聞き流し、強引に話をまとめる。
「うーん……ま、別にいいわよ!」
「本当か!!藤ねえ!?」
「まあ確かに、桜ちゃんにしたことは許せないけど、切嗣さんの知り合いらしいしね」
お姉ちゃんは寛大だろう?、と踏ん反り返って見下ろしている
「ありがとう藤ねえ!!」
「さあ、話はこれくらいで……しろー!!ごはーん!!」
大河は飢えた虎と化し、吠える。
「分かったよ。でもその前に自己紹介済ませろよ」
「あ、そうね。私は藤村大河。この子達の先生兼お姉ちゃん」
「私は間桐桜と言います。衛宮先輩の後輩です」
「どうも。改めて横島忠夫と言います。よろしく、桜ちゃん、大河さん」
この時一つ横島は間違いを犯した。言ってはならない禁句を言ってしまったからだ。
「名前で呼ぶなー!!」
虎は再び吠えた。
「ど、どうしたんだ?」
「藤村先生に虎やタイガーと言うのは禁句なんですよ」
冷や汗を流しながら見ている横島は二度と言うまいと深く心に刻んだ。
「落ち着いてください、藤村さん」
とさん付けで呼ぶことになった。
運命に導かれ人が集まるがまだ全員ではない。まだまだ人は集まるだろう。Fate(運命)に導かれ……
あとがき
どうも、さくらです。返信が結構来てたので正直びっくりしました。
確かに知識は乏しいですが徐々に増やしてはいますので長い目で見てください。更新速度はこれでいいですよね?
それではレス返しを
>ジャバハ様
はい、おっしゃるとおりだと思います。一応ノリで書いたわけじゃないので、これからは勉強していきます。
>遼雅様
ありがとうございます。つっこまれないよう頑張ります。
>帝様
確かにアニメ知識ですがアニメのような流れにはならないです。致命的なミスをしないよう頑張ります!!
>鈴木様
えーっと舞台はFateです。横島が転移してるので……
>翔様
そう言って頂けると助かります。新鮮さを出しながら頑張ります。
>T城様
助言ありがとうございます。完結できるよう頑張ります。
>あいちょ様
不快な気持ちにならないよう努力します。原作はやってみたいですね。
>ZEROS様
ただ今知識を貯めております。誤りがないよう頑張ります。