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▽レス始

「ジャンクライフ−第二部−幕間−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2007-01-12 12:05)
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兎は笑っていた。おかしそうに、目の前で繰り広げられる喜劇を眺め、笑っていた。
その喜劇において兎の立場は、観客であり、役者でもある。いや、一番相応しいのは監督であろうか。
面白いからこそ、全てに価値はあり、つまらないものには、意味などない。
それで言えば、今回兎が舞台に上げた役者にはそれなりの期待が出来た。
舞台において一番つまらないのは、途中で終わる事でも、間違えることでもない、止まる事だ。
早く続きをしてくれ、という感情も時がたてば風化し、つまらないものへと変わる。
いわば、今が、いやそれ以前からずっとそういう状態であった。

「どういうことだい?」

兎に話しかける人物がいた。金色の髪と、怠惰な光の中に狂った何かを浮かべた瞳で、兎を睨みつける。
その人物が怒っている事を兎は理解していた。そして、なぜ怒っているのかも。

「全ては流転。動かぬ舞台に、観客は欠伸を一つ。それでは、つまらない」
「だから、彼女を目覚めさせ、契約させたというのか」
「目覚めさせたのではありませんよ・目覚めたのです。全てのはじまりが望むように」

その言葉に、金髪の人物は拳を握り締めた。敗北感、劣等感がその身の内で狂おしいほどに渦巻く。
吐き捨てるように、焦がれるように、憎むように、愛すように、告げる。

「ローゼン」


ジャンクライフ−ローゼンメイデン−


薔薇水晶は怯えていた。元々、薔薇水晶はnのフィールド内部から、樫崎、桜田両家を監視するのをマスターに言いつけられていた。
いや、一体で両家を監視し続けるのは不可能であるから、普段は好戦的なマスターである樫崎家の方を監視していた。
だが、その日は、運良く、そして悪く、桜田家を監視していた。
監視する、その行為は退屈なものではなかった。何も知らない、何も教えられていない彼女にとって、全ては新鮮だったのだ。
その新鮮さが、恐怖に変わった。なぜならばそこには、本物がいたからだ。白い、どこまでも白い、本物がそこには、漂っていた。
告白すれば、薔薇水晶はそれの劣化コピーである。いや、薔薇水晶は自分自身をそう判断している。
他のドールとは在り方が違うそれを確認できたのは、薔薇水晶がコピーであったおかげとも言えた。
怖かった。偽者だとばれるのが、偽者だと断ぜられるのが。

『いいんですか?』
『はい。お母様がそういう存在だとは知っていますし、それを教えられたときに言われましたから』
『えっ?』
『過去は過去に過ぎず、それに囚われるのは愚かな事だと。だからきっと、私が会いに行っても、困るだけでしょう』

会話が続けられている。だが、それにの内容は薔薇水晶の脳内には入ってこなかった。
見られている。ばれている。本物が、自分を見ている。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。自分は本物になるのだ。お父様が望んでくれた本物に、薔薇水晶という本物に。
誰のコピーでもない自分に!
薔薇水晶は逃げるようにマスターの元へと急いだ。これを教えなくてはならない。
きっと、いや絶対に、お父様ならどうにかしてくれると薔薇水晶は盲目的に信じていた。
いや、最初から薔薇水晶にはそれしかなかったのだ。


草笛みつは、愛すべきローゼンメイデンである金糸雀の待つ自宅へと帰ってきた。
仕事疲れも、あの愛らしい金糸雀をみるだけで癒される。
仕事の後のビール、それと同等、いやそれ以上とも言ってよかった。
だから、我が家の惨劇を見た時、一瞬それがなにか理解できなかった。
ボロボロに破壊されたドール。紫色の水晶に串刺しにされたそれは、愛らしく微笑んでいてくれなければならないものだった。
微笑が凍る。手にしていた鞄が、地面に落ちたことにも気づかない。
無残。一言で言うのならば、それだけですむ。
アリスゲームのことは、みつも聞いていた。だが、重要には考えていなかった。
遊びだと、ゲームというのだから、ただの遊びだとそう思っていた。
金糸雀が怯えるのも、それを隠すために虚勢を張るのも、その遊びが下手だからだと、そう楽観視していた。

「金、糸雀?」

震える声。いつものように明るく答えてくれる声はそこにはなくて、信じたくないと思いながらも、壊れたドールに近づいた。
そっと、薔薇色の水晶に触れる。するとそれは、それが合図だったように壊れて消えた。
後に残るのは、傷つき、胸を穿たれた哀れなドールが一体。
その顔は、その凍りついた顔は、最近毎日のように見ていたもの。

「え、あれ? 嘘でしょ。嘘よね」

ボロボロと涙が零れる。
横たわるそれを抱き上げる。
とても、軽い。

「そんな、そんな……」

草笛みつは、突然の出来事に、呆然とするしかなかった。


ホテルの一室。必要最低限の物だけ置かれたその一室で、オディールは笑顔を浮かべながら、母の写真を眺めていた。
ベッドの上で、椅子に座って、歩き回って、落ち着き無くオディールは写真に写る母の姿を眺め続けていた。

「オディール」
「キラ」

雪華綺晶。他のドールとは違い、実体を持たないが故に、nのフィールドから出る事が出来ないオディールの人形。
薔薇水晶と似た容姿を持ち、見分けるとすれば色と眼帯、厳密に言えば眼球の変わりに備え付けられた右目の薔薇によって判断できる。
その雪華綺晶は、ニコニコと君が悪いほどに笑顔を浮かべているオディールに対して簡潔に言葉を投げかける。

「壊してきたわオディール。貴方の望みどおり、望む形で」

言葉だけ聞けば、従順そのものなのだが、雪華綺晶の表情が見事にそれを裏切っていた。
不本意そうに、いや下らなそうに告げられた言葉に、オディールはますます笑顔を深くした。

「ふ、ふふふ」

隠し切れない笑いが、オディールの口から漏れる。
そして、細められた瞳の奥ではどす黒い何かがうごめいていた。
雪華綺晶は、その瞳を正面から捉えながら、心の中では気色悪いと、侮蔑を述べていた。

「お母様。褒めてください。お母様。これでお母様は、動きやすいでしょう。愛するものに縛られて、愛するものを護るために。可哀想なお母様。お母様は動いてこそ輝くのに。動いてこそ、お母様なのに。人形がお母様を理解しないから。でも、でも大丈夫だから。お母様。お母様のことは私が一番知っている。だから、だから私が願いをかなえるわ。だから、だから……」

吐き出す言葉は呪詛のようで、雪華綺晶はうんざりとした風に、表情には出さなかったが、心のうちで嘲笑した。
だが、もし仮に雪華綺晶があからさまにそのような態度を取ったところでオディールは気づかないだろう。
それほどまでにオディールは陶酔していた。

「そんなガラクタどもから離れて」

笑顔のまま、世界を呪うようにオディールはその言葉を解き放った。
心臓に欠陥を持つ人間の少女、体の一部が無いガラクタ、己という確固たる心を持たぬガラクタ。
命を、体を、心を、失っているガラクタ達。
どうして、あんなガラクタ達がお母様のそばにいるのだろうと、オディールは憎憎しげに思う。
私だったら、命に限りがあるというのなら、精一杯お母様のために生きるのに。
私だったら、体の一部が無くとも、恥ずかしがることなく、お母様のために動くのに。
私だったら、根本的な部分で他人に己の心を任せずに、最初から最後まで私の意志で、お母様の傍にいる事を選ぶのに。
それはもはや依存というレベルではなく、寄生といったほうが正しいのかもしれない。
オディールの母は、世間一般に二重人格と呼ばれる精神病を持った女性だった。
母も、母の両親も、そして父も、その人格が存在する事を知っており、不安と心配と安堵を感じていた。
母の中のそれは、オディールにとってのお母様は、ほとんど外に出てくる事は無かった。
不干渉。時折気まぐれに、主人格である母を押しのけて出てくる事はあっても、存在している時間は殆ど無かったといっていい。
ごく稀に、それが長時間外にいるとしても、それはオディールの母のみに危険が迫ったときなどに限定される。
言わば、使い勝手のいい存在であった。
それと、オディールが始めて対面したのはオディールが友人に虐められて、泣きながら帰って来たときの事だった。
オディールの母は温厚な性格であり、泣きじゃくる娘をおろおろと慰める事しか思いつかなかった。
父は、相手の親に文句を言おうと憤り、そして、それは

『下らない』

と、その一言のみで全てを切り捨て、全てを決定した。
幼いオディールにとって、優しさの具現が母と父ならば、厳しさの具現はそれだった。
それが選択したのは、ひどく単純なもの。
虐められるのが嫌ならば、虐められない存在になればいい。
自分が相手より弱いと嘆くのなら、相手より強くなればいい。

『弱さに泣くのならば、強くなれ。想像するでなく、願うでなく、動け。強さを求め、動き続けろ。覚えておけオディール。弱いのは罪ではない。弱いままでいるのが罪なのだ』

当然の事を、当然のように言ったまでだという風に、不敵に笑う母であり、母ではないなにかを見つめ、オディールの心は震えた。
魅入られた。
思えばあれが、はじまりだったのだ。

「私は、お母様に育てられた。お母様に強くしてもらった。だから、離れないでお母様。お母様がいないと、不安で眠れないの」

その声は絡みつく茨のように、ゆっくりと、だが確実に、大好きで大切な母を捕らえようととぐろいでいた。
その狂気にも似た思いを前にして、雪華綺晶は、自分の心を鏡越しに見ているような気分になっていた。
気色悪い。
同族嫌悪だという事を知っているからこそ、よりその気色悪さが際立つ。
他とは違うという特別意識、目的のものに一番近いという自負、そして毒々しいまでの独占欲。
それら全てが、オディールと雪華綺晶とでは一致する。
ドールは似た主に呼び出される。
例えば、桜田 ジュンと真紅。この二人は、弱さに立ち向かう姿勢こそが共通している。
例えば、樫崎 優と水銀燈。この二人は、どうしようもないことに抗い、打ち勝とうとする意思が似ている。
だが、上記の二名は、両者共に良い主従関係を築いている。
それから見れば、ここまで互いに無関心に、そして嫌いあっている主従も珍しいだろうと雪華綺晶は思う。
だからといって、他の二組が羨ましいとは思わない。
寂しいなどという感情は、凍てついた心には存在していなかった。


あとがき
今回は幕間という感じですかね。
ども、あけましておめでとうございます。スキルです。
最近リアルが、とてつもなく忙しく、初期の頃のような更新速度は、よくて二月下旬くらいになるまで無理そうです。
今回の話も、コツコツコツコツ書き溜めて、やっとひねり出したものです。
というわけで、今回も感想のレス返しは無しという事でお願いします。
あ、大砲とか持ち出すのやめ(ry
それはそうと、ローゼンの特別アニメがありましたね。銀様大活躍という事で。
皆さんは見ましたか?
俺は見てません。良かった、という評判を凄く聞くのですが、見てる時間がありません。
オラに時間を分けてくれ、と天に手を突き出しても、どうにもなりませんでした。
次回からは、第二部終了に向けて、走り出しますので
どうか気長にお待ちください。

Ps ツンデレが好きです。クースナが好きです。
  でも、最近ヤンデレがとても気になるのです。
  そして生まれたヤンデレオディール。

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