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▽レス始

「ジャンクライフ−第二部−8−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-11-15 18:48)
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事は単純である。失っていた記憶を取り戻した彼女にとって、彼の存在は余りにも愛しすぎたのである。
愛す、という感情よりも根深い依存という感情が彼女の心の中には確かに存在していた。
一方、そんな彼女が記憶を失っている間に彼と思いを通じさせたもう一人の彼女もまた、彼に依存していた。
元来、戦いを好まないはずの彼女をして、彼が持つ狂気はそれを狂わせてしまった。
互いに彼に依存し、互いに彼の一番でいたい。
両者の意見は同じであり、同じであるからこそ真っ向から対立した。


ジャンクライフ−ローゼンメイデン−


樫崎 香織は無意識のうちに世間的には兄である樫崎 優の服の裾を無意識のうちに握り締めていた。
彼女の目の前では、帰り道でであった水銀燈と、優と共に家に帰ってきた蒼星石がお互いに無言で座っている。
笑顔でもなく、戸惑いでもなく、二人は互いに何も言わず、相手の目を見つめている。
しばらくその状態が続くのかと思われたが、最初に口を開いたのは、やはりというべきか、水銀燈であった。

「久しぶり、と言った方がいいのかしらねぇ? 蒼星石」
「どうだろう。取り戻す前の君とは会っていたし、けど、今の君と、という意味なら、久しぶりになると思うよ」
「ふんっ。相変わらずみたいねぇ貴方はぁ」
「なにか、言いたいみたいだね」
「ふふっ。安心したってことよぉ。そんな可愛げのない喋り方をする貴方なら、安心だわぁ」

何に安心したのかは言わない。
水銀燈は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、蒼星石は冷ややかな目で正面からソレを見つめる。
だが、香織には分かった。怒っている。あの、冷静沈着で穏やかな蒼星石ちゃんが、怒っている。
そんなことを考えていると、蒼星石と視線があった。
背筋が凍る。香織は兄の背に隠れるようにして、その視線から自分を護った。

「優さん。どうしましょうか?」

それは、本当に、何気ない言葉であった。
夕食の献立を聞くように、取りとめもない事を伺うように、それは発せられた。
香織は恐る恐る兄を見上げる。言うなれば、この状況で一番悪いのは優である。
水銀燈という妻がいながら、蒼星石という別の女性に手を出したのだから。
普通の、例えるなら、ジュンであるならば、その質問に答えることが出来ずに、四苦八苦するだろう。
だが、ここにいるのは優である。良くも悪くも、人として大事な部分が欠落しているこの男は、なんでもないという風に告げた。

「ふむ。俺は、どちらも欲しい」

お兄ちゃんの馬鹿ぁ!!
香織は心の中で盛大に兄を罵倒した。それだけはやってはいけないことだろう。
だが、優は淡々と、言葉を続けていく。

「俺は、お前達二人とも好きだ。どちらも、同等であり。どちらかを切り捨てるという事は出来ん」
「優、さん?」
「優ぅ?」

場の雰囲気が凍り付いていくのを香織は感じた。
ただそこにある事実を当然のように語り終えた優は、己の愛すべき二体の人形に視線を向ける。
水銀燈と蒼星石は、その視線で、自らの愛すべき人間をもう一度理解しなおした。
独善。優の狂気を一言で言うのならば、その二文字で足りる。
つまりは、優は極端に他人の意見などを排除し、自分の意見を善しとするところがある。
優の恐ろしいところは、その己の考えに疑念を抱かないところである。

「まぁ、それでいいわぁ」

水銀燈が仕方が無いという風にそう言うであろうことを蒼星石は予測していた。
姉妹である、という以上に、己も同じ考えを抱きつつあるという事で水銀燈の真意を理解できていたからだ。
邪魔ならば、どかせばいい。障害は、己の持てる力を持ってして、排除する。
それはまぎれもなく樫崎 優の影響と言えた。

「僕も、それでいいよ」

だから、笑う。にっこりと、無垢に、純粋に、暗い物をその心の奥底にしまいこんで、二体の人形は笑う。
互いに理解し、互いに牙を研ぐ。依存は狂気へと流転する。
だが、水銀燈は元からそういう気があった。故に、狂気を理性が拒絶している蒼星石の隙を縫って、優へと近づく。
正直に言おう。
彼女は、もはや我慢の限界を迎えていたのである。

「水銀……」

煽るように、喰らうように、水銀燈は優の唇にしゃぶりついた。
解説するならば、水銀燈は彼との愛の歴史とも言える記憶のフラッシュバックを受けた後であり
それ故に高ぶっていたところに、当の本人が邪魔な者を連れて現れ、それに対する怒りさえもが、彼女をより高みへと押しやった。

「優ぅ、優ぅぅぅ」

そのキスはむちゃくちゃであった。ただひたすら、唇を押し付けるという作業。
それは単純な動作ゆえに、その行為者の思惑をはっきりと表していた。
ぴちゃり、と卑猥な水音を伴って、水銀燈の桃色の唇、その間からチロチロと見える小さな舌が、優の顔を舐め上げる。
逃げないように優の顔を、彼女は掴み、そして蕩ける様な笑顔を浮かべながら、行為を続ける。
愛しい。愛しい。愛しい。
やっと会えた。もう一度会えた。大好きな人、大切な人。ああ、本当になんて甘美で、愛しい。
もはや父という名の造物主のことなどどうでもいい。価値などない。価値などいらない。
分かる。これは好きなどというものではない。
これが、愛か。

「す、水銀っ!」
「お、おおおおおお落ち着いて水銀燈ちゃん! だ、駄目だよ。エッチなのはいけないんだよ!!」

嫉妬によって、思わず声を荒げた蒼星石の打ち消すようにあがったのは香織の声であった。
香織の顔は見るほうが気の毒なほど真っ赤に染まっていた。恥ずかしさのせいで、感情が高ぶったのか、香織の目尻には涙がたまってさえいる。
だが、水銀燈にはそんな香織の声など聞こえていなかった。
そして、そんな水銀燈を止めたのは、優であった。
引き剥がすように優は、水銀燈を己から離し、落ち着けという風にその頬を撫でる。
その上で告げる言葉はただ一言。

「お帰り。水銀燈」
「あ、」

その言葉に、水銀燈は輝くばかりの満面の笑みを浮かべる。
ここだ。ここなのだ。帰ってくる場所は。私が帰ってくる場所は、ここしかないんだ。
だから、告げる。

「ただいま。優ぅ」

そして、己を嫉妬の視線で見つめる妹に、水銀燈は微笑みかける。
優は、私のものだ、と。


オディール・フォッセー。
日本という異国の地に降り立った彼女の歩き方は、どこか自信に満ちた様子であった。
未開、それも異国ともなれば多少は周りを伺いながら、戸惑いと期待を胸に目的地へと向けて歩くものだが、
彼女の歩き方にはそれらの感情はなかった。
大人しそう、オディールを一目見て判断するならば、誰もがそう評するだろう。
いや、元来彼女はそういう人間である。
そもそも、オディールの祖母であるコリンヌも、そして母も、穏やかな性格をしている。

「お母様」

オディールは、胸元に下げているロケットを開き、そこに映る母の姿を見つめる。
それだけで、オディールの中には得体の知れない勇気がわいてくる。
根拠などない。ただ、オディールにとって、ロケットの中の女性はそういうものをいつだって纏っている存在であった。
オディールは、小さく深呼吸をして、辿り着いた目的地を見つめた。
桜田家、そう書かれた表札を見つめ、そして意を決してインターホンを押した。
心臓の鼓動が早くなる。ここにきてようやくオディールの中に、不安と期待という感情が渦巻き始めた。

『はい?』
「あの、オディール・フォッセーと申しますが、雛苺はいらっしゃるでしょうか?」
『えっ?』

相手の戸惑った声に、オディールは仕方が無いことだと、微笑を浮かべる。
ローゼンメイデン、アリスゲーム、それらは祖母から毎日のように聞かされていた。
人形が動き、喋り、意思を持つ。そんな御伽噺のような世界の話。
オディールは、自分の指に嵌められている指輪を見つめ、そして恐る恐るという風に開いたドアに顔を向けた。
困惑を隠しきれずに自分を見ているのは、自分と同年代か、もしくは少し下ぐらいの少年であった。

「はじめまして。雛苺はいらっしゃいますか?」
「え、あの、とりあえず中へ」

そう促されて、オディールは自分が急かしている事を自覚した。
駄目だな。なんて、未熟。お母様なら、こんなことはないだろう。
あの人なら、やがてくると確定した事実ならば、余裕を持って待っているはずだ。

「あ、はい。では、あの、お邪魔いたさせて頂きます」
「え、はい。どうぞ」

日本語を間違えたのだろうか。
少し目の前の少年の困惑度の具合が上昇したような気がする。
けど、まぁ、意味が通じたのなら大丈夫だろう。
大雑把に、そう思考を切り替えるとオディールは三体のローゼンメイデンが集う桜田家へと足を踏み入れた。
案内されたのはリビングであった。
優雅に紅茶を飲む人形と、その人形に隠れるようにして自分を伺うもう一体の人形。
ローゼンメイデンは七体いる。
事前にそれを知っていたオディールであったが、雛苺以外を見るのは初めてなので目を輝かせてしまう。
そして、彼女が捜し求めていた雛苺は、ソファーの陰に隠れるようにして自分を見つめていた。

――――見つけた!

迷うことなくオディールは、雛苺へと足を向けた。
そっと雛苺の前でしゃがみこむと、雛苺は怯えた様に身を竦ませた。

「う、うゆ、コリンヌ?」
「いいえ。私は、オディール・フォッセー。コリンヌは私の祖母。やっと会えたわね。雛苺」

そう言って、オディールは優しく微笑んだ。
その様子をジュン達は黙ってみていた。
いきなり受話器に出て、雛苺がいるかと聞かれたときには、驚いたが、今の言葉を聞いて少し納得した。
それは簡単な推測、いや言葉から読み取った事実だ。
ジュンは、そういう可能性もあるよな、と真紅の隣に少し安心して座り込む。
そういえば、雛苺と縁のある人間、柏葉 巴は今頃何をしているだろうか。
きっと朝から部活だろうから。今頃は、学校で練習中か。
そこまで考えていると、ガチャリと廊下とリビングをつなぐ扉が開いた。
買い物に出かけていた姉ののりと、竹刀袋を下げた柏葉 巴の姿。
視線があう。
瞬時に、ジュンはその視線を逸らす事が出来なくなった。
脳裏を過ぎるのは、あの図書館での出来事。
ジュンの視線に気がついた巴は、照れくさそうに、嬉しそうに、微笑んで見せた。

「あの、ジュン君。そちらの方は?」
「あ、すいません。私は、オディール・フォッセーといいまして、私の祖母が雛苺のマスターをしていたのでこうして会いに来させていただきました」
「あらあらまあまあ、そうですか。ヒナちゃんの」
「その、祖母が雛苺に対して許されない行いをしたので、それを謝りに」

オディールがその後に語ったのは、オディールの祖母、コリンヌが雛苺にした行為を纏めるとこうだ。
コリンヌはどうしようもない理由で、雛苺を手放す事となり、その際に、かくれんぼと評して雛苺をトランクに入らせて、そのまま放置した。
語っている間のコリンヌは、とても恥ずかしそうに、申し訳なさそうにそう説明した後、
雛苺に対して、一言謝った。

「ごめんなさい。雛苺。おばあさまのした行為は間違っていたけれど、決しておばあさまは貴方の事が嫌いだったわけじゃないわ」
「う、うゆ。ヒナも、コリンヌは嫌いじゃないの」
「そう? ありがとう」

そう言うと、オディールはやり終えたという風に、ため息をついた。
それに対して、ジュンが理由も無く慌ててしまう。

「えっと、それだけですか?」
「はい。それだけですけど」
「えっ!? これだけのために日本に」

ジュンの驚きの言葉に、オディールは何かを思い出すように目を瞑り、言い聞かせた。

「己の価値を他者に押し付けるのは馬鹿のすることだ。どれほど無駄に見えても、それを見るものにとってはそこにとても大切な価値を見出すものもいる」

それに、ジュンは違和感を感じた。
それはまるで、誰かの価値観のように、よく知る誰かの喋り方のように聞こえたからだ。

「私の、お母様の言葉です」
「お母さんの……」
「いいえ。お母さんではなく、お母様の。あ、すいません。こんな事いわれてもわかりませんよね」

そこでオディールは、罰が悪そうに頭をかいた。
ジュン達はオディールの言葉の内容が意味を理解できずに、困惑の感情を浮かべる。

「えっと、これが私のお母さんです」

オディールはそんなジュン達に慌てて首から提げたロケットを開き、中に入っている写真を見せた。
そこに写っているのは、穏やかに微笑むオディールに似た女性と、オディールの父であろう男性。

「それで、これがお母様です」

そのロケットを裏返し、穏やかな女性が写っていたほうを表とするならば、裏と呼べる場所を開く。
その瞬間、ジュンは完全に言葉を失った。いや、ジュンだけではない。真紅、翠星石も言葉を失っている。
そこにいるのは、表側に写っていたオディールの母と同じ女性であり、そして違うとしか言いようがない女性であった。
不敵な笑み、濁った瞳。
それは、ジュン達が出会ったことのある女性であった。

「これは、あいつの……」

樫崎 優の残り火。元々この世界に存在していた樫崎 優の世界でジュン達はその女性とであった。
人の肉体を借りて生きるモノ。どれほどの時を過ごしてきたのか分からない化け物。
ここまで言えばわかるだろう


写真の中に、ヤツはいた。


あとがき
と、いうわけで銀様復活第一発目のシュ・ラーバです。
修羅場って言うのはな、いつ爆発するか分からない爆弾を抱え込むことから始まるんだぜ、と語って見たり。
というか、またまた前回からとてつもない期間が開きました。どうもすいません。
ローゼンメイデン第三期の気配がうんともすんともしないので、もはや独自路線で進めたる。
と、プロットを編み編みしてました。
これからは独自路線、独自解釈のオンパレードになりそうです。タハハ。

Ps やっぱり銀様復活効果は凄い。感想28とか、かえしきれないです。
ってか、感想だけで一話書くだけの時間(二時間)消費してしまう。
うう、最近リアルが忙しいという月並み(けど本当)の言い訳をして、今回のレス返しはお休みさせてください。
また、時間があれば、28でも、38でも、レス返しさせていただきます。
本当に申し訳ありません。

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