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▽レス始

「ジャンクライフ−第二部−外伝・アリス−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2007-01-15 18:25/2007-01-16 09:33)
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自分なんて、最初から何一つ無かったのだ。
紡がれる悠久の記憶、継ぎ合わされる他人の断片、語りだされる誰かの思想。
最初から、何一つ、その手にも、その体にも、その心にも、何一つとして、自分の物と胸を張れるモノは無かった。
圧倒的なまでの劣等感。
他人が、誰もが、どれもが持ちうる、自分というモノを失っている存在。
体の一部が無い、自身としての決定力が無い、当然としてある命の永さが無い。
そんなもの、そんなものなど、ジャンクとは言わない。
気づいたときには存在する、自分ではない他人のような記憶。
動いたときに脈動する、自分ではない他人の体。
己を己足らしめる物は何一つ存在せず、根本を壊滅的なまでに失った存在。

「それなのにどうして、貴方は貴方で在り続けているの?」

夢の中。Nのフィールドの概念空間の中において、そこに無数に存在する扉からドールは他者の夢に入れる。
外から強制的に進入し、精神の根源たる木に辿り着けるのは、蒼星石と翠星石のみだが
だからといって、他のドールがそこにたどり着けないというわけではない。
ようは難易度の問題。
進入し、そして干渉できるのが庭師の特権ならば、ただ傍観するだけならば他のドールでも可能である。
契約によって繋がれた蒼星石、愛するものの内部に浸りたかった水銀燈、
彼女が開いた扉から漏れる『力』に呼び寄せられるドール達。
見るか、他者を踏みつけ、存在し続ける化け物の夢を。


ローゼンメイデン−アリス−


「俺は、なんだ?」

それが、樫崎 優に宿る精神が最初に自身を認識したときに呟いた言葉である。
膨大なる前回の記憶、極小なる今回の記憶、向けられる知っている誰かの視線、言葉、声。
優は最初、それらの声全てに怯え、恐怖し、発狂した。
その恐怖を言葉で説明するのは難しい。どんな修飾も比喩も、そこにある恐怖を彩る事は出来ない。
いや、唯一彩るとするならば、『ただ』怖かった。
一人ぼっち、残酷なほどの孤独、哀れむほどの喪失、救いを求めるほどの絶望。
全てが怖かった。ただ風に揺れる花も、ただ囀る小鳥の声も、なにもかもが恐怖の対象でしかなかった。
導いてくれる人はおらず、得体の知れない、説明できない恐怖だけが優を支配していた。
そこにあるものがどういうものであり、どう動くか、どう存在するかを知りえてなお、優はそれらに怯えた。
意思を持たぬ無機質にさえ怯えねばならぬほどの劣等感。
そこらへんに転がるガラクタさえも、優にとっては『ガラクタ』という存在を与えられた自分より価値あるものであった。
触れるだけで、価値の無い自分が食い潰されそうで、優は『他人』の体を操って、自らを全てから護るように、抱きしめた。

「怖い、怖い怖い怖い怖い」

あらゆる言語によって、優の口から、ただ恐怖を伝えるためだけの言葉がもれる。
助けてください、許してください、神様、人間様、ガラクタ様、どうか、価値の無い自分が存在する事を許してください。
誰にも責められてなどいないのに、優はただそれだけを願い続けた。
優にとって悲劇だったのは、自分の事を正しく理解できた事だろう。
自分がそういう存在だと知らなかったのならば、無知ならば、阿呆ならば、幸せに生きることができた。
だが、優はそれら全てを正しく理解した。
受け継がれた記憶によって、正しく理解させられた。
優は、誰でもない自分によって、お前には価値が無いと告げられたのだ。

「ごめ、なさい。ごめん、なさい」

その懺悔は自分が奪ってしまった他人に対して。
あらゆる負の感情が優に纏わりつき、捉え、護り、養い続けた。
だからこそ、優の中の大切な何かが砕け散るにはそう時間はかからなかった。
優は、壊れた心で、許しを願う心で、許しを求めぬ自分を造り上げた。
やせ衰えた自分の腕を見つめ、微笑む。

「俺の腕だ」

歩き方を忘れた貧弱な足を見て、微笑む。

「俺の脚だ」

這うようにして、優は近くの水溜りに近づき、そこを覗き込む。

「俺の、顔だ」

一生懸命に生き、存在している草を握り締め、青く澄み渡る空を見上げ、獣のような咆哮をあげる。

「俺の声だ」

それは正しく、誕生の瞬間といえた。
優にとって怯える対象でしかなかった世界に、色がつき、認識できるようになった。
何も無かったからこそ、造り上げられるものはある。
自分が無かったからこそ、優は己を作り続けねばならなかった。
他者ではない自分。他者になりえない自分。自分だけの、自分を。
まさしく独善。最初から最後まで、独り善がりによって構成された精神は、絶対的な己という者のみによって統制される存在となった。
そこには己の価値観しかなかった。他者の善悪すら、参考にされただけで、確固たる物とはなりえない。
生まれ出でた瞬間に破壊された心は、貪欲なまでに、高みを目指した。
誇りが生まれ、己が出来た。
壮絶なまでの、それこそ運命、ただ壊れるしかないであろう精神の、何かへの反逆。
孤高にして至高。
振り返る必要などない。後ろにあるものなど知り尽くしている。
故に、その精神は進む事しか知りはしない。


真紅は、その精神の在り方に言葉を失い、翠星石は悲しそうに瞳を伏せた。
雛苺はそれの禍々しさにおびえ、薔薇水晶はソコに己を見た。
蒼星石と水銀燈は、ただそれを誇らしげに眺めている。

「真紅、もういいですぅ。あの野郎の夢なんか見たってしょうがないですぅ」
「……いいえ。しょうがなくなんてないのだわ。やっと、わかった」

本当の意味でやっと。
なぜ、樫崎 優の精神が水銀燈のマスターとして選ばれたのか。
生まれ出でた瞬間から体の一部の欠けたジャンクであり、ローゼンメイデンですらなかった水銀燈。
存在した瞬間から、己というものが無く、全てより価値の無かった精神。
これほどまでに最高の、完璧の、ミーディアムとドールがいるか。
ジャンクという括りに囚われていた水銀燈を救うのが、樫崎 優であったのはもはや必然。
彼にしかわからず、彼にしか出来ず、彼でしか、真の意味で水銀燈のマスターにはなれない。

「人の夫の夢に入り込むなんてぇ、本当に悪趣味ねぇ真紅ぅ」
「――――水銀燈」

傍に、奇襲攻撃をしかけることなく、水銀燈は降り立った。
蒼星石の姿はない。当然だ。彼女がこの夢を見ていたとしても、それは契約により繋がれたラインから受け取っているに過ぎない。
つまり、ここに彼女が存在しないのは当たり前のこと。
そして、それは幸いの事だといえた。
彼女はまだ続いている夢の、怯え、惑い、誰かに縋りながらも、己を造り上げていく、蒼星石のマスター足りえる優の要素を垣間見ているのだから。
だが、そんなことを真紅達は知らない。

「機嫌がよさそうね。水銀燈」
「当然じゃなぁい。これほど、嬉しい事は無いわ」

本当に上機嫌なのか、水銀燈は仇敵である真紅に向けてそう言って、微笑んで見せた。
そしてその笑顔は、過去の、何も知らなかった彼女の笑顔であり、真紅は少しだけ眉をひそめた。

「ひぇぇ。おっかないですぅ。水銀燈の笑顔ほど怖いものはないですぅ」
「あぅぅ」

翠星石と雛苺が、とんでもなく失礼な言葉と態度を取っているが、それすらも水銀燈は気にしていないようだった。

「見逃してあげるから。出て行きなさい真紅。ここは、貴方がいていい場所ではないわぁ」
「そうさせてもらうわ。せっかく、機嫌がいいのだから、それを損ねようとは思わないもの」

そう言って真紅は、水銀燈に背中を向ける。
だが、我先にと夢の中から逃げ出した翠星石と雛苺とは違い、出る瞬間に、後ろを振り向いた。

「良い、マスターに巡り会えたわね水銀燈」

その賞賛の言葉に、水銀燈はきょとんとしたように真紅を見つめ、
そして大切な何かを抱きしめるようにして告げる。

「貴方の、お父様、いえローゼンから与えられたブローチを壊した事をわびるわ真紅ぅ」

それはまるで――――

「哀れんでいい。見下していい。それでも私には、誇りがある。ここに、私自身という誇りが」
「水銀燈」
「お父様に愛される事に価値を見出すなんてことは、馬鹿なこと。価値はある。無かったとしても、造る事が出来る」

羨ましいほどに――――

「最初に出会えたのが貴方でよかったのかもしれないわぁ真紅。歩き方を教えてもらえたことは、本当に嬉しかったわよ」
「貴方……」
「自分を卑下する必要はない。卑下されても、気にする必要なんてない。だって私は――――」

「優のアリスになれたんだもの」

――――完璧な乙女の笑顔だった。
真紅はその言葉に、その笑顔に、とてつもないショックを受けた。
今の言葉は、取りようによっては、アリスゲームの根幹を崩壊させかねないほどの言葉であるからだ。

「か、帰るのだわ!」

羨ましいと思ってしまった。
そんなことは絶対に思ってはいけないのに、お父様以外のアリスになるなんて、ローゼンメイデンとしてはジャンクそのものなのに。
なのに、思ってしまった。考えてしまった。一時でも、一瞬でも、羨ましいと。
逃げるようにして去る真紅の後姿を見つめ、そしてどうでもいいという風に欠伸をすると、水銀燈は扉が閉まったのを確認して
愛すべき夫の夢にまどろんだ。
優が正式のマスターだった時にもこの夢を見て、驚愕したことがある。
だがその時は、己の馬鹿なプライドが邪魔して素直に夢見る事が出来なかった。
けれど今は違う。邪魔な存在はいるが、それが気にならないほどに。
自分を理解してくれる夫の夢は、気持ちよかった。


銀様の余韻に浸りたい方は、少し間を空けて読んでください。


<シリアスを台無しにするかもしれないオマケ>

「でね、聞いてるキラ? お母様はね。甘いものが大好きなの。いっつも凛々しい笑顔を浮かべているんだけど、ケーキを食べた時だけはすっごく可愛く笑うのよ。私が、誕生日ケーキをお母さんじゃなくて、お母様の為に作ったときなんかね。とても嬉しそうに微笑んでくれたのよ」

雪華綺晶は、延々と繰り広げられる娘の母親に対する惚気話、もとい自慢話を聞かされてうんざりとしていた。
基本的にローゼンメイデンの眠りの時刻は早い。
なのに、なぜこんなにも雪華綺晶が律儀にオディールの話に付き合っているかといえば、付き合わねば暴れるからだ。
無視して己の世界に閉じこもり、眠りについてもいいのだが、それをするとあの気色悪い濁った瞳で睨まれる。
いやそれ以上に、オディールは本能で感じ取ったのか、雪華綺晶がいないのに気づくと
契約の指輪に向けて喋り続けるのだ。
契約の指輪からは雪華綺晶に向けてちゃんとしたラインが通っている。
誰だって、雑音が鳴り響く中で寝たいとは思わないだろう。
いい加減にしろ、それが器を持たぬ唯一のドールの悩みであった。


<爆発へのカウントダウン>

柏葉 巴は悩んでいた。
今よりもほんの少し幼いジュンの写真を前にして、枕を抱きしめながら呟く。

「返事、まだかなぁ」

枕に顔を埋めるようにして、巴は布団の上でころんと、横たわる。
ぶつぶつ、と最高の未来や、最悪の未来について考えながら、ころん、ころんと転がる。

「真紅ちゃんはわからないけど、翠星石ちゃんは桜田君のこと好きだよねぇ」

誰に言うまでも無く呟き、

「けど、桜田君だって、あんなちっちゃい女の子に心は……」

否定できないのが、ジュンが好きな巴としては辛いところ。

「もう、ジ、ジジジジ、ジュン君がはっきりしてくれないから」

思い切って名前を呟いてみる。
照れが後からやってきて、巴は、もうっもうっと布団の上を転げ回る。
それを厳格な父に見られたのは、巴だけの内緒であった。


あとがき
ども。二月下旬まで無理だといったのはどこのどいつだ。スキルです。
オーベルテューレ見た勢いで、プロットに無いのに、今回の話を書き上げてしまいました。
うぅ、時間の余裕が無いのに。何をやっているんだ俺は。
真紅・銀様・蒼星石という俺の好きなドール達が大活躍の良いものでありました。
ってか、銀様の笑顔可愛くね? 弱り銀様保護したくね?ね、ね、あのねのね(←作者はこの年代じゃない)
は、錯乱してしまいました。すいません。
蒼星石の帽子の使い方とかも、参考になり、戦いのバリエーションも増えました。
出来れば、鋏を前回のジャンクライフの蒼星石の用な使い方をして欲しかった。

Ps 
ほんの少し空いた時間にゲーセンに行ってufoキャッチャーをした所、水着のエヴァ娘二人が取れました。
場所を変えたところ、カードでビルダーなオペレーター二人も取れました。
いつ、銀様フィギュアが出てもいいように、腕は磨いております。
だから、お願い我が家に銀様を(切実)

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