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「.hack//Splash login_12(黄昏の腕輪伝説+.hackシリーズ)」

箱庭廻 (2007-01-03 22:43/2007-01-04 09:28)
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【Δ 清浄なる 大空の 輝き】


 ええと、なんで私がここにいるんだろう?

 目の前に見えるのは無数の人だかり、足元にあるのはステージ、横にいるのはマイクを握った呪紋使いらしい司会の人。

 えーと、一体何? 確か数秒前までミレイユたちと一緒に眺めていたはずなのに……

 どうなってるの?

「おめでとうございます!」

 なにが?

「あなたは今年の織姫役に選ばれたんですよ」

「へ?」

 織姫?

 私がくいっと首を傾げると、わぁああああああああといきなり人ごみが騒いだ。

「ひゅーひゅー、けっこう可愛いじゃん!」

「メンバーアドレス教えてよー!」

「名前はー! 名前―!」

 がやがやと声が飛んでくるのに、私がおろおろしていると、ずいっと目の前にマイクが突き出された。

「織姫さん、お名前は?」

「レ、レナです」

 反射的にそう答える。

「なるほどなるほど」

 私の言葉にうんうんと楽しそうに頷く司会者。

 そして、バッと回転するかのように私に背中を見せた。いや、振り返った。

「皆さーんお聞きになられましたか!? 今年の織姫はここにいるレナちゃんでーす!」

 わぁああああああああああああああああああ!!!

 え? E? ほえ?

 なんでそんなに盛り上げるの?!

「さあて、皆さん。大体予想が付いているでしょうが、これより【タナバタ DE タナボタ】の説明をしたいと思います!!!」

 がぁーとまるでヤケクソになっているかのように、司会者がマイクを握り締めて叫ぶ。

『ルールは簡単! 目的も簡単! 告げるのはたった一つ!』

 ダンッとまるで戦争の開始でも告げるかのように足を踏み鳴らし、金髪の司会者が叫んだ。

「お姫様が欲しかったら走れっ! 走り抜け! ここまで辿り着いた奴に織姫との“一夜のデート権”をくれてやるぅ!!!」

 え?

 へ?

「へ?」

 わぁああああああああああああああああ!!!

「これより織姫争奪バトルロイヤル! 【タナバタ DE タナボタ】を開幕する!!!」

 ぇえぇえぇええええええええええええええええええ!?!?!?!


【.hack//Splash】
   login_12 走れ 彦星共!


【Δ 清浄なる 大空の 輝き】


 ステージ上にレナが出現してから数分後、ボクたちはミレイユたちと合流した。

 そして、困っていた。

「いやー、困ったことになったね」

「うむ。困ったことになったな」

 ミレイユの言葉に、凰花が頷く。

「……確かに困ったことになったね。まさか、レナちゃんがイベントに選ばれるなんて予想してなかったよ」

 ボクは肩を竦めて、おろおろとステージの上でうろたえているレナに目を向けた。

 つい先ほどまでミレイユたちが共に行動していたレナがいきなりステージ上に出現したことと先ほどの説明を聞く限り、どうやら今宵の【織姫】は本当にレナに決まったようだ。

 PC参加型イベントが偶にあるとは聞いていたけれど……まさか知り合いが選ばれるなんて思ってもみなかった。

 困ったなぁ。

「さて、どうしょうか?」

「うーん、もう少し様子を見たいけど……その前にシューゴ放置しておいていいの?」

 うん?

 そういわれて、ボクはようやくシューゴ君のことを思い出した。正確には視界の端っこでむがーと暴れている彼から目を逸らしていただけど。

「離せー! 離すんだー! 俺は、レナを助けにいくんだー!!」

「落ち着け、シューゴ。暴れるな」

 じたばたと三十郎さんに羽交い絞めにされたまま、暴れるシューゴ君。

 ステージ上にレナちゃんを見つけた途端走り出そうとしたものだから、慌てて取り押さえたんだけど正解だったみたいだ。

 多分離すと、そのままステージに乱入しかねないし。

「落ち着きなよ、シューゴ君」

「落ち着いてられるかーっ!! 妹が! 勝手に! 景品に! されてるんだぞ!? 断固阻止だ阻止!!」

 説得を試みるが、シューゴ君はジタバタジタバタと暴れるだけで話が通じそうにない。

 困ったなー。

「あっ、何かルール説明が始まったみたいだよ?」

 ミレイユの言葉に、改めてステージ上の司会役の呪紋使いに目を向けなおした。

 彼はマイクを握り締め、晴れやかな笑みで口を開く。

『これから【タナバタ DE タナボタ】のルール説明を改めてしたいと思います。とはいっても、ルールは至ってシンプル! これより五分後のスタートから、織姫の待つこのステージに辿り着けば勝者です!』

 辿り着く?

 ボクたちの要る場所からステージまでは精々数十メートル程度。双剣士なら数秒で辿り着ける距離だ。

 というか、一体どこからスタートすればいいのかな?

 司会の説明に理解が出来ずに、ざわざわと他のPCたちも騒ぎ出す。

『それでは』

 まるでそれを見計らったように、金髪の呪紋使いはマイクを握る手とは逆の手を。

『いざ特設エリアへ』

 ――振り下ろした。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


「え?」

 降ろしたと思った次の瞬間、目の前に川があった。

 巨大で、幅広く、海と思わんばかりの川が目の前に広がっている。

「な、なんだこりゃ? デカッ!」

 いきなり切り替わった視界に冷静さを取り戻したのか、三十郎さんに放してもらったシューゴ君が叫んでいる。

 どうやら別のエリアに転送されたみたいだね。

『あー、テステス?』

「ん?」

 拡声されたと思しき声が聞こえた。

 その声に目線を左右に振ると、その声の発生者である金髪の呪紋使いの姿が見えた。

 一キロぐらい先で。

 ってあれ? ステージのとの距離が離れてる!?

『あー、テステス。大体の方は知っているでしょうが、今夜は七夕です』

 そうだ。今夜は七夕だ。

 目の前には巨大な川。そして、川を跨いだ先に見えるのは特設ステージとその上には司会者とレナちゃんの姿がある。

「ってあれ?」

 ……まさか。

『そう! 織姫と彦星は年に一度、七夕の夜にしか会えない運命! さあ天の川を渡って、愛しの織姫の元に駆けつけろ!』

「なんだとー!!?」

 後ろで絶叫しているシューゴの声を聞きながら、僕は肩を竦めるしかなかった。

「にゃは、なるほどそういうイベントなんだね」

「どうする? 女の私たちが出てもしょうがないし、オウルたちは出るのか?」

 凰花さんが目を向けてくるけど、ボクの答えは決まっている。

「ボクは出ないよ。三十郎さんは?」

「俺も興味は無いな」 

「ワタシも出ないデス」

 ボクが目線を向けると、二人とも首を横に振った。

「じゃあ出るのは俺だけか……」

 うう、一人で頑張るぜ〜と呟きながら、シューゴ君はとぼとぼとスタート位置まで歩いていった。

 ごめんね。でも、ボクたちがレナちゃんを勝ち取っても意味ないし。

「じゃあ、大人しくシューゴ君の応援でもしていようか……あ」

 そう言って、全体が見える位置に移動しようと思った瞬間、ボクの目はとある人物を発見した。

「どうした、オウル?」

 三十郎さんが、ボクの動きが止まったのを不審げに訊ねてきたけれど、ボクが指差した方向にいる人物に納得してくれた。

「なるほど、そういうことか」

「……ごめん、三十郎さん。この場は任してもいい?」

「了解だ」

 クルリとボクは振り返ると、背後に居たミレイユに向かって顔を向けた。

「ん? なーに?」

「ちょっと来てくれる?」

 ちょいちょいと手招きして近寄ってきたミレイユにぼそぼそと、とある頼み事を耳打ちした。

「ん〜、OK☆ それなら持ってるよ。じゃ、取ってくるから待ってて!」

 そういって、ミレイユは途端に走り出した。

 そして、ボクは再び向き直り、レースの開始を待つ。


 さて、間に合うかな?


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 絶対に勝つ!

 俺は必勝の覚悟を持って、スタート位置に立っていた。

「よし!」

 外装を作務衣から普段着に戻し、俺は前方へと目を向けた。

 見えるのはただ一つ。

 レナの待つゴール、それだけだ。

 今のところ豆粒とはいわんが、棒人間サイズにしか見えないが、俺の目と耳にはしっかりと助けを求める妹の姿がある!

「待ってろよ、レナ! お兄ちゃんが絶対に助け出してやるぜ!!」

「フフフ……そう上手くいくといいがな」

 なに!?

「誰だ、お前?」

 突如聞こえた声。その声が聞こえた方角に振り向いてみると、そこに立っているのは真っ白な鎧と羽を生やした剣士が立っていた

 しかも、むかつくことに美形。

「さてな、自己紹介する義理もないが?」

「ならなんで絡んで来るんだよ。俺に絡んでくる必要はないだろうが」

「――必要はあるさ。“腕輪を受け継いだ者だからな”」

「なに!?」

 なんで、それを!?

「私に構っている暇があるのか? 前を見ろ」

「なに?」

 美形野郎の言葉に思わず前に向き直すと、前方になにやら黄色い光の玉が点滅していた。

 そして、徐々にその光の点滅が激しくなる。

『さて、皆さん位置に付きましたか?』

 ピ。

『これより』

 ピ。

『ゲーム』

 ピッ!

『スタートです!!!』

 パーンッ!!!!

 黄色い光の玉が、紅に染まって弾ける。

 スタートだ!!

 わァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

「いくぜええええええええ!!」

 歓声に押されるように、俺は一目散に川へと向かって走り出した。

 ばしゃばしゃと俺とほぼ同時に何人もの人間が水に飛び込む。

「ちっ!? 思ったより深ぇ!」

 水に飛び込んだ途端、腰上まで川に飲み込まれた。気のせいではなく、動きも鈍くなる。

 くそっ! 動きづらい!!

「もしや、泳ぎは不得意なのかな?」

「うるせえ。これでも体育は5だ! 5段階評価でだぞ!!」

 一々茶々を入れてくる隣の剣士に反論しながら、俺は手足を動かして懸命に進んだ。

「これだとゴールまでかなりかかるぞ……って、あれ!?」

 その時、前方の先を幾人ものPCが凄まじい速度で泳いでいく様子が見えた。

 少なくとも俺たちの倍以上。

 どうなってんだ!?

「ふむ。どうやら快速のタリスマンでも使っているようだな」

「なに!?」

 剣士の言葉に、俺は背筋が凍る思いだった。

 まずいまずいまずい! 俺は快速のタリスマンを持ってきてねえぞ!?

「マズイ!」

「何をそんなに焦っている?」

「は!? この状況を見て、焦らないほうがおかしいだろうが!!」

 落ち着きはらしている剣士の態度に、俺は噛み付くように吼えた。

 その瞬間だった。

「――事を急げば、将を仕損じる。前を見ろ」

「は?」

 剣士の横顔から、再び前方に顔を向ける。

 そして、見えたのは……無人の川?

「あれ? さっきの連中はどこに行った?」

 目に見えないような遠くにまで行ったとは思えないんだが……


 BATELL MODE ON


「え?」

 戦闘開始メッセージ?

「な、なんでこんなところで……」

 ズンズン……

「へ?」

 ズンズンズンズン……

「ひぇ? 何このBGM……」

 な、なんか聞いたことがあるような……

 ズンズンズンズンズンズンズンズンズンズンズンズンズン!

「こ、これはまさか!?」

 俺が叫んだ瞬間、目の前の水面がもこりと盛り上がった。

GIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

 水面から飛び出してきたのは巨大なサメ!

 こいつはまさしくJ○ws!!

「――って言ってる場合か!!」

 叫びながら、俺は咄嗟に横へ飛んだ。

 そして、飛び掛ってきたサメは。

「へ?」

 俺の背後にいた見知らぬPCさんを。


 パックンチョ♪(あるいはゴキャリ)


 と、飲み込んでしまいましたとさ。

 ちゃんちゃん。

「というわけでごめんよ、見知らぬ人〜!!」

 ザブンと見知らぬPCさんを飲み込んだ鮫が潜ったのを確認すると同時に、俺は前方へ加速した。

 全力・離脱!

『ハハハ。そういえば連絡が遅れてしまいました〜』

 その時だった。

 どこからともなくマイクで拡声したと思しきあの司会者の声が聞こえる。

『ちょっとした妨害としてこの川にはサメを放っています♪ 迂闊に集団と離れたら、一目散に餌にされてしまうので気をつけてくださいね〜♪』

「そういうことは先に言えや、ボケェ!!!」

 ということは、前方集団はサメに喰われたのか!?

 デストロイ過ぎるだろ!? どこが七夕やねん!

『というわけで集団から付かず離れず、頑張ってライバルたちを出し抜いてくださいね〜♪』

「おおおおおおおおおおおい!!」

 それでいいのか司会者?!

 司会者として、否! 人として間違っていないか!? おーい!!

「ふむ。思ったよりもキレてるな、レキ……壊れたか」

「何か言ったか?」

「気にするな……」

 遠い目をして、なにやら変なことを口走った剣士に、俺は首を傾げた。

「まあいい。そろそろ私は先に行くぞ」

「は?」

「付いてこれるか!」

 剣士が言葉を発すると同時に、ザブンと水が撥ねた。

「なにっ!?」

 恐ろしい速度で剣士が移動していた。否、剣士は跳んでいた。外装のデザインの翼を翻して、水を切るように跳んだ。凄い速さで。

(くそっ! 置いてかれる!!)

「待てえ!」

 負けるか、と俺は脚を踏み出す。

 ザブザブと流れる水を切り裂きながら、俺は背後から迫ってくるであろうサメのことも忘れてただ急ぐ、急ぐ。

 だが、追いつけない。

 追いつけそうにない。

 そう理解しかけた刹那だった。

「伏せて、シューゴ君!」

「え?」

 振り向いた俺の上空を、何かが駆け抜けた。

「なにっ!?」

 パシィイインツ!

 後ろから、前へと駆け抜けた疾風。

 それに目線を直した瞬間、俺の目に飛び込んできたのは。


 前方を駆けていた剣士と先ほどまでいなかったオウルの鍔迫り合う光景だった。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 ふぅ。

「ギリギリ間に合ったみたいだね」

 ボクは見知った顔の剣士と鍔迫り合いながら、シューゴ君に向かってそういった。

「オウル? なんでここに……」

「それはね、っと!」

 バチンッと手に持つ“武器”ごと目の前の剣士に弾き飛ばされる。

 バチャンと川底へ着地しながら、ボクは目の前の剣士から目を離さないように警戒しながら、答えた。

「ボクにも用件が出来てね、参加することにしたんだ」

「用件? ……ま、まさかお前もレナを狙って!?」

 がくっ。

 一瞬首を落としながらも、ボクは間髪入れずに構えなおした。

「違うよ」

「じゃあ……?」

「――なるほど。そういうことか」

 見知った顔である彼は、ボクの手元を見て、納得したように頷いた。

「早く行くんだ、シューゴ君」

「へ?」

「ボクがこいつを足止めする」

「なっ!」

 ボクはただそのためにやってきたんだ。

「なっ、オウル。お前まさか……」

「妹を助けるのは兄の役目……なんでしょ? 早く行くんだ、レナちゃんが待ってる」

 ボクは目線を逸らさずに、そう言った。

 ジリジリと隙を伺う剣士を逃がすまいと、全神経を集中する。

「オウル……サンキュ」

「いいよ」

 ザバザバとシューゴ君は駆け出しながら、ボクにこう言った。

「済まないオウル! お前は本当に俺のベストフレンドだぁあああ!!!」

 な、なんかどこかで聞いたような台詞だなぁ。

 ザバザバとシューゴや、他のPCたちが走っていく音を耳で感じ取りながら、ボクは動きを見せない目の前の剣士に改めて目を向けた。

「進まないのかい?」

「――友の為に自身を犠牲にするか。その覚悟、見事だ」

「ありがとう」

「しかし、その“武器”では俺は倒せんぞ?」

 そう言われて、ボクは改めて両手に握る“武器”を見直す。

 それは純白の武具。無数に並べ立った板状の紙がジグザグに並べ立てられ、まるで横から見れば扇のように広がり、縦には長方形の形を成せるアイテム。

 それは【ハリセン】と呼ばれる道具だった。

「『右手に笑い・左手にボケを』 攻撃力がマイナスの双剣だけど、ボクの目的は妨害だ。倒せなくても良い、ただ止められればそれで十分だからね」

「ふっ。なるほど」

 その時、目の前の剣士は握っていた剣を唐突に鞘に収めた。

「どういうつもり?」

「お前はそういう覚悟ならば、私もそれ相応の態度を取らなくてはなるまい?」

 そして、出現させたスクリーンパネルを操作したかと思うと剣士は先ほどまで付けていた剣を消失させ、その次の瞬間まったく同じデザインの剣の鞘を出現させる。

「?」

「これが私の答えだ」

 ガシリと剣士は柄を握り締め、鞘から刀身を抜いた。


 ――ピコンッ♪


 その刀身から現れたのは黄色いハンマーを頂点に、真紅に塗り上げられた棒を括り付けた異様の物品。いわゆる【ピコピコハンマー】だった。

「……どういうつもり?」

「そちらの覚悟を見せてもらったのだ、同条件でやりあうのが筋というものだろう」

「なるほど。互いに攻撃力は皆無」

「決着を付けるのは互いの技量」

 ザバリ。

 互いに水音を立てながら、互いの得物を構える。

 油断はしない。

 過剰評価もしない。

 彼は気付いていないだろうけど、互いの技量は知り尽くしている。

 本気でいかなければ負けるだけだ。

「一つ訊ねたいことがある」

「なんだい?」

「どうやってここまで追いついた?」

 ん? そのこと?

 ボクは隙を見せない程度に目線を右に、動かした。

 そこにはボクをここまで運んだ女性と、ボクにこのハリセンをくれた少女が、サメを追い掛け回している光景が映っている。

 レアー! とか。強敵よー! と叫んでいるのはよく分からないけれど、彼女たちのお陰で、今ボクはここにいる。

――投げてもらった

「ほう?」

 肩に担がれて、砲丸投げのように投げられたよ。

 あはは。

「もう話はいい?」

 ボクは静かにアイテムパネルを展開する。

「最後に一つ」

「なんだい?」

「名を聞いておこうか」

 楽しげに、目の前の見知った顔が笑う。

 おそらくボクも笑みを浮かべているだろう。

 だから、答える。

「オウル」

「オウル? ALL……いや。OAR――櫂か?」

「正解」

 ボクの名前の由来。

 それは船を漕ぐオールから取ったものだ。カイトは風を受ける凧で、今度は海を渡るための櫂。

 そんな意味を篭めた。

「いい名だ。ならば、私も答えよう」

「――その必要はないよ、そうだろう? “蒼天のバルムンク”」

 ボクがそう答えると、剣士――バルムンクはつまらなさそうな表情を浮かべた。

「ふっ。私を狙って妨害することからみて、知っているだろうとは予測していたが……名乗る前に当てるのは失礼だぞ?」

「それはごめんね」

 じわり、じわりと話しながら、ボクたちは間合いを探る。

 どうやれば有利になるか。

 どうすれば最速の一撃を打ち込めるか。

 ただそれだけを考える。

 そして。

 遥かな前方、シューゴ君たちが進んだ方向から離れた“光”が上がった瞬間、ボクたちは同時に動いた。

「――快速のタリスマン!!!」

 アイテムパネルから取り出したのは倍速の護符!

「――アプドゥ!!!」

 バルムンクが叫んだのは倍速の呪紋!

 ――倍速開始!!

「剣士バルムンク、参る!」

「双剣士オウル、行くよ!」

 叫んで、ボクらは駆け出した。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 スタート付近の海岸線。

 そこで俺とHOTARUはレースを見守っていた。

「OH! オウルさんとホワイトナイトが戦ってマス!」

 HOTARUが声を上げた時、オレの目にも二人が遥か先の川中で激突している様子が見えた。

 オウルはともかく、ホワイトナイトというのはバルムンクのことだろう。

「……始まったか」

 二人とも古い馴染みだ。

 あの二人の技量は知り尽くしている。

 蒼天のバルムンク。

 そして、姿は違うとはいえ、蒼炎のカイトと呼ばれる男。

 互いに最強に近いといわれるPC同士。

 その激突は熱く、激しいものになるだろう。

 遠目に見ている今でさえ、その二人の激闘は熾烈なものだと理解できる。

「……しかし」

 間接的とはいえ、女を巡って友と戦い合う。

 これが……日本で言う。

「ワビサビというものか……」

「OH? これがワビサビデスカ……激しいデス」

 なんとも日本とは奥深いものだ。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


『おぉおおおっと! いきなりバトル勃発だぁ!!! 川の中腹エリアで、二人の男が醜いバトルを繰り広げているぞぉ!! これが織姫の魅力か!? それとも祭りの熱気に当てられたか!! 熱い熱い熱いー!!』

(っていうか、なにやってんですかバルムンクさーん!?)

 マイクを握り締めながら、オレは川の中腹でバトルを繰り広げている上司に、頭痛がする思いだった。

 でも、俺も大人だ。

 仕事は全うしなくてはいけない。

「さて、織姫のレナさん? 今の心境はどうですか?」

 横で立ち尽くしていたPCレナに向かって、マイクを向けた。

「え? えーと……」

「なにか一言どうぞ」

「そ、それじゃ……」

 何か覚悟を決めた顔を浮かべると、PCレナは息を吸い込んだ。

『皆―、私の為に争わないでー!』

『以上! 織姫からのコメントでした!!』

 どうでもいいけど、今の台詞はきっと女性ならば一度は言ってみたい台詞ベスト3に入るよなー。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 うおおおおおおおおおおおおおおおお!

 走る、走る、走る。

 人を蹴散らし、川を断ち切り、邪魔するものを悉く凌駕する。

 走れ、俺!

 メ○スのように!! セリヌン……じゃなかった、レナの待つ場所へ!

「うぐぐぐぐぐうう! 半分は超えたぁああ!!」

 川の向こうに見えるレナの顔が、先ほどよりも大きく見える。

 大体三分の二は通過したはずだ!

 目の前に見えるのは精々数人程度。奴らを抜き去れば、俺の勝ちは決定する!

「ぬおおおおおおお! どけどけぇ!!」

 手足を動かしながら、スパートをかける。

「――フフフ、醜いなぁ」

 なに!?

 突如聞こえた声に、振り返る。


 ドベギョッ!


 その瞬間、真っ黒い何かに俺の視界は叩き潰された。

 具体的には轢かれた。

「キッシッシッシ、無様だなぁ国崎!」

 ザブンと水に沈んだ俺の耳に飛び込んできたのは、そんな声。

「なっ、貴様は小宮山!?」

 起き上がった俺の目に見えたのは、見覚えのありすぎる後姿。

 しかも、速ぇえ! プチグソに乗ってるせいか!?

「ふっ、この水陸両用オスカルならばこの程度の川、小川のせせらぎも同然!」

「なっ、待て!」

「キッシッシッシッシ、貴様はそこで無様に水を掻いているがいいわ! レナちゅわんをゲットするロミオになるのは、この私だぁ!! さらばだ、将来の義兄様よ!」

「――テメエと義兄弟になるつもりはねえ!」

 叫びながら、全力で追いかけるが。

 くそっ! マジで追いつけねえ!!

「待てこらぁ!! 大体プチグソに乗るなんて反則だぞ!!」

「キッシッシッシッシ! ルールにはそんなことは言っておらぬ! それに足が遅いのは、貴様のせいだろう? 大体そんな“成金腕輪”なぞ付けてるから、足が遅いのではないのかね!」

「なんだと?」

 テメエ……アウラからもらった人の腕輪を!

 確かにちょっとゴツくて、金ぴか過ぎるかなぁ? っと偶に思わないでもないが、大切な腕輪だ!

「テメエ、万死に値するぞ!」

 そう叫び、俺は腕輪を付けた手を握り締める。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

「ん?」

 なんか変な音がしたような。

 ちらっと、不意に手元に目を向けてみる。

「あれ?」

 そこには“禍々しい”黄金色の光を放つ腕輪の姿。

 なんというか触れただけで、千年の呪いとか受けそうな勢い。

「……そうか、お前も怒っているのか……」

 そう呟いた瞬間、腕輪がギラリと輝いたような気がした。

 勝手に右手が持ち上がる。

「逝け、小宮山」

 光が迸る。

 右手より閃光が吹き上がり、視界が真っ白に染まる。

 黄金の螺旋が右手に渦巻き、川を、世界を染め上げんばかりの黄金の光が立ち登る。

 そして、ディスプレイに見えたのはこんな言葉。

「――奥義


   【暗黒吸魂輪掌波】!!


「消えろ! 世界の最果てまでぇええええええ!!!」

 絶叫と同時に、光が迸る。

「へ?」

 そして、それはオスカルの上に乗る小宮山を飲み込んで。


 ポンッ♪


 と、哀れな小魚へと姿を変えた。

『GUAGUAGUAUGAGA!?!??!』

「ふっ、悪いな小宮山」

 奇妙な叫び声を上げる魚の横を、俺は悠々と通り過ぎる。

 そして、去り際に一言。

「安心しろ。――みねうちだ」

 多分な。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 ピコハァアアアアアアアアアアアン!!!

 互いの一撃が激突する。

「ちっ!」

 バルムンクの舌打ちを聞きながら、ボクは吹き飛ばされた腕を翻し、さらなる最速を行使する。

 “舞武”

 右から、左。両手に握るハリセンを、左右から打ち放つ!

「甘い!」

 “クロスラッシュ”

 右の一撃は上段に、左の一撃を下段に振り下ろしたピコハンの一撃に、ピコンッと弾かれる。

 そのすぐ後に、さらなる一撃が、こちらへと振りかぶられる。

「ちっ!」

 ――パシンッ!

 ハリセンを袈裟切りにたたき上げ、その一撃を弾いて、防ぐ。

 だが、それで互いの距離が詰まる。

 至近距離の接近戦!

「――行くよ!」

 “夢幻操武”

 両手のハリセンを握り締め、手首を奔らせる。

「――させるかぁ!」

 “リボルバー”

 バルムンクの体が、風を纏い、水を弾き出す。

 そして、激突する。

 叩く、弾く、穿つ、打つ、凌ぐ、殴る。

 首を狙って飛んでくるピコハンをしゃがんで躱し、胴を狙ったハリセンを旋回した一撃が吹き飛ばし、降り注ぐようなピコハンの打撃を両手で繰り出したハリセンが叩き落す。

 パシ、ピコ、パシ、ピコ、パシピコ、パシ、ピコ、パシ――

『おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 ピコハァンッッ!


 そして、互いの最後の一撃で、体が水から撥ね飛ぶ。

 放物線を描いて、宙を舞った。

「くぅううう!」

「ちぃいい!」

 ザブンと川に着地するも、止まる暇もなく、ボクは駆け出す。

 ――前へ。

 倍速状態の体が、水に飲み込まれるよりも早く、川を蹴散らす。

「来い!」

 待ち受けるは、蒼天のバルムンク!

「行くよ!」

 ボクは川底の足を踏みしめ、全力で両手を引き絞る。

「スキル・セレクトッ!!!」

 “舞武”!

 全力で――両手を振り切った。左右から二振りのハリセンを、振り下ろすように両手を交差させる。

 だけど、一撃を繰り出した瞬間、手の中のハリセンは空を切った。

「なっ!?」

 目の前にバルムンクは居ない。

 見えるのは、波紋に移った一筋の影。

「上か!?」

 上空を振り向く。

 そこに見えたのは、ボクの頭上より遥か上で、ピコピコハンマーを振り上げたバルムンクの姿。

「――遅いっ!」

 “クラック・ビート”

 上空で縦に回転するバルムンク。

「させるかぁ!!」

 無理やり身体を捻る。振り切った両手をそのままに、倒れ抱える身体を無理やり旋回させる。

 繰り出すは横回転の斬撃。

 “虎輪刃”


 パピシィィンッ!!!


 横回転と縦回転の剣舞が、真正面から激突する。

 だが、それに押し負けたのはボクであり、打ち負けたのはバルムンクでもあった。

「くぅうう!!!」

「ちぃい!!」

 互いに一撃をモロに受け、水中へ突っ込んだ。

 視界を泡が埋め尽くす、耳を水音が埋め尽くす、だが溺れはしない。所詮ゲームだから、所詮仮想現実だから。

 けれど、ボクはそんなことを考える暇も必要も感じず、即座に水から飛び出た。

 そして、ボクが水から上がったのと同時に、バルムンクも水中から姿を現した。

「……やるな」

「……君もね」

 互いにハリセンとピコハンを構えながら、ボクたちはゆっくりと間合いを計った。

 実際には聞こえるはずもないのに、互いの呼吸音が聞こえるようだ。

 まるでサッカーで試合を決めるPK戦の時のように、意識が高ぶっている。

 静かに、ゆっくりと、しかし着実に、隙を探す。

 意識はもうシューゴ君のことなど忘れ、ただ目の前のバルムンクを倒すことにだけ集中していた。

 だから、ボクは。

「す、凄え戦いだ!」

「下手に近寄ったら巻き込まれるぞ!!」

「でも、なんて腰が抜ける戦いなんだ!?」

 などと叫んでいる他のPCたちの存在に、気付いていなかった。

 ただ目の前の存在に、意識の全てを費やす。

「……オウルといったな。いい腕をしている」

「ありがとう」

 バルムンクの言葉に、ボクは控えめに答えた。

 その瞬間でさえ、互いの隙を探る攻防に過ぎなかい。

「友を助けるための覚悟。そして、私と渡り合う腕。まるで私の“友”を思い出す」

 ……ん?

「同じ双剣士だが、お前と彼はよく似ている」

 ――それってボクのことじゃないかな?

「お前のような男がいるなら、奴を正しく導けるかもしれないな」

「……それはシューゴ君のことかい?」

「……ふっ、少し喋りすぎたようだな」

 カチャリとバルムンクが体勢を低くし、より攻撃的な姿勢になる。

「時間をかけ過ぎた。そろそろ進ませてもらう」

「行かせないよ」

 ――ブゥンッ。

 同時にスクリーンパネルを展開する。

 コントローラーを操作し、最速で目的のアイテムを呼び出す。

 そして、偶然にも呼び出したのは同じ小瓶状のアイテム。

「――【闘士の血】!」

 求めたのはさらなる打撃力。

「――【狩人の血】!」

 バルムンクが欲したのはさらなる命中力だろう。

 互いにコイントスのように親指で弾き上げ、返す手で粉砕する。ビンから零れ落ちる真っ赤な血を浴びながら、互いに足を踏み出した。

「――斬り穿つ!」

「――断ち通る!」

 そして、ボク達は激突する。


 繰り出すは、最速の一撃。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 その時、ボクたちはサメと戦ってた。

 それも黄金色に輝く24金カラーのレアタイプ。

 高レベルで有名なイベント用モンスターに、ボクと凰花は戦っていた。

「はぁっ!」

 凰花が突き上げるような蹴りで、サメを弾き上げる。

「ナーイス! いっくよぉ! ――“メライクルズ”!」

 それに合わせて、ボクは【雷】の呪紋を発動させた。

 振り下ろした杖の正面、飛び上がったサメへと上空から無数の紫電が直撃する。

「やったぁ!」

 プスプスと焦げながら、水中へ落下したサメを見てガッツポーズ!

 これでイベント用レアモンスター撃破だね☆

「いや、まだだぞ」

「へ?」

 凰花の言葉に見直してみると、サメがよろよろとなりながらも逃げようとしている。

「ぬー、しぶとい!」

「ふむ。もう一回空中へ弾き上げるか?」

 あのサメはやっかいなことにサメ肌なせいか、凰花の打撃が通用しにくいのだ。

 だから、ボクの呪紋を直撃させたんだけど……

「もー、怒ったっ!」

 スクリーンパネルを開くと愛用の杖から、もう一つ予備で用意してある杖へとチェンジする。

「一気に行くよぉ!」

 杖を掲げ、叫ぶ。

 轟っと杖の先端上空から、巨大な火球が生まれる。

“ファバクドーン”!!!」

 【火】属性最大レベル呪紋の一つを、ボクは発動させた。

「あ、あまり無茶するな、ミレイユ!」

「大丈夫、大丈夫! 付近の人、さっさと離れてねー!」

 ボクの言葉と掲げ上げた火球に、ボクの近くに居たPCたちが一斉に飛び離れる。

 よしっ! 邪魔者はなーし。

「ぶっ飛べ〜☆」

 ボクはそのまま、火球を放り投げた。

 サメの居る方向、レナたちが居るゴール方角へと。


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 水を切る。

 川底を踏みしめる。

 ただ全力で最速の一撃を解き放とうと駆けた瞬間だった。

 ――ザバンッ!

GIXAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

 ボクとバルムンクの真ん中で、“黒焦げた金色のサメ”が飛び出してきた。

 その身体は巨大。ボク達を丸々飲み込めるほど巨大な口と牙、そしてその中に見える巨大な眼球がどこまでも不気味に見て取れた。
 だが。

 今のボクたちにとっては。

『――邪魔だぁ!!!』

 “舞武”

 ――二振りのハリセンが、その顎を強引に叩き閉じる。

 “クロスラッシュ”

 ――一振りのピコピコハンマーが、その巨体を殴り飛ばす。

『ォオオオオオオ!!』


 ピコパァアアアンッッ!


 互いの全力の一撃で、サメを高々と弾き飛ばした。

 そして。

 その弾き飛ばしたサメの向こう側で。

「あ」

「え?」

 ――真っ赤な光が見えた。

 それが真っ赤に燃え滾る火球だと理解した瞬間、ボクは神がかり的な速度でスクリーンパネルを開いていた。

「――ま、【魔獣の血】ぃい!!!」

「――や、【焼け付く獣油】ぅう!!」

 魔法防御力の向上と火属性の向上。

 それが終わった直後、ボクたちは光に飲み込まれていた。


 チュドーンッ!!!


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


 俺は走っていた。

 ひたすら走っていた。

 ここまで来るのに何人の友が犠牲になったのだろうか。

 オウル、凰花、ミレイユ、ついでに小宮山。

 彼らの屍を踏みしめ、踏み越えて俺は今ここで走っている。

 もうすぐだ。

 もうすぐ辿り着く。

 だから、叫んだ。

「レナァアアアアアアアアア!!」

「お兄ちゃぁあああああああん!!!」

 あとたった十数メートル先にいる妹へ叫ぶ。

 目の前にはもう誰も居ない。

 全ては抜き去った。

 後は辿り着くだけ。

 俺が妹を助け出すだけだ。

「今いくぞぉおおお!!!」

 ヒュゥウウウウウウウウ――

 あと八メートル。

 ゥウウウウウウウウウウ--―

 あと五メートル。

 ゥウウウウウウウウウウウウウウウ――

 あと三メートル。

 ゥウウウウウウウゥウゥゥウゥゥゥゥ――

 妹の顔は目の前だ。

 さあもうすぐ、辿り着くぞ――

「レナぁあああああ――」

 目の前にある妹の笑顔に、手を伸ば。


 ドガンッ!!!


【Δ 遥かなる 紺碧の 大河】


「あ、あいたたたたた」

 ここはどこだろう?

 別に本当に痛いわけじゃないけど、頭を押さえながら、ボクは立ち上がった。

 確か、誰かが放った呪紋に巻き込まれたはずなんだけど……

「――オウルさんっ!」

「え?」

 声に振り返った瞬間、誰かに抱きつかれた。

 その顔は。

「レ、レナちゃん?」

「助けに来てくれたんですね!」

「え? E? え!?」

 ど、どういうこと!?

 きょろきょろと状況がつかめずに、周りを見渡してみると、そこはレナたちが待っているはずのゴール地点だということが分かった。

「……どうやらゴール地点まで吹き飛ばされたようだな」

「え」

 同じように吹き飛ばされたらしいバルムンクが、いつの間にか横に立っていた。

「あ。どうもこんにちは、剣士さま」

「うむ。こんにちは」

 いや、のんきに挨拶してる場合じゃなくて。

「ええと、もしかして……ここにいるってことは」

「ハイ。二人ともゴールしてますね」

 嫌な予感を感じて呟くと、司会者の金髪の呪紋使いがすかさず答えた。

「うぇ? じゃ、じゃあシューゴ君は……」

 どうしたの?

 そう訊ねようとした瞬間だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

「フ、フ、フ。ココダヨオウル」

 ……後ろから背筋も凍るような声がした。

「あっ、シューゴ君。無事にゴール出来たんだね」

 こ、怖くて振り向けないので、ボクはそのまま答える。

「あっ、シューゴ。無事だったの?」

 というか、そろそろ離してくれないかな、レナちゃん。

「マアネ。オレモゴールシテタンダヨ」

「そ、それはよかったね……」

「オウ。デモナ、不思議ナコトニ、ゴール寸前デ誰カニ踏ミ潰サレタンダヨネ」

「へ、へえ。じゃあ、誰が一位だったのか判定してもらおうよ……」

「フ、フ、フ」

 な、なんで笑ってるのかな、シューゴ君?

「欺瞞ハヤメヨウヨ、オウル」

「な、なんのこと?」

「結局、オマエモオレヲ裏切ッタンダンダロ?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 マ、マズイ。

 なんかとてもつもなく危険な予感がする。

「な、何を言っているのか、分からないよ……」

 そう言いながら、ボクはゆっくりと振り返る。

 振り向いちゃいけないと分かりつつも、何故か外装がギギギと音を立てながら首を曲げてしまう。

 そして、ボクの後ろに居たのは。

「妹ガ欲シケレバ」

 双剣を握り締め、半月状に笑みを浮かべた【オニ】だった。

「――オレノ屍ヲ越エテイケェエエエエエエエ!!!!」


 そして、その後。

 全力で戦ってもなおボクを凌駕するシューゴとの激闘の幕が開いた。

 いやぁ、誤解による悲劇って悲しいね。

 うん。


【Δ 清浄なる 大空の 輝き】


「ふぅ、俺としたことが、大人げもなく怒ってしまったぜ」

「……あれだけ暴れて、怒ったの一言で済ませる気?」

 ぐたーと歩きながら漏らした俺の一言に、レナが厳しく突っ込んできた。

「あれはオウルが悪いんだよー」

 ケッと今はいないオウルに向かって、ぼやく。

 結局あの後、写真判定でギリギリ俺が先にゴールしていたことが証明された。

 おかげでレナをオウルやあの変な剣士に渡すことはなかったけれど、結局俺が得たのは何も無い。

 一体何なんだったんだろうか、今日のイベントは。

「でも、楽しかったねー」

「そうかー? 疲れただけだぜ」

 コロコロと楽しげに笑うレナに、俺はため息を漏らしながらも、まんざらでもない笑みを浮かべる。

「でも、オウルさんとか皆先に帰っちゃったね」

「そだなー」

 ミレイユたちももうさっさと落ちてしまった。

 イベントが終わって、このエリアからもぞろぞろと人が去っていっている。まだのろのろと残っているのは俺とレナぐらいなもんだ

「私たちもそろそろ落ちる?」

「そだなー。けど、ちょっとまってな」

 そういって、俺は短冊の笹の方へと歩いていった。

「なにしてんのー?」

「いや、オウルに頼まれててさ」

 時間がないってことで、オウルから短冊を渡されたのだ。

 俺はオウルから渡された短冊を、笹に括り付ける。

「なんて書いてあるの?」

「ん? いや、変な内容だよ」

 そういって、レナに短冊の表記部分を見せる。

 そこに書き込まれているのは簡素な一文。

「ええと、『無事に夜明けが訪れますように』?」

「変だろ?」

「変だね」

 何を考えてこんなのを書いたんだろ?

 さっぱり訳が分からんな。

「じゃ、落ちようか」

「ん。じゃな」

 シュンと音を立てて、レナが画面からロスト(消失)する。

 そして、それを見届けた後、俺はすばやく用意しておいた短冊を笹に括り付けた。

「……こんなの見せられんからな」

 そういって、括り付けた短冊に書き込んだのは『強くなる!』という一文。

 恥ずかしくて、誰にも見せられん。

「今度こそオウルや他の連中の手助けがなくても、レナを助けられますように……」

 そう軽く願って、俺は手を離した。

「さて。急がないとな」

 俺はスクリーンパネルを開いて、ゲームから落ちるべく操作をする。


 予定よりも遅れている。


 早くしないと、な。


【リアル】


「ふぅー」

 私はFMDを外すと、軽く息を吐いた。

 被っている間に纏わり付いた髪を、額から外し、後ろへと流す。

「……楽しかったなぁ」

 いつも楽しいけれど、今日は本当にドキドキした。

 まさかイベントで織姫に選ばれるなんて、思ってもみなかった。

「それであんなにシューゴが頑張るなんてね……」

 クスクスとステージから見えたシューゴたちの様子を思い出して、笑ってしまう。

 笑いながら、付けっぱなしだったPCの電源を落とし、机の上を片付ける。

「でも、お姫様の時間はもう終わり」

 織姫から、私は一人の国崎 怜奈へと戻る。

 夢は終わり、目が覚める。

 そして、現実へと戻るのだ。

「私を迎えにきてくれる、彦星なんていないんだから」

 そう呟いて、私は机から立ち上がると、そろそろ眠るべく窓の戸締りを確認するために歩き出した。

 私の部屋は二階だけど、万が一ってこともあるしね。

 そう考え、私はいつものように窓のカーテンを開いた。


 そして、兄が居た。


「え?」

 窓ガラスの向こう側で、ブンブンと手を振っている見覚えのある顔。

 そう、それは自身の兄である国崎 秀悟の顔。

「え? E? E!?」

 私が事態を理解出来ずにおろおろとしていると、兄はまだ閉めていなかった窓の取っ手に手をかけて開いた。

「よー、怜奈。駄目だぞー、ちゃんと夜更けには鍵を閉めないと」

「しゅ、秀悟? 本当に秀悟なの?」

「ん? このプリティなスマイルは俺以外にあるまい!」

 あっ。この無駄に偉そうな態度はまさしく兄そのものだ。

 でも、なんで?

「親父はいるのか?」

「え? いや、仕事で遅くなるって聞いているけど」

「んー、なら玄関から出るか」

 そういって、兄はよいこらせっとと言いながら、私の部屋に侵入した。

 着けていた靴を手に持って、とてとてと私の部屋を横断する。

「じゃ、玄関で待ってるから、外に出られる格好して来いよ」

「え?」

 そういって、兄が私の部屋から出て行く。

 私は慌てて上着を羽織ると、玄関へと降りた。

 そこにはなにやら先ほどまで持って居なかったビニール袋を持って、兄が立っている。

「じゃ、行くぞ」

「え? どこへ?」

「イ・イ・ト・コ♪」

 玄関に鍵を閉めるや否や、兄は私の手を掴んで歩き出した。

 夜闇の中だというのに迷いもない足取り。

「しゅ、秀悟!」

「なんだ?」

「どうやってここまで来たの?」

「電車。当たり前だろ?」

 何を馬鹿なことを、って顔しないでよ!

「そうじゃなくて! さっきまでログインしてたでしょ!? どうやってここまで駆けつけてきたのよ! 秀悟の家は電車でも一時間以上するはずでしょ!」

「んー、近くのネットカフェからログインしてた♪」

「え?」

「いやー、思ったより高くてな。帰りの電車代がなくなるかと思ったぜ……って着いたぞ」

「え?」

 そういって、兄が立ち止まったのは、私もよく知っている川べりだった。

 コンクリートで固められているけど、別に悪臭もしないし、濁ってもいない。

 綺麗な川。

「ここで何するの?」

「ふっふっふ」

 シューゴは笑うと、ジャーンといって持っていたビニール袋から細長い包みを取り出した。

「……もしかして、花火?」

「ピンポン! 正解の怜奈さんには、特別にロケット花火を進呈しましょう」

 兄はふざけた態度で、私に花火を渡してくれた。

 そして、私たちは川べりで兄が用意した花火をすることにした。

 小さくて、安っぽい花火ばっかりだけど、色とりどりな光は私を和ませてくれた。

 だから、私は花火をしながらこう言った。

「まるで彦星みたいだね、秀悟は」

「は? そんな奴を一緒にするなよ」

 私の言葉に、秀悟が不機嫌そうに顔を歪めた。

 怒らせちゃったかな……

「俺は怜奈が望めば、一年に一回どころか、いつでも駆けつけてやるよ」

 そういって、ニヤリと秀悟が笑う。

 私も微笑んだ。

「じゃあ、秀悟は私の勇者様だね」

「おう! 俺は勇者だ!!」

 胸を張り、威張った態度を取る秀悟を見て私は笑った。

 そして、私は短冊に書いた内容が叶ったのを知った。


 私が短冊に書いたのは『シューゴが勇者になれますように


 でも、私にとってはもう勇者だ。

 誰よりも大切な、お兄ちゃん。

 ありがとう。

 私の勇者様。


 おまけ(上の感動を薄れさせたくない人は、飛ばしてください)


「はいはい、まだ書類がありますよー」

「ま、まだあるのか……」

「ええ。どこぞの誰かさんに弾き飛ばされたプレイヤーの苦情とか! どこぞの誰かさんが、遣り残した書類とか! 色々と残ってますよー」

「……」

「今夜は徹夜ですかねー」

「……レキ」

「嫌です♪ さあて、明日は有給で休みだぞー、どこ行こうかなー♪」

「……(無言で書類整理)」

「おめでとー、七夕―!」

「私に味方はいないのか……」


 あとがき


 どうも、新年明けましておめでとうございます。
 予告からかなり遅れて、UPしています。ごめんなさい!
 予測を遥かに超えたボリュームに、予測を超えた忙しさで書いてる暇がなかったのです。

 これでようやく原作版の第一巻分を終えました。

 これから第二巻へと突入! ……と行きたいのですが、少々これからは本編から少し外れた外伝に移ります。
 思ったよりも話が膨らんだせいか、発生させなければならないフラグや、もっと出番を増やしたいキャラが増えまして。

 メインキャラ一人一人に焦点を合わせた外伝をちょこちょこっと書いていこうと思います。

 大体一週間に1〜2本程度の勢いで。

 それほど時間を掛けることはないと思いますので、メインストーリーを待っている人も安心してください。

 予告までにタイトルは。

オウル:『鬼ごっこ2! NEOゴブリンの逆襲!!』
シューゴ:『国崎秀悟育成計画』
HOTARU:『三人が行くよ どこまでも(仮)』
ミレイユ:『彼女がレアハンターになったわけ』
凰花:『凰花の鉄腕繁盛記』
レナ:『私の勇者様』

 の六本を予定しています!
 なお、タイトルは予告なく変化することがありますので、ご承知を。


 ついに十二回目のレス返し!
 新年早々、頑張ってレスを返します!!


>シャミ様
 週末といいつつ、年を明けさせてすいません。
 今後から出来るだけ早く書くつもりなので、許してください。
 今回は頑張ってボリュームを大増させてみましたw


“バルムンクって変わり過ぎですよね”
>社会人になってから丸くなったというべきか、それとも同じ会社にいる某鈍足のドーベルマンに当てられたのでしょうか? 謎が深まりますねw
 しかし、本当にAIバスターの彼はどこにいったんでしょう?(といいつつ、今回壊している男)


“シューゴってドレインアークやドレインハートって使えましたっけ?”
>原作だと使えていないみたいですね。アニメでも使っているところはないです。
 この作品のシューゴも、“今は”使えません。でも、使ったら間違いなくカッコいいと思います。


“カイトとシューゴのWデータドレイン”
>……ニヤリ。


>細道様
 どうも、はじめまして箱庭廻と名乗っているものです。
 自分のつたない作品を読んでもらって、とても嬉しいです。今後とも頑張って書いていきますので、お楽しみにw

“西風の撲殺(ボクサー)”
>す、凄い名前になっているw ちゃんと出ますよ〜。
 ぶっちゃけ物語のキーキャラになる予定です。性格も変えず、より萌え萌えにする予定です!
 ……黒専門の作者ですが。


>グラム様

 ドンッ!(後ろから、さわやかな笑みで突き落とした)

 ……どうも。
 神速の皇帝 グラム様! とても強そうですね!!
 何かSSで最強の抜刀術とか使えそうな感じがしますw

 と、戯言はともかく。
 今回は上げるのに大変遅れてすいません。今後から、以前のペースを取り戻すべく奮迅する覚悟です!


“個人的にはAIバスターのマハとゼフィが一緒だと・・・”
>AIバスターのマハ? マハは八相ですよね……
 リコリスの間違いでは?

“マハやアウラはプレイヤーのリアルを知っているはずですけど、ゼフィはどうなんでしょうね?”
>多分知らないんじゃないかな? 自身の経験地が白紙状態ですから、そのあたりの認識も危ういです。

“危ない危ない、炉に落ちるところだった”
>GOGO! ふっ、ちゃんと彼岸花の少女も物語に関わりますよー。
 耐え切れますか!?


>KOS-MOS様

 どうも、お久しぶりですKOS-MOS様。
 今回も黒くなく(一部のキャラを除いて)、平和で一杯ですw


 そう、今回の話は。

 シューゴを助けるためにバルムンクと戦うオウル。
 立ちふさがるバルムンク。唸るハリセン、咆えるピコハン、そしてラストでオウルのかませ犬になるシューゴ!
 っといった感じですかね?

“他の昔の仲間(女?)とであったときも即ばれるのでしょうかねぇ・・・・”
>今後からオウルは反省して、昔の仲間を見かける旅に全力反転&ダッシュをするようになったそうですw
 というか、ばれないのはバルムンクやピロシぐらいかとw

“君にも休みというあう”ぁろんがきっとあるはずだ!!”
>休みという名のアヴァロンで、見事上司を撃破しました。
 レキは今後ともいい感じの漢で突き進む予定ですw


>ロードス様
 ご予想どうり、バルムンクは気付きませんでしたw
 というか、オウルも含んで全員祭りでテンション上がっているのか、壊れていますw

 ちょっと壊しすぎでしたか?

“オウル短冊に書く内容は.hackersの皆と出会えるようにでいいじゃないですかw”
>短冊の内容はこうなりました。ゲームをクリアしていれば、意味は分かりますよね?
 少なくとも、今は皆に会うよりも平和を求めているようです。
 ……決して修羅場回避ではなく!


“光源氏計画……オウルが無自覚にミレイユにやりそうな気がするのはなぜ!?”
>ドキッ!(ミレイユ主役の外伝プロットを見つつ)


>SS様

 どうもSS様!
 クリスマスは過ぎましたが、頑張っていずれプレゼントを渡そうと思います!
 なので、お楽しみにw

 今回の七夕決着編はどうでしたかな? 導入編を超える大暴走になってしまいましたw
 ギャグには自信はありませんが、今後とも頑張ろうと思います。


“二人ともそれなりに成績いいのね……平均点しらんが”
>平均点は70〜80ですw

“最後の「悲劇」”
>予想どうり、ギャグですw 悲劇と書いて、喜劇と読む!

“誤植”
>出来るだけ誤植は直しました。
 ご指摘ありがとうございます。


>零様

 どうも始めまして、箱庭廻と名乗っているものです。
 拙いながらも、読んでくださってありがとうございます。

 今回の笑撃w いかかでしたかな?


“「連星」が「彼」なら神威が彼とあったとき動揺するのが目に浮かびますね。”
>ふっ、その予想! 裏切りませんよ!!


>白雨様

 もう全てがクリティカルヒットですw もはやグロッキー寸前です。
 あなたはニュータイプですか?

 と戯言はともかく、今回もレスをありがとうございました。
 頑張って返事させてもらいます!

“声で気がつくって事は、ミレイユはオウルのリアルに気付いてる?”
>んー、実は気付いてません。何故なら、ザ・ワールドでの声は多分電話越しみたいになっているかと思うからです(ヒントだらけ
 でも、違う人が気付いてたり……w

“シューゴの企みとは一体何だろう?”
>実はこんなたくらみでしたw
 プレゼントは自分自身ですねw

“レキは苦労性ですね。胃に穴が空かないようにデスね。”
>七夕完結編。別名、レキの逆襲(オイ
 まあ偶にストレスを発散させて、耐えてます。

“バルムンクとオウルが周りを巻き込んでの殴り合い?川が血に染まる(ぉ”
>大当たり〜。
 でも、血は出ませんでしたw 逆に川が笑いに染まるw

“カイトの変人ぶりについで愚痴るのは、ブラックローズ、カール、寺島良子でしょうね。もしかしたら、なつめも加わるかも?”
>事件解決後、カイトへの大説教大会が始らないことを祈りますw


 以上。長文失礼しました。


>アッシャ様

 悲劇という名の喜劇でした。

 今回の更新楽しんでもらえたでしょうか?

 レキは吼える、シューゴも吼える、オウルも吼える?
 男たちはもうお祭り騒ぎです。いやー、醜いですねw

 では、次回のレスもお待ちしてます!


>盗猫様
 どうも、年末にギシギシ身体を痛めた箱庭廻です。

 今回の作品は戦友同士の絆に疑問を抱かせる内容ですw
 もう平和ですが、ほのぼのではありませんねw

“周りのプレーヤーを巻き添えにしながら殴り合ってるシーンが
何故か受信されています・・・”
>それは未来予知です!
 うーむ、最近皆さんの予想が、自分の展開を的中させていますね。皆さん鋭いですよw

“きっと凄い悲(喜)劇が展開するのでしょう。”
>……凄い、ですかなw?


>ATK51様

 すいません、シリアスな悲劇はこの空気だと不可能でしたw
 今回は完全にお祭り騒ぎですw

 しっちゃかめっちゃかの大騒動をお楽しみください。

 外伝を終えれば、前半戦のクライマックスに突入します。
 本編はこれからです。


“一方のバルレキ”
>上司としては、ちょっと駄目な人というイメージになっていますw
 その分、部下が苦労する。でも、部下も負けずと頑張り、上司が泣く。
 そんな関係になりました。

“で、ほたるが浴衣…今となっては少し複雑かもですね。”
>真相を知っている人にとっては、もう七転八倒ものですねw
 まあ知らぬが仏ですか。

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