打ち合わせをする為、7人はソファに座って計画を練っていた。
「まず奴らのアジトを張る役、中継係が一人……」
と、言うと不意にアスカが手を上げた。
「それだったら既にいるわよ」
「何?」
「アタシらと同盟結んでる連中が6人、旅団と黙示録のアジトを見張ってるわ」
「実力は?」
「私達よりは……上」
レオリオの質問に、レイが答える。クラピカは、それぐらいの実力があるなら頼りになるが、如何せん同盟という今ひとつ信用出来ない関係状態を結んでいる相手を全面的に頼る事は出来ない。
アスカ達に関しては無条件で信頼しているが……。
「既に見張り役がいると言っても、私達はその人達を知らない。下手をすると足を引っ張り合う事になり兼ねない。私たちの中からも見張り役を出すべきだろう」
「じゃ、俺がやるよ」
「私も……」
「じゃ、僕も行こうか」
それに対し、キルアとレイ、カヲルが名乗り出た。
「ターゲットはパクノダという女のみ。それ以外は無視していい」
「OK」
「くれぐれも慎重に」
「分かってる……無理はしないわ」
頷くレイの横でキルアは心の中で『マジで無理しない』と自身に念を押す。
「私と共に行動する運転手が一人……レオリオ、頼めるか?」
「い!? お、おう」
「平気よ〜。クラピカの傍なら安全だから〜」
ニヤニヤと笑いながらレオリオに言うアスカ。
「おい、アスカ! まるで俺がビビって一瞬、間が空いたみたいな取り方すんな!」
「クラピカ、俺達は?」
怒鳴るレオリオを他所に、ゴンは残る自分とアスカの役割を尋ねる。
「敵の目をくらます役……攪乱係だ」
その役を聞いて、迷わず頷くゴンとアスカに対し、キルアが声を上げた。
「ちょっと待った! それはかなりヤバイ役だろ。まだ奴等と直接対峙しなきゃなんないじゃん」
アスカはともかく、ゴンじゃ逃げ切る事すら無理だろうと、キルアは判断した。
「それはやり方次第だ」
「? 一体、どんな作戦だよ?」
「至って単純だ。敵がゴンに気を取られている隙に私がパクノダを捕え、車で連れ去る。不確定要素が多過ぎて、これ以上、細かな作戦は立てられない。方法は2人に任せるが……指定0.5秒、出来れば1秒、相手の注意を引き付けて欲しい」
「1秒……だね」
ゴンは旅団のマチやノブナガを尾行していた時のスピードを思い出す。あんな相手に1秒、注意を引き付けさせるのは今の彼にとって至難の業だ。
一方のアスカも、1秒なら何とかなる。しかし、相手が複数でいる場合、かなり難易度が上がってしまう。少数……パクノダ1人でいてくれるのが望ましいのだった。
「ゴン、アスカ……お前達がカギだ。出来そうか?」
「1秒なら何とか……もっとも、複数で来られたら、確率はドッと下がるけどね」
「正直、まだ分からないけど……考えてみるよ」
「後6時間……もしも競売が予定通り行われるなら、ソレまでに旅団は動く。勿論、もう動いた後かもしれないがな……」
そして、その後、黙示録による最終破壊が行われるかもしれない、と念を押す。
「ねぇ、クラピカ」
「?」
「俺にも……念の刃を刺してよ」
自分の胸を指して言うゴンに、皆が驚愕した。
「念の刃をって……」
「ゴン、話聞いてたのか!? 旅団以外の人間を攻撃したらクラピカ死ぬんだぞ!?」
「声がデカいわよ、バカ!」
堂々とクラピカのリスクを言い放つレオリオに、アスカがツッコミを入れる。
「でもさ、だったら何でクラピカの胸には念の刃が刺さってんの?」
ゴンの疑問を聞いて、5人はハッとなる。すると、クラピカは目を閉じて言った。
「此処から先の話は、更に私のリスクを上げる事になる」
「OK」
ソレを聞いて、レオリオがいきなり席を立った。
「キルア、アスカ、レイ、カヲル」
4人に目配せをすると、4人とも頷き合って席を立ち、その場から離れる。クラピカはゴンと2人っきりになり、自らの能力を説明した。
「結論から言おう、それは確かに可能だ」
そう言い、クラピカは右手に鎖を具現化する。
「5つの鎖には、それぞれ違う能力が宿っている。その中で旅団攻撃用の鎖は2つ。“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”、捕えた者を強制的に“絶”の状態にして拘束する。旅団を捕える為の能力だ。従って奴等と戦うときは、先ずこれで動きを封じる」
そしてクラピカは先端に刃の付いている小指の鎖を伸ばし、説明する。
「そしてこれが“律する小指の鎖【ジャッジメントチェーン】”……標的の心臓にこの剣を刺してルールを宣告し、遵守させる。そのルールを破れば“死”……察しの通り、この剣が私の胸にも刺さっている訳だが……」
当初、クラピカは単純に『旅団でない者を鎖で攻撃すれば死ぬ』というルールを考え、己に剣を撃とうとしたが、『自分自身への攻撃もそのルールの範疇だったら?』という疑問が生まれた。
攻撃の後でルールを決めるのだから、自分だけは例外になるのかも知れないが、確実にそうだと言える自信はなかった。
「そこでルールを限定した。“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”での攻撃は旅団にしか使わない」。したがって、“律する小指の鎖【ジャッジメントチェーン】”は旅団以外にも使おうと思えば使える。ただし」
そう言うと、突然、クラピカの双眸が赤く変化し出した。
「この鎖にも使用条件がある。緋の眼の時にしか使えない」
「緋の眼……自分の力で出せるの?」
「訓練した。緋色になるまで、かなり時間はかかるがな」
以前まではクモを見ないと赤くならなかったが、今では訓練し自力で出せるようになったクラピカは、緋の眼のままで説明する。
「この使用条件は私の能力に起因する。私は具現化系。しかし放たれた剣をコントロールし敵にルールを強いるのは主に操作系と放出系の力。私の通常の力ではこの能力は使用不可能。普段の私では具現化した鎖は手元を離れた時点で使い物にならない程薄くなり、強度も精度も落ちてしまう。中指の能力は手元から離さないこと、死というリスクを背負うことでクリアした。小指の方は私の特異体質が解決してくれた。緋の眼が現れた時、私は特質系となり、覚えた能力であればいかなる系統のものでも100%の精度・威力で使用できる」
念能力は大きく6つのタイプに分かれる。このタイプによって、得意な分野、不得意な分野が決まる。
具現化系の能力者が、他の系統能力を覚える場合の習得率は、変化80%、操作・強化60%、放出40%、特質0%となる。
例えばクラピカがレベル10の具現化系能力者だとした場合、変化系能力はレベル8まで、強化・操作系能力はレベル6まで、放出系能力にいたっては、レベル4までの能力しか覚えられないという事である。
しかも覚えた能力であっても自分の系統と違う能力の場合、威力・精度が習得率と同じ割合で減少する。
つまり、レベル10の具現化系能力者(クラピカ)と、レベル4の放出系能力者が同時にレベル4の放出系能力を使用した場合、100%まで極められる放出系能力者の方が威力・精度ともに勝っている事になる。
しかし、クラピカは緋の眼発現時に限り放出系能力者と同等に威力・精度100%でレベル4の放出系能力を使うことができるというわけだ。
「(良く分かんないけど……)つまり念の刃は俺にも刺せるって事だね?」
長ったらしい説明でゴンの頭はパンク寸前だったが、そこだけは理解できた。
「いいよ。ルールは任せる」
「…………お前の覚悟、確かに受け取った」
クラピカはスッと鎖に手をかけようとした途端、いきなり後ろからキルアとレオリオが、横からアスカ、レイ、カヲルが話に入って来た。
「その鎖ってさ6本って出せる?」
「任務完了の後は、そのルール、解除できるんだろうな?」
「こっちも5人で色々と話し合ったんだけどね〜」
「やるからには一蓮托生よ」
「…………私達も覚悟を決めたわ」
「皆……」
笑顔で命を懸ける事を厭わない5人は、声を揃えて『答えは?』と問う。
「両方とも……可能だ。だが、6人とも1つ勘違いしている事がある。私はお前達に剣を刺す気など始めから全くないのだよ?」
鎖を消して言ったクラピカの言葉に、6人は驚く。
「でも、もし俺がパクノダに捕まったら今度こそ……」
「私の正体と能力はバレるだろうな。かと言って秘密を守る為のルールをどう決める? 『パクノダに触れられてはいけない』とでもするか? しかしそれは裏を返せば反撃のチャンスをむざむざ潰す事になるぞ」
そう言われてゴンは、ハッとなる。パクノダは対象に触れて記憶を読み取る能力者。故に『パクノダに触れられてはいけない』というルールを付ければ良いと思ったが、ソレは、こちらから攻撃もする事が出来ないと言う事だ。そうなったら囮は、よりやり難くなる。
「でも……だったら何でリスクが増すだけなのに俺にこんな話を……?」
「ゴン。お前の……いや、お前達の覚悟に対する私なりの礼だよ。仮にお前達から秘密が漏れたとしても私はもう何1つ後悔しない。私はいい仲間を持った」
迷いの無い瞳をして言い切るクラピカ。それを見てカヲルは小さく笑った。
「ずるいよクラピカ。そんな事言われたら俺、命を懸けるよりよっぽどプレッシャーになっちゃうよ」
「それが狙いだからな」
「なーんだ。そーか」
冗談かどうか分からないクラピカの言葉に、アッハッハと笑うゴン。
「明るいノリのところ悪いけど、凶報を一つ良いかい?」
と、そこへカヲルが不意に口を挟んで来たので、全員が彼に注目する。
「クラピカ。君の考えでは、パクノダを捕え、その後、念の刃を彼女に刺すんだろう? 『私の事に関して一切の情報を漏らすな』とでも」
「ああ」
「けど……黙示録の中には除念師がいる」
「!?」
「ジョネンシ?」
カヲルの言葉にクラピカは目を見開き、ゴン、キルア、レオリオは首を傾げる。
「他人のかけた念を解除する能力を持つ奴よ……確かマギっつったかしらね? あのチビガキが除念師よ」
「黙示録……」
アスカから除念師の説明を聞いて、ゴン達は冷や汗を垂らす。除念師がいては、この作戦は意味を成さない。たとえパクノダに念の刃を刺しても、除念師が解除すれば良いだけの話だ。
「だからパクノダともう一人……マギも捕まえる必要性がある」
「って、待てよ、おい! クラピカの鎖は旅団しか捕まえられないんじゃ……」
「とまぁ、そういう訳だから此処は黙示録の一人を捕まえた実績を持つ方の協力を頂こうじゃないか」
「あ、そういうこと」
カヲルの言いたい事を理解したアスカは早速携帯を取り出した。
「クラピカ、アンタの能力を話さないで作戦話すけど構わないわね?」
「…………信用できるのか?」
「ま、人間性はともかくとして、こと仕事に関してはね……今も昔も」
意味の分からない言葉に対し、笑顔で答えるアスカだった。
幻影旅団と黙示録のアジトを見張っていたミサトの携帯のバイブが振動した。誰かと思い、電話に出るミサト。
「もしもし…………ああ、アスカちゃん?」
彼女の口から出た名前に、マコトも意外そうな表情を浮かべる。
「ええ、ええ……そう、分かったわ。今、そっちに向かう……キルア君とレイちゃんとカヲル君ね、ええ、じゃあ後で」
何度か頷いて通話を終えるミサト。すると彼女はすぐさま、別の所に電話をかける。
「もしもし、アオバ君? ちょっち用が出来たからアタシと一緒に来てくんない? ええ、見張りの方は、アスカちゃん達の中から何人か来るわ……ええ、すぐよ。アタシ一人じゃ無理だからね……じゃ、お願い」
電話越しに投げキッスして携帯をポケットに入れると、彼女はその場から離れる。
「カツラギさん!?」
「ちょっち行って来るわ。見張りの方、注意してお願いね」
バイバ〜イと笑顔で手を振り、ミサトは走り去って行った。マコトはヤレヤレと肩を竦めると、再び望遠鏡を覗き込んだ。
「!?」
それからしばらくしてからだった。彼の目の前に信じられない事が起こる。監視していた筈の廃ビルが突如、幾つも増えていった。ソレと同時に彼の携帯が鳴る。
<ヒュウガ君!>
「アカギ博士……これは……」
<間違いなく具現化系能力者の能力……向こうも警戒を強めたわ。急いでこの場から離れましょう!>
「はい!」
マコトは頷くと、急いで荷物を纏め始める。そんな彼の行動を一匹の蟲が静かに見ていた。
「アジトが増えた……コルトピとかいう奴の能力かな」
突然、増えたビル群を窓から見つめながら、シンジは呟く。どうやら旅団も、随分と警戒心を強めたようだ。何があったかは知らないが。
「マスター」
「ん? 何、マル?」
「ピーピング・トム……いたぜ」
その報告を聞いて、シンジは唇を緩める。
「何人?」
「今んとこ一人……けど、まだいるかもしれないから捜査範囲を広げてる。ちなみにアンタが戦った奴の中の一人だぜ」
「そうか……ミストの行ける範囲?」
シンジの質問に対し、マルクトはスッとある方向を指差す。
「あっちの方角、850m」
「ミスト」
「影を移動すれば…………5秒で行ける」
「上出来だ。イス、ミスト、レイン……行け」
「やっちゃっても良いのかい?」
ギターを鳴らしながらイスラームが問うと、シンジは頷いた。
「こっちも本気である……見せしめもいるだろう?」
「「「了解」」」
3人は頷くと、ミストがトン、と自分の影を軽く足で叩く。すると彼女の影が広がり、その中にイスラームとレインが飛び込み、最後に彼女自身が飛び込むと影は消えた。
〜レス返し〜
海様
別に主人公補正とかしてるつもり無いんですけどね〜。
黙示録と旅団は、今、ノブナガとウチルが一触即発というか、ちょっと危険な様子なんで協力するのは、躊躇われてます。
シンジにとって、アクアはこの世界での最初の仲間ですし、本当に裏切って自分の害になるような行動はまだしてませんから。
髑髏の甲冑様
お久し振りです〜。プライベートは、まぁそれなりに忙しかったです。原作はいつ復帰するんでしょうね〜。
ゴンやアスカ達の狙いはパクノダとマギの2人。そしてミサトとアオバも合流します。イスラームなら、ショタナガを流行らせるかもしれません。
年末の最後の最後に更新しました〜。次回はお正月特別編ですかね。
樹海様
何気にマコトが死亡フラグです。主人公(ゴン・キルア・レオリオ・クラピカ・アスカ・レイ・カヲル)の7人から死亡者を出すと、話が出来なくなりますが、NERVE組は別です。
夢識様
でも、この後のノブさんの見せ場といえば、スクワラ斬首ぐらいで、後はシズクに後ろからどつかれるぐらいなんですよね? 挽回出来ないじゃん!(後、卍解も出来ません)
hit6様
スクワラをどうしようか考え中。ヴェーゼ同様、生存させるか抹殺するか……。
エセマスク様
お待たせしましたーーーー!
あ、私もコンビーフはちょっとネタとして入れました。
トウジの人生を大きく狂わせたのが、人形フェチな無口少女です……微妙な関係ですね。
ショッカーの手下様
お久し振りです。
色々とシンジもやって来ましたから。タイピングの速さはリツコ並ですかね。
ドッジボールに適してる能力……ミストかな〜? 影に入ってればボール当たんないですし。試合になりませんけど。