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「宇宙への道第16話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-12-28 18:37/2007-01-23 11:57)
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(4月23日、「ステルヴィア」内の某会議室内)

「ウルティマ」遠征艦隊が帰還した翌日、織原司令や主だった幹部達が集合して事前打ち合わせが行われていた。
これは、今週末に予定されている「コズミックフラクチャー」対策会議において、各ファウンデーション間の利害の対立や意見の相違を少しでも抑え、会議をスムーズに進行させるためのものであった。

「風祭技官。例の(コズミックフラクチャー)の解析が、終了したと聞いたのだが?」

「ステルヴィア」司令兼宇宙学園校長である織原は、例の「コズミックフラクチャー」の解析作業の進行具合を、事前会議に参加している風祭技官に報告を求める。
「コズミックフラクチャー」とは、「セカンドウェーブ」の後に隠れていた推定三十億キロにも及ぶ巨大な紐状天体で、始めは珍しい景色くらいに思われていたのだが、そのあまりに高速な地球への接近速度を不気味に思った太陽系連盟から、「ウルティマ」への調査命令が下っていた。
そして、その解析途中に例の未確認物体の襲撃を受け、救出後に「ステルヴィア」への帰路で、出来る限りの人員で解析作業が進んでいたものであった。

「ええ。たっぷりと時間をかけましたので、詳細なデータと共に提出できると思います」

風祭技官は、「ウルティマ」からの帰還途中に集められるだけの人材を使って解析を行っていたので、あとは正式な報告書にまとめて提出するだけであったからだ。

「それで、簡単に言うとどうなるのかね?」

「太陽系がただの空間になります。惑星も恒星も全て消滅します」

織原校長の質問に、風祭技官はあくまでも冷静に答える。
普通ならば、もっと動揺するのであろうが、あまりに被害の予想が大き過ぎて現実味が沸いてこなかったのだ。

「消滅か・・・。(グレートミッション)に引き続き、また地球、いや太陽系の危機か・・・・・・」

「結局のところ、(ファーストウェーブ)も(セカンドウェーブ)も今回の(コズミックフラクチャー)の前哨戦でしかないという事です。あれのせいで、先の2つが発生していたのですから」

風祭技官の情報によると、例の紐状天体(コズミックフラクチャー)と恒星との衝突による余波が、地球をあれだけの災厄に導いたらしいので、あの「コズミックフラクチャー」を何とかしなければ前回の災厄を越える事が確実であった。

「そうか。我々だけの手では余る事態だな。今週末に開かれる会議で、対策を協議するしかないかな」

「そうですな。今、我々に必要なのは、正しい情報と知識。そして、一致した対策です」

「そこで、完成した新型DLSを搭載した(インフィニティー)による偵察任務というわけか」

更に、今まで一言も発していなかったヒュッター教官と、なくなってしまった「ウルティマ」の元司令であるロフコフ氏も続けて発言する。

「そうです。リチャード主任教授が準備を進めています。明日の午前9時に出発で、約6時間の飛行を予定しています」

「パイロットは、例の予科生の音山光太だったよな?」

「ええ。そうですよ。よくご存知で」

「50日間も一緒にいたからな。若いからとか予科生だからとかは少しも思わないが、あれだけの遠征直後に、これほどの任務を命令するのは酷ではないのかね?」

「それも考えなくもないですが、新型DLSを現時点でちゃんと使いこなせるのは音山光太だけです。新型DLSは、まだ敷居が相当に高いものですので・・・・・・」

織原司令の代わりに、ヒュッター教官が冷静に質問に答える。

「それで、例の未確認飛行物体の件についてですが・・・・・・」

「彼らの行動が、(コズミックフラクチャー)の太陽系到達を遅らせたというのは皮肉な話でしたな。一体何のために、あれだけの規模の戦闘を行ったのか・・・・・・」

ヒュッター教官は、再び冷静な表情で今回の事件についての総評をする。

「確かにそうですね。彼らは(ウルティマ)の重力制御装置を暴走させて、縮退超小型のマイクロブラックホールを発生させました。勿論、このサイズのブラックホールは極めて不安定なため、即座に蒸発しX線バーストを起こしながら消失しています。そして、この際に生じた時空の振動が(コズミックフラクチャー)に干渉し、その進行速度を大幅に減少させました。我々がここで対策を話していられるのも、例の未確認飛行物体のおかげとも言えます」

「不思議な連中だったな。いきなり姿を現したり消したりし、こちらを圧倒的な戦闘力で排除したかと思えば、我々を助けてもくれる・・・・・・。本当に何者なんだろう?」

風祭技官と織原校長が、立て続けに発言する。

「確かにその通りですな。それに、あの犠牲は何だったのか?と思う事もあります」

「だが、あの状況で、100%的確な判断を下せる人間は存在しない。多分、私でも同じ結果になったであろう。ヒュッター教官もあの場所にいれば、私と同じ感想を述べたと思うが・・・・・・」

ヒュッター教官の意見に、ロフコフ元司令は批判的な感情を込めて反論する。
その表情からは、「現場に居もしない奴が高みで偉そうに言うな」という感情が読み取れる。

「確かに、ロフコフ司令の言う通りですね。それに、作戦自体は成功したのですから、白銀君の能力は疑いの余地はないと言えます。それと、この件で保安部の横槍も少なくなるでしょう。彼らは、組織の再建に頭を悩ませているわけですから」

織原司令は、2人が感情的にならないように間に入って意見を述べる。
確かに、今回の大事件で保安部は自分達の組織の再建で精一杯の状況になるであろう。
本当は保安部長の更迭案も出ていたのだが、それをすると白銀司令も処分しなければいけないので、多くの反対意見が出てそのままという事になっていた。

「だが、今回の件で、もう1つ困った事が発生する」

「ロフコフ司令、その困った事とは?」

「今回の事件で、(ステルヴィア)の影響力が落ちたと判断した他のファウンデーションが、独自の路線を取ろうとする事だ」

「乱世こそチャンスですか・・・。人間とは困った生き物ですな」

「その点に関しては、私も同じ意見だよ。何にしても、明日の偵察の結果と週末の会議次第という事だな」

「ですな」

今度は、ヒュッター教官とロフコフ司令の意見は一致をみるのであった。


「というわけで、行き帰りの宇宙船内で寝ていられると思ったのに、実際は勉強と訓練漬けでした。(ビアンカマックス)も更に改良を加えられて高性能化した分、乗り手を選ぶ機体になってしまいましたとさ」

「新型DLSの調整と(インフィニティー)の訓練で忙しかったよ」

「光太君の補助が忙しかった」

「孝一郎を見ていると飽きなかった」

俺達が無事に「ステルヴィア」に帰還した翌日、みんなが俺達のために「お帰りなさいパーティー」を開いてくれていた。
内容は料理やデザートや飾りつけだけではなく、ミュージカル仕立ての劇を披露してくれて、その出来栄えたるやなかなかのものであった。
特に栢山さんの男装の麗人姿とお嬢のドレス姿は、往年の宝塚を思わせる雰囲気であった。

「しかし、衣装にセリフに歌にと大変だっただろう?」

「まあね。おかげで、俺は航空概論を落としたくらいだから」

「それは、ジョジョだけだろう。僕達は落としていないんだから」

「そうだよね。楽勝だったんだから」

ジョジョの意見に、大とピエールがツッコミを入れる。

「その代わり、交信実習は通っただろう!」

「へえ。それは、意外だな」

「言えてる」

「光太、孝一郎。お前らな・・・・・・」

俺と光太は、ジョジョに睨まれてしまう。

「僕は、船外補修の最速記録を出した」

「私なんて、重機二種のライセンス取っちゃったもんね」

「僕も、アーリーズのケーキ全部制覇した」

「みんな凄いね」

「(ピエールとアリサは凄いけど、大は微妙だよな・・・)」

しーぽんは素直に感心していたが、俺は大については少し微妙だと思っていた。

「そりゃあ、90日も経っているんだもの」

「約3ヵ月だからね。しかし、俺が一番ビックリしたのは、お嬢のそのイメチェンだな」

先に電話の映像で見た通りに、お嬢は髪を降ろして眼鏡を止めていた。
元々美人ではあったが、そのスタイルの良さと共に更に大人の雰囲気を出していて、俺とピエールを含め男性陣はかなりドキドキものであった。
特に俺よりも1歳下でお嬢の好きなピエールにとっては、大層刺激的な光景に見えるであろう。
あの朴念仁の光太ですら少し動揺していたのだから、その衝撃度が伺える。

「孝一郎君、名前で呼ぶ約束でしょう」

「ははは。そうだったよね・・・って、痛てて!」

俺は、隣にいたアリサにお尻を抓まれていた。

「美人にデレデレしないの」

「そんな事はないんだけど・・・・・・。というか、しーぽんと光太は付き合い始めたんだよな」

俺は、自分の話題がふられないように他の話題を提供する事にする。

「しーぽん、やったじゃないの!」

「しーぽん、やるではないか!」

「凄い・・・」

「そうかそうか。俺に引き続き光太までも」

「やっぱり、お邪魔要因がいないって大切だよね」

「ちくしょう!みんなに先を越されてしまった!」

女性陣はしーぽんに、男性陣は光太にそれぞれ声をかける。

「噂によると、(インフィニティー)の整備中に口説いたとか?」

「本当なの?孝一郎」

「俺に話してくれないという事は、その可能性も否定できないな」

「それで、本当のところはどうなの?しーぽん」

「あのですね・・・・・・」

「光太、どうなんだ?」

お嬢とピエールの追求に、2人は顔を真っ赤にしながらしどろもどろで答える。
要約すると、夜に2人で「インフィニティー」の整備をしている時に、光太に突然告白されたとの事であった。

「そうかそうか。昔から心配だったんだけど、無事に解決して良かった良かった」

「そして、明日は(インフィニティー)で2人っきりで偵察任務か。熱いね〜。お2人さん!」

明日の朝、光太としーぽんは「インフィニティー」で例の紐状天体の偵察に出かける事になっていて、その事を俺とアリサがからかっていたのだ。

「でも、新型DLSは大丈夫なの?」

同じく大分前に、新型DLSへの適正が低いと判断されたお嬢が、しーぽんを心配し始める。

「まだ初歩的な部分しか使えないけど、私は出力や制御関係を担当しているから、旧式のDLSでも大丈夫なの」

「ふーん。色々と大変なのね」

「俺やお嬢やしーぽんが、新型DLSをちゃんと使えるようになるには、更なる改良が必要なのさ」

「そうなんだ。光太君って、実は凄い人なのね」

「えっ!僕が?」

お嬢が光太の凄さに改めて感心していたが、私生活がアレなのでみんなにはあまり実感がないようだ。

「本人は至ってボケボケだけど、才能は折り紙つきだ」

「孝一郎、ボケボケはないのと違う?」

「当たっているじゃないか」

「それよりも、孝一郎君」

「何?」

「やよいでしょう?」

「えーーーとですね・・・。やよいって、痛ぇーーー!」

俺は、再びアリサに尻を抓まれてしまうのであった。


「それでねえ。町田先輩と弾みでキスしたらしいよ」

「私もそれは聞いた」

しーぽんと光太の話が終了した直後、なぜかこの「お帰りなさいパーティー」の性格は大きく変わって、「厚木孝一郎糾弾大会」へとその内容がシフトしていた。

「あれは純然たる事故でして・・・・・・。あの・・・。アリサさん聞いていますか?昨日も説明したと思いますけど・・・」

俺が恐る恐る隣のアリサを見ると、彼女が持っている紙コップは既に原型を留めていなかった。

「その他にも、私に勉強を教えて貰わないで、町田先輩ばかりに教えて貰っていた!」

「待てぃ!それは、しーぽんの教え方が、俺に合わなかったからだろうが!」

「それに、町田先輩の事を名前で呼び始めたよね」

「光太、お前まで・・・・・・。それは、何といいますか戦友として敬意を示したというか、本人の希望といいますか・・・・・・」

更に反対側の隣の席に座っているお嬢を見ると、彼女の持っている紙コップも、既に原型を留めていなかった。

「(まずいな・・・・・・)」

「90日間で、先輩と後輩の新しい恋の始まりってやつ?」

「大!何か言った!?」

「大ちゃん、何?」

「いや・・・。あのですね・・・」

不用意な事を言った大が、アリサとお嬢に睨まれて言葉を詰まらせてしまう。

「それに、町田先輩にお弁当まで作って貰って!」

「あれはさ・・・。俺の侘しい食生活を可哀想だと思ったからで・・・」

「私に頼めば良いのに・・・・・・」

「しーぽんには、光太がいるでしょうが」

「妹として、兄の浮気は容認できない」

亜美そっくりのしーぽんにそう言われると、本当に浮気をしているような気分になってくるから、世の中は不思議なものであった。

「だからさ。浮気じゃないんだって!」

「でも。孝一郎って、やよい、町田先輩と年上の女性に好かれ易いよね(蓮先生の事は、内緒だけどね)」

「りんなちゃん、それはなくない?それをいうなら、光太だってそうじゃないか」

「光太は、ちゃんと解決したじゃないの」

「俺も解決してるじゃん。そもそも、俺の彼女はアリサなんだ。他の女性との噂が出る事自体がおかしい!」

俺が力一杯力説すると、隣のアリサは顔を少し赤くしていた。

「孝一郎君が、迂闊だからよ」

「迂闊ってねえ・・・・・・」

「私と付き合えば、他の女の子なんて近寄らせないのに」

「お嬢、それはないのと違う?」

「ごめんね。アリサ。諦めきれなくて」

お嬢はアリサに冗談交じりで語っていたが、その目は本気そのものであった。
多分、イメチェンをしたのも自分のためではなく、俺の気を惹くためのものであろう。
効果の方は劇的であったが・・・・・・。

「俺なんて、どこが良いんだろうね。ピエールの方が顔は良いじゃない」

俺の意見に、ピエールは納得をしたように顔を縦に振る。

「顔は、孝一郎君も標準以上だからね。それよりも、この90日間で男の顔になっているわよ」

「そうかな?」

あまり実感はわかなかったが、綺麗な女性に褒められるというのは意外と気分の良いものであった。

「そこで素直に喜ぶから隙ができるのよ。それで、孝一郎を狙っているのは、町田先輩とお嬢という事なのね?」

「みたいです・・・・・・」

「でぇーーーもぉ!これは、私の物だから誰にも渡しません!」

そう言って、アリサは俺の腕にしがみ付いてくる。

「孝一郎君。町田先輩に誘惑されちゃ駄目よ。もう、アリサがいるんだから」

「志麻ちゃんの言う通りだね」

「なあに。俺と晶みたいにすぐに落ち着くさ」

「そうね」

「まあ。なるようになるんじゃないの?」

「大のところみたいにか?」

「孝一郎とアリサ。ラブラブだぁーーー!」

みんなは笑いながら感想を述べていたが、お嬢の顔に少し青筋が入っていた事に気が付いたのは俺だけであった。

「(お嬢はやっぱりお嬢だよな・・・。今更、やよいさんはおかしいだろうし、やよいって呼び捨てにするのもアレだし・・・・・・。本当に困ったよな・・・・・・)」

俺は、更に1つの問題を抱え込んでしまうのであった。


「大!急がないと見送りに遅れるぞ!」

「先に行ってくれて良いよぉーーー!」

「友達としては、問題発言だぞ!大!」

翌日の早朝、俺達は例の「コズミックフラクチャー」の探査を行う「インフィニティー」に搭乗する光太としーぽんの見送りに行こうとしたのだが、大が寝坊と朝食に時間をかけ過ぎたせいで、遅刻しそうになっていた。

「孝一郎!遅いわよ!」

「大のバカが遅刻したからだ!」

「本当に、大はマイペースなんだからな」

「言えてる」

「そこが、大ちゃんの良いところなのよ」

「出たな!バカップルの片割れ!」

大に付き合って遅刻しそうになった俺達が文句を言っていると、アリサ達と一緒にいたナナが、大に駆け寄って腕を絡ませながら反論する。

「というか。何で他のクラスのキタカミさんが?」

「大ちゃんの付き合い」

「納得した」

俺達が窓の外を見ると、展開した円形のフィールドの中で「インフィニティー」が待機していた。
多分、重力場を利用したカタパルトみたいなものなのだろう。
先日の戦いで俺と「ビック4」が行った、重力ポケットと同じようなものだろうと思われる。

「(インフィニティー)発進180秒前!」

「いよいよ出発か・・・・・・」

「孝一郎も、行きたかった?」

「どうかな?俺は、(ビアンカマックス)に乗れればどっちでも良いかも。でも、新型ロボットというのも捨てがたいかと」

「ふーん」

「大ちゃん。凄いね」

「そうだね。正義のロボット(インフィニティー)発進!ってやつかな?」

「俺も乗ってみたいな」

「ジョジョは、その成績をどうにかしないと無理だろう・・・」

「ピエール。本音を語って楽しいか?」

「発進10秒前!9・8・7・・・・・・2・1・発進!」

俺達が話をしている間にも発進カウントが進み、射出された「インフィニティー」は、順調に加速して作戦予定宙域に向かって飛んで行った。

「速いなぁーーー!」

「3時間で、目的宙域に到着か・・・」

ジョジョとピエールが、感心したような声で感想を述べていたが、俺達にもそろそろ授業の時間が迫っていた。

「さて、私達も授業に行かないと!」

「そうだな。次はB−3教室で・・・。ああ。アリサは実習だっけ?」

「まあね。じゃあ、私はここで」

俺達がいない間に、整備科に専科を変更したアリサは、俺達と別れて別の実習室に行ってしまう。

「整備か・・・。御剣先輩も才能はあるって言っていたし、(ビアンカマックス)を整備してくれる日が、早く来る事を願うとしますか」

「じゃあ、私達も教室に行きましょう」

「お嬢!駄目だって!」

アリサがいなくなった瞬間、急にお嬢は俺に腕を絡ませてくる。

「やよいでしょう。それに、あくまでも友情の一環よ」

「彼女でもないのに名前を呼び捨てっていうのは、ちょっと辛いと思うんだよね・・・。それに、友情ならピエールとは腕を組まないの?」

「うーーーん。そのうち気が向いたらね。それと、私がそう呼んで欲しいからなんだけど」

「ははは。(お嬢って、実は小悪魔系?)」

俺は落ち込むピエールを横目に、乾いた笑いで誤魔化しながら、お嬢の最近の言動に一人驚いていた。

「孝一郎、しーぽんがいなくて良かったね」

「本当だよ。りんなちゃん。最近のしーぽんは、小姑と化しているからね・・・」

「あーーーっ!しーぽんに言っちゃおうかな?」

「待ってぇ!これ以上、面倒な事を増やさないで!」

「フジヤマパフェを3回から5回に増やして」

「了解・・・・・・」

俺は自分の不用意な一言で、無駄な出費を増やしてしまう。

「とにかく、行きましょう。遅刻しちゃうわよ」

「えっ!お嬢・・・。あの、やよいさん・・・」

俺は教室に到着するまでお嬢に腕を引かれ続け、その光景を目撃されていしまったクラスメイト達に、「二股の厚木」という新たな渾名を付けられてしまうのであった。


無事に偵察任務を終えた2人は、「ステルヴィア」の校長室で織原校長とリチャード主任教授に報告を行っていた。

「僕が見た全ての事をちゃんと記録しておきました。片瀬さんも、現地で新型DLSを起動させて初見を記録しましたので、そちらも参考にしてください」

「お役に立てるかどうかは、わかりませんけど・・・」

しーぽんは、自信なさげに言う。
彼女の新型DLSの適正はそれほどでもなく、お試し程度という認識だったからだ。

「2人とも、ご苦労様でした。本当は、すぐに休んでくださいと言いたかったのですが・・・・・・」

リチャード主任教授が、申し訳なさそうに次があるような口調で語る。

「何かあるんですか?」

「2人には、大講堂に来て欲しいんだ」

「「迅雷先生!」」

2人の後には、いつのまにか入室してきた迅雷が立っていた。

「厚木や藤沢や(ビック4)の面々も呼ばれているから、そういつもと変わらないがな」

「やよいちゃんが?いえ、藤沢さんがですか?」

「詳しい話は現地で行うからすぐに来てくれ」

「「了解!」」

2人は報告もそこそこに、迅雷と大講堂に向かうのであった。


「俺が今回の事件の(ステルヴィア)の最高責任者に任命された白銀迅雷だ。知っている者が大半だと思うが、一応は挨拶をしておく。それと、今回の事件とは、先の(ウルティマ)の件と例の紐状天体の事を指す。あれがどのような影響を与えるかは、今週末のファウンデーション間の会議と政府からの正式発表があるまでは答えられないが、(グレートミッション)以上の規模の人員と資材を使った作戦が予想されているので、君達に召集がかかったわけだ。尚、この中には多数の学生も参加していると思うが、この会議の内容は重要機密に指定されているので、友達や家族にもその内容を話す事を禁止する。不用意に機密を漏らすと、処罰の対象にもなりかねないので注意してくれ!」

俺とお嬢が緊急で呼び出されて大講堂の席に座って待っていると、迅雷先生がしーぽんと光太を引き連れて入ってきて、会議の開会宣言を行う。
尚、この大講堂にはプロのパイロット達の他に、本科生全員と数人の成績優秀者の予科生も集められていた。

「しーぽんと光太も、引き続き大変だよね」

「6時間のデートは楽しかった?しーぽん」

「緊張していて、そこまで気楽にはいかなかった」

「とても見事なキラメキを見る事が出来たよ」

俺とお嬢のツッコミに2人は恥ずかしがりもせずに、普通の返答をする。

「ふーん。キラメキねぇ・・・。凡人の俺には、よくわからないな」

「今度、孝一郎も試してみれば良いんだよ」

「まあ。そのうちにね・・・」

光太はそうは言うが、新型DLSの適正が低い俺に、そのキラメキとやらが見える可能性はかなり低かった。

「既に知っていると思われるが、我々は(ウルティマ)宙域で多くの犠牲を出した。そして、それは簡単に補充が利くものでもない。パイロットの数は減ったが、これから2ヵ月後には(グレートミッション)を超える戦力を用意しなければならない。では、どうするか?答えは簡単だ!学生諸君にも(ケイティー)に乗って参加して貰う。これから(ケイティー)全機が大幅な改装に入るので、それが終わり次第、訓練と作戦の準備を手伝って貰いたいのだ。それと、成績優秀者の予科生諸君にも、(ケイティー)に機種転換訓練を受けて貰う。こちらは、正直に言って駄目元だ。成功すれば作戦に参加して貰うが、駄目なら他の予科生と共に普通の手伝いに入って貰う」

迅雷先生の説明は続く。
先日の「ウルティマ」での事件の真相は、既に多くの人達に伝わっていた。
数人の犠牲者なら事故で誤魔化せるが、数十人のパイロットが遺体すら碌にない死に方をしたので、とても隠し通せるものでもなかったからだ。
更に今日は、本科生はおろか予科生の成績優秀者まで呼び出していて、一人でも多くのパイロットを確保したいという、「ステルヴィア」上層部の意図が見え隠れしていた。

「私が、(ケイティー)に乗るのか・・・。大丈夫かな?」

「お嬢なら大丈夫でしょう」

「孝一郎君。やよいと呼んでね」

「何とも難しい注文を・・・・・・」

結局、俺がお嬢をやよいと呼んだのは最初の一回だけで、あとは恥ずかしいのと、恋人でも家族でもない女性を呼び捨てにする習慣のない日本人の悲しい性で、何回注意されてもお嬢と呼び続けていたのだ。

「やよい。孝一郎君に、無理を言っては駄目よ」

「初佳は、名前で呼んで貰っているから余裕ね・・・」

俺達の近くの席に座っている初佳先輩が、話しに加わってくる。
彼女は自分が名前で呼ばれているので、かなりの余裕を持っていた。

「本当は、先輩はいらないんだけどね」

「初佳、微妙にムカつくわ」

親友である2人の空気が徐々に冷たくなっていき、近くに座っているケント先輩と笙人先輩が、「何とかしろよ!」という視線を俺に向けてくる。

「やよい。初佳。大人気ないから止めなよ・・・・・・」

「そうね。孝一郎君の言う通りね」

「孝一郎君、やればできるじゃない(やっぱり良い響きよね。呼び捨てって)」

俺の一言で2人の機嫌は直り、ケント先輩と笙人先輩も納得したよな表情になったが、新たに不満気な表情を向けてくる者がいた。

「孝一郎君ったら!家族でもない、アリサ以外の女性を呼び捨てにして!」

俺と同じ日本人で同じような認識を持っているしーぽんが、俺を冷たい視線で見つめ始める。

「こっちが上手く行けば、あっちが駄目なのか・・・・・・」

「孝一郎も大変だね」

「光太、本当にそう思っているか?」

「勿論」

「予科生の諸君は、(ケイティー)をすぐに乗りこなせなくても落ち込まなくて良いからな。元々無理を言っているのはこちらなんだし、駄目でも他の予科生を統率して、やって貰いたい事が山のようにあるんだ。今まで通りに(ビアンカ)で頑張って欲しい」

会議は進んで行き、更に迅雷先生の話は続く。

「やよいちゃん。いきなり(ケイティー)で大丈夫?」

「やってみないとわからないよ。しーぽん(絶対に乗りこなす!そうすれば、孝一郎君と一緒にいる機会が大幅に増えるからね。初佳だけにチャンスを与えてなるものか!)」

「やよいなら大丈夫そうね。一緒に頑張りましょう(実力的に見て、乗りこなせそうなのは、やよいといても1人か2人・・・・・・。そうなれば、(ビック4)預かりになる可能性が高い・・・・・・。せっかくのチャンスが、半減?それ以下?)」

「頑張ってね・・・・・・。やよいちゃん」

表面上は、にこやかに話している2人であったが、心の中がどうなっているのかは誰にもわからなかった。
それでも、しーぽんは微妙に何かを感じ取っているらしく、複雑な表情でお嬢に励ましの言葉を送っていた。

「とまあ。今日はこんなところかな。まだ何も決まっていないのだが、覚悟はしておいてくれという事だ。では、解散!」

迅雷先生の閉会宣言で、全員が席を立って自室に帰って行く。

「俺達も、帰って飯にしようぜ」

「そうだね」

「孝一郎君、何か作ってあげようか?」

「しーぽんは、光太に作ってあげなよ。俺は、アリサが何か作ってくれるそうだから(うーん。しーぽんに釘を刺されているな・・・。浮気を疑われているのかな?お嬢と初佳先輩をけん制しているのかな?)」

「それもそうだね(ここで釘を刺しておかないと、すぐに町田先輩に餌付けされちゃうんだから・・・。それに、最近はやよいちゃんも危険だし・・・)」

「みんな。また明日ね」

「私も用事があるから。またね」

ところが、しーぽんと俺の予想に反して2人は先に大講堂を出てしまう。

「無駄な心配だったのかな?」

「それよりも、飯にしようぜ。まあ、あれだな。しーぽんと光太がいるから、2人きりになれないのが不満だけど」

今日は、久しぶりに4人で夕食を共にする事になっていた。

「孝一郎君の部屋でやれば良いじゃない」

「どうせ、邪魔が入るからな・・・・・・」

「そうもそうだね。私の部屋なら大丈夫かも」

ところが、しーぽんの予想に反し、しーぽんとアリサの部屋は予定よりも多くの人間で埋まるのであった。

「孝一郎君。おかずを作って来たわよ」

「孝一郎君。デザートを作ってきたから。勿論、みんなの分もあるわよ」

「ははは。どうも、すいませんって!痛ててっ!」

お嬢と初佳先輩がその程度の事で諦めるはずもなく、2人に笑顔を向けた俺はアリサとしーぽんに尻を抓まれるのであった。

「(俺が悪いってのか?誰か教えてくれよぉーーー!)」

今のことろ、俺の疑問に答えてくれそうな人は周りに一人もいなかった。


「やあ。厚木君。久しぶりだね」

「久しぶりって・・・。一昨日会ったじゃないですか・・・・・・。御剣先輩」

「(ウルティマ)遠征では、毎日顔を合わせていたからね。1日空くと懐かしい感覚になるんだよ」

「それは、先輩だけですよ・・・・・・」

翌日から、宇宙学園の全ての授業が休講になった。
詳しい作戦内容と担当作業が決まるまで、それぞれの専科に合わせた実地訓練や、効率の良い班の編成と稼動訓練が行われる事になったからだ。
そして、俺は更に改良を加えられた(数日おきに改良を加えられているので、何回目かも覚えていなかったが・・・)「ビアンカマックス」の調整作業を行っていた。

「そういえば、片瀬君と音山君は?」

「(インフィニティー)の整備と調整ですよ」

「あれも、重要戦力らしいからね」

俺達は、2ヵ月後に来襲する「コズミックフラクチャー」への準備を行っているはずなのだが、肝心のその影響と作戦内容を全く聞かされないままに何となく準備だけを行っているので、何となくヤル気が出ないままであった。

「(ウルティマ)の件は関係者に事実が伝えられましたが、(コズミックフラクチャー)の詳細が全くわかりません。それでも、準備だけはしないといけないし・・・・・・」

「不用意に情報を流すと、大きな混乱が起こるからだろうね」

「お待たせしました!アリサ・グレンノース参上です!」

「アリサ!」

「僕が指名したんだ。作戦本番は無理だけど、暫く僕の下で整備を手伝って貰う事になった」

「気が利くじゃないですか。御剣先輩」

「感謝します。だって、孝一郎を一人にすると危険だから」

「2人を繋げた原因の一つが僕である以上、僕は君たちを応援するさ。例え、町田君を応援するナジィが僕を微妙に虐めても、付き合う上で多くの譲歩を引き出されて、少し立場が不利になったかな?と思っても、僕は君たちを応援するさ・・・・・・」

御剣先輩が、少し遠くを見つめるような表情で言う。
どうやら、恋人同士である二人の勢力図に多少の変化があったらしい。

「「ありがとうございます(何かあったのかな?)」」

御剣先輩とナジマ先輩の間でどんな勢力抗争があったのかは知らないが、好意は素直に受け取っておく事にする。

「話を戻すけど、新型ビーム砲は完全に撤去する事にしたから」

「今回は、戦闘や破壊が任務ではないんですね」

「僕も詳しい状況を知らされてなくてさ。ほら。(ケイティー)は、推進部や装甲をいじって高性能化させるじゃないか。(ビアンカマックス)も最後の大改装を行って、ビーム砲の跡地にオースチン財団謹製の超高性能探知装置をセットするらしいよ」

「超高性能探知機?偵察が任務なんですかね?」

「さあ?僕も改装の指示だけを受けていて、何をするのかまでは・・・・・・」

「御剣先輩。早く改装してしまいましょうよ」

「それもそうだね。まずは、A−4〜A−8までのパーツを取り外して・・・・・・。ああ。厚木君は、2号機の方で訓練に参加してくれとの事だ。(ビック4)の面々が、例の予科生の(ケイティー)の機種転換訓練の面倒を見ているらしいから」

「2号機は、そのままの設定ですか?」

「そうだね。少し対G関係と機動性の改良のみを行うけど、その程度なら半日で終わるしね。2号機は万が一のための保険だよ。一応は探知機器を積む事になっている。1号機の改装に失敗したら、2号機を使えるようにするというね。もしかしたら、遊ばせておくのは勿体ないという事で、誰かが乗るかもしれないけど」

「へえ。誰なんですかね」

「時間がないから候補者が限られるけど、多分古賀だと思う」

「古賀先輩がですか?」

「(ビック4)の誰かにすると、チームで動いている以上、ちょっとね・・・」

4機でチームを組んでいるのに、1機だけ高性能機になると色々とバランスが崩れるからであろうと思われる。
一方、同学年のパイロット達を統率する予定の古賀先輩なら、「ビアンカマックス」の性能を生かせる可能性があった。
最も、相変わらずのパイロットを選ぶ機体なので、使いこなせるかは不明であったが。

「では。行ってきます」

「「行ってらっしゃーーーい!」」

俺はアリサと御剣先輩の見送りを受けて、「ビック4」のいる宙域に向かうのであった。


「どうも。厚木孝一郎参上ですって、あれ?」

俺が目的の宙域に到着すると、「ビック4」の青い「ケイティー」の他に、一機の「ケイティー」が飛行訓練をしているだけであった。

「他の予科生はどうしました?」

「2ヵ月では無理と判断されて、他の予科生の元に戻ったよ」

「それで、あの1機は・・・?」

「私よ。孝一郎君」

「やっぱり」

俺の予想通りに、「ケイティー」をすぐに乗りこなす事に成功したのはお嬢だけであった。
初佳先輩はもう一人か二人いると思ったらしいが、「ビアンカ」と出力が大幅に違う「ケイティー」は、そんなに甘い物ではなかったようだ。

「これで、君を含む6人で訓練を続行という事かな?今日はこれで終了して(ケイティー)の改修作業に入るから、暫くはシミュレーションだけだけどね」

「りんなちゃんだと、合格しそうですけどね」

「いくら成績優秀者といえど、年齢の問題があってね。上層部も色々と気を使わないといけない事が多いんだよ。人権団体とかね」

「俺達も、未成年ですけどね」

「やはり、15歳は超えていないとね・・・・・・」

「ケント先輩も、年下の彼女に無理をさせたくないんですね」

「だろうな」

「厚木君!笙人!」

ケント先輩は、俺と笙人先輩の意見に声を荒げる。

「あら。やっぱり、手作り弁当の裏にはそういう感情があったのね。安心して。私は、年齢差なんて気にしないで応援するから」

「ナジィ!」

「あら。そんな事があったのね」

「初佳も興味があるの?」

「昔から不思議だったのよ。背も顔も成績も運動神経も性格も家柄も最高の王子様なのに、浮いた話題一つないから」

「じゃあ。初佳が付き合ったら?」

「何か完璧過ぎて、裏がありそうで嫌なのよね。他の女の子も、それが原因で近寄らないのかも・・・・・・」

初佳先輩の意見は、意外と的を得ているのかもしれなかった。

「男の子は、少しだらしないくらいが良いんですよ。孝一郎君はそういうタイプですよね。ここぞという時には頼りになるけど、普段は何か母性本能をくすぐるような・・・・・・」

「やよい。大人の意見ね」

「初佳も、そう思っていない?」

「そうね。ここぞという時には、頼りになるわね。初めは、それが嫌でライバル視していたけど・・・。でも、私を頼って勉強でわからない所とかを素直に聞いてくるの。それが、少し可愛くてね」

「(ウルティマ)遠征中に、髪を降ろして眼鏡を止めたら、画像を録画するくらい気に入ってくれたのよ。それに、再会した時には顔を赤らめていたしね。そういう所が可愛いわよね」

「昔も髪を降ろしていたけど、眼鏡まで止めるとは驚いたわ」

「状況によって使い分ければ、孝一郎君のハートをバッチリキャッチよ!」

「私も伊達眼鏡でも買おうかな?年上の家庭教師のお姉さんって感じで・・・」

「初佳。藤沢君。今は、訓練中なんだけど・・・・・・」

「初佳。お前は恐ろしい女になったな。そして、類は友を呼ぶか・・・」

「初佳。ファイト。藤沢とグレンノースに負けないでね」

「何を話しているんだよ!(まずい!アリサにでも聞かれたら・・・)」

「ビック4」の3人が、それぞれに感想を述べるのと同時に、俺は顔を真っ赤にしつつ、ささやかに反論するのであった。

「やっぱり!あの二人には要注意ね!」

「町田君。藤沢君。無線の内容が、こちらにも入ってきているんだけど・・・・・・」

「ビアンカマックス」の改修を行っているアリサの御剣先輩にも、テストのために付けっぱなしにしていた無線機を通じて先ほどの恥ずかしい内容の会話が入ってきていたのであった。


「孝一郎の部屋って、○ーゲン○ッツがあるから好き!」

「りんなちゃんの言う通りだね」

「でも、良く財力が続くわね」

今日もいつものように訓練を終えてから自分の部屋で寛いでいると、最近、俺の部屋に入り浸るようになったりんなちゃんとしーぽんとアリサが、美味しそうに俺が買ってきた某高級アイスクリームを食べていた。
ちなみに、お嬢が「ケイティー」に早く慣れるために居残り特訓を行っており、初佳先輩もそれに付き合う形になっていた。

「両親に引き換え券を送って貰ったからだ。勿論、尽きれば安いアイスに変更するけどね」

「それはそうと。りんなちゃんは帰らなくても良いの?」

「しーぽんとアリサの部屋に泊めて貰うから良いの」

「ご両親が心配するだろう」

「いいのいいの。本当に心配なら早く帰ってくるよ」

「今週末の会議の準備が忙しいんだよ。りんなちゃんも子供のような事を言わないでさ・・・・・・」

「だって、りんな。お子ちゃまだもん!」

「光太と付き合おうとしたのに?」

「孝一郎の意地悪」

「ピンポーン!」

その時、部屋のチャイムが鳴ったので出ると、そこにはりんちゃんのお母さんが立っていた。
どうやら、娘を迎えに来たようだ。

「いつもご馳走になってすいません」

「気にしないでください。もらい物ですから(りんなちゃんのお母さんって、綺麗だよな。俺の母さんと大違いだ。そして、あの神の領域にある胸。お嬢すら到達していないGカップはありそうな・・・・・・)」

「では、これで失礼します」

「また遊びに来なよ。りんなちゃん(あの胸が拝めるなら)」

「孝一郎。しーぽん。アリサ。またねーーー」

りんなちゃんはお母さんと共に帰って行くが、手を振っていた俺は新たな災厄に見舞われる事となった。

「孝一郎!りんなのお母さんにデレデレするんじゃないの!」

「どうして、バレたんだ!?」

「顔に全部出てるのよ!」

「まさか!勝負師と呼ばれた俺がか?」

「柔道じゃなくて、女性絡みだと全部顔に出るのよ」

「しまった!俺にそんな弱点が!」

「孝一郎君・・・・・・。最低・・・・・・」

「のはっ!」

しーぽんに最低と言われた俺は、大きなショックを受けるのであった。


「日曜日に、りんなちゃんの家でパーティー?」

「そうなんだ。みんなを誘って盛大にね」

翌日の早朝、みんなでXECAFEで朝食を取っていると、りんなちゃんにホームパーティーに誘われる。

「先日のウルティマでのお礼を兼ねてだって」

「俺は、何もしていないけどね。それで他のメンバーは?」

「ここにいるみんなと(ビック4)と御剣先輩かな?大ちゃんはナナも誘ってね」

「わかった」

「お母さん、ケーキを作るのが上手なんだよ」

「それは、是非参加しないと」

ケーキ好きの大とナナにしたら、是非参加したいところであろう。

「御剣先輩には、私が伝えておくわ」

「頼むね。アリサ」

「俺はケント先輩達だな。それと、古賀先輩にも声をかけておくか」

俺は、本科生で優秀なのにも関わらず、最近、影の薄い古賀先輩にも声をかけておく事にする。
彼も「ビアンカマックス」の2号機で、例の作戦に参加する事になっていたからだ。
以上のように、「コズミックフラクチャー」に対抗して何かの作戦が行われる事になっているのは決定事項なのだが、どんな作戦なのかはいまだに不明というもどかしい状況が続いていた。

「人数が増えるのは大歓迎!」

「ところで、ピエールは誰をエスコートするんだ?」

「お前には、晶ちゃんがいるからって・・・」

ピエールは縋るような表情でお嬢を見るが、彼女はそれに気が付いていないようであった。

「大は、ナナちゃんだろう?」

「まあね。手作りケーキが楽しみだよね」

「こんな、色気よりも食い気の男に遅れを取るとは・・・・・・」

ピエールは、大ですら恋人がいるという状態に更にショックを受けていた。

「それで、孝一郎は誰をエスコートするんだ?」

「俺か?アリサに決まってるだろう」

ジョジョの質問に、俺は何の迷いもなく答える。

「そして、光太がしーぽんか。ここは不動だよな」

「ジョジョ!不動じゃないカップルなんていないだろうが!」

「ははは。それもそうだったな(お前のところは怪しいじゃないか)」

俺の抗議に、ジョジョはわざとらしく笑いながら返事をする。

「私は、孝一郎君と一緒に行こうかな?」

「(新たな騒乱を増やさないでくれ・・・・・・)」

俺は、お嬢の一言にまた恐怖するのであった。


「パーティーかい?」

「(ウルティマ)でのお礼を兼ねてだそうですよ」

「僕は何もしてないけどね」

「俺もそうですから、純粋にパーティーを楽しみましょうよ」

俺は、午後のXECAFEでお茶を飲んでいた「ビック4」の面々を見つけてパーティーの話を始める。
その場には偶然にも古賀先輩もいて、二度手間が省けてラッキーであった。

「俺もいいのかな?」

「人数が多い方が楽しいと思いますけど」

「古賀君は同じ学年の本科生を統率する立場で、色々と大変になるんだから、楽しんで損はないと思うよ」

「ですかね。でも、風祭家のホームパーティーだよね。風祭技官って、確か・・・・・・」

「そうね。日曜日の対策会議に出席するはず」

古賀先輩の疑問にナジマ先輩が答える。

「対策会議ですか。でも、俺達って既に準備してますよね」

「そうね。会議の結果が出てから準備するよりも、今の内に実行組織の器を作った方が、作戦の成功率が上がるからよ。何と言っても、(コズミックフラクチャー)の到達まであと2ヵ月を切ったんだから」

「じゃあ、風祭技官は会議後に合流ですか」

「合流できれば良いけど・・・・・・」

「詳細は不明ですけど、大変な事になるらしいじゃないですか。揉めてる場合じゃないと思いますけど」

「厚木、(ウルティマ)での件を忘れたの?」

「俺は、そこまで人間が愚かだって思いたくないですけどね・・・」

「そうね。孝一郎君の言う通りね」

俺の発言に、それまで黙っていた初佳先輩が返事をする。

「今回もギリギリ何とかなると思うわ。でもね。私はもう一つの懸念を抱えているのよ」

「初佳先輩。それって、何ですか?」

「日曜日のパーティーで、孝一郎君が私をエスコートしてくれるかって事なんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

俺はお嬢に引き続き、初佳先輩の発言にも恐怖するのであった。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

更に翌日の朝、いつものメンバーでXECAFEで朝食を取っていたのだが、女性陣4人に会話がなく、どんよりと暗い雰囲気を醸し出していた。
ちなみに、りんなちゃんはピエールと普通に会話をしているようだ。

「(ジョジョ、何事なんだ?)」

「(晶に聞いても教えてくれないんだよ)」

俺は小声でジョジョに真相を尋ねたのだが、ジョジョにもよくわからないようだ。

「(光太は、しーぽんから何か聞いていないのか?)」

「(これは女性同士の問題で、僕にも話せないってさ)」

「(女性同士の問題ね・・・・・・)」

光太も真相を聞かされておらず、4人の様子を見ると一言も会話はなかったが、しーぽん・アリサ、お嬢・晶組に分かれて対立しているように見えた。

「(りんなちゃんは、何か聞いてない?)」

「(知っているけど、真相は話せない。女って色々とあるのよ。時間が解決するから、男の子は黙って見守っていなさい)」

「ここに来て、仲良し4人組で対立かよ・・・・・・」

12歳のりんなちゃんに諭されるように言われた俺達は、素直に事態を見守るしかなかった。


「私が話したって言うのは内緒よ」

朝食後、アリサに真相を聞いてみたのだが、同じような理由で話す事を拒否され、どうしようかと思っていたところに、キタカミさんが来て真相を教えてくれたのだ。
キタカミさんは晶と友達だったので、4人の対立を何とか俺に収めて欲しいようであった。

「でも、なぜに俺?」

「厚木君にも原因があるからよ」

「俺が?」

「そうよ」

キタカミさんの話を総合すると、始めはしーぽんと晶の諍いが原因だったらしい。
光太に少しでも追い付くべく、自主訓練をしようとしたしーぽんと晶が顔を合わせた時に、「私は、あなたや光太や俺やお嬢やりんなのような天才じゃない!」と晶が自身の本音を語ってしまったらしいのだ。
そして、晶は、その事をアリサに話して事態を解決しようとしたらしいのだが、「しーぽんは、始めは落ちこぼれだったけどちゃんと努力したんだ。それに、それは私に言うべき事じゃない。しーぽんに直接謝れ」と言われ、晶も「整備なんて言って、比べられない分野に逃げたあなたにそこまで言われる筋合いはない!」と売り言葉と買い言葉になってしまったらしいのだ。

「でも、お嬢がそれに入るの?」

「そこで、厚木君の事が出てくるのよ」

2対1の対立を見かねたお嬢が、事態を収拾すべく仲裁に入ったらしいのだが、お嬢は無意識にルームメイトである晶側に立ってしまったらしく、それをアリサに察知されて、新たな火種を生んでしまったらしい。


「(ここでお嬢が出てくるのは変よ!晶がしーぽんに素直に謝れば良いんだから!それに、既に決まっている枠組みを強引に崩そうとするお嬢に、喧嘩を仲裁する資格はない!)」

「(どういう事かしら?アリサ)」

「(孝一郎と私は、正式に付き合っているのよ。それをあんな風に邪魔するなんて!)」

アリサも、いつもなら少し怒りつつも笑って済ます問題なのだろうが、自分の恋人が戻ってきたのに、2人きりの時間が少ない事にストレスを溜めていたようなのだ。

「(アリサ!私はしーぽんに悪い事を言ったと思っている。でも、孝一郎の件は関係ないだろう!やよいの仲裁が気に入らないからって、関係ない事でやよいを責めるな!)」

晶は感情のボルテージが上がって、無意識に俺の事を名前で言ったらしいが、アリサはそれも気に入らずに2人の対立の溝が広がっていた。

「(私も、最近のやよいちゃんはおかしいと思う。私も孝一郎君の事が好きだったけど、あの孝一郎君の告白で素直に諦めたもの。町田先輩も、2人が付き合っている事を知っているのに変だよ)」

更にアリサの迫力に押されて静かにしていたしーぽんが、自分の意見を語り始める。
既に、晶に言われた事は気にしていなかったのだが、いい機会なので忠告しようと思ったようだ。

「(しーぽんも、その件は関係ないじゃないか。私がしーぽんに言った事は100%私が悪かったけど、孝一郎の件は、アリサにも問題があるんじゃないか?それに、孝一郎が駄目でも、ちゃんと光太と付き合っているしーぽんがその事を言うのはおかしい!)」

「(ちょっと!晶!どういう事?)」

「(アリサに隙があるから問題があるのよ!本当に2人が相思相愛なら、あんな事にはならないと思う)」

「(ジョジョなんて、晶しか興味がないからそんな事が言えるのよ!)」

「(ジョジョの悪口を言わないで!)」

「(アリサ。それはジョジョ君に悪いわよ。ジョジョ君は良い子じゃないの。晶に早く謝って)」

「(お嬢は随分と常識的な事を言っているけど、もし私と晶の立場が逆ならジョジョを晶から奪おうとしているのよ!あまり褒められた事ではないわ!)」

「(それは・・・・・・)」

アリサの鋭い追求に、お嬢は口を噤ませる。

「(確かに、私は光太君と付き合い始めたけど・・・・・・)」

「(しーぽん。あなたには光太君がいたけど、私には今のところ、孝一郎君しかいないのよ。この感情は誰にも止められないの。多分、初佳もそう。それに、先に光太君を好きだったのは、りんなちゃんじゃないの)」

「(そんな事を言うやよいちゃんは卑怯だよ!でも、孝一郎君は、自分の恋人はアリサだって正々堂々と言っているじゃないの。2人はその邪魔をしているだけだよ!)」

「(そうかしら?表面ではそう言っているけど、彼の心の中に迷いがないと言えるのかしら?私は、それが払拭されるまで決して諦めない!)」


その後、4人の口喧嘩は平行線を辿って翌日に至っているらしかった。

「これって、原因は俺?」

「最初は違うと断言できるけど、今では完全に厚木君が原因ね」

「そうか。(アリサは表面上は明るくしていたけど、悩んでいたんだな・・・)でも、ここで俺が入ったら更に複雑になると思うけど・・・・・・」

「そう言われてみると・・・・・・」

「更に、俺がこの事を知っている事が晶にバレると、キタカミさんの立場が悪くなる。最悪、対立が複雑化して長期化の可能性も・・・・・・」

「えーーーと。情報源の秘匿をお願いするわ」

「事情は知っている。でも、口を出せない。何とももどかしい状況で・・・」

俺は、キタカミさんから事情を聞く事はできたのだが、それは新たなもどかしさを生む行為でしかなかった。


「それでね。ピエールがお嬢を映画に誘ったんだけど、見事に撃沈したらしいのよ。仕方がないから他に一緒に行く相手を探していたんだけど・・・」

「アリサ。誰だったの?」

「笙人先輩だったらしいよ」

「ぷっ!笙人先輩って」

「何で笙人先輩なの?」

「たまたま映画館の前で会ったんだって。しかも、その映画が恋愛映画でさ」

「「「「あははははははっ!」」」」

翌日、四人の事を心配していた俺は、思いっきり拍子抜けしてしまう。
昨日は一言も口を聞いていなかったのに、今日は楽しそうに話をしていたからだ。

「何で?」

「さあ?女の子って意味不明だよね」

光太も、不思議そうな表情をしながら答える。

「それで、笙人先輩がピエールに聞いたらしいのよ。何でキスをしたのに、(嫌い!)って言ったんだろうって」

「普通年齢からいって、ピエールが笙人先輩に聞く事よね」

「言えてる」

アリサの話に、お嬢と晶が合いの手を打つ。

「でも、俺もわからないな。嫌いって言ったんだよな」

「俺もわからない・・・・・・」

「僕もだ・・・」

「僕も・・・」

ジョジョ、俺、大、光太の男四人は同時に悩み込んでしまう。

「四人とも、デートに行く時の映画は、エッチなのと恋愛映画は向かないタイプだね」

「りんなちゃん。デートでエッチなのは無理だろう」

ジョジョは、当たり前の常識論を展開する。

「そうそう。アレは男がこっそりと見るもので・・・」

「孝一郎はエッチだね。コッソリと見るの?」

「男は、誰でもコッソリと見ます!」

「孝一郎の部屋の、鍵の掛かった机の引き出しの事?」

「アリサ!余計な事を話すな!というか!何で知っている!?」

俺の堂々たる態度は、アリサの秘密の暴露によってアッサリと崩れてしまう。

「男はみんなスケベだからねえ。想像つくわよ」

「この前、掃除に行くと言った時か・・・・・・」

アリサは過去に数回ほど、俺の留守中に部屋に入って料理の支度やら掃除やらをしていたので、その時に探索されてしまったようだ。

「孝一郎君のエッチ!」

「孝一郎君も男の子なのよね」

「やよいは、余裕だな・・・」

俺は、立て続けに女性陣の非難や呆れたような表情に晒されてしまう。

「だから、こんなスケベな男は止めておきなよ。お嬢」

「そうはいかないわよ。アリサ」

俺は事情を聞いていたので、再び喧嘩にでもなるのかと思ったのだが、二人はお互いに余裕を持って会話をしているようであった。

「何にしても、明後日の日曜日は家でパーティーだからね。みんな。楽しみにしていてね」

りんなちゃんの閉めの言葉と共に朝食の時間は終わり、結局、俺達男性陣には、あの喧嘩が収まった理由が伝わらないままであった。


「私の一存で話すんだからね。秘密は厳守してね」

「わかった。でも、大は知ってるんだろう?」

「大ちゃんは、情報収集のエキスパートよ。でも、漏らすなんて迂闊な事はしないわ」

それぞれが訓練や整備で忙しい時間の間を縫って、俺はキタカミさんに例の女性陣の諍いが終結した時の状況を尋ねていた。

「特に凄い事もないんだけどね。言いたい事を言い合って、みんなで泣いてそれで終わりだったみたい・・・・・・」

キタカミさんの話を簡単に説明すると、「この泥棒猫!孝一郎に近づくな!」「アリサに魅力がないからよ!絶対に奪い取ってやる!」という罵り合いにまでなったので、始めの喧嘩の原因であった晶としーぽんがまずいと思ったのか、懸命に止めに入り、「せっかく、友達になったのに!」というしーぽんの一言で全員が泣き出してしまったらしい。

「でも、それって何も解決していなんじゃない?」

「お互いに、言いたい事を言ったらスッキリしたみたいよ」

「本当かよ・・・・・・」

「お互いの友情はそのままで、厚木君は取り合うって事じゃない?正確には、藤沢さんの奪取作戦をアリサが防衛するという感じで」

「以前のままじゃないか・・・」

「厚木君は、そういう星の下に生まれたのよ」

「結局、俺って、無駄な心配をしただけ?」

「かもね」

「それで、俺の女難の相はそのまま?」

「そうね」

「何で俺ばかり・・・・・・」

俺の女難の相は、女性陣の喧嘩くらいで収まるものでもなかったようだ。

「キタカミさんは、俺に惚れないでね」

「それは自意識過剰よ。私は、厚木君みたいな人はタイプじゃないから」

「どうも・・・・・・」

俺は、キタカミさんのハッキリとした拒絶に微妙に傷付くのであった。


「さて、りんなちゃんの家に行くとしますか」

日曜日の朝、俺は久しぶりにあのバイクを引っ張り出していた。
気合を入れて購入したものの、様々な事件等に巻き込まれて乗る機会が少なかったので、学園の寮からかなり遠方にあるりんなちゃんの家まで、これで行く事にしたのだ。

「では、どうぞ」

「確か、初めて後に乗せた女性はお嬢だったわよね」

「その頃は、俺達は付き合っていなかったでしょうが」

「それもそうだったわね」

俺は、ヘルメットを被ったアリサを乗せて風祭邸に向けて出発する。

「気持ち良ぃーーー!」

「久しぶりだけどねぇーーー!」

風を突っ切りながら休日の道路を走っていると、風祭邸のあるF−5地区に向かう天井モノレールの姿が確認できた。

「あれ?しーぽん達が乗っているねぇーーー!」

「孝一郎は、目が良いわねぇーーー!」

「しぃーーーぽぉーーーん!お嬢ぉーーー!気持ち良いわよぉーーー!」

「それって、聞こえるかぁーーー!?」

「言ってみただけぇーーー!」

バイクを運転しているので、後のアリサの様子は確認できなかったが、その表情は微妙に勝ち誇っているように感じた。

「君達、本当に仲直りしたぁーーー!?」

「したわよぉーーー!でも、この件では二人はいまだにライバル状態なだけよぉーーー!」

俺が最後にモノレールの方を見上げると、窓際にお嬢らしき人の姿が確認できたが、心なしかその表情が少し引きつっているような気がした。

「(まさかね。あんな遠くじゃあ、顔なんて見えないし・・・・・・)」


「ふふふ。アリサ、二人きりでツーリングって事?でも、私が一番最初に乗せて貰った事実は揺るがないわ」

「やよいさんが怖い・・・・・・」

風祭邸のあるF−5地区に向かう天井モノレールの車内で、藤沢やよいは一人窓際で不気味な笑顔を浮かべていて、近くで様子を伺っていたピエールを恐怖のどん底に落としていた。

「やよいさん・・・?」

「何?ピエール君?」

「いえ。何でも・・・・・・。その内、僕とツーリングにでも・・・」

「ごめんね。ピエール君。そういうのは、例の事件が解決してからね」

「(それって、例のコズミックフラクチャーの事?それとも、孝一郎の取り合いの事?)」

ピエールの疑問は、なかなか晴れる事はなかった。


「いらっしゃいませ!」

その後、先の風祭邸に着いた俺とアリサは、りんなちゃんの歓迎を受けていた。

「二人っきりでデートしてきたんだ。羨ましいなぁーーー」

「りんなちゃんは、誰とデートしたかったの?」

「今のところ、相手がいないけどね。可哀想だから、ピエールでも誘おうかな?」

「それは、微妙にピエールが可哀想だ・・・・・・。お引越しおめでとうございます。はい。引越し祝い」

「ありがとう。何だろうね」

りんなちゃんが、お祝いの包みを楽しそうに眺めていると、続いて先ほどモノレール内で見かけた光太達が入ってくる。

「「「「「「「「こんにちは!」」」」」」」」

「みんな。いらっしゃい!」

「へえ。広いところなんだね」

大は、風祭邸の広さに素直に感心していた。

「今までの居住区に空きがなかったんだって。本当、(ウルティマ)が吹っ飛んでラッキーという感じだね」

「いきなり無礼だね」

「だって、今日は無礼講だし」

「本当に無礼だ」

大はりんなちゃんのおかしな掛け合いは続く。

「先輩方も、ようこそいらっしゃいました」

「僕達まで悪いね。本当は、何もしてないんだけどね。はい。これは(ビック4)からの引越し祝いだよ」

「ありがとうございます。みなさん。我が家へようこそ」

りんなちゃんの誘導で風祭邸にあがると、そこには先に古賀先輩が待っていた。

「先輩。早いですね」

「まあね。先に寛がせて貰っているよ。コーヒーで良いかな?」

「そうですね。俺も手伝おうかな?」

「孝一郎は下手だから、私がやるわよ」

「久しぶりだね。厚木君の彼女のグレンノース君。噂によると、色々と大変らしいけど」

「孝一郎が、よその女性に気を取られ過ぎますからね」

「それは、なくない?」

「事実じゃないの」

「否定できない・・・・・・」

確かに、アリサの言う通りに、最近の俺は多くの女性に振り回されっぱなしであった。

「今日は、女性陣は料理に集中するから、男性陣は大人しく待っていなさい」

「へいへい。でも、女性差別だって事にならない?」

「お嬢や町田先輩が、気合を入れているらしいよ。目標は孝一郎よね」

「俺、重量級の選手になりたくないんだけど・・・・・・」

「全部食べなきゃいいのよ。じゃあ、私も調理を開始するから」

コーヒーを人数分淹れたアリサは、エプロンをしてから調理場へと向かうのであった。


「うわーーー。凄い量のケーキだ」

「全部お母さんの手作りだよ」

「いただきまーーーす!」

大は、別のテーブルに大量に置かれている手作りのケーキの味を全て見ていた。
正直、胸焼けのする光景だ。

「おいしい」

「お土産に持って帰る?」

「ナナは、料理をしているからね。持って帰るよ」

「わあ。彼女想いなんだぁ。ねえ。ナナって、料理できるの?」

「りんなちゃんは?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

双方に奇妙な沈黙が広がっていた。


「やあ。厚木君。こっちだよ」

更に別のテーブルでは、ケント先輩、笙人先輩、古賀先輩、御剣先輩が、ノートパソコンの画面を見つめながらコーヒーを飲んでいた。

「先輩方で集まって、何をしているんですか?」

「例の会議の速報を見ている」

風祭技官が出席する会議は、行われる事自体は秘密でも何でもなかったが、会議の進行状況は完全に部外秘で、後日に太陽系連盟から公式な発表がなされる事になっていた。
だが、目の前の画面には、文字だけではあるが議会の速記録が定時的に表示されていた。
一体、どうやって情報を仕入れているのかと思ってしまうのだが、それを可能にしているところが、「ビック4」の「ビック4」たる所以であった。
まるで、一緒に犯罪に加担しているような気分であったが・・・。

「笙人先輩。今日の会議は非公式で・・・・・・」

「(蛇の道は蛇)だ。気にするな」

物凄く気になったのだが、「ビック4」のそれも笙人先輩の事なので、気にしない事にする。

「(コズミックフラクチャー)ですか。解析の手伝いはしましたけど、一体何なんでしょうね?」

「つまりだ。あの紐の正体は、次元の裂け目なんだ。我々の4つの次元に加えて宇宙には6つの次元があり、カラビ・ヤウ空間に巻き込まれて閉じている。いわゆる超ひも理論だね。それが表に出ているわけだ」

「何となく、授業でやった記憶がありますけど、それと地球が接触するとどうなるんです?」

古賀先輩の説明がわかり難かったので、俺は結論をケント先輩に聞いてみる。

「俺もわけがわからないのにも関わらず、必死に説明したのに・・・」

古賀先輩は、俺の態度に少し傷付いたようだ。

「簡単に言うと、裂け目に引き込まれて原子分解する。地球滅亡の序曲だね」

「(ファーストウェーブ)や(セカンドウェーブ)は、地球本体くらいは残ったんですけどね・・・・・・。もっと、深刻なんだ」

ケント先輩はサラリと言っていたが、状況は深刻そのものであった。

「なあに。大丈夫さ。事前にあれだけの準備をしていた事だし、前回の経験もあるからね」

とは言ったものの、ケント先輩が(笙人先輩かもしれないが・・・)開いたパソコンのディスプレイの上では、例の「コズミックフラクチャー」のシミュレーション画面が展開されていて、接触した惑星が崩壊していく様子が映し出されていた。

「前から思っていたんですけど、どこから仕入れてくるんです?その情報」

「笙人経由さ」

「やっぱり・・・・・・」

多分、「ウルティマ」からの帰り道で「コズミックフラクチャー」の解析を手伝わされた時に、何らかの糸口を掴んだのであろうが、「この人達って、本当に二十歳?」と思わせるのに十分な材料であった。

「それに、失敗しても文句を言う奴もいませんしね。失敗したら、みんな例外なく死にますから」

御剣先輩の爆弾発言に、全員がギョッとしたような表情をする。

「御剣君は、大胆な事を言うね」

「そう思って、気楽にやりましょうよ」

「御剣の言う通りだな。二ヵ月で人類全体の避難など不可能だし、人を選んで避難計画を立てている事が公になったら、暴動が発生するからな。全員生き残るか、全員死ぬか二つに一つだ」

笙人先輩の意見に、全員が無言で頷く。

「そうですね。それが、ベストかな?」

その後も、俺達はパソコンのディスプレイを見つめ続けていた。


「町田先輩!やよいちゃん!これは、パーティーの料理であって、孝一郎君の食事じゃないのよ。もっと、パーティーっぽいメニューを!」

「私は同じ日本人である、古賀君や御剣君や笙人の事を考慮しているわ」

「私は、レパートリーの枠が少ないから」

「やよいちゃんの嘘吐き・・・」

しーぽんの目の前で、初佳先輩とお嬢は、肉じゃがやキンピラゴボウや天ぷらを作っていて、誰が見ても明確な目標の元に調理を行っていた。

「アリサも、何か言う事はないの?」

「しーぽんも、小姑ぶりが板に付いてきたわね。私は普通に料理をしてるわよ。それに、孝一郎は美味しければ何でも食べるからね」

「アリサは何を作っているの?」

「グラタンよ」

「グラタン?」

「孝一郎も、意外と味覚がお子ちゃまなのよ。最近、作ってあげたら気にいったみたいよ」

何だかんだ言っても、アリサは孝一郎の好みのメニューを作っていて、初佳先輩とお嬢に微妙に勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「(くっ!彼女だから、好きな料理は把握済みって事か!)」

「(次に作ってあげるとしましょうか。ちょっと、ムカついたけど)」

だが、年上で老練な二人は、心の声と表情を表に出す事はなかった。

「それで、晶は何を作っているの・・・・・・?」

「キタカミさんも・・・・・・。何を・・・・・・?」

アリサとお嬢は調理場の端で、何か不気味な物体を作っている二人の少女達に恐怖していた。

「何って、料理なんてした事ないから」

「私も、食べるのは得意なんだけど」

「というか。食べるのが苦手な奴なんて、奇跡に近いわよ」

アリサの言う事は、最もであった。

「まあまあ。晶ちゃんもナナちゃんも、ジョジョと大ちゃんのために料理を作っているんだから・・・・・・(私は食べないわよ)」

「そうだよね。恋人同士の邪魔は良くないわね・・・(ジョジョと大ちゃんに任せましょう)」

「そうね(ジョーンズ君。小田原君。ご愁傷様)」

「ジョジョと大は、それなりに作れるのにね。本当に世の中って、バランス良くできているのね(何か変な色ね・・・。食べないから良いんだけど・・・)」

お嬢、しーぽん、初佳、アリサは口ではそうは言っていたが、心の中では二人の冥福を祈り始めるのであった。


「エンパヤ。ネルタカ。エパーリア。美味しくな〜れ!美味しくな〜れ!ふふふ。今日は、大成功ね・・・」

ちょうど同じ頃、調理場の反対の端では、ナジマがおかしな呪文を唱えながら煮えたぎる鍋に香辛料を加えていた。


「孝一郎君。さあ、どうぞ」

「今日は自信作よ」

「ちゃんと、全部食べなさいね」

時間もお昼になり、用意されたテーブルには沢山の完成した料理が並べられていたが、俺は例の三人に常軌を逸した量の料理を勧められていた。

「あの・・・。こんなに食べられません」

「私のをメインに食べれば問題ないわよ」

「私のこそ全部食べるべきね。栄養の計算も完璧だし」

「孝一郎の好きな物を食べれば良いわ。私が好物ばかりを作ったから」

「・・・・・・・・・・・・。ええい!いただきます」

お嬢、初佳先輩、アリサの包囲網に降伏寸前であったが、俺は覚悟を決めると、大量の料理を貪るように食べ始めた。


「大ちゃん。今日は、私がよりをかけて作ったからね」

「ナナって、今日で料理をしたの何回目?」

「3回目よ」

「ふーーーん。意外と多いんだね・・・」

大とナナは、二人でいる時は外食しかしないので、今日が始めての手料理であった。

「あのさ。これって・・・。どこの国の料理?」

「えっ?普通のシチューよ」

「そうなんだ・・・(パーティーでシチューか・・・。しかも、色が灰色・・・)」


「ジョジョ。今日のは大丈夫・・・。だと思う・・・」

「なるほどね(だと思うってどういう事だ?)」

だが、ジョジョの疑問に答えてくれる人は、この世のどこにも存在しなかった。

「これって・・・。シチューだよね」

「偶然にも、ナナと同じメニューになった」

「ふーーーん(色が赤いってどういう事なんだろう?しかも、同じ料理に見えない・・・・・・)」

「「お代わりもあるから」」

「「ははは。実は今日は、お腹の調子がいまいちで・・・(お代わり?俺に死ねと?)」」

この時、ジョジョと大の心は完全に一つになった。


「彼女なしは辛いんだけど、さすがにアレは勘弁して欲しいな」

ジョジョと大から少し離れた席で、ピエールは独り者の喜びを噛み締めていた。


「お腹が一杯だ・・・・・・」

「あんなに食べるからだよ」

「光太は、しーぽんしか料理を勧める人がいないからな」

「だからって、全部食べる事もないのに・・・」

「全部食べなきゃ角が立つんだよ」

結局、三人に勧められた料理を全て食べた俺は、リビングのソファーで横になっていた。
同じように、不思議な物体を食べたジョジョと大も、隣で俺と同じように寝込んでいる。

「三人とも大変だね」

「御剣先輩は、大丈夫なんですか?あんな不思議そうな料理を食べて」

「ナジィのは作る過程は奇妙だけど、味は良いからね。あのスープは、疲労回復用の薬膳スープなんだよ」

「それを飲むと、お腹の苦しさがなくなりますかね?」

「「うううっ。ください」」

「全部、飲んじゃった」

「「「そんな・・・・・・」」」

御剣先輩のあんまりな返事に、俺と大とジョジョは、更なるショックに見舞われる。

「やあやあ。みんな元気にしていたかな?」

「腹が一杯で動けない・・・・・・」

「何か腹が重い・・・・・・」

「俺も・・・・・・」

体調不良の俺達を尻目に、ピエールがりんなちゃと共に現れ、その手には昔懐かしい「黒ひげ危機一髪」を持っていた。

「ゲームって感じじゃないよな」

「言えてる」

「いいなーーー。ピエールは独り身で」

「君達ね・・・・・・」

ヤル気のない三人の適当な発言で、ピエールのこめかみに青筋が走る。

「まずは、りんなちゃんからだ。黒ひげが飛び出したら賞品をあげよう」

「えっ?飛び出したら負けじゃないの?」

「本来は逆らしいよ」

「それで、賞品って何?」

「ズバリ!僕とのデート権だ!」

「りんなちゃん。真剣に」

「それって、罰ゲームだよな」

「僕だったら、嬉しくないな・・・」

「男同士でデートって、最悪だよね」

ソファーに寝転んでいる三人と光太は、それぞれに好き勝手な事を言う。

「あれ?何の反応もないね」

「りんなちゃんはセーフか。じゃあ、次は俺が・・・」

俺が寝転びながら適当な穴に剣を差し込むと、黒ヒゲは元気に飛び出していった。

「・・・・・・。ピエール。デートはどこに出かける?」

「孝一郎とは、行かないよ・・・・・・」

その後、様々なメンバーでゲームが行われたが、なぜか男性の時ばかりに黒ヒゲ
が飛び出し、ピエールの賞品が発動される事は一度もなかった。


「お父さん。遅いね」

「そうね。どうしたのかしら?」

時間も夕方近くなり、りんなちゃんとお母さんがなかなか帰って来ない風祭技官の事を心配している頃、俺達はまたパソコンのディスプレイの前で、秘密の速記録を眺めていた。

「すんなり決まるはずもなく、仲間割れか・・・・・・」

「ここの連中、事の重大性を理解しているのかな?」

「古賀先輩も言う事がキツイですね。どうやら、会議の流れを止めているのは、オデッセイとエルサントの連中みたいですね。野次まで飛ばして、司令達の命令ですかね?(乱世こそチャンス)ですか・・・。ちゃんと、物の全体を見れないから、アストロボールで惨敗するんですよ」

「厚木君の方が、言う事がキツイよ・・・・・・」

だが、頭にきてきた事も事実であった。
状況を考えれば、争っている場合ではないのに、彼らは自分達が主導的立場に立てるように小賢しい小細工を連発して、会議の進行を止めていたからだ。
ディスプレイには文字しか出なかったが、速記している速記官も相当に焦っているようだ。
画面からそれがヒシヒシと伝わってきた。

「時間がないから、(オデッセイ)と(エルサント)を外す余裕がないからね・・・。司令を強制的に交代させるとか・・・」

「2ヵ月しかないからな。そんな事をしても、無意味さ」

「うん?」

「どうした?初佳」

笙人先輩ですら諦めかけていたその時、ディスプレイ上では新しい変化が現れていた。

「風祭技官が、何かを言い始めた」

「へえ。そう来たか。なかなかやるね。風祭君のお父さんは」

感心するケント先輩を横目に速記録を斜め読みすると、風祭技官がパソコンに録画していたりんなちゃんの画像を流し、「私は娘に未来を残してあげたいだけだ」と堂々と発言したらしい。
そして、彼の一言でくだらない妨害を行っていら連中が黙ってしまい、会議の流れはスムーズな状態に変化していく。
今までの停滞が嘘のように、次々に案件が決まっているようだ。

「ケント先輩。やる事が決まったみたいですね」

「そうだね。いよいよ正念場というところかな」

「何にしても、ファウンデーション間の確執が収まって良かったですね」

「そうだな。その功労者は、あの少女なのかもしれない・・・」

笙人先輩の視線の先には、黒ヒゲゲームに剣を差し込もうとしているりんなちゃんがいた。
「コズミックフラクチャー」到着まで、あと56日。
遂に作戦の詳細が決まり、俺達はそれに向けて準備を進める事となる。
そして、その過程で俺は更なる女難に巻き込まれるのであった。


「孝一郎君。私、そのバイクに乗ってみたいな」

「私も、もう一回乗ってみたいな」

「町田先輩とお嬢でどうぞ。私達は、モノレールで帰りますので」

アリサは、2人にヘルメットを渡そうとする。

「ここで、やよいと乗っても意味がないんだけど・・・」

「私も、初佳と乗ってもね・・・」

女性の2人乗りでは、外から見ている男性達には好評なのだろうが、本人達は少しも嬉しくないであろう。

「じゃあ。僕に貸してよ」

「光太がか?免許持ってるの?」

「うん。持ってるよ」

「「「「「「「「「「意外だ!」」」」」」」」」」

全員が、一斉に大きな声をあげる。

「そんな・・・。志麻ちゃんまで・・・。住んでいる所が所だったから、大抵の取得可能な免許は持っているんだけど」

「そうか。しーぽんとのデートを楽しんでくれよ!」

俺が光太にバイクのキーを放り投げると、それを受け取った彼は素早くバイクのエンジンをかける。

「行こうか。志麻ちゃん」

「うん」

「(さようなら。争いの元・・・)

だが、帰りのモノレールでも3人の争いは続き、俺の女難レベルはいまだに最高レベルのままであった。


          あとがき

これから少し波乱があるような展開になる予定です。

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