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▽レス始

「幻想砕きの剣 12-3(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-12-16 22:59)
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「…世界を…滅ぼす?」


「救世主が?」


 言われた意味がよく解らず、呆けるベリオとユカ。
 リリィは黙って、言われた事を検証しているようだ。
 以前に大河からそのような可能性を示唆されていたためか、薄々気づいていたのかもしれない。


「救世主とは、名の通り世を救うモノでござろう?
 それが何故…?」


「世界を救う事と、人類を救う事は同義ではない。
 使い古された言い回しだが、自然を蝕み、環境を破壊し続ける人間を消し去れば、確かにこのアヴァターの自然は救えるだろうさ。
 …ま、人間が消えただけで、そんな簡単に自然が復興する筈もないがな」


「むぅ…」


 クレアは然もどうでもいい、と言わんばかりに言い捨てた。
 理由はどうあれ、救世主は敵に近い。
 なら排除するまでだ。


「そもそも、救世主って表現事体が願望を込めて付けられた皮肉だもの。
 どっかで捩れて捻くれて元に戻って、ドライバーで回される螺子みたいにぐるぐるぐるぐる…。
 誰かが最初の表現を曲解して、そこから連想ゲームが始まっちゃったらしいのね」


「それも、元赤の主としての知識か?」


「まーね。
 昔は色々とリコちゃんに質問したもんだわー。
 制限に引っかからないように質問するのに苦労した苦労した…」


「…お陰で私はノイローゼ寸前でした。
 赤の主と白の主に分かれてから、ルビナスは教会に篭って祈り続けていた…とミュリエル達は解釈しているでしょうが、それは違います。
 単に私を監禁して、延々と救世主や“破滅”の事のみならず、世界の真理や赤の力白の力神の領域、片っ端から微に入り細に入り問い質し…。
 それが軽く一週間続くのですよ?
 私、ルビナスを主に選んだ事を真剣に後悔しました」


「……お祈りしてたんじゃなかったの…」


 呆然と呟くミュリエル。
 なーんとなく想像が出来るのがまたイヤだ。
 謎装置でリコをフン縛り、外には『祈るから』と言って部外者が入ってこないようにして、爛々と光る目でリコに向かって質問質問質問というかむしろ尋問(前略)尋問尋問尋問尋問(中略)問尋問尋問(後略)。
 リコがノイローゼになるのも、それはそれはよく理解できる。


「…ミュリエル様〜、ルビナスちゃんがお祈りしてるって、よく素直に信じましたねぇ〜?
 彼女、祈る前に自分の手で打開策を探すタイプなのに。
 しかも、洒落にならない手段を使って」


 確かにその通りだ。
 その事は、千年前の旅路で、よ〜く骨身に染みていたと言うのに…。
 思い出すと今でも頭が痛い。
 アルストロメリアとのコンビには、比較的常識人だったロベリア共々非常に手を焼かされた。
 二人で胃薬を買いに行って友情を育んだくらいである。

 なのに信じたのは…。


「……旅を始めた直後は、ルビナスは左程危険人物ではなかったのです。
 多少ピントが外れた部分はありましたが、マッドと言うほどイカレてはいなかったし…。
 それが旅を続ける内に、悦った目でフラスコやビーカーを眺めるようになり、寝言で科学式を呟くようになり、隙あらば自作の薬を使おうとするようになり、終いには料理に薬品を入れて味を調えようとするし、しかもよく調べてみたらそれは記憶を消す為の材料がふんだんに使われていたり…。
 てっきり精霊の主に選ばれた事で、元の純真なルビナスに戻ってくれたのかと…。
 今思えば噴飯モノね…人は信じたい事を信じるとは、よく言ったものだわ。
 ああ、旅を始めた頃の純粋なルビナスは何処へ…」


「地でカマトトやってたミュリエルに性格の変化を言われたかないわなー。
 昔は放送禁止用語を一つ二つ聞かせただけで赤面してた純情ちゃんだったのに…。
 ああ、何が貴女をそんな鉄の女に仕立てたの…?」


 半分本気で嘆くルビナスと、9割以上本気で嘆くミュリエル。
 しかし…ミュリエルがかつて純情少女だったと言うのもそうだが、ルビナスが元はマッドではなかった、と言うのも信じがたい。
 リコに問いかけの視線が集まるが、リコが知るルビナスは神殿で契約してからのルビナスのみ。
 肩を竦めて、首を横に振るのみ。
 とは言え…。


「それは…召還器を使っていたからではないでしょうか?」


『『『『『………………………………………………は?』』』』』


 何の脈絡も見えない、リコの一言。
 ミュリエルもルビナスも、嘆くのを一時中断してリコに注目した。


「…リコちゃん、それ、どういう事?
 召還器を使ってたら、何か性格に影響が出るの?」


「はい。
 かつてルビナスに問われた時には、制限に引っかかって話せませんでしたが…今はどういう訳か、制限が弱くなっていまして。
 多分、ご主人様と何か関係があると思うのですが」


「…大河、ひょっとして…ジャククトが?」


「多分」


 クレアと二人で分かり合う大河だが、その言葉の意味は他の連中には理解できない。
 それよりも、召還器から何か影響があるというなら、そちらが問題だ。
 何せこの部屋にいる殆どが当事者である。

 視線を集めたリコは、少し考えて話し出す。


「…召還器には、それぞれ意思があります。
 ただ、その意思は殆ど…全てと言っても過言ではない程に封印されているのです」


「…召還器に…意思、でござるか?
 そう言えば、師匠と未亜殿がそんな事を言っていたような」


「トレイターには少々不明な部分がありますが、ズバリそれです。
 召還器を使いこなすという事は、より深く召還器と繋がり、その力…根源につながる力を引き出すという事。
 この場合問題になるのは、根源から力を汲み上げた際に、その影響で使い手の精神が多少損なわれる所です。
 その損なわれた部分を、召還器が自らの意思の力で修復します。
 この修復された部分に、使い手以外の要素…つまり召還器の性格や意思が混じる為、趣味や嗜好が徐々に変化する訳です。
 召還器と繋がると言うのは、根源の力をより多く汲み上げると言う意味と、修復できる度合いが大きくなる、という二つの意味合いがあります。
 なお、召還器はセーフティの役割も果たす為、基本的に修復できない程に精神が侵食されるような力は汲み上げられません。

 ある程度まで深く繋がると、召還器の意思…というか性格が、目に見えて使い手の人格に徐々に影響していくのです。
 その為、召還器を手に入れた時点では普通の性格だったとしても、その力を振るう内に徐々に性格が歪み始め、時には悪魔のような救世主候補を生み出す事があるのです」


「…前例があるのか?」


「いえ、ありません。
 どーゆー訳か、救世主候補は元々どっかイカレた人ばかりで…。
 奇行に拍車がかかったり、妙な萌え属性が付加される事はあっても、そういった危険な人物を生み出した事はないのです。
 ああ、ルビナスのような意味での危険人物は除外しますが。
 つまり、元々実験好きではあったルビナスですが、召還器からの影響を受けて、遂に一線を越えてしまったと…」


 それはそれでイヤである。
 萌え属性付加は結構な事だが…。
 という事は…?


「…まさか、私のネコ化とか未亜のサディスト性癖も…」


「……マスターに関しては、かなりの影響を受けていると思っていいでしょう。
 それだけの力を引き出し、使いこなしています。
 それでもまだまだ序の口ですが…。
 ジャスティの元になった人物は、他人を弄んで悦に入る性質がありましたし…。
 元々の素質に加えて、ジャスティの性癖がガッチリ噛み合ってしまったのだと思われます。

 ですが、リリィさんのネコ化は素、又は完全にルビナスの影響だと思われます。
 リリィさんはまだそこまでライテウスを使いこなしていませんから」


 実質、リリィは未亜よりも未熟だと言われたに等しい。
 以前のリリィなら、侮辱と受け取って激昂していたかもしれない。
 が。
 それよりも。


「素…アレが私の素…?
 私ってケダモノ…?
 ネコ、ネコなの?
 タチ役の格好の餌食、未亜にイタダキマスされるために産まれてきたっての?」


「その通り!」


「アンタは寝てろぉ!」


 実際の所、最初の切欠はルビナスの薬ではなく、同人少女ことサリナが作った暗示付きネコミミシッポレオタードなのだが。

 即座に立ち尚って、ガッツポーズをしている未亜の首筋にゴッドチョップ。
 首を横に90度倒して、未亜は倒れた。
 誰も助け起こさない。

 何故なら、急遽集まって未亜を戦線から外した方がいいのではないかと会議しているからだ。
 このまま戦わせれば、ますます召還器からの影響を受け、Sがパワーアップしてしまうかもしれない。
 はっきり言って、死活問題である。
 今でさえ一杯一杯なのに、これ以上強烈になったら…本気で新しい世界に目覚めてしまうかもしれない。
 ただ一人、クレアのみはバッチこーいってなモンだったが。


 そんな中、一人だけ冷静なダリア。


「…あのー、リコちゃん。
 さっき、『ジャスティの元になった人』って言ったわよね?
 それって…召還器が、元は人間だったって事かしら?」

「その通りです」

「…マジ?」 


 知ってビックリ、驚きのこの事実。
 だが…。


「だからジャスティを手放させないと…」
「しかし未亜が居ないと戦力が」
「そんなのどうとでもなるでござる」
「最悪、完全開花すると『お持ち帰り』から監禁隷属のコンボが」
「でも実際、未亜さんが抜けた穴をどうやって埋めるか」
「私達がもっと召還器の力を引き出せれば」
「それが出来ればとっくにやってるわよ」


 喧々囂々。
 誰も聞いちゃいなかった。
 そしてリコもその議論に混ざるべきか、真剣に考えていた。


「…向こうで脱線している生徒達は置いておいて…」


「冷静ですね、ミュリエル」


「まぁ、それが持ち味なので。
 実際の所、召還器の意思を封じたのは誰で、どうやればその封印を解けるの?」


「それは……ッ?」


 何気なく答えようとしたリコだが、急に言葉に詰まる。
 一瞬息を止めて、ゲホゲホと咳き込んだ。


「…そこまでは規制が甘くなってないのね…」


「っほ…そ、そのようで。
 本来なら、救世主に関する事よりも機密度は低いのですが…。
 どうやら、禁則が甘くなっている部分とそのままの部分があるようですね」


「…では、召還器の力を引き出す方法については話せますか?」


「…ある程度までは。
 その辺りについて、千年前にルビナスから聞いてないのですか?」


「あまり時間が無かったので…。
 召還器が元救世主候補だと言う所までは聞いたのですが」


 召還器が元人間。
 これまた重要事項だが…やっぱり若人達は聞いてない。


「正直な話、これと言った決まった方法はありません。
 冷厳な意思を保ち、法則に従って召還器と根源との間にパスを開く、白の力による方法。
 意思の力で強引にパスを開き、そこから流れ込む力を振るう、赤の力による方法。
 どちらも非常に困難です。
 白の力による方法を使うには、召還器の構造や根源との繋がり方を全て把握せねば不可能です。
 赤の力による方法では、これは念じるだけで物理法則を改変しようとしているようなモノですから…。
 まぁ、今までの救世主候補を見ていると、赤の力による方法が聊か多いですね。
 なお、この点に関しては、私達精霊に選ばれる必要はありません」


「そう……。
 では、召還器と話す事は出来るかしら?
 私達の時は、何時の間にか意志を感じるようになっていて、ふと気づけば皮肉さえ言ってきたのだけど。
 アルストロメリアの召還器は腹が減ったと喚き散らしていたようだし、ロベリアに至っては召還器と口喧嘩して負けて、2,3日沈んでいましたね。
 ルビナスは…確か『エルダーアークはセクハラ好きのヒヒ爺』とか言って、オシオキと称して酸とか産業廃棄物とか掛けてました。
 その後大分扱いやすくなったそうですが、ルビナスの薬は召還器の性格を変えられるのでしょうか?


 ちなみにかく言うミュリエルも、性的な話を聞く度にライテウスと一緒になってキャアキャア騒いでいたのだが。
 と言うか、エルダーアークは女性型では?


「そんな具体例出されても…。
 …ま、まぁ、召還器も封じられているとは言え経験は蓄積されますから、オシオキがトラウマになっても…。

 と、とにかく…会話をするには、召還器を使いこなす、としか言えません。
 先程言った赤白何れかの方法で召還器との間にパスを作れば、そのパスの大きさに比例して明確な通話が出来るようになります。
 …まぁ、今の皆さんなら、遠からず出来るようになると思います。
 召還器の意思の存在を知っているだけでも、大分違いますから」


「……そこの連中、いい加減に話に戻りなさい!」


 ミュリエルとリコの話にも全く耳を貸さず、ずっと話し込んでいた若人達が、ミュリエルの一喝に振り返る。


「何ですお義母様?
 今ちょっと立て込んでて、サンセットの話からコルセットの話まで会話が進んだ所なんですが」


「そんな不明な話はどうでもいいから、ちゃんとこっちを聞きなさい!」


 自分達だけ真面目に話をしていて、馬鹿みたいではないか。
 この場合馬鹿なのは、間違いなく若人達の方なのだが。


「…若人若人と言われるのも腹が立ちますね。
 まるで私がもう若くないと言われているようです」


「でもミュリエル様〜、流石に自分が『じゅうななさい』なんて言いませんよねぇ?」


「流石に10年以上サバを読むのも…。
 しかし、最近の肌の年齢はそれくらいですよ。
 大河君のお陰で、随分とツヤツヤになりました」


「ブッ!?」


 冗談めかして言うミュリエル。
 そして噴出したのはユカである。

 まさかこの人も!?と、視線を大河とミュリエルの間で往復させる。
 大河君の女性関係は想像以上だ、と編頭痛なぞ感じるユカだった。


「で、何だっけ?
 召還器が元人間で、使いこなせば話が出来るんだっけ」


「ついでに言うと、召還器は基本的に、性質的に似た人間に召還されるみたいね。
 昔の世界にも、未亜ちゃんみたいなSの救世主候補が居たのねぇ」


 あっけらかんと言う大河とルビナス。
 意外と聞いていたらしい。
 …と言うか、ルビナスの召還器がセクハラ好きのヒヒ爺で、召還器は使い手に似た物が召還されるという事は………意外と…?


 リリィ達は今更驚いている。
 一応リコとミュリエルの会話を聞いてはいたのだが、内容は理解してなかったらしい。


「…未亜、アンタ、ジャスティと話せる?」


「うーん、時々。
 途切れ途切れだし、自分からは話しかけられないけど」


「…ユーフォニアが元人間…」


「拙者と黒曜は似たもの同士なのでござるか…。
 きっと美人で格好いい人だったのでござろうな♪」


「自画自賛がどうのという以前に、カエデちゃんはもうちょっと自分を把握したほうがいいですの」


「いや、カエデの場合、ひょっとしたら元になったのは麻帆良の「お兄ちゃんストップ」…ダメ?」


 口々に好き勝手言っている。
 リリィはライテウスに呼びかけているようだが、反応は無い。
 こんな事で救世主になれるのか、と落ち込む。
 そこで思い出した。


「そ、それより!
 救世主が世界を滅ぼすって本当!?」


 一同、ふと我に帰る。
 そう言えばその話の途中だった。
 確かに召還器に関する事も重要だが、今は救世主の話だ。


「…ルビナス、せつめ…解説は任せます。
 私では制限にひっかかりそうなので」


「オッケーイ!」


 物凄く嬉しそうだ。
 せめてもの抵抗に、説明を解説に言い換えたが…果たして意味があるものか。

 クレアは既に聞き役に回っている。
 最初は自分が主導で説明していたが、聞いた知識のみではルビナスに遠く及ばない。
 …説明が異常な長さになるリスクを鑑みると、聞きかじりでも自分が話した方がよかったかもしれないが…。

 とても楽しそうに、とても笑えない事を話し出すルビナス。


「結論から言うと、救世主が世界を滅ぼすのは本当よ。
 ひょっとしたら、世界のシステムが誤作動してるのかもしれないけど…」


「…?
 どういう事だ?」


 誤作動。
 これは大河にも予想外だ。
 何か思いついたのだろうか?


「…そうね…。
 簡単に言うと、世界にも寿命ってモノがあるのよ。
 どれくらい先になるのかは解らないけど、この世界は崩壊する。
 これは避けようのない事実よ。
 それがどんな形になるかは解らないし、何時そうなるのかも解らない。
 私達が一万回生まれ変わった後かもしれない。
 もしかしたら明日…って事はまず無いわね。
 この世界、割と新しいみたいだから。
 多分寿命を迎えるまで、億年兆年通り越して、世紀勘定で京とか該まで行くかも…」


「…まぁ、その辺は納得できますね」


「盛者必衰、諸行無常でござるな。
 例えそれが世界そのものでも、形ある物は何時か滅びるでござる。
 それが永遠の彼方になるかもしれぬでござるが」


 世界の滅び…否、天寿。
 この点に関しては、ベリオとカエデはあっさりと受け入れる事が出来た。
 カエデにとっては、そのような末法思想は珍しくも無い。
 元の世界では、10年周期くらいで流行っていた。

 ベリオの方はと言うと、こちらは単に宗教観によるモノである。
 この世界で人々が生きているのは、神様による遠大な計画によるもので、その計画が成就した暁には、全ての人が楽園へ迎え入れられると言う…。
 神様なんぞ信じてない人間からすれば、アホらしくかつ迷惑な話だ。


「…世界の滅びはともかくとして、そこまで行くと人間はまず存在してないわね」


「種族的な寿命ってヤツですか?」


「そうね。
 その時には別の種族が生きてるかもしれないけど、そこまで考えたって無駄。
 その時のヒト達にどーにかしてもらうしか無いわね。
 とにかく、私の考えだと…。
 救世主って言うのは、寿命を迎えた世界から、次の世界を生み出す為のシステムなんじゃないかって思うの」


「…それは要するに、死に際にピッコロ大魔王が卵を吐き出して死ぬようなものか?」


「その例えはどうかと思うけど、まぁ大体そんな感じね」


 ふむ、と考え込む大河達。
 これは結構信憑性がある。
 滅び行く世界から、次の世界を生み出す為のシステム。
 ただ世界を滅ぼす為の存在であるより、こちらの方が『救世主』の名にしっくり来る。


「で、そのシステムが誤作動してるんですか?」


「あくまで私見だけどね。
 正直、仮説としても穴だらけなのよ。
 だったら“破滅”はどうなるんだとか、そもそもどうして誤作動を起こしているのか、とか。
 結構前に、ダーリンが『“破滅”は創造と破壊のバランスを保つための、世界の法則の一部なんじゃないか』って言ってたけど…」


「…大河君、そんな事を言ったのですか?」


「ああ、言ったな。
 あんまりアテにしてないけど」


「まぁ、あながち的外れでもなかったかもね。
 “破滅”は救世主を生み出す為の儀式みたいなモノだと捉えると、説明が付く事もある。
 ま、いずれにせよ、今の“破滅”は単なる災害だけど」


 話に付いていけず、首を傾げる者多数。
 ちなみに筆頭はユカ。
 ダリアに至っては、満面の笑みを貼り付けたまま微動だにしない。
 賭けてもいい、あれは寝ている。

 リリィはある程度までは話に付いて行っているが、ある程度以上は理解する必要は無いと割り切った。
 理由はどうあれ、“破滅”は退けねばならない。
 発生原理その他は二の次でいい。


「……それじゃ、結局救世主っていうのは」


「結論を言っちゃうと、確かに世界を滅ぼすわ。
 さっきの私の私見が的を得ていたとすれば、つまり真アサシンよろしく弱った世界の腹を食い破って新しい世界を産む為に。
 …救世主になったロベリアが居れば、もう少し真実に迫れるんだけど…」


「ロベリアちゃんですの?」


 友人(とナナシは思っている)の名前に反応するナナシ。
 が、アレ?と首を傾げた。


「ロベリアちゃん、救世主になったですの?
 でも、救世主のお仕事は…」


「あぁ、世界を滅ぼす前に、封印しちゃったから。
 色々あったんだけどねぇ…」


 遠い目をするルビナス。
 その後ろでは、『ナナシがまともな疑問を!?』と色々と騒いでいるが気にしない。


「赤白の主の資格を手に入れて、封印されるまでに何があったのやら…。
 殺された私は記憶が無いんだけど、薄れていく意識の中で、なんかロベリアが一人で狂喜乱舞して虚空に話しかけてたような…。
 電波か、それとも本当に何かが降りてきていたのか…」


 どっちもイヤだ。


「…ロベリア…と言うと、王宮に忍び込んできたという“破滅”の将でござるな?」


「うむ」


「…!?
 ちょ、ちょっと待ってください!
 そのロベリアと言う人、次の世界を願って世界を滅ぼそうとしたとは言え、救世主候補なのでしょう!?
 何故“破滅”に!?」


「…まぁ、色々とあるのよ」


 凄い剣幕のベリオに、珍しく言葉を濁すルビナス。
 何か負い目でもあるのだろうか。


「とにかく、救世主になるって事は、この世界を滅ぼして次の世界を作るって事。
 今まで、何度もこれは繰り返されて来たわ。
 今の世界で、という意味だけではない。
 この世界が出来る前に、何度も同じ事が繰り返された。
 前の世界では、何人もの救世主が自らの命を絶って世界を残し、そして理由は解らないけど最後の一人が世界を滅ぼして今の世界を作った。
 前の前の世界でも同じ事よ」


「なんか…スケールが大きすぎて、実感できない…」


「ま、ムリもないわね…。
 私だって、未だに実感できてないもの」


 未亜の呻きに、アッサリ答える。
 そもそも年月からして遠すぎる。
 “破滅”が起こり、救世主が産まれ、そして救世主が命を絶つ。
 そしてまた次の“破滅”へ。
 これを1クールとして、どれだけの時を重ねたのだろう?
 何度繰り返したのだろう?


「そして、その命を絶った救世主が…召還器。
 原理は今一解らないけど、救世主の務めを果たさなかった救世主は…いえ、果たした救世主もね…召還器に生まれ変わり、次の世界へ受け継がれる。
 そして自分によく似た存在が自分を呼ぶのを待っている。
 そして召還、救世主候補の誕生って訳ね。
 救世主候補が全員女だったのは、最初の一人が女性型だったからじゃないかしら」


 女性ではなく女性型、と言ったのは、最初の世界で生きていた救世主候補が、人間型である保障は無いためである。


「…あのよ、参考までに聞きたいんだが…新しい世界を産むのって、どうやるんだ?」


「…さぁ…具体的な方法は…。
 ただ、推測は出来るわよ。
 コジツケだけど」


 教えていいものか、とルビナスはちょっと思案顔。
 幾らなんでも、こんな事を試すとも思えないが…。


「最初の救世主が女性型だって言うのは話したわよね。
 女性型って言うのはつまり、子供を孕み、そして体内で育てる…子宮に当たる機能が存在する方。
 別に挿れられる方って分類じゃないのよ」


「は、孕む…挿れ…」


 約一名、処女が顔を真っ赤にしているが、無視。


「その子宮を借りて、世界を創造する…んじゃないかな、と思ってるんだけど」


「それって、男の場合はどうなるんです?」


「さぁ…。
 赤白の資格を得ても何も起こらないか、最悪の場合、次の世界が産まれずに、その世界が滅びるだけって可能性も…」


 危険だ。
 これは危険だ。
 一斉に大河に視線が集中する。
 救世主候補の中では、大河が最も救世主に近い存在だろう。
 召還器を使いこなす力は、ルビナスを除けばダントツである。
 そのルビナスは、千年前はともかく現在では精霊に選ばれていない。
 このまま行くと、本気で大河が救世主になりかねない。

 が、当の本人はそっちのけで何か考え込んでいた。
 唐突に顔を上げて、リコに質問。


「なぁリコ、ちょっと聞きたいんだが…」


「何です?」


「神様って、男?」


『『『…………』』』


 痛い沈黙。
 冷たい視線が降り注ぐ。


「へ、ヘンな意味じゃないって!
 真面目な質問!
 別に神を押し倒そうってんじゃなくて、どうもおかしい所があるんだよ!」


「……どうも信用なりませんが…私が知る限り、神は無性です。
 この世界の生物と違い、神は基本的にあらゆる事象から独立した唯一無二の存在。
 老いもせず死にもせず、まして繁殖する必要などありません。
 繁殖の必要が無いのに、どうして雌雄を分かつ必要があります?」


「…そうなの?」


「…まぁ、確かに唯一信教では、最高神の性別は無性です。
 元人間が神様になり上がったとか、神様達も私達と同じように生活しているというなら別ですが…。
 天使達も大抵は無性や両性…アンドロギュヌスという奴ですしね。
 興味があるのなら、今度聖書でも貸してあげますよ?」


 さりげなく未亜を宗教勧誘などしてみるベリオ。
 姦淫を禁じ、Sとレズを抑えこめ…たら苦労しない。

 それはともかく、大河は少し考えると…。


「…もっとヘンな事を聞かせてもらうが」


「今度は何です?」


「リコとイム、チ○コとか生やせないよな」


***********************
*さい→←しばらくお待ちください→←しばらくお待ちく*
*しばらくお待ちください→←しばらくお待ちください→*
*ください→←しばらく小遣いください→←しばらくお待*
***********************


「乳が小さいからと言って、これほどの侮辱を…」


「ま、待て聞き方が悪かった!お前らさ、その…男になれないか?」


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*待ちくださいさい もう暫くお待ちください もう暫く*
*暫くお待ちください  もうしばらくお待ちください *
*ください  もう暫くお年玉ください もう暫くお待ち*
***********************


「げふぉ!?こ、これも違った…えーと、そう………ふたなりになれないか!?」


「それほどの私達にナニをつけたいなら、ナニの代わりにぽよりんで代用してあげます。
 硬くなったぽよりんで、ご主人様の肛門から入り込んでケツを掘りましょう」


「スライムプレイ独特の、色々と愛撫したり内側から人間では不可能な刺激を与えたりするのも忘れずに。
 よがり狂って射精するまで開放しないと思え。
 …とはいえ、ぽよりんが死ぬほどイヤがりそうね。
 でもヤルけど」


***********************
*シです  そろそろ終わります(命が?) そろそろ終*
*ろ終わります(命が?) そろそろ終わります(命が?*
*終わります(貞操が?) でも連載は続きます  ヒロ*
***********************


***********************
        菊の花が落ちました。
             切腹
***********************


 確かにヘンな事だった。
 これ以上無いくらいにヘンな事だった。
 フタナリ好きがどうとか、それ以前の問題だ。

 普段冷静なリコも、この質問には逆上した。
 そりゃーそうだろう、『お前男になれないか』と聞かれたようなモンだ。
 自分の女性自身を侮辱されたに等しい。
 何時の間にやら出てきたイムニティと、世界で初めての赤白友情ツープラトンアタック。
 多分もう二度と見れまい。


 荒い息で返り血に塗れているのは、精霊コンビだけではない。
 未亜は(珍しく)女性として正しい怒りに燃え、ベリオは生来の生真面目さを遺憾なく発揮し、普段暢気なカエデもリコイムに対する憐憫からか激昂し、ナナシはよく分かってないながらもツッコミを入れ、ルビナスはアタッチメント方式で作るべきか悩みつつも踵落としを決め、リリィは余計な事を言ってルビナスを刺激するなと久々のラブラブびーむ(ただし小声)、ダリアは「デリカシーの無い人にはオシオキよぉ〜ん」と諜報員筆頭としての拷問テクニックを不必要なくらいに発揮し、クレアは無言でシャイニングウィザードを叩き込み、ミュリエルは黒ヒョウモードを手だけ発動させてメチャメチャに引っ掻き、そしてユカは氣巧術を使ってタコ殴り。
 なお、氣を使ったユカは少々多感症が発動しているが、何とか気づかれないように平静を装っている。
 幸い未亜にはバレていないようだ。


 そして大河は……あー、まぁ、なんだ、クトゥルフとかに一斉に襲われたような感じ?
 これは描写が追いつかないなぁ……。
 まぁ、未亜が久々の893モードにならなかったのだけが救いだろうか。

 しかしこのままでは話が進まないので、作者権限を発動させます。
 えーと、大河君はボロボロになりつつも何とか喋れる程度の傷ですみました、イムニティも来てません マル
 それでは、権限発動。


「だ、だからな、そういう機能が備えられてないかって聞いただけで、そっち系の意図は全然無いんだって!」


「備えられてないか聞くだけでも充分失礼です!」


「そ、そりゃそうだが、とにかく話を聞いてくれ!
 明らかに不自然な構図なんだよ!」


「…何なのよ、一体」


 女性陣の冷たい視線を浴びながらも、大河は何とか説明する。
 ちなみにボロボロだが、誰も手当てしない。
 放っておくと、出血多量で死亡、もしくは今夜は血が足りなくてロクに動けません、てな事になりそうだが…。


「い、いやな、世界を生み出す…つまり孕むのは女性型の救世主だよな。
 なら、孕ませる方…男性型役はどうなるんだ?
 神が無性なら、即座に考えられるのはリコとイムニティだろ。
 だからタチ役の能力が与えられているんじゃないか、と思ったんだが…。
 それも違うなら、明らかに駒と言うかファクターが一つ欠けてる…と思う」


「…そんなお馬鹿な思いつきで…」


「…いえ、あながち的外れな疑問でもないかも…」


「お義母様?」


 大河の説明を聞き、棘…と言うか爪をさっさと仕舞い込み、思案顔のミュリエル。


「確かにこの構図は不自然です。
 世界を孕むと言っても、別に文字通り子宮を使う訳ではないでしょう。
 物質的な意味でも精神的な意味でも、そんなモノが子宮に収まる筈がない。
 子宮が一個人に変わった所で同じ事です。
 例え召還器の力があったとしても。
 子宮と言うのは、あくまで象徴に過ぎません。
 にも関わらず、救世主とされているのは女性のみ。

 確かに孕ませるモノは居る筈です。
 それが神だと仮定した場合、確かに男性型である事になる。
 性質的な話もそうですが、何より救世主が女性なのだから、対となる神は男性と考えるのが自然です。
 ですが、神は基本的に無性だと言われている」


「…神に関する伝承が間違ってるんじゃない?」


「かもしれません。
 …ですが、世界各地の神話では、男女が交わる事によって国や領地…即ち世界が生まれる、と読み解ける話が多々あるのです。
 女性役が救世主ならば、神は男性役。
 ……ルビナス、どうでしょうか?」


「……仮定が重なりすぎてるわね。
 仮説としては悪くないけど、論証も不可能だし…。
 神と人間の交わりは決して不可能ではないけど、その交わりで世界を産めるかはまた別の話。
 神と人が交わっただけで世界が産まれるなら、昔話に出てくる半神半人の英雄なんかは…いえ、それとも話の中で謳われている神と、救世主に降りてくる神が別物?
 …それにもう一つ、召還器というファクターがあるのか…。
 召還器を持つ救世主と交わり…召還器をパスとして、根源から力を汲み上げその力で世界を創造?
 でも、そんな事しなくても、神ってくらいだから根源の力も…」


 ルビナスの頭が、高速で回転しだす。
 こうなったら、もうルビナスは当分帰ってこない。
 ルビナスは放っておいて、ミュリエルも同じく考え込む。


「神が男性かはさて置いて…そう、世界を孕むのは子宮ではない。
 それはあくまで象徴。
 なら、原理的には男性でも構わない。
 それでは…?
 リコ、この世界が産まれる前の世界で、どんな生物が繁栄していたか解るかしら?」


「いえ、その辺りは私達も…。
 …ですが、私達と同じ形態をしていた可能性はかなり高いかと思われます。
 ひょっとしたら、最初に滅びた世界では、全く違った姿形をしていたかもしれませんが」


「我々とは似ても似つかないような姿をした救世主が居た可能性は高いのね?」


「はい」


 となると、益々もって神の姿が見えなくなる。
 神には種族は関係ないのだろうか?
 人間をサルに分類するとすれば、前の世界で繁栄していた人々はゴリラやマントヒヒ、その前の人々はメガネザル、その前の人々は…と続いていき、最終的…つまり最初の世界で生きていた人々とは、恐竜に分類されるくらいにその生態が懸け離れていると思われる。
 その全てと交わる事が出来る存在。
 肉体的な交わりではないだろうから、精神世界における交わりか。
 しかし精神世界で世界を孕ませる…宿すと言うなら、やはり女性である必要もない。
 どうにも納得が行かなかった。


 話の主導権を握る二人が考え込んでいる。
 ブツブツ呟いている二人に、とうとうリリィがキレた。


「あーもー、神の事なんかこの際どうでもいいの!
 今問題なのは“破滅”と救世主よ!」


「…そうだな。
 救世主にはならないからいいとして。
 さっきの会話で、死んでもなりたくなくなったし」


「私もなりたくないなぁ。
 …神様が男性型だとしたら、世界を孕まされちゃうんだよね?
 私の子宮をそんな事に使われるなんて、断固拒否!
 ……もし男が孕まされるなら……それってお尻を掘られるって事かも…」


「言うなあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!
 せっかく考えないようにしてたのによおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 絶叫。
 そりゃーイヤだろう、相手が神でも人間でもイヤだろう。
 女性だったら少し考えなくも無い、と心の片隅で思ってしまう自分が悲しい大河だが。
 と言うか、そんな事を言ったらきっと未亜が実行する。
 そりゃもうありとあらゆる手を使って、大河のケツを掘りに来る。
 現に、『神なんかに横取りされるくらいなら、今から襲ってでも…』なんて呟いている始末。

 と言うか、何よりイヤなのは、男が掘られて孕まされた場合、単純に考えると世界が産まれてくるのは、男女問わず開いてるあの穴から……!?
 お、恐ろしい仮説である!


「ま、まぁ何れにせよ、救世主にならなければいいだけの話だ。
 大河と未亜が戦わなければ、救世主は生まれないのだろう?」


「そうですね。
 まぁ、その点に関しては問題ないでしょう。
 …リリィもベリオさんも、気を落とす必要はありませんよ?」


 救世主という目標を木っ端微塵に打ち砕かれたリリィとベリオ。
 その衝撃は如何なるものか。
 過去の罪を、救世主として働く事で清算できると信じていたベリオ。
 故郷のような村を二度と出したくない、と願うリリィ。
 気分的には、路頭に迷っているようなものだろう。

 しかし、ミュリエルは『下らない事で悩んでるんじゃありません』とでも言いたげである。
 ちなみに、カエデは大したショックを受けていないようだ。
 彼女にとって、救世主とは最初から単なる通過点でしかないのだろう。


「先程言った『救世主』にならず、文字通りの救世主になればいいのです。
 “破滅”と戦う事は、『救世主』とならずとも出来ます。
 現に軍の兵士達も、現状で救世主ではないあなた達も、“破滅”に呑まれまいとして抗う民達も、皆戦っています。
 そもそも、『救世主』は最初から、一つの手段でしかなかったでしょう?
 何故なら、あなた達は『救世主』となる事が目的なのではなく、それによって多くの人々を助ける事が目的なのですから」


「それは…そうですが…。
 実際問題、“破滅”を打ち払う術は…」


「先程言ったでしょう、“破滅”そのものは時間が経てば治まります」


「時間も何も、現状の戦力を鑑みるに、一月も保てればいい方なのでは…」


「それをどうにかするのが、我々の仕事です。
 決して不可能ではありません。
 例えば…大河君のように、召還器を使いこなす、とか…ね」


 一斉に大河に目が向く。
 ミュリエルもクレアも、大河がホワイトカーパスで大暴れした事は耳に入っている。
 それを聞いたミュリエルが、『大河は召還器によって、根源の力を汲み上げている』と判断したとしても可笑しくないだろう。


「師匠は既に、召還器を使いこなしているのでござるか?
 どれ程の力が出るのでござる?」


「どれ程って言われてもなぁ…。
 間近で見てるボクとしては、それこそ圧倒的としか言いようがないよ」


「後でホワイトカーパスでの戦闘記録を見せてやるから、それを読め。
 大河、何か参考になる助言は無いか?
 こう、夜に延々と召還器に向かって話しかけるとか、一日一回は奇麗に拭いてやるとか、『召還器は友達!』と言いながら一日中呼び出したままにするとか」


「…あー、いや、その、な?
 俺、そういうの出来てないんだよ」


「…?」


 大河は少しバツが悪そうだ。


「だから、ミュリエル達が言ってるのは、召還器を通して根源の力を汲み上げるって事だろ?
 俺の戦闘力は、確かに召還器による強化の成果だけど、そういうのとはちょっと違う。
 ホワイトカーパスに行く前に気付いたんだけど、俺の召還器は普通の召還器とはちょっと違うんだよ」


「…?
 確かに、形態を次々と変える召還器は私も初めて見ましたが」


「あー、いや、まぁ…なんつーか…。
 そもそも根源から力を汲み上げる、なんて機能があるのかどうか…」


「なら、あの物凄い破壊力は何なの?
 他の召還器じゃ、あれくらいの威力は…」


「いや、出せる」


 大河はキッパリと言い切った。
 それははっきりしている。
 むしろ、ユカが思っているのとは逆だ。
 トレイターは、召還器というカテゴリーの中で見れば…。


「…結局、何が違うって言うの?
 ダーリンは召還器の新しい利用方法を思いついたって事かしら?
 その方法、私達にも出来る?」


「多分出来ない。
 それに、もしやったら人格の侵食が一気に進むぞ。
 未亜が心底女帝になりかねん」


「…あーもう、いいからさっさと結論を言ってよ!
 お兄ちゃんは、どうやって召還器をメチャメチャにパワーアップさせたの!?
 ホワイトカーパスで起きてた竜巻を吹っ飛ばしたの、お兄ちゃんなんでしょ!?」


 焦らされた未亜が、とうとう痺れを切らす。
 何やら大河は言い辛そうにしているようだが、大河がやっている方法を万が一身に着けられれば、それはもう強力な戦力になるだろう。
 攻撃力と攻撃範囲が高すぎても返って使いづらいが、有効な事は間違いない。

 大河は覚悟を決めて、話をする。


「さっき、召還器は元人間って話があったよな?」


「うん。
 その意思は封印されてるんだよね?」


「ああ。
 まず最初に言うが…トレイターの元になった人間は…俺だ」


『『『『『『『………………は?』』』』』』』


「だから、トレイターは元々俺の一部なんだよ。
 俺の魂が砕かれて、その魂を中心にして作られた召還器…それがトレイター。
 そんで、トレイターの力を引き出しているように見えたのは、俺とトレイターが同調したからだ。
 魂による完全同期連携。
 本人同士の同期だから魂の波長がピッタリ合って、その出力はケタ外れなまでに跳ね上がる。
 …とは言っても、所詮は個人と個人の同調による能力だ。
 根源の力には、遠く及ばない…つまり、トレイターは召還器というカテゴリーの中で見れば、圧倒的に“弱い”。

 この辺の理屈は、ルビナスなら解るよな?」


「そ、そりゃ理屈は…。
 でも、そうなるとトレイターはダーリン本人って事でしょ?
 何でそんな事に?
 救世主候補が召還器になるには、死ななきゃいけない……!?
 ま、まさか時間逆行!?」


 少々前の話になるが、遠征に出る前に、クレアが大河に向けて『私に会った事は無いか』と聞いた事がある。
 その時の話の流れで、大河が時間を逆行して別人として生きているのではないか、との仮説が出た事があるのだ。
 そして、それが本当であれば大河が逆行するのは避けられない。
 すっかり忘れていたが、これは洒落にならない事だ。


「た、確か時間を逆行した大河が召還器としてココに居るって事は、未来で大河が逆行するのは避けられないって事で、しかも逆行したのは召還器…つまり大河本人で、召還器って事は大河が死んでるって事!?」


「…え、えーと…何がどういう話なのかな?」


 ユカが一人だけ…否、ナナシと二人で会話から置いていかれているが、それは無視。

 大河の言う事が事実なら、それは大河との別れが近い事を意味している。
 魂を砕かれた、と言うには、寿命を全うしてから召還器に変わったのではないだろう。
 召還器となったのが逆行する前か後かは解らないが、逆行前ならば、取りも直さず大河は死んでしまうという事。
 逆行後ならば、大河がアヴァターに初めて召還される前に、逆行後の時代で死を迎えているという事。
 何れにせよ、未来から大河の姿は消えてしまう。


「り、リコちゃん!
 何か方法は無いの!?
 お兄ちゃんの運命を変えないと!」


「解ってます!
 解ってますが、こんな事は私だって初めてなのです!」


「師匠、何か手がかりは無いでござるか!?」


「そうだ、癒しの霊水を山のように持たせておけば」


「いっそ“破滅”との戦いに出さずに閉じ込めてしまうか!?」


 喧々囂々。
 並大抵の慌て様ではない。
 半分錯乱しながらも色々な案を出し合っているが、そのどれもがはっきり言って無駄に近い。
 トレイターという逆行の『証拠』がある以上、この結果は避けられないだろう。
 もし大河が逆行しなければ、トレイターは作られず、ならアヴァターの召還されてからの大河はどうなる、とタイムパラドックスが起きる。
 それを乗り切るのに、どれ程の対価を支払わなければならないのか。
 想像しただけでも寒気が走る。


「しーずーまーれ!
 心配しなくても、トレイターは俺そのものじゃない!
 俺の欠片から作られた召還器なんだよ!」


「……欠片…ですの?
 ダーリンの欠片って、こう、もげた指とか抜けた髪とかですの?」


「まぁ、感じとしては似たようなモンだな」


 大河の叫びに、何とか静まる。
 しかしそれは話を聞こうというよりも、大河の言葉から未来を変える手掛かりを探し出そうとする気迫に満ちていた。
 それに気圧されずに、大河は話す。


「順を追って話すと、トレイターは俺そのものが召還器になったんじゃなくて、俺から零れ落ちた魂の欠片が召還器になったんだ。
 魂を砕かれはするけど、少なくとも俺は死なない。
 心配するな」


「魂の欠片…?
 と言うか、魂を砕かれるって…大河、それは本当に大丈夫なのか?」


「ヘタな拷問も真っ青なぐらいに痛いけどな。
 …大丈夫、だよな?」


 言葉を止めて、自信なさげにルビナスを振り返る。
 肩を竦めた。


「零れ落ちた量と、砕かれた場所にもよるけどね。
 一定量以上の量…これはあくまで仮定の表現だけど…があれば、魂は放って置いても徐々に再生していくわ。
 実際、トレイターもちょっとずつ強くなってるんでしょ?
 それは魂が少しずつ再生して、召還器のエネルギー源が徐々にパワーアップしてるからなのよ」


「では、トレイターを診て大河君の魂の欠損がどれ程なのか、予測できますか?」


「丼計算でよければ。
 魂が欠片になっても活動停止しない程度の量は零れ落ちてる…けど、元々ダーリンの魂って、異常なまでに活動的なのよねぇ…。
 あまり楽観視は出来ないけど、手早く手当てすれば最悪の事態にはならないわ。
 取り合えず、魂を砕かれた場合に備えて、医療班を待機させておく必要があるか…」


「ホッ…。
 あの、医療班って誰が?
 魂の欠損って、お医者さんで治せるの?」


 最悪の事態にはならない、と聞いて胸を撫で下ろす。
 油断は出来ないが、最悪の未来が確定してないと言うだけでも気分的には幾らかマシだ。
 とは言え、それでも大河が死に瀕するような傷を受けるのはまず間違いない訳で。


「そもそも、魂を砕かれないようにするって言うのは…」


「理想論ね、それは。
 それが出来れば一番いいのは確かなんだけど、難易度が高すぎるわ。
 何時の事になるか解らないし、例え一度危機を乗り切ったとしても、世界の方が辻褄合わせを仕掛けてくる可能性もある。
 それによって、どれだけ被害が出るか…。

 ダーリンには悪いけど、私は確実性を取らせてもらう。
 一度魂を砕かれて、その欠片が逆行してしまえば、その後はもう私達次第。
 その瞬間を乗り切れば、取りあえず心配はないわ」


「…それ、大河君に犠牲になれって…」


「言ってないでござるよ、ユカ殿。
 要するに、一人を死なせない為に、他の全員を何度も危機に晒すか。
 或いは逆に、全員を確実に生き残らせる為に、一人を一度だけ危険に晒すか、の違いでござる。
 結局はリスクの問題でござるし、事に今回は、師匠の取りあえずの無事は確認されているでござる。
 対処さえ間違えなければ、全員が生き残れるでござるよ。
 …まぁ、外的要因による危険の事を考えなければ、でござるが」


「俺もそれでいい。
 安易な自己犠牲に走ってるんじゃなくて、ちゃんと計算しての結論だ。
 トータルで見たら、それが一番確実な方法なんだ」


「でも…」


 ユカは得体の知れない焦りを感じていた。
 奇妙な焦りだ。
 危険を告げる直感は沈黙したままだ。
 百発百中とは言わないまでも、非常に頼りになる勘。
 警鐘を鳴らしてはいなかった。

 代わりにユカの心中を占めるのは、『大河の側に行きたい』という衝動的な願いと同様の、『離れたくない』という願い。
 どうしてそんな願いが、このタイミングで出てくるのだろう?
 何が何から離れると言うのか?
 ユカは混乱し、口に出すべき言葉を見失った。


「それで、具体的な治療法はあるの?」


「あるわ。
 ダーリンと契約している、イムちゃんに頼る事になるけど…。
 まぁ、あんまり無茶しなければ問題ないわ。
 ま、細かい理屈は省くわね。
 説明したい所だけど、もうこんな時間だし…」


 言われて反射的に窓の外と時計を見る。
 既に外は薄暗い。
 気付いてみれば腹も減っている。
 随分と長い間話し込んでいたらしい。


「えっと、まだ話す事って何かあったか?」


「いや、私からは特に何も」


「私もですね。
 今後の方針も決まりましたし…」


「『救世主』にならずに、“破滅”を打ち払う…ですか」


「結局、今までと代わらないって事ですね。
 ……そろそろ解散にしましょうか?」


「そうですね。
 お腹もくうくう鳴ってます」


 別にリコの腹は鳴ってないが、その目の光は『くうくう』なんて可愛らしいモノではない。
 それこそ『クスクス笑って片っ端から丸呑み』くらいの光だ。
 きっと今日の夕食で、王宮の食料庫は大打撃を受ける事だろう。
 よくよく考えてみれば、昼食も抜いているのだし。


「そんじゃ、飯にしますか。
 クレア、何かお勧めのメニューとかあるか?」


「ふむ…戦が一段落したとは言え、まだ贅沢が出来る状況でもないしな。
 個人的には、焼き魚定食辺りがお勧めだ。
 そこそこ美味いし、早めに食わんと魚は腐るからな…」


「じゃ、その辺で。
 食堂に行きましょうか」


 と、結論がまとまった所で、大河が溜息を吐いた。
 そこには、何やら不満げな表情が浮かんでいる。


「? どうしたんです、大河君?
 何か不備でも?」


「いや…そういう訳じゃないんだけど、何と言うかお約束が果たされなかったからさ…これだけ驚き話満載だったのに…。
 いつ叫ぶかと待ってたのに…落ち着かなくて…」


 お約束とな?
 全員暫し顔を見合わせる。


「…あー、アレか。
 そう言えば言ってなかったね」


「? アレって…なんですの?」


「ほら、アレよアレ。
 衝撃の事実発覚」


「…ああ、アレですか」


「それじゃ、一応やっておきます?」


「そうだな。
 少々タイミングを外したが、お約束とは実行する事に意味があるのだ」


「そういう訳で、せーの、でやるでござるよ、師匠?」


「ああ…。
 それじゃー、せーの、


『『『『『な…なんだってーーーーー!』』』』』


 昼寝していたイムニティが、驚いて飛び起きたそうな。


 食堂


「さぁ食うとしますか。
 丁度いい酒の肴もある事だし」


「うん、いい塩梅にピリピリしてるよね。
 なんて言うか、雰囲気がカラシみたいな調味料の役割を果たしてるよ」


「…いやあの、未亜ちゃんも大河君も、どうしてそんなに平然としてるのさ」


 ユカはちょっと腰が引けている。
 全員でゾロゾロとやってきた食堂では、愉快な場面の真っ最中だった。

 とあるテーブルに透が座り、それを囲むようにして…実際囲んでいるのだろうが…機構兵団が火花を散らしているのだ。
 他人の修羅場だ、見ているだけなら面白い…のだが、ユカは醸し出される圧力にビビッているようだ。
 まぁ、それも無理からぬ話で。


「…あっちでも、最大の敵は妹なワケね」


「…元リヴァイアサンですからねぇ…」


 リリィとベリオのボヤキ。
 食堂に満ちる圧力の最大の原因は、透に密着している憐であった。


「一つに戻る際に、取り込んだ魂を殆ど脱ぎ捨てましたが、それでも溜め込んだ狂気や独占欲が完全に消えるのでもありませんからね。
 赤の力が溢れ出して、微妙に心霊現象を起こしているようです。
 もう少しパワーアップすれば、ポルターガイストが起きるでしょう」


「…既に窓ガラスが一枚割れておる…」


 何と言うか、普通に怖い。
 憐自身には、大した力は無いだろう。
 もし機構兵団の内の誰か一人が力技に及べば、抵抗らしい抵抗も出来ずに捕らえられてしまうはず。
 ルビナスの事だから、どうせ体に何か仕込んでいるのだろうが…どうやら憐には教えてないらしい。


「う〜ん…でも未亜ちゃんの方がデンジャラスですの」


「…私、最近はちょっとずつ制御できるようになってるつもりなんだけど…それでも私の方がデンジャラスなの?」


「…団栗の背比べという言葉を知っていますか?」


「はうぅ…。
 考えてみれば、ユカさんへの尋問用にヒミツの小部屋の準備整えてた時点で何も言えない…」


 容赦ないミュリエルの一言に、沈む未亜。
 後で逆襲されなければいいが。


 大河は視線を感じて、顔を挙げる。
 透と目が合った。
 声に出さなくても、むしろ目を合わせなくてもヘルプと叫ばれているのは一目瞭然だったが…。


(どーしろってんだよ…)


 感覚的には、生身でリヴァイアサンと対峙しているに等しい。
 憐は何故か俯いたまま、髪の間から覗く右目で機構兵団を睨み付けていた。
 圧力は比べ物にならないほど小さいとは言え、単純に怖い。

 しかし、目が合ってしまった以上、助けないワケにも行くまい。
 だがこの状況に首を突っ込める猛者など…。


「…ダリア先生、ちょっと頼みがあるんだけど」


「ふぇ?
 ふぁふぃはひは?」


 居た。
 この圧力を意にも介さない人物が。
 リコも意に介してないが、彼女の食事中に話しかけるのは危険だ。
 会話している最中に、何時の間にか自分のご飯が無くなっている可能性がある。


「確か、ミノリさんに色々教える約束があるんだよな?
 一言言って、修羅場から抜け出すように仕向けられないか?」


「うーん、そりゃムリじゃないわよ。
 でも、ヘタな事すると力の均衡が崩れちゃうんじゃない?」


「それなら、他の人達にも用事を押し付けよう。
 都合のいい事に、幾つか心当たりがある。
 まずリャンちゃんについては、脳の手術の事。
 確かルビナスがするんだよな?」


「ええ。
 もう準備は整ってるわ。
 時間がある時にやっちゃいましょう」


「じゃあその打ち合わせを。
 それから、憐ちゃんも何とか引き離せるな」


「…あんな迫力の憐ちゃんを?」


 懐疑的なユカだが、無理もない。
 そもそも、彼女が居るから機構兵団のバランスが保たれているのであって、席を外せば即爆発するやも…。


「心配するな、円満に退席してもらう方法がある。
 ズバリ、『透との既成事実の作り方について』」


「…円満?」


「気にするな。
 どうせ透の理性は、かなーりギリギリになってるんだ。
 遅いか早いかの違いだよ。
 そうだろ、未亜?」


「うん。
 個人的には、同じような境遇の憐ちゃんを応援したい。
 …私なりのやり方で、ね…」


 ニヤリと笑う。
 その笑顔には、何処かSモードに通じる迫力があったと言う。
 やれるものならやってくれ、と彼女は言いたい。
 同じ妹同士、何くれと世話を焼いてやりたい。


「ってなワケで、私は憐ちゃんを呼び出して、コレを渡してくるね」


「? なにソレ?」


「強壮剤。
 むしろ媚薬」


「…未亜、お主何故そんな物を持っておる?
 まさか大河に使う気だったのではあるまい。
 普通に死ねるからな」


「あはは、あー…実を言うと、自分に使おうかなって…。
 本当は、お兄ちゃんのリビドーが解放される時に備えて、『24日ヤれますよ(女性用)』を頼んだんだけど、何故かこっちに」


「そんなの買うんじゃありません!」


「と言うか、その薬は確か法に引っ掛かって処分された筈ですが…」


「いや、確か処分されたのは男性用だけだ。
 効き目が強すぎて、効果が続いている間延々とヤリ続けて使い物にならなくなるヤツが続出したらしい。
 毒と大差ない」


「24日も続ければ、女性だって使い物にならなくなると思うけど…」


 簡単に言うと、ガバガバになる?
 それはそれとして、結局どうして未亜はそんなヤバイ物を持ち歩いているのだろうか?


「まぁ、これは普通の強壮剤みたいだよ。
 適量に盛れば、憐ちゃんの誘惑を拒めなくなるくらいには効果があると思う」


 ニヤリ。
 邪悪だ。
 いつか憐もこうなってしまうのだろうか?


「ち、ちなみに何処から手に入れた?」


「ん、レイミに頼んだの」


 …彼女なら、処分された『24日ヤれますよ』を手に入れるのも不可能ではないだろうが…。
 注文に反して、普通の強壮剤を渡したレイミの英断に拍手を送ります。


「ま、結果がどうなるかは後のお楽しみとして、これで引き離せるのはリャンちゃんと憐ちゃん。
 そしてミノリさん。
 あとはツキナちゃんとアヤネさんにヒカルだが…」


 言葉を切って、ちょっと考える。
 そして口にしようとした時、カエデがその結論を先取りした。


「ヒカル殿に関しては、拙者が良いモノを持っているでござるよ。
 先日ヒカル殿に頼まれて、入手してきた薬草でござる。
 一説では、煎じて飲むと胸が大きくなると…まぁ、眉唾でござるがな。

 残りの二人に関しては、引き離さなくてもよいのでは?
 6人も居るから修羅場の圧力が周囲に被害を及ぼすのであって、2人程度なら楽しむのにも丁度よいと思うのでござるが」


「カエデ、それイタダキ」


 …結局、透は大河にとってもオモチャなのかもしれない。
 取りあえず大河発案によって修羅場を形成する人数こそ減ったが…それで透の負担が少なくなったかと言われると、さにあらず。


「透、この後シュミクラムの点検に付き合ってほしいんだけど」


「私、まだ洗脳の後遺症が残ってるような気がして不安なんだ。
 一緒に居てほしい…」


「…ツキナさん、洗脳の後遺症云々なら、専門家に聞いた方がいいんじゃない?」


「でもその専門家のルビナスさんは、リャンちゃんの治療の打ち合わせに忙しいみたいだし。
 それを言うなら、アヤネさんも透以外の人と話したらどうです?
 何か訳ありだったみたいですけど、カイラさんが『アヤネが私達とも話してくれるようになって嬉しい』って言ってましたよ」


「ムリに話しに行くような必要も無いわ。
 上辺だけの関係を態々築きに行かなくても、ゆっくり馴染んでいけばいい」


 …言葉の下にどんな刃が潜んでいるか、ちょっと考えれば想像いただけると思う。
 牽制すべき敵が一人に絞られた事によって、均衡を保っていた修羅場は能動的な修羅場に変動しつつあるようだ。
 そして二人の間で、胃を抑えて呻く透。
 ちょっと前まで二日酔いで看病されていたのだが、『どこのエロラブコメだ』と神に問いかけたくなるような展開が多発、透のナケナシの理性はもうちょっとで消え去ってしまうまでに磨耗していた。
 …ちなみに、エロラブコメ的展開になったのは、故意が半分偶然が半分。
 女運がいいと称していいのかどうか、非常に悩む所だ。

 こうして食堂では、深く静かに冷戦が進んでいった。


 一方、ルビナスは…。


「…手術が必要ない?」


「うん」


 ルビナスとリャンが手術に関する打ち合わせをしている時に、カエデを伴ったヒカルがやって来た。
 そして何やら言い辛そうにしていたのだが…。


「…なんで必要無いんだ?」


「ほら、リヴァイアサンの中の事、覚えてる?」


「ああ、よく解らない現象だったけど…」


「あの時、僕達の頭は繋がっていた。
 そしたら偶然にも、リャンの発作の原因に関する情報が手に入って…。
 チャンスだと思って、ちょっとリャンの脳にプログラムを流し込んだんだよ」


「…よく解らないでござるが…ルビナス殿、そんな事出来るのでござるか?」


「まぁ…理論上は…」


 シュミクラムは神経を解して、電気信号で作動する。
 ヒカルから流れ出たプログラムを電気信号としてリャンの体に流し込み、その刺激によって脳を強制的に働かせる。
 人間の体は、脳も電気信号で動いているのだから、理屈の上では不可能ではない。
 ただ、そのプログラムを上手く電気信号に変換した挙句、強すぎず弱すぎずの刺激を、脳という複雑無比の迷宮に迷う事なく送り込ませるという、神業を通り越して魔技のような技術を要求される。
 一歩間違えれば廃人だろう。
 まぁ、ちゃんと安全装置というかセーフティは付けていたのだが。


「それで、治った確信はあるの?」


「そ、それを言われると…」


 証明の仕様が無い。
 証明できるとすれば、今後ずっとリャンの発作が起こらない事だが…。
 本当に治っていればいい。
 だが、もしも完治していなかったら、リャンの記憶、思い出が再び消えてしまう。
 リャン自身も、自分が消えるという恐怖を味わうだろう。


「…しかし、本当に治っているのだとすれば、ルビナス殿の手術を態々受ける必要は無いでござるな。
 好き好んで崖に向かってダイブするようなマネをする必要は無いでござる。
 いやヘンな意味ではなくて」


「まぁ、確かに無駄に危険を犯す必要もないのよね…。
 成功率は高いとは言え、万が一手術の最中に地震でも起きたら手元が狂っちゃうでしょうし」


「うむむ…私としては…五分五分かな…」


 揃って頭を捻る。
 命を取るか、確実さを取るか。
 ルビナスとて、好き好んでリャンの手術をしたいとは思わない。
 自分の医学的な技術が要求される水準以上であるとは自負しているが、何せ脳の領域だ。
 極力弄らないに越した事は無い。


「…プログラムには自信があったんだけど…」


「……………いえ、やはり手術しましょう。
 ただ、頭蓋骨を切開するような手術じゃなくて、リャンちゃんのそのお団子に…」


 リャンの頭の上に乗っている、髪を纏めた二つのお団子。
 これを引っぺがしてお手玉にしてみたい、とは誰もが一度は思う事だろう。


「そのお団子に、ちょっとした機械を仕込むから」


「? 発信機でも付けるのか?」


「発信機も付けるわ。
 もし発作が起きた場合に、私やナナシちゃんにすぐ伝わるようにね。
 で、簡易なら、外付け装置に記憶のバックアップを作るのは容易いわ。
 本当に大事に思ってる事しか、記憶できないでしょうけどね…」


「それで発作が起きたら即座に手術って事?」


「そう。
 ま、こっちは簡単な手術…と言うか、装置を作って頭にプスッと突き刺してればそれでオシマイ。
 手術と言うよりは、プラモデルみたいな感覚かなぁ」


「プラモみたいに改造されちゃ敵わんでござるよ…」


 とにもかくにも、様子見という事に落着いたようだ。
 ルビナスの手術を受けないで済む幸運…まぁ、流石に脳の手術でハッチャけるとも思いたくないが。


「うん、それじゃ、クーウォンさんにもそう言っておいてね。
 記憶装置の方は、明日…の夜までには作っておくから」


「どうせ朝は動けないでござるからな…」


 この後、風呂に入って大河とナニの時間だ。
 来週は肉かもね、とルビナスが言っているが、お子様コンビは首を傾げていた。


 カッポーン


「…文化は洋風なのに、なんで風呂は日本風なんだろな?」


 食事を終え、大河は風呂に入っている。
 結局透を巡った修羅場は、二人の意地の張り合いが原因で自滅、自然消滅となった。
 偶々(?)近くに置かれていた酒を透が目敏くゲットし、どんどん二人に飲ませたのである。
 対抗心も手伝って、限度も考えず一気飲みしまくった挙句、揃って顔を真っ赤にして倒れてしまった。
 ちなみに酒の濃度は60度。
 急性アル中にならなかったのが不思議で仕方が無い。

 グデングデンになった二人は、透がテイクアウトして行ったが…透の事だから、送り狼にはなれないだろう。
 いっそ纏めて襲ってしまえば、大河同様開き直れると思うのだが。


「ま、時間の問題だよな…」


 ククク、と笑う。
 同一存在なだけあって、透の限界が近い所まで来ているのが容易に理解できる。
 加えて言うなら、明日大河と会った時が、ある意味トドメになるかもしれない。
 今の大河も、透と同じように我慢を続けていた…自主的な理由かは別として。
 すぐ側で、自分と同じ存在が、自分と同じように我慢をしていたから、何とか自分を保てていたのだ。
 だが、今夜から明朝にかけて、大河の欲望は思いっきり解放されるだろう。
 その痕跡を、透が見逃すはずが無い。
 大河に釣られて、透の堤防は崩壊するだろう。


「さて、誰が最初かな…?」


 トトカルチョでもやるか、と考える。
 流石に悪趣味かと思ったが、そもそも救世主クラスの連中が既に介入している。
 オトコの堕とし方を吹き込んだり、媚薬を渡したり、妹属性を存分に発揮させようとしていたり。
 特に二つ目が致命的だ。
 多分、一度防波堤が決壊した透は、迫られれば拒めなくなってしまう。
 この辺、所詮は大河の同一存在だ。


「透が開き直って全員を納得…と言うか屈服? させるまでは、修羅場の連続だろうな。
 胃潰瘍で戦場に出れなくならなきゃいいけど」


 洒落になってない、と自分で考えて…ガラリ、と音がした。
 振り返ると、湯気の中から誰かが歩いてくる。

 多分2人。
 何やら言い争っているようだ。
 反響がうるさくて、上手く聞き取れないが…。


「まぁまぁ、すぐに理由は解るから♪」


「だから、どうしてお風呂に入るのに、ボクだけ水着を着なきゃいけないのさ?
 しかも未亜ちゃんは素直に裸だし、あまつさえボクの水着は露出度高いし」


「私はいいの。
 別にシャツだけ着て入ってもよかったんだけど、今回はそういうのは抜きって事で。
 裸の付き合いって言うでしょ」


「ボクは裸じゃないよ。
 こんなの着てたら、体を洗えないじゃないか。
 その、胸の谷間とか、オンナノコの所とか」


「ちなみに、選んだ水着は健康的な美とエロさを追求してみました。
 いや、ユカってヘソ出しとか太股むき出しが似合う似合う…」


「あんまり嬉しくない…」


「お兄ちゃん、こういうの大好きだよ?」


「………嬉しくなりそう…。
 で、でもいいの!
 お風呂は裸、これ当然!
 ボクもう脱ぐからね」


「え〜、いいの?
 裸になっちゃって」


「………?
 何かマズイ事でもあるの?
 ここはお風呂で、お風呂は体を洗う所でしょ。
 むしろ水着でも、着衣してる方が良くないと思う」


「あれでも?」


 にゅい、と湯煙の向こうの人影が大河を指す。
 もう一人の人影は、湯煙で隠された大河が見えないようだが…。


「よっ、未亜とユカか」


「っ…………!!!!?!??!!?!」


「混浴でした〜♪」


 湯煙の向こうから現れたのは、ユカに水着を着せて風呂に連れ込んだらしき未亜と。
 白い水着(スク水ではなくビキニ。ただし濡れると透けるヤツ)を着たユカだった。


 ここで未亜さんから一言。


「この水着、私が選んだんだけど…評価はどんな感じかな?
 上は胸元が大きく開いた、肩紐は首の後ろで結ぶタイプで、角度によっては下乳もギリギリ見えます。
 下はあんまり食い込まない、左右で括るタイプ。
 着ている本人は気付いてないけど、後ろからお尻がよーく見えるよ?
 場慣れしてないユカには、スク水はちょっと厳しいと思って…ま、それも萌えるけど。
 いやぁ、丁度いいサイズの、しかも今更濡れると透ける水着を調達するのは大変でした。
 ちなみに王宮の備品にとして箪笥に埋もれてたよ。
 あ、洗濯はしたのでご心配なく」




はい、と言う訳で12月29日まで週2回更新開始です。
…水曜土曜に更新すると言いながら、意表をついて日曜にやったら「父さんと同じに裏切ったんだ!」とか言われるかなぁ、と思ったりもしましたが。
ストックは充分あるので週2回更新が途切れる事は多分無い…と思います。
不慮の事故(データが飛ぶとか二日酔いとか)が無ければ。

ユカの水着ですが…あんまり詳しくないからなぁ、セクシービーチ辺りから丁度いいのを引っ張ってくるべきだったかも…。
それではレス返しです!


1.パッサッジョ様
ルビナスの作品は、何処までも妙な機能が付いて回りますw
ひょっとしたら、彼女達が寝込んだ夜中にでもコッソリ改造している…ヒィ、マジで怖ッ!


2.スカートメックリンガー様
彼女なら、どちらにせよ自分の仕事を淡々とこなしそうな気もしますが、印象的にはそんな感じでしょうね。

大河と未亜…もしあの二人が願うとしたら、どんな世界になるのでしょう?
躊躇無く自分に都合のいい世界を作り出しそうでもあり、でも大河は何だかんだ言って現状維持させる気も…。
ゲットバッカーズですか、銀次さんはいいキャラですねー。
特にヘタレた場面がw


3.ソティ=ラス様
初めまして、今後もよろしくお願いします。
あー、神については…どうしようかなぁ…設定上難しいと言えば難しいんですが、やれない事はないし…。
でも、唯一神って大抵無性か両性と聞いた事が…アレ、でもこれってひょっとしてエロゲの中の設定か?

ご心配なく、ユカは主役じゃありませんがちゃんとエロい事しますぜ!
純は…まぁ、不可能…ではないかな?
未亜も偶には見逃す…かも…しれませんしね?


4.カシス・ユウ・シンクレア様
初っ端から大河と未亜も関係持ってるし、ハーレムも公認してるんだから…流石に原作と同じ流れには持って行けませんね。
未亜の場合、ラブ&ピースにバイオレンスとかアブノーマルが付く気もしますが…。
ラブ&アブノーマル?
何処のエロゲでしょw

なるほど、アルディアさんが出られない!
つまりセルの存在価値は、アルディアさんに左右されるとw

何が無茶かの定義はともかくとして…実際、ストックが10話くらいありますんで、12月が終わるまで執筆止めてもこちらは余裕ですよ。


5.S様
ええ、思えば随分変わったものです。
最初は原作に色々デコレートするだけだと思ってたのに…。
これも皆様のおかげです!


6.悠真様
A.C.Eでは微妙に使いにくい機体でしたけどね。
…しかし、あののんびりしたナナシにブラックサレナは操りきれるかなぁ…?

むぅ、特に意識してタイミングを計ったのではありませんが…。
それに、総集編と言っても救世主に関する事だけでしたし。
謝華グループとかはノータッチでした。

はい、精霊コンビはしっかりと無事に帰ってまいりました。
こっそり持ちかえろうにも、ウチの動物達は帰巣本能がメチャ強いッスよ?
3秒目を離しておくと、自宅に向かってテクテク歩いていきますw


7.DOM様
本当にご苦労様です…。
確実に視力が0.1くらい落ちたと思いますが、ご容赦をw

前回のレスも拝見させていただきました。
あー…それはそれとして、今回も申し訳ない。
ピンクは次になります。
…実を言うと週2回更新、そろそろ本気で痺れを切らす人が居るんじゃないかと思って提案しましタ。
だってピンク予告しちゃったし…。


8.アレス=ジェイド=アンバー様
どんなに深刻な話でも、どっかにギャグが入る。
それが時守クォリティー!
と、昔は胸を張って言えたんですけどねー…最近本当にシリアスばかりで…。

ギャグ物にシリアスな雰囲気は不要ですぜ。
むしろあってもスパイス以上にはなりませんw

年齢の話は…お肌の曲がり角の人には、特にね…。
ダリアは本気で100年経ってもあのままのような気がしますが。


9.竜神帝様
アプローの涙、どんな感じですか?
時守は参加していないのですが…と言うか、ぶっちゃけルールが理解できんです。
細かい所まで読んでないから…。

はっはっは、これ以上キャラ増やすと死にますよマジで。
いや、死ぬのは出番が終わったキャラとかですけどね。
もう一杯一杯デス。
…でもこの暫く後に彼女が出るんだよなぁ…。


10.陣様
すっかり羽を伸ばしていらっしゃるようでw
浮かれるのはいいですが、足はちゃんと地面に付けておいてくださいね?
ヘタするとマジ逝きしますから。

うーん、幻想砕きは一話が50キロバイトくらいありますから、週一くらいで丁度いいんじゃないかと思ってたんですが…。
意外と余裕だったようで。

SM部屋の存在は救世主クラス以外には知られてませんが、既に彼女達&彼の居る一角は無条件で危険地帯と認識されているようですなw
王都ですからねぇ、きっと変人も沢山集っていて、単位面積辺りの異常人物密度はフローリア学園と代わりません。


11.米田鷹雄(管理人)様
いつもご苦労様です!
これからも体にお気をつけて、頑張ってください!


12.なまけもの様
ご指摘ありがとうございます。
後で直しておきます…。
むぅ、何故か顔文字が使えない…ワードが消えたからかな…。

ユカのシーンは、個人的にも気に入ってます。
後退とか怯みを知らないって感じでw

真実暴露って、結構楽しいんですよね。
ある意味、探偵が謎解きを皆の前で解説するのに通じるかも。
そうですね、まだ幾つも伏線は残ってるし…これからちょっとずつ整理して行こうと思います。
ネットワーク関連は…何時か話す事になると思います。
救世主の鎧?……すっかり忘れてた…。


13.なな月様
織り込み済みなら、それはそれで問題がありますなw
え、体育で寝るの?
寝ながら走るとか?

ヨッパライは厄介ですよー、ヘタに突付くと吐きますから。
…はい、何度か潰れて他人様に迷惑かけましたゴメンナサイ。
いや、もんじゃ焼きリバースは使ってませんぜ?
少なくとも記憶にある限りでは。

頭の重さのうち、脳の重さは何割くらいでしょう?
ナナシの脳みそは、多分スポンジみたいな感じですね。
狂牛病とかかかってませんよ?

世界の秘密が重要でも、語る方がアレですからなぁ。

神=傲慢な物、と定着しちゃってますからね…。
誰だ、最初に言い出したのは?
DSの神は…優柔不断というか、選択を他人任せにしてるんでしょう。
そこに何か深遠な考えがあるか、それとも独り善がりなのかはともかくとして…。

え、アレって自己修復するのん!?
むぅ…もう一回ブチ壊さにゃならんかな…。

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