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「幻想砕きの剣 12-2(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-12-13 23:04/2006-12-17 00:09)
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 ドンドコドンドコドンドコドコドコ

「………」


 ドンドコドンドコドンドコドコドコ

「………」


 ドンドコドンドコドンドコドコドコ

「………あの…何でボクは縛られてるの?」


「話の都合ですの」

 ドンドコドンドコドンドコドコドコ

「…どんな話?」


「魔女裁判のお話よ。
 もしくは未亜の趣味」


「それってどっちにしろ極刑!?」


「冗談だって」


 王宮の一室に響く、低い太鼓の音。
 どこから流れているのかは不明だが、取り合えずそれはどうでもいい。

 王宮に帰還したユカは…簀巻きにされて吊るされていた。
 そしてユカの周りには、集合した救世主クラス+クレア。
 更に、未だに意識が戻らない大河はユカの前で転がっていた。


「…未亜に縛らせなかっただけでも有難いと思いなさい」


「いや、質問の意味を根本から無視して答えられても」


 取り合えずこの縄引き千切れないかなー、と思いつつ、ユカは黙って事態の進行を見守っている。

 クレアがズイ、と前に出た。
 小柄だが、妙に迫力がある。
 やはりアザリンと同種の人間だ、とユカは改めて思った。
 …ただ、ベクトルが微妙に違っている気がするが。


「うむ、疲れている所にスマンとは思ったが、どうしても一つはっきりさせておかねばならないのでな」


「はぁ…。
 ボク何か機密に触れるような事したっけ?」


「まぁ、ある意味機密だな。
 救世主クラスの実態は…」


「??」


「質問は一つだ。
 場合によっては派生するが。
 正直に答えよ!
 昨晩、大河と何処までイった!?」


「!!!???」


 ダイレクトシュート。
 ユカはいきなり顔が赤く染まった。
 言っておくが、逆様になっているので血が上っているだけだ。


「な、何をいきなり!?」


「昨晩、お主が大河を探しに街に出ていた事は既に調べ上げておる。
 とある居酒屋で、お主と機構兵団が、大河及び相馬と一緒にドンチャン騒ぎをした事もだ」


「…や、やっぱりマズかった?
 この戦時中に…」


「あまりよくは無いが、まぁ構わん。
 居合わせた人間達も、塞ぎこんでいた所に丁度いい酒の肴が来た、くらいにしか思ってないようだしな。
 今後は慎めよ。

 それで!
 お主が酔った大河を、機構兵団が相馬をテイクアウトした事は自明の理!
 さぁ吐け、テイクアウトして今まで何をやっていた!?」


「……くたばってました」


「は?」


 眉根を寄せるクレア。
 未亜達も、言っている意味が解らないようだ。

 ユカは後ろめたい所など微塵も無いとばかりに、堂々と(逆様のまま)答える。


「初めてお酒を飲んで、いい塩梅に酔っ払って…。
 まぁ、その、その辺の如何わしいホテルに入って、そのままくたばってました。
 大河君も思いっきり二日酔いだし、ボクは…二日酔いって程じゃないけど、微妙に気分が悪かった。
 帰って来る途中に、お酒は抜けたみたいだけどね」


「…ホテルには入ったのでござるか?」


「うん。
 文字通り、『ホテルに入る所まで』行った。
 …その辺は記憶に無いんだけど、まぁ…イタした形跡は無いから、一線は越えてないと思いマス」


「ぬぅ…どうする?」


 クレアはベリオを見た。
 人選に特に意味は無い。


「…嘘は言っていないようです。
 酔った上での乱行…なら、多少は多めに見てもいいでしょう。
 誰しも初めて飲む時は加減が解らないでしょうし。

 …それよりもユカさん、ホテルに入る所をパパラッチとかに見られてないでしょうね?」


「…記憶がサッパリ…」


 リリィが顔を顰めた。
 今更と言えば今更な感じが否めないが、救世主クラスは偶像の役割も果たす。
 各方面での活躍もあり、彼女達の存在によって、大きな希望が見えている。
 スキャンダルなど持っての他だ。


「…仕方ない、各方面に圧力をかける。
 あまり大っぴらにやる訳にはいかんな、戦時とは言え言論弾圧は反感を産む。
 ここはダリア達諜報員の出番だな」


「えーと、それじゃもう ボク降りていい?」


「ん、ああ…。
 すまなかったな」


 リコがいそいそと、ユカを縛る縄を解きにかかる。
 未亜はもうちょっと縛られたままで居て欲しかったようだが、こんな簀巻き状態を観察してもあまり面白くない。

 未亜は手に持った鍵を、クレアに放り投げた。


「何にせよ、準備がムダになってよかったね?
 わざわざ『あの部屋』まで準備万端にしたのに」


「…だーかーら、アレを使うのは冗談だって何度も言ったじゃないですか」


「ベリオ、未亜にあんな冗談言った私達が悪いのよ」


 あの部屋。
 それはリリィ達にとって、半分トラウマになっている部屋。
 王宮の奥にある開かずの間。
 ぶっちゃけ、SM用の個室である。
 クレアに渡したのは、その部屋の鍵だ。

 未亜は結構楽しみにしていたようだが、多感症でバージンのユカをあんな所に放り込んだら、本気で壊れてしまいかねない。
 残念ではあるが、自分が洒落にならない暴走をしなくて済んでホッとしていた。

 ユカは頭を抱え、フラつきながら立ち上がった。


「うー、アタマぐるぐるする…。
 クレア様、もう行っていいですか?
 今日はお風呂に入って寝たいんですけど」


 昨晩の風呂は、入浴とは言えない。
 酔っ払った大河と二人で、濡れ鼠になっただけである。
 酒の為か、あまり眠った気がしないし、一休みしたかった。

 だが、クレアは首を横に振る。


「いや、他にも言う事がある。
 …これは機密に当たるのだが…」


「機密…でござるか?」


 カエデのみならず、救世主クラスが反応した。
 うむ、とクレアは頷く。


「それは…私達全員が聞いてもいいのですか?
 いえ、いいから話すのでしょうが…」


「ふむ。
 本来なら、ユカには聞かせぬ方がよいのであろうが…。
 ユカにはお目付け役になってもらわねばならないのでな」


「お目付け役?
 ボクが?」


 首を傾げる。
 誰を見張れと言うのか?
 腹芸は得意ではないし、コッソリ見張るなどと言う芸当は出来そうにない。


「…今から話すの?」


「いや、ミュリエルがもうすぐ到着する。
 話はそれからだ…」


 ふと考え込む未亜。
 ミュリエル。
 救世主クラスに話す。
 お目付け役。


「…あの、クレアちゃん。
 それって、ひょっとしてリコちゃんとイムちゃんに関係する事?」


「察しがいいな。
 その通りだ」


 リコに視線が集中する。
 心当たりは無いか、と無言で問われていた。

 リコは視線を適当にあしらった。
 正直、少々不安がある。
 自分の正体を知った時、彼女達はどういう反応を示すだろう?
 拒絶されるのではないか、とは思ってない。
 その程度で揺れるよう信頼関係を築いてはいない。

 ただ…。


(今更本の精霊だと知れた所で、ギャアギャア騒ぐとも思えませんが…。
 その代わり、デウス・マキナを呼び出してくれなんて言われるかも…)


 …在り得る。
 リコとイムの元になった導きの書は、一種の魔導書と言えるだろう。
 しかもリコもイムもロリだし。
 『アル』とか『エセルドレーダ』なんてあだ名を付けられてしまうかも…。
 いやいや、『古本娘』になる可能性も…事実なだけに、とても切ない。


(しかも、本当に何処かから召還してしまった日には、巨大ロボットに興奮したルビナスが何をしでかすか…)


 既にナナシ巨大化という偉業をやってのけている。
 ヘタをすると、ブラックサレナナシを実現しかねない。
 …巨大化はダン○インの領分か。


 少し考え、リリィはリコに問う。


「…よく分からないけど…リコ、それは話されてもいい事?」


「…私から直接話すのでなければ、問題ありません。
 ただ、衝撃的な話になるので覚悟を決めておいてください」


「ぢつはリコちゃんは、イムちゃんよりも胸が小さいってお話ぉ〜?」


 ナナシ、首から上が消失しました。
 暫く立ち尽くし、力なく倒れる首から下。
 …死んだ振りが上手い。
 ……ユカがマジで騙される程に。



「なっなっなっなっ、ナナナナナナナナナシちゃちゃちゃちゃ」

「落ち着け、コイツは首が外れる仕様なんだ。
 ナナシも慣れてない人間の前で、悪趣味な真似はやめんか」


「慣れの問題でもない気がする、と口先だけで言ってみます」


「あー、ナナシちゃん聞いてないわよ。
 耳がついてないから」


 足先で突付いてやると、ヒョッコリ起き上がってアタマ、アタマを首から上を探し始める。
 …が、部屋の中には頭は無い。

 そう言えば、先程何かが外に向かって飛んでいったような…。


「…リコ殿、どんだけ強い力で張り飛ばしたのでござるか?」


「私の怒りを全て腕力に変えたくらいです。
 ビスケット・オリバの1割程度の力ではないでしょうか」


「…どーすんのよ!?」


 リコの頭を、リリィが拳骨でド突く。
 ナナシは何処に飛んでいったのか?
 何処に落ちても、騒ぎになるのは目に見えている。
 本日の天候、晴れ所により頭。
 しかもニコニコ笑う。
 首の断面を覗き込んだ者には死あるのみ。
 惨劇の予感がする。

 取り合えず、ユカは『ボクは悪酔いしてアレな夢を見てるんだ』と現実逃避を始めた。


 虚ろな目のユカを放置し、クレアは大河を足先で突付いた。
 呻き声をあげる大河。


「…おい大河、何時まで寝ている。
 この際オシオキは無いから、いい加減に起きろ」


「……マジで頭痛いんだよ…」


 顔色が青い。
 大分酒精は抜けてきたようだが、あまり動きたくないようだ。

 未亜は大河の顔を覗き込む。


「そもそも、どうして相馬さんと一緒に延々とお酒なんか飲んでたの?
 お兄ちゃんがこんな風になるまで飲むなんて、珍しいじゃない。
 前は…確か、ブラックパピヨンさんに夜襲を受けた時だっけ」


「そー言えばそんな事もあったねぇ…。
 …もんじゃ焼きリバース…お好み焼きが食べられなくなったっけ…」


 態々表に出てきて、遠い目をするブラックパピヨン。
 ブラックパピヨンの中で、ベリオは顔を引き攣らせている。
 今まで知らなかった…というかブラックパピヨンが隠していた記憶が流れ込んでくる。
 深夜の追いかけっこはともかくとして、大河に捕獲された後の事は…。


(に、匂いが!
 匂いが漂ってきますッ!
 ああっ、これは単なるブラックパピヨンの記憶でしかないのに、意識が、意識が!)


 …知りたくも無かった。
 ブラックパピヨンも死に物狂いで逃げたらしく、どうやって回避したかは記憶に残ってない。
 人間、全力を振り絞れば体が勝手に最良の行動を選択してくれるものなのか。

 そんなブラックパピヨン&ベリオを、ルビナスが生暖かい目で見つめている。
 何があったのか、大体予想がついたようだ。


 未亜はしつこく、大河に『何で何で』と問いかけている。
 リリィもカエデも興味があるのか、それを止めようとしない。

 聞かれた大河は、ちょっと困った表情をした。


「い、いや何でと言われても…。
 ……まぁ、何だ。
 世の中には、飲まなきゃやってられない事ってのは意外に多いんだよ…」


「漢泣きするほどに?」


 滝のようにダクダクと涙を流す大河。
 脱水症状になりそうな勢いだ。

 その勢いと哀愁に圧されて、この辺で追求を止めようかと思った未亜だが、中途半端に止めても気分が悪い。
 しかし無理に聞き出そうとしても怒られそうなので、ちょっと別の方向に。


「じゃ、相馬さんもその付き合いで?」


「いや…どっちかと言うと、俺の方が付き合い…」


「…?
 相馬殿に、何かイヤな事があったでござるか?
 憐殿の事もリヴァイアサンの事も機構兵団の事も、更にV・S・Sも潰れてツキナ殿も順調に回復し、多少の修羅場に立会いつつも、順風満帆ではないでござらぬか。
 幸せの絶頂とは言わぬが、全てこれからであろうに…」


 首を傾げるカエデだが、リコとルビナスはその言葉でピンと来た。
 思わず流れる冷や汗。


「…あ、あのー、ダーリン?
 ひょっとして昨日の昼頃に、医務室付近に…」


「……透と一緒に見舞いに行った」


「な、なんてバッド…いやむしろワーストタイミング…」


 そりゃー自棄酒も飲みたくなるわ、とリコは引き攣った表情で納得した。
 二人で納得しているリコとルビナスに、説明を求める視線が突き刺さる。
 が、二人は神妙な面持ちで首を振る。


「…これについては、もう追求無用よ。
 世の中にはプライバシーというモノがあるの」


「武士の情け、女性としてのエチケットの観点から、これ以上首を突っ込むのは厳禁です。
 あまり突付くと、相馬さんが自殺でもしかねません」


「…そういう思わせぶりな事を言われると、余計に好奇心が疼くんだけど…」


 釈然としない表情でリリィが呟くが、ルビナスもリコも頑として口を開こうとしない。
 ルビナスが脅しに注射器とかを持ち出さないのも、異例と言えば異例か。


「とにかく、この話はこれでお終い!
 クレアちゃん、そろそろミュリエルが到着するんじゃない?
 と言うか、あと5分もあれば門に到着するわよ」


「? なぜそんなに細かく時間が解るのだ?」


「いや、さっき吹っ飛んでいったナナシちゃんヘッドが、丁度ミュリエルの懐にスポーンと。
 生首が降ってきたってのに、ミュリエルったら全然驚いてなかったわ。
 昔はあんな鉄の女じゃなかったのに…」


 時間は残酷だ、と嘆くルビナス。
 実を言うと、ミュリエルは驚きすぎて表情が完全に固まっていただけだったりする。


「ナナシの首がお義母様の所に?
 またご都合主義な…」


「ご都合主義じゃないわよ。
 王宮に向かうミュリエルを発見したナナシちゃんは、首の断面から微妙にジェットを噴出して進路を変え、自力でミュリエルの所まで行ったの。
 …首にジェットを付けた理由?
 お約束だからよ」


 お約束かどうかはともかくとして、ルビナスの奇行に一々驚いていたら身が保たない。
 それこそ、ユカのように虚ろな目で虚空を見つめながら、「いあ いあ むぐるうなふ」とか呟くハメになる。


「…なんかヤバい呪文みたいな気がするけど、まぁ魔力も篭ってないし…大丈夫か」


 大丈夫だろうか?


「…ところでルビナス、『昔はあんな鉄の女じゃなかった』ってどういう意味よ?
 アンタ、お義母様の過去の事、何か知ってるの?」


「あー、それは…」


 ルビナスはクレアに目をやる。
 何処まで話したものだろうか。
 どうせすぐに話す事になるのだし、話しても大丈夫だとは思うが、一応クレアの許可を仰がねばならない。


「その辺りの事も、ミュリエルが来てから話す。
 それまで大人しく待っていろ。
 ほれ、そこに格好のオモチャが転がっておろう」


 クレアが指さすのは、相変わらず青色吐息な大河。
 クレアが言わんとしている事を察して、ニヤリと笑う。


「そうね、大河がこんなに弱ってるなんて、普段は考えられないし…。
 今ならイタズラし放題?」


 懐からペンを取り出すリリィ。
 水性ではなく油性な所が、彼女が本気である事を物語っていた。

 だが、横から未亜がそれを遮る。


「それもいいけど、今夜に向けてちょっと小細工してみない?」

「今夜?」

「ほら、全員揃うから、解禁でしょ。
 そりゃ戦争の真っ最中だから、全員足腰立たなくなると困るけど」

「…一体何をする気よ?」


 未亜が言っているのは、言うまでも無く乱交の事である。
 …約3週間分溜まった性欲。
 それは大河も他の女性陣も同じだが…果たして数で押し切れるか?

 未亜は懐を探りつつ、ニヤニヤ笑っている。


「お兄ちゃんには悪いけど、ちゃんとリミッターを付けておかないとね…」


 言っている事は間違っては居ないが、手に持っているモノが激しく不穏だ。
 どうにも、SM部屋から持ち出してきたらしい。
 一見するとパンツなのだが、『前』に穴が開いていて、巨大化したナニを外に出すようになっている。
 それだけなら普通のパンツに開いている穴がちょっと大きくなっただけ、と思えなくもないのだが…何故金属の輪が付属されているのでしょう?


「…あの、マスター。
 それは何でしょう?」


「クレアちゃん、説明」


「うむ。
 一種の拘束具で、まぁ見ての通り男性専用だな。
 あの穴から大きくなった性器を出して、外の金属で締め付ける。
 あんなモノに締め付けられてれば、当然射精なんぞ出来る訳がない。
 むしろ痛い。
 まぁ、それがこのアイテムの目的な訳だが」


 それを大河に着けようと言うのか?
 …どうでもいいが、王族のM気質は女性限定では無かったらしい。
 まぁ、選定姫は代々一人とは言え、全く男性が産まれないのでもないし、左程不思議でもないか…。
 女児に恵まれず選定姫が居ない時は、男性が(選定姫ではなく)王として即位する事もあったし。


「でも、射精が出来ないんじゃ、大河君は益々猛り狂うのでは?」


「そーだね。
 でも、そこが猛獣使いの腕の見せ所。
 射精時の痛みで攻勢が鈍るお兄ちゃん。
 その瞬間を見逃さず、全員で拘束して今度こそ主導権を握るのよッ!
 『射精したい? 射精したいの?
  こんなにキツク締め付けられて痛いのに、それでも射精しそうになってるのね?』
みたいな感じで!」


「どーでもいいけど射精射精言うな。
 ユカがさっきからビクンビクンと痙攣してるわよ」


「あと、師匠も聞いてるんだから、その計画はムダになる気がするでござる」


「…王宮に来ても、救世主クラスはカオスですね」


「他人事のよーに言うな、一応お主の管轄だろうが」


 未亜達が大河に色々装着しようとしている時、ようやくミュリエルが到着した。
 ダリアに案内されて大河達の居る場所まで来たのだが…部屋に入るなり、眉を潜めて第一声がこれだ。
 久々に会ったというのに、大した感慨も見せない。

 懐にはナナシヘッドを抱えている。
 何気に抱き心地は悪くないらしい。


「ダリアの無責任が、徐々に感染しつつあるのではないか?」


「私のキャラだと、ダリア先生の昼行灯ぶりは真似られないと思いますが…」


「あ、あのー、幾らなんでも本人を目の前にして昼行灯とダイレクトに…。
 と言うか、昼行灯は割と演技なんですけど…」


「『割と』と言っている時点でどうよ」


「スパイに優しい言葉をかけてどうするのです?」


「…そ、それは〜、懐柔工作とか…」


「ダリアにそんな事をしても、無駄の一言に尽きます。
 放っておけばそのまま堕落していくのがオチです」


「ダリア先生、元気を出すですの〜」


 冷たい言葉の連発に、何時に無くダリアは泣きたくなった。
 どうやらミュリエルは、信頼していたダリアが実は王宮からのスパイだった事を知り、根に持っているらしい。
 見抜けなかったのはミュリエルの不覚だが、まぁ総じて八つ当たりには正当性など関係が無いものだ。

 唯一慰めてくれるナナシヘッドを抱き上げ、頬擦りするダリア。
 ちなみに、ナナシボディは部屋の中を迷走していた。
 あ、ユカに激突。


「お久しぶりですお義母様!」


「元気そうね、リリィも皆も。
 …あなた達の働きは聞いています。
 本当に…よくやってくれました。
 無事で何よりです…」


 目元を拭うミュリエル。
 少し濡れた後が残っているが、ここで指摘するのは野暮というものだ。

 ナナシヘッドはナナシボディにパイルダーオンし(UFOよろしく空中浮遊してドッキング)、ユカも何とか正気に戻る。
 大河も大分酒が抜けてきた。
 そろそろ話を始めてもいい頃合か。


「…っと、大河、イムニティは?」


「…嘴を挟む気は無いから、そっちで勝手にやってくれ、だとさ。
 何か調査で疲れてるらしい」


「いえ、イムニティはその程度で疲れはしません。
 単に興味が無いだけでしょう。
 …本来なら余計な情報を渡さないように妨害するよう、プロテクトが発動するのですが…」


「やはり大河君の側に居たから?」


「恐らく」


 リコとミュリエルの会話に、首を傾げるリリィ達。
 何の話だ?


「あの、お義母様…?
 結局、話とは何の…」


「…まぁ、待ちなさい。
 その前にタケウチさん…貴女に言っておかねばならない事があります」


「へ? あ、はい何でしょう?」


 ユカはミュリエルに対して、微妙に縮こまっているようだ。
 まぁ無理も無い。
 今のミュリエルは、学園長であり、それと同時に何としても救世主の誕生を防ごうとする鉄の女である。
 世界の為に己を殺し、徹底して情けを排除する。
 ユカの周囲には、こう言った人間は一人も居なかった。
 一番近いのはアザリンだが、彼女は非常に優秀な指導者であっても、心を殺すような人間ではない。
 良くも悪くも、健全オンリーな世界だったのだ。

 ミュリエルはユカが圧迫されている事を承知の上で、更に威圧する。
 この程度で怯むようでは、これからの話を聞かせる訳にはいかない。


「この話を聞いた場合、貴女には逃げ道は一切無くなります。
 そして否応無しに、いずれとても承服できない任を押し付けられる。
 四の五の言う余地は一切ありません。
 救世主クラスは選択の余地がありませんが、貴女だけは違う。
 今ならまだ引き返せます。
 そして私個人の意見としては、ここで立ち止まってもらいたいと思っている」


「…手を引け、って事ですか?
 救世主クラスと王族以外は首を突っ込むな、と?」


「その通りです。
 これから話す事は、間違いなくアヴァターでも最大の機密になります。
 もし情報が漏洩するようならば、それこそアヴァターがひっくり返るような大騒動となる事でしょう。
 恐らく貴女にも、とてつもない衝撃を与える。

 情報を知る者は、少なければ少ない程いい。
 少なくとも、“破滅”との戦いが終わるまでは。
 正直な話、貴女にとっては聞くメリットは無く、デメリットだけがある。
 もう一度言います。
 私個人としては、ここで立ち止まってもらいたいと思っている」


 私個人としては、と言う。
 それはつまり、ミュリエルの意思を押し退けてでも首を突っ込むと主張すれば、それを受け入れるという事だ。
 それによって、ミュリエルの心にどれだけの圧迫がかかるかは解らないが…。

 ユカは萎縮しかけていた自分の心に活を入れると、心中で自問自答する。


(ここで退く気がある?)

(否)

(それは大河君の側に行きたいから?
 そこまでして、大河君に拘る理由があるの?
 ボクの中で、彼はそれ程に重要な存在?)

(その答えはYESである。
 それだけじゃない。
 でも、メリットデメリットだけで生きてるんじゃない。
 少なくともボクの中では、損得勘定が全てじゃない)

(ここで逃げたら、格好悪いと思ってる?
 格好の良し悪しの為に、命を張る気?)

(その答えはYESである。
 ボクは意地っ張りなんだ。
 ここで逃げたら、ボクの意地と魂が折れる)

(…最後の質問。
 覚悟完了?)

(その答えはYESである!
 産まれた日から、覚悟完了!)


 ユカは心中で大河から教えてもらった呪文…『その答えはYESである』を3度繰り返し、自分の中に陰りが無い事を確かめる。
 何故こうまで大河に拘るのかは、ユカにも解らない。
 ただ、『そこに行きたい』と、それだけがユカの一番奥に居座っている。

 それに何より。


「つまりボクは、この世界をひっくり返すような、何よりも重要な分岐点に立ち会える…って事。
 待っているのが悲劇でも、命をチップに賭けに乗る価値はある…。
 そう思わない?」


「…悲劇は情け容赦を持ちません。
 殺されるかもしれない。
 殺されるのは貴女かも、友かも、親かも、恋人かもしれません。
 敵に捕らわれ、犯され、拷問を受けるかもしれません。
 それは貴女かも、友かも、親かも、恋人かもしれません。
 それでも?」


「そんなの、“破滅”が出てるご時世なら何処だって同じ。
 ならボクは、危険でも世界の中心に近づいてみたいと思う。
 ボクはミュリエル学園長にとっても、有効に使える戦力だろ?
 なら…。
 グダグダ言わずに。
 ボクを巻き込め」


 珍しく凶悪で不敵な笑みを浮かべ、ユカはミュリエルを真っ向から見返した。
 ミュリエルは大きく溜息をつく。


「…解りました。
 ですが、どんな役割を振られても文句は言えない事を覚えておいてください」


 無言で頷くユカ。

 その横から、微妙にイヤそうな表情のリリィがミュリエルの視界にフェードイン。
 聞きづらそうに、ミュリエルにお伺いを立てる。


「あ、あのー…お義母様?
 その話を聞くのは構わないのですが、そんなにヤバい話なのでしょうか?

「おや、臆しましたか?」

「いえ、そうじゃないんですけど…。
 さっきの話だと、この連中はその話というのを知って…?」

「そして黙っていました」


 ギロリ、とリリィが睨み付けるのは、大河、未亜、及びリコにルビナス&ナナシ。
 ナナシはその『ヤバイ話』とやらを理解しているのかはともかくとして、一体どんな事を隠していたのか?
 小学生の道徳授業みたいに、『隠し事はいけません』などと言う気はないが…。


「…話の内容によっては、アンタら覚悟しときなさいよ」


「…ルビナス、特性のマタタビ頼む。
 いざとなったら懐柔するぞ」


「いいけど、私にも可愛がらせてよね」


 リリィの眼光に怯みもせずに、謀略を巡らせているバカ二人。
 取り合えずこの連中は放置だ。

 それはともかく、先程から(微妙に)困った笑顔を浮かべていたダリア。
 重要な機密を知る事は、即ち諜報員にとっては死を招き寄せる第一歩。
 そこで怯むようでは諜報員などやっていられないが、ムダにリスクを背負うのも考え物だ。


「あのー、クレア様?
 それって私が聞いていい話なんですか?
 できれば辞退して、お昼ご飯食べに行きたいのですが」


「少々不安だが、まぁ聞いておけ。
 仮にもお主は救世主クラスの担任だろうが。
 教え子をほうっておいて逃げる気か?」


「…え…と、それを言われると辛いんですけど…」


「ちなみに、ダリア先生は現在休職扱いになっています。
 戻ってきたら、溜まっていた仕事+トイレ掃除などの罰則があるので、覚悟しておくように」


「ば、罰って何のですか!?」


「教員・公務員はアルバイトをしてはいけないのですよ。
 しかも諜報員などと言う職を選ぶなんて…」


 実際は教員の方がアルバイトのようなモノなのだが、それを言うと『バイト感覚で生徒にモノを教えるとは何事です!』とか言われそうだ。
 …バイトの家庭教師の立場が無いが。
 ダリアはスパイでも公務員と言えば公務員だろうか?
 まぁ、ぶっちゃけこれもミュリエルの憂さ晴らしである。
 この3週間、大河や義娘と触れ合う事無く過ごしていた。
 人肌の温もりを思い出したミュリエルには、少々辛かった日々である。


「…いーから…そろそろ話を始めよう。
 このままズルズルと会話を引きずって、今日が終わったら目も当てられない」


「…そうだな。
 ……さて、この際私から話させてもらう。
 異存は無いな?」


「話の内容が間違っていたり、補足すべき情報があった場合は?」


「話し終わってからにしてくれ。
 とにかく一通り話さないとな。
 では何処から話したものか…」


「…考えてなかったんですか?」


 ミュリエルの呆れた声に、『最近書類仕事が6割り増しなのだ』と答えるクレア。
 最近冗談抜きで、書類仕事が増えている。
 アザリンと協力しているが、一向に減らない。
 ちなみにそのアザリンは、現在一人で毒づきつつも奮闘中である。
 哀れ。


「まぁ、そうだな、千年前の事から話そうか。
 これはルビナス自身から聞いた事だ」


「…ルビナスから…?」


 首を傾げるベリオ。
 ふと思い当たったルビナス。


「そう言えば、言ってなかったっけ?
 記憶が戻ったのよ、私」


 沈黙。


「「「「何ィィィィィ!!!!??」」」」


「そう言えば、言う暇が無かったな…」


 驚く未亜、リリィ、ベリオ、カエデ。


「い、何時の間に!?
 召還器を呼び出せるようになったのは知っていましたが」


「その召還器のお陰で記憶が戻ったのよ。
 まぁ、色々と話すとヤバイ事が沢山あったから、今まで黙ってたってワケ」


「ウソつきなさい、単に話すのを忘れてただけでしょう」


「…ヤケに自身ありげに断言するわねリリィちゃん。
 まぁ、その通りなんだけど」


 あまりにも実も蓋も無く言い切るリリィを、少しだけ恨めしげに見る。
 首を傾げるカエデ。


「という事は、千年前にあった事…以前の“破滅”をどうやって打ち払ったか、思い出したという事でござるか!?」


「「!!」」


 冷たい視線を送っていた事も忘れ、ルビナスに注目するベリオとリリィとユカ。
 未亜や大河、クレア達は全く動じていなかった。
 それを訝しく思うカエデ。
 “破滅”を打倒する大きな手がかりが舞い込んできたのだから、もっと反応があってもいい筈…。


「まぁ、その辺の事もこれからクレアちゃんが話すのよ。
 グダグダ言ってないで、ちゃんと聞きなさい」


 ピシャリと言い切られ、納得はしてないながらも渋々引き下がる。
 落ち着いたのを見て、クレアが口を開いた。


「あー、色々と揉めているようだが、後にしろ。
 どうせ洒落にならない揉め方をするんだからな」


「? それってどういう…」


「…千年前の事だ。
 当時はまだフローリア学園は無く、救世主候補という存在は伝説でしか無かった」


 疑問の声を黙殺して、クレアは語り始める。


「その存在は確かに伝えられていたが、召還器を見た者は誰も居らず、多くの人々には単なる伝説としか思われていなかった。
 まぁ、当然と言えば当然だろうな。
 平時であれば『救世主』など単なる御伽噺としか思えぬし、かつて存在した救世主が創作としか思えなくなるのも無理はない。
 だが何の因果か、その召還器を手にした者達が居た。
 最初は互いの事など何も知らなかったが、召還器同士が引き合ったのか、彼女達4人は巡り合った。
 その一人が、そこのルビナス・フローリアス。
 そしてもう一人が、我が先祖・通称『冒険王女』アルストロメリア」


「ええ!?」


 驚きの声が上がる。
 発生源はユカだ。


「どうした?」


「る、ルビナスさんって千年前の救世主候補…!?」


「…そう言えば話してなかったわねパート2」


「…ユカ、その辺の疑問と驚きは後にしなさい」


 本気で驚愕しているユカを、リリィが宥める。
 ベリオに促され、クレアは話を続けた。


「巡り合った4人の救世主候補達。
 彼女達は野を超え山でキャンプファイヤーし海でバカンスし、西へ東へ北へ南へ進もうとしつつ北東に向かい、世界各地で魔物と戦いつつもトラブルを振りまく珍道中を繰り広げる。
 時にはムダに息があった所を見せ、時には分かれた意見をぶつけ合わせ、時にはパーティ解散寸前にまでなりながら、旅は続く。

 そして、彼女達は救世主に至る道をとうとう見つけ出した。
 人里離れた地…今はフローリア学園がある地に、太古からそそり立つ神殿。
 そこには浮世離れした人々が住み、劣化する神殿を世話していた。

 ルビナス達は其処に足を踏み入れ、住人達に煙たがられたり歓迎されたりした後、その神殿の奥へ進んでいった。
 やがて住民も把握してない程の深部…どう考えても、建物の構造を無視した広さだった…を踏破し、最奥地に辿り着く。
 そこに安置されていたのは、一冊の本だった。
 つまりそれは…」


「導きの書…という訳ね」


「? 何?
 その本…」


「フローリア学園の地下にあった、救世主になり“破滅”を打ち払う方法が書かれている本です。
 もっとも、学園にあった本は何故か白紙でしたが…」


「単純に考えれば偽者なのでござるが…」


「そう、確かにそれは導きの書だった。
 ついでに言うと、フローリア学園にあった本なのも間違いない。
 その本を見つけた時に、彼女達の運命はすれ違い始める。

 導きの書が白紙なのには理由がある。
 …導きの書は、二つの力を用いて書かれている。
 即ち、赤の力…生き物の命と命が及ぼしあう力と、白の力…支配因果律の力。
 細かい事は、後で専門家に聞いてくれ。
 私も漠然としたイメージしか持ってない。
 聞くところによれば、白の力は理性の力、赤の力は感情の力…と思っていればいいそうだ。

 これらの力で書かれた導きの書には、精霊が二人宿っている。
 それぞれが赤と白の力を司り、ついでに言うとこの二人は仲が悪い。
 司っている力の性質の為なのか、それとも単に生理的に受け付けないだけなのかは知らんが」


「思いっきり後者です」


「リコちゃん何か言ったですの?」


「いえ」


「導きの書は、先程も言ったように二つの力を以て書かれている。
 仮にこの力の内のどちらか一方が、あるいは両方が導きの書から抜け出したとしたら、どうだ?」


「抜け出した力で書かれていた部分が欠落し、文章又は本としての価値を持たなくなる…?
 ……それでは、あの本が真っ白だったのは、その赤白の力が両方抜け落ちていたという事ですか?」


「その通り。
 力を司る精霊が、本から抜け出した為に導きの書は白紙になった」


「それでは、その精霊達を捕まえて本に戻せば、“破滅”を打ち払う方法がわかるという寸法でござるな?」


「いえ違います」


「おろろ?」


「どこのホッペタ十字傷ですか。
 まだ話には続きがありますよ」


「話を元に戻そう。
 ルビナス達がその本を見つけた時、まだ導きの書には二つの力が宿り、ちゃんとした文章が書かれていた。
 だが、ルビナス達の目の前で、その文章は見る見る内に消えていく。
 そう、本の精霊達が、導きの書から抜け出したからだ。

 なら、何故抜け出したのか?
 …導きの書の精霊達の役割は、救世主を選ぶ事。
 それぞれのの主と見定めた人間を救世主とする為、本から抜け出す。
 その結果、導きの書は白紙になるという訳だ」


「ちょ、ちょっと待って!
 それじゃ、あの本が白紙だったのは、その本の精霊が主を既に選んでいるからって事!?」


「そうなるな」


「って、大河!
 アンタなんでそんなに落ち着いてるのよ!?」


「リリィ、文句は後にしなさい」


「さて、問題はここからだ。
 救世主は世に一人だけ。
 だが、本の精霊達は大抵の場合別々の人物を主と見定める。
 ルビナス達の時もそうだった。
 選ばれた内の一人は、そこに居るルビナス。
 そしてもう一人は、ネクロマンサー、ロベリア・リード」


「………」


 ルビナス、無言。


「救世主に対する二人の考え方は、決定的に違った。
 それこそ、争う事を避けられない程にな」


「争うって…まさか…」


「…殺し合いよ。
 精霊と契約したら、救世主になる権利が与えられるけど、それは二人の精霊に認められて契約したらの話。
 しかも、権利の譲渡はできない。
 殺して奪い取るしか方法は無いのよ」


「そ、そんな!
 ずっと一緒に旅をしてきた仲間なんでしょう!?」


「それでもロベリアは止まらなかった。
 彼女には私を憎む理由があるし、救世主になる執着は良くも悪くも私よりずっと強かった。
 …ロベリアは、私を殺して救世主になろうとした。
 ……まぁ、色々事情があるんで、このままお話を聞いてね?」


「話を続けるぞ。
 ロベリアはルビナスを殺し、救世主になろうとした。
 それに対して、ルビナスは一計を案じる。
 知っての通り、ホムンクルスの体を作り、それを墓に入れる。
 そしてロベリアに殺された瞬間、その魂だけを作った体に転移させた。
 そして目出度く救世主となったロベリアを、そのまま封印してしまう。
 加えて、白の精霊も別の封印に閉じ込めた」


「…?
 妙な話でござるな。
 経過はどうあれ、ロベリア殿は救世主となった。
 例え仲間の命を引き換えにしたとしても、救世主は救世主でござろう?
 つまり、その手で“破滅”を打ち払う事が出来る筈。
 にも関わらず、何故封印したのでござるか?
 しかも精霊までも…」


「…救世主を誕生させないためです」

「お義母様…?
 ……え、えぇと、そう言えば何故白の精霊を封印したのでしょう?
 まるで救世主を……誕生…させ…」

「………そう言ったでしょう?」


「ロベリアは封印され、そのまま千年程眠りについた。
 一方、ルビナスもお主達に出会うまで、ずっと墓の中だ。

 そして残された二人は、それぞれの役割を果たさんと行動する。
 我が祖先アルストロメリアは、聊か大雑把ながらも王族として執務に励んだ。
 もう一人は、次なる“破滅”に備えて、人材を育てる施設を作ろうとした。
 それが今のフローリア学園だ」


「学園にそんな歴史が…」


「そう言えば、そんな話も聞いたような…」


「ユカが知らないのはともかく、リリィが知らないのは不思議な気がする」


「本来ならそこで教鞭を取る筈だったのだが、彼女は忽然と消えうせた。
 召還の揺り戻しが起こり、別の世界に飛ばされたのだ。
 突如として彼女は姿を消し、それでもアルストロメリア王女が代わりにフローリア学園を切り盛りする。
 …と言っても、経営が軌道に乗るまでの、個人的なパトロンだがな。
 まぁ、人材養成施設と言っても、“破滅”の直後だったし…人材を育てる前に、ある程度の復興は必須だったしな。

 かくして、四人目の救世主候補…元を付けるべきか…は、歴史から姿を消す。
 しかしそれはそれとして、時は流れて一度の“破滅”を乗り越え、計千年。
 つまり今だ。

 ルビナスはホムンクルスの体で眠りに付き、白の精霊は未だに封印されたまま。
 ある日、召還の揺り戻しで異世界に飛ばされた救世主候補がとうとう戻ってきた」


「…? 戻ってきた…って、千年もかけて?
 その人、吸血鬼みたいな不死者の類ですか?」


「いいえ。
 アヴァターからは様々な世界が派生していますが、その全てが同じ時間の進み方をするのではないのです。
 彼女が飛ばされた世界は、時間の進み方が遅かったのでしょう。
 幾つもの世界を渡る内に、次元断層に引っかかって時を越えたのかもしれません」


「…リコ、詳しいですね?」


「召還は専門分野ですので」


「千年後の世界で、たった一人、救世主の真実を知る者。
 真実を誰にも悟らせないように、彼女はひっそりと動き始める」


「…? なんで?
 救世主になる方法、“破滅”を打ち払う方法の手がかり…。
 それをその人は知っているんでしょ?
 どうしてそれを隠すのよ!?
 人類が、世界が滅びる瀬戸際だってのに、出し惜しみなんかしてるんじゃないでしょうね!?」


「そんな事はしていません。
 言わなかったのは、言えないだけの理由があるのです」


「…学園長?」


 まるで当事者であるかのような言い方に、ベリオが違和感を持つ。
 表情を変えず、ミュリエルは視線だけでリリィを制した。


「彼女は如何なる手段を使ったのか、名を変え…るのは左程難しくないが、相応の権力を使える地位に着く。
 それ以来、誰にも過去を悟られず、正体を気取られる事もなく、ずっと働いてきた。
 …救世主の誕生を、防ぐために」


「誕生を…」

「防ぐ!?」

「何故でござる!?
 ……って、師匠も未亜殿もリコ殿も、全然動じてないでござるな?」

「まぁ、知ってたし」

「「「ハァ!?」」」


「最後まで聞けっつーとるに!
 その辺の疑問も、全部これから解消してやる!

 ったく…。
 お主ら、救世主について何か疑問を持った事はないか?
 その正体は謎に包まれ、解っているのは、過去全ての救世主が全て女性だったという事、召還器を使う事。
 召還器をどうすれば救世主になれるのか、全く解っていない。
 また、先程言った導きの書がある神殿だが…この存在、見事に歴史から抹消されていた。
 導きの書の存在を知る者からして極僅か。
 神殿があった事など、誰も覚えてさえいない。
 しかも、その神殿自体がフローリア学園によって覆いかぶされ、誰の目にも触れない。
 おかしいと思わんか?
 まるで、何かを隠蔽しているようだろう?」


「…救世主に至る道を、徹底して封じようとしている…?
 しかも、フローリア学園を作ったのは…確かクレア様のご先祖様と、姿を消して今戻ってきている救世主候補なんだよね?」


「…救世主になろうとした者が、逆に救世主を封じているでござるか。
 彼女達が“破滅”を打ち払おうとしていたのは、ルビナス殿を見ても間違いないでござる。
 ならば何故…?」


 首を捻るカエデ。
 その横で、リリィは表情を強張らせていた。
 心当たりがあるのだ、彼女には。
 かつてフローリア学園地下で大量の幽霊と遭遇した事。
 大河が繰り返し訴えていた、救世主という存在への疑惑。
 それがいよいよ形を持ってきた。


「…救世主は、私達が思っているような存在ではない…?」


「意外と理解が早いわね、リリィちゃん。
 …あぁ、ダーリンに色々吹き込まれてたっけ」


「…リリィ、それはどういう事です?」


「…クレア様、続きをお願いします」


 リリィの表情は蒼白だ。
 ずっと目指してきた救世主。
 その力を以って、この世に滅びを齎す“破滅”を、かつての世界で猛威を振るい家族や村人を奪った“破滅”を、この手で駆逐するのだと。
 そのために、ずっと研鑽を積んできた。
 しかし、救世主は自分が思っているような存在ではない。
 剥がれ落ちた偶像の後ろから、何が覗く…?


「そも、世に伝えられている救世主と言うのは、単なる偶像に過ぎん。
 千年の間に徐々にその姿を歪められ…いや、千年前でさえ、真実を知っている者がどれだけ居たか。
 こうあれ、こうであってくれと、人々の願いが徐々に付加され、“破滅”を打ち払う救世主という寓話が生まれる訳だ。

 …重要なのはここからだ。
 誰にも知られない、本来の救世主の役割。
 今までこの世界では誰も果たした事がない、その役割。
 救世主を封じ込めよう、誕生させまいとする行動から解るように、それは明らかに人間或いは世界に多大な損害を齎すものだ。
 …そう、それこそ“破滅”よりもな。
 いや、救世主こそが真の“破滅”なのだ」


「そっ…!?」

「なっ…」


 辛うじて声を上げられたのは、ユカとカエデだけだった。
 リリィとベリオは、まさかと思ってはいたが、声が出せるような生半可な驚き方ではない。


「そ、そんな事を、誰が言ったんです!?」


「私達です」


「!?」


 黙っていたリコが進み出る。
 間髪居れずに、ミュリエルが口を開いた。


「リリィ。
 貴女には一度名乗った事がありましたね、私の本名を…。
 と言っても、会ったばかりの事ですし、覚えていないでしょうが」


「え…?」


「…千年前、フローリア学園完成直前に姿を消した救世主候補。
 彼女の名は、この本に書かれています。
 最初のページに、名前だけは書かれていますよ」


 ミュリエルは懐から取り出した…何か微妙に八つ当たりを受けたようにボロっちくなっていたが…一冊の本をリリィに手渡した。
 いきなり何だと思いつつも、リリィは本を開く。
 そして。


「…あの、お義母様?」


「言いたい事は非常によく分かりますが、その文字は現在使われている文字と大差ありませんよ。
 暗号ではなく、ただ只管に字が汚いだけです」


「そう言われても、ハイそうですかとアッサリ読めるものでは…」


 ベリオとカエデもリリィの横から本を覗き込み、顔をしかめる。
 まるで漢文をアラビア文字を真似て繋げ字にし、更にアルファベット風筆記体に無理矢理変更したような感じである。


 ユカは本は覗き込まず、下から見上げて本の表紙を見る。


「…あの、これ表紙にダイアリーって書いてあるんですけど」


「…アルストロメリアの日記ですから…」


 遠い目をする。


「ちなみに、妙に草臥れて見えるのは何ででしょう?」


「いえ…日記を手渡され、好奇心も手伝って懐旧の念に駆られて中身を読んでいたのです。
 …非常にアルストロメリアらしい文章だったのですが…それこそ食べ物の事ばっかりで…。
 しかし、偶に私達が話しに出てきたと思ったら、アルストロメリアが起こした揉め事の時ばかり…。
 しかも自分のやらかした事は棚にあげ、それこそ某お尻ダンスが得意な幼稚園児宜しく『ふぅ〜、ヤレヤレ…』と言わんばかりに…。
 思い出したら、少々腹が立ってきまして…」


「私も溶解液に放り込んでやろうかと思ったもんだわ」


 一部聞き逃せない点があったが、リリィ達は必死こいて日記を解読しようとしている。


「ア、アイ…ス?
 いやアイセ?」

「ムリエ…じゃない、ムルイエル?
 あのー、学園長…解読に時間がかかりそうなので、回答を教えてほしいのですが…」


「…日記を渡したのは失敗でしたね…。
 せめてレポートに纏めておけば…」


 頭痛がする。
 よくよく考えてみれば、よくもまぁ千年前にアルストロメリアが王女などやっていられたものだ。
 冒険を好んだ彼女の性格もそうだが、何より書類仕事が…。
 きっと腹心達が、胃袋を丸ごと排除するようなハメになる仕事を行っていたのだろう。
 如何に指示が的確でも、それが伝わらなければ意味が無い。
 加えて、彼女の性格が知られてしまえば、王宮の威厳とかが一気に没落しかねない。
 旅をしている間は、何とか誤魔化せたりそもそも気づかれなかったりしたものだが…。

 ミュリエルはアルストロメリアに仕えたであろう臣下達に向かって、心から黙祷。


「…まぁいいでしょう。
 最後の救世主候補の名は、アイスバーグ。
 …ミュリエル・アイスバーグです」


「はぁ、ミュリエル…アイスバーグ…。
 ………?」


「何です?」


「あの…一応聞いておきますけど。
 学園長って、まだ三十路前ですよね失礼しましたあああぁぁぁぁ!!!!」


 ベリオ、即効でブラックパピヨンに交代して引っ込んだ。
 ミュリエルは冷たい目をベリオに向けただけだ。
 顔は笑ってなくて目が笑っているが、それこそ恐ろしい。
 確実に悪乗りの合図だ。


「…まぁ、いいでしょう。
 あちこちの次元を旅する内に、大分時間感覚も狂いましたから、あくまで目算ですが…。
 私はまだ28です。
 多分」


「自信なさげね、ミュリエル」


「幾つの世界を渡ってきたと思っているのです?
 暦なんかアテにできませんよ。
 一週間が四日を指す世界もあったし、真夏に次元移動をしたらいきなり大晦日に出た事もあります。
 流石にあの時は風邪を引きました。
 ちなみに、リリィを拾った時は思いっきり時差ボケしていましたね」


「お望みとあらば、正確な計算してあげるけど?」


「ムリですね。
 どの世界にどれくらい滞在して、その世界がどんな時間の流れを持っていたかなど、一々覚えていませんよ」


 遠い目。
 何か色々と余分な情報が飛び交っているようだが、リリィを唖然とさせたのは…。


「そ、その話の流れからすると…ひょっとして、ミュリエル学園長って…」


 震える手で、ユカがミュリエルを指差す。
 無言でミュリエルは頷いた。


「お、お義母様が…千年前の救世主候補…!?」


「リリィちゃん、年増とか言ったら殴られあきゃああぁぁぁ!?」


 ナナシ、再び頭から上が消える。
 ミュリエルは煙なぞ吹いている手をそそくさと隠し、リリィの頭を撫でる。


「そう。
 私の本名は、ミュリエル・アイスバーグ。
 かつて召還器ライテウスを持ち、“破滅”の軍と戦った救世主候補よ」


「ライテウスを!?」


 リリィにとっては、様々な意味でショックである。
 自分が未だに使いこなせていない召還器。
 それをミュリエルが嘗て使っていた?
 きっと、自分では遠く及ばない程の実力を持っていたに違いない。
 現に、フローリア学園を出発する前日に戦った時は、召還器を使って生身のミュリエルとようやく互角に戦えたのだ。
 ひょっとして、ライテウスは自分を主と認めてはいないのではないか?
 元々リリィがライテウスを使えるようになったのは、昔倉庫で遊んでいて、ふと手に持った手袋を嵌めた所、いきなり魔力が活性化するという経過があった。
 皆のように召還器を呼び出したのでもないし、それらしい契約の言葉があったのでもない。
 何か声が聞こえた気もするが、よく覚えてない。
 ライテウスは、未だミュリエルの元にあろうとしているのでは…?


「お、お義母様…」


「落着きなさい、リリィ。
 …それとも、私が千年前の救世主候補では、母として認められませんか?」


「そ、そんな事は!!」


 冗談めかしたミュリエルの言葉に、リリィは反射的に返す。
 少々悪趣味な言い方だったが、お陰でリリィは葛藤から一時立て直した。
 リリィにとっては、ライテウスを使えなくなる事よりも、ミュリエルに嫌われたり失望させる方が幾らか恐ろしい。


「心配せずとも、ライテウスは確かにリリィを選んでいます。
 …まぁ、頼み込めば私にも力を貸してくれるかもしれませんが…」


「そ、それでは、ライテウスはこれからも私が…?」


「ええ。
 今はリリィしか使いこなせませんし、私は召還器無しでも戦えます。
 ……まぁ、使いこなしてもらっても困るのですがね」


「は?」


「いえ、後で話します。
 えーと、何処まで話しましたっけ…?」


「ミュリエルが実は自分で思ってるよりも年を喰ってるんじゃないかって所まで」


「大河君、本気で死にたいようですね…。
 リリィ、後でライテウスを貸しなさい。
 ライテウスだけが使える一発限りの秘術、貴女に教授してあげましょう。
 術者を中心とした一定範囲を、何処とも知れない異世界に放り出す荒業です」


「はははははい…」


 目が本気だ。
 ユカは恐怖と同時に安堵を覚える。
 最初は自分の感情を殺しきっている人だと思っていたが、中々どうして。
 人間らしい所もあるではないか。


「あの、それよりも…学園長が千年前の救世主候補で、ルビナスの記憶が戻っているという事は…。
 “破滅”を打ち払う方法を知っているのでは?
 赤白の精霊が居なくても、千年前の“破滅”を退けたのでしょう?」


「「………」」


 ルビナスと、大河を威嚇するのを止めたミュリエルは揃って渋い顔をした。
 そこの部分からだ、一番話し辛いのは。


「…“破滅”そのものは、暫く続くけど放って置いても治まるわ」


「そ、そうなんですか?」


「白の精霊は、千年前に封印されたと言ったでしょう?
 つまり、救世主も誕生してはいないし、導きの書によって打ち払う方法を見つける事も出来なかった。
 にも拘らず、“破滅”は消え去りました。
 まぁ、単に文明をある程度まで破壊したから消えたのかもしれませんが」


「それをさせないために、救世主になるんだけど…」


 釈然としない。
 しかし、そうなると話は厄介になってくる。
 とにもかくにも“破滅”を打ち払う方法を知る為には、赤白の精霊を捕らえて導きの書に放り込まねばならない。
 しかも、白の精霊は何をしたのか、ルビナスに封じ込められた存在だ。
 ルビナスが意味もなくそんな真似をするとも思えない。
 何かしら、危険視するだけの理由があったのだろう。
 捕らえるのにどれだけ苦労する事か。

 だがそれをする必要は無いとミュリエルは言った。
 ならどうやって、その方法を知ると言うのだ?

 ふとカエデが口を開く。


「…先程から気になっていたのでござるが…。
 紅白の精霊は、既に主を選んだのでござるな?
 それはつまり救世主になれる可能性がある人間で…。
 そうなると、必然的に…」


「救世主クラスの中に!?」


 ベリオの悲鳴染みた叫び。
 リリィもようやく其処に気付いた。
 衝撃的な話の連続で、頭が全く回らない。

 即座に目が向くのは、元赤の主…ルビナス。
 だが肩を竦めて首を振る。

 ナナシが視界の端を過ぎるが、そんな怖すぎる可能性は却下だ。
 そもそもナナシは召還器を使えないし、地下図書館に潜った時には参加しなかった。

 となると…。
 さっきから驚きまくっているベリオ・カエデ・リリィは纏めて除外。
 ユカは救世主クラスではない。
 残るは3名。

 大河、未亜、リコに視線が集まる。
 その内二人が無言で挙手。


「白の主でーす」

「赤の主でーす」

「ミナミハルオでございます」


「そしてナナシが!
 一人純情はぐれ旅ですの!」


「「なんでやねん!」」


「漫才やってんじゃねーわよぉぉぉぉ!!!!」


 リリィ、渾身のパルス・ロアを叩き込む。
 王宮を進藤…もとい振動が走りぬけた。
 あっちこっちで騒がしくなったが、まぁ放っておいて。


「ちなみにイムニティはミズノハルオです」


「知らんでござる」


「いつから?
 ねぇちょっと何時から知ってたんです!?」


 錯乱しつつ、未亜に詰め寄るベリオ。
 リリィも素晴らしくキツイ視線で睨み付けている。
 ちなみにパルス・ロアの直撃を食らったにも関わらず、全くの無傷だ。


「あー、実は地下図書館の時に契約しちゃって」


「赤の精霊と!?
 今何処に居んのよ!?
 そもそも、アンタ達は何で私達にそれを話さなかったの!?
 自分達が救世主になれると確定したからそれでいいってワケ!?」


「赤の精霊も白の精霊も、この王宮に居るよ。
 話さなかったのは、ミュリエル学園長と同じ理由。
 言えば納得…はしなくても、理屈では分かってくれると思う」


「だからその理由って何!?」


 いい塩梅にヒートアップしている。
 無理もないだろう。
 今まで目指してきた救世主への道は閉ざされていたも同然で、しかも自分達のすぐ側で、救世主行きが確定している二人が黙って自分達を見ていた。
 仲間外れにされていた疎外感も手伝って、妙な被害妄想を抱いても仕方がないだろう。


「…それで師匠、その精霊というのは何処の誰でござる?」


「…赤の精霊、挙手ー」


「ハイ」


「「「「「え゛?」」」」」


 声を上げるベリオ、カエデ、リリィ、ダリア、ユカ。
 妙に行儀よく、チョコンと可愛らしく手を上げるクラスメート。
 …リコ。


「…まぢ?」


「そして白の精霊はイムニティです。
 だから私達は不本意ながらソックリさんなのです。
 同じ存在から生まれた、言わば双子ですから」


『……………』


 フリーズ。
 衝撃が大きすぎたようだ。
 今頃彼女達の中では、『ウソに決まってるでしょ』『ドッキリカメラだったんだ』『実は電波なんだ』などなど、様々な言葉が駆け巡っている事だろう。
 復帰するのに、暫く時間がかかりそうである。


「…ふむ、丁度よい。
 喋り続けて喉が渇いたな。
 パシリ筆頭、ちょっとジュース取ってきてくれ」


「…クレア様、流石にそれは酷いわ〜」


「やかましい、これ以上を聞かないように逃げるチャンスをやっておるのだ」


「ウソですよ〜、こんな中途半端な所で逃げ出すチャンスなんかくれる筈ないですわ〜」


「まぁ、そうだがな」


 ここまで首を突っ込んだのだから、後はもう一連托生だ。
 もうどーなっても知るもんか。
 ヤケッパチになりながらも、ダリアは素直にジュースを買いに行った。
 勿論、代金を多めに請求して。


 小休憩後…。


「………つまり、リコは本当は人間じゃなくて、本から出てきた赤の精霊。
 その役割は救世主を選ぶ事であり、その為に救世主クラスに潜り込んだ…と、そういう事ですか?」


「細部に違いはありますが、そう思ってもらって結構です」


 何とかフリーズから復帰したベリオが、話を纏めている。
 その隣では、未だに事体を把握してないユカと、驚きはしたが大してショックは受けてないカエデ、そして何やら額を抑えて渋面を作っているリリィ。
 幸いと言うか何と言うか、人間ではないリコに対して特に隔意は感じられない。
 精々、『本の精霊なら、紙魚とか苦手なのかな』と思っている程度だ。
 まぁ、すぐ側にもっと危険な連中が居るのだから、その程度では驚けないのだろう。

 米神を揉み解しながら、リリィが妙な威圧感を込めてリコを睨み付けた。


「…納得いかない事、言いたい事は多々あるけど…リコ、これだけは言わせてもらうわ」


「はい」


「何でよりにもよって未亜が救世主なのよ!?
 いや、この際だから『どうして私を選ばなかったのか』って事は言わないわよ。
 だけどどうして未亜なの!?
 大河がもう一人の主だって事はさておいて、なんだってこのレズレズサディスト娘を選んぢゃったのよ!?
 救世主になって“破滅”を打ち払えば、どんな願いでも叶えられるって話、忘れてないわよね?
 アンタ、この世の全ての綺麗所な女の子を未亜の生贄にする気!?


最初に其処か。

 当の未亜は乾いた笑いを浮かべている。
 女性陣達は、ダリアも含めて背筋に冷たい感触が走った。
 未亜が文字通り女王様になって、それはもう素晴らしい笑顔で『今日のオモチャ』を選んでいる…。
 ……なんてオソロシイ。

 リリィの勢いに呑まれつつも、リコは反論する。

「わ、私だって本当はご主人様と契約したかったの「大河と未亜が入れ代わるだけよ!」…た、確かに…」


 堂々とハーレム設立を宣言する大河だ。
 本当に願いが叶うとすれば、本気でハーレムとか願いかねない。
 多分、これからも何人かハーレムメンバーが増えるだろうし…。


「とにかく!
 リリィさんが心配しているような事はありません!
 そもそも、その願いが一つだけ叶うという話は限りなくデマに近い真実なのです」


「…デマで真実…?
 どっちでござるか」


「…あ、あのー…ちょっと疑問があるんだけど…」


「? 何ですか、ユカさん」


 おずおずとユカが挙手。
 正直な話、精霊がどうのと言われても理解できてないのだが。
 恐る恐る、答えを聞くのが怖いと言わんばかりの態度で続ける。


「確か救世主になるには、赤白の精霊…リコちゃん達に選ばれないといけないんだよね?」

「そうです」

「で、別々の人を選んだ場合は、一方を殺して資格を奪わないと、救世主は誕生しない。
 と言う事は、今精霊と契約している二人は…」


 大河と未亜をチラリと見る。
 正直、答えを聞くのが怖い。
 もし予想通りだったら…


「…ああ、ユカは未亜と大河が殺しあうんじゃないかって思ってるのね」

「!!」


 図星を突かれ、沈黙する。
 大河と未亜が殺しあう?
 悪夢そのものだ。
 それに、先程までの話で随分の胡散臭くはなっているが、それでも救世主とは“破滅”に勝利する為の最大の鍵。
 仮に殺しあわないとすれば、救世主は誕生しないまま。
 それで“破滅”を相手に勝利できるのか?
 “破滅”が何時まで続くかにもよるが、人類側はそろそろ限界が見え始めている。
 正直、このまま戦っていてはどれだけの死傷者が出るか…。

 しかし。


「ああ、そりゃ問題ないでござる」

「無駄な心配ね」

「未亜さんのブラコン度を甘く見ちゃいけませんよ。
 そうだねぇ、ゲーム的な数字に直すと限界突破が7,8個付いてるもんね」

「未亜ちゃんはダーリンを殺すくらいなら世界を滅ぼしますの」

「むしろ“破滅”なんて5秒で全滅ね」

「殺そうとするなら、絶対ベッドの上…いや、むしろSM室に放り込もうとするかもな」

「まぁ、お陰で今まで平穏だったワケですが」

「いっそ大河君を人質にして、『“破滅”を蹴散らして来い』っていうのもアリかもね〜」

「そもそも、大河君も未亜さんも救世主になりたいなどと思っていませんから」

「うん、実を言うと今でもあんまり興味無いし、どうせやるなら心中の方がまだマシ」

「はっはっは、あり得んあり得ん」


 否定と却下の嵐だった。
 一斉に、何の躊躇も乱れも無く投げつけられる言葉の嵐に圧倒されるユカ。
 凄い信頼関係だ、と心底思った。
 一部物騒な台詞が出ていたが、極力スルーの方向で。


「…絶対に無いんだよね?」


「ああ、天地がひっくり返ってキャット空中三回転しても有り得ません。
 ……まぁ、どちらかが裏切ったりすれば話は別かもしれませんが、その辺は考えても仕方ありません」


 ユカは安堵の溜息を吐いた。
 しかし、それはそれで厄介な事である。


「じゃ、救世主は誕生しないんだ…」


「いえ、どちらかが先に殺害されれば、もう一方に権利が移るでしょう。
 本来なら資格者の手で殺さなければ資格は移らないのですが、イムニティもリコも両主と親交があり、それなりの関係を築いています。
 主を失い、次に選ぶとすれば…もう一人の主でしょうね」


「……選びたくなどありませんが…そういう存在として、定義されているので」


 リコの言い様に疑問を抱く。
 まるで救世主を誕生させたくないようだ。
 さっきから、同じように救世主を誕生させまいとする動きが多々ある。


「…お義母様、単刀直入に聞きます。
 何故お義母様もルビナスも、救世主を誕生させまいとするのです?
 “破滅”を退けたいと願っているのは間違いない筈。
 ならば、何がそうまでして救世主の誕生を妨げさせるのです?
 答えてください。
 救世主とは、何なのですか!?」


 真剣な目。
 このような目で、リリィはミュリエルを見つめた事がなかった。
 いつも何処か遠慮して一歩退いており、ミュリエルはそれで寂しい思いをしたものだ。
 リリィの成長を、内心で喜ぶ。
 しかし、表に出すのは苦汁の声。


「…救世主の役割とは…この世界を滅ぼし、そして新しい世界を作る事なのです」




スンマセン、ピンクは無しでした。
それどころか、動きも何もあったものじゃない説明オンリー…ああ、怒られそう…。
ちなみに次も似たようなモンですね。

うーん…読んでてあまり面白い話じゃないですし、何より書き溜めしすぎてますし…えーと、12-2から今書いてるのまで…うぉ、10話以上!?
そーですね、元旦辺りまで、久々の週二回更新とか挑戦してみようかと思うのですが、どうでしょう?
何たって、ゼミの連中の卒論が全員出ましたから、毎日のように学校行って手伝う必要無くなってるんですよね。
まぁ、その分ガンパレードオーケストラ緑で狙撃にハマってチマチマやってるんですが。
難易度9・グリンガム・静寂(攻撃と命中のみ改造)・狙撃銃と自動砲のみで浸透突破戦に挑み、ゾンビとヴィーヴルとGデーモンとロック(こいつムカツク)を遠距離から一体一体削り取った挙句、敵戦力20%くらいまで減らしたと思ったら、今度はバジリスクが十匹くらい纏めて襲ってきやがって、慌てて突破しました。
でも突破した…と言うか作戦参加したのはPCだけだったので、突破成功20%で敗北、時計を見れば軽く1時間を戦闘に費やしてました。
まぁいいや、発言力8000くらい手に入れたし、あと銀剣貰えるし。
今度からは、味方を補給車以外全員突破させてからやろうw

レスで賛成してくれる方が2,3人居れば、週2回を実行すると思うのですが。
週2回なら、水曜・土曜の夜になると思います。

それではレス返しです!

1.パッサッジョ様
まぁ、誰しも多少はアブノーマルな性癖を持ってますしね。
ノーマルと言われている人だって、倦怠期とかになったら多少アレな事に手を出しても…。

ユカとはまだ一線を越えませんが、近いうちにエロ(ユカが主役じゃないと思いますが)はあると思います。


2.アレス=ジェイド=アンバー様
断じて幸福です!
しっとパワーが漲る程に!

全員纏めてお召し上がり…は透には無理でしょうから、一人ずつ美味しく頂かれてもらいましょうw
残念ながら、今回は色気もクソもない説明話でした。
申し訳ない…。


3&4.イスピン様
いえいえ、まだ解決してませんよ。
確かに謝華グループ会長レイミ・ジャバナは未亜の下僕(笑)と化してますが、実質的な支配者であるミランダ・ジャバナがまだ居るのです。
正直、そっちの方はかなり御座なりになってしまいそうなのですが…。

えー、肉表記があるとしたら…12-4ですね。

>S未亜とユカ
ユカ2ならいいですか?


5.陣様
ええ全くです、誰だ筆記試験なんて面倒くさいの作ったヤツは。
…いや、だからって体を動かす試験をされたら確実に赤点食らう訳ですが。
とにかく、誕生日おめでとうございます!

む、むぅ…なんてリアルな流れだ…。
あっさり想像できてしまうのが怖いな…。

夢の中では、結婚式までしてたみたいですしね。
多分初対面から子供を産む前後まで、一通り体験しているのでしょうw

いやいや、A、Bと来れば…次はXですよ。
どんなプレイですか!?
…単にあかほり作品に、そんなのがあったから覚えてただけなんですけど。


6.S様
もーし訳無い、ピンクどころか動きもクソもない、原作知ってる人には内容の無い話でした…。
代わりと言ってはなんですが、12-4にピンクが入ってます。


7.悠真様
オソロシイ本が出回ってますねー。
オチオチ酒も飲めない…と言うか、この本を書いたのが彼女なら、ヘタすると類似品が増殖する事に…ひぃぃぃぃ!

透は根が真面目ですからねぇ。
ハーレム上等に覚醒するなら、逆ギレではなく複数同時に襲われ続けて慣れてしまった、というシチュエーションが自然だと思いますw
うむ、狼なのに食われてばかりw

ピンク狼は…どうしようかなぁ…。
やるとしたらタイミングは大体決まってるんですが…本気で遠いッス。
ユカよりも遠いです…。

では、体を大事にして、幼女もとい養生してください…。

8.竜神帝様
お久しぶりです!
おお、あのSSを書き直されるのですか?
もう書かれないのかと、残念に思っていただけにとても嬉しいです。

あー、なんかセルが居なければ居ないで別に困りませんねw


9.竜の抜け殻様
ヘタにオシオキすると、火山が噴火しますからねー。

ギャグテイストな話は全然出て来そうにありませんが、ピンクなら12−4で出る予定です。
笑い話か…何か入れておけばよかったかなぁ…。


10.くろこげ様
墜ちるというのもありますよ?
えー、具体的にオちるの内容は…
落ちる…特定個人に骨ヌキにされる
堕ちる…性癖を受け入れ、道徳その他を金繰り捨てる
墜ちる…誰かにバレて、世間体が墜落する
かな?


11.カシス・ユウ・シンクレア様
ええ、本当にいい事ずくめで…なのに透君と来たら!
…まぁ、ヘタに手を出せば修羅場通り越して刃傷沙汰一直線な所は多少同情の余地がありますが。
いやいや、しっと団は一人以上の女性に好かれている男性には例外なくしっとしますよ?
あ、しっと団が女性と認識してなければ別です…宇宙人のイーバさんとかw

考えてみると、ユカの強さって異常です。
同期を使った大河の動きにも、ある程度付いていけるし…何より集団戦とか乱戦で、スタミナ切れせずに駆け抜けるし。
まぁ、そのスタミナも大河との18禁では持つかどうかw

未亜ハーレムチームの悪巧みは、“破滅”との戦いが一段落してからですな。
遠い…。


12.ナイトメア様
そうですねぇ、ほのぼのしてますが…どうにも昔のようなハッチャケぶりが無くなって…。
自分でも困ってます。

ナルホド、まず子供が生まれた責任を取らせるのが第一とw

リコイムが子供を産めるか…ハーレムルートでは、あの二人だけ子供出来てなかったですねぇ…イムはやってないから当たり前ですが。
しかし…それまで全く避妊無しでナニしてたのに、あの一回だけで見事に当たりましたな、フィーバーですw

ああ、あの虫の羽が生えて魚が連れて驚いてる顔の剣ですか。
…改めて書くと、どんな剣やねん…。
しかし、抜くと世界が滅びると言われてるんですよねぇ…ダウニーなら、それ実現できない事も無いってのが…。
まぁ、実際滅ぼしかけたのは未亜と神でしたが。

な、何の禁断症状ですか!?
ピンクなら12-4で出ますよ?


13.JUDO様
取りあえず、透は“破滅”戦が一段落するまでギリギリ堕ちないと思います。
次は“破滅”関連で、謝華は…あんまり詳しい事まで書けそうないです…。
キャラ増やしすぎた…。

うーむ、やはり残りの一人にもヘンタイ属性を付けねばならないでしょうか…。
しかし、一応真面目一辺倒キャラだしなぁ…幻想砕きの中では、ある意味珍しい人種。

巨大ナナシは、ナナトラマンでお願いします。

時守は現在金が無いんで、立ち読み専門と化しておりますが…バダンの姿は見ましたよ。
あれ、仮面ライダー?って本気で驚きました。


14.なな月様
じゅ、12時間…時守でもそこまで寝ませんなぁ…。
でも名雪は遠い!
授業中や仕事中も寝なければw

むぅ、まだエロスが足りませぬか…。
確かに抜きゲーのスゴイのに比べたらなぁ…。
…Brightiaとか好きだったなぁ、Plusはダメだけど。

卒論大変ですね、本当に…。
何時ぞや聞いた話では、提出前日にまだ全く手付かず、だと言うのにしっかり出して間に合った超人的な話もあります。
いや、流石にウソだろうと思ってるんですけどね?

15.DOM様
読まれましたか…このやたら長い話を…。
一体どれだけ時間をかけたんです?
スゴイ気力ですね。

そろそろネタ切れ、と思っても時々沸いてくるものですね。
息切れしてる事は否めませんけど。

透は悟ったらどんな狼になるかなw

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