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▽レス始

「幻想砕きの剣 12-1(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-12-06 22:36/2006-12-07 11:54)
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 リヴァイアサンが消滅し、憐が体を得た翌日。


「…で、結局V・S・Sは司法解剖のメスが入り、事実上お前達は自由の身か」


「そうなるな。
 タチバナ社長は、今はV・S・S近くの町に拘留されてるらしい。
 2、3日中に法廷に引っ張り出すってさ」


 王宮の一室で、大河と透は真昼間からアルコールを摂取しつつ、コソコソ駄弁っていた。
 リヴァイアサンが消え、憐が上手く体に入り、気絶していた機構兵団も目を覚まし、リヴァイアサン戦は大成功に終わったと言える。
 今は全員揃ってルビナスの検査を受けているが、まぁ大丈夫だろう…健康面でも安全面でも。

 リヴァイアサンの消滅を確認したドム達は、防衛ラインを王都近くまで下がらせ、戦線の縮小に入った。
 今魔物達が攻めてきたら、まず持ち堪えられないからだ。
 幸い、魔物達はまだ責めてきていない。
 偵察隊と思しき数匹の魔物は確認されたが、それだけだ。
 リコの話によると、「リヴァイアサンが舞い戻ってこないと確信するまで、このままなのではないでしょうか」との事だ。
 希望的観測でしかないが、説得力はあった。

 で、温存されていた一部の部隊を除き、兵士達や救世主クラスには休暇が与えられたのである。
 まぁ、休暇と言っても兵士達には一日だけで、精々日がな一日寝転がって疲れを癒す程度だろうが。

 救世主クラスはと言うと、リリィ・ベリオ・ナナシは疲労困憊で眠りこけていた。
 ナナシは巨大化のため、ベリオとリリィは浄化の魔力を放出し続けた為に、疲れが溜まりまくっていたらしい。
 ルビナスは今日一日、機構兵団の健康チェックに余念が無い。
 今日こそ溜まりに溜まった獣欲を爆発させる日、となんかもー活火山の如き活力を溜め込んでいた大河は、見事に肩透かしを食らってしまった。
 ここまで来たら止まれんわぁぁぁ、と思いっきり叫んだものの、ユカの射るような視線と、『解禁パーティは皆でやるの!』と妙に強硬な主張をする未亜その他の前に敗北。
 リコもカエデもクレアもダリアも未亜に賛同した。
 妙な所で女は団結力が強い。
 単純に、溜まりに溜まった欲望を全部ぶつけられるのが嬉し怖いだけかもしれないが。
 どうせ、新たな敵軍が現れるまで救世主クラスは待機なのだ。
 1日延期する程度だと自分に言い聞かせる大河だった。


 一方透はと言うと。
 V・S・Sが瓦解した今、はっきり言ってプータローの身の上である。
 ちなみに、透が軍に派遣されている間も、V・S・Sからはしっかり給料が払われていた。
 レイカ・タチバナは妙な所で律儀である。
 当分食っていけるだけの金はあるし、軍の方からスカウトを受けているので大した問題は無い。
 ツキナの回復も順調だし、順風満帆と言えるだろう。
 …ただ。


「聞いてた以上の甘えっぷりだよな、憐ちゃん」


「…ああ、俺もあそこまでとは…。
 実体を持ったからはっちゃけてんじゃねーのか」


 それはもう素晴らしいくらいの甘えっぷりだった。
 丸一日透に付き纏い、風呂やトイレにまで入ってこようとする。
 食事時に『あーん』を強請ったり強制したり、眠る時には添い寝。
 あまつさえオヤスミのキスまでせがむ。


「どう考えても、これは兄に対する甘え方じゃなくて恋人に対する甘え方だと思うんだが…」


「ああ、俺も未亜と結ばれた時はそんな感じだったかなー。
 いや、まだまだ常識の範疇だろ」


「…あれが常識なのか?」


 キッパリと常識の範囲内だ。
 ブラコンが高じてリヴァイアサンに化けた程だ。
 その程度ではまだまだ序の口である。


「…いや、やっぱどう考えても常識じゃないだろう。
 そもそも、何なんだあの変わりっぷりは?
 物凄くアクティブな性格になってるぞ」


「いやぁ、欲求に対して素直になっただけじゃないか?
 10年分の孤独だぞ。
 ちゃんと受け止めてやれよ」


 大河が何気なく言った『受け止めてやれ』の一言。
 確かに、その義務があるだろう。
 透もそれは解っている筈。
 が。


「…オイどーしたよ、いきなり血涙なんぞ流しやがって」

「う、受け止めろって…受け止めろってお前、俺にそれを言うか…!?」

「だから何だよ一体?」

「バカヤロー、受け止めたらそれこそ俺は人生の墓場に直行しちまうっての!」

「はぁ?」


 尚も血涙を垂れ流しながら、透はシャックリなんぞしながら語る。
 問題は、憐が行動的になりすぎている事なのだ。
 憐はロリっ娘ながら、ちゃんとした性の知識を持っている。
 どこで習ったのか…或いは覗き見していたのかもしれないが…は不明だが、『そういう事』を意識してそれでも透に密着して来るのである。
 ぶっちゃけ、誘惑している。
 ついでに言うと、彼女は何気にロリっ娘に有るまじき肉感の持ち主だったりする。
 服を着てると解らないが、それもまた萌える。


「も、もう理性がちょっとずつ切れかけてるんだ…。
 それこそ英霊エ○ヤみたいに、ちょっとずつ擦り切れていくのがよーく実感できる。
 自分の右手が添い寝してる憐に向かって、2センチずつ引き寄せられてるのがすっごくよく解るんだぞ?
 俺は自分をもっと理性的な人間だと思ってたのに」


「…もう理性が切れかけてるって、まだたったの一日じゃねーか。
 所詮は俺の同一存在…女好きは隠せないと見えるな」


「ヤカマシー!
 ああ、そりゃ憐だけだったらここまで消耗してないさ!
 何だか知らんが、ミノリとかアヤネとかヒカルとかリャンまで妙に俺にくっついて来るんだよ!
 ツキナは前からだから何も言わないにしても、そりゃ理性だって揺らぐだろ!?
 どーしていきなりこんな事態になってんだ!?」


「…夢の中で何かあったんじゃねーの?
 つうか、それにしたって一日足らずで理性が切れ掛かるって、それで理性的もクソも無かろーが


 生ぬるい視線を透に送る大河。

 リヴァイアサンが消滅し、王宮に撤退する時の事だ。
 気を失っていた機構兵団が目を覚ましたのである。
 ナイスタイミング、そのままさっさと起き出して撤退するのだが、透に密着する憐の姿を見た途端、機構兵団+αに物凄い緊張が走った。
 修羅場に免疫の無い透など、それだけで胃痛を感じたくらいである。

 『これは私の』とばかりに透に密着する憐。
 それに対抗意識を燃やしたかのように、ワザとらしくバランスを崩して寄り掛かるミノリ、何かと引っ付きたがるツキナ、目と空気で牽制して透に触らせないようにするアヤネ、憐に交代しろと凄むリャン、何やらルビナスに不穏な相談を持ちかけるヒカルと、一触即発の状態だった。
 透は混乱していたようだが、ルビナスや大河は、彼女達が明確に透への好意を持っている事を見抜いていた。
 その上で、彼女達を煽ったり鎮めたりして、透を玩具ににしていたのだが。

 透は何かを考えている。


「…あのさ、夢の中の事なんだが…」

「ん?」

「何と言うか…現実の意思や感情に影響する事って、あるよな?」

「まぁ、そうだな。
 夢で自分の気持ちに気付くとか機嫌が悪くなるとか、よくあるし」

「…やっぱアレか…?」


 アレとは、リヴァイアサンの夢の中で見た透´達の事だ。
 何故彼女達が透に好意を抱いているのか。
 潜在的な理由はともかくとして、切欠として考えられるのはあの光景だろう。
 どうにも、あの夢で見た透´とミノリ´、アヤネ´は恋人同士だったような気配がある。
 なら、他の女性達とも同じような関係を持った透´が居たとしても然程おかしくは無い。


「ホント、何だったんだろうな…あの俺達は…」


「?」


 首を傾げる大河に、何でも無いと手を振る。
 まぁ何にせよ、透に対して強い好意を抱くとしたらアレが切欠だろう。
 ツキナに関しては、簡単に予測が立てられる。
 長い付き合い故に意識してなかった…それは透だけだが…思いが、『恋人になった可能性』を客観的に見たため、幼馴染という領域から半歩踏み出した。
 他の連中も同じ理屈か?


「…なぁ透、お前夢に何か影響されたか?」


「あ?」


「いや、だからな…。
 …なんちゅうか、ルビナスの話だと…ん〜〜〜…。
 ほら、最初は皆の記憶が共有されてるって話だったろ?」


「あ、あぁ…そう言えばそういう話だったな。
 でも、ヒカルがある程度把握していただけで、そういう現象は無かったみたいだぞ?
 普通に夢を見ていた感じだった」


「ルビナスが一人でブツブツ言ってるのをチラっと聞いたんだけどな。
 その…記憶がお互いの中に流出してるのは間違いないらしいんだよ。
 単にそれを認識してなかっただけで」


「…ああ、それはあるかもな。
 記憶が無意識下に収められていると言うか、思い出せないだけでやっぱり頭の中にある、と」


「それで、その記憶がお前の洗脳解除プログラムで…目を覚ます時に、記憶の本来の持ち主の所に帰る。
 その時に、その記憶にこびり付いた……その、情報の断片が入り込んだんじゃないかって…」


「?」


 よく分からない。

 大河自身も今一理解してないが、要するにこういう事だ。
 まずそれぞれ流れ出た記憶が結びつき、それをヒカルが受け取る。
 そして記憶を受け取ったヒカルは、自分の望み…透と仲良くしたい…という条件に従って、受け取った記憶を歪曲処理。
 結果として、仲良くしている…つまり恋人になっているイメージが、各々の夢の中に投影される。
 この投影された影が、透´達である。
 この影、都合よく歪められたモノなので、余計な存在…ライバルの類は存在しない。
 ただ只管に円満なカップルの映像が出来上がる訳だ。
 そして、そのままカップルの仲をシミュレートして、悲喜こもごものドラマが出来上がる。
 それらはつまり、偽者とは言えれっきとした記憶である。
 その偽者の記憶が、洗脳解除プログラムに従ってあるべき場所に帰っていく…シミュレートされた感情を伴って。
 つまり、シミュレートで作成された偽者の記憶を、元々あった記憶と洗脳解除プログラムが勘違いして、それぞれに配信してしまった訳だ。
 その結果、彼女達には『透は自分の彼氏又は夫の類で、自分には彼を独占する権利がある』という錯覚を起こさせたのである。
 流れ込んだ記憶がどうなったかは定かではない。
 洗脳解除プログラムが消去してしまったのか、それとも覚えているのか。
 いずれにせよ、透にとっては嬉しいような災難なような。


「…まぁ、これから透は色々とちょっかいを出されるんだろうな。
 何せ、彼女達にとっては確かに恋人だった相手だ。
 それが心地よかったなら、現実世界でもと思っても不思議じゃない」


「ううう…これから修羅場がドンドコ発生しそうだな。
 秋の台風よりも頻繁に発生しそうだ…」


「他所から見れば、それでも羨ましいっちゃ羨ましいんだろうな。
 何だかんだ言っても全員美人だし、というか俺が羨ましいぞコノヤロー!」


「二桁行ってるテメーが羨んでどーすんだボケ!」


「自分がやるのはいいけど他人がやるとムカつくんじゃー!」


 自分勝手でも何でも、それもまた一つの真理…かもしれない。
 暫しギャアギャア騒いでいた二人だが、肩で息をするようになった辺りで沈静化。
 深いため息をついた。


「…そーいや、大河に言われた事があったよな。
 俺は大河と同じ人種だって…。
 これってそういう意味なのか…?」


「ハタから見れば、俺も透もハーレム状態なのは否定できんからなー。
 ま、俺の方は…俺か未亜を頂点としたピラミッド型?
 で、透の方は…獲物を奪い合う狼達?」


「俺は獲物なのか…」


 不本意にも、思わず納得してしまう透だった。
 火花を散らす機構兵団と一緒に居た時は、それこそ何時狩られるかとビクビクしていた。
 多分これからもそうだろう。


「いーろいろと余計なコト吹き込みそうなヤツが居るもんなぁ。
 憐ちゃんにはブラコン仲間の未亜だろ。
 ヒカルちゃんはルビナスに懐いてるし。
 ミノリさんはダリア先生に何か教わるとか何とか。
 ツキナ嬢には…治療のためっていう大義名分もあるよな。
 アヤネさんとリャンちゃんは単独だけど、どっかから後ろ盾を見つけてきそうな気がヒシヒシと…。
 一番怪しいのは、カイラと洋介かな。
 理由は言うまでもなく、単に面白そうだからだろ」

「あああああああ」


 頭を抱えて蹲る透。
 そもそも、折角の休日にこんな所でコソコソしているのも、朝っぱらから機構兵団その他に追い掛け回されていたからだ。
 憐と添い寝して理性が切れかかっているのを、起こしに来たツキナに発見されて、何の用事(口実)があるのかゾロゾロと集まって来ていた連中にも飛び火。
 朝っぱらから修羅場に巻き込まれた透だった。
 ルビナスが検査だと言って召集をかけたから一段落したものの、このままでは再発するのは火を見るより明らかだ。


「未亜が憐ちゃんを説得した時に、透と憐ちゃんの子供が作れる、って言ってたよな。
 透の意思はともかくとして…あんまり邪険には出来んよな。
 またリヴァイアサンになった日にゃー、もう手の打ちようが無いぞ」


「…お、俺にどうしろってんだ…」


 見事に落ち込んでいる。
 いっそ全員誑し込め、とでも言ってやろうかと思った大河だった。


「むぅ…とにかく、見舞いにでも行くか?」


「行った方がいいとは思うが…それって虎口に飛び込むようなモンだろ…」


 さて、こちらは医務室。
 王宮の医務室だけあって、ヘタな病院よりも施設は整っている。
 其処へ来てルビナスが色々と付け加えたため、現状で考えられる中では最も高度な医療が可能になっていた。

 その医務室で、ルビナスが機構兵団+αの健康状態を書きとめていた。
 それぞれ機材に繋いだ機構兵団達は、窮屈そうに顔を顰めている。

 隣では、リコがツキナの額に手を当てて、何やらコクコク頷いている。
 こちらは洗脳の影響がどれくらい残っているかをチェックしているようだ。
 透を巡って微妙に険悪な仲になっている彼女達だが、流石にこんな状況で修羅場る程無茶ではない。
 ルビナスが怖いし。


「…で、そっちはどう?」


「順調です。
 レイカ・タチバナに直接命令を出されるような事が無ければ、長くても一ヶ月程度で完全に暗示の影響は消えます。
 後は赤の力の方ですが…自分で生産できる段階に既に達しているようです。
 ただ、その生産する量が少々多いので…私が注ぎ込んだ赤の力の名残でしょう…暫くは感情的なままだと思われます…」


「そう。
 じゃあ全員問題ないわね。
 カイラさんと洋介さんも、大して問題なかったし」


 カルテにサラサラと何かを書き込んで、ルビナスはそれぞれに着けられていた機材を外すように指示する。
 機構兵団は恐る恐る機材を外して、立ち上がって大きく伸びをした。


「うー…っ……はぁ、やっぱりじっとしてるのは性に合わない…」


「私も…」


 リャンとアヤネがボヤく。
 根が活動的な二人だから無理も無い。

 ヒカルがルビナスの持っているカルテを覗き込んだ。


「憐にも問題は無いの?
 新しい体なんだし、不適合とか…」


「えっ!?
 憐の体、そんなのあるの!?」


「ある訳ないでしょ。
 私があの手この手で、どんだけ改良を加えたと思ってるのよ。
 …まぁ、暫くは体の動きが鈍くなったりするかもしれないけど」


「それって問題なんじゃ…」


「仕方ないじゃない。
 憐ちゃんの魂の方がまだ安定してないのよ?
 元々同一人物だから適合性はこれ以上無いくらいだけど、落ち着くにはまだもう少しかかるわ。
 安定した状態でないと、魂に合った体を作れないのよ」


 憐は首を傾げる。
 マナの動きなら文字通り体で知っているが、魂云々についてはお手上げだ。

 と、カイラが嘴を挟む。


「要するに、時々魂と体の間にノイズが発生するわけ?
 ノイズが発生しても体に支障が出ないように、スムーズさよりも頑丈さに重点を置いたとか」


 おお、と視線が集まる。
 ダリア程ではなくてもヘラヘラしている彼女にしては、意外な博識だ。


「そのとーり。
 だから憐ちゃん、定期的に検査をするわよ。
 魂が安定したら、ちょっとだけ体を弄らせてもらうからね」


「…うぅ…」


 イヤそうな憐。
 首を傾げたミノリだが、すぐに思い当たった。
 憐はかつて実験台にされ、手術の為に体を失っているのだ。
 トラウマが出来ていても仕方ない。
 できれば庇ってやりたいが…。


「…憐ちゃん、大丈夫。
 何なら私も一緒に受けてあげるから」


「…ミノリさん、言ってるコトは解るけど、それあんまり意味ないよ?」


「気分よ気分」


 冗談めかして笑うミノリ。
 憐も少しだけ笑った。

 その時、何か考え込んでいたヒカルが問いかける。


「…ところで…夢の中のコト、どれくらい覚えてるの?」


「…それは私も興味があるわね。
 どんな夢?
 相馬君から、ちょっとだけ聞いてるんだけど…自分達にソックリなのが居た、くらいしか聞いてないし」


 ヒカルに問われ、動きを止める機構兵団達。
 カイラと洋介は興味深々である。

 リコが発言。


「夢の中で見た事感じた事は、ある種のシミュレート結果だと思われます。
 恐らく、当人が持つ願望が多大に影響を与えているでしょう。
 …シミュレートの精度は、かなり高いと判断してかまいません」


「…まぁ、深層心理とか本人が気付いてない願望とか、その辺も結構影響を与えているでしょうしね…。
 ヘタな相性占いなんかより、ずっとアテに出来るわよ」


「そ、それは…」


 何故か慄くツキナ。
 よく見れば、他の女性達も似たり寄ったりだ。

 カイラは洋介に目配せする。
 洋介はニヤリと笑って返した。
 これは面白くなりそうだ!


「なぁ、その影響を与えている願望ってのは、透の願望も含まれてるのか?」


「多分ねー。
 どれくらいの影響があったかは解らないけど…シミュレートした夢は、ある意味では『最も自然な結果』に落ち着いた映像。
 つまり、無理に衝動や欲求を抑え込んだりせずに、お互いにとって負担にならない最高の関係、とも考えられるのよ。
 どっちがより強い欲求を持っているかは関係無くて、互いの欲求が満たせる関係。
 現実でもそんな関係になったら、上手くいくんじゃないかしら?」


『『『…………』』』


「…あ、あら?」


 急に押し黙って、難しい顔をして葛藤を始める。
 何かヤバい事でも言ったかな?とルビナスはリコに助けを求めた。
 しかしリコも首を傾げる。

 洋介は暫し考えると、膠着状態に終止符を打つべく爆弾を放り込む事にした。


「それで、透はそんなにヤバい性癖を持ってるのか?」

『『『声に出すなー!』』』

「…図星か」


 葛藤から戻って顔を赤くし、揃って絶叫。
 叫ばれた洋介は、至って余裕だった。
 元々透への好意を持っているのは知っていたのだ。
 願望が影響を与えると聞いて、夢の中に透が出現した事を予測するのは難しくない。
 夢を思い出して顔を赤くしているのを見て、ピンと来たのだ。
 単に思い出して照れているだけかとも思ったが、女性の扱いになれた洋介だ。
 顔を見れば一目瞭然。

 カイラは面白い玩具を手に入れた、とばかりにニヤニヤ笑い。
 リコはあまり興味が無さそうだが、それよりも何やら香を焚き始めたルビナスを止めるべきか迷っている。
 このタイミングで焚き始める以上、どう考えてもイタズラ用・或いは自白用だ。
 リコが迷っている間にも、ちょっとずつ香の匂いが部屋を満たし始める。


「まーまー落ち着けって。
 まぁ何だ、夢の中じゃ透とイイ感じだったんだろ?
 その辺の事を是非聞かせてもらいたいね」


「そうそう、新婚生活はヒトに聞かせて惚気る為にあるのよ。
 ここは一つ、互いの親睦の為にもドバっと!」


 何とか口を開かそうとするが、流石にガードが固い。
 そんなに恥ずかしい事なのか?
 ならばいっそう聞きたくなるというモノだ。

 一度誰かを決壊させてしまえば、後はもう芋蔓式だ。
 透に並々ならぬ思いを抱いているであろう彼女達。
 誰かが惚気始めれば、それに反発する形で自分の経験を話してくれるだろう。

 となると、狙い目は…?


(憐ちゃんね。
 人付き合いに慣れてないから、私達の誘導にも簡単に引っかかってくれるでしょ)


(容赦ないよなー、カイラって…。
 ま、俺も同感だけどな)


 良心の呵責なぞ、この連中は欠片も感じないらしい。


「な、憐ちゃん。
 透とはどうだったんだ?」


「え、ど、どうって!?」


「だからぁ、愛しのお兄ちゃんとイチャイチャベタベタする生活の夢を見たんでしょ?
 これからそれを現実に出来るんじゃない」


「あ、あうぅ!?」


 オロオロオロオロオロ。

 憐は既に真っ赤っかだ。
 憐は夢そのものは見てないが、リヴァイアサンとして夢に干渉し、『設定』を作って参加していた。
 その設定は、何気に憐の願望が山ほど入っていたりするのだ。
 普段の憐と透は、それこそ兄妹としての領域を乗り越えかねないくらいに仲がいい…という設定だった。
 勿論スリスリとか一緒にお風呂とか添い寝とか、何でもアリだ。

 それを現実で実行できると言われ、改めて考えて赤面・錯乱する。
 更に追い討ちをかけるカイラ。


「で、透は優しくしてくれたの?」


「お、お兄ちゃんは何時だって優しいよぅ…」


「へー、いつも優しく甘えさせてくれるんだ?
 ひょっとしてキスとか強請ったり?」


「そ、それは昨日やって…あう!?」


 憐に視線が集まった。
 徐々に圧力を増してくる視線に、頭の中が更なるパニックに陥る。

 このままではメルトダウンは確実…と思われた所で、さらに洋介が煽りを入れる。


「それで、透はどうしたんだい?
 アイツも憐ちゃんの事は結構好きみたいだし」


「………お、おでこに…」


「ヒュウ♪」


「透もやるねぇ。
 こりゃ憐ちゃんが甘え倒してゴールインかな?」


「そ、そんなのまだまだです!」


『『ヒッカカッター!』』


 とうとうツキナが声をあげた。
 バカ余計なコト言うな唯でさえ反発しそうなのに、と視線が集まるが、もう遅い。
 ツキナは暴走しているようだ。
 感情的になりやすい状態だったし、嫉妬が暴発したのだろうか。

 ニヤリと内心で邪悪な笑みを浮かべる洋介とカイラ、及びルビナス。
 連中の思惑に見事に嵌り、ツキナは憐に向かって爆弾を放り投げる。


「私は夢の中でも現実でも、透と寝た事があるもん!」

『『『!!!!!』』』

「単なる添い寝ですけど」


 リコがボソッと付け加えるが、誰も聞いちゃいない。
 爆弾は憐にショックを与えるだけでなく、各方面に飛び火したようだ。
 各自一斉に反撃開始。


「そ、それなら私もお目覚めのキスとかしました! …夢の中ですけど」

「部屋に入るなり18禁に突入して朝まで離してくれなかったわ!」

「は、初めてなのに、おしおしおしお尻にまで舌とか伸ばしてきた!」

「私を縛って好き勝手に弄繰り回してたわ」

「わ、私はお尻にでっかいのを…」



『『『………………………』』』』


 一同、沈黙。
 全くの静寂が舞い降りる。

 洋介、カイラはニヤニヤ顔のままだが、何気に冷や汗なぞ垂らしている。
 ルビナスは黙って録音の準備、リコはさっさと撤退した。
 火花が素晴らしい勢いで散っている。
 それはもう、打ち上げ花火よろしく綺麗な大輪の華を咲かせている…命がけのウツクシサだ。
 …そして。


「大人のオモチャを入れたまま街を連れ回され「怖いって言ってるのに媚薬を「お風呂でお尻に牛にゅ「放課後の学校で机に縛ら「夜の公園で露出プ「一緒にお風呂に入ったら風俗みたいな「もうやめてって言ってるのに抜かずの5連「脇の下でオトコの部分を扱いて「机の角で一人エッチしろって「コブ付きのロープを跨いで擦り付けながら歩い「髪の毛にアレをぶっかけ「利尿剤を飲まされて膀胱を「よく分からないアニメのコスプ「おはようのフェラとか「透が家の外から電話して命令を「自分で慰めながら舐めろって「でも週に一回は普通に愛してくれる「ピロートークで歯が浮くような言葉「二穴攻めとか「双頭ディルドーで擬似ホモ「初夜までは処女だって後ろばっかり「隣の部屋から覗くから着替えとか一人エッ「ご主人様と呼べって「胸を洗濯バサミで挟「ロリっ娘女王様も燃えるとか「ギグボールとか噛まされ「ストッキングを引き裂いて「結婚式にドレス姿で犯され「ソフトSM「TV見ながら裸の憐を弄ん「首輪を付けられてペット「子供が寝てるのにすぐ側で「赤ちゃんと一緒にオッパイを「足コキは基本「ウサミミが似合うって「メガネを汚すのがいいって「米屋さんと団地妻のシチュエーショ「ゴールデンウィークはずっと裸で抱き合って寝「ご飯は繋がりながら口移し「………「……「……「…」


 ……何を言えと?

 …………え、えーと…とにかく、なんか対抗し合って色々暴露しまくる。
 カイラと洋介も、狙い通りと思っているがちょっと後悔していたりする。
 女の争いもそうだが、同僚の知らない一面を垣間見てしまった。
 そこまでやった透(´)には敬意を表するべきか、それとも人として蔑視するべきなのか?

 彼女達は、既に他の事が視界に入らないくらいにヒートアップしているようだ。
 念の為に防音機能を備えた部屋にしておいてよかった、とルビナスは冷や汗を拭う。

 しかしまぁ、何という性癖か。
 お互いに負担にならない自然な結果をシミュレートして、そういう夢が出てきた以上は…。


(相馬さんだけじゃなくて、みんなにも多少はそういう性癖があるってコトなのよねぇ…)


 何というか、救世主クラスに匹敵するエロさである。
 救世主クラスは彼女達ほどぶっ飛んでない(とルビナスは思っている)が、その分レズ行為でポイントを稼いでいる(何のだ)。
 でも今後の参考にしようと思って、しっかり録音はしているルビナスだった。


「……………………」

「……………orz」

「……………」

「………↓orz」

「………」

「……」(南無)


「…ま、まぁ…なんだ。
 飲もうぜ。
 開き直るまで飲もう。
 付き合うよ」


「開き直ってどーすんだ!?」


「なら他にどうしたいんだ?
 深層心理に影響を与えられてるんだぞ?
 つまりそれはお前の本質の一端で、結局の所自分じゃ変えようがない。
 もう受け入れるしかないだろうが」


「うぐぐぐ…」


「ま、何だな、所詮は俺の同一存在って事か。
 どっちが卵でどっちが鶏かは分からんけど、結局俺達ゃエロス向けの変態って事だ。
 まーそう悲観的になるなって。
 これはこれで人生の楽しみが増えるって物さ」

「…オウ」


 丁度お見舞いに来た透は、自分はゲンハ以上の狂人ではないのかと、自分の存在に物凄い疑問を抱いていた。
 …ま、例え衝動的に自殺したって責められまい。
 自分の知らない、デンジャーな一面を自分の知らない所でおもックソ暴露されまくったのだから…。


「なんて諦められるか!
 俺はノーマルなんだ!」


「だからノーマルだろ?
 自分でも気付かない程度にアブノーマルな願望を秘めてるのは、誰だって同じだ。
 それがちょっと強調されただけじゃないか。
 透がそういう性癖を持ってても、充分普通だって」


「んなワケねーだろが!
 じゃあお前はどうなんだ!?
 同一存在なんだから、充分変態じゃないか!」


「何を言う。
 俺は愛しいヒトの事は全て知りたいだけであって、ピンポイントでアレな部位に反応するんじゃないぞ。
 全般的に反応するのだ。
 つまりノーマルもアブノーマルもバッチこーい。
 …まぁ、恥ずかしがる姿が大好きなのは事実だが」


「そーゆーのは節操が無いって言うだけだ…。
 ええい、もうどうでもいい!
 飲むぞ!
 急性アル中を通り越して、血管の中が全部アルコールになるまで飲んでやる!
 肝臓がどうなったって知るもんか!」


「おー、飲め飲め。
 この間奢ってもらって財布は空だろうから、今度は俺が奢っちゃる。
 死ぬ気で飲め。
 俺の財布を丸ごと空にする気で飲め。
 ちなみにちょっとした土地を買えるくらいの貯金があるがな。
 酒は飲め飲め飲むならば」


「日の本一のこの槍を、飲みとる程に飲むならば、これぞ真の黒田武士ってか。
 上等だ、最近なんか色々溜まってたし、ドラスティック(徹底的)に飲んでやる!」 


 光源氏ネタが通じないのに黒田節ネタが通じるのは激しく疑問だが、何も言うまい。

 翌日以降、大河と共に物凄い二日酔いに悩まされながらも、妙に悟った表情の透が目撃されたと言う。
 …目覚めた訳では無さそうだ。
 …今はまだ。

 そして、王都のとある一角にある居酒屋(複数)が、物凄い量の酒瓶を処理していたそうな。


 そして、その翌日だが。


「………」


「……えーと…」


「………き、記憶が…」


「…ボク、何したんだっけ…?」


 王宮に近いとあるホテルの一室で、半裸のユカと大河が頭を抱えている。
 尤も、ユカが頭を抱えているのは昨晩の記憶が無いからで、大河が頭を抱えているのは二日酔いの為なのだが。
 ユカも微妙に二日酔いだが、平常心が保てないほどではない。
 なお、半裸と言うのは別に裸にシーツを纏っているのではなくて、ウェイトレス服のボタンとかが殆ど外れているだけだ。
 …それはそれで良し。

 取り合えずユカはベッドを見て、赤い染物が無い事を確認する。
 服も着ているし、どうやら一線は越えてないようだ。


「……あ、アタマイテー……。
 と、透…?
 何処行った…?」


「…多分…相馬さんは、ボクと一緒に来た機構兵団の人達に連れて行かれたんじゃないかと…」


 冷や汗満載の二人は、何とか昨晩の記憶を思い出そうと頭を捻る。
 大河の捻った頭に銅鑼が鳴り響いた。
 悶える。
 それに気付く余裕もなく、ユカはブツブツと昨晩の事を思い出す。


「えーと…確か、昨晩は機構兵団の人達と一緒に(微妙に険悪だったけど)、大河君と相馬さんを探しに来て…」


 適当に王都を歩いていたら、えらく騒がしい居酒屋を発見。
 好奇心で中を覗くと、お目当ての大河と透が酒瓶の山を築き上げていた。
 あまつさえ額にネクタイを巻き、手にお土産なんぞ持って、マイクを持って熱唱している。
 …意外と好評だ。
 しかも店の側からも。

 放っておくべきではないかと悩んだが、お持ち帰りのチャンスでもある。
 何だかんだと4分ほど議論して、居酒屋に突入。
 酔いつぶれるのを待って持ち帰ろう、との結論になった。
 もう9割以上酔っ払っていたので、どうせすぐに潰れるだろうと思っていたのだが。

 ここで予想外の珍事発生。
 酔っていた二人が、目ざとくユカ達を発見したのである。
 済し崩しに宴会に巻き込まれ、最年少の憐にまで酒を飲ませる始末。
 同じく未成年のユカも、好奇心に負けてグイっと一杯。
 意外と美味しかったので、調子に乗って2杯3杯と飲み…その時点で憐は潰れていた……その辺から記憶が曖昧だ。


「…大河君、何か覚えてる?」

「…っぷ…。
 き、記憶にはないけど…」

「無いけど?」

「なんか全身に、柔らかくてあったかい感触が残ってる…」

「?」

「お、女の子の肌の感触だコレ…」

「うらぁっ!」

「ごふぅ!!
 おっ、おぷっ!?」

「げっ!
 と、トイレはこっちだよ!」

「うぷぷぷぷ」


 口を抑える大河を、慌ててトイレに放り込んでドアを閉める。
 ふー、と一息ついた。


「全く…女の子の肌の感触だって?
 ボクを前にして、そういう事をポンポン言わないで……?」


 ふと言葉を止める。
 てっきり大河の言っているのは、酔っ払っている間にナニした人の事だと思っていたのだが。


「…それって、よく考えなくてもボク?」


 冷や汗。
 改めて体を点検するが、鈍痛を感じる所は無い。
 少なくとも、膜は無事だ。
 血の跡も無いし。


「…いやいや待て待て、ちょっとずつでいいから思い出そう。
 確か、お酒を飲んだ後……」


 居酒屋で飲んだ後。
 狙い通り潰れた透と大河。
 透は機構兵団がどうにかするだろう。
 誰が持ち帰るのかまでは、ユカには関係の無い事だ。
 憐は既に熟睡していたので、これまた誰かが持って帰るだろう。
 それくらいの理性は残っている。
 ミノリもアヤネも、そこそこ飲み慣れているので、ちゃんと理性を保っているのだ。
 リャンとヒカルも半分寝ているようなモノなので、結果的にはミノリとアヤネが保護して帰る事になるだろう。
 となると、透を持ち帰った可能性が一番高いのはツキナか。

 まぁ、それは置いといて。


「えーと…」


 機構兵団は透にしか興味が無かったようなので、コレ幸いと酔っ払ったユカが大河を確保。
 そっちは任せるとばかりに機構兵団を置き去りにして、ユカは大河を連れて王宮に帰ろうとする。
 が、そこは所詮は酔っ払い。
 真っ直ぐ歩けず、ふと気付けば見知らぬ場所に。

 そこでようやく目覚めた大河。
 お互い支え合って(でも千鳥足で)歩く二人。
 このままでは帰り道が分からないので、その辺のホテルに泊まる事と相成った。
 …この辺の経過は、全く覚えてない。
 何人か無謀な暴漢とか声をかけてきた官憲の人とか、酔拳とか称して殴り倒したような気がするが、ただの夢である事を祈っておこう。

 まぁ、何はともあれその辺のホテルに泊まる。
 酔っ払いでも平気で泊まれた事を考えると、そういう事がよくあるホテル…まぁ、ソッチ系のホテルなのだろう。
 支払いに関しては、何の問題も無い。
 ちゃんと財布は持っているし、ユカも大河も結構な高給取りだ。
 大河は救世主クラスだから、ユカは民間人として軍に協力しているし、そもそも領主の娘だしウェイトレスとしてずっとバイトしていた。
 積立金は結構多い。

 それで…。


「…ホ、ホテルに入ってから何かしたっけ…?」


 ぶっ倒れるように、宛がわれた部屋のベッドに倒れこんだのは覚えているのだが…。
 よーく思い出してみると、物凄く暖かくて嬉しくて幸せな温もりが、自分にずっと抱きついていたような…。
 ユカは不意にその感触を思い出して、陶然となる。
 例え酔っていたとしても、あの幸福な感覚は忘れられない。
 自分でも不思議なくらいだ。
 大河に触れただけで、どうして自分はこんなに幸福を感じてしまうのだろう?

 …まぁ、そんな惚気混じりの疑問はさておいて。
 倒れこんで…どうした?
 ナニ?
 いや、何度も考えているけどそこまでは行ってない…と、思う。


「あ…う…た、確かベッドに倒れても、そのまま眠りはしなかったような……。
 ………!
 そ、そうだ!
 確かお風呂に入ったんだった!」


 しかも服を着たままだったよーな気がする。
 慌てて服を検めると、あっちこっちに皺が多数。
 …どうも、服を着て風呂に突入した後、着替えもせずに寝てしまったようだ。
 よく風邪を引かなかったものである。
 …風邪云々以前に、風呂の中で眠りそうになって死に掛けたのだが、その辺はスルー…記憶に無いし。

 …その後は…。


「…酔いに任せて、おバカで微妙にエロい会話をしてたような気が…」


 と言うか、確かキスまでされたような気がする。
 あまつさえ舌も絡ませた。


「う、うあああ!?」


 その記憶を切欠として、急激に蘇る昨晩の記憶(虫食い有)。
 そう、この部屋まで来た二人は、寝る前には風呂に入るものだと、千鳥足のままバスルームに突入したのだ。
 しかも、二人揃って。
 服を脱ぐのが面倒だと、着衣したままシャワー全開。
 あっと言うまにビショビショに。
 纏わりつく服の感触が不快だったが、酔っ払いには些細な事でしかなかったらしい。

 更に…熱い湯を浴びた事で更に酔いが回ったのか、ヒートアップ。
 この辺から本格的に思い出せなくなっているのだが…。


「ぺ、ぺぺぺぺぺってぃんぐ…」


 段階で言ったらB。
 なんだかよく分からないノリでヘラヘラ笑いながら、ふざけてお互いの体を弄っていた。
 何処まで触れた?
 取り合えず、胸を揉まれたのは間違いない。
 胸元が肌蹴ているし、その辺はちょっとだけ記憶に残っている。
 あと首筋にキスマークをつけられた。
 ちょっと嬉しい。
 で、大河の手が太股の辺りをウロチョロしているシーンを最後に…。
 なんかとっても気持ちよくなったような記憶が微かに…ぶっちゃけ…天辺までいっちゃった?


「お、思い出せ!
 思い出せボク!
 結果がどうなったにしろ、これって一生モノだよ!?
 ちょっと嬉しいけどこんな展開ではぢめてを無くすなんてヤダぁぁ!?」


 ゴンゴンゴンゴン、と壁に頭突きしまくる。
 どこの煩悩少年だ。
 …でも頭突きの威力は比ではない。
 壁が凄い勢いで凹んでいってるが、それどころではない。

 頭突きの衝撃が切欠だったのか?
 サイコメトラーよろしく、ふっと頭に過ぎる光景。
 一瞬、それが何なのか分からなかったが。


「……ガン見してたあああぁぁぁぁ!!!!!」


 ぶっちゃけ、大きくなっている大河。
 しかも間近で。
 トドメに、自分のものらしき手が触れている。


「ボクもうお酒なんか飲まないいいぃぃぃぃ!!!!!」


 絶叫の後。
 ユカは唐突にパタリと倒れた。
 神経が耐え切れなかったようだ。


「…うぷ…ユカ、さっきから何を…」


 青い顔の大河が、トイレから顔を出し。


「…そのまま寝ててくれ…うぷっ」


 また引っ込んだ。


 30分後。


「…ってーと、結局ギリギリで踏みとどまったんだよね!?」


「ああ…。
 ユカが見たのは、俺のじゃなくて多分ソコのやつだ」


 ユカは大河の指の先にあるテレビ(のような物)を見た。
 首を傾げるユカだが、コイン投入口を見て思い当たる。


「…えーと、これってひょっとしてアレ?
 100円入れたら、エッチなビデオが映るって言う…」


「ああ…どっちが入れたのかは覚えてないけど、夢現にユカが興味津々な視線を送ってたようななかったような」


「…酔ったボクってそういうキャラなの…?」


 真剣に悩む。
 年頃の少女として大いに興味はあるが、それを不潔と感じる感性も大いにある訳で。
 どうしたものか、器用に忘れられればなぁ、とユカは云々唸っている。
 …そう言えば、前に見た事がある大河の男性部分は、昨晩の記憶よりももーちょっと大きかったような…(赤)。

 ちなみに、大河はまだ微妙に気分が悪いらしい。


「まぁ、言いづらい事だが、なんだ。
 お互い色々な所を触ってたから、気づかない内に洒落にならない部分に触れた可能性も…」


「そこは触れないで。
 気にしないで。
 思い出せないんだから思い出そうとしないで。
 …でも胸を触った責任は取ってもらうからね」


「ユカが救世主クラスの状況を受け入れられるんならね」


「…ま、妥当かな…」


「ちなみに、首筋を舐めた責任とかその豊かな胸に顔を埋めた責任とかお尻を撫で回した責任とかは?」


「この場で空を飛ぶ事で取ってもらうよッ!」


 究 極 気 吼 弾 


 大河は壁をブチ抜き、王宮まで吹き飛ばされたらしい。
 なお、氣は使ってないので、ユカの多感症は発動しておりません。

 吹き飛んでいった大河を見送り、ユカは溜息をつく。


「…ヤバ、この壁の穴どうしよう…。
 ……大河君に責任擦り付けようか。
 うん、それが酔ってるボクに狼藉を働いた責任って事で」


 …ユカも大分鍛えられている。
 さっきの気吼弾の衝撃でか、ずいぶん周囲が騒がしくなってきた。
 このままここに居ても面倒な事になりそうだ。

 逃げるか?
 しかし、ホテルに泊まったからにはチェックイン時に名前とかも知られてるだろうし…。
 いや、でも酔っ払いがまともな字を書くか?
 そもそも本名を使ったかどうかも怪しいし…。


「………ま、いいか。 逃げよ」


 諸々の問題を放り出して、ユカは自分で開けた穴から外を見る。
 幸い、こちら側には野次馬はまだ集まってない。
 ユカは適当な足場を探し、勢いをつけて跳躍。
 壁を蹴ったり屋根の上を走ったりしながら、そそくさと王宮に帰っていった。


 未亜・リリィ 王宮


「リリィさん、お兄ちゃん居た?」


「まだ帰って来てないわ。
 ったく…私達のお見舞いにも来ないで朝帰りなんて、随分と偉くなったもんね」


「帰って来たらどうしてくれよう…。
 この場合、Sモードをお兄ちゃんに向けて発動させるのも正当な権利よね?」


「そうね、私が保証するわ」


 何気に危険な会話が交わされている王宮。
 未亜達は、昨晩から全く姿が見えない大河を探し回っていた。
 ベリオとリリィも回復したし、救世主クラスは全員揃っている。
 クレア・ダリアも王宮に居るし、イムニティは今日の朝に帰還した。
 しかも。


「お義母様も午後には到着するんだから、それまでに捕獲しないと」

「出迎えにも来なかったら、機嫌悪くなるだろうしね」


 ミュリエルも王宮に呼ばれているのだ。
 ぶっちゃけた話、『全員揃って解禁』な状況なのである。

 一応言っておくが、ミュリエルが来るのはヤる為ではない。
 大河達の様子見も理由の一つだが、捕らえたV・S・Sの社長、レイカ・タチバナの問題が最大の理由だ。
 裁判にもかけねばならないし、残されたV・S・Sが謝華グループに吸収される前に手を打ちたい。
 ミュリエルは切れ者で通っているし、裏の世界の情報網も侮れない。
 証人とは言わないが、発言者としての力は充分に備えている。


「リコ達は?」


「リコちゃんは、何かイムちゃんに用事があるって言ってた。
 喧嘩売りに行ったんじゃないと思いたい。
 クレアちゃんは言わずもがな、お仕事。
 ルビナスさんは例によって、シュミクラムを弄ったり機構兵団の人達を診察したり。
 カエデさんとナナシちゃんは…まだ寝てた」


「ベリオはベリオで、お勤めがどうのと言ってたし…」


「刑期?」


「そんな訳…あり得るか、ブラックパピヨンの方が…。
 そうじゃなくて、この3週間近く、礼拝とか懺悔とかやってないんだって。
 これから先、また戦争が長引けば当分出来そうにないし…。
 だから今日纏めてやっちゃうって言ってたわ」


 そういうモノでもないと思うが…まぁ、気分の問題か。

 ふぅ、と溜息をつく。
 全く、大河は何処へ行ったのか?
 今度は何処を探すかと思案していると。


「あ、未亜さん」

「ん? あ、憐ちゃん!
 もう大丈夫なの?」

「うん」


 水色のロリっ娘が現れた。
 何だか機嫌が悪そうだ。


「…えっと、本当に水坂憐ちゃん?」

「は、はい」

「……ま、お兄ちゃんと仲良くね」


 リリィは戸惑っているようだ。
 リヴァイアサンと憐の事は聞き及んでいるし、一応姿も見た事があったが…。
 どうにもあの怪物とのイメージが結びつかない。
 特に、こんな無邪気な笑顔を見せられると。

 憐と未亜は気が合うらしい。
 憐にしてみれば、体を手に入れる切欠をくれた恩人だ。
 懐くのも左程不思議ではない。


「あ、そうだ憐ちゃん。
 お兄ちゃん知らない?
 相馬さんじゃなくて、私のお兄ちゃん」


「大河さん?
 それなら、昨晩見たけど…」

「「何処で!?」」

「お兄ちゃんとお酒飲んでた」

「…は?」


 憐は機構兵団総出で、いきなり王宮から姿を消した透を探しに出た事を告げる。
 その途中、偶然にもユカとバッタリ。
 大河を探していたらしい。


「…ユカと?
 そう言えば、今日は見てないね…」


「…まさか…?
 それで、その後どうしたの?」


 大筋は読者の皆様が知っている通りだ。
 居酒屋で盛り上がっている透と大河を発見、そして宴会に巻き込まれて憐は即効でノックアウト。


「ミノリさんの話では、憐の他にもリャンちゃんとヒカルちゃんが酔いつぶれたって…」


「…の割には、二日酔いとか全然なってないね?」


「未亜、それは愚問よ。
 この子の体、誰が作ったのか忘れたの?」


「…そうでした」


「? それでね、大河さんはユカさんが連れて行ったんだけど、私達は誰がお兄ちゃんを担ぐかで揉めて…。
 結局、ジャンケンで勝ったツキナさんがお兄ちゃんを背負って、ミノリさんとアヤネさんは、憐とヒカルちゃん、リャンちゃんを連れて帰って来たの。
 今、お兄ちゃんは自分の部屋で気持ち悪いって項垂れてるよ。
 何であんな風になるまでお酒を飲んだのか、ってミノリさんが首を傾げてた」


 知らぬが仏、とはよく言ったものだ。

 それはともかく。
 未亜とリリィには、より重要な事があった。


「ユカが…」


「お兄ちゃんをテイクアウト…!?」


 油断した。
 清純路線を地で行くユカだから、まさかそうまで積極的な手段に出るとは思ってなかった。
 これは侮っていたか、と評価を改める。


「くっ、しまったわね…大騒動が治まって気が緩んでいる瞬間を狙うなんて…。
 流石は武神、相手の呼吸を読むのはお手の物って事か」


「…って事は、ユカさんはお兄ちゃんに手を出したって事で…。
 それはお兄ちゃんのハーレムに入ったって事よね?
 ……リリィさん」


「壊さない程度なら」


「よし!」


 S未亜、ロックオン。
 泥棒ネコにお仕置きするのだから、正当性はある…という事にしておこう。


「取り合えず、召集かけておこうかしら。
 未亜、私はカエデとベリオを呼んでくるから」


「それじゃ、私はクレアちゃんやダリアさんね。
 …リコちゃん…は何処に居るか解らないけど、テレパシーで伝えておく」


「…前から思ってたんだけど、アンタどうしてリコにだけテレパシーが出来るの?」


「マスターだから」


「…やっぱり図書館の時に手を出してたの…?」


「秘密」


 リリィの追求を軽く避ける未亜。
 その未亜に、憐が声をかけた。


「よく分からないけど、ダリアさんだったらミノリさんの部屋に居たよ」


「ありがとう…って、ミノリさん?
 え、なんで?」


「お化粧がどうとか言ってた」


 どうやら、暇が出来たダリアは早速ミノリに諜報員の技を教え込んでいるらしい。
 有効に使えるかはまた別だが、これでミノリも透争奪戦に積極的に突っ込んで行く事だろう。
 より一層の修羅場が期待できる。
 少し離れた所から高みの見物を決め込む予定のリリィだった。

 ふとリリィは首を傾げる。


「そう言えば、憐ちゃんはどうして此処に?
 相馬さんと一緒に居るんじゃないの?」


 甘えん坊の憐の事だから、ルビナスの検診がある時以外はピッタリくっ付いて離れないのではないかと思っていたのだが。
 実際、憐はそうするつもりだった。
 昨晩透を探して街に出たのも、一緒に居たかったから。
 その憐が、何故此処に?
 昨晩散々酒を飲んでいたという透は、今は二日酔いの極地にあると考えられる。
 看病とかしないのだろうか?

 問いかけられた憐は、あからさまに不機嫌な表情を作った。


「な、何?
 何か私マズい事でも聞いた?」


「…お兄ちゃんは…アヤネさんと、内緒の大事な話があるって…」


「……大事な話…?」


 告白ではないだろう。
 二日酔いのまま告白なんて、言われた方も嬉しくないと思う。
 流れのままに言ってしまう事もあるかもしれないが…。


「…なんだろ」


 透は頭蓋骨の中にガンガンと響く異音と、ちょっと油断すればすぐに込み上げてくる吐き気を抱えて、見覚えのある天井を見上げていた。
 ここは王宮の一室だ。

 昨晩の記憶が無い。
 医務室の前で自分の存在と言うか健全さに多大な疑問を抱くハメになり、大河の奢りで自棄酒飲みまくったのは覚えている。
 多分、飲みまくった結果呑まれてしまったのだろう。
 限度を考えず、ただ余計な事を忘れる事だけを考えて呑みまくったし、酔った勢いでバカをやった記憶もある。
 まぁ、この際それはいいのだが。
 どうやってここまで帰って来たのだろうか?
 機構兵団や憐が、透を迎えに来てくれたのは微妙にだが覚えている。
 多分、大河も連れて帰ってくれた事だろう。

 余計な心配と手間をかけてしまった、と申し訳ない気持ちになるのと同時に、寝ている間にナニかされなかったかと不安になる。
 それも無理は無いだろう。
 何せ、つい10分ばかり前まで、二日酔いにはキツいプレッシャーが部屋のすぐ外でぶつかり合っていたのだ。
 透は自分が生贄または賞品になっているような気がして仕方が無い。

 そのプレッシャーは、ぶつかり合うだけぶつかり合って、物理的にはぶつかり合わずに解散したのだが…。
 扉の前に、気配が一つ。
 その気配は、何故か去りもせず入室もせず、ただじっと扉の前で立っている。


(誰だ…?)


 酔った透では、それが誰かなど解らない。
 しかし自分から動く気にもなれず、そのまま放置プレイに徹していた。
 しかし、いい加減気にはなってくる。
 丁度催してきた所だし、透はノロノロと立ち上がる。
 まだ三半規管は酔っ払ったままで、真っ直ぐ立ち上がるのも難しい。


「おっと…とととズガァン!!」

 べちゃ

「透!?」


 突然の轟音と衝撃。
 バランスを崩し、透は力なく倒れこんだ…擬音も根性が入ってない。
 それと同時に、扉を開いた女性…アヤネが慌てて駆け込んできた。

 地面に倒れてあー、うー、と呻いている透を抱き起こす。
 ただし、吐いてない事をしっかり確認してから。


「あ、あやねか…なにが…あったんだ…」


「さ、さぁ…」


 取り合えず透を抱えて、部屋から撤退するアヤネ。
 部屋の外に出て、透を支えたまま扉の陰から部屋の中を窺う。
 濛々とした煙が立ち込めている。
 しかも、丁度透が寝ていたすぐ側の壁が見事にブチ抜かれ、瓦礫でベッドが埋まっていた。
 もしも透があそこに寝たままだったら、と思うとゾッとする。


(敵…!?
 透、貴方は私が護る…!)


 今やアヤネの全てとも言える程に重要な存在となった透。
 例え命に代えても、と悲壮な覚悟を決めた。
 もしもこの攻撃が透を狙ったモノであれば、アヤネは決して許さないだろう。

 部屋の中の土煙は、徐々に薄れ、破壊された壁から日が差し込む。
 少しずつ部屋の中が見えてきた。


(…誰か倒れてる…?)


 と言うか、ベッドを埋めた瓦礫の上に乗って大の字になっている。
 透以外は、この部屋には誰も居なかった筈。
 となると、この惨状を引き起こした張本人か、さもなくばあの人影こそが狙われていたのか。


 城内が騒がしくなってきた。
 当然だ。
 いくらルビナスが時々実験をミスって大爆発を起こすとは言え、こんな惨状を受けて放っておく程、王宮はボケていない。

 警備兵が駆けつけてくるのを待ち、それから撤退。
 それがアヤネの下した判断だった。
 あの人影が誰であれ、それまで目を離す訳にはいかない。

 砂煙がほぼ止んだ。
 しかし人影はピクリともしようとしない。


(…死んでないわよね、アレ…)


 極めて正当な疑問。
 しかし、よくよく見ると……。


「…当真君?」


 それは救世主候補の当真大河だった。
 何故に?


 その後、敵襲かと駆けつけてきた兵士達に事の次第を説明。
 その結果、「ああ、救世主クラスか」の一言でカタがついたようだ。
 本当にそれでいいのか、とアヤネは疑問に思う。
 …彼女はナナシの頭がカイザーノヴァな事や、ベリオとルビナスの追いかけっこで王宮が半壊した事を知らない。

 そして当真大河本人は、やって来た救世主クラスがさっさとテイクアウトしてしまったようだ。
 一体何なんだ。

 それはともかくとして、相変わらず二日酔いで死に掛けている透を、隣の部屋に運び込む。
 同じく駆けつけてきた機構兵団も追い出して(まだ話が終わってなかったのかとブーたれた)、ようやく二人は落ち着いて向かい合う。


「………」

「………」


 気まずい。
 一体何から話したものか。
 透にも、用件の見当はついている。
 が、やはり気まずい。
 加えて二日酔いのため、この空気を圧して話しかけるだけの気力なんか無い。
 結局、アヤネから話しかけるしかないようだ。


「……あの」

「む…」


 搾り出したアヤネの声に返事をしようとするが、思った以上にまともに動いてくれない体は、呻き声しか出せなかった。
 それを否定的な意味に捉えたのか、アヤネが怯む。
 しかし、ここが正念場とばかりに口を開いた。
 彼女にとっても透にとっても、ここは重要な所だ。
 怯んで話すのを止めるなど、それこそ論外である。


「……夢の中の、事なんだけど…」

「………いいヤツだったよな…?」

「! ………ええ…」


 透は涙を堪える。
 ここで泣いてなんかやらない。

 アヤネは、また絶望の淵に向かおうとする心を引き止める。
 何もかも投げ出してしまっては、それこそ彼…ユーヤに申し訳が立たない。

 アヤネが話そうとしたのは、夢の中で会ったユーヤの事だ。
 彼は「俺を殺してしまった事なんかに躓くな」と、それだけ言い残して笑いながら消えて行った。
 そう言われた所で、アヤネが透の親友を殺した事には変わりないし、それだけでアヤネの心が晴れる訳でもない。

 しかし、許された。
 許されてしまったのだ。
 アヤネが犯した罪を、他ならぬユーヤが許したのだ。
 これ以上、誰が彼女を責められる?
 アヤネは、自分が許され、罪が消えたような錯覚さえ抱いてしまった。
 それはアヤネにとって、永遠に許されないよりも苦しい事だったかもしれない。
 許されなければ、ずっと自分の罪に溺れていられた。

 だが、ユーヤは許した。
 ならばアヤネは、これ以上立ち止まる事は許されない。
 先に進め、と言われたのだ。
 忘れはしない。
 だが囚われたままでは、死して尚笑ったユーヤの意思が無駄になる。

 透に夢の中の事を話そうと思ったのは、それが自分なりのケジメになると思うからだ。


「……ユーヤは、もういいって言ったんだ…。
 復讐なんてしなくていいんだって…。
 それを聞いて、俺も楽になったよ…」


「…私も…少しだけ楽になった気がする…。
 私が、今更こんな事を言ってもいいのかは…解らないけど」


「…いいんじゃないか?
 少なくとも、俺が許すよ。
 …もう、ユーヤの敵討ちは…止めだ。

 言ったよな、生きて帰れたら、何もかも忘れて仕切りなおしだって」


「ええ、覚えてるわ。
 …生き直しね。
 私も、透も…」


 二人で笑う。
 これ以上、語る必要は無い。
 何もかも忘れる事は出来ないけれど、これで二人は自由だった。
 過去に連なる鎖はまだ四肢に絡みついているが、繋ぎとめてはいない。
 重い荷物を背負いながらも、どこかに行ける。


「…これで、仇云々の話は終わりだな…」

「そうしましょう。
 …でも、透だけじゃなくて…ツキナさんやヒカルにも言わないとね」

「…アキラにも、な…」

「誰?」

「ステッペン・ウルフのメンバーだよ」


 ユーヤを殺したのは自分だ、とアヤネは言うつもりなのだろう。
 そこからどうなるかは、アヤネにも解らない。
 顔を一発殴られて終わりかもしれないし、また仇として付け狙うかもしれない。
 しかし、アヤネは退けない。
 例え許されようが、これだけはやらなくてはいけないのだ。


「…さて、それじゃ話も終わった事だし…」

「ん? まだ何かある?」

「脱いで」

「………は?」


 頭痛も忘れて、透は呆然と聞き返した。

 今何と言った?
 脱げ、と?
 この話の流れで、どうしてそんな結論が出てくる?

 ボケっとしている間にも、アヤネは少々戸惑いつつも透の服を脱がせて…否、むしろ剥いていく。
 妙に手馴れている。


「ちょ、ちょちょちょちょっと待てアヤネ!?」


「ふふ…こうして人の服を脱がすなんて、何年ぶりかしら…。
 あの子がまだ幼稚園児だった頃、よくお風呂に入れてあげたっけ…」


「いや思い出話に浸ってないで!
 なんで服を脱がにゃならんの!?」


「決まってるじゃない。
 汗を拭くためよ。
 透は二日酔いで死に掛けてるんだから、自分では動かないように」


「いやいや死に掛けてなんかいないから!
 頭の中でシャウトされてる感じがするだけで命に別状とかないから!
 ちゃんと自分で拭くって!」


「黙って剥かれなさい!」


「イヤー!
 “また”アヤネに汚されるー!」


「「「「「またって何だぁぁぁ!?」」」」」

 ドガァン!


 透の悲痛な叫びと共に、唐突に扉からミノリ・ツキナ・リャン・ヒカル・憐が乱入。
 どうやら先程の騒ぎで集まって、アヤネに追い払われたものの、何となく残っていたらしい。

 アヤネはチッ、と忌々しげに舌打ち…本当にアヤネか?
 夢の中の記憶が、なにやら影響を与えているのかもしれない。

 一斉にアヤネに詰め寄る一同。
 ちなみに、透は突然増えた騒音によって二日酔いの頭痛が激化、既に気を失って気絶した。


「ア、アアアアアヤネさん!
 大事な話があるって言ってたのに、どういうつもり!?」

「別に嘘はついてないわ。
 大事な話はもう終わったから、透を看病しようとしただけよ」

「お兄ちゃんに何をしたの!?」

「服を無理矢理脱がせて、汗を拭いてあげようとしただけよ。
 このままだと、夕方まで自分じゃ動けそうにないから。
 風邪を引かれちゃ申し訳ないでしょう?」

「じゃあ汚されるって何です!?
 しかも“また”ってのは何ですか“また”ってのは!」

「前に意識が朦朧としてる時に、動けない透にイタズラしたらしいの。
 既成事実は出来てるわね」

「逆レ○プで既成事実も何もないわよ!」

「抜け駆けは汚いよ!」

「目の前にチャンスが転がってたら掴むのは当然でしょう!
 その巡り合わせが良かっただけで、抜け駆け呼ばわりは無いんじゃない?」

「この場合は立派な抜け駆けだぁッ!」


 喧々囂々。
 アヤネが軽くあしらっているように見えるが、これは透との距離が一歩近づいたという余裕の現われだ。

 すぐ横に病人が転がっているという事実も忘れて、言い争いはどんどんヒートアップしていったのだった。
 …しかし、リャンと憐とヒカルは昨晩の飲みで潰れていた筈だが…二日酔いとか無いのだろうか?


「…あっちは元気そうだね」

「そうだな。
 大河が『もう一人の俺』と称するだけあって、相馬の周りには揉め事の種が欠かないようだ」

「しかも、お兄ちゃんと違ってあっちは修羅場率が異常に高そうだよね…。
 それが普通なんだけど。
 むぅ、煽るにしても加減しないと…刃傷沙汰は勘弁だモンね」


「そうだな。
 …で、結局大河は何をやっていたのだろうな?」


「朝帰りではあるけど…」


 クレアと未亜、リリィの前で、珍しくグデングデンな感じにくたばっている大河。
 意識なんか欠片もない。
 強引に起こそうとしたら、何か口から微妙に吐き始めたので慌てて止めた。


「ユカ・タケウチはどうした」


「まだ帰ってないね。
 さっきの騒動の時も居なかったし…。
 単純に考えれば、お兄ちゃんを吹き飛ばしたのはユカさんなんだけど」


 人間をあれ程の勢いで吹き飛ばせる者など、そうそう居ない。
 それこそユカや汁婆くらいしか思いつかないだろう。


「ちなみに情事の痕跡は?」


「キスマークは無し、硬さと乾き具合、反応度からして、股間のハイパー兵器を使った痕跡もない」


「…調べたんかい」


「まぁ、ちょっと刺激しただけ。
 それに…全身から、ごく薄いけどユカさんのモノらしき匂いが漂ってる。
 結論としては、軽いペッティングまでではないかと思われます」


 そこまで読み取る未亜って一体…。
 匂い?
 アンタ猟犬か?

 突付いただけで使用量がわかるとは、どれだけ突き…もとい、付き合いがあるのだろう?
 クレアもリリィも呆れ気味だ。


「…言いたい事は多々あるが、一つだけ。
 お主、そうやって人間離れと言うか浮気を見逃さない古女房みたいな事ばかりやってると、萌えポイントがだんだん下がっていくぞ?」


「唯でさえ萌えキャラ扱いされてないんだから。
 アンタ妹萌えからは遠く離れたキャラよ?」


「う゛」


 心当たりはあるらしい。
 何を今更、と開き直るのも婦女子としてちょっとアレだ。
 しかし、追求せずには居られない。


「ま、まぁ…一線は越えてないんだから、良しとしましょう。
 言っちゃなんだけど、ユカさんとの関係が一挙に発展しないのが奇跡みたいなモノだしね」


「それは言えてるなぁ…。
 大河の場合、チャンスさえあれば一気に食いつきに行くからな…。
 そこで耐えてるのは評価すべき…か?」


「でもそんな事言ってるから、関係者がドンドコ増えるのよ」


「………」


 痛い沈黙。
 一回大河を痛い目に合わせた方がいいのは解りきっているのだが…。


「…前から準備してた計画、本気で実行に移そうかなぁ…」

「む? その計画とは?」

「どうせロクでもない事でしょ」


 興味を惹かれるクレア。
 リリィはイヤそうな顔をしている。
 未亜はニヤリと笑う。
 あ、発動しかけてる。


「え〜、そんな事言ってると、リリィさんを仲間外れにしちゃうよ〜?」


「………………ま、まぁ、モノは試しって言うし…。
 どうでもいいんだけど、ちょっと話してみなさい?」


 誤魔化しているつもりだが、リリィの内心はバレバレだ。
 未亜は今回はリリィをからかわずに、計画の概要を話し出す。


「だからね、女の子を堕とした分、強烈な威力が出るお仕置きにする訳よ。
 前からやりたいなー、と思ってた事も実現できるし、私達も楽しいし、一石二鳥…いや三鳥。
 まぁ、別の不安もあるんだけど…」

「ほぉ?」

「まずはね、…………に………を人数分作ってもらって…」

「…ふむふむ。
 という事は、………の……と…の……を全員で?」


「うん。
 いっそ………じゃなくて…………にしてもいいんだけど、それだとお兄ちゃんに使い慣れた武器が残るし」


「そうだな。
 この場合、反撃を受けない事が肝要だ。
 …しかし、そうなった場合…お主、他の連中に……」


「あー、まぁそれもあるけど、今回は無し。
 とにかく目標は第一も第二もお兄ちゃん」


「…まぁいいか。
 (いざとなったら、…………に細工させて…)」


「……何やってんのさ」


 未亜、リリィ、クレアが邪悪な顔で密談している様を、いつの間にか帰って来たユカが呆れて見ていた。




卒論仮提出完了ー!
でも同じ研究室の2人がヤバすぎ…。
で、卒業したら大阪に行く事になりました。
うう、初めての一人暮らしだー…。
取りあえず慣れない事ばかりで5月辺りに体調を崩す事は確定として、今の内に勉強しておこう…。

と言うわけで、4〜5月辺りには更新が滞る可能性アリです。

それではレス返しです!


1.パッサッジョ様
同じブラコン同士、通じ合うものがあるんでしょうねw
透は…早速災難を食らっているようですw

これから“破滅”の軍が本格的に動き出す事になると思います。
救世主クラスの出番が多くなる…か、それぞれ分散されて一部の人間に出番が偏るかはわかりませんが。


2.アレス=ジェイド=アンバー様
いやぁ、お約束でしょうw
それとすり抜けで不幸なのは、どっちかと言うと憐ちゃんかと。

そー言えば、ナナシはジャンプ落下中とかに結構見せてましたねぇ。
…ナナシだったらカボチャパンツでも違和感無いんですが。

説得?
いいんです、アレで!
…でもW893は手に負えないなぁ…。

ルビナス製のボディに加えて、多少なりともリヴァイアサンの力が残ってるかも…。
ある意味最強?


3.竜の抜け殻様
この場合、未亜のジョブは…召還師?それとも魔獣使い?

ホント、あのパペット…何が積み込まれてるんでしょうね…?
取りあえず、自爆装置は確定だと思われます。

むぅ、ゲンハの頭を見て、何かを連想しそうなんですが…なんだろ?


4.YY44様
ばら撒くのはいいですけど、それってばら撒いた先で何かしら災厄が起きるって事なんですよね。
何も無い亜空間に放り出したらいいのかもしれないけど、何処に出るか解らないし…。

アフロキャラには、ダウニー先生も入ってますか?
…そして密集したキャラの上に、アフロ神が…ちなみにボリュームは、ラ○ュタの城の上にある木ぐらいw

カエデ=麻帆良の彼女と思うには、一つ大きな差異が。
麻帆良の彼女は緑色の両生類が嫌いだけど、カエデは平気で捕まえて食っちまいそうですw

バルドメンバー、これからも色々出張ってもらいます。
…多分ね。


5.陣様
最近マジで寒いッスねぇ…。
風邪に気をつけて…。

なるほど、限定的メガネですか!
つまりアレですね、某あかいあくまが説明の時にだけメガネをかけるのと同じ。

ルビナスは便利ですからねぇ。
どんな無茶をしても、マッドの一言で終わるしw

トンデモ似たもの…と言う事は、仮に未亜が憐と同じ立場だったとして…。
リヴァイアサンになったら…美女美少女の魂しか集めないねw
大河がリヴァイアサンの中に突入したら、そのまま帰ってこないかもw


6.イスピン様
島本作品大好きなクチですか?
両方滝沢キックは双魔伝の方でやったんで…今度やるときはハンドレッド滝沢キックかな?

何とかリヴァイアサン編が今年中に終わって、ホッとしてます。
ああでも、次の山を超えるのに…まぁ、4月までには何とかなるかな…。

未亜の餌食になったのは、V・S・Sのレイカ・タチバナではなくて、V・S・Sの上役という設定の謝華グループ会長、レイミ・ジャバナです。
むぅ、似たようなキャラだし…ややこしいなぁ。
やっぱり人数増やしすぎました。

黒いっつーても、昔に比べたら随分甘くなった気がしますw


7.くろこげ様
ハイ、タシカニイツモドオリデス。
びびらせようと思ったら、また新属性でもつけなきゃいけないかなぁ。


8.カシス・ユウ・シンクレア様
確かにいつも通り、ブラコン全開ですw
シリアスシーンが続いたから、未亜のはっちゃけぶりに力を入れられず…。
そういう意味では、確かに戦争が未亜を普通人(?)に変えていってます。
…このまま暫く戦争が続いた方が、救世主クラス近辺は平和かもしれません。

ハタから見れば透君はハーレムでも、開き直らない限り獲物のままですw

物理法則無視って、ある意味最強の能力だと思うのですが…でもいつもボケとツッコミにしか使われない能力でもあるんですよね。
バルド編の後始末も、後はレイカ・タチバナくらいです。
色々と伏線を消化しきれてませんが…。


9.悠真様
マトモな神経じゃ、流石に妊娠まではねぇ…。
近親だけなら、何とか気付かれない事も出来ると思うんだけど…。
…まぁ、現実で近親をやられた場合、引くか物凄く喜ぶかは微妙な所です。
考えてみれば、未亜も地球に居た頃は壁があったんですよね。
ウチの未亜は初っ端から既成事実を製造しようとしてましたがw


10.JUDO様
はい、一応バルド編はこれでオシマイです。
この後憐の使い方とか色々思いついちゃって、どーしようかと迷ってますが。
謝華編は、多分“破滅”の中盤あたりからです。
正直、この辺まだ何も考えて無いんですが。

初っ端から修羅場と言えば修羅場ですw
当人が彼女達のド真ん中に居なかったのが残念だw

うーむ、四天王全員VS大河か…。
最初は考えてたんですが…どうしようかな…流れ的に難しくなってるんです…。


11.ナイトメア様
未亜のは願望とは言いません。
既に確定事項です(未亜の中では)。

子宝で満たされる…えぇと、まず透の側のハーレム(未結成)が6人。
大河側のハーレム(現時点)が、えーとイムとリコは子供生めるかどうか解らないし、ブラパピはベリオと被るから無しとして、未亜・ベリオ・カエデ・ナナシ・ルビナス・リリィ・ミュリエル・ダリア・クレア。
一人につき子供一人とするなら、計15人か…。
満たされすぎw

ロベリアの世界か、どうしよう…。
属性強化にしろ、そろそろネタが尽きてるし…。

ガーゴイルですか?
最終決戦辺りに出てきてもらう可能性が…。


12.なな月様
うわ…悲惨な状況になってますね。
腹でも出して寝たんですか?

やはりブラコンの年季が違いますからね。
いや年季は同じくらいなんでしょうけど、大河とのスキンシップが多い分、未亜が有利だった、と。
ドロドロの5.6角関係…なんでしょうか、これは?

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