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「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第十話 中編(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-12-10 06:19/2006-12-10 14:39)
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―リーザス城内 横島の部屋―

(気付いて・・・いらしたのですか?)

「まぁ、何となく・・・ですけどね。あの『契約』がキッカケなんっスよね?」

横島の口調には別に日光を咎めるような様子はなく、普段どおりといえる。
日光は横島から怒りを買うことも覚悟していたため、逆に戸惑っていた。

(はい・・・決して意図した訳ではなかったのですが・・・横島様の過去、アレは横島様の故郷での戦(いくさ)だったのでしょうか?その記憶を・・・)

「・・・・・・・・・」

言うべきか隠すべきか・・・いや、隠したところで既に日光は『見ている』。
日光がどこまで『理解』しているのかは定かではないが・・・。

(出すぎた真似だったとは重々承知しております・・・許していただけるとは・・・)

「・・・あ、ああ。別に怒ってるワケじゃないっス。日光さんが俺の何を見たのか・・・も何となく分かってます。別に大したことでもないし、隠すようなことでもないっスから」

横島は努めて明るく振舞おうとしているが、それを真に受けるほど日光も鈍くはない。
実際は横島にとって非常に『大したこと』であり、たとえ克服したとはいえ、今でもアキレス腱と言える過去である。
元の世界でも身近な、ごく限られた人間しか知らず、この世界においてはかなみはおろか、マリスすら知らない過去だ。

「はぁ・・・・・・」

長いため息をひとつ。

横島は日光に対し、全てを話すことはしないまでもある程度のことなら話す必要があると感じていた。
魔人に関していくつか疑問に思っていたこともある。
もし・・・それが自分の・・・ルシオラの魂が関係しているのなら理解しておかなければならないはずだ。

(シリアスは俺のキャラじゃないんだけどなぁ・・・・・・)

普段の横島からは想像もつかない深刻な表情。
横島は座っていたベッドから立ち上がり、机の上の日光を手に取る。

柄を握りながら、ゆっくりとあの日々の事を思い出す。


「魔神アシュタロス・・・この世界でいう魔王みたいな存在かな・・・美樹ちゃんとは似ても似つかないヤツだったけど。ソイツが世界を自分の望む姿へ変えるため・・・さもなくば自分自身が滅ぶため・・・神族や魔族、人の住む世界、その全てに戦いを挑んできたコトがあったんです」

(魔・・・神が自ら滅ぶため・・・?・・・それが私の見た戦の記憶ですか?)

「多分、そうっス。そこらへんの話はややこしいし、ちょっと話が長くなるんですけど・・・」

そして横島は語り出す。

いつものように流されるまま戦いに巻き込まれ、その中で一人の魔族の少女ルシオラと出会ったこと。
僅かな時間ではあったが、彼女と共に過ごせたこと。

敵の罠に陥り、姉妹で争うことになった彼女を庇うつもりが、逆に彼女を死に追いやってしまったこと。
最後の最後、圧倒的な力の差を前にしながら、それでもアシュタロスの野望を打ち砕くチャンスを横島が手にしたこと。


――恋人を犠牲にするのか!?寝ざめが悪いぞ!


だが、それは我が身を犠牲にしてまで横島の命を救ったルシオラと、仲間と世界の全てを天秤に掛けたということ。

横島は選択した。


――どうせ後悔するなら・・・・・・てめえがくたばってからだ!!アシュタロス―――!!


アシュタロスは滅んだ。
かの魔神が望んだままに。

そしてルシオラも帰ってこなかった。
横島の手にほんの僅かな欠片だけを残して。


――それじゃ結局・・・ルシオラだけが・・・・・・!


「俺がコスモ・プロセッサを破壊したせいで・・・ルシオラを生き返らせることは不可能になったんです」


――俺の中にルシオラの霊体は山ほどあるのに・・・!


「でも・・・何かあるはずだって、彼女を生き返らせるために何かテがある、そう思って・・・」


――ルシオラの魂はこのままでは再生できないわ。でも、転生して別の人物に生まれ変わったとしたら・・・・・・!


「ルシオラは・・・自分の命を捨ててまで俺を救って、なのに俺が・・・たとえどんな綺麗事を並べたって、俺が見捨ててしまったコトに変わりはないんです・・・・・・」


――横島クンの中には大量にルシオラの魂が入り込んでるのよ!もし、転生先が横島クンの子供ならどう!?


「わずかに残った彼女の欠片と、俺の中で眠っている彼女の魂を合わせて転生させる・・・」


――彼女に会えてよかったし・・・・・・形は違っても幸せにしてやれる可能性はまだ・・・残ってるんだし。


「けど、もし、俺がここで・・・この世界で野垂れ死んだら、彼女は二度と転生できない・・・だから」


――恋は実らなかったけど・・・・・・私たち、何もなくしてないわ。


「俺の気持ちは今も変わっていない。彼女を助けたい・・・幸せにしてやりたい・・・」


――魔族には生まれかわりは別れじゃないのよ。今回は千年もまってたひとにゆずってあげる、パパ。


「だから・・・俺の魂は、俺だけのものじゃないんです。それが俺の魂の秘密・・・そして必ず日本に帰らなければならない理由です」


――俺・・・悲しむのやめにします・・・!彼女のためにも一日も早く、俺・・・・・・


「彼女に再び会うために・・・」

(横島様・・・・・・)

横島の記憶が、感情が、思い出が・・・日光にゆっくりと伝わってくる。

「・・・・・・そんなことがあったんですよ。この世界に来る、ちょっと前のことなんですけどね」

ふぅ、とため息を一つ。
上を向き、仰ぎ見た天井はかすかに滲んでいた。

頬を伝う雫は・・・涙なんかじゃない。
彼女のことで悲しむのは・・・もう、やめたのだから。


話はここまでと、横島はそっと日光を机の上に戻そうとして・・・。


―― 一日も早く子供作ります!!さしつかえなければ今ッ!?

――結局それがオチかいッ!?

――どばきゃっ!!


(・・・あの・・・最後のは・・・・・・?)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワスレテクダサイオネガイシマス」


床に這い蹲って土下座する横島の姿はこの上なく情けなかった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第十話「魔人界からの来訪者 中編」〜


―リーザス城内 横島の部屋―


気を取りなおして、再び横島の部屋。


(・・・横島様の魂にもう一つの・・・魔族のルシオラ様の魂が・・・・・・)

「そういうことです。日光さんが気になっていたのは、俺の『魂』についてですよね?見当のつく範囲の話なら、これでほぼ全部っス」

(横島様の仰る魔族と魔人・・・両者の関係は・・・・・・)

「それは世界が違うし、別モノだと思いますけど・・・。ただ『魔族の本質は殺戮と闘争』だっけか・・・人間よりも遥かに強くて、手に負えないってのは一緒かも・・・」

さすがに『無敵結界』だとかいうふざけたシロモノは持ってなかったが。

「・・・ん?そういや・・・・・・」

ふと、気になることが思い浮かんだ。
この世界へやってきてすぐ、かなみに助けられた直後の事だ。
変な電撃を放つ男の事を思い出す。

「今にして思えば・・・やっぱりアイツも魔人だったのか?見かけは全然違うけど・・・」

そしてカミナリ男は横島に向かってこう言ったのだ。

『確かに普通の人間だ、一見な。だが、その魔力・・・いや、魔力じゃないな・・・見たこともない力だ。しかも変に混じってるから最初はアレかと勘違いしたがな』

明らかにあの男は横島に『普通ではない何か』を嗅ぎ取り、襲い掛かってきたのだ。
口ぶりから、結果としては人違いだったようだが・・・そもそも『アレ』というのはリトルプリンセス・・・美樹のコトではないのか?

「日光さんって魔人のコトについて詳しいっスよね?電撃をトコロ構わず撒き散らす男に心当たりありませんか?」

(・・・魔人レイ・・・・・・雷を自在に操る能力を持った魔人ですね。美樹様を追って人間界にやってきたケイブリス派の魔人の一人です。何故・・・?)

「びんご・・・。実は―――」

斯々然々・・・簡潔に説明する。

(・・・やはり私が気になっていたことと重なりますね)

「どういうことっスか?」

(魔人とは魔王の血を受け入れた存在。魔王の血・・・『魔血魂』と呼ばれる力の源が持つエネルギーは、ほかの生物ではありえないほどの力を放出します)

「・・・はぁ」

(横島様の『魂』が放つエネルギーは『魔血魂』の放つエネルギーに微弱ながらも酷似しているのです。魔人は互いに自分達の存在を察知し合います。・・・『魔人殺し』たる私もまた同様です)

「・・・つまり、魔人は俺がどこにいるのか、遠くに居ても分かる・・・ってコトっスか?」

思い当たるフシがこれまで多かったせいか、横島にしては飲み込みが早い。

(先ほども言いましたが、放つエネルギーが微弱なため、遠くに離れていれば察知は不可能です。ただ、奇襲を仕掛けようと潜んでいても無駄になるでしょうね)

「・・・むう、それは厄介だ」

横島の戦闘スタイルは『不意打ち、騙し討ち、死んだ振り』である。
これらを封じられてはあまりに不利と言える。

「まぁ、いっか・・・。気になっていたことも解消したし・・・俺は風呂入って寝ますから」

ガサゴソと準備をして部屋を出て行こうとする横島。

「む・・・そういえば、日光さんは人の姿で風呂には入らないんっスか?何なら一緒に・・・っ!」

(・・・・・・・・・)

無言の圧力を横島に向けると「すいませんでした〜」とあっさり身を翻して逃げていった。


(・・・まったく、あのような話をしておきながら・・・・・・)

独り部屋に残された日光は複雑な心境で横島の話を反芻していた。

ルシオラという恋人を蘇らせたいと願う横島。
故郷へ帰りたいという気持ちは、ひょっとしたら美樹や健太郎よりも強いかもしれない。

(異界の門・・・横島様に話だけでもするべきでしょうか・・・)

実は『日本』へ帰る手段を日光は知っていた。
以前、健太郎と美樹との冒険の末、ゼスの奥地で開くことが出来た『異界の門』は美樹達の住んでいた日本へと繋がっている・・・いや『繋がっていた』と言うべきだろう。

健太郎と美樹が使用し、再びこの世界に戻ってきたときに壊れてしまい、現在は使用不能となってしまった。
ぬか喜びをさせるだけでは、あまりに忍びないが・・・それでも帰る手段が存在する、ということが分かるだけでもきっと横島の救いになるだろう、と思った。
それに『彼』なら門の修復の仕方を知っているかもしれない。

(今日はもう疲れているでしょうし、明日、折を見て話すことにしましょう)


―リーザス城 謁見の間―


翌日。

マリスに呼ばれ、人の姿をした日光と美樹がランスの前に立っている。
横島もマリスの後ろに控えていた。
マリスの判断で人払いをしているため、この場に居るのは他にはリアだけである。

「リーザス国王ランス陛下・・・この度は見ず知らずの私達に施しを頂き、感謝の言葉もございません。すでに事情はご承知とは思いますが、私の名は日光。小川健太郎様、そして来水美樹様の身辺警護を担う者でございます」

日光が優雅に頭を下げると、横にいた美樹も日光にならった。

「こんにちわ!私、来水美樹といいます」

美樹もぺこっと頭を下げた。

(日光という女・・・・・・凄くいい。美人だ。それに美樹って子は・・・確かに幼いが、可愛い。くっくっ・・・助けておいて正解だったぜ)

言葉を返すこともなく、値踏みするような視線を日光と美樹に飛ばし、しばし観賞するランス。
頭の中ではよからぬコトを考えていたが、それを巧妙に隠すあたりが手馴れている。

「・・・ランス王?」

マリスが小声で促す。

「ん?・・・あ、あぁ。気にしなくていいぞ。可愛い娘を助けるのは当然の事だからな」

鷹揚に応えるランスに日光は再び頭を下げる。


傍で見ている横島はランスの内心が見て取れるように分かっていた。
というよりこの場にいるもので分かっていないのは日光と美樹くらいなのだが。

気取っている様が、父、大樹が美神にモーションを掛けたときに実に良く似ていた。

(・・・なんかすっげぇ嫌な予感がしやがるぞっ!このスケベ王がっ!!)

鼻息が荒くなりかけていたが、幸い横島の姿なぞランスからすればアウトオブ眼中。
マリスはさすがに勘付いているが、とりあえずハイヒールの踵で横島の足を打ち抜く程度に留めている。

いや、メッチャ痛いんですけどね。

「恐れ入ります。では、単刀直入に申し上げます。ランス王、どうか美樹様を奴らから・・・魔人達の手から守ってください」

「魔人・・・か」

そんな横島をよそに日光とランスの会話は続いている。

「どんなヤツが日光さんたちを追いかけてるのかは知らんが、俺様もその使徒とやらに喧嘩を売られている最中でな。美樹ちゃんを守るために追い払うことに異論は無いんだが、魔人本人が来たときが厄介だな」

魔剣カオスを取り戻すよう画策してはいるが、いますぐ手に入るというワケではない。
ランスは率直にそのことを告げると日光は少し驚いた様子だった。

「ランス王はカオスの所持者だったのですか?」

「ああ。馬鹿でスケベでベラベラしゃべるうっとおしいヤツだがな。今はレッドの街に封印されているせいですぐには取りに行けんのだ」

「・・・・・・」

日光はそこでチラリと横島のほうを覗き見た。
横島もそれに気付く。

「ランス王・・・魔人への対抗手段ならあります」

「ん?どういうことだ?」

ランスの問いに答える前に、日光は二言三言、美樹に何事か囁く。
美樹はそれまでずっと黙っていたままだったが、日光の言葉に嬉しそうに破顔した。

「ランス王、美樹様に健太郎様のご様子を見に行くことを許可していただきたいのですが・・・」

「健太郎・・・?誰だ、そいつ?」

何度か説明を受けていたはずだったのだが、とうに記憶から抜けていた。

「現在、ご療養中の少年のことです。美樹殿たちと一緒だった・・・」

マリスは少しあきれた様に言った。

「ああ、いいだろう」

「はい、ありがとうございます」

ランスから許可を貰うと、美樹は慌ただしく頭を下げ、走って健太郎の元に行った。

美樹が出て行った方を少し見てから、日光は、ランスの方に向いた。

「魔人への対抗手段・・・それは私です。まだマリス殿から説明を受けておられないと伺っていますが・・・私は人間ではありません。小川健太郎様の・・・そして今は横島忠夫様を主とする刀、日光です」

「日光さんが刀・・・?まさか魔剣カオスと対になる・・・聖剣の?」

「はい」

「・・・・・・まさか、日光さんが『聖刀日光』だというのか?しかも主が・・・誰だって?」

「その通りです。そしてそちらにいらっしゃる横島様こそ、現在の私の所有者なのです。美樹様を狙う魔人、そしてリーザスに襲い掛かる魔人達を私と横島様が追い払うことを約束いたします」

ポカーンと大口を開けて横島の方へ視線を移すランス。
そこには何処から見ても間抜け顔でひ弱そうなガキがいた。
かろうじて名前を覚えている。
タテシマだかヨコシマだか、確かそんな名前の男、マリスが個人で雇っているとか言っていた。


「な・・・」

ワナワナと手を振るわせるランス。

「どうしたの、ダーリン?」
「ランス王?」


「納得いかぁぁぁん!!!」


ランスの叫び声が辺りに轟いた。


―リーザス城 上空―


――同時刻。


リーザス城、謁見の間から遥か上空に浮かぶ二つの影。
魔人ラ・サイゼルとその使徒ユキである。

「ふんっ・・・リトルプリンセスはやっぱりリーザス城に逃げ込んだのね?」

「ケケケケケケ、そうですよー。それにあの餓鬼も魔王や日光と一緒にいるのも間違いないデス」

「・・・別にヨコシマの居場所なんか聞いていないんだけど?」

「ユキちゃんも『餓鬼』と言っただけデスよ?ケケケケケケケケケ!」

ユキは主人の望むことを偏った方向に汲み取る名人であった。
そしてそれ以上に主人をからかう名人でもあった。

「・・・くっ・・・ま、間違いないのね?」

「ユキちゃんイヤーは地獄耳デスからー!っつーか、ちったあ信用しろ」

「アンタのどこから『信用』なんて言葉が出てくるんだか・・・。まぁ、いいわ」

ユキを連れ立ち、ゆっくりと降下していく。

「なるほど・・・。確かに『いる』わね」

眼下に見えるリーザス城でも一際贅沢に造られた一角。
忘れもしない『ヨコシマ』の気配をそこから感じる。

新型クールゴーデスに自身の魔力を装填する。
蒼く輝く魔力を立ち昇らせる魔法銃を満足げに見るサイゼル。

「即席の品だったし・・・サイズを小さくした分、威力は劣るけど・・・扱いやすさ、魔力効率は悪くないわね。ふふふ・・・」

武器工作の得意なポピンズ族をすでに手配していたカミーラの手回しの良さには正直、不審に思ったりしたが・・・これなら文句も言うまい。

(武器に魅入って悦に浸るなヨ)

「何か言った?」

「いえいえ、ナニモー。で、どうするんデス?」

本来なら偽エンジェルナイトの部隊を率いて攻め入るべきなのだろうが、今は連れてきていない。
てっきり偵察だけかと思ったのだが、主人は殺る気マンマンのようだ。

「・・・アンタはリーザス王を殺りなさい。リーザス国がリトルプリンセスを匿っているなら、親玉を潰せば外に出てこざるを得ないでしょ?私はヨコシマを殺るわ」

「ケケケケケケケケケ、思いっきり私怨優先デスね。まぁ、ユキちゃんとしてはソッチのが楽ですけど」

昨日、喧嘩を売ったランスとかいう男も滅法強かったが、さすがに聖刀日光を振り回し、仮にも魔人を退けた餓鬼の相手をさせられるのは勘弁して欲しかった。

「減らず口はいいから、さっさと行くわよ。リトルプリンセスはいないみたいね・・・日光とヨコシマだけか。一発撃ち込むから、アンタはアソコにいる人間に魔王の居場所を割らせなさい。邪魔するようなら殺していいわ」

「アイアイサー!」

ユキに指示すると、サイゼルはクールゴーデスを構え、リーザス城の一角、謁見の間へと照準を合わせた。
中の様子はハッキリとは見えないが『ヤツ』がいるのは間違いない。

(さぁて・・・私をコケにしてくれたお返し、たっぷりと受け取りなさい・・・っ!!)


―パラパラ砦 上空―


――同時刻。


リーザス王国とゼス王国の国境付近、リーザス最大の防衛拠点としての機能を持つパラパラ砦。
その上空を高速で飛行する2つの影。
正確には3つ、ただしその1つは飛行する石人形(ゴーレム)の背に乗っているのだ。

「ようやくリーザス王国かしら?」

「ああ、もうすぐだ・・・と思う」

翼を羽ばたかせながら問いかける女性とそれに素っ気無く応える少女(+無骨な石人形)。

彼女ら(+1)は当然、人間ではない。

魔人ラ・サイゼルの妹にして炎を操る魔人ラ・ハウゼル。
泥土に命を吹き込み、強力なガーディアンを創り出す魔人サテラとその第一のガーディアン、シーザーである。

ホーネットの命令で魔王リトルプリンセスを護衛するため、彼女らは人間界へとやってきた。


「しかし・・・やっぱり信じられないわ」

「・・・・・・・・・」

サテラの呟きにハウゼルは沈黙したままだ。
彼女の言わんとしてることは察しがついていたが。

日光の所持者、小川健太郎に重傷を負わせたサイゼル。
そのサイゼルを苦もなく追い払い・・・しかもハウゼルの話では確実に殺せるチャンスを得ていながら、ワザと見逃したとしか思えない、そんな剣筋だったと語った。
そしてそんな人間がいるなど・・・日光を手にした人間が魔人を前に手加減するなどあり得ない、サテラはそう思っていた。

いや、アイツなら・・・ランスならあり得る。
あの底なしにスケベで、サテラにとんでもなく屈辱を与えた男。
そう思ったサテラはそれとなく、ハウゼルが一瞬だけサイゼルの感覚を通して見たという男の特徴を尋ねたのだが、返ってきた答えは自分が想像していた男とは似ても似つかぬヤツだった。

だからこそサテラはそんな人間が二人もいるということが、どうしても受け入れがたかった。

そしてハウゼルはハウゼルで複雑な心境だった。
もちろん、サイゼルが殺されなかったことは嬉しい。
その人間の男に、まだ少年と言ってもいいような年の頃だったが、御礼を言いたいくらいだった。
・・・いや、それは何か間違っているような気もするのだが。

だが、自分はリトルプリンセス様を護衛するために人間界へやってきたのだ。
姉と戦うことが目的ではないが、対決は避けられないだろう。

もちろん姉を説得することを諦めたわけではないが、あの自分に助けを乞う叫びを聴いて尚、ハウゼルは自信が持てなかった。
下手をすれば、今までよりも更に二人の溝が深くなる・・・そんな危惧もあったくらいだ。

――しかし。

(・・・ここまで来て、引き返せないものね・・・・・・)

「ハウゼル、もうすぐで人間の街が増えるよ」

「わかったわ。もう少し高く飛びましょう」

考えに耽るのを中断し、ハウゼルはサテラに提案する。

目立つことを可能な限り避けるため(サテラは面倒だとブツブツ言っていたが)ここまではほとんど人間の住んでいない土地を選んで飛んできたが、リーザス国内ではそうはいかない。
二人の魔人は人間からは視認出来ない位置まで高度を上昇させると、再びリーザス城を目指して進み始めた。


―リーザス城 謁見の間―


「納得いかぁぁぁん!!!」

ランスの叫び声が謁見の間に轟く。

「どう考えても、一番強くて一番カッコいい俺様が日光さんを使うのが正しいだろうがっ!!なのに何でこんな弱っちそうな男が所有者だってんだっ!?」

言いたい放題言い放ち、相当に激昂したご様子である。

「オイ、貴様!タテシマ!!」

「・・・横島っス。前に言いましたけど・・・・・・」

無愛想に言い返す横島。
横島の認識は相変わらず『マリスの丁稚』であって『ランスの部下』ではない。
よって『臣下の礼』などを考慮するつもりもまったくない。

「知るか!キサマの名前なんぞどうでもいい!とにかく俺様のほうが日光さんを持つのに相応しいと言ってるんだ!」

「・・・はぁ」

侮られるというか見下されるのは慣れているため、どうとも思わないが・・・。

「僭越ながらランス王。横島様は既に二度、魔人を退けた戦歴をお持ちです。そのうちの一つは魔剣も聖刀も使わず・・・己の『魔法』のみで。これが如何なる・・・」

「へぇ〜・・・ヨコシマって強かったんだ。ねぇダーリン、魔人の相手なんて危ないだけだよ?ヨコシマに任せておけばいいじゃない」

「・・・リア、お前は黙ってろ」

「ぷぅ!」

ランスは腕に抱きつこうとするリアを疎ましげに振り払い、玉座から立ち上がった。
横島も日光のフォローやリアの歓心を買うコト自体は喜ばしいのだが、その後の放言には複雑にならざるを得ない。

「・・・俺様がテストしてやる」

「は・・・?」

「剣を抜け。安心しろ、殺すまではやらん」

剣を抜け、と言われたところで横島は帯刀していないし、日光は人の姿のままだ。
まぁ、霊波刀ならすぐに具現化できるから問題はないのだが・・・この王様は本気か?

(・・・本気なんだろうな・・・・・・)

剣の柄を握り、鞘から抜き放とうとしているのを見ると、冗談とは思えない。

「お、お待ちください、ランス王・・・」

マリスは半ば予想していたことが的中してしまったことに内心頭を抱える。
だが、マリスの諫言など届くはずも無い。


――ふっ

ニヤリと笑みを浮かべるランス。

「とりあえず死んどけえぇぇぇっ!!」

玉座から一足飛びに斬りかかって来るランス。

―ガキィッ!!

見紛おうコトなく殺気の篭った一撃だったが、それを辛うじて発現させた栄光の手で受け止める。
ギリギリで拮抗しているランスの剣と栄光の手、しかし、地力の差が大きすぎるためか3秒たりとも持ちそうにない。

「嘘付けぇぇ!!『殺すまでやらん』言うたやないかぁ!!」

「言葉のあやだ!!」

「他にどんな意味があるって言うんじゃぁぁぁ!!」

ツッコミの勢いのままに半身をずらしてから、栄光の手をワザと消失させる。
バランスを失ったランスが一瞬だけたたらを踏んだ隙に、一気に距離を開けるべく疾走する。

くるりと振り向きゼェハァと荒い息をつく。

「・・・やるじゃないか。ちょっとくらいは本気だったんだがな」

「・・・うう、なんつう馬鹿力じゃ・・・・・・」

受け止めた右腕が痛みを感じるほど痺れている。
もう少しで危うく骨折するところだったかもしれない。

ランスはランスでたった一合の、それも刹那の応酬だったが『ある程度』は横島を見直したらしい。

そのまましばらく睨みあう横島とランスだったが・・・。


「――っ!・・・・・・それまでですね」

状況の変化に最初に勘付いたのは当然ながら日光だった。

「ふん・・・つまらん」

そう言いながらランスも視線を窓の外へと移す。
横島の方をまったく見ていないのに、戦闘体勢を解いていない。
日光同様に、外からの脅威に勘付いたようだ。

(・・・横島様っ!)

突如、耳にではなく、頭の中で日光の声が響く。
横島の方へと駆け寄ってきた日光が姿を消したかと思うと、即座に横島の右手の中に刀の姿で顕現する。

「な、ま、まさかっ!?」

(ええ、魔人です。・・・まさかこれほど早く来るとは・・・っ)


――がしゃああああん!!!


日光の言葉が終わらないうちに魔法によって破壊されたガラス窓の破片が謁見の間に飛び散る。

「ラ、ランス王!今のはっ!!」

マリスはリアを守るように前に立ち、ランスに悲鳴に近い喚起の声をあげる。

「分かってるっ!くるぞっ!!」

謁見の間に濛々と巻き上がる冷気。
間違いなくラ・サイゼルの魔法だった。

そして謁見の間に飛び込んでくる二つの影。


「ハァイ、ヨコシマ。昨日の今日で悪いんだけど・・・殺しにきたわよ」

「ケケケケケケケケケ!オッス!また来たぜ、ニンゲンの親玉!!」


続く


後書きのようなもの

冒頭の横島の過去について・・・。
横島の中に眠っているというルシオラの魂やルシオラの復活に関しては、ほぼ原作から引っ張ってきています。
この件に関しては色々な解釈があったり、様々な二次創作で語られているので、自分はどのように書こうかと考えだしたら非常に厄介なものでありました。
妙に悲壮感を背負わしたりするのはなんか違うなぁと思ったりしているのですが、まったく原作に忠実に作ろうとすると、今度はルシオラの事が『なかったこと』にされてしまうのでバランスが難しいですね(笑)
多くの読者、多くのSS作家それぞれの考えがあるでしょうし、興味深いテーマだと思っています。
ただ、嫁さんに恋人産ませるのってどーよ?って倫理の問題がありますからねぇ。
まぁ17才の横島君にそんなことを考えろっていうのは酷と言うものだ、と私は思いますが。
そこらへんをフォローした『鬼畜世界へ来る前の話』の番外編を公開予定です。

『異界の門』についてはランス正史設定の話です。
時系列的にはギリギリ矛盾が無いので取り入れてみました。
もちろん壊れているので、これを使って日本に帰ることは出来ませんが、後々のための伏線として用意しました。

あとサイゼル&ハウゼルの武器の修復が早すぎですね。えーと・・・見逃してください。

ランスの扱いがまた悪いって言われるんだろうなぁ・・・きっと。
でも、ランスならやる、必ず横島に斬りかかる。そうシミュレートしたので書きました。

(12月10日2:40現在)

横島君のランスへの態度でいくつか言及されちゃいました。
で、少し読み返したら第五話でマリスが横島にランスへの態度について注意を促し、釘をさしているシーンがありました。
私が忘れてたんですな・・・orz

つまりマリスとしてはちゃんと「躾」はしていた(つもり)。横島も表面上は取り繕っていた(つもり)。
今回の話では日光や美樹に色目を使っていたためイライラしていた・・・。
うーん、やっぱり苦しいな。批判やむなし。


以下、返信いたします。

>黒覆面(赤)さん
 ルドラサウム世界は「魂の輪廻」が「システム」として存在していますからね。
 何故、横島君がそんなルド世界へ来ることになったのか・・・意味深ですね。
 鬼畜王ランス本編だと、1週間単位でイベントが起こるのですが、小説にすると違和感がどうしても出てしまうので1日でやってくることになってしまいました。
 サイゼルハウゼルが早くもぶつかり合う予感・・・っ!

>ZEROSさん
 さすがに「魔王を犯す」を選んじゃうとゲームオーバーですからね・・・。
 横島の機転で健太郎を文珠かなんかで救い、美樹・日光・健太郎とともにリーザスを出奔する・・・そんな展開もアリかもしれませんが。
 外伝形式で誰か書いてくれないかなぁ・・・筆者が読みたいです。

>幼心錬金術さん
 美樹の都合をまったく考えずに言うなら(平和的に)リトルプリンセス覚醒→魔物の世界に秩序。
 これで人間界は1000年は魔人に脅かされずに過ごせるのですが・・・まったくこの設定は「酷い&救いが無い」
 鬼畜王は完全放り投げ、ランス本編でどう解決するのか私にはさっぱり判りません。

>ウェストさん
 こんな風になりました。
 おおむね原作に近い形で、それでいて原作には無かったですけど、ルシオラの事は忘れてないよ!ってアピールしてる感じ・・・。
 GS美神の二次創作が未だに作られているのは、この物足りなさやルサンチマン(椎名高志が支配者、私達読者が被支配者な位置関係?)が根底にあるのでしょうね、いや適当に考えただけですけど(笑)

>ロムさん
 リーザスでの地位 ランス>>>(越えられない壁)>>>横島ですからね・・・。
 地位や立場では揺るがない、もしくはそんなものとは無縁の関係を作らない限りは難しいでしょうねぇ・・・。

>nasさん
 かなみちゃんはさりげに自由都市への進攻を示唆する役回りを担ってもらってます。
 ゲームと違って描写に工夫がいるので厄介であります。
 戦国ランスの美樹&健太郎くんのデザインが発表されましたね。
 今まででの作品の中でダントツに可愛らしい&カッコいい、美樹ちゃん&健太郎に期待が高まってます!あと背中のスコップ(笑)

>Iwさん
 申し訳ないです。
 礼儀うんぬんのあたり、アレは私がネタを間違えたせいなんです。原作にそういうシーンがありまして・・・。
 ランスは馬鹿です。頭は悪くは無いでしょうが、言動の奇天烈さは並大抵ではありません。

>ラッキーヒルさん
 美樹の護衛魔人って魔人が相手であれば場所は関係なく出撃できた(大坂にも)ので問題ないと思ってます。

 絶対に帰るんだ、という「覚悟」が横島君にはあります。
 今回の話ではそれを重視しました。
 それが人を殺すことを可能にする「覚悟」か、と言われれば「ソレはソレ、コレはコレ」というものでしょうけど・・・。人間の心ってそんな単純でもないですし。
 あと「日本」での生活をピックアップすれば、まったく普通の高校生(キ○ガイだけど)だった健太郎くんよりは、GSという何だかんだで危険と隣り合わせの血生臭い世界にいた横島くんとではスタート地点が違うと思います。GS世界もファンタジーワールドですからね。
 というか公式設定・・・健太郎や美樹の世界って「次元3E2」じゃなかったのかぁ!?
 『異世界にある日本という国(プレイヤーのみなさんが住んでいる場所)から攫われてきた。』
 今更そんなこと言われても〜(笑)まぁ、特に問題ないけど・・・。

>titoさん
 ランス設定は長年練り上げられてきた骨太なモノなので、それから外れると物凄いツッコミが来る・・・その覚悟はしています。
 でも、中々難しいですね。

>おでんさん
 横島君に関わるものは全て呪われるのです。ギャグにまみれ、コテコテの吉本的キャラに・・・。
 
>さげおさん
 そもそも焦点になってる「かなみ、ランス殺してぇ発言」って第六話を読み返したんですけど。

――逃げられるなら逃げたい、もし殺せるものなら・・・・・・

 って、ほんのちょっと本音を漏らした・・・くらいで「ぶっ殺す、絶対ぶっ殺す!」な志津香(いや、志津香さんもここまで酷くない・・・気もしますが)と違ってキャラの造形があり得ない、って言われるほどかなぁ・・・と思っちゃったんですけど・・・違います?
 かなみ自身も言うつもりはなかったのに・・・って描写も盛り込んでるつもりです。
 処女奪われるわ(これは・・・まぁ、いっか)リターンデーモン(悪魔)に身体を捧げられるわ、コトあるごとに強姦まがいのことされるわ・・・。
 コードに唆されたから、だけではやっぱり暗殺までは動かないとは思ってたんですけど、キャラへの認識の差なんでしょうね、きっと。
 
>東西南北さん
 今回は横島分を(冒頭部に)盛り込んでみました。
 鬼畜度は・・・そうだなぁ・・・ランスに美樹ちゃんを襲わせたら面白い展開が作れるかもしれません。
 でも、筆者にはムリっす。スイマセン。

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