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▽レス始

「魔法学園にやって来た福音の生徒達  第二幕(ネギま!×EVA)」

砂肝 (2006-11-19 21:34)
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 『二年A組』の表札が『三年A組』に替えられる。


「「「3年!! A組!! ネギせんせーーーっ!!」」」


 3−Aの盛り上げ担当である椎名桜子、鳴滝風香、鳴滝史伽の3人が声を揃えて某教師ドラマのノリで叫ぶと、クラスの殆どの女子が歓声を上げた。中には「アホばっかです」とか「バカどもが」とクラスのテンションに付いていけない生徒もいる。


「えと・・・改めまして3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。おれから来年の3月までの一年間、よろしくお願いします」
「はーーい!」
「よろしくーー!」


 春休み前までは教育実習という事だったが、今学期から正式な教師という事で年上の女の人ばかりを教えるという事でドキドキと不安と期待で胸を高鳴らせる。そして、ネギはここで皆に発表した。


「え〜、新学期という事もありまして今日からこのクラスに新しい仲間が増えます」


 その発言に教室がザワついた。情報通で知られる朝倉和美ですら知らなかったようで驚いている。ネギが入ってきて下さい、と言うと、扉がゆっくりと開かれ、そ〜っとシンジが顔を覗かせる。
 見る限り、女、女、女。教師だけが男子。でも子供。そんな世界だった。しかも中には、明らかに中学生のスタイルを逸脱した――ピンはトップモデル並からキリは幼児並――者達もいる。
 健全な青少年にとっては正に楽園。巨乳からロリ、更には外人と何でもござれのクラスである。が、その時、シンジは素直に喜べなかった。


『へぇ〜、シンジってアタシをオ○ズにしといて、中学生なんかに鼻の下伸ばすんだ〜? ふ〜ん・・・・捻じ切るわよ?』
『碇クン・・・』←瞳を潤ませて見上げて来る。
「いやあああ!!!!」


 片や汚物を見るような、片や捨てられた子犬のような対極の視線だが、共通する嫉妬の感情。2人の少女から、かなり微妙な視線に挟まれる姿をリアルに想像出来て、シンジは堪らず頭を抱えて廊下に蹲り、絶叫した。
 男からして見れば、ムカつく事この上ない悩みである。
 シンジの心理的には下らない叫びだったが、ネギ及び、クラスの女子達は驚きの視線を彼に向ける。


「あの・・・」
「はっ! ご、ごめん。つい・・・」


 ネギに話しかけられ、シンジは今、自分がどんな状況なのか思い出し、教室に入る。


「えっと・・・碇シンです。親の都合でエジプトから転校して来ました。よろしくお願いします」


 型通りの挨拶をしてペコッと頭を下げるシンジ。が、クラスの人間からの反応は薄い。何か外したか、と思う。廊下で聞いていた限り、このクラスは騒がしいものが好きと見た。やはり挨拶と一緒に何か芸をするべきだったかとシンジは思考の海に囚われる。
 ハッキリ言って、シンジはウケを狙うような芸は持っていない。チェロは趣味といえば趣味だが、こんな所にあるわけないし、転入の挨拶でチェロって言うのも変だ。


「(物真似!? いや、僕に出来るわけない・・・手品? 魔法を使えば何とか・・・でも、バレたらオコジョ・・・正体を明かせばビックリ仰天・・・何言うてねん)」


 何だか自分でも何を考えているのか理解できなくなって来たシンジ。終いには関西弁でノリツッコミする始末。
 ちなみに生徒達が黙っているのは、シンジの容姿に見惚れてしまっているからだ(中にはそうでない者もいるが)。
 日本人らしい艶のある長い黒髪、クラス癸韻離好織ぅ襪鮓悗詁畴叛蘢瓩砲楼貶盖擇个覆い發里旅眇板垢繁かな胸。知的さを醸し出す顔立ちと、ここまでパーフェクトな逸材がいるのかと、羨望、尊敬と生徒達の目を釘付けにしてしまっていた。


「えっと・・・じゃあ、碇さん、適当に空いてる席に座って下さい」
「は、はい」


 とりあえず空いてる席を探す。目立たなくていい場所。廊下側から2列目の一番後ろが空いていた。出来れば端っこが良かったが――窓側は前の席の人が変な雰囲気を醸し出しているのでやめとく――、とりあえずそこに座る事にした。
 隣の席には、西洋人形を思わせる長い金髪碧眼の少女が座っていた。シンジは、つい少女と視線を交わし合う。彼女からは、とても中三とは思えない、奇妙な威圧感を感じた。


「よ、よろしく。碇シンです」
「知ってる。さっき名乗っただろう?」


 席に座りながら挨拶すると、少女は淡白に返す。


「えっと・・・君の名前は?」
「・・・・・・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。長ったらしいからエヴァとでも呼べ」


 がつん!!


 少女の名前、正確には略称を聞いてシンジは額を机にぶつけた。
 何だか物凄く親しみ易い名前だった。


「・・・・何だ?」
「いやぁ・・・別に」


 ちなみにシンジの中で、その呼び方はビルよりでかくて、吼えて、化け物を貪るイメージが強いので却下。エヴァンジェリンさん、と呼ぶ事に決めた。


「(っと・・・それより身体測定を、どう乗り切るか考えないと・・・)」
「ネギ先生、身体測定、3−Aの皆も準備してくださいよ」


 ずるぅっ!!


 どう乗り切るか考え締めた矢先に、ネギの指導教員である源しずな先生が入って言って来たので、シンジは椅子から滑り落ちてしまった。物凄いタイミングが悪過ぎである。


「あ、はい分かりました。では皆さん、身体測定ですので、えと、あの、今すぐ脱いで準備して下さい」


 と、そこでネギは自分の発言に気付き、生徒を見ると何人かが頬を赤らめていた。


「ネギ先生のエッチーーッ!」
「うわ〜ん!!」


 慌ててネギは教室から飛び出していった。シンジはキラン、と目を輝かせ、その隙に乗じて後ろの扉から出て行こうとする。が、突然、後ろからガシッと掴まれた。


「え?」
「碇さん、どこ行くの?」
「えっと・・・君は前の席の・・・?」
「明石裕奈。碇さん、身体測定なのに何処行くの?」
「いや・・・別に・・・」
「ふっふ〜ん」


 明石裕奈は、何やら楽しそうな笑みを浮かべるとシンジはダラダラと冷や汗を垂れ流す。すると更に桜子、風香、史伽が裕奈の後ろから手をニギニギさせて迫って来る。


「い、いや・・・」
「それ!! てんにゅーせーを脱がせ脱がせ〜!!」
「いやあああああああああああああああ!!!!!!!」


 4人はシンジに群がり、一気に服を脱がしていった。


「うお! 何じゃ、この胸〜!?」
「お肌すべすべー! 何食ったら、こうなんの!?」
「お姉ちゃん! 碇さん、凄い下着ですー!」
「それ! パンツも脱がしちゃえ!」
「やめてえええええ!!!!!!」


 一応、女性と同じ性器で股間もカモフラージュしているが、やはり女性に引ん剥かれて素っ裸にされるのは男としての威厳に関わる。ちなみにシンジは、ブラジャーどころかパンツまで女物を穿かされた時、首括ろうか本気で考えた。


「ちょっとあなた達! おやめなさい!」
「あ、いいんちょ」


 そこへシンジに救いの声が差し伸べられる。3−A委員長、雪広あやかである。綺麗な長いブロンドの髪に白い肌。粒揃いの3−Aの中でも一際、上品さを醸し出している。
 あやかに言われ、裕奈達も苦笑いを浮かべてシンジから離れる。ブラの紐がズレてハァハァ、と息を切らしている姿は妙に色っぽかったりする。


「碇さん、大丈夫ですか?」
「あ、どうも・・・」
「私、このクラスの委員長をしております雪広あやかと申します。困った事があれば、何でも相談に乗ってください」
「あ、ありがとう・・・」


 そっと差し伸べられた手を握り返し、シンジはようやく安堵の溜息を吐く。しかし現実はそう甘くない、というかそうは問屋が卸さない。この3−Aは変わり者の巣窟である。常識人の方が少数である。ちなみに・・・。


「(ったく・・・こいつ等のテンションには付いていけねーぜ)」


 と、平凡な日常をこよなく愛している25番長谷川千雨も、表面上はともかく、裏ではしっかりと変わり者なのである。そして当然、あやかもだ。あやかは、突然、シンジの両手を強く握って、鬼気迫る顔を近づけて来た。


「ですが! ネギ先生に変な事したらタダじゃおきませんわよ?」
「へ?」
「その色香でネギ先生を虜になんてしてしまったら、この私が天に代わって成敗致します!」
「(ショタコンだ、この子ーーー!)」


 何なんだ、このクラスは、と叫ばずにはいられないシンジ。しかし、時間は非情である。身体測定の為に他の生徒達も服を脱ぎ始めた。シンジは、教室の隅に移動し、なるべく見ないよう努める。


「あれ〜? 今日、まきちゃんは?」
「さぁ?」
「まき絵は今日身体測定アルからズル休みしたと違うか?」
「まき絵、胸ぺったんこだからな〜」
「お姉ちゃん、言ってて悲しくないですか?」
「まき絵?」


 ふと他の生徒の会話が聞こえてシンジが呟くと、下着姿の朝倉が声をかけてきた。


「まき絵ってのは、佐々木まき絵っていうバカレンジャーの一人だよ」
「バカレンジャー?」
「そ。あっこの神楽坂明日菜、綾瀬夕映、古菲、長瀬楓を含めて成績下位の5人揃ってバカレンジャーさ」
「へ〜」


 むにゅん!


「ひゃ!?」


 突如、朝倉が背後から胸を掴んで来た。思わず悲鳴を上げるシンジ。


「む〜・・・コレ、本当に大きいな〜。那波には劣るけど、長瀬には勝ってるかな? こりゃクラス癸瓦ら、癸気乏焚爾欧〜」
「あ、いや、ちょ・・・」


 むにょむにょ。


「けど、この弾力・・・上物のクッションより柔らかいじゃん!」
「あ〜! 朝倉ズルい! 私も触る〜!」
「僕も〜!」
「え? ちょ、ちょっと待・・・ひいいいいいい!?」


 再び揉みくちゃにされるシンジ。魔法学校で一般人より鍛えているつもりだったが、何故かこの少女達には逆らえなかった。それから5分後・・・。


「ぜぇぜぇ・・・はぁはぁ・・・」


 髪の毛は乱れ、ブラは完全に外れてしまったシンジは激しく息を切らしていた。


「ごめん、碇。ちょっとやり過ぎちゃった・・・」
「ちょっとどろこじゃないでしょー!!」
「まぁまぁアスナ。これも転入生の緊張を解してやろうと思っての事だよ、うん」
「緊張解すどころか警戒されちゃうわよ・・・大丈夫?」


 鈴をつけたツインテールと、左右色の違うオッドアイが特徴的な少女、神楽坂明日菜が大丈夫か声をかけると、シンジは苦笑いを浮かべて「は、はい」と頷き、ブラを付け直す。
 ハチャメチャな女の人には慣れていると思っていたが、此処にいる少女達は、それすら凌駕している。末恐ろしかった。


「ねぇねぇ、ところでさ。最近寮で流行ってる、あの噂どう思う?」


 ワイワイと騒いでいると、ふと柿崎美砂が話題を振る。


「え? 何よソレ、柿崎?」
「ああ、あの桜通りの吸血鬼ね」
「えー何!? 何ソレー!?」
「何の話や?」
「知らないの? しばらく前からある噂だけど・・・何かねー、満月の夜になると出るんだって。寮の桜並木に・・・真っ黒なボロ布に包まれた血まみれの吸血鬼が・・・」


 吸血鬼の話なのに、幽霊みたいに両手を垂らして恐怖を演出する柿崎。が、こういう話題に弱い鳴滝姉妹は「キャー!」と悲鳴を上げ、27番宮崎のどかもガクガクと震えている。


「まきちゃん、その謎の吸血生物にやられちゃったんじゃないかな〜」
「た、確かに、まきちゃん美味しそやけど・・・」
「いや、吸血生物じゃなくて吸血鬼」
「も〜、そんな噂デタラメに決まってるでしょ。アホなこと言ってないで早く並びなさいよ」
「そんなこと言って、アスナもちょっと怖いんでしょ〜」


 いつの間にか、黒板にチュパカプラを描いて議論する生徒達。


「違うわよ! あんなの日本にいるわけないでしょ!」
「いや、そうとは限らないわよ。ほら、3年前に使徒だか何だかが来て大騒ぎになったじゃん」


 柿崎がその話題を出すと、隅っこにいたシンジはピクリと反応した。


「宇宙人だとか地底人だとか色んな意見があったけど、結局は・・・SEELEだっけ? 悪の秘密結社の生体兵器だったじゃん。案外、吸血鬼ってその生き残りかもよ」
「脱出した生体兵器! うわ、何か燃える展開!」
「(人間も使徒なんだけどな〜)」


 SEELEを戦犯にし、NERVは使徒の事も世界中に公表した。が、その詳細は語らず、結局のところNERVの決戦兵器が使徒を殲滅し、その使徒をSEELEの生み出した生体兵器という事にした。
 ま、下手に真実を公表し『実は人間も使徒でした』なんて言えば、生物学から宗教の概念に至るまで、根底から覆ってしまうので、それで平和になったのなら、良かったのかもしれないと、シンジは考える。


「(まぁ確かに・・・魔法使いがいるんだし、吸血鬼ぐらいいてもおかしくないか・・・?)」


 実はこの神楽坂明日菜、一般人でありながら魔法使いの存在を知っていた。ネギが、この麻帆良学園に赴任してきて1日目で、彼が魔法を使っている場面を目撃してしまったのである。
 秘密がバレたらオコジョにされ、強制送還されてしまうので、まだ10歳で詰めの甘いネギのフォローなどをしている。


「その通りだな、神楽坂明日菜」
「え?」


 考え込んでいる明日菜に対し、声をかける者がいた。それは珍しくエヴァンジェリンだった。彼女は何故か笑みを浮かべ、明日菜に忠告する。

「噂の吸血鬼はお前のような元気で活きのいい女が好きらしい。十分、気をつけることだ」
「え・・・!? あ、はぁ・・・」
「(ん・・・?)」


 その時、ふとシンジは何か奇妙な感じがした。


「先生ーーっ! 大変やーーっ! まき絵が・・・まき絵がーー!」


 すると廊下を駆ける音がして、和泉亜子が走って叫んで来た。彼女は保健委員なので、身体測定の準備などを手伝っていたようだ。


「何!?」
「まき絵がどうしたの!?」
「わぁ〜〜〜!?」


 いきなり教室の扉や窓が開かれ、下着姿の生徒達が飛び出して来て、廊下にいたネギは大声を上げて驚いた。


 まき絵は桜通りで倒れているのを発見され、保健室に運ばれたとネギは報告した。やっぱり吸血鬼だ、いや甘酒飲んで倒れたんだ、とか色々と疑問が尽きないが、特に身体に異常は無いようで、身体測定は無事に終わった。


「キ、キツかった・・・」


 と、下着姿の少女達の中にずっと居たシンジは、転入初日早々、神経をかなりすり減らしてしまい、机の上に寝そべっていた。


「じゃあ、教科書の5Pを開いてください」


 新しくなった教科書。パラパラとページの捲れる音が教室に響く。そして、1ページ目を見る。


「(やっぱり英語だけは分かるかな・・・良かった、3年の最初に転入して)」


 教科書を渡された時、シンジは一通り目を通したが、ハッキリ言って英語以外はちんぷんかんぷんだった。エジプトに行く際、共通語として英語は日常会話程度に覚えたが、それ以外は全く駄目だった。
 良く考えたら、中三になってからは学校が再開する前にエジプトに行き、それ以降は魔法の修行にあけくれ、一般の勉強など手をつけなかった。数学や理科、社会、国語など全く分からなかった。
 もし、3年の途中に転入したら授業にも付いて行けず、バカレンジャーとかいうメンバーに入れられかねなかった。


「(う・・・・!)」


 安堵した瞬間、シンジに尿意が襲い掛かる。シンジは、うっかりしていた事に気付いた。そう、ここは女子校。つまり男子トイレなど無い。職員室の方に行けば男性職員用のトイレがあるのだろうが、生徒立ち入り禁止である。


「(行くのか!? 女子トイレに!? 男の僕が!?)」


 股をモジモジさせながら、シンジは葛藤する。シンジの中で女子トイレのイメージをする。男子トイレのように汚物臭くなく、女子の香水などの仄かな残り香で満たされ、便座は汚れておらず、髪や化粧を整えながらお喋りする。男子トイレとは壁一枚の違いで別世界のイメージである。


「(つい3年前までトウジやケンスケと一緒に並んで用を足していた僕が・・・女子トイレなんかに!? ・・・・・・カヲル君だったら普通に女子トイレに入って行きそうだな)」


 襲い来る尿意と男としての誇りの板ばさみで、シンジの葛藤は最大限に達する。思考の方も最後は少しおかしくなってしまっている。
 そこで、シンジは2つのパターンを連想する。
 我慢する・・・お漏らしして椅子や床を汚し、人間として終わる。
 トイレに行く・・・男だとバレたら社会的地位から抹消。


「(・・・・・・バレなきゃいいんだ)」


 結局、良心は尿意に負け、そういう結論に達した。


「ネギ君」


 シンジは、ガタッと立ち上がるとクラス中の視線が彼に向く。


「トイレ行ってもいい?」


 教室の近くのトイレの扉をソ〜っと開ける。授業中なので当然、生徒がいるわけない。それでもシンジはダッシュで個室の一つに入ると、パンツをズラす。


「えっと・・・この割れ目にチャックがあるんだよな・・・」


 よりにもよって、そんな所にチャックを付けるリツコの発明品に悲しくなりつつも、シンジは用を足す。
 本来なら入れるモノを出している余りにも滑稽な姿。こんなの知り合いには絶対に見せられない。いや、クラスメイトにも見られちゃ終わりだ。


「はぁ・・・」


 冷静になってシンジは、何でこんな学園にやって来たのかを考える。卒業証書には『カイロで商人』と出た筈だった。今頃、カイロで商人の仕事をしつつ、マギステル・マギになる為の修行をしている筈なのに、何が悲しくて女子校に通っているのだろうか?
 世の不条理さを噛み締めずにはいられない。
 その間にも用足しも終わり、便座が上がってて男子とバレるなどというようなベタな間違いはおかさず、しっかり便座を下ろしてトイレから出て行く。


「父さん・・・何考えてんだろうな」


 満月の夜、明日菜、近衛木乃香、早乙女ハルナ、のどか、夕映の4人が揃って寮に帰っていた。


「吸血鬼なんてホントに出るのかな〜」


 彼女達の話題は、今朝、柿崎が話していた吸血鬼の事だった。単なる噂だと思うが、クラスメイトの佐々木まき絵が、此処で倒れているのを発見されたので、頭から否定は出来なかった。


「じゃあ、先帰っててね、のどか〜」
「はいー」


 4人が寄り道をする為にのどかは先に帰る事にする。しかし、そこで彼女は寮に帰る途中の桜通りに入った。フンフン、と鼻唄を歌いながら帰っていたが、「あ、桜通り・・・」とようやくそこで気付いた。


「か、風強いですねー。ちょっと急ごうかなー。怖くない、怖くないです〜♪」

 歌を歌って、恐怖を誤魔化すが、風で桜が揺れてザワッと音がすると、「ひっ!」と声を上げて驚く。


「え?」


 だがその時、のどかは街灯の上に立つ人影に気付いた。黒いボロ布を纏い、金髪が煌く。そして鋭く光る瞳にのどかは、釘付けになる。その姿は正に噂の吸血鬼そのものだった。


「27番、宮崎のどかか・・・悪いけど少しだけ、その血を分けて貰うよ」
「きゃああああああああ!!!!!!」


 桜通りに少女の悲鳴が響き渡った。


「マズい・・・寮が何処か分かんない」


 その頃、シンジはすっかり道に迷っていた。誰か一緒に帰って貰えば良かったと激しく後悔する。誰かに道を尋ねようにも、こんな時間に生徒が出歩いている方が珍しい。


「こりゃ野宿かな〜」


 学校で野宿というのも変な話だが、砂漠で野宿するよりはずっとマシだと考えるシンジ。


「ん?」


 突如、シンジは昼間に感じた奇妙な波動に気付く。昼間は薄れていてハッキリと分からなかったが、これは魔力だ。しかも、余りいい感じはしない。


「(・・・・近いな)」


 シンジはおもむろに大き目のバッグから少し小さ目の水色のボードを出す。それは、車輪の無いスケボーみたいで、奇妙な眼の模様が描かれている。その上に乗ると、フワッと30cmほど浮かび上がった。
 するとボードは凄まじいスピードで校庭を移動する。その間にバッグから、もう一つ必要なものを出す。それは短い棒だった。その両端にはそれぞれ、隼の飾りと、金属板にはスケボーと同じウジャトの眼が刻まれている。
 杖を勢い良く振るうと、左右に伸びてシンジの身長ぐらいの長さになる。


「きゃああああああああ!!!!!!」
「(悲鳴!? あそこか!)」


 悲鳴が聞こえ、シンジは急ぎ眼前に見える桜通りへと向かう。桜通りには、黒衣の何者かが同じクラスののどかを抱えていた。まさか噂の吸血鬼かと思いながらも、シンジは魔法の詠唱に入る。


「ナルメル・ホル・アハ・ジェル・・・」
「む・・・!」


 相手の方もシンジの事に気付き、こちらを向いて来る。シンジが詠唱すると、彼の杖に魔力が集まる。


「唸れソプドゥウ・討てアテン・縛れベス・・・」
「待てーーー!!!」


 その時だった。別の方から声が響く。シンジと吸血鬼がそちらを見ると、ネギが杖に跨り、猛スピードで迫って来ていた。


「ラス・テル・マ・スキル・マギステル・・・」
「(げ・・・!?)」


 シンジは堪らず目を見開いた。ネギが魔法使いだというのは、杖を見て何となく分かっていた。それに彼が、こうやって生徒の危機に駆けつけるのも納得出来る。が、ネギも呪文の詠唱をしていた。


「ラス・テル・マ・ステル・マギステル・・・風の精霊11人・縛鎖となりて・敵を捕まえろ・・・魔法の射手・戒めの風矢!!」
「魔法の射手・封鎖の火矢!!」


 ネギの放った風の矢、シンジの放った火の矢が同時に吸血鬼を捕縛しようと襲い掛かる。シンジが杖を持ち、火の矢を放っているのを見てネギは「え!?」と驚く顔になる。


「チッ・・・面倒な・・・氷盾」


 が、吸血鬼は自分の前に氷の盾を作り出して、風と火の矢を防いだ。


「僕の呪文を全部跳ね返した!?(や、やっぱり犯人は・・・)」


 ネギは、吸血鬼から解放されたのどかを抱きかかえながら、自分の推理を確信する。今朝、発見されたまき絵から、微量では合ったが魔力が感じられた。ネギは相手は自分と同じ魔法使いなのだと推理し、今の一連の動作で全て理解した。


「驚いたぞ・・・凄まじい魔力だな」


 吸血鬼は完璧に防御したと思ったが、防ぎ切れずに手から僅かだが血が流れる。まぁ、風の方はともかく、火の矢は相性的に氷の盾で防ぐのは少々厳しい。
 今の衝撃で、吸血鬼の帽子が脱げ落ちる。そしてハッキリと顔が現れた。それを見てネギとシンジは驚く。


「えっ・・・き、君はウチのクラスの・・・エ、エヴァンジェリンさん!?」
「嘘・・・」


 噂の吸血鬼の正体・・・それはネギのクラスの生徒であり、シンジの隣の席であるエヴァンジェリンその人だった。


「フフ・・・新学期に入った事だし、改めて歓迎のご挨拶といこうか、先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。10歳にして、この力・・・流石に奴の息子だけはある」
「(え!?)」


 奴の息子、という言葉にネギは大きく反応した。しかし、ネギはまずエヴァンジェリンの正体を問いただす。


「な、何者なんですか、あなたは!? 僕と同じ魔法使いのくせに何故こんな事を!?」


 その問いに、エヴァンジェリンは両手に小さな瓶を出して答えた。


「この世には・・・いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ先生。氷結・武装解除!!」


 ガガッ!!


 エヴァンジェリンが小瓶を投げつけると、その前にシンジが立って杖で小瓶を砕いた。すると彼の杖が凍り付いてしまう。


「うげ・・・」
「あ、碇・・・さん?」
「ふ・・・碇か。貴様も魔法使いだったのか」


 ネギはシンジの存在に唖然となり、対してエヴァンジェリンは不敵に笑う。


「邪魔立てするというのなら、容赦はせんぞ」
「ちょ、ちょっとエヴァンジェリンさん、どういう事? 噂の吸血鬼って・・・」


 シンジも慌ててエヴァンジェリンを問いただそうとしたが、そこへ明日菜と木乃香がやって来た。それと共にエヴァンジェリンも霧の中に消える。


「何や、今の音!?」
「あっ、ネギ・・・に碇さん? って、あんたソレ!?」


 ネギの腕の中で気絶しているのどかを見て、明日菜と木乃香は驚く。木乃香に至っては「ネギ君が吸血鬼やったんか〜!?」と叫ぶ始末である。
 ネギからすれば誤解もいい所で、シンジに対し弁解してください、と助けを求める。いきなり話を振られて、シンジは戸惑っちゃうが、「え〜と」とフォローを入れる。


「その・・・ネギ君も別に悪意がある訳じゃ・・・」
「それフォローになってませんよ!!」
「ってゆーか、追いかけないと!」
「あ! そ、そうでした・・・アスナさん、このかさん! 宮崎さんを頼みます! 僕はこれから事件の犯人を追いますので、心配ないですから先に帰ってて下さい!」


 言うや否やシンジとネギは、エヴァンジェリンを追いかけて行った。


「え? ちょっとネギく・・・うわ! 早!」


 2人の姿はあっという間に見えなくなり、明日菜と木乃香は呆然と取り残されてしまった。
 ネギはシンジと並んで走っている際、話しかける。


「碇さん、魔法使いだったんですね」
「ま〜ね・・・ネギ君こそ、そんな杖持ってたら、あからさまに魔法使いって同業者にはモロバレだよ」
「あぅ! す、すいません・・・」
「けどエヴァンジェリンさんが噂の吸血鬼だっていうのには驚いた・・・」
「ええ。世の中には、いい魔法使いと悪い魔法使いがいるなんて・・・世のため、人のために働くのが魔法使いの仕事の筈なのに・・・」
「・・・・・いた!」


 ネギの言葉にシンジは頷かず、前方にエヴァンジェリンの姿を見つける。エヴァンジェリンは、こちらに気付くと、歩道橋を駆け上がり、その上から飛び降りて、空中を飛翔した。
 杖も箒も無しに空中を移動する魔法、浮遊術。これを扱えるのは、かなりハイレベルな魔法使いであるという事だ。ネギは杖に、シンジはボードの上に乗って空中を浮かぶ。
 が、それにしてはエヴァンジェリンから感じられる魔力は弱く、呪文の詠唱に魔法薬を媒体にしているのが気になった。


「待ちなさーい!! エヴァンジェリンさん、何でこんな事をするんですか!? 先生としても許しませんよーー!」
「はは、先生。奴の事を知りたいんだろ? 奴の話を聞きたくはないのか? 私を捕まえたら教えてやるよ」


 エヴァンジェリンのその言葉に、ネギは顔つきを変えた。


「本当ですね・・・」
「碇。お前はどうする? 今なら、まだ見逃してやるぞ?」
「え? 本当?」
「ちょ・・・碇さんも魔法使いならクラスメイトが悪い事してるの見逃しちゃ駄目ですよ!」
「う・・・」


 と、言われても転入初日から派手に動きたくないのがシンジの心情。しかし、魔法使いとしての使命と板ばさみに合い、仕方なくエヴァンジェリンを止めようと呪文の詠唱に入った。


「ナルメル・ホル・アハ・ジェル・・・吼えろソプドゥウ・轟けアテン・穿てベス・7柱の炎・隼の如く・敵を討て! 魔法の射手・破壊の炎舞!」


 シンジが杖を振るうと、7本の炎の矢がエヴァンジェリンに向かって放たれる。今度の炎の矢は先程の捕縛用のものと違い、相手を倒す為のもので、威力も段違いだ。
 エヴァンジェリンも今の自分の魔力で、相性の悪い炎の魔法を防ぐのは無理だと判断し、回避する。そこへネギの魔法が炸裂する。


「風花・武装解除!!」


 するとエヴァンジェリンの黒衣が風により、蝙蝠となって弾け飛んだ。黒衣の下には、白のネグリジェを着ており、マントを失った彼女は屋根の上に着地した。
 ネギとシンジも、屋根の上に降りると、なるべく彼女を見ないように言う。


「こ、これで僕の勝ちですね・・・約束どおり教えて貰いますよ。何でこんな事したのか・・・それにお父さんの事も」
「お前の親父・・・即ち『サウザンドマスター』のことか・・・」
「!?」
「(え?)」


 ネギの父親が伝説のサウザンドマスター? それを聞いて、シンジはネギを見ると彼の反応で、それが嘘じゃないと分かる。


「と、とにかく魔力も無く、マントも触媒も無い貴女に勝ち目は無いですよ! 素直に・・・」
「これで勝ったつもりなのか?」
「! ナルメル・ホル・アハ・ジェル・・・!」


 エヴァンジェリンが言うと、上の屋根から人影が飛び降りて来た。ネギよりも早く気付いたシンジは呪文の詠唱に入った。しかし、その影は、シンジとの距離を詰めると、デコピンで彼を弾いた。


「痛っ!」


 詠唱を途中で止められ、魔法は不発に終わる。


「碇さん!?」
「き、君は・・・」


 シンジとネギは、新たに現れた人物を見て驚く。薄緑色の長い髪と特徴的な耳あてをした生徒をエヴァンジェリンは、楽しそうに紹介した。


「紹介しよう。私のパートナー・・・3−A出席番号10番、『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』の絡繰茶々丸だ」
「え・・・な!? ええ〜!? 茶々丸さんが貴女のパートナー!?」
「(これはヤバい・・・)」


 魔法使いは、呪文詠唱中は全くの無防備になり、攻撃されれば呪文は不発に終わってしまう。それを守護し、呪文を完成させる為の防御の役目を担うパートナーを『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』と呼ぶ。
 一人前の魔法使いになるには、従者は必要不可欠であり、魔法使い同士の戦闘において鍵を握っているといっても過言ではない。


「ネギ君、ヤバい。ここは素直に逃げよう」
「碇さん、何弱気になってるんですか!?」
「パートナーがいない僕らじゃ100%勝ち目ないよ」
「そんなのやってみないと・・・」


 言ってネギは呪文の詠唱に入ろうとするが、茶々丸が目の前に迫り、ほっぺを抓った。


「あうううう!!」
「ネギ君、本当に駄目・・・!?」
「む!?」
「!」


 その時、シンジ、エヴァンジェリン、茶々丸の3人が表情を変えて空を見上げる。ネギはほっぺを摩りながら、「ふぇ?」と不思議そうな表情をする。


「・・・・・・何か来る・・・茶々丸!」
「了解」


 茶々丸はブースターを起動し、空に飛び上がる。次の瞬間、カッと夜空が一瞬、光り輝いた。エヴァンジェリンは「何ぃ!?」と驚愕して声を上げる。光が消滅すると、茶々丸が煙を上げて落下して来た。


「危ない!」


 が、ネギが風の魔法で、落下の衝撃を緩和する。


「茶々丸!」
「何が・・・?」


 月の光で良く見えないが、シンジ、ネギ、エヴァンジェリンは、星の中に赤く輝く光が見えた。


 <レス返し>

>アイク様
 エヴァンジェリン編と平行して、裏使徒の事についても触れていきます。


>シセン様
 昔も今も巻き込まれ体質なシンジが好きです。シンジの魔法、今回出ました。


>ZEROS様
 話の大まかな筋は既に出来ています。
 話自体は、そんなに複雑でもありませんし、何とか出来ると思います。


>七位様
 別に取ってつけた訳でも、魔法使いの対応も最初に考えてたんですが・・・。
 それにギャグで通すつもりは無いです。ネギまは一応ラブコメで、コメディの部分を強調しただけです。ご都合主義で済ますつもりは無いです。完結目指して頑張ります。

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