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「宇宙への道第13話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-11-17 20:20/2006-11-18 09:34)
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(12月31日、「ステルヴィア」内発着ゲート)

「しかし、緊急事態とはいえ短い休みだったな・・・」

「私はミアにも会えたし、楽しかったわよ」

「もう数日、時間があればね」

「それは、来年以降に期待しましょう」

「フジヤマ」を降りた俺とアリサは、手を繋ぎながら楽しそうに歩いていた。
本当は、アリサは臨時召集されていなかったのだが、臨時運行される「フジヤマ」に乗るのが、俺としーぽんと光太と「ビック4」の中の3人だけだったので、特に誰にも咎められなかったのだ。
「フジヤマ」の中では、臨時召集という事態で心配し通しのしーぽんと、それを慰める光太という光景が展開されていて、「ビック4」の面々も一言も発しないで、座席から微動だにしなかったので、居心地の悪い俺とアリサは、すぐに休憩室に避難してお茶を飲んでいたのだ。

「みんな、心配し過ぎなんだよ」

「そうかしら。何か雰囲気暗いじゃない」

「雰囲気はね。実際に、戦争になるかどうかは不明だし、なっても俺達には関係ないさ」

「何で孝一郎はそう思うの?」

「仮想敵国は、各惑星圏のファウンデーションだろう。 内緒で集められる戦力なんてたかが知れている。(ステルヴィア)を含む、地球圏の治安維持組織の戦力で十分に対応できるさ。学生を徴兵するなんて事態はありえないさ」

「本当に?」

「そう思う事にする」

「うーん。確かに私が心配しても、仕方がない部分もあるしね」

「地球圏以外の全ファウンデーションが、秘密協定でも結んで攻めてくれば大変だけど、そこまで一枚岩になるなんて不可能だろうし・・・」

「孝一郎って、意外と物を考えているのね」

「失礼な・・・。俺だって、新聞くらいは読むさ。それよりも、その話はなるべくなしで行こうぜ」

「わかったわ」

「それよりも、もっと楽しい事を話そうよ」

「それも、そうよね。陰気くさいのは勘弁ってところかしら?」

それからの俺達は、「ウルティマ」での事件や非常召集の事を忘れて、もっと楽しそうだったり、恋人同士っぽい語らいをする事にする。

「そうだよね。孝一郎君の言う通りだよね」

「しーぽんは、孝一郎の言う事はすぐに信用するのね」

「孝一郎君は、私のお兄さんだからね」

俺達の後ろにいたしーぽんが、安堵した表情で話しかけてくる。
今回の帰省でうちの両親と会った影響で、しーぽんは俺への恋愛感情を捨てて、妹的な地位を目指しているらしい。
それと平行して、光太との思いを遂げようというのだから、亡くなった亜美とは違い、しーぽんはここ数ヶ月でかなり逞しくなったようだ。

「(おい、光太。しーぽんとは、どうなったんだ?大分進展したんだろう?)」

俺は、光太の横に移動して小声で質問をする。

「(大分、距離は縮まったと思うんだ。そろそろ、告白をしようと思うんだけど)」

「(早く、やってしまえ!スピードが命だと思うぞ)」

「孝一郎、光太。お腹が空いたから、何かを食べに行こう」

「そうだね」

「何を食べる?」

「ファミレスで良いんじゃないの?」

「えーーー!ファミレスぅ?」

「孝一郎は、料理も作れない癖に贅沢なのよ!」

「あそこ。和食が美味しくないから」

「じゃあ、どうするのよ」

「和食レストランに行きましょう」

「そうそう。和食レストランでって!町田先輩ですか?」

いつの間にか俺達の前に町田先輩がいて、電光石火で光太と腕を組んでいた。
俺は彼女の運動神経の良さと、素早さに恐怖を覚えつつ、あれほどの事件を起こしても、短期で立ち直ってしまった彼女の逞しさに、驚きを隠せないでいた。
どうやら、いつの世でも恋する乙女は、世界いや宇宙最強であるようだ。

「あの・・・。町田先輩・・・。人前で腕を組むのは・・・」

「厚木君とグレンノースさんは、手を繋いでいるじゃないの」

「あの2人は付き合っていますから」

「じゃあ、付き合いましょうか?」

「町田先輩!光太君が迷惑していますから!」

「あら。そんな事はないわよね。光太君」

「えっと・・・。その・・・」

光太の腕に町田先輩の胸が当たっていて、光太はその感触の良さで正常な判断力を失っているらしい。

「光太君は、私と付き合うんです!」

「えっ?」

「えっ!」

「嘘っ!」

遂に堪忍袋の尾が切れたしーぽんの爆弾発言で、俺、アリサ、町田先輩は驚きの声をあげる。

「光太、良かったなって・・・・・・」

「えっと、あの・・・・・・」

ところが、光太にはしーぽんの告白が耳に入っておらず、いつまでも町田先輩の胸の感触と戦い続けていた。


「俺、天丼セット」

「僕は、カツ丼かな」

「私は、キジ丼」

「そうね。鴨南蛮そばを」

「私も、天丼セットで」

「片瀬さん、太るわよ」

「大丈夫です!」

町田先輩の容赦ない一言に、しーぽんが大声で反論をする。

「町田先輩、しーぽんは、少しふくよかになった方が」

「胸に行くとは限らないし、余計お子様体系になる可能性があるわよ」

「町田先輩!」

「(どうして、こんなに明るいんだ?この人)」

俺とアリサは、発着場で恥ずかしい争いを繰り広げていた町田先輩としーぽんを放心していた光太から引き剥がし、うどん・そばと丼物を食べさせるレストランに連れ込む事に成功したのだが、2人の無用な争いはここでも再開されていた。

「町田先輩、先輩は(ビック4)なんですから、もう少し落ち着いた方が・・・」

「要は成績を維持すれば良いのよ」

「ごもっともなご意見で・・・」

町田先輩は、光太に圧倒された事がよっぽどのショックだったようで、以前とはかなり性格が変わったような気がした。
多分、考えすぎて何かがフッ切れてしまったのであろう。
ただ、俺にしたら光太の件で微妙に巻き込まれているような気がするので、何となく苦手な先輩になっていたのだが、前よりは大分マシになった事は事実であった。
それに、元々「ビック4」の面々は変人揃いなので、誰も気にしないだろうとも思われる。

「非常召集ですか。(ウルティマ)を攻撃したのは、誰なんでしょうね」

俺は、光太の件で無用な争いを避けるべく、なるべく違う方向に話題をふる。

「第一に他のファウンデーション、第二に(ウルティマ)の自作自演、第三に反動組織、第四に・・・。これは、ありえないわね」

「宇宙人ですか?」

「一番ありえないわね」

光太の事で、色ボケをしているようでも町田先輩の能力に変化はないらしい。
冷静な分析を俺達に披露してくれる。

「せっかくの休みだったんですけどね」

「厚木君は、グレンノースさんとラブラブだからね」

「羨ましいですか?」

「羨ましいわね。というわけで、光太君、あーんして」

「えっ!」

町田先輩は注文した料理が届くと、光太に食べさせようとする。

「むむむぅ!光太君には私が食べさせます!」

町田先輩のせいで不機嫌なしーぽんも、対抗して光太にご飯を食べさせようとする。
もはや、先輩だからとかいう感覚は存在しないらしい。

「光太君は、大人のお姉さんの方が良いわよね」

「光太君は、同じ歳の女の子の方が良いんです!」

「あーあ。結局、こうなるのか・・・」

「りんなちゃんが戻ってきたら、えらい事になるぞ・・・」

「確かにね・・・」

光太を挟んで左右で火花を散らすしーぽんと町田先輩を眺めながら、俺とアリサはため息をつくばかりであった。


(1月1日、「ステルヴィア」宇宙学園寮自室内)

「新年明けましておめでとうございます」

「「「おめでとうございます」」」

「HAPPY NEW YEAR!」

「出たな!ヤンキー娘め!」

「アメリカでは、こうなのよ!」

翌日、俺達は部屋で新年の宴を開いていた。
両親に持たされていた、おせち料理と餅とみかんをコタツの上に置き、お屠蘇で乾杯をしていたのだ。

「栗きんとんが、美味しい!」

「田作りを食え!カルシウムが取れるぞ!」

「何かグロいわね・・・」

「町田先輩、チョウロギ食べます?」

「昔から入っているけど、これ食べられるの?」

「食えない事もないですよ」

「厚木君が食べなさい。光太君は何を食べるの?」

「僕は・・・」

「光太君、何を食べる?」

実は、町田先輩を呼んだ記憶はなかったのだが、どこからか情報を聞きつけて、いつの間にか光太の隣に座っていた。
光太も色々と大変なのだろうが、俺とアリサは巻き込まれないように、景色だと思って気にしない事にする。

「町田先輩、ケント先輩達との付き合いはないんですか?」

気にしない事にはしたのだが、しーぽんと光太が少し可哀想なのも事実だったので、一応はフォローを入れておく事にする。

「あそこの集まりに出ると、一年中鍋ばかりだから・・・」

「確かに・・・」

伝統らしいのだが、常に鍋ばかり出されるといい加減に飽きてしまうので、最近では、俺もたまにしか参加しない事にしていたのだ。

「ピンポーン!」

「あれ?誰だろう?」

「みんなの帰りは、明日だったわよね」

「ウルティマ」での騒ぎの影響で、「フジヤマ」の運休が噂されていたので、みんなも早めに休みを切り上げて帰ってくると、昨日メールが入ってきていた。
なので、該当者が思い浮かばずに、誰だろうと思いながら玄関に向かう。

 「はいはい。誰ですか?」

俺が玄関のドアを開けると、そこには迅雷先生、蓮先生、レイラ先生の3人が立っていた。 

「3人で、そろい踏みなんですね」

「お前ら、酒なんて飲んでいないだろうな」

「それはどうでしょう?(少し飲んでるけどね)」

俺は、レイラ先生の追及に愛想笑いを浮かべながら答える。

「レイラ、堅苦しいのは良くないわよ」

「そうそう。新年なんだから、多少は無礼講で行こうぜ」

「仕方がない。少しくらいなら、目を瞑る事にするか・・・」

「とりあえず。どうぞ」

俺は、3人を自室に向かい入れたのであった。


「一応正月なんだけど、(ウルティマ)での騒ぎの影響であまりぱっとしませんよね」

俺達は男女8人でコタツに入りながらおせち料理を食い、酒を飲みながら話をしていた。
俺の部屋のコタツは、この部屋がみんなの溜まり場になっていたので、かなり大きな物にしていた。

「準戦時体制らしいからな」

栗きんとんを食べながら、レイラ先生が俺の疑問に答えてくれる。

「保安部の連中が派手に動いているさ。何しろ、躍進のチャンスだからな」

「迅雷君の言う通りね。でも、殺伐としたのは勘弁して欲しいわ」

おせち料理と酒の魔力で、迅雷先生と蓮先生の口も軽かった。
これが「ビック4」の鍋料理だったら、こうも行かなかったであろう。

「急に呼び出して悪かったな」

「本当は、このおせちは地球で食べる予定でしたけどね」

「俺としてはラッキーだったな」

「迅雷・・・。お前も一応は教官なんだから・・・」

「それで、僕達は戦う事になるんですか?」

今まで、2人の女性に挟まれて影の薄かった光太がまともな質問をする。

「そんな事は、絶対にさせないさ」

「でも、(インフィー)のビームキャノンと(ビアンカマックス)の大型ビーム砲は、大きな戦力になりますよね」

「だが、基本的には、プロのパイロットになら 誰にでも操縦できる。心配しなくても良いさ」

「安心しました」

迅雷先生の答えに、俺達は安堵する。 
「グレートミッシュン」時に、しーぽんと光太が「インフィー」に搭乗した最大の理由は、他に間に合うパイロットがいなかったからというのが最大の理由であった。
俺の場合も、員数外の試作機に、貴重な正規のパイロットを乗せるのは勿体ないというのが、最大の理由なのであろう。

「迅雷君、でも、あの新しいシステムがあるじゃないの」

「ああ。新しいDLSか」

「今までの100倍近い情報を探知できて、考えるだけで動かせるようになるってアレか?眉唾くさいよな」

「ステルヴィア」の様々な実務に精通し、次期幹部候補である迅雷先生にとっては、カタログスペックだけが優秀で、実際に使った事もない物に信用を置けないのであろう。

「どうせ、数日中にはジェームズ主任教授から連絡が行くと思うが、その新しいDLSは、(インフィニティ−)に搭載されて、音山がテストパイロットを勤める事になると思う」

「レイラ教官、それって機密なのでは・・・」

光太は機密を簡単に話してしまう教官達を、少し心配してるようだが、俺達が関係者で、簡単に口を漏らすはずがないと信じてくれているようであった。
もっとも、お酒の影響でないとも言い切れなかったが・・・。

「もう、教官連中は全員知っているし、(ビック4)の連中も掴んでいるだろうな。そうだろう?町田」

「はい。ケントと笙人が言っていましたね」

いつもどうやって調べているのかが不明であったが、「ビック4」はいつも最新に近い情報を集めて所持していた。
多分、笙人先輩が集めているのであろう。

「勿論、本科の成績優秀者と(ビック4)にも適正テストを受けて貰ったが、規定に達しなくてな」

「いつの間に、そんな事をしたんですか?」

「(ケイティー)に測定機器を付けていただけだ。勿論、予科生にも付けてデータを集めていたが、他に可能性がありそうなのは・・・」

酒が入った影響なのか、レイラ先生はペラペラと事情を話してくれる。

「誰なんです?」

「厚木君と片瀬さんよ」

「俺としーぽんですか?」

「片瀬さんは引き続き、音山君とペアで(インフィニティー)に乗って貰うからね。厚木君は・・・。そうねえ。明後日の午前10時に保健室に来てね」

「わかりました」

「私服で構わないからね。むしろ、その方が良いわね」

「はあ?」

俺は、蓮先生の発言に首を傾げてしまった。


(1月2日、「ステルヴィア」発着場内)

「「「「ただいま!」」」」

「「「おかえりなさい!」」」

新年も2日目となり、俺達4人は「ステルヴィア」に到着した大、ピエール、ジョジョ、晶を出迎えていた。

「あれ?お嬢は?」

「あそこだよ」

ピエールが指差した方では、お嬢が町田先輩の出迎えを受けていた。

「何だ、ピエールと一緒なのが嫌で、違う便にしたんだと思ってた」

「言ってくれるよな。アリサは」

「また会えて嬉しいわぁ〜」

「僕も嬉しいわ〜」

ピエールは、半ばヤケクソでアリサの真似をして投げキッスをする。

「何か大変な事になったよね」

大は口では大変だと言っているが、特に大変そうな様子は見受けられなかった。

「学生には関係ないさ」

「そうなんだけどね」

俺と大は、この件に対しては特に言う事もなかったので、さっさと話を打ち切ってしまう。
早く飯でも食いに行った方が良かったからだ。

「でもさ。何か、燃えるシチュエーションだよな!」

「何が?」

「謎の敵の襲来と、秘密裏に開発された新兵器の登場だぜ!男なら、燃える展開じゃないか!」

「そんなのが良いんだ」

ジョジョの発言に、晶が冷たい声で答える。
ジョジョのワクワク感は、子供が新しい乗り物や兵器に興奮したり、台風が接近する間際に騒ぐのと同等の物と思われるが、女性である晶にしたら戦争など嫌悪感しか感じないのであろう。

「腹減ったな。飯でも食いに行こうぜ」

「僕も賛成!」

「そうね。ファミレスにでも行きましょう」

「それで良いと思うよ」

「私もお腹が空いた」

一人無駄に盛り上がっているジョジョを無視して、俺の誘いに大とアリサと光太としーぽんが賛同の声をあげ、晶とピエールも首を縦にふった。 

「今回は反対しないのね・・・」

「今日は、洋食が食べたい」

「はいはい。行くわよ」

「やよいさんは、どうするんだ?」

「親友同士、色々とあるんだから放っとけよ」

「わかったよ」

俺達は、一応はお嬢に行き場所を告げてから、発着場から行きつけのファミリーレストランに移動する事にする。

「待てよ!男はこういう事に興奮するものなんだよ!待ってくれよーーー!」

先ほどから無視されて、更に置いていかれそうになったョジョは、叫びながら俺達の後を追うのであった。


「お帰りなさい。やよい」

「ただいま。初佳」

「フジヤマ」を降りたお嬢は、初佳との再会を果たしていた。

「良かった。やよいが帰って来て」

「えっ!」

「やよい!」

「初佳・・・。ただいま」


初佳は、泣きながらやよいに抱きついた。
彼女は表面上は明るく振舞っていたが、内心は不安で堪らなかったようだ。

「ほら。泣いていると、綺麗な顔が台無しよ。そうでなくても、お互いに不利なんだからね」

「やよい・・・」

「光太君は、しーぽんが好き。孝一郎君は、アリサと付き合っている。私達は不利な勝負を挑んでいる」

「やよい、諦めてなかったの?」

「やっぱり、諦めてあげない。アリサは親友だけど、譲りたくなくなった。私って、悪い子かな?」

「私も悪い子だから」

「そうよね。お互いに悪い子よね」

2人の友情は完全に復活し、恋愛事に対する秘密協定を含む、様々な話を続けるのであった。


「「はっくしょん!」」

「汚いわね。孝一郎」

「光太君、大丈夫?」

2人の少女が悪巧みをしている頃、俺達はいつも通っているファミレスで食事をしていたのが、俺と光太は、同時にクシャミをするという偶然に見舞われていた。

「きっと、美女が俺の噂をしているんだ」

「はいはい。言ってなさいよ」

「光太君、風邪でもひいた?」

「おかしいな?」

2人でクシャミの原因について考えていると、先ほど注文した食事が運ばれてきた。

「腹も減ったし、さっさと食べますか」

面倒くさかったので、人数分を頼んだ日替わり定食を食べていると、しーぽんがこう話し始める。

「(フジヤマ)が運休する可能性があるって本当かな?」

「噂はあるよね」

大が、一人だけ大盛りを頼んだご飯を口に頬張りながら答える。

「完全な運休はないと思うけど、本数の減少はありえるかも」

「そうだな。それを考えたから、俺達も早めに戻ったんだし」

「そうね」

ピエール、ジョジョ、晶も続けて答える。

「でも、そうなったら困るな」

「どうしてだ?」

「野菜は地球産に限るけど、(フジヤマ)の本数が減ったら、食べられなくなっちゃう」

「何だ、そんな事か・・・」

「あら!毎日の食生活は大切な事よ!」

「野菜なんて、どこでも一緒だって」

「孝一郎は、生活破綻者だから気にならないのよ」

「俺は外食以外では、アリサに一任しているからな」

「君達は、既に夫婦みたいだな」

ピエールが、意地悪そうな表情でツッコミを入れる。
先ほどの、仕返しのつもりのようだ。

「孝一郎、余計な事は言わないの!」

「だって、事実じゃないか」

「孝一郎君は、相変わらずなのね。あっ!」

そんな事を言ったしーぽんも、日替わり定食のハンバーグの付け合せのグリンピースをソースと一緒に弾いて、服を汚してしまう。

「しーぽんもお子様ですね」

「むぅーーー!」

「スプーンで、すくった方が良かったかもね」

「光太君、ありがとう」

光太がしーぽんの服の染みを自分のハンカチで拭き始め、2人の間に恋人同士のような雰囲気に包まれる。

「光太にしてはやるじゃないか」

「えっ!別に僕は・・・」

「しーぽん、良かったじゃないの」

「あの・・・。それは・・・」

張り合う町田先輩が存在しないせいで、しーぽんは、顔を真っ赤にしながら、しどろもどろな口調で答えていた。


(1月3日、宇宙学園保険室内)

「これが、検査なんですか?」

「あなたは、あのGのキツイ(ビアンカマックス)に乗っているからね。通常のオーバビスマシンには、あれほどのGがかからない構造になっているけど、あれは別物だから・・・」

休み中の保険室内で、ベッドに横になりながら美人先生に体を触診されるという危ないシチュエーションに、俺の理性はかなり危ない状態になっていた。

「まだ、終わりませんか?」

「意外と純情少年なのね。でも、しなやかな筋肉をしてるわね。スリスリしたくなっちゃう」

「蓮先生、それはまずいですよ」

「嘘よ。最近はちゃんと休んでいるみたいだから、体に疲労は蓄積していないわね」

それをやられると、下半身がピンチになる可能性があるので、やんわりと断りを入れるのだが、それすら歴戦の戦士である蓮先生には、見抜かれていたようだ。

「さて、保健室での診察はこれで終わりよ」

「保健室では、終わりなんですか?」

「そろそろ。お昼だから問診を兼ねて、昼食にしましょう」

私服の上に白衣を着ていた蓮先生は、白衣を脱いで出かける準備を始める。

「午後からは聞きたい事があるから、お姉さんとデートよ」

「デートですか・・・」

俺はアリサに見つからない事を祈りつつ、蓮先生と一緒に街に出るのであった。


「ここのランチは美味しいのよ」

「イタリアンですか。初めてです」

「ちゃんと、参考にしてグレンノースさんを誘いなさいね」

「ご忠告痛み入ります」

イタリアンレストランの日替わりランチであるパスタを食べながら、俺達は話をしていたのだが、俺には、これのどこが新型DLSの適正テストなのかが良くわからなかった。

「新型DLSは、新学期後に実際に体験して貰うからね」

「じゃあ、今日のこれって何ですか?」

「あなたの心身の健康状態のチェックよ」

「チェックですか?」

「あなたは、本職のパイロットよりもキツイ条件の機体に乗ってるからね。レイラに頼まれているのよ」

「このデートもですか?」

「あら、デートだと思ってくれるの?」

「周りから見れば、そう思われても仕方がないかと・・・」

2人が食事をしているレストランは、それなりの格式のお店だったので、蓮先生も俺もそれなりの格好をしていた。
昨日、蓮先生からのメールでそう言われていたからである。

「そうよね。たまには若い男の子も良いわよね」

「たまにはですか・・・。たまについでに、迅雷先生でも誘ったらどうです?」

「迅雷君か。迅雷君は友達だからね」

「その一言って、何よりも辛いですよ」


「迅雷先生、友達だって」

「そんなアホな!」

迅雷とアリサとお嬢は、レストラン内の遠く離れた席で、2人の様子に聞き耳を立てていた。
検査以外の目的で何かをするのではないかと勘ぐったアリサとお嬢が、尾行を開始してレストランに入ると、先に迅雷が他の席で様子を伺っていたのだ。

「蓮先生って、今はフリーなんですよね?」

「クリスマスの時に会っていた男とは、付き合っていないようだ」

「魔性の女よね」

「グレンノース、そう言うなよ」

「迅雷先生も、一途ですね。私も見習おうかな?」

「お嬢、それはないのと違う?」

「冗談よ(本気だけどね)」

「本当かしら?(大体、お嬢が尾行に付き合うこと自体が、おかしいのよね・・・)」

お互いに胸に本音を秘めながら、2人の少女の話は続く。

「待て、2人が店を出るようだぞ」

「本当だ」

3人が他の話をしている内に、食事を終えた2人は店を出て行ってしまう。

「よし!追いかけるぞ!」

「「迅雷先生」」

「何だ?」

「「ごちそうさまです」」

「えっ?」

迅雷が渡された伝票を見ると、そこには「日替わりランチ×2、日替わりデザート×2」と書かれていた。

「ここのランチって、デザートが付いてなかったか」

「今日は、ティラミスも食べたかったんです」

「デザートは別腹です」

2人の少女は、特に罪悪感もないようでしれっとした表情で答える。

 「俺が出すのか?」

「(ステルヴィア)の次期幹部候補が、尾行なんて良くないですよ」

「藤沢、それって、脅し・・・」

「早く尾行しないと、2人を見失いますよ」

「わかったよ。とほほ・・・・・・」

結局、迅雷は自分の分の他に更に2人の分の食事代を払わされる羽目になったのであった。


「ここって、ランジェリーショップでは・・・」

「私、今はフリーだから、判定してくれる男性がいないのよ。感想を言ってくれると嬉しいかな?」

俺が次に蓮先生に連れて来られた場所は、世間で言うところのランジェリーショップであった。

「俺って、浮いていません?」

「そうでもないわよ。ほら。このお店って、カップルで買い物に来る人が多いのよ」

確かに、周りを見渡すと、多くのカップルが楽しそうに下着を選んでいた。

「でも、俺達は恋人同士じゃありませんよ」

「君は、つれないのね」

「アリサに見られたら大変なんで・・・」

この光景をアリサに見られない事を祈りつつ、心身ともに店内で小さくなっている俺であった。

「お姉さんが、デートの予行演習をしてあげているのよ。ここなんて、ぐっと接近できるチャンスよ。ねえ。これなんてどうかな?」

蓮先生が手にしていた下着は、かなり際どいTバックとガーターベルトであった。
更に、お揃いの色のブラジャーも持っていて、蓮先生が意外と着痩せする事も確認していた。

「間違っても、試着とかはしないでくださいね(カップはDか。巨乳ではないけど、美乳ではあるのか・・・。って!何を冷静に分析しているんだよ!俺は!)」

「見たくないの?」

「思春期の少年を惑わさないでくださいよ(そりゃあ、見たいに決まっている。本能だから・・・)」

俺の心の葛藤など知らないのか、知っていても無視しているのか、更に蓮先生は話を進める。

「あなた。恋人の下着のサイズを知ってる?」

「ははは。まだ、そこまではですね・・・」

「まだ付き合いも短そうだから、そこまでは行ってないか」

俺は、年上の蓮先生に翻弄されっ放しであった。


「厚木の野郎!」

ランジェリーショップの外から、迅雷は2人の事を観察していたが、道行く人達に怪しい人扱いされていた。
蓮の場合は、孝一郎が意外と大人びてるせいもあって、恋人同士に見えなくもなかったが、迅雷がアリサとやよいを連れてお店に入ったら、確実に怪しく思われるし、知人に目撃でもされておかしな噂でも立てられたら困るので、2人に入店を拒否されてしまったのだ。

「あれは、どちらかというと、孝一郎が振り回されているような・・・」

「みたいね・・・」

「下着なら俺が買ってやるって!」

「迅雷先生、その発言はいやらし過ぎ」

「ちゃんと、正式に付き合ってからの方が良いですよ」

「ぐはっ!傷つく一言だな」

迅雷が傷付いている横で、お嬢は母に貰って前日に中身を確認した、「意中の男攻略マニュアルの内容を思い出していた。

「アリサ、私、買い物があるから」

「へっ?」

「じゃあね」

突然、お嬢は、例のランジェリーショップに入っていってしまう。

「お嬢、私も行くわよーーー」

「おい!お前ら!って、俺はどうしたら良いんだ?」

お店の前で悩み始めた迅雷は、街行く人達に変な人扱いで見られ続けていた。


「孝一郎君は、何をしているのかな?」

「お嬢!」

俺は、蓮先生との会話に気を取られていて、真後ろにお嬢が接近していた事に全く気が付かなかった。

「どうも。藤沢さんのご機嫌はいかかでしょうか?」

「何を言ってるのよ。それで、アリサに隠れて蓮先生とデートなの?」

「そんな事はございませんです。これは、純粋に蓮先生の買い物のお供でして・・・」

「デートよ」

「蓮先生、嘘を広げないでくださいよ!」

「別に、付き合っていなくても、デートくらい簡単にできるからね。それと、藤沢さんだけじゃなくて、彼女にも事情を話した方が良くない?」

蓮先生の指摘でお嬢の後ろを見ると、半分呆れたような表情のアリサが立っていた。

「グレンノースさんですか!今日は、大変お日柄も良く・・・」

「何を慌てているのよ。あんたは、本当に年上の女性に弱いんだから」

「すんませんです」

俺はアリサに事実を指摘されて、少し落ち込んでしまう。

「まあ、いいわ。私のランジェリーも選んでくれるのかしら?」

「へっ?」

「私も選んで貰おうかな?」

「お嬢、それはまずいと思うんだけど・・・」

「蓮先生が良くて、私が駄目って事もないわよね?」

「あのですね・・・」

「お嬢、何かを企んでる?」

「まさか。ピエール君には、頼めないじゃないの。(まずは、かき乱して惑わすか)」

お嬢は、「意中の男攻略マニュアル」の第二章を思い出す。
ちなみに、第一章は分析するで、それは既に終わらせていた。
自分は、アリサにはない包容力と胸で勝負する事にしたのだ。

 「孝一郎君、これなんてどうかな?」

「ええとですね・・・。(E?Fか!グラビアアイドルも真っ青だな・・・。いや!惑わされては駄目だ!頑張れ!俺!)」

お嬢が持って来たブラジャーのサイズは、思春期の少年の心をかき乱すのに十分なものであった。

「(お母さんの言う通りね。大きい胸が嫌いな人は、ほとんどいないか・・・)それで、どうなの?」

俺は上目使いでブラジャーを持って尋ねてくるお嬢に、心臓をバクバクさせていた。

「大変、宜しいと思いますです」

「試着してみようかな?」

「えっ!(見たい!じゃなかった!これは、誘惑されている?)」

「冗談よ」

「何だ、冗談か・・・って。しまった!」

俺がアリサの方に視線を向けると、彼女は修羅となって立っていた。
その湧き出るオーラは、○斗の拳のシ○を髣髴とさせる。

「胸がなくて、悪かったわね!」

「いてぇーーー!」

俺は店内で、アリサに思いっきり手の甲を抓られて悲鳴をあげていた。

「厚木君も、まだまだ迂闊ね。(でも、藤沢さんが、まだ諦めていなかったなんて意外だったわ)」

「孝一郎君、大丈夫?(今日は、こんなもので良いかな?)」

結局、この件で機嫌が悪くなったアリサを宥めるのに、始業式の前日までかかってしまった事を明記しておく。


(1月7日、学園内大講堂内)

「(グレートミッション)を成功させ、新たな宇宙への可能性を切り開いたこの年に入学した予科生の諸君を含め、この学園の生徒達である君達が、これからの人類を担う人材になる事を期待し・・・・・・」

「ステルヴィア」の新学期の始業式は予定通りに実施され、俺達は織原校長のありがたいお話を聞いていた。
実は、始業式が遅れるという噂もあったのだが、この程度の事で地球圏と「ステルヴィア」が混乱していると思われる事を恐れた上層部の意向で、予定通りの日程になったようだ。
だが、その代わりに、多くの武装した保安部の職員達が「ステルヴィア」の各地に配置され、そこかしこで目を光らせるというあまりありがたくない光景が展開していた。

「保安部の連中は、これをチャンスと見ているようだな」

「チャンスか。我々は地球圏の安全のみならず、全ファウンデーションを監督する立場にあるってやつか?」

「非公式の会議で、宇宙軍の創設を提案した者がいるらしい」

「誰なんだ?それは?」

「ヒュッター教官との話だ」

「あの人がか?意外だな」

「すべからく、危機意識に欠けるそうだ」

「(セカンドウェーブ)という危機が去り、地球の火遊びが好きな連中と、保安部の連中が結託する・・・」

「議会も、(ステルヴィア)が地球圏の盾になるという事で、連中と意見の一致をみているからな」

織原校長の話を聞き流しながら、迅雷とレイラの話は続く。

「それで、保安部の連中は、レイラに何を要請したんだ?」

「実習に、軍事教練を組み込めだそうだ」

「生徒達を、兵士に仕立てあげるのか?」

「向こうはそのつもりだな。要するに、予備兵力扱いして、他のファウンデーションに戦力を誇示したいらしい。先日の対策会議の予備交渉での乱闘騒ぎで、お互いに不信感を募らせているようだ」

先日、「ウルティマ」の事件の対応策を、各ファウンデーションの代表と協議したのだが、部門会議の予備交渉において、「ステルヴィア」の保安部が特権意識を隠しもしないで、他のファウンデーションの不興を買い、更に「オデッセイ」と「エルサント」の参加者が、取っ組み合いの喧嘩をするまでに会議が荒れてしまっていた。

「内輪揉めをしている場合では、ないのだがな・・・」

「うちの保安部の自信の元は、(インフィニティー)と(ビアンカマックス)だ。他の惑星圏はオーバビスマシンの数ばかりでなく、性能でも勝てないという事だな」

「(ビアンカマックス)もか?あれは、完全なカスタムメイドの試作機なんだぞ。戦力には・・・」

「(グレートミッション)で、その存在を隠した事が裏目に出たらしい。地球では、(ケイティー)を上回る新型量産オーバビスマシンを開発中で、その完成時期もそう遠くはないと思われてしまったようだ」

「とにかく、我々は生徒に普通の学園生活を送らせるべく、努力するのみだな」

「そうだな」

2人は話を切り上げて、織原校長の話に集中するのであった。


「おや?しーぽん。おぬし、見慣れぬ胸当てを付けておるな」

新学期初の実習の前に、女子更衣室でアリサがしーぽんの小さな変化に気が付く。

「アリサも、その胸当ては初めて見るね」

「昨日、孝一郎に選ばせたからね」

「ええっーーー!」

 「どこまで進んだのかしら?」

 「厚木君かぁ。いいなぁーーー」

しーぽんは、アリサのドッキリ発言で驚きの声をあげ、他の女生徒達もそれに続いて騒ぎ始める。

「しーぽんこそ、光太のためでしょう」

「私はその・・・。オシャレのためといいますか・・・。買い替えの時期が一致したといいますか・・・」

「しーぽんって、まだ光太君に告白されていないの?」

更にお嬢も、2人の話しに加わってくる。

「光太は、優秀だし顔も良いし優しいけど、ツキがないからね」

「初佳か・・・(どうやら、膠着状態になったみたいね。それが初佳の狙いでもあるんだけど・・・)」

しーぽんと光太の関係は、町田先輩の妨害によって決定打を打ち出せないでいた。

「そういうお嬢は、どうなの?」

「私も、一応は新しい胸当ては買ったわよ。この前、孝一郎君が良いって言ったやつだけど」

「「「ええっーーー!」」」

「藤沢さん、アリサに宣戦布告するのかしら?」

「厚木君、初志貫徹するかしら?」

「あの胸は、反則よね」

お嬢の衝撃発言で、他の女生徒達が再び驚きの声をあげる。

「お嬢、残念だけど、孝一郎は渡さないわよ」

「隙ができると良いのに」

「やよい、ピエールはどうなんだ?」

「どうにもなっていないわよ。晶ちゃんは、ジョジョ君とラブラブなのよね」

今まで話に加わっていなかった晶が、お嬢にピエールとの関係を聞くが、逆にジョジョとの事をみんなに暴露されてしまう。

「やよい!」

「へえ、どこまで進んだのかしら?」

「アリサも、どこまでいったのかしらね?」

結局、4人は他のクラスメイト達に面白い話題を提供しただけであった。


「今日は、厚木孝一郎君に聞きたい事があります!」

「あります!」

「正直に答えてください」

同じく男子更衣室で、俺はピエールと大とジョジョの尋問を受けていた。

「アリサとは、どこまで進んだんだ?」

「言っておくけど、遊園地までとか、そういうお約束のボケはなしでお願いします」

「映画館まで」

「はいはい。ちゃんと、答えてくれよ」

「それで、どうなんだ?」

俺の軽いボケは、ピエールとジョジョに軽くかわされてしまう。

「キスくらいはしただろう?」

「したよ」

「なっ!」

「嘘っ!」

「そんなに驚く事か?」

俺の答えに、ピエールとジョジョは驚きの声をあげる。

「まあ、当然だよな」

「小学生じゃないからな」

「ピエールとジョジョは、どうなんだ?」

「俺っ!?ええと・・・。14歳かな?」

「奇遇だなジョジョ。実は僕もなんだ!」

2人はファーストキスの年齢を14歳だと答えたが、俺は少し怪しいような気がした。

「早いんだな。2人とも」

「まあな。でも、問題はいつするかではなくて、誰とするかなんだけど」

「お嬢とは、その後どうなっているんだ?」

「聞くなよ・・・。変化なしだ」

「ジョジョは?」

「付き合い始めてはいるけどね」

「手を繋ぐので精一杯か・・・」

「悪かったな!」

「光太は、どうなんだ?町田先輩のアタックが物凄いじゃないか」

最近、町田先輩が光太を襲撃する機会が増加していて、俺達のグループで一番馴染みのある先輩になっていた。

「光太が告白すれば、終わる問題なんだよね」

「色々とタイミング等の問題があって・・・」

「大はどうなんだ?」

「昨日、キスされた」

「「「「ええっーーー!」」」」

大の衝撃の告白に、光太を含む全員が驚きの声をあげる。

「昨日って、キタカミさんと?」

確か、大とキタカミさんは、昨日映画に出かけたはずであった。

「映画に行ったんだけど、その帰りにいきなりされた」

「あっそう。それで?」

俺達は、「自分でやれよ」と思ったのだが、鈍すぎる大を見ていると、キタカミさんの暴走も止むなしと考えていた。

「何か、付き合う事になった」

「お前ね・・・。それだけかよ」

「「「・・・・・・」」」

大のあまりの感動の薄さに、光太ですらあきれ返ってしまう。

「それだけだよ」

「お前はきっと、いつのまにか結婚している口だぞ」

「それも、面白そうで良いかもね」

「お前には、誰も勝てないな」

「褒めないでよ。テレるから」

「褒めてないっての!」

大の鈍さは、相変わらずのようであった。


「久しぶりの実習だ。無理をするなよ」

「了解!」

レイラ先生の実習が始まったのだが、俺は数日前から、「ビアンカマックス」の調整を兼ねて自主訓練を重ねていたので、腕が鈍っているという事はなかった。
光太も、新しいDLSの調整やら実験に借り出されたうえに、町田先輩との訓練にも借り出されていたので腕が鈍るわけもなく、しーぽんも町田先輩のけん制を兼ねて訓練に付き合い、かえって腕を上げているくらいであった。

「しーぽんも、上手になったわよね」

「お嬢も、なかなかじゃないの」

「私にも、意地があるからね」

光太も全力ではないが、それなりの実力を見せるようになり、俺、お嬢、しーぽん、光太が実習における予科生のトップ4という事になっていた。
あそこまで有名になってしまった光太が、並みの実力しか見せないでいると、かえって嫌味に見えると俺が忠告をしたからだ。

「あーあ。昔は、しーぽんより俺の方が上手だったのにな」

「そんな時代もあったよね」

「懐かしいな」

「お前らな!」

ジョジョは、大とピエールに抗議の声をあげる。

「光太も、あれで実力を隠しているんだからね」

「孝一郎君も初佳も、圧倒する実力か・・・」

今日の実習は、新学期初という事もあって、慣らし運転程度で無事に終了した。


「アリサ、映画でも見に行こうぜ」

「孝一郎、新しいDLSの適正試験は?」

「明日だよ。今日、用事があるのは光太だ」

放課後の格納庫内で「ビアンカマックス」の整備を終えた俺は、アリサを映画に誘う事にする。

「じゃあ、行きましょう。確か、(ファーストウェーブ)とかいう新作が上映中よ」

「昨日、大とキタカミさんが行ったやつだな」

「あの2人って付き合い始めたの?」

「らしいよ」

「嘘っ!」

「本人がそう言ってるし」

「私も、ナナから聞いた」

他のクラスであるキタカミさんと俺達との接点は少なめだが、意外にも晶とは仲が良いらしく、定期的に会って話をしているようだ。

「大、今日の掃除当番を代わってやるよ」

「別に良いよ。今日は予定もないし」

「代わってくれよ!キタカミさんをデートに誘えよ!」

「彼女も、今日は用事があるんだよ!」

晶と当番をしたいジョジョと、面倒な事は早めに終わらせたい大の下らない争いを見ていると、同じく整備を終えたお嬢が俺達に話しかけてくる。

「孝一郎君、新作の映画を見に行かない?」

「アリサと見に行こうかという事になっていまして・・・」

最近、俺にアタックを再開したお嬢に、俺は少なからず動揺していた。
今のところは、アリサもそれほど気にしていない様子だが、世の中は、何があるのかがわからないのが常であったからだ。

「(ファーストウェーブ)なら、前日にチケットを買わないと席がないわよ」

「本当?」

「だって。人気の映画だし、封切られたばかりだし」

「本当だよ。僕もチケットを持っていたキタカミさんに誘われたから」

幸せ一杯の大が、律儀に聞きもしない事を教えてくれる。

「でもね・・・」

「チケットなら、4枚あるから」

「お嬢は、さすがよね」

俺がどうしようかと迷っていると、アリサは特に怒りもしないで、お嬢と一緒に出かける事に賛同する。

「あと一枚は、誰にする?」

「私が行きます!」

「そうか。光太は、用事があったんだよな」

「光太君なんて知らないもん!」

しーぽんは、勇気を振り絞って光太を映画に誘ったのだが、新型のDLSのテストのせいで、見事に断られてご機嫌斜めであった。

「それじゃあ、みんなで行きますか」

俺は女性3人を連れて、午後の町に遊びに出かける事にした。 


「面白かったな」

「孝一郎君が楽しんでくれて良かったわ」

「しかし、映画館は混んでいたわね」

「新作だから仕方がないよ」

夕方の街角で、4人で映画の感想を話しながら歩いていると、一軒の喫茶店が視界に入って来る。

「私、ここの割引券を持ってるよ。前に来た事があるんだ」

「じゃあ、俺がおごるわ」

「ラッキー!」

「ありがとう」

「わーい。孝一郎君のおごりだ」

「しーぽんは、誰とここに入ったのかな?」

「光太君とだよ」

アリサが思惑ありげに質問するが、しーぽんは特に動揺もしないでアッサリと答える。
どうやら、それほど良い事もなかったらしい。

「へえ、やるではないか。しーぽん」

「町田先輩も、一緒だったけど・・・」

「入りましょうか」

「そうね」

俺とお嬢は、その話題を早めに切り上げて喫茶店に入る事にする。

「嘘っ!」

「どうしたの?お嬢」

「孝一郎君、あれはまずいわよ」

「光太のバカたれが・・・」

店内に入ると、奥の席で噂の光太が蓮先生とお茶を飲んでいた。
幸いにして、お嬢と俺が先に発見したので、何とかしなければならない。

「あれ?みんなで出かけてたの?」

「ああ(お前は、少しは焦れよ)」

光太は俺の気持ちを察する事もなく、視界に入った俺達に気軽に話しかけてくる。

「光太君は、私より蓮先生が良いんだ」

「えっ?」

「だって、映画に付き合ってくれないで、こんなところで茶を飲んでいるし・・・」

「だって、あの映画は事前にチケットを取らないと・・・」

「(運がないよな。光太って・・・)」

「私をお茶に誘わないでも、蓮先生とは付き合うんだね・・・」

「(事実だけど・・・)しーぽん、ほら、新しいDLSの事について話しているんだよ。きっと」

俺は、咄嗟に光太のフォローに入る。
多分、光太も蓮先生に翻弄されているだけだと思ったからだ。

「そうよ。きっと、孝一郎の言う通りよ」

「そうですよね?蓮先生」

「私達って、恋人同士に見えない?」

俺達の願いも空しく、蓮先生の答えは相変わらずのものであった。

「もう、光太君なんて知らないもん!」

「あっ!しーぽん!」

「志麻ちゃん!」

しーぽんは、怒りながら店を駆け足で飛び出してしまう。
せっかく、地球に帰省した時に仲良くなれたのに、これで、全てがご破算になってしまった事になる。

「しーぽん、足が速いわね」

「最近、自主トレーニングもしてたから」

「音山君、追いかけないで良いの?」

「待って!志麻ちゃん!」

光太は蓮先生の言葉で、通常では考えられないほどの速さでしーぽんを追いかけ始める。

「テストは、6時からよ!」

「蓮先生も、悪女ですね」

「本当に、まどろっこしいんだから。(雨降って地固まる)よ」

「本当ですか?」

しーぽんと光太が去った喫茶店内で、俺達も注文を取ってから蓮先生と話を始める。

「本当よ。音山君も君も、もう5歳年が上ならね」

「大人の蓮先生には、光太や俺はお子ちゃま過ぎですかね?」

「今から、育てるという手もあるけどね」

蓮先生の一言で、アリサとお嬢の機嫌が急降下して、表情にありありと表れ始める。

「嘘よ。でも、捨てがたい事も確かよね」

「蓮先生!犯罪ですよ!」

「そうですよ!」

「お互いの合意があれば良いと思うのよ」

「孝一郎は、駄目です!他の人を探してください!」

「私も反対です!」

「藤沢さんが、どうして反対なの?」

「えっと・・・。それは・・・」

夕方の喫茶店内で、俺達は大人の蓮先生に翻弄されっ放しだった。
ちなみに、光太としーぽんは仲直りには成功したようだが、告白までには至らず、俺達は無意味にヤキモキし続けるのであった。


「では、始めるよ。厚木君」

「了解です」

翌日の午後、俺は新しいDLSの適正を調べるためのテストを、「インフィニティー」が置かれた格納庫内で実施していた。

「どうかね?最初は、レベルを最低にしてあるのだが」

この計画の責任者であるリチャード主任教授の声に従ってゴーグルをはめると、お馴染みのDLSよりも複雑なモデルが視界に飛び込んでくる。

「普通のDLSよりも複雑ですね」

「うーん。音山君は、それほど変わりはないと言っていたのだが・・・」

「光太と私を比べないでくださいよ」

「君も、捨てたものではないと思っているよ。では、次のレベルを」

それから、次々とレベルが上がって行くのだが、段々と自分の手に負えなくなってくる。
正直、モデルを見ているだけで気分が悪くなってきた。

「基本レベルまでは何とか大丈夫で、応用レベルでは手に負えないのか。可能性はありと判断する。定期的に訓練に参加してくれないかな?」

「他に該当者はいないのですか?」

「この新型DLSを完璧に使いこなせそうなのは、今のところ音山君だけだね。その他の候補者で、一番可能性がありそうなのは君なんだが、情報処理能力の点でいくと、音山君のぺアは片瀬君の方が適している事になるわけだ」

「私が、(インフィー)の予備パイロットという事ですか?」

「そういう事になるね。それと、これはオフレコだが、(ビアンカマックス)に更に改良を加える話もあるんだ。可能なら、新しいDLSも搭載する事も検討されている」

「わかりました」

結局、俺は新型DLSシステムを搭載した「インフィー」の予備パイロットに任命されて、定期的に訓練を受ける事になるのであった。


(3日後、宇宙学園「1−B」教室内)

「しーぽん!光太!孝一郎!大変な事になっているぞ!」

朝の始業前に教室でみんなと話をしていると、珍しく大が勢い良く駆け込んでくる。

「何が?」

「大ちゃん、何かあったの?」

「とにかく、掲示板の前まで来てくれよ!」

珍しく慌てている大の先導で掲示板の前に行くと、そこには墨書きで「ウルティマ」への遠征に参加する生徒の名前が書かれていた。

「(ビック4)はわかるけど、御剣先輩と俺としーぽんと光太もなのか?」

現時点での情勢を説明すると、「ウルティマ」では謎の領宙侵犯機との発砲事件があったばかりであり、他の「ステルヴィア」を除くほとんどのファウンデーションでも、事件との関連性を疑われている未確認飛行物体が、「グレートミッション」の直後くらいから度々目撃されていた。
そのため、「ステルヴィア」の除く全ファウンデーションでは、学生までを動員してその警戒に当たっていて、「ステルヴィア」でも、保安部に所属する「ケイティー」が武装を施して、定期的に各宙域をパトロールする光景が、俺達の目にも入っていた。

「(インフィニティー)と(ビアンカマックス)も動員するからさ。御剣君は、専属の整備要員という事だね」

「大変な事になったよね」

「(ウルティマ)までの大遠征よ」

「ケント先輩!それと、町田先輩もですか・・・」

掲示板を見ている俺達が見越したかのように、ケント先輩と町田先輩が、後から声をかけてくる。

「ちょっと、時間が取れないかな?こちらで手に入れた情報を教えよう」

「すいませんね」

「なあに。同じく選抜された同士としては当たり前さ」

「すいません。僕は、新型のDLSのテストが入っていまして・・・」

「音山君は、あとで厚木君に聞くと良いよ」

「すいません。では」

「光太君、またね」

新型のDLSのテストに行く光太に、ケント先輩の後ろにいた町田先輩が明るく声をかけ、しーぽんの機嫌が微妙に降下するという、いつもの光景が展開される。

「じゃあ、XECAFEにでも・・・」

自分の仲間の変貌振りに多少顔を引きつらせたケント先輩の案内でXECAFEに向かうと、そこには既に笙人先輩とナジマ先輩と御剣先輩が待ち受けていた。

「どうも」

「厚木君、またパーツを追加するからね」

「またですか?」

「ケント先輩の命令だから」

「親父の命令で、新型のビーム砲を装着するんだよ。その他にも、初期に装着したパーツを新しい物に変えたりとか色々とね」

ケント先輩の説明によると、「ビアンカマックス」は更に元の「ビアンカ」からは遠ざかったものになるらしい。
そして、新しいビーム砲も装着される事になっていた。

「新型のビーム砲は、前のやつに比べると威力はだいぶ落ちるけど、従来のよりは上で、更に、かなりの連射が可能なようになっている」

ケント先輩の話の意図を探ると、緊急時にそのビーム砲を撃つ相手というのは、他のファウンデーションのオーバビスマシンという事になるのであろう。
それならば、相手は巨大な隕石ではないので、連射が利くようになっていて、多数の敵を撃破できる方が役に立つはずだ。

「(ウルティマ)って、そんなにヤバイんですか?」

「実は、(ウルティマ)のほとんどの民間人が、(ステルヴィア)に避難する事になったんだ。僕達はそれを迎えに行く事と、帰路の護衛任務を行う事になった。昨日も、(ウルティマ)の保安部員が、未確認飛行物体に向けて威嚇射撃を行ったらしい」

「つまりは、一触即発という事ですね」

「風祭君も、(ウルティマ)に着いた早々で悪いが、すぐにとんぼ返りだね」

「ステルヴィア」から「ウルティマ」までの距離が40日なので、りんなちゃんの到着は、来月の4〜5日頃であったはずで、我々が17日に出発する予定なので、2月の末には「ウルティマ」に到着する予定だ。
つまり、りんなちゃんは1月も「ウルティマ」にいられない事になる。

「今から、呼び戻せば良いのに・・・」

「おいおい。君らしくもない。宇宙船のエネルギーと整備・補給等の問題があるから、1度は(ウルティマ)に帰港しなければならないんだよ。それに、この非常事態に丸裸の宇宙船を単独で航行させられないさ。(ウルティマ)の保安部隊に余裕がない以上、我々が迎えに行かねば、避難する人達は動けないのさ」

「わかりました。光太にも、状況を伝えておきます」

「頼む。君も、出発準備の方を頼むよ。何しろ、往復80日間の長旅になるのだから」

「学園の授業や実習の方はどうなるんですかね?留年は勘弁して欲しいな」

「それについては、特別処置が取られるそうだ。遠征隊のメンバーには、数人の教官が混じっているし、遠征隊の指揮官は迅雷先生なんだ。それに、本職の(ケイティー)部隊も多数参加するから、授業や実習よりも高レベルの訓練が施される事になると思うよ」

「うへーーー。そいつはどうも」

「厚木君の(ビアンカマックス)に興味のある御仁は多いそうだから、頑張ってくれよ」

ケント先輩の話は終了し、俺は「ウルティマ」へと出発する準備に取りかかり始めるのであった。


(1月16日夜、学生寮の自室内)

「出かける前から疲れてしまった」

「色々と大変だったもんね」

「ウルティマ」遠征への参加を伝えられてからの俺は、多忙を極めていた。
通常の授業と実習に加え、新型DLSの訓練や、御剣先輩とオースチン財団の技術者達が改良を加えた、「ビアンカマックス」の起動テストやプログラム設定の打ち合わせなど、休日を返上してやっていたのだ。
特に、新型DLSについては、光太がいないと話にならない部分が多かったらしく、頻繁に呼び出しを受けている様子であった。
そんなわけで、忙しい日々を送っていた俺達は、昨日のうちに仲間内での送別会を終わらせて、今日はアリサと2人きりで食事をしていた。

「光太は(インフィー)の件に加え、新型のDLSのテストがあるからもっと大変だ」

「孝一郎も、(ビアンカマックス)の件で大変だったから」

「すまないね。色々と手伝って貰って」

「私には、これくらいしかできないから」

アリサも時間を見ては、「ビアンカマックス」の整備などを手伝ってくれていた。
その過程で、御剣先輩に整備の才能があるといわれたアリサは、真剣に整備科への変更を検討しているようだ。

「でも、80日は長いよな」

「ちゃんと、電話を寄越すのよ」

「離れれば離れるほど、時間がかかる電話か・・・」

俺の心中は複雑であった。
光太としーぽんは一緒だから良いし、町田先輩にも不満はないだろう。
だが、俺は3ヶ月近くもようやく付き合い始めたアリサと離れ離れになるのだ。
これほど辛い事はないと思う。

「必ず帰ってきてね」

「大丈夫だって。戦争じゃないんだから」

「でも、色々とニュースでも言っているし・・・・・・」

「大丈夫だ。俺は運が強いからな。だから、ゴールドメダリストにもなれたんだし」

「うん、わかった。安心して待ってる」

「浮気はしないと思うよ」

参加メンバーを見渡しても、特に危険な人物は存在しないと思われる。 

「蓮先生は?」

「蓮先生は、俺をからかっているだけだから」

「そうかしら?」

「年齢的に釣り合わないって」

アリサには、多少の疑問が残っているようだが、俺に全くその気がないと言って納得させる事に成功した。

「じゃあ、これからは恋人同士の時間を・・・」

「そうね・・・」

ここの所、邪魔されっ放しの俺はアリサを抱き寄せると、「今度こそは!」と思いながら、唇を重ねようとする。

「ピンポーン!」

「こんちくしょう!」

俺が内心激怒しながら玄関のドアを開けると、そこには、紙袋を持ったお嬢が立っていた。

「どうしたの?お嬢」

「みんなからのお餞別を持ってきたの。明日は、お別れの挨拶だけにした方が良いでしょうから」

「まあ、それはそうなんですけどね・・・」

「私、邪魔だった?」

「そんな事はないよ」

俺は、お嬢の申し訳なさそうな縋るような表情に何も言えなくなってしまう。

「じゃあ、お邪魔します」

「へっ?」

だが、その直後に瞬時に笑顔に変わり、俺はお嬢に謀られた事を悟るのであった。

「(アリサ、悪いけど、邪魔させて貰うわよ。孝一郎君が帰ってくるまで勝負はお預けよ)」

翌日、旗艦「ガガーリン5号」以下3隻の高速貨物船からなる、「ウルティマ」遠征艦隊は出発した。
総司令は白銀迅雷先生で、オーバビス隊の指揮を「グレートミッション」の時に活躍したスピアーズ隊長が執り、医療部を蓮先生が統括する事となった。
同時に、「オデッセイ」からも「クラーク」を旗艦とする艦隊が出発する予定となっており、「ウルティマ」への襲撃を端とする事件は、太陽系中を巻き込んでいた。
そして後日、俺達が大きな事件に巻き込まれる事を知る者は、現時点では1人も存在しなかった。


        
           あとがき

公式ページとか、設定が書いてあるページを探っているんですけど、後半の日にちの流れが、いまいちわかり難いですね。
公式では、始業式が二ヶ月遅れだから3月のなんだけど、往復80日のウルティマ遠征から帰ってきてから、ジェネシスミッションまでが残り2ヵ月で・・・。
微妙に日数が足りないような・・・。
なので、かなり適当に書いていますので、そこのところをお願いします。

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