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「宇宙への道第12話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-11-15 23:18/2006-11-18 09:56)
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(12月27日、「ステルヴィア」自室内)

「孝一郎は、日本に帰るんでしょう?」

「まあね。正確には、光太のところに厄介になるんだけど」

宇宙学園では、昨日から冬休みが始まり、俺は家族の元へ帰るための荷造りに余念が無かった。

「どうして?」

「しーぽんと光太もそうなんだけど、俺も日本では色々と追われる立場なんでね。光太のお姉さんの陽子さんが、正月中は家族で家にどうぞと言ってくれたんだ」

「ふーん。でも、孝一郎の功績は秘密なんでしょう?」

「(ビアンカマックス)の事は秘密だけど、(グレートミッション)に参加した事実は隠せなかったみたい。それに、金メダルを取ってまだ半年も経っていない俺が、見事な転身を遂げた事に興味がある人が多いそうだ。父さんと母さんが、対応に苦慮しているって言ってた」

「何で?」

「取材がどうだの、このイベントに出てくれないかとか、このテレビ番組に出てくれないかとか、そういう依頼の電話が多いんだってさ」

「ふーん」

俺としては、もう過ぎた事なので放置して欲しいのだが、世間ではそうはいかないようだ。

「そこで、無人島で天文所を営む光太の家で正月を過ごすわけだ」

「なるほどね」

実は「グレートミッション」終了後から、家族と帰省の相談をしていたのだが、普通に実家に帰ると大変な事になってしまうとの事で、どうしようかと悩んでいたところに、陽子さんが助け舟を出してくれたらしい。
あの天文所は、太陽系連盟の補助を受けている半公共施設なので、太陽系連盟に許可を受けないと取材に行けないし、太陽系連盟も事情を察してくれて、許可を出さないようにしてくれるそうだ。

「ところで、アリサはどうするんだ?」

「この前話した通りだから、私は帰らないわよ」

「そうか」

アリサは幼い頃に両親を事故で無くし、妹さんもその時に重症を負って体の4割が人口臓器や義肢にするほどの重傷を負ったと聞いていた。
この時代の義肢はなかり進歩していて、定期的なメンテナンスを行っていれば、健常者と変わらない生活を送れたのだが、両親を亡くした事と合わせても、小さい子供には衝撃的な事件だったであろう。
だが、アリサはそんな事を微塵も感じさせない明るさを持っていて、妹の宇宙に上がるという夢を適えるために、「ステルヴィア」から支給された「フジヤマ」のチケットもお金に変えてしまったそうだ。

「俺も、帰るのを止めようかな」

「それは駄目よ。ご両親が心配するでしょう」

「それもそうだよな。じゃあ、これを貰ってくれないか」

俺は、用意していた小さな封筒をアリサに手渡した。

「クリスマスは終わったわよ。何かしらね」

アリサが封筒の中身を開けると、中から「フジヤマ」のチケットが出てくる。

「これって・・・・・・」

「うちの両親に会ってくれよ。俺の我侭だから、交通費は俺が出す」

「でも、こんな高い物を・・・」

宇宙に上がる事が、昔よりも大分簡単になった今でも、「フジヤマ」を含めた宇宙船のチケットは、かなりの高額であった。
少なくとも十代の学生が簡単に出せる金額の代物では無かった。
だから、アリサもお金に変えて妹の学費に当てようとしたのだろう。

「そのくらいのお金なら、俺も持ってるから」

「どうして?」

「日本行政区とスポンサーから功労金が出ていて、この前、カードの残高を見たら振り込まれていたんだ」

「オリンピックに賞金なんて出るの?」

「アメリカなんて賞金は無いけど、大量のスポンサーが付いて億万長者になれるじゃないの」

「確かにそうよね。陸上の選手なんて、自家用の重力船とかを持ってるいし」

この時代のアメリカの有名ゴールドメダリストは、昔より更に大量のスポンサーが付いて、年に何十億円も稼ぐ選手がかなりいた。
俺はそこまではいかなかったが、電話で両親に言われてカードの残高を見たら、0が7つほど付く金額が振り込まれていて、どうやって使おうかと真剣に悩んだりもしたのだ。
人間が持ちなれない金を持つという事は、意外と大変な事らしい。

「俺が個人的な理由で誘っているんだから、気にしないで招待を受けてくれ。それに・・・・・・」

「それに?」
 
「ナスカの宇宙港から(ステルヴィア)に上がる時に、母さんは(彼女ができたら休みに連れて来なさいと)と言っていたからね。だけど、父さんのあの言葉だけは許せない」

「えっ?」

「(無理だろうけど)と抜かしやがったんだ!俺はこの屈辱を忘れない!アリサを目の前で見せて、度肝を抜いてやるぜ!」

「孝一郎、ありがとう」

アリサは、自分が気を使わないように俺がこんな事を言っていると思っているようだが、そんな事はなく俺は自分の欲のためだけに動いていた。

「準備した方が良くない?明日だよ」

「すぐに準備するわ」

「おっと、その前に」

俺は、クリスマスの時に光太に邪魔をされてできなかった事をしようとする。

「孝一郎・・・・・・」

「ピンポーン!」

「はいはい。ちょっと待ってね」

「ピンポーン!」

「孝一郎、早く出た方が良いわよ」

「ちくしょう!またかよ!」

俺は連続して鳴るチャイムを無視して、アリサと唇を合わせようとするのだが、アリサに早く出た方が良いと言われたので、仕方なくそう

する事にする。

「何ですか・・・」

俺が不機嫌そうに玄関に移動してからドアを開けると、そこには町田先輩が立っていた。

「厚木君、光太君を見なかった?」

「それを、俺に聞きに来るんですか?」

「隣の自室にいなかったから。一緒に訓練をしようと思って」

「光太も、明日には出発ですよ。色々と他で準備をしていると思いますけど・・・」

あの衝撃のクリスマスパーティーの翌日、りんなちゃんは、不機嫌そうな表情で「ウルティマ」に旅立ち、町田先輩は光太と無理矢理に腕

を組みながら、満面の笑みで彼女を送り出していた。
勿論、その反対側ではしーぽんも光太と腕を組んでいたのだが、町田先輩はそんな事すら気にならないようだ。
その後、町田先輩は光太を自主訓練に誘い、しーぽんもそれに付き合い、俺も緩衝材のような役割を期待されて光太としーぽんに引っ張ら

れて、休み初日から無駄に疲労していた。
正直に言って、この件は優柔不断な光太が一番悪いので、俺は巻き込まれている事に理不尽さを感じていたのだ。

「部屋にもいないのよ」

「そうですか・・・。(絶対に逃げたな)町田先輩は、帰る準備はしないのですか?」

「私は今回は残留なの」

理由はよくわからなかったが、詮索するのもどうかと思ったので、特に質問等はしない事にする。
 
「そうですか」

「ありがとう。他を探すわね。それと・・・」

「それと?」

「続きをしても良いわよ」

町田先輩は、部屋の奥にいるアリサを見てから意地悪そうな笑みを浮かべる。

 「はあ・・・・・・。(ムカツクな!この女)」

結局、アリサはそのまま帰ってしまい、俺はまたチャンスを逃してしまうのであった。


(12月28日、「フジヤマ」艦内)

「というわけで、昨日はまた邪魔をされてしまった」

「孝一郎も、ツイてないよな」

「そういうジョジョは、どうなんだよ?」

「俺達は、付き合い始めたばかりだから・・・」

「それは、俺もそうなんだけどね」

「大はどうなんだ?」

「えっ?僕?僕が何で?」

「マジかよ・・・」

「キタカミさんも可哀想に・・・」

翌日、「フジヤマ」は無事に「ステルヴィア」を出発し、席が近かった男性陣達は、女性談義に花を咲かせていた。

「孝一郎とアリサは何となくわかるけど、ジョジョが晶とは意外だったよな」

「意外は余計だ!」

大の失礼な物言いに、ジョジョが抗議の声をあげる。
 
「そうか?俺は何となくわかってたけど」
 
「どうして?」

「ああいうクールな子には、ジョジョのようなタイプが向いている。それに、ジョジョはマメだからな」

俺は、目の前の美少女の好意に全く気が付いていない大に、丁寧にジョジョ良いところの説明をする。
栢山さんは綺麗ではあったが、とっつき難い部分あって、ほとんどの男子が必要以上の会話をしなかったのだが、ジョジョだけは、例え返事が返って来なくてもマメに話しかけ続けていて、その積み重ねが今の勝利を生んでいたのだ。
一方、大はあれだけの情報収集能力を誇っていながら、一生懸命アプローチをかけているキタカミさんの事を、本当に友達だと思っていた。
その鈍さに、俺達は呆れつつもある意味感心していた。

「まあ、大はどうでもいいけど、ピエールはどうするんだ?」

俺は、今までに一言も発していないピエールに話をふってみる。
すると、彼は持っていたドリンクを一気に飲み干して席を立ち上がった。

「やよいさんと話をしてくる」

「おおーーー!」

「頑張ってね」

「玉砕覚悟か」

それぞれが勝手な感想を言う中、ピエールは1人お嬢の元へ向かって歩いて行く。

「そして最後に、どんよりとしている光太君。元気ですか?」

俺は色々と心労が溜まり、ボーっとしたままで携帯プレイヤーで音楽を聴いている光太に話しかける事にする。

「光太は、あの町田先輩を落としたからね。学園一のプレーボーイって評判だよ」 

「その情報って本当か?大」
 
「僅か2日で爆発的に広がったようだね。だって、学園関係者でクリスマスパーティーに参加してない人の方が少ないんだから」

「確かに言えてるな」

しーぽんにだけ告白できれば良いと考えている光太にとって、あの事件は大きな打撃であった。
公の席で町田先輩にキスをされ、その件で更に2人の少女と口喧嘩になってしまったのだ。
恋愛には不慣れな町田先輩があんな事をするとは誰も思わなかったが、不慣れなゆえにあんな事をしたとも考えられ、更に光太も、「年下から年上まで、苦手なエリアが存在しないプレイボーイ」という評価をされる羽目になっていた。

「世の中って上手くいかないよね」

ここ数日の内に色々な事が起こり過ぎた光太は、1人ため息混じりの小さな声で呟いていた。

「そうか?(僕は志麻が好きなんだ!付き合ってくれ!)」

「(嬉しいわ。光太君)」

「(志麻!)」

「(光太君!)」
 
「そうそう。そんな感じで良いよね」

俺とジョジョが、お互いに光太としーぽんに扮して抱き合うというくさい小芝居を演じると、大が手放しで褒めてくれる。

「それができないから、困っているんじゃないか」

光太はこれまでの人生で、あまり自分の我を通す事をしてこなかったらしく、周りの事を考えすぎて積極的に動けないらしい。

「陽子さんに、女性の扱いは上手いって聞いたけどね」

「僕はホストじゃないんだけど・・・」

「陽子さんって誰だ?」

「光太のお姉さん」

「でも、当たってるよね。3人の女性を手玉にとってるから」

「そうか?」

俺は、大の意見に思わず異議を唱えてしまう。
あれは、どちらかと言うと光太の方が手玉に取られていたからだ。

「みんな、怒るよ」

俺達の会話を聞いた光太の表情が、急速に悪化し始める。

「ははは。まあ、自由に動けるんだから、しーぽんを誘って話でもしてきたら?俺はアリサの元に行くとするか」

「俺は晶を誘うかな」

「いつの間に、晶と名前で呼ぶようになった?」

「孝一郎は、始めからアリサって呼んでいたじゃないか」

「みんな、始めからそうじゃないか」

アリサは始めからフレンドリーにアリサと呼んでくれと言っていたが、栢山さんを名前で呼び捨てにできるのは、現時点では女子を除けばジョジョくらいであろう。  

「無駄話はそれくらいにして、俺はアリサの元に行くよ」

「おっと、俺も急がないと」

俺とジョジョがそれぞれの彼女の元に行こうとすると、急に女性の話しかける声が聞こえてくる。

「小田原君、お茶でも飲みに行こう」

「そうだね。僕はビックパフェが食べたいな」

「行こうよ」

「うん」

大に声を掛けたのはキタカミさんであり、彼女は大の腕を引きながら、喫茶ルームに向かって歩きだした。

「あそこまで積極的なのに、大は本当に気が付いていないのかな?」

「ジョジョがそう思うのも仕方がないけど、事実だ」

「大って、実はホモ?」

「あの子、可愛いのにな」

「よし!僕も片瀬さんを誘って話をするぞ!」

俺とジョジョが大の鈍さを再確認していると、それまで、1人きりの世界を形成して蚊帳の外にいた光太が、急に大きな声をあげる。

「光太!急にビックリするだろうが!」

「そうだ!僕の家に遊びに来るように誘えば良いんだ!」

「俺は無視かよ」

光太は、俺達の声など聞こえないかのように1人で勝手に盛り上がっていて、周囲の人に変な目で見られていた。

「ジョジョ、同類扱いされるから行こうぜ」

「そうだな」

「よーし!チャンスを生かすぞ!」

俺とジョジョが去ったあとも、無意味に1人で気合を入れていた。


「それで、置いて来たの?」

「たまにやる気を出すとアレだ。人は慣れない事をするもんじゃないね」

俺とアリサは、ラウンジでお茶を飲みながら、急に変になった光太の話をしていた。

「でも、上手くいってるみたいよ」

「みたいだな」

ラウンジの窓側の席では、光太としーぽんが何かを楽しそうに話していた。
始めは2人きりになろうとした俺達であったが、「フジヤマ」がそこまで広いはずも無く、俺達の周りは、顔見知りばかりであった。

「やれやれ。せっかく別れたのに、みんないるし・・・」

少し離れたテーブルには、他にもジョジョと晶や大とキタカミさんといった、見慣れた連中が見える。
 
「あれで、上手くいかないなんて不思議だよな」

2人きりで楽しそうに話している光太としーぽんは、誰が見ても恋人同士に見えるのだが、実際には2人は正式には付き合っていなかった。
多分、お互いに好意はあるのだが、お邪魔要素が強すぎるのであろう。

「りんなはともかく、町田先輩の参戦は痛いんじゃないの?」

「誰も想像しなかった出来事だからな」

「でも、今は町田先輩もいないし、絶好のチャンスよね」

「あくまでも生かせたらの話だな」

俺は、光太の過去の行動パターンを思い出しながら、冷静に答える。
天才である光太に唯一不足していたものは、思い切りの良さと運であった。


「まもなく着陸したします。ただ今、高度2万メートルです」

「フジヤマ」の艦内に、着陸態勢に入る旨のアナウンスが入り、アリサと自由時間を楽しんだ俺達は、自分の席に戻って着陸に備える事にする。

「光太、どうだった?」

「夜は家に戻るけど、昼の間は招待を受けるってさ」

自分の席に座ってから、光太に先ほどの成果を聞くと、しーぽんを無事に家に誘う事に成功していた光太は、満面の笑顔を浮かべていた。
 
「それは良かったな。それとピエールは、どうだった?」

「色々と話したけど、見事にふられてしまったよ。笑顔で断られてしまった」

「その割には元気そうだな」

「まあね。試合に負けて勝負に勝っという感じかな?それに、孝一郎にふられたばかりだから、今はそういう事を考えられないそうだ。他に恋人がいるわけでもないし、まだ勝負は付いていないさ」

「ピエールは、しっかりしてるよな」

ピエールは、勇気を振り絞ってお嬢に告白したらしいが、お嬢が俺にふられたのはつい最近の事だったので、見事に断られてしまったようだ。

「あとは・・・。大はどうだったんだ?」

「やっぱり、(フジヤマ)のビックパフェは美味しいよね」

「駄目だこりゃ・・・」

みんなは、キタカミさんとの事を聞きたかったのだが、大のあまりな的外れな答えに、全員が呆れたような表情をしている。

「そういう孝一郎はどうなの?」

「俺?俺は普通だけど」

逆に大にアリサとの事を聞かれるのだが、普通なので普通としか答えようがなかった。

「孝一郎とジョジョに、何かを聞いても空しくなるだけだぞ。大」

「そうかもね」

「大、お前がそれを言うか?」

ピエールは、大の鈍さを再確認していた。


ちょうど同じ頃、女性陣も座席を安全バーに固定された状態で話をしていた。

「アリサはいいなーーー。孝一郎君に招待されているし、ご両親とも会うんでしょう?このままお嫁さんモード?」

「しーぽんは、何を言ってるんだか。あなたも光太に誘われているんでしょう?お姉さんにアピールして、りんなと町田先輩を引き離しなさいよ」

「私はその・・・」

「孝一郎が言ってたけど、あの2人に遠慮・謙虚は勝負を落とす元だってさ」

「よーし!頑張るぞ!」

アリサのアドバイスで、しーぽんは無駄な気合を入れ始める。
 
「それでさ。晶はどうなの?」

「えっ!私はその・・・」

次に、アリサに恋愛の事を聞かれた晶は、言葉を詰まらせて下を向いてしまう。
 
「晶ちゃんは、ジョジョ君とラブラブなのよね」

「やよい!」

お嬢に事実を指摘された晶は、顔を真っ赤に染めながら抗議の声をあげる。

「おーーーっ!孝一郎の言う通りだ」

「別に隠さなくて良いじゃないの。晶ちゃん」

「今日の晶ちゃん、可愛いなーーー」

アリサ、お嬢、しーぽんに立て続けに言われて晶は、顔を更に赤く染めている。

「お嬢は、ピエールだっけ?」

「あいつ軽そうに見えて、やよいにはマジっぽいじゃん」

今度はお嬢が話題の中心になり、先ほどの逆襲とばかりに、晶もストレートな質問をぶつけている。   
 
 「ピエール君も、もう少し頼りがいがあればね・・・」

 「厚木には、負けるか・・・。顔はピエールの方が良いけど」

「じゃあ、晶ちゃんは、ピエール君と孝一郎君の2人から選ぶとしたらどちらを選ぶ?」

「・・・・・・。厚木かな?」

「アリサとしーぽんには、聞くまでもないかな。でも、私は暫くはそういう事は封印よ。勿論、アリサと孝一郎君が破局したら、一気に勝負をかけるけど」

「残念ながら、今のところはそれはないわ」

「うーん。残念」

そんな話をしているうちに、「フジヤマ」は、無事にナスカ宇宙港に到着したのであった。


「そういえば聞いてなかったけど、誰か迎えには来ないの?」

「うちの両親は光太の家で待ってるけど、他のお客さんがいるから」

「他の?」

「あっ!来た来た。おーい!こっちだよ」

ナスカ宇宙港に到着した俺達を、アリサには予想外の、俺には想定内の人物が待ち構えていた。
俺は、アリサに内緒で呼んでいたゲストの姿を見つけ、手招きで呼び寄せる。

「ミア!」

「お姉ちゃん、久しぶり。はじめまして。厚木さん」

「前は電話だったから、直接会うのは初めてだね」

「はい」

「どうして、ミアがここにいるの?」

「厚木さんが数日前に電話をくれて、お姉ちゃんを招待するから、私も来ないかって誘われたの」

「孝一郎、よくミアの連絡先を調べたわね」

「ケント先輩に調べて貰った。それと、普通は最初に(ありがとう。孝一郎)って感じで抱きつくと思う」
 
「そんな、恥ずかしい事はしないわよ」

「俺、頑張ったのに・・・」

「厚木さん、お姉ちゃんが駄目なら私がいますから」

「ミア!孝一郎は私の物だから、これだけは駄目!」

だそうですよ。厚木さん」

「それは良かった。じゃあ、空港に行くとしますか」

事前にケント先輩から、しーぽんと光太は、大勢の野次馬が押し寄せて大変な事になるから別行動と聞かされていたので、予約していた航空機に搭乗すべく、3人で隣の空港に向かう事にする。

「厚木君、ちょっといいかな?」

「どうしました?ケント先輩」

3人で空港への通路を歩いていると、急にケント先輩に呼び止められてしまう。

「実は急で悪いんだけど、君も片瀬君や音山君と一緒に行動して貰いたいんだ」

「どうしてですか?」

「君の事を熱心に探しているマスコミの連中が、予想以上に多い。片瀬君と音山君の事もあって、宇宙港の外は日本のマスコミだらけなんだ。彼らは君も目当てらしいから、そのまま出ると大変な事になってしまう」

「俺なんて、終わった人間なのに・・・」

「君がそう思っても、世間はそう感じていないのさ。だから、こっちに来てくれ」

ケント先輩の誘導で空港の裏口に移動すると、そこには専用機が待機していて、しーぽんと光太と他に、先ほど別れたばかりのお嬢、ピエール、大が待ち構えていた。
 
「あれ?ジョジョと栢山さんは?」

「ちょっと、頼みごとをしていてね。片瀬君と音山君を逃がすための囮になって貰っているんだ」

俺達をここまで案内してくれたケント先輩が、軽く事情を説明してくれる。

「わざわざ、すみませんね」

「ジョジョと晶ちゃんは、大丈夫なんですか?」

自分達の代わりに2人が囮をしているという話を聞いたしーぽんが、ケント先輩に心配そうに尋ねている。

「大丈夫さ。偽者と気が付けば追跡は止むし、最悪でも笙人が付いているから」

「僕達だけに、専用機なんて申し訳ないです」

「音山君、君と片瀬君は、地球圏を救った英雄なんだよ。この位は当たり前さ」

「俺は、オマケですけどね」

「厚木君も我が家の都合で情報は伏せられているけど、その功績は大きいし、何しろ元の経歴のせいで、周りが大騒ぎしているからね。こうした方が、大きな騒ぎにならないのさ」

「私とミアは、オマケのオマケって事で」

「君と厚木君を離してしまったら、彼の機嫌が悪くなるからね」

「ところで、その子は誰?」

大の指摘で、全員の視線が一斉にミアちゃんに向いた。

「アリサ・グレンノースの妹のミア・グレンノースです」

「「「しーぽんに似てるよね」」」

ミアちゃんが自己紹介をすると、大、ピエール、お嬢が一斉に声をあげる。

「アリサとは違って、大人し目で可愛いな」

「ピエール!あとで覚えてなさい!」

「僕は、事実を述べただけさ」

ピエールは、余計な事を言ってアリサに怒られていた。
 
「私に似てるかな?」

「雰囲気が良く似てるな」

「本当だね。志麻ちゃんにそっくりだ」

「世の中には、似ている人が3人いるというけど・・・」

しーぽんは半信半疑であったが、俺ばかりでなく、光太とお嬢も賛同すると、納得したようであった。
当事者の反応は、得てしてこんなものである。

「せっかくのところを悪いけど、そろそろ時間だから、積もる話は機内で頼むよ」

「了解です。じゃあ、みんな良いお年を」

「ジョジョと栢山さんにもよろしく」

「じゃあね」

「新年に(ステルヴィア)で」

そろそろ専用機の出発時間との事で、俺達はみんなに別れの挨拶を述べる。

「孝一郎君、また(ステルヴィア)で会いましょう」

「そうだね。じゃあ、また」

「その前に、(フジヤマ)で会えるかもしれないけどね」

みんなと別れた俺達は専用機に乗り、新成田国際空港までの時間を色々な話をしながら時間を過ごすのであった。


(二時間後、新成田国際空港内関係者専用出口前)

この時代の旅客機は大きな進歩を遂げ、地球上のどの場所でも3時間以内に到着する事ができ、コストも大幅に削減されていた。
数百年前の東京から北海道や沖縄に行くような感覚で海外に行き、海外旅行に行くような感覚で宇宙に旅行をする時代であった。

「おーーーい。やっほーーー」

「あの子は?」

「私の弟の真人」

空港に到着した俺達は、空港職員の配慮で関係者用の裏口に案内されていて、そこでは、しーぽんの弟の真人君が待ち構えていた。

「いつも姉がお世話になっています。弟の片瀬真人です」

「音山光太です」

「アリサ・グレンノースです」

「ミア・グレンノースです」

「厚木孝一郎です」

「すげえ!本当に有名人がいる!」

「俺が?」

「姉と音山さんは、今日本で一番の有名人ですし、厚木さんは2人の親友で、予科生ながらも(グレートミッション)に参加した有名人ですから」

「ふーん。そうなんだ」

「ここのところ、毎日テレビでやってますよ。ところで、姉ちゃん綺麗になったかな?姉を女に変えたのは、宇宙の神秘かあるいは・・・。男?」 
 
「真人!」

真人君の確信を突いた追求に、しーぽんは顔を真っ赤にして大声を上げる。
 
「しーぽんは、始めて会った時は、野暮ったかったからね」

「でも、今はキュートなお嬢様ですか。しーぽん、今日は、誰のためにオシャレしたのかな?」

今日のしーぽんは光太を落とすべく、かなり短めのスカートを履いて気合を入れていた。

「アリサ!孝一郎君!」

「厚木さん、しーぽんって何ですか?」

「君のお姉ちゃんのあだ名だよ。志麻ちゃんがポンポン飛んでいたからってね」

「ちなみに、命名者は私」

「なるほど・・・。みなさん、こっちですよ。しーぽんもこっちだよ」

「真人!」

「ごめんなさーーーい!」

よせば良いのに、余計な事を言った真人君は、しーぽんに追いかけられていた。


俺達は、空港の裏口から人目を避けるようにしながら、光太の指定する待ち合わせ場所に到着していた。

「光太、待ち合わせ場所はここで良いのか?」

「うん。ほら!」

寂れた港の近くの空き地で待っていると、上空から重力船が降下してくる。
更に停止した重力船の中からは、俺の顔見知りの人物が姿を現した。

「あら、お久しぶりね。孝一郎君」

「陽子さんも、相変わらずお美しい事で」

「コラコラ。彼女ができたのに、よその女性を簡単に褒めないの。隣の子がそうなのかな?」

「始めまして。光太の親友のアリサ・グレンノースです」

「孝一郎君は大成功か。うちの光太はどうなのかしら?」
 
「女の子を誘う甲斐性くらいはあるみたいですよ」

「あの子が噂の片瀬志麻さんか。確かに似てるわね。じゃあ、行きましょうか」

「そうですね。ところで、陽子さんって彼氏できました?」

「この場に置いていって良いかしら?」

「ははは。すいません」

俺達は陽子さんの操縦する重力船に搭乗して、光太の家がある島に向けて出発した。


 

「うわーーー!すげえ!」

「自家用船か。実は陽子さんってセレブ?」

「まさか。これがないと何も出来ないからよ」

「確かにそうですね」

船内で自己紹介を終えた俺達は、楽しそうに話を続けていた。

「でも、ミアちゃんも驚いたけど、志麻ちゃんには本当に驚いたわ。本当に、世間に似ている人って3人いるのね」

陽子さんは、先ほどのお嬢と同じような事を言っている。

 「あの。陽子さんは、亜美さんと顔見知りだったんですか?」

しーぽんは、自分に似ているという俺の妹の事を陽子さんに尋ねていた。

「昔はね。ここ数年は音信不通だったから、最近の姿は写真でしか見た事ないのよ」

「そうなんですか」

「でも、ミアちゃんもしーぽんに似てるな」

「お姉ちゃんと結婚したら、本当に義妹になりますよ」

「ミア!」

「そういえばそうだね」

ミアちゃんの発言で、アリサは顔を真っ赤にする。

「やっぱり、(セカンドウェーブ)の被害が大きいな」

光太は、窓の外から見える都市部の様子を眺めながら、その被害の大きさに心を曇らせていた。
「セカンドウェーブ」時の大きな隕石は、そのほとんどを砕いたのだが、破片や小さな隕石の落下は防げなかったので、あちこちにクレーターが出来たり建造物への損傷が目立っていた。

「光太、気にするな。死者はいないんだから、時間があれば復興はできるさ」

「おお!地球を救った男は言う事が違うね」

「アリサちゃん、それってどういう事?」

「それはですね」

アリサは陽子さんに俺の「グレートミッション」での活躍を話し始める。

「参加して、本職に劣らない大きな成果をあげたって報道されていたけど、大活躍じゃないの」

「ああいうのは、二度とゴメンですけどね」

「しかし、本当に姉ちゃんに似てるよな。ミアさんも、(ステヴィア)を目指しているんだ」

「私も少し驚いたわ。真人君もなんだ」

俺と陽子さんが話をしている後ろの席で、真人君とミアちゃんが楽しそうに話をしている。

「若い者は若い者同士で、仲が良くて結構ですな」

「孝一郎、あんたはジイさんか」

「あっ!そうだ。家に電話しないと」

しーぽんは、携帯電話を取り出して自宅に電話をかけ始める。

「友達の家に寄っていくから、帰りは夕方になるよ。真人もいっしょだよ。うん。ちーちゃんにも伝えといて」

しーぽんは、お父さんらしき人物に簡単に用件を伝えると、すぐに電話を切ってしまう。

「しーぽん、ちーちゃんって誰?」

「お母さんだよ」

「へえ。フレンドリーな親子なんだね。母親を名前で呼ぶ親子って、映画やドラマ以外では、実際に初めて見る」

「そうかな?」

「(うちの母さんは夏子だから、なっちゃん?40歳過ぎのババアに、なっちゃんは危険要素が一杯だな・・・)」

「志麻ちゃんの住まいは、鎌倉だったわよね。それなら、これで一直線に送ってあげられるから」

俺が本人にバレると危険な事を考えていると、陽子さんがしーぽんに帰りは送って行く事を提案していた。

「すいませーん。大変、助かりまーす」

「真人!」
 
「だって、今日だって空港まで6時間もかかったんだよ。東京までが4時間で、空港までで更に2時間。僕の苦労も察してくれよ」

「えーーー!真人、今日は何時に起きたの?」

「朝の4時だよ。一瞬、鳥にでもなったかと思ったよ」

真人君の話を総合すると、「セカンドウェーブ」の影響で日本各地の生活ラインが寸断されて、現在、懸命に復興作業が行われているらしい。
当然、交通機関にもかなりの影響が出ていて、空港までかなりの遠回りをしたようだ。

「これも可愛い姉のためですけどね」

「そうよね。可愛いお姉さんの方が良いものね」

「僕としては、綺麗なお姉さんの方がもっと良いですけどね」

「君は面白いわね」

「真人君は、年上好みなの?」

俺は真人少年の意外な女性の好みに驚きつつ、疑問をぶつけてみる。

「厚木さんは、どうなんです?」

「特定の好みのタイプとかはいないかな?その時に好きになった人って事で」

「それが、アリサさんであると?」

「(まあね)」

俺が真人君に小声で答えると、彼は次の質問をしてくる。

「(久しぶりに見たら、姉ちゃんが綺麗になっていたんですけど、彼氏でもできたんですかね?)」

「(正確に言うと好きな人がいて、それに懸命にアタックしているという感じかな?)」
  
「(音山さんですか?)」

「(君は鋭いな。それで、真人君は陽子さん狙かな?それとも、ミアちゃん狙い?)」

「(綺麗なお姉さんと、守ってあげたくなるタイプの女の子か。迷いますね)」

「(ちゃんと選ばないと、光太のように不幸が始まるぞ)」

「(そうなんですか?)」

「あんた達は、何を話しているのよ」

「男2人で悪巧み?」

「違いますよ、アリサ、陽子さん」

「ただの世間話ですよ」

俺と真人君は2人きりの話を打ち切って、他の人に話しかける事にする。
 
「陽子さん。そういえば、うちの両親は迷惑をかけていませんか?」

「大丈夫よ。私が楽をしている位だから。ほら、目的地に到着したわよ」

目の前には、南の楽園と言っても過言ではないほどの綺麗な島が見えていた。


「孝一郎、元気だったか?」

「孝一郎、怪我はなかったの?」

俺達が船を降りると、そこには俺の両親が待ち構えていた。

「大丈夫だって。それよりも、母さんは順調なの?」

「3人目だから余裕よ」

「高齢出産じゃないか」
 
「殴るわよ」

「すいません」

四十歳を超えた母に、高齢という言葉は禁句である事を俺は思い出した。

「紹介するよ。アリサ・グレンノースさん」

「こんにちは。アリサ・グレンノースです」

「うっ!可愛い」

「父さん!思いしったか!」

「確かに思い知った」

「へえ、可愛い子じゃないの。孝一郎にしては上出来よ」

両親の前なのでアリサは緊張しているらしいが、この両親に緊張するだけ無駄であろう。

「他は、アリサの妹のミアちゃんと・・・」

重力船を駐機場に置いて戻ってきた陽子さんと光太は、顔見知りなので特に紹介の必要も無かったのだが、しーぽんと真人君とミアちゃんの紹介をしようと思った時に、俺は重要な事を忘れていた事に気が付いた。

「ミア・グレンノースです」

「片瀬真人です」

「あの。孝一郎君の友達の片瀬志麻です」

ミアちゃんが自己紹介をしていた時にも両親は少し驚いていたが、しーぽんの顔を見た瞬間に両親は表情を強張らせていた。
事前にしーぽんの事は話していたし、テレビでもここ数日は、毎日のように顔を出していたので大丈夫だと思っていたのだが、本人を目の前にするとそうもいかないらしい。

「亜美!」

「えっ?」

「亜美っーーー!」

「へっ?えっ?」

「しまったな。かと言って、他に手もなかったし・・・」

「お母さん、辛いよね」

母さんは、いきなりしーぽんに抱きついて泣き始めてしまった。
亜美が死んでまだ2年と経っていないのに、目の前に瓜二つの少女が現れたのだから当然と言えば当然なのだが、あくまでもしーぽんは予定外のお客さんであったし、だからといって両親から隠すわけにもいかなかったからだ。
俺達は、この事態をただ見守るしかなかった。


「しーぽん、ごめんね」

「片瀬さん、ごめんなさいね」

「いえ。気にしないでください」

俺達は泣きじゃくる母さんを何とか落ち着かせてから、室内でお茶を飲んでいた。
最初は動揺していた母さんも、時間が経つにつれて落ち着いて、しーぽんに謝っていた。

「テレビで見た時は驚いたけど、実物はもっと驚いた」

「みたいですね。孝一郎君も、驚いたそうですから」

同じく驚いていた父さんの言葉に、しーぽんが返事を返す。

「そうよね。やっぱり、亜美は死んだのよね・・・」

「母さんは、生まれてくる弟か妹の事を第一に考えないと」

「そうよね。この子は、亜美の生まれ変わりなんだから」

母さんは、穏やかな笑顔でお腹をさすり始める。

「順調なんですよね。お母さん」

「順調なんだけどね・・・」

「どうかしましたか?」

「もしかすると、アリサちゃんに早く子供が生まれて、この子が若い叔父さんか叔母さんになってしまう可能性があるのよね」

「あの・・・。私は・・・」

「母さん!何を言ってるんだよ!」

俺とアリサは、母さんの言葉で顔を真っ赤にしていた。

「俺は、アリサと散歩に行って来る」
 
「行ってきます」

「何だ?チューでもしに行くのか?」

「父さん!」

俺は慌ててアリサの手を引きながら、音山邸を出て行く。

「何だ、図星か」

「お父さん、若い2人をからかってはいけませんよ」

「母さんも、結構からかっていただろうに」

「光太、志麻ちゃんを案内してあげなさいな」

「そうだね。行こう、志麻ちゃん」

「うん」

「そして、弟君。君も女の子をエスコートしてあげないと」

「綺麗なお姉さんのご命令とあらば。行こうよ。ミアさん」

「うん。そうだね」

陽子さんの言葉に従って、光太・しーぽん、真人・ミアのペアでリビングを出て行く。

「すでにカップルばかりで、私の入る余地はないわね」

「陽子さんには、若過ぎると思うけどね・・・。そうだ!うちの会社の若い奴を紹介しようか?」

「格好良い人をお願いしますね」

「みんな、俺には劣るけどね」

「じゃあ、駄目駄目じゃないの」

「母さんが言うなよ・・・」

父さんは、母さんの発言で微妙に傷付いていた。


「無人島だから綺麗だな」

「そうよね」

俺とアリサは音山邸を出てから、2人きりで無人の海岸を歩いていた。
ちなみに、しーぽんと光太は天文台を見に行き、真人君とミアちゃんも2人でどこかを探索しているようだ。

「真人とミアが、付き合う可能性ってあるのかな?」

「あるんじゃないの。陽子さんは、憧れのお姉さんで終わると思うよ。俺も、昔はちょっと憧れていたし」

昔、光太と遊んでから家に帰ると、よく学校帰りの陽子さんと顔を合わせて、子供心にドキドキしていた過去を思い出していた。
あれが、世間でいうところの初恋というものなのだろう。
 
「子供の頃の思い出ってやつ?」

「まあね。ところで、しーぽんと光太は上手くやってるのかな?真人君とミアちゃんにまで気を使われているんだからねぇ」

「なるようになるんじゃないの」

「(志麻!僕は君の事が好きなんだ!)って告白して、キスをして抱きしめればそれで終わるのに・・・」
 
「周りに変な要素が多すぎるのよ」
 
「言えてる。でも、俺達にそれはないわけで」

「そうね」

「では、ここのところ邪魔ばかり入っているので・・・」

俺はアリサを抱き寄せて、今度こそはと思いながら唇を重ねようとするのだが、誰かの話す声が聞こえてくる。

「本当に恋人同士だ。キスしそうだ」
 
「お姉ちゃん、大胆」

「なるほど、男は時には強引な方が良いのか」

「あんなに大人しいお姉ちゃんって始めて見る」

「早くブチュっと行かないのかな?」

「私の方がドキドキする」

声のした方をアリサと一緒に見ると、茂みの影に2人の人影が見える。
本人達はちゃんと隠れているつもりらしいが、俺達から簡単に確認できた。

「あーーー。君たち、全部聞こえてるから」

「ミア!覗き見なんて、はしたないわよ!」

「ははは。すいません。後学のために観察していまして」

「厚木さん。お姉ちゃん。気にせずに続きをどうぞ」

「「できるか!」」

「おわっ!ユニゾンだ!」

「それで、しーぽんと光太は?」

気分が冷めてしまったので、しーぽんと光太の様子を聞いてみる事にする。

「お姉ちゃんに、丁寧に天文台の事を説明していましたよ」

「ちゃんと、見てたのか・・・」

念のために聞いてみたのだが、2人はしーぽん達の方も覗いていたようだ。

「でも、そのあとに告白してブチュっと行くかもよ」

「大変だ!姉の一大事だ。早速、観察に行かないと」

「こっちは駄目そうだから、向こうに行きましょう。真人」

「そうだね。ミア」

2人は駆け足で天文台に向かって走り出した。

「あの2人、いつの間にか真人とミアになってる」

「友達になったのかな?」

「将来的には、それ以上の関係も・・・」

「もしそうなると、私ってしーぽんと義理の姉妹になるのか」

「見た目しーぽんが、一番下っぽいけど」

「言えてる」

「邪魔もいなくなったので、先ほどの続きを・・・」
 
俺とアリサは、しーぽんの事で一しきり笑ったあと、再びアリサを抱き寄せて唇を重ねようとする。
だが、再びしげみの方から、誰かの声が聞こえてきた。

「光太も、あれくらい積極的にやれば良いのに・・・」

「早くやれって!」

「孝一郎も、そんな歳になったのね」

「あーーー。君達、聞こえてるし見えてるから」 

「真人とミアと同じ場所なのね・・・」

先ほどのしげみに潜んでいたのは、当然のごとく、俺の両親と陽子さんであった。

「ごめんね。そろそろ、出発の時間だからさ」

「それなら、しーぽんと光太を先に呼んでくださいよ」

「一緒に送っていくでしょう?」

「まあ、そうなんですけど」

「さっさと、キスすれば良かったのに」

「邪魔をした父さんに言われたくない・・・」

「別れなければ、いくらでもチャンスはあるから」

「ちくしょう!最近、こればっかりだ!」

ここのところ、チャンスを逃しっ放しの俺の絶叫が島中に木霊した。


「海だ!昨日は見ていただけだからな。遊ぶぞ!」

「孝一郎、水着を新調したのよ。似合う」

「似合う。似合う」

「光太君、私も新しい水着にしたんだ。似合う?」

「可愛いよ。志麻ちゃん」

「(いつの間にか、片瀬さんから志麻ちゃんに変わってるな・・・)」

「うーん」

「どうしたんだ?真人君」

「お姉ちゃんより、ミアの方がスタイルが・・・」

「真人!」

「痛っ!」

「陽子さん、水着じゃないんですね・・・」

「そんなに落ち込まないでよ。アリサちゃんに怒られるわよ」

「あんたねえ・・・」

「例え怒られようと、男の本能にそう変わりがあるわけでもなく・・・」

昨日の夕方にしーぽんと真人君を送りに行った時に、明日の予定を聞いてみたところ、家族全員がお休みだという事だったので、急遽光太がしーぽんの家族を自分の島に誘ったのだ。
光太にしては珍しく積極的で驚いたのだが、陽子さんも「是非どうぞ」と光太を支援したので、今日は4家族でのバカンスとなっていた。

「私達まですいません」

「綺麗な島だな。僕も住んでみたいな」

陽子さんの迎えで島に到着した片瀬一家は、俺の両親に挨拶をしていた。

「私達も、居候組なんで」

「これだけの広い家を持っている陽子さんに感謝かな」

初めて見たしーぽんの両親は、うちの両親とは違ってかなり若々しかった。
しーぽんのお父さんは、ナイスミドルで職業も小説家(エッセイスト)であり、お母さんも一流企業に勤めるバリバリのキャリアウーマンで、キリっとした美人であり、あまりしーぽんとは似ていないような気がした。
そして何よりも、その格好良さに中小企業の課長である父さんと、専業主婦である母さんとは、えらく違いように思えた。
 
「始めまして。厚木孝一郎です」
 
「海人君、本当に金メダリストがいるわ。背も高いし、良い男ね。海人君には少し負けるけど」

「ちーちゃん、恥ずかしいから止めてよ!」
 
「私はミーハーだもの。あとでサインでも貰おうかしら」

「始めまして。音山光太です」

「この子も良いわね。志麻ちゃんは、どちらが好みなの?」

「お母さん!」

しーぽんのお母さんは、見た目とは違って意外とお茶目な人のようで、しーぽんはそのマイペースぶりに振り回されていた。

「小父さん、今日はウェイクボードを教えてくれるそうで」

「君も音山君も、運動神経が良さそうだからね。すぐに上達すると思うよ」

しーぽんのお父さんは、職業上自由な時間が作り易く、多彩な趣味を持っているらしい。
特に、マリンスポーツは何でも上手にこなせるとの事で、今日は俺と光太と真人君が、ウェイクボードを教えて貰う事になっていた。 

「じゃあ、早速始めるか」

「今日こそは、光太よりも早く上達する!」

「大丈夫かな?」

「一番不安なのは僕だと思いますけど・・・」

「真人君は、あとでも教えて貰えるからさ。俺達は、今日でそれなりのところまで行かないとね」

「うちの志麻と結婚すれば、ちゃんと最後まで教えるよ」

「それは、光太に回します。俺には彼女がいますので」

「えーと、アリサ君だったよね。もうご両親に紹介したんだね」

「ええ、まあ・・・」

「孝一郎、実は俺も昔やっててな。偶然、マイボードを持って来ていたんだ」

突然、父さんも自分のボードを持って俺達に加わってくる。

「陸サーファーなんじゃないの?」

「学生の時には、大会で優勝した事もあるんだよ」

「本当かねぇ・・・・・・」

俺は、休日には家でゴロゴロしている光景しか目撃した事のない自分の父親に、多少の疑いを持ちつつも、男5人で海でウェイクボードを始め、しーぽん、アリサ、ミアちゃんは海で泳ぎ始め、陽子さんと母さんとしーぽんのお母さんは、食事の準備を始めていた。

「そうですか。うちの志麻ちゃんは、孝一郎君にふられたんですか」

「すいません。やっぱり、死んだ亜美にそっくりな子と付き合うのは、抵抗があるようで・・・」

「志麻ちゃんは、私に似て少しツキがないところがあるから・・・。仕方がないですよ。気にしないでください。でも、亜美ちゃんが、本当にうちの志麻ちゃんにそっくりで驚きました」

先ほど、うちの母さんがみんなに亜美の写真を見せていたのだが、そのあまりのソックリさに全員がビックリしていた。
ほとんどの人が見た事があったのだが、今回は声が入っている映像もあったので、更に驚いていたようだ。

「私達も、志麻ちゃんをテレビで見て驚きました」

「そうですか。辛いですね」

「いえ。亜美にそっくりな志麻ちゃんが元気でいてくれたら、私達はそれで十分です。それに、今は新しい子供の事を第一に考えないと」

「楽しみですね。私も海人君に頼んで、もう一人作ろうかな?」

母親2人が子供の話をしていると、そろそろ微妙な年頃の陽子さんが話に入ってくる。

「私も子供が欲しいけど、その前に結婚しないといけないんですよね」

「うちのお父さんの会社の人は止めた方が良いわよ。何というか、微妙な人が多いから」

俺の父さんは、中規模の精密部品メーカーに勤めていたが、その部下の社員の人達には、変わった人が多かった事を母さんは思い出したようだ。

「それなら、うちの会社の若い人を紹介しましょうか?」

しーぽんのお母さんは、かなりの大企業に勤めていたので、その中から陽子さんに良い人を紹介する事を提案していた。
 
「条件としては、ここの天文所を手伝ってくれる人なんですけどね」

「それだと、うちの会社の人は無理ね。そうだ!海人君の同業者を紹介して貰いましょうか?」

「そうですね。パソコンがあれば、どこででも出来る仕事ですからね」

うちの母さんも、しーぽんのお母さんの意見に賛同する。

「年下でそれほど売れていない人が良いわね。爽やかなイケメン風の人を・・・」

「そんな都合の良い人が本当にいるんですか?」

「それは、海人君に聞いてみないとね」

女性3人は、楽しそうに話を続けていた。


「みんなーーー!お昼よーーー!」

陽子さんに呼ばれた俺達は、用意されたお昼ご飯を食べ始める。
今日のメニューは、カレーライスだった。

「レトルト以外では、久しぶりだな」

「孝一郎に自炊は不可能か・・・」

「正解です!お母様!」

母さんは俺の自炊能力を高めるべく、色々な物を送って寄越したが、それは俺の自炊能力向上に全く寄与していなかった。

「私が、作ってあげるから」

「アリサちゃん、このバカをよろしくね」

「父さん、バカは酷くない?」

「お前ねえ。俺にだって、野菜炒めくらいは作れるぞ。何で料理が全然駄目なんだよ」
 
「父さんは、全然ボードに乗れてなかったじゃないか!」

「20年のブランクは厳しかったかな・・・と。それでも、最初からちゃんとボードの上に立てただろうが。お前はどうだったかな?」

「それでも、ボードの上に立って、小さな波に乗るくらいはできるようにはなった」

「厚木君と音山君は、運動神経が良いからね。厚木君にも驚いたけど、音山君の上達ぶりは天才的だな」

午前中の練習で、俺はヨロヨロとしながらもボードの上に立って、少しは波に乗る事に成功していたが、光太は本当に初心者かと思えるほ

どの上達ぶりを見せて、みんなを驚かせていた。

「僕は、まだ全然駄目だ」

「真人くらいが普通なんだよ。お前も筋は良い方なんだから、頑張って練習してくれ」

「練習ったってね。どこで練習すれば良いんだろう?」

この島は、亜熱帯地帯にあるので一年中海に入れるが、真人君の住んでいる鎌倉は今は冬なので、かなり厳しい練習になるであろう。

「真人君、お休みの日に迎えに行ってあげるから、ここで練習しなさいよ」

「わーーーい。ありがとうございまーーーす!」

「陽子さん、わざわざすいません」

しーぽんのお母さんが申し訳なさそうにお礼を言うと、陽子さんは笑いながらこう切り返す。

「いえ。光太が少し頑張れば、私達は親戚同士になる可能性もあるわけで」

「姉さん!」

「光太も、ボードにばかり夢中になっていないで、そっちの方も頑張りなさいよ」

「それもそうか。じゃあ、午後は自由時間にしようかな。あまり連続して長時間やっても上達しないからね」

「でも、僕はもう少し教えてよ」

「わかった。真人には午後も教えるよ。それと、厚木君も、あまり彼女を放っておかない方が良いよ」

「わかりました」

こうして、午後の時間はそれぞれが自由に過ごす事になった。


「本当は、もう少しやりたかったんじゃないの?」

俺とアリサは、少し沖の方でゴムボートに乗りながら話をしていた。
何しろ人数が多いので、2人きりになるもの色々と大変だったのだ。

 「コツは掴んだから、あとは(ステルヴィア)でも練習できるさ」

 「ああ。人工の波が出るプールがあったわよね」

 「古賀先輩が休日によくやっているらしいから、教えて貰えるしね」

 「古賀先輩も、あの口の軽さがなければ完璧なのに・・・」

古賀先輩も御剣先輩と同様で、背も高く顔も良かったが、少し口が軽く、たまにセクハラ発言もかますので、意外と女性に人気がなかった。

 「彼女もいるみたいだし、本人は全く気にしていないみたい」

 「みたいよね」

午後の時間は、しーぽんのお父さんと真人君がウェイクボードの練習を続行し、しーぽんと光太は、2人きりで砂浜に座って話をしていた。
そして、俺達が沖に出てから陽子さんは水着に着替えてミアちゃんと泳ぎ始め、母親2人は、後片付けが終わったあとに、島の探索に出かけたようだ。

「しまった!陽子さんが水着になるのなら、沖に出なければよかった!」

「本音を大声で言うな!」

「男の本能だからね」

「私が、いるでしょうが!」

「アリサも、あと10年はしないとあの色気が出ないわけで・・・」

「しーぽんのお父さんって格好良いからね。それと同じ事でしょう?」

男女差はあるが、しーぽんのお父さんはナイスミドルで、羨ましいくらいの格好良さであった。

「ああいう風に歳を取りたいよね。まあ、大抵はうちの父さんのようになるけど・・・」

「優しくて良いお父さんじゃないの」

「まあ、何だかんだ言っても、俺の好きにやらせてくれて応援もしてくれるしね」

砂浜の方に視線を向けると、午前中に頑張り過ぎたうちの父さんは、木陰で昼寝に勤しんでいた。
世の中の40歳過ぎのオッサンは、あちらの方が多数派なので仕方がないのだが。

「それで、しーぽんと光太はどうなったのかしら?」

「仲良さそうに見えるけどね」

「そうね」

「あの2人は、あと一歩を踏み出すだけだと思うよ。そこで、俺達も・・・」

思えば、クリスマスからアリサと良い雰囲気になると必ず邪魔が入ってしまって目的を達成できずにいた。
だが、その忌まわしき記憶も今日までの事だ。
周りには海しかなく、みんなも遠い場所にいる。
これならば、誰も気が付かないであろう。

「では、改めて・・・」

「そうね」

俺とアリサが唇を重ねようとした瞬間、格闘家としての勘が誰かの視線を感じた。

「あの・・。小父さん・・・」

いつの間にか、ボードに乗った小父さんが、かなり近くまで接近していたのだ。

「真人君はどうしたんです?」

「うん。結構上達してね。あとは自主練習をさせているんだよ」

「それで、小父さんはなぜここに?」

「何と言うかな。青春の日々を思い出すようなシチュエーションに、魅かれたというか・・・」

「恨みますよ・・・」

「でも、あそこにも覗いている人達がいるんだけど・・・」

小父さんの指差す方向には、双眼鏡を覗き込んでいる母親2人の姿が辛うじて確認できた。

「もう、どうでも良いや」

「若いのに、自暴自棄になるのは良くないよ」

俺は、自分の運のなさをただ呪っていた。 


「ごめんなさいね。昔の海人君と私みたいだったから、ついね」

「孝一郎、周りの目なんて気にしちゃ駄目よ」

「良く言うよ・・・」

一しきり遊んだ後で、音山邸のリビングでみんなで寛いでいると、先ほどの話が話題にあがっていた。

「千鶴、双眼鏡で覗くのは反則だと思うけど・・・」

「海人君は、不用意に接近し過ぎよ」

「ごめんね。孝一郎君」

よくよく考えてみると、ただキスができなかっただけなのだが、しーぽんは両親の不始末を懸命に謝っていた。

「いいさ。チャンスなんて、いくらでもあるんだから」

「孝一郎は、そうだよね」

「光太も、前に邪魔してくれたよな」

「あら。随分と無粋な事をしたのね」

陽子さんは、自分の事を棚にあげて、光太を非難する。

「陽子さんも、そうなんですけど・・・」 

「お姉ちゃんも、大変よね」

「ミアも、真人と邪魔をした事があるでしょうが!」

「そうだっけ?」

「そうでしたっけ?」

アリサの追求に真人君とミアは、韜晦を決め込んいる。
 
「(ステルヴィア)に戻ったら、好きにやればいいさ」

「そうよ。ここでは、一応は私達の目があるんだから」

「理解のあるご両親なんですね。厚木さん」

「放任とも言うけどね」

うちの両親の物わかりの良さは、俺が息子だからであろう。
もし、亜美が生きていて彼氏を連れて来たら、大騒ぎをしていたであろうから。
それを考えると、光太がいても全く態度を変えないしーぽんの両親に、俺は感心していた。

「そろそろ、夕食の準備をしましょうか?」

「そうですね」

「ちーちゃん、大丈夫?」

「志麻ちゃんよりは、大丈夫よ」

「むむむ・・・」
 
「トゥルルルルルルーーー!トゥルルルルルルーーー!」

「はいはい。誰かしら?」

陽子さんと母親2人が夕食の準備を始めようとした時、リビングの電話が鳴り、陽子さんが受話器を取る。

「はい。音山ですが」

「音山君のお姉さんでいらっしゃいますか。私は、宇宙局の増池と申します。実は、(ウルティマ)が戦闘騒ぎを起こしまして、その影響で、音山光太君に非常召集がかかっています」

「えっ!本当ですか?」

陽子さんが慌ててテレビを付けると、「ウルティマ」が攻撃されたという緊急ニュースが放送されていた。

「うちの光太だけですか?」

「いえ。片瀬志麻さんと厚木孝一郎君もです」

「2人ともここにいますけど」

「それはちょうど良かった。3人には、一刻も早く(ステルヴィア)に戻って欲しいのです」

「そうですか」

陽子さんが電話を切ると、突然の事でみんなが暗い雰囲気に包まれる。

「非常召集か・・・」

「どうして、予科生のあなた達が・・・?」
 
「(グレートミッション)の参加者だからでしょうね」

俺は、陽子さんの疑問に簡単に答える。
しーぽんと光太は「インフィニティー」を操縦した経験があるし、俺は「インフィニティー」を除けば、太陽系内で一番高性能なオーバビスマシンの専属パイロットなのだ。
念のために、俺達を呼び戻すくらいの事はするであろう。

「私、荷物を取りに戻ります!」

「そうね。私が送るわ。光太と孝一郎君は、ここで待っていなさい。この天文所は、小型のチャーター機が離着陸できるスペースはあるから、迎えに来て貰いましょう。交渉は私がするから」

「そのくらいの贅沢は許されますよね」

「そういう事」

「私も、一緒に戻る!」

「アリサ・・・。それは良いんだけど、ミアちゃんはどうするんだ?」

俺が「ステルヴィア」に戻ってしまうので、アリサも一緒に戻りたいのだろうが、ミアちゃんの処遇に悩んでしまう。

「孝一郎、私達が責任を持ってアメリカに送りすから、心配しないでくれ」

「僕も、休み中はここにいますから」

両親が責任を持って面倒を見ると、俺と約束したうえに、同年代の真人君が島に残ってくれるそうなので、俺は安心して任せる事にした。

「真人、すまないわね」

アリサが、真人君にお礼を述べている。

「いえいえ。これも、姉の親友のためですよ」

「正直に可愛い女の子と一緒にいたいと言っとけ。真人君」

「厚木さんは鋭いな」

場が少し和んだところで、陽子さんの操縦する重力船が、しーぽんの家族を乗せて鎌倉に向けて出発する。
ちなみに、俺の両親は予定通りに休みが終わるまでこの島でお世話になるようだ。
そして、真人君も荷物を取ったら、ミアちゃんに付き合って島に残るらしい。

「ミアちゃん、2日だけで悪かったね」

「仕方がないですよ。緊急招集なんですから。それに、お姉ちゃんも、他に厚木さんを狙っている女性がいるとかで、絶対に付いて行くそうです」

「(お嬢の事だな・・・)」

「ミア、孝一郎のご両親に迷惑を掛けるんじゃないわよ」

「ミアちゃんに、その心配はないだろう」

ミアちゃんは、誰が見ても可愛くて良い子なので、その心配は皆無だと思える。

「じゃあ、父さん、母さん。あとの事はよろしく」

「短い休みになってしまったが、お前が元気になって良かったよ。お前は、亜美が死んでから、少し周りが良く見えていないところがあったが、今はそれを感じないからな。友達やアリサちゃんの影響なのかな?」

「確かにそうね。アリサちゃん、うちの息子をよろしくね」

「私の方こそ、孝一郎に頼ってばかりで・・・。ミアの事をお願いします」

俺達は両親と挨拶をかわしてから、先にしーぽんを乗せて迎えに来た専用機に乗って、ナスカ宇宙港から「ステルヴィア」へと上がったのであった。
「グレートミッション」の終了からまだ半月あまり、世界は新たな騒乱に巻き込まれようとしていた。


          おまけ

「(ウルティマ)で戦闘か・・・。(フジヤマ)が運休にならない内に、私も戻らないと」

年末年始を実家で過ごそうと思っていた藤沢やよいは、緊急ニュースを聞いて「ステルヴィア」へ戻る準備を始めていた。

「やよい、もう戻ってしまうの?」

「戦争になれば、(フジヤマ)が運休になるかもしれないから」

「そう。残念ね。ところで、(ステルヴィア)に格好良い男の子はいた?私は、あの音山光太君か厚木孝一郎君なんて好みなんだけど」

やよいの母は、うっとりとした表情で自分の好みのタイプを語り始める。

「2人とも友達だけど、もう決まった相手がいるから・・・」

「ふられたの?」

「お母さんはストレートね。そうよ。厚木君に見事にふられたわ」

やよいは、自分の母に細かな事情を話し始める。

「それで、尻尾を巻いて逃げてきたの?」

「あのねえ。親友の彼を奪うのはどうかと思うし、厚木君もアリサの事が好きだから」

「そんな事は、関係ないわ!恋は戦いよ!私もそうだった!ダーリンには、他に好きな人がいたけど、私が実力で奪い取ったのよ!」

「お父さんを?」

やよいは、リビングで新聞を読みながらお茶を飲んでいる影の薄い父親を眺めてみるが、とても戦いをしてまで奪うような男には見えない


良くも悪くも自分の父親は、どこにでもいる普通のおじさんなのだ。

「そうよ!あなたには、私の血が流れている!やよいは、その胸が邪魔だとか肩が凝るだとか言って嫌っているけど、胸ほど有効な武器は

存在しないわ!男は基本的にマザコンだから!」

やよいの母は、その豊かな胸を突き出して自説を述べ始める。
どうやら、自分の大きな胸は、確実に母親の血を引いているらしい。
 
「確かにね・・・」

やよいは、過去の孝一郎の発言を思い出しながら、その説の正しさを実感していた。

「本当に好きなら、綺麗事なんて言ってないで奪い取りなさい!」

「お母さん・・・」

「ファイトよ!やよい!」

「わかった!私、頑張ってみる!」

「そうよ!その意気よ!そこで、私の過去の戦法を記録した虎の巻をあげるから、よく研究しなさい」

やよいの母は、使い古した大学ノートを自分の娘に手渡した。

「ありがとう。私、行くね」

「それでこそ、私の娘よ!」

「やよい、元気でな。それと、あまり無茶をしない方が・・・」

「お父さん、私頑張るね!」

「あのさ・・・。一度決まったものを、かき乱すのはどうかと・・・」

「私、急ぐから」

この家で一番存在感のない父の言葉を聞き流して、やよいは空港へと出発するのであった。

 


         あとがき 

かなり話を足しました。
地球に降りて1日で帰るというのも、どうかと思いまして。
それと、真人とミアの出会いがかなり早くなってます。
本当は最終回時で、2年後ですけどね。

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