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「月の剣と太陽の杖 第2話 (サモンナイト2+WA2)」

燕 (2006-11-13 17:53/2006-11-20 13:44)
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これで全部かな?

物の少ない部屋を見回す。

あんまりいい思い出があるとは言えないけれど、それでも少しだけ寂しいかな。

小さなトランク一つに纏まった荷物。

旅に必要ないものは置いて行こう。

新しい人が入る頃には全部処分されるだろうけど。

コンコン。

準備はできたのか? と尋ねるネスの声が扉越しに聞こえた。

そう、あたしは今日、ここから旅立つ。


月の剣と太陽の杖

第2話 渡り鳥  〜Explorers〜


しんみりとした気分を切り替えて、心機一転頑張らなくっちゃ!

「……って、思ってたのに何でいきなりこんなことになってるのよ!!」

「トリス、何を言ってるのか分からないが、今はそんなことを言ってる場合じゃないだろう!」

あたしたちの旅はのっけから思いっきり躓いていた。

街を出て、街道を少し歩いたところにある休憩所で一休みしようとした時、いきなり野盗の一団に襲われたのだ。

「なんで街のすぐ近くに野盗なんて出るのよ。騎士団ってばちゃんと仕事してるの!?」

そんな風に愚痴を言いたくなっても仕方ないよね。

「まあ、こいつらだって馬鹿じゃないってことだろ?」

走りながら交わされる会話。

どうにか野盗から逃げようと必死で走る。

退治できれば話は早いのだろうけど、こっちは荒事に慣れていない文字通りの旅の初心者が五人。それに対して野盗はといえば……五、六、……十。

……って、さっきよりも増えてる!?

「どっから湧いてきてんの!?」

「元はといえば君が警戒もせずにあんな所に寄ろうとしたからだろうっ!」

「二人ともそんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな?」

「…………(コクコク)」

走りながら呆れたように言うマグナと、レオルドに担がれた状態で頷くハサハ。

後ろからは待ちやがれだの、逃げ切れると思ってんじゃねぇぞ、ひひひだとかいうお決まりの台詞を言いながら野盗の一団が追いかけてくる。

「ああ、もうッ! いい加減しつこいッ!!」

そう言いながらあたしは走る。街に逃げ込めれば野盗たちはそれ以上追ってこれないハズ。

だけど――

「トリス、どうやら逃げても無駄らしい」

急にネスは足を止めると杖を構えた。

「ちょ、ちょっとネス!? なんで走らないのよ!」

「いいから周りを見ろ! もう僕らは囲まれているんだ!!」

ネスの声が聞こえたのか、それとももう隠れている必要は無いということなのか、物陰からぞろぞろと野盗たちが姿を現す。

後ろの奴らも追いついてきたようで、あたしたちは完全に囲まれてしまったのだった。

「ちょっと……いきなり大ピンチってやつじゃないの!?」

気付けばペンダントにしたあの銀貨を握り締めていた。


「それにしても、お前さんは変っておるのぉ」

ラウルさんに誘われてお茶をご馳走になっているとそんなことを言われた。

「変ってますか?」

「うむ。信頼してくれるのはありがたいが……もっと取り乱すかと思っておったのでな」

「別に落ち着いているわけじゃないんですけどね……」

お茶を一口すする。

「まあ、いきなり知らない場所にいたっていうのは初めてじゃないんで」

とはいえ、あの時はみんなのお陰で帰れたんだけど。

あの時――ヘイムダル・ガッツォーの爆発に巻き込まれた僕は、記憶の遺跡と呼ばれる亜空間に吹き飛ばされた。

……あそこでの体験は一生忘れられないよなぁ。

「少なくともこうやって来れた以上は帰る方法もあるはずですから、僕は僕にできる範囲で探しますよ。……えっと、召喚術でしたっけ? 僕はそういうのはさっぱりなんでそっちの方は専門家に任せます」

リルカの使ってた紋章魔術(クレストソーサー)でさえ理屈は良くわかんなかったし、ティムの守護獣(ガーディアン)召喚なんて、とりあえずプーカがいないとできないことくらいしか……

うーん。帰ったらもう少しそっち方面も勉強した方がいいかな?

「うむ。なに、安心せい。総裁も力を貸して下さるそうじゃからな。そう遠くないうちに良い報せを届けられるじゃろうて」

「ええ、よろしくお願いします」

頭を下げる。

ココに来て最初に出会ったのが彼らで本当に運が良かったと思う。

あまり考えたくはないけれど、ここも『人』が暮らしている以上、きっとオデッサみたいな連中はいるのだろうから。

……そういえば、あのトカゲ似の二人はMIBに追われてるのを助けられたからオデッサに協力してた(トカ)言ってたっけ―――今、僕は、何か変なことを思わなかったか?

「どうかしたのかね?」

「あ、いえ、何でもないです。……そういや、トリスたちの姿が見えませんけど、どうかしたんですか?」

頭に浮かんだある意味カイバーベルト、もしくはロードブレイザー並みの侵食力を持つ存在を追い出して、話を変えるためにそう尋ねた。

(何ですとッ!? 久方ぶりにこうしてまみえたというのに我輩そのような友達甲斐の無い友人を持った覚えはないですぞッ!!)

うるさい。いーから星に帰れ爬虫類。

(んまッ、吐き捨てるかのようにッ! 後で後悔しますぞ、作者ッ!!)

※お願いだから帰ってください……貴方は私の手に余るんだ……

「それなんじゃが……トリスたちは今ここにはおらん。聞いておらんかったのか? あの子たちは蒼の派閥の召喚師として視察の任務に就いたんじゃよ」

「視察……ですか? 一体どこの?」

そう尋ねるとラウルさんは少し言いづらそうに目を伏せると、

「わしにも分からぬ。……場所も期間も決まっておらんからの」

「そんなッ! それじゃ体のいい追放じゃないかッ!!」

あまりにも、あまりにも酷すぎる扱いに声が荒くなる。

これから自分がどうなるか分からない――そう言っていたけど、このことだったのか?

「確かに追放に近い扱いじゃ……だが、追放ではない」

「それは、どういう……」

「あの子たちに出された条件はただ一つ。派閥にとって有益となる功績を成し遂げる。それだけなんじゃ」

「……つまり、何か功績をあげてそれが認められれば任務も終わりってことですか?」

頷くラウルさんだが、その顔は渋いものだった。

無理もない。言葉では簡単に聞こえるが、どれだけ功績をあげたとしてもそれが認められない限り意味が無いのだから。

そして、おそらく、その判断をするのは――

「フリップさん、なんですね? トリスたちの任務が終わったかどうか判断するのは」

苦い顔で頷くラウルさん。

なるほど、ならトリスたちの任務が終わるのは当分先か、あるいは終わらないかだな。

だったら……

「どこに行くんじゃ?」

「トリスたちを追いかけます。今ならまだ追いつくでしょうし」

席を立ち、早足で部屋を出ようとすると、

「ふむ、なら一つ頼まれてくれんか?」

そう呼び止められた。

振り返ってラウルさんの顔を見ると、その顔には悪戯を思いついた子どものような笑みが浮かんでいた。


「さぁて、大人しくしてもらおうか? なぁに、出すモンさえ出してくれりゃ手荒な真似はしないからよぉ」

言外に『いうことをきかなければ痛い目に合わすぞ?』と言いながらニヤニヤ笑う野盗A。

え? こんなやつらA、B、C(以下略)で十分でしょ?

「うーん。出すものって言われてもなぁ。俺たち殆ど追い出されてきたようなもんだし」

「今持ってるのは当面の食料と路銀が少しくらいかしらね」

「君たちは馬鹿か? よくこの状況でそんな軽口が叩けるな」

あたしたちのやり取りに呆れた口調でつっこむネス。

……でもネスー? あなたのそれも十分軽口だと思うケド?

「て、てめぇらいい度胸してるじゃねぇか……」

ほら、野盗サンたち怒ってる。

「いい度胸? それはお前たちのほうだろう? こんな、いつ人目につくか分からないところでこんなことをしているんだからな」

あ。更に追い討ち。

うーん。ネスは人のことをとやかく言う前にもう少し言葉の威力ってものを考えてほしいかも。

ま、これでこそネスなんだろうけどね。

「分かったなら大人しくアジトにでも帰るんだな。ああ、僕らに迷惑がかからないならどこで何をしようと気にしないから勝手にしてくれ」

「ネス……さすがに、それはまずいんじゃないか?」

そう困った顔で呟くマグナ。

剣を構えているのは大したものだけど、試験の時みたいな勢いはない。

試験と実戦は違うということなんだろうケド……

うーん。何とかなるかな? とか思ったけど、そう簡単にはいかないかも。

「おちつけ、俺。クールだ。クールになれ……。そう、目的を果たすのなんてものの六十秒で済む。そして奴らは五人、そう、つまり三百六十秒あれば十分!」

先程激昂しかけた野盗Aがぶつぶつ呟いてる。

「うわー、思いっきり危険人物になってるわ。そのうちメイスを振り回しだすんじゃないかしら。オマケに計算間違えてるし」

「ていうか、そいつの隣にいる奴が持ってるのって斧じゃなくて鉈じゃないか?」

そう言うマグナの視線の先にいた、えーと、一応女の人かな? の野盗Bは何だかいっちゃった目で「お、おも、おもおもおも……」とか呟いていた。

「ねーねー、ねーねー!! ハサハ、お持ち帰りされるの!? ハサハ、エンジェルモートのウェイトレスはしたくないよッ! スクール水着はいやぁッ!!」

「落チ着ケ、ハサハ。先程カラコノアタリ一帯ニ妙ナ電波ガ観測サテイル。ソウイウワタシモ何故カ『クックックッ』ト意味不明ナ言語ヲ語リタクナッテイル。コレハ何ダ? モシヤコレガ人ノ感情トイウモノナノカ?」

「レ、レオルドがいつになく饒舌にッ!! しかも『くっくっくっ』って、お前はいつから部長になったッ!? しかもそれ一般人には好まれない感情だからッ!!」

「安心しろハサハ。君をお持ち帰りするのは…………僕だッ!! そして君はスクール水着ではなく、僕お手製のメイド服を着るんだッ!!」

「落ち着けネスッ!! メイド服なんていつ作ってたんだッ!? ってんなことより、この状況でツッコミを入れるのはお前の役目だろッ!?」

あぁ、どんどん場が混沌に……。正常だと思ったマグナもおかしな電波を受信しちゃったみたいだし、あたしにはもうこの状況を収めるのは無理だわ。というか、あたしももうダメかも。さっきから何だかハサハの頭を「み〜〜☆」とか言いながら思いっきり撫でたくなってきてるし……

「お願い、誰か助けて!!」

思わずそう叫んでしまった。

すると、

「おもッ!?」

「クール、クール、クールにぃッ!?」

いきなり野盗A・Bが突然現れた人影に吹き飛ばされる。


「間に合った……」


響く声。


「トリス」


さらに数人の野盗が吹っ飛ぶ。


「キミたちを」


さらにまた数人。


「助けに来たッ!!」


……ああ、言ってることはカッコいいけどもうダメだわ。すでに毒されてる。でも、何だかイキイキして見えるのはどういうことなのかな? ねぇ、アシュレー?

お約束とはいえ、理不尽なまでに威力の上がりまくった拳――まさに徹甲弾の如き一撃を受けてただで済むハズも無く、野盗の皆さんは一網打尽にされちゃいましたまる


「さて、とりあえずこれで一段落か。まったく余計な手間をとったな」

街に戻って野盗たちを騎士団に引き渡したところでようやく一息ついた。

初っ端から濃かったわ……色々と。

ちなみに謎の電波の範囲外に出ると全員元通りになってました。それどころか、その時の記憶もよく憶えていないようでした。

「何だか大変だったみたいだね」

「ホントにね……。助けてもらっておいてなんだけど、思いっきり疲れたわ……」

はぁ。と疲れたため息を漏らす。

それを聞きとめたのかハサハがあたしの服の裾をくいくいと引っ張り、

「おねぇちゃん、大丈夫?」

「んー、ハサハはいい子だな〜〜〜。心配してくれてありがとね」

ぎゅむ。

「…………ん(ぴこぴこ)」

抱きしめられて嬉しそうに耳を動かすハサハ。

「ドウカシマシタカ。マスター」

「……いや、何でもない。何でもないんだレオルド」

そんな物欲しそうな目してもあげないわよ、マグナ。

(ちくしょうッ! 俺にも潤いをッ!!)


くしゅんっ!

「あれ? 風邪かなぁ……?」

と、ある村の女の子がくしゃみをしていたトカ、いなかったトカ。


「とりあえず、今日のところは本部に戻って休むことにしよう。どのみちこんな時間じゃ宿もとれないし、門だって閉まってるからな」

「え? でも俺たちの部屋はもう引き払っちゃっただろ?」

「いくらなんでも引き払った当日に次の人が入ることはないだろう? それに今日のうちはまだあの部屋は君たちの部屋だ。自分の部屋で休んで何が悪い?」

機嫌悪そうにネスは言い切ると、さっさと歩き出した。

う〜ん、やっぱりどうにかしなくちゃね……

あたしたちにつき合わせてネスにこれ以上迷惑かけたくないし。

……元々、ネスがあたしたちに付き合う義理はないんだから。

そう、あたしが考えていると、

「へぇ〜〜。結構優しいところあるんだな」

「え? またまたアシュレーってば何言ってるの?」

「いや、十分優しいと思うよ。今だって君たちが色々と戻りにくいことを知った上でああ言ってるんだろうからね」

だいぶ遠くなったネスの背中を見る。

「口は悪いのかもしれないけど、それはやっぱり君たちのことを心配してるからなんじゃないかな?」

心配……かぁ。

「何をしているんだトリス。早く行くぞッ!」

「あ、う、うん! 今行く!」

「あはは。それじゃ急ごうか。あんまり遅れるとまた怒られるからね」

ぽん。と一度あたしの頭に軽く手を置くとアシュレーもまた歩き出した。

……あれ? そういえば、なんでアシュレーがあそこにいたんだろ?

「あ、ね、ねぇアシュレー! 聞きそびれてたんだけど何で貴方が――」

「トリスッ!! 置いていくぞッ!!」

広場中に響くネスの怒鳴り声。

あー、もう。話くらいさせてー。

「わかったってばッ!! ……まったく、もう」

ゆっくりと歩き出す。

沈みかけた夕日に照らされて、あたしたちの影が長く伸びる。

その先にあるのは、この街に連れてこられてから今朝までずっと過ごしてきた蒼の派閥の本部、その宿舎。

「まさか、こんなに早く戻ることになるなんてね……」

「どうしたの、おねぇちゃん? みんな、いっちゃうよ?」

「あ、うん。急ごっか、ハサハ」

ほんの少し先をあの大きな武器を担いで歩くアシュレーの後姿を見ながら、あたしは歩く足を少し速めた。


トリスたちが歩き去った後、彼女たちを見つめる一組の男女の姿があった。

「……たまには帰ってみるもんだな。久しぶりに面白い奴をみたぜ」

「何言ってんのよ、アンタは。ほら、とっとと宿に帰るわよ。今日もろくな収穫無かったんだから」

緑褐色の髪の青年が楽しげに呟いたのを見て、黒髪の女性がそうつっこんだ。

「まあ、そう言うなって。お前だって今の奴ら気にしてたじゃねーかよ」

「別にそういうのじゃないわよ。ただ……そうね、何て言ったらいいのか分からないけど、あの青い髪の子」

「何だ? お前ああいうのが好み――げはぁッ!?」

一瞬で青年の体が浮き上がる。

「だーかーらー、そういうのじゃないって言ってんでしょうがッ! まったく。ちょっと妙な気配を感じたから気になっただけよ」

「ったく、冗談の通じない――ああっと、なんでもないからその手下ろせ、な? まあ、腕は立ちそうだったが、そこまで気にするようなことはないんじゃねぇか?」

一瞬で復活して、振り上げられた手に怯えながらも冷静に判断する青年。

「……そうね。アンタに比べたら気にするようなことでもないわね」

「うーわー。何気に酷いこと言うねお前」

「うっさい。いーからとっとと行くわよ! それと、今日の夕食はアンタ持ちね」

「へいへい」

その後も軽口を叩き合いながら二人は雑踏の中に消えていった。


翌朝。

「ふぁぁぁぁぁ……」

大きな欠伸を一つつきながら待ち合わせていた場所――王城前の広場へと向かう。

「おねぇちゃん、前見ないとあぶないよ?」

「だいじょ〜ぶよ〜ハサハ〜。ちゃんと前は見てるから〜〜〜」

フラフラと歩きながらそう答える。

う〜ん。やっぱり寝不足かなぁ。昨夜は色々と考えてこんでたせいか、なかなか寝付けなかったんだよね。

「あ……おねぇちゃん、あぶな」

「ふぇ? なぁに〜ハサハ〜?」

と、ハサハの方に振り返ろうとして、

ぼすっ!!

「おっと。……危ないなぁ〜。ちゃんと前見ないとダメだよ、トリス」

脇道から出てきたアシュレーに顔から突っ込んで、優しく受け止められていた。

「へ? あ、あれ!? アシュレー!? ど、どうしてここに!?」

一瞬で眠気が吹き飛んだあたしは、慌ててアシュレーから離れた。

「ああ、旅に必要なものを色々と探して回ってたんだよ」

「え? それって…………」

どういうこと? と言いかけて口が固まる。

何故なら、

「……ねえ、その顔どうしたの? 何だか猫に引っかかれたみたいに見えるけど」

「あははは……ちょっとね……」

見事なまでにバツの字の引っかき傷をつけたアシュレーは困ったように笑うだけでそれ以上のことは教えてくれなかった。

う〜ん。何があったんだろ?

「あ……おねぇちゃん、マグナおにいちゃんたちがいたよ?」

くいくいと裾を引いて教えてくれたハサハの頭を軽く撫でて礼をいって、待ちぼうけているマグナたちの所へと歩いていく。

「ごっめぇ〜〜ん、まった〜〜?」

殊更に軽い口調で声をかけてみる。

「遅いッ!! 何をやってるんだキミはッ!!」

……やっぱり怒られました。

「さて、申し開きがあったら聞こうか?」

「あは。寝坊しちゃった(はぁと)」

今度はちょっと可愛らしく言ってみる。

「ト〜リ〜ス〜? そろそろいい加減にしないと、その何が入っているか分からない頭を筆舌しがたい状態にしてしまいそうなんだが?」

ぎゅぃぃぃぃん。とネスの手の中にいるライザーが高速でマニピュレーターを回転させる。

「……ドリルと言って貰おうか」

一体何に対して言ってるのよ。おまけにちょっと放電してるし。

そろそろまずいかな〜、と思っていると、急に辺りが騒がしくなり始めた。

「あれ? 何かあったのかな?」

「こらトリスッ! 話はまだ……」

これ幸いと逃げ出す。

後ろからはネスの呼ぶ声が聞こえ、それを宥めようとするマグナがいつものように折檻を受けている音がしていた。

ごめんね〜。マグナ。

そう心の中で手を合わせ、あたしは人混みの中に潜り込んだ。

「わっぷ。……もう。一体何の騒ぎなの? 全然前見えないし」

「う〜ん、どうも城門の前に高札が立ったみたいだ」

いつの間にか隣に立っていたアシュレーが遠くを見るように目を細めながら言った。

「ちょっと見難いな……。ハサハちゃん、ちょっといいかい?」

「…………?」

「よっ……と、どう? 何か見えるかい?」

「わぁ……」

軽々とハサハを肩車するアシュレー。

最初は少し驚いていたハサハも、すぐにいつもとは違う視界に感嘆の声をあげていた。

いいなぁ……。でも、あたしがやってもらってたらちょっとアレだよね……

もうちょっと背、欲しいなぁ……

「えっとね、きのうの野盗さんたちのことみたいだよ?」

「ってことは、野盗たちのアジトが分かったのかな? どう思う、トリス? ……どうかしたのかい? ぼーっとして」

「えっ!? な、なな、何でもないですよ?」

わたわたと顔の前で手を振る。

「そうかい? ならいいけど……」

「うんうん、こっちは大丈夫だから! それでハサハ、何て書いてあるの?」

「んー……」

少し目を細めてもっとよく見ようとしていたハサハが口を開こうとしたときだった。


「よーし! これだぁッ!!」


突然広場中に響いてるんじゃないかと思うくらいの大声がした。

「わッ!? な、何だッ!?」

「おみみイタい……」

驚いてバランスを崩すアシュレー。肩車されていたハサハも落ちないように彼の頭にしがみ付きながら、器用にも耳を押さえていた。

「ふふふ、この賞金が手に入れば、どれだけ治療費が必要になろうと大丈夫だぜ」

おおきい。声も体格も大きな男の人が高札の前にいた。

さっきの大声もこの人なのだろう。

「この野盗団の賞金はオレがもらったーッ!」

そう言うとその男の人はどこかへと走り去っていった。

「……渡り鳥か?」

「へ? アシュレー、何なのそれ? 普通の渡り鳥のこと……じゃないよね」

「ああ、ごめんごめん。僕の世界で今の人みたいな人たちのことをそう呼んでたんだよ。遺跡に潜ったり、依頼を解決したりしていろんな所を旅してる姿を喩えてね」

「へぇ……。それってまるで冒険者みたいね」

「冒険……なんだかそのまんまだね」

少し苦笑を浮かべるアシュレー。確かにその通りかも。

「あはは。そうね、そのまんま。でも渡り鳥かぁ……。ちょっとロマンチックな響きかも」

うん。

何より自由を愛する冒険者たちを呼ぶにはぴったりの名前かな。

「あ。それで、高札には何て書いてあったの?」

高札の内容を聞いたあたしは、あることを思いついた。

上手くいけば、これでネスを自由にしてあげられるかもしれない。

よっし! 頑張らなくちゃッ!!


高札の内容を確かめたあたしたちは、再びマグナたちと合流していた。

「流砂の谷か……なるほど、考えたな」

相談事がしやすいようにと導きの庭園まで移動すると、まず最初に口を開いたのはネスだった。

「あそこは人が入りにくいほど険しい場所が多い。まさしく身を隠すにはうってつけの場所だな。騎士団が遠征にでてなお退治できずにいるのも頷けるな」

一人で納得したように頷くネス。

いやー、一人で納得されても困るんだけど……

「それでネス、トリスたちの見たっていう冒険者が野盗たちを倒せると思うか?」

「……無理だろうな。その冒険者がどの程度の腕なのかは知らないが、相手は集団だ。それに、力押しで何とかなる相手ならとっくの昔に騎士団に討伐されているさ」

「そうか……」

うーん。と考え出すマグナ。

何を考えているのか二人ともそれっきり黙ってしまった。

そろそろいいかな?

「ねえねえ、二人とも。その野盗たち、あたしたちで退治してみない?」

「「はぁッ!?」」

「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。ほら、人の為になることをするのが召喚師の役割でしょ? だったら……」

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……。君はほんっとうに馬鹿だな。今の話を聞いていたのか? 騎士団でさえ手を焼いている相手なんだぞ? 僕たちでどうにかできるわけ無いだろうッ!!」

がぁーッ!! とネスのカミナリが落ちた。

うぅ。そこまで怒らなくてもいいじゃないよぅ……

「まあまあ、ネスティ。そんなに怒らなくてもいいんじゃないかな? それでトリス、何か作戦は考えてるのかい?」

「え、作戦?」

えーと、正面から行く……ってのは作戦でもなんでもないよね?

「……はぁ。いいかいトリス、ただでさえこっちは人数で負けてるんだ。それに簡単に退治とか言ってるけど、そんなに――素人って言っていいくらい戦いに慣れてないだろ? そんな状況でなんの策もなしに行けば間違いなく返り討ちにされるよ?」

「あぅ……でも……」

ぐうの音も出ないというのはこういうことなんだろう。

アシュレーの口調は静かなものだったけど、だからこそ一層堪えるものだった。

「おねぇちゃんいじめちゃ、ダメ」

「あたたッ!? ちょ、ちょっとハサハちゃん!? それ地味に痛いからッ! 髪とか耳とか引っ張るのやめてーッ!!」

「や」

「『や』って……」

肩車されたまま頬を少し膨らませてアシュレーのことを引っ張るハサハの姿は、なんだか、こう、込み上げてくるものが……ッ!!

……はッ!? 今、また変な電波を受信しかけたような……

(チッ。もう少しで面白いものが見れたのに)

い、今だれか舌打ちしなかった〜〜〜ッ!?

「と、とにかく、退治する云々はいったん置いといて、先に野盗たちがどれくらいの人数なのか見てきた方がいいんじゃないかな? それで無理だと分かったら騎士団とかに任せるってことにしてさ」

「マグナッ!? 君まで何を言い出すんだッ!?」

「ネス、これもいい機会なんじゃないかな? この先旅をしてればこういうことに巻き込まれるってのは少なからずあるだろうからさ」

「それはそうかもしれないが……」

おぉ!? マグナがネスに口で勝ってる!? ……明日は雪ね。

「何か今物凄く馬鹿にされた気がするんだけど?」

「気のせい気のせい。それで、まずは偵察に行ってからってことでおーけー?」

頷きあうあたしたち。

そして一斉にネスへと振り向く。

「はぁ……仕方が無いか。どうせ何を言ったところでやめはしないんだろう?」

諦めたため息とともにネスの許可が出たことで、あたしたちはハイタッチを交わしたのだった。


「うわ……凄い数……」

流砂の谷に来たあたしたちは野盗たちに見つからないようにしながら、辺りを一望できる高台に身を隠していた。

そこから見えるだけで二、三十人近い数の野盗の姿が見える。

途中ですれ違った数や、ここにはいない数を合わせるともっと多くなるだろう。

「これは、予想以上だな……。これでわかったろう? 僕たちではどうにもならない。後は騎士団に任せるんだ。さあ、見つからないうちに引き上げよう」

「……? ちょっと待ってネス。様子が変じゃない?」

言い捨てて歩き出そうとするネスの服の裾を掴んで止める間も、あたしはざわついている野盗たちの方を向いていた。

さっきまで宴会じみた雰囲気でお酒やら料理やらを囲んでいた野盗たちが、急に武器を掴みだして険悪な雰囲気になってる。

「何があったんだ?」

「誰か捕まったみたいだね。……あれ?」

「ど、どうしたのアシュレー?」

「いや……あの連れて来られてる二人組の男の人の方に見覚えが……」

そう言われて野盗たちに囲まれて連れて来られている二人組をよく見てみる。

確かに見覚えが……あッ!!

「ちょ、ちょっとあの人この間の冒険者じゃない!?」

「そうなの?」

「うん……お声おっきかったの……」

えーっと、もうちょっと緊張感持とうね。二人とも。


「こいつらか、ワシらを退治しに来たという間抜けな冒険者は」

「はあぁ……。簡単な仕事だ、って自信満々だったのは誰だっけ……? あっさり捕まっちゃったじゃないの!?」

「いやー、まさかこんな大所帯とは思ってなくてさぁ……。あはは、まいったねー。しっぱい、失敗っと」

野盗の親玉の前に突き出されてなお、冒険者の青年の口調は普段どおりの軽いものだった。

それは、野盗のみではなく、相方の女冒険者をもイラつかせる。

(こいつは……)

「おめぇら! 自分の立場ってもんがわかってんのかぁ?」

「わかってるってばさ。なあ、おっさん?」

縛られているにも関わらず、不敵な笑み浮かべる青年。

「……!!」

「ちょ、ちょっと!?」

「今のオレたちはまさに絶体絶命……だけど、そういう状況こそがオイシイのさ。奇跡の大逆転こそが物語の王道ってね♪」

「ほぉ……」


「助けるわよ!」

やっぱり、このまま見てるなんてできない。

「助けるだって? そんな必要がどこにあるというんだ。君は今、あいつらと戦うことは無茶だと学んだばかりだろう? ましてや彼らと僕らは赤の他人なんだ。わざわざ危険を犯して助ける必要はない」

確かに無茶なのはわかってる。

でも……

「赤の他人だとか……危険だからとか……そんなの、そんなの誰かを助けるってことと関係ないわッ!!」

「トリス、待つんだ!」


あたしはもうイヤ。

心に嘘をついて、見えないフリをして生きていくなんて……

目を背けられることが、無視されるってことがどれだけ悲しいことか知ってるから!


「やれやれ、トリスにも困ったもんだよな、ネス?」

「まったくあいつはッ!! 心配するほうの身にもなれというんだッ!!」

「はは。そこまで心配する必要はないと思うよ」

「どういう意味だ」

「ネス、気付いてないのか? 俺たちが話してる間……いや、あの人たちが捕まってるのが分かった直後かな、アシュレーが反対側に向かってるんだよ。後ろから挟み撃ちにするってさ」

「何をバカなことを……彼の方こそなんの関係もないじゃないかッ!」

「そんなこと関係ないんじゃないかな。アシュレーはただ、助けたいから助けるだけなんだよ、きっとね」

(そして、俺もそうありたいと思うよ)

「さ、俺たちも行こう、ネスッ! あいつらだけじゃ危ないからなッ!!」


ぎぃんッ!

高台から駆け降りてきた勢いを乗せた杖の一撃が二人組の近くにいた野盗を弾き飛ばす。

「え?」

「今のうちに早く逃げてッ!!」

「ありゃま……。まさか本当に助けが来るとはねぇ」

少し驚いた顔の二人。

その後ろから爆発音が響いて数人の野盗が吹き飛ばされる。

「まったく……、こうなった以上は少々憂さ晴らしに付き合ってもらうからなッ! だいたい、君らは一体何なんだッ! 君らさえこんなに都合良く捕まったりしなけりゃこんなややこしいことにはならなかったんだぞッ!!」

「まあまあ、落ち着けってネス。そんなこと言ってたって始まらないんだからさ」

うわー。なんかネスが切れちゃってない?

……お兄ちゃん、後はよろしくッ!

「そこ、すっごく自分勝手なこと考えるなよー」

「召喚師だと!? おめぇの差し金か冒険者ッ!!」

「んーにゃ、違うね。だってさ……」

そう言って青年がほんの少し力をこめると、

「なっ、縄が!?」

「このとおり、頃合いを見て、カッコよく反撃するつもりだったのさ」

「頭目の貴方を確実に倒すためにね?」

自由になった二人が武器を構える。

その姿はあたしたちとは比べ物にならないほど決まっていて、少し見とれてしまった。

「ぐぐ……ッ」

「ちょいと筋書きは変わっちまったけど、大逆転といかせてもらうぜ!」

言うやいなや、手にした大剣を野盗の親玉へと振り下ろす。

「くッ!! やるじゃねえか……だがな、そうおめぇらの思いどおりにやられるラウゴ様じゃねぇんだよッ!! 野郎共ッ!!」

すんでのところで剣をかわした親玉――ラウゴの声が谷中に響き渡る。だけど……

「……なんだぁ? なーんにも起こらないぜ?」

「んな馬鹿なッ!! この谷にゃ、百人を超す俺様の部下がいるんだぞッ!?」

……えーと、まさかね。でも、彼だったらそんな数なんてものともしなそうな気がするなぁ。昨日みたいにノリノリでぶっ飛ばしちゃっていそう。

(うーん、どっかのマスターほどじゃないだろうけどねー)

……そーいや、ARMSのシンボルって猟犬と首輪をモチーフにしてるんだっけ。

「ちッ!! だとしても、この数の前じゃどうにもならねぇだろッ!!」

援軍が来なくても、野盗たちの数はあたしたち全員を合わせたより遥かに多い。

「数の力ってモンを教えてやらぁッ!」

「あー、吼えてるとこ悪いんだがな。後ろ、見てみな」

「何? ……な、なんだとぉッ!?」

あ、うん。やっぱ驚くよね。

だって、

「何だ、もうギブアップか、情けない。せっかく人がドリルの素晴らしさを理論込みで教えてやろうというのに」

そう言うネスの後ろにはこの場にいた野盗たちの半分が山になって気を失っていた。

何をしたのかまでは分かんないケド、やたらと青いマグナの顔を見るとろくなものじゃないんだろーなー。

あ、他の野盗の人たちもちょっと怯えてる。

「……トリス、後でお前にも教えてやるからな。カクゴシロヨ?」

「えーと、そういうのはむしろマグナに教えてあげた方がよくない? ほら機属性だし」

「まてッ! だからなんでそこで俺に振るッ!!」

ふふふ、それはマグナが次男だからですよ。

「ふふふ、安心したまえ。もちろん二人一緒にみっちり、きっちり、しっかりと親切丁寧に教えてやる。もし、わからないなどと言うようなら……」

くっくっくっ。とネスの顔に黒い笑みが浮かぶ。

あの……、凄い勢いで土下座したくなってきたんだけど。

「で、まだ他にあるのかい?」

「くっ……」

おっと、なんかもーネスの暴走のせいですっかり忘れてたわ。

ネスが倒し(後日、搬送された医務室でうなされながら妖しげな歌を歌う野盗の姿があったトカ)損ねた野盗も、冒険者の二人とマグナ、レオルドたちによって次々に無力化されていた。

……あれ? あたし、最初以外何もしてないッ!?

「……おねぇちゃん、気にしちゃ、ダメ、だよ。それに、最初がかんじん、だよ?」

「そうさなぁ。確かに最初が肝心だが……最後まで気を抜いちゃあいけねぇんだぜ、お嬢ちゃんたち?」

「え!?」

がっ! と頭を殴られた感じがして、視界が揺らぐ。

一体何が……ああ、あたし、頭を殴られたんだ。

何故だか人事のように感じてしまうくらいに現実味がない。

「くっ、ははははははははッ!! 形勢逆転、だなぁ、おい。さあ、武器を捨ててもらおうか? 抵抗したらこのガキの首、へし折るぜ?」

「まいったね……こりゃ」

「いいか、ドリルというものはだな。最強の回転兵器とも言われていて、確かに動力を必要とするデメリットも存在するが、それを逆にとって動力が生み出すパワーを―――トリスッ!?」

「ネス……もう少し周りも見てくれ……」

「ちょっとあんた、いい加減あきらめなさいッ!! 女の子に手をあげるなんて恥ずかしいとは思わないのッ!!」

「おねぇちゃんを放してッ!」

あれ? みんなが何か言ってる?

ああ、駄目だ。頭に靄がかかってるみたいでよくわからないや。

……あたし、また、失敗しちゃったのかな。

「うるせえ、うるせえ、うるせえッ!! 言うとおりにしやがれってんだッ!!」

「わーった、わーったよ。武器は捨てる。だから、早いとこその子を放してやってくれないか?」

がしゃん。と重い音を立てて剣が地面に落ちる。

それを皮切りに次々と武器が放り出される。

「はははははははッ! 一時はどうなるかと思ったが……甘いなぁ、あんたたち。まあ、そのおかげで俺様は命拾いしたんだがなぁ? ぎゃはははははッ!!」

だ……め……

「さぁて、さんざん痛めつけてくれたんだ。きっちりお返しさせてもらわねぇとなぁ?」

あたしの……せいで……

「ぎゃはははははははははははははははッ!!」

「そんなの、絶対に、させるもんかーーーーーーーッ!!」

無意識の内に何かを掴む。

手のひらのそれを強く握り締め、そして―――――――――閃光が、辺りを包み込んだ。


「な、なんだぁ? 何も起きないじゃねぇか。ったく驚かせやがって」

「いいや、もう起きてるさ。そして、あんたの負けだ」

不意に聞こえる静かな――だけど、どこか怒りを含んだ声。

それにラウゴが気付いて振り返る間もなく、


「ボルト―――」


あの巨大な武器――銃剣(バイアネット)をラウゴに向け、トリガーを引く。

撃ちだされた弾に続くように、幾分離れていた間合いを一気に詰め寄るアシュレー。

そして――


「――ファニングッ!!」


銃弾と斬撃という二つの牙がラウゴに襲い掛かった。


「どうもありがとう。おかげで助かったわ」

アシュレーの一撃で完全に意識を失ったラウゴに簡単な応急手当をして、ぐるぐる巻きに縛り上げると、黒髪の女性がそうお礼を言ってきた。

「いえ、お気になさらず。単にこちらのバカ者が軽率な行動をしただけですから」

「もぉ、そういう言い方って無いんじゃない?」

「いや、今回はネスティが正しい。トリス、後でしっかりお説教してもらうからね」

うぅ、二人がかりでのお説教は勘弁してください……

「むしろ、いらぬ手助けで邪魔をしてしまったんじゃ……」

「あら、そんなことはないわよ? こっちだって、そこのお調子者の立てた計画だけに、不安いっぱいだったんだから」

「……コホン」

相方の絶対零度の視線を受け流して、わざとらしく咳払いをする青年。

「貴方たちが連中にスキを作ってくれたから、うまくいったのよ」

「あー、なんだ! それはともかく……」

形勢不利と見たのか、持ち前の大声で話を遮る。

「自己紹介、まだだったよな?」

その一言であたしたちはまだお互いに名前さえもしらないことに気付いた。

あはは。いやー、大変な状況だったせいかすっかり忘れてたわ。

まあ、とりあえず気を取り直してお互いに自己紹介する。

緑褐色の髪の男の人は剣士のフォルテ、そして黒髪の女性はケイナさんっていって二人であちこち旅をしてるんだって。

「なあ、召喚師さんたち。ついでといっちゃ悪いが、ひとつ、頼まれてくれないかい」

「はい?」

「ここでのびてる連中をしょっぴいてもらえるよう、騎士団を呼んできてほしいんだ」

「誰かが見張ってないとこいつらが逃げるかもしれないし……。迷惑だとは思うけど、お願いできない?」


結局、騎士団のところにはネスティとトリスが行くことになった。

僕たち居残り組は野盗たちの見張り番。

「それにしても、ずいぶん集まったもんだなぁ……」

百人ほどはいるんじゃないかと思える野盗たち全員を縛り上げるにはさすがに手持ちの縄だけでは足りずに、野盗たちの持っていたもので代用した。

「確かにな。ここまででかくなるのを放ってたなんて騎士団の連中は何やってたんだか。……隣、いいかい?」

軽く頷くと、フォルテさんは僕の隣に腰を下ろした。

「アシュレーだったか? あんた強いな。俺の知り合いにもあんたほどの腕前のやつはそういないぜ?」

「そうでもないですよ。僕より強い人はたくさんいますって」

「いや、そういう強さだけじゃなくてな。なんつーか、そう、心の強さとでもいやいいのか? 土壇場での強さってのがあんたは半端じゃないんだよ。少なくても、あんな人質取られた状況で狙いを外さないってのは中々できるもんじゃねぇさ」

そう言ってフォルテさんはにっと笑ってみせた。

「あいつが油断してたからできたようなもんですよ。もう一度やれって言われたら遠慮しときますって」

「あはは。さすがにいくらオレでもあの状況はもうゴメンだな」

あはは。と互いに笑いあう。

危険を一緒に潜り抜けたという意識からか、あるいは彼自身の持つ気さくな雰囲気のせいか、気付けば警戒心などというものはどこかにいってしまっていた。

まあ、野盗の残党もいないだろうし問題ないか。

……そう、思っていたのが甘かった。

「ん? どうしたんだ、アシュレー? なんか顔が引き攣ってるぜ?」

「あ、あはは。えーと、後ろ、見た方がいいですよ」

「は? 後ろに何が…………げ」

「あら、ずいぶん楽しそうね、フォルテ?」

ニッコリと微笑むケイナさん。

だ、だめだ、この人には逆らっちゃいけない……ッ!!

何故か分からないけど、マリナがお玉を持って微笑んでる姿が一瞬見えたよッ!!

(ああ、あの幼馴染兼、恋人兼、鎖の先ですな。なんでも聞いたところによると以前泥棒をお玉で撃退したことがあるトカ)

どこで聞いた爬虫類ッ!

(ふふのふ〜。我輩に知らないことは何もないのであるトカないトカ)

微妙にどっちなのか分かりづらいぞ、その発言。

っていうか、お前は星に帰ったんじゃなかったのかッ!?

(我輩はどこにでもいますよ。そう、すべては貴方の心の中にッ!)

ぼ、僕の中から出て行け〜〜〜〜ッ!!

「ちょ、ちょっとアシュレー君ってば大丈夫? 急にガタガタ震えだすからビックリしたわよ」

「だ、大丈夫。ちょっと爬虫類が……いえ、何でもないです」

「そう? でも、無理しないでね? 見張りは私たちでやっとくから少し休んだら? あれだけの数の相手したんだし、多分疲れてるのよ」

「おおッ!? ケ、ケイナが珍しく人の心配をしている……。そーか、やっぱりお前こういうのが――――げはぁッ!?」

「まったく、懲りないわねアンタ」

呆れきった顔で言うケイナさんだけど、恐らくいつものことなんだろう。

まあ、指摘したら二人とも否定するんだろうから言わないけど、本当にイヤなら一緒に旅なんて出来ないしね。

……何ていうか、うん、凄く親近感が湧くなぁ。

「なあ、なんでそんな生暖かい目で俺らを見る?」

「いえいえ、そんな目なんてしてませんよ? 気のせいじゃないかな? ああ、せっかくですから少し休ませてもらいますね」

「あ。おい! 絶対なんか変なこと考えてるだろッ!」

フォルテがなにやら騒いでいたけどスルー。

馬に蹴られたくはないからね。

さてと、二人は上手くやってるかな……

何だか気持ちがすれ違っているばっかりだったみたいだし、ここできちんと仲直りしてくれれるといいんだが。

「ふぁ……」

さすがにちょっと疲れたかな。

二人が戻ってくるまで少し眠ろう。

「マリナ……必ず帰るから……」

待っていて。

僕は必ず、君との約束を―――――


遠くで声が聞こえる。

目を開けると、日はもう沈みかけていて暗くなってきていた。

旅の始まりは波乱含みで幸先はいいとは言えないけれど、一つ一つ積み上げていこう。

いつの日か、約束を果たせるそのときまで。


あとがき

う〜ん。前の二話と比べていきなり長くなってます。まあ、前の二話は序章的な位置と思っていただければ……

長さ的にはどうなんでしょ? コレくらいのほうがいいのか、それとも前の方がいいのか……う〜ん。

まあ、それはさておき第2話をお送りしましたッ!

いきなりキャラが壊れてますが勘弁してください。

……全てはトカゲ(+友人Z)のせいなんです!

奴が、奴が妙な電波を一緒に持ってくるからッ!!


コホン。失礼、取り乱しました。

さて、次回はあの人の登場ですよ。はい、お芋が大好きな人です。

……一部の攻略本のキャラ紹介にまで『好物はおイモ』なんて書かれてるのを見たときは噴きましたよ、わたしゃ。他のキャラにはそんなの無いのに……。一応、原作ではメインヒロインのハズなんだけどなぁ。

そして、次回はちょっとしたことを考えてます。……ただ、受け入れて頂けるかどうか不安ですけど、ね。


ではではレス返しをば……ぬおっ!? なんだお前ら! うわこらやめ……


ぷすッ!! ……ばたり。


「ふっふっふっ……本編でぞんざいな扱いをするのが悪いのですぞ。さて諸君、これよりあとがきは我々が侵略したトカ」

「げー。げげ、げげげー」(とんとん)

「ん? どうしたゲーくん」

「げげー。げげげッ! げーげげ」

「何? もうレス返ししか残ってないって!? そんな! はるばるファルガイアから飛んできた我輩らの苦労は一体ドコにッ!! ああ、神はどこにもいないトカ! 何のこれしき、諸君らの呼ぶ声がする限り我輩の溢れ出す漢気は何者にも負けはしないトカッ!」

「げげーッ!!」


ミアフ様>トカ&ゲーの登場はないんですか?
「誰かが呼ぶ声がする。我輩を呼ぶ声がするッ!」
「げげーッ!」
「お呼びじゃなくても即惨状……もとい即参上ッ!」
「げげげーッ!!」
「世紀の天才科学者トカあーんど助手のゲー君、ここに、見・参ッ!!」
「げげげげーッ!!!」


kenken様>本編のアシュレーが〜
「げげげ……。げげ、げーげげ。げー、げげげッ。げげげ、げげー」
「的確な御意見ごもっとも。でも、作者も色々と考えているようですので生暖かい眼で長く見守って下さい……と、言ってますな」
「げげーッ!?」(ブンブン)


KING−JUM様>アシュレーがすごく落ち着いて〜
「確かにその通りトカ。少なくとも我輩たちといるときの彼はここまで落ち着いてはいなかったッ!! ああ、思い出されるしどい仕打ちの数々……」
「げげげ……」(ぽんぽん)
「おお……慰めてくれるのか、ゲー君。大丈夫、大丈夫ですぞ、だって我輩は男の子だものッ! それに……なぁに、今に化けの皮が剥がれまさぁ。ちょっと落ち着けばすぐにでも前のやんちゃな頃のアシュレーに……げっへっへっへっ」


蒼夜様>ゲーのいないトカ〜
「な、ななな、なにを仰いますか〜〜〜〜ッ!! 我輩にとってゲー君は助手ッ! あくまで助手ですぞッ! 我輩にとってなくてはならないのはこの知能指数1300を誇るスペース頭脳ッ!!(注:攻略本のプロフィール参照トカ)」
「げげ〜……」
「はッ!! いや、ゲー君? 何も君が要らないトカ言っているのではないのだよ? むしろ我輩たちは二人揃ってプリキュアであるトカないトカ……」
「げげ……。げげーーーーーッ!!」(男泣き)
「おおッ!! 分かってくれたかゲー君ッ!!」(がしッ)


烏竜茶様>始めまして〜
「おやおや、これはご丁寧に……。ささ、どうぞこちらにお上がりくださいな。外は寒かったでしょう……粗茶ですが、これでも飲んで温まってください……」
「げ、げげー?」
「はッ!? わ、我輩は一体全体今何をッ!? っていうかそんなに寒かったら我輩たち冬眠しちゃうッ!?」
「げげ! げげげーッ!!」
「こうしちゃおれんッ! ゲー君、コタツを出すのだッ!! あ、みかんも忘れないでねッ!!」


ひいらぎ様>三人姉弟な召喚師と異世界の優しいおにーさん〜
「……違う」
「げげ?」
「違う違うちっがーーうッ! こんな優しいアシュレーなんて我輩の知ってるアシュレーじゃないやいッ!!」
「げげー、げげげ、げー」(ぽんぽん)
「うぅ……つ〜よいぞ、ぼくらのブ〜ルコギド〜ン……せ〜いぎのみかただ……」


アッシャ様>トカ&ゲーには是非とも出張ってきて欲しい
「呼んだッ!?(復活) 我輩たちを呼びましたかッ!?(そしてトップギア)」
「げーッ!!」
「ほらほらゲー君も嬉しそうですぞッ! もちろん我輩も嬉しいトカッ!! 我輩たち、もっぱら扱いやすいと隣近所でも大評判ッ! だからご心配はいらないトカ(この後、一時間以上話し続けたので以下略)」


魔戦士様>思い切ってアガートラーム
「だったらいっそ、我輩謹製のこの素敵武器などはいかがでしょう?」
「げげー?」
「そう、右腕をそっくりそのまま巨大なドリルと交換し、余った左腕は何でも掴める素敵なマジックハンド(U字型)と交換ッ!! これであなたもあのブルコギドンになれるトカッ!? 今なら出血大サービスッ! オマケでライフリターナーまでつけちゃうトカ。そして価格は驚きの百万ギャラぽっきりッ!! お買い得だよ、おとっつぁんッ!!」
「げげげーッ!?」
「……ただし、手術料金は別会計となっております」
「げげー……」


「ふむ、こんなところですかな?」

「げげー」

「では諸君、また次の機会にお会いしましょう。それではそのときまでサラバッ!」

「げげーッ!!」


「ところでゲー君、アシュレーはいつの間に『アレ』を倒していたのだ? 我輩が聞いた話では確か……」


うぅん……一体何が……はっ!? レス返しが終わっている!?

おのれ、トカゲたちめ……。だが、最後の仕事は渡さんッ!!

次回! 

月の剣と太陽の杖 第三話 聖女 〜Brazing Night〜

「なら僕は……もう一度、この剣を振るうッ!」

お楽しみにッ!!

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