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▽レス始

「霊能生徒 忠お!〜二学期〜(十三時間目)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-11-06 00:12/2006-11-11 19:00)
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 夕映は疑い始めた。自分を取り巻く環境―――大げさな言い方をするなら世界に疑念を持ち始めていた。
いや、疑念というより適切な言葉がある。期待、だ。
 その期待のトリガーは、横島だった。

「よう、夕映吉、昨日は怖い思いさせて悪かったな」

 昨日の夜の出来事の顛末を聞いた時、横島は本当に済まさそうに前置きしてから、夕映の質問に答え始めた。
 昨日の夜の偽ネギは、横島が朝倉に渡した式神が暴走したためだ、と。
 クラスの面々は教師達も含めてその説明に納得したようだった。だが少数の生徒はその言葉に疑問を持った。
 夕映と、そして長谷川千雨だった。そしてその二人も別々の行動をとった。千雨が厄介ごとを恐れて関わらないことを選んだのに対して、夕映はその不審を追求することにした。

「矛盾します。横島さんは朝倉さんのイベントを妨害していました。そんな横島さんが朝倉さんに式神を貸し出すのは矛盾しています」
「あの時、横島さんは本当に慌てていました。つまりかなり危険な状況だったということ。なのにオカルトGメンの人たちは特に横島さんを追及していません。お友達だから?いえ、話した感じ、そんな人達とは思えません」
「横島さんは『奴ら』といっていました。会話の様子からして『奴ら』が式神を指す言葉には思えません」

 疑問は疑問を呼び、さらには今まで見逃していた綻びすら見つけてゆく。
 それは例えば麻帆良学園全体にまつわる、あの巨大な世界樹をはじめとする異常。そして、ネギ先生の周りで起こる大小さまざまな原因不明の現象。

「何か、あります」

 常識の外の、霊能ですらない、別の何か。
 世界という、スリルと興奮という果肉を内包した果実。その甘美な果肉を包む退屈な常識という皮に入った、横島という亀裂。
 その傷を、チャンスを夕映は、見逃す気はなかった。


 霊能生徒 忠お! 二学期 十三時間目 〜ソードの5正位置(矛盾と狡猾)〜


「へへへー、私のカード…」

 ラブラブキッス大作戦の翌朝。のどかは幸せいっぱいの気持ちだった。手にしているのは朝倉から貰った優勝者への豪華商品――仮契約カードだった。もちろん、のどかはそのカードの正体など知らず、ただの綺麗なカードだと思っている。

「ネギ先生と初キ、キ、キ、キスの証です。」

 しかも、昨日の夜は告白に対しての返事まで聞けてしまった。残念ながらいきなり恋人、とまではいかなかったが、お友達になれた。一生分の幸運を消費してしまったのではないか不安なくらいだ。だが、後悔はしない。

「しあわせ〜。えへへ…」

今日は完全自由行動だ。可能なら今日もネギ先生を誘おう。二日もネギ先生を連れて行ってしまうのはいいんちょやまき絵に悪いかもしれないが、しかしチャンスなのだ。
 ネギ先生と私服でラブラブデ〜トの…!

「きゃぁぁぁぁぁぁっ…!私ったら…」

 何事か妄想して体をくねらせるのどか。そうしている間に、それぞれ自分の部屋に、今日の準備をしにいった皆に遅れをとり、独りになってしまう。
 周囲に人気がなくなったことに気付いたのどかは、自分も急がねばと歩き出す。
 だがその途中、気になる集団を見つけて足を止めた。
 それはネギと朝倉、アスナ、刹那、そして横島。この修学旅行に入ってから、急に見られるようになった取り合わせだった。

(一体なんだろ?)

 のどかはとにかく声をかけようとして

「どういうつもりだ?」

 横島の、普段からは想像も付かないような冷たい声で、のどかの言葉も喉の奥で凍りついた。


「どういうつもりだ?」

 それが、横島が最初に二人に向けて言った言葉だった。二人とは朝倉とカモ――昨日のラブラブキッス大作戦の仕掛け人たちだ。

「あ、あはは…お、落ち着きなって横島」
「笑うな。答えろ」

 普段のお気楽さが欠片も見えない横島の口調に、朝倉は笑顔の失敗作とでも言うべき、引きつった表情で言い、そして横島はにべもなく斬って棄てる。

「ちょ、そ、そんなに責めるこたぁねーだろ、横島の姐さん。
 俺達は兄貴のためを思って…」
「何がネギのためを思ってよ!」

 カモの言い訳を、アスナが横からぶった切った。

「一般人――しかも本屋ちゃんみたいな荒事が似合わない子を巻き込んで!
 怪我でもしたらどうするのよ!」
「アスナさん!お、落ち着いてください!」
「ネギ!アンタもどうするつもりよ!?」
「う、うえぇっ!ぼ、僕ですか!?」

 アスナを止めようとしたネギは、とんだとばっちりで怒鳴られて身をすくませる。アスナは再び朝倉に怒鳴りつけようとするが、その鼻先に横島の掌がかざされた。

「悪い。ちょっと後にしてくれ」
「えっ?う、うん…」

 普段と違う横島の態度に、アスナは気圧された。
 横島はびくつく一人と一匹を見据える。

「それで、ネギのためを思って、どうしたんだ?」
「だ、だから戦力を揃えようとしたんだよ。
 姐さんたちは戦力不足なんだろ?だから腰の重い兄貴に代わって俺っち達が一肌脱いだってわけさ」
「そうよ。だからさ、そんなに怒ることはないっしょ?それに面白そうじゃん。
 皆だって話せば、ノリノリで協力してくれるって」

 後半自慢げに言うカモと、気軽く言う朝倉の様子に、アスナは怒りを覚える。思わず怒鳴りつけそうになったが、しかしそこは横島に言われていたので踏みとどまった。それは刹那も同じようで、アスナと一緒に横島の次の言葉を待つ。
 だが、横島は無表情にカモ達を見下ろしてから、やがて小さくため息をついて、こう言った。

「……ま、それならしゃーないわな」
「さすが姐さん!話が分かるぜ!」

 我が意を得たりとい風に胸を張るカモとほっとした表情の朝倉。
 それに対してアスナと刹那は、横島の投げているような言葉に目を剥いた。
 特にアスナは横島に食って掛かった

「ちょ…!横島さん!?仕方ないで済ますつもりなの!?」
「済ますしかないだろ、こいつらの性根を考えればお説教しても仕方ないさ」

 アスナの剣幕など、暖簾に腕押しとでも言うように、横島は肩をすくめてアスナを見て…そこで、アスナはようやく気付いた。横島の目が笑ってないことに。
 だって、と横島は前置きしてから、再びカモと朝倉を睨みつけて、声だけ明るい様子で言い放った。


「だってこいつら、クラスメートが何人死んでもいいって思ってるような奴らだぞ」


(えっ……)

 のどかは、横島の言葉の意味を理解できなかった。
 湯上り休憩処から死角になる角に身を潜めて、のどかは横島の言葉を反芻する。
 死んでもいい―――誰か?
 クラスメートが―――死ぬ?
 常識に基づき、理性が否定する。
 何を馬鹿な、そんな何かの聞き間違えだ。何かの冗談だ、と。
 しかし横島の言葉にまとわり付く言外の力を嗅ぎ取った本能が、それらを打ち破るほどの恐怖を生産する。
 そう、怖い。
 のどかは、とっさに隠れて盗み聞きしてしまったことを後悔した。
 興味半分で、自分は何か取り返しの付かないことをしているんじゃないか?

「何を…何を言ってんのよ!私達、そんなこと欠片も思ってないわよ!」
「そうだぜ!いくらなんでも聞き捨てならねぇよ、姐さん!」

 震える体で壁に寄りかかって立つのどかの耳に、朝倉と、そして先ほどから会話に参加している聞き覚えのない声が入ってくる。その強い口調に込められている感情は、心外という怒りだった。

「何言ってんだ?手前らの行動は、つまりそういう意味だろ?」

 だが、それに対して返された横島の口調は軽く、しかしその底には朝倉たちの怒りなど比べようにならないほどの、何かが存在しているように思えた。
 反論は許さないとばかりに、横島は追求を続ける。

「カモ。お前、戦力を増強って言ったよな。
 なるほど。従者は魔法使いの盾だ。従者を増やせば盾が増えて有利になる。
まあ、古菲や楓ちゃん以外の誰かが従者になった場合、その盾は使い捨てだろうがな」
「そんなことねぇだろ!現にアスナの姐さんは…」
「アスナちゃんは特別だ。素質があったんだよ。
 普通、何の訓練もせずに戦いに出したら良くて盾、悪くて的になって終わりだ。
 もっともお前は自分の身とそれを保障してくれるネギが大事なんだから、他の奴が何人死んでも問題ないわな。そういう意味では、ネギへの好意に付け込んでクラスメート達を使い捨ての盾にするってのは、いい作戦だよ。尊敬するぜ」
「そ、そんなこと…俺っちは…」

 明らかに侮蔑を込めて言い放たれた『尊敬』という単語。
 隠れて聞いていたのどかは自分に向けられたものでもないのに、酷く暗い気持ちになった。まして向けられた本人(のどかはまさかオコジョが喋るとは思ってなかったので誰か自分の死角にいる人が喋ったのだと思っている)はどれだけ傷ついただろう。

(ほ、本当に…横島さんなの?)

 声は横島だ。声色も、声のトーンも、全て普段の横島のものだ。だが、それでも信じられなかった。
 横島が誰かを傷つけるようなことを言う。それが信じられなかった。
 嫉妬交じりにネギに何かを言う時でさえ、そこに込められている侮蔑や憤怒はどこか間が抜けていて、深刻に誰かを傷つけるようなものではなかった。
 だが…では、今のは何なのだろう?
 憧れていた人の豹変に、のどかは足元が崩れ落ちていくような気分になる。
 だが、真っ暗になった視覚に対して、聴覚は横島達の会話を拾い続ける。


「朝倉、お前にしてみても生徒は死んでもらったほうが都合いいもんな?
 修学旅行先で謎の変死、いい記事になるもんな、え?」
「じょ、冗談じゃない!いくらなんでも変な言いがかり付けるなら怒るよ!?」
「怒ってるのはこっちだ」

(ひっ…!?)

 横島の声から軽さが消えた。その一言は、朝倉の怒鳴り声よりも遥かに大きく聞こた。
 のどかは挙げてしまいそうになった悲鳴を無理やり呑み込む。

「朝倉。俺は説明したよな?洒落にならない状態だって。今は命の危険があるって。そしてお前は納得してたよな?分かったって言ったよな?
 それなのに、面白そうだから巻き込もう、だと?
 それってつまり、ただ巻き込んだほうが面白そうだからって理由で、クラスメートの命を危険に晒す、ってことだろ?―――エンターテイメントの為に、自分が見てて面白いって思えるようにするためにさ」
「そ、れは…」
「ま、待ってください横島さん!朝倉さんもカモ君もそんな人じゃ…!」
「そんな人じゃないってか?そんなわけないだろ?」

 ネギが落ち込む二人を擁護するが、だが横島の声の調子は変わらない。

「こいつらの言ったことは、突き詰めればつまりはそういうことだ。
 そんなつもりがなかったって言っても、事実としてそうなんだよ」

 横島はそこで一回言葉を切る。その後に続くものはいない。

「なあ、朝倉」

 横島の発言で生まれた沈黙を、破ったのはやはり横島だった。

「お前さ、あまり調子乗ってると――――消すぞ?」


 消す。
 その言葉の意味するところを理解することから逃れるかのように、のどかは、その場から駆け出した。


(消す、って……!)

 横島の言葉に、アスナは戦慄した。
 横島は本気だと恐怖した。
 止めなくちゃいけない!
 アスナはそう思って叫ぼうとして

「―――記憶をな」

 ヘタん

「?どうした、アスナちゃん?」
「う、ううん。ちょっと腰が抜けて…」

 横島の倒置表現に、アスナは腰を抜かしてへたり込んで安堵する。
 だが、記憶を消される朝倉にしてはたまったもんではない。

「ちょっと!嘘でしょ!?」
「嘘じゃねえよ。
 あの時にすぐ消さなかったのは、あくまで記憶を操作するためのオカルトアイテムの数が限られていて、戦うために温存しておきたかったからだ。それに、記憶を消したところで、一度到達した結論には、同じように到達する可能性があったから、場当たり的に消したところで意味がなかったからな。
 だがな、朝倉。お前が余計なことをして俺たちに不利なように動くんだとしたら、遠慮なく記憶を消させてもらう」
「う…」
「それに、カモ。お前もヘタに動くようなら、宅急便で麻帆良に送り返すぞ?」
「い゛…」

 流石に顔をしかめ引きつらせる朝倉とカモだったが、横島の説教がかなり身に染みたのか、文句はないようだった。
 二人の態度に十分な反省を感じたのか、横島はネギを見る。

「つわけで、勝手に話を進めちまったけど、これでいいか?」
「えっ!?あ、ハ、ハイ。けど、何でも僕に聞くんですか?」
「だから、一応お前が責任者だろうに。しっかりしてくれよ」

 横島は言いながらネギの頭をくしゃくしゃと撫でる。
 その口調や動作からは、さっきまでの重さが感じられない。
 そのことに、アスナは少し安心して、次に気になることをたずねる。

「けど、本屋ちゃんのカードはどうするのよ?」
「どうって、放っておくしかないだろ?取り上げるわけにもいかんし」
「そうよね。
 ……まあ、魔法のことを黙っていればただのカードだし、問題ないわよね」
「おしいなー、あのカード強力そう…いえ、ないでもないッス」

 余計なことを言いそうになったカモだったが、アスナに睨みつけられてカードをしまったのだった。

「ま、何はともあれ、この件はこれで終わりだな。
 じゃあ、さっさと西条の部屋に行くぞ。今日の方針を決めなくちゃならんからな」

 カモの反省が薄い態度に呆れながら、横島たちはその場から立ち去った。


 5班の部屋には、夕映だけが残っていた。木乃香とハルナはすでに準備を終えて、他の班の部屋に遊びに行ってしまった。

「さて、どうやって探りを入れていきましょうか?」

 夕映は一人呟く。考えるのは、どうやって横島から情報を引き出すかについてだ。

(横島さんはアレでいて結構計算高いところがあります。ヘタに正面から尋ねても警戒されて、かえって尻尾を捕まえにくくなるでしょう。
 いえ、そもそも肝心の掴むべき『尻尾』とは何なのでしょうか?)

 単なる霊障、単なるGSの仕事に関係することならば普通に説明をしてくれるはずだ。だがそれにしては秘密にする理由が思い当たらないし、そもそもネギ達周りや、麻帆良自体の不自然さに対する疑問が晴れない。

(やはりアプローチするならネギ先生達からですね。幸いこの修学旅行自体何か裏があるようですし、多分自由行動の今日、何か行動するでしょう)

 情報を得るならまさに今日こそが好機。
 ネギと行動するのも、のどかをけしかけてデートさせ、それに随伴するという形をとれば怪しまれないだろう。親友の恋心をダシにするようで気が引けるが、今日ネギ先生を誘うのは、のどかにとってもプラスだろうし、そもそもネギが動くのはのどかのデート中ではないはず。

(のどかの恋愛を阻害することはないでしょう)

 よし、この方針でいこう。
 夕映が決断すると、まさにタイミングを計ったかのように、部屋の扉が開きのどかが入ってきた。

「おそいですよ、のどか……のどか?」
「…うん」

 どう炊きつけようかと話しかけた夕映だったが、しかしのどかの様子に不審を覚えた。入ってきたのどかは夕映の声にも上の空で、昨日のゲームの景品であるカードを眺めている。
 喜んでいる、という様子ではない。
 頬は紅潮しているというよりむしろ青ざめているし、カードに向けられた目に込められた感情は深刻そうだった。

「のどか!」
「ひゃっ!?あ、ゆ、夕映―――どうしたの?」
「それはこちらの台詞です。一体何があったのですか?」

 のどかをたきつけるのは後回しにして、夕映はのどかに問いかける。

「な、なんでもないよ…気にしないで」
「気にしないで、とは自分が今、他者から見て気になるような問題を抱えていると自覚している時に使う言葉ですよ。
 何があったのですか?相談に乗りますよ」
「ゆ、夕映…」

 夕映から見て、のどかはかけられた声に迷っているようだった。

(おそらく、相談するのが気まずいというより、こちらに迷惑がかからないか遠慮しているというところでしょうね)

 夕映はそう判断して、さらに言葉を続ける。

「のどか。私達は友達です。私が悩んでいるとしたら、のどかは相談に乗ってくれるでしょう。そしてそれは私もです。遠慮しないでください」
「夕映……うん」

 のどかは頷くと、さっき自分が聞いてしまった横島達の会話を話し始めた。


「瀬流彦先生や龍宮さんも魔法使いだったんですか?」
「いやー、黙っててごめんね、ネギ君。実は学園長から裏からこっそりサポートするように言われててさ」
「私の場合は魔法使いとは少し毛色が違うかもしれないがね」

 ネギの驚きに、瀬流彦は笑顔で、龍宮はいつもの無表情で答える。

「ちなみに、他にも魔法関係の生徒はいるけど、とりあえず戦えるレベルの人はここに居るので全部だと思ってくれていいよ」
「そうですか…」

 ネギは西条とピートが泊まっている二人部屋に集まったメンバーを眺める。
 自分を含め、アスナと刹那、横島と西条とピート、そして新たに瀬流彦と龍宮と…

「あれ、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんは?」

 ネギは、姿の見えない二人にやっと気付いた。
 確か、朝ごはんの時は皆と一緒にいたような気がしたのだが…
 まだきていないのかと思ったネギだが、ピートが疲れた様子で首を横に振る。

「エヴァンジェリンならもう出て行きましたよ」
「えっ?」
「朝食の後すぐに道真を倒すのは自分だといって…」
「ええっ!?」
「やっぱりか…」
「横島さんは分かってたんですか?エヴァンジェリンがこう動くと」

 ピートの問いに横島は苦笑する。

「エヴァちゃんは、ほら。美神さんやエミさんと同じ人種だろ」

 傲岸不遜で唯我独尊、礼は10分の一、恨みは10倍返し。特にプライド関係は100倍返し。

「な、なるほど…」

 思わずピートは納得する。確かに共通項がありすぎる。

「とにかく、エヴァちゃんは対道真役ってことだな。
 頼んだところでこっちの言うこと聞いてくれるわけもないし、そもそも道真に正面からやり合って対抗できるのはエヴァちゃんぐらいだろうし」
「横島さんは無理なの?」

 アスナの質問に横島は首を振る。

「とりあえず、正面からやりあうのは無理だな。つか、エヴァちゃんだって正直厳しいと思うぞ。
 俺が前に美神さん――仕事の上司の前世を調査するために平安時代に行ったときは、僅かな時間とはいえあの魔神アシュタロスの動きを止めたらしいからな。俺自身は出血多量で気絶してたから、あくまで聞いた話だけど」
「…ちょ、ちょっとまってくれないかい、横島君!?今、平安時代に行ったとか魔神アシュタロスとか聞き捨てならないキーワードが聞こえたんだけど…!?」
「瀬流彦先生、横島さんの言っていることに一々反応していては話が進みませんよ」

 刹那が諦観を込めて瀬流彦をなだめる。
 一方で、その話を既に聞いたことのある西条とピートが話し合いを進める。

「横島君。実際に道真はどのくらいの霊力だと思う?」
「そうだな。道真自身の霊力は五千マイトやそこらじゃ効かんと思うぞ?流石に一万はいっていないと思いたいけど…」
「ですが、それはアシュタロスに与えられた力ですよね、それも千年前に。長時間を経過し、しかもアシュタロスが滅んだ今なら、多少なりとも力を失っている可能性もありますよ」
「希望的観測は危険だね。ではエヴァンジェリン君の力はどうだね?」
「霊力、っていう点では測れないな。エヴァちゃんは魔法使いだし。
 ただ、戦った感触やら何やらで考えると、エヴァちゃんの力は霊力換算で五千マイトの魔族程度かもしれん」
「ですが戦いは力が全てじゃありませんよ」
「だな。エヴァちゃんは外見こそロリだが中身は歴戦だからな。昨日の夜は押され気味だったかもしれないが、まあ、そこは戦い方しだいだろう」
「ふむ。まあそれはそうだね。
 とにかく、こちらとしてはエヴァンジェリン君には道真に当たってもらうのがベスト、ということか…。だが、有事の際の連絡手段はあるのだろうね」
「あー、そうだな…ネギ?お前の携帯にエヴァちゃんか茶々丸の電話番号入ってるか?」
「あ、はい。えっと…あ、ありました。茶々丸さんのだけですけど」

 突然話題をふられて慌てながらも、ネギは電話帳から茶々丸の番号を見つけて提示する。

「OK。後で皆に教えるように。
 多分茶々丸はエヴァちゃんと常に行動を共にしているはずだから、それでいいだろう」
「そうだね。ではエヴァンジェリン君に関してはこのまま放置でよさそうだね。
 ―――誰か、他に意見がないならそういうことで進めるが、いいかい?」

 西条はそう言って他の面子に問う。
 議論から置いてきぼりを食らっていたアスナを含め、部屋にいるメンバーに異存はないようだった。

「では、次に考えるべきは、このメンバーをどう分配するかだが…、少なくとも護衛するのはA組だけでいいと思うのだが…」
「えっ、どうして僕のクラスだけなんですか?」

 ネギの疑問は、昨日の夜の事件に起因している。
 昨日の夜の式神たちは、明らかに一般以外の生徒を狙っていた。ならばその矛先がA組以外に向けられたとしてもおかしくないはずだが…。
 そんなネギの疑問に答えたのは瀬流彦だった。

「その心配はないと思うよ、ネギ君。
 あの式神はそれ程強力じゃなかったし、きっと目くらましと、こちらの戦力を調べるための囮じゃないかな?それなら仕掛けた道真の力に対してあそこまで弱かった理由も説明がつく。
 東の魔法使いたちだって自分達の存在は隠したいはずだし、それに協力している魔族だって、協力体制を維持するためにも、あまり派手なことは出来ないはずさ。
 そもそも木乃香君以外のA組生徒の護衛だって、万が一の保険以上の意味はないよ」
『…な、なるほど…』

 瀬流彦の説明にネギとアスナは感心したように頷く。

「ともかくそうなると護衛しなきゃいけないのは六つか…」
「こちらの駒は僕、ピート君、横島君、瀬流彦先生、龍宮君、桜咲君、ネギ君、アスナ君。ネギ君とアスナ君はペアで一組と考えるべきだね。
 ただしネギ君は親書を届けるために別行動だから、自由になる駒は六つ。
 丁度だね。
 一から三班は僕、ピート君、瀬流彦先生が担当。四班はそのまま所属している龍宮君。刹那君と横島君はそれぞれ五班と六班のどちらかを担当してもらう、というのでいいね?」

一人一斑を護衛だと、西条が言う。その案に、ネギが不安そうな表情をした。

「ですが、それでは敵の本来の狙いである、木乃香さんの守りが手薄になってしまいませんか?それでは敵の思う壺ですよ」
「だが他に方法がないのなら仕方ないのでは…」

 刹那も同じような不安を持つが、仕方ないとも理解して消極的な賛成を示す。

「ふむ…それはそうだが…。では古菲くんと楓君がいる二班の護衛を外して五班にまわそうか?」
「いや、一応あの二人も一般人なんですが…」

 西条の代案に、今度は瀬流彦が難色を示す。
 どちらを取るべきかと頭を悩ませる面々。
 だがその中で、横島はにんまりとした笑みを浮かべた。
 それを最初に発見したのは西条だった。

「……横島君、何か良からぬことを考え付いたようだね」
「良からぬってのは何だ!?
 生憎思いついたのはばっちりな、一石二鳥の作戦だぜ。要は護衛対象を減らせばいいんだからな」
「護衛対象を…減らす?」
「合流させるんだよ、五班と六班を。
今の六班はエヴァちゃんと茶々丸がいないからな。五班もアスナちゃんがいなくなるだろ。二つの半を合わせれば合計七人。ただしその内、俺と刹那ちゃんは護衛側だから、二人で五人を護衛すればいいわけだ」
「なるほど。横島君にしてはいいアイデアだね」
「俺にしては、は余計じゃ!
 つーことで、それでいいか、刹那ちゃん?」
「はい、もちろんです」

 頷く刹那の口元に、思わず笑みが零れてしまった。
実のところ刹那は木乃香の護衛を横島に譲るつもりだった。
 実力の面で言って、横島は刹那をはるかに上回っている。悔しいが自分より横島が護衛についていた方がいい。それに横島は特別風紀委員という役職があるため六班を抜けて五班と行動を共にしても、木乃香たちには不審に思われず一緒にいることもできる。
 だが、横島の案を採用すれば、自分も木乃香から身を隠す必要もなく木乃香を護衛できる。
 横島の提案に内心小躍りする刹那だが、しかしそれもここまでだった。刹那は横島の口元の笑みと、横島の行った『一石二鳥』の二羽目の鳥のことを忘れていた。
 横島は笑顔のまま、刹那の肩を叩く。

「じゃあ、そういうことで、頼んだぞ刹那ちゃん」
「は?」

 肩を叩かれて横島の顔を見る。そしてようやく横島の顔に、まるでいたずらっ子のような笑顔が浮かんでいるのに気付いた。


「それで…横島さんが朝倉さんに、調子乗ってると消すって言って。
 私、怖くなって…」
「そうですか…」

 のどかの説明を聞きながら、夕映は事態を把握しようとする。

(のどかの言っていることはおそらく全部事実でしょう。しかし…後は横島さんの台詞がどこまで本気だったか、ということです)

 『消す』という言葉は、おそらく文字通りではない、と夕映は考えている。だが、のどかの怯え方からして、いつものお気楽な言い合いとは異なるのだろう。

(気になるのは『命の危険』という発言です。一体、何が起きているのでしょうか?)

 のどかの様子や、彼女が語る横島の豹変。
 一瞬、夕映の中にこれ以上踏み込んではならないと警告する心が生じた。だが…

(いえいえ!そんな弱気でどうするのですか!)

 退屈な日常から脱却するための、せっかくのチャンスをここで逃がすわけにもいかない。
 それに話からすると、その危険にネギも関わっているというではないか。
 のどかの恋愛成就のためにも、ここは事実を把握しておくに越したことはない。

「…のどか?とにかく、この事は私達だけの秘密にしておきましょう。
 そして、二人で一体何が起きているのかを調査するのです」
「ちょ、調査?そんな…けど、横島さんが凄い怖い声で…」
「怖い声だろうと何だろうと、私達は昨日の鬼の事件などで十分巻き込まれています。だから何が起こっているか位は知る権利があるはずです。それに、私も非常に興味があります。
それにのどか。あなたの愛しのネギ先生が関わっているのですよ?このままでは横島さんに水を開けられっぱなしです」
「け、けど、それは関係ないんじゃ…」

 のどかが反論してくるが、それと同時に部屋の扉が開いた。

「おーい、準備できた!?他の班はもう出かけちゃったよ!って、のどか、準備まだなの?」
「早く行かんと時間がもったいないな…あれ?そういえばアスナもおらへんなぁ?」

 入ってきたのは木乃香とハルナの二人だった。

(のどか、とりあえず続きは後ですよ)
(う、うんー…)

 小さく囁く夕映とのどか。小さな声だったが、しかしそれをハルナは目ざとく捉えていた。

「おやぁ?何か内緒のお話かな〜?何はなしてんのよ?」
「いえ、なんでもありませんが?
 そうですよね、のどか?」
「へうっ!?あ、う、うん。…な、なんでもないよー?」

 平然と言ってのけた夕映に対して、のどかはあからさまに怪しいリアクションをしてしまう。
 のどかに振ったのは失敗だったかと歯噛みするが時既に遅し。ハルナはのどかにロックオン。ネタを飢え求めるプレデターのように、炯々と輝く目でのどかに迫る。

「ふふふっ…ネタね!ネタ臭がするわ!さあっ!さっさとゲロって楽になっちゃいなさい!」
「あ、ああう、あうう…」

 鼻息荒く詰め寄ってくるハルナに、のどかはろくな言い訳も出来ずに追い詰められる。げに恐ろしきはネタを求める作家魂なり。
 だがそれに対して、夕映はなんとかフォローをしようとするが、その前に外部から救いの手が来た。
 扉が開いて入ってきたのはアスナだった。

「ゴメン!ちょっと用があって…って何してるの?」

 まさにのどかを食い殺さんとでもしているような鼻息荒いハルナを見て、アスナは眉根をひそめる。

「ん?いや、のどかの奴が何か面白そうなことを隠しててね。今から軽く尋問しようかと…っていうか、アンタ今まで何してたのよ?」
「そうやで。早く出かける準備してな」
「あ、うんゴメン!けど、ちょっと待っててくれない?ちょっと話があるって…ってアレ?」

 アスナは誰もいない背後を振り向き、首をかしげた。どうやら誰かがついてきていると思っていたらしい。他の面々も何事かとアスナの背後、扉を見る。
 そこで初めて、廊下の外で何人かの、それも知っている人々が争っているのに気付いた。

『ええい!観念しろって!』
『だ、ダメですよ!やはり私はお嬢様にそんなこと…!』
『あきらめちゃダメですよ。がんばってください!きっと大丈夫です!』
『さよちゃん!もはや言葉は無力だ!実力行使でいくぞ!』
『は、はいぃっ!』
『や、ちょ、だめ!あ、あかんって…!きゃあっ』

 その悲鳴の後、思い切り扉が開かれた扉から転がり込んできたのは…

「せ、せっちゃん?」
「お、お嬢様…」

 戸惑いと喜び半々の表情の木乃香と、転んだままの体勢の刹那は、顔を見合わせて互いを呼んだのだった。


「ええっ!?そ、そんな!わ、わた、私がお嬢様に一緒に回ろうというんですか!?」

 刹那は部屋に叩き込まれる数分前、廊下で上ずった声で叫んだ。
 声を上げさせたのは、してやったりという顔の横島だった。

「ああ。刹那ちゃんが木乃香ちゃんと仲直りしたいっていう理由で一緒に回るのを誘うってのが一番自然な展開だろ?
 そうすれば五班と六班の残ったメンバーは一緒に回れるし、刹那ちゃんも木乃香ちゃんと仲直りできて近くで護衛も出来る。一石二鳥じゃないか!」
「ええ、確かにそれが一番のですよね」
「うん!いいアイデアじゃない!」
「で、ですが…!ですけど……!」

 ネギもアスナも横島の意見に賛同を示す。
 三方を囲まれ、刹那は進退窮まるものの、それでも首を縦に振らない。

「で、ですが、私ごときがお嬢様に話しかけるなど…。
そ、そうです!い、今まで避けてきたのにいきなりだなんてそれこそ不自然ですよ!」

 何とか捻り出した言い訳を口にする刹那。それを聞いて、横島は困ったような風な表情をする。ただし、それはあくまで『風』だった。

「ううん、それは確かにそうかもなぁ…。けど、もう言っちゃったしなぁ」
「い、言ったって誰に…」
「桜咲さぁぁぁぁぁぁぁん!」

 刹那の疑問は横島の背後から飛んできたさよの声で止められた。
 さよは横島とアスナの間をすり抜けると、刹那の両手を掴んで感涙を流しながら刹那に迫る。

「聞きましたよ、桜咲さん!
 幼馴染の近衛さんと仲直りをするんですよね?応援します!」
「えっ、え、ええぇっ?」

 なぜさよが、と刹那は助けを求めて視線を彷徨わし、そして横島が笑顔で親指を突き立てているのを捉えた。

(横島さん!?)
「というわけで、もうここまできたら退けないよなぁ?」
「そ、そういうわけにも!わ、私はお嬢様を影から…!」
「別にとなりでおしゃべりでもしながら守ればいいじゃない」
「ですが、私ごときがお嬢様とお話なんて…」
「照れる必要はないじゃないですか刹那さん。木乃香さんは刹那さんと一緒に観光したいと思ってますよ?」
「だ、だけど…」
「がんばってください、桜咲さん」
「あ、あう……」


 と、まあこう言った次第で刹那は押し切られ、木乃香を誘うことになったのだが…


 部屋に叩き込まれてから数秒後、刹那は見つめあった状態から、ようやく口を開いた。

「えとっ、あ、そ、その……し、失礼します!」
「あっ!せっちゃん!」

 ただし、開いた口から出たのは、誘いの言葉ではなかった。転身して廊下に逃げ出そうとする刹那。しかしその両手は、左右からがっちり捕まえられた。

「甘いわ!逃がさんぞ刹那ちゃん!」
「ちょっと刹那さん!ここまできてなんで逃げるのよ!」
「は、離し、離してください!やはり私などがお嬢様をお誘いするなど……!」

 じたばたと暴れる刹那だが、気による強化も武術の基本たる重心の移動も忘れた彼女が、脱出できる道理もなかった。
 ロズウェルの宇宙人状態の、普段から無口無表情で通しているクラスメートの醜態に、ハルナはのどかの追求を忘れて呟く。

「ねえ?一体何なのよ?桜咲の奴、どうしたの?」
「さあ、アスナさんとの会話を聞くところ、どうやら木乃香を今日の自由行動に誘おうという話らしいですが…」
「えっ、そうなん!」

 夕映の言葉に、木乃香は目を輝かせて刹那に迫る。
 眼前に迫った木乃香の顔に、刹那はいっそう赤くなって動きを止める。

「せっちゃん、誘ってくれるの?」
「う、は、そ、その―――は、はい……」

 ついに観念したのか刹那は赤い顔を上下に振って答えた。
 それを受けて、木乃香は最初、なぜかびっくりしたような表情を作り、二、三度瞬きしてからその笑顔に変わった。

「うん!えーよ!」

 そしてその笑顔のまま、大きく頷いたのだった。


(あれって、本当にあったことなのかな?)

 のどかはその光景を見ながら、自分がついさっき廊下で見た光景が、まるで何かの錯覚だったのかという感じを得ていた。

「おめでとーございまぁぁぁぁぁす!」

 目の前で横島は、まるでチンドン屋の真似事でもしているかのように、どこからともなく取り出したラッパ付きの太鼓を鳴らしながら、紙ふぶきを巻いている。
 その紙吹雪の中で真っ赤になって俯いている刹那に、木乃香がどこに行こうか、行きたい場所があるかと話しかけ、アスナが両者の肩をよかったじゃない、といいながら叩いている。
 そうだ。この二人も、アスナと刹那もあそこにいたのだ。
 そのことを思い出すと同時に、のどかはあの時の『怖い横島』を思い出す。

『お前さ、あまり調子乗ってると――――消すぞ?』

 思い出すと、再び恐怖を思い出し、体に震えが来た。
 アレが聞き間違えだとは思えない。
 だけど目の前の横島が――木乃香と刹那の友情を喜んでいる横島と同一の人物だとも、やっぱり思えない。
 同じように木乃香と刹那のことを喜んでいるアスナも、木乃香を前にして恥ずかしそうにしている刹那も、どうしてもあの横島が言っていたような殺伐な空気の中に、一緒にいたとは思えない。

(夕映は秘密を探りたいって言ってたけど……)

 それは正しいことなのだろうか?
 このまま何も知らずに、この明るく、楽しい横島だけを知り、あの怖い横島を見なかったことにして、忘れてしまうべきなのではないか?
 だけど…

「のどかちゃん?」
「!?」

 考え込んでいたところを横島に呼ばれて、のどかは思わず飛びのいてしまった。

「って、何だよその反応は?俺、何かしたか?」
「あっ、いえ…なんでもないです。ちょっと考え事してたから…」

 少し傷ついた風な横島に、のどかは慌てて言い訳をする。
 その言い訳は、半分は本当だ。のどかは考え事をしていたところに声をかけられて驚いた。だが、もし考えていた内容が別のことだったら、自分は横島に声をかけられた時、あんな反応をしただろうか?
 それは、のどか自身にも分からなかった。

「そっか?
 ま、いいや。それより、善は急げだ。さっさと準備して繰り出すぞ!」
「おー!」

 横島の呼びかけにハルナが拳を突き上げて応えた。
 そんな光景を見ながら、のどかは思った。
 やっぱり、調べるしかないと。
 知ってしまった以上、このまま中途半端な状態でいることなど出来ない。

(ネギ先生…)

 のどかは、まるでロザリオにすがる受難者のように、胸にカードを抱きしめた。


 最悪だ。
 天ヶ崎千草は状況の全てを呪っていた。
 手には、さっきまで式神だった型紙と、その式神が届けた手紙があった。

「最悪や…!」

 口に出して言うと、千草は手紙を握りつぶした。
 手紙には、昨日の嵐山の宿における騒ぎについて書かれている。
 あの騒ぎは、やりすぎだ。これ以上、一般人を巻き込むようなことをするなら、手を切る、という文面だった。
 警告という体裁をとっているが、それは事実上の絶縁状だった。
 それと同じ内容の手紙が、今までに数枚届いている。

「このままでは孤立無援や」

 千草は、反和平派の最先鋭だ。だが彼女自身の派閥は実のところ極小だ。だが、そんな彼女が活動できているのは、多くの反和平の派閥が彼女を支持し、協力しているからだ。
 だが、それらの派閥の殆どが日和見――あくまで今後の政争において、反和平側に立って、現関西呪術協会長を引き摺り下ろし、新政権を樹立してその中枢に立ちたい連中だ。こちらの旗色が良くなれば当然こちら側に傾くが、悪くなれば離れていく。
 今までは良かった。自分はあくまで攻めの立場であり、動けば動くほどこちらに味方する派閥が増え、そして動きやすくなっていった。
 だが、今回の事件で状況が一気に悪くなった。

「魔術は秘匿、っていうんは全派閥共通の最低限のラインやって言うたやないか…!」

 メドーサ達はそれを破りかけた。
 それを破れば如何にこちらが有利にことを運んだとしても支持を得るのは難しい。まして、今回の騒ぎでこちらが得たことなど、せいぜい敵の戦力の総数が分かったことぐらい。戦果としては物足りず、しかもその過程で一般人を危険に晒している。

「一般人の小娘が何人死のうがアバタになろうが関係ないけど、支持が取れんようになるのはアカン!」

 状況は一気に悪くなった。
 このまま和平が成立ししまえば、その勢いで一気に反西洋魔術の勢力は駆逐されてしまうかもしれない。

「認められんわ!あないないけすかん西洋魔術師なんぞと仲良うなんて、怖気が走るわ!」

 なんとかしないといけない…!なんとか…!
 頭を抱える千草。部屋の隅から、まるで千草の苦悩を楽しむように笑う声が聞こえてきた。

「おやおや、ずいぶんとお困りのようだね…!?」
「くっ、メドーサはん!」
「おお、怖い怖い…クックック」

 部屋の中に唐突に現れた人外の美貌を、千草は殺意すら持って睨みつける。
 だがメドーサはそれすら楽しそうに受け止める。
 その態度が、千草の怒りをさらに増す。

「何が可笑しいんや!アンタの勝手のせいで、大変になっとるのが分からんのか!」
「フン…知ってるよ。しかし、その程度かまわんじゃないか?
 むしろ、感謝して欲しいくらいさ。後の敵を排除してやったんだからね」
「後の、敵?」
「ああ」

 メドーサは言いながら、千草が破り捨てた手紙を拾い上げる。

「アンタの望みは西洋魔術師を根絶やしにすることだろ?
この程度であっさり寝返るような腰抜けは、例え関西呪術協会を牛耳ったとしても、西洋魔術師に戦争を仕掛けるようなことはしないさ。
 それに…アンタ、このままじゃ計画が終わればすぐに使い棄てられるよ?」
「な、なんやて!」
「分からないかい?親書とお姫様が手に入れば、反和平の勝ちは確実。後はその後の舵取りを誰がするか、さ。そうなれば当然お姫様の奪い合いが始まる。
 そのとき、お姫様が手元にあるアンタが一番に狙われるよ?
生き延びたけりゃ勝つしかない。なら、ライバルは少ないほうがいいだろ?」
「そ、それはそやけど…」

 言われて、千草は自分の中の怒りがもみ消されていくのが分かる。
 戦後処理。その中で自分が消される可能性も、言われて見れば確かに高い。その事実に気付き恐怖を覚えると、恐怖の冷たさが怒りの熱を冷ましていった。

「せ、せやけど…失敗したら取らぬ狸の皮算用やで?」
「心配ないさ。私達がいるだろ?最悪の場合、私達が力ずくで総本山とやらを滅ぼしてやろうじゃないか?」
「ち、力ずくでって…」
「出来ないと思ってるのかい?私や、あの道真公にも?」

 メドーサの囁きに、千草は思い出す。
そう、今の自分には力があると。
 未だにあの詠春という西洋魔術に傾いた裏切り者の腰抜けが、総本山でふんぞり返っているのは、単に自分が見逃してやっているだけだと。
力ずくでの制圧では、東洋魔術師達の反発を買って支配が面倒になるからこんな回りくどい方法を取っているだけだと。
 そう、今の自分には力がある。

「そう…やな。
 フン、そういわれればその通りや」

 千草は言うと、自分が破り捨てた手紙を踏みつけた。
 怒りが消え、そして恐怖も消えた後に残るのは、野望だった。
 この戦いは自分の勝ちで決まっている。そして、勝利した後『アレ』を手に入れれば、自分は関西呪術協会を牛耳れる。いや、牛耳るじゃない。自分自身が関西呪術協会の長になることさえ可能だ。
 そうなれば、偉そうにこんな手紙を出してきた奴らも、アレ―――鬼神リョウメンスクナが手に入れば自分に平伏し、屈服し、服従する!

「ハン!今に見ているがいいわ!ハハハハハハハハッ!」

 狂ったように哄笑を挙げる千草。
 それを、メドーサは僅かな哀れみと、そしてそれ以上の愉悦をもって眺めていた。

(扱いやすい女だねぇ…)

 人間はやはりクズだ。
 ちょっと力を貸してやれば、それを自分の力と勘違いし、そして不分相応なものを求めていく。そうなってしまえば、後は意のまま。
 都合のいい情報だけを与え、そちらに食いつくように誘導できる。

(フフフッ…さて、もうすぐだ。もうすぐさ、横島。
 アンタを叩き潰してあげるよ、フフフ…フフフフッ)

 千草がリョウメンスクナを召還してくれれば、準備は整う。
 笑い出したくなる衝動を、メドーサはこらえた。
 そう、まだ勝負は付いていない。
 自分は目の前で馬鹿笑いをしているクズとは違う。最後まで油断はしない。確実に成功し、そして確実にアイツを、いくども私をコケにして、二度も滅ぼしてくれたアイツを殺す。そして、アイツが大切にしているものも全て壊しつくしてやる。
 哄笑を挙げ続ける千草を眺めながら、メドーサは暗い情念に目を輝かせた。


つづく


あとがき

 二週間ぶりの詞連です。やっぱ一週間書かないと忘れますよね?……え?そんなの私だけ?
 まあともかく、だらだらと続いております。本来なら既に本山に入ってる予定だったのに…、とにかく、今年中にスクナが召還できるように千草さんにはがんばってもらいたいものです。


ではレス返しを

>D,氏
 エヴァちゃんは道真にご執心です。
 アスナちゃんは覚悟完了。ですが今度は夕映とのどかが…。まあ、アスナとは別方向の悩みを表現できるようにがんばります。

>鉄拳28号氏
 まあ、外人でも知ってると思うあたりが昔の有名人のおごりです。
 なお、別にどっちで言ってもいいんですよ、横島は。だって音が同じですし。まあ、とりあえず横島の招待はメドーサ側にしてみれば隠しておいたほうが相手に対して精神的に優位に立てますので、なるたけ秘密ということにしています。

>ナイヅ氏
 改名ご苦労様です。
 実は新田は微妙に好きなキャラです。
 ご期待に沿えるようにがんばります。

>ZEROS氏
 道真とエヴァは、力比べなら圧倒的に道真勝利。エヴァがどう挑むかを楽しみにしてください。
 まあ、物理攻撃が効くかどうかは、実は割りとアバウトなんですよね、GS世界って。幽霊には霊力が込められていないと効きませんけど、妖怪系とかは物理攻撃とか効いていたみたいですし。例えば復活版ナイトメアはヘリコプターにつぶされましたし。

>ひろ氏
 すみません、展開が遅くて。バトルは次回のさらに次くらいになるかもしれません。まあ、そこからはひたすらバトルが続きますけど。

>時護氏
指摘ありがとうございます。直します。


終了

さてストーリーが進まないどうしよう。取り戻さなくては…!
今週は割りと暇なんで、次回の更新は長くするようにがんばります。では…

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