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▽レス始

「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第八話中編(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-11-05 14:28)
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―リーザス城正門―

とりあえずノースの街に向かうため、正門より用意されたうし車に乗る横島とカーチス。

「つーか、カーチス・・・。お前ってこーゆう『任務』に向いてるのか?」

横島自身『貧弱な坊や』と評されることが多々あるが、バイトでの荷物持ちや、何だかんだ言って死線を潜り抜けてきた経験もあって、意外にもタフで頑丈な肉体をしている。

対してカーチスのほうは全体的に線も細く、どう見ても荒事には向いていなさそうだ。

「それは、確かに横島さんみたいな人外じみた頑丈さはありませんけど・・・。こうみえても魔法と神魔法の技能を持っていますし、そこそこのレベルもあるんですよ?横島さんのサポートや念話でリーザスへ即座に連絡を入れるコトくらいなら十分できます」
少し不満そうに横島に語る。
どうやら横島に足手まとい扱いされたくないらしい。

「『人外じみた』とは、どういう意味だよ?」
胡乱げな眼差しでカーチスを軽く睨むと、カーチスは慌ててそれを取り消すように手を左右に振った。

「・・・ケッ、どうでもいいけどよ。しかし、「技能」に「レベル」・・・ねぇ。聞いてはいるけど、よく分かんねーな、それ」

「技能」とは各個人が生まれながらにして持っている「魔法」や「剣戦闘」などの才能のこと。
この才能の度合いは生涯変わることはないらしい。
そして「レベル」とは「経験」を積むことで身体能力等が上昇する度合いのこと。
これもまた各個人に生まれながらにして決まっている「才能限界値」を超えて上昇することはなく、この世界のルールのようなモノである。

説明を受けたことはあるが、横島には今一つ腑に落ちないことの多いモノであった。

(・・・『ルール』か・・・生まれながらに与えられる?誰から?いや・・・誰が?何のために?)
考え始めると、何故だか酷く不快な気持ちになった。

――この感覚はなんだ?

――俺はこの不快感の理由を知っている・・・?


「そうなんですか?」
この世界の常識とも言える概念であるため、カーチスは横島の感じている疑問の意味が分からない。

「・・・まぁ、俺には関係ないだろうしな・・・。この世界の人間じゃないし」
これ以上は深みに嵌ってしまいそうな疑念を無理やり打ち消すように、横島はカーチスに適当に投げやりな言葉を返す。

(・・・そうだ、俺には関係ない・・・・・・)
そんなものが仮にあるとしても、別段知りたいとは思わなかった。

「俺のことだからな・・・どうせ変なオチがつくだけだろうし」
自分のギャグ体質をよく知っている横島は、そう嘯いて己の中の疑念を追い払うことにした。

「はぁ・・・。でも、私としては横島さんのことが気になるんですけどね。・・・って、べ、別に、へ、変な意味じゃないですからねっ!?「技能」とかのことですよっ!?」

「うっせーっ!分かっとるわっ!気色悪いこと言うんじゃねーっ!!」

思わずケリを入れてしまいそうになるが、はっと気付いて慌てて止める。
怯えたように自分を見つめてくるカーチスの顔を見てると・・・うわぁぁやべぇよ・・・って感じになる。

蹴るの?コイツを?何かイケナイ道に嵌ってしまうような気がしてしょうがない。

「うおおおおおっ!!俺にそんな腐った趣味はねぇぇぇぇ!!俺はノーマルだぁぁぁあああ!!」

横島、本日二度目の絶叫。
カーチスは耳を塞ぎながら、それでもなんとか自分達の任務を果たすためにうし車を走らせるべく準備を始めたのであった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第八話「魔人襲来 中編」〜


―ガラガラガラ


しばらく街道をうし車で進んでいく横島とカーチス。
いつもかなみが飛ばしているような最高速度ではないことに横島はほっとしつつも、これからの任務=厄介事を思い浮かべてダークな気分に沈む。

「・・・まぁ、これも俺の宿命か・・・・・・」
雇い主の理不尽な命令に、色仕掛けやら何やらで丸め込まれて隷従することを宿命と言うのならそうなるのかもしれない。
そんな宿命は断固拒否したいところであるが、こうも毎度毎度引っかかってる自分が情けなく悲しい。

横島の心中のボヤキをよそに、うし車は走る。


やがてリーザスの城門が丁度見えなくなったあたりで街道上に障害物らしきものが横たわっているのを発見した。

「あれは一体なんだ?通行の邪魔じゃないか・・・」

「ええ・・・でもなんか変です。この街道は人の行き来も多く、長い間放って置かれるはずがありません。ひょっとして・・・」

ブツブツと横島には意味の分からない言葉を呟いたかと思うと、前方を凝視するカーチス。
遠見の魔法を使ったらしい。

「・・・あれは・・・横倒しになったうし車の荷台ですね・・・。事故・・・でしょうか?」

「見えるわけねーし、俺が知るかよ。・・・でもよ・・・俺の長年の経験から来る勘が、すっげー警報を鳴らしてるんだよな・・・」

危険予知に関してはそんじょそこらの人間を凌駕するレーダーを持つ横島。
尤も、その能力は危険回避の役に立ったことがないのが問題であったが。


カーチスとのやり取りの間にも、横島たちを乗せたうし車は問題の障害物へと近づいていく。
そして横島にもはっきりと視認出来るほどの距離までやって来た。

「おーおー、見事に破壊されてるな。これは事故じゃねーだろ」

手の平を水平に額に当てて、横倒しになったうし車を眺めている横島の言葉。

「ええ・・・これは明らかに攻撃魔法によるもの、それも相当な高出力です。信じられない・・・」

急ぎの任務の途中ではあるが、怪我人がいるのなら救助せねばならない。
さらに近づいた横島とカーチスはうし車から降りて検分を始めた。


「怪我人はいないみたいだが、しかし、空っぽのうし車がこんな所で倒れていただけ、ってコトはないよな・・・」
繋がれていたうしは逃げ出したのか、手綱は切れていた。
荷台に刻まれた破壊の爪痕は、付着した氷がまだ溶け出していないことから、襲撃されてまだ間もないことを窺わせる。

「これほどの破壊の痕と凍りついた痕、スノーレーザー・・・いや、威力からすればスノーレーザー改並みの魔法を受けたはずです・・・。いったい誰がこんなマネを・・・」
そして気になるのは威力だけではなく、その射角であった。
どうやら上空から放たれたような形跡を残しているのである。

リーザス王国は魔法技術がそれほど発達した国ではないため、これほどの術者が国内にいるとは考えにくい。
いや、そもそも空から魔法を放つなど人間業ではない。

「おい、カーチス。これ、リーザス王家の紋章じゃねーのか?」
横島が指差す先、引き裂かれた荷台の幌には確かにリーザス王家の紋章が描かれていた。
そしてその下部には『リーザス王国 第12番砦駐留部隊所属』と縫い付けてある。
第12番砦はまさにこれから横島達が向かおうとしていた砦であった。

「・・・まさか」

カーチスの頭の中で今回の任務のそもそもの発端と、目の前に映る光景が一つになる。

モンスターの組織的行動、それを率いているはずの存在、連絡の途絶えた砦、リーザス王家の紋章付きの第12番砦所属のうし車、そしてその破壊された痕跡。
確証はないが、これらの状況証拠及び物証が全て一連の出来事に繋がるのではないかと推測する。

「とりあえず、マリス様に報告をしなくては・・・」

事の次第を念話で送るべく、意識を集中させるカーチスの耳に横島の声が響く。

「なぁ・・・これ、このうし車に乗ってた奴らの血じゃないか?」

点々と血の跡が街道を外れて荒野の方へと続いている。
どこまで続いているか分からないが、視界内にはその血の主は見当たらなかった。
尤もゴツゴツした岩壁だらけで100メートル先も見渡せなかったが。

「・・・やはり、これは何者かに襲われながらも何とか逃げ延びた・・・ということでしょうか」

「もう死んじまってるかもしれねーけどな・・・」
血の跡の続く、その岩の壁の先を睨むように横島は言葉を繋げる。

これだけの威力を持つ攻撃魔法を放つ奴を相手にどこまで逃げられるというのか。

うし車を狙撃された後、即座にトドメを刺されなかったのはよほどの長距離の狙撃だったのか、それとも何らかの目晦ましを使ってその場を逃れたのか。
街道をそのまま逃げれば狙い撃ちされるのは間違いない。
身を隠しながら逃げるのであれば、荒野へ向かったのは正解かもしれないが、しかし、だからといって何処へ逃げる?アテはあるのだろうか?

「・・・横島さん・・・・・・」

「俺としては係わり合いになりたくないんやけどなぁ・・・」

先ほどから感じていた『嫌な予感』はまさにど真ん中ストレートで的中していたワケである。
理不尽な命令に隷従するハメになるのが宿命なら、厄介事の渦中に毎度のようになし崩し的に巻き込まれるのは何なんだ?

「んな顔すんな、気色悪ぃ・・・。わーってるよ。俺はこの血の跡を追いかける。お前はマリス様に報告、砦のほうは軍を派遣して貰うよう要請しろ」
俺はこういうキャラやないのになぁ・・・。

(この前の『戦争』で使いすぎたからな・・・2個、それが限界か・・・)
意識下で文珠のストックを確認する。

「言っとくけどな、様子を見に行くだけだぞ?こんな魔法を撃つような奴なんか相手に出来るわけねーし」
手をプラプラ振って如何にもやる気なさげだ。

「いえ・・・私も行きます」
しかしカーチスから返ってきたのは横島にとって意外な言葉。

「ヲイ・・・別にサボったりしねーって。心配しなくてもちゃんと調べに行く」
カーチスをリーザス城に返したあと、サッサと自分もトンズラするのは魅力的な考えだったが、これでも給料を貰っている身。
しかも並々ならぬ恩義をマリスには感じている。
故に、与えられた任務はたとえ『カタチだけ』でもしっかりこなす、ソレくらいのプロ意識は横島にも備わっていた。

思えばコレも師匠である美神の影響かもしれない。

「私も横島さんのサポートを任されて派遣されていますから。それに問答している時間も惜しいと思いますよ?」
横島の心中などそ知らぬ顔、真っ直ぐに横島を見据えて意見を言うカーチス。

(・・・やっぱ、コイツ苦手だ。いや、嫌いだ。美形だし)

「・・・へーへー。時間が惜しいならすぐにでも念話でマリス様に『簡潔に』報告してくれ。・・・俺はもうちょい周辺を調べる」

そういってカーチスから離れ、血の跡を辿るように地面に残っている痕跡を調べる。
そして横島は少し外れた場所に靴が、それも片方だけが脱ぎ捨てられたように落ちているのを発見する。

(襲われたヤツのモノか?)

近寄って屈みこみ、拾い上げて・・・驚愕する。

「・・・っ!コイツは・・・・・・」
逃亡者のうちの誰かの靴だろうか。
女物の・・・ローファーというのか?
・・・しかし、明らかにおかしい。

「どーいうこったっ・・・!?」
何の変哲もないただの小さな赤いローファー。
珍しくも何ともない、シンプルなデザインの可愛らしくもありふれた品である。

――元の世界、日本であれば、の話だ。

恐る恐る靴の裏を見ればそこにあるのは『MADE IN JAPAN』と小さな文字。

・・・紛れもない見慣れたアルファベット。

「・・・・・・マジかよ」
まさかこんな所で、こんな成り行きで手がかりを得るとは。

「おいっ!カーチス!俺はいくぞっ!!」

「え?え、えっ!?あ、はいっ!今、終わったところです。軍の派遣には時間がどうしても掛かります、と。そして決して深追いするな、とマリス様が・・・」

「うっせ――!そんなこと言ってられる場合じゃねーんだよっ!」

カーチスは先ほどまでやる気なさげだった横島の突然の変貌振りに驚く。
しかし、横島はそんなカーチスの戸惑いを他所に、どんどん先へ行ってしまう。

「ま、待ってください!」


(襲われてるのは同じ日本人っ!?しかも、靴のサイズからいっても中学生くらいかっ!?・・・・・・冗談じゃねぇ!!)
ようやく得られた手がかりということもあるが、それ以前の問題である。
とてもじゃないが、冷静ではいられなかった。

横島は拾ったローファーを左手に、道なき道を必死に駆け抜ける。
後ろでカーチスが何か喚いているが無視、いちいち構ってはいられなかった。

「横島さんっ!・・・えーい『粘着地面』っ!」

カーチスの叫びと共に、突如地面が粘着状の・・・泥濘のようなモノに変質し、横島の足を絡め取る。

―ベチャッ!!

「どええええええええっ!!!」

ズベシッと思いっきり鼻の頭を地面に打ち付けてずっこける横島。

カーチスが駆け寄り、すぐに魔法を解除する。

「カ、カ、カ・・・カァチスゥ・・・っ!何しやがるんだてめぇ!!」
鼻の頭を押さえ、涙目になってカーチスに詰め寄る横島。

「落ち着いてくださいっ横島さんっ!この先にいるのはどれほど恐ろしい力を持った奴か分からないんですよ!?そんな闇雲に突っ込もうとしてどうするんですか!?」
カーチスの言葉は実に正論なのだが、今の横島にはそんなものは通じない。

「うっ・・・ぐ、ぐ・・・。け、けどなぁ!コイツを見ろ!」

そう言ってカーチスの鼻面に赤いローファーを突きつける。

「は・・・?コレは靴・・・ですか?・・・にしては見慣れないというか、変わった素材というか・・・」
コイツを見ろ、と言われたところでカーチスには今ひとつピンと来ない。
というより、何故こんな時にこんな物を見せるのか?という疑問のほうが大きい。

「この世界にこんな靴はないだろう!?・・・こいつは俺の元いた世界で作られたモノだ!さっきの場所で見つけた・・・つまりあそこで命を狙われたのは女の子、それも俺と同じ境遇の娘かもしれないんだよっ!!」

「なっ・・・!」

「分かっただろっ!?それと心配すんなっ!俺だって相手がどれくらいヤバイ相手か想像くらいつく!もしまだ生きているなら隙をついて何としてでも一緒に逃げ切ってやるさ・・・っ!だからお前は付いて来るんじゃねぇ!リーザス城にすぐさま戻れっ!!」

そう言って再び駆け出す横島。
カーチスは呆然とその場に立ち尽くしているだけだ。

(横島さんと同じ異世界から来た女の子?それも強力な何者かに狙われている・・・人間じゃないとは思っていたけど、まさか魔人・・・?そしてそもそも横島さんがリーザスに来たキッカケ・・・)

カーチスの頭の中で様々な断片的情報が錯綜する。

(・・・まさか・・・まさかまさか・・・っ!!)
カーチスの仮説はある意味突拍子もない、正気を疑われるものだ。

「リトル・・・プリンセス・・・・・・」

カーチスの呟きは誰に聞かれることもなく、そのまま風に流されて消えていった。


「あっそう・・・。なら死になさい、健太郎共々ね」
再び銃口を日光に向けるサイゼル。

「ケケケケ卦ケケ!日光は刀なんだだから『死ぬ』ってのはオカシイですよーサイゼル様ー」
ユキは主人を囃し立てるだけで、何もせずケラケラ笑っている。

「さよなら日光、そして健太郎。あの世で・・・んっ、ナニ、この気配?」
不意に近づいてくる気配を察知し、トドメを刺そうとしていたサイゼルの手が止まる。

「・・・どーしたですかーサイゼル様?はやくぶっKILLしましょうよー」

「アンタにはわかんないの?」
どうやら彼女の使徒にはこの気配は掴めないらしい。

サイゼルは周囲をぐるりと見渡す。
視界内に不審なモノは見当たらない。

日光のほうを窺うと、ヤツも何かを感じ取っているらしい。
視線こそこちらから外さないものの、油断なく周囲の気配を探っている。

(・・・魔人?ということはホーネット派の連中か?・・・チッ)
彼女と共同戦線を張っている(仲間では決してない)レイかカミーラかと思ったが、それにしては力が弱すぎる。
かといってホーネット派にもこんな中途半端な力を持ったやつがいただろうか?

なんにせよ、リトルプリンセスをここまで追い詰めた以上、ここで詰めを誤るわけにはいかない。

(・・・そうよ・・・あの『イイ子ちゃん』のハウゼルを見返すためにも・・・ざまぁみなさいハウゼル・・・)
心中で彼女の妹に恨み言ともつかない呟きを吐きながら・・・。

「ユキ、アンタは空から不審なヤツがいないかを探しなさい!」

「えー。やっと楽できるかと思ったのにまた仕事ですかー?しょーがない、サラリーマンは上司の命令は絶対ですからねー」
そういってユキはぶつくさ言いながらも上空へと飛び立った。


―ほんの少しだけ時間を遡る

岩壁の陰からこっそりとサイゼルとユキ、そして日光達の様子を窺っている横島。

実はもうかなり近付いていたのだが、横島の隠行術で、気配こそ一旦探られたようだが潜んでいる場所までは気付かれずに済んでいる。

(翼の生えたレオタードムチムチねーちゃんになんかデッカイ手を付けた女の子、こいつらはどう見ても人間じゃないな・・・。特にねーちゃんのほうは前に見たカミナリ男と同じくらいヤバイ雰囲気持ってる・・・)

しかもデッカイ銃を抱えて殺す気満々に狙いをつけている。
横島は狙いをつけられているもう一組のほうに注意を向ける。

(こっちが襲われたほうだな・・・和装のおねーさま、すっげー美人だけど・・・なんか違和感が・・・人間には見えるんだが。んで、あの娘か・・・)
和装の美女のすぐ傍らで倒れている男女。
男は高校生か大学生くらい、女の子は横島が見立てたどおり中学生くらいの年だと思われる。

そして、彼らの服装を見て確信する。
あれは明らかにこの世界のモノではなく、元の世界、それも日本で作られたモノだ。

(ううう・・・幸いまだ死んではいないみたいだけど・・・。ヤバイ、助けるにしても、アイツ等倒すなんて絶対無理だっ!)
ならば、あの三人をなんとか連れ出して逃げるしかないが・・・。
リーザス城が比較的近いとはいえ、こんな荒野で助けを求めるにしても誰もアテに出来ない。

何とか隙を突いて倒れた二人を抱えて、走って逃げても狙撃される。絶対無理。
足手まといカーチスをリーザスに返したのは正解だった。

逃げ切れる手段を必死に考える横島。
(<転><移>なんて試したことねーが、そんなんで何処に飛ぶかもわかったもんじゃねーし・・・クソッ)

ならば身を隠す・・・それしかあるまい。

(これしかないが・・・文珠・・・せめてあと1個追加できれば・・・っ!)
懐の辞書を弄りながらこの方法の成功率を計算する・・・それほど高いとはいえないが、それでもやるしかない。

そしてユキと呼ばれたデッカイ手の小さな娘が突如上空へと飛び上がる。

(・・・なんだ?何処かへ行くわけではないだろうし・・・にしても今はコチラを見ていない・・・チャンスだっ!!)


「ちょっとまったぁぁぁ!!!」
横島は一気にサイゼルの前にまで飛び出す。

「な、アンタどこからっ!?」
おそらく自分が先ほど一瞬だけ感じ取った気配の持ち主だろう。
だが、奇襲を仕掛けたわけでもなく、日光を庇うように自分の前に仁王立ちしているだけだ。

「ムチムチでハイレグレオタードのねーちゃん!ムダ毛の処理ができてねー!はみ出てるぞっ!!」

そしてズビシッ!と効果音つきで指を「アソコ」に突きつけ指摘する横島。
「アソコ」が何処なのかは内緒だ。

――だあああああああぁぁ!!
――ゴインッ!!

サイゼルに日光はその場でコケて、飛び立ったはずのユキは頭から落ちてきた。

「な、な・・・な、嘘つくんじゃないわよっ!!毎朝ちゃんとチェックして剃って・・・」
顔を真っ赤にして絶叫するサイゼル。

「あーでも、今は昨日から出っ張ってますからねー。そんな暇なかったっスよー。ケケケケケ毛ケの毛」
頭のコブを押さえながらも、ニヤニヤしながら自分の主人を囃し立てるユキ。

「やっかましいっ!ユキ、アンタだってその服だったら・・・」
「ケケケケケケ、ユキちゃん幼女ですからー。まだツルツル、必要ねーですよー」
ギャーギャーと不毛な罵り合いを始めるサイゼルとユキ。

横島の予想以上に隙が生じ、その間に文珠を取り出し念を込める。

「・・・大体アンタっ!いきなり出てきて何失礼なことを・・・っ!!!」
そもそもの元凶にようやく気付き、凄まじい形相で横島のほうへと振り向くサイゼル。

しかし、その彼女の目の前に、光る珠がポーンと放り投げられた。

それは横島の切り札、文珠<閃>

凄まじい<閃>光が周囲に撒き散らされ、サイゼルとユキの視力をあっという間に奪う。

(こっちだっ!!)
身を翻し、和装の美女の元へと駆け寄り、抱き寄せる。
そして意識下からもう一つの文珠を取り出した。

「どぉりゃあぁぁ!瞬間移動の術ぅううう!!」

込めた文字を即座に発現させた横島。
一瞬で自分や日光、倒れていた健太郎と美樹の4人全てを跡形もなくその場から消したのだった。


光がようやく収まり、周囲の光景も元に戻る。

「・・・く・・・くっそー!何なのよ、今の光は・・・っ!!」

「魔法じゃーなかったみたいデスけどねー」
未だ視力が回復しないサイゼルとユキ。

目を擦りながらも、なんとか周囲を見渡すが・・・。

「って・・・リトルプリンセスは!?あのクソ男に日光も!健太郎まで消えちゃってるじゃないっ!!どーゆーことよっ!?」

忽然と消えた横島たちを探すため、辺りを見渡したが姿が見当たらない。

「『瞬間移動の術』とか何とか聞こえましたけどねー。マジっすかねー?」

「・・・・・・」
瞬間移動魔法はLV3魔法の一つであり、この世界では非常に限られた存在しか使用できない魔法の一つである。
俄かには信じがたい。
しかし、奴が現れる直前に感じたあの不可思議な気配のコトも考えると・・・。


「よし・・・上手い具合に<洞(うろ)>が発動したぜ・・・後は」
小さな穴からサイゼルとユキの様子を窺いつつ、小声で呟く横島。

横島は<洞>という文字を文珠に込めて、即席の避難所を美樹たちが倒れていたすぐ側の岩壁と地面の間に作り上げたのである。
当然、テレポートなんぞしていないし、そもそも4人も連れて出来るわけもない。
単なるブラフだ。

以前、美神がべスパに使った「北風と太陽の術」を真似してみたのだが・・・。

―ムニムニ

「あ、貴方は・・・」
突然現れてワケの分からないことを叫んだ後、自分達を奇妙な穴ぼこに隠した男に日光は戸惑っている。
ついでに現在進行形で自分の胸を触っている不埒な行為にも。

―ポヨンポヨン

「しっ!とりあえずこの場はこのままで・・・おおおデカイ・・・柔らかいっ!・・・キタキタァッ・・・!」
高まる煩悩に急速に霊力が集中されていく横島。

「・・・ですから・・・貴方のこの手は・・・っ!」

―ビュムッ!

「おしっ!ギリギリ追加で文珠1個っ!」

即座に<遮>と発現させ、完璧に視界も音声も、そして気配すらも<遮>断させる。

―ドガンッ!

「ぐへっ!」

それと同時にとうとう日光から突き飛ばされ、壁に頭を打ち付ける横島。
後頭部を打ち付けたはずなのに、垂れてきているのは鼻血であったが。

「・・・貴方は何者ですか?確かに私達を助けてくれたようですが・・・・・・」
冷ややかな目で横島を見つめている。
敵か味方か、はっきりと分からない以上、警戒を怠るつもりはないらしい。

・・・こんな状況下でセクハラした以上、当然の対応とも言えるが。

横島に言わせれば、アレはセクハラでも何でもなく、助かるために必要な「儀式」みたいなものであるのだが、説明したところで理解も納得もされないだろう・・・。


「んーやっぱ逃げられちゃったデスかー?」

「ナニ暢気なこと言ってるのよっ!!」

「自分だってまんまと逃しているのに、ユキちゃんだけに責任押し付けないでくださいよー。ホント駄目上司」
ヤレヤレと、大きなマジックハンドを上げて肩をすくめているユキ。
その仕草が余計にサイゼルの苛立ちを掻きたてる。

「リトルプリンセスは気絶してたし、ろくに気配も探れない・・・。あのクソ男も近くにいるように見えない・・・!まさかあの馬鹿面が本当にテレポートさせたとでもいうの!?」

「空から探すか、手当たり次第に破壊してみたら出てきませんかねー?」
単に自分達から見えない場所に隠れているだけかもしれないことを示唆するユキ。

「・・・アンタ、さっきニンゲンの砦で同じことして逃げられたのもう忘れたの・・・?でもアレだけの怪我をしてる健太郎まで消えたのよ?血の跡だって・・・」

先ほどまで健太郎が倒れていた場所には血溜まりが出来ていたが、どこかへ逃げたのならその血の跡がどこかへ続いていなければ不自然だ。

「とにかく上空から探すしかないかっ・・・。ユキ、アンタはモンスター達を連れてきなさい。すぐ近くまで来てるんでしょ?」

「ケケケケケケケケ、どーする気です、サイゼル様?」

「元々奴らはリーザス城に向かって逃げていた・・・。どーせ捨て駒だし、遠慮なくぶつけてリトルプリンセス達をあぶり出すのよ!」

もし本当にテレポートしたなら、モンスター達を使ってプレッシャーを掛ければ何らかの動きを見せるだろう。悪い手段ではない。
ユキ自身は正直、あまり賢い戦略とは思わなかったが、消えた連中をチマチマ探すより、ニンゲンの城で暴れまわる方が面白いだろうと判断した。

彼女の性格や思考は、あまり主人のためには働かないようである。

「アイアイサー!ユキちゃんはこれからモンスターを率いて今度はニンゲンの城に突撃しまーす」

マジックハンドで器用に敬礼のポーズを取り、ユキは飛び立っていった。


「おっ・・・空に飛んだ・・・。このまま別のところに探しに行ってくれればいいんだけど」

「・・・可能性はゼロではありませんが・・・低いでしょうね。む、サイゼルの使徒が・・・・・・」

奇妙な手の女の子が飛び去っていくのを見届ける横島と日光。

「サイゼル?あのハイレグねーちゃんの名前か・・・しかし、アレってかなみちゃんとかが言ってた魔人なのかなぁ・・・」

「・・・まさか知らずに飛び込んできたのですか?そうです・・・奴の名は魔人サイゼル。私達はワケあって奴らから狙われ、命からがら逃げていたところでした」

「魔人・・・・・・」

マリスやかなみ、チャカから説明だけは聞いていたが・・・。アレが魔人か・・・。
実は既に別の魔人にも遭遇しているのだが、横島を含め確証を得ていなかった。

とりあえず目の前の窮地は脱した。
このまま隠れているのもカッコはつかないが、何よりもまず命優先。
それにすぐ横で気絶している女の子のコトが気になる。

「何者ですか、と聞かれてましたね・・・。俺の名前は横島忠夫。そちらの女の子と同じ・・・日本から迷い込んでしまった人間です」


後編へ続く


後書きのようなもの

前回の後書きでの危惧通り、前後編にはならず、3部構成・・・今回は中編としてお届けすることになりました。
話が冗長というか、単に長くなってるだけで纏まりがないだけなのか・・・凹みます・・・。
そしてギャグも随分と減ってきたような気もしますが・・・。

次回、「魔人襲来編」終結します。
横島が日光を手にする!?
そしてリーザスに襲い掛かるユキ、そしてモンスター達!

とりあえず今回の後書きはこのへんで。

以下返信いたします。

>黒覆面(赤)さん
 サイゼルと激突!?ってな展開です。
 ユキの動向も気になるところですね、原作ではサイゼルが謁見の間のガラス窓をぶち壊しましたが、「IF横島」の存在がそれを変えるようです。

>Iwさん
 ご都合主義です!
 横島が日光達を助けに登場します!
 でもそこに至るまでの描写は丁寧に、不自然でないように・・・書いたつもりです・・・ハイ。

>東西南北さん
 原作読み返してないから分かんなかったっス。
 あの時の効果音ってどんなでしたっけ?

>ラッキーヒルさん
 仰るとおり、筆者も横島には兵隊は無理ですね。向いていないというか、周りの士気を下げるだけの存在になりそうです。
 レイラさんの親衛隊に放り込んだら(あり得ないけど)驚異的な力を発揮する気もしますがっ!

>ウェストさん
 坤ャラもいいですよねー。ウルザもいいですよねー。
 でも筆者はハイレグよりも復活直後のショートソードとボウガンを構えている立ち絵が大好きです。凛々しい!

>ZEROSさん
 残念ながら彼らは戦死しました。チーン合掌。
 魔人戦では、筆者はメガラス、サテラを別々に1部隊ずつ、あとは経験値稼ぎのために適当な部隊を放りこんでましたねぇ。

>素浪人さん
 とりあえず美樹ちゃんが日本人?って思っている以上、なんとしてもサイゼルの手からは救おうとするでしょう。
 その後も彼女を守ろうとするかは・・・横島君ならきっと守る道を選ぶ気がします。自分のためでもある「かもしれない」し。

>箸置き筆置きさん
 今後ともご愛顧お願いいたします。
 ランス困陵彖任眈しずつ取り入れていきます(基本はあくまで鬼畜王ランスですが)ので、この後の展開をお楽しみください。

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