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「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第八話(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-11-03 11:42)
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―リーザス城近くの荒野―

青年と少女が手に手を取り合って、何者かから逃げるように必死に走っている。
青年の片手には見事な装飾に拵えられた抜き身の刀。
その刀身は血に濡れて尚、曇りのない輝きを放っている。

「ハァハァ・・・もうすぐ・・・だ、美樹ちゃん。リーザスの城下町に入れば・・・」

「うん、健太郎君・・・私、頑張る・・・っ」

一時的に自分達を匿ってもらった砦はモンスターの襲撃で壊滅してしまった。
咄嗟に繋いであった『うし車』に乗って逃げ出したが、リーザス城へとあと少しという所で銃で狙撃され破壊されてしまった。

健太郎の身体のあちこちにある生傷からは血が流れ落ち、また凍りついたような痕もある。
満身創痍と言ってもいい身体でありながら、健太郎は美樹を庇うように走っている。

だが、その行く手を阻むように、彼らの頭上に突如飛来する影が現れた。

「スノーレーザー!!」

「ぐわあ・・・っ!」
上空から降り注ぐ閃光が青年の両足を貫く。
一瞬で凍りついた足が、それ以上前に進むことを拒む。

とうとう健太郎はその場に倒れ伏してしまった。

「きゃあああ!!健太郎君!・・・健太郎君!!」
倒れた健太郎に縋りつき、必死に声を掛ける美樹。

「ぐぐ・・・美・・・樹ちゃん、僕に構わず、逃げ・・・ろ」

「イヤッ!健太郎君と一緒じゃなきゃいやだっ!!」
健太郎の言葉には耳を貸さず、美樹はその身体を庇うように強く抱きしめている。

その小さな身体の隙間から目と鼻の先、リーザス城の正門が見える。

(あともう少しで・・・少しで街に入ることが出来たのに・・・!)
青年は無力な自分を、守るべき大切な存在を危険に晒してしまった自分を強く罵った。


彼らから少し離れたところに翼を持った少女が降り立つ。
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いていく。

彼女は当然、人間ではない。
リトルプリンセス捕獲のために魔物の世界からやってきた氷の魔人ラ・サイゼルであった。

「諦めなさい、健太郎。私達の手からいつまでも逃れられると本気で思っていたの?」

「くっ・・・誰が、諦めるかっ!!」
倒れてもなおサイゼルを睨む眼差しの強さは衰えない。

「・・・・・・」
無言のままサイゼルは両手に抱える魔法銃『クールゴーデス』から氷の散弾を無数に放出する。

「きゃあああああああ!!」

「フン・・・未覚醒とはいえ魔王・・・かすり傷一つ付かないのね。けど・・・」

サイゼルの言葉通り、美樹には傷一つ付かず、自分に当たった散弾は全て跳ね返している。
しかし、身体の小さな美樹では、倒れ伏して攻撃から身を守ることの出来ない健太郎までを庇いきることが出来なかった。

「・・・っ!健太郎君!?しっかりしてっ!健太郎くん・・・っ!!」

完全に意識を絶たれた健太郎。
美樹の声にも何の反応も見せない。
今すぐにでも手当てをしなければ死に至るほどの重傷であった。

「・・・さて、リトルプリンセス。アンタを守るナイトはもういないわよ。大人しく私達に付いて来なさい」

「あ・・・あぁ・・・・・・ひっく」

冷酷に告げるサイゼル。
もはや美樹には健太郎に縋りつき涙を流すことしか出来なかった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第八話「魔人襲来 前編」〜


―リーザス城 謁見の間―

反乱が終結して二日後。
玉座に座っているランスは次なる目標について思案を巡らせていた。

「俺様に逆らった馬鹿共も片付いたし、これでようやく自由に動けるわけだな」

「どうするの、ダーリン?」
隣に座っているリアが聞いてくる。

「もちろん、決まっている。俺様をコケにしやがったヘルマンをぶっ潰すのだ!」
ヘルマン兵から逃げ回った時のことを思い出したのか、ブルブルと怒りに拳を震わせている。

(おまけにシィルまで持っていきやがって・・・許さん・・・絶対に許さん・・・っ!!)

「ええい、思い出しただけでムカムカしてくるわっ!マリス!マァ―――リス!!」

「いかがいたしましたか?ランス王」
ランスの叫び声にすぐさま反応するマリス。
それまで謁見の間には居なかったはずなのだが、カーテンの陰からいきなり現れた。

「リーザス統一も終わったし、ヘルマンを叩く事にした。今すぐ準備しろ」

至極簡潔に、命令というにはあまりに大雑把なモノである。

「しかし、リーザスとヘルマンの間には、険しいバラオ山脈がそびえ立っております。そこを同時に通れる部隊は1つが限界です。たとえ苦労して山脈を通っても、その1部隊を敵は万全の状態で迎撃してきます。まず勝てません。我が国とヘルマンが永きに渡って戦い続けても決着がつかないのはこの為です」
理路整然と言葉を並べていくマリス。

「・・・・・・・・・」
「何か新しい方法を考える必要があります。それとも、もう、策をお練りになっていらっしゃいますか?」
もちろんランスにそんなものはありはしない。

「それじゃゼスでも攻めるか・・・・・・」

「それはあまり得策とはいえません。ゼスとは友好関係を結んでおり、それを破ってまで戦う必要はないかと」

「じゃ、自由都市地帯でも制圧するか・・・」

「確かにそんなに問題なく制圧出来ると思いますが・・・自由都市地帯は我々に害をなす存在ではありませんし・・・・・・」

ランスの思い付きに対し、忌憚のない正直な意見を述べるマリス。
王命とあれば従うが、リアを第一に考える彼女にしてみれば『出来うる限り』戦争は避けたいのが本当のところだった。

尤も、ランスにしてみれば、如何に優秀で忠実な臣下の言葉であるとはいえ、知ったことではない。

「わかっていないな、マリス。俺様は世界を統一する。とにかく、最終的にはこの世界のすべてを征服するのだ!」
(そう、世界中の可愛い女の子や美人でウハウハなねーちゃん達をモノにするためになっ)
ニヤける笑みを隠そうともせず、自らの野望に悦に浸るランス。

マリスはランスの胸の内を薄々と感じていたが、とにかくランスは世界を征服すべく覇道に乗り出すことを宣言したのだった。

「きゃ――!ダーリン素敵っ!!だったらリアは世界の王の奥さんになるのねっ!!」
ランスの隣で喝采を上げるリア。

「そうだ、俺様こそが世界の王にふさわしいのだ!がはははははは」

こうなったらもうランスもリアも止まらない。
マリスが如何様に諌めようと収まりはしないだろう。
大口を開けて笑い続けるランスにパチパチと独りで拍手し続けるリアを見ながら、マリスはこっそりとため息をついたのだった。


だが、ランスはまだ気付いていなかった。
リーザス・・・いや、人間の世界の全てを揺るがすほどの事態が目前に迫っていることに。

世界の命運をも左右する存在を追って、今まさにリーザス城へと襲いかからんとしていた。


―リーザス城 マリス・アマリリス専用執務室―

「――で、内乱が終わったと思ったら、今度は侵略戦争っスか・・・」

「ええ・・・。尤もランス王のそもそもの目的はヘルマン国への復讐とシィル殿の奪還ですから。こうなることは分かっていましたが・・・」

横島もランスが王となった経緯を間近で見ていたため、分からないことでもなかったが、それにしても慌しい話だ、と思っていた。

「よこちまぁ、『せんそー』ってなんらぁ?」

椅子に座る横島の膝元から聴こえてくる舌足らずな幼い声。
横島の膝の上には着ぐるみを着た小さな女の子が座っていた。


彼女の名はアスカ・カドミュウム。
弱冠4歳という幼児でありながら、リーザス魔法隊の隊長を務めている。
・・・正確には彼女が着ている『着ぐるみ』――彼女の曾祖父にあたるチャカ・カドミュウムが、であるが。
チャカ曰く、彼が退治した悪い魔女とやらが死ぬ間際に掛けた呪いで着ぐるみにされたという。

不幸にも着ぐるみにされた老魔法使いを曾孫のアスカが着ることでリーザス軍の魔法隊長を務めているというのである。

リーザス一の魔法使いであり、また様々な知識や古い伝承にも造詣の深いチャカをマリスが呼んだのは横島のためである。
最初に紹介されたときは顎が外れるほど驚愕したが、横島も伊達にオカルトに深く関わってはいない。
幼女が着ている『呪われた爺さんの着ぐるみ』が喋る状況にすぐさま順応してしまった。

マリスがランスに呼ばれ謁見の間に行った後も、横島はチャカに色々と尋ねたり話を聞いたりしていた。

魔法の原理や力の源について、召喚魔法と呼ばれるものや、異世界の存在。
魔王や魔人に関する伝承。
今よりも遥かに上のテクノロジーを持っていた人類が造りだした対魔人兵器『闘神』や浮遊要塞『闘神都市』。
神に謁見したという伝説の戦士達について、などなど。

チャカの知識はさすがリーザスの生き字引とも言われるだけあって色々と参考にはなったが、それでも元の世界に帰るための具体的な手段となるとさっぱり分からなかった。

「・・・お役に立てず申し訳ないですじゃ、横島殿」
着ぐるみであるチャカは表情こそ変わらないが、すまなそうにしている雰囲気は伝わる。

「いえいえ、とんでもな――」
「ひじじ、やくたたずら〜」
しかし、横島を遮るように投げかけられた無情なるアスカの言葉。

「おおうっ・・・!」
もはや失った心臓にグサリと刺さったのだろうか。

「う・・・うぅ・・・うう、儂・・・」
さすがに曾孫に『役立たず』と言われるのはダメージが大きかったらしい。
日頃からアスカがいなければ何も出来ない身の上だけに余計にショックを受けている。

「こらこら、アスカちゃん。お爺ちゃんにそんなこと言ったらダメだろ?ホラ、チャカ爺ちゃん泣いてるぞ。あやまりなさい」
横島は膝の上のアスカを抱え上げ、目と目を合わせて軽く叱り付けた。

「あぅ・・・ひじじごめんら〜」
横島の言葉に素直に従い、チャカに謝るアスカ。

「おーんおんおん・・・いいんじゃ、儂はアスカがおらんとなーんもできん着ぐるみジジイじゃから・・・おーんおんおん・・・」
チャカは延々とアスカの頭の上で泣き続けている。
いったいどちらの方が子供なんだか・・・、横島も呪いを解いてやりたいのは山々なのだが。

(霊能絡みの呪いなら<解><呪>でイケるだろうけど、仕組みの分からん魔法の呪いを解くのはなぁ・・・)

体内で生成される『マナ』を魔法力の源とする・・・とチャカは言っていたが、自分にはさっぱり『マナ』とやらが感じられない。
自分の霊能力と同じものかと思っていたが、どうやら違うらしい。

それゆえ、何が起こるか分からない上、下手なイメージを込めたらそれ以上の厄介な呪いに変わる可能性すらある。

しばらく考えに耽っていた横島だが、ふと視線を感じて振り返る。

「あれ?マリス様、どうかしたっスか?」

いつの間にか戻ってきたマリスが横島を何やら妙に微笑ましげに見つめていた。

「いえ、まるで横島殿のほうが保護者に見えてまして。仲の良い兄妹みたいでしたよ?」

「・・・・・・・・・そっスか」
何故だか照れくさかった。


――話は最初に戻る。

「あぁ・・・『せんそう』ってのはね・・・・・・国と国が『けんか』すること・・・だよ」
まぁ、間違ってはいない。
4歳児に『国』といったところで通じはしないだろうが、『けんか』で大体のニュアンスくらいは伝わるだろう。

「あう〜『けんか』はだめら〜。よこちま、はやくなかなおりするらろ?」

アスカとて先の内乱で従軍経験がないわけではないのだが、わずか100名足らずの部隊が前線に出ることなどない。
リーザスの魔法隊は後方支援が主であるため、これは当然のことなのであるが。

「いや、別に俺が喧嘩するわけじゃないんだけどね・・・」

勘違いされたようだが、面と向かってそれを指摘する気にもなれず横島は苦笑いする。


「しかし・・・ヘルマンに攻め込むとなると、あの話が活きてくるかもしれませんのぅ」
アスカの頭の上のチャカが唐突に語り始める。

「あの話?」

「先ほどお話した『伝説の戦士達』のうちの一人『この世の全ての知識』を与えられたという賢者のことですじゃ。ヘルマン国でも北方の街『シベリア』からさらに北東、雪に覆われた世界の最果ての塔に隠棲している、という言い伝えがありましての。その御仁ならきっと何か有効な手がかりを知っておられるに違いありますまいて」

「へ・・・?でも、その話って今から1500年前のことだって言ってませんでした?」
先々代の魔王ジルに挑んだという5人の伝説の英雄達の話。
彼らは魔王や魔人を倒すための力を求めて神に謁見したという。
だが、彼らはその後行方知れずとなり、やがて人々の記憶からも薄れていったと言われているが・・・。

「彼らは何らかの方法でもって不老不死を手に入れた、とも言われとります。まして全智の賢者のこと、何ら不思議はありませんじゃ」

「私もその話は聞いたことがあります。訪れた者に何かを代償として望む知識を与えるとか・・・尤も噂に過ぎませんが・・・」
マリスがチャカの話を繋げる。

「ひじじよりももーっとじじなんかぁ?」

「そうね、アスカのひじじのひじじのそのまたひじじよりもお年を召されているわ」

マリスの言葉に「ほええ〜」と目を丸くしているアスカ。

「不老不死・・・賢者。うーむ・・・」
横島はチャカやマリスの話を受けて真剣に考え込んでいる。
その話の信憑性はこの際考えないとして、『この世の全ての知識』を与えられたとまで言われているのなら、きっと元の世界に帰る手段も知っているに違いない。

ただ横島の心配は他にあった。
脳裏に浮かんだのは齢1000を越す人類最高の錬金術師、ヨーロッパの魔王ことドクターカオスである。

(1500歳以上の爺さんがいるっつーのは不思議でも何でもない・・・だが、あのドクターカオスみたいなただのボケ爺さんだったら・・・)
本人曰く、長生きはするもんじゃない、とトコロテン式に知識が抜け落ちていってる可能性だってあるのである。
そんな人類未踏の地のような場所にわざわざ出向いて変なオチが付いてはあまりに虚しい。

「単独行動などまず不可能な土地ですし、何よりそこはヘルマン領。今すぐどうこうできる訳ではないのですけどね」

「・・・まぁ、そうですよね」
マリスの言葉に相槌を打つ横島。
いずれリーザスがヘルマンに攻め込み、『シベリア』という街を占領したら行けるかもしれない、というだけの話だ。今のところは。


「はぁ〜。簡単に帰れるとは思っていなかったっスけど、これは相当厄介みたいやなぁ・・・」
思わず目から心の汗が流れ落ちる。
膝の上のアスカに零れそうになって慌てて堪えるが。

横島がこの世界にやって来て、そろそろ1ヶ月は経つ。

(あああ・・・既に一ヶ月も無断欠勤、美神さん怒ってるやろなぁ・・・無事帰ったとしても無事で居られるか・・・おキヌちゃん、シロ、タマモ・・・あと人工幽霊壱号も・・・みんな元気かなぁ。俺のこと心配してるんだろうか・・・)

怒涛のイベントの連続で落ち着いて考える暇もロクになかったが、改めて先行きの暗さに陰鬱な気分に陥る。

「よこちまが、泣いてるのら〜。どうしたのら〜?いたい、いたい?」

アスカが横島の涙に気付いたのか、気遣うような声を掛けてきて余計に泣けてきた。

「すまんなぁアスカちゃん・・・。お兄ちゃんは泣き虫なんや・・・」
袖口で涙を少し大げさに拭う。

「げんきだすら〜。なきむしはにわにさくひまわりに笑われるら〜」
ぺしぺしと横島を元気付けるように頬を叩いてくるアスカ。

「ア、アスカちゃん・・・どこでそんな言葉を・・・?」

かつて誰かに横島が言った言葉。
思わぬところで聞かされ、少しビビリ気味になる横島であった。


―コンコン

執務室の扉からノックの音が鳴り響く。

どうぞ、とマリスが声を掛けた。

「失礼します」
部屋に入ってきたのはカーチス・アベレンだった。

(・・・げっ)
その顔を見て横島は内心でゲンナリする。
嫌い、というよりは苦手なのである。

なにせカーチスはどこからどうみても美少女にしか見えないのだ。

マリスのところで働きはじめてすぐの頃、改めてカーチスを紹介されたときだった。
初対面の際はマリスの影にすっかり隠れてはいたものの、「見た目美少女」のカーチスを横島が口説かないわけがない。
だが、手を握り締め、情熱的に愛を囁いたあとのカーチスの返事。

「あの私、男です・・・」
口元に手を当て上目遣いに、しかも頬を赤く染めながら呟かれた衝撃といったら・・・。

言いがかりに等しくはあるが、とにかく横島はカーチスが苦手だった。
ただカーチスの方は数少ないマリス直属の部下同士であり、年も近く、同性(一応)の横島に親近感を抱いているようであるが・・・。

「マリス様、報告があります・・・と」
そこで言葉を区切り、カーチスは部屋に居る人間を見渡す。
このまま続けてよろしいですか?の意だろう。

「構いません、カーチス殿。続けてください。」

「はい、先日よりご報告に上がっていました『ノースの街』西の見張り所からの定期連絡が既に3時間以上途絶えております。調査のためスカウトを派遣することを許可願いたいのですが・・・」

―先日の報告
それはリーザス城から西『ノースの街』のさらに南西にある『魔物の洞窟』を監視するために設けられた見張り所からの報告のことである。
多くのモンスターが生息する『魔物の洞窟』はその周辺にもいくつかモンスターの集落があり、そのため常に監視体制が敷かれている。
しかし、ここ数日、まったくモンスターの姿を見なくなったという報告が来ているのだ。

「・・・つまり『何者か』がモンスターを組織的に動かしている、ということでしょうか」

モンスターを見なくなった=消えた、ではない。
複数の集落のモンスターが全て、それも同時期に居なくなることは決して偶然ではない。

通常、モンスター達は少数の群れで動くことはあっても、組織だって動くことなどありえない。
一部を除けば総じて知能が低く、また種族ごとに個性も強いためだ。

しかし、モンスターの世界に存在する絶対上位者がいれば話は別となる。
魔王(これはありえないが)や魔人、もしくは使徒の存在である。

「確定という訳ではありませんが・・・その可能性は高いと思われます」

「早急に調査する必要があるでしょうね。見当殿は・・・」

「見当殿はランス王の命令で自由都市地帯への斥候の任に就いているそうです」

かの王は早速にでも他国へ侵略するつもりらしい・・・。
何もこんなタイミングで派遣しなくても・・・とマリスは胸中でぼやいた。

リーザスの数少ない忍者かなみがいない、ということはマリスの手持ちの部下に斥候の任に就けるものが居ないということだ。
独自の諜報機関を持つとはいえ、ほとんどがカーチスのような文官タイプであるため、自由に動かせる実働部隊は既に他の任に就いている事がほとんどなのである。

「・・・あっ」
―ぽんっ、と握りこぶしを手の平で叩くマリス。

横島はすごーく嫌な予感がした。

「横島殿」
マリスの呼び声に、やっぱり・・・と予感が的中する。

「嫌っすっ!!モンスターがいっぱいいるかもしれないって言ってたじゃないっスか!!」
横島はNOと言える日本人。
根性はないが、己の命のためならコワーイ雇い主にだって逆らえ・・・たこともあるかもしれない・・・多分、あまり覚えてないけど。

だが、マリスは横島の拒否になんの反応もせず、黙って横島へと近づいてくる。

「横島殿・・・」

「へっ・・・?」
急に妙に色っぽい声で迫ってくるマリス。
そのまま横島の背中に身体を押し付けて耳元で囁き始める。

「お願いします・・・横島殿・・・貴方しか頼れるヒトがいないのです・・・」
普段のマリスからは想像もできない言動である。

(な・・・なんだ・・・コレは・・・ああああぁ・・・やめてえ、背中に柔らかい二つの山がぁ・・・耳元に息がぁ・・・ああああっ!?)
成熟したマリスの肢体が横島に絡みつく。

明らかにマリスの策略なのであるが、横島の脳裏には既に『命の危険』と『おっぱい』が天秤に掛けられている。
・・・なんか以前にも同じようことがあったような気がするのだが、そんなものはとうに記憶の彼方だ。

「ひじじ〜、よこちまのかおがへんら〜」

「これ、みちゃいかんぞアスカ。こどもにはめのどくじゃて」

横島の顔の右半分は疑惑と恐怖で引きつり、左半分はだらしなく緩みきっている。
奇面相ここに極まれり、といったところである。

カーチスはというと額に汗を浮かべながらアハハと渇いた笑い声を上げていた。

――チーン!←天秤が『おっぱい』に傾いた音。

「あ・・・あぁ・・・あ〜!!マ、マリス様〜!!ぼかぁ・・・ぼかぁもおおお!!!」
煩悩が恐怖に打ち勝ったらしい。まぁ、大方の予想通りであるが。

マリスへと振り向き、そのまま抱きつこうとするが・・・。

―ぺいっ

「あっ・・・」

―がしぃっ!!

「あ〜マリス様〜!!うはぁ・・・ええ匂いじゃああ!!それにあったかいぃ!!」

「う・・・あ・・・あう・・・」

声にならない声を上げているのは、横島に抱きしめられている『美少年』

「あ、アレ?あんまり・・・やわら・・・・・・か、くな・・・い・・・?」

そこでようやく自分が抱きしめている人物に気付く横島。

「あ・・・あの横島さん・・・私、恥ずかしいです・・・」
横島の胸元にいるのは、頬を染めて恥ずかしげに俯いているカーチス・アベレン君(16)だった・・・。


「うぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


凄まじい絶叫を上げる横島。
下手をすればリーザス城中に響くほど豪快な叫びだったが、幸運なことにこのマリス専用執務室は『完全防音仕様』である。

「お・・・お・・・男にいいいいっ!!あぁぁあぁっチクショー!!騙されたーっ!!分かっていたのにっ!心のどこかで分かってたのにぃいいっ!!!」

柱にガンガン頭を打ち付けている横島。
額が割れようが、血が飛び散ろうがお構いなしである。

「横島殿、血で柱やカーペットが汚れますからほどほどになさってください」

「酷っ!!」

張本人であるマリスのあんまりな言葉に正気に返る横島だが、反論する元気などほとんどない。
へなへな、とその場に崩れ落ち動かなくなってしまった。


「では、横島殿の了承も得られましたし・・・カーチス殿、貴方も横島殿に同行し彼の補佐をお願いいたします」

「はいっ!分かりました!」
勝手に話を進めるマリスに、何故だか妙に張り切っているカーチス。

「・・・もう・・・好きにして・・・」
床に突っ伏してだくだくと涙を流す横島の側にアスカがやってくる。

「げんきだすらろ、よこちま〜。アスカのおかしあげるらお〜」
そう言って自分のポシェットから飴を取り出すアスカ。

「あ・・・ありがとうな・・・アスカちゃん。でも、お兄ちゃんもうダメだ・・・」

力なく呟く横島の頭をアスカはやさしくポンポンと叩くのであった。


「アスカ殿はすっかり横島殿に懐いたようですね」

「そうですのぅ・・・元より人見知りしない子でしたが、ここまで家族以外の者に懐いているのを見たのは初めてですじゃ」

暢気に話すマリスとチャカの声は横島の耳には届いていなかった。


―リーザス城近くの荒野―

「往生際が悪いわね、聖刀日光。いくら『魔人殺し』のアンタでも、所持者がいなければその力を発揮出来ないただの刀でしょ。人間の姿になったからといってどうするつもり?」

「・・・くっ」

サイゼルの言葉に悔しげに歯を食いしばる長身に和装の美女。
彼女こそ、世界に二振りしかないといわれる魔人殺しの一つ『聖刀日光』である。
その正体は彼女の主、小川健太郎のみ扱うことの出来る一振りの刀であった。

彼女の傍らには気絶して倒れている健太郎と美樹がいる。

確かにサイゼルの言うとおり、魔人の無敵結界を破る能力は刀としてマスターに振るわれる時のみである。
仮初の人間の姿では、せいぜいこの身一つで立ちはだかることしか出来ない。

「まぁ、いいわ。アンタも大人しくついてくるなら、そこで寝ている健太郎の命『だけ』は見逃してあげてもいいわよ?」

『聖刀日光』はただ無敵結界を破れるだけでなく、武器としてもこの世に並ぶものがないほど強力なアイテムである。
苦もなく手に入るならそれに越したことはない。

「・・・・・・・・・」
当然、承諾しかねる提案だが、しかし日光にはなんら事態を好転させる手立てが思いつかない。


「ケケケケケ毛ケケケケ!なーにチンタラやってるですか、この無能上司」

突如上空より現れた一体のモンスター、いや使徒であると日光は見抜いた。
間違いなくサイゼルの使徒だろう。

「うっさいわねぇ・・・。アンタのほうこそ派手にやらかすから、こうして私がこんなところまで追いかけるハメになったんじゃない!」

小生意気な口調、随分と小柄な体格に、巨大なマジックハンドを両手に具えた武装。
サイゼルの使徒、ユキである。

「うひゃーひっでーなー、この上司わ。ユキちゃんはサイゼル様の命令でニンゲンどものアジトを落としたというのにー」

「目標を見逃していたら意味無いでしょうがっ!・・・たくっ、で、アンタが率いていたモンスター達は?」

「もうちょい後ろにいるですよ。いちおー命令どおり、ニンゲンどもの使う街道から外れて歩かせてますけどねー、ケケケke」

「ふんっ・・・まぁいいわ。もう使うこともないでしょうし。・・・さぁて日光、さっきの返事は?」

サイゼルはいつも口答えばかりする自分の使徒にため息をつきつつ、気を取り直して日光に問いかける。


(駄目だ・・・ここで諦めるわけにはいかない・・・。美樹様を魔人ケイブリスに渡してはこの人間の世界は破滅・・・再び暗黒時代に戻ってしまう・・・)
日光はかつて、自分がまだ一介の剣士だった頃のことを思い出す。

魔王ジルによって奴隷として支配された人間界。
あの時代はまさしくこの世の地獄だった。

「美樹様を・・・お前達になぞ渡すわけにはいかないっ!」

「あっそう・・・。なら死になさい、健太郎共々ね」
再び銃口を日光に向けるサイゼル。

「ケケケケ卦ケケ!日光は刀なんだだから『死ぬ』ってのはオカシイですよーサイゼル様ー」
ユキは主人を囃し立てるだけで、何もせずケラケラ笑っている。


健太郎、美樹そして日光の命運は今まさに尽きようとしていた・・・。


後編へ続く


後書きのようなもの

ついに始まりました「魔人襲来編」
さっそく前後編の構成(ひょっとしたら3部構成?)ですが、後編は今しばらくお待ちください。
ランス困茲蟷氾魅罐を登場させました。彼女は鬼畜王では存在しませんが、設定上居てもおかしくないですよね?
面白いキャラだし好きなのでエコヒイキです、ケケケケ家ケケケ!

カーチス君が再び登場。なにやら変な方向にイってるようですが気にしたら駄目です。
アスカは少々あざといかなぁ・・・と思いましたが、伏線のためにもチャカを出す必要があったため登場です。

話の展開を巡る時間軸が今回、やや複雑かもしれません。
必要とあれば返信で解説をいれます。

さて、ちょっとテンション下がり気味だった「反乱編」を無理やり終わらせた感も強かったですが、この魔人編はじっくり取り掛かる所存です。
どうか気長に、末永くお付き合いくださいませ。

以下返信です。


>Iwさん
 『面白ければ何でも良し』
 だが、それが一番難しいですなぁ・・・。基本ギャグで進めて行きたいのですが、シリアス部にも『鬼畜王ランス』の魅力が詰まっているため、それをいかに表現できるかが今後の改善点です。

>titoさん
 ランスも復讐とかシィルが絡んだり、怒りに染まったときはどうするか分かりませんが、基本的に『可愛い女の子』には優しい男ですからね。
 『道具扱い』するシーンはあまりないように覚えてます。あるとしてもだいたいプレイヤーの選択に委ねられてますね、ゲームですし。

>素浪人さん
 ご指摘の通りです。
 改訂版を即座にUPしました。
 ランスにスポットが当たるときは魅力を損なわないよう、今以上に注意いたします。

>囚人Rさん
 自分の横島観の根拠も、囚人Rさんと同様、父大樹への態度からきています。
 あの外道親父に対する殺意は本物でしたでしょうが・・・。正義感は皆無ですね。

>闇の王さん
 ランスが逆行していることはありません。原作どおりの役どころです。
 性格が完全に違う、というのは、うーん。しかしハウレーンやバレスへの言動・態度は原作のままのつもりです。
 メナドに持たせた文珠は伏線その1ということで、しばらくは魔人に取り掛かりきりですが、いずれ必ず出します。

>ラッキーヒルさん
 確かにランスが選んだ答え『シィル』か『世界』かは、見事にシィルを選んでいましたねぇ・・・。
 ある意味、真の漢です。カッコいいぞランス。

>名刀ツルギさん
 筆者もあまり納得した話には出来上がりませんでした・・・強引だしこじつけだし・・・。ごめんして・・・。
 やっぱ横島は戦争にだしちゃ駄目っすね。『戦い』のシーンは随所に織り込みますが、人間の『戦争』は控えます・・・表現下手だし・・。
 >ピートがカーチス
  あれ?なんかヤヴァイ方向にいってる気がする・・・。

>ウェストさん
 文珠はやっぱ話を面白くも詰まらなくもする究極のキラーアイテムですね・・・扱いの難しさをつくづく実感しました。
 寝取られ展開を書いたら、未来の筆者が棍棒もって殴りかかって来そうですからねぇ・・・。

>かくさん
 うっす!かくさんの言うとおりっす!横島も、そしてとりわけランスに魅力なさすぎ・・・。
 厳しいご意見ですが、今後の展望を組み立てる上で参考になりました。
 がんばりますので、今後とも応援・意見のほどお願いいたします。

>ZEROSさん
 美樹や健太郎の故郷は『日本』とゲーム中でも明言されていますが・・・さてさて・・・。どうしようかなぁ(マテ
 文珠つかって健太郎治したら確かに展開が大幅に変わりますねぇ・・・。うーんうーん。まぁ、それはそれで(超マテ
 カオスや日光も魔人の気配を感じる能力があるらしいので、そこいらへんは表現したいですね。

>ネリさん
 ヒント:筆者はラインコックが好き
 横島が魔人の世界行っちゃったら『丁稚奉公!!』のタイトルが・・・あっ、ホーネット様が(以下略

>名無しさん
 ゲームは週単位でイベントが進むため、確かに時間経過に関しては意識していないと読者を置いてけぼりにしそうです。反省。
 それとまたもいい読みなされています。
 反乱編はある意味『実験編』作中で横島がどう動くか、色々シミュレートしましたが、どうにも戦争の中では動かしにくい、ということを実感しております。
 私の二次創作、クロス作品へのスタンスのせいもありますが、キャラの制御が完全ではないのです・・・。
 あと、たまにランスの一人称で話を展開すれば違和感は減るかな、と思っています。

>七位さん
 色々と参考になります。ランスと横島の関係は近いうちに作中ではっきりさせます。出来れば読者の皆さんが『これなら納得』とか『こーゆーのも面白い』と言っていただけるように・・・。
 『殺し合い』になるのは・・・作品がそこで終わってしまいますからね・・・。横島が問答無用の本気で奇襲&暗殺に走ったら、それを防ぐことはランスでもかなり困難だと思います。勿論、ランスもタダでは死なないでしょうが。

>リロイさん
 「w」ああぁぁぁ!油断してると使いそうになるっ!
 筆者は元『最後のなんたらMMO』のプレイヤーでありまして、どっぷり浸かった時期があったのです。これはもうクセです・・・。でもここではもう止めます、うっす。
 >そういう行為があったと読み取れるような、作中のキャラの心情や言動、状況が描写されている
 あれ?そういう描写ありましたか・・・筆者も気付いてないのか忘れているのか・・・。むぅ・・・。
 以後注意するであります。

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