オーブ領海沖での戦闘は、すぐにユウナの耳に届いた。
「予想よりも早かったな」
自身の予想よりも早い動きを見せていた連合の動きに若干驚きながら、ユウナはすぐに軍本部の指揮所へと向かうことにした。
本来ならば文官であるユウナが向かうべき場所ではないのだが、この国の軍の体質、そして代表の性格を考えれば、もしカガリの耳にこのことが届いた場合、どのような感情的な指示を出し、それを嬉々として遂行しようとするのかが思い浮かんでしまう。なので、ユウナは抑止力として指揮所へと向かう。それは全てにおいて、オーブと言う国を守るためにだ。
「草からの報告は?」
「はい。まだ代表の方へは連絡はいっていないようです」
「ならば、少なくともこちらが指揮所につくまでは連絡が行かないように指示を出しておいてくれ」
「了解いたしました」
ユウナの指示を受けたレナスは、すぐに携帯電話で連絡を入れると表に待たせておいた車へとユウナを乗せ、自身も乗り込むと同時に車を進ませた。
自身に宛がわれた執務室で、カガリは書類を読んでいたが、胸に蟠るもやの為にその内容が一切頭に入らずにいた。
その原因は、今朝早くに自国から出港したある一隻の艦のことだった。
まるで人目を避けるように、逃げるように去ってしまったということを人伝に聞いたカガリは、言いようの無い無念さを感じていた。
短い間とはいえ、寝食を共にし、その上地球の危機を救ってくれた艦に対して自分はその恩に報いることが出来たのだろうか、と思わずにはいられなった。
確かに、現在の地球上の情勢を考えれば中立のオーブにいるよりもカーペンタリアにある基地のほうが心情的には楽かもしれない、とカガリは納得するように考えるが、その考えがまたカガリを傷つけた。
安心して休むことも出来ない中立国だと思われているのか、と。
その考えにとらわれ、そして議会を占める連合よりの、理念を無視した国のあり方にカガリは深い憤りを感じた。
何故誰も理念を守ろうとしないのだろうか。
理念無くして何のオーブか。
カガリは胸のうちでそんな考えを叫んでいたが、その叫びは胸のうちだけで決して外に出ることはなかった。
そのことが良いかどうかはカガリにはわからなかった。
もしかしたらカガリは疲れているのかもしれない。オーブと言う一国家の代表であるという事実に。
理想と現実の間に生じる差に。
「……アスラン」
弱弱しい声と共に、左薬指に鎮座する指輪に手を当てる。
まるで幼子が親へと手を差し出すように。
だが、指輪は何も答えてくれず、ただその金属質な温度を伝えるだけであった。
「このー!!」
インパルスの方向転換のために踏み台にしたウィンダムへとライフルを放ち、爆散するのを視界の隅で確認しながらシンは自身の疲労がたまってきていることを感じた。
倒しても倒しても、際限なく増加する敵の数にシンは連合の物量と、まるで命を道具のように使うそのやり方に呆れと怒りを感じずにはいられなかった。
シンのこれまで倒したMSの数だけでも、すでに二十近くなると言うのに、それでも戦力を一定数に維持し続けるその戦い方にこちらにたいして恐怖を感じていないのか、と疑問に思わずにはいられなかった。
それと同時に、ミネルバのほうでも纏わりつく敵の数の多さに閉口せずにはいられなかった。
一人一人の腕と機体性能ならばこちらが有利なのだが、その有利さも数と言うその暴力の前では塵に等しく、徐々にミネルバが押しやられていることからも明らかだった。
そのことに苛立たしさを感じ、すぐにでも母艦を叩こうかと思うのだが、防衛線は予想よりも厚くインパルスはMS隊の後方へはなかなか進めずにいた。
(戦争は数、か。まさに至言ってヤツだ!!)
空中戦の途中でフォースのバーニア出力を一瞬止め、自由落下をすると同時に追ってきたウィンダムとすれ違うその瞬間、ジェットストライカーのエンジン部分へ胸部バルカンを叩き込み飛行能力を奪うことに成功した。
主翼を動かすことで滑空するように機体をコントロールしながら、海面を疾走していたGイーグルへと降り立つと同時に上空のウィンダムへとビームとレールガンの攻撃を加えた。
それぞれがジェットストライカーを打ち抜き、自力飛行が出来なくなった機体が自分よりも下にいた僚機めがけて質量爆弾となり、諸共海面へ墜落するさまを確認せずにミネルバの防衛線を維持しようとしたそのとき、通信が入ってきた。
その内容は、『タンホイザー使用。射線軸より退避せよ』という内容であった。
時間は少し戻る
旗艦の艦橋で、艦隊司令はミネルバとそのMSの奮戦振りを見ながら誰となく呟いた。
「なるほど。確かになかなかやる艦だな」
そう呟くと、司令は後方に居た将校の一人に問い掛けた。
「ザムザザーはどうした。あまりに獲物が弱ってからでは効果的な『宣伝』は取れんぞ」
そのどこかからかう様な問いかけに、将校は即座に答えた。
「はっ!準備でき次第発進させます!」
その報告を受け、司令は満足げに頷きながら自説を誰へともなく披露した。
「身贔屓かもしれんがね。私はこれからの主力はああいった新型のMAだと思っている。ザフトの真似をして作った蚊トンボのようなMSよりも、な」
その声には、今も眼前で落ちている味方MSへの憐れみは一切感じることのできない、乾燥した温もりのない響きを宿していた。
そんな艦隊司令の言葉を聞くことのできない格納庫では、異様な風体を持っている一基の巨大MAに、3人のパイロットが昇降機で機体先端のコックピットに乗り込んでいた。
この機体は、そのあまりにもな大きさからもわかるように、一人で運用する事が出来ず、コマンダー、ガンナー、パイロットの3人による運用がなされなければその能力を発揮することができなかった。
3人が乗り込み終わり、それぞれがシートに座ると共にコックピットが閉鎖された。そして空母の中央カタパルトが展開し、アナウンスと共に台座がせり上がりザムザザーがその巨体を白日の下に晒した。
『ズール01リフトアップ。B80要員は誘導確認後バンカーに退避。針路クリアー。発進よろし』
そのアナウンスに呼応して、誘導灯を両手に持った担当員が手信号で台座の操作を指示し終えると、ザムザザーはその下部の2基の巨大バーニアを使い垂直上昇するとその方向を変え、ミネルバへとその巨体を進ませるのだった。
その様子は、その外観から女神へと襲いかかろうとする海の魔物のように見えた。
ミネルバでもザムザザーの発進はレーダーに感知され、バートから慌しく報告されていた。
「アンノウン接近!これは……?!」
その歯切れの悪い報告に、タリアは首を微かに曲げるのに応えるようにメイリンが報告を引き継いだ。
「光学映像出ます」
その言葉と共に正面のモニターに映し出されたザムザザーに、アーサーは驚きの声を上げた。
「何だ、あれは?!」
その言葉に、タリアは唖然と自分の予想を口からこぼした。
「MA……」
その言葉に、アーサーは信じられないとばかりに声を上げた。
「あんなにデカいMAなんて!」
アーサーの言うとおり、モニターに映るMAは今までの常識から懸け離れた大きさで、異様な圧力を有していた。
タリアは、ザムザザーの容姿を確認すると、すぐに対応を指示した。
「あんなのに取り付かれたら終わりだわ。アーサー、タンホイザー起動。あれと共に左前方の艦隊を薙ぎ払う!」
「ええー!?」
その指示に、アーサーは驚きの声をあげてしまった。
声を上げたアーサー以外の艦橋員も、その指示が信じられないという表情でタリアへと視線を向けていた。
アーサー達が驚くのは当然だろう。陽電子砲はその名の通りに陽電子を敵に向け放つのだが、この陽電子が電子とぶつかる際に、放射線の一種であるガンマ線を発生し、放射能による環境汚染が起こる恐れがあるのだ。
宇宙での使用ならともかく、地球上での使用にはなかなか踏み込めないジレンマを抱えた最強の矛、それがタンホイザーなのであった。
そのことはもちろんタリアも重々承知していた。しかし、タリアはこの艦に乗る者の命を救う為には、たとえ地球の環境を汚染してしまうかもしれないという危険を冒さずに、この場を切り抜ける事は出来ぬと判断したのでタンホイザーの発射を指示したのであった。
「沈みたいの!?」
その決断の際の苦悩が気を立てるのか、幾分か感情的な声でアーサーに尋ね返した。
その言葉に慌ててアーサーは答えた。
「あ、はい!?!い、いえッ!タンホイザー起動!射線軸コントロール移行!照準、敵モビルアーマー!」
本来は否定せねばならぬその問いかけにいつものように肯定するように答えてしまい、それに気が付くと慌てて言い直すとアーサーはタンホイザーの発射準備を進めた。
ザムザザーのパイロットたちは、ミネルバがタンホイザーの発射体勢に入ったのに気がついた。
「敵艦、陽電子砲発射体勢確認」
ガンナーからの報告を受けたコマンダーは、パイロットに抗うための指示を出した。
「陽電子リフレクター展開準備」
その指示を受けたパイロットが、コックピット内のパネルを操作しながら復唱する。
「敵艦に向けリフレクション姿勢」
その言葉と共に、ザムザザーはその背面をミネルバに向け垂直に近いくらいに立てた姿勢をとると同時に、その背部にある3本の突起の先端にあるパネルが光り、それらの光が交わると陽電子リフレクターが展開された。
「さあ、貴様らに絶望をくれてやるぞ。ソラの化け物どもめ」
コマンダーは、静かに嘲笑を浮かべながらそう呟いた。
ミネルバでは、ザムザザーが展開した陽電子リフレクターの存在を知らずに、そのままタンホイザーを放った。
「てぇーー!」
アーサーの気合の篭った号令と共に放たれたタンホイザーが、大気中の電子との爆発を起こしながらもザムザザーへと目掛け放たれる。
その様相は、騎士が放つ槍の一撃。立ちはだかるものをことごとく屠る必殺の一撃、それを連想させるほどの力強さを味方に与え、敵には恐怖と絶望を与えるものだった。
だが、次に起こった現象は、その幻想を無残にも壊すものだった。
「対ショック姿勢!」
コマンダーの指示のすぐ後に、最強の一撃がザムザザーに襲い掛かった。
いくら陽電子リフレクターがあるとはいえ、想像を絶する激しいタンホイザーがもたらす衝撃に、コックピット内ではスパークが所々で起こりながらも、その圧倒的な暴力の奔流に耐え抜こうとしていた。
だが、その勢いは抑えきる事は出来ずに、そのままザムザザーはタンホイザーに力負け押し流され、その余波を浴びることとなった僚艦はことごとく爆散するという運命に出会ってしまった。
爆発によって巻き上げられた海水が、豪雨のように降りそそぐ中、ミネルバの艦橋に居た者と戦場に出ていた者全員が、信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開き、目の前の現実を直視した。
全員の視線の先には、一見した限りではなんら損傷が見受けられない状態のザムザザーがその異様な外観を誇りながら浮遊していた。
「タンホイザーを……そんな……跳ね返したの?」
その現実が信じられないルナマリアの口から、力なく零れた疑問に答えることの出来る者は誰もいなかった。
「……っく!アーサー!トリスタン一番、二番、それとイゾルデの照準を敵MAに!」
「で、ですが艦長!相手は陽電子砲を防ぐようなヤツですよ!」
「だからといって諦めるわけにはいかないでしょう!ヤツを最悪でも本艦に取り付かせないようにしなくては私達はここで死ぬわよ!!」
「りょ、了解!」
タリアの剣幕に慌ててアーサーは攻撃の指示を下す。
その様子を見ながら、タリアはどうすればこの危機を打開できるのか、その聡明な頭脳で考えた。
だが、そんなタリアの耳に信じられない報告が飛び込んでくるのは、その数分後であった。
時間はまた戻る。
間断なく響く爆音と振動は、医務室でも起こっており、その部屋の主であるアリアは震えるステラを抱きかかえて恐怖からその心を守ろうとしていた。
そんな姿を見つめるサトーには、その二人の姿がかつて失ってしまった尊いもののことを思い出させた。
「エヴァ、リノ、マーヤ。お前たちの未来を、私は守ってやれなかったのか」
誰にとなく尋ねるその声には、生きる力が感じられず、ただ空虚なそれがあった。
目の前の光景を見つめながら、サトーはこの艦に乗り込んでから見せられたニュース映像を思い出した。
瓦礫の山の上で愛しき者の躯を抱えて慟哭を上げる男の姿。
自身の負っている傷をものともせずにひたすらに子供の名を叫び探し続ける母親の姿。
親を失い、恐怖を打ち払うかのように泣き続ける幼子の姿。
その姿は、かつてどこかで見たことのある映像ではないだろうか。
そう。ユニウス7崩壊の報を聞いた時の同僚の姿では?
偶々他のプラントに出向いており、悲劇を免れたのを知ると同時に全てを失ってしまったと理解し泣き叫んだ男と同じでは?
何が違う。
あそこに映っている映像と、二年前の我らが味わった理不尽な絶望と怒りと悲しみと、何が違うというのだ。
私は、あの時味わった悲劇を地球にいる者たちに味合わせたかったのではないのか?
本来の予定とは異なる質量であったが、それでも我等の彼岸は達成出来たというのに。
この胸を締める空虚さはなんだ?
なぜ、こんなにも虚しいのだ。
なぜ、私はお前たちの顔を思い出せないのだ?
声は聞こえる。だが、なぜ私はお前たちの顔を見ることが出来ないのだ?
まさか、私は、後悔しているのか?
お前たちの敵を、無念を晴らしたというのに。それを後悔しているのか?
(あなたは優しい人。本当は人の命を奪うことなんか出来ない人だって私は知っているわ)
エヴァ……私は優しくなどない。ただの臆病者だ。
(お父さんは、強くてかっこいいんだよ)
リノ……私は強くも、かっこよくもない。弱虫で、かっこ悪いことしか出来ないんだ。
(パパ。大好き!)
マーヤ……お父さんも、大好きだ。でも、もうお前にそう言ってやる資格は無くなった、いや、自分から捨ててしまったんだよ。
私は、私はお前たちのように悲しい目に遭ってしまった人間を、自身の矮小さから生み出してしまったのだ!
そんな私に、お前たちを見る資格など、無いに決まっているではないか。
気がつくと、サトーの両目からは留めなく涙が溢れていた。
今までの罪を洗い流すかのように、凍っていた心の氷が解けたかのように。両目からは熱い涙が流れていた。
サトーの涙が床に落ちると同時に、大きな揺れがミネルバを襲った。
「きゃ!」
その振動にアリアはステラをその胸に強く抱きしめると同時に、首筋に痛みを感じると同時に意識が遠のいていった。
「すまない」
意識がなくなる寸前に耳に入ったその言葉は、誰のものかと思いながらアリアの意識は闇に沈んだ。
弛緩したアリアの体を支え、ベッドのほうに寝かせると、サトーはこちらをキョトンとした眼差しで見ているステラの頭を指の関節をはずしていない右手で優しく撫でた。
その瞬間、ステラの姿の無効で失った誰かの影を見た。
それに頷き返すと、サトーはステラに優しく言った。
「すまないが、彼女を頼む」
「……あなたは?」
「私は、やらなくてはならぬことがある……いや、見つけたのでな」
尋ねるステラにそう答えると、サトーは外れた手錠を外れてないほうの腕に嵌めると、毅然とした態度で医務室から出て行った。
そのサトーの姿を、ステラは見送った。
揺れる通路を、左指の関節を嵌め直しながら、サトーは所々にある案内板に従い格納庫へと向かって走った。
関節を嵌めるたびに痛みが走るが、そんなのを無視してサトーは走った。
独房の中の自分に遠慮なく説教をした少年の顔が浮かぶ。
(そういえば、名前を聞いていなかったな)
なんとなくずれたことを思い浮かべながら、サトーは格納庫へと飛び込んだ。
そこは、喧騒とした空気に包まれており、まだ誰も自分に気づいていないようだ。
それを好機と見たサトーは、目的のものを探した。
―あった!
サトーの視線の先には、自分の出番を待っている緑色の一つ目の巨人がいた。
それを見つめると、サトーは一目散にそれに向かって駆け出した。
「ん?なんだ、あいつ?」
「は?誰だよ、アレ!!」
走るサトーに気づいたようだが、その時には既にサトーは昇降機へと飛び乗っており、コックピットへと向かうように操作していた。
「おい!あれって、捕虜のテロリストじゃ?」
「保安部は?!」
そんな喧騒を耳にしながら、サトーはコックピットへと乗り込んだ。
そしてハッチを閉じるとすぐに中を確認する。
相違点がそう見られないことを確認すると、サトーは流れるような手順でシステムを起動させた。
OSが立ち上がり、各部が動くのを確認するとサトーは通信を艦橋へと繋げた。
「我が名はサトー。故あってこの機体を使わせてもらう。ハッチを開けられたし!要求を聞かれなかった場合は、力づくで開けさせてもらう!」
ビームマシンガンを構えさせ、サトーは要求した。
サトーの要求は、タリアの耳に届いた。
それはタリアの気力を根こそぎ奪いかねない力を持っていた。
保安部は何をやっていた!や、なぜそうも簡単にMSを奪われるの?!などという言葉が浮かんでは消えたが、それらは建設的ではない、と考えたタリアは攻撃を一時的にアーサーに任せ、直接交渉することにした。
「艦長のタリア・グラディスです。本艦は現在戦闘中です。仮にあなたの要求に応じたとしても、戦闘に巻き込まれるだけです」
『かまわん。むしろ望むところだ』
タリアの脅しにも屈せず、サトーは自分の要求を取り下げようとはしなかった。
(この男の目、変わった?)
タリアは、通信の先に映る男の目の光が以前尋問した時とは異なっていることに疑問を感じた。
だが、そんなタリアの疑問に関係なく男は要求を続けた。
『開けてもらえないならば力づくで行かせて貰うぞ』
その言葉に数瞬迷うと、タリアは決断を下した。
「メイリン、ハッチ開放して」
「い、いいんですか?!」
「仕方がないでしょう。中から沈められるわけにはいかないんだから」
メイリンの問いかけにそう答えると、タリアは通信先の男に伝えた。
「お望みどおりハッチは開放します。ですが、先ほど言ったように外は戦闘ですよ」
『先ほども言ったように臨むところよ』
そういうと、サトーは見事なザフト式の敬礼をして通信を閉じた。
それに反射的に敬礼で答えていたタリアは、慌てて手を下ろすと前に向き直った。
『艦長!なんか、ザクが一機出て行ったんですけど?!』
ルナマリアからのその通信に、どう答えようかと悩む視線の先で、ザクはスラスターを吹かし跳躍しながらMAへと向かって行っていた。
「なんだよあれ?!」
その様子はシンも見ていた。
ザムザザーへとGイーグルのレールガンを放とうとしたのだが、残弾がゼロになってしまい実弾武装がなくなってしまった現状でどうしようかと考えている時に、一機のザクがミネルバから出てくるのが目に付いた。
「ミネルバ!アレは一体―」
『よく見ておくのだ!Gのパイロット!!』
ミネルバに事態の解明を尋ねようとしたシンの耳に、広域通信でサトーの声が飛び込んできた。
「サトーのおっさん?!あんた、なにやってんだ!!」
スラスターの噴射を繰り返すことで、バッタのように跳ねながらこちらに近づいてくるザクに、シンは疑問の声を投げかけた。
『小僧!お前は私に「自分たちが引き起こそうとしている未曾有の大人災をそんなに誇り高く言い放つ口が喋るな」といったな。ああ、まさにその通りだ!我らは、ただ、自分の内に存在する悲しみを、憎しみを、決して晴れることのない闇を晴らしたいという自分本位な考えで行動をしたのだ!!』
「おっさん、なにを……」
ザクのビームマシンガンで、跳躍を続けながらも空中のウィンダムを数機蹴散らしながらもサトーの独白は続く。
『小僧、そして、この通信を聞いている全ての戦士よ!心して聞け!!人の心は決して強くない。それにはナチュラルも、コーディネイターも関係ない。人の心ほど移ろい易く、儚く、そして染まりやすいものはない』
ウィンダムのビームライフルの一撃がザクの右肩を掠るも、怯むことなく進み続ける。
そのウィンダムをインパルスのビームが貫くが、それに関係なくザクは進む。
『人の心は世界を見通す眼鏡よ。愛するものを持ち、心穏やかな時は世界が素晴らしく見える。よい未来が必ず来ると無条件に信じる』
左足のつま先をビームが掠るも、サトーの声は、魂からの言葉は止まらない。
シンもサトーの言葉に耳を傾ける。
シンだけではない。レイも、ルナマリアも、そしてこの放送を聴くことの出来ているものの耳に届いていた。
『だが、ひとたび穏やかでなくなり、憎しみと言うものに支配されてはそうはならん。今まで見えていた世界が、あまりにも空虚で、あまりにも滑稽で、そしてあまりにも不細工に見えてくる。いや、それだけならばまだよい。自分だけ絶望すればよいのだから。だがな、憎しみと言う名の炎が胸に灯ったらばそうはいかん。その炎は全てを溶かし、燃やし、灰にしてしまう。理性を、倫理観を、そして人間性を。何故自分が苦しんでいるのに世界は笑う?何故自分の腕には愛するものがいないのにお前たちの腕の中に入る?なぜ?なぜ?なぜ?そんな出口のない問いかけが、無限回廊のように胸の中に棲み付く。そしてそのいつ果てるかわからぬ問いかけに、ある時ふと光が差し込む』
「え〜い、撃ち落せ!!」
コマンダーの命令でザムザザーのGAU111単装砲がザクに向かって放たれる。
その一撃がビームマシンガンを奪い、ザクの進行方向にひときわ大きな水柱を作る。
「やったか?」
『その光は、何色をしているかわかるか?闇だ。全てを包み込み、何も見えなくなる闇が差し込んでくる。そして、その闇が囁く。その悲しみを、怒りを皆に体験させるべきだと。敵を撃つことで教えるべきだ、とな』
左足を膝から先を失ったザクが、ビームトマホークを抜き放ちザムザザーに斬りかかる。
その一撃はザムザザーの蟹のような装甲に食い込み、ザクはしがみ付くように組み付いた。
『そのあとは、もう何も考えられなくなる。ただ、その考えに突き動かされる。疑問も、後悔も何も感じない。正しいと思い込むことで自分を支えるのだからな。だがな、その後何が残ると思う』
組み付くザクを引き離そうと、ザムザザーはイーゲルシュテルンでザクを撃ち落そうと敢行するも、サトーはそれをシールドをかざすことでコックピットへの直撃を防ぐ。だが、徐々にだがザクの装甲を銃弾は削っていく。
『何も残らない。ああ、何も残っていないともただあるのは前よりも深い虚無だけ。だから、小僧。これだけは覚えておけ。例え、心が折れようとも、壊れようとも、そこで決して立ち止まるな!そこで止まってしまっては、待つのはただの空虚だ。それでは、お前が愛したものの顔すら忘れてしまう、そんな地獄に落ちるぞ。止まってもいい。壊れてもいい。だが、必ずそこから前へ上を向いて進め!そうすれば、少なくともこの言いようのない空虚さには囚われぬよ』
「………おっさん」
防ぎきれなかった銃弾がザクの頭部を半壊させ、組み付いていた左腕を吹き飛ばし、シールドを穿ち割った。
『小僧。最後にお前の名は?』
「………シン・アスカ」
逃げるように叫びたいが、それはサトーの、何かを伝え残そうとする男の意思を踏みにじることになると思い喉まで出掛かった言葉を飲み込みシンは名乗った。
『そうか。シン・アスカ。お前は私のようにはならないことを期待するぞ。心を強く持ち最後まで足掻き生きろ!…………さらばだ!!』
そう叫ぶと、サトーはビームトマホークを思い切り引き裂き投げ捨て、その隙間へと手榴弾を捻じ込んだ。
爆発の瞬間、銃弾がコックピットを蹂躙したが、それでもサトーの顔には笑みが浮かんでいた。
(ああ。そうだ。みんなの顔はこうだった)
その笑みは、死に逝くには不釣合いなほど穏やかで慈愛に満ちていたことを彼を迎えに着た彼女達以外は見ることなく、テロリストと言う名の亡霊は深い眠りについたのだった。
その壮絶な最後を見たザフトの者達は、皆敬礼を捧げた。
テロリストなどと言う経歴は関係なかった。
ただ、一人の戦士が逝ったことに対して皆敬礼を捧げるのだった。
シンは、爆炎の跡に海上にザムザザーが墜落するのを確認するとミネルバへと通信を繋げた。
「ミネルバ!デュートリオンビーム!それと、ブラストを!早く!サトーのおっさんがくれた好機を逃すな!」
『は、はい』
シンにせかされ慌てるメイリンの声の後に、インパルスに向けて一条の光線が放たれた。
それを受信するとインパルスのエネルギーが一気に回復した。
それを完了すると、Gイーグルの機首を艦隊のほうへ向けると同時に空中に跳躍し、フォースシルエットを分離するとすぐにブラストシルエットを装備した。
機体の色が青から緑へと変わり、本体とGイーグルのスラスターを全開にし艦隊へと飛び込んだ。
先ほどまでなかった道が拓けていたのだ。
ならば、何を臆す必要がある。戦士が命がけで開いてくれた血路、通らねば男が廃る。
「じゃまだ!どけ!!」
そう叫んだ瞬間、シンの感覚は弾け、どこまでも無限に広がるのを感じた。
インパルスと一体になったような錯覚を感じるほど、意識はクリアになり、機体操作能力が向上するのを認識した。
上空から攻撃してくるウィンダムを難なく回避し、前方の艦隊へと向けてインパルスはケルベロスを放つのだった。
その一撃は、二隻の戦艦の装甲を撃ち抜き、弾薬に引火したのか爆散させた。
その爆炎の中を突っ切るようにGイーグルは進み、ついにインパルスは地球軍の艦隊へとたどり着いたのだった。
「うおぉぉぉ!!」
すぐ近くの空母へ機体を着陸させる。
着陸のすぐ後、跳躍中に取り出しておいたビームジャベリンで艦橋を斬り飛ばし、その空母のコントロールを奪うことに成功する。
そして、すぐに隣接する艦隊へMMI-M16XE2デリュージー超高初速レール砲を放ち、またまた艦橋を吹き飛ばしコントロールを奪う。
そして次の相手へと向かい跳躍すると同時にこちらに向かってきたウィンダムにAGM141ファイヤーフライ誘導ミサイルを放ち爆散させた。
そして、次の艦に着陸態勢をとりながら、ケルベロスを横薙ぎに放つ。それは、巨大な剣のように戦艦数隻を両断した。
轟沈する艦の船尾に降り立ったインパルスは、義経の八艘跳びもかくやという動作ですぐに再度跳躍を行い、先行していたGイーグルへと降り立つとその機動性を活かしながら、地球軍艦隊へと地獄の番犬の如く獰猛に襲い掛かった。
そんなインパルスの八面六臂の活躍を、皆唖然とした表情で眺めていた。
それは、オーブ軍の指揮所でも同じであった。
オーブ領海ギリギリに展開されている艦隊からの映像を、皆信じられない面持ちで眺めていた。
「………ザフトのMSは規格外か……」
乾いた声でユウナはそう呟いた。
いくらMSに明るくないユウナでも、あのような機動が早々出来るものではない、と言うことはわかる。
なによりユウナを驚かせていたのは、譲渡して間もないはずのイカロスを、まるで手足のように自在に使いこなしている、と言うそのことであった。
その適応力の高さに、ユウナは唖然とするしかなかった。
高性能機である、と言う自負から政治取引の小道具として譲渡したそれを、こうも自在に使いこなされるとなんともいえなかった。
そんなユウナの言葉に関係なく、インパルスは確実に戦艦を轟沈させていった。
「…………なんなのだ、あれは?!」
地球軍の旗艦の艦橋で、司令官の男の引きつった叫びが上がったが、その声に答えることの出来る人間はこの場に一人としていなかった。
全員、自分の目に飛び込んでくる現実が信じられなかった。
たった一機のMSが、自分たちの艦隊をことごとく沈めていくという現実が。
「ヘンリー、リンカー轟沈!!」
オペレーターの悲鳴のような報告に司令官は慌てて撤退命令を伝えようとしたが、それは叶う事はなかった。
なぜならば、インパルスから放たれたビームジャベリンが旗艦の艦橋を貫いたからだった。
旗艦を失った地球軍艦隊は統率を失い、その隙を今のシンは見逃すことなくことごとく戦艦を沈めていった。
そして、数分後には全ての戦艦が海の藻屑へと成り果てたのだった。
残っていたMS部隊も、燃料切れや動揺等でことごとくミネルバ部隊の砲火に当たりその姿を鉄屑へと変えるのだった。
自ら作り上げた道を進むミネルバの後部甲板に降り立ったインパルスから、シンはサトーが果てた場所に向かってもう一度敬礼を送った。
彼と交わした言葉は少なかった。だが、なにか大事なことを教えられたような気がシンは感じずにはいられなかった。
―やっと後書きです―
十一月になっちゃったよ、と唖然としているANDYです。
GAや各模型誌で取り上げられているノワールのストライクカラーが結構カッコイイな、と思い自分でもすべきか悩んでいます。
というか、あの『ムコサマコウホバカレンジャー5(個人的にそう呼んでいましたw)』はあっという間に瞬殺されましたね。
というか、集団戦をかければ確実に勝てた戦いに見えたんですがねw
がこれからどのような改修を受けるのか楽しみですね(まあ、またロウが自分の趣味丸出しの改造を行うんだろうけど。彼って、指名手配の自覚なさそうだよな〜)
では、恒例のレス返しを
>戒様
感想ありがとうございます。
今回の展開はどうだったでしょうか。
Gイーグルはこのように使うことでブラストの活躍の場を得ることが出来ました。
いえ、まだ個人的にHGのブラストが欲しいと願っているもので。あと、原作のあの後付のホバー機能は許せないもので。
フラグはこのように回収されました。
どうだったでしょうか。
彼の言葉は若い戦士たちに何を残せたのでしょうか。
これからも応援お願いいたします。
>御神様
感想ありがとうございます。
ユウナは、原作でも哀れなキャラだと個人的には思っていましたので。
Gイーグルの今回の活躍はどうだったでしょうか。
これからも応援お願いいたします。
>レコン様
感想ありがとうございます。
どうもあの国は、アスハを中心にしか回っていないようにしか思えないんですよね。
他の氏族は生贄の羊のような立場ですから。(Xナンバーズの製作も、サハク家が単独でした、と言う設定になっている割にはなぜかM1を製作しているアスハ家。この矛盾は何?)
あと、時代についてですが、十年も経っていたら種の主役キャラの年齢が二十代後半になるからではないでしょうかw
まあ、前作のキャラを全員出そうとするのが間違いのようにしか思えないんですが(Zの続編のZZには、主役クラスはほとんど出ていなかったというのに)
今回のフラグ回収はどうだったでしょうか。
あと、レールガンですが、リニアガンはリニアガンタンクと言うモノが種の時代に存在しており、それの砲撃はなかなかジンの装甲を打ち破ることが出来なかったようです(スターゲイザーの第一話でもジンに有効だをなかなか与えることが出来ていない演出がされています。確認をしてみてください。あのちょっと問題になっているサイトでw)
それらを踏まえてうえで、レールガンにいたしました。オーブはバッテリーなどの燃料系に関してはあの世界ではトップクラスらしいですのでいくらか放っても問題はないと思ったのでレールガンにしました。ちなみに現在では、最大速度8km/s程度の物が開発・利用されているそうです。科学の進歩はすごいな〜。
これからも応援お願いいたします。
>飛昇様
感想ありがとうございます。
セイラン家の設定を気に入っていただけたようで光栄です。
そういう理由にでもしないと婚約者の説明がつきませんからw
今回の戦闘とフラグ回収はどうだったでしょうか?
これからも応援お願いいたします。
>Kuriken様
感想ありがとうございます。
今回の戦闘はどうだったでしょうか。
アスランとカガリについては次回に触れるということでw
サトーさんはこのような結末を迎えてしまいました。どうだったでしょう?
また、キラはもう何でもありなんじゃないでしょうか。ドラグーン使ったときの演出ではどうですから。ん?あ、強化人間でもああいう演出でしたよね。あれ?そうしたら巷で噂になっているキラクローン説の信憑性がw
これからも応援お願いいたします。
>ATK51様
感想ありがとうございます。
王道ネタこそ正道です!!というか、そういう理由でもなければ五大氏族であったアスハ家との婚約関係なんて結べないと思います。
ユウナはなんとか「俗っぽいトレーズ閣下」になってもらいたいものです。エレガントって最高ですよね?
Gイーグルですが、譲渡されたのは試作機の一機です(ネタバレってヤツですか?)ですから、いつかオーブ艦隊に制式採用のイカロス部隊が登場するかも?
今回のフラグ回収はどうだったでしょうか。
「大人」として何か残せていればよいんですがね。
これからも応援お願いいたします。
>なまけもの様
感想ありがとうございます。
ユウナを応援してやってくださいw
ある意味アウェーで彼は戦っているようなものですのでw
今回のフラグ回収はどうだったでしょうか?
彼の死が何らかの意味を聞いた者に与えていればよいのですが。
これからも応援お願いいたします。
>G様
感想ありがとうございます。
多分彼も、父親の姿を見て早いうちから予防線は張っているはずです。
ま、それを上回るストレスが遅いそうですけどねw
これからも応援お願いいたします。
>グレート葱ンガー様
お久しぶりです。感想ありがとうございます。
色々と改変をしてしまっていますが、皆さんが飽きないようにしていきたいと思います。
まるごと剣の機体、ですか。もうそれはスパロボの世界になってしまうのでは?wでも、欲しいかも……(R−GUNみたいな変形機能をもたせることって出来るかな?)
これからも応援お願いいたします。
>航空戦艦『琴瀬』様
感想ありがとうございます。
政治家としてユウナは活躍させたいと思いこうなりました。
また、今回のフラグ回収はどうだったでしょうか。
これからも応援お願いいたします。
>ラーカイラム様
感想ありがとうございます。
オーブと大西洋連邦の戦争再開の可能性ですが、二年前国を焼かれたという事実が、国民の深層心理に大きくいまだ残っており、そうそうは向かおうという気力が持ち上がらないのではないでしょうか。そういう国民性みたいですし。
これからも応援お願いいたします。
さて、今年も残り二ヶ月をきってしまい、なんだかショックです。
みなさんはどうです?
では、次回にまたお会いいたしましょう。
では。