インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「幻想砕きの剣 11-8(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-11-01 22:29/2006-11-08 22:49)
BACK< >NEXT

22日 夕暮れ


 日が沈む。
 平原の中央に鎮座するリヴァイアサンが、黒い巨体を赤く染め上げた。
 夕日を反射する所からして、実体化は大分進んでいるらしい。

 ここ数時間、リヴァイアサンは咆哮をやめていた。
 透の思ったとおり、泣きつかれて眠ってしまったのかもしれない。

 人類軍はリヴァイアサンからかなりの距離を置き、戦略の練り直しに勤めていた。
 現在、士気が高いとはお世辞にも言いがたい。
 リヴァイアサンを相手に効果的な反撃をせずに後退したし、何より猛烈な咆哮を何度も浴びせかけられているのだ。
 それでも敗軍の気配を漂わせないのは、軍の頂点に立つ2人の将軍を心底信頼しているからだろう。

 その将軍達だが、微妙な表情を浮かべていた。
 2人の前に立つヤマモトに、タイラーが問いかける。


「…じゃあ、王宮は大砲とかは送ってこない…と?」


「は。 リヴァイアサンの性質上、物理的攻撃は無意味との結論が出たそうです」


「なにも攻撃の為だけに送ってくれ、と言っているのではないのだがな…」


 例えリヴァイアサン本体に物理攻撃が効かなくても、大砲や戦車と言った強力な兵器の存在は、少なからず兵士達を奮い立たせる。
 兵達の士気を保つためにも、何か強力な後援があるのだと示したかったのだ。

 少々恨み言が心の中に浮かんだが、すぐに振り払う。
 ヤマモトは報告を続けた。


「大砲の代わりに、ルビナス・フローリアス殿がこちらへ向かうそうです。
 何でも、リヴァイアサン対策の準備が出来た、と」

「本当か!?」

「そのようです。
 ですが、その条件を満たすのに、暫くリヴァイアサンを足止めせねばならないとの通達を受けています。
 しかし……あのデカブツを…」

「足を止める、か…どの位の時間だい?」

「短くても2時間を想定していただきたい、と」

「…不可能ではないな」

「相馬君次第だけどね」


 足止め、と言うよりは、対策を発動させるまでの時間が必要なのだろう。
 無理に一箇所に釘付けにする必要はない。
 なら、相馬透を汁婆に乗せて走り回らせればいい。
 追いつかれそうになったら、救世主候補生リコ・リスの召喚術で一挙に移動させ、また逃げる。


「歯がゆいが、他に方法は無い。
 相馬には辛い役目だが…やってもらうしかないな」


「…同じチームを助けるためだ。
 きっとやってくれるだろうさ…」


 ヤマモトの脳裏に、リヴァイアサンの咆哮を受けて倒れた機構兵団チームの姿が過ぎる。
 もっとも、カイラと洋介はバチェラを生身で担いでくるのに体力を使い過ぎたから倒れたのだが。
 彼女達の倒れた姿を見た透は、強いショックを受けていた。
 妹共々助ける方法があると聞いたからまだいいものの、そのままにしておけば人生に絶望しそうな勢いだった。

 その透は、リリィが作った結界の中でじっとしている。
 対抗策…ルビナスが来るまで、結界の外に出る事は許されない。
 出ればその途端にリヴァイアサンが動き出す。


「して、ルビナス殿の到着は?」

「23時頃になるでしょう。
 それから作戦の説明を受け、開戦は翌朝…が妥当でしょう」

「解かった。
 伝令ご苦労だった…。

 ……ところで、救世主クラスはどうしている?」


「当真大河殿に群がっているのを確認しました。
 …こう言ってはなんですが、その、迂闊に注意したりちょっかいを出したりすると…」

「汁婆の蹴りが飛んできそう…」

「その通りです…」

「…ちなみに汁婆は、テコンドーの達人だ」

「…どんなUMAだよ」


 苦笑するタイラー。


「まぁ、リリィ・シアフィールド殿が手綱を取っているようなので、暴走はしないかと…」

「その暴走って言うのは…」

「若さ故の青春…でしょうか」

「パトスかよ」


 …彼らの認識は甘かった。


 ちょっと時間を戻して、後退直後の救世主クラスの様子…。

 周囲の兵隊達は雑然として、彼方のリヴァイアサンを眺めていたり、各々武器防具の手入れに忙しい。
 その中で、一際目立つ華やかな集団。
 無論、我らが救世主クラスである。

 救世主クラスからは、なにやら落ち着かなさ気な空気が漂っていた。
 ムサ苦しい兵士達に囲まれているからではない。
 それなら割り振られた専用の天幕に引っ込むまでだ。
 落ち着かないのは、どうやら人を待っているかららしい。
 言わずもがな、待っているのは大河である。
 ちょっと前に顔を会わせた未亜とベリオはやや落ち着いているが、浮き足立っているのがすぐに解かる。

 そのまま30分程過ぎただろうか。
 聞き慣れた、安心を誘う声が掛けられる。


「おーい!」


「「「「「「 !!!! 」」」」」」


 一斉に声がした方を向く。
 その動きたるや、正に神速。
 神雷だって出来そうだ。

 視線の先には、恋焦がれ待ち焦がれた人の姿。


「お兄ちゃん!」
「大河君〜!」
「ご主人様!」
「師匠〜!」
「ダーリーン!」
「…!」


 …ふと気付いたのだが、見事なまでに呼び方が統一されてない。
 どうでもいいが、一部の呼称に周囲の兵士達が目を剥いている。
 …これで、より一層広く救世主クラスの実態が知れ渡る事だろう。

 それはともかく、救世主クラスは一斉に兵士達を掻き分けて走り出した。
 その勢いたるや、汁婆のスプリンターモードの突進力にも引けを取らない。
 兵士達が何人か跳ね飛ばされ踏み潰され、慌てて道を空ける。
 そして割れた人垣を、大河と救世主クラスは爆走して、真正面からぶつかり合った。
 大河が吹っ飛ばされていく光景を見る兵士達。

 しかし、それは幻覚だった。
 正面衝突した集団は、全員大河に抱きとめられていたのである。
 流石に持ち堪えたのは一瞬で、すぐさま押し倒されたが…5人分の質量である。
 それでも充分脅威に値する。
 色々な意味で、尊敬の視線を集める大河だった。
 …しっと団?
 何故かここには出てこないなぁ…。


 大河を押し倒し、思う存分頬擦りしたり匂いを嗅いだりキスしたりと、好き勝手にストロベリってる救世主候補達。
 しかし、例外が一人。
 先程、唯一大河にぶつかりに行かなかったリリィである。
 ハァ、とこれ見よがしに溜息を吐く。
 そして、大きく息を吸い込んだ。


「アンタ達!」

「「「「「「ほへ?」」」」」」

「天下の往来…じゃないけど、こんなトコでベタついてんじゃないわよ!
 やるならせめて天幕行きなさい、天幕!
 フローリア学園の恥を、こんな所で晒すんじゃない!
 お義母様に迷惑がかかるじゃない!」


 真に持って正論だ。
 軍にも風紀と言うものがある。
 大勢が見る中でこんな事をしてれば、そりゃ懲罰を喰らっても文句は言えまい。

 キョトンとした目でリリィを見る。
 リリィは怯んだようだが、すぐに気迫を盛り返した。


「ほら、さっさと行くわよ!
 何時までも引っ付きあってないで、さっさと立ちなさい!
 …何よ、その目は?」

「べっつに〜」

「言わなくても自分で解かってると思う」

「素直じゃないでござるなぁ〜」

「うっ…う、うるさいうるさいうるさい!
 いいからさっさと行くのよ!
 私の言いたい事が分かってるんなら尚更!」

「へぇ、認めるんですね」

「うっるさーい!」


 顔を赤く染めて叫びまくるリリィ。
 その様子は、色ボケ集団を纏めるのに疲れてヒステリーを起こしているように見えなくもない。
 周囲の兵士達は、そっとリリィに同情の涙を溢した。

 それはともかく、リリィに急かされて立ち上がる大河達。
 立ち上がっても密着したままなのにリリィの眉が跳ね上がったが、ここは我慢だ。
 …大河、四方八方から密着されたら動けんだろう。
 まぁ、それでも突き放したりしない辺りが大河だが。


 同情的な兵士達の視線に見送られ、救世主クラスは天幕へ向かう。
 この天幕、救世主クラスが来るので急遽張られたもので、一つだけ外れた場所に張られている。
 ぶっちゃけ、あまり人が来ない。
 ナニするためではないが、結果的にそうなったかもしれない。


 リリィを先頭に、大河達は天幕の中に入る。
 周囲には誰も居ない。

 さあお楽しみタイムかな?と、大河が思った時。


 ドン!

「うお!?」


 リリィが大河を背後から突き飛ばした。
 思わずバランスを崩し、倒れこむ大河。
 無論、引っ付いていた皆さんを巻き込むようなマネはしない。

 咄嗟に両手をついて体を支える大河。
 振り返ってリリィに抗議する。


「り、リリ「うにゃぁ〜〜〜ん!!!」

 ドン


 抗議する前に、大河の上にでっかいネコが圧し掛かってきた。
 心構えも出来てないタイミングで体ごとぶつかって来られたので、何気に強い衝撃が大河を見舞う。
 目を開けると、赤い髪らしきフサフサから生えている三角形が二つ見えた。
 息が詰まったが、何とか耐える。

 耐えている間、大河の顔を、暖かく柔らかく、ヌルヌルしている何かが這い回っていた。


「あっ、リリィさん独り占めはズルイですの!」 

「会えなかったのは、私達も同じですよ!」


「にゃ〜、にゃ〜!
 ふみぃぃん!」

「ダメです、完全に理性が消えていますね。
 先程ご主人様に向かって行かなかったのは、単に人目を気にしただけですか…」

「ツンデレ! これぞツンデレでござる!
 いやむしろツンネコ!?
 又はツンりりぃ略してツンりり!」


 ナナシ達からの抗議を受けながらも、ネコりりぃは激しく大河に体を擦り付ける。
 シッポが千切れんばかりに振られていた。

 ちなみに、何故か未亜は…はなぢを抑えているようだった。


「ふ、ふふふ…久々にお兄ちゃんに好きなだけスキンシップできる上、同時にネコりりぃまで…。
 ちょっと興奮しすぎちゃったわ…。
 鼻を拭って…。

 それ、リリィさんに負けるな〜!
 モノども、甘えろ〜!」


「「「「イエスマム!」」」」


 そして大河に殺到する。
 18禁な行為にこそ発展してないが、物凄い甘えっぷりだ。


「あはっ、あははは、こら擽るなって!
 おほぅ!? そんな所まで!?
 久々に会えたから、俺もスゲー嬉しいぞ!
 どんどんおいでやす〜」

「「「「「ふにゃあぁ〜〜〜」」」」」」


 ネコは一匹だけなのに、ネコのような声が複数あがる。
 大河の感触を存分に堪能し、大河自身も柔らかい感触と心地よい匂いを堪能していた。

 3週間程度離れていただけなのに、もう何ヶ月も会ってないような気がした。
 しかし、それでも大河は体に触れているのが誰なのか、明確に解かる。
 頬を舐めているのは、ネコりりぃの舌だ。
 起こした体に後ろから抱き付いているのは、ナナシである。
 右腕を抱きしめ、顔を擦り付けているのはカエデ。
 前から胴に抱きつき、ヘソの当たりに頭を押し付けているのはリコか。
 抱きつきながらシャツの下に手を這わせているのはベリオ…いや、ブラックパピヨン。 
 首筋に吸い付くのは、キスマークを付けようとしているベリオ。
 そして、首に腕を回して大河の頭に顔を埋めているのは未亜。

 どの感触も、忘れてない。
 いや、一時離れた事で、より一層強烈に知覚できるようになっている気がする。
 心地よい感触に酔いしれる大河。
 久しぶりの甘い感情に浸る、その恋人達。
 この逢瀬を邪魔する無粋な人間は、一人も居なかった。


 幸か不幸かは別として。


「…………やっぱり…羨ましいけど…あんまり悔しくない…」


 ただ一人、逢瀬の事を知りながらも邪魔する気になれなかったユカは、天幕の外で気配を消して聞き耳を立てていた。
 …逃げ出したりしない辺り、彼女の好奇心の強さが垣間見れない事もない。
 …もっとも、彼女は大河が他の女性と密会している事に対して怒りもしない自分に戸惑っていたようだが。


「ところで…どうして天幕の中からネコの声が?
 こんな所にネコなんて居なかったと思うけど…」


 きっと知ったら、アナタも理性が揺らぎますよ?


 その夜…。
 大河に数時間ほど甘え倒して(一応は)気が済んだのか、救世主クラスは妙に艶々した顔で天幕から出てきた。
 言っておくが、アレな行為はしていない。
 もしそこまで発展していたら、久々だし声を抑えられず、天幕の外に声が響いて、更に声を聞いたユカがいい塩梅に暴走してくれた事だろう。


「あ、終わった?」

「ひゃ!?」

「人の顔見て悲鳴をあげるなんて失礼な…」


 急に声を掛けられ、飛び上がる未亜。
 ユカは不機嫌そうな表情を作って、ジロリと睥睨した。

 未亜とユカ、ベリオは思わず一歩下がる。
 ユカが天幕の外に居るのは、何となく察していた。
 彼女が大河に想いを寄せている事も知っている。
 その彼女を除け者にして、大河と逢瀬を過していたのは…少々負い目を感じないでもない。
 尤も、ユカとは正式にそういう関係になっているのでもないし、元々未亜及び救世主クラスが大河の伴侶だ。
 その点を鑑みれば、酌量の余地は…ある…けどやっぱり与えない。
 何故ならムカつくから。
 大体、ユカは大河とキスしている。
 それだけで張り合える訳でもないが、文句をつけてもいいぐらいの筋はあるだろう。


「あ、えっと…」

「はいはい、何も言わないの。
 ご飯とっておいてあげたから、ちゃんと食べてよね」

「あ、ありがとうございます…」


 ユカの手には、数人分の夕食が入った鍋やらナニやらが確保されている。
 冷え切っているので、温めねばならないだろうが…。

 微妙に気まずい雰囲気の未亜達を他所に、カエデがユカに頭を下げた。


「拙者、師匠の弟子の…もとい、大河殿の弟子のヒイラギ・カエデと申す。
 師匠の背の護り、苦労をおかけ致した。
 改めて感謝するでござる」


「ご、ござ…?
 ええと、ホワイトカーパス州の、ユカ・タケウチです。
 こちらこそ大河君には色々とお世話になって…。
 ところで、名前はヒイラギですか、カエデですか?」


「カエデでござる。
 名前でお呼びくだされ。
 聞けば、タケウチ殿は…」


「あ、ユカで」


「失敬。
 ユカ殿はアヴァター随一の使い手だとか。
 今度、是非とも手合わせ願いたいでござる」


 キラリとユカとカエデの目が光る。
 ユカはその直感で、カエデの実力を見抜いたのだろう。
 忍者であるカエデは、本来諜報員・工作員であり、戦闘要員ではないが…向上心が強いので、戦闘にせよ何にせよ、レベルアップできる機会を逃さない。
 ユカとの戦いは、カエデをより高みに連れて行く事だろう。
 ユカにとっても、強者との戦いは望む所だ。


「じゃ、今度時間が空いてる時に…」

「承知」


 カエデが下がると、代わってリリィがユカの前に出た。
 …心無しか、目が輝いている気がする。
 何気にファンなのかもしれない。


「…私は同じく救世主候補生の、リリィ・シアフィールドです。
 噂に名高い“武神”と言葉を交わせるなんて…光栄です!」


「ぼ、ボクはそんなに強い訳じゃないんだけどな…」


「何を仰います!
 海列車や港では、タケウチさんの噂で持ちきりでしたよ?
 曰く、魔物の群を一瞬で蹴散らし、山を一つ薙ぎ払い、震脚で巨大な地割れを起こすとか…」


「ぼ、ボクそんな非常識なナマモノじゃ…ない……よ?
 ないよね?」


「いや私に言われても」


 助けを求めるように未亜を見るユカだが、自信なさ気だ。
 よくよく考えてみれば、魔物を蹴散らしまくっていたし、山を薙ぎ払いはしなくても大河と2人で巨大な竜巻は起こしたし、氣をフルパワーで使えば地割れを起こすくらい朝飯前だ。
 ちょっと前までは、ここまで強くなかったのだが…大河に氣の扱い方を教えられて以来、どんどん火力が上昇している。
 自分って一体ナニ?とちょっと落ち込むユカだった。

 子供のように目を輝かせているリリィを、後ろからベリオが引っ叩いた。
 ユカに向かって苦笑して、ゴメンと片手を挙げてみせる。
 ユカも苦笑で返した。

 今度は元気なロリっ娘と、静かなロリっ娘がユカの前に。


「ナナシはナナシで、リコちゃんですの!
 よろしくですの〜」


「うん、よろしく………?
 あ、あの…ちょっとした疑問なんだけど」

「何か?」

「そ、その…ひょっとして…2人とも、大河君と…」


 言葉を詰まらせるユカ。
 この先の問いを発するのは、恥ずかしいが…それ以上に恐ろしい。
 大河と2人が密接な関係を築いているのか…と言うのもそうだが、明らかに青少年保護法にひっかかるだろう。
 …まぁ、この2人に関して言えば、青少年もクソも3桁以上の時間を生きているのだが。

 顔を真っ赤にして、口をパクパク動かすユカ。
 それを見て、リコは何を聞きたいのか大体見当がついた。
 少し考えるが、ぶっちゃけてしまう事にする。
 この程度でユカが引き下がってくれるなら、それはそれでオッケー。
 これで引き下がるようなら、対未亜用抑止力として同盟に引きずり込む価値はない。


「…私とご主人様は、身も心も深く深く結びついている関係です」

「……!?」


 ユカ、絶句。


「ナナシも、棺桶に入っても一緒な関係ですの!
 だからベッドも一緒ですの!
 ちなみにベッドは、色々とアレな液とかが染み込んでますのよ」


「&#(&’!!!!!???」


 錯乱一歩手前。
 ぶっちゃけて言うなー、と呟いているベリオや未亜を見ると、彼女達もそういう関係な事が推測される。
 ベリオは昨晩で何となく予想がついていたし、リリィも先程の甘えようを見ると(好奇心に負け、ちょっと覗き見して微妙にトラウマを負った)、やはりそういう関係なのは解かる。
 が、妹の未亜まで?
 いや、ユカの頭はオーバーヒートしそうだったので、そんな推測を立てる余裕などカケラもなかったのだが。


 一頻り手足をバタバタさせた後、神速で移動。
 おお、瞬動術か?
 とにかく、ユカが未亜達の視界から外れた事を認識した時、既に彼女は大河の目の前に立って胸倉を掴みあげていた。


「た、たたた、大河君、こん子供にま!?
 一夫多妻は法に触れないからまだいいけど、罪悪感とかないの!?」


 どうやらユカ的には、一夫多妻はギリギリ許容範囲と言うか常識の範疇らしい。
 まぁ、ホワイトカーパスの法自体がそうなっているのだが…。
 ちなみに、アザリンがユリコと共有しようとしないのは、彼女達の姿勢と誇りの問題である。

 胸倉を捕まれた大河は、ユカが思わず押されてしまうくらいに深く、重い声で一言答える。


「罪悪感は、ある」

「だったら何で!?」

「良心を捨てては、ロリの真髄は極められんからな」

「…は?」


 今何か、危険な事を聞いた気がする。
 大河は胸を掴み上げていたユカの手を逆にガッシリと握り、離れられないようにホールド。
 ユカは慌てて大河から離れようとするが、もう遅い。
 得体の知れないオーラが大河から放射されまくっていた。
 オーラは徐々に強くなる。


「社会的抵抗のみならず、自らの良心に阻まれて一歩を踏み出せない…それが普通または初心者のロリだ。
 そして道を外れた…否、俺とは違う道へ行ったロリは、その手の心理的障害を乗り越えた存在だ。
 だが俺は違う! 俺達は違うのだ!
 良心を持ち、ロリはよろしくない事だとは認識している! 恥ずべき事でもあるとは思っている! いや、ロリ自体を恥じようとは思わん。 ただそれによって、相手の体に負担を掛ける事や、やはり相手にも世間からの白い視線が集中するような…そう言った、幼い子供に負担を背負わせる事が恥だとは思う。 だが、だが! その良心を、あらゆる柵を越えつつ良心を捨てない在り方こそが! ロリの真髄なのだと俺は主張する! パトスに身を委ねながらも、腕の中で喘ぐ、熱く背徳的な肢体 小さな子が必死に体を使って奉仕し、また快楽に顔を歪ませる! それをさせているのが他ならぬ自分だという罪悪感! そう、罪悪感と背徳感が、我らのボルテージをマックス以上にヒートアップさせるのだ! 良心的なロリになるにせよ、肉欲込みのペド野郎になるにせよ、良心は棄ててはいかんのだよ!」


 ユカの目を覗き込みつつ、物凄い気迫で演説をかます大河。
 大河の目が渦巻状になって回っているのは、どう見ても洗脳しているようにしか見えない。
 このままでは理詰め(と洗脳されかけているユカは感じる)で論破されると感じたユカは、周囲の常識人(に見える)に助けを請う。
 が。

 当のロリっ娘…リコとナナシは、何やら感動しているようだ。
 カエデは大河の演説に真剣に聞き入り、何だか新境地を目指している気がする。
 未亜に至っては、『解かる! 解かるよお兄ちゃん! 人と人は分かり合えるんだね!』と言わんばかりに、涙すら流しつつ頷いていた。
 頼みの綱のベリオはとっくに諦め顔だし、リリィは冷や汗など垂らしてそっぽを向いている。
 親子丼までやった彼女は、今更ロリなんかに動揺しないのかもしれない。


(ボク?!
 ボクがヘンなの!?
 大河君と付き合うって、ようするにこういう事!?
 ねぇ教えてよ汁婆!)


 この場に居ないUMAへ助けを求める声も、徐々に何も感じなくなっていく。
 そして大河のロリーな演説が、徐々にユカの心に染み渡っていった。


「………って、洗脳されるものですかーい!」


「うおっ、跳ね除けやがった!?」


 口調を微妙に壊しつつも、ユカ大噴火。
 一夫多妻は常識内でも、ロリは許容範囲外なのか。

 しかし、そんな常識人な彼女を嘲笑うかのような救世主クラス。
 大河に染まりきっているよーだ、今更ながら。


「まぁまぁ、慣れると気にならなくなるから大丈夫だよ」

「世界には一部に熱烈な理解者も居るでござるしな」

「世の中には色々あるんです」

「愛があればモーマンタイですの」


「……つ、疲れる…」


 ナチュラルに洗脳されそうだ。
 ユカは頭を振って意識を切り替えた。
 このまま彼女達に逆らっても勝ち目はない。
 一旦退却し、各個撃破せねば。


「そ、それはともかく!
 えーと…」


 ユカの目が宙を泳ぐ。
 話題を変えようと思ったが、丁度言い話が見つからない。
 そもそも明るい話題が無い。


「…ま、気持ちは解かるけどね…ちょっと助け舟を出してあげよっか。
 あの、ユカ…でいい?」

「え? あ、うん」


 オロオロしているユカを不憫に思ったのか、リリィがユカに話しかけた。
 これ幸いと乗るユカ。


「あとでサインしてくれない?」

「…未だに解からないんだけど、どうしてみんなボクのサインとか欲しがるの…?」

「それがミーハーってもんよ」


 ユカは困り顔である。
 今までにも何度かサインをするハメになり、何気に手馴れてしまったのだが…正直言って、ちょっと恥ずかしい。
 ユカは根があがり症だったりする。


「待てリリィ、それにしては俺はサインとか強請られないぞ?」

「アンタのサインなんて誰が欲しがるもんですか…と言いたい所だけど、実際そうよね。
 別にチヤホヤして欲しいんじゃないけど、救世主クラスがサインを強請られるなんて聞いた事ないし」

「仮にもアヴァターの希望って事になってるでござるからなぁ…。
 恐れ多いのでは?」

「この面子を相手に、恐縮する方が難しいですの」

「いえ、単にメンバーの性格に恐れをなしているのでは…」


 ある意味自意識過剰な会話をする大河達。
 内容はともかく、話が逸れてくれてホッとするユカ。
 リリィに目をやると苦笑された。
 ありがとう、と目礼。


「…ところでユカ。
 ちょっと込み入った事を聞きたいんだけど…」

「? なに?」

「ぶっちゃけ、未亜に何かされなかった?
 いや、初対面の人を相手に聞く事じゃないって解かってるんだけど」

「何か…って…」


 何?
 ユカは首を傾げた。
 大河とならキスはしたが、それ以上は無い…それが不満だが。
 しかし、未亜に何かされるとは?
 危害も加えられてないし、彼女を相手に危険を感じる事はなかった。
 対抗意識は感じたが。


「特に何も…」

「…ほら、こう…身の危険を感じると言うか、女性としての尊厳に関わりそうなピンチを迎えた事は…」

「無いよ?」

「……エマージェンシー…エマージェンシーだ!
 同盟集合!
 ちょっと未亜、アンタこっち来なさい!
 ニセモノじゃないでしょうね!?
 それとも女の子だってのに去性でもされた!?」

「え? なに? 何事?」


 ユカから離れ、リリィは大河以外の救世主クラスを呼び集める。
 残された大河はユカに目をやるが、彼女も状況を把握出来てない。

 リリィ達は、何やら円陣を組んでいる。


『ちょっと未亜、アンタ一体どうしたのよ?
 ユカに何もするなとは言ったけど、体の調子でも悪いの?』

『どうしたんでござるかリリィ殿?
 未亜殿が何か?』

『何かも何も、ユカさんは未亜さんの脅威に一度も遭遇してないんですよ。
 確かにその気になれないって言ってましたが、まさか一度も…。
 あんなに美人で胸も…私ほどじゃないけど大きくて、大河君に惚れているとあらば、絶対にターゲットになるのに…』

『さり気無く入った自慢がましい台詞はスルーしますが、マスターはユカさんに会うのを非常に楽しみにしていました。
 この非常に、の部分の意味は…解かりますよね?』

『未亜ちゃん信用ないですの…当然と言えば当然ですの』

『いや、それが私も何が何やら…。
 前に馬車の中で言ったけど、本当にユカさんに対してはSモードが発動しないの。
 発動しないならしないでいいんだけど、何だか負けたみたいで悔しいじゃない?
 実を言うと、今まで何度か発動させようとしたんだけど、ユカさんを見たら何だかS気が萎んじゃって…』

『悔しくない悔しくない』

『むぅ…これは本気で同盟に加える価値が出てきたでござるな』

『ですが、本人が了承するでしょうか?
 昨晩聞かれたのですが、『どうして大河君を取り合ったりしてないのか』と…。
 どうも複数の女性と同時に付き合う事に、精神的抵抗が大きいようなのです』

『それが普通っちゃ普通なのよね…』


 密談を続けるリリィ達。
 それを横目に、大河は大欠伸する。
 今日は結構疲れているのだ。
 リヴァイアサンを間近で見て、その影響範囲から全力で逃げまくった。
 精神的にも体力的にも、消耗は大きい。
 救世主クラスとのスキンシップで、精神的な疲れは大分癒えたが…。


「なぁユカ、今日は何処で寝る気だ?
 俺は…まぁ、救世主クラスの天幕で寝ると思うけど」

「…ボクを相手に、はっきりそう言う事を宣言するってどうよ?」

「そりゃそうだけどさ…。
 俺の意思がどうあれ、アイツらが俺を引っ張り込むのは目に見えてるぞ。
 何せリコの召喚術とかもあるから、どんなに離れてたって逃げられない。
 まぁ、逃げる気も無いけど」

「…あっそ。
 じゃ、ボクもそっちにお邪魔させてもらっていいかな?
 救世主クラスとは、長い付き合いになりそうだしね」


 おお、ユカの目で炎が燃えている。
 どうやら、救世主クラスを相手に本気で宣戦布告する心算のようだ。
 多分、大河もその場に居るだろうから…告白も兼ねているのかもしれない。


「まぁ、いいけどさ…」


「なに、その言い方…。
 何か問題でもあるの?
 破廉恥極まりない事をするとか?」


「いや、明日は透の妹を助けるために派手にやらなきゃならないからな。
 体力は極力温存したい。
 ……ま、大丈夫か。
 最大の脅威は…ユカに対しては発動しそうにないし」


「?」


 …今更なんだが、ユカは未亜の脅威を全く実感してない。
 夜這いをかけられるぞー、とか言われても冗談だとしか思わないだろう。

 …ま、大丈夫だろう。
 いざとなったら、大河が体を張って止めればいい。
 要するに未亜をナニして気絶させればいいのだ。
 それはそれで気持ちがいいからオッケー…と言う事にしておこう。
 翌日救世主クラスが動けなくなりそうだが。


「そう言えば、ルビナスさんも来るの?」

「ん? ああ、今日の夜にな。
 遅くても日付が変わった頃には来るだろうから…あと一時間半ってトコかな」

「王宮じゃずっと寝てたから、あんまり話をしなかったんだよね…。
 ヤバい人だって聞いたけど、大丈夫かなぁ…」

「ユカなら大丈夫だ。
 危機感地能力が高いから、ヤバイと思ったらすぐ逃げるだけでいい。
 一時間くらいブッ通しで全力疾走すれば、プレハブ校舎の屋上で2人揃ってブッ倒れる事になる。
 そこまでやれば、いくらルビナスでもじっけ…ゲフンゲフン、色々と忘れ去るだろ」

「…それ、大丈夫くない気がする…。
 『私がこのゲームのラスボスです!』とか言うの?」


 ルビナス到着まで、あと一時間半。
 その間、延々と女性陣はユカと未亜の事を議論していたらしい。


 で、ルビナス到着。
 ルビナスは意外にも、大河の元にネコまっしぐらはしなかった。
 普段のマッドサイエンティストテイストを微塵も感じさせず、『これぞ救世主!』と言わんばかりの態度でタイラーとドムに挨拶に向かったのである。
 まぁ、ぶっちゃけネコの皮を被っていたのだが。

 これでもルビナスは千年前、王族のアルストロメリアと旅をしていたのだ。
 本人はカケラも意識してなかったが、各地の豪族と関わる事自体は結構あった。
 そんな時、王族の自覚がカケラもないアルストロメリアの代わりにルビナスがお上品に振舞っていたのである。
 ちなみに、ミュリエルはガチガチに緊張していたし、ロベリアは苛烈な意見を述べる役割に回った。
 自然とロベリアには、豪族や貴族に嫌われる役割が回っていたのである。
 まぁ、当人は『ボンボンなんか興味ないわ』とばかりに切り捨てていたが…。


 ルビナスはドムとタイラー、それぞれの副官を前に艶然と微笑んだ。
 何があっても彼女が居れば希望はある、そんな錯覚を起こさせる微笑だ。
 色気云々ではなく、泰然自若とした強さを感じさせる。
 これを見たのが一般人や普通の兵なら、彼女について流れているマッド云々の噂をデマだと思い込んでしまうだろう。


「救世主候補のルビナス・フローリアスです。
 遅ればせながら、援軍として参上いたしました」


「ご苦労様です。
 ご高名は聞き及んでおります。
 何分未熟者の身、至らぬ所は多々ありますが…アテにさせていただきます」


 ドムが余所行きの皮を被って対応する。
 無論、彼らはルビナスがネコの皮を被っている事くらいお見通しである。
 しかし、ルビナスが礼を尽くしているのだから、こちらも礼を尽くすのが道理。
 ドムとバルサローム、ヤマモトは敬礼した。
 タイラーは…普通に頭を下げる。


「早速ですが、ルビナスさん。
 リヴァイアサンを止める方法がある、と聞いたのですが…」

「はい。
 …ですが、その前に一つ。
 リヴァイアサンについて、どの位の事を知っていますか?」


 探るようなルビナスの視線。
 態度には億尾にも出さないが、全てを話す気が無いのは明白である。
 タイラー達はそれを責めようとは思わない。
 何やら政治的な思惑も絡んでいるようだし、そもそもリヴァイアサンを止められればそれでいいのだ。


「…彼女の事なら、大河から聞いている」

「なんだ…なら話しても大丈夫ですね」


 コロッと態度を変える。
 あっさり余所行きの仮面を脱ぎ捨てたルビナスに苦笑するバルサローム。
 ヤマモトは…ちょっと頭が痛そうだ。
 目をつけられると、からかい倒されるかもしれない。

 ルビナスは周囲に人の気配が無い事を確認した。


「ご存知の通り、彼女は兄を求める孤独な魂の成れの果てです。
 はっきり言って、滅ぼす事は不可能と言えるでしょう。
 孤独を癒さない限り、彼女は執念…妄執とさえ言えるその力で、自力で復活を果たします」


「うん、そこまでは僕達も予測してる。
 問題は、彼女の孤独をどうやって埋めるか、だ」


 タイラーの相槌に、頷くルビナス。


「私が提唱する方法は、作戦と言えるほど上等なモノではありません。
 骨組みに関する説明は、ただ一言で済みます。
 リヴァイアサン…水坂憐を、人間の体に入れる。
 それだけです」


「人間の…?
 それはつまり、リヴァイアサンを物体に閉じ込めるという事ですかな?」


「より正確に言えば、閉じ込めるのではなく定着させるのです。
 しかも、自分の意思で…ね。
 無理に閉じ込めた所で、彼女は封印を破って飛び出してしまいます。
 なら、本人の意思でそこに留まらせ、同時に彼女の孤独を癒してリヴァイアサンとしての力を削ぐ…。
 即ち人間として生活させ、長年求めていた相馬透と共に生活させる。
 これで数年以内に、リヴァイアサンは完全に消えて無くなるでしょう」


 予測の元となるデータも見ますか?と問うルビナスだが、必要ないとバルサローム。
 提唱された策を聞き、それぞれ考え込んだ。
 確かに、特別複雑な作戦でもない。
 しかし、それは果たして可能なのか?
 机上の空論にしかならない可能性も高いし…。


「そもそも、リヴァイアサンを何に定着させるの?
 彼女の体は、もう…」


「ですから、新しい体を用意しました。
 私はこれでも錬金術師です。
 ホムンクルスの作成はお手の物ですし、魂や精神の定着についても何度かやった事があります
 …ついでに言っておきますが、ホムンクルスの生成は別に違法じゃありませんよ?」

「…わざわざ念を押すと言う事は、後ろ暗い事も無きにしもあらずか…」

「ヤマモトさん何か言いました?」

「いえ自分は何も」


 ちなみにホムンクルスの生成が違法でないのは、そもそもホムンクルスを創り出すだけの技術を持った人間が居なかったからである。
 現状、認知されているのはルビナスだけだ。
 そして彼女の実験やら何やらの邪魔をするような法令を敷けば…王宮は乗っ取られ、世界はルビナスによる技術大国(伝統芸は自爆)と化すかもしれない。
 要するに、単に禁止されてないだけで容認されているのではない。

 閑話休題。


「失礼ながら、あのデカブツを人間サイズのホムンクルスに収容できるのでしょうか?」

「問題ありません。
 あの巨大さは精神力の強さ、或いは取り込んだ人間の量によるものです。
 元々精神がどんなに巨大でも、物理的な大きさには殆ど関係ありません。
 この『巨大』という形容詞自体、物理的な意味で使うのではありませんから」

「リヴァイアサンを、どうやってホムンクルスまで誘導します?」

「彼女の片割れ…本体と言うべきでしょうか?
 水坂憐に頼みます。
 分たれたとは言え、元は同一人物。
 より強く兄を求めてはいますが、もう一人の自分と再び一つになりたい、と願っています。
 孤独ゆえに、尚更…。
 その彼女が呼びかければ、多少なりとも誘導できます」

「多少、では足らないのでは?」

「少々博打となりますが、幾つか方法があります。
 一番手っ取り早いのは、相馬透を囮に使う事ですが」

「…現状で一番の課題は?」

「…リヴァイアサンとコミュニケーションが取れるかによって、大きく難易度が変わります。
 こちらからの声に反応してくれれば…。
 しかし、現状では望みは薄いと思われます。
 周囲の霊団が、彼女への呼び掛けを遮ってしまうのです」


「…タイラー、お前の実家は確か寺だったな?」


「無茶言わないでよ…。
 ウチの寺では、『死者の為に経を読むな、生者の為に読め』だよ?
 それが死者の塊に対して効くと思う?」

「閣下なら、心があれば何とかなる、くらい言いそうですが…」

「…それは寺としてどうかと思いますが…」


「…いずれにせよ、読経の類は効果を期待できません。
 当の霊団も、聞く耳など持っていませんから。
 とにもかくにも、霊団を一時的に蹴散らさねばなりませんね。
 まぁ、これについてはダーリ…もとい、当真大河を筆頭に、救世主クラスの数人が有効な手段を持っています。
 局所的なものですが、私がサポートすればリヴァイアサンにも効果がある程度は…」


 ルビナスの目が、妙に活き活きとしている。
 発明品の説明でなくても、自分が考えたモノを披露するのはとても楽しい。

 所々で質問を受けながら、会議は進む。


「…と、こんな所です。
 何か問題点はあるでしょうか?」


「…僕は無いよ。
 ドム君は?」

「俺もだ。
 副官2人、そちらは?」


「ございません」

「右に同じく」


「では、明朝に作戦を決行すると言う事で」


「うん。
 それじゃ、細かい所は僕達で煮詰めておくから。
 “ダーリン”に会ってきたら?」


「ではそうさせてもらいますッ!」


 旋風。

 一陣の風が吹き抜けた。


「…あれ? どこに行った?」


「…今しがたお前の副官を轢いて、外に飛び出して行ったぞ。
 当真に会いに行ったのだろう…」


「ヤ、ヤマモト君!?
 生きてるかい!?」


「…な、なぜわたしが…?」


 バルサロームよりもネタにしやすいからだ。
 そのバルサロームは、唖然として天幕の外に目をやっていた。
 彼には全く見えなかったらしい。
 ドムの目をもってしても、何やら影が走りぬけたようにしか見えなかった。
 タイラーは動体視力は人並みだし、ヤマモトに至っては見える見えない以前の問題だ。
 気がつけば地面に叩きつけられていた。


「…ま、やはり彼女も救世主クラス、と言う事か…」

「…こんな所で痴話喧嘩は勘弁してほしいですな…」


「ヤマモトくーん!」

「閣下…時が…見えます…」


  救世主クラス天幕


「……」

「…………」

「……………………」


 沈黙が満ちている。
 妙な緊張感が、少しずつ高まりつつあった。
 外を見ながら冷や汗を垂らす大河。
 修羅場ではない。
 修羅場ではないが…とても心臓に悪い。

 ユカは改めて、救世主クラスを値踏みしているようだった。
 恋敵云々だけではなく、その戦闘力、どこまで信頼・信用できるか。
 見るだけでそれを解析できる訳はないが、何も見ないよりはマシである。

 救世主候補達も、値踏みされているのは察している。
 アヴァター随一の猛者からそのような目で見られるのは、少なからず緊張を強いる。
 例外はナナシだけ。
 彼女は緊張云々以前に、既にオネムである。
 ナニしている時はともかく、彼女は基本的に昼型人間なのだ。
 21時には瞼が重くなり、22時には半分夢の中。
 要するにお子様だ。


「…ねぇお兄ちゃん」

「!? な、なんだ?」

「まだ眠らないの?
 明日はリヴァイアサンをどうにかしないといけないんでしょ?」

「あ、あぁ…。
 ルビナスを待ってるんだよ。
 もう到着してると思う。
 多分、将軍達を相手に色々話してると思うんだけど…」

「…そっか。
 機構兵団の事もあるもんね」


 空気が一層重苦しくなった。
 リヴァイアサンに勝てるのか?
 気絶した機構兵団達は、目を覚ますのか?

 ちなみに、機構兵団は最低限の装備だけ接続したまま、保健室…もとい治療用の天幕に寝かされている。
 数名の医療班が、シュミクラムから出入りする信号を解析しようとしているが…多分、ルビナス以外には無理だろう。


「…ルビナスさんなら、ミノリさん達を治せるの?」

「充分可能でござろう。
 ただ、問題は…その手段が尋常のものかと問われると…」

「不安ですね…」

「…どのくらい?」

「今からヴォルテックスの電気ショックで叩き起こそうとした方が、まだ安全に思えるくらいよ」

「それってダメじゃん!?」


 ご尤も。
 が、リコが沈痛な面持ちで言う。


「ダメですけど、やはりルビナスに任せましょう。
 何故なら、危険度はルビナスの方が高くても、確実に目覚めるでしょうから。
 電気ショックはルビナスより幾らか安全っぽくても、確実に目覚める保障がありません。
 どうせ危険なら、確実に効果がある方をとりましょう」


「何だかんだ言っても、目を覚ますのは確定なんだ?
 それだけ信頼してるって事だよね」


「そりゃそうだよ。
 マッドな上に藪医者じゃ、話にならないもん。
 …ま、腕のいい医者でもあるから、もっと話がややこしくなるんだけど」


「…言いたい事言ってくれるわねぇ…」


「「「「「はぅ!?」」」」」


「…あ〜ぁ…」


 大河は天を仰いで嘆息した。
 ギリギリギリ、と軋むような音を立てて、好き勝手(真実)言っていた救世主チームが振り返る。

 無論、そこにはフローリア学園が世界に誇るマッドサイエンティスト、ルビナス・フローリアスが仁王立ちしておられた。
 夜にも関わらず、背後から何だか無闇に神々しい光が当たって逆光になっている。
 この辺の特殊効果は、ひょっとしたらルビナスボディの機能なのだろうか?

 ルビナスに睨みつけられた未亜達は、カタカタカタカタ震えている。
 逃げられない。
 こーなったら、もう逃げられない。
 抵抗も出来ない。
 リコの暗示でS未亜でも呼び出せば話は別だが、出てきたら出て来たで最悪ルビナスと一緒になって悪乗りしかねない。


「…ルビナス、そっちへのオシオキは後で俺がやっておくから。
 先に機構兵団の事とか、リヴァイアサンの事とか話してくれないか?」


「…ダーリンのオシオキだと、みんな悦んで受ける気がするけどね…。
 ちなみに私のオシオキは、カエデちゃんにイヌミミを付けたり、リコちゃんがスクール水着を着たまま脱げなくなったり、他にも語尾に何か単語をつけるとか注射器を見ると自分から注射したくなるとか、そーいう事なんだけど?」

「…最後の一個以外は全部許す」

「それが一番重要なのに…」

「ちょーちょーちょー、大河君大河君。
 ヘンなパトスに流されちゃダメだって。

 えーと、ルビナス・フローリアスさん?
 ホワイトカーパス出身の、ユカ・タケウチです。
 どうぞよろしく」

「これは失礼。
 救世主クラスのルビナス・フローリアスです。
 出身地は……この体の場合、フローリア学園の実験室?」


 ユカの姿を認めた途端、またしても余所行きの仮面を被る。
 素晴らしい変わり身の早さである。
 後ろでルビナスのオシオキを許可するべきか迷っている大河。
 そして、ルビナスが余所行きの仮面を被っている間に天幕から逃げ出そうとする未亜達。


「あら、みんな何処に行くの?」

「「「「「ギクッ!」」」」」

「今時効果音を口に出すなんて…古風ね。
 どこに行くつもりなのか知らないけど、リヴァイアサンの事や機構兵団について話があるの。
 それが終わるまで…ここに居てね?」

『……ヤ、ヤー』


 ガクッと膝を付く。
 この『ヤー』は、『やだ!』と同義語だろう。

 ノロノロ戻る救世主候補。
 その光景で、何となく救世主クラスの力関係が解かった気がするユカだった。

 当のルビナスは大河の手を引いて、ナナシの隣に座る。
 眠るナナシを慈母を連想させるような表情で撫でて、布団をかけた。
 ユカは『へぇ、こんな顔が出来るんだ…』と、女性としての経験の差を実感する。
 恋敵の強大さに多少の危惧は抱くものの、素直に『いい人』と受け止める。


「…さて、恒例の(ちょっと命がけの)コントも終わった事だし…。
 ルビナス、せつめ…もとい…えぇとその、状況解析を頼む」

「無理に言い直さなくてもいいのに…。
 …まぁいいか。
 さて、みんなちゃんと聞いてね?」

「ナナシちゃん寝てるよ?」

「この子はいいの。
 聞いてもどうせ、妙な方向に誤解するだけなんだから。
 後で私からテレパシーで伝えておくわ。

 それじゃ、まずは機構兵団が気絶した原因から行くわよ」


 自然と聞き入る。


「まず初めに言っておくけど、彼女達の治療は可能よ。
 誰からもシュミクラムを切断しなかったのは大正解ね。
 キタグチ老も言っていたけど、彼女達は夢を見ているわ。
 それぞれの記憶で構成された夢をね。
 …この辺、リコちゃんが説明しちゃった?」

「いえ、全員にはしていません。
 一通りお願いします」

「そ。
 じゃあこのまま続けるわ。
 ブッちゃけた話、原因はリヴァイアサンの咆哮な訳よ。
 この位の予測はついてるでしょうけど、もうちょっと続けさせてね。

 シュミクラムに記録されていた音声及びマナの変動データを見せてもらったけど、リヴァイアサンの咆哮が届くと同時に、マナの計測器に全く同じ波長が観測されたわ。
 つまり、咆哮に篭められたマナの波動ね。
 全員がほぼ同時に、同じ周波数の波動を浴びせられた。
 そして、シュミクラムの通信はマナによる伝達を使用している」


「1kHz、2kHz同士の波動を送りあってコンタクトする、って事だな?」


「そう。 その波動のOn・Offで2進数を作り出し、それを受け取って処理するの。
 この辺の話は長くなりそうだから省くけど…」


『ホッ…』


「…オシオキ追加ね。
 ま、要するに同一周波数のマナをぶつけ合えば…正確にはマナ同士を接続してるんだけど、そこに通路が出来るの。
 細かい想像が出来なければ、1kHzの周波数の世界、2kHzの周波数の世界…って断層になってると思ってくれればいいわ。
 さて、このリヴァイアサンの咆哮だけど…とんでもなく高い周波数を持つ波で、周囲の波を丸ごと飲み込んで消しちゃったのよ。
 後に残る周波数の世界は唯一つ、リヴァイアサンの咆哮によって齎された世界。
 …ここまでいい?」


 ユカに目を向けるルビナス。
 目を向けられたユカのみならず、全員が自信なさ気な表情だ。
 魔力に造詣が深いベリオ・リコ・リリィはまだマシだが、大河も未亜もユカもさっぱりだ。
 カエデに至っては、考えるフリをして明日の朝食に思いを馳せている。

 とりあえずルビナスはカエデの脳天に一発拳を落とし、続きを話す。


「さっきも言ったように、シュミクラムはマナの周波数の世界を通信手段として使っている。
 咆哮によってその世界は丸ごと飲み込まれ、全員が強制的に同じ周波数の世界に引きずり込まれたの。
 シュミクラムに接続している全員と通信が成立している理由がコレね」


「つまり…山登りをしていたら、いきなり土砂崩れとかが起きて、逃げて、ふと気付けば全員同じ場所に居た、って事?」


「あら、ユカさん理解が早いわね。
 …だと言うのに、この連中と来たら…」


 ジト目のルビナス。
 アハハハ、と乾いた笑いを漏らす大河達。
 が、大河達にだって言い分はある。
 ルビナスの説明は、大抵の場合においてやたら長く婉曲かつ専門的で、聞き流すクセでもつけないとやっていられない。
 恐らく、ユカもその内そんなクセを身につけるだろう。


「ま、大体のイメージはそれでいいわ。
 そうやって、通信が成立する状態になった。
 ここで、気絶しなければ問題なかったんだけどね…」

「なんで気絶したんだ?」

「マナが押し寄せてきたからよ。
 シュミクラムに付けた受信のためのアンテナから、いきなり咆哮が叩き込まれる。
 そうねー、糸電話してたら、いきなり在り得ないくらいの爆音が聞こえてきたよーなものかしら?」

「耳元から?」

「むしろ鼓膜に直接」


 そりゃ気絶する。
 スタングレネードと大差ない。


「加えて言えば、そのその爆音は断末魔の悲鳴だった…かな。
 寂寥・狂気・怨嗟、そんなモノが色々と篭められてたの。
 そんなものをいきなり叩きつけられてごらんなさい。
 気絶どころかトラウマものよ。
 夜中に一人でトイレに行けなくなるわ」

「………」

「ダーリン、想像しない!」

「教育指導スマッシュ!」

「ごふぅ!?」 

「ナイス、ユカさん。
 エロエロ魔神は放っておいて、これで全員揃って気絶+通信が確立された。
 後は神経やら何やらから出る信号をシュミクラムが勝手に読み取って送信&受信。
 そのまま全員揃って夢の中って訳。
 了解?」

「了解。
 で、どうやって治療するの?
 リヴァイアサンを倒しても、回復しないんじゃない?」


「…ちゃんと話に付いてきてるみたいね、未亜ちゃん…。
 まぁ、確かに色々と問題はあるわ。
 でも、最大の関門がついさっき消えたから大丈夫よ」

「?」

「夢を見ている彼女達の人格及び記憶を、混濁させずに目を覚まさせる。
 その為に必要な人が見つかったのよ。
 さっきクーウォンにばったり会って、その時にちょっと聞いてみたら…」


「クーウォン…?
 そうか、透の…」


「大河、知ってるの?
 と言うか、確かクーウォンってテロリストの首領じゃ…」


 リリィ達は、クレアがフェタオに協力を求めた事を知らない。
 大河は話すべきか一瞬迷ったが、もうここまで来てしまったのだ。
 今さら秘匿しても、あまり意味はない。


「あー、フェタオってV・S・Sの被害者の集まりなんだよ。
 上手くやれば協力関係を築けるだろうって、クレアが取引を持ちかけた。
 これ、秘密だぞ?」


「…言われなくても話しませんよ。
 大河君、それって国家機密でしょ」


「ま、そうだけどな…。
 このメンバーに秘密にしておく訳にもいかんだろ。
 隠し事は一切無しとは言わないけど、チーム内では極力腹を割って行かないとな」


「むぅ…」


 ベリオは微妙に納得してないようだ。
 生来の生真面目さ故だろうか。
 話してくれないのも気分が悪いが、さりとてホイホイ喋られても…。


「ま、その辺の判断の是非は今度にしましょ。
 とにかく説明を…わ・た・し・の! 説明を! 聞きなさい!」

『はーい』

「よろしい。
 …と言っても、ダーリンは大体見当が付いてるみたいだけどね。
 ちょっとした事情ってヤツでね。
 相馬さんには特殊な能力があるの。
 後天的に、本人の意に沿わずに身につけられた力だけど…」

「…それは?」

「一言で言っちゃうと、洗脳されない…いえ、どんな洗脳を受けても、切欠一つで立ち直る能力よ。
 頭の中に記憶や感情の流れを記録する装置が埋め込まれてて、洗脳された時はその装置が起動、失われた記憶や感情を補填する…。
 これを使うわ。
 本人にとっては、不本意かもしれないけど」


 頭の中に埋め込まれた装置。
 正直言って、未亜達にはそれがどんなモノか想像できない。
 記憶を保存する装置、に関してはいい。
 幻影石も、似たような事が出来るからだ。
 しかし、頭…つまり脳にそんなモノ…恐らく機械の類が埋め込まれている?
 どこをどうやれば、そんな事が出来るのか?


「…? 記憶を保存…?
 って、それってひょっとしてリャンちゃんの治療に使えるのでは?」


「鋭いわねベリオ。
 原理的に言えば、正にその通りよ。
 ま、記憶を補填するだけじゃ、発作を起こした時の不安とかを消しきれないから、もうちょっと小細工するけどね」


「それで、どうやって機構兵団の目を覚まさせるの?」


「…正直言って、コレは博打よ。
 勝算は高いけど、危険な賭けである事は否めない。
 ひょっとしたら、相馬さんも眠ったままになるかもしれない。
 まぁ、その時はその時で色々考えてあるんだけど…」


 大河はふと思う。
 きっと、その『いろいろ』は半分以上趣味で考えたんだろうなぁ、と。
 治療の名目で、新技術の実験とかする気かもしれない。


「何だか失礼な事を考えてる人が居る気がするけど、まぁいいわ。
 (実際、実験のつもりでもあったし)
 一応言っておくけど、これについては相馬さんも了承したわ。
 大体の事しか教えてないけどね。

 まず、相馬さんのシュミクラムの通信機能を修理して、気絶した機構兵団と並べる。
 そしてリヴァイアサンの咆哮を浴びるのよ」


「…って、そんな事したら、相馬さんも!」


 驚いて思わず立ちあがる未亜。
 彼女が慌てるのも無理はない。
 昏睡状態の彼女達を確実に救う方法も確立されてないのに、同じ病人を増やしてどうするのか。


「落ち着きなさい。
 これは賭けだと言ったでしょう?
 当然リスクだって大きいわ。

 未亜ちゃんが言った通り、咆哮を浴びた相馬さんは当然気絶する。
 当然、他の機構兵団の人達と同じ状態に陥るでしょうね。
 …そう、文字通り同じ状態に」


「…!?
 まさか、相馬さんを夢の中に送り込もうっていうの!?」


「いえーす、ザッツライ!」


 リリィに向けて、親指を立てるルビナス。
 が、そんな事されてもリリィは嬉しくない。


「そんな無茶な!
 仮に今までの理論が全て大当たりだったとして、相馬さんが浴びる咆哮が、機構兵団の人達が浴びた咆哮と同じ周波数を持っているっていう保障はないのよ!?」


「別に同じでなくても構わないわ。
 何のために、機構兵団と相馬さんを並べると思ってるの?
 全員に、同時に同じ咆哮を浴びさせるためよ。
 最初の咆哮と同じ周波数でなくてもいいの。
 何故なら、リヴァイアサンの咆哮が迸る度に、周囲一帯に咆哮によるマナの世界が作り出される。
 まーぶっちゃけた話、彼女が吼える度に、シュミクラムはその咆哮の周波数の世界を取り込んじゃってるのよ。
 全く…私とした事が…。
 取り込む周波数を制限し切れなかったなんて…」


 ルビナスは頭を抱えている。
 だが、これは責めるに責められない。
 叩きつけられたのは、常識的な周波数ではないのだ。
 普通なら設定した周波数だけ取り込めるのだが、咆哮はムリヤリ入り込んできてしまった。
 そんなとんでもない波が生まれるなど、まず在り得ないのだ。


「…それで、肝心の目覚めさせる方法は?
 送り込んだ相馬さんに、何をさせるの?」


「それは……うっ」


 ユカの疑問に答えようとした大河を、殺意が篭ったルビナスの視線が貫く。
 出番を取るな、ヌッコロス!


「…ルビナスさん、どうぞ」


「あらそう♪
 それじゃ遠慮なく。
 答えは簡単よ。
 夢の世界に送り込んで、さっき言った『洗脳を解除する能力』を発動させる。
 これで目を覚ます筈よ」


「……理屈は…わかりますが。
 ですが、相馬さんの能力は、文字通り彼の脳に対してのみ発動するのでは?」

「いい着眼点ねリコちゃん。
 説明する者の欲する質問を的確に送ってくれるわ。
 ねぇ、私が説明する時に助手になってくれない?
 今ならウサギの着ぐるみとゲキガンガーの人形を進呈するわよ」

「ゴメン蒙ります」


 助手役になれば、長ったらしい説明の聞き手から逃れられるかもしれないが…それ以上に、事前に知識を叩き込まれたり、延々とマンツーマンで説明されるのがオチだ。


「ちぇ…。
 ま、普通ならリコちゃんの言う通りなんだけどね。
 シュミクラムはどうして操縦者の体に接続されてると思う?
 答え、操縦者の体を流れる電気信号を読み取って、それをフィードバックしているから。
 つまり、脳の中に走る洗脳解除のための信号を全て読み取り、それを全員に対してシュミクラムで送信。
 勿論、洗脳解除プログラムだって読み取って、全員に向かって作動してくれるわ。
 その結果、全員の脳が自分の記憶だけを取り込み、そして目が覚める。
 OK?」


「…そんなに上手く行くか?」


 OK?と言われても、大河とリコを除いて目が虚ろになっている。
 ユカも精神力の限界に達したらしい。
 その辺はスパッと無視するルビナス。
 どうやらトリップしつつあるようだ。
 普段なら、全員にスタンガンを叩きつけてでも清聴させるのに。


「充分見込みはあるわよ。
 リャンちゃんとヒカルちゃんっていう、優秀な記憶領域と処理係がいるもの。
 ちゃんとそれぞれの記憶を識別して…」


「いや、そうじゃなくて。
 透が夢の中に放り込まれて、どうやって洗脳解除能力を発動させるんだ?
 ありゃ自分の意思では起動できんぞ」


 ピタリと停止。
 …ルビナスの目が泳ぐ。


「…おい」


「し、しまったぁぁぁあーーー!?」


「おおい!?」


「なんてね」


 ペロっと舌を出す。
 大河は無言で崩れ落ちた。


「だーいじょうぶよ、そこでお約束のボケはしないわ。
 ちょっと心惹かれるけど、今回は言ってる場合じゃないし」


 そこで心惹かれるから不安なのだ。


「心配しなくても、夢の中に放り込まれた時点で洗脳解除プログラムが作動し始めるわ。
 ま、効果を発揮するのに、ちょっと時間がかかるかもしれないけど」


「万が一、そのまま発動しなかったら?」


「それも、どわーいじょうぶ!
 むぅわーかして!」


 中指を立てるな。
 大河に向けて…ファックユー? むしろミー?


「最悪、脳に電極とか突っ込んで洗脳されたように錯覚させるから♪」


「「「任せられるかー!!!」」」


「それ、透は了承済みか!?
 了承済みなのか!?」


「勿論!」


 キッパリと言い切るルビナス。
 …が、はっきり言って信用に薄い。


「憐ちゃんや機構兵団+αを助けるためなら、どんな手段でも甘んじて受けるって言ってたわ」


「…おい、具体的な手段を話したんだろーな?」


「そーんな訳ないじゃない。
 …ま、言っても結果は同じだと思うわよ。
 あの人、ダーリンと根っ子が同じタイプだもん。
 本当に大切にしてる物とかの為なら、自分が傷つく事くらい甘受するってタイプ」


「…でも、俺は命までは差し出さないと思うぞ」


「そうね。
 それがダーリンのいい所。
 自己陶酔に囚われず、安易な自己犠牲を良しとしない。
 自分一人だけが傷つく事で、他人が楽になると思わない。
 自分が耐えられない苦しみを背負う時、誰かに助けを求めるのに躊躇しない。
 大局を見る目ってヤツね」


「…褒めるのはいいから、ちゃんと透に手段を説明しとけよ」


「ちっ、誤魔化されなかったか
 ま、話さない方が本人のためだと思うんだけどね。
 どうせ気絶してる間に電撃かますんだし、何も知らない方が安心して気絶できるってモンでしょ」


「安心云々じゃなくて、廃人になりかねない手段だって事を言ってないのが問題なんだよォー!」


 『バレなきゃいい』。
 殆ど犯罪者かイカサマだ。
 違うのは、バレなかったからと言って結果に問題が無くなるとは限らない事だ。
 いや、犯罪の場合は大抵問題が残るが。


「だからー、大丈夫だって。
 これはあくまで最後の手段。
 十中八九、脳に不正なアクセス…洗脳が施されようとした時に、洗脳解除プログラムは勝手に動き出すわ。
 だって、洗脳されているのに自分の意思で『洗脳を解こう』なんて思える?
 自分の意思をトリガーにしてるんじゃないから、放って置いても起動するわよ。
 それに、電撃の前に相馬君を直接洗脳してみるって方法もあるし」


「しかし、洗脳を受けると同時に動き出す訳でもないぞ。
 透はV・S・Sじゃ半分洗脳されかけてたらしいからな」


「んー…洗脳を受けて速攻で解いちゃったら、またすぐに洗脳されるから時間を置いてあるんじゃない?
 洗脳の為の機材に捕まったまま正気に戻っても、そのまま洗脳されるだけだって。
 一日くらい経過してから、本格的に作動するとか」


「そうかなぁ…」


 どうにもコジツケの印象が拭えない。
 しかし、この際他に方法が見当たらない。
 救世主クラス、いやアヴァター随一の頭脳を持つルビナスの策に賭けるしかないのだ。


「ま、仮に上手く行かなくても、少なくとも相馬さんは目を覚ますわ。
 眠っている時に見た夢がどんなモノかで、多くの手掛かりが得られる筈。
 そこから先は、まぁ…成り行き任せね」


「…相馬さん達が気絶している間に、リヴァイアサンが動き出したらどうするんです?
 連れて逃げるにしても、リヴァイアサンの移動速度は異常です。
 まず逃げ切れません」


「その辺も考えてあるわ。
 と言っても、『開き直れ』の一言だけど」


 そー言うのは考えていると言わない。
 丸投げと言う。


「しょーがないじゃない。
 リヴァイアサンの近くじゃ、逆召喚もロクに使えないわよ。
 あれだけ空間が捩れてるんだし。
 汁婆でも逃げ切れないし、どうしようもないわ。
 無理なモノは無理。
 何せ、相手はマナを伝って移動する…ある意味、亜光速で進んでるのよ?
 その巨大さ故に、あの程度のスピードに抑えられてるけど…。
 走るだけじゃ誰も逃げられないわ。
 …手があるとすれば…」


 ルビナスは、自分の隣で鼻提灯を膨らませているナナシに視線を落とす。
 落ちていた木の枝で、鼻提灯を破裂させた。


「…この子よ」


 大河とリコは首を傾げた。
 ナナシが?
 一体どうやって?
 例によって、怪しげな新機能を盛り込んだのか?

 そこまで考えて、大河はふっと気付いた。


「…おいルビナス、まさか…」


「ふっふっふ…そのまさか、よ。
 嬉しいでしょ、ダーリン?」


「ふ…ふふふふふ…そうかそうか、ついに日の目を見るのか…。
 まさか本当に搭載しているとはな…。
 いい仕事をしてるな、ルビナス…」


「いえいえ、お代官様程では…。
 きっとダーリンのみならず、読者の皆様も…」


「おっと、それ以上は言ってはいかぬぞよ。
 読者様方も、予想はついてもここは一つスルーの方向で…くっくっく…」


 ニンマリと邪悪な笑みを浮かべて顔を見合わせあい、口元を隠して含み笑いをする2人。
 それを見て、リコは『またロクでもない事を考えてるんだろうなぁ』と白い目を向けた。



こんちわー、チャンポンやって友人に多大な迷惑をかけた時守です。
うう、酔いつぶれるのって色々と屈辱…。

卒論を先生に見せたら、『最初に言ってた事と違う事をやってる』と言われてしまいました。
いいじゃねーかよー、何を研究してもいいんだから!
…まぁ、代わりにゲームの作り方とかを出そうかな、と企んでいる訳ですが。

うーん、今回はちょっとグダグダしすぎてるなぁ…。
それではレス返しです!


1.アレス=ジェイド=アンバー様
透君が幸せになるのは何時の日やらw
現状では、ある意味ロベリアさんに最も近いお人です。

そうですねぇ、きっと主幹の部屋には壁一面に仮面ならぬカツラが…うう、何てイヤな絵面だ…。
まぁ、一応仕事はしてるんですけどね。
主幹の仕事とはちょっと違いますが。


2.GB様
意志の力云々は、どっちかと言うとGSが元なんですけどね。
まぁ、似たような設定とか結構ありますからねぇ…。

ネットワークに関しては時守も出したいのですが、どうにも使い所が…。
最初に『ネットワークはアヴァターに手出ししてない』って決めたのがマズかったです。

3&4.Campari様
お久しぶりです!
み、みみみ民明書房辞典!?
それは如何なる神器ですか!?
ええぃ畜生近所の本屋に無いからアマゾンで探すか!
嬉しい情報をどうもありがとうございます!


5.陣様
まぁ…なんです、追試があったら頑張ってください。
呪いモドキで風邪?
…ウチの妹の友人に、本気で呪いを使えると言っている女の子が居るんですが…大丈夫ですかい?

リャンの天然ボケに、アルの微妙にズレた生真面目さ…。
うん、いいコンビになりますね。

…むぅ、本当にネコりりぃが出てしまったヨ…。
運がよければ強迫観念云々は投稿直前に入れたネタで、この話は2週間以上前に書いたんだけど…これって何かの采配…?

残念、まだ復活ならず!


6.竜の抜け殻様
竜一さんと同一人物でしたか。
道理で…。

前にも似たような引っかけをしましたね、確か学園の地下に降りる時に。
うーん、その内もう一回くらいやっても大丈夫かな。

う…むぅ…どうやってシュミクラム型トレイター使おうかなぁ…。
シェザルの相手が誰かはもう決めちゃったし…。


7.イスピン様
ほ、ほ、本当に何か強迫観念があああぁぁぁぁ!?
今は戦闘の真っ最中を書いてるんですが、何だか物凄くネコりりぃを書かなければならないような気が…。
むぅ、ひっかきまくりでもさせるか?

ふっ、母ネコもいいですねぇ…。
…?
あれ、何でネコミュリエルぶるまぁ姿が浮かぶんだ?
しかもこっちにお尻とシッポを向けて、食い込みを直すだなんて…。
……熟女に若い娘の格好させるのもいいなぁ…。

エスナはともかく、料理は直行ですよ!?
何処にかは言うまでもありませんが。

エゴですな、それは確かにッ!


8.文猫様
あのネタ知ってらっしゃいましたか。
こういう細かいネタに気付いてくれると嬉しいですねぇ…。
…しかしあのギミックマスター、数年でえらくやさぐれましたねぇ…某金貸し魔術師並みの変わりようだ…。
流石に出すのは難しいですね。
ヘヴンみたいな所は、周りが“破滅”でも無関心を決め込んでそうですし。


9.カシス・ユウ・シンクレア様
そんなにアルディアさんがスキデスカー!?
むぅ、アルディアさんは色々あって結局一人になる予定だったのですが…これはいっそ、技というかネタとして…。
いや、いっそメカ進藤ならぬメカあるでぃあさんを…勿論ドリルは完備で。

ギャグパートでも、透君はマジで痛がってますぜ。
と言うか、UMAの体重っていくらあるんだろう…。
普通の馬より重そうだけど、黒王よりは軽そうです。

ダウニー先生をマジで変身させるとしたら…腹巻・鼻眼鏡・一本毛カツラの加藤茶グッズしか思い浮かばない、何故だろう(汗)
小柄な影は、実は前にも登場した事があります。
さぁ誰でしょう?


10.伊上様
楽しんでいただけて何よりです。
しかし…汁婆をこれ以上パワーアップさせていいんでしょうか…(汗)
ダウニーのパワーアップ?
そう言えば、まだ髪型七変化が途中だったような…。
えーと、ノーマルモードからアフロ、フノコ、波平、落ち武者、で今に至る…。
さて、次はナニかな…。


11.神竜王様
リベンジ汁婆VSリヴァイアサン…なんか、サイズとか無視して激戦になる気がしますね。
きっとあんなUMAに蹴られるリヴァイアサンこと憐は無条件で泣く…。

ロベリアがマッドに…?
む、むぅ…精神は肉体に引きずられるって言うしな…。
でもロベリアだったら、ある程度まではマッド化に抵抗しそうです。
いや、彼女一応常識人ですからw

最初は洋介とカイラも入れるべきかと思ったのですが…諸々の事情により、諦めました。
と言うか…このまま放置しておくと、夢の中で修羅場?
透が夢に入ったら、いきなり女の戦いが…怖ッ!


12.悠真様
そんなにコネコりりぃがイイですかぃ。
ならばいずれ…うん、若返り薬でも飲んでもらいましょうかねぃ。
どうして自分に飲ませなかった、とミュリエル辺りが怒ったりw

遠征前から、ダウニーの雰囲気変わりましたからねぇ。
このまま最後まで行くのか、或いは再びギャグキャラに後戻りかw

ルビナスの発明に頼らなければならないって状況が、最大の忍耐って気はしますw


13.なな月様
リリカルなのはっつーと、トラハのアレですか?
あんまり知らないんですが…トラハはどれからプレイすべきか…。
喋る魔法の杖?
…某割烹着の悪魔ソックリのあの杖と違いますよね?

マジネタにしようと企んだりしたのですが…ここで彼に出てもらうと、ちょっとキャラクターが…今更ですけど。
物凄い10人は、本気で手に負えません。
ありゃームリっす。

ねこねこねこ、出ましたよー、なんか時間を越えて強迫観念が…。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze