side YOKOSIMA
「アホかぁぁぁぁぁ!」
凛が怒鳴り声と同時にどこからか取り出した巨大ハリセンを振るう。すかさず変わり身。
「ぐはぁぁぁぁ!」
スパァァァァン!といい音を出し、なぜか派手に吹き飛ぶ衛宮士郎。
「いきなり何をするの凛。何が不満か知らないけど暴力はいけないと思うよ。衛宮が飛んでいったじゃない」
「やかましい!それはあんたが身代わりにしたからでしょうが!というか、どうせ効かないんだから素直に食らっときなさいよ!」
「いやいやそうとは限らないよ。ハリセンは漫才における一つの到達点。いわば突っ込みの概念の結晶。万が一その概念が通用した場合、私が間抜けに飛ばされることのなっちゃうからね。そんなのはごめんよ」
「そんな訳あるかー!」
ウガーと吼える美少女一匹。さっきまでのシリアス風味はすっかり消えうせ、今現在この部屋はギャグ空間へと変移していた。
「大体さっきのが最後の一個で戻れなくなったってどういうことよーーー!?」
「言葉の通り」
無用に大きな胸を張り、ふんぞり返ってみる。その突き出た部分を見て、さらに敵意を燃え上がらせた視線をよこす極一部発育不良小娘。
「ふんぞり返って冷静に返すなそんな事!」
まあ、状況は今聞いた次第。効力を確認した凛ちゃんに戻れといわれたのだが、さっきのが最後の一個で現在は不可能だと返したら数秒後に噴火した。
家の修理に一つ、学校で一つ、衛宮に一つ、さっきの戦闘で六つ、さっきで一つ。合計十個。今現在の能力で大体一日五個生成可能なので二日目の段階で十ちょうど。つまり打ち止めだ。
「無問題無問題。この姿でも戦闘能力は変わらないし」
筋力、速度、硬度は下方修正されるが、柔軟性と何より霊波制御効率が段違いに上がっている為、総合戦闘力はプラスマイナスゼロとでる。
「そういう問題じゃない!何無駄なことにそんな貴重品の、あまつさえ最後の一個を使いやがったのかって聞いてるのよ!」
「………ノリと勢い?」
「……………#!」
ガンドガンドガンドガンドガンド
「痛てててて痛ててて!」
衛宮
つるべ打ちに打ち込まれる魔弾の雨を手近な盾で華麗に回避。ガンバレ衛宮。女を守るのは男の役目だ。
何はともあれ、もともとギャグ属性の癖にここのところシリアスばっかりやってたから、いい加減シリアスに飽きたのでここぞとばかりに遊び倒す。
「ああ!シロウ!」
ここでセイバー参加。さっきのハリセンは突発的な頭痛が襲ったらしく、頭を抱えて突っ伏していたので見ていなかったらしい。
衛宮に駆け寄るセイバーを横目になお続く魔術弾を、
「いや、凛。他人の家でさすがにこれはどうかと」
避けて壁に穴を空けるわけにも行かず、仕方ないので生やした尻尾で全弾叩き落した。
「ってしっぽぉ!?」
「『装着型霊波刀戦闘形態タイプアニマルVer猫』。普通は簡単に『Ver猫娘』と呼んでるニャン♪」
手首を曲げ小首をかしげて可愛らしく鳴いてみる。胸の脂肪がぶるんと弾む。
頭頂部に耳型霊波刀二つ、両手両足に猫型栄光の手装着、それから尻尾型霊波刀二本。合計八本の形態変化霊波刀を同時使用するという瞠目すべき技術力と制御力を、力いっぱい精一杯間違った明後日の方に持っていった代物だ。その制御の難度から、使用中は他の能力を満足に使うことができず、更に実戦で使うには術式硬度が足りない、どこが戦闘形態なんだというまったく意味の無い技である。用途としては主に宴会での一発芸だった。
ちなみに名前が長いことにも意味はまったく無い。
「くぅ」
それに、体の一部分を注視し悔しそうに凛がうめき、右手をポケットに突っ込み、
「って待て待て待った!さすがにそれはどうだろうというかさすがにまずいぞ遠坂凛!?こんなことで奥の手切ろうとするなぁ!?」
取り出したのは大粒の宝石一つ。しかも昨日見せてもらった十年物の奥の手のやつだった。その含有魔力量は一撃で私を殺せる威力を持っている。
本気で洒落にならない。からかい過ぎたかな?
とにかく全力で飛び出し掌ごと宝石をつかむ。ふ、こうすれば撃てまい。
「って、あなた達は先ほどから何をやっているのですか!」
ずこん!
「うごぇ!」
横合いから例の見えない得物で殴り飛ばされ跳ね飛ばされ、少女にあるまじき悲鳴を上げながら成す術も無く吹き飛ぶ私。いや、セイバー。いくら剣の腹でも宝具で殴るのは勘弁願いたい。というか躊躇無くそれを振るうということは、つまりは君もこの間抜け空間に少しは染まっているということでOK?
「………え………あれ?」
「まったく!」
腰に手を当て憤然と見下ろしてくるセイバーと、その隣で戸惑っているように視線を行き来させている凛。そこに向けてビシッ!とサムズアップ。
そうして、唐突に始まったギャグ空間は終わりを迎えた。
取りあえず、衛宮に掛かったガンドの呪いを霊波を流し込むことで無理やり押し流し、また先ほどの位置に座る。
「まったく。あなたたち二人は何を考えているのですか」
「シリアスばっかりだと気疲れするからね。私が。だから息抜きを」
「限度があるでしょう!」
「いやそれはちょっと違わない?」
セイバーのどこかずれた発言に突っ込む。
自分のやったことを思い出し自己嫌悪に陥っている凛。後遺症で顔色の悪い衛宮。まだ微妙におかしいセイバー。
まったく。あの程度で情けない。やはりシリアス気質にあれは酷だったか?
と、凛が顔を上げ、
「いったい今のあなたは何なの?ずいぶん性格が違うみたいだけど」
「やっぱりその質問がくると思った。まあ結論から言えば『私』は『俺』の女性意識なの。体が『俺』から『私』に変わったことで意識や思考は肉体にひきずられる。今の私は精神的にもほとんど女性なのよ。あ、それから性格は基本的に変化してないはずよ」
その言葉に、凛は何と言うか、絶望的な顔をした。失礼な。
「まあ、戦闘時とかはシリアス通すと思うから大丈夫よ。確約できないけど」
「いや、えっとまあもういいか」
ひどく疲れた声で頷き、
「それで、本当にどうするの、バーサーカー?本気でそのままの格好でいる気なの?」
「いえ、もう少し経てば一つ分くらいは溜まるよ。それで戻れば………」
「………え?あ、そうか。そう言えば能力って言ってたわね」
「ええ。あと、三時間弱で作れるはずだから、それまでの辛抱ね」
目の前の新たに煎れられたお茶をずぞぞぞと飲み干し、ほぅと一息。お茶請けのどら焼きも食べたし、さて、どうしようか?
そんなことを考えていると、
「そう言えばあの文珠って、売ったらいくら位になるのかしら?」
「いや待て小娘」
仮にも魔術師、裏の人間の端くれとしてその思考は間違ってない?
「聖杯戦争終わったら時計塔――魔術師の学校かな?――に行って研究しようと思っているの。作り出せるなら経済的に困ったら考えてみようかなと思って」
………その危険性を分かっている上で言ってるってのが、ね。まあ冗談なんだろうけどさ。なら乗ってみようか。本気で検討されそうで怖いけど。
「私に売ってくれって言ってきた時は大体一千万だったわよ」
「一千万円!?安すぎじゃない!何考えてたのよその人?」
「いえ一千万ドル」
日本円で十数億。一生遊んで暮らせる金額ね。まあ、権力者なんかには金詰まれても売らなかったし、必要性を感じたら無償で使ったけどね。
「………………………」
「………?」
反応が無いことが不思議で、凛の方に顔を向けると、
「うおわっ!」
目がドル色に輝いていやがりました。この反応までもと雇い主と似通っている。まあ、彼女もただのポーズだったんだけど。
というか、本気で美神さんの転生体じゃなかろうか、彼女?赤いし。人使い荒いし。
まあ、それはありあえない、か。魂ごと分解された彼女が、転生できるはずも無いし。
とうに割り切ったはずの事柄が頭を掠め、女々しい奴だと苦笑する。と、
「って、冗談はさて置いて、そろそろお暇しようかしら」
あっさりと平素の顔に戻り、凛が立ち上がった。
それに衛宮が青白い顔を上げて、
「あ、遠坂。帰るのか?」
「ええ。もう夜も遅いし。それじゃあまたあとでね、士郎」
「あ、送る………」
「必要はないわ。バーサーカーがいるし。あなたは取りあえずセイバーともっと話し合って必要事項を確認して、それから十分に休んで体調を回復させなさい」
立ち上がりかけた衛宮を制し、さっさと居間を出て行く。
自分の攻撃だったくせしてのその言い草に苦笑して、続いて出ようと立ち上がり、
「…………?」
衛宮が頭を傾げているのを見つけ、わずかに苦笑をもらす。
どうやらさっきの会話に違和感を感じているらしいが、それが何かはわからないみたいだ。
観察力が足りないわね。
で、帰り道。
「凛。少し謝りたい事があるんだけど」
衛宮邸を出てすぐ凛と合流し、帰り道の途中で思い出して謝った。
「?突然なに?バーサーカー?」
「いえ、召喚された時に、私はキャスターに当たらないといった事です」
「………?………あぁ。そんなことも有ったわね」
ようやく思い出したという風にぽんと手を打ち、
「そんな些細なことを謝るなんて、案外律儀なのね、バーサーカーは」
「いや、そんな訳じゃないんだけどね」
勘違いに苦笑して、まあいいかと思う。
失言は早めに謝るべし。これは美神さんの丁稚時代の経験だ。先に気付かれるとねちねちといたぶられることになるから。
というか、妻だった相手を呼ぶのに苗字ってどうなんだろう。まあ、美神さんと呼んでた時間の方が圧倒的に長かったからなんだろうけど。
そのまましばらく歩き、
「そう言えばバーサーカー?」
凛が聞いてきた。
「なにか?」
疑問系の言葉だけど、ほぼ確信の響きを込めて、
「もしかしてと思うんだけど、あなたの宝具って………」
「ああ、気付いたみたいね。そう。私の宝具は凛が思った通りの代物よ」
正解にたどり着いていることをラインを通じて確認し、満足して頷く。
「やっぱり、あれは試し?あなたが本当に意味の無いことをするとは思えないし」
「半分はね。息抜きも本当だけど。まあ、気付かなければそのまま黙ってたけど」
別に非難されるいわれは無いし、彼女もしないだろう。
「つくづくあなたって常識外のサーヴァントね。もう驚くことにも疲れたわ」
予想通りそう言って苦笑したあと、凛は、
「それで、七つ?」
そう予想外の言葉を言った。
それに本気で驚き、
「そっちまで気付いたの!?」
「そう言うってことは当たり?」
幾分か嬉しそうに言った。
「え、ええそう。たぶん想像とは違うでしょうけど。それにしてもよく気付いたわね」
本気の賞賛の意味を込めて言う。こっちは何のヒントも無かったんだけど。
「それをする利点を考えたら自ずと、ね」
「はぁ、まったくもって優秀ね。さすが最高の魔術師」
拍手を送りつつ凛の評価を更に上方修正。
そのついでに自分の宝具について説明する。使用条件からその効果まで全てを。
ほぼ予想通りでも、聞き終えた凛はやっぱり驚いたらしい。
その後は、特に裏の無い雑談に興じつつ凛の家に普通に戻った。
no side in dragon shrine
龍神族の王城。その深部の一室である鏡映の間。
そこには現在四人分の人影があった。
女性が三人に男性が一人。
女性三人は床に埋め込まれている大鏡に見入り、その横で男性が書類の束を読んでいた。
「ほう、さすがは音に聞く横島忠夫ということか。私の予想外のことを平気で行うとはの」
赤い髪をなびかせ、背に炎の翼を背負っている少女が面白そうに笑う。
「むぅ。それは封印って言ったじゃないですか。まったく………うらやましくなんか無いもん、はぁ」
最後にボソッと付け加えた女性が、自分の胸を見下ろし暗澹とした表情で溜息を吐いた。
その横では無言で最後の一人が鏡から一時も視線を外さず見入っている。
「なるほど、のう」
そんな中、この城の主、竜神大王・凱天剛金龍(以下天竜)が書類を見ながら頷いた。
「?どうしたですか?凱天?」
小首を傾げてその妻、翠蝶姫(以下パピリオ)が鏡から顔を上げ尋ねた。
「いやな、今横島が参加している冬木の聖杯戦争とやらが、どういう物かを調べさせたんじゃが………」
「?何か問題でもあったんですか?」
「ほれ、ここ。この部分を見てみぃ」
そう言って天竜は読んでいた書類を広げてその一点を指し示した。
「えっとなになに………。………!」
その部分に目を通すうちに、パピリオの顔色がどんどん悪くなっていく。
その姿を後ろから見ていた少女二人が、怪訝そうに問い掛けた。
「どうかしたんですか、凱天父さま?」
「何ぞ、あったのかえ?」
最初に問い掛けたのがパピリオとの娘、次女の蛍鱗姫であり、次が鳥系神族の女性である夜十月姫との娘、長女の紅凰皇姫である。
ちなみにパピリオが正妻で夜十月が側室である念のため。
「ああ、紅凰それと蛍鱗。二人にも関係する可能性がある。そこで耳だけこちらに向けておれ」
天竜がそう言うと大人しく二人は座り、また地面に埋め込まれた鏡面、そこに映る人界を見つめだした。
その数瞬後、
「しょ、正気ですか宇宙意思!?こんな危険な状態でヨコシマを………」
それまで一心に書面を読んでいたパピリオの声が響いた。
<後書きですたぶん>
どもです。
ようやく十話目です
今回なんか筆が進むのが早かったです。
徹夜明けでテンパッてるんでしょうか?
なんか今回凛が変です。というか変な風にはっちゃけてます。
まあ、ギャグだということで。
これって壊れ表記必要ですか?
横島の宝具の描写はありませんが、気付く人は気付くんじゃないかと思います。
横島の宝具に関しては最初からこれに決めてましたし、使うところも決めてます。取りあえずは一度だけ。
最後の天竜とパピリオの会話はもうちょっと長くして、ラスボスの複線を入れようと思ったんですけど、書いてたらほぼそのものズバリが入っちゃったので封印です
最後に近くなったらまたいれようと思います。
途中の猫娘は思いついたから入れてみました。特に意味はありません
一応そろそろ大体の複線が張り終えそうな感じです。
回収し切れるかは微妙ですけど
誤字、脱字、設定の不備、あと明らかにおかしいところなどがあればご指摘ください
ではレス返しをば
○1さま
情報、ありがとうございます。
ハルペーってそういうものなんですね
こちらでも調べてみましたけど、どうやらもともと剣の形状名らしいです
○なまけものさま
すみません。女性化横島は次回、もしくはその次までで終わりです
あまり出ずっぱでもまずいと思いまして
でも後半でも登場予定ですので。あくまで予定ですけど。
デモベ世界は戦い自体が無かった世界です。
ここのナイアさんはただの愉快犯的な行動ばっかりしているお姉さんです。
アリスンに暴漢向かわせて九朗に助けさせて白馬の王子様演出してみたりとか。
でなければさっちゃんキーやんと暢気に話なんてできないだろうし。
○ながれさま
三柱の会話を誉めていただいてありがとうございます。
個人的にもあの場面は気に入っていたりします
○もっきんぐばーどさま
はい、ずっと女性化はさすがにありえないと思いますんで、すぐ終わります。
別に女性化である必要は無かったんですけど、複線として解りやすいかと思いこれにしました
いや、ネタを使いたかったって言うのも有りますが
○クーロンさま
あれ?乖離剣ってホロウの最後で全力起動しませんでしたっけ?私の勘違いでしょうか?
九朗は全員に手を出してるんで修羅場は自業自得です。
ちなみにエンネアとアリスンにまで手を出してる鬼畜ちゃんです
ルートはそれ以前の戦いから立ち消えてますんで。
○蝦蟇口咬平さま
使用許可ありがとうございます。
これでようやく本編内で横島がどういう存在かを話せる相手ができました。
士郎に関しては結局英霊になるような奴ですんで、口で言っても実際は素直に従わないと思っています
なもんで一度どこかでそれっぽいのを入れようと思ってます
ではでは