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「宇宙への道第9話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-10-27 21:22/2006-11-19 08:15)
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(12月19日午前4時35分、「ステルヴィア」近辺宙域)

「南天の宇宙に青い輝きですか」

「あれが(セカンドウェーブ)の光か」

「見た目は綺麗でも、あれをまともに食らったら人類は終わりよ」

「そうね。あれには多くの隕石が含まれているから」

織原司令の指示で、決められた宙域に「ビック4」の面々と待機を続けていた俺は、太陽系に到着した「セカンドウェーブ」の光を眺めていた。

「接触まであと1分を切った。そろそろ準備をしようか」

通信機にケント先輩からの迎撃準備命令が入り、俺や「ビック4」の他の3人は準備を始める。

「そうだな」

「かまわなくてよ」

「厚木君、大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」

「では、作戦を伝える。僕達4人で(グレートウォール)の突破が予想される隕石群の破壊をするので、厚木君は後方で撃ち漏らしを片付けてくれ」

「ケント先輩、撃ち漏らしなんてあるんですか?」

「わざと残してやるさ。退屈だと可哀想だからな」

「笙人先輩、わざと撃ち漏らした時と、本当に撃ち漏らした時の違いを教えてください」

「気持ちの持ちようだな」

「了解です」

ジョーク交じりの質問で、俺が予想以上に緊張していないと理解した笙人先輩は、安心したような声で答える。

「ケント、(セカンドウェーブ)接触まであと10秒よ」

「9、8、7、6、5、4、3、2、1、接触!」

通信機に「セカンドウェーブ」到達の報告が流れ、全オーバビス隊が臨戦態勢に入る。

「何て綺麗なんだろう・・・・・・」

「ビアンカマックス」に設置された外部モニターで外の様子を見ると、「グレートウォール」と「セカンドウェーブ」の接触によって地球圏全体に光が広がり、目の前に幻想的な光景を映し出していた。

「衝撃吸収率は100%です。作戦成功!」

「とりあえず、第一段階は成功だな」

しかし俺達が安堵していると、突然大きな衝撃波に襲われる。

「(グレートウォール)は健在なれど、突破オブジェクトが多数あり!全オーバビス編隊は、これより迎撃体制に移れ!」

「厚木君、おいでなすったよ」

「ちゃんと付いて来いよ」

「迷子にならないでね」

「行くわよ!」

「了解です!(しーぽんと光太は大丈夫かな?)」

俺が他の場所に配置されている仲間の事を考えている間に、「ステルヴィア」の総司令部から迎撃命令が下り、オーバビス編隊全機による隕石群の迎撃が始まるのであった。


オーバビス隊による迎撃が始まったその時、みんなは指定されたシェルター内に避難していた。

「(グレートウォール)を突破した隕石への攻撃が始まったよ」

「またメインサーバーにアクセス?今度ばれたら退学ものだぞ」

「かなり突破されてるなぁ」

通常ならわからないであろう最新情報を、メインサーバーに不正アクセスして集めている大に晶が咎めていたが、大はそのような事を気にする男ではなかった。

「それで、大丈夫なんだろうな?」

ピエールは心配になってきたのか、大に質問をしている。

「隕石の大半は小さいし、バリアーに当たって減速しているから、今のところはオーバビス隊で完全に対応できているみたいだね」

自分の端末の画面を眺めながら、大はいつものようにノホホンと返事をする。

「それなら良いんだけど・・・」

「ピエールは、心配性なんだから」

「普通は心配するだろうが!」

「しーぽんと光太と孝一郎は、もっと危険な場所で頑張っているのよ!泣き言を言わない!」

「そうね。私達は少しくらい大丈夫だけど、3人は隕石の当たり所が悪ければ大変な事になるし・・・」

「そうよ。ピエールは、度胸が無さ過ぎ!」

「すいません・・・」

アリサとお嬢とりんなに反論されたピエールは、大人しくなってしまう。

「あれ?しーぽんの(ビアンカ)が損傷した?」

「「「「「何ぃーーー!」」」」」

「ちょっと!よこせ!」

「私に見せないさいよ!」

「押さないでよーーー!」

急に入った情報のせいで、全員が大の携帯端末を取り合って大騒ぎになってしまうのであった。


「しーぽんが被弾?」

「厚木、小さいのが1つ行ったぞ!」

「了解です!」

ちょうど同じ頃、「ビアンカマックス」の情報リンクシステムにも、しーぽんの「ビアンカ」が損傷したという報告が入っていた。
これは、通常の通信システムとは別系統で組まれていて、格納庫で待機している御剣先輩が情報を送ってくれたらしい。

「片瀬君が被弾したのかい?」

「ええ。損傷軽微で怪我も無いそうですけど、念のために引き揚げたそうです」

俺はケント先輩の質問に答えながら、最小出力でビーム砲を発射して隕石を破壊していた。

「予科生ですからね。こんなものでしょう」

「私も予科生ですけどね。町田先輩」

「厚木君は大丈夫なんでしょう?」

「さあ、一秒先は闇ですからね。もっとも、本科生も正規のパイロットもその事に変わりはないと思いますけど」

「あなたの言う通りね」

「厚木君、また隕石が行ったよ」

「了解です!」

最近、ケント先輩と仲が良くなったのと反比例して、俺と町田先輩の仲が厳しくなっていた。
元々それほど接触も無かったのだが、今では冷戦状態になってしまっていたのだ。
彼女は表面上は上手くやっているつもりで、俺もそれに乗っているつもりなのだが、一部の予科生に対してのキツイ発言や視線が目立つようになり、それに俺が静かに反論するという状態がここ数日続いていた。

「(先輩なんだから、しーぽんが被弾したら心配くらいすれば良いのに・・・。ライバルが  ミスをしたから、喜んでいるのか?)」

ケント先輩は、俺と町田先輩の間が険悪にならないように、俺に隕石の撃破を命じてくれたらしい。
指示通りに小さな隕石を撃破してから、しーぽんの情報を集める事にする。

「推進器を破壊された(ケイティー)を助けるために、間に割って重力波発生装置付きミサイルを発射するも、射程距離が足らずに(ビアンカ)本体に被弾か。でも、(ケイティー)への隕石の直撃を避けたようだな。よくやったな。しーぽん」

「片瀬君もやるじゃないか」

「そうだな」

「上出来よ」

「そうかしら?片瀬さん1人のせいで、予科生とはいえ(ステルヴィア)近辺のジェネレーターを守る2機の(ビアンカ)が減ってしまったのよ。これは大きな損失だわ。(グレートミッション)成功のためには、あの(ケイティー)は見捨てるべきだったのよ」

「初佳!」

ケント先輩は町田先輩を咎めているようだが、俺は反論する気など全く無かった。
今の町田先輩を相手にしても無駄だと思ったからだ。

「笙人先輩、隕石大1つと小2つ接近中です」

「俺とナジィでやるか。厚木も付いて来い!」

「「了解!」」

俺は町田先輩を放置して、笙人先輩とナジマ先輩に付いて隕石の迎撃に向かった。

「初佳、君は最近おかしいぞ。厚木君を怒らせて何になるんだ」

「別に、彼は怒っていないわよ」

「それは、彼が我慢したからだ」

「そうなの。気が付かなかったわ」

「初佳・・・・・・」

「新しい隕石よ。迎撃に向かうわ」

初佳は、ケントを無視して隕石の迎撃に向かってしまう。

「初佳、君は最近どうしてしまったんだ?」

「(今年の予科生は優秀過ぎる。厚木孝一郎、片瀬志麻、音山光太、風祭りんな。そして、藤沢やよいも・・・・・・)」

町田初佳は、レーザー砲で隕石を破壊していたのだが、彼女にはそれが隕石に見えておらず、先の5人の顔に見えていた。
飛び級をして天才と呼ばれていた町田初佳の自信は、現在崩壊の危機を迎えていた。


「これで、ちょうど50個目だ!」

しーぽんが途中で離脱するというアクシデントはあったが、オーバビス隊による隕石の破壊は順調に進んでいて、バリアーの内部で特に大きな被害を受けた場所は存在しなかった。

「これなら行けそうですね」

「そうかしら・・・?」

「ナジマ先輩、どうしたんですか?」

「あれを見てごらんなさい」

ナジマ先輩に教えられたポイントを見ると、「グレートウォール」から巨大な隕石が頭を出していて、少しずつバリアーを突き破りながら、その姿を現していく姿が確認できた。

「大きい!」

「ケント先輩!」

「推定で直径100kmだそうだ・・・」

ケント先輩が、情報リンクシステムの緊急通信を見ながら困ったような声をあげる。

「あれを破壊するんですか?」

「ああ。やらねばならない」

「何しろ地球への直撃コースを取っているからな」

笙人先輩の一言で、全員の心の中に絶望感が広がりつつあった。


「とにかく破壊命令が出ている以上、全機でこれを攻撃するのみだ」

「「「「了解!」」」」

4機の「ケイティー」と1機の「ビアンカマックス」で巨大な隕石に取り付くと、「ビック4」の面々は射撃を開始するのだが、目標が大き過ぎて「焼け石に水」といった感じであった。

「よし!大型ビーム砲の出力を最大にして!」

「待つんだ!厚木君!」

「どうしてですか?こいつなら、ひょっとしたら!」

「だから待つんだ。今、ナジィと共同でこの隕石の解析を行っている。もしかしたら、亀裂などがあって、そこを射撃すれば割れるかもしれない。君の大型ビーム砲が切り札である以上、無駄撃ちは禁止する」

「了解です」

俺はケント先輩が伊達に「ビック4」のリーダーを勤めていない事を確認しつつも、格納庫にいる御剣先輩に連絡を取って、巨大隕石の解析を依頼していた。

「(ビアンカマックス)の探知機器の情報を解析して貰っている。もう少し待ってくれないか」

「まだ、衝突まで少しありますから大丈夫です」

「しかし、困った事になった。隕石本体もさることながら、(グレートウォール)に開けられた穴が大き過ぎてバランスが崩れそうになっているし、あの穴から大量の隕石が侵入して、ジェネレータへの被害も増加している。このままでは・・・」

もし笙人先輩の言う事が真実になったら、地球は「ファーストウェーブ」を超える被害を受け、「グレートウォール」が崩壊すれば、「ステルヴィア」もコロニー群も月の地下都市もただでは済まないであろう。
まさに、地球圏滅亡のシナリオが現実味を帯びてきたのだ。

「とにかく、射撃を続行して少しでも隕石を削りつつ、情報の解析も同時進行で行う。厚木君は辛いだろうが、ビーム砲を温存しておいてくれ。その一撃が最後の手段になる可能性が高くなってきた」

「ケント先輩、安心して下さい。フルで一発。70%の出力で、もう一発撃てますよ」

「さすがだな。大舞台に慣れている」

「私は普通の人間ですよ。今度、緊張を紛らわす方法を伝授します」

「そいつはありがたいね」

「ぜひ教えて貰いたいものだ」

「シェイクスピアに勝るものなのかしら?」

「・・・・・・」

俺は絶望感を紛らわすために軽口を叩き続けながら、隕石の周りを飛び続けるのであった。


「本当にキリがないな。目標が巨大過ぎるのだ」

「ナジィ、亀裂は見つかったかい?」

「駄目ね。大きな物は存在しないわ」

「亀裂の場所や深さを解析して、一番効率良く割れそうな部分に連射で撃ち込むか・・・」

「それしかないわね」

「今は、少しでも被害を少なくする方法しかないのか・・・」

考えられる全ての手段を検討したが、今出撃しているオーバビスマシンで一番強大な火力を持っているのは自分であり、それを使用してもあの隕石の破壊は到底不可能であった。
ケント先輩は、ウィークポイントを見つけて隕石を割る事を目論んでいたが、下手をすると地球への被害が増大してしまう可能席も捨て切れなかった。

「ケント先輩、そろそろ決断しないと」

「厚木君、今から指定するポイントに・・・」

突然、コックピット内にアラーム音が響き、ディスプレイに「Order Shelter」の文字が表示される。

「何!退避命令?」

「どういう事なんでしょう?」

「とにかく命令だ!全機、退避!」

ケント先輩の命令で巨大隕石から離脱すると、他に取り付いていた全オーバビス隊が蜘蛛の子を散らすように隕石から離脱していく様子が見える。

「何か手段があるのか?」

俺が退避命令の真意について考えていると、「ステルヴィア」の方から巨大な高速物体の接近をキャッチした。

「うそ!あれは、(インフィニティー)!」

「孝一郎君、もう少し離れないと危ないよ」

「しーぽんか!」

「ステルヴィア」から出撃した「インフィニティー」のパイロットは、何としーぽんであった。

「そうだよ。光太君も乗っているの。(インフィニティー)の大型ビームキャノンで、あの隕石を吹き飛ばすから退避してね」

「わかった」

俺が高速で「ビアンカマックス」を巨大隕石の近くから退避させると、「インフィニティー」は、巨大なビームキャノンを構えて発射体制に入る。

「じゃあ、行くよーーー!」

しーぽんの可愛い合図で巨大なビームキャノンからビームが発射され、光の束が一直線に巨大隕石に命中し、巨大隕石は、眩いばかりの光を放ちながら爆散していく。

「やったーーー!成功だ!」

「隕石は破壊しました。細かい破片の処理はよろしく」

全オーバビス隊にしーぽんの声が流れ、エネルギーが空になったビームキャノンを捨てた「インフィニティー」は、巨大隕石が開けた穴を目指して飛行していく。

「片瀬さん達は、(グレートウォール)の穴を修復するみたいだな」

「(インフィニティー)に装備されているジェネレーターを利用するのね」

「俺達には、まだ破片の掃除という仕事が残っているぞ」

「そうね」

「では、行くとしますか」

ケント先輩達と隕石の攻撃に向かおうとすると、再び通信機に司令本部からの命令が入る。

「全オーバビス隊に緊急指令!巨大隕石の残った破片が地球への落下コースを取っている。大きさは直径2km近くもあり、数も2つ確認されている。対処可能な者は、速やかに破壊に向かう事」

「直径2kmでも、落ちたら大被害を受けるぞ」

「対処可能な者って、私ですよね」

「そうだ。厚木君、君が隕石を破壊するんだ」

「了解です」

「どうだい?2発目は、何%の出力で撃てるかな?」

「68%の出力です。その代わり、エネルギー切れで動けなくなりますけど」

「了解だ。あとで僕達が責任を持って回収する。それと、今から最低限の生命維持装置を除く全エネルギーをカットする事。少しでも2発目の威力を大きくしたいからね」

「わかりました。射撃ポイントへの移動はお任せしますよ」

「みんな。聞いたな?厚木機を牽引して、射撃ポイントに移動するぞ!」

「「「了解!」」」

「地球への被害を少なくできるのかは、俺の腕一本にかかっているのか・・・」

ケント先輩達は、俺の「ビアンカマックス」を牽引して、計算した射撃ポイントに急行するのであった。


(同時刻、片瀬志麻、音山光太視点)

「光太君、孝一郎くんが!」

「完全にバラけきらなかったんだ・・・」

「光太君、孝一郎君は大丈夫だよね?」

「勿論さ。孝一郎はちゃんと射撃に成功するから、僕達はバリアーを守るんだ」

「そうだね。絶対に大丈夫だよね」

「大丈夫さ」

2人はジェネレータに負荷がかかり温度が上昇している「インフィニティー」のコックピット内で、我慢比べをしながら友人の無事を祈り続けるのであった。


(同時刻、アリサ視点)

「孝一郎が無事に戻ってきますように・・・」

アリサが一生懸命に孝一郎の無事を祈っている横で、「インフィニティー」を送り出した迅雷やジョジョ達は、突如発生した緊急事態に驚きを隠せないでいた。

「厚木が失敗すれば、地球は大きな被害を受ける事になる」

「孝一郎なら大丈夫だよ。だって、私のライバルだもの」

「でもさ。破壊できるだけのビーム砲は持っているんだろう?」

「でも、エネルギーの関係で難しい局面になっている」

「どういう事なんだ?小田原」

情報をハッキングしている大と違って、最新情報が入って来ない迅雷が大に状況を質問している。
この際、不法アクセスかどうかは、関係ないらしい。

「えーとですね。(ビアンカマックス)があの大型ビーム砲をフルで撃てるのは一回のみな  んです。後は70%弱の出力で発射して、飛び散った破片を(ビック4)が片付けるのですが、孝一郎の(ビアンカマックス)は、エネルギー切れで動けなくなるので、下手をすると、自分の破壊した隕石の破片と、先ほど片瀬さん達が破壊した、巨大隕石の破片が激突する可能性があります。それに、射撃だって同じような位置にある隕石を2個ですから、2発目が間に合わないと機体に直撃する可能性もあるわけで・・・」

「大!言って良い事と悪い事があるぞ!」

「そうだぞ!物騒な予測をペラペラと喋るな!」

状況を正直に説明をした大が、ジョジョとピエールに責め立てられる。

「これは、あくまでも可能性だからさ」

「大!アリサとやよいの気持ちを考えてよ!」

晶の怒声でみんなが2人の視線を向けると、お嬢は神妙な顔つきをしていて、アリサは一言も喋らないで一心に祈りを続けていた。

「日頃は、なかなか見られないアリサだね」

「「「大!」」」

「悪かったですよ」

余計な事を言った大が、女性陣に総スカンを食らっていると、迅雷がこう言い始める。

「大丈夫だ!厚木はお前達よりも優秀だからな。ここにいる連中で勝てそうなのは、藤沢くらいじゃないのの?」

「事実とはいえ、酷いじゃないですかい」

「何がですかいだ!ジョーンズは、厚木を見習って勉強しろ!」

「やよい、大丈夫か?」

「大丈夫よ。孝一郎君はきっと無事に戻ってくるから」

「しかし、あいつも罪な男だよな。こんなに女性を心配させて」

「そうね。アリサもしーぽんも。そして、私も・・・」

お嬢は、先ほどから一言も発しないで一心不乱に祈り続けているアリサを見つめながら、自分も孝一郎の無事を祈り始めるのであった。


「厚木君、もう少しでポイントに到着するよ」

「操作手順確認!作戦内容確認!行けますよ!」

「計算では、到着後1分以内に1発目を撃たないと2発目が間に合わないわ」

「緊急連射モードで行けば、何とかなりますよ」

「そんなモードがあったのかい?」

「いいえ。大型レーザー砲の砲身が爆発するリスクを背負って、すぐに2発目の準備を始めます」

本当は最大出力で発射するので、少し冷却しないといけないのだが、状況的に見てそれは不可能であろう。

「すまないね・・・」

「運命ですから。では!」

俺が通信を切ると同時に「ビアンカマックス」は牽引を解かれ、即座に主動力を緊急作動させて、大型レーザー砲の発射準備を始める。
勿論出力は最大にセットする事になる。

「目標、前方大き目の隕石!・・・・・・。直径2kmでもデカイな・・・」

心を落ち着かせながら、2つ並んだ隕石の片方に照準を合わせ、大型レーザー砲のエネルギーが溜まるのを待ち始める。

「わずか20秒がこんなに長いとは・・・」

コックピット内のディスプレイに表示された、大型レーザー砲のエネルギーゲージの上昇を眺めながら満タンになるのを待っていると、ほぼ予定通りの時間に発射可能となった。

「まずは1発目だ。これを外したらシャレにならないよな。大型レーザー砲!発射!」

トリガーを引くと、発射されたレーザーは隕石のほぼ中心部に突き刺さり、隕石は粉々に砕けた。

「どうやら、無事に砕けたようだな。よし!次!」

自動冷却モードの画面をすっ飛ばして、次の射撃の準備を開始するのだが、既に隕石はかなり近くまで接近していた。

「間に合うのか?」

今度は迫り来る隕石と、ディスプレイのエネルギーゲージの上昇を交互に眺めながら発射タイミングを待っていると、ゲージの上昇がストップする。

「68.7%か。これで本当にエネルギー切れだな。2発目も発射だ!」

ほぼ目前に近い距離にまで接近した隕石にレーザーが突き刺さり、隕石は眩い光を発しながら砕けていく。だが、30%のエネルギー不足のためにかなり大きい破片が残っているようだ。

「(ビアンカマックス)はエネルギー切れのために動かず。自分で砕いた隕石と衝突する可能性もあるのか・・・」

生命維持装置とコックピット内の計器しか働いていない「ビアンカマックス」の中で、俺は運を天に任せていた。
あとは砕けた破片の処理を「ビック4」が成功させるだけなのだが、彼らが俺を見捨てたり「ビアンカマックス」に激突するのを防げなかったら、地球滅亡は防げても厚木孝一郎は死んでしまう可能性が高かった。

「笙人、その隕石は厚木機と衝突コースに入っている。破壊しろ!」

「心得た」

「初佳、行ったわよ」

「任せて」

自分で破壊した隕石の破片との衝突は避けられたようだが、先にしーぽんと光太が破壊した巨大隕石の破片が予想以上に多いようで、動力が止まった俺の「ビアンカマックス」はその流れに巻き込まれているらしい。
たまに小さな隕石の破片が「ビアンカマックス」の機体を叩き、衝撃と激突音が俺の恐怖心を少しずつ増大させる。

「やっぱり、アリサに告白しておくべきだった」

「厚木君!一つ破壊が間に合わない隕石がある!何とかならないか?」

「えーーーっ!」

非常電源を入れて「ビアンカマックス」のディスプレイを覗き込むと、小さ目ながらも自分への直撃コースを取っている隕石が確認できた。

「まずい!何か手は・・・」

俺は、非常電源の最後の残りカスのエネルギーを推進部に送り、重量のある大型ビーム砲の砲身を切り離して緊急回避を行う。

 「足りてくれ!エネルギーよ!」

完全なエネルギー不足で、もどかしいほどにゆっくりと動く「ビアンカマックス」にイライラするが、隕石の回避にはギリギリで成功する。

「厚木君、すまない」

「ケント先輩、親父さんに口添えをお願いしますよ。例の大型ビーム砲を切り離してしまいましたから」

「データは無事に取れたから問題無いと思うよ」

「それはどうも・・・。ふう、命拾いしたな・・・」

俺がそう呟いた瞬間、小さな隕石の破片が「ビアンカマックス」を叩く音と衝撃が止まり、通信機に大勢の人の喜びの声が入ってきた。

「厚木君、(セカンドウェーブ)が通り過ぎたそうだ」

「本当ですか?」

「片瀬君と音山君が凌ぎきったようだね」

「それで、こちらはどうなりました?ケント先輩が状況を教えてくれないから」

「すまないね。隕石の迎撃で忙しかったんだ。小さい物は仕方がないけど、大きな隕石は全て防げたよ。君は地球を救ったんだ」

「また随分と大げさな」

「みんなの関心は、(インフィニティー)にいってるようだけど、君は彼らに負けないくらい頑張ったさ」

「本当ですよね。超過手当てを貰いたいくらいですよ」

元々学生なのでそんなものは無かったのだが、安堵したせいで思わずジョークが出てしまう。

 「言えてるね」

「厚木は、まだ元気そうじゃないか」

「そうね。若いって素晴らしいわ」

「・・・・・・」

「じゃあ、僕達でまた牽引するから(ステルヴィア)に帰ろう」

「了解です」

「ビック4」の「ケイティー」に牽引されながら、宇宙を飛んでいると今までは緑色だった宇宙が赤く染まってゆく様子が確認できた。

「今度の宇宙は赤か・・・。アリサの髪の色だな・・・」

「厚木君、何か言ったかな?」

「いいえ。別に」

太陽系標準時西暦2356年12月19日14時13分、「セカンドウェーブ」の太陽系通過が確認され、全人類は滅亡の危機を脱する事に成功した。


 「ただいま!」

エネルギー切れの「ビアンカマックス」を格納庫に収容してからコックピットを降りると、御剣先輩以下5名の予科生とオースチン財団の技術者達が出迎えてくれた。

御剣先輩、結構派手に壊してしまいました」

「ああ。見た目だけだよ。小さい隕石の衝突で、装甲がベコベコになっているけど、バッテリーを交換すれば問題なく動くから」

「探知機器も結構壊れちゃいました」

「それも問題ない。ちゃんと役割を果たした後で壊れたんだから。データーも予想以上に集まって、我々も大満足だ。社長も喜んでくれると思う」

御剣先輩に続いて、技術者達の責任者が笑顔で答えてくれる。

「良かった。弁償しろとか言われたら、どうしようかと思いました」

「うちは太陽系で3本の指に入る財団なんだ。そんなケチくさい事は言わないよ。(インフィニティー)にも、(ビアンカマックス)にもちゃんと食い込んでいるから良い宣伝になったし、君は予科生ながらも限界まで性能を引き出してくれた。そして地球まで救ったんだ。これ以上の成果はないだろう」

「ありがとうございます」

「我々は残務が残っているし、御剣君も修理に取り掛からねばならない。祝賀パーティーは夜にあるようだから、君は先に報告などを済ませた方が良いぞ」

「それもそうですね。みなさん。こんな素晴らしい機体に乗せてくれてありがとうございました。御剣先輩にも感謝します」

俺はみんなにお礼を言ってから頭を下げる。

「厚木君、データ取りはまだ終わっていないから、これからも君が(ビアンカマックス)の専任パイロットなんだよ。これからもヨロシク」

「僕も整備担当のままさ。またヨロシクね」

「こちらこそ、よろしくおねがいします。では、失礼します」

俺が格納庫をあとにして、例の「インフィニティー」の置かれていた格納庫に向かうと、そこでは光太としーぽんを含むみんなが待ち構えていた。 

「厚木、よくやったな!俺は非常に感動している!」

「私はお前に付いてやれなかったから、無事でホッとしたぞ」

第一声は、迅雷先生とレイラ先生であった。

「それは良いんですけど、頑張った分は優でもくださいよ」

「それは残念ながら別物だな」

「(ビアンカ)の実習については考慮するさ」

「そのくらいの役得は許されますよね」

「孝一郎、やったじゃないか」

「同級生が、地球を救ったなんて凄いよな」

「そうそう。何かしーぽんと光太の方ばっかりクローズアップされているけど、孝一郎も凄いって」

ジョジョ、ピエール、大にも盛大な歓迎を受ける

結局「グレートミッション」での貢献度は、「インフィ二ティー」を操縦して巨大隕石を砕き、「グレートウォール」の穴を塞いだしーぽんと光太が一番とされ、これらの映像が全太陽系中に放映されていた。
そして、オースチン財団の意向で「ビアンカマックス」の存在は秘匿されて、俺の活躍は関係者のみが知るという事になっていた。

「俺は静かなのが良いし、別に目立ちたくもないから好都合だな」

「あの隕石は、(ケイティー)隊の集中砲火で破壊した事にするらしいよ」

「なるほどね。報道規制という奴か」

「そうみたいだよ」

「孝一郎!凄いじゃん!さすがは、私のライバルだ」

「孝一郎君・・・」

大と話をしていると、りんなちゃんとお嬢も声をかけてきた。

「ちょっとヤバイ局面があったけどね」

「孝一郎君が、無事に帰ってきて良かった」

「あのさ。アリサはどこにいるの?」

「アリサなら、あそこに・・・」

お嬢が指し示した方に、安堵の表情を浮かべているアリサがいた。

「(大きな仕事をやり遂げた俺が、好きな女に告白する。これで、いまいちグダグダだった関係が一気に解決するわけだ!)」

厚木孝一郎16歳(彼女いない歴年齢)は、過去に見た漫画やドラマを参考に、ケリの付いていなかった男女関係を解決しようと目論んでいた。
アリサへの告白をこの場で堂々と行い、しーぽんやお嬢の諦めを誘う。
いくら鈍い俺でも、3すくみというか3又と周りから呼ばれている事には気が付いていたので、その解決策を日々考えていたのだ。

「(俺とアリサが付き合うようになれば、しーぽんも次の恋を探すわけだから、光太が動きやすくなる。りんなちゃんもウルティマに帰ってしまうわけだし、親友である光太の援護になるわけだ。お嬢は・・・。まあ、お嬢は綺麗だし、スタイルも良いから彼氏なんてよりどりみどりだからな)」

独自の厚木論を頭の中で展開しつつ、俺はアリサに話しかける事にした。

「アリサ、厚木孝一郎は無事に戻りました」

「孝一郎・・・。良かった」

いつものような口調ではなく、アリサは目を潤ませながら俺を見つめている。

「(よーーーし!計画通りだ!あとは勇気を持って告白すれば!)アリサ、実は・・・」

ところが、俺が告白をしようとした瞬間、予想外の出来事が俺を襲った。

「孝一郎君!無事で良かった。私・・・、心配で心配で・・・」

「えっ!しーぽん?」

光太の隣にいた、パイロットスーツ姿のままのしーぽんが、急に駆け寄って来て俺に抱きついてきたのだ。

「私、孝一郎君が帰って来なかったらどうしようかと思ってた。だから、勇気を出して言うね。私、孝一郎君が好き!」

「「「えーーーーーーっ!」」」

しーぽんの突然の告白で、ジョジョ、大、ピエールが驚きの声をあげる。

「(でも、これでやよいさんの気持ちが宙ぶらりんになるわけで・・・)」

「(ピエールにとっては、チャンスなのかな?)」

「(さて、お嬢とアリサはどう出るのかな?)」

だが、その直後に何かを企んでいるような目つきになったので、迅雷先生とレイラ先生の方に目を向ける。

「厚木、良かったじゃないか」

「片瀬も意外と大胆なんだな」

大して事情も知らない、2人の先生の感想はこんなものであった。

「やよい、どうするの?」

「ふふふ。これは戦争なのね・・・。そう、絶対に勝たなければならない戦争・・・。(アリサならともかく、しーぽんなら勝ち目ありね)」

「やよいが怖い・・・」

お嬢の隣では、晶が沸きあがるオーラに恐れおののいていた。

「あのさ。アリサ・・・」

俺は現状を打開しようと、目の前に接近してきたアリサに話しかける。

「孝一郎、良かったね」

「はえっ?」

「おめでとう。孝一郎としーぽんは、お似合いだと思うよ」

「それは、どういう?」

「私も孝一郎の事が好きだったけど、仕方が無いよね。でもこれからも大親友だからね」

「あの・・・。過去形にしないでください・・・」

「私、用事があるから」

「待って!」

突然の事で俺が動揺している間に、アリサは走り去ってしまった。

「これから、どうしようかな・・・?しかも、光太の殺気が・・・・・・」

しーぽんに抱き付かれたままの俺が光太の方に目を向けると、彼は通常では信じられないような怒りの表情で俺を見つめていた。

「孝一郎君、いくらアリサが親友でも、これだけは引けないの・・・。ごめんなさい」

「しーぽん、私もこれで引けなくなったわ。アリサが身を引いた以上、チャンスは生かさせて貰う」

「負けないよ。やよいちゃん」

「私もよ。しーぽん」

「何でこうなるの?」

こうして俺の作戦は計画倒れに終わり、アリサに告白するどころか身を引かれてしまうという、最悪の事態によって幕を閉じたのであった。
太陽系標準時西暦2356年12月19日15時47分の時点で既に太陽系は救われていたが、俺の心は全く救われていなかった。


「グレンノース君、どうしたんだい?」

御剣が「ビアンカマックス」の修理と整備を指揮していると、アリサが格納庫に姿を現した。
だが、その表情はとても暗いものであった。

「あの・・・。手伝える事はありませんか?」

「無い事もないけど・・・」

「手伝いますね」

「厚木君はどうしたんだい?」

「孝一郎は、しーぽんと仲良くやっていますよ」

「えっ?どうして?」

「だって、しーぽんは一途に孝一郎の事が好きだし・・・」

「悪いけど、ちょっとジュースを買うのを付き合ってくれ」

「ジュースですか?」

「僕は急にメッコールが飲みたくなった。ちょっと付き合ってくれ。みんな、僕はちょっと席を外すから」

御剣はアリサの手を引くと、自販機コーナーに向かって走り出すのであった。 


「それで、片瀬君におめでとうって言ってしまったのか・・・」

「大親友だし、あんなに一生懸命に頑張っているしーぽんから、孝一郎を奪えませんよ」

御剣は自販機コーナーでジュースを飲みながら、アリサに詳しい事情を聞いていた。

「でも、肝心なのは君の気持ちなんだよ」

「それは・・・・・・」

「グレンノース君は、自分が厚木君と不釣合いだと思っているのかな?」

「私は普通の予科生だけど、しーぽんは可愛くて成績優秀だし、お嬢もそうだし・・・」 

「そんな事は関係ないと思うし、何か厚木君が可哀想になってきた」

「孝一郎がですか?」

「本人には内緒にして貰いたいんだけど、彼、戻ったら、君に告白するつもりだったらしいよ。出撃前に、僕がいる事にも気が付かないで気合を入れていたし」 

「それ本当ですか?」

「ここで嘘を付いても、仕方がないでしょうが」

「そんな・・・。私・・・」

「今からでも間に合うと思うけど」

「私、行ってみます!」

「頑張ってねーーー」

御剣は、走り去るアリサに声援を送りながら、自販機に小銭を投入する。

「みんなにも買って帰るか。サスケとゲータレードとウィリーとサムライと・・・」

御剣の好きなジュースは、世間受けしないものばかりであった。


「孝一郎君、さっきの返事を聞かせて貰いたいの」

しーぽんの衝撃の告白から30分後、宇宙学園の校舎裏で、俺はしーぽんと2人きりで話をしていた。

「(やはり、亜美の事を話して素直に謝るしかないよな・・・)」

俺は、今までしーぽんに亜美の事を話せないでいた。
理由はとても簡単だ。
しーぽんに、俺が自分が死んだ妹の代替品として彼女に気を使っていたと思われてしまう事を恐れていたからだ。
俺のしーぽんに対する気持ちは非常に複雑だ。
しーぽんは大切な友人であるが、容姿の関係で妹の代わりに思ってしまう事も否定できない事実であり、「妹に似ているけど、全くの別人として接している」と断言できるほど、自分は偽善者でもなかった。
そしてこの事を話した事により、しーぽんが傷付いたり、俺を軽蔑する事を極端に恐れてもいたのだ。

「(だけど、話さないといけないんだよな。これを言えないと、次の段階に進まないんだ)」

俺は決意を決めてしーぽんに話しかける。

「実はこれを見て貰いたいんだ・・・」

「何の写真なの?」

「俺の死んだ妹の写真だ」

「初めて見せて貰うね」

「そうだね」

俺は、携帯端末に表示させた亜美の写真をしーぽんに見せた。

「あれ?これ、私の写真じゃ・・・。でも、こんな髪型にした事は・・・」

「初めてナスカの宇宙港で会った時には驚いたよ。死んだはずの亜美にそっくりなしーぽんが、目の前に立っているんだから。俺さ、実は後悔していたんだ。亜美との約束を守って金メダルなんて取って、普通なら大した男なんだろうけど、自分ではあまりそう思っていなかった。亜美は直接メダルを見れなかったからね。だから、目の前でしーぽんが失敗をして困っているのを放っておけなかった。しーぽんは俺の目の前にいて、自分が手を貸す事ができたのだから・・・。ごめんね、しーぽん。今まで黙っていて。俺はしーぽんの言うように、優しくなんてないんだよ。しーぽんを助けていたのは、俺の自己満足に過ぎなかったんだ・・・・・・」

俺が自分の心の内を語り始めると、目から涙が止まらなくなってきた。
オリンピックでメダルを取っても涙一つ流さなかった俺が前に泣いたのは、亜美が死んだ時であったので久しぶりの事であった。

「そうだったんだ。私・・・。孝一郎君の恋人にはなれないんだね。ごめんね。みんなの前であんな事をして・・・」

「違う!悪いのは俺なんだ。もっと早くに言っておけば・・・」

「ううん。そんな事は良いの。孝一郎君が私にとても親切にしてくれた事は事実だし、私はそんな孝一郎君が好きになった。だから、後悔はしてないよ」

「信じてくれとは言わないけど、亜美としーぽんはやっぱり別人だった。しーぽんは、俺のために(ビアンカマックス)のプログラムを組んでくれて、調整までしてくれた。俺にくっ付いてばかりでなく、自分の足でちゃんと立っている別人なんだ・・・。しーぽん、俺を助けてくれて本当にありがとう」

「ほほほ。これからは、私をお姉さんと呼びなさい」

「しーぽん・・・・・・」

俺には、しーぽんが無理をしている事がすぐに理解できた。
彼女は俺がこれ以上罪悪感を抱かないように、わざと明るく振舞ってくれているようだ。、

「それにね。これからも私達は親友だから。ああ、アリサに言わせると大親友だね」

「本当にすまない」

「だったら、教えてくれる?孝一郎君の本当に好きな人を」

「アリサだよ」

「やっぱり、そうなんだ。私、アリサに悪い事をしちゃったな。私はアリサにお世話になりっぱなしなのに、余計な事をしちゃって・・・」

「だから、ちゃんと告白しようと思うんだ。アリサに」

「それが良いよ」

「そうだね」

「だったら、ちゃんと言った方が良いわよ」

「お嬢!」

「それに、アリサ!」

俺達の目の前に、アリサの手を引いたお嬢が現れる。

「さっき、偶然にここの近くで会ったの。私としーぽんをふるんだから、ちゃんとアリサに告白をしなさい。わかった?孝一郎君」

「わかったよ。お嬢」

「やっぱり、私も駄目だったか・・・。じゃあ、行きましょうか。しーぽん」

「そうだね。フラれた者同士で仲良く帰りましょう。やよいちゃん」

しーぽんとお嬢は2人連れ立ってその場を立ち去った。


「しーぽんも私も、振られたか」

「私は妹のような友達に見られていて・・・」

「私はお姉さんのような友達って事か・・・」

2人はため息をつきながら、自分達を冷静に分析する。

「私なんてデートにも出かけたし、亡くなった妹さんがしーぽんに似ている事を、最初に知っていたのに・・・」

「だから、お姉さんなんだね」

「しーぽんも、言うようになったわね」

「よーーーし!決めた!さすがに、兄妹はまずいから今日の祝賀パーティーで良い人を探すぞぉーーー!」

「しーぽんには、光太君がいるじゃないの」

「光太君か・・・。やよいちゃんには、ピエールがいるしね」

「ピエール君か・・・。もう少し頼りがいがあればねぇ・・・」

「やよいちゃんは、モテモテだから大丈夫」

「そうかな?まあ、孝一郎君とアリサが破局した後を狙うという手もあるから」

「やよいちゃん、計算高いね」

「とりあえずは、今日のパーティーね」

「確か、クリスマスにもパーティーがあるんだよね」

「今年は色々とあったからね」

2人は夕暮れの校舎をゆっくりと歩いていた。


「はい。ハンカチ」

「ああ、悪いね」

俺は、先ほど流した涙をアリサに貰ったハンカチでそっと拭く。

「実は「あの・・・」・・・」

「どうぞ」

「そちらこそ。レディーファーストで」

「どうして私なの?私はしーぽんみたいに可愛くないし、お嬢みたいにスタイルも良くないし。それに、顔を合わせると口喧嘩ばかりだし・・・」

「だからなんだろうな」

「どういう事なの?」

「お互いにわかっているからこそ、言いたい事が言える関係というか、そんなところがね。それに、足のラインはなかなかですよ」

「孝一郎のスケベ!」

「男はみんなスケベなんだけどね」

「それで・・・?」

「だから・・・。本当は、帰ってすぐに言おうと思ったんだけどね・・・。何と言うか、アクシデントが発生してね・・・」

「だから?」

「ええい!言います!俺はアリサが好きです。付き合ってください」

「・・・・・・」

「駄目?振られた?」

「ううん。私も孝一郎が好きよ」

そう言うと、アリサは目を瞑った。

「実は経験ないけどね」

「そんな事は言わなくても良いの。私も無いわよ」

俺はアリサをそっと抱き寄せるて唇を重ねる。

「次はもうちょっと上手くやってね」

「上手くねえ。蓮先生にでも教わろうかな?」

「自分で研究しなさい!さあ、祝賀パーティーに行きましょう」

思いのほか時間が経っていたようで、「ステルヴィア」内部はいつの間にか暗くなっていて、既にパーティーが始まる時刻を過ぎていた。

「そうだな。でも、(ステルヴィア)って、パーティーが多いよね」

「孝一郎は大活躍をして主賓かもしれないから、早く行かないと」

「制服のままだけど、良いか」

「ホラホラ。急いで」

「わかったから、手を引っ張るなって」

俺はアリサに手を引かれながら、校舎裏をあとにするのであった。


「やあ、ただいま」

「遅かったね。アリサへの告白に手間取った?」

俺とアリサがパーティー会場に入ると、既にパーティーは大きな盛り上がりを見せていた。
織原校長とジェームズ教授は、「インフィニティー」のパイロットであるしーぽんと光太を盛大に紹介している。

「大は質問内容がストレートだな」

「みんな知ってるからさ」

「知ってるの?」

俺が周りを見渡すと、ジョジョ、ピエール、晶、りんなちゃん、お嬢、御剣先輩、古賀先輩、「ビック4」の面々が視線を反らす。

「別に隠し立てしないけどね」

「おお、そうか。良かったじゃないか」

ピエールが一番にお祝いを述べてくれたが、それはお嬢が晴れてフリーになった嬉しさも入っているのであろう。

「俺も頑張らないとな」

「ジョジョは栢山さんか」

「クリスマスが決戦だな」

「やっぱり、俺の予想通りじゃないか」

「古賀先輩、久しぶりですね・・・」

「俺の目は正しかったわけだ。なあ、御剣」

「僕は、初めは片瀬さんだと思ったんだけどな・・・」

「2人って知り合いなんですか?」

「同期だし、幼馴染なんだ」

「世間って狭いですね・・・」

「2人して努力して、俺は格好良いパイロット科に行き、御剣は地味な整備科に入ったんだ」

「僕は知的な整備科に行って、古賀が野蛮なパイロット科に行ったんだ」

「・・・・・・。(あんた達は、似た者同士だ・・・)」

「御剣先輩、ご忠告ありがとうございました」

「厚木君が落ち込むと、(ビアンカマックス)の性能を引き出せないからね」

「それでも、ありがとうございました」

アリサは、御剣先輩に何かのアドバイスを貰ったらしく、珍しく丁寧な言葉でお礼を述べていた。

「孝一郎、ちゃんと告白したんだって?」

先ほどまで壇上にいた光太としーぽんが、こちらにやって来る。

「ああ。ばっちりと上手く行きましたよ」

「それは良かったね」

光太もしーぽんがフリーになった影響で、今までに見た事が無いほどの嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「アリサ、おめでとう」

「しーぽん、ありがとう」

「私は、孝一郎君よりも格好良い人を探すから大丈夫よ。だから、気にしないでね」

「しーぽん・・・」

「とにかく、暗いのは禁止で行こう。アリサらしくないし」

そう言って、しーぽんはにこやかに笑みを浮かべる。

「そうだね。そろそろ、期末考査の事を考えないといけないけど、とりあえずは元気で行こう」

「光太、余計な事を思い出すなよ」

「そうだぞ。今は(グレートミッション)の成功を祝っていれば良いんだよ」

「ジョジョは、勉強した方が良いぞ」

「ちぇっ!ピエールはうるさいな」

「友人なればこその忠告さ」

「誰か勉強を教えてくれーーー!」

俺達もオーバビス隊のパイロット達も「ステルヴィア」の職員達も、いや全太陽系中の人が喜んでいる中で、パーティー会場の隅で1人だけ暗い情念を燃やしている人物がいた。

「(片瀬志麻、音山光太、厚木孝一郎。私が私であるために、ケリを付けなければならない。私は町田初佳なのだから・・・)」

その後、彼女が「ステルヴィア」を騒がす大事件を巻き起こす事に気が付いている人は、現時点で存在しなかった。


        あとがき

DVD借りて見直しています。
後半部分を書いたSSって少ないというか、無いから参考にできないし・・・。 

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