「どうして、音山光太が選出されたのですか?」
数日前、ケント・オースチンはジェームズ主任教授に、音山光太が「グレートミッション」の参加メンバーに選出された理由を問い質していた。
「音山君ではいけないのかね?」
「片瀬志麻や厚木孝一郎は理解できますが、彼は普通の予科生です。それならば、藤沢やよいの方が納得がいきます」
「そうか。君はそう考えるのだね」
「そう考えるのが普通だと思いますが・・・」
「君は彼の成績を見た事があるかね?」
「ええ。平均がランクCで、どこにでもいる普通の予科生です」
「彼は全ての教科がランクCなのだよ。平均がでは無い。どんなに難しい教科も簡単な教科もだ」
「偶然ではないですか?」
「では、これを見たまえ」
ジェームズは、ディスプレイに表示された画像をケントの方に向けた。
「これは・・・・・・」
「音山光太のビジョンだよ。君なら、このビジョンの凄さががわかるだろう」
「これが本当に音山光太のビジョンなんですか?」
「そうだよ。ちなみに、これが他の候補者たちのビジョンだ」
ジェームズが画面を切り替えると、映像が4分割される。
「片瀬志麻、厚木孝一郎、藤沢やよい、風祭りんなですか・・・」
「前の3人は、もう一年時間があったら良かったと思う事があるね。厚木君は半年かな?風祭君は2年くらいかもしれないが・・・」
ケントが画面を覗き込むと、音山光太に比べると少し粗が目立つビジョンが表示されていた。
「惜しいですね。特に、片瀬志麻と厚木孝一郎は・・・・・・」
「だから、特例で厚木孝一郎君も選出されたのだよ。本当は、音山光太君と片瀬志麻君だけだったのだ。彼をメンバーに加える過程で、織原校長は少し無理をしたようだね」
「(ビアンカマックス)の追加パーツと、新型の大型ビーム砲の事ですか?」
「君のお父上は、(ケイティー)の後継機の開発を目論んでいるようだね。お蔵入りのパーツをわざわざ引き出して、データ取りに余念がないようだ」
「私も最近知りました。兄もいい道化ですね」
厚木孝一郎を蹴落とすべく、稚拙ながらも色々と活動していた兄は、実は自分の父親の掌の上で踊っていて、本人はまだその事に気が付いていないのだ。
こんな道化もなかなか珍しい。
「それでも、データが集まれば彼の実績になる。君が強硬に跡を継ぐ事を拒否したものだから、お兄さんに跡を継がせるべく、密かにゲタを履かせているみたいだ」
「兄は、自分が悪巧みをしていると思っていますが・・・」
「彼がどう思うかではなくて、オースチン財団の連中がどう思うかなのだよ。(グレートミッション)が終了すれば、これからは、各惑星圏がそれぞれの思惑で動き出す。過去に無くなった事になっている紛争や戦争の可能性もある。それに、地球圏だって一枚岩ではない。(ファーストウェーブ)以降、日本に遅れを取っているアメリカ合衆国やヨーロッパ諸国、中国の動きも気になるところだ。確かに120年前に、日本は日本行政区にアメリカはアメリカ行政区になった。だが国が無くなったなどと考えるのは、早計と言うものだ」
リチャード・ジェームズ主任教授は、日頃は好々爺のイメージがあるのだが、こういう時に強かさを発揮する事が多かった。
「何とも救われない話ですね」
「自分で喋っていて、人類の罪深さを実感するよ」
「そして、あのデカブツロボットですか」
「将来的には、運用実験を行ってデータを送らねばなるまい。勿論貸しが一つできたので、それなりの物を請求させて貰うがね」
「そんな事を私に話して大丈夫ですか?」
「白銀君と君達(ビック4)には、将来の(ステルヴィア)を背負って貰わないといけないからね」
「そうですか。では、頑張らないといけませんね」
「そうそう。実は君の父上なのだが・・・」
「親父がどうかしましたか?」
「もう(ステルヴィア)に上がっているそうだ」
「相変わらずですね・・・」
「現場が好きな人だからね」
「という事は・・・・・・」
「厚木君と接触するのではないのかな?」
「父の人格に期待しましょう」
ケントは自分の父が、厚木孝一郎の自分に対する警戒心を解く事に期待するのであった。
「光太、隣に座っても良い?」
「ええと・・・・・・」
「光太君、私に遠慮する事なんてないのに」
「ははは。そうだよね・・・」
「光太、今日はAランチにする?それともBランチにする?」
あの事件の翌日から、りんなちゃんは時間があれば光太に引っ付いていた。
どうやら、極限状態で光太に救われた影響で、彼の事を本当に王子様だと思っているらしい。
しーぽんに気がある光太としては、距離を置いて欲しいところなのだが、りんなちゃんはまだ12歳なので強く言うわけにもいかず、可愛いりんなちゃんにくっ付かれるのも男としては悪くはないので、光太もそのままにせざるを得ないようだ。
「孝一郎、恨むよ・・・」
「俺?俺のどこが悪いんだ?」
「あの時に、りんなちゃんを助けたのが孝一郎なら・・・」
「俺の(ビアンカマックス)を病院送りにした光太が悪いと思う。損傷が少なければ、スピードが出せる(ビアンカマックス)で救助しただろうから」
「それは、そうなんだけど・・・・・・」
「(それにしても、光太も可哀想だな。しーぽんに思いっきり祝福されているし・・・)」
転校してきてからのりんなちゃんは、しーぽんとアリサの部屋に同居していたのだが、「女も3人寄ればかしましい」との言葉通りに全てを打ち明けあっているらしく、しーぽんとアリサは、りんなちゃんの初恋を応援しているらしい。
だがこれは、しーぽんの事が好きな光太にとっては、拷問のような仕打ちであった。
「だからさ。ジョジョを、孝一郎の部屋に受け入れるのを止めて欲しいんだ」
「それって、何の解決にもなっていないし、ジョジョが可哀想だろう」
まだ12歳で男女の事がよくわかっていないりんなちゃんは、暇があれば光太の部屋を訪問していて、気を利かせたジョジョがよく俺の部屋に退避していた。
そして、現時点で2人きりになってもゲームをするくらいが関の山だと思っている俺達は、2人きりにして生暖かく見守っていた。
「気を使っている、ジョジョの居場所を奪うのは感心しないな」
「だから、3人でも問題ないだろう!」
光太が珍しく大声をあげたので、食堂にいる全員が驚いたような表情で光太を見つめていた。
「光太、どうしたの?」
「あっ、いやっ。何でもないんだ」
「ふーん。早く食べてシミュレーションで勝負しよう。しーぽんも一緒にどう?」
「ごめんね。りんなちゃん。私、(ビアンカマックス)の調整があるから」
「そういえば、そうだったね。という事は、孝一郎も一緒なんだ」
「そうだよ。御剣先輩が勝手にパーツを追加するから、調整と整備が大変なんだよ」
あの事件のあと、御剣先輩による不許可改造のせいで「ビアンカマックス」は更に形状を変えていて、物凄く驚いてしまった事を思い出していた。
初見で、あれが元は「ビアンカ」である事に気が付く人は、皆無であろうと思われる。
「何か前よりも大きくなったよね」
「もはや、(ケイティー)とそれほど大きさが変わらないんだよ。性能は13%増しらしいけど」
「へえ。羨ましいな」
「でも、Gがまたキツくなった。どういう構造をしているんだろう?」
「孝一郎君、そろそろ時間だよ」
「そうだったな。アリサ!行くぞ!」
「任せなさい!」
「アリサもなの?」
「私は、御剣先輩の助手だから」
俺はしーぽんとアリサを連れて格納庫に向ったのだが、去り際に光太のやるせないような表情を目撃してしまうのであった。
「(ごめんな。光太。でも、お前がハッキリしないからでもあるんだぞ!)」
「やあ!厚木君、片瀬君、グレンノース君」
格納庫に到着した俺達を、無駄に元気な御剣先輩が待ち構えていた。
彼は「ビアンカマックス」さえあればご機嫌なので、あまり気にしない事にする。
「更に改良を加えたんだ。これで、(ケイティー)の15%増しの性能でGも少し緩和できるはずだ。だが・・・」
「だが、何です?」
「制御プログラムの完成度にかかっているんだよ。このプログラムは僕もお手上げでね」
「安心してください。私がちゃんと調整しますから」
「すまないね。片瀬君」
「孝一郎君のためですから!」
「僕のためではないんだね・・・」
しーぽんは御剣先輩を無視して、一心不乱にプログラムの改良作業に入る。
「さあ、グレンノース君と僕は、細かい部分の処理を行うとしようか」
「はい」
「丁寧にやってくれよ。この作業の出来で、0.5%の性能差が出るからね」
「頑張ります!」
「厚木君はコックピット内での調整作業の方を頼むよ」
「了解です」
性格はアレだが、整備士としては優秀な御剣先輩の指示で、それぞれが作業を開始する事にする。
「しーぽん、いつも本当にありがとう」
「孝一郎君も私を助けてくれるから、そのお礼かな?」
「光太も助けてくれるだろう?」
「うん、そうだね。だから、光太君がりんなちゃんと上手く行くと良いなって思っているんだ」
「ははは。そうだね・・・。(駄目だこりゃ)でも、しーぽんと光太って可能性は無いのかな?(俺って友達思いだよな)」
「えっ!私と光太君が?でも、光太君は友達としか思えないから」
「そうなんだ。(光太、ご愁傷様)」
「孝一郎君は、誰か好きな人はいないの?」
「えっ!」
俺は16歳になるまでに恋愛など一度もした事が無い男であったが、しーぽんが自分に好意を持っている事をかなり前から理解していた。
だが俺のしーぽんに対する気持ちは、年下の女友達兼妹のような存在であり、彼女の思いを受け入れるわけにはいかなかった。
それに、俺はいまだに亜美の事をしーぽんに話していなかったのだ。
こんな卑怯者の俺が、彼女の気持ちに答える資格は無かった(勿論、しーぽんに恋愛感情も無かったが・・・)。
「うーん。まだ、好きな人はいないな」
「そうなんだ」
「とりあえずは、(グレートミッション)の事が最優先だよ」
「そうだよね。人類が滅んじゃったら、好きな人どころじゃないよね」
「そういう事。そして(グレートミッション)後には、クリスマスという第二の戦場が待ち構えているのさ!」
「孝一郎君も、クリスマスに勝負するの?」
「彼女いない歴年齢を、更新する可能性も高いな・・・」
「私も、クリスマスに頑張ってみようかな」
「(誰に?って俺なんだろうな。どうしようかな・・・?)」
俺は差し迫った事態への対策を考えながら、「ビアンカマックス」の調整を終了させるのであった
。
「よし!次は音山だ!」
「はい」
「ビアンカマックス」の調整終了後、「グレートミッション」の参加メンバーに選ばれた俺達は3人は、レイラ先生の特別訓練を受けていた。
俺達オーバビスマシンのパイロットは、地球と月に展開されたバリアーで受け止められなかった隕石などを搭載するビーム砲で撃破し、バリアーで穴が開いたところを装備している重力波発生装置付きミサイルを発射して補強する事にあった。
今日の午後は、「グレートミッション」の本番時に備えてビーム砲が装備された「ビアンカ」を使用しての射撃訓練が行われていた。
「ほう。さすがだな・・・」
光太はレイラ先生が発射した標的を、射程距離ギリギリの位置で簡単に撃破してしまう。
普通の予科生に射撃の経験があるはずがないので、これは光太の真の実力なのであろう。
「次!片瀬!」
「了解!」
レイラ先生はしーぽんにも同じように標的を発射するが、最近優秀さを発揮しつつある彼女でさえも、射撃経験の無さから最初の内は標的に命中させる事ができないでいた。
「片瀬、深呼吸をして落ち着け」
「はい」
「では、もう一度だ」
今度は標的の撃破に成功するが、その距離は光太よりも遥かに手前であった。
だが、予科生が始めての射撃で標的に当てる事自体が驚異的な事なので、これは賞賛に値する事であった。
「よし!この調子で頑張るように。次は厚木だ!」
「了解!」
そして最後に俺の出番となったのであるが、俺の「ビアンカマックス」には、通常よりも2周りも大きい巨大なビーム砲が取り付けられていた。
「レイラ先生、私は普通のビーム砲が良いんですけど・・・」
「我慢してくれないか。これは学園長の命令なんだ」
「私の及びもつかない偉い人達のせいですね」
「そういう事だ。では、いくぞ!」
レイラ先生が標的を発射し、俺はビーム砲の照準を合わせる。
「よし!ファイア!」
俺がビーム砲のトリガーを引くと、予想を上回る威力のビームが発射され、標的を消滅させたあとに後方のデブリ郡を一直線になぎ払っていった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺達とレイラ先生が呆然とするなか、オースチン先輩から通信が入ってくる。
「厚木君、ごくろうさん」
「どういう事ですか?」
「色々と事情があってね。とりあえず、バッテリーの交換に戻ってくれないかな」
「はあ・・・・・・」
俺が「ビアンカマックス」のエネルギー残量を見ると、先ほどの射撃のせいでほとんどエネルギーが残っていなかった。
「では、戻ります」
俺は「ビアンカマックス」を「ステルヴィア」に戻すのであった。
「厚木君だね。ごくろうさま」
「えーと。あなたは?」
「(ビアンカマックス)の追加パーツの提供者だよ」
俺が格納庫に置いた「ビアンカマックス」を降りると、いつもの御剣先輩とアリサの他に1人の男性が俺を待ち構えていた。
背は俺よりも数cm高く、髪は金髪で40歳代半ばくらいに見える男性は、さわやかな笑みを浮かべていて、どこかで見た事があるような気がする。
「あのビーム砲は、(インフィニティー)に装備されているやつの試作品なんだよ。あれほどの威力は無いが、直径2〜3kmくらいまでの隕石なら楽勝で壊せるはずだ」
「はあ。そうなんですか・・・」
「インフィニティー」とは、大の情報によると光太達がよく侵入している、立ち入り禁止の格納庫に鎮座している巨大なロボットの名前のはずであった。
「今日は改良品のバッテリーが間に合わなかったし、エネルギー自体も半分くらいしか入っていなかったから1発で終わりだったけど、本番までには、3発くらいは撃てるようにするから」
「はあ・・・」
「君は予科生なのに才能があるよな。初めてで、アレをまっすぐに飛ばせたなんて驚きだよ。昔に実験した時は、テストパイロットが匙を投げてしまってね」
「はあ・・・」
「ああ。特別なプログラムを組んでくれた娘がいたんだよね。あの制御プログラムは大したものだ。うちの技術部の連中が驚いていたよ」
目の前の金髪の男性は軽やかな笑顔を浮かべながら、マシンガンにように話を続けている。
「えーと。あなたのお名前をお聞きしたいのですが・・・」
「あれ?言ってなかったかな?」
「はい」
「私の名前はラルフ・オースチン。しがない財閥の社長を務めているんだ。君には、グレッグとケントの父親と言った方が通りが良いかな?」
「やっぱり・・・」
これが、俺とケント先輩の父親との最初の出会いであった。
「頑張ってねーーー!」
「はあ・・・・・・」
「ビアンカマックス」のバッテリーを交換した俺は訓練を続行すべく、オースチン先輩の父上に見送られながら、「ステルヴィア」の格納庫を出発した。
「孝一郎、頑張ってねーーー!」
「厚木君、(ビアンカマックス)を頼むよーーー!」
「なるほど。彼はみんなに好かれているんだね」
「ええ、まあ。何時もは口が悪いし素直に言えないけど、優しいし頼りになるし・・・」
「片瀬君の助けがあったとはいえ、(ビアンカマックス)を蘇らせてくれました」
「そうか。嫌われているのは、私達親子だけなのかな」
「そんな事は・・・」
「いや、彼の気持ちは良くわかるんだ。私達は考えようによっては、昔の国家元首にも匹敵する権力を持っている。そしてグレッグは、自分がどんなに凄い権力を持っているのかも正確は理解しないで、その腕を振り回している。私も子供の頃、どんなに頑張っても登れなかった大木に、口惜しかったから(こんな木は邪魔だ!)と叫んだ事があったんだ。そうしたら、次に日の朝には、その木は切り倒されて無くなっていた。屋敷の人間が余計な気を回したんだな。厚木君は頭が良いらしいから、そういう事情を察しているんだろう」
「オースチンさん・・・」
「私は別に嫌われても良いんだが、ケントが可哀想でね。母親が違うせいで、兄とは仲が良くないのにグルだと思われているようだ」
「いえ、孝一郎は、ケント先輩がお父さんとお兄さんの意向に逆らえる立場に無いからだと・・・」
「厚木君が言うほど、父親や兄の威厳はないんだけどね。私が見つけて首根っこを押さえているけど、グレッグは無意味な暴走を続けているし」
「そうなんですか」
「大体の事情はわかったよ。グレンノース君に感謝だな」
「私は、孝一郎とケント先輩が仲良くした方が良いと思っただけです」
「そうか。厚木君の事が好きなんだね」
「何で!そうなるんですか!?」
「あれ?違うのかい?古賀君の言う通りにお似合いだと思うよ」
アリサの胸に、合同体育祭時の古賀先輩の悪夢のインタビュー内容が飛来する。
「あれは!古賀先輩が!」
「私の予想が外れてたのかな?じゃあ、時間なので私はこれで。明日、新型バッテリーが届くからね」
「オースチン社長!ありがとうございました!」
「御剣君も頑張ってね」
オースチン社長は、その言葉を最後に格納庫をあとにする。
「グレンノース君、君は片瀬君に遠慮しているの?」
「そんな事はありません。私と孝一郎は別に・・・」
「でもさ。(グレートミッション)で何があるかわからないし、気持ちは素直に伝えた方が良いよ」
「でも、孝一郎は・・・」
「少なくとも君の事は信用している。それも、片瀬さんと同じくらいに」
「どうして、そんな事がわかるんですか?」
「いくら手先が器用で才能があるとはいえ、整備の難しい試作機を素人の君にいじらせているからだ。僕はそれなりに経験を積んでいるが、君はまだ素人に毛の生えた程度の実力しか持っていない。それなのに、君は操作プログラムの開発と調整を一手に引き受けている片瀬君と同等かそれ以上のところにいる」
「御剣先輩・・・・・」
「それに君が片瀬君に遠慮しても、要は彼の気持ち次第なんだよね」
「・・・・・・」
「まあ、良く考えてみた方が良いよ」
「ありがとうございます。でも、御剣先輩ってそういう経験が豊富なんですか?」
「僕はモテないからね。彼女1人で精一杯」
「えっ!御剣先輩って、彼女がいたんですか?」
「微妙に失礼な発言だね」
「すいません・・・」
「確かに僕の彼女は変わり者だからな・・・」
御剣は変わり者である自分の彼女の事を思い出していた。
「えーーーっ!私が(ビック4)の指揮下に入るんですか?」
「(ビアンカマックス)と(ビアンカ)の性能差を考えると、そちらの方が良いという判断でな」
エネルギーを補充して戻ってきた俺に、レイラ先生から衝撃の事実が伝えられた。
俺は「グレートミッション」の本番では、「ビック4」の正確にはオースチン先輩の指揮下に入って行動をする事が決まったらしい。
「そういうわけなんでね。今日からは、我々と訓練を行って貰う」
「まずは、我々とちゃんと付いてこれるようにする事。次に編隊飛行をこなせるようになる事、更に個人技と射撃の練習、やる事は山ほどあるが時間が少ない。今から早速訓練に入る」
「私と引き分けた実力を見せて貰うわよ」
「運命だと思って受け入れなさい」
「・・・・・・。了解です」
それからの数時間は、俺にとって地獄の時間となるのであった。
「疲れたーーー」
訓練終了後、俺は這うようにして自室に帰還していた。
予科生としてはトップクラスの技量を持っている俺も、本科生のトップである「ビック4」にかなうわけがなかった。
一部では勝っている部分もあったが、数年の訓練期間の差は歴然で、性能に勝っている「ビアンカマックス」で、彼らに何とか付いていくのが精一杯であった。
更に、前回の「ライトニングジョースト」の合同実習で、俺は町田先輩の矜持を傷つけたらしく、彼女に集中してシゴキを受ける羽目になっていた。
「駄目だ。体が動かない・・・」
明日からは、午前中は予科生として座学の授業を受け、午後は実習が免除されて、「グレートミッション」対策の訓練を夜まで続ける事になっていた。
免除と言っても、普通の予科生の実習よりも訓練の方が質も量も上なので、あまり免除の意味はなかった。
ただ訓練さえちゃんとこなしていれば、特例として実習の単位も貰えるらしいので、それだけが唯一の救いであろう。
それでも、明日からの地獄の日々を思うと、誰かに代わって欲しい気分であったが。
「駄目だ。体が動かない・・・・・・」
「ケイティー」と同じ速度で飛ばしても少し余計にGがかかる「ビアンカマックス」は、長い時間を乗れば乗るほど疲れる機体であった。
「ピンポーン!」
「はいはい。空いてますよ」
呼び鈴が鳴ったのだが、体を動かすのがダルイので声だけで返事をすると、意外な人物が入ってくる。
「やあ、こんばんは」
「オースチン先輩!どうしたんですか?」
「実は自室を親父に取られてしまってね。泊めて貰いに来たんだ」
「えーーーーーーっ!」
俺は疲労感を忘れて、大声をあげてしまうのであった。
「ジェームズ教官、いや主任教授。まずは一杯どうぞ」
「結構なお酒をすまんね。ラルフ君」
「私は親が金持ちという罪深き存在ですからね」
「私には良い事だと思っているよ。こうして、最高のお酒が飲めるのだから」
「教官にはかないませんな」
ラルフ・オースチンは、息子を部屋から追い出して昔の恩師であるジェームズ主任教授と酒盛りをしていた。
「君は優秀だったのに、今でも残念な事をしたと思うよ」
「家業がありましたからね。宇宙学園までが、許される贅沢だったんですよ」
「そして息子さんも頭角を現すか。大したものだね」
「でも、悪い事をしてしまいました」
「跡継ぎの事ですか」
「ええ。嫌がるケントを無理に後継者候補にしようとしたら、色々な歪みが出てしまいましてね。厚木君にも悪い事をしてしまいました」
「ああ。お兄さんの方ですか」
「仕方がないので、優秀なブレーンを付けて後継者にしますよ。あとは賭けですね。彼の子供かケントの子供が、優秀である事に期待します」
「長生きをする楽しみが、できたではありませんか」
「まあ。そういう事にしておきます。それよりも、地球の連中は焦っていますね」
「(グレートミッション)も終わっていないのに、早くも主導権争いですか」
「(インフィニティー)と、あの追加パーツで何とか抑えましたけどね」
「わざわざすまないね。ラルフ君」
「いえいえ。安定した市場があっての企業ですから。それに、データ集めをしているという情報は流してしますが、(ケイティー)後継機ともなれば巨大プロジェクトです。失敗すれば、会社が傾いてしまいますからね」
「では、その計画は見せかけなのですか?」
「規模は小さいですけど、やらせてはいますよ。開発途上で有益な周辺技術を手に入れられる可能性もありますので。そうそう。(ビアンカマックス)の操作プログラムは、大変役に立たせて貰いました。あれを元に、かなりの数のプログラムの改良が安価にできそうです」
「片瀬君の作品ですか?」
「ええ。既存品の改良で、あそこまで高性能な物を開発するんて凄いですね。うちの会社に引き抜きたいですよ。彼女可愛いから、秘書兼任でも良いですね」
「ははは。そうですか」
「うちの息子が、嫁さんにでもしないかな」
「ケント君は、浮いた噂を聞きませんね」
「親としては歯がゆいですな」
「まずは、(グレートミッション)なのでしょうな」
「それと話は変わりますが、私も(グレートミッション)の前日には、ここを引き揚げなければならないので、あれの調整を済ませておこうと思います」
「あれをですか?」
「最低限の調整で、起動可能なところまで持っていきます。下の連中は、現時点でも(グレートミッション)の成功を確信しているようですが、私は保険を掛けておきたいのです。あの(ビアンカマックス)と(大型ビーム砲)と(インフィニティー)をね」
「わかりました。私の胸に留めておきますよ」
「私の杞憂で終われば良いのですが・・・」
この時のラルフの決断が地球を救う事になるとは誰も予想していなかった。
「朝の6時か・・・・・・」
オースチン先輩を泊めた翌日、俺はいつものように起床して柔道着に着替えていた。
今日は、笙人先輩とのトレーニングの日であったからだ。
実は笙人先輩は様々な格闘技の段位を持っていて、俺と柔道でそれなりに戦えるのは、「ステルヴィア」では笙人先輩だけであった。
「おはよう。厚木君」
「おはようございます」
「笙人とトレーニングかい?」
「ええ。そうですよ」
「僕も付き合おうかな」
「ご自由にどうぞ」
笙人先輩との待ち合わせ場所である柔道場まで、オースチン先輩とランニングをしながら移動すると、既に笙人先輩は技の打ち込みを始めていた。
「ケントか。一緒とは珍しいな」
「親父に部屋を追い出されてね。厚木君の部屋で世話になっているんだ」
「来客用の貴賓室もあるのに、珍しい親父さんだな」
「ここの卒業生だからな。懐かしかったんだろう」
「オースチン社長って、ここの卒業生なんですか?」
「ああ。整備科ではあったが、ここの卒業生なんだ。だから、色々と口を出せる立場にある。ジェームズ主任教授は、昔の教官のようだし」
「親子して天才なんですね」
「君ほどではないさ。ところで笙人は、忍術の修行はしないのかい?」
「それは後でもできるからな。それよりも、ここに恐るべき柔道の達人がいるんだ。習わなければ損だろう」
「それで、成果は上がったのかな?」
「ここの柔道部の連中が、弱い事だけは確認できた。(ステルヴィア)最強と言われた俺が、一方的に投げられているからな」
「学業の合間の部活動ですからね。仕方がないですよ」
「そうか。では、僕とも対戦して貰えないかな?」
「いいですけど、どの程度でやりますか?」
「どの程度とは?」
「あまり本気でやって、白銀先生のように保健室送りだと困るんですよ。オースチン先輩は、私の指揮官殿なんですから」
「本気でやってくれても大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「自慢じゃないけど、僕は兄貴に何一つ負けた事がないんだ」
その時のオースチン先輩は、不敵な笑みを浮かべていた。
「本当にお兄さんより強いんですね」
「だから、嫌われているんだよ。でも、僕でも子供扱いなんだね」
「一応、ゴールドメダリスですから」
10分近く行われた乱取りで、俺は7〜8回はオースチン先輩を投げ飛ばしていたが、その頻度は初期の笙人先輩よりも少なく、あの力押しのグレッグ・オースチンを上回るバランスの良さと受けの強さと技のキレを見せていた。
「僕も14歳になるまではやっていたんだ。でも、兄貴が始めたと知って止めてしまった。また僕の方が上手だと嫌がらせを受けるからね」
「難儀なお兄さんですね」
「君の妹さんはどうだった?」
「甘えん坊で、遊びに行くといつも一緒に付いてきて可愛かったですよ。元気な頃には、試合の応援に良く来ていました。だからもう試合には出ませんけど、俺は柔道をやめないんです」
俺は、妹が元気であった頃の事を思い出す。
休日に柔道の試合があった時には、よくお弁当を作ってきてくれて、優勝をすると自分の事のように喜んでくれたものであった。
「そうか。兄貴が妹さんの事で暴言を吐いたらしいね。すまなかったね」
「その代わりぶん投げてやりましたけど」
「実は放送を見ていて、拍手喝采してしまったよ」
「それは良かったですね」
「厚木、次は俺と勝負してくれ」
「わかりました。ケント先輩も次にやりますか?」
「!・・・・・・。ああ、そうだね」
それから、俺達は始業一時間前まで柔道の練習を続けるのであった。
「ケント先輩、朝食はどうしますか?」
「食堂で良いと思うよ」
「そうですね」
「ピンポーン!」
「あれ?誰だろう?」
自室に戻ってシャワーを浴びてから制服に着替えた俺達が食堂に行こうとすると、室内に呼び鈴が鳴り響く。
「はーーーい」
俺がドアを開けると、そこにはアリサが紙袋を持って立っていた。
「どうしたの?」
「孝一郎も色々と大変そうだから、朝食を持ってきたのよ。気が利く美少女アリサさんに感謝しなさい」
「だそうですよ。ケント先輩」
「僕はお邪魔そうだから、先に行かせて貰うよ」
「えっ!ケント先輩がどうして?」
「親父に部屋を占拠されてね。厚木君に泊めて貰ったんだ。昨日は、グレンノース君にも色々と迷惑をかけたようですまなかったね」
「いえ。私はお話をしただけですので」
「じゃあ、僕はこれで。午後にまた会おう」
「あの、一緒にどうですか?」
「僕がかい?好意は嬉しいけど、馬に蹴られて何とやらだからね」
「「・・・・・・」」
俺とアリサが顔を赤くしている間に、ケント先輩は部屋を出て行ってしまった。
「中にどうぞ」
「うん・・・」
始業時刻までまだ30分くらいは時間があったので、俺はアリサを自分の部屋に入れた。
「お茶でも入れるかな」
「孝一郎、できるの?」
「あのね。お茶くらい入れられますよ」
俺は2人分のお茶を入れてから紙袋を開けて朝食を食べ始める。
「おにぎりか。コンビ二以外では久しぶりだな」
「しーぽんに作り方を教わったのよ」
「へえ、なるほどね。それで中身は梅干とシャケか」
俺はおにぎりにかぶりついてから、中身を確認する。
「味はどう?」
「美味しいね。手作りのは」
「そう、良かった。それで、ケント先輩とはちゃんと仲良くなれたの?」
「えっ?何でアリサが知ってるの?」
「昨日ケント先輩のお父さんが心配していたのよ。(自分が嫌われるのは仕方がないけど、ケントが避けられるのは可愛そうだ)って・・・」
「そうなんだ。良いお父さんなんだね」
「それで、どうなの?」
「良く考えてみたら、俺はケント先輩を警戒していたわけじゃないんだ」
「どういう事なの?」
「あのオリンピックの決勝戦当日、グレッグ・オースチンはお前の妹のせいで、うちの会社は大損をしていい迷惑だと暴言を吐いた。だから、俺は彼を含むあの一族が嫌いになっていたんだよ」
「それで」
「(ステルヴィア)に上がってから初めて出会ったケント先輩はああいう人だったけど、(どんなに取り繕っても、あのグレッグの弟なんだよな)という感情が心の奥にあったんだ」
「でも、もう大丈夫なんでしょう?」
「どうしてそう思うの?」
「オースチン先輩じゃなくて、ケント先輩って呼んでいるから」
「まあね。グレッグ本人の謝罪は期待できないけど、ケント先輩が代わりに謝ってくれたからね。俺はそれで良しと考えたんだ」
「それなら良かった。私、ケント先輩を避けている孝一郎が、あまり好きじゃなかったから・・・」
俺は安心したような表情を見せているアリサを見ていると、心臓がドキドキしてきた。
アリサは日頃は口が悪いが、大切な場面では、しーぽんや俺達の事を親身になって心配してくれる優しい子であり、俺はそういう彼女に魅かれていたのかもしれない。
「さてと、しんみりとしたお話はこれで終わりにしますかね」
「早く授業に行こうよ」
「そうだな。遅刻すると迅雷先生に大目玉だからな」
「グレートミッション」に向けての訓練は厳しく疲れも溜まっていたが、かねてからの懸案事項であったケント先輩との関係も改善し、自分が誰が好きなのかも確認でき、俺の心は晴れやかであった。
「あーあ。午後は訓練かぁーーー」
「仕方がないわよ。先にお昼を済ませましょうよ」
「食堂でAランチだな」
「そうね」
「孝一郎君!」
午前の授業終了後に、みんなで食堂に行こうとすると、急にお嬢に呼び止められる。
「どうしたの?お嬢」
「孝一郎君、外食ばかりじゃ駄目よ」
「だって、自炊できないもの」
「私がお弁当を作ってきたから」
「俺に?」
「そうよ。孝一郎君は、大切な(グレートミッション)の参加メンバーなんですから」
お嬢はそう言って俺にお弁当の包みを渡すが、自分の手にはもう一つ包みがあるのでお揃いという事なのだろう。
「ははは。悪いね、お嬢(うわっ!ピエールの怨嗟の視線が・・・)」
周りを見渡すと、ピエールが俺を睨み付けていて、しーぽんも不機嫌そうな表情を隠そうともしなかった。
「食堂で食べましょうよ」
「ははは。そうだね」
「やよい、やるじゃん。私も光太に何か作った
方が良いのかな?」
俺はなるべく周囲を刺激しないように、食堂へと急いで向かう事にするが、無邪気に光太に腕を絡ませていたりんなちゃんが、更なる爆弾を投下する。
「そうよね。りんなちゃんの言う通りよね!孝一郎君、私も夕食に何かを作るよ」
「しーぽん、あなたも(グレートミッション)の参加メンバーなんだから無理は駄目よ」
「そうよ、お嬢の言う通りよ。私とお嬢で交代で面倒を見るからさ」
「うううううっ・・・」
アリサはお嬢に先攻された失点を取り戻すべく、さりげなく交代で食事を作る事を提案する。
「すいません。お昼を食べに行きたいんですけど・・・」
「孝一郎、もうちょっと待ってね」
「そうね。もう少しで終わるから」
「私も孝一郎君に食事を・・・・・・」
教室の片隅で、俺は3人の少女の対立で動けない状態になっていた。
「みんな、助けてって・・・。やっぱりいないよ・・・」
巻き込まれる事を恐れた他のメンバーは、既に教室から逃亡を図っており、廊下を見ると、光太が後ろ髪を引かれる思いで、りんなちゃんに腕を引っ張られていた。
「(しーぽんの事もあるから、残りたかったんだろうな。光太が残っても、何の解決にもならないけど)」
その後本人の意思の確認もなく、朝食はアリサでお昼のお弁当はお嬢という決定がなされて、しーぽんはいつまでも恨めしそうな声をあげていたのであった。
「君がハッキリしないからだ」
「そうだな。ケントの言う通りだな」
「あなたらしくないわね」
午後の訓練は、ほぼ昨日と同じ内容であった。
しーぽんと光太は、レイラ先生の指導の元で「ビアンカ」を使用してのビーム砲の射撃訓練を続行し、俺は「ビック4」に限界寸前まで厳しく鍛えられていた。
ケント先輩に、昨日よりも動きが良くなったと褒められてから自室に戻ると、そこでは鍋パーティーが展開されていて、ケント先輩、笙人先輩、ナジマ先輩がすき焼きをつついていた。
そして第一声が、先の言葉であった。
「なぜに鍋なんですか?それと、何がハッキリしないからなんですか?」
「(ビック4)の伝統だからだよ。今日は親父に迷惑料代わりに肉を貰ってね」
「いい加減に、3人の中から選んだ方が良いぞ」
なぜアメリカ人であるケント先輩の親父さんが、すき焼き用の肉を所持していたのかはわからなかったが、皿の上には霜降りのお肉が置かれ、3人は俺の部屋の携帯コンロと鍋ですき焼きを作って、溶き卵で美味しそうに食べていた。
「(ビック4)の伝統なのに、町田先輩は不参加なんですね。別に俺は三又をかけているわけでは・・・・・・」
「初佳は参加した事がないの。同じ女性としては許されざる行動よ」
「ナジィ、厚木君を虐めちゃ可哀想だよ。彼は3人の中の誰かに告白されたわけではないのだから」
「そうなの。それなら、あなたがちゃんと1人に告白してケリをつけるのね」
「(グレートミッション)終了後には、ちゃんとしますよ。それよりも、俺の分は無いんですか?」
「はい、どうぞ」
俺はナジマ先輩に卵と容器を貰って、すき焼きに参加する事にする。
「肉も好きなんですけど、汁を吸った白菜も捨てがたいですね」
「それは良かった。しかし君は凄い男だな。1日であそこまで進化する人間も珍しい」
「初佳がビックリしていたな」
「早く限界が訪れるかもしれませんよ。それに、世の中には上には上がいるものです」
「音山か?」
「ご想像にお任せします」
確かに「ビック4」は、優秀な先輩達の集まりであったが、あの時の光太の動きを超えるものではなかった。
特に「ケイティー」の操縦では、ケント先輩と笙人先輩は僅かではあるが、町田先輩を超える実力を有していたが、光太に勝てるのか?といえば俺はノーと答えたであろう。
それだけ光太の実力は物凄く、俺達の遥か遠くにいたからだ。
「そうか。君にそこまで言わせる男なんだな。音山光太君は」
「ジェームズ主任教授の強い推薦があったわけだ」
「本当なら(ビアンカマックス)は、光太が運用すれば良いと思うんですけどね」
「彼にはアレがあるからね」
「アレですか?」
「そうだ。例の格納庫にあるアレだ」
「(グレートミッション)後に色々と実験がしたいらしいよ。ここの上層部と親父達は」
「新型ロボット兵器に天才少年パイロットか。アニメみたいですね」
「正式には、ギガンティック・アクティモソーマ試作一号機インフィニティーといらしいが」
「長い名前ですね。名前倒れじゃないと良いんですけど・・・」
「何にせよ、(グレートミッション)には参加しない員数外の戦力だ。僕達5人の方が活躍できるはずなのだから、頑張ろうではないか」
「「「「おーーーーーーっ!」」」」」
だが、この直後にすき焼きの残り汁に何を入れるのかで意見が真っ二つに割れて、あっという間に団結が崩れてしまうのであった。
「やはり、ご飯を入れるべきだと思うんですよ」
「そうだな。厚木の言う事は正しい」
「いや、ここはうどんを入れるべきだろう。ご飯は鍋に付きやすいからな」
「そうね。私もうどんの方が好き」
「日本人はお米です!そしてすき焼きも日本料理ですし」
「厚木の言う通りだ」
「日本料理だからと言って、お米ばかりというのは賛同できない。大阪のように、ここはうどんの方が・・・」
「東京の常識が日本の常識じゃないのよ」
「ナジマ先輩って、何人なんですか・・・?」
結局、汁を2人で分けて俺と笙人先輩はおじやを、ケント先輩とナジマ先輩はうどんを食べる羽目になったのであった。
「長かったようで短い訓練期間も明日で終了か」
「訓練も終わり、明後日からはいよいよ臨戦態勢だな」
「本当ね」
「厚木君の技量も順調に上がって特に心配もないわ」
「ラルフ君は、明後日まででしたね」
「長いようで短い日々でした。この半月で溜まった仕事の量を考えると鬱になりそうですが・・・」
「上に立つ者の使命ですな」
「ヒュッター教官は、きついですね」
「何でこの部屋の夕食って、毎日鍋なんだろうな?」
「さあ?僕は好きだけどね。鍋料理は」
「光太、私が取ってあげる」
「ありがとう。りんなちゃん・・・」
「光太は羨ましいよな」
「はい」
「栢山、ありがとう」
「大、何で僕達はここにいるんだ?」
「ここだと、タダ飯が食べられるからね。ピエールも、クリスマスに向けて色々と物入りなんだろう?」
「まあ、そうなんだけど・・・」
「私も鍋は好きよ。はい、小田原君」
「ありがとう」
「キタカミさんもいたんだね・・・」
「小田原君に呼ばれたから」
「今この部屋で一番不幸なのは僕なんだろうな・・・」
「みんな!今日は春巻きと焼売を作ってきたわよ!」
「「「「「ありがとうございます!蓮先生!」」」」」
「みんな感謝しろよ!」
「迅雷は、何もしていないじゃないか!」
「レイラは料理作れるのか?」
「悪かったな!」
「・・・・・・・・・・・・」
「孝一郎君、今日は海鮮チゲ鍋なんだって」
「ここはアリサさんがよそってあげよう。孝一郎、嬉しい?」
「ずるいよ、アリサは!私がやる!」
「孝一郎君、どうしたの?やけに無口ね」
「疲れでも溜まった?孝一郎」
「大丈夫?」
初日はケント先輩が泊まりに来ていただけであった俺の部屋も、翌日には「ビック4」が夕食に鍋を始めるようになり、りんなちゃんの連日の訪問に辟易していた光太が先に避難していたジョジョと合流し、りんなちゃんも光太を追いかけて合流し、りんなちゃんが心配だという名目でしーぽんとアリサも合流し、お嬢と晶もそれに続き、ピエールがお嬢目当てで合流し、大はタダ飯が食えると言って合流し、大は先に知り合ったキタカミさんを呼び、材料費を出しているという名目でケント先輩の親父さんとその連れであるジェームズ主任教授とヒュッター教官も合流し、「グレートミッション」に参加する生徒の健康管理という名目で蓮先生が合流し、白銀先生とレイラ先生も合流するという、収拾不能な状態になっていた。
「何でこんなに大人数なんだろう?」
「いいじゃないの。明日からは臨戦態勢なんだから、パーティーだと思えば良いのよ」
それぞれが数人のグループを形成して、俺の部屋で鍋をつついているという不思議な光景を目にしても、アリサの答えは非常に軽いものであった。
「そうだぞ。グレンノースの言う通りだ。厚木は過酷な訓練をちゃんと乗り越えたんだから、そのお祝いだと思えば良いんだ」
「レイラ先生」
「あの不安定な試作機で、(ビック4)と連携が取れるようになったんだ。お前は驚異的な成長を遂げたんだぞ」
11月の末から12月15日までの3週間近くは、俺にとって過酷な日々であった。朝起きて自主トレーニングをしてから午前の授業を受け、整備とプログラムの調整が難しい「ビアンカマックス」の整備を手伝い、午後からは「ビック4」と夜まで訓練漬けの毎日を送っていたのだ。
「そんなわけで、音山と片瀬と同様に期待しているからな」
「(ビック4)に付いて行くので精一杯ですね」
俺が別の鍋を囲んでいる「ビック4」の方を見ると、その視線に気が付いた町田先輩が複雑そうな目線で俺を見つめていた。
彼女は日頃はこういうイベントには不参加なのだが、今日は特別だからという理由でナジマ先輩に引っ張られて参加していたのだ。
「(脅威?嫉妬?不安?羨望?オリンピックの代表に選ばれた時に良く見た表情だな)」
町田先輩が俺にどういう感情を抱いているのかは理解できなかったが、ここ1〜2週間で、あまり好意的なものでなくなった事だけは理解していた。
表面上は優しい先輩を装っていたのだが、たまにあの視線を俺に向けてくるようになったのだ。
「孝一郎、あれから町田先輩との対決はあったの?」
突然アリサに質問をされたので、俺は視線を町田先輩からアリサに戻した。
「訓練終了後に、毎日1本だけ(ライトニングジョースト)をやっていた」
俺と町田先輩は、毎日訓練をつけて貰っているお礼という名目で、毎日1本だけ真剣勝負を行っていた。
「「「それで、結果は?」」」
アリサだけでなくしーぽんやお嬢も興味があるようで、身を乗り出して俺に質問してくる。
「22戦6勝3敗13引き分けだ」
「凄いじゃないの」
「あくまでも(ライトニングジョースト)だけだよ。飛行技術では、まだ町田先輩に及ばないのが実情なんだ」
その差は大分縮まったとは思うが、オーバビスマシンの飛行技術では、まだ町田先輩及ばない部分が多数あるのが実情であった。
だが、その町田先輩や残りの「ビック4」をも凌ぐ天才がいる事を俺は知っていた。
多分俺がどんなに努力しても、彼には絶対に勝てないであろう。
「(くやしくないと言えば嘘になるけど、あそこまで圧倒されるとね・・・)」
だが肝心の天才君は、りんなちゃんに無理矢理あーんをさせられながら、海鮮チゲ鍋を食べていてしーぽんに微笑ましい視線で見られていた。
世の中には、どんな天才でもどうにもならない事もあるらしい。
「とりあえず。明日からの事を第一に考えるかな」
今は12月15日午後10時、「グレートミッション」来訪まであと80時間を切り、みんなはひと時でもそれを忘れようと、楽しそうに鍋をつついていた。
(12月17日午前9時、宇宙学園校舎内)
「あーあ。重たい物ばかりで最低!」
「アリサ、手を離さないでくれよ」
「孝一郎は男なんだから、しっかりと持つ!」
「わかりましたよ。それよりも、りんなちゃんは大丈夫なの?」
「かなり心配しているみたい。衝撃波のせいで音信不通だしね」
昨日の夜に「セカンドウェーブ」が「ウルティマ」と接触したというニュースが流れ、その時の映像を見たりんなちゃんが、両親の事を心配して落ち込んでしまったらしい。
「あまり声を掛け過ぎると、逆効果だしね」
「そうよね。まあ、光太にでも任せましょうよ」
基本的に優しい光太は、りんなちゃんに積極的に話しかけて、気を紛らわしている様子であった。
だが日頃は無口である光太の懸命の努力も、その光景をしーぽんが微笑ましい様子で見つめるという、光太にとってはあまり嬉しくない状況で、全く報われていない様子であった。
「光太も可哀想に・・・」
「しーぽんに全くその気が無いからね」
「全くという事は無いと思うけど・・・。というか、知っていてりんなちゃんを応援しているのか?アリサは悪女だな・・・」
「だってりんなは本気だし、光太も報われない恋をするよりはね。それよりも、孝一郎の方はどうするのよ。しーぽんは誰が見ても、あなたの事が好きよ」
「それについては、非常に困っているんだよね・・・」
「どうして?」
「色々と事情があるんだよ」
「事情?」
「そう。事情だ」
俺は、アリサの追及に思わず口を濁してしまうのであった。
「今日は少ししか飛ばしていないから、整備が楽で良かったよ」
その日の夕方、いつもの4人は「ビック4」との最後の訓練を終えた「ビアンカマックス」の調整を行っていた。
明日は「グレートミッション」に向けての待機任務になるので、大まかな調整はこれで最後になるであろう。
「バッテリーも試作品ながら超高性能品だし、他のパーツや部品も金がかかっているよね。それに、この小型測定機器の数々」
この数週間で「ビアンカマックス」は、ケント先輩の親父さんが連れてきた技術者集団によって徹底的に改良され、搭載した測定機器でデータを集めて解析する作業が行われていた。
噂によると、「ケイティー」の後継機の開発のためのデータ集めが目的らしく、それが、この「ビアンカマックス」にお金が掛かっている理由でもあるらしい。
「これの飛行データを集めるのが目的だから、こんなにお金が掛かっているんですよね?」
「そういう事だね。だから、君はちゃんと(ビアンカマックス)を持ち帰らないと駄目なんだよ」
「戦争に行くわけじゃ無いんですから、ちゃんと帰ってきますよ。ところで、例の技術者達は今日はどこにいるんですか?」
「ああ。あのロボットの調整を行っているらしいよ」
「そうなんですか」
俺はあのロボットにあまり興味が無かったので、御剣先輩の話を軽く流してしまう。
「あとは厚木君の担当箇所だけかな?」
「そうですね。すぐに終わるので先輩は先に帰ってください」
「そうさせて貰うよ。僕も(グレートミッション)参加組だから」
御剣先輩は、「ビアンカマックス」専任の整備士に任命されていて、数人の本科生と共にこの格納庫に待機する事になっていた。
「ビアンカマックス」も員数外の機体なので、正規の整備士を回せないというのが理由のようだ。
「できれば、グレンノース君も助手で欲しかったんだけどね。予科生だし、専科でもないから無理だと断られてしまった」
「私は避難シェルターで、(グレートミッション)の成功を祈ってますから」
「是非そうしてくれ。それでは」
「孝一郎君、私もレイラ先生に呼ばれているから」
「何かしでかしたの?」
「もう!孝一郎君は!光太君と一緒にミーティングなの。(グレートミッション)本番では、3機で行動するから」
「そうなんだ。じゃあ、またあとでね」
「うん。またね」
しーぽん御剣先輩は、俺達と挨拶をかわすと格納庫をあとにした。
「さてと、俺はコックピット内で調整をしないとね」
「私も手伝うよ」
「それなら早く終わるかな」
俺とアリサは狭いコックピット内で細かい調整を開始するが、2人で始めたので僅か10分ほどで終了してしまう。
「意外と早く終わったな」
「そうね。いよいよ明後日が本番か」
調整を終えた俺達は、「ビアンカマックス」を眺めながら2人で話を始める。
「(ビアンカマックス)はお金が掛かっていて、壊すと大変みたいだから、適当にやって帰ってくるよ」
「そういう言い方が孝一郎らしいわね」
「早く終わらせて、クリスマスを楽しまないと」
「クリスマスか。もうすぐなんだよね」
「(グレートミッション)が終わったら準備をしないと」
「りんなも(ウルティマ)に帰っちゃうから、送別会も兼ねて盛大にやらないとね」
「そうか。(グレートミッション)が終われば、りんなちゃんも帰ってしまうんだ」
「光太とは、遠距離恋愛になっちゃうわね」
「あの2人は、付き合っていないだろうが・・・」
あの2人の関係を簡単に説明すると、積極的にアタックをかけるりんなちゃんと、しーぽんの事が気になりながらも、りんなちゃんの事を無下にできない光太のチグハグな状態が続いていた。
「でも、しーぽんは脈が無さそうよ。光太も諦めが肝心だと思うけど」
「俺としては、光太に頑張って欲しいんだけど・・・」
「あんたねえ。しーぽんは、孝一郎の事が好きなのよ。他にもお嬢もそうだし・・・」
確かにあの3人の微妙な争いを見てると、この手の事に鈍い俺でも気が付いてしまうので、そろそろ結論を出さないといけないとは感じていた。
「結論はちゃんと出すよ」
「えっ!結論って?」
「俺が誰を好きかという事をだよ。聞きたい?」
「・・・・・・。うん」
俺は格納庫で2人きりになったチャンスを生かして告白をしようとするのだが、少しばかりタイミングが遅かったようだ。
「アリサ!孝一郎君!早く食事に行きましょうよ」
「お嬢か!」
「お嬢かじゃないでしょう。今日はみんなで夕食を食べる約束じゃないの。時間過ぎてるわよ」
「グレートミッション」も直前に迫っていたので、今日はみんなで外食をする約束をしていたのだが、アリサとの話に夢中になって、約束の時間が過ぎていたようだ。
「ごめんごめん」
「ごめんね。お嬢」
「早く行きましょう」
俺はお嬢に手を引かれながら格納庫をあとにしたのだが、俺の後ろにいたアリサはみんなのところに到着するまで不満そうな表情を崩さなかった。
「(明日があるさ!明日、絶対に告白するぞ!)」
俺は、遂にアリサに告白をする決意をするのであった。
(12月18日、ステルヴィア内の某大会議室)
「君達の任務は、地球と月軌道を覆うバリアである(グレートウォール)の内側の所定の場所でオーバビスマシンにて待機し、バリアの一部が局所的に弱まったり隕石によって突破されてしまった場合に、早急に対応することにある。189年前の(ファーストウェーブ)の時は電磁波のみであったが、今回の(セカンドウェーブ)は爆発した星の破片そのものが相手だ。おそらくは大量の隕石群が太陽系に降り注いでくるだろう。計算上ではバリアは突破されないことになっているが、実際に何が起こるのかは、その時になってみないとわからない。(ステルヴィア)以外の各基地からも飛行できるすべての宇宙船が出撃するが、半径35万劼砲盖擇峭大な空間をカバーできるのは、機動性に優れたオーバビスマシンだけだ。以上を持って作戦内容の説明を終了するが、何か質問のある者はいるか?」
「(しまった。今日は時間が非常に取り難かったんだ・・・。アリサへの告白はどうしたものか・・・)」
翌日の早朝、「グレートミッション」への参加者を対象とした最終ミーティングが大会議室で行われ、俺達や「ビック4」を含む全参加パイロット達がそれに参加していた。
この会議を取り仕切るのは、「ステルヴィア」の全オーバビスマシン部隊を指揮するスピアーズ隊長であった。
彼は優秀なパイロットであり、優れた指揮官でもあると評判だったので、全パイロットが神妙な面持ちで話を聞いていた。
「質問が無いのならこれで終わりにする。これより全パイロットは、交代で待機任務に就く事。それでは、諸君の活躍に期待する!」
スピアーズ隊長の合図で全パイロットが敬礼をしたので、俺達もそれに合わせて敬礼をしてから部屋を出ようとすると、スピアーズ隊長に呼び止められる。
「君があの(ビアンカマックス)のパイロットなのか。本当に若いんだな」
「学生ですので」
「俺も昔あれに乗った事があるんだ。真っ直ぐにしか飛ばせなかったけどな」
「私もそうですよ。ちゃんと動くようになったのは、新しい操縦プログラムのおかげです」
「それにしても大したものだ。活躍を期待しているぞ。では」
スピアーズ隊長は、俺達に敬礼をしてから持ち場に戻っていく。
「さて、僕達も待機任務に就くとするかな」
「私達はまだ時間がありますね」
「でも、迅雷先生が用事があるみたいだよ」
「迅雷先生がですか?」
俺がケント先輩の指摘で後を振り返ると、笑顔を浮かべた迅雷先生が俺達においでおいでをしている。
「免除して欲しいんですけど・・・」
「お前に面白い物を見せてやるよ。音山と片瀬には馴染みの物だけどな」
「面白い物ですか?」
「そうだ。面白い物だ」
迅雷先生の誘導である格納庫に到着した俺は、そこに巨大なロボットが置かれている事に気が付いた。
「これが例の(インフィニティー)ですか」
「そうか。お前は初めてなんだよな。他の連中は、よくここに侵入していたらしいが・・・」
「立ち入り禁止ですよね。ここ」
「そうだ。だから、規則を破ったジョーンズ達に固定作業をやらせているんだ」
「お咎めなしだったのは、この日のためですかい」
「残念ながらそうだ」
良く見ると、「インフィニティー」の足元や本体にジョジョ達が取り付いていて、ワイヤーを使用しての固定作業を行っていた。
「直前までこいつの調整作業を行っていた影響で、みんなが他所に散ってしまって人手が足りなくてな。そこで、お前達に白羽の矢が立ったわけだ」
「ケント先輩の親父さんが、こいつの調整を行うと言ってましたからね」
迅雷先生と話をしながら「インフィニティー」の足元に到着すると、りんなちゃんが走り寄って来て光太の腕にしがみついた。
「光太、このロボットさんを縛らないといけないんだって」
「ふうん。そうなんだ」
「風祭、ロボットじゃない!ギガンティック・アクティモソーマ試作一号機(インフィニティー)だ」
「長くて覚えられなーーーい!」
「名前倒れになりそうな・・・」
「よし!決めた!今日から君を(インフィー)と呼んであげよう!これで、君もみんなに愛されるロボットに変身だ!」
「やれやれ、また始まったよ・・・」
俺とりんなちゃんが長すぎる名前に文句を言っていると、アリサが作業を中断して現れてみんなが呼びやすい愛称を付けてくれた。
「それで、この(インフィー)は何に使うんですか?」
「戦闘用だ」
「戦闘用ですか」
「そうだ。あそこに並んでいるコンテナには、こいつの武装用オプションが詰まっている。こいつは純粋に戦闘を行うための兵器なんだ」
迅雷先生の言う通りに、格納庫の端の方には大きなコンテナがいくつも積まれていた。
「戦闘って、誰と戦うんです?」
「勿論、人間とだ。異星人や宇宙怪獣なんて、まだ確認されていないからな」
光太の質問に迅雷先生はあっさりと答える。
「(セカンドウェーブ)という最大の恐怖が通り過ぎたら、人類は再び戦争を思い出す可能性がある」
「厚木の言う通りだな。よその惑星圏は勿論のこと、地球内部でもその危険性を孕んでいる。経済格差、イデオロギー、宗教、領土と資源の取り合いと、争いの要素はゴロゴロしている」
「でも、それを見越して準備した割には、使い勝手の悪い兵器ですね。手足が付いてるなんでナンセンスですよ」
「戦争の事を考えてはいても、戦争の事なんて知らない政治家は多いのさ。だから見た目だけは立派なコイツで、抑止効果を期待しているわけだ」
「戦争なら(ケイティー)を量産して、パイロットを大量に養成した方が楽ですしね」
「そういう事だ。結局、地球の連中も作ったはいいが、オーバースペックで扱いに困ったようでな。試験運用も地上じゃできないし、かと言ってお蔵入りでは税金の無駄遣いと非難されるので、(ステルヴィア)で預かることになったんだ」
どうやらこの新兵器の将来は、かなり不安定であるようだ。
「ふーん。でもデザインがいまいちかな?顔が格好悪いし」
りんなちゃんも、あまりお気に召していなうようだ。
「せっかくのロボットなんだから、○ンダムみたいにしてくれれば良いのに・・・」
「俺に文句を言うなよ。苦情は設計した奴に言ってくれ」
「でも今回の(グレートミッション)では使用しないんですよね」
「試験もしていない物をいきなり使えるか」
「言えてますね」
「先生!固定終了です!」
俺達が話している内に、ジョジョ達が「インフィー」の固定作業を終了させる。
「みんなご苦労さん」
「3人共忙しくないの?」
作業を終わらせて先に降りてきた大が、いつものようにノホホンとした表情で話しかけてくる。
「嵐の前の静けささ」
「そうなんだ。さっき、あの(インフィー)のコックピットで性能を確認したんだけど、パワーだけでオービスマシンの10倍以上もあるんだよ」
「小田原、お前は作業をサボってそんな事をしていたのか・・・」
「知識的な興味を持ったからですよ。僕は予科生ですので」
「これは一応、最重要機密なんだけどな・・・」
「これだけ目撃者がいてですか?」
「厚木、それを言うなよ・・・」
(12月18日午後8時、自室前)
「光太、いよいよ本番4時間前だぜ」
「そうだね」
「お前もちょっとは緊張しろよ・・・」
「グレートミッション」前の最後の食事をみんなと済ませた俺は、一旦自室に戻ってから格納庫に向かう事にする。
部屋を出ると先に光太とジョジョが待っていて、続けて大とピエールも見送りに現れる。
「光太、しーぽんを迎えに行くか」
「そうだね」
男性陣で女子寮のしーぽんの部屋の前に到着すると、やはり先に女性陣が待ち構えていた。
「駄目よ〜。レディー待たせたら」
「これは、レディー様にとんだ失礼を」
「あんたの減らず口も相変わらずね」
「悪かったな!しーぽん、時間だから行こうぜ」
「うん」
「(しまった!告白する時間が・・・・・・)」
結局、何やかんやと時間を無駄にした結果、俺はアリサに告白するタイミングを逸してしまうのであった。
(同日11時、「ステルヴィア」特別格納庫内)
「孝一郎、ちょっといいかな?」
「グレートミッション」に向けて、「ビアンカマックス」の本当に最後の調整を行っていると、俺の目の前に突然光太が現れた。
「光太、待機任務だろう」
「わかっているけど、気になる事があるから5分だけ」
「早く言えよ」
「孝一郎って、誰かに告白しようとしてたの?」
「ストレートな質問だな」
「僕としては気になるんだけど・・・」
俺は光太の勘の鋭さに驚きながらも、正直に質問に答える事にする。
最近、しーぽんの事やら何やらで色々あった事も事実だが、俺は光太を一番の親友と思っていたからだ。
「お前に隠し事はしないさ。俺はアリサに告白しようとしていた。でも、何と言うかタイミングが・・・・・・」
「時間なら沢山あったじゃない」
「何しろ始めての事だから、いざとなると緊張してな」
「孝一郎でも緊張すんだね」
「だから、俺は普通の人間なんだって」
「そうなんだ。それならいいんだ」
光太は特に表情を変える事もなく、自分の「ビアンカ」の元に戻ってしまうが、俺には彼がとても喜んでいたように見えた。
「何だ、まだ告白してなかったんだ」
「御剣先輩、聞いていたんですか?」
「すなまいね。僕の方も最終調整に入っていて、聞こえてしまったんだよ。作戦開始までもう一時間を切ったからね」
「それで、大きな変更点はありますか?」
「別に無いよ。(ビアンカマックス)のエネルギー量は、この大型ビーム砲のフル発射4発分だ。だが、4発撃てばエネルギーが切れて動かなくなってしまう。だから、動く分と撃つ分のエネルギー配分は君のセンスにかかっている」
「そして、ビーム砲の出力の調整を忘れるな!小さい隕石にフル発射するな!フル発射の時には、射線上に仲間がいないかを確認しろ!ですよね」
「そういう事だ」
「しかし、初めは先輩の暴走の産物だった(ビアンカマックス)も大掛かりになりましたね」
「ビアンカマックス」は様々なベクトルが働いた影響によって、オースチン財団の援助を受けるようになっていて、もはや元の「ビアンカ」に戻す事が不可能なほどの改良を施されていた。
そして飛行時と大型ビーム砲発射時のデーターを取るために沢山の探知機器が設置され、格納庫の奥ではオースチン財団の技術者集団が、データを表示するディスプレイ群の調整を行っていた。
「僕の仲間達もデータ取りのお手伝いをしているんだ。もう(ビアンカマックス)は完璧に仕上がっているからね」
御剣先輩と同じく「ビアンカマックス」の整備を命じられた本科生4人は、例の技術者達に交じって探知機器の使い方の講習を受けていた。
「何にせよ。面白い物を提供してくれて感謝していますよ」
「おいおい(ビアンカマックス)は、まだまだこれからなんだぜ」
「そうでしたね。ちゃんと、無事に持って帰りますから」
「ぜひそうしてくれ。新しい装置を取り付けたいから」
「それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ」
12月19日午前12時、「グレートミッション」最高司令官である織原司令から作戦開始の命令が下り、太陽系中の「ファウンデーション」やラグランジュポイントに設置されたコロニー群、更には月面基地に設置されたジェネレータが稼働を開始して、地球と月軌道を覆うように巨大なバリアが出現する。
「グレートウォールの展開に成功しました」
「各ファウンデーションと防衛基地の(ケイティー)部隊、出撃!」
織原司令の指示で多数の(ケイティー)隊が出撃をし、その中には3機の「ビアンカ」と1機の特殊なオーバビスマシンも混じっていた。
「セカンドウェーブ」到達まであと4時間半。
全人類が189年間かけて準備した「グレートミッション」がスタートするのであった。
あとがき
グレートミッションスタートです。
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