合同体育祭も無事に終了し、「ステルヴィア」が「グレートミッション」に向けて本格的な準備を開始し始めた頃、本科生にして生徒会役員でもあるジョージ・レイトンは、真っ暗な通信室で例の金髪ゴリラとの通信を行っていた。
「1つ聞きたい事があるのだが・・・」
「何でしょうか?」
「奴はあのパーツを使って事故に遭い、大怪我をするのではなかったのか?」
「あくまでも、可能性の話でしたから。そんな、あからさまな不良品を勝手に取り付けたら、私の手が後ろに回ってしまいますよ」
「だが!お前は!」
「そうですよ。私はあなたに可能性を提示して、あなた自身がそれを判断してゴーサインを出す。そして、その行動に対してあなたが対価を払う。私達の関係はそうだったはずです」
「お前の情報が間違っていたから!」
「あなたの判断も間違っていましたよね」
「うううっ・・・」
ジョージは、自分が優位に立った事を確信した。
グレッグ・オースチンは、地球上でならもう少し派手に動けるのだが、「ステルヴィア」では、自分のような手駒を使って指示を出す事しかできないからだ。
「グレートミッション」関係で食い込もうと考えた時期もあったようだが、この計画には全太陽系の命運がかかっていて、事業の責任者が自分の父親になっていたので、どうにもならなかったらしい。
そして自分が手を引くと宣言すれば、彼は新しい手駒を探さなければならないのであるが、地球上でチンピラを雇うのとわけが違い、エリートの集合である「ステルヴィア」で、手を汚して小銭を手に入れようとする者は、自分のように特殊な事情がある者だけであろう。
そんな僅かなお金で全てを失いかねない危険な行為に手を貸す者など、ほとんど存在しないのだ。
多分「ステルヴィア」中を隈なく探せば何人かはいるのであろうが、目の前の金髪ゴリラはそういう細かい仕事が苦手であるようだ。
「次の手は無いのか?」
「今動くのは危険ですね。チャンスがあるとすれば、(グレートミッション)の本番です。彼が参加メンバーに選ばれれば、手があります」
「まさか!どさくさに紛れて・・・・・・」
「ええ。そうですよ。彼が事故死と処分されれば、あなたの障害は無くなる訳です」
「いや、でもそこまでは・・・」
「(何のかんの言っても、お坊ちゃんなんだな)」
子供の頃から家が貧しく、それなりに苦労してきた彼にしたら、暴漢にでも襲わせて再起不能にすれば良いと考えてしまうのだが、目の前の筋肉ゴリラは、自分で手を汚す事を極端に嫌っているようだ。
「追加パーツがあります」
「またその手か・・・・・・」
「今度は大丈夫です。これは例のパーツの追加分なのですが、強力なレーザー砲とその反動を抑える主翼と独立したバッテリーなど、試作品独特の複雑な機構を抱えています。更にレーザー砲は強度の関係で一定数を発射すると・・・・・・」
「発射すると?」
「暴発します。よくて大怪我。悪くて爆死ですね」
「お前・・・・・・」
「それで、どうしますか?成功不成功は別にして、私が策を行えば報酬が発生しますが・・・」
「・・・・・・。わかった頼む」
「では、策を実行します」
通信が切れ、ジョージがスクリーンの前で考え事をしていると、後ろから誰かの気配がした。
「笙人か」
「そうだ」
「どうせ聞いていたんだろう。お前達の言う通りにやったぞ。しかし、あのパーツを本当に(ビアンカマックス)に装着するのか?」
「あれにしか取り付けられないし、厚木孝一郎が適任だからな」
「他にも、片瀬志麻と藤沢やよいがいるが・・・」
「あの3人は、ほぼ同レベルの天才と言えるが、(ビアンカマックス)は、昔に活躍した兵器に属する物だからな。Gもかなりキツイので、男で体力もある厚木が適任なのだ。我々が(ケイティー)から手を離せない以上、あの特殊な機体は彼に託すしかない」
「だが、レーザー砲の欠点が・・・・・・」
「それなら、既に新素材に交換してあるから大丈夫だ。ケントが御剣に命じてやらせている」
「えっ!御剣に?」
「もうお前達のやっている事は、ケントのみならず彼の父親にも知られているのだ。だから言っただろう。ビック4)を侮るなと」
「そうか・・・・・・」
「もう暫く、あの金髪ゴリラを騙しておいて貰うぞ」
「わかった。もう少しで、手術代の頭金くらいにはなりそうだからな」
「そうか。では」
笙人は、瞬時に通信室から姿を消した。
「俺はともかく、あの金髪ゴリラは道化そのものなんだな。可哀想だが、教えてあげるわけにもいかないし・・・・・・」
ジョージは暗い通信室で、独りそう呟くのであった。
「「「ライトニングジョースト?」」」
「そうよ。ライトニングジョーストよ」
合同体育祭も無事に終了したいつもの日の午後、実習を終えた俺達にお嬢はこう言った。
「簡単に言うと(ビアンカ)で槍を持って、すれ違いざまにチャンバラをするのよ」
「ふーん。そうなんだ」
実習終了後のXECAFEのテーブルで、お嬢は「ライトニングジョースト」の簡単な説明をしてくれる。
「あ〜あ。また新しい事をやるのか」
「以前なら、それはしーぽんのセリフだったのに」
「しーぽんは、最近絶好調だからね」
「えへへ。テレるな〜」
アリサに言う通りで、最近の1−Bにおいて、「ビアンカ」の実習ポイントのトップ3は、お嬢・しーぽん・俺であった。
総合点では、まだお嬢が少しだけ上であったが、実習内容によっては、俺としーぽんが僅かに抜くというような状況が続いていたのだ。
「今日は、しーぽんに負けちゃったね」
「俺も及ばずだ。今日のMVPだな」
「でも、2人にはまだ勝てない部分も多いから・・・」
「そんな事は無いさ。俺は基本的には、しーぽんには勝てない事になっているからな」
「どうして?」
「(ビアンカマックス)の飛行プログラムの調整ができないから。(ビアンカ)のは少しずつわかってきたけど、あの複雑なプログラムには手も足も出ない」
「そうだね。あれには、御剣先輩もお手上げだって言ってるし」
最近、整備関係に興味を持ち出したアリサが、俺達にくっついて「ビアンカマックス」の整備に参加するようになっていた。
御剣先輩もちょうど助手が欲しかったと言っていたし、アリサは手先が器用で才能もあると御剣先輩が太鼓判を押していたので、願ったり適ったりであったようだ。
「でも、(ライトニングジョースト)は孝一郎君向けだよね。格闘技経験者だし」
「柔道は素手だし、あくまでも、(ビアンカ)の操縦なんだけど・・・」
「でも、町田先輩を倒したじゃない」
「あれは、向こうの油断もあったし、反則に近い攻撃だったから」
「でも、向こうはそうは思っていないわよ。合同実習の時には絶対に指名されると思う」
「そうなんだよね・・・」
確かにお嬢の言う通りであったし、これからの予定としては、明日が「ライトニングジョースト」の実習初日で、数日後には本科生に胸を借りる事になっていた。
「とりあえず、明日は転校生が来るらしいから、そっちに期待しようよ」
「大の情報の速さは相変わらずだな」
「任せてよ」
「でさ、誰なの?転校生って?」
「何言ってるんだよ。この前、聞いたじゃないか」
「あっ!そうだったな」
「風祭りんなです。(ウルティマ)から来ました。よろしく」
翌日、大の情報通りに転校生が来たのだが、転校生は合同体育祭の時に転校するという話を聞いていたりんなちゃんであった。
「風祭はまだ12歳だが、特例として飛び級が認められた成績優秀者だ。お前達も負けないように頑張ってくれよ」
実習前のブリーフィングで、レイラ先生の紹介を受けたりんなちゃんは元気に挨拶をし、他のクラスメイト達から「可愛い」とか「お人形さんみたい」いう声が聞こえてくる。
「りんなちゃん、そのパイロットスーツは特製の奴なの?」
「(ウルティマ)で使っていたの。正式には子供用が無かったから、特注ってやつ?」
「へえ。特別色か羨ましいね」
「えへへ。いいでしょう」
「いいな〜」
「無駄話は終わりにして(ライトニングジョースト)を始めるぞ」
こうして、レイラ先生の指示で「ライトニングジョースト」の実習は始まるのであった。
「ビアンカ」全機が宇宙に出て「ライトニングジョースト」を行う宙域に集合すると、十本の八角形のリングが広がっていき、真ん中の八本の間に電磁バリアーが張られる。
両端のリングにはバリアーが張られず、対戦する「ビアンカ」の駐機場になるようだ。
「始めは、ジョーンズと小田原だ!」
「「了解!」」
最初に指名された2人は、レイラ先生の合図でフィールド内を進んでいくのだが、その速度は恐ろしいほどの低速であった。
「遅っ!」
「あの2人は・・・」
「遅ぉーーーい!」
「初めてだからね」
アリサ、ピエール、りんなちゃん、俺がそれぞれに感想を述べる中、2機の「ビアンカ」は、重力スティックをゆっくりと突き出すのだが、お互いの攻撃がかする事もないままに通り過ぎて行く。
「格好悪い・・・」
「ビビリ過ぎだ」
「次は、音山とタキダだ!」
アリサと晶が小さな声で感想を述べる中、レイラ先生の指示で次の対戦が始まる。
「光太、手加減しないぞ」
「そうだね」
光太とピエールがフィールド内を進んでいき、お互いが重力スティックを構えるのだが、勝負はあっけなく光
太の勝利に終わる。
「光太、さすがだな」
「そう言ってくれるのは、孝一郎だけだけど」
「光太、格好良いじゃん!」
「光太、やるぅ〜」
「「ピエール君、格好悪ぅ〜い!」」
「お前らな!」
光太は、アリサとりんなちゃんに褒められていたが、ピエールは大とジョジョに茶化されていた。
「次は栢山とグレンノースだ!」
「あちゃあ。次は私だよ」
「頑張ってね」
「孝一郎・・・」
「アリサってこういうのが得意そうだよね」
「孝一郎、あとで覚えてなさい!」
「栢山、頑張れよ」
「うん」
俺とジョジョの応援するなか、アリサと晶の「ビアンカ」が交錯し、勝負は晶の勝利で終わった。
「負けちゃったね」
「栢山さん、変な経絡秘孔とか突かれてない?」
「??????」
「私はどういう女なんだ!」
「次!厚木と風祭!」
「よろしくね。孝一郎」
「初心者なので、お手柔らかに」
「私も(ステルヴィア)方式は初めてだよ」
「(ウルティマ)方式ってのがあるの?」
「あるよ。今度自主練習でやろうよ」
「いいよ」
2人が両端の発射口に位置すると発進信号が青になり、俺は「ビアンカマックス」をかなりの高速で発進させる。
「さすがだね。孝一郎は」
「りんなちゃんこそ!」
彼女も俺と負けないくらいの速度で「ビアンカ」を走らせながら、重力ステックの準備を始めた。
「いくよーーー!」
「かかってきなさぁーーーい!」
2機の「ビアンカ」が交差する瞬間、俺はりんなちゃんの攻撃をかわしてから、船尾に重力スティックを叩き付けたのだが、攻撃が浅かったようで少しバランスを崩しただけであった。
「嘘っ!強いなぁーーー!」
「野蛮な事は、得意なんだよね」
「2人とも、続行するんだ!」
「「了解!」」
レイラ先生の指示で俺達は位置を変えて、再び勝負を開始する。
「2本目だ!」
「行くよ!孝一郎!」
2機の「ビアンカ」が交差した瞬間、りんなちゃんの素早い攻撃が俺を襲うが、俺は「ビアンカマックス」のスピードを少し落として、重力ステックでの攻撃をかわしたあとに、船尾に先ほどよりも強めの攻撃を加えて、バリアーに叩きつける事に成功した。
「嘘!何であんな機動ができるの?」
「格闘戦はお任せあれ」
「孝一郎、強い!」
「・・・・・・。まあ、アストロボールの選手選考会の時から、お前の格闘戦能力は高かったからな。さすがは、柔道のゴールドメダリストというわけだ。だが、初めてなんだから無茶をするな!」
レイラ先生は、少し驚きながらも俺の事を褒めてくれたのだが、少し怒られてしまう。
「孝一郎!次は絶対に倒すからね!」
「またの挑戦をお待ちしています」
「次は片瀬と藤沢だ!」
「あんな勝負の後じゃあ、プレッシャーだよ」
「私も今回はその意見に賛成だな」
2人が発進位置に付いてから、発進信号が青になり2機の「ビアンカ」はかなりの速度で前進を開始する。
「ふぇーーー!2人とも速いなーーー!」
「孝一郎とりんなちゃんの時みたいだ」
「しーぽん、上達したよな」
2機の「ビアンカ」が重力スティックを突き出して交差をしたのだが、俺は何かの違和感を感じていた。
そして注目の勝負は、あっけなくしーぽんの勝利で終わっていた。
「さっき、お嬢の速度が・・・」
「どうしたの?孝一郎」
「いや、何でもない」
「あーあ。しーぽんに負けちゃったか」
「やよいちゃん・・・・・・」
しーぽんも、この勝負の結果に何かの違和感を感じているようで言葉を濁したままであった。
実習終了後、俺がいなくなったお嬢を探していると、彼女は公園のベンチに1人で座っていた。
「孝一郎君?」
「後ろからなのによくわかったね」
「勘よ」
「コーヒーだけど飲む?」
「ありがとう」
俺はお嬢に缶コーヒーを渡してから隣に座る。
「しーぽんと接触する寸前に、スピードが少し落ちたよね。何か躊躇ったようなそんな感じ」
「孝一郎君には、お見通しか・・・」
「しーぽんも気が付いていたし、あとで聞いたらりんなちゃんも気が付いていた」
「そうなんだ・・・」
「やっぱり過去の事が原因なの?」
「そうよ。私の事故は、初佳と自主練習でやっていた(ライトニングジョースト)が原因だから・・・。私は事故の時にコックピットブロックごと宇宙に投げ出されてしまって、救助されるまでに一時間もかかってしまったの。負傷して、故障して暗闇になったコックピットブロックに一時間・・・。永遠に感じるほどの恐怖だった。2年で完治したと思ったんだけど、しーぽんの(ビアンカ)の重力ステックを見たら・・・」
お嬢の告白に俺は驚きを隠せないでいた。
これほど恐怖を味わいながらも、再び宇宙に上がる決意をしたお嬢の心の強さにだ。
「そうか。でも、今日だけなんでしょう?」
「えっ?」
「それだけの試練を乗り越えてきた藤沢やよいは、今までとは一味もふた味も違うんだよね?」
「孝一郎君・・・」
「時間が掛かりそうだったら、自主練習にも付き合うからさ。同じ年上コンビなんだから一緒に頑張ろうよ」
「孝一郎君、ありがとう。そうよね。これからの私は今までとは違う」
「お互いに頑張りましょうや」
「お互いに?孝一郎君は初めから上手じゃないの」
「いやさ。さっき笙人先輩から聞いたんだけど、本科生との合同実習で、町田先輩に指名されているみたいなんだ」
「初佳に?」
「アストロボールの時の、あまりのボール捌きの下手さに無視されたと思っていたんだけど、そうでもなかったみたい・・・」
「そうなんだ。大丈夫なの?」
「向こうの方が格上なんだから、胸を借りるとしますよ。まあ、借りれるほどの胸が町田先輩にあるのかという疑問はあるけどね」
「どういう事?」
「せめて、お嬢くらいあればね・・・」
「もう!孝一郎君は!」
「元気でた?じゃあ、俺はこれで!」
俺は言いたい事だけを言うと、素早くお嬢の元から走り去った。
「本当にしょうがない人ね・・・。でも、ありがとう」
「今日は本科生との合同実習を行う。勝てとは言わないが、何かを掴んでくれると嬉しい。胸を借りるつもりで頑張ってくれ」
数日後、本科生との合同実習が行われる事となった。
「ライトニングジョースト」を始めたばかりなので予科生に勝ち目はないのだが、技量の優れた本科生と戦ってコツを掴み、早く腕を上げて欲しいという学園上層部の意向により、今日の実習が行われる事になったらしい。
「まずは、音山だ!」
光太はいつもの通りに「ビアンカ」を普通の速度で走らせていたが、本科生の「ケイティー」の攻撃を受け、いとも簡単にバリアーに激突してしまう。
「本科生が相手だからな」
「そうだよな」
「光太・・・」
俺は何か釈然としないものを感じていたが、次々と対戦は進んでいく。
ピエール、ジョジョ、大、晶、アリサと惨敗を重ね、遂にお嬢の出番となった。
「大丈夫?」
「対策はバッチリよ」
お嬢の「ビアンカ」が本科生の「ケイティー」と対峙すると、発進信号が青になり双方がフルスピードで発進する。
「やはり、(ケイティー)の方がスピードが・・・」
「速ければ良いというわけじゃないさ」
お嬢の「ビアンカ」は、その運動性を生かして「ケイティー」の重力スティックを回避しながら懐に入り込み、バリアーの外に弾き飛ばした。
「凄ぇ!」
「お嬢、やるなーーー」
「孝一郎君、やったよ」
「本当に、凄いな」
「孝一郎君、次は私だよ」
「しーぽん、頑張ってね」
ようやくの初勝利にジョジョとピエールが歓声をあげ、俺がお嬢に技に感心していると、次はいよいよしーぽんの出番である。
「よーし!私も頑張るぞぉーーー!」
「頑張れよーーー!しーぽん」
「ファイト!しーぽん!」
アリサとお嬢の応援する中、しーぽんのオレンジ色の「ビアンカ」は、本科生の「ケイティー」と対峙を始め、発進信号の合図で前進を開始する。
「もう既に片瀬と藤沢の実力に、それほどの差はないんだな・・・」
レイラが密かに呟くなか、しーぽんは予科生とは思えない動きで、「ビアンカ」の運動性を生かした小刻みなスピードとコースの変更を繰り返しながら「ケイティー」を翻弄して、バリアーに弾き出す事に成功していた。
「やったーーー!2連勝だ!」
「このまま3連勝に!」
「無理でしょう」
「次は厚木だ!相手は手強いぞ」
「変えて貰いたい気分です」
「対戦を楽しみにしていたわよ」
俺の「ビアンカマックス」の反対側には、青に着色された「ビック4」仕様の「ケイティー」が鎮座していた。
そう、俺の対戦相手は、あの町田初佳であった。
「無理に指名しなくても良いと思うのですが・・・」
「アストロボールの練習が立て込んでいて、再戦ができなかったから指名させて貰ったのよ。勝ち逃げは、この私が許さないわ!」
「あれはゴールに辿り着けなかった、俺の負けなんですけど・・・」
「それでも、私を退場に追い込んだあなたを倒させて貰うわ」
「それでは、スタートしろ!」
レイラ先生の合図で俺は「ビアンカマックス」の速度を上げる。
今日は授業中で「通常モード」にしてあるので、速度は普通の「ビアンカ」と全く変わらなかった。
「町田!相手は予科生なんだぞ!」
「えっ!」
突然、「ビアンカマックス」のセンサーに警報音が鳴った。
どうやら、すれ違い様などではなく、向こうは本当の格闘戦をお望みであるらしい。
「町田先輩!ルールは守りましょうよ!」
「そんな温い事では、あなたの真の実力がわからないわ!」
1本目は、俺の反応が僅かながらに遅れたせいで、「ビアンカマックス」の後部への一撃をかわす事に失敗してしまい、バランスを崩しながら反対側逃げ込む事になってしまう。
「そうですか。本気でやるんですね。綺麗にコースを飛ばすとか、ルール通りの(ライトニングジョースト)ならいざ知らず、格闘戦なら負けませんよ!」
「それでこそ、あなたよ!」
2本目は、俺の方が町田機の懐に潜り込む事に成功したのだが、彼女は「ケイティー」の速度を瞬時にあげてその場を離脱してしまう。
更に回避には成功していたが、再び機体後部への攻撃を仕掛けられてしまった。
「強いな・・・・・・。さすがは、(ビック4)」
「あんなに簡単に懐に入り込まれるなんて・・・」
「次で最後だ!3本目!」
レイラ先生の最後の合図で、俺達は前進を開始する。
これが最後の勝負になるので、町田機からは更に強い気迫が感じられるようになる。
「(認めない!ビアンカに乗って僅か2ヵ月の予科生に負けるなんて!絶対に認めない!)」
「(何て気迫だ!グレッグ・オースチンの比ではないな)」
町田先輩の「ケイティー」は、今までに見た事もないような機動で、俺の「ビアンカマックス」に迫ってくる。
「マジかよ!だがな!」
俺は町田先輩の「ケイティー」の連続攻撃をかわしながら、擦れ違い様に攻撃を仕掛けたのだが、重力スティックは町田機の後部に掠っただけであった。
「あーあ。浅かったか」
「そんな・・・。倒せなかったばかりか、攻撃を受けるなんて・・・」
「よーし。これで終了だ」
「待ってください!勝負はまだ!」
「町田、もう時間なんだ」
「ですが!」
「おいおい。(ビック4)ともあろう者が、予科生ごときにそんなにムキになるな」
「はい・・・・・・」
結局、俺と町田先輩との勝負は引き分けという結果に終わるのであった。
「孝一郎君、凄いわね。あの町田初佳と引き分けるなんて」
合同実習終了後、俺達はいつもの通りにXECAFEでお茶を飲みながら話をしていた。
「やっぱり、あの選手選考会の時は町田先輩の油断があったんだな。こちらの攻撃が全然当たらない」
「あんたねえ。倒されないだけで、大したものなのよ」
「俺は、回避と受けの専門家だからね」
「そうか。あの時も、(ビック4)の攻撃をかわし続けてから、町田さんの突進を・・・」
「そうそう。お嬢の言う通り。だから通常の(ビアンカ)の飛行では、お嬢や最近のしーぽんには勝てないのさ。俺は野蛮な事向きなんだよ」
「でも孝一郎君は、(ビアンカマックス)を完璧に使いこなしている」
「あれは、Gと操作が複雑な事がネックの機体なんだ。だから、俺に回されたんだと思う。もしその弱点がなくなったら、お嬢としーぽんの方が上手く操縦できるさ」
「ふーん。じゃあ、私も駄目だね」
「そうだね。りんなちゃんには一番向いていない機体だね。(ビアンカマックス)は」
いくら操縦技術が天才的とはいえ、あのGは12
歳の女の子には酷であろう。
「でさ。いつ勝負してくれるの?」
「今日は疲れたから明日以降ね」
「町田さんとガチンコでやったから仕方がないよね」
「まあね」
その後みんなと別れて、買い物をしてから自分の部屋に戻ろうとすると、シミュレーションルームで光太が1人でシミュレーションをやっていた。
「へえ、あいつにしては珍しい」
俺は、彼がシミュレーションを終えてから話しかける事にする。
「光太じゃないか。居残りなんて珍しいな」
「たまにはね」
「それで、成績は・・・・・・」
俺がディスプレイを覗き込むと、ランクSの表示とアナウンスが流れていた。
このランクSは、一つでもミスをするとランクAになってしまうので、「ビック4」の面々ですらめったに取れないという幻の評価であった。
「ふーん。凄いな」
「驚かないの?」
「前からわかっていたから」
「でも僕達が再会したのは、8年ぶりだったじゃない」
「昔のお前は天才的だったからな。近所のお兄さんにみんなで水泳を習った時に、お前だけはその日の内にクロールと平泳ぎをマスターした。俺は3日かかり、他の連中はもっと時間がかかった。近所にある一番大きな木に登った時も、お前は初日でてっぺんまで登ったが、俺は3日もかかった。自転車の時もそうだ。俺は正直、今柔道で戦ってもお前に負けるような気がする」
「まさか」
「お前が何でその能力を隠しているのかは、俺の予想の域を出ないが黙っておいてやるよ」
「孝一郎、実はお願いがあるんだけど」
「何だ?」
「2人きりで話がしたい」
翌日、俺達は急用ができたと言ってりんなちゃんに謝ってから、「グレートミッション」用に設置が進んでいるタツオノフジェネレータから離れた宙域で対峙していた。
俺としては、2人になれる場所などいくらでもあると思っていたのだが、光太は自主練習名目で、この滅多に誰も来ないポイントを指定してきたのだ。
日頃の彼では、ありえない行動パターンである。
「(ライトニングジョースト)用のリングないから、このポイントで交差して一瞬で勝負を決める事にする」
「それで、その勝負は授業形式でやるの?それとも、町田先輩のように自由にやって良いの?」
「光太にしては、やる気満々だな。話だけじゃなかったのか?」
「勿論、孝一郎に聞きたい事があったから呼んだんだよ。そして、僕は孝一郎と戦ってみたくもなったんだ」
「嫌いなんじゃないの?(ライトニングジョースト)は」
「ライトニングジョースト」の実習終了後に、光太は確かに「あまり好きになれない」と語っていたはずだ。
それを押して俺に勝負を挑んでくるという事は、何か特別な事情があるのであろう。
「では、勝負を始めるぞ!」
2機の「ビアンカ」は、所定の位置に付いてから双方の合図で勝負を開始する。
「僕は孝一郎に聞きたい事があった!」
「何をだ?」
「片瀬さんの事だよ。孝一郎は、本当に片瀬さんに恋愛感情を持っていないの?」
「持ってない」
「本当に?」
「どういう事だ?」
「孝一郎は、いつも片瀬さんと一緒にいるじゃないか!」
1本目は、お互いの攻撃が回避されて引き分けとなったが、俺には彼が本気を出しているようには思えなかった。
「そりゃあ、この(ビアンカマックス)はしーぽんの助けがないと稼動しないし、アストロボールの時も、同じメンバーだったからで・・・」
「それだけじゃない!僕はいつも2番目なんだ!片瀬さんは、いつも孝一郎の事ばかり気に掛けているし、孝一郎もそうじゃないか!」
「俺が、しーぽんの事を気に掛けているのは・・・」
「でも、片瀬さんは孝一郎の事が好きなんだ。だから、僕は・・・」
「光太・・・・・・」
光太は声を荒げなかったが、俺に対しての不満を述べていた。
それは、昔の彼の事を知っている俺にしたら、怒鳴られているのに等しかったのだ。
「でもそれは、お前が悪いんだろうが」
「どういう事?」
「お前には俺を超える才能があるのに、それを隠してきた。しーぽんが困っていた時に、ちゃんと手を貸したのか?変な助言ばかりでなく、お前なら俺よりも上手に手を貸せたはずなんだ。アストロボールの時もそうだ。俺の代わりにお前が選手になって、彼女に手を貸すという選択肢もあったはずだ。でもお前はそれをしないで、普通の予科生のふりをしていた。そんなにしーぽんが好きだったら、ちゃんとその才能を表に出して彼女を助けてあげれば良いんだ。俺の意見は間違っているか?」
「それは・・・・・・」
「俺はお前みたいに器用な真似はできないし、しようとも思わない。それに、しーぽんが困っていたら無条件で助けるさ。ただそれだけの事だ」
2本目の勝負は、俺の攻撃は全てかわされ、光太の攻撃が「ビアンカマックス」の後部に命中してバランスを崩してしまう。
「(やはり、光太は・・・)でもその過程で、2人が付き合うという選択肢もあるよな」
俺は光太の真の実力を知るために、わざと彼の事を挑発する。
「ふざけるなーーー!」
その後の勝負は一方的な俺の敗北であった。
最初の内は、俺は光太の動きが見えずに一方的に叩きのめされ、後半になって少し動きが見えるようになっても、その動きに体が付いていかなかったのだ。
「まさか、ここまでとは・・・。完敗だ・・・」
俺はあまりの事に、ショックで言葉があまり出なかった。
「孝一郎・・・。どうして、(マックスモード)に移行しなかったの?」
「それでも、結果は同じだと思ったからだ」
俺は光太の真の実力に驚いていた。
昨日戦った町田先輩ですら、子供に思えるほどの洗練された操縦テクニックと、これだけの勝負を行っても、顔色一つ変えずに呼吸すら乱れない超人的な体力。
光太を見ていると、自分が今までにしてきた事を無意味に感じてしまいそうになるのだ。
「しーぽんは一生懸命に高みを目指している。多分お前には勝てないだろうけど、近づく事はできるはずだ。だから、ちゃんと向き合って教えてやれよ」
「孝一郎・・・」
「それとな。俺ともたまには勝負してくれ。俺はやっぱり負けるのが嫌なんだよ」
「わかったよ。今度からも本気で勝負するよ」
「話は終わりか?」
「そうだね」
「じゃあ、帰るか」
「光太!孝一郎!ずるいよ!私も混ぜてーーー!」
「りんなちゃんか!」
俺達が「ステルヴィア」に帰還しようとすると、りんなちゃんから通信が入り、彼女の搭乗していると思われる「ビアンカ」がこちらに接近してくる。
「孝一郎、勝負!」
「俺は無理。光太に頼んでくれ」
俺は光太との勝負で体力を消耗し尽していたし、「ビアンカマックス」のバッテリーも残り少ない状態になっていたので、光太と練習をするようにお願いする。
「わかった。僕も疲れているから少しだけだよ。りんなちゃん」
「うん、わかった。でも、光太も凄いんだね。しーぽん、孝一郎、光太と3人もライバルができちゃった」
「僕が?」
「私を倒した孝一郎を圧倒するなんて凄いじゃない!何か物凄いライバル出現ってやつ?」
「ははは。そんな事はないよ」
「じゃあ、(ウルティマ方式)で少しだけね」
「(ウルティマ方式)?」
「何もない宇宙空間で、攻撃側と守備側に別れて10分で交代するの。まずは、私が攻撃するね!」
「ちょっと、りんなちゃん!」
りんなちゃんの「ビアンカ」は、光太の「ビアンカ」に攻撃を仕掛け始めるが、光太は彼女に悟られない程度に手加減をして、伯仲した勝負を展開していた。
「光太らしいな」
俺が「ビアンカマックス」で見学している前で2人の勝負は続いていたが、10分が経ち、今度は光太側の攻撃になるようだ。
「光太!私を捕まえてみなさいよ!」
「やれやれ」
光太は苦笑しながら、りんなちゃんの「ビアンカ」を追跡していたが、急に大きな声をあげる。
「りんなちゃん、そっちは作業中のエリアだ!戻ってくるんだ!」
「光太、駄目だ。夢中になっていて、気が付かないらしい」
「まずいな。あそこはジェネレーターの展開作業中なのに・・・」
俺も急いで「ビアンカマックス」を現場に急行させると、りんなちゃんは展開中のジェネレーターに向かって全速で飛行を続けていた。
「りんなちゃん!危険だ止まるんだ!」
「えっ?」
光太の注意で気が付いたのか、りんなちゃんは回避運動に入るのだが間に合わなかったらしく、「ビアンカ」の背中の部分をジェネレーターに接触させてしまう。
「りんなちゃん、大丈夫?」
「うん。何とか・・・」
「とにかく、修理に戻らないと」
「あーあ。こんなに壊して大目玉だな」
通信ウインドウに気まずいような笑みを浮かべているりんなちゃんを確認した俺達は、「ステルヴィア」へと引き上げようとするのだが、彼女の「ビアンカ」には更なる不幸が待ち受けていた。
「孝一郎、光太。(ビアンカ)がいう事を聞かないの・・・」
「何だって!」
りんなちゃんの一言で、俺達は大変な事件に巻き込まれた事を知るのであった。
「(ビアンカ)の遭難信号を受信!(ウルティマ)所属の(ビアンカ)です!」
ジェネレータの展開作業を監督していた管制室は、突然のアクシデントで大騒ぎになっていた。
「(ウルティマ)所属の?風祭か!」
「おい!レイラ!どういう事なんだ!」
管制室に詰めていた迅雷は、同じく当番で管制室にいたレイラに事情を問い質していた。
「音山と厚木の自主練習に付き合うというから、許可を出したんだ・・・」
「珍しい組み合わせだな。なら、近くに!」
「厚木機と音山機を確認!ですが、厚木機は・・・」
「どうしたんだ?」
「推進部にシステムエラーです。現時点で救助可能なのは、音山機のみです」
「そんな・・・」
「救護艇の用意だ!」
レイラの指示が、管制室中に響き渡った。
「孝一郎!もっと早く!」
「光太、俺をけちょんけちょんに倒しすぎだ」
「どういう事?」
「推進部にエラー表示が出た。騙し騙し飛ばしているが、りんなちゃんに追い付けない」
先ほどから2機でりんなちゃんを追跡しているのだが、俺の「ビアンカマックス」は、光太との勝負で予想外の損傷を受けたらしく、「マックスモード」を使っても、「ビアンカ」以下のスピードしか出せない状況に追い込まれていた。
「そうなんだ。孝一郎も駄目なんだ」
「でも、光太がいる。この際はラッキーだったと言うべきかな」
「そうだね。孝一郎を圧倒する実力があるんだから」
「りんなちゃん」
「もう、次のジェネレーターへの衝突まで60秒しか無いんだ。こうなったら、光太に任せるよ」
「でも、僕は・・・」
「光太は私を上回る天才じゃないの。このくらい余裕だって。私信じているから」
「りんなちゃん・・・」
「光太!ここは気合を入れて頑張って、しーぽんにいいところを見せてやれよ」
「へえ、光太ってしーぽん狙いなんだ」
「・・・・・・。わかった。排除したコックピットブロックをマニュピレータで受け止める」
光太は2人の軽口を聞き流しながら、確率計算を行ったのだが、その活率は15.7%というかなり低いものであった。
「結構、確率が高いな。俺だったら、半分以下だったと思うぜ」
「私もだね」
「りんなちゃん、本当に良いの?」
「私は光太を信じるよ」
「わかった」
光太はそれだけを言うと、りんなちゃんの「ビアンカ」の下に回り、マニュピレータのアーム部分をコクピットブロックの真下に持って行く。
「少しでもずれたら・・・」
高速で飛行している「ビアンカ」同士の速度を合わせ、同時にマニピレーターの操作を行うという、作業を神がかり的な作業を行っている光太の額には、珍しく汗が噴き出していた。
「りんなちゃん、今だ!」
「行くよ!」
「間に合えーーー!」
光太の合図と共にコックピットブロックが排除され、それを光太の「ビアンカ」のアームががっちりと掴み取る。
「やった!成功だ!」
「まだだ!」
救助の過程で光太の「ビアンカ」も衝突コースに入っていたので、りんなちゃんの「ビアンカ」の真横に移動してから、重力スティックを風祭機に押し付ける。
重力ステックは負荷のせいで分解してしまったが、その勢いで2機の「ビアンカ」のコースを変える事に成功していた。
光太はりんなちゃんを救うだけでなく、ジェネレーターへの損傷を防ぐ事にも成功したのだ。
「ふう、何とか成功したな」
「光太!やったな!」
「凄いね。光太。ありがとう」
俺とりんなちゃんが光太を賞賛している声に混じって、管制室からも大きな歓声が聞こえるのであった。
「私のせいで御免なさい」
「俺は怒られ慣れているから大丈夫」
「仕方がないよ」
「ステルヴィア」の格納庫に戻った俺達は、レイラ先生を筆頭とする教官達の説教を覚悟しながら、それぞれの機体を降りる。
「こうなれば一蓮托生でしょう」
「そうだね。一緒に謝ろう」
「孝一郎、光太。ありがとう」
3人で格納庫の中心部に向かうと、そこにはいつものみんなとレイラ先生が待ち構えていた。
「レイラ先生!すいませんでした」
「「すいませんでした」」
3人でレイラ先生に深く頭を下げてから顔をあげると、意外にもレイラ先生は笑顔を浮かべていた。
「風祭、良く無事に帰ってきたな。罰は後日言い渡すから今日は休め」
「はい!」
「(良かった。それほどの罰は無さそうだな)」
「(そうだね)」
俺と光太がアイコンタクトで会話をしていると、レイラ先生は次にこう言った。
「音山と厚木は、巻き込まれたようなものだからな。それに、音山は良くやってくれたな」
「(罰は後日どころか、無さそうだな)」
「(良かったね)」
「だがな・・・」
その時、急に風向きが変わった。
「これだけの事件で、処罰者が無しという事も不可能なんだ。(ウルティマ)から来たばかりの風祭に、重い罰を負わせるのもどうかと思ったので、お前達には通信レンズ磨きを命じる!」
「「はははは・・・」」
レイラ先生からの突然の罰当番の宣告に、俺達は言葉も出なかった。
「こりゃあ、絶景だねーーー!」
「孝一郎、サボっていると終わらないよ」
「わかりましたよ」
あの後、俺達は自動クリーナーを使って通信レンズを一生懸命に磨いていた。
「あーあ。みんな、絶対にどこかで俺達を観察しているぜ」
「片瀬さんの時もそうだったしね」
「ところで、あとどのくらい残っているのかな?」
「まだ、半分以上残っているけど・・・」
「とほほ・・・・・・」
「アリサ、掃除歴10年の経験を生かして助けないの?」
「しーぽんは、愛しの彼を助けないの?どちらかは、わからないけど」
「アリサ!」
「しーぽん、まだ決めて無かったの?」
「りんなちゃんまで!」
「りんなちゃんは、好きな人でもできたの?」
「うん。しーぽんと孝一郎は私のライバルで、光太は私を助けてくれた王子様なんだ」
お嬢の質問に、りんなちゃんは顔を輝かせながら答える。
「えっ!りんなちゃんは、光太が好きなんだ」
「しーぽんとは、光太を取り合うライバルでもあるんだね」
「そうなんだよ。色々と大変なんだ」
ジョジョとピエールの質問にりんなちゃんは、躊躇う事無く答える。
「私は、光太君とはただの友達だから・・・」
「じゃあ、私が貰っても良いよね」
「(うーん。しーぽんは孝一郎が好きで、光太はしーぽんが好きで、りんなちゃんは光太が好きなのか。ますます複雑になっていくな・・・)」
大がそんな事を考えていると、お嬢が重要な事を発表する。
「そういえば、この騒ぎですっかり忘れていたけど、(グレートミッション)の参加メンバーに、我らがしーぽんと音山光太君と厚木孝一郎君が選ばれました」
「すげえ!予科生から3人もなんて!」
「3人共凄いからな」
「特に今日の光太は凄かった」
「でも、罰当番をやっているんだな」
晶の冷静な一言で、全員の視線が外で通信レンズを磨いている2人に向く。
「地球は大丈夫かな?」
「あの2人は、参加するだけだからさ」
ジョジョが心配そうに言うが、ピエールは気にならないらしい。
「そうだよね。しーぽんに期待しましょうよ」
「しーぽん、ファイト!」
「じゃあ今日は、3人が(クレートミッション)のメンバーに選ばれた事を祝って、パーティーをしましょう」
「いいね。それ」
お嬢の提案にアリサが賛成の意見を述べる。
「場所はどうしようか?」
「(お好み焼屋)にしましょう!この前、孝一郎が焼きそばを食べ損なったって怒っていたから」
「アリサは、孝一郎君の事を良く見ているのね」
「そんな事はないって!あいつが五月蝿かったから、覚えていただけ」
「とりあえず、席を予約してから2人を迎えに行きましょう」
「「「「「賛成!」」」」」
「あの2人と片瀬さんが、(グレートミッション)の参加メンバーに選ばれるなんて・・・」
ちょうど同じ頃、町田初佳も別のエアロック内から通信レンズ磨きをしている2人を観察していた。
「厚木孝一郎!最初の対戦で私を倒し、次の対戦でも勝つ事ができなかった・・・。音山光太!私にもできなかった事をいとも簡単にやり遂げてしまった・・・。今年の予科生はどうなっているの?」
初佳は複雑な表情で2人を眺めながら、更に思考の海に沈んでいく。
「それでも、私が町田初佳であり続ける限り、出る杭は打たねばならない・・・。それが私に課せられた運命だから・・・」
初佳は、いつまでも複雑な表情で2人を見つめ続けていた。
「御剣君、調子はどうだい?」
ケント・オースチンは、さきほどの騒ぎで損傷を受けた「ビアンカマックス」の整備と改良を行っている御剣ジェットの元を訪れていた。
ちょうど良い機会なので、先の追加パーツの内、巨大なレーザー砲を除くパーツの装着作業を行わせていたからだ。
勿論、まだパイロットには秘密にしてあったが・・・。
「とりあえず、レーザー砲は最後に取り付けますので、機械面はこれで完成です」
「ますます(ケイティー)に似てきたね」
「だから、開発中止になったんですよ」
「でも、性能は13%増しだったっけ?」
「ですが、このパーツセットのみで(ケイティー)の1.5倍のコストがかかります。普通の頭をしているのなら、(ケイティー)の数を揃えますよ」
「でも、君はこの(ビアンカマックス)が好きなんだろう?」
「ええ。僕の(ビアンカマックス)は最高ですからね」
「僕のなんだ」
「例え厚木君と片瀬さんが、僕を無視して仲良く(ビアンカマックス)の整備を行っていようと、この(ビアンカマックス)だけは僕を裏切りません」
「・・・・・・」
「あとは、片瀬さんにプログラムの調整を行って貰えば完成です」
「厚木君も(グレートミッション)のメンバーに選ばれた事だし、これからが楽しみだな」
「そういえば、ケント先輩は厚木君と仲良くなれました?」
「非常に厳しい質問だね・・・」
「僕ですら、そこそこ仲良くなれているのに駄目駄目ですね」
「まさか、君に負けるなんてね・・・」
「僕は意外と人格者ですから」
「・・・・・・」
ケント・オースチンの苦悩の日々はまだ終了していなかった。
「では、3人の(グレートミッション)参加メンバー選出を祝って乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
罰当番終了後、俺と光太としーぽんは、例のお好み焼き屋でお祝いのパーティーを開いて貰っていた。
「しーぽん・光太・孝一郎と我がクラスから3人も選ばれるなんて快挙じゃないの。あちち!」
「アリサは慌て過ぎ・・・」
俺は急いでお好み焼きを頬張って、また口の中を火傷したアリサにツッコミを入れる。
「孝一郎君、ちゃんと焼きそばも焼くからね」
「お嬢、ありがとう」
「光太も焼きそば食べる?」
「そうだね。貰おうかな」
りんなちゃんは、罰当番から戻ってきた光太に必要上に纏わり付くようになり、ここでも光太の隣に座って、お好み焼きを取り分けたりしていた。
「孝一郎、これは一体・・・」
小声で相談があると光太に言われて2人でトイレに行くと、そこで光太にこう切り出された。
「つり橋効果という奴かな?」
「つり橋効果?」
「つり橋を男女で渡ると恋をするという奴だ。つり橋を渡る緊張感と恋の緊張感が似ているという理由で、恋に陥り易いと言われている」
「つまり、ピンチだったりんなちゃんを僕が救ったから、りんなちゃんは僕を好きになっていると?」
「そういう事だな」
「それで、どうしたら良いんだろう?」
「ハッキリ言えば。(僕はしーぽんが好きだ)って。でも、りんなちゃんも知っているからな」
「そんな・・・」
「りんなちゃんも可愛いじゃないの。まだ幼いという欠点もあるけど、育てていく方向で」
「孝一郎!」
「ごめんごめん。でも、光太次第なんだぜ。結局は」
俺自身は光太としーぽん仲を応援したいのだが、肝心のしーぽんの気持ちが俺に向いたままなので、こればかりはどうにしようもなかったのだ。
「とにかく、俺はしーぽんに告白とかをされても全く受け入れる気が無いから、そのつもりで頑張ってくれよ」
「わかったよ」
そんな事を言っている俺も、席に戻ると大変な出来事が待ち受けていた。
「孝一郎君。はい、焼きそばができたわよ」
「孝一郎、私も焼いてみたから食べて」
「孝一郎君、私のも食べてね」
「・・・・・・・・・」
俺は、半分諦めの表情でりんなちゃんに焼きそばを食べさせて貰っている光太を横目に、3人前の焼きそばを食べて胸焼けを起こしたのであった。
あとがき
大きな流れは変えられませんが、細かい点を変えてあります。
ここが原作と違うと言われても、わざと変えてありますので、苦情等は無しでお願いします。