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「宇宙への道第6話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-10-16 08:44/2006-11-20 17:18)
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(10月某日早朝、「ステルヴィア」内通信室)

「それで、例の工作の方は順調なんだろうな?」

「ええ。ご命令通りに手配しましたよ」

早朝の無人の通信室内で、例の金髪ゴリラと1人の本科生との密談は続いていた。

「更に濃密になり、タイマーによって突然動き出すデブリ。厚木の奴の負傷・リタイアは確実だな」

「可能性は高まりましたね」

「全太陽系中に放映されて、大恥をかきやがれ!」

「そうなるとベストですね。それと、約束の報酬の方をお願いします」

「わかった。振り込んでおく」

そこまで言うと、金髪ゴリラは通信を切ってしまう。

「やれやれだな」

「ジョージ、上手く行ったのか?」

「笙人か。ああ。(デブリ競争)のコース設定は俺の仕事だからな。多少、デブリを増やして誤魔化すさ。それに、厚木が引っかかってリタイアするかは運次第だが・・・」

「本来なら無料奉仕の、体育祭実行委員の仕事に報酬が出るんだ。羨ましい限りだな」
 
「よく言うぜ、俺は結構ヒヤヒヤしながらやっているんだ」

「だが、そのカラクリに奴が気が付いても文句も言えまい」

「自分のやっている事は、悪巧みだからな」

「そういう事だ」

「それで、今年の(デブリ競争)はどうなりそうだ?」

「去年よりも、リタイア者が増えるだろうな。俺が多めにデブリを設置したから」

「元々、半数が脱落するレースだ。誰も気付くまい」

「それに、マスコミの目があるからな。あの金髪ゴリラも、当日の直接行動は控えろと言ってきている」

「体の割には、度胸の無い事だな」

「事が露見すると、大変な事になるからな。世間は誤魔化せても、父親の目は誤魔化せないらしい」

「それが、厚木とケントの救いではあるのだが・・・」

早朝の通信室で、笙人とジョージの会話は続くのであった。


(10月29日、アストロボール練習フィールド内)

「厚木君!ボールが行くよ!」

「了解です」

補欠ながらアストロボールの選手に選ばれた俺は、レギュラーに選ばれたしーぽんと共に、「ビック4」と練習を行っていた。
ところが俺には、誰も知らない欠点が存在していたのだ。

「あれ?」

パスされたボールは反重力スティックをすり抜け、俺はボールのキャッチに失敗する。

「厚木君!またなの?」

「球技って苦手なんですよね」

「早くボールを拾ってパスしなさい!」

「了解」

俺はボールを拾って町田先輩にパスをするが、ボールは見当違いの方向に飛んでいく。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「孝一郎君・・・・・・」

「俺、補欠で良かったですね」

「本当ね」

俺は町田先輩の嘘偽りの無い返事を聞いた。


練習終了後、俺達は「ビアンカマックス」の整備と調整を行っていた。
俺の乗っている「ビアンカマックス」はまだプログラムが未完成で、機体を動かしながらしーぽんと協力して、細かい設定の変更を繰り返していたのだ。
おかげで、最近は2人でいる機会が増加していた。

「孝一郎君でも、苦手な事があるんだね」

「しーぽんは、ボールの扱いが上手で羨ましいな」

「そんな事も無いんだけど」

「どうせ俺は補欠だから出番は無いさ。それに 、俺には(デブリ競争)があるからさ」

「そっちの方は順調だもんね。タイムも大分縮まったし」

「そうだな。さてと、今日はこれで終わりかな?」

「こっちも終了したよ」

「毎日悪いね。普通の(ビアンカ)のプログラム調整なら少しはわかるんだけど、こいつは、さすがにお手上げだから・・・」

「この(ビアンカマックス)は、孝一郎君が操縦して、私が調整をしているんだね」

「そうだな。しーぽんには、本当に感謝してるよ」

「私こそ・・・・・・」

「しーぽん!迎えに来たよ!」

「アリサ!」

「あれれーーー!?私はお邪魔だったかなぁ?」

アリサの意地悪な質問で、しーぽんは顔を真っ赤にする。

「そっ、そんな事はないよ」

「大達が待ちくたびれてるわよ。恨めしそうに回ってるお皿を眺めてるの」

今日の夕食は、みんなで回転寿司に行く事になっていたのだが、先に到着した大達が待ちくたびれているらしい。

「先に食べていれば良いのに」

「そうもいかないんじゃないの?」

「寿司は良いんだけど、回って無い方が好みなんだよね」

「学生の癖に贅沢抜かすな!」

「わかりましたよ。さて、行きましょうか?アリサお嬢様」

「私もお腹空いたよ」

「しーぽんはさび抜きで、デザートのプリンが大好物なのかな?」

「もう!孝一郎君は、子供扱いして!」

「それでは行きますか」

その後3人で寿司屋に向かったのだが、なぜか途中で2人に両腕を組まれてしまい、店内でピエール達の厳しい追求を受ける羽目になってしまった。

「遅れてきた上に、両手に花って事か!?」

「俺が組んだんじゃねえよ。おい!アリサ!」

「ごめんごめん。寄りかかっていると楽だからさ」

「私もそうかな」

「うううっ。しーぽんまで・・・」

「孝一郎君は、女の子に節操が無いだけなのよね」

「お嬢の一言がキツイ・・・」

回転寿司のテーブル席で、俺はお嬢とピエールに厳しい追求を受けていた。 

「ジョジョ、助けて・・・」

「栢山はタイムが良いからなーーー。羨ましいぜ」

「そうでもないわ」

「今度、教えてくれよ」

「私は人に教えられるほど上手じゃない」

「でもさ。俺に教えてみると壁が突破できるかもよ」

「そうかしら?」

「頼むよ」

「わかったわ」

ジョジョと栢山さんは2人の世界を作っていて、俺の苦境に気が付いていなかった。

「光太・・・・・・」

「へえ、孝一郎は相変わらずか。昔から野球とかドッジボールが苦手でさ」

「そうなんだ」

光太もしーぽんと楽しそうに話をしていた。

「大・・・。は聞くだけ無駄だったか・・・・・・」

大は既に20皿目の大台に突入していた。

「おい!アリサ!」

「ひゃに?」

「騒ぎの元凶が、のん気に寿司食ってるんじゃねえ!」

「アリサちゃんは、体育祭で司会をしないといけないから、体力を付けているのです!」

「じゃあ、ウニを食え!」

「こんな物が食えるかーーー!」

「何ぃ!ウニを食わないで何を食うんだよ!」

「タマゴ・カッパ・シーマヨ・・・・・・」

「おーーーっ!神様!このおバカなヤンキーを救いたまえ!」

「生魚が食べられないのよ!」

「はい。じゃあ、タコね」

俺は、茹でたタコの乗った寿司の皿をアリサに差し出す。
 
「タコなんて、アメリカ人は食べないのよ!」

「寿司の意味無し!」

「うっ!孝一郎、それは何?」

「カニミソだ」

「カニなの?」

「頭の部分のミソだよ」

「日本人って理解に苦しむわ」

「うわっ!俺だけじゃなくて、日本民族をバカにしている!」

「お嬢、何か僕達って無視されてる?」

「そうね。ちょっと頭にきたかな?」

「そうだよねって!えっ!」

既にお嬢の食べた皿の数が20枚を超えている事に、ピエールは驚きを隠せないでいた。

  

 

 


(10月3日、「ステルヴィア」周辺宙域)

「さあ。皆様が待ちに待った、5大ファウンデーション対抗合同体育祭もいよいよスタートとなります!ちなみに、この放送は全太陽系の放送局と連動して、宇宙中に放送されています。今日の実況は放送部期待の新人アリサ・グレンノースと」

「全女生徒のしもべ、ピエール・タキダです」

「アリサって、本当に放送部に所属していたんだ」
 
「ピエールもそうだよ」

「ピエールは向いているよ」

「ステルヴィア」の周辺では花火が多数咲き開き、各国の言葉で書かれた応援用の電光掲示板が飾られ、「ケイティー」の曲芸飛行や飛行文字が彩りを添えていた。

「それで、孝一郎君の出番はいつなの?」

巨大なスクリーンの設置された特別会場で開会式に参加した俺達は、式の終了後も席に座って話をしていた。

「これから、すぐだよ」

「僕達と同じか」

開会式の直後から各競技の予選が始まるので、全員が席を立つ事にする。

「意外と落ち着いているわね」

「まあね」

「プレッシャーに強い男なんだろ。なにせオリンピック選手だった男だ」

「ジョジョ、それは間違いだ。俺も緊張くらいするさ」

「そうなのか?」

「ああ。大きな試合になると膝が震え、口の中が乾き、頭の中が真っ白になるんだ」

「意外と普通なんだな。でも、それで良く勝てたな」

「解決策を編み出したからだ」

「凄ぇ!俺にも教えてくれよ」

「僕にも教えて」

「大が緊張なんてするのか?」

「孝一郎は失礼だな。僕だって、緊張くらいするさ」

「では教えよう。まず、目に入る人全てを虫に例えるんだ!それも、汚くて人気の無い虫の方が良い。ミミズ・ダンゴムシ・クモ・ナメクジ・カマドウマなどが有効だ。そして(彼らが何をしようと、踏み潰してくれるわ!)と思えば、ほら緊張しない!って・・・・・・」

俺が周りを見渡すと、そこにはお嬢と栢山さんしか残っていなかった。

「あれ?みんなは?」

「呆れながら予選会場に向かったわよ」

「私も呆れて物が言えないわ」

「うわっ!栢山さんが冷たい!そして、しーぽんも残っていないとは・・・」

「(ビック4)と打ち合わせだって」

「そういえばそうだったな」

「厚木は出なくても良いのか?」

「(デブリ競争)の予選が始まるし、俺は戦力外だから・・・」

結局俺のボール捌きの下手さは改善されず、既に諦められていた。
特に町田先輩は、最初は懸命に指導をしてくれたのだが、俺のあまりの進歩の無さに呆れられてしまったのだ。

「あのボール捌きじゃねぇ・・・」

「恐ろしいほどのノーコンだし・・・」

この時のお嬢と栢山さんには、一欠けらの優しさも存在しなかった。

「俺は(デブリ競争)で頑張るんだよ!」

「予選落ちしないように頑張ってね」

「お嬢、何か棘が無い?」

「そんな事は無いわよ」

「あの回転寿司屋での1件以来、やよいの機嫌が悪いんだ」

「晶ちゃん!」

栢山さんの冷静な一言に、お嬢は珍しく動揺していた。

「だから、あれは2人が勝手に・・・」

「とにかく、急ぎましょう」

「うん」

俺は2人と分かれて格納庫に向かうのであった。


「厚木君!僕の(ビアンカマックス)は最高の仕上がりだよ」

「僕のなんですか?御剣先輩」

「(このビアンカマックスは、孝一郎君が操縦して私が調整しているんだね)などと言われて、僕が仲間はずれにされようとも、(ビアンカマックス)は僕を裏切らないさ・・・」

あとで聞いた話によると、その会話を偶然聞いてしまった御剣先輩は、格納庫で血の涙を流していたらしい。

「その発言は、しーぽんなんですけど・・・」
 
「可愛い彼女で羨ましいね」

「別に、しーぽんとは付き合っていないんですけど・・・」

「そうかい?毎日ここで2人で楽しそうに(ビアンカマックス)の調整をしているから、本科生達の間で噂になっているよ」

「噂って、無責任ですね・・・」

「何だ違うのか。あとで、違うって噂を流しておこう」

「先輩が、元凶だったんですね・・・」

俺はこの人を食ったような先輩に、ただ呆れるばかりであった。


「予選第六組のスタートです!」

遂に俺が出場する「デブリ競争」の予選がスタートした。
ランダムで選出された大量のデブリを含むコースを「オーバビスマシン」で駆け抜けるだけという、非常に単純なレースであったが、技量が未熟でデブリに衝突する選手が続出するので、かなり危険な部類に属する種目であった。

「厚木君、緊張しているのかい?」

「いいえ」

「肝が据わってるな・・・」

同じ組で予選を戦う本科生の先輩と話をしていると、スタートの時間が迫ってくる。
彼の名前は古賀純一という日本人で、オースチン先輩の二年下で成績優秀で有名な先輩であった。

「この(ビアンカマックス)をちゃんと乗りこなせれば、勝てる戦いなんだ!」

実はこの競技は、あまりの障害物の多さで「ビアンカ」でも「ケイティー」でもそれほどタイムが変わらないという特徴を持っていて、数年に1度は「ビアンカ」が優勝する事もあった。
もっとも、「ビアンカ」に乗っているという事は、経験不足の予科生という事であり、予科生が優勝するのは奇跡が起こるか、その予科生の才能が優れていたかのどちらかであるらしい。

「ちなみにケント・オースチンは、予科生の時にこの競技で準優勝している」

「凄いですね」

「あの(ビック4)のケント・オースチンで2位なんだ。そう思って楽にやれ」
   
「わかりました」

そこまで話したところでスタートの合図が鳴り、全機が一斉にスタートする。

「凄い、ますます滑らかな動きができるようになっている」

恐ろしい量のデブリに激突して、失格になる機体が続出するなか、俺は「ビアンカマックス」の速度を「ビアンカ」よりも少し速いくらいにして、デブリを最小限の動きで回避する事に徹していた。

「もう少しスピードを上げても大丈夫だな」

「ビアンカマックス」のスピードをあげてコースを飛行していると、前方にゴールが見えてくる。

「よし!もう少しでゴールだ!って?」

「何でデブリが動くんだ!」

「うわぁーーー!」

突然俺の両隣の「アカプス」と「オデッセイ」「ケイティー」が、デブリに引っ掛かって脱落していく。
 
「危なかったな。でも、完走できて良かったな」

ゴールラインを抜けるとチェッカーフラッグが振られ、「YOU WIN」の表示が出て、放送部の女の子がインタビューを始める。

「予選第六組の優勝者は厚木孝一郎君です!予選タイムも全体で3位と、決勝戦でも期待が持てる成績を残しました。さすがは、元ゴールドメダリストというところでしょうか。厚木君、感想をお願いします」

「完走できて良かったです」

「以上、謙虚な厚木君でした」

放送部の女の子との通信が終わると、先ほどの先輩が話しかけてくる。

「予選成績3位とは凄いな。俺なんて13位でギリギリ決勝進出なのに」

「(ビアンカマックス)のおかげですよ」

「いや、厚木君の腕が良いんだ。この競技は(ケイティー)と(ビアンカ)の性能差が出にくい競技だからな」

「らしいですね」

「本科生でも、スピードを出し過ぎてデブリに衝突する連中が後を絶たない」

「確かに、半数近くが失格なんですね・・・」
  
予選第七組がスタートしていたが、既に半数の選手の名前の書かれた電光掲示板の成績の欄に「失格」の文字が書かれていた。

「予科生は失格にならなければ上出来。たまに天才が現れて入賞。これがこの競技の現実だ」

「厳しいですね」

「そうだな」

「予選第七組の終了です!優勝は・・・・・・」

「さて、すぐに決勝が始まるぞ」

「ええっ!そうなんですか?」

「何だ知らなかったのか?この競技は(オーバビスマシン)の損傷率が高いから、整備の方からの要請で、早く要修理機を確定させてくれと言われているんだよ」

「なるほど。そうなんですか」

「ほら、早く行くぞ!」

「了解です」

予選の興奮も収まらない内に、決勝レース開始のファンファーレが鳴り響き、予選を勝ち抜いた18機の「オーバビスマシン」が所定の位置に待機する。

「おーーと!ここで速報です!(デブリ競争)の決勝戦が始まるそうです!何と我が(ステルヴィア)からは、6名の選手が決勝に残 、内1人は3年ぶりに予科生が決勝に駒を進めました。その人の名は厚木孝一郎!元柔道のゴールドメダリストという異色の経歴の持ち主です!」

「僕に匹敵する良い男さ」

予選の時とは違い、決勝戦の実況はメインスタジ
オにいるアリサ達が行っていた。

「アリサとピエールめ!恥ずかしい事をしやがって!」

「友人かい?」

「ええ」
 
「あの赤い髪の女の子は、元気そうで可愛いじゃないか」

「元気なのは当たってますよ」

「厚木君、彼女の期待に答えてあげないと」

「別に付き合ってはいませんよ」

「勿体ないな。可愛い子なのに」

「先輩が口説きますか?」

「俺には、彼女がいるから」

「羨ましいですね」

「君なんてより取り見取りだろう。成績優秀で、町田初佳を倒した男として有名人だし」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。おっと、スタートだ」

遂に「デブリ競争」の決勝戦がスタートするので
あった。


 何だ!このコースは?」

決勝戦に指定されたコースは、予選の時とは比べ物にならないほどのデブリが充満していて、予選を勝ち抜いてきた精鋭メンバーにも関わらず、既に7人の失格者を出していた。

「まずいな!せめて5位以内に入賞したいんだけど・・・」

俺の現在の順位は7位で古賀先輩が9位なのだが、既にコースの3分の2に到達していたので、順位を上げる事が難しい状況になっていた。

「一か八かやってみるか?」

そんな事を考えていると、「ビアンカマックス」のディスプレイに、再びこの前の宇宙空間のようなモヤモヤが見え始めてきた。

「よし!行くぞ!(ビアンカマックス)よ!俺に力を!」

俺は「ビアンカマックス」のスピードを少しずつ上げ始める。

「行けそうだ!最短コースが見える!」


「うん?厚木君は、ここでスピードを上げて大
  丈夫なのか?」

古賀は驚いていた。
いくら前歴が有名とはいえ、予科生の学生が自分を上回る速度で次々に障害を突破して、前走者をごぼう抜きし始めたのだ。
あれくらいのスピードなら「ケイティー」にでも出せるのだが、今自分がそれをしたら、即座にデブリに衝突してしまうであろう。

「最短距離を即座に計算して、障害をギリギリですり抜ける。さすがは、(見切りの厚木)だな」

実は古賀は昔柔道をやっていて、出身地区では無敵を誇っていた時があった。
だがその実績も、義理で参加した県民柔道大会の1回戦で終了する事となった。
3歳年下の小学校6年生の少年に、開始1分半で背負い投げで投げられてしまったのだ。
この事に大きなショックを受けた自分は、新しい目標を宇宙に変えたので、特に今は後悔はしていなかったのだが、まさか再びあの雄姿を拝む事になるとは思わなかったのだ。

「とにかく、追い付いて行ってみるか」

彼が「ケイティー」の速度を自分の限界にまであげて、数人を抜き去った後にゴールのチェッカーフラッグが振られたのであった。


「優勝は(アカプス)のランディー選手でしたが、2位を厚木選手3位を古賀選手と(ステルヴィア)勢が占めました。これで得点的にもかなり有利になりましたね」  

「特に厚木選手の2位は5年前のケント・オースチン選手以来の快挙です」

結局俺の成績は2位に終わり優勝する事はできなかったが、5位までに「ステルヴィア」の選手が3人も入って、得点的にはかなりの優位に立っていた。

「優勝できそうな勢いだったのに、残念だったな」

「予科生が入賞できただけで十分ですよ」

実は、ゴール直前で大きなデブリがいきなり動き出したので、それを回避していたら2位になってしまったのだ。
ただ、予選では両隣の有力選手の脱落にも一役買っていたので、一概に動くデブリが悪いとも言えなかった。
 
「俺も3位は最高順位だな。感謝するぜ」

「どうしてですか?」

「(見切りの厚木)を見失わないように走ったからさ」

「久しぶりに聞くあだ名ですね」

「俺も柔道をやっていたからな。まあ、成績はお話にならなかったし、お前さんに勝てなかったけど」

「えっ!そうだったんですか?」

「何百試合もこなしてきた厚木君が、俺の事を覚えていなくても当然さ」

「すいません」
 
「俺は全然気にしていないさ。今の生活が楽しいからな。それよりも、オースチン兄弟の件では同情するよ」

「ご存知でしたか」

「ケント先輩は悪い人じゃないんだけど、(ビック4)の連中は優秀ゆえに、何を考えているのかがわからない部分があるからな。疑惑を払拭できないんだろう?」

「ええ」

「さて、2位と3位に入賞した2人の選手にインタビューをしたいと思います」

入賞台に立っていた俺達は、ライブ中継でアリサ達にインタビューを受ける事になった。

「まずは2位の厚木選手からです!おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「予科生では、ケント先輩以来の快挙ですね」

「みたいですね。俺としては、入賞できただけでラッキーって感じですけど」

「次に3位の古賀選手です。自己最高順位の更新おめでとうございます」

「ありがとう。勝利の女神を見て奮戦していた厚木君の後を付いて行ったら、いつの間にか順位が3位になっていたんだよ」

「勝利の女神ですか?」

「そうなんだ。アリサ・グレンノースっていう娘らしいよ」

「「「「「ええっーーー!」」」」」

古賀先輩の衝撃の発言で俺とアリサの動きが止まり、周りからは驚きの声があがっていた。

「アリサ、おーーーい!返事をしてくれよ」

ピエールがアリサに何度も呼びかけるが、返事がなかったので、マイクを取り上げてインタビューを再開する。

「以上、古賀選手へのインタビューでした」


「へえ。厚木君って、グレンノースさんと付き合っているんだ」

「おかしいな?俺の情報とは・・・」

「そうなの?笙人」

午後から始まるアストロボールの試合に向けてミーティングを行っていた「ビック4」の面々は、スクリーンを眺めながら面白そうに話をしていた。

「片瀬さんなら、良く知っているんじゃないの
  ?」

「そうね。それでどうなの?」

ナジマが、同じくミーティングに参加していたしーぽんに尋ねる。

「孝一郎君は、誰とも付き合っていません!あの先輩の嘘です!」

「ほう。言い切るものだな」

「片瀬さんと厚木君は付き合っていないの?ああ。音山君だっけ?仲良く一緒に話しているものね」

「光太君とは友達です!」

初佳の更なる追求で、しーぽんは顔を赤くして下を向いてしまう。
無事にミーティングも終了し、「ビック4」の面々は面白いネタを見つけたので、それで遊んでいるのだ。

「片瀬、グレンノース、藤沢か・・・」

「良く知ってるわね。笙人」

「まあな。外から見ていてあんなに面白いものはないからな」

「でも、藤沢さんもなの?」

初佳は、ぎこちない発音で藤沢さんと呼んでいた。
やはり、2人の間には、大きな溝が存在するようだ。

「きっと、今頃は激怒してると思うぞ」

「ビック4」が話している横で、しーぽんはいまだに顔を真っ赤にして下を向いたままであった。


「結局私は予選落ちで、やよいは決勝進出か・・・」

「晶ちゃんも頑張ったじゃないの」

お嬢と栢山さんは、「モーグル」と呼ばれる、コースを走行するタイムと、途中のいくつかの通過点で行う技の技術点の合計を競うという、スキーのモーグルに良く似た競技に出場していた。
この競技でも、走行タイムの点で「ビアンカ」が不利であったが、技の技術点が加わるので、お嬢がギリギリで予選を突破していたのだ。

「でも、孝一郎君は2位だったのよね」

「確かにあれは凄いな」

午後のアストロボール観戦のために、早めの昼食を2人で取っていると、食堂のスクリーンにインタビューが流れてきたのだが、例の古賀先輩の一言によって、食堂内も大きな混乱に見舞われていた。

「やよい?大丈夫か?」

「大丈夫よ。晶ちゃん」

「ひっ!」

晶はお嬢から発生する黒いオーラに短い悲鳴をあげる。

「ビシッ!」

「えっ?」

更にお嬢が持っていた箸が折れて嫌な音を出す。どうやら、お嬢の増大した握力に屈したようだ。

「晶ちゃん」

「はい!」

「早くメインスタジオに行きましょう。良い席は早い者勝ちだから」

「そうだな・・・」

晶は、本能で今の彼女に逆らってはいけないと判断して、一緒に席を立つのであった。


「さーて。いよいよ合同体育祭のメインイベントであるアストロボールのスタートです!一回戦第一試合はわが(ステルヴィア)と(ヴィジョン)の対戦になっています!」

先ほどの古賀先輩の衝撃発言で、暫く行動不能に陥っていたアリサも、どうにか立ち直ったようで、元気に司会を続行しているようだ。

「そして、特別ゲストとして(ステルヴィア)が誇る甘辛コンビ。カール・ヒュッター先生とリチャード・ジェームズ先生を迎えています!」

「よろしく」

「誰が辛口なんだね?」

「ははは。いよいよ試合スタートです!」

午前中に行われた各種競技の予選と一部競技の決勝戦も終わり、午後はアストロボールのみの開催となったいたので、メインスタジアムには多くの生徒が詰め掛けてけて観戦と応援を行っていた。
ちなみに、俺達の仲間内で競技の予選を突破できたのは俺とお嬢のみであり、お嬢の「モーグル」の決勝戦は明日で、俺は2位という上出来な成績を獲得して参加競技を終了させていた。

「なので、俺はアリーナ席で試合を見物するのみだな」

「私、緊張しちゃって・・・」

俺はアストロボールの補欠選手であったので、「ビアンカマックス」に搭乗して、試合会場近くの待機スペースでしーぽんと話をしていた。

「孝一郎君に代わって欲しいよーーー」

「オースチン先輩に、その意思は無いようだね」

補欠選手である俺が出場する機会があるとすれば、チームリーダーのオースチン先輩が、初期メンバーの入れ替えを審判に提出するか、試合中のやもおえない選手の負傷か、オーバビスマシンの故障時のみであった。
反則や障害物との接触によっての退場には適用されず、その時は少ないメンバーで戦うしかなかったのだ。

「自信無いなーーー」

「俺よりはマシ!」

ボール捌き1つまともにできない俺よりは、器用でボール捌きをオースチン先輩に褒められていたしーぽんの方が、数倍も頼りになるはずであった。

「こらぁーーー!そんな弱気でどうする!行けぇーーー!(ステルヴィア)ファイトだぁーーー!」

「「迅雷先生!」」

突然、通信機に迅雷先生の絶叫が入り、俺達は慌てて試合会場に向かう。
補欠とはいえ、試合開始時には整列をしなければならないからだ。

「先攻と後攻を決めるルーレットを回します」

試合フィールドの中心に選手達のオーバビスマシンが集合する。
補欠を含めて合計12機であったが、「ビアンカ」が2機も混じっているのは「ステルヴィア」だけであるようだ。
特にしーぽんの「ビアンカ」はオレンジ色で、俺の「ビアンカマックス」はグリーンとかなり目立つ色合いをしていた。
メイン会場に設置されて大型スクルーンの右端で、審判の合図と同時にルーレットが回り、コンピューター判定で先攻チームが決まる。

「先攻は(ステルヴィア)!補欠選手はフィールドの外へ!」

俺が「ヴィジョン」の補欠選手と試合フィールドを出ると、障害物のポールが移動して設置され外側にはバリアーが張られる。

「厚木君、良く見ていてくれよ。君は補欠ながらも選手なんだから」

「出番が無い事を祈っています」

「さあ?勝負は水物だからね」

オースチン先輩とそんな会話を交わした直後に試合は始まり、ボールをキープした町田先輩が、笙人先輩の援護を受けて敵陣に切り込んでいく。

「さすがだね。町田先輩は」

「ステルヴィア」チームはしーぽんをゴール前に置いて、4機で積極的に攻撃を仕掛けてしたが、「ヴィジョン」は守備主体のチームのようで、なかなか攻め込めない状態が続いていた。

「しまった!」

町田先輩が笙人先輩に回そうとしたパスが、「ヴィジョン」の選手にカットされ、マークの付いてしなかったその選手が、単独でゴールに突入を開始する。

「片瀬さん!」

「ゴール守って!」

「はい!」

しーぽんが、町田先輩とナジマ先輩の指示で、ゴール前で防御を固めたのと同時に、「ヴィジョン」の選手がシュートを放つ。

「よーし!たぁ!」

しーぽんは反重力スティックで高速のボールをジャストミートで打ち返した。

「凄いな・・・」

俺がしーぽんの技に感心していると、打ち返したボールが様々な場所を跳ね返った後に、しーぽんの「ビアンカ」に激突し、その反動で弾かれた「ビアンカ」は、目の前に漂っていたポールに接触した。

「えっ?接触?」

「という事は・・・・・・」

「アホかぁーーー!いきなり退場する奴があるかぁーーー!」

なぜ迅雷先生の叫び声が、通信機に入ってきたのかはわからなかったが、しーぽんは試合開始30秒で退場という、前代未聞の記録を作ってしまったのであった。
   


「しーぽん、元気だせよ」

「そうそう。試合には勝ったんだし」

その後の試合は町田先輩が1点を先取してから、4人で防御のみを行うという戦法で逃げ切り、どうにか勝負に勝つ事に成功していたのだが、笙人先輩とナジマ先輩も「ヴィジョン」の選手を道連れに退場という、かなり荒れた試合になってしまった。
更にナジマ先輩は、相手の「ケイティー」と接触した時に腕を捻挫してしまい、明日の試合に出られるのかが未定という状態になっていた。

「今日の試合は終わったんだから、明日の事を考えようよ」

以上のような状況で、あまり明るい話題は無かったのだが、一応の勝利祝いとしーぽんを慰める会を行うべく、いつものメンバーはお好み焼き屋に集合していた。

「それに、開始30秒で退場なんて記録よ記録。前代未聞よ」

「褒めてなぁ〜〜〜〜い!」

「その恨めそうな声は止めて!怖いから」

栢山さんの苦情に全員が無言で頷いた。

「だいたい、何でちょっと接触しただけで退場なのよ!」

「そりゃあ、もともとアストロボールが、障害物が多い宙域での船外作業を競うところから始まったスポーツだからでしょう」

「おっ!ジョジョが意外と博識だ!」

「知恵熱でも出てるんじゃないの?」

「お前らな!」

「明日、頑張れば良いのさ」

「光太君・・・」

光太がしーぽんを慰め始めると、2人だけのフィールドが展開され始める。

「おやおや。仲がよろしい事で。アリサさんや、あとは若い者達に任せますかな」

「そうですねぇ。孝一郎さん」

「何なんだ?その小芝居は・・・」

「よっこいしょ!」

「「「「「「うわっ!でかい!」」」」」」

1人お好み焼きを焼く作業に集中していたお嬢は、全員分の生地をまとめて巨大なお好み焼きを作り、それをひっくり返す事にも成功していた。

「熟練の技だな・・・」

更に手馴れた手つきで、ソース・マヨネーズ・削り節・青海苔をトッピングして小さく切り分ける。 

「しーぽん、これを食べて明日からも元気だしてね」

「うん。ありがとう。やよいちゃん、みんな。片瀬志麻頑張ります!」

「そうだ!頑張れよ!熱っ熱っ!」

「お前は、子供か・・・」

アリサは焦ってお好み焼きを口に入れて、口の中を火傷する。

「へい!いらっしゃい!」

「本当に美味しいのか?お好み焼き」

「結構お勧めだぜ」

入り口の方から数人の男性の話し声が聞こえ、大柄な5人の男性が奥に入ってくる。

「おっ!噂の退場娘だ!」

「可愛いじゃないか」

「へえ、しーぽんって有名人なんだ」

「バカ!あいつらは、(オデッセイ)の選手だ!」

栢山さんが小さな声で俺達にそっと教えてくれる

「そんな事を言っても、選手なんて顔が見えないじゃん」

「普通、選手名鑑を見ないか?」

アリサが「オデッセイ」の選手にツッコミを入れられている。

「予科生で代表だっていうから、どんなに凄い奴かと思えばこの様か・・・。他に人材はいなかったのかね?」

「あんまり負けが込んでいるから、ヤケになったんじゃないの?」
 
「言えてる」

「試合は・・・・・・。試合は勝ちました」

「1対0でガチガチに守ってな」

「サッカーの試合じゃ無いんだから」

「俺たちの相手の(アカプス)も歯ごたえのない相手だったが、今年の(ステルヴィア)はもっと弱そうだな」

「そんな事はありません!」

「しーぽん、そんなチンピラ相手にするな」

「どういう事かな?」

俺が「オデッセイ」の選手たちの話を遮った直後に、後ろから大柄な男が現れる。

「そのままの意味です。我々のやっている事はスポーツなんです。それを今日戦った相手の事や、明日戦う相手の事を侮辱したりするなんて、スポーツマンの風上にもおけませんね」

「綺麗事を。そういう事は勝てば消えるんだよ」

大柄の男の横にいた長髪の男が反論をする。

「そうですね。私も経験済みなので良く知っていますよ。でも、それはあくまでも勝ったらの事です。下らない慢心は身を滅ぼしますよ」

「生意気な!」

「待て!」

「キャプテン、なぜだ?」

「あいつは、厚木孝一郎だ!」

「誰です?それ?」

「(ステルヴィア)の補欠選手だ。そして、元オリンピックの金メダリストでもある」

「へえ、孝一郎って有名人なのね」

「アリサ、話の腰を折るなよ。確かに、柔道も(礼に始まり礼に終わる)と言いますけど、国際大会の選手で守っている人は少ないですね。でも、表向きくらいは礼儀正しくやりましょうよ」
 
「そうか。バカにした件は謝る。だが帰ったらオースチン達に伝えておけ。(ビッグ4)などと持ち上げられて調子に乗るなとな!」

「調子に乗っているのは、あなた達でしょう」

突然、「オデッセイ」の選手たちの後ろ側から少女のものと思われる声が聞こえてくる。
どうやら、先ほどからカウンター席でお好み焼きを食べていた少女のようだ。
見慣れない制服を着て、紫色の髪と緑色の目がクリクリとした可愛い少女であった。歳は12〜3歳くらいであろうか。

「どういう意味なのかな?お嬢さん」

「オデッセイ」のキャプテンは、穏やかな声で発言の真意を問いただしていたが、その目は真剣そのもので、一即即発の危機を迎えていた。

「(まずいな。助けに行くか?)」

俺が心配をしている前で、少女は堂々と自分の意見を語り始めた。

「そこにいる片瀬さんは、時速300キロを超えるボールをトラップもせず、ジャストミートして打ち返したのよ。それも練習機である(ビアンカ)でね。あなた達の中で、そんな芸当ができる人が何人いるのかしら?」

「何!」

その少女の言葉で「オデッセイ」の選手達の表情が驚きで染まる。

「へへーんだ!しーぽんは、実力でメンバーに選ばれたんだもんね!」

「甘く見ると痛い目にあいますよ」

アリサとお嬢の言葉に励まされるように、しーぽんは一歩前進して、はっきりと自分の意見を述べる。

「私、負けませんから。明日は絶対、皆さんに負けませんから」

「そうか。明日の試合で会おう。遊ぶ気が失せた。帰るぞ!」

「先輩、遊ぶ時は遊んだ方が良いですよ」

「本当は、お前とも戦ってみたかったのだがな」

「無理ですよ。補欠なんですから」

「そうでもないぞ」

いきなり店の入り口が開き、笙人先輩が現れる。

「笙人律夫か。久しいな」

「(オデッセイ)のカルロスか。お前の願いは適いそうだぞ」
 
「どういう事だ?」

「厚木、ナジィは明日の試合に出られなくなった。ドクターストップがかかったんだ。代わりにお前に出て貰うからな」

「やっぱり無理でしたか・・・」

「いきなりですまんが、明日は頼んだぞ」
 
「わかりました」

「厚木孝一郎!明日を楽しみにしているぞ!」

「オデッセイ」の5人組は、カルロスを先頭に足早に店を出て行く。

「何だ。食べて行かないんだ。お好み焼き」

「普通は無理でしょうが・・・」

俺の言葉に、ジョジョが呆れたようにツッコミを入れる。

「営業妨害ですよね」

「ふっ、厚木らしいな」

「でも、俺ってボール捌きが駄目なんですよね」

「それについては、ケントが策を考えている」

「じゃあ、何とかなるかな?」

「ところで、あなたは誰なの?」

アリサは、忘れられかけていた先ほどの少女の正体を問い質し始める。

「私?私の名前は、風祭りんな。よろしくね」
  
少女はみんなを魅了するような笑顔で、自己紹介をしたのであった。


「へえ。りんなちゃんは、(ウルティマ)から来たんだ」

「そうだよ」

お好み焼き屋を出た俺達は、夜のスタジアムでりんなちゃんと話をしていた。

「(ウルティマ)ってまだ未完成なんだろう?それに、(セカンドウェーブ)が一番始めに到着するところじゃないか。怖くない?」

「ぜ〜んぜん。だって、(セカンドウェーブ)を一番最初に見られるんだよ。そして人類存続の最前線基地でもある。だから燃えるんじゃない」

ジョジョの心配は、無用のものであるようだ。

「それで、今回のりんなちゃんの(ステルヴィア)訪問の目的は、合同体育祭見学?はふはふ」

「実は(グレートミッション)の関係で、パパとママが忙しくなるから、思い切って転校先を探しているの」

「でもりんなちゃんって、まだ12〜3歳くらいでしょう?はふはふ」

「飛び級ってやつ?」

「へえ。頭良いんだね。はふはふ」

「孝一郎君、さっきから何を食べているの?」

スタジアムの下の方にいるお嬢が、俺に何を食べているのかを尋ねてくる。

「ほら、あの騒ぎで焼きそばに突入できなかったから、コンビニで買ったカップ焼きそばをね」

「あんたねえ・・・・・・」

「おーーー!神よ!お好み焼き屋で焼きそばを焼く楽しみも知らない、おバカなヤンキーを救いたまえ!」

「またそれなの?」

「それだけで、あの(オデッセイ)のバカ達は万死に値するな」

「孝一郎って面白いね。私、有名人だからもっと傲慢な人かと思ってた」

どうやら、りんなちゃんも俺の事を知っていたようだ。

「りんなちゃんの期待に沿えてなにより」

「ここまでバカだとは、思わなかったけど・・・」

「アリサの方がバカじゃん」

「あんたには勝てないわよ」

「でも、私の出番を微妙に奪ったよね」

「その件については、すいませんなぁーーー」

「ははは。孝一郎って面白い!」

「それに、りんなちゃんが危害を加えられないように、動こうとしていたわよね」

「うううっ。わかってくれるのは、お嬢くらいなんだなあ」

「私もわかっていたよ。孝一郎君」

「しーぽんは、それどころじゃなかったでしょう」

「アリサの意地悪・・・」

「(オデッセイ)の選手が少女に暴行なんて事は無いと思うんだけど、万が一の事を考えてね」
 
「もしそうなったら、孝一郎があの大男達をぶん投げていたのね」

「それは無理」

「何で?」

「1対1で柔道のルールでやるんだったらあんな連中には負けないけど、喧嘩だと柔道ってそんなに役に立たないんだよ。第一接近しないと技が決まらないし」
 
「でも、私を助けようとしてくれたんだ」

「りんなちゃんの啖呵で、あいつらビビッてたけどね」

「私も、彼氏を作るなら孝一郎みたいな人が良いな」

「「「「えっ!」」」」

りんなちゃんの無邪気な一言で、俺はしーぽん、アリサ、お嬢の鋭い視線にさらされる。

「あれ?みんなどうしたの?」

「今その話題は非常にまずいんだよ」

「ああ。孝一郎の彼女は、アリサだもんね」

「りんなちゃん!違うのよ!」

「孝一郎君は、フリーなのよ!」

「私達は、付き合ってはいないのよ!」

古賀先輩の衝撃発言は「ステルヴィア」中どころか、テレビを見ていた俺の両親にまで伝わ、さっきも電話で事実を問い質されていたのだ。

「古賀先輩も罪な事をするよな」

「やれやれ、完全な三つ巴状態ですか・・・」

「大変なのね」

「こらっ!今、何時だと思ってるんだ!」

ジョジョ・大・りんなちゃんが、戦闘区域の外で感想を述べていると、突然スタジアムに怒声が鳴り響き、暗闇から迅雷先生が登場する。

「迅雷先生!(助かった・・・)」

三つ巴状態の真ん中にいた俺は、迅雷先生の説教すらありがたかった。
 
「ちなみに、私もいるから逃げようなんて思うなよ」

「はぁ〜い!元気してた?」

更にレイラ先生と蓮先生も現れる。

「突然、明日のアストロボールに出場する事になった少年が、苦悩していたんですよ」

「よく言うよ。俺もさっきその話を聞いたのだが、大丈夫なのか?」

迅雷先生は俺の球技下手を知っていたので、心配でたまらないらしい。

「さあ?何か他の使い道があるそうですよ」

「ブロックでも専門にさせるのかな?」

「(オデッセイ)の有力選手と心中させたりして・・・」

「なるほど。その手があったな!」

「迅雷先生・・・・・・」

「片瀬、今日は大変だったな」

「すいません・・・」

「なに、授業じゃないんだから、謝る必要は無いさ。明日は頑張ってくれよ」

「はい・・・・・・」

「やれやれ、元気を出してくれよ。お前達は来たる宇宙開発時代の先鋒となる選ばれた人材なんだ。それだけ、世界中の注目が集まっていると思って頑張ってくれよ」

「しーぽん、俺がブロックするから頑張ってくれよ」

「孝一郎君・・・。うん!頑張るよ!」

「俺よりも、厚木の励ましの方が良いのか・・
  ・」

「迅雷君はオジさんだからね」

「そうだな。迅雷はオジさんだからな」
 
「お前達も同じ歳だろうが!このオバさんが!」

「迅雷君、ちょっとお話があるんだけど」

「私もあるな」

「えっ!ちょっと待てよ!」

「いいから来なさい。じゃあ、早く帰って寝るのよ」

「じゃあな。明日は頑張れよ」

「レイラ!蓮!耳を引っ張るな!」

迅雷先生は、女性2人に耳を引っ張られながら退場する。

「迅雷先生も迂闊だよな」

「人の事は言えないと思うけど・・・」

お嬢の独り言は誰にも聞こえなかった。


翌日の午前中、俺は格納庫内で御剣先輩と「ビアンカマックス」の最終調整を行っていた。

「今日も(マックスモード)の許可が出たんだって?」

「ええ。昨日は(デブリ競争)だったので、そんなにスピードは出しませんでしたけど」

「でも今日は、ちゃんと全性能を引き出さないと・・・」

「ですよね」

「機械面の整備は全部やってあるから」

「ありがとうございます」

御剣先輩は普段は少しどころか、かなりアレだったのだが、整備科でトップ3の成績を誇る優秀な本科生だという話であった。
ただ何かに集中し過ぎると、周りが見えなくなるという欠点を抱えているらしい。

「孝一郎君、お手伝いに来たよ」

「ありがとう。俺じゃあ、どうにもならないからさ」
 
俺としーぽんは、2人で「ビアンカマックス」のプログラムの調整を開始する。

「でも、孝一郎君もアストロボールに出場するんだね」

「俺、球技が苦手なのにな」

「私もあまり自信がないんだ」

「しーぽんは大丈夫だって。そうだ、何か2人で作戦を考えよう」

「作戦?」

「そうだな。しーぽんはプログラムが得意だから、フィールド内の障害物とその動きを全部計算すれば良いんじゃないの?」

「なるほど。そういう手があったか!」

「そうか。その手があったよね」

「普通の人にはできないけど、しーぽんなら可能でしょう」

「何しろ、僕の(ビアンカマックス)のプログラムを1日で開発したんだしね」

「そうだね。私はゴールの死守がお仕事だから、後方で頑張って作ってみるよ」

「なるほど。それは良案だ」

「じゃあ、俺は時間稼ぎに徹するか」

「孝一郎君、2人で頑張ろうね」

「よーーーし!ゴールが見えてきたぞーーー!」

「早く調整を終わらせちゃおう」

「そうだな」

「あれ・・・?僕は無視されてる?」

格納庫内で、御剣ジェットの疑問に答えてくれる人は皆無であった。


 

「さてと、試し運転をしますか」

「じゃあ、試合会場でね」

しーぽんと別れた俺は、「ビアンカマックス」の試し運転を行っていた。
合同体育祭2日目の今日も多くの種目が行われていたので、飛行可能宙域をぬうように飛ばしていると、お嬢が出場している「モーグル」競技の会場が見えてくる。

「孝一郎君、何をしてるの?」

「ビアンカマックス」を止めて競技を見学していると、通信機に聞き慣れた声が入ってくる。
 
「お嬢か!ビックリしたな」

「私こそ驚いたわ。ひょっとして、(ビアンカマックス)の調整?」

「そうだよ。しーぽんにプログラムの調整をして貰ったからさ」

「ふーん、そうなんだ。それで、調子はどうなの?」 
 
「日々、完成に近づいてるね。それで、お嬢の調子はどう?」

「決勝戦一本目を終了地点で7位よ」

「二本目次第って事?」

「そうね。でも、上位入賞は難しいと思う」

「そうかな?お嬢は俺よりも綺麗に飛ばせるじゃない」
  
「私、1回目の時も今回も成績が良くて、それなりに自信があったんだけどね・・・。あなたを見ていたら、自信が無くなっちゃった・・・」

「何で?」

「だって、同じ出遅れ組でも全然成長のスピードが違うし・・・。私は2回目なのに、もう追い付かれそう・・・」

「そうかな?」

「そうよ。それに、あなたはちゃんと結果を出している。予科生なのに(デブリ競争)で2位だったし、補欠ながらもアストロボールの選手にも選ばれたし・・・」

「そうか。俺って周りからそう思われていたのか・・・」

「孝一郎君・・・」

「俺さ。常に焦っちゃうんだよ。仕方が無かったんだけど、妹が生きている間に約束を果たせなかったから・・・。だから、何をする時も早くやらなきゃ、早くやらなきゃってなっちゃうんだ・・・。好きな事だし必要もないから、ゆっくりじっくりやりたいんだけど、習慣でね・・・」

「でも、それは・・・」

「うん、わかってる。でも、今でもたまに後悔する事がある。みんなの前ではカラ元気でいるけど・・・」

「そうなんだ」
 
「だからさ、お嬢は地に足を付けて自分のペースでやった方が良いよ。2回目だから成績が上位でなくちゃとか、みんなのお姉さんのような立場でいようとか考えない方が良い。このまま1年で本科生になって更に4年。そしてその先何十年・・・。まだ先は長いんだから」

「孝一郎君、お爺ちゃんみたいね」

「お爺ちゃんって、それは無いでしょう」

「ごめんごめん」

「でもさ。あまり焦ると、町田先輩みたいになるよ」

「初佳みたいに?」

「ここ一週間ばかり一緒に練習したけど、常に張り詰めた糸のような人だね。何かがあるとプツンと切れそうだ」

「それが孝一郎君の初佳像?」

「飛び級をしているせいか、俺達に優しくも厳しい良き先輩にみられようと無理をしているみたいだ。始めは社交的だし、優しい言葉をかけて貰った事もあるから気が付かなかった。俺の人物評価なんて当てになるかわかないけど・・・」

「確かにそうかもしれない。でも、孝一郎君は生意気よね」

「俺は生意気だよ」

俺とお嬢は、みんなより歳が上という共通事項を持っていたので、比較的何でも話せる仲になっていた。
俺には妹しかいなかったので、無意識にお姉さん的なものを感じていたのかもしれない。 

「それで、一本目の点数が振るわなかった理由は?」

「走行タイムは悪く無かったんだけど、技術点が少し低かったの。色々と複雑な技を試したら失敗したものもあって」

「無理をしないで、基本技を綺麗にやった方が良くない?俺達は予科生なんだし、成績の傾向を見ると、みんなタイムを上げる事に集中していて、技術点が低い傾向にある。」

「でも、基本技だけだと点数が低くなるから」

「それなら、アクセントとして大技を1つか2つ入れれば良い。綺麗に成功させれば、審査員の印象度も上がり高得点が期待できる。要はポイントを抑えて、全体を綺麗に見せれば良いんだ」

「なるほどね。孝一郎君はさすがね」

「外から見ているからね。第三者は一歩引いて見ているから、本質が良く見える事がある」

「それなら、孝一郎君の助言を受け入れて二本目を行う事にしますか」

「俺は応援に徹するよ」

その後、お嬢は見事な飛行を披露して3位入賞という快挙を果たすのであった。


「それでは、(モーグル)で3位に入賞した藤沢やよい選手にインタビューをしたいと思います。藤沢選手、感想をどうぞ」

「二本目が予想以上に上手くいって良かったです。孝一郎君の助言に感謝します」

「以上、藤沢選手でした」


「ふーん。藤沢君の応援に気を取られていたから、僕達との最終ミーティングに遅れたというわけだ」

「ははは」

「笑い事じゃすまされないのよ」

「何と言いますか・・・。(ステルヴィア)勝利のために、少し奮戦していたからという事で・・・」
 
「アストロボールも大切なんだがな」

「一瞬、自分がレギュラーに昇格した事を忘れていまして・・・」

「君が頑張ってくれないと困るのよ」

俺はお嬢の応援に熱中し過ぎて、試合前の最終ミーティングに遅れるという大ポカをやらかして、「ビック4」の面々に説教を食らっていた。

「片瀬さんはどう思う?」

「許されざる暴挙です!」

いつもなら庇ってくれるはずのしーぽんも、俺の遅刻理由とお嬢のインタビューを聞いた瞬間に、不機嫌になって「ビック4」の味方に付いてしまった。

「説教をしている時間が惜しいので、作戦を発表する。片瀬さんはゴールを死守。トップは厚木君と初佳で行く。そしてその後ろで、僕と笙人がバックアップを行う」 

「私がトップですか?」
 
「正確には、初佳のディフェンスだ。ボールをキープしている初佳に敵を近付けさせないでくれ」

「私向きですね」

「そうだ。そして、できれば一機を退場に追い込んでくれ」

「それは、反則覚悟という事で良いんですか?
  」

「そうだ。できればキャプテンのカルロスを退場に追い込んでくれ。そうすれば戦力比が縮まる」

「わかりました」

俺はオースチン先輩の苦悩が良く理解できた。
今日のレギュラーの内、1名はボール捌きが得意ながらも、昨日はいきなり退場してしまったしーぽんで、もう1名も総合的に能力を発揮していたナジマ先輩の代わりに、球技が苦手というアストロボールの選手としては、あるまじき弱点を抱えている俺になってしまったのだ。
もう勝つために手段を選んでいられないのであろう。

「1つだけお聞きしてよろしいですか?」

「何かな?」

「障害物への単機での衝突とは違い、オーバビスマシン同士の接触によって発生したバリアーやポールへの衝突による退場は、下手をすると危険行為として以後の試合出場が禁止になる可能性があります。もし私が出場禁止になったら、明日の決勝はどうするつもりなのですか?」

「本科生の候補者から予備の選手を招集する。はっきり言って、決勝の相手である(エルサント)よりも(オデッセイ)の方が強敵だ。この試合は事実上の決勝戦なんだよ」

「わかりました。全力を尽くします」

俺はそう返事をすると、「ビアンカマックス」に向けて歩き出した。

「孝一郎君!」

「どうしたの?」

先ほどまでは機嫌の悪かったしーぽんも、事態の深刻さに気が付いたのか、不安そうな顔をしながら俺を追いかけてくる。

「そんな・・・。退場覚悟なんて」

「俺の使い道としては最善だ」

「でも、昨日はスポーツはフェアにって言ってたじゃない!」

「それも一面だけど、勝たなきゃ意味が無いのもスポーツなんだよね」

「そんな・・・」

「しーぽんは自分の考え通りにやるんだ。俺はなるべく時間を稼ぐからさ」

「孝一郎君・・・」
 
「さあ、時間だよ」


「今日はアストロボールの二回戦!(ステルヴィア)対(オデッセイ)です!この試合は優勝候補同士の対決で、見逃せないカードとなっています!」

「なお、解説は昨日から引き続き、学園の甘辛コンビとして有名なリチャード・ジェームズ先生とカール・ヒュッター先生です」

「だから、誰が辛口なんだ?」

「それはご想像にお任せして、この試合では負傷中のナジマ選手に代わり、予科生の厚木孝一郎君が出場しています」

「ジェームズ先生、ヒュッター先生。メンバー中予科生が2人という、この非常事態をどう思われますか?」

「うーん。厚木君は予科生ながらも、(デブリ競争)2位の実績があるからね。頑張ってくれると思うよ。片瀬君は・・・。頑張って欲しいね」

「この試合は、ワンサイドゲームの危険性を孕んでいる。緊急の布陣が当たり、(ステルヴィア)が有利になるか、逆に(オデッセイ)のワンサイドゲームになるか・・・」

「辛口の解説をありがとうございました。では試合のスタートです!」

最終ミーティングから一時間後、試合フィールドに「ステルヴィア」と「オデッセイ」の選手が集合し、先攻・後攻のルーレットが回される。

「先攻は(ステルヴィア)です!」

「運が良いな。ケント・オースチン」

「そのまま勝利も掴むさ」

「それが噂の廃物利用の(ビアンカ)か」

「意外と悪くないですよ」

「そうか。楽しみにしているぞ」

「オデッセイ」のキャプテンであるカルロスが、オースチン先輩と俺に話しかけてくる。

「本科生の補欠って、古賀先輩なんですね」

「まあね。ケント先輩に頼まれたんだ」

「それよりも恨みますよ・・・。あのインタビューの事は」

「そうかな?俺はお似合いだと思うけど」

「古賀先輩!補欠の選手は、フィールドから離れてください!」

「片瀬さんがおっかないから、俺行くわ」

双方の補欠選手が退場し、障害物のポールとバリアの設置が完了してから試合がスタートする。

「厚木君!行くわよ!」

「守らせていただきますよ」

「選手選考会で、私を押し出した実力を見せて貰うわよ」

「了解です!」

試合のスタートと同時に、ボールを持った町田先輩が敵陣に侵入し、俺はその横に付いて行く事にする。

「オースチン先輩も笙人先輩も、敵のガードが厳しいな」

戦況は町田先輩が敵陣内でボールをキープし続けていたが、3機の敵に追われていて、それを俺が懸命に追い払っているという状況になっていた。

「片瀬さんがノーマークな代わりに、私達2機で3機の敵か・・・」

俺は町田先輩が2対1に追い込まれないように、懸命に敵の「ケイティー」の突進を妨害し続けていた。
時には、町田機への接触を防ぐために敵機を弾き飛ばしたりもしているので、反則スレスレのラフなプレイではあったが・・・。

「かなりのラフプレイだから、反則を取られそうですね」

「それでも頑張って!」

「厚木!やるではないか!」

「うわっ!来ないでくださいよ!」

「オデッセイ」のキャプテンであるカルロスは、俺との勝負にこだわっているようで、その巧みなテクニックで町田先輩への攻撃を繰り返し、それを防御する俺と小競り合いを繰り返していた。

「予科生なんて無視してくださいよ!」
 
「いや、お前は侮れない男だし、本科生になる頃にはもう勝負ができないからな」

「ちっ!埒があかない!笙人!」

敵味方の5機のオーバビスマシンが入り乱れる戦場から、町田先輩が笙人先輩にパスを回そうとすると、それを察知した敵にパスをカットされてしまう。

「しまった!」

「よし!速攻だ!まずは先取点を!」

カルロスは「ステルヴィア」陣地に速攻で侵入し、パスをカットした味方からボールを貰って攻撃に転じる。

「チャンスだ!前方にはあの退場娘のみ!」

「片瀬さん!守って!」

「しーぽん!例の作業は終わったのか?」

「あと3分はかかるよ」

「なら、俺が行く!カルロス!勝負だ!」

俺は遂に「ビアンカマックス」の全てのリミッターを外し、一直線にカルロスの「ケイティー」に突撃をかける。
確かに、御剣先輩の言う通りに、「ケイティー」の10%増しくらいの速度は出ていたが、しーぽんの特製プログラムを持ってしても、操作はかなり難しかった。
 
「なっ!速い!」

「いけぇーーー!」

俺の「ビアンカマックス」とカルロスの「ケイティー」は軽く接触し、その後は機体をぶつけ合いながら、ボールの取り合いを始める。
もしその接触が故意とみなされたら即退場になってしまうが、今の俺にできる事はこれだけであった。

「どうだ。お望み通りに一騎打ちだぞ!」

「バカたれ!反則ギリギリじゃないか!」

「でも、時間は稼げる!それにお前達もやっている事だろうが!」

「オデッセイ」の選手は、「ステルヴィア」のエースである町田先輩を3機もの「ケイティー」で
マークし、あわよくば一緒に自爆して葬り去ろうとしていた。
俺は町田先輩と共に行動していたので、その意図がすぐに察知できたのだ。

「この状態で、時間を稼いでどうすんだ!」

「きっと、しーぽんが(ステルヴィア)を勝利に導いてくれるさ!さあ!最後の勝負だ!」

「まさか!一緒に自爆するつもりか!」

「一緒に死にやがれ!」

だが、それは俺のはったりで、俺の気迫で少し動揺したカルロスから反重力スティクでボールをもぎ取ると、俺も味方ゴール方向に向かって疾走を開始する。

「舐めくさりやがって!」

「残念でした!」

「厚木君!敵陣に向かって飛行しなさいよ!」

俺はしーぽんの準備がもうすぐ終わる事を知っていたので、彼女にボールを渡そうと接近を試みるのだが、それを町田先輩に咎められてしまう。

「町田先輩!オースチン先輩!片瀬さんが何か策があるそうです。任せて貰えませんか?私もガードに入りますので」

「君は成功すると確信しているのかね?」

「ええ。信じてますよ」

「・・・・・・。では任せる」

「ケント!」

オースチン先輩の決断に町田先輩が抗議の声をあげるが、俺はそれを無視して全速力で、しーぽんとの合流を目指した。

「しーぽん、準備は終了したかい?」

「今、全部終わったよ。待たせてごめんね」

「なら、行きますか」

「うん」

俺は真正面にいたしーぽんの「ビアンカ」にボールを軽くトスをして回し、(このくらいなら俺にでもできた)敵陣への侵攻を開始したしーぽんの援護に回る。

「この!退場娘が!」

「カルロス先輩の相手は俺ですよ」

「邪魔をするな!」

「よーし!行くよーーー!」


その後の展開は、しーぽんの独壇場であった。
見当違いの方向にパスをしたと思ったら、障害物にリバウンドして進行位置に戻ってくる。
その繰り返しで敵が混乱している間に、ゴール前からシュートを放ち、そのシュートも障害物と審判機へのリバウンドを経てゴールに突き刺さった。

「おーーーっと!片瀬選手初得点です!先取点は(ステルヴィア)です!」

「バカな・・・・・・」

「片瀬さんが、あんな技術を・・・」

「オデッセイ」の選手達は突然の事で動揺が隠せず、町田先輩も信じられないと言う様な声を出していた。

「孝一郎君、やったよ!」

「おめでとう。さあ、続けて行こうぜ」

「うん」

「よし!フォーメーションを変える。トップは片瀬さんと初佳で、厚木君は片瀬さんを死守してくれ。彼らは標的を片瀬さんに変える可能性があるからな。僕と笙人は、味方陣地とゴールを死守するから安心して攻撃を続けてくれ!」

「了解です!」

「了解!」

この瞬間から「ステルヴィア」チームの快進撃は伝説となった。
「オデッセイ」戦は7対1で、しーぽんが4得点3アシスト、町田先輩が3得点と大活躍をし、決勝戦でも11対1で、しーぽんが6得点5アシスト、町田先輩が3得点、笙人先輩が2得点という、相手の「エルサント」チームが可哀想になるほどの、アストロボールでは考えられないほどの大差を付けて優勝したのであった。
ちなみに、俺はボールに一回も触れないでしーぽんをブロックし続けたので、得点・アシストともにゼロであった。


「今年は、我が(ステルヴィア)最良の年であります。合同体育祭でアストロボールに優勝し、総合優勝を果たす事もできました。更に若い世代の活躍も確認でき、来年以降の連覇も期待できるようになりました。それでは、明日の(ステルヴィア)を祝して乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

3日間に及んだ5大ファウンデーション対抗合同体育祭も無事に終了し、織原校長の音頭の元、優勝祝賀会が開かれていた。

「来年以降か・・・」

「しーぽんは、レギュラー確定でしょう」

「あの大活躍だからな。まあ、当然だな」

壇上では、各種競技の入賞者が紹介され、最後にアストロボールの選手の紹介が終わったあとに、「ビック4」の面々としーぽんは、多くの教官達と生徒達に囲まれていたのだが、俺はこっそりと抜け出していつものメンバーとの会話を楽しんでた。

「しーぽんも凄いけど、お嬢と孝一郎も凄いよな」

「2位と3位だからな」

「更に孝一郎は、アストロボールの試合に2試合も出たし」

テーブルの上に出されている飯を食べていると、ジョジョとピエールが俺とお嬢を褒め始める。

「出ただけだけどね」

「あら、そんな事はないわよ。しーぽんを、ちゃんとガードしていたじゃない」

「そうだよ。片瀬さんが安心して活躍できたのも、孝一郎のおかげだと思うよ」

続けてお嬢と光太にも褒められたので、少し気分が良くなってくる。

「そんな事は無いって」

「いや!お前は良くやった!俺は感動している!」

「迅雷先生!」

更に合同体育祭の前から異常に盛り上がっていた迅雷先生が、俺達の輪に入ってくる。

「お前はボール捌きが駄目である事を自覚して、ちゃんと自分のできる事をしたんだ。確かに、得点やアシストはゼロだったが、勝利への貢献度は高かった。それは俺が保障する」

「ありがとうございます」

「それに、(ビアンカマックス)の性能をちゃんと引き出していた。たかだか、入学して二ヶ月の予科生にしては驚異的な事だぞ。慢心は良くないが、自分の実績をちゃんと理解した方が良い」

「厚木君は、怪我もしないでくれて本当に助かったわ。でも、たまには保健室にいらっしゃい。お姉さんが色々と教えてあげるから」

「レイラ先生、蓮先生」

迅雷先生の後ろから、レイラ先生と蓮先生も登場する。

「それにしても盛り上がってるな」

「何せ優勝ですからね」

会場内では、参加した生徒や教官達が盛り上がっていて、「ビック4」の面々としーぽんは、人の輪から抜け出せないでいた。

「孝一郎君は、向こうに参加しないの?」

「俺はこっちの方が好きだから」

お嬢の問いに、俺は静かな方が好きだと答える。賑やか過ぎるのは、前に沢山体験していたのでゴメンだったのだ。

「そういえばさ。アリサの姿が見えないよね」

「さっき、着替えに戻ると言っていた」

「ああ。私服に着替えるのか」

このパーティーの服装は自由で、私服の人と制服の人が半々だったので、楽な服装に着替えに戻ったのであろう。

「そろそろ戻ってくると思う・・・。えっ!」

「どうした?大」

俺が大の指差した方向を見ると、そこにはパーティー用の赤いミニドレスに身を包んだアリサが、こちらに向かって歩いて来ていた。
更に胸元には、俺が前にプレゼントしたブルーサファイアのペンダントが輝いている。

「どう?似合う?孝一郎」

「良く似合ってる。でも、急にどうしたの?」

「せっかくの祝賀パーティーだから、試しに着てみたのよ」

「そうか。本当に良く似合ってる」

「それに、(デブリ競争)で2位になったお祝いとしーぽんをちゃんと守ってくれた御礼も兼ねてね」

「確かに目の保養になった」
 
「でしょう。何しろ美少女アリサさんのドレス姿ですから」

「ねえ、グレンノースさん。そのペンダントはどうしたの?」

「孝一郎に貰ったんですよ」

「「「「「「ええっーーーーーー!」」」」」

蓮先生の質問にアリサが正直に答えた瞬間、周りにいた全員が驚きの声をあげる。

「孝一郎が、アリサにアクセサリーをプレゼントしたのか」

「怪しいぞぉーーー」

「2人は既にデキている?」

「いやっ!あのっ!貰い物だし安物だし・・・。なあ、アリサ」

「一応は本物なんだけど、偶然に私が貰ったというか・・・」

アリサは予想以上に大騒ぎになったので、俺と一緒に弁明を始める。

「アリサ!孝一郎君に、アクセサリーを貰ったって本当!?」

「うわっ!しーぽんが戻ってきた!」

「貰ったけど、そこまで深い意味じゃないのよ 」

「でも、そんなにオシャレして・・・」

「これはこういう格好をしないと、付ける機会が少ないからで・・・」

この騒ぎを聞きつけたしーぽんが、人の波を掻き分けて恐ろしい速度で戻ってきた。

「孝一郎君!どういう事なの!?」

「そこまで深い意味では・・・」


 

「厚木も優しいのは良いけど、ちゃんと結果を考えれば良いのに・・・」

「そうよね。晶ちゃんの言う通りよね」

アリサと孝一郎が、しーぽんに厳しい追求を受けている近くで、晶とお嬢がそんな話をしていると、急に何かが割れる音がした。

「ビシッ!」

「あら?このグラス古かったのね」

「(お昼の時の箸といい、今のグラスといい。勘弁してほしい・・・)私が新しいグラスを持ってくるから」

「ありがとう。晶ちゃん」

「(良かった。この場から少し退避しよう)」


 

「厚木が、アクセサリーをプレゼントか。意外な行動だったな」

「でも、あれ物凄く高いわよ」
 
「蓮は、そういう事が良くわかるからな」

「あのペンダントってそんなに高いのか?」

「迅雷君は、駄目駄目ね・・・」

「わかったよ!俺が蓮に買ってやるよ!」

「でもね。給料の2ヵ月分コースよ」

「そんなに高いのか?」

「最低でもそのくらいするわよ。良い石だから 。これで、グレンノースさんの一歩リードかな?」

「あの贅沢者め・・・。俺は、蓮がいれば良いのに・・・」

「私、彼と別れたわよ」

「本当か!?」

「でも、気になる人がいるのよね」

「とほほ・・・・・・」

「元気出せよ。迅雷」


「だから、そんなに深い意味では・・・」

「そうよ。そんなに深い意味では・・・」

「私は貰ってない!」

「ほら、自分で買ってプレゼントするとさ・・・」

「そうそう。大変な事になっちゃうから」

「私は貰ってなぁーーーい!」

俺とアリサは、しーぽんを宥めるのに多くの時間を費やしてしまうのであった。
 


       あとがき

今回は特にないかも・・・。

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