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「宇宙への道第5話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-10-14 23:50/2006-11-20 17:25)
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「おい!ケント!話を聞いているのか!?」

「聞いていますよ。兄上様・・・」

本日のケント・オースチンは、ここ数週間で最高に機嫌が悪かった。
それは自分の目の前に、一番大嫌いな兄の顔が大きく映っていたからであった。
今までは人伝に話を聞くようにして、テレビ電話に出ないようにしていたのだが、今日はジビレを切らせた兄に、強制的に呼び出しを食らっていたのだ。

「いつになったら、厚木孝一郎を退学に追い込めるんだ?俺はもういい加減に待ちくたびれたぞ!」

「(まだ2ヵ月も経っていないじゃないか!)1つお聞きしてよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「なぜ彼にそこまで拘るんです?」

「理由は簡単だ。俺様に、大恥をかかせたからだ」

「はあ・・・」

「あのオリンピックの決勝戦以来、俺の評判はガタ落ちなんだ。そこで、奴を人生の落伍者にしてしまえば、俺の評判も元に戻るというわけだな」

「はあ・・・」

ケントはため息が止まらなかった。
オースチン財団当主の長男である、自分の兄のあまりのバカさ加減に、何も言えなくなってしまったのだ。

「奴は俺達の一族に恥をかかせた!ここで何かの罰を与えないと大変な事になる」

「(大変な事になるのは、お前だけだろうが!)」

家業を継ぐつもりが無かったので、「ステルヴィア」に入学した自分にとって、このバカ兄貴の人を人とも思わない態度は、ストレスの原因でしかなかった。
更に世間の評判でも、頭脳明晰・運動神経抜群で「ステルヴィア」に合格した自分と違い、お情けで大学を卒業させて貰い、子供の頃から喧嘩や悪事に明け暮れ、それを父親に揉み消してもらっていた兄との差は歴然であり、父も弟である自分の方に跡を継がせようと色々と画策しているらしい。
そして、その事を知った兄の態度がますます頑なになるという悪循環が、ここ数年続いていたのだ。

「せっかく、金メダルを取って俺の存在をアピールしようと思ったのに、それをあのクソ餓鬼が!」

はっきり言って、体が大きくてバカ力がある以外に、何の取り得も無いと思われていた兄であったが、ハイスクールの頃から何となく始めた柔道だけは別であった。
彼はその恵まれた体格を生かして、アメリカ国内では無敵を誇っていたのだ。

「あのチビが卑怯な手を使うから、こんな事になるんだ!」 

「(柔道ってそういう競技なんじゃないのか?)」

ケントとしては、強引に相手を力でねじ伏せる兄の柔道よりも、決勝戦で兄を倒した厚木孝一郎の柔道の方が好みであった。
「柔よく豪を制す」の基本に忠実で、倍も体重のあった兄を綺麗に倒していたからだ。
現に日本国内ばかりか、一部の外国でも彼の人気は高いらしい。
そして彼の人気が高まれば高まるほど、自分の兄の情けなさが引き立つわけで、その事が彼を意固地にしてしまっているらしい。

「4年後には、俺も28歳になる。オリンピックに出るのも最後の機会になるだろう。それまでに奴を陥れなければ・・・」

「もう彼は柔道は趣味程度にして、大会などには出ないそうです。現に、柔道部の誘いも断られてしまいました」

「だが、上からの命令には逆らえまい。4年後に奴が(ステルヴィア)の枠で出場すれば・・・」

 「(兄貴、本音をありがとう)」

実は各惑星圏にある「ファウンデーション」には国家クラスの権利が保障されていて、オリンピックの出場枠を持っていた。
本業の忙しさと、合同体育祭の方に力を入れているという理由で、過去に数人の選手が入賞をした程度の成績でしかないが、前大会で金メダルを取った彼を代表選手にすれば、「ステルヴィア」初の金メダルという可能性も否定できなかった。

「彼は、もうほとんど柔道の練習はしていないようですよ」

「お前の友達の笙人とかいう奴と、定期的に練習をしていると俺は聞いているが」

「(ちっ!情報が漏れている!)」

実は「ビック4」の中で、彼と一番仲が良いのは笙人律夫であった。
2人は早朝にトレーニングをしている時に偶然に出会い、朝の短い時間ではあったが週に2〜3回程度は何かのトレーニングをしているらしい。

「まあ、お前にも立場というものがあろうから焦る事はしないが、せめて奴が本科生になるまでには、何とかして欲しいものだな」

「はい・・・」

「そうそう。素直が一番だぞ。ケント。お前の母上様は元気そうだったぞ」

「・・・(ちっ!)」

ケントが兄に逆らえないもう1つの理由が、母親の事であった。
兄は亡くなった前妻の子供で、自分は後妻の子供だという昔からよくある事情があり、表面上だけとはいえ自分が彼に逆らわないのは、地球にいる母が兄に嫌がらせを受けないようにするためでもあった。

「とにかく、頼むからな」

「わかりました」

兄は言いたい事だけを全て言うと、電話を切ってしまった。

「朝から疲れる人だな・・・」

「やれやれ、厚木も嫌われたものだな」

「笙人!」

「そんなに驚く事か?」

「いきなり後ろに立つな!」

「悪巧みを兄としていたからか?」

「お前もナジィに似てきたな・・・」

「冗談さ。それよりも・・・」

「お小遣い欲しさに、情報を流している奴がいるな」

「しかも、我々に近い人物だ」

「洗い出しの方を頼めるか?」

「仔細承知!」

笙人はそれだけ言うと、あっという間に姿をくらませてしまう。

「僕の苦悩の日々はいつ終わるのだろうか・・・」

ケントの疑問に答えてくれる者は1人もいなかった。


 
  
  

「さてと、今日も張り切っていきましょう!」

俺達は今日も何時ものように、パイロットスーツに着替えて格納庫への道を歩いていた。
 
「孝一郎、オヤジくさい・・・」

「大きなお世話だ・・・。アリサ」

「でもさ。僕達もどんどん上手くなってるよね」

「言えてる」

大の意見にピエールが賛同する。

「でも、私はいまだに戸惑うから」

「しーぽんは、マイペースだからね」
 
「あの暴走癖が無くなっただけでも、大きな進歩なわけで」

「もう!アリサと孝一郎君は!」

「どうしたんだい?アリサ」

アリサが急に格納庫の入り口で止まってしまったので、ピエールがその理由を聞くと、彼女は入り口の上を指差した。

「(必勝!)か・・・。どういう事なんだろう?」

「前から疑問に思っていたんだけど、なぜに日本語なんだろう?」
 
「それは、太陽系連盟の公用語が、英語・日本語・北京語・フランス語だからでしょう」

「そして、(ステルヴィア)のここ数十年の歴代の校長は日本人だからな」

「おっ!ジョジョと栢山さんは博識だ!」

「それで、何が必勝なのかな?」

「さあ?」

全員がその真の意味を考えていると、お嬢が懐かしそうな表情でこう呟いた。

「そうか。またこのシーズンが来たのね・・・」


「いいか!良く聞け!お前達は、これから燃えろ!燃え尽きるんだ!」

実習前にミーティングルームで、今日の実習の説明をレイラ先生から受けていると、なぜか隣では、迅雷先生が1人で絶叫していた。

「何で迅雷先生がいるの? 迅雷先生、実習の担当じゃないじゃない」

「しかも、無駄に張り切っている・・・」

アリサと栢山さんの指摘通りに、今日の迅雷先生はいつも以上に張り切っていた。

「迅雷先生、なぜそこにいるんです?」

「お前達にハッパをかけるためだ!」

「何のためにです?」

「もうすぐ、五大ファウンデーション対抗合同体育祭だからだ!」

「俺達って関係あるんですか?」

「お前達も競技に出場するんだよ!だから、今日からは特別特訓だ!」

「頑張りまーーーす」


迅雷先生にハッパをかけられた俺達は、直線に配置された電磁ポールを回り込みながら抜けていく、スラロームの訓練を行ったいた。 

「ジョーンズ!もっとスピードをあげろ!」

「これで限界なんですけど・・・」

「そんな甘い事でどうするんだよ!」

「すいませんーーーん!」

「小田原!もっと小さく回り込むんだよ!」

「やってますって!」

「やってないじゃないか!」

「勘弁してくださいよ!」

「ああ!もうイライラする。次は音山だ!」

「はい」

「ああ・・・。もっと、気合を入れて返事をするんだ!」

俺は光太に気合とか根性を期待するのはどうかと思ったのだが、彼は大したミスもせず、それなりの速度でゴールする。

「うん?まあ、始めはこんなものかな?」

気合が暴走している迅雷先生も、判断が付かないというような表情をしていた。

「次!厚木!」

「了解です!」

俺は最近、「ビアンカ」の操縦が楽しくてしょうがなかったので、気合を入れて猛スピードで電磁ポールを潜り抜けていく。

「おっ!結構良いタイムなんじゃないのか?」

「厚木!その程度で慢心する奴があるか!世の中には上には上がいるんだよ!」

「とほほ・・・・・・」

「厚木、歴代28位の成績だ。この調子で頑張れよ」

今まで声を全く聞いていなかったレイラ先生から、自身のタイムについて教えられる。

「28位ですか?微妙な順位ですね」

「今までの歴代記録の中でだぞ。今日、一番タイムが良い藤沢が19位だから、悪くないどころか上出来の部類だ」

「へえ。そうなんですか」

「孝一郎君は、毎日みちがえるように上手くなっていくからね」
  
「お嬢には勝てないって」

「そんな事はないわよ。追い付かれそうで、結構焦っている自分がいるから」

「まさか」

「本当よ」

「こら!そんな事でどうするんだ!」
 
「すいませーーーん!」

お嬢と俺が話をしていると、ゴール直前でポールに引っかかってしまったしーぽんに迅雷先生の激が飛んでいた。 

「迅雷先生、気合が入っているな」

「毎年ああなのよ」

「体育祭って、生徒のためのイベントなんでしょう?」

「そうなんだけどね」

「こんな事では(ステルヴィア)の勝利は覚束ないぞ!お前達、このコースをあと10回だ!」

「「「「「えーーーーーー!」」」」」

「えーーー!じゃない!やるんだ!燃えるんだ!バーニングだ!」

迅雷先生の梃子入れにより、この日の実習はかつてない過酷さを極めるのであった。


「疲れたーーー」

「駄目だ。立ち上がれない・・・」
 
「迅雷先生は、鬼だ・・・」

「どうした?だらしないぞ」

「レイラ先生、いきなり酷いですよ」

「そうですよ。こういう事は徐々に厳しくするものですよ」 

「厚木は元気そうじゃないか」

「まあ、それなりに鍛えてしましたので・・・」

昔は1日10時間以上も柔道の練習をしていたので、みんなのようにへたり込むという事は無かったが、慣れない「ビアンカ」での実習なので、大きな疲労感に苛まれていた。

「この時期の迅雷に何を言っても無駄だからな。黙っていた方が楽なんだよ」

「私達を生贄にしてですか?」

「あとで役に立つのだから、我慢してやってくれ」

「お前達!この程度の事で、体育祭を乗り切れると思っているのか!」  

「迅雷先生、いたんですね・・・」

「管制室でお前達を見ていると歯痒くてな。ここは気合を入れようと!」

「レイラ先生、もう実習は終了ですよね?」

「ああ」

「全員!XECAFEに集合だ!」

「「「「「了解!」」」」」

俺達は極度の疲労感を押し切り、絶叫する迅雷先生を放置して、全速力で逃走を図るのであった。


「疲れたなーーー」

「孝一郎が、全速力なんて言うから・・・」

「じゃあ、アリサは残って、迅雷先生の説教を聞いていれば良かったじゃないか」

「あははは。それはそれ。これはこれ」

放課後のXECAFEで、全クラスメイトが机に突っ伏して、恨めしそうに頼んだドリンクのコップを眺めていた。

「でもこれからは、体育祭の競技に即した実習がメインになるみたいだよ」

大が携帯端末を眺めながら、明日以降の予定を口にする。

「でもさ。体育祭ったって、本科生がメインなんだろう?」

「そうだな。予科生も出場はするけど、メインの競技に出る人は少ないし、本科生と一緒にやるから、上位入賞は難しいみたいだな」

ジョジョとピエールも、あまりやる気がないようだ。

「来年以降のための、本番慣れってところかな?」

「孝一郎君は、大舞台には慣れているじゃないの」

「世界一の大会に出場して優勝しているからな」

「要は慣れなんだよ。オリンピックの前に、何回も世界大会とかには出場していたから」

「ふーん。そうなんだ」

「・・・・・・」

最近、お嬢は俺によく話しかけてくるようになった。
だがそれに比例して、しーぽんの機嫌が少し悪くなったような気がした。

「でも早く終わらないかな。体育祭」

「孝一郎君は好きじゃないの?」

「お祭りは好きだけど、体育会系のノリが好きじゃないんだよ」

「それで、柔道部の誘いを断ったんだ」

「前は目的があったから我慢していたけど、もう我慢する必要もないし」

「でも柔道部の部長さん、泣いてたわよ」

「俺、忙しいから」

もうお嬢は、自分が予科生をやるのが2回目である事を誰にも隠さなくなっていた。
さすがに町田先輩との事は、昔のクラスメイトであった事くらいしか話していなかったが・・・。
1−Bのクラスメイト達の反応にも特に大きなものもなく、「(ステルヴィア)でわからない事があったら藤沢さんに聞こう」くらいの感覚のようであった。

「さて、今日は夕食でも食べて、早く寝るとしますか。明日からはハードスケジュールだし・・・」

「それは言えてるわね」

「ジョジョは、勉強した方が良いぞ」

「ピエールは、余計なお世話だっての!」

「あのね。孝一郎君」
 
「どうしたの?しーぽん」

「今日、ご飯を食べに来ない?」

「それって、しーぽんの手作り?」

「うん。ほら、この前に色々と貰ったからそのお礼で・・・」

「どうせ、カップ麺かレンジでチンでしょう?」
 
「アリサさん、正解!」

「えらく、ジャンキーなスポーツ選手だね」

アリサに続き、光太にまでツッコミを入れられてしまう。

「ビタミン剤等は、飲んでいますよ」

「あんまり上手じゃないけど、和食を作るから」

「そいつはありがたいな」

「私も、適当に何かを作るからさ」

「アリサ、料理できるの?」
 
「失礼ね。料理歴10年のアリサさんに向かって」

「アリサは料理上手だよ。残っている材料で素早く作れるから」

「でもお菓子やデザートは、しーぽんの方が上手よね」

「デザートあり?」

「孝一郎君、甘い物が好きなの?」

「酒も、甘い物も、辛い物も全部好き」

「デザートも作るから」

「喜んでお邪魔させていただきます」

「光太もおいで」

「そうだね。光太君も色々とアドバイスしてくれるから、そのお礼も兼ねて」

「ありがとう。片瀬さん」

「ちくしょう!孝一郎と光太だけ!」

「羨ましいな・・・」

ジョジョは絶叫しながら栢山さんに視線を送るが、彼女はその事に全く気が付いていなかった。
そしてピエールもお嬢の方に視線を送ったが、全ては無駄な努力であるようだ。

「僕が作った料理を食べる?」

「お前な!男の手料理なんて空しくなるだけだろうが!」

「どうせ、(けんちんうどん)なんだろう?」

「孝一郎は、美味しいって言ってたよ」

「ああ。前にあげた乾麺のお礼という事でご馳走になったけど、美味しかったよ」

男性5人の中で、それなりに料理ができるのは大だけであった。
彼は食べるのが好きなので、自分で料理も作るようだ。

「孝一郎は、味のハードルが低いからな・・・」
 
「大きなお世話だ!ピエールは男同士で仲良く飯を食うんだな。じゃあ、行きましょうか。アリサ、しーぽん、光太」

「ピエール君、頑張ってね〜」

 「くそ、アリサめ・・・」

アリサはピエールがお嬢に気がある事を知っていたので、意味深な表情をしながらXEAFEをあとにするのであった。


「よーーーし!2人が来るまであと少しよ。急いで料理を完成させるわよ!」

「しーぽん、気合が入っているね。それで、何を作っているの?」

「肉じゃがよ」

「肉じゃが?」
 
アリサがしーぽんが見ている本のタイトルを覗き込むと、「彼氏を喜ばせるメニュー100選」と書かれていた。

「あれーーーー?しーぽんは、誰が目当てなのかなぁ?」

「えっ!これは、たまたまメニューの内容が良かったから買っただけで・・・」

「お姉さんに正直に話して御覧なさい」

「だから・・・」

「ピンポーーーン!」

「ちっ!聞きそびれた」

「「お邪魔しま〜す」」

「「いらっしゃーい」」

「ピエールじゃないけど、花を持ってきたよ」

光太にしては珍しく、プレゼント持参で登場する。

「おっ、光太にしては気が利くじゃない」
 
「俺は、アロマキャンドルを持って来た」

「意外な物を持ってくるな・・・」
 
「俺も自分でそう思う・・・」

手ぶらでは悪いと思った俺は、町の小物屋で店員のお姉さんに勧められるままにプレゼントの購入を決めていた。

「とにかく、入んなさい」

俺達はアリサの許可を得て部屋に入室したのであった。


「「ごちそうさまでした」」

「孝一郎君、光太君。どうだった?」

「美味しかった」

「僕も美味しかったよ」

「よかったーーー」

「私の方はどうなのよ」

「熟練の技を感じましたな」

「そうだね。それに美味しかったし」

夕食のメニューは、しーぽんが肉じゃがを、アリサがサラダとパスタを作ってくれて、デザートにはチーズケーキも出て味も美味しかった。
特にここ1ヶ月近くを、外食とジャンクフードに頼っていた俺には、久しぶりの手料理であった。

「料理を作れる人を、俺は尊敬するけどね」

「自分が作れないからでしょう?」

「ぶっちゃけると、そうかな?」

「あんたねえ。料理くらい作れるようになりなさいよ」

「そうだ!料理が上手な彼女を作れば良いんだ!」
 
「孝一郎君のタイプは、料理の上手な人なの?」

しーぽんが目を輝かせながら、俺に質問をしてくる。

「というよりは、餌付けをしてくれる人みたいよ」

「俺は犬かよ!」

「本当に2人は面白いよね。何か夫婦みたいだ」

「えっ!」

「何を言ってるのよ!光太!」

俺とアリサは、光太の一言に動揺してしまう。

「僕はお似合いだと思うよ」

「・・・・・・」
 
「・・・・・・」

更に光太の止めの一言で、2人は見つめ合って顔を赤く染めてしまう。

「あっ、あのさ。料理が得意な人なら、やよいちゃんも候補に入るのかな?」

「お嬢って料理が上手なの?」

「うん。上手だよ」

「ちなみに、栢山さんは?」

「晶は、駄目駄目よ」

しーぽんの誘導戦術が上手くいったようで、4人は他の話題に移行する事に成功する。

「そうか。ジョジョも大変だな」

「やっぱり、ジョジョは晶狙いか」

「見ればわかるものね」

「クールな栢山さんに、懸命に話しかけるジョジョってか」

「でも、晶も満更じゃないみたいよ。あの娘、いつもあんな感じだから、めげずに話しかけてくるジョジョが気になるみたい」

「(マメな男は勝利するの巻)だな」

「それで、ピエールは?」

「あれは完全に駄目ね。お嬢にその気が全くなし」

「ふーん。やっぱりそうか」

「どちらかと言うと、孝一郎の方が脈があるかな?」

「そうか?俺とお嬢は、あくまでも友達なんだけど」

「孝一郎君、先にやよいちゃんをバイクに乗せたじゃない」

しーぽんに、先週の日曜日の事を蒸し返されてしまう。

「あれは、たまたま試し運転に出かけようとした時に、お願いされたからで・・・」

「本当かな〜?」

「本当だっての!俺は歓迎パーティーの時に、(お友達になりましょうね)と言われて予防線を張られているから」

「そうかな?でも最近、お嬢と良く話しているよね」

「まあ世間話をね。それで、アリサはどうなんだよ?」

「私?私はパスだな」

「しーぽんは?」

「えっ!わっ私もパスです・・・」

「そいつは残念」

4人で話が盛り上がっている内に時間も遅くなったので、お食事会と暴露大会はお開きとなったのであった。


 
翌日から、合同体育祭に向けての特別授業が始まった。
特別授業といっても、要は実習が全て午後に回され、実習の終了時間が遅くなって、土曜日と日曜日の午前中も潰れるという、ハードなスケジュールに代わっただけであった。

「うううっ。細かいのは苦手だ・・・」

今日の実習は、格納庫内でマニュピレータハンドを使用したブロック積みの練習であった。
体育祭では、マニュピレータアートや模擬剣を持たせた剣術の競技などもあり、他にもマニュピレータハンドを使用する種目も多いため、比較的多くの時間が割り当てられていた。

「ああ・・・。崩れてしまったか・・・」

「孝一郎の下手糞」

「人の事を言えるのですか?アリサ・グレンノースさん」

「むむむ・・・」

俺は特に不器用というわけでもなかったが、慣れないマニュピレータハンドの操作に戸惑ってミスを連発していた。
そして、それは俺だけというわけでもなく、大概の生徒が次々とブロックを崩していた。

「よーし!できた!」

「うっ!しーぽんにマニュピレータハンドの神が光臨している」

「孝一郎君は大げさだな」

「でも、見事なものだね」

「こういう細かい作業は得意なんだ。私」

俺達のブロックは全然組みあがっていなかったが、しーぽんは全くズレの無い見事な逆三角形型にブロックを積み上げていた。

「しーぽんは、マニュピレータハンドを使う競技に出た方が良いね」

「そうかな?」

「意外と穴場で、入賞の可能性もあるかも・・・」

「えへへ。入賞か」

「他のみんなは完成していないのか?」

レイラ先生が困ったような顔で、手にした教官用の端末を見ながら言う。

「だって、難しいですよ・・・」

「今、完成しました。あれれ?」

俺が2回目に組んだブロックも詰めが甘かったようで、ゴロゴロと崩れてしまった。

「予科生の諸君は、注目!」

突然、「ビアンカ」全機の通信ウィンドウにオースチン先輩の顔が割り込んで来た。

「心して聞いて貰いたい。諸君らも知っての通り、五大ファウンデーション対抗合同体育祭が近づいている。体育祭の各種目は、(グレートミッション)を行うための技術が盛り込まれている」

「でも、予科生には関係ないからね」
 
「言えてる」

アリサと大が、やる気の無いツッコミを入れる。

「そこで!本科生・予科生を問わず、合同体育祭における各競技の優勝者は、特別に(グレートミッション)への参加が考慮されることになった!成績優秀であれば、予科生でも選ばれる可能性もある!」

「えっ!本当かよ」

「凄ぇ!」

「更にアストロボールには、予科生から1人、出場して貰う事になった。今回は既に、我々(ビッグ4)が選手として選ばれている。そして残る枠は残り1つ。その1つが、君たち予科生に開かれているのだ。さあ!君達も僕達と共にアストロボールの覇者を目指し、(ステルヴィア)に黄金時代を取り戻そうではないか!そして(グレートミッション)への参加資格を手に入れよう!さあ、我々と勝利の栄光を掴もうではないか!」

オースチン先輩の演説で、予科生達は学園中で喜びの声をあげ始め、全員がやる気を出し始めた。

「へへへ。(グレートミッション)への参加資格か」

「アストロボールだぜ!アストロボール!」

「最後の枠は僕がいただきだな」

「私がいただくわ」

さっきまでブロックを転がしていただけの予科生達は、次々とブロックを組み上げていく。

「「「「「できました!」」」」」

「(馬にニンジン作戦)とは良く考えたな」

レイラ先生の言う通りに、今ひとつ士気の上がらない予科生に気合いを入れるために、「ビッグ4」が立てた作戦は成功のようだ。
 
「よーし、完成した」

俺は、なるべくズレが少なくなるようにしてブロックを積み上げる。
 
「厚木、遅くないか?」

「まずは、スピードよりも精度です」

「お前は、別の意味でマイペースだよな」

「指名されたら頑張りますけどね」

「ようし、だんだん体育祭らしくなってきたぞ!燃えろ!バーニングだ!」

何だかんだ言っても、一番気合が入っているのは管制室にいる迅雷先生であった。


「ふむふむ。競技はアストロボールだけじゃなくて、全部で50を超えるのか」

実習後にXECAFEで休憩を取っていると、大達が端末でデータを見ながら、やる気満々で体育祭の話をしていた。

「アストロボールの他にも、沢山の競技があるんだな」

「トライアングルマスゲームって、50人参加だってよ。狙い目かも」

「でも、それで勝ったとしてもポイント低くない?」

ジョジョとピエールとアリサも、自分の端末で競技の確認をしていた。

「団体競技は練習がしんどいぞ」

「そうなの?」

「得点は悪くないと思うけど、リーダーの力量に左右されやすい。大人数を纏めて、競技に勝てるようにするのは大変だからな」

「となると、やっぱりアストロボールか」

「出場枠が1つきりなんだけど・・・」

「でもやっぱり体育祭の花と言えば、アストロボールだからね。これで優勝できれば、(グレートミッション)への道もグンと近くなりそうだし」

ピエールの言う事は正しいのだが、アストロボールはスポーツイベントの中でも、太陽系中で3番目に人気がある合同体育祭中1番の人気競技なので、相当に狭い門になるであろう。

「うわぁ!私これに出てみたい!」

「何か良い競技が見つかったの?」

「マニュピレータアートだって。新しくプログラムを組んで絵を描く競技だって、面白そう!」

1人希望の競技を見つけたしーぽんを、全員が穏やかな表情で見つめている。

「みんな、どうしたの?」

「しーぽん!」

「あなたがいると心が和むわーーー!」

「本当ねーーー」

アリサとお嬢に両側から頬ずりをされているしーぽんを横目に、俺と光太はあまりやる気が無い者同士で話をしていた。

「孝一郎は、アストロボールに興味が無いの?」

「今は(ビアンカ)の操縦技量を上げる事で精一杯だからな。出たくなったら、来年以降を狙うさ」

「ふーん。そうなんだ」

「光太はどうなんだ?」

「僕は応援要員かな?トライアングルマスゲームに出ようかな?」

「お前に一番向いていない競技だぞ」

「そうかな?」

「悪い事は言わないから、個人競技にしておけ」

「孝一郎は何に出たいの?」

「俺はこれだな」

俺は光太に自分の携帯端末を見せる。

「(デブリ競争)?」

「要はデブリだらけのコースを、オーバビスマシンで走り抜けるだけの競技だ」

「何でこれにしたの?」

「練習の過程で技量が上がりやすい。スピードがあまり出せないので、(ビアンカ)が優勝する事も数年に1度はある。1人で練習できる。以上の理由からだな」

「何だかんだ言っても、勝ちを狙っているんだね」

「勝利って麻薬なんだよね」

俺は口ではやる気の無いような事を言っていたが、密かに勝利を企むつもりでいた。


「今日の実習はクロスフォーメーション飛行を行う!」

翌日、レイラ先生の指示の元で新しい技の練習が行われていた。

「始めは、厚木と片瀬だ!」

「しーぽん、よろしくね」

「私、自信が無い・・・」

しーぽんの自信の無さそうな声を聞いた俺に、保護欲というか、何とかしてあげたいという気持ちが湧き上がってくる。

「大丈夫だって」

「それでは、2機同時に発進だ!」

俺としーぽんは、同時に「ビアンカ」を発進させる。

「よし!最初の交差だ!」

「しーぽん、最初だから、そんなに近づかなくて良いよ。そう。距離は3くらいで良いかな?そう。落ち着いて」

「うん」

最初の交差はぎこちなかったが、何とか成功する。

「次はもう少しだけ、距離を縮めるよ」

「うん」

「もう少し近づいても大丈夫だよ」

「わかった」

2人の交差は回を重ねるごとに、綺麗に早く近くなっていく。

「よし!初めてにしては上手だったな。厚木はおしゃべりが多かったようだが」

「すんませんです」

「まあいい。次は小田原とグレンノースだ!」

「はい!」

「孝一郎君、ありがとう」

「何が?」

「アドバイスをくれて」

「しーぽんの実力だから。それ」

「えっ、そんな事はないよ・・・」

「しーぽんは最初の基本で苦労しているから、あとの応用がかえって楽なんだよ。慌てさえしなければ、ちゃんとできるのさ」

「慌てなければ?」

「そう。何とかしなければいけないと焦って、特に必要も無い事や、あとでやっても十分に間に合う操作まで急いでやろうとして失敗する。これが、しーぽんの失敗時の基本パターンのわけ」

「光太君にも同じ事を言われたの。何でも情報を見過ぎだって」

「昔大会に出るとさ。実力はあるのに、本番に弱くて試合に勝てない選手がいたんだよ。理由を聞くと、色々と余計な事を考え過ぎるんだって」

「そうなんだ」

「しーぽんは、落ち着いてやればできるから」

「孝一郎君。ありがとう」

その後もしーぽんは大きなミスをする事もなく、無事に実習を終えたのであった。

「孝一郎君は、天性の女たらしなのね」
 
その時、お嬢の独り言を聞いていた人物は1人も存在しなかった。


「今日は何ですか?」

更に1日が過ぎ、今日も何か新しい事をさせられるようだ。

「汎用機である(ビアンカ)は、用途に合わせた様々なパーツをカスタマイズする事により、多様な性能を発揮する事も可能で・・・とまあ、説明はこれくらいにして、各自が出場 する競技に合わせて機体をカスタマイズする事!」

「了解です」

俺達は出場する競技に合わせて、「ビアンカ」のカスタマイズを開始する事にする。

「(デブリ競争)だから、大きなウィングは邪魔だな・・・」

「ウィング!ウィング合体だ!空を飛べぇーーー!」

「うわっ!下手糞な歌!」

自分の「ビアンカ」に大きなウィングを装着した大は、下手糞な歌を熱唱していた。

「私は出力を大幅にアップよ!」

「制御できると良いな・・・」

「大きなお世話よ!」

俺の独り言は、運悪くアリサに聞こえてしまったらしい。

「孝一郎はどうするのよ!?」

「特にいじらないけど。バランス重視って事で」

「僕のようにセンサーを弄らないのかい?」

「とりあえず、練習コースを飛行させてみてからだな」

「あいや待たれい!」

ピエールと俺が話をしていると、急に誰かが声をかけてきた。
よく見ると、整備科の本科生のようだ。

「君は高性能な(ビアンカ)を手に入れたくないかい?」

「興味ありません」

俺は即座に断りを入れる。
それは俺の勘が、彼は怪しいと告げていたからだ。
というか、誰が見ても怪しかったのだ。

「そこを何とかお願いしますよぉ〜」

「孝一郎、話くらい聞いてあげたら?」

急に卑屈になった本科生を見て可哀想に思ったのか、アリサがかなり無責任な事を言う。

「アリサ、自分の事じゃないからって・・・」

「お願いしますよ。僕の夢を適えさせてください」

「まあ、お話だけなら・・・」

本科生の彼が、半泣きで予科生の俺に頭をさげてくるので、俺はつい話を聞く事を了承してしまう。

「実は、正規のパーツとは・・・」

「却下!俺で実験しないでくださいよ」

「大丈夫ですよ。不良品じゃないし、使用許可もちゃんと出ているパーツセットなんですから」

「それで、それを装着するとどうなるんです?」

「(ケイティー)を超えるスピードと運動性!小回りも利き!航続距離にも優れ!」

「さようなら」

「待ってぇーーー!」

「物理的にありえませんよ。そんな(ビアンカ)は」

「それが1機分だけあるんですよ。実は(ケイティー)の性能を超える(ビアンカ)用のパーツというコンセプトで開発されて、試作品も完成したのですが・・・」

「ですが?」

「製造工程の複雑さとコストのせいで、(ケイティー)で十分という事になって開発中止になりまして、1セットが予備の部品セットと共に、倉庫で眠っているんです。金を掛けて開発したので、捨てるに捨てられずに備品扱いで埃を被っていまして・・・」

「そんなに古いパーツで大丈夫ですか?」

「ちゃんとレストアしましたから」

「でも、怪しいな・・・」

「わかりました。この話はなしにします」

「えっ?」

「実は、操縦がメチャメチャ難しいんです。大した腕もないあなたに頼んだ僕が愚かだったんです」

「よし!そこまで言うなら乗ってやるよ!」

俺はつい彼の挑発に乗ってしまって、自分の「ビアンカ」の改良を了承してしまう。

「では、放課後までに仕上げます。レイラ先生には事情をお話しておきますので・・・」

「それは良いんですけど、先輩の名前は何と言うんですか?」

「整備科の本科生1年、御剣ジェットです!」

これが俺と愛機と変な先輩との最初の出会いであった。


「というわけで、御剣をそそのかしてあの不良品を厚木の(ビアンカ)に装備させる事に成功しました。奴はあれが純粋な高性能パーツだと信じています」

「不良品か」

「ええ。本当は不良品では無いのですが、教官ですら扱いきれなかったジャジャ馬パーツです。ヒヨッ子予科生なら、最初のテスト飛行 で事故確実ですよ」

「そして奴は負傷して、その責任は御剣とかいうガキに押し付けるんだな。お前も悪人だよな」

放課後の通信室で、1人の本科生と金髪の筋肉ゴリラの会話は続いていた。

「では、約束の物を頼みますよ」

「任せろ」

それだけ言うと、通信は切れてしまった。

「仕方が無いよな・・・。俺は貧乏な奨学生で、母の手術のお金なんて出せないし・・・」

「そうか。それで、スパイをやっていたんだな。ジョージ・レイトン」

「笙人律夫か!くそ!油断した・・・」

こっそりと通信していた彼の後ろには、いつの間にか笙人律夫が立っていた。
 
「ケントの言う通りだったな。スパイは身近にいたわけだ。まさか、生徒会の役員であるお前がな・・・・・・」

「バレたのならば仕方がない。退学にでも何でもするんだな」

「なぜだ?」

「厚木は、今頃大惨事を引きこしているさ、そして、その原因は俺にあるんだ!」

「そうでもないさ。良く見てみるんだな」

笙人はそう言うと、通信機のモニターを外のカメラの画像に切り替える。
すると暴走気味の「ビアンカ」の改良機が、どうにか飛行している様子が映し出されていた。

「苦労はしているようだが、意外と上手く乗りこなしているようだぞ」

「そんな・・・。バカな・・・」

「これでお前の罪状はなくなったな。だが・・・」

「だが?」

「これからは二重スパイをやって貰う。精々彼を上手くだまして手術代を稼ぐんだな」

「そんな事は無理・・・」
 
「おいおい。君は我々に弱みを握られているのだよ。断る権利は無いと思いたまえ」

「そんな・・・・・・」

「無論、裏切れば相応の報いは受けて貰うが」

「わかった・・・・・・」

一度助かったと思ってから、再び奈落の底に落とされたジョージは、弱々しく返事をする。

「(ビック4)を舐めて貰っては困るな」

笙人はそれだけを言うと、通信室から姿を消すのであった。


「どうです?(ビアンカマックス)の調子は?」

「まっすぐ飛ばすのが精一杯だぁーーー!」

「へえ、本当に速いんだね」

「のん気に感心しているんじゃねぇ!」

御剣先輩の言葉通りに、「ビアンカ」の改良は放課後に終了していたが、それに搭乗した俺は地獄を味わっていた。

「確かに、(ケイティー)並みの速度が出ているけど!」

放課後、予備の管制室で御剣先輩と興味本位で集合したアリサと大としーぽんが見つめるなか、練習コース内で、俺は先輩が「ビアンカマックス」と呼んでいる機体のテストを行っていたのだが、その操縦の難しさと、押し付けられるようなGに顔をしかめていた。

「だから開発中止になったんです。スピードと安定性を保つための小刻みで複雑な操作。なぜか(ケイティー)よりもきついG。そして複雑な動作を行おうとすると、更に操作手順が増加します」

「ビアンカマックス」は、パーツを取り付けた割には流線的なフォルムをしていて、追加でウィングも付けられていたが、「ケイティー」よりもずっと細身に仕上がっていた。

「これで!(デブリ競争)に出られるのか!?」

「それは練習次第と言う事で」

「孝一郎、諦めたら?」

「俺のプライドにかけて乗りこなす!」

「そういうキャラじゃないでしょう。孝一郎は」

「大の言う事は正しい!だがこれを乗りこなせれば、来年からの(ケイティー)の実習もラクになるわけで」

「こら!お前達は何をしているんだ!」

「「「あっ!レイラ先生!」」」

「レイラ先生じゃない!私はこんなパーツを装着する事を許可していないぞ!」

「えーーーっ!だって、御剣先輩が!」

「とにかく戻って来い!」

飛行テストは中止になり、俺達はレイラ先生に呼び出されたのであった。


 
「私は、本科生がパーツの装着実習と構造理論の講義を行うというから、厚木の(ビアンカ)のみに許可を出したのだが・・・」

俺が「ビアンカマックス」を格納庫内に置くと同時に、レイラ先生の説教タイムが始まる。
 
「ですから、ちゃんと装着してテストを行ったわけです」 

「あんなおかしなパーツを勝手に取り付けるな!私は普通のパーツの事だと!」

「えーーー!ちゃんと装着可能なパーツですし、私は普通のパーツを取り付けるなんて一言も言ってませんよ」

「お前な・・・・・・」

御剣先輩はレイラ先生の迫力にまったく動ずる事もなく、自身の主張を崩さなかった。 
どうやらこの先輩は、俺の「ビアンカ」を改良するために、かなりのグレーゾーンを突破してきているようだ。
  
「とりあえず、元に戻せ!」

「無理です」

「はぁ?」

「無理なんです」
 
「それはおかしいだろう!パーツを外して、設定プログラムを元に戻せば・・・」

「実は自分なりの改良を加えるために、接着や溶接をした部分もありまして、完全に戻すのは不可能であります!」

「ありますじゃない!規則違反じゃないか!」

「このまま厚木君が、この(ビアンカマックス)を使い続けてくれれば問題ないです」

「ないわけないだろうが!」

レイラ先生の怒鳴り声で俺達は首をすくめていたのだが、御剣先輩は「立て板に水」で全く動揺している気配がなかった。

「だが、肝心の厚木の技量が伴わない。正直言って、初めてでまっすぐに飛ばせた事は賞賛に値するが、厚木の出場する(デブリ競争)には、不向きな機体だぞ」

「実はそれなんですけど」

「何だ?厚木」

「このパーツを装着した状態で(ビアンカ)系列の改良プログラムを使っていると、えらく操作が複雑になるみたいなんですよ」

「つまり、それを直せば良いと?」

「そうですね。もう少し操作が楽になれば、あるいは・・・」

「(ビアンカマックス)の運動性は(ビアンカ)に劣るものではありません!要は操縦者の腕次第なんです!」

「(ケイティー)のプログラムを応用すれば良いんじゃないの?」

今までは無口だった大が意見を述べる。

「(ケイティー)のプログラムは使えませんよ。全くの別物ですので」

「他人事のように抜かすな!」

御剣先輩の頭にレイラ先生の拳骨が落下する。

「つまり、新規でこれ用にプログラムの開発を行えと?」

「そういう事です!」

「じゃあ、責任を持って御剣先輩にお願いします」

「専門外だから無理です」

「先輩・・・・・・」

「普通は何年も時間をかけて、多くのプログラマーが共同して行うものだぞ。即興で作れるものじゃない。厚木の機体には予備の(ビアンカ)をまわす。この事件の責任は、御剣が取って貰うからな」

レイラ先生の判決が下り、今までは強気であった御剣先輩がうなだれたその時、予想外の所から助っ人が現れた。
 
「孝一郎君、私が作ってみるよ」

「しーぽんが?」

「うん。プログラミングは得意だから」

「だがな。片瀬がいくらプログラミングが得意とはいえ、それはアマチュアの範囲だろうが」

レイラ先生はしーぽんをアマチュア扱いしていたが、俺はアマチュアが「ステルヴィア」の警報システムを切ったり、メインサーバールームのパスワードを簡単に探り当てたりするのだろうかとも考えていた。

「試しにやってみようよ。レイラ先生お願いします」

「時間的に見て1晩しかあげられないぞ。それで、良いのか?」

「1晩ですか?ええい!俺の部屋で徹夜だ!しーぽん!御剣先輩!行くぞ!」

「「おーーー!」」

俺達はプログラムを完成させるために、自室へと走るのであった。


「まさか完成してしまうとは・・・」

「片瀬さんって凄いんですね・・・」

「やったね」

問題のプログラムは、3人の男女の尊い犠牲により一晩で完成を見ていた。
しーぽんが指揮を執り、俺が操縦面から、御剣先輩が機械面からの助言を行い、俺達にでもできそうな部分の指示を受け、朝の7時過ぎにようやく完成したのだ。

「初めて見る複雑なプログラムモデルだね。しかも、2つあるなんて」

完成したプログラムのモデルをディスプレイに表示すると、そこには今まで見た事の無い、複雑ながらも綺麗な双子のモデルが表示されていた。

「孝一郎君が授業で戸惑わないように、普通の(ビアンカ)並みの性能しか出せないモードと、高性能のマックスモードに切り替えられるようにしたの」

「しーぽん、天才だな」

「そうですね」

「えへへ。テレるなぁーーー」

「でも良く一晩で完成したよな」

「実はね。昔の似たようなコンセプトの宇宙船の操作プログラムを基本にして、(ビアンカ)と(ケイティー)のデータを足してみたの」

「そして、それにしーぽんのオリジナルプログラムを足したのか」 

「そういう事」

「しーぽん、ありがとうね」

「孝一郎君には、いつもお世話になっているから」 

「俺が?」

「うん。私って、弟しかいないからよくわからないんだけど、お兄さんってこんな感じなのかな?って思うの」

「そうか。ありがとう」

妹そっくりのしーぽんにそう言われると、俺の心は温かくなってくる。

「あのーーー。私へのお礼は?」

「あると思いますか?」

「さすがに、私もそこまでは・・・」

俺としーぽんの考えは即座に一致する。

「とにかく、午後から実装してテストを行います」

「でもその前に・・・」

「眠いよーーー」

3人はそのまま意識を失ってしまい、午前中の授業をサボった罪で迅雷先生に説教を食らうのであった。


「孝一郎君!調子はどう?」

「昨日よりも、物凄く操作しやすい。ありがとうね。しーぽん」

 あのーーー。私へのお礼は・・・?」

俺は御剣先輩の声を無視して「ビアンカマックスのテスト飛行を行っていた。
「ビアンカマックス」は普通のビアンカよりも少し操作が難しかったが、きちんと操作をすると、細かい部分まで忠実に動いてくれた。

「次は(デブリ競争)の練習コースを飛行するぞ!」

「タイムを計ります」

俺はコースに突入して飛行を開始する。

「うわっ!速い!」

「僕の(ビアンカマックス)はさすがだな」

「何がさすがだ!問題ばかり起こしやがって!」

「「迅雷先生!」」

「私もいるぞ!」

予備管制室でタイムを計測していたしーぽんと御剣先輩に、迅雷先生とレイラ先生が声をかけてくる。

「おさぼりトリオが、何をやっているんだ?」

「迅雷先生の授業をさぼったのは、片瀬さんと厚木君だけですよ」

「御剣は本科生で、カリキュラムが違うだろうが!それに、他の授業をサボったじゃないか!同罪だ!」

「すいませ〜ん」

「しかし、本当に完成させてしまうとはな・・・」

「僕の実力と(ビアンカマックス)への愛の勝利です」

「違う!プログラムの事だ!」

御剣先輩の言葉は、レイラ先生の即座に否定される。

「あれは、片瀬さんの貢献度が大きいですね」

「そうか。良くやったな。片瀬」

「ありがとうございます。でも、あんな例外的な機体を予科生が使って大丈夫なんですか?」

「例外ったって、古いパーツの再生だからな。しかも昔は、悪評ばかりが先行していた物だから、教官や本科生で羨ましがる連中は皆無だ。実際に事故を起こして怪我をした者もいるし・・・」

「えぇーーー!そんなに危険なパーツだったんですか?」

「実際のところは、軽傷者が2名だけなんだ、噂が一人歩きして死者まで出た事になっている。ただ、並みの技量のパイロットでは、まっすぐに飛ばす事すら不可能だ」

「よく使用禁止になりませんでしたね」

「普通は、使おうとは思わないからな。倉庫に放り投げてあったんだ」

「それって・・・・・・」

「手続きのミスとも言うな。そこを御剣に出し抜かれてしまったのだが・・・」

迅雷先生は、苦虫を噛み潰したような表情で真相を語る。

「でもそんなパーツのわりには、上手に操縦していますよね。孝一郎君」

「片瀬の言う通りだな。しかも厚木の奴、昨日よりも上手になっているな」

「プログラムのせいですよ。きっと」

「御剣は厚木の才能を認めたから、パイロットに選んだんだろう。それは、ないんじゃないのか?」

「確かに予科生にしては驚異的ですが、1日でそんなに進化しますか?」

「あいつの成長速度は驚異的だ。藤沢も驚いていたくらいだからな」

「あっ、ゴールしましたよ」

「タイムは?」

「えっ!去年の優勝タイムから5秒遅れです」

「おい!厚木の奴、あの機体はまだ2回目なんだよな?」
 
「今日の仕様になってからは、初の飛行です」

「あいつ。もしかすると・・・・・・」

レイラ先生達が驚いていたその時、俺は幾何学模様で表示されたディスプレイの奥に何かを感じていた。

「何だろう?あのモヤモヤは?宇宙空間のように奥が見えない・・・」

現時点では、俺が見えたものの正体はまだわからなかった。


それから3日の時が流れた。
結局、「ステルヴィア」の職員もお役人であったらしく、俺の「ビアンカマックス」はなし崩し的に認められ、しーぽんのプログラムも完璧に近い出来であったために、授業時は「通常モード」で、自分で練習する時や特別な指示があった時には「マックスモード」を使う事で折り合いがつき、更に操縦に慣れた俺は、毎日楽しく練習を行っていた。

「今日の授業は、アストロボールの選手選考会とする!」

レイラ先生の宣言のもと、格納庫内のモニターにアストロボール用のコートが形成されていく様子が映し出されていた。

「それと今日の選考会は、別の人間に審査して貰う事になった」

レイラ先生の紹介と共に、「ビック4」の面々が入場してくる。

「今日は僕達で審査を行うので、気合を入れてくれよ。審査内容は、僕達4人がゴールを守るので、君達は僕達をかわして反対側のゴールまで辿り着いてくれ」

「私達のガードは固いわよ」

「諸君の健闘を期待する」

「戦いの雄叫びをあげよ、戦争の犬たちを解き放て・・・。フロムシェークスピア、ジュリアス・シーザー」

「ビック4」の面々は、それだけを言うと自分の「ケイティー」に乗り込み、展開されたフィールドに布陣した。

「ちなみに、うちのクラスが最後らしいけど、他のクラスはお話にならなかったらしい」

大は、どこからか集めてきた情報を教えてくれる。

「だろうな。俺達は予科生なんだから」

「でも孝一郎の機体なら、何とかなるんじゃないの?」
 
「授業中は通常モードしか使えないから。つまり、こいつはただの2回り大きい(ビアンカ)でしかないんだよ」

「どうしてそんな機体を使っているの?素直に予備の(ビアンカ)に換えれば良かったのに」

「自主練習の時は自由に使えるからね。あの加速を体験したら、普通の(ビアンカ)なんて・・・」

俺も最初は御剣先輩に言いたい事が山ほどあったのだが、今はそれなりに感謝までしていた。
1人だけ特殊な機体に搭乗するという、昔見たロボットアニメのようなシチュエーションに燃えていたからだ。

「次!小田原!」

「了解です」

俺達が話をしている間に、光太はあっけなくフィールドの外に弾き出され、残りもお嬢がセンターラインの位置にたどり着くのが精一杯であった。

「やっぱり駄目だったわ」

「でも、最高成績じゃないか」
 
「孝一郎君なら、もっと行けるわよ」
 
「お嬢の方が上手じゃない」

「授業の課題はね。でも、この競技は別物だから。あなたなら、もしかしたら・・・」 

「次!厚木!」

「了解です!」

俺はスタート地点に「ビアンカマックス」を移動させる。

「厚木君、好きな方のモードで良いよ」

「オースチン先輩、あくまでも全員が同じ設定で平等な事が前提です」

「ならば、僕達の方が有利かな?」

「さあ?どうでしょうか?」

レイラ先生の合図とともに、俺は「ビアンカマックス」を低速で前進させる。

「ケント!いくら何でも低速過ぎよ!」

「何かを企んでいるのかな?」

「まさか、通常よりも一回り大きい(ビアンカ)だから、障害物に戸惑っているだけよ」

「彼がそんなタマか?」

「確認してみるわ!ナジィ!行くわよ!」

「そうね。埒があかないわ」

2人は自分達の「ケイティー」を前進させて、俺を押し出しにかかった。

「ふふ。4対1を2対1×2に分断っと」

俺は「ビアンカマックス」の速度を最高速度にあげる。

「スピードをあげた?」

「でも所詮は(ビアンカ)よ。彼、例のモードを使わないみたいだし。ナジィ、2機で弾き出すわよ」

「了解」

「町田先輩とナジマ先輩は、共同で俺を弾き出そうとしているのか。では、久しぶりに試合の勘を取り戻しますか」

俺はアタックをかけてきた2人の「ケイティー」を次々にかわしてから、更に奥に向かって前進する。

「かわされた?」

「何で?」

2人は、どうして自分達の攻撃がかわされたのかを理解できないでいた。

「そうか!しまった!」

「どうしたんだ?笙人」

「彼は自分で攻撃をしかけるよりも、他人の攻撃をかわしたりする方が得意だ」

最初の攻撃をかわされた2人は、「ビアンカマックス」にすぐに追い付いて攻撃を再開するが、次々にかわされているようだ。

「笙人、どうする?」

「俺はゴール前に下がる。ケントは初佳達と合流して、3機で彼を疲れさせてくれ」
    
「随分と消極的な策だな」

「別に彼のペースでやる必要は無いからな。彼の戦法は単純だ。一番簡単なコースを走り抜けて、邪魔をしてくる俺達をかわし続けるつもりなんだ。彼はまだあの機体に完全に慣れていないし、操縦技術も総合的には我々に劣るからな」

「つまり、僕達に勝てそうな部分でしか勝負をしていないと?」

「そうだ」

「恐ろしいほどに冷静な男だね」

「勝負慣れをしているからな」

「では、僕も勝負をしてみるかな」

その後、ケント機を含む3機の「ケイティー」は攻撃を続けるが、全てをギリギリのところで回避されてしまう。

「厚木君、やるではないか!」

「余裕無いですけど」

「あったら、大変な事になるさ!」

次第にゴールが近くなっていき、ゴール前の笙人先輩が最後の勝負をしかけてきた。

「これで4対1だな」

「駄目だ!4機同時はかわせない!」

俺は一か八かでゴールに向かって、笙人先輩との1対1の状況を作り出そうとする。

「やらせないわ!」

「町田先輩か!」

オースチン先輩とナジマ先輩の最後の攻撃をかわし、少し距離を離して安心したところで、真上から町田先輩の「ケイティー」が覆いかぶさってきた。

「上から押し潰すつもりか!」

「これで終わりよ!」

「させるか!」

俺は最小の機動で町田先輩の「ケイティー」をかわしたあと、彼女の「ケイティー」の上に移動して、そのまま下にあった障害物に叩き付けた。
彼女は高速で移動していたうえに、俺の相手の力を利用した押し込みに対応できず動きを止めてしまう。

「私が退場・・・・・・?」

障害物のポールに激突した初佳の「ケイティー」のコッピット内に退場の宣告が鳴り響き、その事実が信じられない初佳は、呆然としながら1人で呟いていた。

「さて、ゴールまであと少し・・・」
 
「甘いな!厚木!」

「初佳を押し込まないで、すぐにゴールを目指すべきだったね」

「本当に残念」

だが町田先輩に時間をかけ過ぎていたようで、俺は残りの3機に死角を取られてしまい、そのまま「まいった」を宣言する事になってしまった。

「町田先輩、すいません」

「何がなの?」

「あまりに追い込まれたせいで、少し攻撃的になってしまったようです」

「(相手の力を利用して倒す)か・・・。さすがは柔道のゴールドメダリストね」

「オーバビスマシンでは相手を投げられませんので、その力を利用して障害物に叩き付けたんです」

「そうね。あの上からのひと押しがなければ、簡単に回避できたでしょうから」

「でも、ゴール前で失格になってしまいました」

「初佳、(ケイティー)に異常は無いか?」

「大丈夫よ。それほどの衝撃ではなかったから」

「本当にすいませんでした」

「気にしていないから、戻りなさい。まだ全員終わっていないのよ」

「わかりました」

俺が「ケイティーマックス」を操作してレイラ先生の元に戻ると、クラスメイト達から歓声があがった。

「凄いじゃん。あの町田先輩を退場に追い込むなんて」

「しかも、ゴール直前まで到着したし」

「まぐれまぐれ」

「厚木」

みんなの賞賛声に機嫌よく答えていると、レイラ先生が俺の名前を呼ぶ。

「レイラ先生、何ですか?」

「技術は認めるが、あれは反則だぞ」

「えっ!そうなんですか?」

「お前、ルールも知らないのか?」  
  
管制室から迅雷先生の呆れたような声が入ってくる。

「知りません。出るつもりもなかったから」

「アホかぁーーー!」

「このバカ者が!」

俺がレイラ先生と迅雷先生に怒鳴られている隣で、最後の挑戦者であるしーぽんが、ゆっくりと「ビアンカ」を飛ばし出した。

「片瀬か」

「せめてハーフラインくらいまでは・・・」

関心事が俺からしーぽんに向かったので、俺が安堵していると急にしーぽんの「ビアンカ」がトリッキーな機動を行いながら、ゴールを目指して進撃を開始していた。

「へえ、凄いじゃないか。しーぽんは。光太のアドバイスが利いたのかな?」

「えっ!そんな大した事は言っていないんだけど」

「何を言ったんだ?」

「宇宙を感じろってね」

「宇宙を感じるねぇ」

俺と光太の会話が終了すると同時に、しーぽんはゴール前での町田先輩の最後の攻撃も回避して、見事にゴールしたのであった。


「やったな!しーぽん」

「孝一郎より凄いじゃん!」

「言えてる」

俺達が格納庫でしーぽんを祝福していると、「ビック4」の4人が登場する。

「片瀬さん。おめでとう。君は正式に、アストロボールのメンバーに選ばれました」

「おめでとう」

「大したものだ」

「最後はやられたわ」

「君を正式に5人目の戦士として認める!」

「さあ!(ステルヴィア)に勝利の栄光を!」

「栄光を!」

「栄光を!」

「さあ、片瀬さんも入って!」

しーぽんは、町田先輩に引っ張られてスクラムを組まされる。

「さあ!優勝だ!」

「優勝だ!」

「優勝だ!」

「優勝よ!」

「あの・・・。私・・・、マニュピレータアートに出ちゃ駄目でしょうか?」

しーぽんの小さな心の声は誰にも届かず、彼女はアストロボールのレギュラー選手に選ばれてしまうのであった。

「孝一郎君、代わってよ〜」

「無理無理。俺は、(デブリ競争)に出るから」

「ああ。それと厚木君」

「何ですか?オースチン先輩」

「君を補欠選手に登録したから、練習にはちゃんと参加してくれよ」

「えっ!何でですか?」

「2番目に成績が良かったからだ」

「当然の事よ」

「私を叩き付けたままで、勝ち逃げをするの?」

「ははは・・・・・・」

「そういう事だから、メインは(デブリ競争)で(アストロボール)も補欠として、頑張って練習をしてくれ」

「へえ。孝一郎も大変ねぇ」
 
「本当にそう思っているか?アリサ」
 
「本番では、放送部の期待の新人であるアリサさんが、格好良く実況してあげるから」

「そして全女生徒の僕である、この僕もね」

「とりあえず、急いでしーぽんの(ビアンカ)のカスタマイズをしないとな」

「色はどうしようか?」

「孝一郎の(ビアンカ)も色を塗るか?」

「万が一にでも出場という事にもなれば、全太陽系に放映されるからな」

「希望の色は本人達にあとで聞くとして、問題はカスタマイズだな」

「こんにちは。予科生の諸君!厚木君が補欠に選ばれたんだって?」

「あなたは、御剣先輩!」

彼の事を知っているアリサが大声をあげる。

「そう。整備科の本科生1年、(ビアンカマックス)の生みの親である御剣ジェットだよ」

「それで、先輩はどのような用件で?」
 
「(ビアンカマックス)の整備と細かい調整をね。手伝ってくれるかい?」

「わかりました。みんな!気合入れるぞーーー!」

「「「「「「おーーーーーー!」」」」」」

「孝一郎君、しーぽん。大変な事になっているわよ」

「「あははははは・・・・・」」

御剣先輩とアリサ達が異常に盛り上がり、お嬢が冷静にツッコミを入れている横で、俺としーぽんは乾いた笑みをいつまでも浮かべていた。


        あとがき

主人公の能力なんですけど、彼は格闘技経験者という事で、ドッグファイトや格闘戦が得意という事になっています。
現時点での実力は、少しお嬢に劣るかもという感じです。
オリジナルというか再生機?(パーツ?)である「ビアンカマックス」は、お蔵入りになっていて倉庫で埃を被っていたものをしーぽんのオリジナルプログラムで再生させたものです。
ちなみに、この機体に光太が乗ればもっと上手に動かせます。
    

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