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▽レス始

「.hack//Splash login_6(黄昏の腕輪伝説+.hackシリーズ)」

箱庭廻 (2006-10-27 05:52/2006-10-27 06:07)
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 踏み立つは虚空の空。

 見下ろすは鮮やかな桜花の大地。

 しかし、その目に宿るのは渇いた瞳。

 手に宿るはギロチンを模した重斧。

 しかし、それすらも虚ろ。

 虚像に満ちた仮想存在。

 命無き構成物質。

 この世界は全てそれで出来ている。

 なのに。

「くだらない」

 眼下にいる存在たちが理解できない。

 何を微笑むというのか。

 たかがゲームだというのに、何故笑いあう?

 くだらない。

 くだらない。

 くだらない。

「だから」

 少女は振るう。

 ただ作業的に、一切の熱をこめずにただ振り下ろす。

「死んで」

 誰も彼も。

 この世界諸共に。

 等しく死が訪れんことを願って。

「死んでしまえ」

 絶望する。

 少女の心。


【.hack//Splash】
   login_6 斬れない魔剣


【Δ 桜舞う 並木の 憩い】


 BATTLE MODE ON 


 異常に気付く。

 それはディスプレイに走った文字か、それとも僅かに聞こえた声にか。

 指が即座に抜剣を命じていた。

 ジャコンッ!!

 事前登録したボタンに反応し、腰部から無数の剣柄が躍り出る。

「なんだ!?」

「さっきのイベントの続きか?」

 ボクより数瞬遅れるも、凰花とシューゴが武器と拳を構える。

 見れば周りのPCたちも同様に戦闘開始の文字表示を確認したのか、きょろきょろと周りを見渡している。

 しかし、モンスターの姿は見当たらない。

 なのに、戦闘続行状態になっている。

 ――異常事態。

 脳裏を過ぎたその言葉に、ボクは唇を舐めた。緊張で渇いた唇を。

「なんだ? 敵が居ないぞ」

「エラーか?」

 口々に他のPCたちから呟きが発せられる。

 その瞬間だった。

 カラカラカラカラカラ。

 響き渡るは、乾いた音。

 どこからともなく鳴り響く鳴り子のような雑音。

 そして、桜がざわめいた。

「なんだ?」

 まるで風が吹いたかのように桜が震える。軋みを上げる。悲鳴のように桜が軋んだ。

 カラカラカラカラカラ。

 そして、再び鳴り響く乾いた音。

 それは――砕け散ったスケルトンの残骸の音。あちこちに砕け散り、飛び散った白骨が楽器のように音を掻き鳴らしていた。

「なっ」

 カラリ、カラリ。

 音を鳴らし、白骨が転がる。

 音を鳴らし、怨嗟の音を掻き鳴らす。

 集う。集う。集う。

 散らばっていた骨片が、まるで吸い込まれるように転がり集まっていく。

 降り注ぐ桜花の花びらを踏み潰し、巻き込むように取り込み、集い形成されていくのはより強大な骨格。

 カラリ、カラリ。

 すすり泣くように骨が鳴り響き、ひび割れたガラスのように亀裂――否、隙間のある“脚”が出来る。

 人の胴体ほどもある手が出来る。

 腰骨が形成される。

 胴体が出来る

 頭部が生まれる。

 そして、目の前にそびえ立つは肉もなく、皮も無く、命もない殻の骨。

 ――紅色の巨骨。

 【ガシャドクロ】

 這い蹲る獣のように、紅く染まった巨骨の顎が空へと向けられた。


『ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』


 吼え猛る。

 声帯無き、不可思議な存在が誕生の喜びを叫ぶように吼えた。

 感じるはずもない肌が痛みで引き攣ったような気がした。

 ――嫌な感覚。

「イベントボス……か?」

「ん〜、でもずいぶんと凝った演出だね」

 凰花とミレイユがそう呟いている。

(単なるイベント……“本当に?”)

 そう思った瞬間、ギョロリと光の無いガランドウの目がこちらを向いた。

 いや、――“シューゴ”を睨む。

「へ?」

 その視線に気付いたのか、シューゴの声が聴こえた。

 ――マズイ!?

『ルォオオオオオオオオオオオオ!!!』

 咆哮を上げて、地面をのたうつ様に動く。赤ん坊のハイハイのように、その巨体が骨格と地面を震わせながら移動してくる。

 こちらに向かって。

「マズイ!?」

 叫びながら、ボクはパネルを開いてアイテムを取り出す。

「快速のタリスマン!」

 倍速開始。

 だが、しかし、その瞬間には――巨骨は目の前にまで迫っていた。

――速い?!

『ルォオオ!!!』

 ズシン、ズシンと大地を踏み鳴らす骨の四肢。その巨大な骨の腕が、跳ね上がるようにこちらへと振り上げられる。

 その軌道線上には逃げ遅れたボクが居る。

「オウルさん! 逃げて!!」

 レナの声が背後から聞こえた。

 けれど、今から下がるには間に合わない。

 故に前へ――走る。

「」

 息を止める。

 踏み揺れる地面を蹴り飛ばし、しゃがみこむように巨大な腕の振り降ろしを掻い潜る。滑るようにコントローラーを操作し、振り下ろすことによって低くなった巨骨の胴体へ迫る。

 ――さらに加速。

 横薙ぎに、腰部へと手を伸ばす。

「双剣」

 ジャコンッ!!

「――炎皇!!」

 “炎舞”

 ――迸るは、紅蓮の刃。

 巨大な肋骨の一本に刃が食い込み、刃から迸る焔が打ち砕いた。

『ルオォオォオオオ!!!』

(入った!!)

 直上で発せられる苦痛らしき咆哮、削れたHPゲージ。

 反撃される前に、横へと抜ける。振り下ろされる腕を、手を、滑るように、転がるように躱す。

 ザザァアアアア。

 そして、地すべりしながら、腕の届かない範囲まで退いた。

「ふぅっ!」

 息を吐いた。

 そして、近寄ってくるのはシューゴとミレイユ。

 凰花とレナは別方向に下がったようで姿は見えない。

「やるじゃんっ!」

「まあね」

 そういって、ボクは親指を上げた。

 シューゴも笑って返す。

「じゃあ、今度はこっちの攻撃☆」

 そういって、ミレイユはクルクルと杖を振り回すと、その先端を巨骨へと向けた。

 杖の先端に光が集い、ミレイユの周囲を無数の記号が舞い躍る。

 ――【呪紋】

 この世界における魔法の発動。

「いっくよ〜。――ラバグドーンッ!!」

 ミレイユの言葉に応じて、杖が紅の光を宿す。

 同時に巨骨の上空が僅かに光を帯びる。

「落ちろ〜!」

 ミレイユが杖を振り下ろす。

 それと同時に落ちたのは、虚空から降り注ぐ巨大な光球。

 ――爆音。

 巨骨の背骨へと直撃し、爆炎と閃光が吹き荒れる。

 その閃光に目を閉じ、そして吹き荒れる爆風に吹き荒れる桜の花。

『ルゥオオオオオオオオオ!!!』

 そして、爆炎が収まった時に残っていたのは腰部を打ち砕かれた巨骨の姿。

 半ばまでゲージを減らし、原型を僅かに留めているだけだ。

 ――レベル差がありすぎるね。

「すげぇ……」

「にゃはは、レア・ハンターをなめるなよ♪」

 そういって、にぱっとミレイユが微笑む。

「これならすぐにでも片付きそうだな」

 シューゴがそういって、拳を手に打ち付ける。

「いや、もう終わるかな」

 ボクは見えた視線の先に、そう言った。

「へ?」

 目の前の視界。

 のたうつ巨骨の上空。

 そこに舞う一人の肢体。

 巨大な山の如き骨格を踏み跳び、高々と空を翔る胡蝶の如き影。

 ――神拳凰花。

 その脚が翻る。

 この世界の不思議な重力によって、空中で姿勢を変え、舞い踊るようにその右足が振り抜かれる。

 バレエの如き回し蹴り。


 “乱壊襲”


 ――轟音が鳴り響いた。

 巨体がまるで紙くずのように吹き飛ぶ。巨大な右腕が千切れ飛び、まるで花びらのように砕けた骨片が飛び散った。

「カルシウムが足りんな!」

 着地した凰花がそう叫ぶ。

「――これでやったか?!」

 グラリと揺れる巨骨。その体重を支える右腕を失った骨格は地響きを上げながら傾いていき……

 ――ズシンと“巨大な右手が身体を支える”

「なっ!?」

 失ったはずの巨骨の右腕が……吹き出すように【復元】していた。

 0と1。無数の数字の羅列が砕けた部位から吹き出し、瞬く間に色づいていく。

 それは見覚えのある光景。


『ルゥボオfobvvbddoオオdldafオオオlk!!!!!』


 音割れした騒音が響き渡る。

 不気味な斑模様に覆われ、壊れたスピーカーが発するような絶叫と共にその巨体が復元する。

「ぐぅううう!?」

「み、耳が痛い!」

 ガラスを引っ掻くような雑音に、悲鳴が上がった。

 だけど、ボクはそれよりも気になるものを見つけた。

「なっ、まさか……」

 ――【ガ%ャド+&ロ】

 文字化けした名前表記。

 そして、新たに立ち上がるのは毒々しい斑模様を浮かべて、狂乱する巨大なモンスター。

 それは。

 消え去ったはずの悪夢の象徴。

「なんだよ、これ」

「バグなの?」

 ――ボクはそれを見た瞬間、スクリーンパネルを出現させていた。

「【闘士の血】、【騎士の血】、【狩人の血】、【魔獣の血】!」

 選択した小さな小瓶状のアイテムを次々に握り潰す!

 ――攻撃力上昇!

 ――防御力上昇!

 ――命中率上昇!

 ――魔法防御力上昇!

 低パラメータのハンデを少しでも埋める!

「ォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 掛かったのを確認すると同時にボクは駆け出していた。

 叫ぶ声を鼓舞に変え、疾走する。

「オ、オウル?!」

 ジャコンッ!!

 抜き放つは炎の刃を持つ双剣。

“炎舞”!!

 先ほどと同じモーション、同じ斬撃を、巨体を支える腕へと繰り出す。

 その刃は先ほどと同様に腕へと食い込み――

 砕けない。

 そして、そのHPゲージも減ることはない。

「やっぱり」

 もはや見ることのないと思ったはずの狂った光景に、ボクはそう吐き散らした。

 その瞬間、視界を踊ったのは黒い影。

 見上げれば、その巨大な頭蓋が顎を開き、突っ込んでくる。

「っ!!」

 喰われる。

 そう考えた瞬間、視界に飛び込んできたのは――空中を駆ける凰花の姿。

「らぁあ!!」

 咆哮と共に繰り出される拳打。

 落下する頭蓋を真横から殴り飛ばし、ガラガラと巨大な頭蓋が横に回転する。

 そして、その回転が止まる前にボクの前に立ったのは十字の杖を携えた呪紋使い――ミレイユ。

「下がって、オウル! ――メジュクルズ!!」

 地響きと共に周りに桜たちの根が早回しのビデオのように伸び上がり、巨骨の全身に絡みついた。

「砕けろ〜!」

 ミレイユが叫び、ギリギリと締め上げられた巨骨の骨格が軋みを上げる。

「いけるかっ!?」

 誰かがそう叫んだ。

 だけど。

 ――無理だ。

『Ruォオ%オオo&%オオooオオo%%oオ!!!!』

 狂った咆哮が上がる。絡み付いていた木の根が、次々と毒々しい色と共に腐り落ちる――いや、“侵食”された。

 狂ったように暴れる巨骨が開放されるのも時間の問題だ。

「き、気持ち悪っ!」

「おかしな相手だな」

 二人が、杖と拳を構える。他のPCたちも武器を構え、もしくは被害が及ばないように遠ざかっている。

 ――ブチンッ。

 そして、その瞬間メジュクルズの戒めは解き放たれ。


 ――ボクの前に一人の影が飛び出した。


【Δ 桜舞う 並木の 憩い】


 吐き気がする。

 吐き気がする。

 ゲームなのに、吐き気がするほどけばけばしい骨の化け物が吼えている。

 そして、それに呼応して戦い始めるのはミレイユと桜花、そしてオウル。

 ミレイユはその杖で魔法を放ち、凰花はさっきも見せた桁違いの強さで骨の化け物を蹴飛ばした。

 そして、オウルは俺たちとそんなにレベルも違わないのに、他の二人にも負けない動きで戦っている。

 なのに――俺には何か出来ないのか!?

「シューゴ! 下がらないと危ないよ!!」

 レナがそう叫ぶ。

「わかってる!!」

 今の俺じゃ足手まといになるだけだって分かる。

 俺よりもレベルが高いであろう他のPCだって近寄れない、そんな化け物だってことはすぐに分かる。

 でも、俺は…・…護られるだけなんてイヤなんだ。

 何か出来るはずだ!

 何かが!!


 ――リィィン。


「なに?」

 その時、聞こえたのはかつて聞こえた不思議な音。

 見下ろせば、光を発している右手の腕輪――【黄昏の腕輪】。

 あの時以来、どうやっても光ることのなかった腕輪が光を発している。

 ――データ・ドレイン。

 脳裏に過ぎったのは、その言葉。

「あの力なら……いけるか?」

 この腕輪の力なら、あのモンスターのレベルを下げられる?

 そして、倒せるのか?


『Ruォオ%オオo&%オオooオオo%%oオ!!!!』


 耳が痛くなるような絶叫が再び鳴り響く。

「っ!!」

 その声に反応して、腕輪から見上げれば、そこには無数の根で絡め取られた骨の巨人の姿。

 そして、今にも引き千切らんと暴れるその光景。

 ――今しかねえ!

「お兄ちゃん!?」

 走り出す。

 吼え猛る、見るだけでも怖気が走る化け物へ、俺は脚を踏み出す。

 ――右手から溢れる出す光。

『ルBO%Oボ%ほう+/+オ!!!』

 根を引き千切り、解き放たれた化け物へ駆ける。

 ――眩しくて開けられないほどの光。

「データ」

 ――それが収束して。

 前に居たオウルの横を飛び出して、俺は――


「――ドレイン!!!!!!!!!」


 ――その瞬間、“別の形となった腕輪”を突き出した。


【Δ 桜舞う 並木の 憩い】


 ――光が迸る。

 ボクの眼前で見えたのは――“かつての自分”。

 不可思議な既視感。

「いけぇえええええええええ!!」

 シューゴの叫びに応えるように、腕輪から放たれた光が突き進む。

 “その瞬間、巨骨の全身が輝く”。

 そして、それに曲げられた光が――巨骨の左腕を飲み込んだ。


『ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 そして、巨骨の左腕が歪んだ。

 人体の構造からは在りえない方角へ腕が、アバラが、脚が、浴びた左半身を中心に歪曲し、ゆがみ、歪な音を立てて狂う、狂う、狂う。

 そして、消失する“左腕”。

 融けるように、その巨骨の左腕を中心にゆっくりと崩れていく。

 ――データの再構築及び意図的な改竄能力。

 それが腕輪の力。

(倒した?)

 絶叫を迸らせ、吼え上がる巨骨を見ながらボクはそう考えた。

 ――だけど、それは間違っていた。

「なにあれ?」

 ミレイユが、そう呟く。

 ボクが見る先。崩壊しつつある巨骨の体躯、その全身に浮かぶ斑が蠢いている?

 まるで流れ行く水滴のように斑は左腕のあった場所へと集うと……絶え間なく続いていた崩壊が止まった。

 それどころか再びデータの噴出を開始し始める。

(――改竄を食い止めた!?)

「倒しきれてない!? くそっ、ならもう一発!!」

 シューゴが再び腕輪を突き上げようとして、ボクはそれを止めた。

「なんで止める!?」

「また同じことの繰り返しになるだけだ!」

「なら、どうしろっていうんだ!?」

 シューゴが叫ぶ。

 それは全員が感じていること。

(どうにか再生を食い止めるか、データ・ドレインを直撃させることが出来れば……)

 再生を食い止めれば、凰花とミレイユで倒すことは出来る。

 もしくは先ほどの光――バリアらしきものをなんとかすればデータドレインを直撃させることが出来る。

(どちらか片方だけでも、なんとか出来れば……っ!)

 その瞬間、思い出したのはヘルバの言葉。


「倒せない敵が現れた時に振るいなさい」


 そういって渡された剣。

 ――神剣ノートゥング。

 あれなら、まさか……

「来るぞ!!」

 左腕の再生を終えたのか、巨骨が再び移動を開始する。

「バグドーンッ!」

「リウロームッ!」

「アンゾットッ!」

 降り注ぐ呪紋の雨。

 他のPCたちの呪紋などを気にすることもなく、データ・ドレインを行ったシューゴへ向けて巨骨が移動してくる。他には目もくれない。

 こちらまで迫ってくるまで時間の問題だ。

「どうするのー!?」

「戦うか?」

「お兄ちゃん!」

「……こうなったら」

 シューゴが意を決して言葉を発しようと瞬間、僕はその言葉を引き継いだ

「――もう一度腕輪を使うんだ、シューゴくん」

「な!? でも、もう腕輪は効かないんじゃ! またあの変なバリアに防がれるのが落ちだぞ!?」

「ボクに考えがある」

 ジャコンッ!

 剣たちを解放し、ボクは五番目の剣の柄へと手を掛けた。

「必ずチャンスを作る。その時、もう一度だけ腕輪を使ってくれ」

「……信用出来るのか? まだ出会って二回目だぜ、俺たち」

「信じてもらうしかない」

 目を合わせる。

 仮想現実だけど、ボクは真正面からシューゴと目を合わせた。

 数秒とも数時間とも思えるような長い時間。

「……わかった。お前を信じる」

「ありがとう」

 そういって、ボクは三人に目を向けた。

「凰花さんとミレイユは奴の撹乱をお願い。君たち以外のPCじゃ即死するだけ。レナちゃん、キミはシューゴを護って。彼がこの戦いのキーだ」

「わかった。歯ごたえのある戦いになりそうだな」

「状況がまったく分からないけど、これもレア体験かな? 了解したよー」

「お兄ちゃんの世話は任して」

「ありがとう」

 ボクは心の底から礼を言い、振り返った。

 目線の先には迫り来る紅の巨骨。

 残り倍速時間は30秒程度。

 これで決着を付ける!

「いくよ、散開!!!」

 そう叫び、走り出す。

 そして、その背後から――

「行けよ! ――“オウル“」

 初めて名前を呼ぶシューゴの声。

(認められたかな)

 うれしくなって、こんな事態なのにボクは微笑み。

「神剣」

 叫ぶ。

「――ノートゥング!!!」

 ジャコンッ!!

 抜き放つは、白き刃の双剣。

 ――“刃無き剣”


『ルゥオオオオオオオオオオオ!!!!』


 何度目になるかもしれない咆哮を上げて、紅の巨骨がその腕を、頭を、手足を用いて襲い掛かってくる。

 その一撃はボクを即死させ、粉々に打ち砕くには余りあるだろう威力。

 降り注ぐ無数の巨大質量。

 だが、それすらも――ボクを止めるには。

「遅いっ!!!」

 ハエ叩きのように振り下ろされる手を、一瞬の減速で躱す。

 続いて襲い掛かる頭蓋の咬みつきを、ボクはその内側へと飛び込むことで凌ぐ。

 回る、回る、旋回するように懐にもぐりこんだボクは――頭蓋の首へとノートゥングを叩きつけた。

 ガキィンツ!!

 そして、弾かれる。

 ――当たり前だ。この剣は攻撃力が【0】なのだから。

 何も斬れない剣。

 それがこの剣。

 初めてその性能を確認した時には、ボクも目を疑った。

 何も斬れない剣に、何の意味があるのかと。

(だけど、ヘルバが渡したのには意味がある!)

 そして、ボクにはただ彼らの障害を焼き尽くす刃があればいい。

 だから、この剣を握る。

 そして――刻まれていた【二つのスキル】を発動させる。


「イレイザァアアアアアアア!!!!!!!!!!!!1」


 輝く刃。

 斬れぬまま、首の表面で停止していた剣が――動く。

 “その軌道線上にあった存在を削りながら”

 回る。

 旋回するように、その巨躯を支える両腕を分割させる。

「シューゴォ!!!」

 ボクは叫んだ。

「――オウルッ!!!」

 回る視界の中で、シューゴが腕を振り上げる。

 そして、ボクは体勢を崩して倒れこんでくる巨大な体躯を見上げながら、両手の刃を交差する。

 その動作は舞武。

 だが、その刃から発せられる“蒼い焔”だけが異なる。


「ブレ」

 ――障壁干渉――

 ――構成破損――

 ――完全開放――


「データ」

 ――構成干渉――

 ――情報改竄――

 ――再構築――


「――イクッ!!!!!!」

「――ドレイン!!!!!」


【PROTECT BREAK】!!!

   【DATA DLREIN】!!!!


 砕け散り、焼き尽くされる障壁。

 砕け散り、改竄された構成。

 その二つに幕を引くのは――


「これで!」

「終わりだよ!!」

 “拳砲”

 “メバクルズ”

 降り注ぐ光球の雨と繰り出された拳の一撃が、粉々に紅の巨骨を打ち砕いた。


 それがこの騒乱劇の終焉だった。


【Δサーバー 水の都市 マク・アヌ】


 がしゃんっと投げ捨てられたコントローラーが鈍い音を立てた。

「あーあ、やられちった」

「だっせー」

「油断するからだ。バーカ」

 ゲラゲラゲラと上がる笑い声。

「なんなのコイツら? ちょーうざいんだけど、つかありえねーw」

「ああん? キルマークゼロの言い訳でもするつもりかよ。うわ、ださださ」

「言い訳は男らしくねえよ〜」

「うるへえ」

 不機嫌そうに声が上がる。

 そして、コントローラーを投げ捨てた男――否、少年は室内に置かれたディスプレイに映る映像を見た。

 その中には散った桜の中でもみくちゃにされる帽子を被った少年と黒髪の少年の姿が映っている。

「なんなんだよ、あの腕輪」

「チートアイテムじゃねえ?」

「マジ? 違法行為じゃんw」

「絶対そうだって。じゃなけりゃ、オレのガシャドクロ負けるわけねえって。くそっ、マジでキタネー。反則こきまくりだし」

「テメエが雑魚なのは事実だけどなー」

 ゲラゲラゲラと再び上がる笑い声。

 その声はどれもこれも男というよりも幼い。

 その中で、不意に雑音が混じった。

 その室内の隅の虚空に無数の光のリングが生まれたかと思うと、そこに人の姿が現れた。

 それは斧を片手に持った女性PC。

「あ? おかえりー、美智たん」

「どうだったん? あのドットハッカーズってやつら」

「っていっても、オレ等も見てたけどねーw」

 ゲタゲタと笑う少年たちに反して、その女性――否、少女は冷めた声で言った。

「……くだらなかった」

「だよなー」

「マジでくだらねえ」

「なにマジになって戦ってるの? みたいな!」

 笑い声。

 笑い声。

 それはどこか狂った笑い声。

「あー、さっさと全員死ねばいいのに」

 少年たちの誰かがそういった。

 そして、誰も反論しなかった。

 それが彼らの総意だったから。


 無知なる悪意が蠢いた。


あとがき

 あれ?
 黄昏の腕輪伝説ってこんな話だったでしょうか?
 おかしいなぁ……ラブコメのはずなのに。 自分のプロットでも(この話は愛と勇気の御伽噺です♪)と注意書きが書かれているんだが。
 なぜか愛のアの字も見当たりません。
 見えるのは剣戟と人の悪意、吼え猛る咆哮、巻き込まれる災厄。

 ……ラブってなんでしょうか?


 ――というわけで、ようやく敵の姿が垣間見えました。
 対するは人の悪意。
 人の邪悪。
 人の無知。
 人の冷酷。
 いつの世も最後の敵は人同士ということでしょうか?

 次代の腕輪所持者たちはそれに気付き、立ち向かうことが出来るのでしょうか。
 そして、彼らを護ると誓った初代腕輪所持者のカイトは彼らを護りきれるのか。


 物語は彼らの知らぬ間に暗闇へと歩み始めます。
 それは夜明け前の闇か、それとも深まる黄昏の闇か。

 先は遠い。


 次回は本来ならプチグソの飼い主さんの出番ですが、その前に一話だけ外伝を挟む予定です。
 メインは――オウル。出番が多すぎるような気がしますが、どうしてもオウル。シューゴを喰らい尽くして、メイン主人公になりかねないオウル。なんて人気が高いんだオウルです。
 あの子のファンの人にはすいません。
 ちょっと必要な話なので。

 ゲームをやっている人ならニヤリとするお話です。


 ついに6回目のレス返し。
 困難だった壁のレス10件を乗り越えて、卵から飛び出した気分です。
 ……すぐに墜落しそうだ。


>KOS-MOS様
 どうも初めまして、知らない人にも出来るだけ分かるよう頑張っているつもりの箱庭廻(はこにわまわし)です。
 拙い作品ですが、一気に読んで頂いて恐縮です。
 オウルがモテているとのお言葉ですが、多分あれの半分くらいは即戦力目的かとw そんなに世間は甘くありません(多分)

“――黄昏の腕輪伝説をしりませんが”
 >漫画版は本当にお勧めですよ〜。読んでみて損は無し!
(本当の黄昏の腕輪伝説はこんなどす黒い作品ではないので、安心してお読みください)


>knt様

 ノートゥングはこんな形で活躍させてみました。というかよほどの効力を出さない限り、チートアイテムとは分からないかと思います。まあレアアイテムだとは感じるでしょうが。っていうかかっこよくしすぎだかな?
 スパイロボに見られるのも折り込み済みで、オウル(カイト)は彼らを護るために矢面に立つ覚悟ですね。……なんて男らしいんだ。
 それとゲーム中に仲間になるメンバーは全員ドットハッカーズという設定なので、皆監視されています。まあ彼らは知りもしないでしょうが。

“あとオウルにはシューゴの仲間に対するプロテクトかかってないんですか?”
 >この質問はよく分かりませんでした。腕輪による守護のことでしょうか? それともアカウント削除の対象外になっているという意味でしょうか?
 基本的に両方とも一緒にいる限りはOKじゃないかと判断しております。


>白雨様

 出る! と願えばきっと出ますw
 というのは冗談として、漫画版やアニメ版のメインキャラは出ますのでご安心を。

 あとオウルが皆に黙ってプレイしていることがドットハッカーズにばれたら、ボコられますねきっとw 愛のこもった袋叩き。ブラックローズの拳が一番痛いかと。

 カイトとシューゴの腕輪の形状が違うのはちょっと理由を考えています。
 後半の鍵に……なるかな?


>玖渚様

 どうも初めまして。
 そして、初めてですがごめんなさい。
 ――ただのウィルスバグでした!
 更新ペースが早いとのお言葉ですが、いえいえそんなことはありませんよ。皆様方のレスがあると喜び勇んで書いてしまうだけです。
 自分の身体はそっちのけ!

 二つ名もちに関してはちょっとノーコメントです。


>盗猫様

 そうですか、満足していただけましたか。
 よかった、これでナニカに喰われなくて済んだ。

 オウルの戦闘能力自体はゲームやっていて、多分こんなもんかな? と考えてやったのですが、かっこよくしすぎましたかね? 呪具系とスキル使用時の硬直時間をキャンセル出来たら、多分これくらいはいけそうな気がします。

“次回は超シリアスっぽいですが、今のレベルで勝てるんでしょうか?”
 >その為の禁断の力ですw


>SS様

 どうもプロローグから感想を続けていただいて、ありがとうございます。
 二つ名持ちの正解当てはやっぱり今の段階はノーコメントとしか返せませんね。

 その代わり、ちょっとだけヒントです。
 魔女は後二・三話後に出ます――それではっ!!!(逃げ)


>オキャダ様
 おもしろいといっていただけて、とても嬉しいです。
 .hack小説のAIバスターとZEROは隠れた名作ですよ〜、どちらも主人公が魅力的という珍しい良作です。この機会にどうでしょうか?(と、薦めてみる)
 どちらもほろリと胸に感じる作品です。


ロードス様

 もはや黄昏の腕輪伝説とは違う世界になっているような気がする今日この頃です。

“G.Uみたく登録したスキルトリガー使用による武器変換とかあったら楽だったのに・・・”
 >ウエポン・セレクトの発想はまさしくそこから。抜く時のポーズはGUのハセヲ君を頭に浮かべてくれると嬉しいですw
 ちなみに他のバリエーションも存在したり……


グラム様
 いえいえ、遅れたなんてとんでもない。レスしてくれるだけでもう嬉しい限りです。

 古き神の槍ウォーダンと苦境の魔剣ノートゥング。
 反抗と権威。
 人と神。
 よくよく考えれば.hackは神殺しの物語でもありますね。

 相反する対象の武具は物語の象徴の一つになるかと。


アッシャ様
 お、おおおお落ち着いてください(自分が落ち着け)
 カッコ良すぎだなんて恐縮です。腕輪がない分、オウルに目立つ部分をつけようと考えただけですから、そんな大それた代物ではございません。
 きっとゲームの皆様もあんな感じで抜剣してるんですよ。

 そして、遂に抜かれた神剣はあなたのご希望に添える輝きを見せられたでしょうか?
 今後とも感想をしてくださると凄い励みになります。


S.G様
 いえいえ、お返事を書くのはもう楽しみの一つですから止められませんw
 っていうか、読まれてる? レス返しがチェックされている?!(動揺)

“それにしてもこの調子だとオウル君にも早々と二つ名が付いてしまいそうですね”
 >そんなオウルに二つ名がなんて……ありえそうだw 白い○魔とか? カイトが○い彗星ですね。

 ちなみに実はもう一つだけ二つ名がオウル(カイト)にあるんですよ。とある一部のモンスターから呼ばれている名前があります。
 それはまだ見ぬ外伝にて語りましょうw

“ちなみに僕のカイト君は常に武器一つしか持ってませんでした”
 >もしよろしければ今度武器を複数持って、ダンジョンに突撃してみてください。相性次第ではぼろくずのように敵が吹き飛びますよw?


ななし様
 はじめましてー、箱庭廻(はこにわまわし)と名乗っているものです。
 何故かクロスものしか.hack小説がなかったので、自分で書き始めることにしました。思ったよりも好きな人が沢山いて、嬉しい限りです。
 スパイロボの外装の件ですが、確かアニメのほうでドットハッカーズの外装は記念モデルとして一般プレイヤーはエディットできなくなっているという設定があったような気がします(うろ覚えなので間違っているかもしれませんが)。
 アニメのほうではカイトとブラックローズだけのような扱いしたが、一応ドットハッカーズ全員の外装は記念モデル扱いということで設定しています。
 さもなければ多分ゲーム後のしばらくは同じ外装で名前だけが違う“騙り”が大量に出てきたのではないか、という考えがありまして、こういう扱いになっております
 本来ならば作中で説明すべきだったのでしょうが、このような場で説明して真に申しわけございません(謝罪)


“(腕伝の話のなかでカイト、ブラックローズ、バルムンク、オルカ以外は確か余り知られていない気が・・・・ワイズマンですらスルーでしたし・・・)”
 >たしかオルカもかなりスルーされていた気がw 蒼天と比べて蒼海は名が知られてないようですね……ユニゾンで殺人事件が起きるわけだ。

 何故敵がドットハッカーズの面子を知っており、それをマーク出来るのか。
 それも今後のヒントになります。
 ……すいません、長くて。

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