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「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第六話(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-10-25 13:26)
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内乱はまだ続いている。

―リーザス城内 廊下―

「・・・だからあんなヤツが王になるなんて間違いだったのよ・・・・・・」
内乱勃発以来、あちこちの都市を情報収集のため飛び回っているかなみは恨みたっぷりに呟いている。
リーザス城に戻ってくるのも三日ぶりだ。
マリスへの報告を終え、しばらくの休憩を言い渡されたかなみは気分転換でもしようと中庭へ向かっている。

その隣を『何故か』付いて来た横島が歩いているのだが、愚痴を聞いて欲しい気分でもあったため特に何も言わなかった。
そしてその愚痴の内容には横島もまったく同感のため、ウンウンと相槌を打っている。

「しかし・・・俺はランス王のコト具体的にはなんも知らんのやけど、やっぱり強いのか?リーザス救国の英雄とか何とか言われてたみたいだし」
即位してすぐ部下となったばかりの将軍や兵士達を即座に纏め上げ、速やかに奪われた都市を取り返すなど、軍事において非凡な才があるのは間違いないようだが。

「・・・そうね、確かに強いわ。私が見たことのある人間の戦士の中でも多分一番強い。トーマ・リプトン将軍、人類最強とまで謳われたヘルマンの軍人なんだけど、彼を倒したのもランス。そしてこの世に二振りしかない魔人殺し『魔剣カオス』の使い手でもあるわ」

ランスの己への絶対の自信と横柄な態度はその実力に裏打ちされたものである。
リアに惚れられた経緯があるとはいえ、腕一本、剣一本で国王まで登り詰めたと言ってもあながち間違いではない。

「げっ・・・ひょっとしてこの前のカミナリ男みたいなヤツまで平気で倒してしまったりとか?」

「・・・あるいは倒してしまうかもね。戦闘に限らず、ありとあらゆる点で『規格外』なヤツなのよ、ランスは」

尤も横島も色々な意味で『規格外』と言える男である。
彼もセクハラ云々で主に女性達から顰蹙を散々に買っていたが、しかし、ランスの場合はそれを遥かに超える。
その強さと奔放さに惹かれてランスを慕う者も決して少なくないが、それでもその倍以上の人間(こちらも主に女性達)がランスに関わることでろくでもない目に遭わされているのだ。

かなみもその内の一人である。
リアの命令に従ってランスの監視や、後ろめたいこと、そしてとても人には言えないことをされ続けてきた。

――逃げられるなら逃げたい、もし殺せるものなら・・・・・・

ここ最近のストレス(原因は横島にもあったりするのだが・・・)から、気が滅入っていたかなみは、ついそんな本音を横島に漏らしてしまった。
普段から油断ならない行動(セクハラ)ばかりするくせに、横島のその明け透けな、裏表の無い人柄が接する者に警戒することを忘れがちにしてしまう。
なんだかんだで横島に長く接してきたかなみもその例外ではなかった。

口にしてしまった後、流石にヤバイと思ったのか、不安そうな目で隣を歩く横島を見上げる。

「・・・今の・・・・・・」
「大丈夫、誰にも言わないっス。ただ・・・何でそんな目に遭ってまでしてリーザスの忍者を続けているのかな、とか、思ったりして・・・あ、いや!もちろん、言いたくないなら聞かないっス」

「・・・・・・」
言いたくない・・・確かにそうだ。自分がランスにされたきたことの数々は。

かなみはしばらく黙ったまま歩いていた。
横島もそれ以上は聞かなかった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第六話「かなみの友達」〜


―リーザス城内 中庭―

リーザスの城下町が一望できる、中庭の中心から少し離れた場所に二人は腰を下ろした。
昼を過ぎたばかりの中途半端な時間のせいか随分と閑散としていて、この場所には横島とかなみの二人しかいない。


「私がリーザス王国に・・・リア様に仕えるようになったのは――」
「・・・へ?」

唐突に先ほどの続きを話し始めたかなみに、横島は戸惑うような声を上げるが、遮るようなことはしなかった。

・・・別に深い意味は無い。
独りでいても気が滅入るだけだし、付いてきた横島を追い払おうとは思わなかった。
そして、ずっと黙ったままなのも気まずいので、少しくらいならいいか、とかなみは自分の過去を話すことにした。


かつて生まれ故郷のJAPANで忍者としての修行を積んでいたコト。
とある事情で命を狙われることになってしまったコト。
命からがらその場を逃げ延びはしたが、死に掛けて倒れていたところをリアに助けられたコト。
以来、その恩義からリアに忠誠を誓うことに決めたコト。

リーザスに、そしてリアに仕えることになった経緯をかいつまんで話した。

ランスとのことは――言わなかった。
そんなことをわざわざ曝け出すのも躊躇われたし、横島もそんな話をされたところで反応に困るだろう。

もし・・・話したとしたらどんな反応をするだろうか?

――怒るだろうか?

何となくそんな気がした。
しかし、何故横島が怒ると考えたのか、その理由までは・・・思いつかなかった。


「――と、まぁ、こういう訳でね。リア様への忠誠は今も変わらないけど、正直ランスは・・・ね・・・・・・ままならないのが宮仕えのツライところかしら」
アハハハ、とかなみは力の無い笑い声を上げた。

「・・・そうだったんっスか」
人に歴史あり、とは言うが・・・。
異世界の住人とはいえ、自分と同い年の少女が忍者などという職に就き、国家の手足となって働いている以上、何かしらの理由があるのだろうと薄々感じていたが・・・。
横島はかなみが想像以上に過酷な人生を送っていることを知らされて戸惑っていた。


「つまらない話だったわね・・・まぁ、ただの愚痴だと思ってよ。正直、辞めたい・・・って思ったことは何度もあるけど・・・私、他に取り得ないしね。リーザスを出ても・・・帰る場所だってないし・・・・・・」
膝を抱え込んで俯くかなみの表情は判らなかったが、泣いているように横島には見えた。

「・・・かなみちゃん」
慰めの言葉も励ましの言葉も思いつかなかった。
所詮、自分は異世界の人間、余所者が半端なことを言ったところで何になるというのか。

だから・・・。


(ここは・・・のっぴょっぴょ―――ん!と一発ギャグをかますべきか!?それとも、ぱんぴれぽにょ―――ん!の方がいいのかっ・・・!?)

シリアスな空気に耐えられなくなってきた横島が自爆確実のギャグに走ろうとしていた・・・。

いや、横島自身は大真面目である。
彼にとって美少女が、たとえ自分の所為ではなくとも、塞ぎこんで泣いている様子を黙ってみていることなど出来ないのだ。

ただその手段が小学生並みのギャグしか思い浮かばないのは、横島がこれまでの人生で三枚目に徹してきた所為でもある。

うぐぐ・・・とうめき声を発しながら、横島は『真剣に』悩んでいた。顔の造形が歪むほどに・・・。


「・・・あ、ちょっと、そんな深刻なまでに変な顔しないでよ。横島さんらしくないわよっ」
深刻なほど変なのは顔ではなく、むしろ脳のほうだろう・・・イロイロと。
だが、この場合はかなみの勘違いが功を奏した。

「う・・・ぐぅ・・・へ・・・変な顔で悪ぅございましたなぁっ!!」
己の容姿に強いコンプレックスを抱いている横島は反射的に叫び返した。
そこらへんに生えている雑草を掴んではブチブチと引っこ抜き、引っこ抜いては撒き散らし続ける。

「うおおおおおおおおんっ!!どうせ俺は不細工じゃああ!!」
哀れな雑草だけでなく、己の涙と鼻水も撒き散らしながら叫び続ける横島。


「アハハハハ、ゴメンゴメン、嘘よ嘘」
額にジト汗を浮かべながら、ポンポンと横島の肩を叩くかなみ。
渇いた笑いではあったものの、明るく、先ほどまでの落ち込んだ雰囲気は感じられなかった。


(・・・・・・まぁ、いっか)
胸中でそう呟きながら、横島の心の中には『元の世界に帰るコト』の他に、心に留めておくべきコトが生まれたのだった。


しばらく二人とも無言で過ごす。


「――ん?」
「どうし・・・あぁ」
かなみと横島は不意にこちらに誰かがやってくる気配を感じ取った。
何の気なしに視線を向けるとそれは男女二人のカップル、それも女性のほうはかなみの良く知る人物だった。
横島も一度だけ会ったことがある。

(・・・メナド?)

「メナド・・・シセイって娘だったっけ?」
リーザス軍最年少の騎士にして赤の軍の副将を務めている、並の男を遥かに凌駕する剣技を持つ少女。
かなみは横島の言葉に軽く頷く。

メナド独りだったなら声を掛けて一緒に雑談でも楽しもうという気になるのだが・・・。

やがて二人は横島達にその話し声が聴こえるくらいまで近くにやってくる。
メナド達からは丁度死角になっているのか、こちらに気付いた様子はない。

「・・・逢引・・・・・・?」
気まずそうに小声を上げる横島。
覗きは確かに彼の趣味だが、こういったデバガメ行為はその範疇外だ。というより、ただムカツクだけだ。

一方、かなみはと言うとさきほどの身の上話をした時と比べ物にならないほどの、憎悪に近い感情を浮かべている。
・・・何故?

「・・・かなみちゃん?」
「・・・・・・・・・」
返事がない。
横島としてはさっさと撤収したいのだが、かなみに動く気配はない。
尤も、この位置から逃げ出すとなると、どう足掻いてもあの二人には見つかってしまうため、どうにも動きづらい。

仕方なく、横島も黙ったままそこにいることにした。

二人の話し声が聴こえてくる。


「・・・お前・・・さっき部隊の前で言ったことは本気なのか?冗談なんだろ?」
「冗談・・・なんかじゃないよ。今の戦況、確かにぼく達が優勢だと言える。でもこれは内乱、味方同士で殺しあってる状況なんだ。これ以上長引かせるわけにはいかない・・・、一刻も早く終わらせないといけないんだ」
「だから赤の予備隊まで前線に送るってか?だいたいどうして補充がいつまで経っても行われないんだよっ!?」
「仕方ないよ・・・今は白の軍全てに他の正規軍からも兵が離脱したんだ、補充するにも優先されるのは・・・」
「けっ・・・だからって少ない予備戦力をかき集めて、盾になれってか。メナド・・・お前は俺に・・・恋人に死ねと言ってるんだな?」
「ザラック・・・そんなワケないよ・・・」
「ふんっ、どうだかな・・・分かったよ、分かった分かった。お前は俺が邪魔なんだな。そりゃそうだよな、戦いたがらない兵士なんて『指揮官様』から見れば邪魔以外の何者でもないよな!」
「ザラック・・・・・・でも、ぼくは隊長として私情を挟むわけにはいかないんだ・・・」
「メナド…俺が死んだら、悲しいだろ…?」
「……考えたくもないよ…」
「だったら…な?」
「あっ…」
「愛してるぜ…メナド。だから……な?俺を他の奴と一緒に扱わないでくれよ……」
「ザラック・・・・・・」

抱きしめあっている二人。
メナドの表情はこちらから見えない。
しかしザラックという男の、口の端を吊り上げた、醜く歪んだ嫌らしい笑みだけははっきりと横島の目に映ったのだった。


(なんだコレ・・・)
会話の端々から、二人が恋人同士だとは分かるが、だとすれば一体何なんだ?
ザラックと呼ばれた男が一方的に、威圧的に上官のはずのメナドに好き勝手言いたい放題まくし立てたかと思いきや、一転、相手の好意に付けこんだ方便で都合のいいように丸め込もうとしている。
恋人という立場を笠に着て、危険から遠ざかろうとする卑劣な考え。

確かに横島にとって『戦争』は、今まで暮らしていた日本では縁遠いものだった。
詳しい事情も知らない横島が口を挟むことはお門違い、それは理解できるのだが、これはいくらなんでも腹に据えかねた。

横島はゴーストスイーパーという道を、日常的に戦場に身を置く職業を・・・最初こそ成り行きだったが、自らの意思で決めた。
今でも戦うことが好きなわけではない。
知り合いのバトルジャンキーはどうだか知らないが、痛いのも怖いのも自分は真っ平ゴメンだ。

だが、戦わなくてはならない時、男として戦うべき時があることを横島は知っている。

『覚悟のない者が戦場に立つな!』
かつて魔界の軍人に一喝され、柄にもなく奮起したことを思い出す。
そしてその後、彼女に『戦士』として認められたコトを、半ば迷惑に思いながらも、残り半分は誇らしくも思っていた。

だからこそ思う。
別に戦いたくないのは構わない。
兵士なんか辞めるなり、逃げるなりさっさとそうすればいい。
横島自身、身に覚えがありまくりなコトである。

しかし、あのザラックという男は違う。
兵士でありながら、上官の恋人という立場を利用して好き放題しているようにしか見えない。
戦う覚悟など小指の爪先ほども無いに違いない。

――かといって、いきなり飛び出して殴り飛ばすわけにもいかず、かなみならもっと詳しい事情を知っているかもしれない、とかなみの方に視線を向ける。
しかし、かなみはザラックを睨み付けながら歯を食い縛っているだけだった。
今にも飛び出していきそうな気配だが、必死にそれを自制しようとしているようにも見える。

かなみが堪えている以上、横島も勝手なマネは出来ない・・・

出来ない・・・出来ない・・・出来な・・・・・・


「我慢出来るかっ!このクズがぁぁぁぁぁ!!!!」

茂みの影から飛び出し、手甲形態のハンズオブグローリーを男の顔面に叩き込んだ。
文珠を使わなかっただけ、手加減したくらいである。

「うぐああああぁっ!?」
不意打ちになった横島の一撃を避けることなど出来ず、そのまま吹き飛ぶザラック。

「ザラック・・・!?」
唐突に現れ、ザラックに襲い掛かった横島に戸惑いはしたものの、すぐさまザラックの元へ駆け寄る。

「・・・ったく、アンタは・・・・・・」
かなみの呟きが背後から聞こえてくる。
呆れたような、しかしどこか嬉しそうな気配。

かなみも続けて横島のところまで出てきた。

「・・・か、かなみちゃん!?それにその人・・・横島・・・さん?なんで?なんだっていきなりザラックを殴るのさっ!?」
ザラックは気絶しているのか、起き上がる様子はない。

「う・・・」
メナドの真っ直ぐな、意志の篭った視線にタジタジとなる横島。
軍の副将を務めるだけあって、まだ若い、少女と言っていい年齢であるにもかかわらず、圧倒されてしまう。

横島も勢いで殴り飛ばしてしまった負い目から、マトモに弁解する余裕も無い。
助けを求めるようにかなみへと視線を逸らす。

かなみはヤレヤレといった様子でかぶりを振るが、前に出てメナドと向き合った。

「メナド・・・」

「・・・なに?もしかして・・・・・・」

「違うわよ、私は何も言っていない。横島さんが勝手に暴走しただけ」
「・・・ぐふっ!」
てっきりフォローしてくれるかと思っていた横島は、かなみの言葉が胸に突き刺さる。
真実なだけに何も言えない。

自然、メナドの怒りの矛先は横島に集中する。

「・・・横島さん、メナドに謝って」
「え・・・あ、でも・・・・・・」
メナドに謝るのが嫌なわけではないが、しかし・・・かなみはさっきの二人のやり取りに何とも思っていないのだろうか。
いや、それはない。
でなければ、かなみがあんな感情を剥きだしにしてザラックを睨みつけるはずがない。

「・・・ぼくに謝られても・・・・・・」
倒れているザラックを心配そうに見ているメナド。

「・・・ふぅ、そうね。私が責任を持って日を改めて謝罪させに行くから」
「うえっ・・・」
嫌だ、絶対嫌だ。
こんな西条よりムカツク奴に謝罪などまっぴらだ。

「・・・いいわね?」
ギロリと怖い目で横島を睨むかなみ。
「は、はい。分かりました・・・。済まないメナドちゃん。このお詫びは必ずするから・・・そっちの男にも謝罪する」

「ん・・・うん。もういいから・・・。それよりも早くココから別の場所に行ったほうがいいよ。ザラックが起きる前に・・・ね」
この気性の荒い男が目を覚ましたときに横島を見たら何をしでかすか・・・。

「うん、分かったわ。横島さん、行きましょう。メナド、またね」

「え・・・ああ、それじゃメナドちゃん、また!」

横島はこのままこの場を去るのも後ろめたいものを感じたが、かなみが行こうと言うのだから従うほか無い。
二人とも足早に中庭から出て行った。


―リーザス城 廊下―

「ね、ねぇ・・・かなみちゃん?」
中庭から戻ってくるまでずっと無言のままスタスタと早足で歩いているかなみ。
「ううう・・・ゴメンよお・・・我慢できんかったんやぁ・・・アレは男のクズなんやぁ・・・」
ヘコヘコと低姿勢で、情けなくも言い訳している横島。

「・・・ぷっ」
「へっ?」
「クックック・・・あーはっはっはははっ!!もうサイコー!横島さん!よくぞぶっ飛ばしてくれたわ!!」

どうやら今まで無言だったのは笑いを堪えていた為らしい。
実に晴れ晴れとした笑顔に親指を立ててグッジョブ!とばかりに腕を突き出してくる。

「あの〜・・・かなみさん?」
横島にはワケが分からない。自分の狼藉に怒っていたのではないのか?

「ああ、そっか・・・メナドは私の親友なんだけどね。メナドの恋人ザラックは・・・もう長い間二人を見てきたけど、本当にどうしようも無いほどクズな奴なのよ。でもメナドは盲目的に信じて疑おうともしないの。さっきみたいな事を言われても、黙って耐えて言いなりになってる。私は何度も目を覚ませ、って言ったんだけど・・・」

「・・・そっか」

つまりはそういうことか。
横島はようやくかなみの態度や行動に合点がいった。

「じゃあ・・・」
「ええ、あのクズ男なんかに謝る必要は無いわ。メナドへのフォローは私がやっておくから、横島さんは何も気にしなくていいわ」

「やたっ!・・・あ〜でも、このままじゃメナドちゃんに悪いな・・・」
ザラックには毛の先ほども罪悪感など無いが、メナドに対しては何か償わないと気が済まない。

「・・・まぁ、変なことをしでかすつもりじゃないなら私は何も言わないわ」

「・・・ふっふっふ、任せてくれ。俺に良いアイデアがある。要はメナドちゃんがあのクズ男の本性を知れば良いんだろ?」

「そんなことできるの?」
ニヤリと笑う横島を見て、かなみは期待していいのか不安がるべきなのか、非常に悩ましいところだった。

「今すぐ・・・ってワケには行かないだろうけどな。メナドちゃんがクズ男より俺の『力』を信用してくれないと所詮『作り事』で終わっちゃうからな・・・。まずは深い溝を埋めるためにもちょいと頑張りますか・・・」


―リーザス城 マリス・アマリリス専用執務室―


かなみと別れてから執務室に戻った横島はマリスに相談がある、と持ちかけていた。

「・・・明日出撃のメナド将軍の部隊に従軍したい、ですか。理由を聞かせてもらえますか?」

内乱の黒幕達を一網打尽に出来るだけの証拠をほぼ集め終えていたマリスは、横島の意外な申し出に意表を突かれていた。
横島の腕前が並大抵ではないのは分かるのだが、かといって好き好んで争いや荒事に首を突っ込みたがるような性格ではない、と思っていたからだ。

「う〜ん、説明すると長くなるというか・・・。メナドちゃんにちょっとした『借り』みたいなものが出来ちゃいまして、そんで、メナドちゃんの部隊ってかなり危険な任務に付くって聞いたから返すのに丁度いいや、って思いまして」
まるでピクニックに付いて行く、というような気軽さで話す横島に、マリスはさらに呆気に取られる。

ちょっとした『借り』が出来た程度でこの男は『戦争』に行く、と言うのか・・・。

「・・・横島殿、貴方の住んでいた国では『戦争』は身近なものではない、と仰っていました。確かに、職業として戦いを日常の中に置いていたかもしれませんが、人と人が殺しあう・・・そういう『戦争』なのですよ?貴方にその『覚悟』は御有りなのですか?」
マリスの言うことは尤もである。

当然、横島には人間を殺す『覚悟』も、殺される『覚悟』もない。
悪霊や人に仇なす妖怪を退治してきたコトは数多くあるが、人間に手をかけたことはない。
師匠である美神も・・・・・・やってない・・・と、思う・・・断言できないけど・・・。

「でも『戦争』って殺しあうのが目的じゃないっスよね?この内乱だって、エクス将軍はランス王の追放が出来れば勝ち。ランス王は・・・まぁ、皆殺しが目的なのかもしれないけど・・・内乱を鎮圧してしまえば勝ち」

「確かに横島殿の仰る通りです。ですが、それが思惑通りに行かないからこそ争いが絶えないのです。横島殿にはそれが回避できると?」

「内乱そのものを終わらせることは無理っスけど、今度のメナドちゃんの任務ならそれが出来ると思いますよ」
あっけらかんと言い放つ横島。
気負っているワケでもなく、出来て当然というような気安い口調。

「・・・メナド将軍の任務をご存知なのですか?」

「ええ、ちょっとワケありでかなみちゃんに聞きました。メナドちゃんの部隊によく従軍しているらしいんですよね。で、俺もかなみちゃんに付いていこうと思いまして」

「メナド将軍の部隊はイース〜オークス間の街道にある唯一の橋、戦略上の重要地点の確保が任務です。当然、そこにはエクス殿の軍が既に陣地を形成しております。戦いを避けることは不可能と思われますが?」

オークスは反乱軍の本拠地であり、ここが陥落すれば内乱は終息するだろう。
そしてオークスを陥落させるには、街の手前にある橋、兵や物資の輸送の要となるこの場所が最重要ポイントとなる。
それゆえ両軍が激しくぶつかり合うことが予想される場所であった。

「ふっふっふ・・・ここで美神流除霊術『戦わずして勝つ』っスよ!」
元ネタは孫子の兵法であるが、横島のはもちろん美神令子からの受け売りである。

美神は業界一のゴーストスイーパーだったが、彼女にとって除霊における『戦い』とは『目的達成のための手段』にすぎない。
そして強力な悪霊や妖怪、果ては魔族すらも、ありとあらゆる卑怯技や裏技を駆使することで有利に、時には戦うことすらなく勝利を収めてきたのだ。
それを間近に見ていた横島にも当然、その戦い方は継承されている。

「『戦わずして勝つ』・・・それは確かに理想ではありますが・・・しかし、そのような手段が本当にあるのでしょうか?」
横島の知恵が働くのは十分承知しているが、それでも俄かには信じがたい。

「俺の『力』を使えば可能です。マリス様、ちょっとお耳を拝借・・・・・・」

執務室には二人しか居ないのだが、悪巧みの内緒話ならやはりセオリーというものに従わねばならない。
マリスもつい釣られて、横島の口元にその形の良い耳を傾けた。

「ゴニョゴニョ・・・で、俺が――、その後・・・・・・」
「・・・なっ・・・そんなことが可能なのですか・・・・・・?」

横島のアイデアに呆れ、そして信じられないといった表情を向けるマリスに、横島は「バッチリっス!」とサムズアップで応えるのだった。


―オークスの街 リーザス反乱軍総司令部―

オークスの街の最大の役所は現在、反乱軍の総司令部となっている。
その一番大きな会議室にリーザス一の智将と呼ばれる白の将軍、今は反乱軍のリーダー、エクス・バンケットとリーザス白の軍副将、ハウレーン・プロヴァンス、他数名の下士官が座っている。
反乱軍の主だった将校は既にこのエクスとハウレーンだけとなっていた。

「イースの街が奪還されましたね・・・。いよいよ反乱軍の本拠地、ここオークスの街の目と鼻の先までランス王の軍が迫ってきている。兵は拙速を尊ぶとは言え・・・これほどのスピードで進撃してくるとは正直、僕の想定を上回っていましたよ」

エクス将軍は現在の状況と己の見通しの甘さをまとめあげながら、周りを見渡す。

「我々の拠点はまだオークス、オク、バランチが健在とは言え、分断された状態では通常の連絡すらままなりません。半数が離反した正規軍の間を置かない進撃のお陰と言うべきか、敵主力部隊の損耗は大きいとはいえ、我々の損害もそれ以上です」

弱気と受け取られても仕方が無い発言だが、現実から目を逸らす将校ほど役に立たないものは無い。
反乱を起こして僅か2週間、6000を超えていた兵の数は既に3000を割っていた。
立て続けに拠点を2つ奪われ、脱走兵も出始めている。

「次はまず間違いなく、ここオークスへと攻めて来るでしょう。そこで防衛ラインの構築にもっとも有効なポイント、このイースとオークスを繋ぐ街道にある唯一の橋。ここを押さえなくてはいけません」
エクスは大きなボードに貼り付けられた作戦地図の一箇所を指差す。

「敵もまずここに橋頭堡を築くべく先発隊を送り込んでくるでしょう。我々はこれを対岸で迎え撃ちます」
何か質問は?と問いかけるエクスの声に、手を上げるこの場では唯一の女性の騎士ハウレーン。

「エクス将軍」

「なんですかハウレーン?」

「敵の進撃を防ぐのであれば、橋を破壊してしまうのはどうでしょうか?」
それは時間稼ぎに過ぎないのだが、ハウレーンはその時間稼ぎが有効だと考えている。
あの馬鹿げた演説をした王のこと、まともな治世など望むべくもない。
時が経つにつれあの王に嫌気のさす者達はこれから増えていくだろう、と。

「・・・それは、あくまで最後の策としたほうがよいでしょう。我々はリーザス国とその国民のため決起しました。その我々が街と街を繋ぐ、いわば生命線を断ち切っては大義名分が立ちません」

「・・・・・・」
ハウレーンはエクスの言葉に、やや不満げではあるが納得する。

「・・・では、私がその橋に部隊を展開させます。ここを死守し、必ずや反撃の糸口を掴みましょう」
力強く宣言するハウレーン。
その目は打倒ランス王、そして実の父の目を覚ますべく意気込んでいる。

「ええ、頼みますよハウレーン。私の部隊も半数はバランチの防衛に費やされています。ここは貴女に任せるほかありません」

橋を押さえ、そこを足がかりにバランチの部隊と併せてイースの街を挟撃、奪還する。
イースこそ取り返せば戦力も今よりは回復し、戦線を押し上げるコトも可能である。

今までの早すぎる敵部隊の進撃も、ここで戦況が長引けばどんな崩壊が見えてくるかは分からない。
そしてあまりに内乱が長引けば、今度はヘルマン、そしてゼスがどう動くかが問題となる。
今でこそ停戦状態とはいえ、この状況を黙って見ているほどヘルマンもゼスも平和主義ではない。
尤も、反乱軍にとっても隣国の介入は歓迎できるはずも無い事態ではあるが。

隣国の圧力に、内乱・・・、リーザス王国の存続そのものが脅かされる事態となれば、他の将軍、バレスやリック、コルドバもランス王に従い続けることはなくなるだろう。
何より、あの影の宰相、マリス・アマリリスが黙ってはいまい。
この内乱の目的、ランス王の排斥も不可能ではない。

エクスの描いたシナリオはそれこそ運任せ、綱渡りのようなモノだったが、それほどに戦況は反乱軍にとって不利なものなのである。


(・・・分の悪い賭け・・・ですが、諦めるわけにはいかない。国を想い、僕に付いてきてくれた兵達に報いるためにも)

軍議を終え、会議室に独りとなったエクスはオークスの街を見ながら呟いた。


第六話    完


―イース〜オークス間の街道 赤の軍野営地―


「メナドちゃん、明日はよろしくな」
「よろしくね、メナド」
今回の作戦に従軍している横島はかなみと一緒にメナドに挨拶していた。

「・・・はい、かなみちゃんからも作戦は聞いています。正直、ホントにそんなことが出来るのか信じられませんけど・・・。マリス様が直々に説明してくださったので、横島さんの『力』に期待しています」
かなみのフォローが上手くいったのか、それとも個人的な心象はどうあれ軍人という立場からか、メナドは普通に横島に接していた。

メナドとしてもマリスから聞かされた横島の策が成功すればそれが一番なのである。
両軍がぶつかり合えば、予備戦力を回さざるを得ない今回の作戦では、どうしてもザラックを前線に送り出さねばならない。

「まぁ、そこらへんは俺も頑張るよ。・・・で、ものは相談なんだけどさ」

「・・・なんでしょう?」
訝しげにかなみの方を見る。
どうやらかなみも承知のことなのか、メナドの方をまっすぐ見ている。

「コレ、この珠を持ってて欲しいんだ。肌身離さず、ね」
横島が取り出したのは一つの文珠。
込められた文字は<覗>
尤も、この文字の意味するところは横島にしか分からないが。

マリスやかなみにも全て明かしたわけではないが、その能力の大よそは説明済みであった。
文珠のことを話さなければ、今回の横島の作戦に了承は得られなかっただろう。
勿論、大っぴらに言いふらすようなことだけは避けてもらい、承知もしてくれた。

「これを・・・ですか?」
不思議な色をした珠、どんな仕掛けなのか、その内には何やら文字のようなものが写っている。

「ああ、今は持ってるだけでいいから」

横島はニヤリと悪戯を仕掛ける子供のような笑みを浮かべて、メナドの掌に文珠を乗せたのだった。


後書きのようなもの

ども、更新が遅れましてすいませんです。
横島出撃・・・したけど戦ってないですね・・・。
かなみの話はスレスレのところを語らせてみましたが、避けては通れない道でした。
ザラック、もうちょっとクズ男な所を表現できないものかと思いましたが、筆者の力量不足です・・・むぅ。

あと、とうとう文珠のコトをマリス、そしてかなみにその能力の一部をばらしました。
そこらへんの描写を書くべきか悩みましたが、よく考えたらランス世界の魔法や技も十分何でもアリな要素を数多く持っているので、それほど大した話にはならないか、と思い割愛。
究極反則技<模>すら魔人ジークの能力の一つだったりしますしね。
それでも応用性の幅広さで文珠に軍配があがるでしょうけど。

次回、反乱編決着。第七話「リーザス統一。そして・・・」お楽しみに。

以下、返信いたします。


>shizukiさん
 日光と横島って会話が成り立つのかどうか・・・。しかし彼女はあのエターナルヒーローの一人、横島君の今後を占う重要な人物となる予定です。お楽しみに。

>ペテン師さん
 マリスの恐ろしさを表現するための、ゲーム中にはない描写でしたが、それなりに説得力はあると思います。戦争って面倒ですよね。

>闇の王さん
 既にメルフェイスはランスのハーレムにいるので、勝手に<解><呪>しちゃうとどんな騒動を起こすことやら・・・。前回、メルフェイスは横島の『力』に何か思うところがあったようですが・・・。

>ユートさん
 ランス困牢にプレイ済で、現在戦国ランスの情報待ちな筆者です。この連載が長引いたら、困呂發舛蹐鸚鏐颯薀鵐垢離ャラも『鬼畜王ランス』に矛盾しない設定でだすつもりです。末永くお付き合いくださいませ。

>雪龍さん
 物質変化や自然現象、精神にも作用し、果ては時間移動などの超常現象すら実現可能とする『文珠』
 まさしく何でもアリ、に等しい能力でしょうね。勿論制限はたくさんありますけど、そこは横島の霊力のキャパ次第、というところでしょうか。あと漢字の知識かw

>GAIKIさん
 ランス目立たないですねぇ・・・いや、そのうち出てきますよ。横島がリーザス城の隅っこのほうで遊んでいるうちはどうしても出てくる余地は無いですからね。そろそろ出番かな・・・?メルフェイスはサウスに進軍した際に捕獲したと思ってください。

>βさん
 数年ぶりにその本を引っ張り出しました。これ見ると美樹ちゃんも最大LV無限ってなってるんだ・・・。あと技能:魔王LV1とかw
 異世界人にもレベルや技能は設定されてるんですねぇ・・・。

>神雷さん
 横島シバキ役はかなみの他に見当たりませんでしたwそーだなぁ、あとは志津香くらいかなぁ・・・。ハウレーンも狼藉働いたら殴るには殴るだろうけど、何か違和感があるのは何故でしょうか・・・。

>Iwさん
 18禁的行為は現時点でもランス君は十分に楽しんでいるでしょうが、描写する機会は・・・今のところないです。筆者にそーゆーの上手く書く技量があれば良かったのですが


「がはははは、とうっ!!」でいいならいくらでも書くんですけどねw

>通りすがりさん
 前述の通り、サウスで捕獲済みだったりします。

>ネリさん
 横島に飴・・・ですか・・・。・・・・・・ミリ・ヨークス?


 死ぬな・・・男として・・・。

>黒覆面(赤)さん
 戦争イベントもしっかり盛り込む予定です。
 ただ、横島が戦争に行くにはやっぱり、彼の性格を良く掴んだ上で描写しないといけないと思うのです。
 進行ペース遅いですが、私も早く反乱『なんか』終わらせて魔人書きたいですよぅw

>囚人Rさん
 リアがランスの行動(女の子を襲う等)を妨害するなど絶対にしないでしょうね。それが自分以外の女に手を出す行為であっても。勿論内心は不満でしょうが、それ以上にランスに嫌われることを恐れているはずです。結構、可愛い性格してるんですよね、とびっきりのサドだけどw

>ラッキーヒルさん
 AL教団の背後関係みると滅茶黒いですなw教祖もヤヴァイですが、そのさらに上にいる存在とその目的が・・・。
 異世界の人間な横島君の場合はレベルは、現時点では低いのではと。レベル屋や神の存在すら知らないですしね。

>名無しさん
 横島の性格を考えると、やっぱり個人的な理由がない限り危険な場所には行かないと思います。理由があれば戦う、と決意した過去もありますしね。
 『ワン・フロム・ザ・ハート!』の横島は本当にカッコよかった・・・。
 ランス云々については創造主(アリス)自らが『この世界の最大の不幸は英雄の資質を持った男がこんな輩だということだ』なんて言ってましたしねw

>ZEROSさん
 フルルさんはリアの親友ということなので、夫に弁当を渡すとか、リーザス城に遊びに来るイベントがあると面白いかもしれませんね。

>ウェストさん
 フラグ立てるのはいいけど、よりによってコルドバかよwって人選ですなw
 ダイヤモンド製の肉体は頼りになりましたが・・・はて、この先出番あるのかな?

>名称詐称主義さん
 ルドラサウム世界はレベル屋か専属の神様に依頼しないとレベルアップしない世界なので、現時点ではおそらくLV1でしょう。
 尤も『電子の要塞かいしんのいちげき!!』なんて古い話を持ち出すと、LV99でも横島は弱っちいのですがw

>かのんさん
 リアの横島への評価は『変な手品を使う面白い芸人』程度です。
 お気に入りの道化師、といった感じに丁稚からジョブチェンジするかもしれませんねw

>naoさん
 この作品はGS好きな人に「鬼畜王ランス」を少しでも知ってもらおう、という趣旨で書き始めました。
 フリー化はまさにそのキッカケ、是非、たくさんの人にプレイしてもらいたいものです。

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