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「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第五話(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-10-20 01:37)
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―リーザス城 大広間―

ランスとリアの結婚式が行われている真っ最中である。

真っ赤な絨毯が長々と敷かれた道を中央として左右に客席がしつらえている。
客席には、近隣、遠方、様々な招待客が座っていた。

今、ランスとリアはぎんぎらの衣装を纏った、ボサボサ髪の神父の前にいる。


・・・よく見たら、その神父は横島忠夫、その人であった。

(・・・なんで俺が神父なんかやらねばならんのだ・・・・・・)
ふと脳裏に幸薄い(主に頭部の)神父の姿が浮かぶが、まったくもって自分の柄ではない。


この無謀としか言いようの無い人選、勿論マリスの命令である。横島は彼女には逆らえない。
そしてその背後には当然のごとく、リアの希望があった。マリスもリアには逆らえない。
最初こそマリスは考え直すようにとリアに進言したが、結局はリアの希望通りにすることにした。

何故か。

意外にもリアは横島の数々の功績(当然その全てがランス絡みのことだからなのだが)を覚えていたのだ。
そして横島を自分とダーリンの縁結びの魔法使いと思っているらしく、祝福の『おまじない』を結婚式でも披露して欲しい、と唐突に言い出しらしい。

これは横島を『JAPANの魔法使い』だと説明したマリスにも非がある。

結局、戸惑い反対はしたものの、雇い主(マリス)の命令(頼み)では断ることも出来ない。
せめて外見だけは聖書の、中身はカンニングペーパーを用意することで何とか遣り過ごそう、とマリスとの打ち合わせで決まったのだった。


「・・・新郎ランス・・・・・・」

(そう言えば『あの時』は西条の野郎が読み上げていたっけ・・・)
ふと思い出すのは、かつてとある事情で自分と結婚式を挙げるハメになった少女のこと。

(小鳩ちゃん、それに貧の奴・・・元気にしてるかなぁ・・・)
可愛いお隣さんとそのオマケのことを考えると、自然と郷愁の念が浮かび上がってくる。
この世界へとやってきてまだ10日前後しか経っていないにもかかわらず、ずいぶんと遠くへ離れてしまった感覚がある。

「どうしたの?早く続けてよ」
・・・少し耽ってしまった。

「・・・失礼しました。新郎ランス・・・汝は病める時も健やかなる時も、新婦リアを一生愛し続けますか?」

「多分・・・・・・」

「は?」

「いや、はい」

「新婦、リーザス王家リア・パラパラ・リーザスよ、汝は………」

「はいはい、ついていきまーす。ふたりでお爺ちゃんと、お婆ちゃんになりまーす」
リアらしいと言えばらしい、能天気な誓い。

「では、聖書の上に手を置き、誓いの宣誓を……」
ここで横島はこっそりと発現させた文珠に<祝>の念を込める。

「せ、宣誓・・・!?」

「だいじょーぶ。ヨコシマの言ったコトを後から言えばいいだけよ、ダーリン」

横島が差し出す聖書にランスとリアの手が上に重ねられる。
そして二人が誓いを終えたと同時に横島は文珠を発動させた。

すると屋根に遮られたはずの空間に、突如天上から神々しいまでの光が差し込み、ランスとリアの二人を包む。
続けて霊波で模られたつがいの鳩が聖書から飛び立つと、吹き抜けになっている上空で無数の光り輝く羽根に弾け飛び、大広間全体へと舞い散った。

「わああ・・・」
「ほう・・・」
思わず感嘆のため息をつくリア、面白い手品だと思ったのかランスも感心したように呟く。


『おおお・・・』
『これは・・・まさに神に祝福されたということですな・・・・・・』
『・・・へぇ・・・』
『どんな仕掛けかしら・・・?』

式に参列している人々もその光景の美しさに息を呑むばかりだ。

・・・たったこれだけの演出のために文珠一つを使うのは勿体無いと思わなくも無かったが、リアや参列者達の反応を見てみるとかなりウケが良かったらしい。
人前でむやみに使うことは躊躇われたが、横島がやったコトと判っているのもマリスとリアだけであれば問題はないか、と考え直した。


「・・・それでは、この者ランスを、リア・パラパラ・リーザスの夫と認め、王位を譲位し、ここに我らが父、主の加護の下、リーザス国国王と認める」


―後世に鬼畜王と恐れられるリーザス国王ランスの誕生した瞬間であった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!! 第五話「鬼畜王即位!そして反乱へ・・・」〜


―リーザス城内 マリス・アマリリス専用執務室―

「お疲れ様でした、横島殿」
自分の机の上にぐだ〜、と寝そべっている横島にマリスが労いの言葉をかける。

「いや〜、ホント肩が凝りましたよ・・・二度とやりたくないっスね」

他の者の目がある前ではマリスと横島は主従の間柄であるように「一応」振舞っているが、人目の付かないところではこんなものである。
このリーザスにおいてマリスに対し、これほど気安い態度を取れる者は片手の指ほどもいない。
それも遥か年下の少年にである。
マリスとしては多少思うところも無いではなかったが、気分を害するほどのことでもないので好きにさせていた。

「あら、思っていたよりも随分と様になってましたよ?それにあの演出も・・・見事なものでした。リア様も大層お喜びでしたし」
あれならココを首になっても神父役で食べていけるのでは?と、冗談にもならないコトを仰る。
横島は糧を得るためだけにリーザスにいるわけではない。

「・・・冗談っスよね?」

「ええ、冗談です」
頼むから笑顔でそんなことを言わないで欲しい・・・。

(この人はリア様さえ良ければ何でもええんやなぁ・・・)
と、諦めにも似た境地でため息をつく。


「それじゃ、今日はもう帰っていいっスか?もうダルイわ眠いわで・・・」

「ええ、勿論です。もう部屋に戻って結構ですよ。これで私もようやく一段落つきましたし、明日からは横島殿への協力も今まで出来なかった分お返しいたします」

新王ランスの補佐が必要になるとはいえ、それは今までと変わりないことだ。

だが、ランス王のそもそもの目的はヘルマンへと攻め込むこと・・・とは言え、このリーザスには多くの優秀な将軍達がいる。
軍事のことは自分が口を出すことではない。
今まで通りにリア様をお守りすればよい、ならば横島への協力もそれほどの負担にもならないだろう。

それゆえの言葉であった。

「期待してるっス!」

横島は横島でリアのウケを良くした甲斐があったと言うべきだろう、マリスの態度が随分と柔らかくなっている。
それならば今日のようなピエロに等しい役にも意味があったというもの。

横島は自分に与えられている部屋へと戻っていった。


―だが・・・マリスでさえ予想だにしていなかった事態が発生する。


―リーザス城 バルコニー―

翌日、新リーザス王ランスの所信表明を聞くために大勢の国民がリーザス城に集まっていた。
国民との謁見の為にしつらえられたバルコニーの向こうから響く歓声がここにまで聞こえてくる。

横島はマリスに付き従い、そのすぐ後ろでやる気なさげに突っ立っている。
かなみはその横島のすぐ隣にいる。

(なぁ、かなみちゃん・・・なんで俺までここにいなくちゃならんのやろ?・・・思いっきり場違いやないか・・・)
(新国王の挨拶なんだから、一応、臣下としての義務を果たせってことでしょ)
(・・・俺はあんな野郎の部下になった覚えはないぞ・・・あくまでマリス様の丁稚じゃ!義理もなければ義務もないわい!)
(丁稚って・・・まぁ、いいけどね・・・正直、横島さんが羨ましいわ)
(・・・?どういう意味だ?)
(・・・こっちの話よ、さ、無駄話はオシマイ、始まるわよ)

バルコニーの手前ではランスがマリスと何やら押し問答している。
面倒だの、代われだの言ってるようだが、新王があんなのでホントにいいのだろうか、と何度考えてもそう思ってしまう。

ようやく説得が終わったのか、しぶしぶバルコニーへと歩いていくランス。
マリスが深いため息をついた後、横島とかなみの元へと戻ってきた。


『俺様が新しいリーザス王、ランス様だ』
ようやく演説が始まったようだ。
マイクを通し、大音量の一声がリーザス城の隅々にまで届いている。

『ランス王万歳!!』
『リーザス万歳!!』
『新国王万歳!!』
ランスの声に、国民が一斉に歓声を上げた。


『いいか、よく聞け愚民ども!これからは、俺様の為に働け!俺様の為に生きろ!!そして命令があれば死ね!!わかったな!?』


「「「・・・なっ!?」」」
続く言葉にマリス、横島、かなみ、他、その場にいた臣下一同、全員が言葉をなくした。
当然のコトながら、広場に集まった国民全ても静まり返っている。

『おっと、ただし可愛い女の子だけは特別に扱ってやるぞ。全て俺様が可愛がってやる!がははははは!!』

さらに静まり返る国民達。
黙ったまま、憎悪さえ含んだ眼差しで新王を見つめる者さえ出て来た。

そしてバルコニーの奥にも抑えきれぬ怒りを発している人物、横島忠夫。

(つ・・・つまりっ・・・コレはハーレム宣言かっ!?全国民可愛い女の子全てをハーレムにするということかっ!!な・・・なんて羨ましいっ!!お、俺・・・)

「俺にも分け・・・ぐぼあぁぁ!!!」

かなみは懐に入り突き上げるように顎に掌打、身体が浮かび体勢を崩したところへ水月に抜き手で一撃、神速の2HITコンボを叩き込み横島の意識を瞬時に刈り取った。

(ふう・・・やっぱりこのために私をここに置いておいたのね・・・)
マリスに理由を聞いたときのジェスチャーを理解し、身震いする。
『騒ぎを起こしかけたら即座に黙らせろ』

だったら最初から横島をここに連れて来るなよ、と思わなくもないが、目を離したら何をするのか分からないと判断された辺り、短い期間にも拘らず的確に横島のコトを理解していると言えよう。
ある意味命拾いしたとも言える横島だったが、それは本人には分かるまい。


そして翌日、新王ランスは即位早々に内乱を勃発させたのであった。


―リーザス城 謁見の間―


玉座にふんぞり返っているランス、そしてその足元にはリアがちょこんと腰掛けている。
幸せそうなリアを見て、自身も幸せを感じながらもマリスは心の中で頭を抱えていた。
その手には諜報機関からの報告書と一通の封書。

「よぉし、俺様も王となった訳だこれで大手を振って、ヘルマンに進軍出来ると言う訳だな」

「うん、さっさとやっつけちゃおうね。ダーリン」

「ふっふっふ。見ていろ、ヘルマンのへなちょこ野郎共!!この俺様と、俺様の奴隷達が、貴様らをぎゅうっと言わせてやる!!兵はいくらでもいるからな。ぎゅうぎゅうっと力で攻め込む!がははははは!!」
「わぁい、ダーリンかっこいいっ!」
二人で盛り上がっているところに水を差したくはないのだが、コレばかりは言わないわけにはいかなかった。

「侵略戦争どころではなくなってしまいました。ランス王」

「なんだと?マリス、お前は王様であるこの俺の楽しみを潰そうというのか?」
「そうよ、マリス。リアのダーリンの楽しみを奪うなんて、許さないわよ」
マリスの言葉に反発する国王夫妻。

「・・・反乱です。リーザス白の軍将軍、エクス・バンケット殿より封書が届きました。失礼ながら私の手で中身を確認させていただきましたが、内容は新王の即時退位・・・加えてリア様の王位復帰の要求」

「なんだとぉ〜!?俺様が王になった途端に辞めろと抜かすバカがいるのかっ!」

「受け入れられない場合は、武力を持って偽王ランスを排除する――以上です。既にオークスを中心に、バランチ、イース、サウス、オクの街が瞬く間に占拠されました。反乱軍には、エクス殿の白の軍に合わせ、他に各軍からもかなりの数が参加している模様です。その数6500」
マリスは反乱の首謀者エクスからの封書をランスに手渡すと、もう片方の手に持っていた報告書を読み上げた。

「えーっ、それってリーザス軍の半分近くじゃない!!どうしてそんなに!それに、反乱なんて…何が不満なのよ」

「恐れながら・・・原因は先日のランス王の演説にあると思います。あの演説を聞き、少なからぬ反感を持った民がいたとしても――」
マリスが用意した演説文をあっさりと放り捨てて、この王様は本音をぶちまけたのだった。

「俺は真実を言っただけだぞ。権力者が民から搾取するのは当たり前の事だ。他の馬鹿者は格好をつけて民の平和の為などと平気で嘘を言うが、俺はそういうつもりはない」

「・・・それでも建前というものがあります。それでいかがなさいますか、ランス王」

「ふん、分かり切ったことを聞くんじゃない、マリス。・・・ちょうどいい、俺様に逆らった奴がどうなるかいい見せしめだ。今すぐ全軍の将を集めろ」
マリスに渡された封書を目に通すこともなくビリビリに破き、ランスはすぐさま残ったリーザス全軍の将軍を集めるよう命令を下した。


―リーザス城内 マリス・アマリリス専用執務室―


「――と、このような次第なのです。申し訳ありません、横島殿・・・」

「いや、マリス様が謝るようなことじゃないっスよ。それにマリス様の話だと、あの馬鹿王が勝とうが負けようが、マリス様の立場に変化があるわけじゃないみたいですし」
相変わらず何者にも憚ることの無い横島の発言、ランスへの忠誠心など全くない。

「くれぐれもそのような発言は私以外の前で為さらぬよう・・・。ランス王はあの通り気性の激しい方です。私とて庇い立てしきれるか分かりません」
横島はマリス個人が雇っている人材であり、リーザスの臣下ではないのだが、そのような理屈はあの王には通じまい。
マリスとしてもつまらない不興を買った程度で横島を失うのは惜しいと今の時点では思っているため、きっちりと釘を刺しておくことにした。

「むう・・・分かりました、気をつけます・・・」
不承不承だが、頷く横島。
彼自身も信じがたいほどの幸運に恵まれて今の衣食住に加え賃金が得られる環境を、そして元の世界へ帰るその手段を探すための後ろ盾を得ているのである。
確かにあの王との相性は最悪の部類になるだろうが、そう易々と追い出されるわけにはいかない。
ここを放り出されてまた同じような境遇が得られるなど、まずありえないだろう。


それでも新王即位早々に内乱が起きるなど、先行きが不安になるのは確かである。
ただ横島はマリスが話してくれた反乱について、どうしても拭えない違和感を感じていた。

「しかし・・・マリス様には言いにくいんですけど、いくらあんな演説だったとはいえ、新しい王が即位してこうもすぐに反乱が起きる、というのは何か――」

「――元々反乱の火種があった・・・そう仰りたいのですか?」
自然と鋭くなる目つきで横島に問いかけるマリス。
だが、それは横島が言いかけたことに対する反駁を意図したものではなく、その先を肯定するものであった。

「う、あ、いや・・・別にそういうわけじゃ・・・」
マリスの言う通りだったりするのだが、横島も深く考えて言ったわけではない。
何となく思っただけだ、手際が良すぎる、と。

―元々反乱の火種があった。

リーザス王国の安定した統治と女王リアの圧倒的な人気を知る者は即座に反論するであろう。
国民の大半、そしてリーザス城で国政に携わる者ですら、反乱の原因は新王の鬼畜極まる演説だと帰結してしまうだろう。

しかし、横島は完全な異邦人である。
女王リア、そして影の宰相マリスの善政を深く知らない横島だからこそ、先入観なく今回の反乱の裏の事情に勘付いたのだった・・・あくまで何となくだが。


そしてマリスは内心で横島の慧眼に驚きながらも、静かにそれを肯定した。
「ええ、そうです。ランス王には伝えておりませんが、今回の反乱、軍の一部が蜂起したという事態だけでは止まりません」

確かに新王ランスの演説がきっかけとなったのは間違いない。
エクス将軍を中心とする軍の半数の離反の原因はそれであろう。

しかし、リーザス城の近隣の5つの街が『ほぼ同時に占拠された』こと、これは普通では考えられない。
明らかに離反した軍とは別の意図を持った存在が介入している。
勿論、反乱軍とは密接に関与し、連携も取り合っているだろうが、こちらこそが今回の反乱の真の首謀者と言える。

マリスが黒幕と判断した存在、それはかつてマリスがリアを守るためにリーザスの王宮から排斥した貴族達である。
彼らはマリスの策謀の前に屈し、権力の座から追われて趨勢こそ失ったものの、今なお地方の有力者としてしぶとく生き残り、再び中央へ返り咲く機会を虎視眈々と狙っていたのだ。

「はぁ・・・色々と複雑なんっスね」
権謀術数が錯綜する陰謀を垣間見たような気がして、何とも落ち着かない気分になる横島。
「けど、何で王様にはそのことを伝えないんっスか?」
鎮圧すべき内乱の首謀者が他に存在するなら、伝えないのはおかしくないだろうか、と疑問に思うのは当然である。

「・・・それは、このことは全て内密に処理したいからです。今話したとおり、リーザス正規軍が他の都市と繋がって蜂起を起こした以上、橋渡しをした宮廷貴族一派がいることは確実です。ランス王がこのことを知れば当然ながら大々的に焙り出そうとするでしょう。少しでも捜査の手が伸びれば即座に尻尾きりのために口封じされるでしょう。・・・それでは意味がありません」
つまりマリスは黒幕に繋がる証拠を得るまでは城内の内通者を泳がせるつもりなのだ。
確実な証拠を手にし、今回の黒幕達全てを完全に叩き潰すこと、それがマリスの目的である。

そしてその証拠を掴むため、既に複数のエージェントが反乱軍に占拠された都市へと潜入しているらしい。
マリスに言わせれば『占拠された都市』ではなく『寝返った都市』つまり黒幕の支配地のことなのだが。

「この内乱が鎮圧され、首謀者全てを排除したとき、ランス王・・・リーザス王家の支配基盤がより磐石なものとなるでしょう」
何の感情も見せず、淡々と語るマリスに横島はあらためてこのグレート筆頭侍女の恐ろしさを実感したのだった。


―リーザス城 中庭―

数日後、慌しいリーザス城内をただ一人暇な男、横島が歩いている。
マリスはまたも執務室に篭りきりとなり、次々と舞い込む情報を整理し、分析し、そして指示を飛ばし続けている。
そんな部屋でマリスの美貌を日がな一日眺めているのも中々にオツだったが、何もせずにぼ〜っと見つめ続けるのもさすがにそろそろ居心地が悪くなり、こっそり抜け出してきたのだ。

肝心の反乱軍の鎮圧のほうは、リーザス城の南に位置するサウスの街を早々に取り返したらしく順調のようだ。

―どうでもいいけどさっさと終わらして欲しい。

横島の本音はそんなところであった。
こうも慌しい日々が続いては少しも帰る目処が付かない、と少々気がささくれ立ち始めるのもやむを得ないというものである。

〜〜♪〜〜♪〜

そんな横島の心の中にふと届くどこか懐かしい音色。

「あれ・・・この音、なんか聞き覚えがあるな?」

この音は・・・いつだったか・・・・・・そうだ小学生の頃だ・・・ハーモニカ?

横島は音のするほうへと歩いていった。


中庭から少し外れたリーザスの城下町を一望できる空き地にハーモニカの音の主はいた。

「・・・美女と野獣だ」

横島の呟きは的確に目の前の光景を表現していた。

(あれは・・・確か青の軍の将軍だな・・・隣の美女は分からんが・・・)
コルドバ将軍と直接の面識はないが、一応知識としてリーザスの主だった重臣、将軍の名前と顔ぐらいは一致させていた。
しかし、女性のほうに見覚えはない。纏っている装飾具やローブから紫の軍の魔法使いと思われるが。

ヒグマのような巨漢の騎士は掌にすっぽりと収まりそうな小さなハーモニカを器用に演奏している。
イメージに合わないことこの上ない。
その少し離れた位置に腰掛けて、静かにその音色に耳を傾けている艶っぽい色気を持つ女性、絵になるんだかならないんだか微妙な取り合わせであった。

横島としてもこの状況では今ひとつ割り込みにくい。
恋人達の語らいを邪魔するのは・・・まぁ、確かに横島のライフワークの一つであったが、あの巨漢を前に立ち向かう無謀は持ち合わせていなかったりもする。
普通に話しかけることも躊躇われ、横島もしばらくの間ハーモニカの音色に耳を傾けた。


やがて観客二人だけの演奏会が終わると、コルドバ将軍は盗み聴きをしていた横島に気付く。

「む・・・お前さんは確か・・・」
「ご存知なのですか、コルドバ将軍?」
座っていた女性も横島に気付いたようだ。

「ええ、最近雇われたというマリス殿の秘書・・・と聞かされとりますが、・・・どうにもイメージに合わないなぁ。なぁ坊主?」
それ以前にも実は関わってはいるのだが、直接会ったわけではない。

横島もコルドバの口振りに悪意がないことは分かるのだが、少なからずムカッとくる。

「おっさんのハーモニカもな」
横島は相手が立場が遥かに上の将軍であるのもお構いなしに切り返した。

「む・・・そうか?・・・そうかもしれんな、わはははははは!」
大声で笑い出すコルドバ。
横島の失礼な物言いに対して少しも気を悪くした様子は無い。
見た目の通り、豪放磊落な人物らしい。

「あ〜・・・自分は横島忠夫っていいます。マリス様に丁稚奉公している勤労青年、どうぞヨロシク。・・・ところでそちらのお美しい女性の方、よろしければお名前を聞かせていただけませんか?」
「・・・横島?」
コルドバへの挨拶は適当に、首を捻っているようだが当然無視する。
そしていつもの調子のナンパ口調で美女へ話しかける横島。

「私はメルフェイス・プロムナード、魔法軍の副将を務めています。貴方・・・どこかで見たような・・・そうだわ、ランス王とリア様の結婚式で・・・」
「んん?・・・おお、そういえば神父をしとった坊主かっ」
益々イメージに合わないな、とまたも笑い出すコルドバ。
大きなお世話じゃ!とまたも無礼を働く横島。

「・・・でも、結婚式でみたあの光・・・アレはひょっとしたら貴方がやったことなのかしら?」
さすが魔法隊の副長を任じられるだけあって、横島の力を知らないにしても、魔法とは違う不可思議な力に勘付くものがあるらしい。
内心ギクッとするが、表面だけは平静を装う。

「ええ、分かっちゃいましたか。ちょっとした手品みたいなもんっスよ」
両の手の平を肩の位置まで上げて、ヒラヒラと振る。『種も仕掛けもございません』というゼスチャーのつもりのようだ。

「そう・・・」
何か考え込み始めるメルフェイス、悩んでいるようにも見えるが細かい機微まで横島には分からない。

「・・・ところでお二人のご関係は?ご夫婦?恋人同士?単なるお友達ですかっ?」
何故か気落ちしているようにも見えたメルフェイスに、気になっていたことを思い出し、くだけた調子で無遠慮な質問を投げかける。

「あの・・・えっ?」
唐突な質問に顔を上げ、キョトンとした様子で横島を見るメルフェイス。
代わりにコルドバが横島の質問に答える。

「そんな特別な関係ではないぞ。将軍同士、同僚といったところだ。しかし、坊主「横島じゃ!」む、スマン。・・・ヨコシマ、なぜそんなことをメルフェイス殿に聞く?」
「決まっとる!特定の相手がいないのなら是非に俺とお付き合いを!つーか、こんな美女、放っておくだけで男の罪というもんやろがっ!」

拳を硬く握り締め主張する横島をポカーンとした様子で見つめるコルドバとメルフェイス。
二人してしばらく横島を見ていたが、やがて顔を見合わせコルドバは豪快に、メルフェイスも口元に手を当ててクスクスと笑い始めた。

「わははははは!やはりメルフェイス殿、俺がさっき言っていた通りだったでしょう?」
「・・・ええ、そうかもしれませんね・・・ふふ・・・」
先ほどまでとは逆にポカーンとする横島をよそに、二人とも笑い続けている。

「・・・なんなんだ」
何やら自分とは関係の無いところで話が通じているように見えるが・・・完全に忘れられたみたいで無性に悲しくなる。


「・・・失礼しました、横島さん。別に貴方のことを笑っていたのではないのです、お気を悪くなさら・・・いじけないでください」

「・・・ううう・・・それは全然構わないんっスけど・・・」
長い間放置され、とうとうその場にしゃがみ込んで「の」の字を描いていた横島。

「あの・・・それで・・・」
言いにくそうに言葉を続けるメルフェイス。
「私、今はとある事情で・・・その『特定の相手』がいるのです・・・。申し訳ないのですが・・・」

「あ〜あ〜、いいですいいですって!メルフェイスさんほどの美人、男が放っておく訳ないっスからね!俺みたいなガキに頭を下げるコトないっスよ!」
年上の、それも相当な美女に頭を下げられることなど滅多にない。
まるで慣れない感覚にアハハハハと笑いながら頭を掻く横島。

「わははははは!フられたなぁ坊主」
愉快そうに笑うコルドバに今度は本気で殺意が沸きかけるが・・・。

「まぁ、メルフェイス殿は諦めろ。何なら今度、女房の知り合いでも紹介して・・・」

「マジかっ!?・・・って、おっさんの嫁さんの知り合いって・・・どうせ・・・オバサンだろ・・・」

「む・・・俺の女房は若いぞ、ふぅむ、どこにやったかな・・・」
ゴソゴソと懐を探るコルドバ、やがて一枚の写真を取り出す。

「ホレ、これが俺の女房だ」

どれどれ、と差し出された写真を手に取り、じっと見つめて・・・。
「なんだとぉぉぉぉおおおお!?めっちゃ可愛いやんけっ!つーか、若いっ!この娘、何歳だ!?」

「今年で16だ」

――ピシッ・・・←横島の中で何かが弾ける音


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・!←空気の重みが増す音


「天誅っ!!!!!!!!!!」

瞬時にハンズオブグローリーを発現させ、コルドバに襲い掛かる横島。

「むあっ!何をする坊主!!」
巨漢に似合わず、素早い動きで回避するコルドバ。
・・・そのお陰で大事には至らないわけだが。

「やかましいわっ!このロリコンがぁっ!!」
「なっ!?俺はロリコンじゃないぞっ!惚れた女がたまたま若かっただけだっ!」
「なおさら黙れ!ロリコンは皆そう言うんだよっ!!」

憤怒と嫉妬と少しの正義心が宿ったタックルをかまし、30センチ以上の身長差&100キロ以上の体重差をものともせず、そのまま互角の取っ組み合いを演じる横島。

それいけ、し○とマスク。

「――!!」
「!?―――!!」

止める機会を完全に逸したメルフェイスは呆然と二人の喧嘩?を見ているだけだ。

(・・・すごい・・・あのコルドバ将軍と互角・・・というよりも将軍に対してこんなコトして大丈夫なのかしら・・・?)

幸い、周囲には人の目もなくこのまま収まれば何も問題はないのだが・・・。


「・・・どうにも聞き覚えのある叫び声がするから来てみたら・・・やっぱりアンタだったか・・・・・・」
突如、メルフェイスの背後から聞こえてきた年若い女性の声。
「・・・貴女は・・・・・・」

「・・・メルフェイス様・・・コレは一体、いや、いいです言わなくても、どーせあの横島(バカ)の暴走でしょうから」

そしてツカツカと未だ取っ組み合いを続けている二人の下へ歩いていき・・・。

むんずっ、とあっさり横島の首根っこを掴み取った。
そのままズルズルと何処かへ持っていこうとする。

「ま、まてっ!放してくれかなみちゃん!俺は、俺はあの人類の敵(ロリコン)に天誅を喰らわせねばならんのだっ!背負ってはならない十字架などと嘯く野郎共を滅せねばならんのだっ!!」
「天誅喰らうべきはアンタでしょうがっ!!」

そのまま横島はかなみに引き摺られて行ってしまった。
取り残されたコルドバとメルフェイスは呆然と二人の去っていったほうを見ている。


「・・・むう、この俺がここまで押されるとは・・・・・・」
「コルドバ将軍・・・」
お怪我は・・・?と続けようとしたが。

「なに、カスリ傷一つありませんよ。それにしてもあの坊主・・・いや横島忠夫と言ったか・・・」
己への無礼を咎める気など元よりまったく無い。
それよりも横島の気概や己を前に一歩も引かぬその闘志に興味が沸いた。

実際はただの嫉妬パワーなのだが。

「青の軍に欲しいな・・・」
「えっ・・・!?」

横島、大ピンチであった。


第五話    完


―リーザス城 廊下―


―後日談

「コルドバ将軍、これから出陣ですか?」

「これはマリス殿。ええ、先日取り返したイースに反乱軍が迫ってきていると情報が入りましてな。これから防衛に向かうところです」

「そうですか・・・御武運を・・・。一刻も早く、味方同士で争うなどという事は終わりにしたいものですね」

「そうですな。・・・ああ、ところでマリス殿」

「なんでしょうか?」

「マリス殿の秘書をやっているという、横島という男のことですが・・・」

「・・・・・・横島殿が何か?」

「いやなに、あれほどの闘志を持った男。是非、我が青の軍の兵士として鍛えたい、と思いましてな。どうですか、彼をもし手放す気になったら、俺に預けてくれませんか?」

「・・・・・・・・・はぁ?」

「うむ、確かにマリス殿が見込んで雇うだけはある。そう簡単に手放すとは思えませんが、覚えていてくださると助かります。では、急いでいますのでこれで」

「は・・・はぁ・・・」

(横島殿・・・一体、コルドバ将軍に何を・・・・・・)
随分と気に入られたようだが・・・。

真相はメルフェイスしか知らない。

さらにその後、コルドバとの会話を横島に伝えたマリス。

「絶対に嫌じゃああああああああああああああああっ!!!」

当然のコトながら、横島は酸欠になるまで叫び続けたそうな。


後書きのようなもの

第四話の皆様の感想を読んですぐさま『アールコート 肉屋』でググったshuttleです。こんにちは。
限定版の説明書にあるんですね・・・。ガッデム!悔しい!
でもやってしまったのはしょうがない・・・お嬢様設定は前面には出さないように今後綴りますです。

鬼畜王即位、反乱編に入りましたが、横島が戦う気配がゼロ・・・あ、コルドバと戦ったかw
しかもメルフェイスかと思いきやコルドバにフラグ立つしww

しかし、おかしいなぁ・・・第五話書き始めのころはコルドバ&メルフェイスなんて出す予定無かったのに・・・。
でもまぁ、上手い具合に横島と絡んでくれたようで安心です。

ちなみにマリスが横島に語った反乱の真相、マリスの本音はアレが全てではありません。マリスはもう一段階、ランスが負けた時のことも想定して動いているのです。当然、そんなことは横島には話しません。

次回は横島君出撃?の話です。第六話「かなみの友達」お楽しみに

以下返信です。

>佳代さん
 ラギシスってランス兇遼睨〇箸い任靴燭辰院ひょっとして仇のラガールでしょうか?志津香用のエピソードは構想練ってますのでそのうち出します。しかしこのペースだと自由都市制圧編っていつになるんだろ・・・。

>闇の王さん
 モノノケに好かれやすいという横島君の特異体質ですが、『敢えて』技能レベル化するならですがLV1で十分じゃないかな、と思います。
 LV2だと某女の子動物園島のレ○君みたいになっちゃいそうですし・・・。LV3なんてそれこそ歩いているだけで女の子モンスターが従魔になりそうですから。

>イエティさん
 いつまでも横島君らしさを失わない作品でありたいと思う次第です。
 ザ・コンプリートは持っているであります。これないと正直書けません。でもアールコートは肉屋なんてコレには載ってなかった・・・。

>kntさん
 もうすぐサイゼル、サテラの出番が近づいていますね・・・作者のモチベーションが大いに高まるキャラたちですw魔人大好きですからw

>囚人Rさん
 ランスは結婚したからどうだ、とか関係ない性格ですからね。むしろハーレムでも一番蔑ろにされているのが妻のリア?
 それにリアが本気で嫉妬する相手は一人しかいませんしね。それも殺したいほど・・・。

>紅さん
 そういえば千鶴子とランスの会話にアニスの話題であったような記憶が・・・。
 しかし会話の中で具体的なレベルの数値を言っていたらなんか興ざめですよね。この作品では避けることにしましょう。(今決めた)

>名称詐称主義さん
 実は私服を着てデートをする、というパターンも考えたのですが・・・諸般の事情でお蔵入りですw
 天才軍師・・・覚醒するか、いやそもそも覚醒することがアールコートにとって幸せなのか・・・乞うご期待です。

>黒覆面(赤)さん
 レイラさんころしちゃだめぜったい。それジュリアっス。

>かくさん
 前回の後書きはちょいとまずかったですかね。別に横島は他人の彼女を奪い取ろうとする性格でもないし(ちょっかいはかけますが)、確かにしっくりきません。
 ランスから意図的にかっさらうようなマネはしないでしょう。というか、したら殺されるw
 自然に成り行きで真っ当な展開の上で横島君と接触したキャラが上手く表現できれば筆者の勝ち、ということでしょうか?(ヲ

>shizukiさん
 筆者はお姉さんキャラが好きなんですよ。マリスとかカフェとかアビァトールとか日光とか・・・うわっ、横島には絶対無理な相手だw

>ラッキー・ヒルさん
 聖女モンスター達と似たような力、という位置づけは盲点でした。確かにそれはアリだと思います。参考にいたしますです。

>名刀ツルギさん
 後書き冒頭でも書きました。マジ私のミスです。
 ええい、アリスめ、余計な設定作りおって・・・(言いがかり)

>スケベビッチ・オンナスキーさん
 なるほど、1か2か、個々人それぞれが判断できる材料はあるわけですし、意識の中にあるのは間違いないようですね。
 しかし、会話は勿論、地の分でもLVを表記させるとなんか違和感が・・・ありますよね?

>神雷さん
 むしろ横島の影響を受けてアールコートが卑怯戦術ばっかり身に付けてしまうようなwしかもすぐ師を超えてしまうw

>ネリさん
 ランス魔王ルートは拙作で進むことはありえませんが、もしそうなったら・・・ちと筆者ではマトモな構成を思いつくコトができませぬ。

>BBさん
 以前、現在の作品の構想を練り始めたとき、ルシオラを横島専属のレベル神としてルドラサウム世界を旅する設定を作りました・・・敢え無くお蔵入りですが、そんなことを思い出しました。

>ロロットさん
 キモイっすか・・・。そう言われないよう頑張るでス。
 でもアールコートや五十六の例は、ひっじょーにレアなケースとは思いますけどね。それゆえ高い人気を誇るわけでもありますが。
 クロマティ理論「不良がたまにイイコトをすると、なんだかすごくいい人に見えてくる」とかあんな感じの・・・。

>ジュルさん
 そんな鬱展開は筆が進みそうに無いのでやめておきましょう・・・。
 ダーク展開も好きなんですけど・・・ね。

>吹風さん
 間違いなく女の子と認識してます。
 初対面時に反応が薄かったのは、自分を監視する目に気付いたからです。そこらへんの描写が足りなかったかもしれません。

>ZEROSさん
 女子士官学校が設立されたら戦闘開始ですなぁ・・・いや、横島にそんな自覚まったくないんですけどw

>ワックさん
 六道女学院に転入してきたおキヌちゃんに対する弓さんのイジメが・・・となると横島はトランペットでも吹かせましょうか?w
 多分、かなみに屋上から蹴落とされるだけでしょうがw
 技能レベルに関してはご心配なく!きっと皆さんにご満足・・・いただけたらいいなぁ・・・。

>ウェストさん
 今回、ランス(プレイヤー)に意図的に殺される不幸なキャラ、コルドバのフラグが立ちました!

 ・・・えっ?ダメですか?

>雪紫露さん
 「隠し味」まさにその程度のことでしょうね。
 横島の能力は、ここの掲示板でSSを読まれる方々なら相当に詳しいでしょうし、ただそれを数値化することにはあまり意味はないかもしれません。
 横島のキャラとしての魅力は霊能力とか文珠とかにあるわけではない、と筆者は考えていますしね。

>Iwさん
 同時制御2個って少ない、と思われたのでしょうか?筆者のスタンスとしては原作で3個制御が可能な描写があれば3個制御可能にしよう、という程度の認識です。
 1と2の間に広がる応用性の差は凄く大きいと思いますが、2と3ではそれほど変わらないかな、と思いましたしね。
 かなみは非常に動かしやすいキャラですので、早々簡単にくっつけたりしませんよw最後にくっつくとも・・・今はまだ考えてませんw

>けるぴーさん
 むしろアールコートには永遠の14歳でいてくれたほうが筆者的には美味し・・・ゲフンゲフン。
 悶える横島の姿が書きたいのでw

>クラインさん
 拙作を気に入っていただけたようで何よりであります。
 これからも応援よろしくお願いします。

 メイドアールコート・・・GJだ。

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